機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「開戦…!?」
シンは響き渡るアラートを聞いて飛び起きた。
先に起きたレイは既に身支度を始めている。
ロックされている硬い扉は外を歩く人の声など通さないが、艦内がざわめいている感覚があった。
地球とプラントが再び武力衝突する…シンは手で顔をぬぐった。
戦いが始まれば、まず力なき者が苦しみ、傷つき、倒れていく。
力がないばかりに、身を守るために戦うことも、抗うこともできずに…
シンはぐっと拳を握り締め、ベッドから勢いよく飛び降りた。
誰のために力を振るうべきか、彼の心はあの日から決まっていた。
シンは響き渡るアラートを聞いて飛び起きた。
先に起きたレイは既に身支度を始めている。
ロックされている硬い扉は外を歩く人の声など通さないが、艦内がざわめいている感覚があった。
地球とプラントが再び武力衝突する…シンは手で顔をぬぐった。
戦いが始まれば、まず力なき者が苦しみ、傷つき、倒れていく。
力がないばかりに、身を守るために戦うことも、抗うこともできずに…
シンはぐっと拳を握り締め、ベッドから勢いよく飛び降りた。
誰のために力を振るうべきか、彼の心はあの日から決まっていた。
プラント最高評議会では、地球連合が提示してきた無茶な条件を前に、侃々諤々の論議が繰り返されていた。
クラインやザラの時代を知る議員は、既に多くが辞職、引退しているが、Nジャマーを開発したオーソン・ホワイトや、アリー・カシムなどは再選され、現在も議員として残っている。
「テログループの逮捕引き渡しなどと!」
女性議員のノイ・カザエフスキーが呆れたように言った。
「既に全員死亡しているとのこちらからの調査報告を、大西洋連邦も一度は了承したではありませんか!」
「その上賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣とは。とても正気の沙汰とは思えん」
議員たちはうんざりした顔で連合の要求をあげつらった。
既に連合のやり方をいやというほど知っているホワイトが吐き捨てる。
「要は口実だ。例によってプラントを討ちたくて仕方がない連中が煽っているのでしょう。宇宙にいるのは『邪悪な地球の敵』だとね」
その言葉に議員たちはガヤガヤと騒ぎ出す。
実際、赤道付近の国々はかなりのダメージを受けたようだが、月の戦力は無事だし、大西洋連邦もユーラシアも元気なものだ。
「戦争となれば消費も拡大するし、憎むべき敵が明確であれば意欲も湧く。昔から変わらぬ人の体質ですよ」
そうやって、前大戦も拡大していったのです…ホワイトは言う。
「憎しみと怒りと欲望が混ざり合い、我々は多くの物を失った」
月軌道周辺まで哨戒に出ている偵察隊からの報告も、彼らをますます不快な気分にさせるものばかりだった。
先の大戦でいくつもの基地が壊滅状態になろうとも、月は相変わらず軍事拠点としての側面を失っていないし、終戦後に新たに建造されたアルザッヘル基地は活気を呈している。それは無論喜ばしい事ではない。
「コンテナリスト、R34からR42は積み込み完了」
「ネタニヤフ搭乗のモビルスーツパイロットは、第35ブリーフィングルームに集合してください」
「第34から第37エレベーターは17時から18時の間、閉鎖されます」
「シャトル608便が12番ゲートに到着します」
「第4ダガーL部隊の補充パーツ、搬入完了しました」
再び、きな臭い香りが立ち込め始めていた。
評議員たちはあちらがやると言うのならこちらも態勢を整えねばと鼻息が荒くなっている。
「弱腰では舐められる!」
議員のタカオ・シュライバーがドンと机を叩き、カシムが続けた。
「とにかく、こちらもすぐに臨戦態勢を」
いや、それでは遅い、討って出なければとさらに強硬な者もいて、会議は紛糾した。そもそも物量・人的資源では圧倒的に勝る連合にザフトが対抗するためには、周到な準備をする必要があるのだ。
デュランダルは彼らの意見を黙って聞いていたが、やがて口を開いた。
「どうか落ち着いていただきたい、皆さん」
議員たちはざわざわとざわめいて議長の声を聞かない。
デュランダルは少し声のトーンを上げ、けれど穏やかに言った。
「お気持ちはわかりますが、そうして我らまで乗ってしまっては、また繰り返しです。連合が何を言ってこようが、我々はあくまで、対話による解決の道を求めていかねばなりません」
彼はヒートアップした議場を冷まさんと議場を見回したが、一度ついた火はそう簡単には収まらない。
「理念もよいが、現状は間違いなくレベルレッドだ」
常日頃から攻撃的なリカルド・オルフが胡乱そうに議長を見た。
「当然、迎撃体制に入らねばならん」
デュランダルはこうした数々の過激な発言にも落ち着いて答える。
「軍を展開させれば市民は動揺するでしょうし、地球軍側を刺激することにもなります」
まとまらない会議をまとめるための極意は、まず意見を丁寧に聞きとって整理すること。そして押したり引いたりを繰り返しながら、互いの妥協点を探っていくことだ…デュランダルは彼らとの会話を繰り返し、感情の流れや意見の建設性、穏健だが弱気すぎる主張、過激ではあっても譲れない部分を徐々にあぶりだしていく。
彼の見つけ出した方法論が徐々に場の空気を掌握させ、やがて議長は彼らの神経をなだめる「魔法の言葉」を発した。
「やむを得ませんか」
議長は少し困ったような表情で皆を見回した。
「我らの中には、今もあの血のバレンタインの恐怖も残っていますしね」
議長は両手を広げると、柔和な表情のまま自らのプランを伝えた。
軍を大々的に動かすことは、現状では得策ではない。
少しずつ部隊を配備しても、結果的に地球軍を刺激する事になるだろう。
「そこで、まずは各市単位で駐屯軍の体制を整えさせるのです。ある程度の規模になったら、周回するゴンドワナを向かわせ、その都度、目立たぬように部隊を乗り込ませてください。各市に防衛隊が必要であれば、その時点で増援させるように。無論、迅速に。決して目立たぬように」
そして相手に気づく暇すら与えず、望みどおりの防衛ラインを整える。
「それでいかがですか?」
議長は結果的に「武装する」という案を、にっこり微笑みながら語った。
評議会は直ちに国防委員会の開催を決め、早急な防衛策の策定を命じた。
さらにはスポークスマンに地球側にプラントの誠意を見せる発表を行わせ、外交面では表面上・水面下両面から対話努力を続けるよう指示した。
「けれどこんな形で戦端が開かれるようなことになれば、まさにユニウスセブンを落とした亡霊たちの思うつぼです」
議長はようやく静かになった議員たちに毅然と言い放った。
「どうかそのことを、くれぐれも忘れないでいただきたい」
議員たちは防衛の徹底という策を提唱してリーダーシップを発揮した議長に頷き、デュランダルは人知れず、満足げに微笑んだ。
彼が描く壮大なシナリオは、たった今緞帳が上がったばかりだった。
「アレックスさん」
オーブ外交官が宇宙港に到着したアスランを迎えた。
「すみません。状況はどうなっていますか?」
アスランはアーモリーワンに向かった際にも世話になった彼に状況を聞いた。
「よくありませんよ。プラント市民は皆怒っています」
彼は表情を曇らせた。港も、以前来た時より明らかに警備が厳重になっている。
「議長はあくまでも対話による解決を目指して交渉を続けると言っていますが、それを弱腰と非難する声も上がり始めています」
アスランは辣腕の議長ですら、この混乱する情勢をまとめていくのは難しいのだろうと思って頷いた。つくづく、政治というのは手ごわく、一つの側面だけを見ていればいいというものではないのだと思い知る。
「アスハ代表の特使ということで、早急にと申し入れてはいますが…この状況では、面談がいつになるかちょっとわかりませんね」
連合からプラントへの無茶な通牒が示された今、プラントの信任を一身に集めるデュランダル議長の身が空いているとはとても思えない。
アスランは「わかりました」と答え、彼と共に議事堂に向かった。
長期戦は覚悟の上だ。もとより議長に会えるまで帰るつもりなどない。
オーブではこの事態を受け、カガリができる限りの情報収集を命じていた。
同盟締結の問題が解決していない今、連邦への抗議を発表した国々と協調するか、それとも中立国としてこのまま様子を見つつ、静観か…そして何より、現在は友好国であるプラントへの態度をどうするか。
問題は山積みで、カガリは未明にチャーター機で出かけ、真夜中に高速船で戻ってくるような激務に追われ、ついに自分の屋敷にすら帰れなくなった。
キラもまた、母やラクス、導師と共に各国の動向を見守っていた。
またあんな戦争が起きるかもしれないと不安と不穏が世界を包んでいる。
けれど今は、自分が守らなければ、戦わなければ、友達や大切な人たちが一瞬で死んでしまう戦場にいるわけじゃない…キラは、守りきれなかった多くの命を、そして最後に微笑みながら散ったフレイを思って俯いた。
「私たちは、何とどう戦わなきゃならなかったの?」
キラにも、まだ答えは見つかっていない。
「ほとぼりが冷めちまう前に、討って出たいのさ、連合は」
デュランダル議長や大西洋連邦のスポークスマンがそれぞれの主張を語る番組を見ていると、後ろから明るく朗々とした声が聞こえてきた。
彼らが振り返ると、帰宅したバルトフェルドとマリューが挨拶をする。
「やれやれ、どこもうんざりするようなニュースばかりだねぇ」
「ミネルバもずっと空気がピリピリしてて、今日は緊張したわ」
息をついたマリューを見て、キラは飲み物を持って来ましょうと立ち上がりかけたが、バルトフェルドが「おっと」と静止した。
「それは僕の役目だろ?」
それからいそいそとご自慢のコーヒーの準備にかかる。
ソファに座って肩のコリをほぐしていたマリューが、キラの前に置かれた何枚かのプリントに気づいて言った。
「あら…ミリアリアさんから?」
ミリアリアは今、駆け出しカメラマンとして世界中を飛び回っている。
戦争で多くの悲惨な状況を見聞きし、理不尽な扱いを受けて死んでいったたくさんの人々を見て、こうした「隠れた真実」を世に知らしめたいという壮大な夢を持った彼女は、思いもかけない行動力を発揮した。
コネもないのにプレスに飛び込み、拝み倒して師匠となるカメラマンを紹介してもらったのだ。2年近くの修行を経て、最近、ようやく彼女の写真をプレスで見る機会が増えてきた。
プロとしてはまだまだとはいえ、ミリアリアは危険と隣り合わせの仕事にやり甲斐を感じ、満足している。
女の子らしい女の子という点ではピカイチの彼女のこのバイタリティに、キラもサイもかなり驚いたが、それ以上に仰天し、動揺した人間もいた。
ミリアリアが送ってくれたデータには、今回のユニウス落とし…「ブレイク・ザ・ワールド」と名づけられたテロ事件の被害状況が生々しく写っていた。海岸に打ち上げられたたくさんの死んだイルカ、有刺鉄線で隔離された居住区の避難民。バラック村で呆然と佇む人は何かを訴えるようにレンズに眼を向けている。失われて久しい宗教に今さらながらすがるつもりなのか、古いたまねぎ屋根のモスクで一心に祈っている人々もいる。破壊されて有毒物質が流れ出した工業プラントはあっという間に周辺を死の街にし、津波が襲った港町は跡形もなかった。
マリューは彼女の写真を見て、世界が負った傷の深さを思い知った。
「プラントも割れているようです」
ラクスはファクトリーに先駆けて稼動を始めた情報収集基地・ターミナルが送ってきた情報をボードで確認しながら言った。
「積極的に討って出るべきとする開戦派と、対話を望む慎重派とで…」
「対話の余地なんかないだろう」
コーヒーのいい香りが部屋に充満し、バルトフェルドがキラを呼んでトレイを渡した。相変わらずコーヒーが苦手なキラの分だけはミルクが入っている。
「ストレートで飲んでもらいたいけど、きみはいつまでもお子ちゃまだからな」
そう言われるたび、キラはすみませんと苦笑している。
「あんな要求、呑めるわけないさ」
アスランの情報を見れば、連合の言う犯人隠匿は明らかに言いがかりだし、賠償ではないが、プラントが行った救援はかなりの規模と金額に上る。
「そもそも武装解除だの現政権の解体だの監視員の派遣だのは、今回の件には何の関係もない」
バルトフェルドはまくしたてた。
「相手が呑めない要求をつきつけ、拒めば開戦という連合のやり口は、きみたちもこのオーブで味わったんだろう?」
その言葉にマリューとキラが顔を見合わせた。
「オーブは…」
やがてマリューがポツリと言った。
「オーブは、どうするつもりかしらね?」
モルゲンレーテの社員も皆不安がっている。
今現在、連邦がつきつけている同盟を締結すれば、オーブもたちまち渦中の国となり、その軍事力から戦いに駆り出されることは間違いない。
オーブの理念は踏みにじられ、国そのものが再び戦場となるかもしれない。
停戦後、行き場のない自分たちを匿い、何の不自由もないように生活を整えてくれたカガリは、今もきっと海千山千の首長たちを向こうにまわし、心身を磨り減らして議論を続けているのだろう。
(カガリ…)
キラは未だに気象が不安定な、厚い雲が垂れ込める夜空を見上げた。
―― あの時、守れなかったオーブのために…そしてカガリのために、私は何ができるんだろう。ううん、何と…戦うべきなんだろう…
喉元に刃をつきつけられた者たちが議論を繰り返している時、刃をつきつけた者たちは攻撃の時機を今か今かと窺っていた。
「さて…それで、具体的にはいつから始まりますか、攻撃は?」
ジブリールは暗号回線を使って大西洋連邦コープランド大統領に尋ねると、「今すぐというわけにはいかんよ」と大統領は苦笑した。
「プラントは未だに協議を続けたいと様々な手を打ってきておるし、声明や同盟に否定的な国もあるのだ。そんな中、そう強引な事は…」
ジブリールはやれやれと首を振った。
プラントさえ討ってしまえば、世界は意のままになる。
それが彼の持論であった。
ロゴスや大国にとって都合よくシステム化された世界が、彼らの意のままに動かされる。大衆は何も知らず、管理された自由を謳歌していればいい。
「奴らがいなくなった後の世界で、一体誰が我々に逆らえると言うんです?」
ジブリールはさもバカにしたように言った。
「赤道連合?スカンジナビア王国?ああ…怖いのはオーブですか?」
「あの国は、まぁな…」
その名を耳にした大統領は苦々しい表情で口をつぐんだ。
「オーブ解放作戦」については、未だにユーラシアやプラント、中立各国をはじめ世界各国からの連邦への風当たりが強い。
独立国であり、中立国である彼の国に対して、あのような理不尽な攻撃を仕掛けるなど許されなかったという風潮は停戦直後から徐々に盛り上がり、ウズミ・ナラ・アスハの遺児、カガリ・ユラ・アスハの英雄的帰還で最高潮に達した。
この時の怒涛のような世論の後押しには逆らえず、連邦はほぼ無条件で占領を解除したのだ。
主権を取り戻したオーブは破竹の勢いで復興を果たし、既にGDPも大戦前の水準に戻しつつある。
この驚異的な復興力と、ウズミ時代の独立路線から転換した協調路線は、中立国を中心にして国際的地位を固めており、日々連邦を脅かしている。
ジブリールは鼻白んだ。
「ふん。あんなちっぽけな国」
世界を構築し直し、新たなシステム…もちろんそれは彼らにとって都合のよいシステムという意味だが…を導入すれば、たかが一国の理念や理想などすぐに塗り替えられてしまうはずだ。
しかし、とジブリールは考え直した。
アズラエルも当然そう思ってオーブを攻めさせたというのに、結果的にはオーブは今も存続し、こうしてコープランド大統領を世界中の批判の矢面に立たせ、「厄介な存在」だと認識させている。
現在、連邦が同盟締結を迫っているのも、早いうちに取り込むためだ。
実のところは連邦もオーブと再び戦う羽目にならないことを願っていた。
いくらオーブの技術力・軍事力が高かろうと、いまや連合を従えた連邦が用意できる物量は桁が違う。叩き潰すのは簡単だ。しかしそれによって起きる批判や抗議により、稀代のヒールになっては意味がない…
押せば抗い、和せば伸び、引けば一人わが道を往く。
自らの理想を阻む要素のある国は、確かに厄介かもしれない。
ジブリールは手早くキーを打ってオーブのデータを出した。
それは国民からの絶大な人気を誇る、若き代表の姿だった。
「こんな若僧に、我々の邪魔などさせませんよ」
ジブリールは代表以外の首長の写真を指で次々にスライドした。
これだけ国際社会がオーブを擁護しているのに、オーブは大西洋連邦を弾劾もせず、事を荒立てない。思慮深さにも見えるが、臆病さにも見える。
(あの国に、それを抑えられる者がいるということやもしれん)
やがてジブリールの指がウナト・エマ、ユウナ・ロマのところで止まった。
膨大な記憶の底から、自分の傘下にあるグローバルカンパニーの一つが彼らと関係している事を掘り起こしたジブリールは、ニヤリと笑った。
「私がそれを確約するなら、攻撃準備を進めてくださいますか?閣下」
ジブリールはそう言って膝に抱いた黒猫の美しい被毛を撫でた。
「面倒はさっさと片付けて、早く次の楽しいステップに進みましょう」
「ジブリール、オーブをどうする気かね?」
ジブリールは青いルージュを塗った唇の端を持ち上げて笑った。
それは後でのお楽しみといこうではないか…
「それではよろしくお願いします。青き清浄なる世界のために」
「…地球連合各国は本日午前0時をもって、武力によるこれの排除を行うことを、プラント現政権に対し通告いたします」
ジブリールとの密談からさして時をおかず、コープランドはプラントに宣戦布告を行った。テロリストを匿うプラントを地球に対する脅威とみなすというのが大義名分であった。
それに合わせ、国防委員会がデュランダル議長の提案どおり密かに、迅速に防衛態勢を整えさせていたザフト全軍は、一斉に警戒態勢に入った。
それは中立国にいるミネルバも例外ではない。
「コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令」
アラートと共に、メイリン・ホークの声が艦内に響き渡った。
「艦内警備ステータス、B1。以後、部外者の乗艦を全面的に禁止します。全保安要員は直ちに配置についてください。繰り返します…」
「防衛軍の司令官を。最終防衛ラインの配置は?」
議長は軍令部に移り、統帥権を行使して全軍に防衛態勢を命じた。
既にプラント全市の港は封鎖され、国民にも順次避難勧告が出されている。
パニックを警戒し、各市へのMPの配置も急がれていた。
こうなってはもう、対話も交渉も意味をなさない。
「脱出したところで、我らには行く所などないのだ」
議長は目の前の議員たちに告げた。
「なんとしてもプラントを守るんだ!」
2年間のぬるま湯生活から目覚めたザフトでは、大戦を経験した兵が張り切って怒声を浴びせ、初陣となる新兵はキビキビと走り回った。
各隊も防衛のため、続々と前線に集結していた。
前大戦でプラント防衛の二つの要・ポアズが核、ヤキン・ドゥーエが自爆によって失われたため、現在は新造された宇宙ステーションが軍総司令本部となっている。
さらに巨大な宇宙空母ゴンドワナが、モビルスーツはもちろん、ナスカ級の戦艦すらその巨大な艦体に呑みこんで運び、あたかも移動要塞のような役割を担っている。
少しずつ整えられていた軍備が実を結んでおり、ゴンドワナのモビルスーツ搭載率は8割に上っていた。
イザークたちジュール隊もこのゴンドワナに乗艦しており、今は多くの兵たちと共にモビルスーツデッキで待機していた。
「シエラアンタレス1、発進スタンバイ。射出システム、エンゲージ」
あまりにも多くの部隊が集結したため、それぞれが展開する座標に基づく独自のコードネームを拝受している。イザークは了解した旨を返信した。
「結局はこうなるのかよ、やっぱり!」
イザークは不愉快そうに呟いた。
最前線で何が起きていたのか見ていた彼は、余計にこの展開が気に食わない。
(…だが、連中が再びプラントを脅かすのなら)
苛立ちを押えるように、イザークは凛とした声で答えた。
「こちらシエラアンタレス1。ジュール隊、イザーク・ジュール、出るぞ!」
イザークはシフトを入れ、スラッシュザクファントムで飛び出した。
(俺は戦う!守るために)
ファルクスを振り回し、イザークは近づいてくる艦隊を待った。
一方ディアッカもまた、一般兵と共に発進前の最終調整を行っていた。
(いつまでたっても懲りないよな、ナチュラルも俺たちもさ)
それからゲイツRに乗るひよっ子たちに声をかけた。
「出撃後はすぐに各個応戦になると思うが、無理はするなよ」
血気盛んな彼らが一斉に返事をしたものだからスピーカーの音が割れ、ディアッカは「うるさいっつの!」と乱暴な口調で答えて笑った。
(全員、無事に戻ってこられればいいんだが)
ガナー装備を背負い、彼らに先んじて射出口へ向かう。
「ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、ザク、発進する!」
ディアッカは出撃と共に、自分が守るべきもの…プラントを見た。
それは、彼が脱走兵の汚名を背負いながら軍に戻った「理由」だった。
(…あいつはあの時、何も言わなかった…)
自分の決意を告げた時、彼が愛した女性は「そう」と呟いただけだった。
彼の胸にふと小さな痛みが走ったが、それを振り払うように加速する。
今はただ、眼の前の敵に集中する時だった。
プラントからの映像は、ノイズ混じりながらもミネルバに届いていた。
シンやルナマリアをはじめ、多くの兵が休憩室で戦いの行方を見守っている。
「戦闘開始…」
「数が多いな」
「…新型?」
皆、ひそひそとざわめく。
シンはレイを見つけて近づくと、「状況は?」と聞いた。
「第一陣が戦闘を開始したところだ。ゴンドワナが前線に出ている」
「モビルスーツは…20というところか?」
シンがざっと戦域を見渡す。
平面状の画像では捉えきれないが、ダガーLが展開し、ゴンドワナからはゲイツR、ザクが続々と出撃していく。隊長クラスやエース級の証であるパーソナルカラーのザクも多い。
「狙いはアプリリウスかな?」
プラントまでの距離を見て、ルナマリアが不安そうに聞いた。
「軍令本部を直接?ムチャだろ」
シンは防衛ラインの硬さを見て笑った。
いくらなんでもこれだけのモビルスーツを突破できるもんか。
むしろ突破じゃなくて…と考えて、ドクンと心臓が跳ねた。
「…ミサイル?」
「それって…!」
ルナマリアが一瞬声をあげ、「奇襲ってこと?」と小声でささやいた。
戦場にいると見えない全体の展開が、ここからならよく見える。
敵軍はまるでネットのように拡がり、防衛隊を絡め取っている。
機動性に優れる彼らを動けないようにして、それからゆっくりミサイルを放つとしたら、この物量による総攻撃は数の少ないザフトには不利だろう。
(プラントはもう目の前なんだぞ?)
シンはこんなのはただの悪い予感だと頭から振り払おうとした。
「敵、別働隊にマーク5型…核ミサイルを…確認!?」
極軌道に哨戒に出ていたZGMF-LRR704B長距離強行偵察複座型ジンからもたらされた最悪の報告に、軍令部がざわめいた。
そこには旗艦ネタニヤフが陣取っており、数はさほどいないが、新たに開発されたGAT-04ウィンダムがその運搬の任にあった。
「よーし、予定通りだな。こちらも行くぞ」
本隊が戦闘開始したことを受け、奇襲部隊クルセイダーズの隊長はにやりと笑った。コンテナにはたっぷりと核ミサイルが詰まっている。
「この青き清浄なる世界にコーディネーターの居場所などないということを、今度こそ思い知らせてやるのだ!」
司令部からは緊急チャンネルで全軍に核ミサイルの存在が知らされた。
「核攻撃隊?極軌道からだと!?」
イザークはガトリングを放ってダガーLを散らしながら叫んだ。
「じゃ、こいつらは全て囮かよ!」
オルトロスを構えて戦艦の足を止めていたディアッカも驚く。
俺たちを突破はできなくても、数を撃たれたら十分射程まで届く…
「一発ずつ撃ち落すなんて、そんな芸当できねぇぞ、俺には!」
ディアッカが怒鳴ると、イザークはぎりっと歯を食いしばった。
―― やつら、性懲りもなくまた核などを持ち出すとは…
「くっそおおぉぉ!!」
「イザーク!」
イザークは離脱し、いまやベテランの域に達したハーネンフースら赤服を数人ピックアップして核搭載部隊に突撃をかけた。
同時にディアッカには、前線にいるダガーL部隊を片付けろと命じる。
後方部隊を阻止せんと反転すると、ダガーLに後ろを取られるからだ。
「核を撃つ気なら、連中はプラントには近づかん!」
「わかった!」
ディアッカはイザークと別れ、散らばっていたひよっ子どもを呼び寄せた。
「核は隊長たちに任せて、俺たちは前線のモビルスーツを叩くぞ!」
事態は一刻を争った。
「核だって!?」
「そんな…」
核搭載の情報に、休憩室がざわめいた。
ルナマリアが思わずシンの腕を取ると、シンは体を堅くして眉をひそめた。
「あ、ごめん」
ルナマリアはシンの拒絶に気づくと、慌ててその腕を放した。
(…また嫌がられちゃった)
軽く傷ついたルナマリアはそっとシンを見たが、いつも通りの表情だ。
(嫌われてるのかな、私)
そう思ってから、こんな時に何考えてるのと自分に呆れてため息をつく。
ミサイルケースを装備したウィンダムに、ザクやゲイツRが向かう。
シンはルナマリアの想いなど知りもせず、戦場の様子を見つめながら、もしも自分ならインパルスでどう戦うかとシミュレートしていた。
(最初のシルエットはフォース)
スピードで圧倒し、なるべく多くのダガーLを戦闘不能にしてから、ブラストに換装して核ミサイルを撃破する。頭の中にモニターとパネルが浮かび、無数のミサイルをロックオンするイメージが広がる。
(左舷からこぼれる敵はレイに任せ、薄い部分をルナに攻めさせる)
―― それから残った敵を討つために、俺ともう1人が…
ふと、いないはずの「4人目」を入れていることにシンは気がついた。
(…俺、誰のことを考えたんだ?)
目の前で果敢に戦う緑色のザクを見て、まさかね…と自嘲気味に笑った。
そんなシンを見て、レイが「歯がゆそうだな」と言う。
「そりゃ…」
自分がプラントに上がって以来、ここまで危機に追い込まれたのは初めてだ。
あの脆く頼りない砂時計には何万という人が住んでいる。
彼らを守るために、俺の力が役に立つのなら…
「俺たちザフトは、プラントを守るものだろ?」
シンが言うと、レイは珍しく笑って「そうだな」と答えた。
その頃、最終防衛ラインにはナスカ級が3隻展開していた。
うち1隻には何やら見慣れない装備が着けられている。
核部隊を追って前進していたネタニヤフでもそれを認めたが、司令官は「たった3隻で何ができる!」と鼻で笑い、ウィンダムに一斉発射を命じた。
「そら行け!今度こそ、青き清浄なる世界のために!」
大量の核ミサイルが、プラントへと向かっていった。
「全システム、ステータス正常」
「量子フレデル、ターミナル1から5まで左舷座標オンライン」
「作動時間7秒。グリッドは標的を追尾中」
ナスカ級の艦長が時計を見、熱源データによる距離を測る。
「一発勝負だぞ。最大まで引きつけろ、いいか」
「フルチャージ、オンライン。ニュートロンスタンピーダー起動!」
ナスカ級に設置された謎のパネルが急速にエネルギーを収束していった。
「くっそぉ!間に合わん!」
スピードを上げて突っ込んできたものの、核ミサイルは発射され、すべてを撃ち落とすことは不可能だと悟ったイザークは絶句した。
ディアッカもまたオルトロスを構えたまま見送るしかできない。
しかし前大戦以来、何度も繰り返される核攻撃に対し、ザフトもただ手をこまねいていたわけではない。
起動したそれは、放たれた核に対する最終ディフェンスだった。
「スタンピーダー、照射!」
量子フレデルと呼ばれるパネルから強力な電磁波が照射されると、扇形に広がる照射範囲内にある物質の中性子を急激に揺らした。
それによって瞬間的に核分裂が起き、放たれた核ミサイルは激しい爆発を起こした。次々と爆発し、さらに大量の核の誘爆によって、モビルスーツ、さらには旗艦ネタニヤフすらも巻き込まれて大爆発を起こした。
照射時間は7秒間。
そのわずかな時間で、眼の前には何もかもがなくなっていた。
「なんだ…?一体何が…」
イザークはただ呆然とし、静かになった戦場を見つめていた。
推移を見守っていた議員や技師、補佐官や事務官たちがわっと沸いた。
「スタンピーダーは量子フレデルを蒸発させ、ブレーカーが作動。現在システムは機能を停止しています」
スタンピーダーの開発者、ホワイトが現状を報告する。
「たまらんな…」
「間に合ってくれてよかったですわ」
「だが虎の子の一発だ。次はこうは…」
議員のリカルドやノイたちがヒソヒソと話している。
相手がまだ核を持っていたら、もはや迎撃システムはない。
貴重なレアメタルを大量に消費するニュートロン・スタンピーダーは量産することができず、量子フレデルが焼ききれるため連射もできない。
今回はしのぎきったものの、今後の情勢はまだまだ不安が残る。
好戦派からは弱腰、後手に回りすぎると批判されていたデュランダルは、密かに開発させていたこの兵器を示すことで評議会議員たちを黙らせた。
彼は「核が無力」だという認識を相手に植えつける事が目的だと説いた。
「物量に勝る相手と戦って、いたずらに疲弊する必要はないでしょう。徹底的に防衛することが、最大の効果をあげることになるのですから」
あくまでも防衛を貫く姿勢、スタンピーダーの存在、そして戦果。
どこをとっても非の打ち所のない彼の政策は、誰にも文句を言わせない。
尊敬と信頼を一身に受けながら、議長はいつものように涼やかに笑った。
「これで終わってくれるといいんですがね…とりあえずは」
「なんだと!?」
一方、ジブリールの元には最悪の情報が届けられていた。
「全滅だよ。核攻撃隊は一機残らず、跡形もなく全滅したのだ!」
不機嫌そうなコープランドは言うだけ言うと通信を切ってしまった。
核部隊は一瞬のうちに消滅し、デュランダルの読みどおり、地球軍は月基地へ撤退した。とりあえず緒戦はザフトの勝利ということになる。
(バカな…!)
あまりにも無様な結果が信じられず、ジブリールは眼を見張った。
最前線にいたイザークやディアッカが呆気にとられたように、ミネルバのシンたちも狐につままれたような顔をしていた。
「ねぇ、何?何が起きたの?」
ルナマリアがヴィーノやヨウランに尋ねたが、2人とも首を振る。
シンとレイも一体何が起きたのかわからなかった。
核部隊が見る間に消滅し、そのまま地球軍は撤退を始めたのだ。
「司令本部から発表が入るはずだ。後でメイリンに聞こう」
シンが頭を掻きながら言うと、レイも頷いた。
(ギル…やはりあなたのやる事に間違いはない)
レイは危機を乗り切ったデュランダルを想い、誇らしさで一杯だった。
長く待たされているアスランは、少し気分転換をしようと思い、落ち着かない外交官に「顔を洗ってきます」と断って部屋を出た。
レストルームで冷たい水で顔を洗い、やや疲れた顔を見る。
仕方がないとは思っていたものの、こうまで待たされると不安にもなる。
―― ここに来たのは間違いではないか…?
ついつい湧き上がるネガティブな考えを、アスランは振り払った。
(自分で決めたことに、今さら迷うなんて!)
アスランは両手で頬を軽く叩くと、レストルームを出た。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんとわかってる。時間はあとどれくらい?」
(この声…?)
階段を上がって部屋に戻ろうとしたアスランは、ロビーの向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきたような気がして立ち止まった。
「なら、もう一回確認できるね」
アスランが声の方に近づいていくと、突然丸いものが飛びついてきた。
「ハロ!ハロ!Are you O.K.?」
それを手で受け止め、アスランは目を見張った。
(ハロ?ううん、違う。私はこんなハロは作ってない)
けれど次の瞬間、アスランはさらに驚いて声を上げてしまった。
「…ラクス!?」
その声に電話をしていた人物がはっと気づいて振り返った。
そこにいた「ラクス」は、驚いているアスランをまじまじと見つめる。
彼はしばらく言葉がなかったが、やがて満面の笑みをたたえ始めた。
「あ…ああ!きみ、アスラン!?」
「…え!?」
その途端、「ラクス」は駆け寄ってきてアスランを強く抱きしめた。
「…っ!!」
「嬉しいよ!やっと来てくれたんだね!」
アスランには何がなんだかわからなかった。
そもそも、穏やかでおっとりしているラクスが、こんなに強く自分を抱き締めたことなどない。彼の抱擁は、あくまでもソフトな挨拶だった。
アスランは思わず腕を伸ばし、彼を拒絶した。
「一体どうしたの、ラクス!?」
ラクスはそれでもアスランの背に腕を回したまま、嬉しそうに笑った。
「あなたがどうしてここに?だって…」
「ずっと待ってたんだよ、僕。きみが来てくれるのをね」
アスランはますますわけがわからず、もう一度彼をまじまじと見た。
よく似ている他人ではないかと思ったのだが、けれどその表情や赤毛に近い明るい色の髪、眼の色に身長、声は、4年以上前から知っているかつての婚約者、ラクス・クライン以外の何者でもないと思える。
ラクスは嬉しそうな顔をしたまま戸惑うアスランを見つめていたが、やがて連れらしき男性に「ラクス様」と呼ばれると彼女を放した。
「では、またね。でもよかった…ほんとに嬉しいよ、アスラン」
ラクスはにっこり笑うと、ハロを手に抱き、去っていった。
一人残されたアスランはぽかんとして彼を見送るしかなかった。
―― ラクス…ううん、でも…何かが違う気がする…
(なんだろう…何か決定的なことを忘れてるような…)
その時、廊下の向こうからざわざわと人波が近づいてきた。
そのうちの一人が、立ちすくむアスランに気づいて声をかける。
「アレックス」
それこそ、アスランが待ち続けていたデュランダル議長だった。
「ああ、きみとは面会の約束があったね」
議長はにこやかに両手を広げて歓迎の意を表明した。
「いや、大分お待たせしてしまったようで、申し訳ない」
「あ…いえ…」
アスランはまだ動揺し、議長にも曖昧な返事しかできなかった。
そんな彼女の様子をいぶかしみ、議長はどうしたのかと尋ねた。
「…なんでもありません…すみません」
そう答えてから、アスランは何が違ったのか気がついた。
彼は、顔も瞳も髪も声も、話し方まで確かにラクスだった。
けれど決定的な違いは「匂い」だった。
病弱なラクスに染み付いている医薬品の香りが、彼からはしなかったのだ。
アスランは首を傾げながら議長の後に続いた。
クラインやザラの時代を知る議員は、既に多くが辞職、引退しているが、Nジャマーを開発したオーソン・ホワイトや、アリー・カシムなどは再選され、現在も議員として残っている。
「テログループの逮捕引き渡しなどと!」
女性議員のノイ・カザエフスキーが呆れたように言った。
「既に全員死亡しているとのこちらからの調査報告を、大西洋連邦も一度は了承したではありませんか!」
「その上賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣とは。とても正気の沙汰とは思えん」
議員たちはうんざりした顔で連合の要求をあげつらった。
既に連合のやり方をいやというほど知っているホワイトが吐き捨てる。
「要は口実だ。例によってプラントを討ちたくて仕方がない連中が煽っているのでしょう。宇宙にいるのは『邪悪な地球の敵』だとね」
その言葉に議員たちはガヤガヤと騒ぎ出す。
実際、赤道付近の国々はかなりのダメージを受けたようだが、月の戦力は無事だし、大西洋連邦もユーラシアも元気なものだ。
「戦争となれば消費も拡大するし、憎むべき敵が明確であれば意欲も湧く。昔から変わらぬ人の体質ですよ」
そうやって、前大戦も拡大していったのです…ホワイトは言う。
「憎しみと怒りと欲望が混ざり合い、我々は多くの物を失った」
月軌道周辺まで哨戒に出ている偵察隊からの報告も、彼らをますます不快な気分にさせるものばかりだった。
先の大戦でいくつもの基地が壊滅状態になろうとも、月は相変わらず軍事拠点としての側面を失っていないし、終戦後に新たに建造されたアルザッヘル基地は活気を呈している。それは無論喜ばしい事ではない。
「コンテナリスト、R34からR42は積み込み完了」
「ネタニヤフ搭乗のモビルスーツパイロットは、第35ブリーフィングルームに集合してください」
「第34から第37エレベーターは17時から18時の間、閉鎖されます」
「シャトル608便が12番ゲートに到着します」
「第4ダガーL部隊の補充パーツ、搬入完了しました」
再び、きな臭い香りが立ち込め始めていた。
評議員たちはあちらがやると言うのならこちらも態勢を整えねばと鼻息が荒くなっている。
「弱腰では舐められる!」
議員のタカオ・シュライバーがドンと机を叩き、カシムが続けた。
「とにかく、こちらもすぐに臨戦態勢を」
いや、それでは遅い、討って出なければとさらに強硬な者もいて、会議は紛糾した。そもそも物量・人的資源では圧倒的に勝る連合にザフトが対抗するためには、周到な準備をする必要があるのだ。
デュランダルは彼らの意見を黙って聞いていたが、やがて口を開いた。
「どうか落ち着いていただきたい、皆さん」
議員たちはざわざわとざわめいて議長の声を聞かない。
デュランダルは少し声のトーンを上げ、けれど穏やかに言った。
「お気持ちはわかりますが、そうして我らまで乗ってしまっては、また繰り返しです。連合が何を言ってこようが、我々はあくまで、対話による解決の道を求めていかねばなりません」
彼はヒートアップした議場を冷まさんと議場を見回したが、一度ついた火はそう簡単には収まらない。
「理念もよいが、現状は間違いなくレベルレッドだ」
常日頃から攻撃的なリカルド・オルフが胡乱そうに議長を見た。
「当然、迎撃体制に入らねばならん」
デュランダルはこうした数々の過激な発言にも落ち着いて答える。
「軍を展開させれば市民は動揺するでしょうし、地球軍側を刺激することにもなります」
まとまらない会議をまとめるための極意は、まず意見を丁寧に聞きとって整理すること。そして押したり引いたりを繰り返しながら、互いの妥協点を探っていくことだ…デュランダルは彼らとの会話を繰り返し、感情の流れや意見の建設性、穏健だが弱気すぎる主張、過激ではあっても譲れない部分を徐々にあぶりだしていく。
彼の見つけ出した方法論が徐々に場の空気を掌握させ、やがて議長は彼らの神経をなだめる「魔法の言葉」を発した。
「やむを得ませんか」
議長は少し困ったような表情で皆を見回した。
「我らの中には、今もあの血のバレンタインの恐怖も残っていますしね」
議長は両手を広げると、柔和な表情のまま自らのプランを伝えた。
軍を大々的に動かすことは、現状では得策ではない。
少しずつ部隊を配備しても、結果的に地球軍を刺激する事になるだろう。
「そこで、まずは各市単位で駐屯軍の体制を整えさせるのです。ある程度の規模になったら、周回するゴンドワナを向かわせ、その都度、目立たぬように部隊を乗り込ませてください。各市に防衛隊が必要であれば、その時点で増援させるように。無論、迅速に。決して目立たぬように」
そして相手に気づく暇すら与えず、望みどおりの防衛ラインを整える。
「それでいかがですか?」
議長は結果的に「武装する」という案を、にっこり微笑みながら語った。
評議会は直ちに国防委員会の開催を決め、早急な防衛策の策定を命じた。
さらにはスポークスマンに地球側にプラントの誠意を見せる発表を行わせ、外交面では表面上・水面下両面から対話努力を続けるよう指示した。
「けれどこんな形で戦端が開かれるようなことになれば、まさにユニウスセブンを落とした亡霊たちの思うつぼです」
議長はようやく静かになった議員たちに毅然と言い放った。
「どうかそのことを、くれぐれも忘れないでいただきたい」
議員たちは防衛の徹底という策を提唱してリーダーシップを発揮した議長に頷き、デュランダルは人知れず、満足げに微笑んだ。
彼が描く壮大なシナリオは、たった今緞帳が上がったばかりだった。
「アレックスさん」
オーブ外交官が宇宙港に到着したアスランを迎えた。
「すみません。状況はどうなっていますか?」
アスランはアーモリーワンに向かった際にも世話になった彼に状況を聞いた。
「よくありませんよ。プラント市民は皆怒っています」
彼は表情を曇らせた。港も、以前来た時より明らかに警備が厳重になっている。
「議長はあくまでも対話による解決を目指して交渉を続けると言っていますが、それを弱腰と非難する声も上がり始めています」
アスランは辣腕の議長ですら、この混乱する情勢をまとめていくのは難しいのだろうと思って頷いた。つくづく、政治というのは手ごわく、一つの側面だけを見ていればいいというものではないのだと思い知る。
「アスハ代表の特使ということで、早急にと申し入れてはいますが…この状況では、面談がいつになるかちょっとわかりませんね」
連合からプラントへの無茶な通牒が示された今、プラントの信任を一身に集めるデュランダル議長の身が空いているとはとても思えない。
アスランは「わかりました」と答え、彼と共に議事堂に向かった。
長期戦は覚悟の上だ。もとより議長に会えるまで帰るつもりなどない。
オーブではこの事態を受け、カガリができる限りの情報収集を命じていた。
同盟締結の問題が解決していない今、連邦への抗議を発表した国々と協調するか、それとも中立国としてこのまま様子を見つつ、静観か…そして何より、現在は友好国であるプラントへの態度をどうするか。
問題は山積みで、カガリは未明にチャーター機で出かけ、真夜中に高速船で戻ってくるような激務に追われ、ついに自分の屋敷にすら帰れなくなった。
キラもまた、母やラクス、導師と共に各国の動向を見守っていた。
またあんな戦争が起きるかもしれないと不安と不穏が世界を包んでいる。
けれど今は、自分が守らなければ、戦わなければ、友達や大切な人たちが一瞬で死んでしまう戦場にいるわけじゃない…キラは、守りきれなかった多くの命を、そして最後に微笑みながら散ったフレイを思って俯いた。
「私たちは、何とどう戦わなきゃならなかったの?」
キラにも、まだ答えは見つかっていない。
「ほとぼりが冷めちまう前に、討って出たいのさ、連合は」
デュランダル議長や大西洋連邦のスポークスマンがそれぞれの主張を語る番組を見ていると、後ろから明るく朗々とした声が聞こえてきた。
彼らが振り返ると、帰宅したバルトフェルドとマリューが挨拶をする。
「やれやれ、どこもうんざりするようなニュースばかりだねぇ」
「ミネルバもずっと空気がピリピリしてて、今日は緊張したわ」
息をついたマリューを見て、キラは飲み物を持って来ましょうと立ち上がりかけたが、バルトフェルドが「おっと」と静止した。
「それは僕の役目だろ?」
それからいそいそとご自慢のコーヒーの準備にかかる。
ソファに座って肩のコリをほぐしていたマリューが、キラの前に置かれた何枚かのプリントに気づいて言った。
「あら…ミリアリアさんから?」
ミリアリアは今、駆け出しカメラマンとして世界中を飛び回っている。
戦争で多くの悲惨な状況を見聞きし、理不尽な扱いを受けて死んでいったたくさんの人々を見て、こうした「隠れた真実」を世に知らしめたいという壮大な夢を持った彼女は、思いもかけない行動力を発揮した。
コネもないのにプレスに飛び込み、拝み倒して師匠となるカメラマンを紹介してもらったのだ。2年近くの修行を経て、最近、ようやく彼女の写真をプレスで見る機会が増えてきた。
プロとしてはまだまだとはいえ、ミリアリアは危険と隣り合わせの仕事にやり甲斐を感じ、満足している。
女の子らしい女の子という点ではピカイチの彼女のこのバイタリティに、キラもサイもかなり驚いたが、それ以上に仰天し、動揺した人間もいた。
ミリアリアが送ってくれたデータには、今回のユニウス落とし…「ブレイク・ザ・ワールド」と名づけられたテロ事件の被害状況が生々しく写っていた。海岸に打ち上げられたたくさんの死んだイルカ、有刺鉄線で隔離された居住区の避難民。バラック村で呆然と佇む人は何かを訴えるようにレンズに眼を向けている。失われて久しい宗教に今さらながらすがるつもりなのか、古いたまねぎ屋根のモスクで一心に祈っている人々もいる。破壊されて有毒物質が流れ出した工業プラントはあっという間に周辺を死の街にし、津波が襲った港町は跡形もなかった。
マリューは彼女の写真を見て、世界が負った傷の深さを思い知った。
「プラントも割れているようです」
ラクスはファクトリーに先駆けて稼動を始めた情報収集基地・ターミナルが送ってきた情報をボードで確認しながら言った。
「積極的に討って出るべきとする開戦派と、対話を望む慎重派とで…」
「対話の余地なんかないだろう」
コーヒーのいい香りが部屋に充満し、バルトフェルドがキラを呼んでトレイを渡した。相変わらずコーヒーが苦手なキラの分だけはミルクが入っている。
「ストレートで飲んでもらいたいけど、きみはいつまでもお子ちゃまだからな」
そう言われるたび、キラはすみませんと苦笑している。
「あんな要求、呑めるわけないさ」
アスランの情報を見れば、連合の言う犯人隠匿は明らかに言いがかりだし、賠償ではないが、プラントが行った救援はかなりの規模と金額に上る。
「そもそも武装解除だの現政権の解体だの監視員の派遣だのは、今回の件には何の関係もない」
バルトフェルドはまくしたてた。
「相手が呑めない要求をつきつけ、拒めば開戦という連合のやり口は、きみたちもこのオーブで味わったんだろう?」
その言葉にマリューとキラが顔を見合わせた。
「オーブは…」
やがてマリューがポツリと言った。
「オーブは、どうするつもりかしらね?」
モルゲンレーテの社員も皆不安がっている。
今現在、連邦がつきつけている同盟を締結すれば、オーブもたちまち渦中の国となり、その軍事力から戦いに駆り出されることは間違いない。
オーブの理念は踏みにじられ、国そのものが再び戦場となるかもしれない。
停戦後、行き場のない自分たちを匿い、何の不自由もないように生活を整えてくれたカガリは、今もきっと海千山千の首長たちを向こうにまわし、心身を磨り減らして議論を続けているのだろう。
(カガリ…)
キラは未だに気象が不安定な、厚い雲が垂れ込める夜空を見上げた。
―― あの時、守れなかったオーブのために…そしてカガリのために、私は何ができるんだろう。ううん、何と…戦うべきなんだろう…
喉元に刃をつきつけられた者たちが議論を繰り返している時、刃をつきつけた者たちは攻撃の時機を今か今かと窺っていた。
「さて…それで、具体的にはいつから始まりますか、攻撃は?」
ジブリールは暗号回線を使って大西洋連邦コープランド大統領に尋ねると、「今すぐというわけにはいかんよ」と大統領は苦笑した。
「プラントは未だに協議を続けたいと様々な手を打ってきておるし、声明や同盟に否定的な国もあるのだ。そんな中、そう強引な事は…」
ジブリールはやれやれと首を振った。
プラントさえ討ってしまえば、世界は意のままになる。
それが彼の持論であった。
ロゴスや大国にとって都合よくシステム化された世界が、彼らの意のままに動かされる。大衆は何も知らず、管理された自由を謳歌していればいい。
「奴らがいなくなった後の世界で、一体誰が我々に逆らえると言うんです?」
ジブリールはさもバカにしたように言った。
「赤道連合?スカンジナビア王国?ああ…怖いのはオーブですか?」
「あの国は、まぁな…」
その名を耳にした大統領は苦々しい表情で口をつぐんだ。
「オーブ解放作戦」については、未だにユーラシアやプラント、中立各国をはじめ世界各国からの連邦への風当たりが強い。
独立国であり、中立国である彼の国に対して、あのような理不尽な攻撃を仕掛けるなど許されなかったという風潮は停戦直後から徐々に盛り上がり、ウズミ・ナラ・アスハの遺児、カガリ・ユラ・アスハの英雄的帰還で最高潮に達した。
この時の怒涛のような世論の後押しには逆らえず、連邦はほぼ無条件で占領を解除したのだ。
主権を取り戻したオーブは破竹の勢いで復興を果たし、既にGDPも大戦前の水準に戻しつつある。
この驚異的な復興力と、ウズミ時代の独立路線から転換した協調路線は、中立国を中心にして国際的地位を固めており、日々連邦を脅かしている。
ジブリールは鼻白んだ。
「ふん。あんなちっぽけな国」
世界を構築し直し、新たなシステム…もちろんそれは彼らにとって都合のよいシステムという意味だが…を導入すれば、たかが一国の理念や理想などすぐに塗り替えられてしまうはずだ。
しかし、とジブリールは考え直した。
アズラエルも当然そう思ってオーブを攻めさせたというのに、結果的にはオーブは今も存続し、こうしてコープランド大統領を世界中の批判の矢面に立たせ、「厄介な存在」だと認識させている。
現在、連邦が同盟締結を迫っているのも、早いうちに取り込むためだ。
実のところは連邦もオーブと再び戦う羽目にならないことを願っていた。
いくらオーブの技術力・軍事力が高かろうと、いまや連合を従えた連邦が用意できる物量は桁が違う。叩き潰すのは簡単だ。しかしそれによって起きる批判や抗議により、稀代のヒールになっては意味がない…
押せば抗い、和せば伸び、引けば一人わが道を往く。
自らの理想を阻む要素のある国は、確かに厄介かもしれない。
ジブリールは手早くキーを打ってオーブのデータを出した。
それは国民からの絶大な人気を誇る、若き代表の姿だった。
「こんな若僧に、我々の邪魔などさせませんよ」
ジブリールは代表以外の首長の写真を指で次々にスライドした。
これだけ国際社会がオーブを擁護しているのに、オーブは大西洋連邦を弾劾もせず、事を荒立てない。思慮深さにも見えるが、臆病さにも見える。
(あの国に、それを抑えられる者がいるということやもしれん)
やがてジブリールの指がウナト・エマ、ユウナ・ロマのところで止まった。
膨大な記憶の底から、自分の傘下にあるグローバルカンパニーの一つが彼らと関係している事を掘り起こしたジブリールは、ニヤリと笑った。
「私がそれを確約するなら、攻撃準備を進めてくださいますか?閣下」
ジブリールはそう言って膝に抱いた黒猫の美しい被毛を撫でた。
「面倒はさっさと片付けて、早く次の楽しいステップに進みましょう」
「ジブリール、オーブをどうする気かね?」
ジブリールは青いルージュを塗った唇の端を持ち上げて笑った。
それは後でのお楽しみといこうではないか…
「それではよろしくお願いします。青き清浄なる世界のために」
「…地球連合各国は本日午前0時をもって、武力によるこれの排除を行うことを、プラント現政権に対し通告いたします」
ジブリールとの密談からさして時をおかず、コープランドはプラントに宣戦布告を行った。テロリストを匿うプラントを地球に対する脅威とみなすというのが大義名分であった。
それに合わせ、国防委員会がデュランダル議長の提案どおり密かに、迅速に防衛態勢を整えさせていたザフト全軍は、一斉に警戒態勢に入った。
それは中立国にいるミネルバも例外ではない。
「コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令」
アラートと共に、メイリン・ホークの声が艦内に響き渡った。
「艦内警備ステータス、B1。以後、部外者の乗艦を全面的に禁止します。全保安要員は直ちに配置についてください。繰り返します…」
「防衛軍の司令官を。最終防衛ラインの配置は?」
議長は軍令部に移り、統帥権を行使して全軍に防衛態勢を命じた。
既にプラント全市の港は封鎖され、国民にも順次避難勧告が出されている。
パニックを警戒し、各市へのMPの配置も急がれていた。
こうなってはもう、対話も交渉も意味をなさない。
「脱出したところで、我らには行く所などないのだ」
議長は目の前の議員たちに告げた。
「なんとしてもプラントを守るんだ!」
2年間のぬるま湯生活から目覚めたザフトでは、大戦を経験した兵が張り切って怒声を浴びせ、初陣となる新兵はキビキビと走り回った。
各隊も防衛のため、続々と前線に集結していた。
前大戦でプラント防衛の二つの要・ポアズが核、ヤキン・ドゥーエが自爆によって失われたため、現在は新造された宇宙ステーションが軍総司令本部となっている。
さらに巨大な宇宙空母ゴンドワナが、モビルスーツはもちろん、ナスカ級の戦艦すらその巨大な艦体に呑みこんで運び、あたかも移動要塞のような役割を担っている。
少しずつ整えられていた軍備が実を結んでおり、ゴンドワナのモビルスーツ搭載率は8割に上っていた。
イザークたちジュール隊もこのゴンドワナに乗艦しており、今は多くの兵たちと共にモビルスーツデッキで待機していた。
「シエラアンタレス1、発進スタンバイ。射出システム、エンゲージ」
あまりにも多くの部隊が集結したため、それぞれが展開する座標に基づく独自のコードネームを拝受している。イザークは了解した旨を返信した。
「結局はこうなるのかよ、やっぱり!」
イザークは不愉快そうに呟いた。
最前線で何が起きていたのか見ていた彼は、余計にこの展開が気に食わない。
(…だが、連中が再びプラントを脅かすのなら)
苛立ちを押えるように、イザークは凛とした声で答えた。
「こちらシエラアンタレス1。ジュール隊、イザーク・ジュール、出るぞ!」
イザークはシフトを入れ、スラッシュザクファントムで飛び出した。
(俺は戦う!守るために)
ファルクスを振り回し、イザークは近づいてくる艦隊を待った。
一方ディアッカもまた、一般兵と共に発進前の最終調整を行っていた。
(いつまでたっても懲りないよな、ナチュラルも俺たちもさ)
それからゲイツRに乗るひよっ子たちに声をかけた。
「出撃後はすぐに各個応戦になると思うが、無理はするなよ」
血気盛んな彼らが一斉に返事をしたものだからスピーカーの音が割れ、ディアッカは「うるさいっつの!」と乱暴な口調で答えて笑った。
(全員、無事に戻ってこられればいいんだが)
ガナー装備を背負い、彼らに先んじて射出口へ向かう。
「ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、ザク、発進する!」
ディアッカは出撃と共に、自分が守るべきもの…プラントを見た。
それは、彼が脱走兵の汚名を背負いながら軍に戻った「理由」だった。
(…あいつはあの時、何も言わなかった…)
自分の決意を告げた時、彼が愛した女性は「そう」と呟いただけだった。
彼の胸にふと小さな痛みが走ったが、それを振り払うように加速する。
今はただ、眼の前の敵に集中する時だった。
プラントからの映像は、ノイズ混じりながらもミネルバに届いていた。
シンやルナマリアをはじめ、多くの兵が休憩室で戦いの行方を見守っている。
「戦闘開始…」
「数が多いな」
「…新型?」
皆、ひそひそとざわめく。
シンはレイを見つけて近づくと、「状況は?」と聞いた。
「第一陣が戦闘を開始したところだ。ゴンドワナが前線に出ている」
「モビルスーツは…20というところか?」
シンがざっと戦域を見渡す。
平面状の画像では捉えきれないが、ダガーLが展開し、ゴンドワナからはゲイツR、ザクが続々と出撃していく。隊長クラスやエース級の証であるパーソナルカラーのザクも多い。
「狙いはアプリリウスかな?」
プラントまでの距離を見て、ルナマリアが不安そうに聞いた。
「軍令本部を直接?ムチャだろ」
シンは防衛ラインの硬さを見て笑った。
いくらなんでもこれだけのモビルスーツを突破できるもんか。
むしろ突破じゃなくて…と考えて、ドクンと心臓が跳ねた。
「…ミサイル?」
「それって…!」
ルナマリアが一瞬声をあげ、「奇襲ってこと?」と小声でささやいた。
戦場にいると見えない全体の展開が、ここからならよく見える。
敵軍はまるでネットのように拡がり、防衛隊を絡め取っている。
機動性に優れる彼らを動けないようにして、それからゆっくりミサイルを放つとしたら、この物量による総攻撃は数の少ないザフトには不利だろう。
(プラントはもう目の前なんだぞ?)
シンはこんなのはただの悪い予感だと頭から振り払おうとした。
「敵、別働隊にマーク5型…核ミサイルを…確認!?」
極軌道に哨戒に出ていたZGMF-LRR704B長距離強行偵察複座型ジンからもたらされた最悪の報告に、軍令部がざわめいた。
そこには旗艦ネタニヤフが陣取っており、数はさほどいないが、新たに開発されたGAT-04ウィンダムがその運搬の任にあった。
「よーし、予定通りだな。こちらも行くぞ」
本隊が戦闘開始したことを受け、奇襲部隊クルセイダーズの隊長はにやりと笑った。コンテナにはたっぷりと核ミサイルが詰まっている。
「この青き清浄なる世界にコーディネーターの居場所などないということを、今度こそ思い知らせてやるのだ!」
司令部からは緊急チャンネルで全軍に核ミサイルの存在が知らされた。
「核攻撃隊?極軌道からだと!?」
イザークはガトリングを放ってダガーLを散らしながら叫んだ。
「じゃ、こいつらは全て囮かよ!」
オルトロスを構えて戦艦の足を止めていたディアッカも驚く。
俺たちを突破はできなくても、数を撃たれたら十分射程まで届く…
「一発ずつ撃ち落すなんて、そんな芸当できねぇぞ、俺には!」
ディアッカが怒鳴ると、イザークはぎりっと歯を食いしばった。
―― やつら、性懲りもなくまた核などを持ち出すとは…
「くっそおおぉぉ!!」
「イザーク!」
イザークは離脱し、いまやベテランの域に達したハーネンフースら赤服を数人ピックアップして核搭載部隊に突撃をかけた。
同時にディアッカには、前線にいるダガーL部隊を片付けろと命じる。
後方部隊を阻止せんと反転すると、ダガーLに後ろを取られるからだ。
「核を撃つ気なら、連中はプラントには近づかん!」
「わかった!」
ディアッカはイザークと別れ、散らばっていたひよっ子どもを呼び寄せた。
「核は隊長たちに任せて、俺たちは前線のモビルスーツを叩くぞ!」
事態は一刻を争った。
「核だって!?」
「そんな…」
核搭載の情報に、休憩室がざわめいた。
ルナマリアが思わずシンの腕を取ると、シンは体を堅くして眉をひそめた。
「あ、ごめん」
ルナマリアはシンの拒絶に気づくと、慌ててその腕を放した。
(…また嫌がられちゃった)
軽く傷ついたルナマリアはそっとシンを見たが、いつも通りの表情だ。
(嫌われてるのかな、私)
そう思ってから、こんな時に何考えてるのと自分に呆れてため息をつく。
ミサイルケースを装備したウィンダムに、ザクやゲイツRが向かう。
シンはルナマリアの想いなど知りもせず、戦場の様子を見つめながら、もしも自分ならインパルスでどう戦うかとシミュレートしていた。
(最初のシルエットはフォース)
スピードで圧倒し、なるべく多くのダガーLを戦闘不能にしてから、ブラストに換装して核ミサイルを撃破する。頭の中にモニターとパネルが浮かび、無数のミサイルをロックオンするイメージが広がる。
(左舷からこぼれる敵はレイに任せ、薄い部分をルナに攻めさせる)
―― それから残った敵を討つために、俺ともう1人が…
ふと、いないはずの「4人目」を入れていることにシンは気がついた。
(…俺、誰のことを考えたんだ?)
目の前で果敢に戦う緑色のザクを見て、まさかね…と自嘲気味に笑った。
そんなシンを見て、レイが「歯がゆそうだな」と言う。
「そりゃ…」
自分がプラントに上がって以来、ここまで危機に追い込まれたのは初めてだ。
あの脆く頼りない砂時計には何万という人が住んでいる。
彼らを守るために、俺の力が役に立つのなら…
「俺たちザフトは、プラントを守るものだろ?」
シンが言うと、レイは珍しく笑って「そうだな」と答えた。
その頃、最終防衛ラインにはナスカ級が3隻展開していた。
うち1隻には何やら見慣れない装備が着けられている。
核部隊を追って前進していたネタニヤフでもそれを認めたが、司令官は「たった3隻で何ができる!」と鼻で笑い、ウィンダムに一斉発射を命じた。
「そら行け!今度こそ、青き清浄なる世界のために!」
大量の核ミサイルが、プラントへと向かっていった。
「全システム、ステータス正常」
「量子フレデル、ターミナル1から5まで左舷座標オンライン」
「作動時間7秒。グリッドは標的を追尾中」
ナスカ級の艦長が時計を見、熱源データによる距離を測る。
「一発勝負だぞ。最大まで引きつけろ、いいか」
「フルチャージ、オンライン。ニュートロンスタンピーダー起動!」
ナスカ級に設置された謎のパネルが急速にエネルギーを収束していった。
「くっそぉ!間に合わん!」
スピードを上げて突っ込んできたものの、核ミサイルは発射され、すべてを撃ち落とすことは不可能だと悟ったイザークは絶句した。
ディアッカもまたオルトロスを構えたまま見送るしかできない。
しかし前大戦以来、何度も繰り返される核攻撃に対し、ザフトもただ手をこまねいていたわけではない。
起動したそれは、放たれた核に対する最終ディフェンスだった。
「スタンピーダー、照射!」
量子フレデルと呼ばれるパネルから強力な電磁波が照射されると、扇形に広がる照射範囲内にある物質の中性子を急激に揺らした。
それによって瞬間的に核分裂が起き、放たれた核ミサイルは激しい爆発を起こした。次々と爆発し、さらに大量の核の誘爆によって、モビルスーツ、さらには旗艦ネタニヤフすらも巻き込まれて大爆発を起こした。
照射時間は7秒間。
そのわずかな時間で、眼の前には何もかもがなくなっていた。
「なんだ…?一体何が…」
イザークはただ呆然とし、静かになった戦場を見つめていた。
推移を見守っていた議員や技師、補佐官や事務官たちがわっと沸いた。
「スタンピーダーは量子フレデルを蒸発させ、ブレーカーが作動。現在システムは機能を停止しています」
スタンピーダーの開発者、ホワイトが現状を報告する。
「たまらんな…」
「間に合ってくれてよかったですわ」
「だが虎の子の一発だ。次はこうは…」
議員のリカルドやノイたちがヒソヒソと話している。
相手がまだ核を持っていたら、もはや迎撃システムはない。
貴重なレアメタルを大量に消費するニュートロン・スタンピーダーは量産することができず、量子フレデルが焼ききれるため連射もできない。
今回はしのぎきったものの、今後の情勢はまだまだ不安が残る。
好戦派からは弱腰、後手に回りすぎると批判されていたデュランダルは、密かに開発させていたこの兵器を示すことで評議会議員たちを黙らせた。
彼は「核が無力」だという認識を相手に植えつける事が目的だと説いた。
「物量に勝る相手と戦って、いたずらに疲弊する必要はないでしょう。徹底的に防衛することが、最大の効果をあげることになるのですから」
あくまでも防衛を貫く姿勢、スタンピーダーの存在、そして戦果。
どこをとっても非の打ち所のない彼の政策は、誰にも文句を言わせない。
尊敬と信頼を一身に受けながら、議長はいつものように涼やかに笑った。
「これで終わってくれるといいんですがね…とりあえずは」
「なんだと!?」
一方、ジブリールの元には最悪の情報が届けられていた。
「全滅だよ。核攻撃隊は一機残らず、跡形もなく全滅したのだ!」
不機嫌そうなコープランドは言うだけ言うと通信を切ってしまった。
核部隊は一瞬のうちに消滅し、デュランダルの読みどおり、地球軍は月基地へ撤退した。とりあえず緒戦はザフトの勝利ということになる。
(バカな…!)
あまりにも無様な結果が信じられず、ジブリールは眼を見張った。
最前線にいたイザークやディアッカが呆気にとられたように、ミネルバのシンたちも狐につままれたような顔をしていた。
「ねぇ、何?何が起きたの?」
ルナマリアがヴィーノやヨウランに尋ねたが、2人とも首を振る。
シンとレイも一体何が起きたのかわからなかった。
核部隊が見る間に消滅し、そのまま地球軍は撤退を始めたのだ。
「司令本部から発表が入るはずだ。後でメイリンに聞こう」
シンが頭を掻きながら言うと、レイも頷いた。
(ギル…やはりあなたのやる事に間違いはない)
レイは危機を乗り切ったデュランダルを想い、誇らしさで一杯だった。
長く待たされているアスランは、少し気分転換をしようと思い、落ち着かない外交官に「顔を洗ってきます」と断って部屋を出た。
レストルームで冷たい水で顔を洗い、やや疲れた顔を見る。
仕方がないとは思っていたものの、こうまで待たされると不安にもなる。
―― ここに来たのは間違いではないか…?
ついつい湧き上がるネガティブな考えを、アスランは振り払った。
(自分で決めたことに、今さら迷うなんて!)
アスランは両手で頬を軽く叩くと、レストルームを出た。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんとわかってる。時間はあとどれくらい?」
(この声…?)
階段を上がって部屋に戻ろうとしたアスランは、ロビーの向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきたような気がして立ち止まった。
「なら、もう一回確認できるね」
アスランが声の方に近づいていくと、突然丸いものが飛びついてきた。
「ハロ!ハロ!Are you O.K.?」
それを手で受け止め、アスランは目を見張った。
(ハロ?ううん、違う。私はこんなハロは作ってない)
けれど次の瞬間、アスランはさらに驚いて声を上げてしまった。
「…ラクス!?」
その声に電話をしていた人物がはっと気づいて振り返った。
そこにいた「ラクス」は、驚いているアスランをまじまじと見つめる。
彼はしばらく言葉がなかったが、やがて満面の笑みをたたえ始めた。
「あ…ああ!きみ、アスラン!?」
「…え!?」
その途端、「ラクス」は駆け寄ってきてアスランを強く抱きしめた。
「…っ!!」
「嬉しいよ!やっと来てくれたんだね!」
アスランには何がなんだかわからなかった。
そもそも、穏やかでおっとりしているラクスが、こんなに強く自分を抱き締めたことなどない。彼の抱擁は、あくまでもソフトな挨拶だった。
アスランは思わず腕を伸ばし、彼を拒絶した。
「一体どうしたの、ラクス!?」
ラクスはそれでもアスランの背に腕を回したまま、嬉しそうに笑った。
「あなたがどうしてここに?だって…」
「ずっと待ってたんだよ、僕。きみが来てくれるのをね」
アスランはますますわけがわからず、もう一度彼をまじまじと見た。
よく似ている他人ではないかと思ったのだが、けれどその表情や赤毛に近い明るい色の髪、眼の色に身長、声は、4年以上前から知っているかつての婚約者、ラクス・クライン以外の何者でもないと思える。
ラクスは嬉しそうな顔をしたまま戸惑うアスランを見つめていたが、やがて連れらしき男性に「ラクス様」と呼ばれると彼女を放した。
「では、またね。でもよかった…ほんとに嬉しいよ、アスラン」
ラクスはにっこり笑うと、ハロを手に抱き、去っていった。
一人残されたアスランはぽかんとして彼を見送るしかなかった。
―― ラクス…ううん、でも…何かが違う気がする…
(なんだろう…何か決定的なことを忘れてるような…)
その時、廊下の向こうからざわざわと人波が近づいてきた。
そのうちの一人が、立ちすくむアスランに気づいて声をかける。
「アレックス」
それこそ、アスランが待ち続けていたデュランダル議長だった。
「ああ、きみとは面会の約束があったね」
議長はにこやかに両手を広げて歓迎の意を表明した。
「いや、大分お待たせしてしまったようで、申し訳ない」
「あ…いえ…」
アスランはまだ動揺し、議長にも曖昧な返事しかできなかった。
そんな彼女の様子をいぶかしみ、議長はどうしたのかと尋ねた。
「…なんでもありません…すみません」
そう答えてから、アスランは何が違ったのか気がついた。
彼は、顔も瞳も髪も声も、話し方まで確かにラクスだった。
けれど決定的な違いは「匂い」だった。
病弱なラクスに染み付いている医薬品の香りが、彼からはしなかったのだ。
アスランは首を傾げながら議長の後に続いた。
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制作裏話-PHASE9-
DESTINYを本放映時に一回しか見ていない、さして思いいれのない人なら、こんな話があったのかすらもう忘れているのではないかと思われるPHASEです。
ぶっちゃけ、このあたりのトロトロ感とつまらなさは私もウンザリです。
PHASE8まではそれなりにテンポもよく、続編ならではの旧キャラ新キャラが入り乱れてのわくわく感がありましたが、このへんから「キラ様無双」あたりまではやけにもたつきます。
というか、種の脚本は政治を描くのが下手すぎる。
「政治家=モタモタ話し合う人たち」というイメージでもあるのか、オーブにしろプラントにしろ、延々と議会の様子を流されてもねぇ…
こんなの、トミノガンダムだったらアバンで話し合いを終え、主人公の絡まない戦いなんか開始5分で決着つけておしまいですよ。
そうなればこのPHASEだけでアスランは議長と話し、ミーアとデートし、イザークたちとも会って終わるでしょう。PHASE9から11までの話は1話か1.5話もあれば十分です。
その分、シンをもっと早くステラと会わせるとか、シンのキャラを生かして戦争の悲惨さを描いたり、アスランとシンの関係性を深める事もできたはずです。さらには総集編をなくせばもっと…というのは、もう今さらいくら言っても詮のないことなのですがね…
テロを口実にゴリ押しで開戦した連合が核ミサイルを放ち、イザークやディアッカが必死の防戦に出ています。しかしいくら彼らが人気キャラでも、主人公ではないので戦いに華がありません。ガンダムなのにガンダムが出ないんじゃね。
なるべく彼らの心境や、情勢を見守っているキラの想い、そして主人公であるシンのモノローグを入れてみましたが、う~ん、難しいですね。
これ、本編はもうちょっと何とかならなかったんですかね?せっかくアスランがこのタイミングでプラントに行ったんだから、ガンダムキャラらしく戦闘に巻き込まれ、仕方なくモビルスーツに乗って戦うとかさ。むしろそれならそのままなし崩しにザフトに戻った(=帰りたくてもオーブには帰れなくなった)でもよかったかもしれないのに。
今回の加筆修正で、ルナマリアが「自分はシンに嫌われているんじゃないか」と不安がる描写を加えました。今後もPHASE20でシンの秘密が明かされるまで彼女の不安は続きます。ルナマリアが最初から最後までシンを好きというだけで評価は上がったろうにと思うと(種は三角関係のドロドロに加え、カップルシャッフルしましたからね)、尻軽扱いの本編の彼女はあまりにも可哀想です。
また、本編ではセリフはないものの、姿だけは現していたミリアリアがどうしているかという事も補完しました。ついでにディアッカにも復隊した時の事をちょっとだけ思い出してもらいました。
私はこちらの「なかった事にされた」カップルも救済したいと思っていました。メインキャラだというのに再会すらなく、扱いもひどかったので、2人とも逆転では名バイプレーヤーとして大活躍してもらいました。最終的には2人の本当の気持ちを描写でき、再会を示唆できたので満足です。
キラたちの会話シーンも本編にはないのですが、後々の彼らの主人公を差し置く活躍ぶりを見たら、この辺でも動向を示しておく方が自然だと思います。
あと、本編では語られなかったオーブ復活についても「きっとこんな感じだったろう」と予想してみました。当事者であるカガリやキラたちが思う以上に、経済・軍事力に長けているオーブの世界への影響力は強かったと思われます。というか、そうでないと種・運命通じてオーブ戦の意味がないので困ります。
ラストでは私が逆転DESTINYを書くにあたり、もっともネックとなっていたキャラクターが登場しました。
ラクス・クラインの替え玉ミーア・キャンベル。
メイリンと並んで、名前からして「女」でしかないキャラを男にしなければなりません。
名前といえば、「キラ」は女性でも男性でもいけますし、「ラクス」や「カガリ」、「アスラン」「サイ」も中性的な響きがあり、フレイに至ってはそもそも男性の名前ですし、「ユウナ」はむしろ女性っぽい。「アレックス」もどちらにも使いますしね。
この「どちらでもいけそうな名前」が多かった事が男女を逆転させた逆転SEEDを執筆する後押しになったのは否めません。
しかしどうにもならなかったのが「メイリン」と「ミーア」でした。どちらもどう見ても女名前にしかなりません。
「メイリン」は苦肉の策として「メイ・リン・ホーク」にしようかと悩んだりもしましたが、ルナマリアときょうだいなのになんでアジア風になるんだ、それはないだろうと断念してそのままになりました。
結果としては、出番も活躍も多かったメイリンはそのうち慣れましたが、ミーアは最後まで違和感バリバリでしたね。女っぽい名前のなよっとした感じが抜けませんでした。
彼のキャラクターは本当に悩みました。本編のミーア同様、少し頭のネジがゆるいキャラにしようとは思っていたのですが、おっぱいさえあれば誤魔化せる女と違い、男でそれは難しい。だからここではまだ見た目とラクスっぽい雰囲気を匂わせるに留まっています。
本編のアスランはミーアに嫌悪感を示しつつもやや同情的でしたが、逆転のアスランは最初から拒絶的です。女性は非力ゆえに保守的なので、身持ちが堅ければ堅いほど、好意を持たない相手に警戒するのは当然ですからね。
(それゆえに尻軽女は男に利用されてバカにされ、女からは完全に無視されるのです)
アスランが彼に抱き締められた時薬の移り香がなかった事に気づくのは、このシーンを書いている最中にひらめきました。
本物のラクスは普段からどんだけ元婚約者を抱き締めてるんだって話ですね。
そりゃカガリも怒るわ。
ぶっちゃけ、このあたりのトロトロ感とつまらなさは私もウンザリです。
PHASE8まではそれなりにテンポもよく、続編ならではの旧キャラ新キャラが入り乱れてのわくわく感がありましたが、このへんから「キラ様無双」あたりまではやけにもたつきます。
というか、種の脚本は政治を描くのが下手すぎる。
「政治家=モタモタ話し合う人たち」というイメージでもあるのか、オーブにしろプラントにしろ、延々と議会の様子を流されてもねぇ…
こんなの、トミノガンダムだったらアバンで話し合いを終え、主人公の絡まない戦いなんか開始5分で決着つけておしまいですよ。
そうなればこのPHASEだけでアスランは議長と話し、ミーアとデートし、イザークたちとも会って終わるでしょう。PHASE9から11までの話は1話か1.5話もあれば十分です。
その分、シンをもっと早くステラと会わせるとか、シンのキャラを生かして戦争の悲惨さを描いたり、アスランとシンの関係性を深める事もできたはずです。さらには総集編をなくせばもっと…というのは、もう今さらいくら言っても詮のないことなのですがね…
テロを口実にゴリ押しで開戦した連合が核ミサイルを放ち、イザークやディアッカが必死の防戦に出ています。しかしいくら彼らが人気キャラでも、主人公ではないので戦いに華がありません。ガンダムなのにガンダムが出ないんじゃね。
なるべく彼らの心境や、情勢を見守っているキラの想い、そして主人公であるシンのモノローグを入れてみましたが、う~ん、難しいですね。
これ、本編はもうちょっと何とかならなかったんですかね?せっかくアスランがこのタイミングでプラントに行ったんだから、ガンダムキャラらしく戦闘に巻き込まれ、仕方なくモビルスーツに乗って戦うとかさ。むしろそれならそのままなし崩しにザフトに戻った(=帰りたくてもオーブには帰れなくなった)でもよかったかもしれないのに。
今回の加筆修正で、ルナマリアが「自分はシンに嫌われているんじゃないか」と不安がる描写を加えました。今後もPHASE20でシンの秘密が明かされるまで彼女の不安は続きます。ルナマリアが最初から最後までシンを好きというだけで評価は上がったろうにと思うと(種は三角関係のドロドロに加え、カップルシャッフルしましたからね)、尻軽扱いの本編の彼女はあまりにも可哀想です。
また、本編ではセリフはないものの、姿だけは現していたミリアリアがどうしているかという事も補完しました。ついでにディアッカにも復隊した時の事をちょっとだけ思い出してもらいました。
私はこちらの「なかった事にされた」カップルも救済したいと思っていました。メインキャラだというのに再会すらなく、扱いもひどかったので、2人とも逆転では名バイプレーヤーとして大活躍してもらいました。最終的には2人の本当の気持ちを描写でき、再会を示唆できたので満足です。
キラたちの会話シーンも本編にはないのですが、後々の彼らの主人公を差し置く活躍ぶりを見たら、この辺でも動向を示しておく方が自然だと思います。
あと、本編では語られなかったオーブ復活についても「きっとこんな感じだったろう」と予想してみました。当事者であるカガリやキラたちが思う以上に、経済・軍事力に長けているオーブの世界への影響力は強かったと思われます。というか、そうでないと種・運命通じてオーブ戦の意味がないので困ります。
ラストでは私が逆転DESTINYを書くにあたり、もっともネックとなっていたキャラクターが登場しました。
ラクス・クラインの替え玉ミーア・キャンベル。
メイリンと並んで、名前からして「女」でしかないキャラを男にしなければなりません。
名前といえば、「キラ」は女性でも男性でもいけますし、「ラクス」や「カガリ」、「アスラン」「サイ」も中性的な響きがあり、フレイに至ってはそもそも男性の名前ですし、「ユウナ」はむしろ女性っぽい。「アレックス」もどちらにも使いますしね。
この「どちらでもいけそうな名前」が多かった事が男女を逆転させた逆転SEEDを執筆する後押しになったのは否めません。
しかしどうにもならなかったのが「メイリン」と「ミーア」でした。どちらもどう見ても女名前にしかなりません。
「メイリン」は苦肉の策として「メイ・リン・ホーク」にしようかと悩んだりもしましたが、ルナマリアときょうだいなのになんでアジア風になるんだ、それはないだろうと断念してそのままになりました。
結果としては、出番も活躍も多かったメイリンはそのうち慣れましたが、ミーアは最後まで違和感バリバリでしたね。女っぽい名前のなよっとした感じが抜けませんでした。
彼のキャラクターは本当に悩みました。本編のミーア同様、少し頭のネジがゆるいキャラにしようとは思っていたのですが、おっぱいさえあれば誤魔化せる女と違い、男でそれは難しい。だからここではまだ見た目とラクスっぽい雰囲気を匂わせるに留まっています。
本編のアスランはミーアに嫌悪感を示しつつもやや同情的でしたが、逆転のアスランは最初から拒絶的です。女性は非力ゆえに保守的なので、身持ちが堅ければ堅いほど、好意を持たない相手に警戒するのは当然ですからね。
(それゆえに尻軽女は男に利用されてバカにされ、女からは完全に無視されるのです)
アスランが彼に抱き締められた時薬の移り香がなかった事に気づくのは、このシーンを書いている最中にひらめきました。
本物のラクスは普段からどんだけ元婚約者を抱き締めてるんだって話ですね。
そりゃカガリも怒るわ。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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