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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「ニーラゴンゴ、発進しました」
僚艦としてついたボズゴロフ級の発進をアーサーが告げた。
「こちらも出ましょう。ミネルバ、発進する。微速前進」
カーペンタリアを出て南太平洋からインド洋、ペルシャ湾、そしてスエズの紛争を支援後、地中海に抜けてジブラルタルへ…
(相当な長旅ね)
タリアは海図を見ながら、先に待つものを想う。
けれど彼女たちは知らなかった。
彼らを虎視眈々と狙い、待ち伏せている者たちがいる事を。
彼はニヤリと笑って呟いた。
「ようやく会えたな。見つけたぜ、子猫ちゃん」

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「オーブコントロール。こちら貴国へ接近中のザフト軍モビルスーツ。入港中のザフト艦ミネルバとの合流のため、入国を希望する。許可されたし」
大気圏降下後、MA形態のセイバーを駆ってオーブ領空に接近したアスランは、着陸許可を求めるためオーブ軍司令本部へのチャンネルを開いた。
しばらくプラントにいた彼女は事情を知らず、情勢に疎かった。
オーブ議会が条約締結を決議したことも、つい先日のアークエンジェルとフリーダムによるカガリ・ユラ・アスハ代表拉致事件など知りもせず、従ってオーブ軍が警戒を厳にしているなど思いもよらなかった。
「今度はなんだ?こんな時に!」
軍港では接近する飛行物体を捉えて緊急警報が鳴り響き、パイロットたちが慌てて自分の機体へと向かっていた。
「ザフト機!?攻撃か!? 整備兵、発進急げ!」
準備のできたムラサメが順次飛び立っていく。
率いているのはベテランパイロットのババ一尉であった。

自分がそんな騒ぎを起こしていることも知らず、アスランのコールは続く。
「オーブコントロール、聞こえますか?オーブコントロール」
やがてレーダーに機影が入り、見る見るうちに近づいてきた。
(…ムラサメ)
熱紋照合され、見慣れた機体が視認された途端、セイバーのアラートが鳴った。
(ロックされた?)
アスランは自分が照準として捉えられたと知って驚いた。
恐らく威嚇だろうとは思うが、念のため攻撃を避けるため旋回する。
「オーブコントロール!どういう事ですか?」
その途端、ムラサメのビームがかすめ、本気か?と少し緊張する。
「こちらに貴国攻撃の意志はない。何故撃ってくる?オーブコントロール!」
「寝ぼけたことを言うな!」
しかし管制からの答えはなく、代わりにムラサメから通信が入った。
「オーブが世界安全保障条約機構に加盟した今、プラントは敵性国家だ」
アスランは驚いて息を呑んだ。
「我が軍はまだザフトと交戦状態ではないが、入国など認められるはずもない」
(大西洋連邦との同盟に合意した?)
アスランは愕然とした。
(そんな…カガリは首長会を抑えられなかった…?)
ムラサメは明らかな攻撃意思を持っていた。
アスランは大きく旋回してビームを避けながら通信を続けた。
(カガリに連絡をとって事情を聞かなければ)
次にチャンネルを開いたのは軍司令部ではなく、行政府だった。
「行政府!こちら市民番号2500474C、アスハ家のアレックス・ディノです」
ババたちはその間も攻撃を仕掛けたが、アスランの回避は完璧だった。
「代表へ繋いでください!」
通信を続けながら舵を取る彼女を捉えきれず、ババが舌打ちする。
「チッ…早い…!」

やがて行政府からも回答があった。
「こちらは行政府だ。要望には応じられない」
「緊急を要する事です。お願いします!」
アスランは必死にカガリを呼ぶよう頼んだが、返事は冷たかった。
「残念だが不可能だ」
「なぜです!?」
そう、誰であろうとも、今はカガリを呼び出す事は不可能なのだ。
だがそんな事とは知らないアスランは不安で一杯になる。
(カガリ…どうしたの?何があったの?)
「どういう作戦のつもりかは知らないが、既にいもしないミネルバをダシにするなど、間抜けすぎるぞ!」
ババが撃っても撃ってもかすりもしないビームに苛立ちながら言った。
アスランはその言葉にまたしても驚いた。
(ミネルバがいない!?)
「オーブ軍を舐めるな!」

オーブは自分を受け入れる気はない上に、このスクランブル。
アスランは交渉を諦め、ミネルバを追う事にした。
(そのためにはこのムラサメを墜とさず、振り切らなければ)
もちろん、キラのように「不殺」がモットーだからではない。
プラントとオーブの間に無用の摩擦を生まないようにだ。
アスランは後背部のプラズマビーム砲を起動すると、素早く向きを変えてムラサメをロックした。ムラサメは針路を変えたが、それを敢えて追い撃つ。
「ババ一尉、これは…!うわぁ!」
「ぬぅ、あいつ…!」
翼をかすめ、ムラサメは煙を吹いた。ババ一尉があっという間の味方の撃墜に驚いて向き直ると、セイバーは既にはるか彼方へ飛び去っていた。
「カガリ…一体…」
アスランは後ろ髪を引かれながら、カーペンタリアへの航路を急いだ。

アークエンジェルに無事着艦したキラとカガリは、さっそくコックピットを降りる降りないでもめていた。
「俺は絶対に降りないぞ!今すぐオーブへ戻るんだ!」
キラは「そんな事言わないで」となだめるのに苦労していた。
マードックと整備員は、フリーダムのコックピットを見上げながら、聞こえてくるカガリとキラの押し問答に苦笑している。
やがてこの騒ぎを聞いたラクスがやって来た。
「おーい、カガリくん。そんなところにいないで、ブリッジで話そう」
ラクスの姿を見て、カガリはようやく渋々ながらラダーで降りてきた。
「一体どういう事なんだ!こんなバカな真似をして!」
ラクスはブリッジに怒鳴り込みそうな勢いの彼をまぁまぁとなだめる。
「タキシードも素敵だけど、ちょっと動きづらそうだよ」
「俺の服なんかどうでも…」
「とにかく、シャワーを浴びて着替えたら?」
そう言うとラクスは抵抗するカガリの背を押し、士官室へと案内した。
カガリはカッカしながら部屋に入り、しばらくしてから軍服に着替え、それでもまだカッカしながら出てきた。
「…あなた方まで!?」
そしてブリッジでマリューとバルトフェルドを見て驚き、また怒る。
「あなたはまともな人だと思っていたがな、ラミアス艦長!」
「おいおい、それじゃまるで俺はまともじゃないみたいじゃないか」
困ったように微笑むマリューの横で、バルトフェルドがニヤニヤしている。
「当たり前だ!あんたがまともなわけないだろ!」
カガリの怒りは収まらない。
「結婚式場から国家元首をさらうなど、国際手配の犯罪者だぞ!?」
カガリは時間が経てば経つほど事の重大さに焦り始めている。
(こんな大事になって、首長たちは、国民は、議会は、軍は…?)
それに、やりかけたままの政務、会議、約束、会見、面会…こうしてここで怒っている間にも、やるべき事がたまっていく。
「正気の沙汰か!?」
マリューやバルトフェルドが口を開こうとするのだが、カガリの剣幕に気圧されて糸口がつかめない。キラももはや困ったように見ているだけだ。
怒りをぶちまけるカガリに、ラクスがいつものように穏やかに言った。
「カガリくん、落ち着いて」
ラクスの言葉にだけは、カガリもさすがに少し抑え気味の言い方になる。
「…こんなことをしてくれと…誰が頼んだんだ!」
そこでバルトフェルドがようやく口を開いた。
「いや、まあねえ…それはわかっちゃいるんだけどね…」
カガリが部屋で着替えている間に、キラはカガリを撃とうとしたユウナ・ロマ・セイランのことをマリューたちに話していた。
「花嫁から命を狙われるなんてぞっとしないね」
ラクスは肩をすくめ、バルトフェルドもうんうんと頷いた。
「ま、だけど結果的には間に合ったし、連中の腹も読めたわけだし」
よかったんじゃないのか?と言われても、キラは浮かない表情のままだった。
カガリがあれだけ大切に想っている国の人間が、彼自身の命を奪おうとした…そんな事をカガリが知ったらと思うと、どうしても気分が沈んだ。
「今はとにかく、カガリをオーブには返せない。いえ、返したくない」
「そうだね。まずはあちらの出方を見る方がいいだろう」
そんなキラの想いを汲んだラクスが方針を提案した。
そしてしばらくはカガリに、ユウナが彼の命を狙った事は言わない事にした。

「でも、仕方ないじゃない」
けれど実際にユウナの姿を目の当たりにしたキラは、我慢できなかった。
(もしあのままだったら、カガリは、カガリの命を狙うような人と、ずっと一緒に…夫婦として生きていかなきゃいけなかったなんて)
キラは高揚して笑う彼女の恐ろしい表情を思い出し、ブルッと震えた。
(それも、ウズミさんが命がけで残したオーブじゃなく、理念を捨て、誰かの言いなりになって、誰かが敵と決めた相手と盲目的に戦う国で)
キラには納得できない。どうしてそんな事になるのかわからない。
「こんな状況の時に、カガリにまでバカなことをされたら、もう、世界中が本当にどうしようもなくなっちゃうもの」
「…バカなこと?」
カガリがゆっくりキラの方に向き直った。
琥珀色の眼が怒りに燃えている。
キラは負けるもんかと紫の瞳で睨み返した。
「キラ」
ラクスが優しい声でなだめると、キラは一呼吸置いた。
「大丈夫だよ、ラクス」
そしてもう一度カガリを見つめる。
「だって私は、カガリに間違ってるって言うために来たんだから」 
「なにが…なにがバカなことだって…間違ってるって言うんだ!」
カガリがキラに詰め寄った。
「俺はオーブの代表だぞ!俺だって色々悩んで…考えて…それで!」
「それで決めた、大西洋連邦との同盟やセイランさんとの結婚が、本当にオーブのためになると、カガリは本気で思ってるの?」
あーあ、とバルトフェルドは額を叩き、マリューも固唾を呑んでいる。
キラはカガリの剣幕にひるむことなく、いつになく強気だ。
カガリは一瞬黙り込んだが、すぐに言い返した。
「…あ、当たり前だ!でなきゃ誰が結婚なんかするか!」
カガリの脳裏には、首長たちを説得できなかった自分の力不足と、今まさにここにいる彼らを守らねばならなかった事情が交錯した。
結婚すると決めてからのあの脱力感は、思い出すだけで怖気が立つ。
けれど、国家元首として下した決断を簡単に譲るわけにはいかない。
「もう、しょうがないんだ!ユウナやウナトや首長たちの言うとおり、オーブは再び国を焼くわけになんかいかない!」
(そして二度と、シンのようなヤツを作り出しちゃいけない)
カガリは怒れる赤い瞳を思い出して言った。
「そのためには、今はこれしか道はないじゃないか!」
「でも、そうして焼かれなければ他の国はいいの?」
カガリのその言葉を聞いて少し驚いたキラが聞いた。
「もしもいつか、オーブがプラントや他の国を焼くことになっても、それはいいの?オーブは他国を侵略しない。他国の侵略を許さない。そして、他国の争いに介入しない…カガリが教えてくれたんだよ?」
キラは負けないくらい大きな声で言った。
「オーブはそのために、守りを、力を持つんだって!」
「いや…それは…でも…」
「ウズミさんの言ったことは?」
カガリは再びぐっと言葉に詰まる。
「オーブにとって、世界は敵と味方に二分されてしまうものなの?」
バルトフェルドもマリューも、いつもはさほどおしゃべりではないキラのこの演説に少し驚いていた。ラクスも面白そうに2人を見ている。
「それは…もちろん…」
カガリがむすっとしたまま言うと、キラはカガリのそばに歩を進めた。
「カガリ、カガリが大変なことはわかってる」
小さなキラが、カガリを見上げながら言った。
「今まで何も助けてあげられなくて、ごめんね」
「そんなこと…」
カガリは突然胸が熱くなり、押し黙ったまま視線を逸らした。
「それに、私たち知ってるんだよ」
キラは続けた。
「カガリが、私たちを守るためにセイランさんとの結婚を受けたって」
「なっ…!」
それを聞いたカガリの顔色がさっと変わる。
「…違うっ!そんなことは…!」
「キサカさんが教えてくれた」
キラはポケットからデータメディアを取り出し、カガリの手に握らせた。
「それに、このメッセージを届けてくれたのはマーナさん」
「…マーナが」
「2人とも、カガリのことをとてもとても心配してたよ」
キラの言葉に、カガリは二の句が接げなかった。
「ごめんね…それから、今までホントにありがとう、カガリ」
「キラ」
カガリはにっこりと笑うキラを見つめ、それからブリッジの皆を見回した。
微笑むマリュー、眉を持ち上げるバルトフェルド、面白そうに見ているノイマンや、肩をすくめるチャンドラもいる。皆、懐かしい顔ぶれだ。
(皆、俺を助けるために…?バカなことをさせまいと…止めようと…)
カガリがラクスを見ると、ラクスはまるで今、自分が考えている事がわかってでもいるように、微笑みながら頷いた。

「でも、今ならまだ間に合うと思ったから。私たちにも、まだ色々なことはわからない。でも、だからまだ、今ならきっと間に合うと思ったから…」
「そうか」
カガリはふっと笑った。
「間に…合ったのかな…?俺にも、まだよくわからないけど」
「カガリ?」
カガリは少し黙り、そして少し拗ねたように視線を落とした。
「俺、今…正直言うと、心の底からほっとしてる」
彼の口から漏れたその言葉に、皆少し驚いた。
「でも、そんな自分がいやなんだ。国を離れて、責任を投げ出して、だけど実はほっとしてるなんて…そんなの、俺…最低じゃないか」
キラが思わず何か言いかけたが、カガリの笑顔を見て口をつぐむ。
「だけどそれ以上に、キラたちといられてよかったと思ってる」
カガリはキラを、そこにいる全員を見て照れくさそうに笑った。
危険を冒して自分を正しに来てくれた心強い仲間たち。
遠く離れていても想っていてくれる、家族同然の人たち。
少し前まで、自分はもう正真正銘1人ぼっちだと思っていたのに、そうではなかった事が嬉しい。カガリの疲れて乾ききった心に、彼らがもたらした優しく、温かいものがゆっくりと沁みていく。
ことに、キラの想いは痛いほど伝わってきた。
終戦後は近づこうともしなかったフリーダムに乗って、助けに来てくれたのだ。
それは並大抵の決意ではなかっただろう。
(ずっと…俺が守ってきたキラが…)
カガリが見つめると、キラは微笑んで言った。
「みんな同じだよ。選ぶ道を間違えたら、行きたい所へは行けないよ」

―― でも、同じところに向かっていれば、いつか同じところにたどり着く

「そうでしょ?カガリ」
カガリはキラのその言葉にはっとした。
(同じ場所に行くためには、何通りもの「別の道」がある)
ウズミが言った言葉が、自分がキラに言った言葉が、鮮やかに蘇った。
「だから、カガリも一緒に行こう」
「…キラ」
「私たちは今度こそ、正しい答えを見つけなきゃならないんだよ」
(そのために再びフリーダムに乗ったのか…答えを…探すために)
カガリは胸が一杯になった。
「おまえ…」
「きっとさ。逃げないで…」
そこまで言ったキラは突然「わっ!」と叫んだ。
カガリがキラを力一杯抱き締めたかと思うと、勢いよく振り回したからだ。
「…俺に向かって生意気なこと言うな!!」
小柄なキラをひとしきりを振り回すと、カガリはラクスたちを振り返った。
カガリの瞳はもう怒っていない。むしろ昔のように生き生きとした輝きを取り戻していた。バルトフェルドがそうそうと頷いた。
「やっぱりきみの眼はそうでなくちゃな、少年!」
マリューもほっとして微笑み、カガリは彼らに向かって言った。
「こうなったらおまえたちにも、この責任は取ってもらうからな!」 
一生懸命説得していたのにいきなりホールドされ、散々振り回されて眼を回したキラが恨めしそうにカガリを見たが、カガリは「ふん」と勝ち誇ったような顔をして笑っているので、悔しくてたまらない。
「もちろん。これで僕たちは一蓮托生、運命共同体だ」
そんな2人を見て、ラクスも笑って答えた。
「さて、ではさっそく情報交換と行こうか、カガリくん」

カーペンタリアでは無事に入港したミネルバの整備が進んでいた。
何しろ基地の沖合いを完全に封鎖していた地球軍を全てオーブに引きつけた形になり、しかもそれをたった一隻で突破した艦だ。
ミネルバの入港はまさにお祭り騒ぎで、クルーは皆驚かされた。
その功績から叙勲が申請され、基地にはたった一人で大活躍をしたザフトレッド、シン・アスカの名は広く知れ渡った。
シン自身は特に変わりなく、相変わらずインパルスの整備やトレーニングに励んでいたが、ルナマリアにはどうにも面白くない。彼女もその自慢のスタイルやルックスで基地の男性兵士の人気を一身に集めているのだが、一方でシンが綺麗な女性兵士に声をかけられている姿を見るたび、不機嫌になった。
「何よ、シンったら!いい気になっちゃってさ!」
「そんな事ないと思うけどなぁ…」
姉の買い物につきあって荷物を持たされているメイリンは、顔をあわせれば女の子の話ばかりしているヨウランやヴィーノのことを思い出した。シンもレイもそういう浮ついたところはなく、しかもシンはけんもほろろなレイよりは女性に対して礼儀をわきまえ、それなりに丁寧に応対している。
(うん、やっぱりシンは、あいつらとは全然違うと思うな)
その「あいつら」はといえば、珍しくミネルバの今後について話していた。
「俺たち、これで宇宙に戻れるのかな?」
「どうなってんのかなぁ、プラント」
ヴィーノが少し不安そうな顔で言った。
「核なんか撃たれちゃって、おふくろたちが心配だよ」
「彼女のこととか?」
ヨウランが混ぜっ返し、やはりそっちの話になっていたのだが。

やがてルナマリアとメイリンがハンガーに戻ってくると、見た事のない機体がちょうど着陸し、格納されたところだった。
基地やミネルバの整備兵たちがわらわらと機体に群がっている。
その人波の上に見える赤い機体を見て、2人は顔を見合わせた。
「何なの、この新型…一体誰?」
2人も人ごみを掻き分けて前に進んでいった。
皆、ルナマリアが赤服と見て取ると前を開けてくれる。
ルナマリアは見慣れないモビルスーツをしげしげと観察した。
ショルダーが広がり、腰部にあるのはビーム砲だろうか。
ライフル、頭部CIWS…どれを見ても見知らぬ機体だ。
やがてコックピットが開き、搭乗者がラダーを使って降りてきた。
赤紫色のスーツを着たパイロットは身軽に地面に降り立つと、ヘルメットを取って息をついた。長い藍色の髪がはらりと落ちて、いつもながらその稀なる美貌が周囲の人を驚かせ、ざわめかせた。
(ア…アスラン・ザラ!?)
そんな彼女を見てメイリンの心臓は倍以上に鼓動を打ち始めた。
(どうして?なんで?彼女がここに…嘘でしょう?)
嬉しいとかよかったなどと思うより、息がつまり、眩暈がしそうだった。
「アスランさん!?」
一方でルナマリアが驚いて声をあげる。
アスランはそれに目礼で答え、改めて敬礼しながら言った。
「認識番号285002、特務隊FAITH所属アスラン・ザラ。乗艦許可を」
それを聞き、ルナマリアをはじめそこにいた全員が敬礼を返した。
(FAITHって…うそぉ?)
ルナマリアは彼女の胸にあるFAITHの証をまじまじと見た。
「なぁ、さっきの…」
ちょうどその時、同じく赤服に道を開ける整備兵の間を縫ってシンがやってきた。
彼もまた、基地上空に見慣れないモビルアーマーがやってきて、モビルスーツに変形してから着陸した姿を見て追ってきたのだ。
そしてそこにパイロットスーツ姿のアスランを見つけて驚いた。
「あなたは…!」
アスランは軽く微笑んだが、驚きが大きいせいもあり、シンの表情は硬かった。
「なんなんだ、これ?一体どういう事です?」
「口の利き方に気をつけなさい。彼女はFAITHよ」
ルナマリアがシンの耳にコッソリと耳打ちする。
その距離がまたいつものように近かったのでシンはビクッと身構えた。
「FAITH?へぇ…何でまた…?」
「シン!敬礼は?」
ルナマリアが肘をつつく。
「ああ…」
シンは敬礼しようとして、自分が買い物袋を持っていることに気づいた。
持ったままでは敬礼ができないので振り返り、メイリンにそれを渡す。
「え?ええ…!?」
いきなり荷物を持たされたメイリンは不満そうに口を尖らせたが、シンは気にもかけず、外れている自分の襟のボタンをはめ直すと、きっちり敬礼した。
アスランはそれを見てかすかに笑った。
「艦長はブリッジですか?」
「ああ、はい。だと思います」
アスランが尋ねると、年長のマッド・エイブスが答えた。
そして「誰か、ご案内を」と後ろを見回してブリッジ要員のメイリンに気づくと、「ホーク、艦長の元にお連れしろ」と命じた。
ところがメイリンはその途端、緊張でカチンコチンに固まってしまった。
「あ、あの…あの…僕…」
アスランはブリッジで見知っている彼を見て、「ああ」という顔をしたが、メイリンは思わず、「ごっ、ご案内します…姉がっ!」と叫んでしまった。
「はぁ!?私!?」
突然指名されたルナマリアがびっくりしていると、メイリンはそのまま「すっ、すみません、失礼しますっ!」と駆け出していってしまった。
後には呆気に取られたルナマリアとアスランが残された。
「ザフトに戻ったんですか?」
騒ぎが収まると、シンが歩み寄ってアスランに尋ねた。
「そういうことに…なるわね」
しかしそのまま自分の隣を歩き始めたシンに「何でです?」と聞かれると、アスランは口をつぐんだ。
「何で私が…」と、ややふくれっつらで「ルナマリア・『ホーク』です」と今さらながら自己紹介したルナマリアが、女性用のロッカールームを示した。
「着替えはこちらで。シン、あなたはここまでよ」
シンは足を止め、ルナマリアと共に去っていくアスランの背中に問いかけた。
「オーブのこと、もういいんですか?」
アスランは何も答えなかったが、シンは続けた。
「オーブもあいつも、その程度だったんですか、あなたにとっては」
振り返らない彼女の背中を見送り、シンはやや苛立ちながら踵を返した。

(同じ女性で、同じ赤服なのに、なんだか全然印象違うなぁ)
ルナマリアは赤服に着替えたアスランの姿をしげしげと見た。
生真面目に着こなされた制服は正直面白みはないが、その分彼女を凛と見せている。
(やっぱり、このミニスカがいけないのかしら?)
ルナマリアは自慢の脚線美を惜しげもなく見せる短いスカートを見た。
「でも、なんで急に復隊されたんですか?…な~んて、とっても聞いてみたいんですけど、いいですか?」
エレベーターを待ちながらいたずらっぽく笑うルナマリアを見て、アスランは困ったように答えた。
「復隊したというか、まぁ…ちょっとプラントに行って、議長にお会いして」
説明するのは大変なので、アスランはややごまかし気味に聞いた。
「それより、ミネルバはいつオーブを出たの?私、何も知らなくて…」
「オーブへ行かれたんですか!?」
ボタンを押しながらルナマリアが心底驚いたような声をあげた。
オーブの手ひどい扱いと、命を失いかねなかった激しい戦闘を思えば無理もないが、ルナマリアは「大丈夫でした?」と心配そうに聞いた。
「スクランブルかけられたわ」
「そうでしょう」
ルナマリアは眉をひそめる。
「なんだか、シンが怒るのもちょっとわかる気がします。めちゃくちゃですよ、あの国。オーブ出る時、私たちがどんな目に遭ったと思います?」
ほんと、死ぬとこだったんですよとルナマリアは憤慨している。
「シンが頑張ってくれなきゃ、間違いなく沈んでました、ミネルバ」
「けど…カガリがそんな…」
アスラン自身もムラサメに攻撃を受け、カガリを呼んでくれと頼んでも、話すらさせてもらえなかった事がまだ心に引っかかっている。 
「悲劇の英雄ラクス・クラインと、大戦の英雄カガリ・ユラ・アスハ。停戦の立役者のこの2人、すごいなーって思ってたんですけどねぇ」
ルナマリアははぁと大げさにため息をついてみせた。
「大西洋連邦とは同盟結んじゃうし、変な女とは結婚しちゃうし…」
その瞬間、後ろで大きな音がしたので、ルナマリアはビクッとして振り返った。
「…結婚っ!?」
見ればアスランが荷物を取り落として蒼白になっている。ルナマリアはその勢いに呑まれ、は、はい、と答えた。
「…ちょっと前に…そう、ニュースで…」
聞いているのかどうなのか、アスランは呆然としている。
ルナマリアもしばらく彼女を見ていたが、アスランが落とした荷物を拾おうとしないので仕方なく代わりに拾い、渡しながら恐る恐る言った。
「あの…でも…式の時だか後だかにさらわれちゃって、今は行方不明…」
「ええっ!?」
衝撃の結婚話にはさらに頓珍漢な展開が待っており、アスランはまた素っ頓狂な声をあげた。ルナマリアは思わずペコリと頭を下げて謝る。
「…とかって話も聞きました!よくわからないんですけど、すみません!」
ルナマリアはチラリとアスランを見る。
(やっぱ…恋人?でもこの人って、ラクス・クラインの婚約者よね?)
ルナマリアは肩を落とすアスランを見ながら弟への怒りを滾らせた。
(とりあえず、こんな仕事を押しつけたメイリンはぶっ飛ばすわ!)

「あなたをFAITHに戻し、最新鋭の機体を与えてこの艦に寄こし、私までFAITHに?」
ふふんと、タリア・グラディスは皮肉をこめて笑った。
「一体何を考えてるのかしらねぇ、議長は…それにあなたも」
タリアの眼は鋭くアスランを睨んでいる。
一度は除隊し、オーブに渡った身でありながら復隊とは…しかも破格の待遇だ。
その展開を胡散臭がるのは無理もない。
アスランは「申し訳ありません」と軽く頭を下げた。
「別に謝る事じゃないけど。それで?この命令内容は、あなた知ってる?」
「いえ、私は聞かされておりません」
それはアスランが艦長に渡すよう頼まれた議長からの勅命だった。
最終目的地はジブラルタルだが、インド洋を抜けてペルシャ湾に入り、そのままスエズ攻略中の進駐軍に協力、支援するよう書かれている。
それには同席していたアーサーも思わず「えっ!?」と声をあげた。
「そこって、ユーラシア西側の紛争で、今一番ゴタゴタしてる所ですよね?」
大型モニターに地図を映し出しながらアーサーが言った。
「徴兵だの接収だので、地域住民は反発し、ユーラシアは制圧する。かなりひどい事になってるみたいだけど…そういうところよ、我々が行かされるのは。それも、FAITHが2人もね」
「ええぇ?そんなところになんで我々が…」
宇宙に帰りたがっていたアーサーは落胆のあまりしょげ返った。

「艦長」
スエズまでの航路を確認し終わると、アスランはタリアに尋ねた。
「オーブのこと、艦長は何かご存知でしょうか?」
タリアがアスランを見ると、彼女は力なく、うつむき加減に言う。
「私は、何も知らなかったものですから…」
「ああ。今大騒ぎですものね、代表がさらわれたとかで」
どうやら本当のことらしいと確信し、アスランは表情を曇らせた。
「オーブ政府は隠したがってるみたいだけど、代表をさらったのはフリーダムとアークエンジェルという話よ」
「ええっ!?」
アスランの大きな声に、今度はアーサーがビクッとして振り向いた。
驚かされた事に眼で抗議する副長には気づきもせず、アスランは心の中で親友の名を呟いた。
(キラが…?)
「何がどうなってるのかしら?こっちが聞きたいくらいだけど」
タリアがじっくりとアスランを見て聞いた。
「あなた、砂漠の虎…アンドリュー・バルトフェルドを知ってる?」
アスランはドキリとし、「ええ、まぁ…名前くらいは」と曖昧に答えた。
「彼、今はオーブにいるの?」
「さぁ…わかりません」
「彼の知り合いが…ふふ、違うわね、恐らく彼自身よ」
タリアは陽気な声で明るく話しながらも、どこか抜け目のなさそうな彼の口調を思い出して笑った。
「ミネルバに脱出するよう言ってきたの。条約締結前にね。でもそのタイミングで出国したら待ち伏せされていたわ…地球軍にね」
タリアは探るようにアスランを見つめた。
「果たしてこれは偶然か、それとも故意…なのかしらね?」
アスランは何も答えなかった。
バルトフェルドがそんな事をするはずがなく、カガリがミネルバを売るはずがない。それは恐らく彼らにとって予想外の事だったのだ。
そして突然決まった結婚と、フリーダムによる拉致。
(カガリに何があったんだろう…それにキラ…一体?)
アスランはまだ自分を疑い深そうに見ているタリアに気づき、敬礼した。
「では、これで失礼します。ありがとうございました」
これ以上、痛くもない腹を探られたくはない。
タリアは退室する彼女を不機嫌そうに見送った。
(ホントに…一体何を考えてるのかしらねぇ、ギルバートは)

戻ってきた姉に散々叱られたメイリンは、しゅんとしていた。
本当は自分が彼女を案内したかったのはやまやまだったが、女性とうまく話せないのに、2人きりになんてとてもなれない。
休憩に入ったヴィーノとヨウランの話を聞きながら、出るのはため息ばかりだ。
2人は艦長がFAITHになった話で盛り上がっている。FAITHは、個人的に戦績著しく、人格的に資格有りと評議会や議長に認められた者だけがなれるトップエリートだ。彼女はそんな人なのだ。
メイリンは自分なんかとてもじゃないけど彼女とつりあわないし、話しかけるのもおこがましいとどんどん考え方が卑屈になっていく。
(せめて赤服だったら…)
休憩室には美しいピアノが響いており、皆その音色に振り返っていた。
弾いているのはレイで、シンとルナマリアはその傍で談笑していた。
(いいなぁ…シンもレイも姉さんも)
メイリンは限られた者にのみ許される、赤い制服をまとう彼らを眩しそうに見た。

「明朝ですか?」
ボズゴロフ級が護衛につき、ミネルバの出航は明朝に決まった。
このまま地球での任務が続く事にどうにも乗り気ではないアーサーを叱咤激励し、タリアは出港準備を急がせた。艦内は再びあわただしくなり、セイバーの調整を行うため、アスランもハンガーに戻ってきた。
2年以上前になるが、カーペンタリアにいた頃の顔見知りが彼女に気づき、挨拶していく。多くは「戻られたんですね」と自分の復隊を喜んでくれた。
ふと気づくと、セイバーの前にルナマリアとシンがいて、ディアクティヴモードのグレーの機体を見上げている。
「…で、変形機構を持ってるって聞いたわよ」
「ああ、見た。カオスと同じかな、要は」
「いいなぁ、私も新しい機体が欲しいなぁ」
「ルナはまずザクウォーリアを乗りこなせよ」
思わず「なによぅ」とシンに食って掛かろうとしたルナマリアが、2人を見ているアスランに気づき、ペコリと頭を下げた。
「すごいですね、これ。最新鋭の機体なんですよね」
アスランは「うらやましいなぁ」と見上げるルナマリアに、「座ってみる?」と聞いてみた。ルナマリアはその言葉にぱっと顔を輝かせた。
「いいんですか!?」
「どうぞ。でも動かさないでね」
ルナマリアははーい、と返事をすると、大喜びでリフトに飛び乗り、コックピットに乗り込んだ。上からは彼女のはしゃぐ声が聞こえてくる。
「モードセレクタのパネルが違うんだぁ。…あ!新しいプラグイン!」
心底楽しそうな声を聞き、アスランは素直で可愛い子だなと思う。 
「アスハの野郎、結婚したそうじゃないですか」
セイバーを見上げて、「おまえ、パンツ見えてるぞ」とルナマリアをからかっていたシンが、「もしかしてそれでザフトに戻ったんですか?」と意地の悪い質問をすると、アスランは忘れようとしていた事を思い出し、ズキリと胸が痛んだ。
けれどそんな事をおくびにも出さず、「まさか」と意地を張る。
「彼なりの考えでしょう…オーブのために」
「あの国はもう救いようがない。攻め込んだ国と同盟を結ぶなんて」
シンは最後に見たカガリを思い出し、吐き捨てるように言った。
彼は苦しそうな表情で、もう二度と国を焼かないためだと言った。
「オーブの…理念すらも守れないなんて…」
アスランはその言葉を聞いてふと、シンが口とは裏腹に、もしかしたら自分以上にオーブのことを気にかけているのではないかと感じた。
「守るべきものがなんなのか、わかってないんだ、あの国は」
シンはそう言うと、「先に行くぞ」とルナマリアに声をかけて歩き出した。

(守りたいものを守るため…じゃダメなの?)

ふと、アスランの脳裏をキラの言葉がかすめた。
(キラ…一体今、何を考えているの?カガリは…そしてラクスは?)
けれどアスランはすぐに考え直し、不安を打ち消そうとした。
どのみちオーブには戻れない上に、自分ももうこの道を選んだ。
(キラが一緒なら、きっと大丈夫)
そう思うことで、自分を正当化しようとしている事には気づかずに。

「こんなとこで何してんの?ねえ」
スペングラー級J.P.ジョーンズの兵たちが、甲板にいる見慣れない少女を見つけて声をかけた。地球軍の制服にしては露出部分の多い不思議な服を着ている、金色の髪と赤紫の瞳をした美少女だった。
しばらく上陸ができないと腐っていた彼は、いたずら心で聞いたのだ。
ステラは「海を見てるの」と短く答えた。
「好きなの。海、見るの」
もう1人の兵は相手が少女であることもあり、「おい、やめろよ」と止めたが、彼はお構いなしだ。
「いいじゃん。変なヤツだけど、すっげー可愛いしさ」
「よせって」
「なぁ、ちょっと一緒に来いよ」
彼は座っている彼女の両脇を抱えて立たせようとした。
そんな様子を後ろから見ていたアウルがふっと笑った。
そして甲板を軽く蹴ってから走り出すと身軽に彼らの間をすり抜け、ステラの前に立ちはだかった。それを見て2人は驚いたが、ステラに声をかけていた彼はアウルがまだ年端もいかない少年であると見るや、強気になって「なんだよ、おまえ」と詰め寄ろうとした。
「やめときなよ。俺ら、第81独立機動軍でさ」
アウルが面白そうに言った。
「ボーっとしてっけどさぁ、こいつも切れっと、マッジ怖いよ~?」
その所属名に、2人ともさーっと青くなった。
仮面の男が率いる、血生臭い特殊任務をこなす死神部隊。
「ファ、ファントムペイン!」
うわぁ…と2人は慌てて逃げ出した。
アウルはべーっと舌を出すと、相変わらず海を見ているステラに声をかけた。
「まだここいんの?お呼びかかったぜ。ネオから」
ネオという名前に反応し、ステラが嬉しそうに振り返った。
「ってことはまた戦争だね。ま、俺らそれが仕事だし」
「うん」
ステラはご機嫌になって立ち上がり、アウルを追う。
「今度は何機落とせっかなぁ」
「うん!」
元気に答えるステラを見て、「うん」じゃねぇっつの、と呆れた。
(俺が助けなきゃ、ステラはまた…)
そこまで考えたアウルが足を止めても、ステラは気にもせず行き過ぎた。
(また…なんだっけ?)
一瞬何かを思い出しそうになったが、(気のせいかな)とアウルは思う。
「ま、いっか」
とりあえず、ネオが待ってる。それだけは本当だ。

「ザフトのモビルスーツ?」
ラクスが襲われた顛末について聞いたカガリは、驚きを隠せなかった。
「ユニウスセブンを落としたのもジン・ハイマニューバ2型だろう」
ボードを叩きながら、サイバースコープをかけたラクスが言う。
「一体なぜ、こんなにザフトの名があちこちに出てくるんだろうね」
「ザフトに汚名を着せるつもりかもしれんよ」
バルトフェルドがコーヒーを片手にのんびりと言った。
「逆に、お互いの疑心暗鬼を呼び起こすためかもしれません」
「なんのために?」
カガリが怪訝そうにラクスに聞き返す。
「…戦争」
すると、キラがポツリと呟いた。
「戦争を…起こしたいんじゃない?誰かが」
「バカな!あの大戦の後だぞ?世界はまだ立ち直ってないのに!」
カガリは首を振って否定した。
というより、そんな馬鹿げた事はあってほしくない…というのが本音だった。
「とにかく、ターミナルへ行ってみよう。もう少し情報が入るはずだ」
ラクスがスコープを外して言った。
「稼動状況を見たくて、ちょうど向かおうとしていたところだったんだ」
ラクスが設立を切望した情報収集基地、ターミナルへ。行き先は決まった。
この浮き草生活の中で問題があるとしたら、ラクスの健康管理を行う医療班がいないことだが、ラクス自身は医療ライセンスを持つカガリがいるから大丈夫だよと呑気なものだ。
「俺は医者じゃないんだから、あんまりアテにすんなよ」
カガリはどこかで医療チームを組んで乗せようと言った。
ノイマンは慣れない潜水操艦も危なげなくこなし、皆から感心されている。
アークエンジェルはオーブを出て以来、ほぼ問題なく潜航していた。
「潜水艦はもういらないって言ったら、びっくりしてたねぇ」
「なぁに、苦労するのがヤツの趣味だからかまわんさ」
散々値切り倒し、破格で借りた潜水艦はもういらないと言われ、さらにこのまま宇宙に上がってプラントの情報を収集してくれと言われたダコスタは、「あなた方は本当に鬼ですね!」と散々悪態をついた。しかし結局いつものように2人に丸め込まれ、彼は早々にプラントへと上がっていった。
ターミナルでは捉えきれない情報は、やはり市井から得るのが一番だ。
「優秀なダコスタくんなら、きっとうまくやってくれるよ」

ラクスはさて…と、今後ミネルバが取る奇妙な針路を見て考えた。
宇宙艦を宇宙に呼び戻さず、このまま敢えて地上を行かせる意味を。

―― デュランダル議長…あなたの本当の狙いは何なのかな?
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secret
制作裏話-PHASE15-
シンが活躍し、アスランがザフトに戻ったのがPHASE12でしたが、2005年が明けてからは完全にキラ様のターンと化し、PHASE14.5はEDITEDなる総集編だったので、シンとアスランの再会はなんだか久しぶりという気がしたものです。

それにしてもこの回、非常に苦労の痕が見て取れました。何しろ本編では「何を言ってるんだかよくわからないキラ」と、「相変わらずバカみたいにギャーギャー喚くだけ喚き、最後はベソベソ泣くカガリ」の会話シーンの意味がさっぱりわからなかったからです。

そこで私はこのシーンを、キラとカガリが兄妹として本音をぶつけ合う場とし、アスランには去られ、為政者としても力不足から孤独に苛まれていたカガリをサルベージする場と定めました。さらに今回、セリフを改変し、大幅に手を加えたことで満足のいくものになりました。

逆転のキラは、相変わらずたどたどしいながらも自分の意志をはっきりと示します。
逆転SEEDの戦いを経てキラが悟った事は、自分の住む世界はあまりにも危うく、ちょっとした事で白にも黒にも傾く、揺らぎやすい世界だということ。そして人々はすぐに感化され、または無関心のまま、安易な方に流されてしまうこと。
まさに自分が意志とは別に流され、不本意なまま戦ってしまったキラが、こうした事に敏感になっているという事を示したかったのですが、おかげでキラは後半、フレイと同じように、「何も言わず、何も見ず、何も聞かない事が一番いけないのだ」と気づくのです。
こうしたキラの成長までは意図していなかったのですが、キャラが勝手に動いてくれましたね。

カガリもまた、キラの言葉で「道はひとつではない」というウズミの言葉を思い出します。
逆転SEEDの制作裏話でも書いたように、この言葉は私の創作なのですが、DESTINYで別々の道を進む事になったカガリとアスランが、平和な世界を目指し、いずれ一つのゴールに辿り着く「拠り所」としてのものです。同時に、為政者としても「視野を広く持て」という教訓になっている事は、既にご承知の通りです。逆転SEEDでキラがハルバートンやシーゲル・クラインの言葉を拠り所として成長したように、カガリもまた父ウズミの言葉を糧に成長させるつもりでしたから。

また「ほっとしてしまった自分に一番腹が立つ」という正直さは、明るく強い逆転のカガリらしくていいかなと思っています。それに、これまで彼が一人ぼっちで肩肘を張る姿を「意図的に」描写してきたので、ふと立ち止まり、あたりを見回したらキラをはじめ仲間がいた…という演出になりました。
背伸びをして、力に見合わない努力で空回りしていたカガリが、自分の姿を見つめなおし、自信を取り戻させる狙いもあります。カガリには今後、ダーダネルス、クレタ、オーブと試練が待つわけですから、それを乗り越える「力」を手に入れなければならないのです。そう、「力」も、逆デスのテーマですから。

一方、アークエンジェルが出てきた事で本編ではかすみがちだったシンも、逆転では当然、物語の中心に座して話を牽引します。
本編ではPHASE7でアスランに一目置いたかに見えたシンが、再会した時はなぜかアスランにキャンキャン噛みつくばかりだったので驚き、その矛盾がどうにも不可解で不愉快でした。シリーズ構成は一体何をやってるんだ、監督は作品の雰囲気や流れをわかってるのか、スタッフは「違うでしょう」と止めんのかといくら苛立っても緒戦は負債。こんなものなのでしょう。

なので逆転のシンは、「あっさりと居場所を変えた」アスランにどこか苛立ちを覚えてはいるのですが、それがオーブに絡んでの事だからだと示唆しています。
心のどこかでオーブを案じているシンにとって、あの国を見捨てたように見えたアスランは、過去の自分です。アスランが家族を失ったシンに過去の自分を見た対比なのですが、シン自身はもちろんそれに気づいていません。これは自分でもちょっと面白い試みでした。

また、こうしてシンの思考をオーブに絡めておく事で、逆デスは「オーブという国で戦争によって家族を失った少年の物語」であるのだと原点に力強く引き戻します。これぞ主人公パワーです。

シンが強い主人公であればあるほど、カガリ、アスラン、キラがこうしてシンの対抗馬として台頭できるのだと思います。主人公にはそれだけの求心力があって然るべきですから、本編のシンは本当に不憫でなりません。何度も言いますが、シンは大切に描けばいくらでも魅力的なキャラクターにできたとつくづく思います。

メイリンについては思いつきです。本編とは違い、アスランが女性なのでルナマリアがポイントを稼ぐ必要はないのですが、その後の会話は彼女と交わすので案内人はルナマリアでなければなりません。そこで生かされたのが「ホーク」です。けれどここにメイリンを絡める事で、彼の晩生ぶり、アスランへの片思い、姉とのコミカルな絡みなども描けてラッキーでした。さらには彼が、赤服にあこがれている「脱落者」である事も示唆できました。

この赤服については一つの伏線を隠しています。ずっと後、オーブ戦が終わった頃にルナマリアがある「逆転ならでは」の行動に出るのですが、そのためにここではルナマリアにアスランの赤服姿は凛として格好いいと感じさせています。ピンクのミニスカとか、「ヒロイン=お色気要員」としか考えていない制作陣の情けなさには呆れますよ。

ラストの、カガリがラクスの暗殺未遂について知るシーンは創作ですが、これは当然重要な事件として扱うつもりでしたから、「きっとこんな風に話したろう」と想像しました。
本編ではあまり重きはなく、ラクスも調べると言ったわりになんの答えも示さなかったので、「議長が絡んだんだかどうなんだか」のままでした。いや、それどころか「変な顔のオジサンが変な声で変なテンションで喋ってキラ様にウザがられ、ダルマにされて自爆した」だけに過ぎません。

アウルが消された「ステラは、また…」の記憶はなんでしょうね。これは無論創作なんですが、私自身はかーなーりえげつない事を考えていますので、皆様のご想像にお任せします。

次回はいよいよ「戦争はヒーローごっこじゃない!」
ぶっちゃけ、本編を見てもアスランが何を言いたいんだかよくわからん話でした。読み返したら苦労しているとしみじみ思うと思うので、こちらもかなり手が加わると思います。
になにな(筆者) 2011/07/22(Fri)23:35:15 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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