機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「そろそろ僕も出発しなくちゃいけないね」
ラクスがダコスタに告げた。
「体調も戻ったし、オーブの条約締結も近い…面倒な事にならないうちに国外に出た方がいいと思う」
「次はどちらへ?」
「稼動を始めたターミナルへ。様子が見たい」
ははぁ…ダコスタがちょっと難しい顔をした。
「…となると、潜水艦…ですか?」
「きみならできるよ、ダコスタくん」
(人使いが荒い荒いと思いながら、こうして使われてる俺って…)
ため息をついたダコスタは、タブレットを取り出して操作を始めた。
(潜水艦ねぇ…とりあえずジャンク屋に相談してみるか)
ダコスタは、2、3日で戻りますとラクスとバルトフェルドに伝えた。
「くれぐれも変な騒ぎを起こさないでくださいよ、お2人とも」
大丈夫だよと2人に満面の笑顔で見送られ、ダコスタは出立した。
ラクスがダコスタに告げた。
「体調も戻ったし、オーブの条約締結も近い…面倒な事にならないうちに国外に出た方がいいと思う」
「次はどちらへ?」
「稼動を始めたターミナルへ。様子が見たい」
ははぁ…ダコスタがちょっと難しい顔をした。
「…となると、潜水艦…ですか?」
「きみならできるよ、ダコスタくん」
(人使いが荒い荒いと思いながら、こうして使われてる俺って…)
ため息をついたダコスタは、タブレットを取り出して操作を始めた。
(潜水艦ねぇ…とりあえずジャンク屋に相談してみるか)
ダコスタは、2、3日で戻りますとラクスとバルトフェルドに伝えた。
「くれぐれも変な騒ぎを起こさないでくださいよ、お2人とも」
大丈夫だよと2人に満面の笑顔で見送られ、ダコスタは出立した。
「レイ機、ルナマリア機、収容完了。インパルス、帰投しました」
ボロボロとはいえ、それ以上に被害の大きい地球軍艦隊の脇を抜け、ミネルバは自由の大海へと抜け出した。息を殺すようにしていたブリッジクルーたちが、その瞬間、わぁ!と歓声をあげた。
「もうこれ以上の追撃はないと考えたいところだけど、わからないわね。パイロットはとにかく休ませて」
タリアは言ったが、クルーたちは彼女の言葉など聞いていない。
唯一メイリンだけが「わかりました」と声を張り上げた。
(あれだけ気を張ってたんだもの、はしゃぐのを止めるのも可哀想ね)
タリアはクルーを見ながら微笑んだ。
ただし、マリクやバートやメイリンと連続ハイタッチしながら一番大はしゃぎしているアーサーにだけは釘を刺した。
「アーサー!あなたまで一緒になってどうするの!」
「は、はい!」
「艦の被害状況の把握、急いでね」
全く…そうは思いながらも、本当に皆よくやったわとタリアは息をつく。
「ダメージコントロール、各セクションは速やかに状況を報告せよ」
叱られてしゅんとしたものの、すぐ立ち直ったアーサーが告げた。
「でも、こうして切り抜けられたのは間違いなくシンのおかげね」
タリアは恐ろしいまでの力を見せつけたインパルスを思い出した。
「信じられませんよ!空母2隻を含む敵艦6隻ですからね!そんな数、僕は聞いたこともありません」
「確かにね…数機でかかったならともかく、たった1機で6隻とは…」
「シーンッ!」
その頃、ラダーで降りてきたシンに、ヴィーノが抱きついた。
人との身体的接触が苦手なシンは(うわっ!)と思ったが、嬉しさのあまり泣きそうな彼を突き飛ばすわけにもいかず、この「友情の抱擁」に耐えていた。
「すごいよ!ホントにありがとう、シン!」
やがて強面のエイブスたち整備兵たちもわらわらと寄ってきた。
「よくやったな!お疲れさん」
「大活躍だったんだって?」
ねぎらう彼らに、シンに抱きついたままヴィーノが得意そうに言う。
「シンは絶対大丈夫だって!そしたら、本当に大丈夫だったんですよ!」
シンは皆に褒められるたびに「いや…」と困ったように笑っていたが、やがて意を決したようにまだ自分にしがみついているヴィーノに言った。
「…あのな、おまえ、いい加減離れてくんない?」
「ああ、悪い」
ヴィーノはそれに気づいてすぐに離れかけたが、けれどすぐもう一度「本当にありがとう、シン!」と抱き締められ、シンはほとほと閉口した。
「もう、間違いなく勲章ものですよ」
ようやく興奮が収まったブリッジではアーサーがしみじみと言った。
「でもあれがインパルス…というか、あの子の力なのね」
タリアが感慨深げに言った。
「的確な判断、迅速な対応…どれをとっても本当にすばらしかったわ」
「そうですねぇ」
アーサーも感心し、メイリンも思わず頷いた。
「なぜレイではなく、シンにあの機体が預けられたのか、ずっと…ちょっと不思議だったけど。まさかここまでわかってたってことなのかしら、デュランダル議長は」
タリアは彼の腕の中で尋ねた時の事を思い出していた。
(シンにはシンの、レイにはレイの役割がある…あなた、そう言ったわね、ギルバート)
「議長はDNA解析の専門家でもいらっしゃいますから」
アーサーが腕を組みながら頷くと、伸びをしたバートがそれに答えた。
「私たちは元々そういう才能を遺伝子操作によって持って生まれてきたコーディネイターですけど、それ以上のものがあるんでしょうか?」
安定航行に入ったマリクも一息ついて振り返った。
「あんな最悪の状況を、まさか無事に突破できるとは、正直自分も思わなかったです。あいつ、すごいですよ、シン・アスカは」
本当にそうだと、ブリッジの誰もが心からシンを讃えていた。
(シン…きみはすごいよ、本当に)
メイリンは友を褒めるクルーの言葉を誇らしく聞いている。
「噂に聞くヤキン・ドゥーエのフリーダムだってここまでじゃないでしょう」
アーサーなど、ザフトに残る伝説まで出してまくし立てる。
「間違いなくシンは最強のエースですね。うん、あいつはすごい!」
「ふふ…カーペンタリアに入ったら、報告と共に叙勲の申請をしなくちゃならないわね。軍本部もさぞ驚くことでしょうけど」
タリアの言葉を聞いて、メイリンはぱっと顔をほころばせた。
「さぁ、仕事だ!気を抜くなよ!」
やがてマッド・エイブスが手を打ち鳴らして整備兵たちを散らすと、ヴィーノとヨウランが「また後でな!」と言い残して整備にかかる。
そこに今度はザクから降りてきたルナマリアとレイがやってきた。
ルナマリアは「やったね!」とシンに向けて親指を立てた。
「けどホント、どうしちゃったわけ?なんか急にスーパーエース級じゃない」
「うーん…」
「火事場の馬鹿力ってやつ?っていうか、1人で艦隊に突っ込んでった時は死ぬ気かと思ったわよ」
「…よくわからない、自分でも」
シンはヘルメットをポンと投げて受け止めた。
「オーブ艦が発砲したのを見て、頭来て…あのモビルアーマーに足を掴まれて、VPSダウンしてさ。でも、こんな事でやられてたまるかって思ったら、急に頭の中がクリアになったんだ」
「ブチ切れた…ってこと?」
ルナマリアが尋ねた。
「いや、そういうことじゃ…ないと思う」
シンは右手を開いて見つめた。
あの時は、自分でも驚くほど冷静だったのだ。
激情に駆られた感覚とは違う、熱いのに冷たく醒めている…不思議なほど静まり返った、どこまでもクリアな世界が蘇った。
(それに…)
シンは不思議そうに自分を見ているルナマリアを見つめ返した。
(おまえたち全員を絶対守りたいって思った。もう誰にも、俺の目の前で死んで欲しくないから…)
けれどシンはそれを口には出さなかった。守れたんだから、それでいいと思った。
この力があれば、俺は皆を守れる。守りたいと思うものを守れる。
シンは右手を握り締め、そしてよき相棒であるインパルスを仰ぎ見た。
「なんにせよ、おまえが艦を守った」
珍しく少し笑いながら、レイが口を開いた。
「生きているということは、それだけで価値がある。明日があるということだからだな」
ルナマリアが「相変わらず大袈裟ね」と笑い、シンも笑って手に持ったヘルメットをレイのヘルメットにこつんとぶつけた。
「オーブ議会は以上を決議しました。これを受け、政府は来週にも、世界安全保障条約機構に正式加盟する方針です」
オーブが条約を結ぶ旨のニュースが、繰り返し流れ始めていた。
人々は一瞬足を止めたが、自分たちが戦いに巻き込まれないのならそれでいいと通り過ぎた。
―― もうあんな怖い思いはしたくない…自分たちの身が守られればそれでいい…
眼を伏せ、耳を塞ぎ、オーブの民は皆自分を納得させた。本当はそれではいけないと何かが囁いたが、心を閉ざして閉じこもった。きっと、これでいいのだと。
(親父…あんたのあの強さは、一体何から得たものだったんだ?)
カガリは1人慰霊碑の前に立ち、風に吹かれていた。
父の言葉を思い出し、そしてその理念を守れなかった事を悔いながら。
(俺にはないよ、あんな強さも、力も…首長にはバカにされ、意見は握り潰され、今もまだお飾りの傀儡のままだ)
がむしゃらに頑張ってきたつもりだったが、努力はちっとも報われていないように思えた。
(しまいには国をおもちゃにしてるなんて言われてさ…)
カガリは草の上に腰を下ろすと天を仰ぎ見、そのままゆっくり後ろに倒れた、
(ああ、俺は今、正真正銘1人なんだ…)
物心がついて以来、誰かが傍にいない事などなかったのに、不思議な事に今、自分はたった一人なのだと実感できた。
父も、アサギやジュリやマユラも、キサカやマーナもいなくなった。そしてアスランも…カガリは考えまいとしていた名前を思い出した。
(…あいつ、連絡ひとつよこさない)
声くらい聞かせたっていいだろ…初夏の太陽が眩しかったのか、それとも別の理由だったのか、カガリは右腕で眼を覆った。
「相変わらずね、ここは」
その声に驚いて、カガリは思わずガバッと跳ね起きた。
「全く昔のまま。おじさまたちの墓も、もういい加減ちゃんとしないといけないわねぇ」
カガリは不機嫌そうな顔でユウナを見た。
「ここだと思った。でもだめじゃない。護衛の一人も連れずに歩き回っちゃ」
そして意地悪く、「あなたの大事な大事なアレックスはどうしたの?」と聞いた。
カガリはぷいっと顔を背けた。
「オーブ国内は安全とはいえ、今は情勢が情勢なのよ」
ユウナはカガリの背中についた草を甲斐甲斐しく払いながら言った。
「で、何の用だ?」
嫌々ながらユウナが乗ってきた車に乗りこみ、カガリは尋ねた。
「用があるから来たんだろ、わざわざ。だったら早く言えよ」
「あらあら…あなたはまずその言葉遣いをなんとかしないとね」
ユウナは肩をすくめて言った。
「国の父たらん立場のはずのあなたが、いつまでもそんなではやがて皆呆れるわよ?今はよくてもね」
カガリは頬杖をつき、窓の外を見たまま返事をしなかった。
「私はさっき、おじさまの碑に御報告と誓いを申し上げてきました」
「はぁ?」
「オーブもカガリも、私が命に代えても守りますって」
「あのな、ユウナ、それは…」
カガリはまた蒸し返された結婚話にうんざりして向き直った。
「何度も言ってるだろ?俺はおまえと婚約なんかしてないし、結婚する気もない」
しかしユウナはうふふと笑って指でカガリの唇を押さえた。
「大分慌ただしいけど、式は同盟条約締結と時を同じくしてという事になったわ。それに、スカンジナビアなどの友好国にはとっくに招待状を送ってしまったもの」
「なっ…!?」
カガリは全く話を聞かず、勝手なことを言うユウナに驚いて絶句した。
「バカ言うな!ウナトのヤツ、その話を知ってるのか?いや、他の首長は…!?」
カガリのうろたえぶりをまるで楽しむように、ユウナは続けた。
「最近の情勢には国民も皆動揺してるでしょう?我々首長は皆想いを同じくし、一丸となって国を守る意志を示す意味もあるし」
「そんな、それと俺が結婚することと一体何が…」
しかしその時、ユウナが指先に何枚かの紙切れを挟んで見せた。
「子供の時間は終わりよ、カガリ」
カガリはそれを見て言葉に詰まり、そしてもう一度ユウナを見た。
ユウナが手に持っていたそれは、数枚の写真だった。
写っているのはキラ、マリュー、バルトフェルド、そしてラクス。
さらに、もう一枚はかなり古い写真だが、先の大戦の終結後、オーブ沖を極秘裏に曳航されているアークエンジェルだ。
一体どうしてこんなものを…カガリは青ざめた顔で黙り込んだ。
「カガリ…あなた大変な人たちを匿っているみたいねぇ。特にこの…」
ユウナはラクスの写真を抜いて示した。
「プラントの悲劇の英雄ですって?行方不明になってると聞いてたのに、まさかオーブにいるなんてね…危ない連中に命を狙われてるんでしょ?」
ユウナは次々と写真を示してみせた。
「この女は元地球軍将校だし、こっちはザフトの…砂漠の虎?バカな渾名ね」
そしてキラの写真をひらつかせる。
「あなたのこの可愛い妹さんとやらも、元地球軍士官なんですってねぇ」
カガリは激しい鼓動を落ち着かせようとユウナを睨みつけた。
「それに…」
ユウナは忌々しそうに、隠し持っていたもう一枚の写真を見せた。
「…く」
カガリは唇を噛んだ。そこには赤服を着たアスランが映っていた。
「何がアレックス・ディノよ!ザフト軍兵士、アスラン・ザラ!プラント元最高評議会議長、パトリック・ザラの娘じゃないの!」
(迂闊だった…)
情報は慎重に管理していたが、本気で調べようと思えば簡単に調べられる。
彼女がこうした情報管理のエキスパートであるキサカを遠ざけた理由が今さらながらにはっきりとわかったが、既に全てが後の祭りだった。
「ザフトは脱走兵を全員無罪にしたけど、地球軍は赦していないわ」
ユウナは他の写真をバラバラとカガリの眼の前に落としながら言った。
「それにもっと問題なのは、この戦艦」
ユウナがアークエンジェルの写真を突きつけて畳み掛ける。
「どこにあるの?」
「…知らない。そんな…」
カガリは咄嗟にそう答えた。
アークエンジェルがオーブにあるのではないかという噂は根強いが、情報が錯綜しているがゆえに、逆にとぼけられるかもしれない。
「2年も前のことだぞ。もしかして…モルゲンレーテが解体を…」
「あら、そう?」
ユウナは素っ気無く言うと、もう一枚の写真を出した。
「じゃ、これは何?」
(くそっ!)
そこにはオノゴロの地下ドックで整備中のアークエンジェルが写っていた。
(ヤバいぞ、こいつ全部用意してやがる)
ユウナは困ったようにため息をついた。
「カガリ、あなたオーブを滅ぼすつもりなの?」
「…そんなわけが…」
「こんな危険な連中を匿って、しかも地球軍の脱走艦が今このオーブにある?」
カガリの言葉を遮り、ユウナは続けた。
「あなた、正気なの?」
カガリは写真から眼を逸らした。凛としたアスランの姿が心を刺した。
「俺は…あいつらを守りたくて…」
「なら、あなたは国より大事だって言うのね、彼らが」
「違う…!」
カガリは焦るあまり、早口でまくし立てた。
「頼む、あいつら…行き場がないんだ。俺が守ってやらないと…キラは俺の妹で…それに、ラクスたちには恩義がある。だから!」
「ダメよ、カガリ。言ったでしょう?今は情勢が情勢なの」
ユウナは首を振った。
「彼らのことは、私に一任してもらうわ」
「ユウナ…!」
カガリは初めて真っ直ぐ彼女に向き直った。彼女の黒々とした小さな瞳と、美しい琥珀色の瞳がぶつかる。やがてユウナの瞳が優しそうに、狡猾そうな微笑みに変わった。
「…でも安心して。このことはまだ誰にも言っていないから」
カガリは彼女のその言葉にドクンと心臓が鳴り、それからおずおずと提案してみた。
「ユウナ、その…この事は、もう少し…もう少しでいいから…」
「なぁに?黙っていて欲しいの?」
「ああ、そうだ。少しでいい。そうしたら俺がちゃんと…」
ユウナはそのカガリの言葉を手で遮った。
そしてにっこり笑うと、さっき言った言葉を繰り返した。
「首長は皆想いを同じくし、一丸となって国を守る。その意志を示す」
カガリは不安そうに彼女の次の言葉を待った。
「いいわよ、カガリ。黙っていてあげる」
ユウナはカガリの手を取ると、両手で包み込み、優しく撫でさすった。
カガリはゾクリと怖気だったが、それに耐えながら聞き返した。
「…本当か?」
「あら、私があなたを苦しませるわけないでしょう?」
ユウナは満面の笑みで続けた。
「だって、妻は夫を守るものですもの」
カガリは眼を見開き、言葉を失った。
アスハの家には、当主はしばらく戻らないとの連絡が入った。
車はそのまま豪奢なセイラン家に向かうと、カガリは屋敷の中で一番立派な部屋に通され、ゆっくりと休むよう告げられた。
ウナトは驚いてすぐにカガリに挨拶に行き、妻は大はしゃぎだ。
「あの小僧を一体どうやって納得させたのだ、ユウナ」
ウナトが不思議そうに尋ねてもユウナは答えず、楽しそうにふふっと笑った。
「ちょっと早くて可哀想な気もするけど…でも、あんな子供と結婚する私も可哀想だから、おあいこだわ」
ユウナはそう言うとダンスでも踊るようにくるりとターンした。
「さ、式の準備を整えてくださいな、お父さま。とびっきり豪華で、賑やかで、誰もが一生忘れられない式にするのです」
カガリはだだっ広い部屋の隅で椅子に座り、呆然としていた。何もしたくないし、何も考えたくもない。ただぼけっとしている。いっそのこと、このまま消えてしまえたらいいのにとも思う。
(…まぁいいさ)
カガリは皮肉をこめて笑おうとしたが、口元が思ったように動かない。
(バカな俺には、こんな惨めな運命がお似合いかもしれない)
「あなたも私もナチュラルなのよ。そしてオーブは大西洋連邦と同盟を結んだの」
屋敷までの車中、ユウナはひたすらアスランと自分の事を否定し続けた。
「どのみち無理な話よ…コーディネーターの彼女とは所詮生きる世界が違うんだもの。そもそも首長や国民が、あんな子を受け入れると思うの?」
カガリは黙りこくっている。
「それとも私と結婚せず、このコーディネイターを選ぶと国民に言う?」
ユウナがまたアスランの写真を見せ、ヒラヒラと動かした。
「だからまたプラントにつきたい、そして大西洋連邦は敵になると?」
「…もういいだろう…俺はおまえと結婚するって言ってるんだから…」
「国も責任も全て放りだして出て行く?アスハの名を持ちながら」
カガリはついに「しつこいぞ!」と怒鳴った。
「私に怒鳴ったって仕方ないわ。事実だもの」
ユウナはカガリの怒鳴り声などちっとも堪えていないように言った。
「でもね、彼女にしろ、あの妹とかにしろ、あなたの傍には置いておけないの。コーディネイターなんかね。カガリ・ユラ・アスハ…オーブ首長国連邦代表首長たる、今のあなたの立場のそばにはね」
やんわりした言葉の暴力が、カガリの心を痛めつけ続けた。
「勘違いしないでね、カガリ」
ユウナはそう囁きながら、アスランの写真をびりりと引き裂いた。
「私は別にコーディネーターが嫌いなわけじゃないのよ?」
カガリは粉々に破られていく彼女の写真から思わず眼を逸らした。
けれど気にもせず、ユウナは彼の耳元に口を寄せて呪いのように呟いた。
「あの娘が大っ嫌いなの…アレックス・ディノ…アスラン・ザラがね!」
「うーん、いい風だねぇ」
落ちかけた夕陽が、夏の香りを運んできた。
11月ともなれば、過ごしやすい気候のオーブもじきに暑くなる。
バルトフェルドはマリューにコーヒーを渡した。
「オーブの決定はな…残念だが仕方のないことだろうとも思うよ」
庭で遊ぶキラと子供たちを眺めながら、バルトフェルドは呟いた。
「ええ…カガリくんも頑張ったんだろうとは思いますけど」
マリューはつい2年前まではただのやんちゃ坊主だった彼を思い出して言った。
「代表といっても、まだ18だ。この情勢の中での政治は難しすぎる」
「それは…そうだけど…」
心根の優しいマリューの憂いを慮り、バルトフェルドは肩をすくめた。
「とはいえ、もうちょっとなんとかならなかったのか…と聞きたいがね」
そんな彼もまた、真っ直ぐ見つめるカガリの琥珀色の瞳を思い出していた。
(あんなにいい眼をしていたのに、最近は曇りがちだぞ、少年)
「きみらはともかく、俺たちは引っ越しの準備をした方がいいがもしれんな」
マリューは「プラントへ?」と尋ねた。そして寂しそうな表情を見せる。
「なぁに、きみも俺たちと来ればいいさ。デュランダル議長ってのは、わりとしっかりしたまともな人間らしいからな。今は仕方ないが、まさかバカげたナチュラル排斥なんて事はしないだろう」
「そうね」
マリューは笑った。
「どこかでただ平和に暮らせて、死んでいければ、一番幸せなのにね」
バルトフェルドは「そうだな」と言って、子供たちと楽しげに笑うキラを見た。
「あいつがあんな風に笑っていられるのが、一番なんだろうにな」
その夜は月のない闇夜で、皆、心地よい疲れの中で寝静まった。
しかし、真っ暗な海の中からザブザブと何かが上陸してくる。
彼らはひとしきり何か準備をし、やがてリーダーらしき男が全員を集めた。全部で10人おり、皆、武器を携帯している。
「彼の死の痕跡は決して現場に残すな。だが確実に仕留めるんだ」
おまえたちは待機しろと2人を残し、残る8人が屋敷に近づく。
「ヤツめ、こんなところにいたのか…」
「許さんぞ、ラクス・クライン!」
ヒソヒソと喋る連中に、リーダーがシッと言って黙らせた。
(これだから素人は…)
特殊部隊の隊長であるヨップはちっと舌打ちした。
(だがこの特殊任務は連中が「主犯」なのだから仕方がない)
残した部下と自分、共に来た2人はプロだ。
彼らを率いてラクス・クラインを暗殺し、最後には連中も始末して戻ること…それが彼らの任務だった。
「ザンネン!ザンネン!アカンデェー!」
突如、ハロがバタバタと屋敷の中を飛び回り始めた。
屋敷の外に仕掛けたセンサーに何かが反応したらしい。
キラとアスランが追われる身のラクスのためにと、新たにハロに搭載したセキュリティ機能が功を奏した。
軍人気質と言うべきか、バルトフェルドとマリューが真っ先に飛び出してきた。
もちろん銃を持っている。互いに軽い目配せだけで、マリューは北側、バルトフェルドは南側の窓から外を見た。
ビンゴはマリューの方だった。裏口や窓から侵入してくる人影を捉えて合図を送ると、バルトフェルドが素早く彼女の方へ移動してきた。
「どこの連中かな?ラクスと子供たちを頼む。シェルターへ」
「ええ」
マリューがラクスの部屋に向かうと、反対にパジャマ姿のキラが出てきた。
「どうしたんですか?」
「早く服を着ろ。嫌なお客さんだぞ。ラミアス艦長と共にラクスを」
キラは息を呑み、「はい!」と返事をすると引っ込み、急いで着替えた。
そして引き出しを開けて銃を見る。
(これ…持って行った方がいいのかな?)
「ラクスくん」
マリューがラクスに声をかけると、ラクスも既に目覚めていた。さすがに逃亡生活が長いだけのことはあり、着替えまで済んでいる。
「お客さまですね?」
「ええ、ちょっと面倒なね」
そう言うとマリューは子供たちを起こし、寝ぼけている彼らにシーッと指を立てた。
カリダを起こしてマルキオ導師のガイドを頼んだが、闇夜では盲人の彼の方がよほど歩くのが早かった。やがて、着替え終わったキラもマリューやラクスと合流した。
一方バルトフェルドは銃を構えたまま階下に下りていた。
裏口から侵入するならキッチンを通るはずだ。ドアの陰に隠れ、ギシッ…と床を踏む音が聞こえた瞬間、バルトフェルドは侵入者に襲い掛かった。
同じ頃、キラたちが階段を下りているさなか、窓に銃弾が撃ち込まれた。
「窓から離れて。シェルターへ急いで!」
マリューが応戦し、子供たちが音に驚いてわぁ、と叫ぶ。
キラは腕を広げて子供たちを押しながら走り出した。
「大丈夫だからね。さぁ、急いで!」
マリューは後ろに下がりながら発砲を続けていたが、廊下の隅から新手が出現し、キラたちと分断された。
「マリューさん!」
「早く!行きなさい!」
キラは階段を下りて庭に出ると、ラクスに「子供たちをお願い!」と頼み、屋敷に戻っていった。
マリューは逃げていくラクスを見つけて走り出した1人を蹴り上げ、転倒したところを撃ち殺していた。
かなりの重装備だが、体術はさほどでもないようだ。マリューがキラたちの後を追おうと振り返った瞬間、トリィがさっとマリューの前をかすめた。
「うわっ…!」
トリィは彼女を後ろから狙っていた相手の顔の前で羽ばたいて驚かせ、マリューはその隙にすかさず身をかがめて床を反転して後方の相手を射殺した。
「大丈夫ですか、マリューさん!」
その声に振り返ると、ガチガチになって銃を構えているキラがいた。
マリューはそれを見て息をつき、それからぷっと笑った。
「セーフティーが外れてないわよ」
「あぁ、また…」
キラは慌ててセーフティーを外し、はぁとため息をついた。
「私なんかより、トリィの方がよっぽど役に立ちますね」
「いいえ。戻ってきてくれてありがとう」
2人は銃を構えたまま様子を窺い、やがてラクスたちの後を追った。
バルトフェルドはキッチンで仕留めた侵入者の装備を調べたが、どこの者かはわからなかった。その死体の銃を失敬して廊下に出た途端、階段を探していたもう1人と鉢合わせしてしまった。
「うっ!」
「く…!」
相手はナイフを持っており、いきなり斬りかかってきた。
不意を突かれて左腕を切られ、バルトフェルドは大げさな声をあげた。
「…なーんてな!」
彼は刺さったナイフごと義手を投げ捨てると、仕込んであった銃を向けて発砲した。
「目標は子供と共にエリアEへ移動」
バルトフェルドは熱を持った銃を冷ましながら、死んだお客の持ち物である無線から聞こえてくる声を聞いていた。
「武器は持っていない。護衛は女一人だ。早く仕留めろ」
「ふーん…暗殺部隊にしては素人くさいが、玄人もいるような…」
バルトフェルドは彼らがターゲットを追って外に出ていき、屋敷内には誰もいないと確信してラクスたちの後を追った。
「バルトフェルドさん!」
カモフラージュされているシェルターの入り口付近で、キラが声をかけた。
「急げ!かなりの数だ」
少し手前の林に隠れて周囲を警戒していたマリューも合流すると全員が揃い、子供たちを先頭にしてシェルターに向かう。その時、追ってきた連中の1人が発砲し、弾丸がラクスを襲った。
「ラクス!」
キラがラクスに体当たりし、2人はごろごろと庭に倒れこんだ。
マリューとバルトフェルドが応戦しながら、「早く中へ!」と叫ぶ。
キラは素早く立ち上がってラクスを起こし、そのままシェルターに駆け込んだ。マリューとバルトフェルドが続き、重い扉を閉める。
「はぁ…」
マリューが扉を背にしてずるずると座り込むと、バルトフェルドがキラたちに「大丈夫か?」と尋ねた。
「大丈夫だよ。隊長こそ、腕がなくなってるよ」
「もともとだ!」
この非常時に、2人はそんな冗談を言い合って笑いあっている。
相変わらずのラクスのテンポに、キラはマリューと顔を見合わせた。
「あれはなんなの?コーディネーター?」
マリューが立ち上がっていぶかしんだ。
「ほとんど素人のようだが、戦闘慣れはしているようだ。テロリスト…かな?それと、悪い事にプロも混ざってるようだ」
「ザフトなの?」
マリューが顔をしかめると、ラクスが言った。
「ザフトがなぜ僕を?」
「悪さばっかりしてるからさ」
「また…」
マリューがバルトフェルドをつついた。
「どっちにしろ、コーディネーターの暗殺部隊ってことね。最低」
「もともと敵は多いが、こんな装備と組織だったのは初めてかもな」
子供たちは怯えて部屋の隅にかたまり、泣いている子も多い。
母は子供たちを抱き締めながら不安そうにキラを見つめている。
キラは泣いている子をなだめながら、(どうなるんだろう、これから)と考えた。
(引き揚げてくれればいいのだけれど)
「ええい!仕損じるとは!アッシュを出せ!」
素人にしてはできる連中だったが、所詮は訓練を受けた人間ではない。4人を殺され、ヨップは突入部隊を一旦退却させて海岸に戻った。入れ替わりに待機していた2人が、水陸両用モビルスーツUMF/SSO-3アッシュでシェルターへと向かう。ヨップは躍起になって叫んだ。
「何としても今ここでラクス・クラインの命、貰わねばならんのだ!」
2機のアッシュはまずは扉に集中砲火を浴びせかけた。すさまじい音で機関砲が扉を揺らす。
「モビルスーツ?」
足音を聞き、マリューが問う。
「おそらくな。何が何機いるかわからないが、火力のありったけで狙われたらここも長くはもたないぞ」
バルトフェルドがシェルターの構造を確認するように見上げた。子供たちは音と振動に怯え、恐怖に泣き叫んだ。
さすがに扉は頑丈に作られており、傷ひとつつかないと知るや、両者は二手に分かれて今度は左右の壁を攻撃し始めた。こちらはさすがに扉よりはもろいようで、外壁はすぐに剥がれ、構造体が姿を現した。そうこうしているうちに残るアッシュが追いつき、総勢6機ものモビルスーツがシェルターを取り囲んだ。
「シェルターの一点を集中して狙え。壁面を突破できればそれで終わる!」
部隊は機関砲に加えてビームやガトリングを壁の一点に向けて撃ち始めた。
天井からも壁からもぼろぼろと小さな瓦礫が落ちる。
「これはちょっとまずいぞ」
バルトフェルドがラクスを見た。
「ラクス、鍵は持っているな?」
「もちろん」
ラクスがハロを呼ぶと、テヤンデェと言いながらハロが飛んできた。
「扉を開ける。仕方なかろう」
バルトフェルドは言ったが、ラクスは落ち着いた声で答えた。
「でも隊長、決めるのはキラです」
それを聞いて皆がはっとキラを見る。
「ラクス…」
ラクスはキラを見てにこりと笑った。
「きみがいやならいいんだ。開ける必要はない」
バルトフェルドがキラの前に進み出た。
「今ここで、皆おとなしく死んでやった方がいいと思うか?」
キラは黙り込み、そしてラクスを、マリューを見た。
「キラ」
心配そうに娘を見るカリダに、キラはぎこちなく笑いかけた。
(大丈夫、母さん…私はもう大丈夫)
終戦後、何度も悪夢にうなされて飛び起きるキラを心配し、母が一晩中抱き締めてくれた事もあった。本島を離れられない父を残して、一緒にカグヤ島まで来てくれた。そんな母の不安そうな顔がキラに向けられる。
(だから安心して、母さん)
母のいないアスランとカガリにとっても、優しい母親を務めてくれるカリダには感謝で一杯だ。キラはきゅっと唇を結んだ。
(皆を守らなきゃ)
―― 大切な人たちを守るためなら、私は…
激しい攻撃に、ついに壁がみしみしと音をたて始めた。皆、固唾を呑んでキラの動向を見守っている。
やがてキラは立ち上がった。
「貸して」
キラはラクスに手を伸ばした。
「私が開けるから」
「いいんだね?キラ」
ラクスが尋ねた。
「うん」
壁にビシッとひびが入り、バラバラっと内装が剥がれる。
「このまま、皆のことすら守れず、そんなことになる方がずっと辛い」
キラは微笑みながら言った。
「今何を守りたいか、私はわかってるんだもの」
―― だから、鍵を貸して
ラクスはハロをパカッと割ると、中の鍵を手に取った。そして、それを渡す前にキラをそっと抱き締めた。
「ごめんね」
「ううん。いいんだよ、ラクス」
こうなる事は、もうずっと前からわかっていた気がした。
4人は狭い空間があるシェルターの地下に降りた。
「行くぞ!3、2、1!」
バルトフェルドが暗号コードを打ち込み、ラクスとキラが2本の鍵を同時に挿し込む。すると二重三重になっていた扉が開き、さらに深く掘り下げられた空間に、秘密のドックが隠されていた。そこにあったのは、ピカピカに磨き上げられ、整備の終わったZGMF-X10Aフリーダム。キラの相棒にして、伝説の白い翼だった。
「まさかこんなところにモビルスーツがあるとは思わんよなぁ」
ライトに照らされたフリーダムを見て、バルトフェルドが笑った。
さしものユウナもここまでは調べられなかったようだ。
キラは振り返ってにっこりと笑うと、「行ってきます」と告げた。
「よーし、行くぞ!」
やがて大きな音を立てて壁が崩壊した。
反対側に子供たちを集め、息を潜めていたマリューは、見慣れぬ機体を見て、(やはり、ザフトのモビルスーツだわ)と直感した。
「目標を探せ。オルアとクラブリックは…」
ヨップが合図をし、瓦礫をかき分けて進もうとしたその時だった。
「ん?なんだあれは…」
オルアと呼ばれたパイロットが突然競りあがった奈落の熱源を感知した。
「まさか…モビルスーツ?」
フリーダムのアイカメラに光が戻り、ブラスターが激しい音を立てて2年分の埃を排気した。キラは関節、スラスター、センサーとチェックし、全てがかつてと変わりなく、心地よく整備されていることにいたく感動した。
(私はフリーダムに近づかないようにしていたのに…)
マリューやマードックが、暇を見ては丁寧にメンテナンスしてくれたのだ。
キラはすぅ、と息を吸い込んだ。
(さぁ行こう、フリーダム!私が大好きな人たちを、脅かす者から守るために!)
フリーダムはしゃがみこむと直上にジャンプして大空を舞った。
そのスピードを誰も追いきれないまま、フリーダムのルプスが、1人だけ素人が乗っているアッシュのショルダーアーマーを破壊した。小爆発を起こしてアッシュは前のめりに倒れ、キラはすかさず倒れたアッシュの足と腕をライフルで奪う。激しい爆煙が上がり、ヨップたちは何が起きたのかと破壊されたアッシュに近づいた。その瞬間、黒煙の中に真っ黒い影が現れ、近づいた1機のアッシュを蹴り飛ばして舞い上がった。
そして肩のバラエーナを展開し、燃え盛る炎が巨躯を映し出した。その姿を見た瞬間、パイロットたちは声をあげた。
「あれは、まさか…フリーダム!?」
ヨップが「ええええ!?」と叫び、慌ててライブラリに照合する。
(なんでこんなところにフリーダムが…あれはただの伝説だろう!?)
「ええい、撃て撃て!撃ち落せぇ!」
ヨップは叫び、アッシュ部隊は一斉に機関砲やミサイルを放ち始めた。
キラは砲をことごとくかわしながら飛ぶ。そして空中で回転しながらビームを撃って、正確にアッシュの肩部タンクや手足を破壊した。
「くっそぉ、なんだあいつは!」
「動けるのはあと3機…」
キラは集中してみた。
あの頃のような、澄んだような感覚が戻るのか試したのだ。心が大きく沈んでいく感覚があり、やがて急上昇していく。
(ああ、これだ…)
キラの視界が鮮やかに広がり、聴力が尖る。
(私は、また戦えるんだ…皆のために)
キラはサーベルを2本抜いた。
そして素早く近づくと、ビーム砲を構えたアッシュの両腕を切り落とす。
そしてすぐ傍にいるもう1機の足を横に薙いだ。そして上空に飛び上がるとまだ動ける者のタンクや残った手足をライフルで狙い、戦闘不能に追い込んだ。
「そんな馬鹿な!」
ヨップはわずか数分で5機がただの鉄屑に成り果てた現実に呆然とした。
「こっちも4人は特殊工作員だぞ!?それがフリーダム1機に」
悔しさと屈辱でギリギリと歯を食いしばった彼は、シフトを入れた。
「ぬぅおぉぉぉ!」
ヨップは海岸線まで下がり、上空のフリーダムにビームを放った。フリーダムはそれを華麗に避け、きりもみ状態で向かってくる。やがてサーベルが抜かれ、ヨップのアッシュに振り下ろされた。
「舐めるなぁ!」
「あ!?」
ヨップは見事にそれを見切り、紙一重でかわすとフリーダムのボディをクローで掴んだ。そのままフォノンメーザーを発射しようとしたのだが、キラはパワーを上げ、逆にアッシュを持ち上げて後ろに投げ飛ばした。いわゆるバックドロップである。ヨップは背中から落ちて転がった。
「おのれ!」
もはや怒りしかないヨップは立ち上がり、ランチャーや機関砲を撃とうと構えたが、それより早くフリーダムのライフルに破壊された。右腕、右足、右肩…タンクが爆発し、その衝撃によろめくと、キラはさらに左肩、左腕、左足と撃ち抜いていった。最後にボディだけになったアッシュがダルマのようにゴロンと転がり、フリーダムがライフルをおろす。
キラはほっと一息ついた。
長いブランクにしては、思ったよりはうまくやれたと思う。コックピットも機関も壊さず、致命傷は与えていないはずだ。
(でも何者なんだろう、この人たち…)
キラが彼らの正体を確かめようと近づいたその時だった。
「…っ!!」
アッシュが次々と激しい爆発を起こしたことにキラは驚き、また、シェルターから出てきたバルトフェルドもマリューも、動けなくなった機体が次々と爆発することに驚いていた。
(証拠隠滅!?)
燃え盛る機体を黙って見つめるマリューに、バルトフェルドが呟いた。
「ここまでやられると逆に『ザフトでござい』って証明してるようなもんだ」
その後、ラクスはバルトフェルドと共に屋敷に戻った。
彼らは転がっている死体を仰向けにし、顔を確認していく。その中に1人、ラクスがよく知っている顔があった。
「やれやれ。こいつか」
「彼らなら僕を殺したがる理由がある、ってことだね」
それはラクスを執拗に追い続けていた、過激派のリーダーだった。
「彼らを使って僕を消し、最後は自爆で証拠を消すという作戦かな?」
「となると、なかなか奥が深そうだな、こりゃ」
ラクスとバルトフェルドは屋敷を出ると、戻ってきたフリーダムを見ながら言った。
「隊長。ダコスタくんを宇宙へ上げよう」
「いいね。ヤツも海の底よりは嬉しいだろうよ」
シェルターを出たマリューも、風で舞う髪を手でまとめながら振り返った。
(結局、私たちに平和に暮らせて、死んでいける場所なんかないのかしらね…)
マリューは哀しそうに微笑み、ハッチを開いて手を振るキラを迎えた。
(本当に…まだ何が欲しいっていうのかしら、私たちは)
ボロボロとはいえ、それ以上に被害の大きい地球軍艦隊の脇を抜け、ミネルバは自由の大海へと抜け出した。息を殺すようにしていたブリッジクルーたちが、その瞬間、わぁ!と歓声をあげた。
「もうこれ以上の追撃はないと考えたいところだけど、わからないわね。パイロットはとにかく休ませて」
タリアは言ったが、クルーたちは彼女の言葉など聞いていない。
唯一メイリンだけが「わかりました」と声を張り上げた。
(あれだけ気を張ってたんだもの、はしゃぐのを止めるのも可哀想ね)
タリアはクルーを見ながら微笑んだ。
ただし、マリクやバートやメイリンと連続ハイタッチしながら一番大はしゃぎしているアーサーにだけは釘を刺した。
「アーサー!あなたまで一緒になってどうするの!」
「は、はい!」
「艦の被害状況の把握、急いでね」
全く…そうは思いながらも、本当に皆よくやったわとタリアは息をつく。
「ダメージコントロール、各セクションは速やかに状況を報告せよ」
叱られてしゅんとしたものの、すぐ立ち直ったアーサーが告げた。
「でも、こうして切り抜けられたのは間違いなくシンのおかげね」
タリアは恐ろしいまでの力を見せつけたインパルスを思い出した。
「信じられませんよ!空母2隻を含む敵艦6隻ですからね!そんな数、僕は聞いたこともありません」
「確かにね…数機でかかったならともかく、たった1機で6隻とは…」
「シーンッ!」
その頃、ラダーで降りてきたシンに、ヴィーノが抱きついた。
人との身体的接触が苦手なシンは(うわっ!)と思ったが、嬉しさのあまり泣きそうな彼を突き飛ばすわけにもいかず、この「友情の抱擁」に耐えていた。
「すごいよ!ホントにありがとう、シン!」
やがて強面のエイブスたち整備兵たちもわらわらと寄ってきた。
「よくやったな!お疲れさん」
「大活躍だったんだって?」
ねぎらう彼らに、シンに抱きついたままヴィーノが得意そうに言う。
「シンは絶対大丈夫だって!そしたら、本当に大丈夫だったんですよ!」
シンは皆に褒められるたびに「いや…」と困ったように笑っていたが、やがて意を決したようにまだ自分にしがみついているヴィーノに言った。
「…あのな、おまえ、いい加減離れてくんない?」
「ああ、悪い」
ヴィーノはそれに気づいてすぐに離れかけたが、けれどすぐもう一度「本当にありがとう、シン!」と抱き締められ、シンはほとほと閉口した。
「もう、間違いなく勲章ものですよ」
ようやく興奮が収まったブリッジではアーサーがしみじみと言った。
「でもあれがインパルス…というか、あの子の力なのね」
タリアが感慨深げに言った。
「的確な判断、迅速な対応…どれをとっても本当にすばらしかったわ」
「そうですねぇ」
アーサーも感心し、メイリンも思わず頷いた。
「なぜレイではなく、シンにあの機体が預けられたのか、ずっと…ちょっと不思議だったけど。まさかここまでわかってたってことなのかしら、デュランダル議長は」
タリアは彼の腕の中で尋ねた時の事を思い出していた。
(シンにはシンの、レイにはレイの役割がある…あなた、そう言ったわね、ギルバート)
「議長はDNA解析の専門家でもいらっしゃいますから」
アーサーが腕を組みながら頷くと、伸びをしたバートがそれに答えた。
「私たちは元々そういう才能を遺伝子操作によって持って生まれてきたコーディネイターですけど、それ以上のものがあるんでしょうか?」
安定航行に入ったマリクも一息ついて振り返った。
「あんな最悪の状況を、まさか無事に突破できるとは、正直自分も思わなかったです。あいつ、すごいですよ、シン・アスカは」
本当にそうだと、ブリッジの誰もが心からシンを讃えていた。
(シン…きみはすごいよ、本当に)
メイリンは友を褒めるクルーの言葉を誇らしく聞いている。
「噂に聞くヤキン・ドゥーエのフリーダムだってここまでじゃないでしょう」
アーサーなど、ザフトに残る伝説まで出してまくし立てる。
「間違いなくシンは最強のエースですね。うん、あいつはすごい!」
「ふふ…カーペンタリアに入ったら、報告と共に叙勲の申請をしなくちゃならないわね。軍本部もさぞ驚くことでしょうけど」
タリアの言葉を聞いて、メイリンはぱっと顔をほころばせた。
「さぁ、仕事だ!気を抜くなよ!」
やがてマッド・エイブスが手を打ち鳴らして整備兵たちを散らすと、ヴィーノとヨウランが「また後でな!」と言い残して整備にかかる。
そこに今度はザクから降りてきたルナマリアとレイがやってきた。
ルナマリアは「やったね!」とシンに向けて親指を立てた。
「けどホント、どうしちゃったわけ?なんか急にスーパーエース級じゃない」
「うーん…」
「火事場の馬鹿力ってやつ?っていうか、1人で艦隊に突っ込んでった時は死ぬ気かと思ったわよ」
「…よくわからない、自分でも」
シンはヘルメットをポンと投げて受け止めた。
「オーブ艦が発砲したのを見て、頭来て…あのモビルアーマーに足を掴まれて、VPSダウンしてさ。でも、こんな事でやられてたまるかって思ったら、急に頭の中がクリアになったんだ」
「ブチ切れた…ってこと?」
ルナマリアが尋ねた。
「いや、そういうことじゃ…ないと思う」
シンは右手を開いて見つめた。
あの時は、自分でも驚くほど冷静だったのだ。
激情に駆られた感覚とは違う、熱いのに冷たく醒めている…不思議なほど静まり返った、どこまでもクリアな世界が蘇った。
(それに…)
シンは不思議そうに自分を見ているルナマリアを見つめ返した。
(おまえたち全員を絶対守りたいって思った。もう誰にも、俺の目の前で死んで欲しくないから…)
けれどシンはそれを口には出さなかった。守れたんだから、それでいいと思った。
この力があれば、俺は皆を守れる。守りたいと思うものを守れる。
シンは右手を握り締め、そしてよき相棒であるインパルスを仰ぎ見た。
「なんにせよ、おまえが艦を守った」
珍しく少し笑いながら、レイが口を開いた。
「生きているということは、それだけで価値がある。明日があるということだからだな」
ルナマリアが「相変わらず大袈裟ね」と笑い、シンも笑って手に持ったヘルメットをレイのヘルメットにこつんとぶつけた。
「オーブ議会は以上を決議しました。これを受け、政府は来週にも、世界安全保障条約機構に正式加盟する方針です」
オーブが条約を結ぶ旨のニュースが、繰り返し流れ始めていた。
人々は一瞬足を止めたが、自分たちが戦いに巻き込まれないのならそれでいいと通り過ぎた。
―― もうあんな怖い思いはしたくない…自分たちの身が守られればそれでいい…
眼を伏せ、耳を塞ぎ、オーブの民は皆自分を納得させた。本当はそれではいけないと何かが囁いたが、心を閉ざして閉じこもった。きっと、これでいいのだと。
(親父…あんたのあの強さは、一体何から得たものだったんだ?)
カガリは1人慰霊碑の前に立ち、風に吹かれていた。
父の言葉を思い出し、そしてその理念を守れなかった事を悔いながら。
(俺にはないよ、あんな強さも、力も…首長にはバカにされ、意見は握り潰され、今もまだお飾りの傀儡のままだ)
がむしゃらに頑張ってきたつもりだったが、努力はちっとも報われていないように思えた。
(しまいには国をおもちゃにしてるなんて言われてさ…)
カガリは草の上に腰を下ろすと天を仰ぎ見、そのままゆっくり後ろに倒れた、
(ああ、俺は今、正真正銘1人なんだ…)
物心がついて以来、誰かが傍にいない事などなかったのに、不思議な事に今、自分はたった一人なのだと実感できた。
父も、アサギやジュリやマユラも、キサカやマーナもいなくなった。そしてアスランも…カガリは考えまいとしていた名前を思い出した。
(…あいつ、連絡ひとつよこさない)
声くらい聞かせたっていいだろ…初夏の太陽が眩しかったのか、それとも別の理由だったのか、カガリは右腕で眼を覆った。
「相変わらずね、ここは」
その声に驚いて、カガリは思わずガバッと跳ね起きた。
「全く昔のまま。おじさまたちの墓も、もういい加減ちゃんとしないといけないわねぇ」
カガリは不機嫌そうな顔でユウナを見た。
「ここだと思った。でもだめじゃない。護衛の一人も連れずに歩き回っちゃ」
そして意地悪く、「あなたの大事な大事なアレックスはどうしたの?」と聞いた。
カガリはぷいっと顔を背けた。
「オーブ国内は安全とはいえ、今は情勢が情勢なのよ」
ユウナはカガリの背中についた草を甲斐甲斐しく払いながら言った。
「で、何の用だ?」
嫌々ながらユウナが乗ってきた車に乗りこみ、カガリは尋ねた。
「用があるから来たんだろ、わざわざ。だったら早く言えよ」
「あらあら…あなたはまずその言葉遣いをなんとかしないとね」
ユウナは肩をすくめて言った。
「国の父たらん立場のはずのあなたが、いつまでもそんなではやがて皆呆れるわよ?今はよくてもね」
カガリは頬杖をつき、窓の外を見たまま返事をしなかった。
「私はさっき、おじさまの碑に御報告と誓いを申し上げてきました」
「はぁ?」
「オーブもカガリも、私が命に代えても守りますって」
「あのな、ユウナ、それは…」
カガリはまた蒸し返された結婚話にうんざりして向き直った。
「何度も言ってるだろ?俺はおまえと婚約なんかしてないし、結婚する気もない」
しかしユウナはうふふと笑って指でカガリの唇を押さえた。
「大分慌ただしいけど、式は同盟条約締結と時を同じくしてという事になったわ。それに、スカンジナビアなどの友好国にはとっくに招待状を送ってしまったもの」
「なっ…!?」
カガリは全く話を聞かず、勝手なことを言うユウナに驚いて絶句した。
「バカ言うな!ウナトのヤツ、その話を知ってるのか?いや、他の首長は…!?」
カガリのうろたえぶりをまるで楽しむように、ユウナは続けた。
「最近の情勢には国民も皆動揺してるでしょう?我々首長は皆想いを同じくし、一丸となって国を守る意志を示す意味もあるし」
「そんな、それと俺が結婚することと一体何が…」
しかしその時、ユウナが指先に何枚かの紙切れを挟んで見せた。
「子供の時間は終わりよ、カガリ」
カガリはそれを見て言葉に詰まり、そしてもう一度ユウナを見た。
ユウナが手に持っていたそれは、数枚の写真だった。
写っているのはキラ、マリュー、バルトフェルド、そしてラクス。
さらに、もう一枚はかなり古い写真だが、先の大戦の終結後、オーブ沖を極秘裏に曳航されているアークエンジェルだ。
一体どうしてこんなものを…カガリは青ざめた顔で黙り込んだ。
「カガリ…あなた大変な人たちを匿っているみたいねぇ。特にこの…」
ユウナはラクスの写真を抜いて示した。
「プラントの悲劇の英雄ですって?行方不明になってると聞いてたのに、まさかオーブにいるなんてね…危ない連中に命を狙われてるんでしょ?」
ユウナは次々と写真を示してみせた。
「この女は元地球軍将校だし、こっちはザフトの…砂漠の虎?バカな渾名ね」
そしてキラの写真をひらつかせる。
「あなたのこの可愛い妹さんとやらも、元地球軍士官なんですってねぇ」
カガリは激しい鼓動を落ち着かせようとユウナを睨みつけた。
「それに…」
ユウナは忌々しそうに、隠し持っていたもう一枚の写真を見せた。
「…く」
カガリは唇を噛んだ。そこには赤服を着たアスランが映っていた。
「何がアレックス・ディノよ!ザフト軍兵士、アスラン・ザラ!プラント元最高評議会議長、パトリック・ザラの娘じゃないの!」
(迂闊だった…)
情報は慎重に管理していたが、本気で調べようと思えば簡単に調べられる。
彼女がこうした情報管理のエキスパートであるキサカを遠ざけた理由が今さらながらにはっきりとわかったが、既に全てが後の祭りだった。
「ザフトは脱走兵を全員無罪にしたけど、地球軍は赦していないわ」
ユウナは他の写真をバラバラとカガリの眼の前に落としながら言った。
「それにもっと問題なのは、この戦艦」
ユウナがアークエンジェルの写真を突きつけて畳み掛ける。
「どこにあるの?」
「…知らない。そんな…」
カガリは咄嗟にそう答えた。
アークエンジェルがオーブにあるのではないかという噂は根強いが、情報が錯綜しているがゆえに、逆にとぼけられるかもしれない。
「2年も前のことだぞ。もしかして…モルゲンレーテが解体を…」
「あら、そう?」
ユウナは素っ気無く言うと、もう一枚の写真を出した。
「じゃ、これは何?」
(くそっ!)
そこにはオノゴロの地下ドックで整備中のアークエンジェルが写っていた。
(ヤバいぞ、こいつ全部用意してやがる)
ユウナは困ったようにため息をついた。
「カガリ、あなたオーブを滅ぼすつもりなの?」
「…そんなわけが…」
「こんな危険な連中を匿って、しかも地球軍の脱走艦が今このオーブにある?」
カガリの言葉を遮り、ユウナは続けた。
「あなた、正気なの?」
カガリは写真から眼を逸らした。凛としたアスランの姿が心を刺した。
「俺は…あいつらを守りたくて…」
「なら、あなたは国より大事だって言うのね、彼らが」
「違う…!」
カガリは焦るあまり、早口でまくし立てた。
「頼む、あいつら…行き場がないんだ。俺が守ってやらないと…キラは俺の妹で…それに、ラクスたちには恩義がある。だから!」
「ダメよ、カガリ。言ったでしょう?今は情勢が情勢なの」
ユウナは首を振った。
「彼らのことは、私に一任してもらうわ」
「ユウナ…!」
カガリは初めて真っ直ぐ彼女に向き直った。彼女の黒々とした小さな瞳と、美しい琥珀色の瞳がぶつかる。やがてユウナの瞳が優しそうに、狡猾そうな微笑みに変わった。
「…でも安心して。このことはまだ誰にも言っていないから」
カガリは彼女のその言葉にドクンと心臓が鳴り、それからおずおずと提案してみた。
「ユウナ、その…この事は、もう少し…もう少しでいいから…」
「なぁに?黙っていて欲しいの?」
「ああ、そうだ。少しでいい。そうしたら俺がちゃんと…」
ユウナはそのカガリの言葉を手で遮った。
そしてにっこり笑うと、さっき言った言葉を繰り返した。
「首長は皆想いを同じくし、一丸となって国を守る。その意志を示す」
カガリは不安そうに彼女の次の言葉を待った。
「いいわよ、カガリ。黙っていてあげる」
ユウナはカガリの手を取ると、両手で包み込み、優しく撫でさすった。
カガリはゾクリと怖気だったが、それに耐えながら聞き返した。
「…本当か?」
「あら、私があなたを苦しませるわけないでしょう?」
ユウナは満面の笑みで続けた。
「だって、妻は夫を守るものですもの」
カガリは眼を見開き、言葉を失った。
アスハの家には、当主はしばらく戻らないとの連絡が入った。
車はそのまま豪奢なセイラン家に向かうと、カガリは屋敷の中で一番立派な部屋に通され、ゆっくりと休むよう告げられた。
ウナトは驚いてすぐにカガリに挨拶に行き、妻は大はしゃぎだ。
「あの小僧を一体どうやって納得させたのだ、ユウナ」
ウナトが不思議そうに尋ねてもユウナは答えず、楽しそうにふふっと笑った。
「ちょっと早くて可哀想な気もするけど…でも、あんな子供と結婚する私も可哀想だから、おあいこだわ」
ユウナはそう言うとダンスでも踊るようにくるりとターンした。
「さ、式の準備を整えてくださいな、お父さま。とびっきり豪華で、賑やかで、誰もが一生忘れられない式にするのです」
カガリはだだっ広い部屋の隅で椅子に座り、呆然としていた。何もしたくないし、何も考えたくもない。ただぼけっとしている。いっそのこと、このまま消えてしまえたらいいのにとも思う。
(…まぁいいさ)
カガリは皮肉をこめて笑おうとしたが、口元が思ったように動かない。
(バカな俺には、こんな惨めな運命がお似合いかもしれない)
「あなたも私もナチュラルなのよ。そしてオーブは大西洋連邦と同盟を結んだの」
屋敷までの車中、ユウナはひたすらアスランと自分の事を否定し続けた。
「どのみち無理な話よ…コーディネーターの彼女とは所詮生きる世界が違うんだもの。そもそも首長や国民が、あんな子を受け入れると思うの?」
カガリは黙りこくっている。
「それとも私と結婚せず、このコーディネイターを選ぶと国民に言う?」
ユウナがまたアスランの写真を見せ、ヒラヒラと動かした。
「だからまたプラントにつきたい、そして大西洋連邦は敵になると?」
「…もういいだろう…俺はおまえと結婚するって言ってるんだから…」
「国も責任も全て放りだして出て行く?アスハの名を持ちながら」
カガリはついに「しつこいぞ!」と怒鳴った。
「私に怒鳴ったって仕方ないわ。事実だもの」
ユウナはカガリの怒鳴り声などちっとも堪えていないように言った。
「でもね、彼女にしろ、あの妹とかにしろ、あなたの傍には置いておけないの。コーディネイターなんかね。カガリ・ユラ・アスハ…オーブ首長国連邦代表首長たる、今のあなたの立場のそばにはね」
やんわりした言葉の暴力が、カガリの心を痛めつけ続けた。
「勘違いしないでね、カガリ」
ユウナはそう囁きながら、アスランの写真をびりりと引き裂いた。
「私は別にコーディネーターが嫌いなわけじゃないのよ?」
カガリは粉々に破られていく彼女の写真から思わず眼を逸らした。
けれど気にもせず、ユウナは彼の耳元に口を寄せて呪いのように呟いた。
「あの娘が大っ嫌いなの…アレックス・ディノ…アスラン・ザラがね!」
「うーん、いい風だねぇ」
落ちかけた夕陽が、夏の香りを運んできた。
11月ともなれば、過ごしやすい気候のオーブもじきに暑くなる。
バルトフェルドはマリューにコーヒーを渡した。
「オーブの決定はな…残念だが仕方のないことだろうとも思うよ」
庭で遊ぶキラと子供たちを眺めながら、バルトフェルドは呟いた。
「ええ…カガリくんも頑張ったんだろうとは思いますけど」
マリューはつい2年前まではただのやんちゃ坊主だった彼を思い出して言った。
「代表といっても、まだ18だ。この情勢の中での政治は難しすぎる」
「それは…そうだけど…」
心根の優しいマリューの憂いを慮り、バルトフェルドは肩をすくめた。
「とはいえ、もうちょっとなんとかならなかったのか…と聞きたいがね」
そんな彼もまた、真っ直ぐ見つめるカガリの琥珀色の瞳を思い出していた。
(あんなにいい眼をしていたのに、最近は曇りがちだぞ、少年)
「きみらはともかく、俺たちは引っ越しの準備をした方がいいがもしれんな」
マリューは「プラントへ?」と尋ねた。そして寂しそうな表情を見せる。
「なぁに、きみも俺たちと来ればいいさ。デュランダル議長ってのは、わりとしっかりしたまともな人間らしいからな。今は仕方ないが、まさかバカげたナチュラル排斥なんて事はしないだろう」
「そうね」
マリューは笑った。
「どこかでただ平和に暮らせて、死んでいければ、一番幸せなのにね」
バルトフェルドは「そうだな」と言って、子供たちと楽しげに笑うキラを見た。
「あいつがあんな風に笑っていられるのが、一番なんだろうにな」
その夜は月のない闇夜で、皆、心地よい疲れの中で寝静まった。
しかし、真っ暗な海の中からザブザブと何かが上陸してくる。
彼らはひとしきり何か準備をし、やがてリーダーらしき男が全員を集めた。全部で10人おり、皆、武器を携帯している。
「彼の死の痕跡は決して現場に残すな。だが確実に仕留めるんだ」
おまえたちは待機しろと2人を残し、残る8人が屋敷に近づく。
「ヤツめ、こんなところにいたのか…」
「許さんぞ、ラクス・クライン!」
ヒソヒソと喋る連中に、リーダーがシッと言って黙らせた。
(これだから素人は…)
特殊部隊の隊長であるヨップはちっと舌打ちした。
(だがこの特殊任務は連中が「主犯」なのだから仕方がない)
残した部下と自分、共に来た2人はプロだ。
彼らを率いてラクス・クラインを暗殺し、最後には連中も始末して戻ること…それが彼らの任務だった。
「ザンネン!ザンネン!アカンデェー!」
突如、ハロがバタバタと屋敷の中を飛び回り始めた。
屋敷の外に仕掛けたセンサーに何かが反応したらしい。
キラとアスランが追われる身のラクスのためにと、新たにハロに搭載したセキュリティ機能が功を奏した。
軍人気質と言うべきか、バルトフェルドとマリューが真っ先に飛び出してきた。
もちろん銃を持っている。互いに軽い目配せだけで、マリューは北側、バルトフェルドは南側の窓から外を見た。
ビンゴはマリューの方だった。裏口や窓から侵入してくる人影を捉えて合図を送ると、バルトフェルドが素早く彼女の方へ移動してきた。
「どこの連中かな?ラクスと子供たちを頼む。シェルターへ」
「ええ」
マリューがラクスの部屋に向かうと、反対にパジャマ姿のキラが出てきた。
「どうしたんですか?」
「早く服を着ろ。嫌なお客さんだぞ。ラミアス艦長と共にラクスを」
キラは息を呑み、「はい!」と返事をすると引っ込み、急いで着替えた。
そして引き出しを開けて銃を見る。
(これ…持って行った方がいいのかな?)
「ラクスくん」
マリューがラクスに声をかけると、ラクスも既に目覚めていた。さすがに逃亡生活が長いだけのことはあり、着替えまで済んでいる。
「お客さまですね?」
「ええ、ちょっと面倒なね」
そう言うとマリューは子供たちを起こし、寝ぼけている彼らにシーッと指を立てた。
カリダを起こしてマルキオ導師のガイドを頼んだが、闇夜では盲人の彼の方がよほど歩くのが早かった。やがて、着替え終わったキラもマリューやラクスと合流した。
一方バルトフェルドは銃を構えたまま階下に下りていた。
裏口から侵入するならキッチンを通るはずだ。ドアの陰に隠れ、ギシッ…と床を踏む音が聞こえた瞬間、バルトフェルドは侵入者に襲い掛かった。
同じ頃、キラたちが階段を下りているさなか、窓に銃弾が撃ち込まれた。
「窓から離れて。シェルターへ急いで!」
マリューが応戦し、子供たちが音に驚いてわぁ、と叫ぶ。
キラは腕を広げて子供たちを押しながら走り出した。
「大丈夫だからね。さぁ、急いで!」
マリューは後ろに下がりながら発砲を続けていたが、廊下の隅から新手が出現し、キラたちと分断された。
「マリューさん!」
「早く!行きなさい!」
キラは階段を下りて庭に出ると、ラクスに「子供たちをお願い!」と頼み、屋敷に戻っていった。
マリューは逃げていくラクスを見つけて走り出した1人を蹴り上げ、転倒したところを撃ち殺していた。
かなりの重装備だが、体術はさほどでもないようだ。マリューがキラたちの後を追おうと振り返った瞬間、トリィがさっとマリューの前をかすめた。
「うわっ…!」
トリィは彼女を後ろから狙っていた相手の顔の前で羽ばたいて驚かせ、マリューはその隙にすかさず身をかがめて床を反転して後方の相手を射殺した。
「大丈夫ですか、マリューさん!」
その声に振り返ると、ガチガチになって銃を構えているキラがいた。
マリューはそれを見て息をつき、それからぷっと笑った。
「セーフティーが外れてないわよ」
「あぁ、また…」
キラは慌ててセーフティーを外し、はぁとため息をついた。
「私なんかより、トリィの方がよっぽど役に立ちますね」
「いいえ。戻ってきてくれてありがとう」
2人は銃を構えたまま様子を窺い、やがてラクスたちの後を追った。
バルトフェルドはキッチンで仕留めた侵入者の装備を調べたが、どこの者かはわからなかった。その死体の銃を失敬して廊下に出た途端、階段を探していたもう1人と鉢合わせしてしまった。
「うっ!」
「く…!」
相手はナイフを持っており、いきなり斬りかかってきた。
不意を突かれて左腕を切られ、バルトフェルドは大げさな声をあげた。
「…なーんてな!」
彼は刺さったナイフごと義手を投げ捨てると、仕込んであった銃を向けて発砲した。
「目標は子供と共にエリアEへ移動」
バルトフェルドは熱を持った銃を冷ましながら、死んだお客の持ち物である無線から聞こえてくる声を聞いていた。
「武器は持っていない。護衛は女一人だ。早く仕留めろ」
「ふーん…暗殺部隊にしては素人くさいが、玄人もいるような…」
バルトフェルドは彼らがターゲットを追って外に出ていき、屋敷内には誰もいないと確信してラクスたちの後を追った。
「バルトフェルドさん!」
カモフラージュされているシェルターの入り口付近で、キラが声をかけた。
「急げ!かなりの数だ」
少し手前の林に隠れて周囲を警戒していたマリューも合流すると全員が揃い、子供たちを先頭にしてシェルターに向かう。その時、追ってきた連中の1人が発砲し、弾丸がラクスを襲った。
「ラクス!」
キラがラクスに体当たりし、2人はごろごろと庭に倒れこんだ。
マリューとバルトフェルドが応戦しながら、「早く中へ!」と叫ぶ。
キラは素早く立ち上がってラクスを起こし、そのままシェルターに駆け込んだ。マリューとバルトフェルドが続き、重い扉を閉める。
「はぁ…」
マリューが扉を背にしてずるずると座り込むと、バルトフェルドがキラたちに「大丈夫か?」と尋ねた。
「大丈夫だよ。隊長こそ、腕がなくなってるよ」
「もともとだ!」
この非常時に、2人はそんな冗談を言い合って笑いあっている。
相変わらずのラクスのテンポに、キラはマリューと顔を見合わせた。
「あれはなんなの?コーディネーター?」
マリューが立ち上がっていぶかしんだ。
「ほとんど素人のようだが、戦闘慣れはしているようだ。テロリスト…かな?それと、悪い事にプロも混ざってるようだ」
「ザフトなの?」
マリューが顔をしかめると、ラクスが言った。
「ザフトがなぜ僕を?」
「悪さばっかりしてるからさ」
「また…」
マリューがバルトフェルドをつついた。
「どっちにしろ、コーディネーターの暗殺部隊ってことね。最低」
「もともと敵は多いが、こんな装備と組織だったのは初めてかもな」
子供たちは怯えて部屋の隅にかたまり、泣いている子も多い。
母は子供たちを抱き締めながら不安そうにキラを見つめている。
キラは泣いている子をなだめながら、(どうなるんだろう、これから)と考えた。
(引き揚げてくれればいいのだけれど)
「ええい!仕損じるとは!アッシュを出せ!」
素人にしてはできる連中だったが、所詮は訓練を受けた人間ではない。4人を殺され、ヨップは突入部隊を一旦退却させて海岸に戻った。入れ替わりに待機していた2人が、水陸両用モビルスーツUMF/SSO-3アッシュでシェルターへと向かう。ヨップは躍起になって叫んだ。
「何としても今ここでラクス・クラインの命、貰わねばならんのだ!」
2機のアッシュはまずは扉に集中砲火を浴びせかけた。すさまじい音で機関砲が扉を揺らす。
「モビルスーツ?」
足音を聞き、マリューが問う。
「おそらくな。何が何機いるかわからないが、火力のありったけで狙われたらここも長くはもたないぞ」
バルトフェルドがシェルターの構造を確認するように見上げた。子供たちは音と振動に怯え、恐怖に泣き叫んだ。
さすがに扉は頑丈に作られており、傷ひとつつかないと知るや、両者は二手に分かれて今度は左右の壁を攻撃し始めた。こちらはさすがに扉よりはもろいようで、外壁はすぐに剥がれ、構造体が姿を現した。そうこうしているうちに残るアッシュが追いつき、総勢6機ものモビルスーツがシェルターを取り囲んだ。
「シェルターの一点を集中して狙え。壁面を突破できればそれで終わる!」
部隊は機関砲に加えてビームやガトリングを壁の一点に向けて撃ち始めた。
天井からも壁からもぼろぼろと小さな瓦礫が落ちる。
「これはちょっとまずいぞ」
バルトフェルドがラクスを見た。
「ラクス、鍵は持っているな?」
「もちろん」
ラクスがハロを呼ぶと、テヤンデェと言いながらハロが飛んできた。
「扉を開ける。仕方なかろう」
バルトフェルドは言ったが、ラクスは落ち着いた声で答えた。
「でも隊長、決めるのはキラです」
それを聞いて皆がはっとキラを見る。
「ラクス…」
ラクスはキラを見てにこりと笑った。
「きみがいやならいいんだ。開ける必要はない」
バルトフェルドがキラの前に進み出た。
「今ここで、皆おとなしく死んでやった方がいいと思うか?」
キラは黙り込み、そしてラクスを、マリューを見た。
「キラ」
心配そうに娘を見るカリダに、キラはぎこちなく笑いかけた。
(大丈夫、母さん…私はもう大丈夫)
終戦後、何度も悪夢にうなされて飛び起きるキラを心配し、母が一晩中抱き締めてくれた事もあった。本島を離れられない父を残して、一緒にカグヤ島まで来てくれた。そんな母の不安そうな顔がキラに向けられる。
(だから安心して、母さん)
母のいないアスランとカガリにとっても、優しい母親を務めてくれるカリダには感謝で一杯だ。キラはきゅっと唇を結んだ。
(皆を守らなきゃ)
―― 大切な人たちを守るためなら、私は…
激しい攻撃に、ついに壁がみしみしと音をたて始めた。皆、固唾を呑んでキラの動向を見守っている。
やがてキラは立ち上がった。
「貸して」
キラはラクスに手を伸ばした。
「私が開けるから」
「いいんだね?キラ」
ラクスが尋ねた。
「うん」
壁にビシッとひびが入り、バラバラっと内装が剥がれる。
「このまま、皆のことすら守れず、そんなことになる方がずっと辛い」
キラは微笑みながら言った。
「今何を守りたいか、私はわかってるんだもの」
―― だから、鍵を貸して
ラクスはハロをパカッと割ると、中の鍵を手に取った。そして、それを渡す前にキラをそっと抱き締めた。
「ごめんね」
「ううん。いいんだよ、ラクス」
こうなる事は、もうずっと前からわかっていた気がした。
4人は狭い空間があるシェルターの地下に降りた。
「行くぞ!3、2、1!」
バルトフェルドが暗号コードを打ち込み、ラクスとキラが2本の鍵を同時に挿し込む。すると二重三重になっていた扉が開き、さらに深く掘り下げられた空間に、秘密のドックが隠されていた。そこにあったのは、ピカピカに磨き上げられ、整備の終わったZGMF-X10Aフリーダム。キラの相棒にして、伝説の白い翼だった。
「まさかこんなところにモビルスーツがあるとは思わんよなぁ」
ライトに照らされたフリーダムを見て、バルトフェルドが笑った。
さしものユウナもここまでは調べられなかったようだ。
キラは振り返ってにっこりと笑うと、「行ってきます」と告げた。
「よーし、行くぞ!」
やがて大きな音を立てて壁が崩壊した。
反対側に子供たちを集め、息を潜めていたマリューは、見慣れぬ機体を見て、(やはり、ザフトのモビルスーツだわ)と直感した。
「目標を探せ。オルアとクラブリックは…」
ヨップが合図をし、瓦礫をかき分けて進もうとしたその時だった。
「ん?なんだあれは…」
オルアと呼ばれたパイロットが突然競りあがった奈落の熱源を感知した。
「まさか…モビルスーツ?」
フリーダムのアイカメラに光が戻り、ブラスターが激しい音を立てて2年分の埃を排気した。キラは関節、スラスター、センサーとチェックし、全てがかつてと変わりなく、心地よく整備されていることにいたく感動した。
(私はフリーダムに近づかないようにしていたのに…)
マリューやマードックが、暇を見ては丁寧にメンテナンスしてくれたのだ。
キラはすぅ、と息を吸い込んだ。
(さぁ行こう、フリーダム!私が大好きな人たちを、脅かす者から守るために!)
フリーダムはしゃがみこむと直上にジャンプして大空を舞った。
そのスピードを誰も追いきれないまま、フリーダムのルプスが、1人だけ素人が乗っているアッシュのショルダーアーマーを破壊した。小爆発を起こしてアッシュは前のめりに倒れ、キラはすかさず倒れたアッシュの足と腕をライフルで奪う。激しい爆煙が上がり、ヨップたちは何が起きたのかと破壊されたアッシュに近づいた。その瞬間、黒煙の中に真っ黒い影が現れ、近づいた1機のアッシュを蹴り飛ばして舞い上がった。
そして肩のバラエーナを展開し、燃え盛る炎が巨躯を映し出した。その姿を見た瞬間、パイロットたちは声をあげた。
「あれは、まさか…フリーダム!?」
ヨップが「ええええ!?」と叫び、慌ててライブラリに照合する。
(なんでこんなところにフリーダムが…あれはただの伝説だろう!?)
「ええい、撃て撃て!撃ち落せぇ!」
ヨップは叫び、アッシュ部隊は一斉に機関砲やミサイルを放ち始めた。
キラは砲をことごとくかわしながら飛ぶ。そして空中で回転しながらビームを撃って、正確にアッシュの肩部タンクや手足を破壊した。
「くっそぉ、なんだあいつは!」
「動けるのはあと3機…」
キラは集中してみた。
あの頃のような、澄んだような感覚が戻るのか試したのだ。心が大きく沈んでいく感覚があり、やがて急上昇していく。
(ああ、これだ…)
キラの視界が鮮やかに広がり、聴力が尖る。
(私は、また戦えるんだ…皆のために)
キラはサーベルを2本抜いた。
そして素早く近づくと、ビーム砲を構えたアッシュの両腕を切り落とす。
そしてすぐ傍にいるもう1機の足を横に薙いだ。そして上空に飛び上がるとまだ動ける者のタンクや残った手足をライフルで狙い、戦闘不能に追い込んだ。
「そんな馬鹿な!」
ヨップはわずか数分で5機がただの鉄屑に成り果てた現実に呆然とした。
「こっちも4人は特殊工作員だぞ!?それがフリーダム1機に」
悔しさと屈辱でギリギリと歯を食いしばった彼は、シフトを入れた。
「ぬぅおぉぉぉ!」
ヨップは海岸線まで下がり、上空のフリーダムにビームを放った。フリーダムはそれを華麗に避け、きりもみ状態で向かってくる。やがてサーベルが抜かれ、ヨップのアッシュに振り下ろされた。
「舐めるなぁ!」
「あ!?」
ヨップは見事にそれを見切り、紙一重でかわすとフリーダムのボディをクローで掴んだ。そのままフォノンメーザーを発射しようとしたのだが、キラはパワーを上げ、逆にアッシュを持ち上げて後ろに投げ飛ばした。いわゆるバックドロップである。ヨップは背中から落ちて転がった。
「おのれ!」
もはや怒りしかないヨップは立ち上がり、ランチャーや機関砲を撃とうと構えたが、それより早くフリーダムのライフルに破壊された。右腕、右足、右肩…タンクが爆発し、その衝撃によろめくと、キラはさらに左肩、左腕、左足と撃ち抜いていった。最後にボディだけになったアッシュがダルマのようにゴロンと転がり、フリーダムがライフルをおろす。
キラはほっと一息ついた。
長いブランクにしては、思ったよりはうまくやれたと思う。コックピットも機関も壊さず、致命傷は与えていないはずだ。
(でも何者なんだろう、この人たち…)
キラが彼らの正体を確かめようと近づいたその時だった。
「…っ!!」
アッシュが次々と激しい爆発を起こしたことにキラは驚き、また、シェルターから出てきたバルトフェルドもマリューも、動けなくなった機体が次々と爆発することに驚いていた。
(証拠隠滅!?)
燃え盛る機体を黙って見つめるマリューに、バルトフェルドが呟いた。
「ここまでやられると逆に『ザフトでござい』って証明してるようなもんだ」
その後、ラクスはバルトフェルドと共に屋敷に戻った。
彼らは転がっている死体を仰向けにし、顔を確認していく。その中に1人、ラクスがよく知っている顔があった。
「やれやれ。こいつか」
「彼らなら僕を殺したがる理由がある、ってことだね」
それはラクスを執拗に追い続けていた、過激派のリーダーだった。
「彼らを使って僕を消し、最後は自爆で証拠を消すという作戦かな?」
「となると、なかなか奥が深そうだな、こりゃ」
ラクスとバルトフェルドは屋敷を出ると、戻ってきたフリーダムを見ながら言った。
「隊長。ダコスタくんを宇宙へ上げよう」
「いいね。ヤツも海の底よりは嬉しいだろうよ」
シェルターを出たマリューも、風で舞う髪を手でまとめながら振り返った。
(結局、私たちに平和に暮らせて、死んでいける場所なんかないのかしらね…)
マリューは哀しそうに微笑み、ハッチを開いて手を振るキラを迎えた。
(本当に…まだ何が欲しいっていうのかしら、私たちは)
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制作裏話-PHASE13-
待ちに待ったキラ様大復活!
…というわけで、本編ではまだまだイマイチ魅力が描けていなかったシンやミネルバに思い入れが持てなかったファンにとっては嬉しい、キラきゅん&フリーダム大復活の回です。
この回はさすがの私もシンを主役に据え続ける事は難しかったです。それでもシンを讃えるミネルバの仲間たちや、種が割れた時の感覚、そしてシンを蘇らせたのはキラと同じく「仲間を守りたい」という強い想いだった、とする事で「主人公らしさ」が出せていると思います。
ヴィーノに抱きつかれて困っているシンは創作ですが、レイやルナマリア、それに彼の叙勲申請を喜ぶメイリンなど、シンを囲む仲間たちを描くのはとても楽しいです。家族を失い、たった1人で苦しんだ彼を支えるものは、やはり「仲間」であって欲しいですから。
本編ではシンを支えたのがただの「妹萌えパワー」だったなんて、許せないじゃない!
また、この回は他にもかなりの改変が加えられています。
まずはカガリとユウナの結婚。
本編ではカガリがあっさり結婚を受けてしまい、その意義自体がさっぱり意味不明なままでしたが(封建時代や帝国時代じゃあるまいし、元首が結婚して国が安定するなんてあるかいボケ!!)、私はセイランがジブリールにそそのかされていること、さらにユウナが国を牛耳るためにカガリの地位と家柄が必要だった事を理由とし、さらに嫌がるカガリをキラたちを使って脅しておとなしくさせるという手段を用いさせました。
ユウナがじわじわとカガリを追い詰め、しまいには邪魔なアスランが大嫌いだったと言わせたのは変なカタルシスがありました。アスランがいない事を知っていながら、「大事な大事なアレックスはどうしたの?」と聞くという意地悪なセリフや、アスランの写真をカガリの眼の前で引き裂くというのも気に入ってます。
多分、本編ではこの結婚(ぶっちゃけユウナの事を)を嫌がってるんだかなんだかイマイチよくわからなかったカガリを、逆転でははっきりと嫌がらせる事ができたからだと思います。
カガリが代表としても、男としても、思うようにならない人生に思いを馳せ、自分はひとりぼっちなのだと味わうシーンは、後にアークエンジェルで彼を迎えるキラたちを、「真の仲間」と認識させる演出です。何かと悪く言われるアークエンジェルですが、本編準拠の物語にする以上、こちらも手を抜くわけにはいきません。
本編ではカガリの事を思い出しもしなかったアスランに不満が一杯でしたが(もちろんキラの事は思い出しまくり)、実はカガリも思ったほどアスランの事を思い出しません。これは明らかに制作陣の力不足なのですが、物語としてはあまりにも不自然過ぎるので、逆転ではそのへんはきちんと描写しています。
同じく、本編では曖昧なままだったカガリがオーブに帰らない(=帰れない)理由もきちんと描くつもりだったので、このあたり、ユウナにはとことん悪役になってもらうつもりでした。でも中途半端にいいヤツっぽく出てきて、最後は小物臭く殺されて退場した本編の彼に比べたら、この方がよほどいいと思っています。
さらに、ラクスの暗殺部隊については最後まで本編では明かされず、「議長がやった事のような、そうでないような…」で終わったので(だって調べてきますわとか言っといて何も調べてないんだもん、本編のラクス)ハッキリと議長の仕業にしています。しかもそれはザフトがやったのではなく、ラクスを狙っていた過激派がやった事にする、二重トラップです。
キラが躊躇しながらも大切な人を守るためにフリーダムに乗ると決意するシーンは、本編ではボケっとしているだけだったキラよりはっきりと示す事ができてよかったです。
このキラの決意である「守りたい人を守る」というのは、即ちキラが自分のすべき事を知っているという象徴であり、PHASE8で「何と戦えばよかったのか」悩んでいたアスランに返したアンサーでもあります。本編ではこのセリフはありませんが、後にアスランが自分の守るべきものを見誤っていく展開を鑑みてのものでした。「この時点(1クール)では、アスランより動いていないキラの方が、本質をわかっている」としたかったからです。
それにこれによって、いざ戦うとなった時、キラはいやいや戦っていた逆種に比べると成長し、強くなっていると示す事もできます。
本編ではキラに戦わせるのを躊躇してるように見えたラクスですが(「見えた」というのは、ラストシーンでフリーダムを見つめるラクスの顔はさっきまでおどおどしてキラに抱き締められていたか弱い女の子…にはとても見えなかったからです)、逆転のラクスはあくまでもキラに自分で決めさせます。
これはアスランがジャスティスに乗る時との対比でもあるのですが、他にもカガリがフリーダムの迎えに迷い、躊躇すること、そしてメイリンがガイアに乗ると決める事など、自分で考え、決断することもこの物語のテーマである「力」の一つとなっています。
議長が「遺伝子(運命)に従って、役割を果たして幸福に生きるべき」という道を示すからには、彼らはその反対勢力にならねばなりません。それは「自分で考え、自分で決めて、自分の道を選び取る」ことでしょう。本編は後半が駆け足過ぎてこの対比が全くできないまま、単に議長は「ポリシーもなく大量破壊兵器を使う破壊者」になってしまいましたが、本来はこうした両者のスタンスとポリシーがぶつからなければならないはず。21世紀ガンダムはSEEDから00、AGEに至るまでこれが全く描けていませんね。(その点、悔しいけどやはりトミノガンダムは対立するものたちが明確)
本編で全く描けなかったものをどんなに補完してもパワー不足は否めないのですが、とにかくいずれ議長に反旗を翻す唯一の勢力になるのですから、地固めには苦労しています。
正直、私はフリーダムが大好きなので戦闘シーンは最も筆が乗ります。とはいえこのPHASEではまだ小手調べなので、あまりノリノリで戦ってもらっては困るので抑え目にしています。でも棒読みヨップさんをあっけなくダルマにしたけどね。キラきゅん、恐ろしい子!
アスランに始まり、キラに終わった1クール。
次回はフリーダムによる花婿(本編ではもちろん花嫁)強奪で、シンは欠片すら出番がありません。ひ、ひどい…
…というわけで、本編ではまだまだイマイチ魅力が描けていなかったシンやミネルバに思い入れが持てなかったファンにとっては嬉しい、キラきゅん&フリーダム大復活の回です。
この回はさすがの私もシンを主役に据え続ける事は難しかったです。それでもシンを讃えるミネルバの仲間たちや、種が割れた時の感覚、そしてシンを蘇らせたのはキラと同じく「仲間を守りたい」という強い想いだった、とする事で「主人公らしさ」が出せていると思います。
ヴィーノに抱きつかれて困っているシンは創作ですが、レイやルナマリア、それに彼の叙勲申請を喜ぶメイリンなど、シンを囲む仲間たちを描くのはとても楽しいです。家族を失い、たった1人で苦しんだ彼を支えるものは、やはり「仲間」であって欲しいですから。
本編ではシンを支えたのがただの「妹萌えパワー」だったなんて、許せないじゃない!
また、この回は他にもかなりの改変が加えられています。
まずはカガリとユウナの結婚。
本編ではカガリがあっさり結婚を受けてしまい、その意義自体がさっぱり意味不明なままでしたが(封建時代や帝国時代じゃあるまいし、元首が結婚して国が安定するなんてあるかいボケ!!)、私はセイランがジブリールにそそのかされていること、さらにユウナが国を牛耳るためにカガリの地位と家柄が必要だった事を理由とし、さらに嫌がるカガリをキラたちを使って脅しておとなしくさせるという手段を用いさせました。
ユウナがじわじわとカガリを追い詰め、しまいには邪魔なアスランが大嫌いだったと言わせたのは変なカタルシスがありました。アスランがいない事を知っていながら、「大事な大事なアレックスはどうしたの?」と聞くという意地悪なセリフや、アスランの写真をカガリの眼の前で引き裂くというのも気に入ってます。
多分、本編ではこの結婚(ぶっちゃけユウナの事を)を嫌がってるんだかなんだかイマイチよくわからなかったカガリを、逆転でははっきりと嫌がらせる事ができたからだと思います。
カガリが代表としても、男としても、思うようにならない人生に思いを馳せ、自分はひとりぼっちなのだと味わうシーンは、後にアークエンジェルで彼を迎えるキラたちを、「真の仲間」と認識させる演出です。何かと悪く言われるアークエンジェルですが、本編準拠の物語にする以上、こちらも手を抜くわけにはいきません。
本編ではカガリの事を思い出しもしなかったアスランに不満が一杯でしたが(もちろんキラの事は思い出しまくり)、実はカガリも思ったほどアスランの事を思い出しません。これは明らかに制作陣の力不足なのですが、物語としてはあまりにも不自然過ぎるので、逆転ではそのへんはきちんと描写しています。
同じく、本編では曖昧なままだったカガリがオーブに帰らない(=帰れない)理由もきちんと描くつもりだったので、このあたり、ユウナにはとことん悪役になってもらうつもりでした。でも中途半端にいいヤツっぽく出てきて、最後は小物臭く殺されて退場した本編の彼に比べたら、この方がよほどいいと思っています。
さらに、ラクスの暗殺部隊については最後まで本編では明かされず、「議長がやった事のような、そうでないような…」で終わったので(だって調べてきますわとか言っといて何も調べてないんだもん、本編のラクス)ハッキリと議長の仕業にしています。しかもそれはザフトがやったのではなく、ラクスを狙っていた過激派がやった事にする、二重トラップです。
キラが躊躇しながらも大切な人を守るためにフリーダムに乗ると決意するシーンは、本編ではボケっとしているだけだったキラよりはっきりと示す事ができてよかったです。
このキラの決意である「守りたい人を守る」というのは、即ちキラが自分のすべき事を知っているという象徴であり、PHASE8で「何と戦えばよかったのか」悩んでいたアスランに返したアンサーでもあります。本編ではこのセリフはありませんが、後にアスランが自分の守るべきものを見誤っていく展開を鑑みてのものでした。「この時点(1クール)では、アスランより動いていないキラの方が、本質をわかっている」としたかったからです。
それにこれによって、いざ戦うとなった時、キラはいやいや戦っていた逆種に比べると成長し、強くなっていると示す事もできます。
本編ではキラに戦わせるのを躊躇してるように見えたラクスですが(「見えた」というのは、ラストシーンでフリーダムを見つめるラクスの顔はさっきまでおどおどしてキラに抱き締められていたか弱い女の子…にはとても見えなかったからです)、逆転のラクスはあくまでもキラに自分で決めさせます。
これはアスランがジャスティスに乗る時との対比でもあるのですが、他にもカガリがフリーダムの迎えに迷い、躊躇すること、そしてメイリンがガイアに乗ると決める事など、自分で考え、決断することもこの物語のテーマである「力」の一つとなっています。
議長が「遺伝子(運命)に従って、役割を果たして幸福に生きるべき」という道を示すからには、彼らはその反対勢力にならねばなりません。それは「自分で考え、自分で決めて、自分の道を選び取る」ことでしょう。本編は後半が駆け足過ぎてこの対比が全くできないまま、単に議長は「ポリシーもなく大量破壊兵器を使う破壊者」になってしまいましたが、本来はこうした両者のスタンスとポリシーがぶつからなければならないはず。21世紀ガンダムはSEEDから00、AGEに至るまでこれが全く描けていませんね。(その点、悔しいけどやはりトミノガンダムは対立するものたちが明確)
本編で全く描けなかったものをどんなに補完してもパワー不足は否めないのですが、とにかくいずれ議長に反旗を翻す唯一の勢力になるのですから、地固めには苦労しています。
正直、私はフリーダムが大好きなので戦闘シーンは最も筆が乗ります。とはいえこのPHASEではまだ小手調べなので、あまりノリノリで戦ってもらっては困るので抑え目にしています。でも棒読みヨップさんをあっけなくダルマにしたけどね。キラきゅん、恐ろしい子!
アスランに始まり、キラに終わった1クール。
次回はフリーダムによる花婿(本編ではもちろん花嫁)強奪で、シンは欠片すら出番がありません。ひ、ひどい…
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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