機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「大変だったみたいだな」
「うん。戦場の情報は立て続けだし、通信もめちゃくちゃだし」
ようやく立ち入り禁止が解除されたブリッジから出てきたメイリンを、ルナマリアとシンが食事に誘った。
長時間労働でクタクタだったが、このまま部屋に戻るには、あまりの情報量で心が高揚しすぎていた。
「…戦争って、すごいね」
メイリンがしみじみ言うと、ルナマリアは「何言ってんのよ」と笑ったが、シンは何も言わなかった。
(戦争は、すごい…)
メイリンの素朴な言葉が、なんとなく胸にストンと落っこちた。
「うん。戦場の情報は立て続けだし、通信もめちゃくちゃだし」
ようやく立ち入り禁止が解除されたブリッジから出てきたメイリンを、ルナマリアとシンが食事に誘った。
長時間労働でクタクタだったが、このまま部屋に戻るには、あまりの情報量で心が高揚しすぎていた。
「…戦争って、すごいね」
メイリンがしみじみ言うと、ルナマリアは「何言ってんのよ」と笑ったが、シンは何も言わなかった。
(戦争は、すごい…)
メイリンの素朴な言葉が、なんとなく胸にストンと落っこちた。
「意気揚々と宣戦布告して出かけていって、鼻っ面に一発喰らってすごすごと退却か。君の書いたシナリオはコメディなのかね?」
ロゴスの一人からの手痛い言葉に、ジブリールは歯噛みした。
「やりたいというから許可したのに、何たる体たらくだ」
「地球上のザフト軍の拠点攻撃へ向かった隊は、未だに待機命令のままなのだろ?」
ジブラルタル、カーペンタリアなどはもとより、ザフトが拠点を置くマハムールなどにも軍を差し向けているというのに、第一波の失敗で地球軍は動く事ができずにいる。
「全く、みっともないことだ」
「金ばかり食いおって成果がないとは」
ロゴスたちは皆、痛烈にジブリールを批判していた。
「戦いは続けますよ!」
ジブリールは不愉快極まりない口調で言った。
「以前のプランに戻し…いやそれよりもっと強化してね!」
「しかしだな、ジブリール…」
「いいえ!この戦争、ますます勝たねばならなくなったのですから!」
ジブリールは口角泡を飛ばした。
彼は巨大なモニターにザフトが使用したスタンピーダーのデータと、その起動によって核ミサイルや地球軍機が全て殲滅される映像を流した。
「あんなものを持つ化け物が宇宙にいて、一体どうして安心していられるというのです!」
核を一瞬にして消滅させたその威力もだが、何よりそんな兵器を簡単に作り上げるコーディネイターの叡智に、ロゴスたちもさすがに黙り込む。
しかし、もはやこうなっては彼らも地球軍も退く事もできはしない。
「仕方がない。きみたちがもう一度やるというのなら」
「次はきっちり仕留めてくれよ」
彼らはしぶしぶ、次の殺し合いゲームにベットし始めた。
その頃プラントでは、デュランダルが早急に立てよと命じた国防委員会が策定した防衛策が決議されようとしていた。
「プラント最高評議会は、議員全員の賛同により、国防委員会より提出された案件を了承する」
議長が議決を宣言し、評議会議員は拍手の後、ざわめいた。
「しかしこれはあくまで『積極的自衛権』の行使だということを、決して忘れないでいただきたい。感情を暴走させ、過度に戦火を拡大させてしまったら先の大戦の繰り返しです」
デュランダル議長は笑みをたたえながらもきっぱりと言った。
「今再び手に取るその銃が、今度こそ全ての戦いを終わらせる為のものとならんことを切に願います」
議長の言葉と共に議会は閉会し、そして全てが再び始まった。
「ダメだダメだダメだ!冗談ではない!」
オーブの議場ではカガリがバサッと約定が書かれた用紙を投げた。
「なんと言われようが、今こんな同盟を締結することなどできるか!」
あの一件を実際に見てきた自分だからこそ、話にもならない大義名分でプラントを討とうとした国との同盟など容認できるはずがない。
ウナトや他の首長は困惑顔で両手を前に出し、代表をなだめようとした。
「大西洋連邦が何をしたか…おまえたちだってその目で見ただろう?」
カガリは額に手を当ててふーっと息を吐くと続けた。
「一方的な宣戦布告、そして核攻撃だぞ?」
ユウナが不機嫌そうに眼を逸らした。
自分だけが真実を知ってるみたいな顔をして正義を振りかざす…
(全く…これだから子供はイヤよ)
カガリは続けた。
「そんな国との安全保障など!そもそも今、世界の安全を脅かしているのは当の大西洋連邦ではないか。なのになぜそれと手を取りあわねばならない!?」
カガリはドンと机を叩いた。
「絶対にダメだ!」
首長たちはざわざわとざわめいて、再びカガリに詰め寄った。
「しかし…ですが代表!」
「期限は迫っております。もはや一刻の猶予もない」
「お考えください、連邦を敵にまわせばどうなるか…」
カガリにもそんな事はわかっている。けれどここは譲れない。
(オーブは中立を守り、何人をも傷つけない国であらねばならない)
その時、すっくとユウナ・ロマ・セイランが立ち上がった。
「そのような子供じみた主張は、おやめいただきたいですわ」
「…ユウナ・ロマ」
カガリは自分を真っ直ぐに見つめるユウナの言葉に息を呑んだ。
「なぜ?と言われるのなら、お答えしましょう」
ユウナはハイヒールを鳴らしてカガリの元に近づいてきた。
「『そんな国』だからです、代表」
ユウナはカガリを舐めるように見てゆっくりと言った。
カガリはその奥まった瞳に爬虫類のような冷たさを感じて睨み返す。
「大西洋連邦のやり方は確かに強引でしょう。そのようなことは、失礼ながら今さら代表におっしゃっていただかなくとも、我らも充分承知しております」
「なんだと…?」
カガリも負けまいと身を乗り出した。
「しかし?だから?」
ユウナは手を広げた。
「ではオーブは今後はどうしていくと代表はおっしゃるのですか?」
カガリはねちっこいその言葉に黙り込んだ。
ユウナはここぞとばかりに責め立ててくる。
「この同盟をはねのけ、地球の国々とは手を取りあわず、つまり、遠く離れたプラントを友と呼び、この星の上でまた一国孤立しようとでも言うのですか?」
「違う」
「自国さえ平和で安全ながらそれで良いと?被災して苦しむ他の国々に、手すら差し伸べないとおっしゃるですか?」
「違う!」
カガリは心を落ち着かせようと一旦呼吸を整えてから言った。
「オーブが世界の国々から孤立するなどとは言っていない。怒りや憎しみに基づくような同盟など結べない、結ぶべきではないと言っているのだ!」
首長たちはそれを聞いてまたざわめき始める。
「そもそも他の中立国や、連邦に批判的な国々との十分な対話すらできていない今、即同盟などというのは間違いだと思わないのか?」
カガリは友好国であるスカンジナビアや、当事者のプラントとも未だに思ったような対話ができていないことを気に病んでいた。
「それに、被災国にはオーブも全面的に救援の手を差し伸べている。おまえたちこそよく考えろ。その事と同盟は全く別物ではないか!」
最初は右も左もわからない子供だったカガリを、か弱い子猫と侮り、追い詰め、攻め立てていくほどに、その牙も爪も強く逞しくなっていく。
この1年で見違えるほど大人びた彼を見て、ウナトはちっと舌打ちをした。
そして娘にチラリと視線を送る。
(早く片をつけてしまえ、ユウナ。このうるさい小僧を黙らせろ)
ユウナは父に軽く合図を返すと再びカガリを正面から見つめた。
「では、どうするとおっしゃるのです?」
ユウナもまた落ち着いて尋ねた。
その途端、カガリが言葉に詰まる。
「オーブは、ずっとそうであったように中立独自の道を…」
―― なるほど、あんたの意見はここまでなのね、坊や。
( ちょっとは男らしくなってきたかしらと思ったけど、まだまだね)
ユウナはマシマに視線を送った。彼はそれを見て頷くと口を開く。
「そしてまた国を焼くのですか?ウズミ様のように?」
突然出されたウズミの名に、カガリの血がカッと逆流した。
「そんなことは言っていない!!」
「しかし下手をすればこの状況、再びそんなことにもなりかねませんぞ」
ウナトが神妙な顔で言う。
「大西洋連邦は、条約を締結したからといって、すぐにオーブをどうしようと言っているわけではありません。しかし、このまま進めばどうなります?」
カガリの心に苦い思い出が蘇った。
破壊された市街地と、倒れ伏した物言わぬ人々の屍。
豊かで安全なはずの国土は傷めつけられ、人々の生活は蹂躙された。
自分が国に戻った時の人々の歓喜は、苦しみの反比例だと肝に銘じたのに…
「頑なに拒絶を続ければ再び国は焦土と化すでしょう」
ウナトは神妙な表情で呟いた。
「同盟で済めばまだその方がよいと、なぜお考えになれませぬ?」
(痛いところを突いて、今度はやんわりと懐柔しようという腹か)
カガリはむすっとしたまま黙り込んだが、やがて口を開いた。
「オーブをすぐにどうこうはしないと言ったな?」
「はい」
「その保証が一体どこにあるのだ?」
思いもかけない揚げ足に、ウナトは思わず口ごもった。
「確かに国は焼かれずに済むかもしれない。だが、連邦は必ずや拠出と出兵を求めてくるだろう。そうなればかつてウズミ・ナラ・アスハ代表が言われたように、相手が何であっても、相手に敵意を抱いていなくても、我らは戦うことになる」
カガリの瞳には強い光が宿っていた。ウズミの影が彼を支えた。
「それでいいのか、おまえたちは!?」
(この小僧…ウズミの七光りでその地位にいさせてやっているのに、生意気な口を利きおるわ!)
ウナトは腸が煮えくり返りそうだったが、平静を保ち続けた。
政治家としてどれだけの仮面を持っているか、本人すらわからない。
「私とて全てを保証する事はできませぬ!」
彼は苦しげな表情でいくつもある「胸のうち」を明かした。
「ただ…このまま意地を張り、無闇と敵を作り、あの大国を敵に回す方がどれだけ危険か、代表とておわかりにならぬはずはないでしょう?」
「だが…!」
「我々が2度としてはならぬ事!それはこの国を再び焼くことです」
ユウナが父を援護しようと口を挟んだ。
「同盟を結ぶ事、拒む事。どちらをとっても、代表が危惧されるように、完全ではないのです。ならば可能性が高いのはどちらかお考えください」
それを皮切りに、首長たちが詰め寄る。
「どうか国と国民の安全の事をお考えください」
「代表!」
代表という重過ぎる肩書きが、カガリを否応なく押し潰していった。
まとまらないまま紛糾する会議が一旦休憩に入ると、カガリは椅子に座り、ふーっと息を吐いた。
(会議がまとまらない一番の原因が俺かよ)
会議が終わっても誰も自分に声をかけないし、近づいてもこない。
(こんなもんだ、俺の存在なんて)
カガリはいつもの事と割り切っている。
しかしこういう時、近づいてきて欲しくない相手は近づいてくるものだ。
「カガリ!」
ユウナが満面の笑みを浮かべて彼の隣に座った。
「大丈夫?大分疲れてるみたいね」
「別に…」
「連日連夜会議ですものね。私だってお肌が荒れてしまうわ」
ユウナはくすくすと明るく笑った。
「さっきはごめんなさいね…でも、あそこできちんとあなたに意見を言うのが、私の役目でもあるのよ」
「ああ、わかってる、そんなことは。俺がまだまだ至らないだけだ」
議場を出る首長や書記官、補佐官をぼんやりと見ながらカガリは答えた。
「…こんなことでは、また首長たちに笑われてしまうな」
カガリは疲れなのか弱気なのか、つい本音を漏らしてしまった。
(どうせ皆、バカなガキが何を言っていると思ってるんだろう)
自虐的だとわかっていても、そんな事を思わずにはいられない。
「大丈夫よ、皆もわかっているわ」
するとユウナが優しい声で言った。
「今度のこの問題が大き過ぎるだけよ、あなたには。マシマも何も、ウズミ様を悪く言いたいわけじゃないわ。あなたがウズミ様と同じ事をなさるのではないかと心配しているのよ」
「わかってるよ」
カガリは顎の前で両手を組んだ。
「またあんな事になれば、一番苦しむのは結局、国民なんですもの」
(わかってるさ、そんな事…)
あの時、国を想って泣き伏した自分を抱き締めたキラの細い腕を思い出す。
そして憎しみに満ちた瞳で、怒りに満ちた声で、哀しい過去を叫んだシンを…
「さ、とにかく少し休んで。何か飲む?それとも軽く何か食べる?」
ユウナは明るい声で聞いたが、カガリは何もいらないと断った。
「可哀相に…一国を背負うなんて、あなたにはまだ、あまりにも重過ぎるわ」
ユウナは気の毒そうな顔をしながらら、彼の金色の髪を優しく撫でた。
「でも大丈夫よ。私がずっとそばにいてあげるから」
ユウナはそのままカガリの肩にもたれかかると、ふいに頬にキスをした。
「…よせ」
カガリは思わず逆の方向へ顔をそむけた。
むせ返るような彼女の香水に、軽い眩暈を感じながら。
「けど、しょうがないでしょ?」
その頃、ミネルバは進退をどうするか決めかねていた。
艦の動揺を防ぐため、攻撃開始から以降、封鎖していたブリッジをようやく解除し、タリアは話し合いも兼ねて副長を伴って食堂に向かった。
食堂では艦長と副長が入って来ると兵は皆立ち上がり、敬礼した。
タリアは手を挙げて彼らに「そのまま」と合図し、アーサーと共に席に着く。
「こっちは物資の積み込みもまだ終わってないんだし」
「ですから、もうそんなことを言っていられる場合では…」
一刻も早くカーペンタリアに入りたいと思っているアーサーに対し、タリアは補給も整備も終わっていない艦で出航する事を渋っている。
地球にいる以上、同胞たちと共にいたいと思うのは当然の事だろう。
タリアはその気持ちを汲みつつも、出航を急げない別の理由を示した。
「カーペンタリアへの攻撃隊も、包囲したまま動けないみたいじゃない」
ロゴスたちがジブリールを責めたように、核攻撃の無様な失敗により、地球軍はカーペンタリアを攻めあぐね、周辺に待機したままだった。
「今そんなところにザフトの新鋭艦がのこのこ行ってごらんなさい」
タリアはスープを口に運び、香ばしいパンをちぎりながら言った。
「変な刺激になりかねないわ。火種になりたいの、あなた?」
その言葉に、「そんなぁ」とアーサーは目を丸くして頭を振った。
タリアはもう少し様子を見ようと彼を説得した。
「オーブはまだ敵陣営となったわけじゃないんだし」
「はぁ…まだ、ですかねぇ…」
「でしょうね。いつまでかは知らないけれど」
アーサーははぁ、とため息をついた。
「ニュートロン・スタンピーダー?何よ、それ」
「よくわからないけど、電磁波を出す装置みたいだよ」
食堂に艦長たちがいるので声をひそめながら、メイリンは情報を披露した。
「それに、本隊は降下作戦も開始するみたいだ」
「攻撃はするけど、あくまでも防衛だから『積極的』ってわけ?」
ルナマリアは形のいい眉をひそめた。
「わかんないわね、議長の考える事は」
「とりあえず、機体の整備はちゃんとしておけよ」
シンはルナマリアが楽しみにしているフルーツに手を伸ばしながら言った。
「こうなると、カーペンタリアまで戦闘なしって事はないだろ、多分」
「大気圏内戦闘かぁ。苦手なのよね…ちょっと、シン!なんで私の取るのよ」
ついでのように怒る様子が可笑しくて、シンはからかうように言った。
「デブリ戦も射撃も大気圏内戦闘も、ルナは何だって苦手だろ」
「失礼ね。そんな事ないもん!」
いつものようにむきになって言い返す姉を見て、メイリンはくすくす笑った。
「しかしなんともふるった言い回しですな、『積極的自衛権の行使』とは」
「そう言ってくれるな。政治上の言葉だ、仕方ない」
司令が苦笑すると、国防委員長のタカオ・シュライバーが答えた。
ジブラルタル、カーペンタリアを、包囲している地球軍から解放するため、ザフトは得意の降下作戦を行う手筈になっていた。
プラントとて、もう先の大戦のような事態を望むわけではない。
「落としどころが必要なのだ、国民の感情を納得させるだけのな」
お互いにある程度納得する戦果を得たら、その後は外交と交渉でケリをつける。
シュライバーは大した事ではないといわんばかりだ。
「もうあんな事にはなりはせんよ」
「だといいんですがね」
司令官は制帽を整えながら答えた。
「やっぱりそうだよなぁ、プラントとしちゃ」
ラクスからターミナルとの通信の手ほどきを受けているバルトフェルドが、ザフトの降下作戦の情報を傍受して言った。
規模から言えば、カーペンタリア基地での戦闘が先になるだろう。
となると、連邦はさらに強硬にオーブに同盟を迫ってくるに違いない。
昔も今も対カーペンタリアの橋頭堡となりうるオーブは彼らには魅力的だ。
「カガリくんも苦しいところだろうね」
「連中の事だ。同盟を断ればまた敵性国家と見なすと脅すだろうしな」
(今は結ばざるを得ないだろう…恐らくカガリくんに止める力はない)
大切な友の力不足には胸が痛んだが、ラクスの政治判断は黒だった。
「ところでマリューさん。ミネルバはどうするんです?」
「そうね…できるだけ早く出航させたいんだけど…」
ラクスの言葉に、マリューは神妙な顔で呟いた。
事態は刻一刻と悪くなり、オーブですら彼らにとっては安全ではない。
「降下作戦が始まる時刻がリミットだろう。こちらからコンタクトしてみるさ」
「いずれ、彼らとも戦う事になるかもしれないのに?」
ラクスがくすっと笑うと、2人ともぎょっとしたように顔を見合わせた。
「おいおい。そんなおっかない事、冗談でも言わんでくれよ」
マリューもまた、聡明で気の強そうなタリアを思い浮かべて苦笑した。
チャイムが鳴り、アスランはホテルの部屋の扉を開けた。
途端に見知った顔がズカズカと入ってきて押しやられる。
「…イザーク?」
彼はひとしきりじろじろと部屋を見回し、それから突然「きさまっ!」と詰め寄ってきたので、アスランもつい身構えてしまう。
「あなた、なんで…どうしたの?」
「一体これはどういう事だ!」
「はぁ?ちょっと待って、何?」
勝手に怒っているイザークを見てもわけがわからない。
アスランは少し前から外出を禁止されてこの部屋に缶詰になっていた。
一時的に港が封鎖され、各国の外交関係者の外出が監視されているためだ。
「何だっていうの?いきなり…」
「それはこっちのセリフだ、アスラン!」
アスランの困った顔を見て少し落ち着いたイザークは言う。
「俺たちは今無茶苦茶忙しいってのに、評議会に呼び出されて…何かと思って来てみれば、きさまの護衛監視だと!!」
「え?」
苛立ちが収まらないようで、イザークはまた声を荒げた。
「何でこの俺がそんな仕事のために前線から呼び戻されなきゃならん!」
「…護衛監視?」
そこに、コンコンとノックが聞こえたのでアスランは再び振り返った。
「イザーク、仮にも淑女の部屋にズカズカ押し入るなよ」
そう言いながらズカズカと入ってきたのはディアッカだった。
「外出を希望してんだろ?おまえ」
「何が淑女よ」
アスランが抗議するとディアッカは笑いながら片手を上げた。
「おひさし。けどまあこんな時期だから、いくら友好国の人間でも、勝手にプラント内をウロウロは出来ないんだろ」
「それは聞いてるわ。誰か同行者がつくって。でもそれが…あなた?」
アスランが気まずそうにこの「護衛監視者」を見た。
「そうだ!」
言い放ってイザークはふんっと顔を背けた。
それを見てディアッカは「思春期のガキじゃあるまいし」と笑ってしまう。
(車の中では饒舌だったのに、本人を前にするとこれだもんなぁ)
やがてディアッカが二人をエレベーターへと促した。
「ま、事情を知ってる誰かが仕組んだってことだよな」
アスランはデュランダル議長だと直感したが、何も言わなかった。
「それで?どこ行きたいんだよ?」
「これで買い物とか言ったら、俺は許さんからな!」
それを聞いたディアッカがボタンを押しながらへらへらと笑う。
「なんで?いいじゃんか、デートみたいで」
「デッ…!?」
ディアッカが茶化すとイザークが思わず赤くなったが、アスランはしごく真面目に「そんなんじゃないわ」と断った。
「ただ、ちょっと…ニコルたちのお墓に…」
それを聞いて、2人ともようやく合点がいったという顔をした。
「あまり来られないから…プラントには」
イザークはそれでもなお、「墓参りなら墓参りと伝えておけ」と怒った。
後部座席でふんぞり返ったイザークは放っておいて、アスランとディアッカは「キラは?」「カガリは?」と互いの近況報告をしあった。
ことに2人と因縁浅からぬ「彼女」についてはアスランも気になっている。
「ちゃんと連絡取ってるの?」
「取ってるよ。全っ然、返事返ってこねーけど」
ハンドルを握るディアッカが答えた。
最後に会った時に大喧嘩して以来、いくらメールを送っても返事はないし、通信も一切繋がらないので、実は今、彼女がどこにいるのかすらわからない。
「それは取っているとは言わん。フラれたんだ、おまえは」
知らん顔をしながらも2人の話を聞いてはいたらしいイザークが口を挟んだ。
「ひでぇなぁ」
そう言って大笑いするディアッカを見て心配するアスランは、自分自身がかつて任務で出かけるたびに、婚約者だったラクスにメールも通信もした事がないことなどけろっと忘れていた。
墓地に着くと、アスランは花を買った。
それは奇しくも、ニコルがマイウス市でサロンコンサートを開いた時にアスランが持っていった花だった。
3人は広い墓地を歩き、ニコルの墓に花を手向けて敬礼した。
少し離れたところにミゲルやラスティなど、同じ隊にいた兵も眠っている。
とはいえ、墓標の下に彼らの骸はない。
「積極的自衛権の行使…やはり、ザフトも動くのね」
アスランはプラントが取る方針を聞いて考えこんだ。
「仕方なかろう。核まで撃たれて、それで何もしないというわけにはいかん」
「第一派攻撃の時も迎撃に出たけどな、俺たちは」
ディアッカが肩をすくめて言った。
「奴ら、間違いなくあれでプラントを壊滅させる気だったと思うぜ」
(あのテロを口実に、そこまで…)
アスランの心に、「父のせいで」という想いが再び忍び寄る。
今は何と戦うべきなのか、イザークもディアッカもちゃんとわかっているのに…
(自分は、未だにそれを見つけられずにいる)
「オーブは?どう動く」
イザークの言葉に、アスランが思わず顔を上げた。
「オーブは…」
このまま中立であると信じたかった。
けれど連邦から同盟を迫られ、条約を結ぶとしたらどうなるのだろう。
たった1人で苦悩を続けているだろうカガリを想うとちくりと胸が痛む。
「まだ…わからない」
イザークはそれを聞いてため息をついた。
「おまえは一体何をやっているんだ!?」
アスランはイザークの言葉にギクリとした。
―― シンと同じ事を言う…
私は何をやっているんだろう、本当に。
「…戻ってこい、アスラン…」
黙り込んだ彼女を見てイザークが呟くと、ディアッカも驚いて彼を見た。
イザークは女だてらに優れた能力を持ち、自分が追い続けたアスランが、このままオーブで何もせず腐っていくのを見ているのは忍びなかった。
(大体、あの若い代表はこいつの能力を生かしきれてないじゃないか!)
再会した時からアスランの薬指に光る指輪にも気づいていた。
忌々しい輝きが彼女を縛りつけているように思えて、イザークは顔を背けた。
「事情は色々あるだろうが…俺が何とかしてやる。だからプラントへ戻ってこい」
「…でも」
アスランは眼を伏せ、表情を曇らせた。
「こいつだって、本当ならとっくに死んだはずの身だ」
イザークは、軍事裁判所でカナーバ議長に堂々たる演説で助命嘆願したデュランダルの姿を忘れない。彼は大人たちの都合で始めた戦争で、道を誤ったからと若者を一様に処断することに強く異議を唱えた。
「辛い経験をした彼らにこそ、未来を託したい」
その結果、前例のない大赦が発令されたのだ。
デュランダルのその演説に感化され、多くの者が除隊はせず再入隊、または復隊したことは、もはやザフトの伝説と化している。
「だから俺は今も軍服を着ている。それしかできることはないが、それでも何かできるだろう。プラントや死んでいった仲間たちのために」
「イザーク…」
今のアスランには、イザークの一本筋が通った生き方は羨ましくもあった。
ディアッカもそんなイザークだからこそ支えているのだろう。
黙りこくったアスランを見て、イザークはぷいッと顔を背けた。
「だから…おまえも何かしろ」
(もう一度ザフトに戻って、俺の前を行ってみせろ)
地球の夕陽の中で、たった一度だけ交わした握手が思い出された。
「それほどの力、ただ無駄にする気か」
「はい…ええ、ではそのように…」
あと15分で会議が再開されるというところで、セイランの執務室ではウナトがモニターの相手と会話を交わし、ユウナがそれを見守っている。
ウナトは通信を切ると、ため息をついて娘を見上げた。
「もはや待ったなしですね」
「大丈夫か?」
「カガリはああ見えてもそれほどバカではありません、お父さま。まだ子供なだけ…大丈夫です。私がちゃんと説得しますから」
ユウナがふふ、と笑った。
「結婚のこともありますし、私には『切り札』もありますから」
「切り札?」
ウナトが首を傾げると、ユウナは「ええ」と微笑んだ。
「お飾りのくせに、いっぱしの為政者ぶるのはそろそろやめてもらわなきゃ」
ユウナがあまりにも楽しそうなので、ウナトは背筋が寒くなった。
彼はただ、娘をカガリと結婚させてアスハとの外戚関係をバックに権力強化を図るつもりだったのだが、ユウナは別の考えがあるらしい。
「ユウナ…おまえ、何を考えておるのだ?」
「何も」とユウナは笑った。まるで氷のような冷たい微笑だった。
ちょうどその頃、衛星軌道では降下シークエンスが最終フェイズに突入した。
「タイムリミットだ。始めるぞ」
バルトフェルドはマイクを持って語りかけた。
マリューとラクスは後ろに下がって推移を見守っている。
「ミネルバ、聞こえるか。もう猶予はない。ザフトは間もなくジブラルタルとカーペンタリアへの降下揚陸作戦を開始するだろう」
ミネルバではバートが、秘匿回線を使ったこの呼びかけを捉えた。
インカムを受け取ったタリアの耳に、聞きなれない男の声が流れ込んだ。
「…そうなればもうオーブもこのままではいまい。黒に挟まれた駒は、ひっくり返って黒になる。脱出しろ。そうなる前に」
(なんなの、これは?)
タリアはいつものように親指を噛みながらこの通信を聞いていたが、やがて意を決したように受話器を手に取った。
「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ」
通信機から聞こえてきた女艦長の怪訝そうな声に、マリューが微笑む。
「おお、これはこれは!声が聞けて嬉しいねえ。初めまして」
「あなたは?どういうことなの?この通信は」
「どうもこうも言ったとおりだ。のんびりしてると面倒なことになるぞ」
ようやく通じた通信に、バルトフェルドはノリノリだ。
「匿名の情報など正規軍が信じるはずないでしょう」
やや険のある声で答えたタリアは、そちらは何者かと問うた。
「ん~、アンドリュー・バルトフェルド…って奴を知ってるか?」
堂々と嘯く当のバルトフェルドに、マリューもラクスも思わず笑ってしまう。
「これはそいつからの伝言だ」
「砂漠の虎…?」
タリアは驚いて思わず受話器を耳から離して眺めた。
(なぜ彼が?どういうこと?)
「とにかく警告はした。降下作戦が始まれば大西洋連邦との同盟の締結は押し切られるだろう。アスハ代表も頑張ってはいるがな。留まることを選ぶならそれもいい。あとはきみの判断だ、艦長。幸運を祈る」
通信はそのまま一方的に切れ、ブリッジは静まり返った。
(降下作戦…連邦とオーブの同盟締結…出航ではなく、脱出ですって?)
「積極的自衛権の行使、などとは言ってはいますが、戦争は生き物です。放たれた火がどこまで広がってしまうかなど誰にもわかりません」
ウナトとユウナが、全ての首長を引き連れて代表の執務室を訪れた。
もはやカガリには議場での議論すらさせないつもりだった。
「だがオーブは…!」
カガリは自分の意見を握りつぶそうとする彼らを前に、最後の抵抗を試みたが、ユウナはきっぱりと言い放った。
「我らは、大西洋連邦との同盟条約を締結いたします!」
カガリはぐっと言葉に詰まる。
自分には彼らを説得できるだけの案を出せなかった事も事実だ。
「再び国を焼くという悲劇を繰り返さぬためにも」
ユウナは言い放ち、ついにオーブの幼き獅子は彼らの前に屈した。
タリアはバートに至急カーペンタリアとコンタクトを取るよう命じたが、電波状況が悪く、もはやレーザー通信すらできない状態だった。
「いいわ。命令なきままだけど、ミネルバ、明朝出港します」
各部署への指示を確認するアーサーが、不安そうに艦長を見た。
「悪かったわね、アーサー。あなたの意見が正しかったわ」
「艦長、そんなことは…」
「全艦に通達。出れば遠からず戦闘になるわ。気を引き締めるようにね」
「発進、定刻通り。各艦員は最終チェックを急いでください」
メイリンが全艦に連絡事項を伝える。
「砲術B班は第三兵装バンクへ。コンディションイエロー発令。パイロットはブリーフィングルームへ集合してください」
「降下作戦の開始は?」
シンが尋ねると、レイがボードをしまって首を振った。
「時刻は不明だが、発進が明日なら作戦もそう遠くはないのだろう」
「しっかし、これでオーブも敵側とはね…結構好きだったのになぁ、この国」
ルナマリアがあーあ、と言うように腕を伸ばして言った。
上陸が許可された日、シンに断られた腹いせに一人で街に出てみたら、結構イケてる男の子に声をかけられ、ちやほやされていい気分だった。
(そうよ、ちょっとその気になれば私だって…)
そんな能天気なことを考えて、はたと気づいた。
「…あ、ごめん…シンには辛いね」
「別に」
シンはいつもと変わらなかったが、次の瞬間、態度が豹変した。
ミネルバの廊下を兵に率いられたカガリ・ユラ・アスハが歩いてきたのだ。
「あ…」
「あ!」
2人は同時に声を挙げ、シンは勢いづいて前に出た。
「何しに来たんだ!?」
オーブが連合と同盟を結ぶと聞いても(やっぱりな)と思うだけで感情が揺れる事はなかったのに、アスハの姿を見た瞬間、自分でも思いもかけない怒りが沸いてきた事に、シンは内心少し驚いていた。
「あの時オーブを攻めた地球軍と、今度は同盟か!」
シンは拳を握り締めて彼ににじり寄り、護衛の兵たちに遮られた。
レイがシンの肩を掴んで止め、ルナマリアも心配そうに見ている。
「あの時は戦うと決めて俺たちを傷つけておいて、今度はヤツらと手を組んでプラントの敵に回るって言うのか!」
「シン…」
「本当に、どこまでいい加減で身勝手なんだ、あんたたちは!」
シンは吐き捨てるように言ってカガリからぶいと顔を背けた。
「シン…これはもう二度と国を焼かないためなんだ」
カガリはただ、苦しげな声でそう言うのが精一杯だった。
「俺たちを守れなかったくせに、今度はその理念も守れない」
シンは呆れたように鼻で笑った。
「これじゃ崇高な理念のために死んだ俺の家族は、浮かばれないよな」
カガリは、笑い声とは裏腹に自分を睨み続ける赤い瞳に息を呑む。
「敵に回るって言うんなら、今度は俺が滅ぼしてやる!」
その激しい言葉に、ルナマリアもレイも思わず顔を見合わせた。
カガリは風の強い埠頭で、小さくなっていくミネルバを見送っていた。
同盟を結ぶことで、プラントはオーブにとっても敵になってしまった。
(艦長は温かく迎えてくれたが、シンは…)
カガリはシンの赤い瞳を思い出した。
あいつとは、あんな風に別れたくなかった…
「くそっ!」
2年前、ここで同じようにキラとアークエンジェルを見送った時は、こんな想いをする日が来るなんて夢にも思わなかった。
こんなにも世界に拒絶され、無力感に苛まれる日々を送る事になるなんて…
(俺には何もできない…親父のように国を治めるんて、俺には…)
「仕方がないわ、カガリ。政治は理想じゃないもの。現実よ」
「…ユウナ?」
カガリは怪訝そうな顔を向けた。
「あなたはよく頑張ったわ…年若くして、突然代表にと請われて。国民も皆、あなたのことが大好きだもの。だからもう、楽におなりなさい」
ユウナは髪を掻きあげ、にっこりと微笑んだ。
「私がいるわ。これからは私があなたを支えます…妻として」
「えっ!?」
その言葉に仰天したカガリは思わず後退った。
「結婚式を急ぎましょう」
「なっ、何言ってるんだ、ユウナ!そんな事、俺は…」
「あなたの為にも、国民の為にも、それが一番いいのよ。そして新しく生まれ変わるのよ。私も、あなたも…オーブもね」
ユウナは両手を広げて、ゆっくりとカガリに近づいてくる。
カガリはさらに後ろに下がったが、背後は海だ。逃げられない。
(なんだよ、なんでそんな事になるんだ!?俺は…俺は…!)
アスランは意を決して受話器を取り、一呼吸置いた。
「…はい、デュランダル議長にアポイントを」
何ができるかはわからないが、この力が世界のために役立つなら、できる限りのことをしたい。心に、寂しげなキラの横顔が浮かぶ。
(自分にしかできない事を…自分にしか…)
それからアスランは、意を決したように薬指の指輪を外した。
―― ごめん、カガリ…
(今は外しておくわ。いつか、また会えるその時まで)
ロゴスの一人からの手痛い言葉に、ジブリールは歯噛みした。
「やりたいというから許可したのに、何たる体たらくだ」
「地球上のザフト軍の拠点攻撃へ向かった隊は、未だに待機命令のままなのだろ?」
ジブラルタル、カーペンタリアなどはもとより、ザフトが拠点を置くマハムールなどにも軍を差し向けているというのに、第一波の失敗で地球軍は動く事ができずにいる。
「全く、みっともないことだ」
「金ばかり食いおって成果がないとは」
ロゴスたちは皆、痛烈にジブリールを批判していた。
「戦いは続けますよ!」
ジブリールは不愉快極まりない口調で言った。
「以前のプランに戻し…いやそれよりもっと強化してね!」
「しかしだな、ジブリール…」
「いいえ!この戦争、ますます勝たねばならなくなったのですから!」
ジブリールは口角泡を飛ばした。
彼は巨大なモニターにザフトが使用したスタンピーダーのデータと、その起動によって核ミサイルや地球軍機が全て殲滅される映像を流した。
「あんなものを持つ化け物が宇宙にいて、一体どうして安心していられるというのです!」
核を一瞬にして消滅させたその威力もだが、何よりそんな兵器を簡単に作り上げるコーディネイターの叡智に、ロゴスたちもさすがに黙り込む。
しかし、もはやこうなっては彼らも地球軍も退く事もできはしない。
「仕方がない。きみたちがもう一度やるというのなら」
「次はきっちり仕留めてくれよ」
彼らはしぶしぶ、次の殺し合いゲームにベットし始めた。
その頃プラントでは、デュランダルが早急に立てよと命じた国防委員会が策定した防衛策が決議されようとしていた。
「プラント最高評議会は、議員全員の賛同により、国防委員会より提出された案件を了承する」
議長が議決を宣言し、評議会議員は拍手の後、ざわめいた。
「しかしこれはあくまで『積極的自衛権』の行使だということを、決して忘れないでいただきたい。感情を暴走させ、過度に戦火を拡大させてしまったら先の大戦の繰り返しです」
デュランダル議長は笑みをたたえながらもきっぱりと言った。
「今再び手に取るその銃が、今度こそ全ての戦いを終わらせる為のものとならんことを切に願います」
議長の言葉と共に議会は閉会し、そして全てが再び始まった。
「ダメだダメだダメだ!冗談ではない!」
オーブの議場ではカガリがバサッと約定が書かれた用紙を投げた。
「なんと言われようが、今こんな同盟を締結することなどできるか!」
あの一件を実際に見てきた自分だからこそ、話にもならない大義名分でプラントを討とうとした国との同盟など容認できるはずがない。
ウナトや他の首長は困惑顔で両手を前に出し、代表をなだめようとした。
「大西洋連邦が何をしたか…おまえたちだってその目で見ただろう?」
カガリは額に手を当ててふーっと息を吐くと続けた。
「一方的な宣戦布告、そして核攻撃だぞ?」
ユウナが不機嫌そうに眼を逸らした。
自分だけが真実を知ってるみたいな顔をして正義を振りかざす…
(全く…これだから子供はイヤよ)
カガリは続けた。
「そんな国との安全保障など!そもそも今、世界の安全を脅かしているのは当の大西洋連邦ではないか。なのになぜそれと手を取りあわねばならない!?」
カガリはドンと机を叩いた。
「絶対にダメだ!」
首長たちはざわざわとざわめいて、再びカガリに詰め寄った。
「しかし…ですが代表!」
「期限は迫っております。もはや一刻の猶予もない」
「お考えください、連邦を敵にまわせばどうなるか…」
カガリにもそんな事はわかっている。けれどここは譲れない。
(オーブは中立を守り、何人をも傷つけない国であらねばならない)
その時、すっくとユウナ・ロマ・セイランが立ち上がった。
「そのような子供じみた主張は、おやめいただきたいですわ」
「…ユウナ・ロマ」
カガリは自分を真っ直ぐに見つめるユウナの言葉に息を呑んだ。
「なぜ?と言われるのなら、お答えしましょう」
ユウナはハイヒールを鳴らしてカガリの元に近づいてきた。
「『そんな国』だからです、代表」
ユウナはカガリを舐めるように見てゆっくりと言った。
カガリはその奥まった瞳に爬虫類のような冷たさを感じて睨み返す。
「大西洋連邦のやり方は確かに強引でしょう。そのようなことは、失礼ながら今さら代表におっしゃっていただかなくとも、我らも充分承知しております」
「なんだと…?」
カガリも負けまいと身を乗り出した。
「しかし?だから?」
ユウナは手を広げた。
「ではオーブは今後はどうしていくと代表はおっしゃるのですか?」
カガリはねちっこいその言葉に黙り込んだ。
ユウナはここぞとばかりに責め立ててくる。
「この同盟をはねのけ、地球の国々とは手を取りあわず、つまり、遠く離れたプラントを友と呼び、この星の上でまた一国孤立しようとでも言うのですか?」
「違う」
「自国さえ平和で安全ながらそれで良いと?被災して苦しむ他の国々に、手すら差し伸べないとおっしゃるですか?」
「違う!」
カガリは心を落ち着かせようと一旦呼吸を整えてから言った。
「オーブが世界の国々から孤立するなどとは言っていない。怒りや憎しみに基づくような同盟など結べない、結ぶべきではないと言っているのだ!」
首長たちはそれを聞いてまたざわめき始める。
「そもそも他の中立国や、連邦に批判的な国々との十分な対話すらできていない今、即同盟などというのは間違いだと思わないのか?」
カガリは友好国であるスカンジナビアや、当事者のプラントとも未だに思ったような対話ができていないことを気に病んでいた。
「それに、被災国にはオーブも全面的に救援の手を差し伸べている。おまえたちこそよく考えろ。その事と同盟は全く別物ではないか!」
最初は右も左もわからない子供だったカガリを、か弱い子猫と侮り、追い詰め、攻め立てていくほどに、その牙も爪も強く逞しくなっていく。
この1年で見違えるほど大人びた彼を見て、ウナトはちっと舌打ちをした。
そして娘にチラリと視線を送る。
(早く片をつけてしまえ、ユウナ。このうるさい小僧を黙らせろ)
ユウナは父に軽く合図を返すと再びカガリを正面から見つめた。
「では、どうするとおっしゃるのです?」
ユウナもまた落ち着いて尋ねた。
その途端、カガリが言葉に詰まる。
「オーブは、ずっとそうであったように中立独自の道を…」
―― なるほど、あんたの意見はここまでなのね、坊や。
( ちょっとは男らしくなってきたかしらと思ったけど、まだまだね)
ユウナはマシマに視線を送った。彼はそれを見て頷くと口を開く。
「そしてまた国を焼くのですか?ウズミ様のように?」
突然出されたウズミの名に、カガリの血がカッと逆流した。
「そんなことは言っていない!!」
「しかし下手をすればこの状況、再びそんなことにもなりかねませんぞ」
ウナトが神妙な顔で言う。
「大西洋連邦は、条約を締結したからといって、すぐにオーブをどうしようと言っているわけではありません。しかし、このまま進めばどうなります?」
カガリの心に苦い思い出が蘇った。
破壊された市街地と、倒れ伏した物言わぬ人々の屍。
豊かで安全なはずの国土は傷めつけられ、人々の生活は蹂躙された。
自分が国に戻った時の人々の歓喜は、苦しみの反比例だと肝に銘じたのに…
「頑なに拒絶を続ければ再び国は焦土と化すでしょう」
ウナトは神妙な表情で呟いた。
「同盟で済めばまだその方がよいと、なぜお考えになれませぬ?」
(痛いところを突いて、今度はやんわりと懐柔しようという腹か)
カガリはむすっとしたまま黙り込んだが、やがて口を開いた。
「オーブをすぐにどうこうはしないと言ったな?」
「はい」
「その保証が一体どこにあるのだ?」
思いもかけない揚げ足に、ウナトは思わず口ごもった。
「確かに国は焼かれずに済むかもしれない。だが、連邦は必ずや拠出と出兵を求めてくるだろう。そうなればかつてウズミ・ナラ・アスハ代表が言われたように、相手が何であっても、相手に敵意を抱いていなくても、我らは戦うことになる」
カガリの瞳には強い光が宿っていた。ウズミの影が彼を支えた。
「それでいいのか、おまえたちは!?」
(この小僧…ウズミの七光りでその地位にいさせてやっているのに、生意気な口を利きおるわ!)
ウナトは腸が煮えくり返りそうだったが、平静を保ち続けた。
政治家としてどれだけの仮面を持っているか、本人すらわからない。
「私とて全てを保証する事はできませぬ!」
彼は苦しげな表情でいくつもある「胸のうち」を明かした。
「ただ…このまま意地を張り、無闇と敵を作り、あの大国を敵に回す方がどれだけ危険か、代表とておわかりにならぬはずはないでしょう?」
「だが…!」
「我々が2度としてはならぬ事!それはこの国を再び焼くことです」
ユウナが父を援護しようと口を挟んだ。
「同盟を結ぶ事、拒む事。どちらをとっても、代表が危惧されるように、完全ではないのです。ならば可能性が高いのはどちらかお考えください」
それを皮切りに、首長たちが詰め寄る。
「どうか国と国民の安全の事をお考えください」
「代表!」
代表という重過ぎる肩書きが、カガリを否応なく押し潰していった。
まとまらないまま紛糾する会議が一旦休憩に入ると、カガリは椅子に座り、ふーっと息を吐いた。
(会議がまとまらない一番の原因が俺かよ)
会議が終わっても誰も自分に声をかけないし、近づいてもこない。
(こんなもんだ、俺の存在なんて)
カガリはいつもの事と割り切っている。
しかしこういう時、近づいてきて欲しくない相手は近づいてくるものだ。
「カガリ!」
ユウナが満面の笑みを浮かべて彼の隣に座った。
「大丈夫?大分疲れてるみたいね」
「別に…」
「連日連夜会議ですものね。私だってお肌が荒れてしまうわ」
ユウナはくすくすと明るく笑った。
「さっきはごめんなさいね…でも、あそこできちんとあなたに意見を言うのが、私の役目でもあるのよ」
「ああ、わかってる、そんなことは。俺がまだまだ至らないだけだ」
議場を出る首長や書記官、補佐官をぼんやりと見ながらカガリは答えた。
「…こんなことでは、また首長たちに笑われてしまうな」
カガリは疲れなのか弱気なのか、つい本音を漏らしてしまった。
(どうせ皆、バカなガキが何を言っていると思ってるんだろう)
自虐的だとわかっていても、そんな事を思わずにはいられない。
「大丈夫よ、皆もわかっているわ」
するとユウナが優しい声で言った。
「今度のこの問題が大き過ぎるだけよ、あなたには。マシマも何も、ウズミ様を悪く言いたいわけじゃないわ。あなたがウズミ様と同じ事をなさるのではないかと心配しているのよ」
「わかってるよ」
カガリは顎の前で両手を組んだ。
「またあんな事になれば、一番苦しむのは結局、国民なんですもの」
(わかってるさ、そんな事…)
あの時、国を想って泣き伏した自分を抱き締めたキラの細い腕を思い出す。
そして憎しみに満ちた瞳で、怒りに満ちた声で、哀しい過去を叫んだシンを…
「さ、とにかく少し休んで。何か飲む?それとも軽く何か食べる?」
ユウナは明るい声で聞いたが、カガリは何もいらないと断った。
「可哀相に…一国を背負うなんて、あなたにはまだ、あまりにも重過ぎるわ」
ユウナは気の毒そうな顔をしながらら、彼の金色の髪を優しく撫でた。
「でも大丈夫よ。私がずっとそばにいてあげるから」
ユウナはそのままカガリの肩にもたれかかると、ふいに頬にキスをした。
「…よせ」
カガリは思わず逆の方向へ顔をそむけた。
むせ返るような彼女の香水に、軽い眩暈を感じながら。
「けど、しょうがないでしょ?」
その頃、ミネルバは進退をどうするか決めかねていた。
艦の動揺を防ぐため、攻撃開始から以降、封鎖していたブリッジをようやく解除し、タリアは話し合いも兼ねて副長を伴って食堂に向かった。
食堂では艦長と副長が入って来ると兵は皆立ち上がり、敬礼した。
タリアは手を挙げて彼らに「そのまま」と合図し、アーサーと共に席に着く。
「こっちは物資の積み込みもまだ終わってないんだし」
「ですから、もうそんなことを言っていられる場合では…」
一刻も早くカーペンタリアに入りたいと思っているアーサーに対し、タリアは補給も整備も終わっていない艦で出航する事を渋っている。
地球にいる以上、同胞たちと共にいたいと思うのは当然の事だろう。
タリアはその気持ちを汲みつつも、出航を急げない別の理由を示した。
「カーペンタリアへの攻撃隊も、包囲したまま動けないみたいじゃない」
ロゴスたちがジブリールを責めたように、核攻撃の無様な失敗により、地球軍はカーペンタリアを攻めあぐね、周辺に待機したままだった。
「今そんなところにザフトの新鋭艦がのこのこ行ってごらんなさい」
タリアはスープを口に運び、香ばしいパンをちぎりながら言った。
「変な刺激になりかねないわ。火種になりたいの、あなた?」
その言葉に、「そんなぁ」とアーサーは目を丸くして頭を振った。
タリアはもう少し様子を見ようと彼を説得した。
「オーブはまだ敵陣営となったわけじゃないんだし」
「はぁ…まだ、ですかねぇ…」
「でしょうね。いつまでかは知らないけれど」
アーサーははぁ、とため息をついた。
「ニュートロン・スタンピーダー?何よ、それ」
「よくわからないけど、電磁波を出す装置みたいだよ」
食堂に艦長たちがいるので声をひそめながら、メイリンは情報を披露した。
「それに、本隊は降下作戦も開始するみたいだ」
「攻撃はするけど、あくまでも防衛だから『積極的』ってわけ?」
ルナマリアは形のいい眉をひそめた。
「わかんないわね、議長の考える事は」
「とりあえず、機体の整備はちゃんとしておけよ」
シンはルナマリアが楽しみにしているフルーツに手を伸ばしながら言った。
「こうなると、カーペンタリアまで戦闘なしって事はないだろ、多分」
「大気圏内戦闘かぁ。苦手なのよね…ちょっと、シン!なんで私の取るのよ」
ついでのように怒る様子が可笑しくて、シンはからかうように言った。
「デブリ戦も射撃も大気圏内戦闘も、ルナは何だって苦手だろ」
「失礼ね。そんな事ないもん!」
いつものようにむきになって言い返す姉を見て、メイリンはくすくす笑った。
「しかしなんともふるった言い回しですな、『積極的自衛権の行使』とは」
「そう言ってくれるな。政治上の言葉だ、仕方ない」
司令が苦笑すると、国防委員長のタカオ・シュライバーが答えた。
ジブラルタル、カーペンタリアを、包囲している地球軍から解放するため、ザフトは得意の降下作戦を行う手筈になっていた。
プラントとて、もう先の大戦のような事態を望むわけではない。
「落としどころが必要なのだ、国民の感情を納得させるだけのな」
お互いにある程度納得する戦果を得たら、その後は外交と交渉でケリをつける。
シュライバーは大した事ではないといわんばかりだ。
「もうあんな事にはなりはせんよ」
「だといいんですがね」
司令官は制帽を整えながら答えた。
「やっぱりそうだよなぁ、プラントとしちゃ」
ラクスからターミナルとの通信の手ほどきを受けているバルトフェルドが、ザフトの降下作戦の情報を傍受して言った。
規模から言えば、カーペンタリア基地での戦闘が先になるだろう。
となると、連邦はさらに強硬にオーブに同盟を迫ってくるに違いない。
昔も今も対カーペンタリアの橋頭堡となりうるオーブは彼らには魅力的だ。
「カガリくんも苦しいところだろうね」
「連中の事だ。同盟を断ればまた敵性国家と見なすと脅すだろうしな」
(今は結ばざるを得ないだろう…恐らくカガリくんに止める力はない)
大切な友の力不足には胸が痛んだが、ラクスの政治判断は黒だった。
「ところでマリューさん。ミネルバはどうするんです?」
「そうね…できるだけ早く出航させたいんだけど…」
ラクスの言葉に、マリューは神妙な顔で呟いた。
事態は刻一刻と悪くなり、オーブですら彼らにとっては安全ではない。
「降下作戦が始まる時刻がリミットだろう。こちらからコンタクトしてみるさ」
「いずれ、彼らとも戦う事になるかもしれないのに?」
ラクスがくすっと笑うと、2人ともぎょっとしたように顔を見合わせた。
「おいおい。そんなおっかない事、冗談でも言わんでくれよ」
マリューもまた、聡明で気の強そうなタリアを思い浮かべて苦笑した。
チャイムが鳴り、アスランはホテルの部屋の扉を開けた。
途端に見知った顔がズカズカと入ってきて押しやられる。
「…イザーク?」
彼はひとしきりじろじろと部屋を見回し、それから突然「きさまっ!」と詰め寄ってきたので、アスランもつい身構えてしまう。
「あなた、なんで…どうしたの?」
「一体これはどういう事だ!」
「はぁ?ちょっと待って、何?」
勝手に怒っているイザークを見てもわけがわからない。
アスランは少し前から外出を禁止されてこの部屋に缶詰になっていた。
一時的に港が封鎖され、各国の外交関係者の外出が監視されているためだ。
「何だっていうの?いきなり…」
「それはこっちのセリフだ、アスラン!」
アスランの困った顔を見て少し落ち着いたイザークは言う。
「俺たちは今無茶苦茶忙しいってのに、評議会に呼び出されて…何かと思って来てみれば、きさまの護衛監視だと!!」
「え?」
苛立ちが収まらないようで、イザークはまた声を荒げた。
「何でこの俺がそんな仕事のために前線から呼び戻されなきゃならん!」
「…護衛監視?」
そこに、コンコンとノックが聞こえたのでアスランは再び振り返った。
「イザーク、仮にも淑女の部屋にズカズカ押し入るなよ」
そう言いながらズカズカと入ってきたのはディアッカだった。
「外出を希望してんだろ?おまえ」
「何が淑女よ」
アスランが抗議するとディアッカは笑いながら片手を上げた。
「おひさし。けどまあこんな時期だから、いくら友好国の人間でも、勝手にプラント内をウロウロは出来ないんだろ」
「それは聞いてるわ。誰か同行者がつくって。でもそれが…あなた?」
アスランが気まずそうにこの「護衛監視者」を見た。
「そうだ!」
言い放ってイザークはふんっと顔を背けた。
それを見てディアッカは「思春期のガキじゃあるまいし」と笑ってしまう。
(車の中では饒舌だったのに、本人を前にするとこれだもんなぁ)
やがてディアッカが二人をエレベーターへと促した。
「ま、事情を知ってる誰かが仕組んだってことだよな」
アスランはデュランダル議長だと直感したが、何も言わなかった。
「それで?どこ行きたいんだよ?」
「これで買い物とか言ったら、俺は許さんからな!」
それを聞いたディアッカがボタンを押しながらへらへらと笑う。
「なんで?いいじゃんか、デートみたいで」
「デッ…!?」
ディアッカが茶化すとイザークが思わず赤くなったが、アスランはしごく真面目に「そんなんじゃないわ」と断った。
「ただ、ちょっと…ニコルたちのお墓に…」
それを聞いて、2人ともようやく合点がいったという顔をした。
「あまり来られないから…プラントには」
イザークはそれでもなお、「墓参りなら墓参りと伝えておけ」と怒った。
後部座席でふんぞり返ったイザークは放っておいて、アスランとディアッカは「キラは?」「カガリは?」と互いの近況報告をしあった。
ことに2人と因縁浅からぬ「彼女」についてはアスランも気になっている。
「ちゃんと連絡取ってるの?」
「取ってるよ。全っ然、返事返ってこねーけど」
ハンドルを握るディアッカが答えた。
最後に会った時に大喧嘩して以来、いくらメールを送っても返事はないし、通信も一切繋がらないので、実は今、彼女がどこにいるのかすらわからない。
「それは取っているとは言わん。フラれたんだ、おまえは」
知らん顔をしながらも2人の話を聞いてはいたらしいイザークが口を挟んだ。
「ひでぇなぁ」
そう言って大笑いするディアッカを見て心配するアスランは、自分自身がかつて任務で出かけるたびに、婚約者だったラクスにメールも通信もした事がないことなどけろっと忘れていた。
墓地に着くと、アスランは花を買った。
それは奇しくも、ニコルがマイウス市でサロンコンサートを開いた時にアスランが持っていった花だった。
3人は広い墓地を歩き、ニコルの墓に花を手向けて敬礼した。
少し離れたところにミゲルやラスティなど、同じ隊にいた兵も眠っている。
とはいえ、墓標の下に彼らの骸はない。
「積極的自衛権の行使…やはり、ザフトも動くのね」
アスランはプラントが取る方針を聞いて考えこんだ。
「仕方なかろう。核まで撃たれて、それで何もしないというわけにはいかん」
「第一派攻撃の時も迎撃に出たけどな、俺たちは」
ディアッカが肩をすくめて言った。
「奴ら、間違いなくあれでプラントを壊滅させる気だったと思うぜ」
(あのテロを口実に、そこまで…)
アスランの心に、「父のせいで」という想いが再び忍び寄る。
今は何と戦うべきなのか、イザークもディアッカもちゃんとわかっているのに…
(自分は、未だにそれを見つけられずにいる)
「オーブは?どう動く」
イザークの言葉に、アスランが思わず顔を上げた。
「オーブは…」
このまま中立であると信じたかった。
けれど連邦から同盟を迫られ、条約を結ぶとしたらどうなるのだろう。
たった1人で苦悩を続けているだろうカガリを想うとちくりと胸が痛む。
「まだ…わからない」
イザークはそれを聞いてため息をついた。
「おまえは一体何をやっているんだ!?」
アスランはイザークの言葉にギクリとした。
―― シンと同じ事を言う…
私は何をやっているんだろう、本当に。
「…戻ってこい、アスラン…」
黙り込んだ彼女を見てイザークが呟くと、ディアッカも驚いて彼を見た。
イザークは女だてらに優れた能力を持ち、自分が追い続けたアスランが、このままオーブで何もせず腐っていくのを見ているのは忍びなかった。
(大体、あの若い代表はこいつの能力を生かしきれてないじゃないか!)
再会した時からアスランの薬指に光る指輪にも気づいていた。
忌々しい輝きが彼女を縛りつけているように思えて、イザークは顔を背けた。
「事情は色々あるだろうが…俺が何とかしてやる。だからプラントへ戻ってこい」
「…でも」
アスランは眼を伏せ、表情を曇らせた。
「こいつだって、本当ならとっくに死んだはずの身だ」
イザークは、軍事裁判所でカナーバ議長に堂々たる演説で助命嘆願したデュランダルの姿を忘れない。彼は大人たちの都合で始めた戦争で、道を誤ったからと若者を一様に処断することに強く異議を唱えた。
「辛い経験をした彼らにこそ、未来を託したい」
その結果、前例のない大赦が発令されたのだ。
デュランダルのその演説に感化され、多くの者が除隊はせず再入隊、または復隊したことは、もはやザフトの伝説と化している。
「だから俺は今も軍服を着ている。それしかできることはないが、それでも何かできるだろう。プラントや死んでいった仲間たちのために」
「イザーク…」
今のアスランには、イザークの一本筋が通った生き方は羨ましくもあった。
ディアッカもそんなイザークだからこそ支えているのだろう。
黙りこくったアスランを見て、イザークはぷいッと顔を背けた。
「だから…おまえも何かしろ」
(もう一度ザフトに戻って、俺の前を行ってみせろ)
地球の夕陽の中で、たった一度だけ交わした握手が思い出された。
「それほどの力、ただ無駄にする気か」
「はい…ええ、ではそのように…」
あと15分で会議が再開されるというところで、セイランの執務室ではウナトがモニターの相手と会話を交わし、ユウナがそれを見守っている。
ウナトは通信を切ると、ため息をついて娘を見上げた。
「もはや待ったなしですね」
「大丈夫か?」
「カガリはああ見えてもそれほどバカではありません、お父さま。まだ子供なだけ…大丈夫です。私がちゃんと説得しますから」
ユウナがふふ、と笑った。
「結婚のこともありますし、私には『切り札』もありますから」
「切り札?」
ウナトが首を傾げると、ユウナは「ええ」と微笑んだ。
「お飾りのくせに、いっぱしの為政者ぶるのはそろそろやめてもらわなきゃ」
ユウナがあまりにも楽しそうなので、ウナトは背筋が寒くなった。
彼はただ、娘をカガリと結婚させてアスハとの外戚関係をバックに権力強化を図るつもりだったのだが、ユウナは別の考えがあるらしい。
「ユウナ…おまえ、何を考えておるのだ?」
「何も」とユウナは笑った。まるで氷のような冷たい微笑だった。
ちょうどその頃、衛星軌道では降下シークエンスが最終フェイズに突入した。
「タイムリミットだ。始めるぞ」
バルトフェルドはマイクを持って語りかけた。
マリューとラクスは後ろに下がって推移を見守っている。
「ミネルバ、聞こえるか。もう猶予はない。ザフトは間もなくジブラルタルとカーペンタリアへの降下揚陸作戦を開始するだろう」
ミネルバではバートが、秘匿回線を使ったこの呼びかけを捉えた。
インカムを受け取ったタリアの耳に、聞きなれない男の声が流れ込んだ。
「…そうなればもうオーブもこのままではいまい。黒に挟まれた駒は、ひっくり返って黒になる。脱出しろ。そうなる前に」
(なんなの、これは?)
タリアはいつものように親指を噛みながらこの通信を聞いていたが、やがて意を決したように受話器を手に取った。
「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ」
通信機から聞こえてきた女艦長の怪訝そうな声に、マリューが微笑む。
「おお、これはこれは!声が聞けて嬉しいねえ。初めまして」
「あなたは?どういうことなの?この通信は」
「どうもこうも言ったとおりだ。のんびりしてると面倒なことになるぞ」
ようやく通じた通信に、バルトフェルドはノリノリだ。
「匿名の情報など正規軍が信じるはずないでしょう」
やや険のある声で答えたタリアは、そちらは何者かと問うた。
「ん~、アンドリュー・バルトフェルド…って奴を知ってるか?」
堂々と嘯く当のバルトフェルドに、マリューもラクスも思わず笑ってしまう。
「これはそいつからの伝言だ」
「砂漠の虎…?」
タリアは驚いて思わず受話器を耳から離して眺めた。
(なぜ彼が?どういうこと?)
「とにかく警告はした。降下作戦が始まれば大西洋連邦との同盟の締結は押し切られるだろう。アスハ代表も頑張ってはいるがな。留まることを選ぶならそれもいい。あとはきみの判断だ、艦長。幸運を祈る」
通信はそのまま一方的に切れ、ブリッジは静まり返った。
(降下作戦…連邦とオーブの同盟締結…出航ではなく、脱出ですって?)
「積極的自衛権の行使、などとは言ってはいますが、戦争は生き物です。放たれた火がどこまで広がってしまうかなど誰にもわかりません」
ウナトとユウナが、全ての首長を引き連れて代表の執務室を訪れた。
もはやカガリには議場での議論すらさせないつもりだった。
「だがオーブは…!」
カガリは自分の意見を握りつぶそうとする彼らを前に、最後の抵抗を試みたが、ユウナはきっぱりと言い放った。
「我らは、大西洋連邦との同盟条約を締結いたします!」
カガリはぐっと言葉に詰まる。
自分には彼らを説得できるだけの案を出せなかった事も事実だ。
「再び国を焼くという悲劇を繰り返さぬためにも」
ユウナは言い放ち、ついにオーブの幼き獅子は彼らの前に屈した。
タリアはバートに至急カーペンタリアとコンタクトを取るよう命じたが、電波状況が悪く、もはやレーザー通信すらできない状態だった。
「いいわ。命令なきままだけど、ミネルバ、明朝出港します」
各部署への指示を確認するアーサーが、不安そうに艦長を見た。
「悪かったわね、アーサー。あなたの意見が正しかったわ」
「艦長、そんなことは…」
「全艦に通達。出れば遠からず戦闘になるわ。気を引き締めるようにね」
「発進、定刻通り。各艦員は最終チェックを急いでください」
メイリンが全艦に連絡事項を伝える。
「砲術B班は第三兵装バンクへ。コンディションイエロー発令。パイロットはブリーフィングルームへ集合してください」
「降下作戦の開始は?」
シンが尋ねると、レイがボードをしまって首を振った。
「時刻は不明だが、発進が明日なら作戦もそう遠くはないのだろう」
「しっかし、これでオーブも敵側とはね…結構好きだったのになぁ、この国」
ルナマリアがあーあ、と言うように腕を伸ばして言った。
上陸が許可された日、シンに断られた腹いせに一人で街に出てみたら、結構イケてる男の子に声をかけられ、ちやほやされていい気分だった。
(そうよ、ちょっとその気になれば私だって…)
そんな能天気なことを考えて、はたと気づいた。
「…あ、ごめん…シンには辛いね」
「別に」
シンはいつもと変わらなかったが、次の瞬間、態度が豹変した。
ミネルバの廊下を兵に率いられたカガリ・ユラ・アスハが歩いてきたのだ。
「あ…」
「あ!」
2人は同時に声を挙げ、シンは勢いづいて前に出た。
「何しに来たんだ!?」
オーブが連合と同盟を結ぶと聞いても(やっぱりな)と思うだけで感情が揺れる事はなかったのに、アスハの姿を見た瞬間、自分でも思いもかけない怒りが沸いてきた事に、シンは内心少し驚いていた。
「あの時オーブを攻めた地球軍と、今度は同盟か!」
シンは拳を握り締めて彼ににじり寄り、護衛の兵たちに遮られた。
レイがシンの肩を掴んで止め、ルナマリアも心配そうに見ている。
「あの時は戦うと決めて俺たちを傷つけておいて、今度はヤツらと手を組んでプラントの敵に回るって言うのか!」
「シン…」
「本当に、どこまでいい加減で身勝手なんだ、あんたたちは!」
シンは吐き捨てるように言ってカガリからぶいと顔を背けた。
「シン…これはもう二度と国を焼かないためなんだ」
カガリはただ、苦しげな声でそう言うのが精一杯だった。
「俺たちを守れなかったくせに、今度はその理念も守れない」
シンは呆れたように鼻で笑った。
「これじゃ崇高な理念のために死んだ俺の家族は、浮かばれないよな」
カガリは、笑い声とは裏腹に自分を睨み続ける赤い瞳に息を呑む。
「敵に回るって言うんなら、今度は俺が滅ぼしてやる!」
その激しい言葉に、ルナマリアもレイも思わず顔を見合わせた。
カガリは風の強い埠頭で、小さくなっていくミネルバを見送っていた。
同盟を結ぶことで、プラントはオーブにとっても敵になってしまった。
(艦長は温かく迎えてくれたが、シンは…)
カガリはシンの赤い瞳を思い出した。
あいつとは、あんな風に別れたくなかった…
「くそっ!」
2年前、ここで同じようにキラとアークエンジェルを見送った時は、こんな想いをする日が来るなんて夢にも思わなかった。
こんなにも世界に拒絶され、無力感に苛まれる日々を送る事になるなんて…
(俺には何もできない…親父のように国を治めるんて、俺には…)
「仕方がないわ、カガリ。政治は理想じゃないもの。現実よ」
「…ユウナ?」
カガリは怪訝そうな顔を向けた。
「あなたはよく頑張ったわ…年若くして、突然代表にと請われて。国民も皆、あなたのことが大好きだもの。だからもう、楽におなりなさい」
ユウナは髪を掻きあげ、にっこりと微笑んだ。
「私がいるわ。これからは私があなたを支えます…妻として」
「えっ!?」
その言葉に仰天したカガリは思わず後退った。
「結婚式を急ぎましょう」
「なっ、何言ってるんだ、ユウナ!そんな事、俺は…」
「あなたの為にも、国民の為にも、それが一番いいのよ。そして新しく生まれ変わるのよ。私も、あなたも…オーブもね」
ユウナは両手を広げて、ゆっくりとカガリに近づいてくる。
カガリはさらに後ろに下がったが、背後は海だ。逃げられない。
(なんだよ、なんでそんな事になるんだ!?俺は…俺は…!)
アスランは意を決して受話器を取り、一呼吸置いた。
「…はい、デュランダル議長にアポイントを」
何ができるかはわからないが、この力が世界のために役立つなら、できる限りのことをしたい。心に、寂しげなキラの横顔が浮かぶ。
(自分にしかできない事を…自分にしか…)
それからアスランは、意を決したように薬指の指輪を外した。
―― ごめん、カガリ…
(今は外しておくわ。いつか、また会えるその時まで)
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制作裏話-PHASE11-
もはや苦行3部作ともいえる、ちんたら展開第三弾です。今回はオーブの執るべき道のために、首長会であーでもないこーでもないとちんたらちんたらやってます。
ただし実はこのPHASE11は、本編では2004年10月23日に起きた新潟中越地震の影響で、PHASE12と合わせてその年のクリスマスに1時間スペシャルとして放映されたんですね。
だから次のPHASE12の「シンちゃん無双」に助けられ、しかもイザークとディアッカが出てきたこともあって何となく「ちんたらしていた」という印象が散らされているのです。でもやっぱりちんたらしてます。
それにしても、このあたりのちんたらぶりが後々生きてくるならまだしも、後半はぎっちぎちになるわ話はどんどん破綻するわで、前半にやってきた事が一切何も生きないというトンデモ展開になるので、本当に無駄な苦行でしかありません。
そんな中でも、本編では全くと言っていいほど目立たなかったシンとカガリの第4ラウンドは力を入れました。セリフも随分増やして、シンの怒りを描写しています。逆転のカガリにはそれを受け止められるだけの器があるからです。
共に過去に捉われている2人ですが、後のガチンコ勝負時、カガリの方が先に抜け出すという設定もこの辺りでは既に決めていました。本編のヘタレたアスランには出来なかった事を、逆転のカガリにしっかり担ってもらうつもりでした。
これだけの強い因縁を作った彼らが、もう二度と互いに向きあって会話する事も会う事もなく物語を終えるなどありえないと思うのに(しかもカガリは後でシンの名前を聞いても、まるでそんな人知らないみたいに呆けてるだけなんですよね)、それをマジでやってしまうのが種クォリティ。ここまでいくと種の制作陣は反面教師としてどれほど優れているかがしみじみわかります。
さて、今回はそんなカガリにも頑張ってもらっています。
本編のカガリは何一つ言い返せないまま押し切られてしまいますが、逆転のカガリはバカではありません。ウナトのその場しのぎの言葉に対し、「今は平穏でも、やがてオーブの力を利用される」と一矢を報います。これはもちろん、後のダーダネルス、クレタでの激戦を示唆する伏線になっています。
何しろ逆転は「カガリを為政者として成長させる」のが目的の一つなのですから、ここではどん底に落ちてもらう必要があります。本編ではそのまま沈みっぱなしでしたが(そしてセリフすらなくなった後半は偉そうな顔でふんぞり返らせているだけで成長させたつもりらしい…)、逆転では思い通りの形でサルベージできたと思っています。
やや弱気になったところをユウナに擦り寄られてしまうのも、本編よりユウナのいやらしさが出ていていいと思います。ジブリールからのお達しは「アスハの小僧を丸め込み、オーブを自由に動かせ」というものですが、カガリを傀儡として利用しようとするウナトに比べ、カガリの妻として自分自身が権力を握ろうとするユウナの野心も見え始めています。
それにしても逆転のアスランとカガリは、お互い一途な割に他の人にキスされまくりハグされまくりですな…と、まるで他人事のようにつぶやいてみる。
一方アスランはイザークとディアッカと再会します。ディアッカとは逆種でも「仲間」となれるよう意識して描写してきたので、本編より砕けた関係になっています。彼らには友人たちの様子やミリアリアの事を話してもらいました。
イザークのアスランに対する複雑な心境は男同士なら別に普通でしょうが、男女逆転すると難しいですね。だって「帰って来い」「俺が何とかしてやる」は女性に言うセリフとしてはちょっとヤバいですよね。うん、ここらへんはかなり難しかったです。
「デート」と言われて動揺するシーンでは、相変わらず見かけによらない彼のウブさを表現してみました。反面、アスランの指にはまっている指輪に気づいており(ディアッカは気づいていない)、彼女の優れた力を生かしきれていないカガリへの怒りを沸き立たせます。
なお本編では「『俺も』こいつも死んでいた」と言っていたのですが、イザークの場合、本編中で最も重い罪となる民間人のシャトル撃破は自己申告になるので、このセリフはなんだかおかしいんじゃないかと思い、削りました。もし自己申告してイザークもディアッカ同様死罪だったとしても、赦されて赤服のままならともかく、ちゃっかり隊長やってるしなぁ。
バルトフェルドがミネルバを救うシーンは、本編でもちょっと唐突だったので(しかも相変わらず後々生かされない)、ここはラクスにも絡んでもらいました。彼にはカガリには同盟を止める力がないこと、ミネルバがやがて敵となることなどを予測してもらっています。
ちなみにキラがいないのは仕様です。忘れていたわけじゃありません。
食堂でのシンとルナマリアの様子は、姉を困らせるやんちゃな弟みたいで気に入っています。シンの目の前に座っている、本当の弟以上に弟っぽい雰囲気にしてみました。
この頃のシンは、ルナマリアへの好意はありますが恋愛感情は全くありません。ステラと出会い、オーブと戦い、アスランに裏切られ、成長する中で彼女の「本当の強さ」に惹かれていくのはもう少し後になります。
ラストでは、シンに罵倒され、何も言い返せなかったカガリに、更なるピンチが迫ります。ユウナが結婚を迫り、後ろは海で逃げ場がありません。しかも彼女はカガリを結婚に踏み切らせる「切り札」を持っていると言うのです。
しかも、カガリがそんなピンチに陥っているとは露知らないアスランは、ザフトへの復隊を勝手に決めてしまいます。そしてそれと同時に指輪を外してしまうのです。
彼らは一体どうなるのか?というヒキで終わらせて、次回は「キラ様無双」…のその前に、「シンちゃんのコガネムシ退治」です。頑張れ、主人公!
ただし実はこのPHASE11は、本編では2004年10月23日に起きた新潟中越地震の影響で、PHASE12と合わせてその年のクリスマスに1時間スペシャルとして放映されたんですね。
だから次のPHASE12の「シンちゃん無双」に助けられ、しかもイザークとディアッカが出てきたこともあって何となく「ちんたらしていた」という印象が散らされているのです。でもやっぱりちんたらしてます。
それにしても、このあたりのちんたらぶりが後々生きてくるならまだしも、後半はぎっちぎちになるわ話はどんどん破綻するわで、前半にやってきた事が一切何も生きないというトンデモ展開になるので、本当に無駄な苦行でしかありません。
そんな中でも、本編では全くと言っていいほど目立たなかったシンとカガリの第4ラウンドは力を入れました。セリフも随分増やして、シンの怒りを描写しています。逆転のカガリにはそれを受け止められるだけの器があるからです。
共に過去に捉われている2人ですが、後のガチンコ勝負時、カガリの方が先に抜け出すという設定もこの辺りでは既に決めていました。本編のヘタレたアスランには出来なかった事を、逆転のカガリにしっかり担ってもらうつもりでした。
これだけの強い因縁を作った彼らが、もう二度と互いに向きあって会話する事も会う事もなく物語を終えるなどありえないと思うのに(しかもカガリは後でシンの名前を聞いても、まるでそんな人知らないみたいに呆けてるだけなんですよね)、それをマジでやってしまうのが種クォリティ。ここまでいくと種の制作陣は反面教師としてどれほど優れているかがしみじみわかります。
さて、今回はそんなカガリにも頑張ってもらっています。
本編のカガリは何一つ言い返せないまま押し切られてしまいますが、逆転のカガリはバカではありません。ウナトのその場しのぎの言葉に対し、「今は平穏でも、やがてオーブの力を利用される」と一矢を報います。これはもちろん、後のダーダネルス、クレタでの激戦を示唆する伏線になっています。
何しろ逆転は「カガリを為政者として成長させる」のが目的の一つなのですから、ここではどん底に落ちてもらう必要があります。本編ではそのまま沈みっぱなしでしたが(そしてセリフすらなくなった後半は偉そうな顔でふんぞり返らせているだけで成長させたつもりらしい…)、逆転では思い通りの形でサルベージできたと思っています。
やや弱気になったところをユウナに擦り寄られてしまうのも、本編よりユウナのいやらしさが出ていていいと思います。ジブリールからのお達しは「アスハの小僧を丸め込み、オーブを自由に動かせ」というものですが、カガリを傀儡として利用しようとするウナトに比べ、カガリの妻として自分自身が権力を握ろうとするユウナの野心も見え始めています。
それにしても逆転のアスランとカガリは、お互い一途な割に他の人にキスされまくりハグされまくりですな…と、まるで他人事のようにつぶやいてみる。
一方アスランはイザークとディアッカと再会します。ディアッカとは逆種でも「仲間」となれるよう意識して描写してきたので、本編より砕けた関係になっています。彼らには友人たちの様子やミリアリアの事を話してもらいました。
イザークのアスランに対する複雑な心境は男同士なら別に普通でしょうが、男女逆転すると難しいですね。だって「帰って来い」「俺が何とかしてやる」は女性に言うセリフとしてはちょっとヤバいですよね。うん、ここらへんはかなり難しかったです。
「デート」と言われて動揺するシーンでは、相変わらず見かけによらない彼のウブさを表現してみました。反面、アスランの指にはまっている指輪に気づいており(ディアッカは気づいていない)、彼女の優れた力を生かしきれていないカガリへの怒りを沸き立たせます。
なお本編では「『俺も』こいつも死んでいた」と言っていたのですが、イザークの場合、本編中で最も重い罪となる民間人のシャトル撃破は自己申告になるので、このセリフはなんだかおかしいんじゃないかと思い、削りました。もし自己申告してイザークもディアッカ同様死罪だったとしても、赦されて赤服のままならともかく、ちゃっかり隊長やってるしなぁ。
バルトフェルドがミネルバを救うシーンは、本編でもちょっと唐突だったので(しかも相変わらず後々生かされない)、ここはラクスにも絡んでもらいました。彼にはカガリには同盟を止める力がないこと、ミネルバがやがて敵となることなどを予測してもらっています。
ちなみにキラがいないのは仕様です。忘れていたわけじゃありません。
食堂でのシンとルナマリアの様子は、姉を困らせるやんちゃな弟みたいで気に入っています。シンの目の前に座っている、本当の弟以上に弟っぽい雰囲気にしてみました。
この頃のシンは、ルナマリアへの好意はありますが恋愛感情は全くありません。ステラと出会い、オーブと戦い、アスランに裏切られ、成長する中で彼女の「本当の強さ」に惹かれていくのはもう少し後になります。
ラストでは、シンに罵倒され、何も言い返せなかったカガリに、更なるピンチが迫ります。ユウナが結婚を迫り、後ろは海で逃げ場がありません。しかも彼女はカガリを結婚に踏み切らせる「切り札」を持っていると言うのです。
しかも、カガリがそんなピンチに陥っているとは露知らないアスランは、ザフトへの復隊を勝手に決めてしまいます。そしてそれと同時に指輪を外してしまうのです。
彼らは一体どうなるのか?というヒキで終わらせて、次回は「キラ様無双」…のその前に、「シンちゃんのコガネムシ退治」です。頑張れ、主人公!
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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