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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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土曜日の昼下がりともなれば多くの人でにぎわう繁華街で、コジロー・マードックは約束の場所に立ち、人を待っていた。
やがて人ごみの向こうから見知った顔が近づき、手を挙げた。
「あん?」
「や!」
それはアークエンジェルの操舵手、アーノルド・ノイマンだった。
久々に会う戦友に、マードックも「へへ」と笑って合図を返した。
「アークエンジェルが出航するぞ」
ただそれだけ言われてやって来たノイマンを伴い、マードックは挨拶もそこそこに歩き出した。
チャンドラは既に昨日からドック入りしているという。
「トノムラは?」
「嫁さん置いて来られねぇってよ」
パルも「先月子供が生まれたばかりで」と残念そうに断ってきた。
サイは留学中で、ミリアリアはカメラマンとして飛び回っている。
「で?一体何するんだ?」
ノイマンが切り出すと、マードックはニヤニヤ笑った。
「奇襲して強奪して離脱…だってよ」 
そいつはすごいな…ノイマンは楽しそうに笑った。

拍手


「アッシュ?」
マリューがバルトフェルドのタブレットの機体データを覗き見た。
残骸の写真を送ったターミナルの回答は、あの夜のずんぐりした機体は最近ロールアウトしたばかりのザフトの機体であるというものだった。
「大物扱いだね、僕。次が旧型だったら抗議しようかな」
いたずらっぽく言うラクスを、縁起でもないとキラが軽く睨むと、バルトフェルドとマリューは顔を見合わせて笑った。
「プラントへお引っ越しってのも、やめといた方がよさそうだって事だな」
「とはいえ、ここにい続けるわけにもいかないでしょう?」
襲撃後、彼らは子供たちとマルキオをアカツキ島に避難させる事にした。 
「どこかに身を隠すにしても、カガリと連絡を…」
そう言いかけた時、中年の小太りな女性がふうふう言いながら敷地に入って来た。キラは見覚えのある彼女が、カガリの侍女だと気づいた。
「マーナさん?」
「キラ様!」
「どうしたんです?お体の関係でお辞めになったと聞いていますが…」
マーナは主君の妹を見て、見る見るうちに泣き始めた。
「辞めたなんて…辞めさせられたのです、ユウナ様に!」

「マーナが急に、暇をもらいたいと言ってきたんだ」
キラはその時のカガリの様子を思い出した。
「それならちゃんと、俺に直接言ってくれればいいのにな…」
浮かない声で切り出したモニターの向こうのカガリのしょげた様子を見て、「そう…残念だね」と言う事しかできなかったキラは、マーナを慰めた。
マーナはハンカチで鼻をかむと、データメディアを取り出した。
「これを。キサカ様からキラ様たちにと」
「キサカさんから…?」
「若様はもう、ご自分でこちらにお出掛けになることすらかなわなくなりました。お屋敷にもいらっしゃいません」
キラは怪訝そうな顔をした。
「カガリくんがどうかしたの?」
「何か…ケガでも?」
それを聞いてマリューとラクスも心配そうに詰め寄った。
「いえ、お元気ではいらっしゃるようです。ただもう、結婚式のためにセイラン家にお入りになりまして…」
「結婚式!?」
4人は見事に息のあった声をあげた。

彼らは慌てて情報を収集した。
暗殺部隊はご丁寧に屋敷の電源も通信も全て切ってくれたため、キラたちはここ数日ニュースさえ見られず、街の騒ぎを知らずにいた。
慌ててボードを繋ぐと、確かにメディアはこの結婚話で持ちきりだった。
中立の理念を捨て、安全保障条約を締結するオーブの混乱は大きい。
しかしこの時期、オーブ政府は代表首長カガリ・ユラ・アスハと、宰相ウナト・エマ・セイランの一人娘にして父に代わり首長代行の任にあるユウナ・ロマ・セイランの結婚の儀を執り行うと発表した。
アスハ代表もまた、この結婚により、首長たちは皆想いを同じくし、一丸となって国を守るという意志を示す事にもなり、オーブの安定と平和が必ずや国民に確約されるだろうと書面にて談話を発表している。
混乱の時期にという批判も多いが、こんな時期だからこそという擁護や賛同も多く、どちらにせよ突然の話に周囲は驚いている。
オーブ国内は戸惑いながらも祝賀ムード一色で、早くも…

「なんだこりゃ!」
バルトフェルドが呆れ、オーブは何を考えているんだと唾棄した。
「政略結婚か…相手がいい子なら、それもいいんだけどね」
かつてアスランと共に、自分自身もまさにそうした政略に使われる「道具」だったラクスがくすくす笑った。
「ユウナ・ロマじゃなぁ。うっかりしてると、尻の毛まで抜かれるぞ」
「隊長」
マリューはゲラゲラ笑うバルトフェルドをたしなめ、キラは呆気に取られた。
(オーブの安定とか平和が、カガリの結婚とどう関係するんだろう?)
政治の事はよくわからないけど、これは間違いなんじゃないかなと、キラは小首を傾げながらモニターの向こうに映るカガリの写真を見つめていた。
(こんな事、きみの望みじゃないだろうに…カガリ、どうしちゃったの?)
マーナはその後、カガリさえいいならいいのだがと前置きしながら、セイランのやり方があまりに強引で身勝手で一方的だと散々怒った。
たまたま息子が事故に巻き込まれたら、不祥事を起こす者をカガリの傍には置けないと脅して自分を辞めさせ、キサカは軍の命令で遠征任務。
「キサカ様は、ウズミ様がじきじきに若様をお預けになった方ですのに」
興奮する彼女をバルトフェルドがまぁまぁとなだめ、キラは自分のタブレットにキサカのデータを開封してみた。それはややノイズがかった音声メールだった。
「アスラン・ザラ。そしてキラ・ヤマト、マリュー・ラミアス、アンドリュー・バルトフェルド。それに、ラクス・クラインもいるだろうか?」
キサカは今現在、赤道連合やスカンジナビアなど、同盟以前からオーブが協力国家として提携している中立国軍と共に連合軍に潜入し、北大西洋での諜報任務についている。佐官である彼の本来の仕事ではないが、情報部の仕事だとゴリ押しされ、キサカが直々に海に出て、既に半年が過ぎた。
「陸に残してきた部下から、ユウナ・ロマ・セイランがきみらの事を調べていると情報が入った。アークエンジェルも発見されている」

―― 恐らく、彼女はそれでカガリを脅したのだろう…
 
その言葉を聞いて、ボードを持つキラの手が震えた。
マリューもラクスもバルトフェルドも皆、顔を見合わせている。
「条約締結と共に、彼らが結婚すると聞いて確信したよ」
ニュースが伝える祝賀で沸く街の喧騒が、キラの耳に不快な雑音として入っていた。
(行き場のない私たちを守るため?だからこんな…急に結婚なんて…)
追い詰められ、決断せざるを得なかったカガリの孤独を思うといたたまれない。
(カガリ…!)
「だが、約束を守るような輩ではない。きみらの身も危険だ」
キサカは言った。それから珍しく言葉を濁す彼の言葉が続いた。
「それに…カガリを………いや、いいんだ、すまん」
キラはキサカが何を言いたいのかわかるようで胸が痛む。
「ともかく、条約の締結前に脱出した方がいいだろう。私もオーブに戻り次第、きみらをバックアップしよう」
結びの言葉もなく、それで終わりだった。
短く簡単だったが、キサカの想いの全てが詰まっているメールだった。

「こんな事になってるなんて、知らなかった」
キラはボードを見つめたままため息をついた。
「いえ、知ろうとしなかった…知ろうとすれば知ることはできたはずなのに」
「キラさん」
マリューが項垂れたキラの肩を抱いた。
「ずっとカガリに守られていたくせに…カガリの苦しみも悩みも、わかろうとせず、知らん振りしてたんです。それに、カガリにはアスランがいるからって…」
そこまで言ってふと、アスランはどうしたんだろうという思いがもたげる。
「マーナさん、アスランは?」
「わかりません。アレックス様はお屋敷にもおいでになりません」
(アスランがカガリの傍にいない…?)
キラはますますいぶかしみ、顔を上げた。
「キラ」
そんな彼女に、ラクスが声をかけた。
「僕はきみに助けてもらったけど、今、カガリくんを助けるべき人は留守みたいだ」
「ラクス…」
「どうする?僕たちにできることは?」
キラは首を傾げた。その肩にとまっているトリィと同じように。
マリューとバルトフェルドもキラの言葉を待っている。
キラは一生懸命考えた。
(オーブがやるべき事は、中立を守り、世界のために貢献する事だって、今まで以上に平和のために尽くす事だって言ったじゃないか、カガリ)
「…今のこのオーブの状況と、カガリの結婚が一体どう関係するのか、勉強不足の私には正直、よくわかりません」
キラは慎重に、一言一言口に出した。
「何が正しいのか、どうしたらいいのかなんてわからないけど…でも本当に、こんな事でオーブを守る事ができるのかと思います」
「確かにな。誰かさんもそうだったが、政略結婚なんざ時代錯誤もいいところだ」
バルトフェルドが笑うと、ラクスも楽しそうに頷いた。
「それに、そもそも私たちのせいでカガリが自分を犠牲にするなんて」
キラの脳裏を、寂しそうなアスランの顔が横切る。
「やっぱりおかしいと思います」
キラの言葉を聞いていた3人の顔が、途端に明るくなった。
「行きましょう」
キラは言った。
「カガリに、そんなの間違ってるって言ってあげなくちゃ!」

「お時間でございます、カガリ様」
白いタキシードを着せられ、窓の外を眺めていたカガリが立ち上がった。
部屋を出ると、ウェディングドレスをまとい、美しく装ったユウナがブーケを手にして待っていた。カガリは同じ花で作ったブートニアを胸に挿してもらいながら、暗い表情のまま視線を落としていた。
ウナトが上機嫌で娘を眺め、満足そうに笑った。
「きれいにできたな、ユウナ。よく似合っておる。これならばお若いカガリ様にも、きっと喜んでいただけるでしょう」
「あなたのために努力しましたのよ」
ユウナが笑ったが、カガリは抑揚のない声で「ああ」と言っただけだった。
「何かお飲みになる?緊張してらっしゃるの?」
乗り込んだリムジンの中でユウナはあれこれと話しかけてきた。
「さっきから全然口もおききにならないし」
「いや、大丈夫だ。心配するな」
「あらあら…そんなお顔の色で」
昨日はよくお休みにならなかったのとユウナが彼の頬に手を近づけると、カガリはさも嫌そうにそれを避けた。
ユウナは呆れ、シャンパンのグラスを飲み干して言った。
「いつまでも子供みたいに拗ねていないで、しっかりなさい」
集まった沿道の人たちが彼らのリムジンに手を振る。
「おめでとうございまーす!」
「カガリ様!おめでとうございます!お幸せに!」
それは大変な賑わいで、皆が自分たちを祝福していた。
「ほら、マスコミも山ほどいるのよ。もっとにこやかな顔して」
微笑みながら手を振るユウナが、カガリの肘を小突いた。
カガリは無言のまま、沿道の人たちに微笑みかけ、手を振る。
(ああ、まだ笑えるんだ…俺…)
一晩中、まんじりともせずに考えていたのはアスランの事だった。
もちろん、国のことや政治のこと、ウズミのこともキラのことも考えようとした。
けれど、ダメだった。
彼の思考は全てが必ず、長い藍色の髪をした、美しい彼女に戻ってしまった。
衝撃的な出会いから数奇な運命を経て、想い合い、愛し合い、共に過ごした日々が次々と蘇って、カガリの心を苦しめた。

俺はあいつを銃で撃ち、取っ組み合ってぶん投げた…
あいつも俺をぶん殴り、蟹に悲鳴をあげ、助けてくれて…
「カガリだ!おまえは?」
「アスラン」

次に会った時はキラを殺したと泣いていた。
哀しみと怒りで一杯で、どうしたらいいかわからなくて…カガリはふと笑った。
(何にもできない子供みたいに、俺に着替えまでさせてさ)
そんな危うい彼女の首に、ハウメアの護り石をかけてやった。
「キラを殺したのに?」
「もう、誰にも死んで欲しくない」

式場に近づくにつれ、沿道の人波がますます増えていく。
「ほら、カガリ」
笑顔が消え、手を下ろしてしまいがちなカガリをユウナが促した。

オーブでキラとあいつが再会して、一緒に戦ってくれて、親父さんや戦争について悩んで…そして、俺たちは…
「カガリに会えて、よかった」

突然腕に飛び込んできた時の髪の香りも、抱き締めた時のぬくもりも、意地を張る時の口調も、優しい声も、綺麗な笑顔も、何もかも忘れられない。
唇も…カガリは軽く拳を握り、自分の唇を覆った。

いつだって1人でムチャをする。
勝手に死のうとしたり、モビルスーツに乗ったり、戦闘に巻き込まれたり…
「私…プラントに行ってくる」

やがてリムジンが式場に到着した。
海に面したオープンテラスの式場には、首長たちはもちろん各国来賓、軍上層部、識見者や縁者たちが大勢集っている。
カガリはそのまま花や装飾品で飾られた祭壇の前で待たされた。

―― ああ、いい天気だなぁ…

そんな事を思いながら。

やがて長いドレスの裾とベールをなびかせて、ウナトに手を引かれたユウナが入場してくると、来場者からはため息や歓声が漏れた。
しずしずと歩み進んできた彼女は、ウナトからカガリに託された。
「娘を…どうかよろしくお願いいたします。カガリ様」
父親の顔をしたウナトが言うと、カガリは「わかっている」と頷いた。
カガリは自分の花嫁を見て、最後に見たアスランを思い出した。
化粧っ気もなくおしゃれもしないのに、彼女の美しさは眩いばかりだった。
(もし今、ここにいるのがあいつだったら…)
あいつの花嫁姿は、どれほど美しいことだろう。
(あの指輪、あいつのために選んだのにな)
捨ててしまうかな…俺がおまえを裏切ったと知ったら…
カガリは花嫁と腕を組み、どこまでも青い空の彼方を仰ぎ見た。

―― さよならだ、アスラン。ごめんな…俺、おまえを幸せにできなかった…

「なぁに?あなた…もしかして泣いてるの?」
隣に立つユウナが怪訝そうに聞いたが、カガリは何も言わなかった。
「なら、うれし泣きでしょうね、当然」
俯いたカガリは、祭壇に歩を進めながら歯を食いしばった。
(泣くもんか…この俺が…)

「でも、本当にいいのかしらね」
オーブ海軍の制服を身にまとったマリューがキラに尋ねた。
「こんな事しちゃって…カガリくんにも、オーブにも…」
「ええ。って言うか、もうそうするしかないし」
週末に入る前、マードックから連絡があった。
モルゲンレーテにMPがやってきて、マリア・ベルネスを拘束すると言い、彼女の物や記録を押収して行ったそうだ。
バルトフェルドのことも嗅ぎまわり、地下ドックも調べていった。
「けど、あんなとこにゃありませんからね、アークエンジェルは」
マードックはしてやったりと言わんばかりに笑った。
時同じくして屋敷にも手が伸び、もはや一刻の猶予もなかった。
彼らはアカツキ島の秘密ドックにあるアークエンジェルに集結し、この脱走に参加できる仲間を募って出航準備にあたっている。
チャンドラとノイマンはブリッジで久々に再会し、「結局集まったのは独りもんだけかよ!」と、お互いにまだ独身であることを笑いあった。
「本当は何が正しいのかなんて、私たちにもまだ全然わからないけど」
マリューの困惑顔を見て、キラが言った。
「諦めちゃったらダメでしょう?わかってるのに、黙ってるのもダメでしょう?」
キラが少し語調を強めて言った。
「テロがあって、戦争が始まって、カガリは結婚、ラクスは命を狙われる。オーブもプラントも表立っては平穏に見えるけど…こんなのおかしい、絶対」
「キラさん…」
「おかしいのに、誰もおかしいって言わない。でもその結果が何を生んだか、私たちはよく知っているはずです」
キラはきゅっと手を握り締めた。
「だから、行かなくちゃ。またあんなことになる前に」
マリューはキラの言葉に驚いていた。
(この2年間、普通に暮らし、こんな表情を見せる事なんてなかったのに)
フリーダムには近寄らず、アークエンジェルがいる場所さえ知らなかった。
(でも、キラさんなりに考えていたのね…世界がどう変わっていくかを見続けて、心の中で、ずっと…)
「ええ」
マリューはキラの肩に手を置いた。
「わかったわ、一緒に行きましょう。私も、覚悟を決めなくちゃね」
それを聞いて、キラは嬉しそうに頷いた。

「機関、定格起動中。コンジット及びAPUオンライン。パワーフロー正常」
ノイマンが手際よく調整していく。
「遮蔽フィールド、形成ゲイン良好。放射線量は許容範囲内です」
メインとなる発進担当はチャンドラとノイマンの2人だけだが、アークエンジェルもこの2年間でコンピュータ制御が行えるように改良されており、以前の1/3のクルーでも、十分運用可能になっていた。
「さてと。外装衝撃ダンパー出力30%でホールド。気密隔壁及び水密隔壁、全閉鎖を確認。生命維持装置正常に機能中」
バルトフェルドがコパイロット席に座り、ノイマンをサポートしている。
その後姿を見ながら、マリューが居心地悪そうに声をかけた。
「あのぉ…バルトフェルド隊長?」
バルトフェルドは「なんだい?」と振り返った。
マリューは立ったまま、手で艦長席を勧める仕草をする。
「やっぱり、こちらの席にお座りになりません?」
軍人としてのキャリアも、戦績も、決断力も、マリューとしてはバルトフェルドが艦長席に座るのが一番ふさわしいと思っている。
「いやいや、元より人手不足のこの艦だ。状況によっては、僕は出ちゃうしね」
バルトフェルドは両手を振って大袈裟に声をあげた。
「そこはやっぱりあなたの席でしょう、ラミアス艦長!」
それを聞いて、チャンドラとラクスが顔をあわせて笑った。
ラクスだけは軍服ではなく平服のまま、かつてミリアリアが座っていたオペレーター席に座っている。2人は口々にバルトフェルドに賛同を示した。
「そうですよ、艦長」
「アークエンジェルの艦長はマリューさんじゃないと」
「決まりだな。やはりきみが艦長だ」
マリューは困ったように笑い、「わかりました」と承服した。
「主動力コンタクト。システムオールグリーン。アークエンジェル、全ステーション、オンライン」
ノイマンが和やかな雰囲気のブリッジに、準備が整ったことを告げた。
「では行きますよ、艦長」

その頃キラはデッキで見送りにきたカリダに挨拶をしていた。
「ごめんね、母さん。また…」
「いいのよ。でも、一つだけ忘れないで」
抱き締めた娘を放し、カリダは言った。
「私はいつでもここにいて、そしてあなたを愛してるわ」
再び危険に身を投じようとする娘に、母は精一杯の言葉で見送った。
「母さん」
「だから、必ず帰ってきて」
ありがと…もう一度母の胸に抱き締められながら、キラは頷いた。

「注水始め!」
マリューがドック内への注水を急がせる。
この2年間の改修でもっとも大きな変化は、バラストタンクが設置され、潜水機能が備わった事だろう。海中戦に備え、魚雷の発射管も新たに設置されている。
(ナタルが見たら、さぞ驚くわね)
マリューは今は亡き副長を思い出した。
「ラミネート装甲、全プレート通電確認。融除剤ジェル・インジェクター、圧力正常。APUコンジット。分離を確認」
「150…180…調圧弁30。FCS及び全兵装バンク、レミテーター、オンライン。フルゲージ」
わずか5人のブリッジクルーしかいなくても、発進シークエンスは順調だった。
「メインゲート開放。拘束アーム解除」
「機関20%、前進微速」
ノイマンがいくつかスイッチを入れ、舵を取る。
(この感覚、本当に久しぶりだな…)
ノイマンは感慨深げに思い、手にしたそれをゆっくり前に傾けた。
「水路離脱後、上昇角30。機関最大!」
アークエンジェルの巨体が、膨大な海水によって浮き上がる。
「各部チェック完了。全ステーション正常」
「海面まで10秒、現在推力最大」
やがてアークエンジェルが、ドックから出て全貌を現した。
まるで新造艦のようにピカピカに磨かれ、初夏の太陽に輝いている。
そしてそのまま強力なスラスターエンジンがうなりを上げ始めた。
水しぶきが海面を覆い、まるで水のベールが艦を包み込むようだ。
艦は滑らかに水面を前進し始めた。
「離水!アークエンジェル発進!」
不沈の大天使が、再びふわりと空に舞った。

「ま、おまえさんのことだから心配はしてねぇけどよ」
フリーダムの最終チェックを終了させ、マードックが言った。
「気をつけてな」
「はい」
微笑むキラを見て、マードックは少し照れくさそうに笑った。
(しかし女の子ってのは、2年で随分変わるもんだねぇ)
最近とみに、会うたびに大人っぽく、綺麗になっていくキラを残して、(まだ嫁さんもいねぇってのに、なんだか父親になった気分だぜ)と頭を掻きながら、マードックは整備用エレベーターを降りた。
「フリーダム発進、準備できたよ」
モニターにラクスが映り、シークエンスを告げる。
「きみの大切な人を取り戻しておいで、キラ」
「うん」
キラは力強く頷いた。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます」
キラは晴れ渡った大空に飛び出した。

式場では、いよいよ結婚式が厳粛に執り行われ始めていた。
「今日、ここに婚儀を報告し、またハウメアの許しを得んとこの祭壇の前に進みたる者の名は、カガリ・ユラ・アスハ。そしてユウナ・ロマ・セイランか?」
司祭の問いかけに、2人は声を合わせて返事をした。

「アンノウン接近中。アンノウン接近中。スクランブル!」
国を挙げての式典ということで、軍は何日も前から厳重な警護を続けているが、式典会場に超高速で近づいてくる飛行物体に、軍司令本部は大騒ぎになった。
「なんて速さだ!」
司令官は海上で警戒する護衛艦群に連絡を取れと声を荒げた。
「第二護衛艦群、出港準備!」
ところが、バタバタと騒ぐ上官たちに比べ、下士官や一般兵は怪訝な表情を浮かべるばかりだ。高速で近づく機体と、その後ろからやはり高速で追う艦体…
「アンノウンって…これ、アークエンジェルだよな?」
ライブラリが照会終了を示したため、オペレーターが隣の下士官に聞く。
「ああ。それにフリーダムだ」
かつてオーブを守るために共に戦い、カガリを守って戦い抜いた艦だが、終戦後は行方がわからなくなっていた。脱走艦と脱走兵を引き渡すよう突つく大西洋連邦に返還されたとか、解体されてなくなったとか、いや、オーブに隠されているのではなど、様々な噂が流れていた。
だから彼ら下っ端にとっては、「やっぱりオーブにあったのか」という程度で、それほど驚くことでもない。フリーダムも同様だ。
「何やってんだろうな、お偉いさんたちは?」
「さぁね。連中にとっては色々ヤバいんじゃないの?こんなところにアークエンジェルとフリーダムが出てきたらさ」
そうかもな、とのんびりと通信を切り替えながら彼らは苦笑した。

「この婚儀を心より願い、また、永久の愛と忠誠を誓うのならば、ハウメアはそなたたちの願いを聞き届けるであろう。今、改めて問う。互いに誓いし心に、偽りはないか?」
式は粛々と進み、婚姻の宣言まできている。
司祭が問いかけたが、カガリは黙ったままだ。
彼が答えないとユウナも答えられない。
(何してるのよ!)
ユウナはドレスの裾に隠れてカガリの足を蹴った。

軍本部からはMVF-M11Cムラサメが追撃に出ているが、フリーダムどころかアークエンジェルにすら追いつけていない。
「ダメです!軍本部からの追撃、間に合いません!」
「フリーダ…い、いや、違う、アンノウンが来る!」
報せを受け、式場警備兵は慌てて避難体制を整えるよう告知したが、その時にはもう既にキラリと光る機影が空の彼方に見え始めていた。
(なんだ?)
カガリは海の向こうから近づく黒い点に眼を凝らした。
「避難を!こちらへ!」
「なに?どうしたの!?」
その途端、警備兵がユウナの肩を乱暴に掴み、引きずっていく。
「何するのよ、説明しなさい!」
数人の兵に力づくで連れられていくユウナが叫んだ。
「早く!カガリ様を!迎撃!」
警備兵はあたふたとランチャーやRPGを構えた。
カガリはこの騒ぎを呆気に取られて見ていた。
警備兵が参列者を誘導し、SPや兵や関係者がドタドタと式場を後にした。

しかし、カガリは動かなかった。
黒い点が近づき、そして翼をたたんで降り立ったからだ。
「フリーダム…」
誰もが突然現れたこの禍々しい巨躯に驚き、声をあげて逃げ出した。
会場は完全にパニックに陥っている。「カガリ様!」と叫びながら、警備兵たちがカガリの元に近づこうとするが、人波に邪魔される。
カガリは当然恐れることはなく、いぶかしそうにフリーダムを見つめている。
この機体に乗る者といえば、後にも先にも彼がよく知る人物しかいない。
「…キラか?」
フリーダムが巻き起こした風が収まると、カガリは一歩を踏み出した。

(まさか、あいつら…!)
ユウナは兵たちの制止を振り切り、再び会場に戻ってきた。
ベールが落ち、髪の毛はボサボサになって化粧も落ちている。
彼女は両手でドレスを持ち上げ、カガリを止めんと必死に走った。
(冗談じゃないわ!連れていかれてたまるもんですか…)
やがてユウナは、フリーダムを見上げているカガリを見つけた。
「カガリーッ!」
その声に、カガリがはっと振り返る。
その時、カガリの前にフリーダムのマニピュレーターが差し出された。
キラはモニターで、こちらを見上げて戸惑うカガリを見つめていた。
(決めるのは、カガリ自身だよ)
カガリは黙ってフリーダムを見上げた。

「おやめください、ユウナ様!」
警備兵の声が響き渡る。
振り返ると、ユウナがどこからか奪い取った銃を構えていた。
それを警備兵が必死に止めようとしている。
「何をしているの!あなたも撃ちなさい、バカ者!」
「しかし、下手に撃てばカガリ様に当たります!」
「そんな事言ってたら、カガリが…カガリが…!」
彼女のその必死な姿が、カガリの心を一瞬戸惑わせた。
国のために生きると決め、これも運命と受け入れたのなら、この女を伴侶とし、国家元首としての一生をまっとうすべきではないのか?
オーブを守り、平和な世界を作るため、よりよい世界を作るために…
(俺は今、ここで踏ん張らなきゃいけないんじゃないか?)

「どうあっても世界を二分したいか!敵か味方かと!」
「オーブはその理念と法を捨て、命じられるままに、与えられた敵と戦う国と なるのか!?」
「この国の正義を貫くって…あんたたちだってあの時、自分たちのその言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
「このまま進めば世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう」
「さすが、奇麗事はアスハのお家芸だな!」
「討たねばならんのだ!討たれる前に!敵は滅ぼさねばならん!」
「俺の家族は、アスハに殺された!」
「争いがなくならぬから、力が必要なのです」
「国はあなたのオモチャではないわ!」
「敵に回るって言うんなら、今度は俺が滅ぼしてやる!」

怒りと哀しみで一杯の、シンのようなヤツを作らないために…
(俺はそう思って、オーブの獅子の後を継ぐと決めたんじゃないか!) 
カガリはゆっくりと体を反転させ、フリーダムに背を向けようとした。
キラがその動きを見てはっとする。
(カガリ…きみは…)
カガリはもう一度コックピットを見て、寂しそうに、哀しそうに笑った。
(キラ、ごめん…俺、やっぱり…ここで…)
しかしその時キラは、制止する警備兵を銃で殴りつけたユウナが、銃を構えたまま走ってくる事に気づいた。ハイヒールを脱ぎ捨て、裸足のまま必死に走る彼女が向けた銃口は、なぜかそのまま真っ直ぐカガリの背中を狙っている。
キラは我が眼を疑い、息を呑んだ。
(…まさか、カガリを!?どうして!?)
ユウナはカガリの背中を見つめていた。
(ふざけるんじゃないわよ!逃げようったってそうはいかないわ!)
走りにくいドレスの裾をまくり、確実に仕留められる距離まで走る。
花婿を守ろうと果敢に戦った花嫁の健闘むなしく、オーブの国家元首はフリーダムを操る不遜な誘拐犯に運悪く「射殺されてしまう」のだ…
(この混乱の中、手元が狂うなんてよくあることよ)
むしろこれは、彼女の計画にとって願ってもない「好機」だった。
ユウナは息を切らして走りながら、嬉しそうに笑っていた。
それは彼女に対面しているキラにしか見えない、恐ろしい鬼の形相だった。
(この国さえあれば、あんたなんか、あんたなんか別に…)

―― いらないのよ!!

発砲の瞬間、カガリとフリーダムの姿はそこから消えていた。

立っているのがやっとのすさまじい暴風が収まると、静寂が戻った。
式場にはヒラヒラと装飾の花や紙ふぶきが舞い、呆気に取られた警備兵や逃げ切れなかった客たちが、一体何事が起きたのかと絶句していた。
ズタボロになった花嫁は銃を持ったままペタリと座り込んでいる。
(何?何が起きたの?どうしちゃったの?)
ユウナはバカみたいに口を開けたまま、しばらくそうしていた。
…確かに、誰もが一生忘れられない結婚式になった…

「降ろせ、バカッ!この野郎、キラッ!!」
恐らく、キラでなければ誰にもできないだろうと思うほど素早く、かつ傷つけることなく、マニピュレーターがカガリを掴んでいた。
カガリはフリーダムの手の中で「降ろせ、離せ、帰せ」と騒いでいる。
(こんなところで離したら死んじゃうじゃないか)
キラはこのままアークエンジェルに戻る予定だったのだが、レーダーにいくつか機影を見てとると、考えを改めた。
そしてマニピュレーターを動かしてできる限り胸部に近づけると、コックピットハッチをスライドさせた。カガリはキラを見て叫ぶ。
「キラ、おまえ…!!」
「カガリ、ちょっとごめん」
まるでクレーンゲームでもするように、キラはカガリを見ながらマニピュレーターを微調整すると、ちょうどいい位置に動かした。
カガリは動かされるたびに「うわっ」と叫び、「大事に扱え」と喚く。
(離せって言ったり大事にしろって言ったり…)
キラは元気そうなその姿に安心し、笑いながら手を差し伸べた。
「はい、どうぞ、若様」
「…キラ…」
カガリはその手を取らずにダイレクトにコックピットに飛び込んだ。
そしてキラの頭をヘルメットごとポカリと殴る。
「いたっ!」
「何してんだ、おまえはっ!」
キラはさらに怒りをぶつけようとするカガリを制した。
「待って、カガリ」
レーダーに機影が近づいている。ムラサメだ。
「ちょっと黙ってて。つかまっててよ!」
キラはスピードを上げ、大きく旋回した。
「うわっ!?」
カガリは遠心力で揺さぶられたが、以前のザクでの教訓があるので、頭をぶつけないよう狭いコックピットの隙間に体を沈めた。

スピーカーからはオープンチャンネルで通信が入る。
「こちらはオーブ軍本部だ。フリーダム、ただちに着陸せよ」
もうアンノウンと言うのは諦めたらしく、オペレーターが呼びかける。
キラはムラサメが威嚇射撃を行ってくるので、それを避けるため、急旋回を繰り返した。カガリがいるとわかっているせいか、あちらも本気では撃ってはこない。だがキラはそれ以上に、オペレーターの声もやけにのんびりしているように感じ、軍本部自体が本気でカガリを取り戻そうとはしていないような気がした。
(もしかしたら、オーブの人たちも…)
「だけど…!」
キラはサーベルを抜くと、いきなり反転した。
「なっ…!?」
戻ってきたフリーダムに驚いたムラサメのパイロットが慌てて舵を切る。
「大気圏内飛行だぞ!?どうしてあんな反転が…」
その時にはもう、フリーダムのサーベルが左翼の先を切り裂き、ムラサメは派手な黒煙をあげながら海へと滑空を始めていた。
後から追いついたもう一機も尾翼を切られて同じ運命をたどり、ひょろひょろと護衛艦群が待つ海の真ん中へと落ちていく。
「…ごめんなさい」
「謝るなら最初からやるな!」
キラが小さく呟くと、それを聞いたカガリが隅っこで怒った。

「4時の方向にモビルスーツ。フリーダムです!」
「本部より入電。フリーダムは式場よりカガリ様を拉致。対応は慎重を要する」
第二護衛艦群司令トダカは、その通信を聞いて「はぁ?」と声をあげた。
「なんだって?フリーダムが、カガリ様を?」
何がなんだかわからんな…トダカが眉をひそめた。
「フリーダムって、なんで今更?」
「カガリ様をさらったって?」
「じゃ、セイランとの結婚式はどうなったんだ?」
ブリッジにもさわさわと動揺が広がった。
「撃ち方待て!」
砲手が司令の指示を待つため、発砲を中止した。
視認でもフリーダムを捉えたところで、その向かう先にアークエンジェルが現れたため、ブリッジはさらにどよめいた。
「アークエンジェル!?」
カガリもその姿を見て思わず声をあげた。
「ほう、やっぱりオーブにいたのかね」
トダカは面白そうに呟いた。
「包囲して抑え込み、カガリ様の救出を第一に考えよとのことです」
司令本部からはカガリを奪還するよう指令が入っている。
しかしトダカはうーん、と唸ったまま動かず、見ている間にもフリーダムはアークエンジェルのデッキに吸い込まれていった。

「フリーダム収容完了。カガリくんも無事だ」
ラクスが着艦確認を告げると、バルトフェルドが陽気に言った。
「よーし、上出来だ!では、行きましょうか、ラミアス艦長」
マリューは微笑んで頷き、指示を下す。
「ベント開け!アークエンジェル、急速潜航!」

「トダカ一佐!アークエンジェル、潜航します!」
しかしトダカは動かなかった。
そのまま潜航していくアークエンジェルを見つめている。
「これでは逃げられます!攻撃を!」
「対応は慎重を要するんだろう?」
トダカは鷹揚に答えた。
「カガリ様がおられるのに、攻撃などできんなぁ」
副長は黙り込み、ブリッジクルーも皆、可笑しそうに口元を緩めた。
(ま、若様のお相手がユウナ様じゃな)
(可哀想だよ、まだあんなに若いのにさ)
(逃げたくもなるよな、あの人からは)
トダカはカガリを連れ去ったアークエンジェルが消えた海を眺めた。
国のため、世界のためと粉骨砕身し、もがき苦しむ彼を見てきたのだ。
爪を剥がれ、牙を抜かれた獅子が鎖に繋がれる姿を見るのは忍びなかった。
他力本願だが、前大戦でカガリと共に戦った「仲間」である彼らなら、まだ力弱い彼を預けても、少なくともその意思を折りはしないと思えた。
(そしていつか必ず立派な指導者に成長されて、帰ってくると信じたい)
トダカは彼らが去った海域に向けて敬礼した。
「頼むぞ、アークエンジェル。カガリ様とこの世界の末を」

「逃げられたですってぇ!?一体どういうこと!?
護衛艦群は何をしているのよ!追いなさいっ、早く!」
ボロボロのドレスとボサボサの頭のままでぎゃんぎゃん怒鳴りつけるユウナの剣幕に、警備兵たちはたじたじとなるばかりだった。
ユウナは鼻息荒く振り返り、忌々しいフリーダムと花婿が消えた空を睨んだ。

―― あのくそガキ!私にこんな恥をかかせて…許さないわ!絶対に!
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制作裏話-PHASE14-
本編放映時は「アホらしい」「ありえない」とあちこちで散々怒られましたが、私はこの乙女チック★ドラマチック展開を心から楽しんでいました。そもそもターンAを見ると「こういうガンダムもアリじゃん」と心を広く持てますね。

何しろ本放映当時は、カガリの信じられないほどのウジウジぶりとバカさ加減に呆れ、アスランの「ザフトに戻る」という行動原理がさっぱりわからず、主人公のシンが活躍せず、イマイチ魅力のあるキャラに描かれていないとなれば、そりゃ「行動あるのみ!」のキラ様が格好よく見えるってもんです。(まぁフリーダムが格好いいとも言いますが)

まず大きな改変は、男女逆転により指輪を返すというイベントがないので、キサカとマーナに活躍してもらったことです。キサカは本放映ではアスラン救助という「ジブラルタル一本釣り」のためだけに出てきて仰天させられましたが、初めから彼がカガリの傍にいない(逆転では『いられない』ですが)理由を示しておけば、そんな唐突でもなかったと思うのです。

情報に通じたキサカが、セイランが彼らを調べ上げていること、カガリを脅したであろうこと、さらには優秀な彼のことですから先を読んで、ユウナが約束を反故にして彼らを片付けに来るであろう事を伝えるのは不自然ではないと思いますし、むしろキラたちの行動を後押しすると思います。

本編ではキラたちの「花嫁強奪」の理由はなんだかイマイチよくわからないものでしたが、逆転のキラはたどたどしいながらもちゃんと意思を示し、意見を述べる子なので、「この結婚が国の安定とどう繋がるのかわからない、おかしい」と言わせ、さらに自分たちを庇うため、脅しに屈して好きでもない相手と結婚する彼を「助ける」と決めます。彼が自分の大切な兄であり、親友の想い人であることも、逆転のキラはちゃんとわかっています。キラがこれくらいでいいから喋ったら、種という作品はもう少しわかりやすかったろうと思うんだけどなぁ…

この回は泣いても笑ってもシンは登場しませんし(確かスタッフロールのキャストにも出ない)、アスランも回想だけですから、ひたすらアークエンジェルです。ノイマンやマードックの再会から始まりましたが、トノムラ、パル、サイがいない理由は創作してみました。頭のいいサイは、私の中では大西洋連邦に国費留学しているという設定です。

本編ではベソベソ泣いているだけだったカガリですが、さすがの逆転のカガリも望まない結婚にしょげまくっています。でも私としては一応「自分で結婚すると決めた」本編のカガリより、「脅迫されて結婚しなければならない」逆転のカガリの方が同情の余地ありだと思いますけどね(実際そのための演出ですし、その方が物語としても破綻がない)

回想で占められたシーンを文章で表現するのは難しいのですが、カガリ視点からアスランとの出会い、キラの死を挟んだ再会、想いを告げあう種ラストから、今に至るまでを思い出してもらいました。

そして自分で書いていてお恥ずかしいのですが、カガリの「さよならだ、アスラン」は胸に詰まりました。
彼女を諦めなければならないこと、その覚悟と取り戻せない後悔が、国を焼かれたあの時以来、大切な父を失ってすら泣く事のなかったカガリを泣かせます。このシーンのために「逆転のカガリは泣かない」としてきたので、ようやく本懐が遂げられました。
それにこのあたりは、本編の2人が破局したままあやふやに終わっているので余計に沁みました。

また大きな改変としては、カガリがキラに問答無用であっという間にさらわれてしまった本編と違い、逆転のキラは、再びフリーダムに乗る時にラクスが自分の意思を尊重したように、きちんとカガリの意思を尊重していることです。

そして、カガリもまた自分の「すべき事」が何かを考え、自分を守ろうとする(ように見えた)ユウナを見て、国を守るため、自分を捨ててここに留まろうと決心します。これはカガリの後の成長を描く上で、どうしても書きたかったことでした。

けれど、キラは見てしまうのです。
カガリと結婚するはずのユウナが、カガリに銃を向ける恐ろしい姿を。

これは、後にアスランと会ったキラが、「今はカガリをオーブには返せない」と示すはっきりした理由を作る必要があったからです。
私は本編PHASE24,25でアスランのあまりのごり押しぶりに憤ったので(キラは男の子らしく結構強く言い返してくれたので好感度上がりまくりでしたが、カガリを心配するより先に帰れ帰れと怒鳴りつけるアスランの姿はマジで腹立たしかったわー)、あそこでキラとカガリにアスランへの「対抗手段」が欲しいと思っていました。

ハイネの死があったからとはいえ、理由も聞かず、相手と話し合う気もない本編のアスランには本当に幻滅したのに、反論すべきキラとカガリにも肝心の「オーブに帰らない理由」がないのですから話になりません。
単に「キラとアスランを会わせる」シチュエーションにばかりこだわっているから、こんな間抜けな設定と構成になるんですよ。ここは互いが対等に話しあってこそのシチュなのに、ただ「親友対決」をやりたいからって暴走もいいところです。

しかし逆転のような展開なら、悪女としてのユウナの野望も、カガリがさらわれる理由も、キラがカガリをオーブに返せないわけも全て飲み込めて一石二鳥三鳥です。

それにカガリがオーブ脱出を躊躇した事で、為政者として責任を持ち、成長しようとする姿勢を示す事もできますし、トダカもカガリの力不足を知りながら、今はカガリを潰しはしない仲間と共に行く事を奨める本編の展開に持って行けました。

とはいえ男女逆転ゆえ、残念ながらキラがカガリを抱きとめて「うわ、すごいね、このドレス」という仲良し双子のらぶらぶシーンはありません。
けれどこちらも頭をポカリとやる相変わらずの仲良し兄妹ぶりで対抗しています。
何よりキラと合流した途端、急に元気になったカガリが微笑ましい。
になにな(筆者) 2011/07/20(Wed)22:47:45 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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