機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「CPU、生化学メンテナンスVチームに伝達。ザクの脳幹冷却システムの交換作業は、15時に変更された」
放送が終わるのを待ち、マッド・エイブスが再び話し出した。
「注文通りセンサーの帯域を変えてみた。確認してくれ」
ルナマリアは希望通り仕上がっているか仕様書にざっと眼を通していたが、歩いてきたアスランを見つけると声をかけた。
「ザラ隊長!」
手を振るルナマリアに気づいて微笑んだアスランを見送ると、ルナマリアは再びボードに眼を落とし、ザクの元に向かった。
放送が終わるのを待ち、マッド・エイブスが再び話し出した。
「注文通りセンサーの帯域を変えてみた。確認してくれ」
ルナマリアは希望通り仕上がっているか仕様書にざっと眼を通していたが、歩いてきたアスランを見つけると声をかけた。
「ザラ隊長!」
手を振るルナマリアに気づいて微笑んだアスランを見送ると、ルナマリアは再びボードに眼を落とし、ザクの元に向かった。
「このデモによる死傷者の数は既に1000人にのぼり、赤道連合政府は…」
「18日の大西洋連邦大統領の発言を受けて、昨日、南アフリカ共同体のガドア議長は…」
「この声明に対しプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、昨夜未明、プラントはあくまでも…」
「おい!ちゃかちゃかチャンネルを変えるなよ」
中腰のカガリが体を起こし、文句を言った。
ラクスと共にダコスタが送ってきたプラントの情報に眼を通しているのに、さっきから気が散って仕方がない。
「ユーラシア西側地域では依然激しい戦闘が続いており…」
バルトフェルドはカガリの抗議など気にも留めず、またチャンネルを変えた。
今度はユーラシア西側…すなわち、ミネルバが向かう紛争地域のニュースだ。
「…ユーラシア軍現地総司令官は周辺都市への被害を抑止するため、新たに地上軍3個師団を投入する声明を発表しました」
「毎日毎日、気の滅入るようなニュースばかりだねぇ」
バルトフェルドがコーヒーを飲みながら言った。
「なんかこう、気分の明るくなるようなニュースはないもんかね?」
マリューが明るくなる話ねぇ、と指で顎を押さえて言う。
「水族館で白イルカが赤ちゃんを生んだとか、そういう話?」
「いやぁ、そこまでは言わんよ」
ラクスがデータをダウンロードし始めたので、カガリは伸びをし、「しかし、何か変な感じだな」と言って彼らの元にやって来た。
そして自分もチャンネルをちゃかちゃかと変え始める。
「大体、地球とプラントとの戦闘の方はどうなってるんだ?」
ニュースを探してもちっとも戦闘状況は出てこない。
毎日毎日、地球のどこそこで戦闘が行われたの、どっちが優勢だったの、オペレーション・スピット・ブレイクが実行されるだのと言われていた前大戦の緊迫感を思うと、こんなに何もない今、プラントと地球は本当に戦争をしてるのかと思いたくもなる。
「入ってくるのは連合の混乱のニュースばかりじゃないか」
カガリはユーラシア西側や、アフリカ東部の混乱を見て言った。
「砂漠の虎直轄のバナディーヤも、今は連合支配下だしな」
「懐かしいねぇ。信念を曲げない精力的な男たち。情熱を秘めた女たち」
バルトフェルドはう~んと唸って眼を閉じた。
熱い風、ギラつく太陽、カラカラに乾いた砂漠が蘇る。
「そういえば、ミニスカートの可愛い女の子もいたっけ」
「いたいた。銃で撃たないで、殴っちゃうヤツ」
2人がニヤニヤ笑うと、キラは真っ赤になった。
「いつだってあそこは、通りたがる誰かさんを通せんぼする土地なのさ」
反抗勢力とユーラシア軍の激しい戦闘を見ながら、バルトフェルドが呟いた。
するとラクスがくすりと笑ったのでカガリが振り返った。
「なんだよ、ラクス」
ラクスは「見てごらん」と、世にも奇妙な映像をモニターに流した。
「プラントはプラントでずっとこんな調子だしね」
「わっ!」
途端、あまりの大音量にキラとカガリが同時に耳を塞ぐ。
派手な音楽がジャカジャカと流れ、レーザービームが会場を包む。
「何!?」とキラが画面を見、カガリが「うるさい!」とわめく。
皆の抗議に、チャンドラが慌てて音を下げた。
そこに現れたのは、かなりきわどい衣装の女の子を何人も従えた「ラクス・クライン」その人だった。女の子たちが歌って踊る中を、その「ラクス」はにこやかに微笑み、手を振りながら歩いてくる。
アークエンジェルのクルーは皆、この様子に呆気にとられた。
ラクスは1人の女の子を抱くと、その柔らかそうな頬にキスをした。
そして彼女たちと一緒に踊り、最後に皆で手を上げて挨拶をした。
観衆は皆ザフト軍兵士だ。彼らのお目当てがセクシーな女の子たちなのは間違いないが、ラクスがくだけた様子で挨拶を始めると、それも歓声を浴びる。
やがて簡単な挨拶が終わると、再び女の子たちが出てきて歌って踊る。
髪が長かったり短かったり、衣装も少しずつ違うのだが、不思議な事に彼女たちは皆、どこかラクス・クラインに似た雰囲気の娘ばかりだった。
ラクス自身、コーディネイターの中でもかなりの美貌を誇るのだから、皆とびきりの美女ばかりだ。もちろん、これも意図的な演出なのだろう。
このあまりにド派手なライブにしばし眼を奪われていたキラたちは、皆一斉に振り返ってラクスを…「本物」のラクス・クラインを見た。
「言っとくけど、僕じゃないよ」
「当たり前だろ」
カガリが呆れたように言った。
「それにしてもよく似てるわ」
マリューが感心したように言った。
「整形…ですかね?コーディネイターなのに」
ノイマンも首を傾げた。
「俺らと違ってそんなもん必要ない美形ばーっかのコーディネイターが、わざわざ顔を変えちゃうなんてさ。なんだかうさんくさい話だよねぇ」
やっかみ半分のチャンドラが言うと、マリューも「そうねぇ」と答えた。
「でも、それだけじゃないわ」
マリューはマグカップを片手にモニターに近寄り、まじまじと彼を見た。
「もちろんラクスくんがこんなに軽薄ってことじゃないけど、声色やちょっとした仕草なんか、よく似てるのよね。あ、ほら!この表情!」
「本当ですね」
何より本人が一番感心しているのがおかしい。
それを見てカガリはこっそりキラに耳打ちした。
「…女をすぐ抱き締めたり、キスしたりするとこもな」
それを聞いてキラは思わず吹き出してしまう。
「ラクスとアスランが仲いいこと、まだ怒ってるの?」
「別に」
ふくれるカガリをキラが肘でつつき、2人はくすくす笑いあった。
「皆、元気で楽しそうだね」
ラクスが面白そうに言った。
「おまえの行方が知れないのをいいことに、政府がプロパガンダに使うのはまぁわかるが…それにしてもこれは少々、やり過ぎじゃないのかね」
広告業界に詳しいバルトフェルドが苦言を呈した。
「これじゃ悲劇の英雄どころか、道化者のそっくりショーだろう」
その言葉を聞いたカガリが笑いながら言った。
「おまえ、意外とこういう要素があると思われてるんじゃないの?」
「ひどいなぁ、カガリくん。僕もちょっとそう思ってたのに」
ラクスもまたわざと大げさにため息をついてみせた。
「でもこれ…いいのか?このままにしておいて」
ひとしきり笑ったあと、カガリはやや真顔になった。
「この偽者がザフトやプラントでこれだけ堂々と活動しているって事は…」
カガリはモニターのラクス・クラインを肩越しに親指で指し示した。
「組織だってこれを仕掛けている張本人がいるってことだろ?」
「そりゃ、何とかできるもんならしたいけどね」
何も答えず微笑んでいるラクスの代わりに、バルトフェルドが口を開いた。
「下手に動けばこちらの居所が知れるだけだ。そいつは現状、あまりうまくないだろう?匿ってくれているスカンジナビア王国に対しても」
彼らはクライン派の新たな拠点のひとつとなるターミナルに向かい、稼動状況の確認と様々な情報を収集した後、大西洋を北上してカガリとラクス、共に縁の深い中立国、スカンジナビア王国に連絡をとったのだ。
「ええ。それは」
キラは、約束以上に何かと世話をしてくれる彼らを想って頷いた。
カガリの結婚式にも列席していた国王夫妻は、あの日突然さらわれたカガリからのコンタクトに驚き、何はともあれ事情を聞こうと極秘の入国を許可した。
迎えてくれたのはスカンジナビア王国軍将軍だったが、アサギたちがかつて「若様はスカンジナビアの姫様と結婚しなきゃいけませんね」とカガリをからかった姫こそがこの将軍だった。
ヴァイキングの血を引く大きな体の豪放磊落な姫は、彼らを心から歓迎し、父王のもとへと案内してくれた。
カガリはまずは王に、「医療班を貸していただけないだろうか」と頼んだ。
ラクスはラクスで、有料のターミナルの情報を無償で提供する事と引き換えに、潜伏先となる海域の確保と補給を願い出た。海を挟んで大西洋連邦に睨まれ、情報から取り残されがちなスカンジナビアにとっては、ターミナルは貴重な情報源だった。厳しい財政状況の中での収入減は正直痛いが、やむを得ない。
ウズミと親交が深く、シーゲルとも繋がりのある国王は、彼らの忘れ形見に変わらぬ親愛を示してくれ、この無礼で無理な要求を快く受け入れてくれた。
「何しろきみたち2人は人気者だからな。色々な意味で」
バルトフェルドが言うと、キラも尤もだといわんばかりに頷いた。
ザフトに狙われるラクス・クラインと、オーブの代表カガリ・ユラ・アスハが揃っているとあっては、スカンジナビアは前大戦の停戦の英雄を2人も抱え、一体何を企んでいるのかなどと各勢力に無用な疑心を抱かせかねない。
「皆さんに迷惑をかけることは、絶対にできません」
「なら、いつまでもこうして潜ってばかりもいられないだろ」
するとカガリが少し口を尖らせて言った。
「オーブのことだって、俺は…」
「でも、今は動けないよ。まだ何もわからないんだもの」
しかしキラはきっぱりとオーブヘの帰還を否定した。
最初に申し合わせたとおり、カガリには結婚式でのユウナ・ロマの行動については教えていない。彼らが今後、カガリのいないオーブの舵取りをどう取っていくのかわからない状態では、まだ何も判断が出来なかった。
だから今は待ちの状態だ。皆、どうすればいいのか決めかねていた。
「ユニウスセブンの落下は、確かに地球に強烈な被害を与えたけど、その後のプラントの姿勢は紳士だったわ」
マリューが感慨深そうに言った。
確かに、以前のプラントなら、クライン議長であれザラ議長であれ、国民の心情に配慮した何らかの報復があったことは間違いなかった。
「難癖の末に、開戦した連合が馬鹿よ」
マリューが吐き捨てるように言った。
「ブルーコスモスだろ?」
バルトフェルドが言うと、ノイマンが腕を組んでぼやいた。
「連合はまだあんな連中に踊らされてるんですかね」
「でもデュランダル議長は、あの信じられない第一派攻撃の後も馬鹿な応酬はせず、市民から議会から皆なだめて最小限の防衛戦を行っただけ。どう見ても悪い人じゃないわ。そこだけ聞けば」
「実際、いい指導者だと思う、デュランダル議長は」
カガリが頷くと、ラクスも同意した。
「確かに、議長がこれまで行った施策の多くは評価に値するよ」
「ふーん。じゃ、政治家としては相当高く評価できるってわけ?」
チャンドラが聞き返すと、カガリは少し考え込むように言った。
「うん…いや、そう思っていた、か。ラクスの暗殺と、この偽者を知るまでは」
カガリはふと、旅立った日のアスランを思い出して少し表情を曇らせた。
「アスランだって、そう思ったからこそプラントへ行くと言い出したんだし…」
―― デュランダル議長なら、よもや最悪の道を進んだりはしないと思うけど
―― 議長と話して、私が…私でも何か手伝えることがあるなら…
(議長にはそれだけの力がある。俺のようなお飾りとは違う、彼なら…)
けれど、政治に疎いキラだけは違っていた。
「それなら、一体誰がラクスを殺そうとしたんですか?」
キラのこのストレートな質問に、答えられる者は誰もいない。
「勇敢なるザフト軍兵士の皆さ~ん!」
偽者のラクスが両手を振り、慰問ライブが終わった。
「平和の為、僕たちも頑張ります!皆さんもお気を付けて!」
きゃあきゃあと女の子たちが愛想を振りまき、会場は大盛り上がりだ。
やがてラクスが静かに言った。
「僕が消えれば、彼が本物のラクス・クラインだからね」
そして「もうひとつ面白い情報があるんだ」とパネルを操作する。
「僕を狙っていた過激派や反対勢力が、公安の手でほぼ壊滅したよ」
「ほぅ」
バルトフェルドがデータに残る連中のアジトへの突入と制圧の様子を見て、「こいつはまた血なまぐさくてめでたいことだな」と言った。
ラクスを狙っていた組織は、既に政治結社とは呼べないほど弱体化し、単なるテロ集団に成り下がっていた。今現在プラントで問題になっている右派や過激なナチュラル排斥派の連中に比べれば粛清の優先順位は低い。
「なのに、今、こんな時期にそれを公安がやったってことは…」
「偽者を守るためだろ。やつらの標的になるからな」
カガリが肩をすくめて言った。
「もし俺が議長だったら、すぐ手を打つね」
「これじゃ、私には信じられない。その、デュランダルって人は」
物騒な事を言うカガリを見て、キラはほっと息をつく。
「私は知識がなくて、彼が優れた政治家だってことは知らないけど」
モニターの中ではラクス・クラインが両手を上げて挨拶をしていた。
「みんなを騙してる」
素直なその言葉に、うーん、とバルトフェルドが天井を見上げる。
「探り合ったり、牽制しあったり、騙したり。それが政治と言えば政治なのかもしれんがね」
「でも、知らないはずはないでしょうしね、偽者のこと」
結局この堂々巡りがまた元に戻ってしまい、皆は頭を抱えた。
「何を考えてるのかな、議長は」
カガリが椅子に座り込み、すっかり冷め切ったコーヒーを飲んだ。
「さぁ…でも、彼が密かに軍備を整えていた事は確かだよ」
ラクスがモニターに別のファイルの画像を出しながら言った。
ミネルバはもちろん、カオス、アビス、ガイア、そしてインパルス。
「ザクの量産にしてもね。一体何と戦うつもりだろうね、議長は…」
―― 私たちは、本当は何とどう戦わなきゃならなかったの?
キラの脳裏に、アスランが未だに抱き続けている疑問が蘇った。
(戦争を始める者、拡大させる者、終わらせようとしない者…様々な人がいた)
あの時は結局見つからなかった、自分たちが「本当に戦うべきもの」
―― アスランが探しているものを、議長なら見つけられるの?
―― だからアスランは、私たちを置いて議長の元に行ったの?
キラは何の相談もせず、たった1人で旅立った友を想って考え込んだ。
偽者のラクス・クラインの映像が終わると、モニターには再び紛争地域の悲惨な映像が流れ出した。
埃っぽい乾いた大地を、隊列を組んだ装甲車が駆け抜けていく。
ただでさえ痩せた畑は荒れ、森は枯れ果て、水がない。
村々はどこも貧しそうで、およそ「文明」とは切り離された様子だった。
前時代的なボロボロの集会所に集まっていた若者たちが銃を持った兵に連行され、子供を抱えた若い母親はカメラに何やら懸命に訴えている。
それを見ていたマリューがつい本音を漏らした。
「なんだかユーラシアのこんな状況を見てると、どうしてもザフトに味方して地球軍を討ちたくなっちゃうけど…」
「おまえはまだ反対なんだろう?それには」
バルトフェルドがキラを見ると、キラは「はい」と頷いた。
何度か「戦いをやめさせる」という大義名分で行ってみようか?と話し合ったが、キラは事情がわからない今はやめましょうと言った。
「ヘタに動いて、プラントに目をつけられても面倒ですから」
カガリは背もたれに体を預け、腕を頭の後ろで組みながら言った。
「アスランが戻れば、プラントの事ももう少し何かわかると思うんだけどなぁ」
キラとラクスはその言葉を聞いて顔を見合わせ、くすりと笑った。
「一体、何やってるのかな、あいつ…」
カガリは今は遠く離れている彼女を想い、ため息をついた。
そんな風に彼らに想われているアスランは、中東にいた。
ミネルバはインド洋での戦闘を終え、順調に航行を続けてペルシャ湾に入り、マハムール基地に入港している。
マハムールは前大戦時には存在していなかった新しい基地だ。
ザラ隊がジブラルタルからカーペンタリアに向かった当時、もしこの基地があったなら、途中で補給と休憩のために立ち寄った事だろう。
ミネルバはここで入念なメンテナンスと補給を受けられる事になっており、潮水にどっぷり浸かってヨウランとヴィーノを泣かせたザクも、ここでほぼ全部バラされて綺麗にオーバーホールされる予定だった。
「軍本部、ラクス・クラインが来たんだろ?すっげぇ可愛い女の子連れて」
かなりのもんだったらしいじゃん、とヨウランがニヤつく。
「歌ったり踊ったりって、ラクス・クラインのイメージじゃないけど」
ヴィーノはやや腑に落ちないようで、不満を口にした。
「芸能人より文化人ってイメージだし、第一体が悪いんだろ?踊るか?それで」
「いいじゃないか、いろんな可愛い女の子がいるハーレム!男の夢!」
ヨウランはあたりを見回すと、こっそり自分のタブレットを出した。
「俺、このショートカットの娘が好きなんだけどさ」
「おまえ、なんでこんなの持ってんの?」
ヴィーノはラクス・クラインが半裸の美女に抱きつかれている姿に眼を見張る。
そこにあるのはどれもこれも刺激的で挑発的な写真ばかりだった。
2人は背中を丸めて小さな画面を覗き込み、夢中で画像を指で送る。
「お、これすごい!見えそう」
「他にもあるぜ。ほら、かなりエロい…」
「セイバーの整備ログは?」
アスランの声に、2人は大慌てでバタバタバタバタッとそれをしまった。
「は、はいっ!」
「…ああっと、こっ、これです!」
背筋を伸ばして振り返ったヴィーノは、そばのデータログを差し出した。
「ありがとう」
アスランがそのまま行き過ぎるのを待って、2人ははーっと息をついた。
「…ハーレムの1人?」
「バカ、よせよ!」
ヒソヒソ声でヨウランが指をさすと、ヴィーノは慌てて手を振った。
「一番美人だけど、一番おっかないかも…」
「しーっ!聞こえるって」
「浮気がばれたら往復ビンタ」
「聞こえてるわよ、2人とも」
くっくっくっと笑っていた2人は、その声に驚いて首をすくめた。
(やっぱおっかないね)
(ケーブルの2、3本も引っこ抜いといてやろうか?セイバー)
「それも全部」
振り返ると、にっこり笑ったアスランがすぐ後ろにいた。
(ちぇ…なんだよ、あいつ。ヴィーノやヨウランとはあんな風に笑って)
さかんにペコペコ謝る2人と笑っているアスランを見て、シンは口を尖らせた。
やがてブリッジに呼ばれたアスランは、立ち去る途中でシンに気づいたのだが、シンはぷいっと眼をそらして拒絶を示した。
「睨んでばっかいないで、言いたいことがあるんなら言えば?」
はっと気づくと、ルナマリアが右翼から覗いていた。
「言いたいことなんかない」
「んもう…なんかアカデミーの頃みたいよ」
ルナマリアはそのまま背を向けてタラップに座ると、足をぶらぶらさせる。
「シンも入隊してからはずいぶん大人っぽくなったと思ったのに」
「うるさいな。年上ぶるなよ」
「機嫌悪ーい」
ルナマリアがふくれてみせた。
「アスラン…ザラ…?」
艦長、副長と共に挨拶したアスランの名前に、思ったよりずっと年若い黒服の基地司令は記憶を手繰り寄せ、やがて「ああ」と頷いた。
(アスランって、クルーゼ隊の?)
(ザラ議長の娘だろ。ほら、ラクス・クラインの…)
司令の後ろの兵たちの間に小さなざわめきが起きる。
アスランは顔をあげ、「はい」と返事をした。
それは自分が彼らが思う人間であると肯定する意味の返事だった。
「いや、失礼した。マハムール基地司令官のヨアヒム・ラドルです」
ラドルは3人と握手を交わし、長旅を続けてきた彼らをねぎらった。
「ん~、いい香りね」
「ご覧の通りの場所ですが、豆だけはいいものが手に入りますんでね」
タリアはラドルが用意させた本物のコーヒーに喜び、本題に入った。
「状況はだいぶ厳しそうですわね、こちらの」
「スエズの戦力はどうにも手ごわくてね」
ラドルが苦笑する。
前大戦時は、スエズを落とすために大々的な降下作戦が展開された。
この時ユーラシアの大戦車部隊を後ろからついて壊滅させた勇将こそ、何を隠そう砂漠の虎ことアンドリュー・バルトフェルドである。
スエズに下りる降下部隊を援護するため、バクゥを使って広大な砂漠をわずか数日で踏破し、奇襲をかけた彼の名は今も伝説となって轟いている。
アスランはキラやカガリと仲のいい、明るくて陽気な彼を思い出した。
「しかし今回は何故かその作戦は議会を通らないらしい」
ラドルはため息をついた。
「いたずらに戦火を拡大させまいとする今の最高評議会と議長の方針を、私は支持していますが…」
そう言いつつ眉をひそめた顔を見るに、実直そうな典型的な軍人気質の彼も、連合のやりたい放題にはどうにも鼻持ちならないようだった。
「地球軍は本来ならばこのスエズを拠点に、一気にこのマハムールと地中海の先、我等のジブラルタル基地を叩きたいはずです。だが今はそれが思うように出来ない。何故か?理由は…ここです」
ラドルが立体図をポイントすると、アーサーがなるほどと頷いた。
「ユーラシア西側地域、か」
「この大陸からスエズまでの地域の安定は、地球軍にとっては絶対です」
地球軍は現在、ガルナハンの火力プラントを中心に橋頭堡を築いている。
ここならザフトへの睨みも利くし、抵抗勢力も制圧できるわけだ。
「ここを落とせばスエズへの道が開く…つまり、スエズ・ラインを分断でき、抵抗勢力軍の支援にもなって、地球軍に打撃を与えることができるんですね」
アスランが状況を整理した。
「そうだ」
ラドルは頷いたが、すぐに「だが、そうは簡単に落とせんよ」と言った。
彼はもう少し地図を拡大すると、彼らに入り組んだ峡谷の断面図を見せた。
「彼らはここに陽電子砲を設置し、周りにそのリフレクターを装備した化け物のようなモビルアーマーまで配置している」
陽電子リフレクターと聞いて、タリアもアーサーも顔を見合わせた。
「あの時みたいな?」
アーサーは状況を思い出してぶるっと震えた。
だがラドルはこの援軍を心強いと歓迎していた。
「何度仕掛けても散々だったが、噂に聞く艦隊殺しのインパルスに、まさか復隊したきみまで乗っているとは思っていなかったからね」
彼はアスランに武骨に笑いかけた。
「我々も、ミネルバと共に今度こそ道を開きたいですよ」
ラドルはそう言って再度タリアと握手をかわした。
3人は部屋を辞すと、バギーに乗ってミネルバを目指す。
「突破しない限り、ジブラルタルへも行けないって事ですよね」
アーサーの言葉に、「そうね」とタリアが答えた。
「私たちにそんな道作りをさせようだなんて…」
タリアはいつもの癖で親指を噛もうとしたが、アスランに気づいてやめた。
「一体どこの狸が考えた作戦かしらね」
アスランは、ただ黙っていた。
「でも、私はシンの気持ちもわかんなくないわよ」
ルナマリアは素っ気ないシンにくじけることなく言った。
「いきなり出張ってきて、FAITHだ上官だって言われたって…そりゃ、ね」
そう言いながら立ち上がり、短いスカートをパタパタとはたく。
「おまけに二度も叩かれて」
ルナマリアが頬に触れようとしたので、シンは体を強張らせて避けた。
彼女のシンへの距離の近さが好意だと気づかないシンはいつもこうだ。
ルナマリアはガッカリしたように手を引っ込めると、それでも言った。
「でも、FAITHはFAITHだもの。仕方ないじゃない」
―― だから、あんまりぶつからない方がいいよ…
さっきからうるさくつきまとっているルナマリアが、自分を心から心配してくれている事はよくわかっている。
シンはさすがに悪いと思い、少し気持ちをほぐして言った。
「…わかってるよ」
「ホントにわかってるの?」
「わかってるってば」
シンはそう言うと作業に戻ってしまったので、ルナマリアはため息をつき、「じゃあね。ごめん、邪魔して」と言うと梯子を降りて行った。
「…ルナ…」
「ん?」
ルナマリアが振り返ると、コックピットからシンの腕が伸び、ゆっくり動いた。
(ア・リ・ガ・ト・ウ)
そのサインを見て、ルナマリアは花のように笑った。
うきうきした気持ちのままルナマリアはシャワー室に向かった。
あれ以来、ずっと不機嫌だったシンが少し元に戻ったようで嬉しい。
(よかった、ホントに)
にこにこしながら扉を開けると、そこにアスランがいたのでドキッとする。
「あら…隊長のお部屋まで給水制限なんですか?」
砂漠地帯のこのあたりは慢性的な水不足なので、マハムール基地ではトイレと洗面所以外、原則として部屋の水が止められているのだ。
「ええ。艦長の部屋くらいじゃない?水が出るのは」
アスランは赤服を脱ぎながら答えた。
衣服を脱ぐたびに現れるほっそりとした美しい肢体を横目で見ながら、ルナマリアはふと、あるものに気づいた。
彼女の服の下には首から下げている石があり、そこにもうひとつ、光るものが通されている。
アスランはそれをそっと服の間に挟むと「お先に」とシャワーブースに入った。
水音がし始めると、ルナマリアはこっそりと石を持ち上げてみる。
(わぁ、指輪だぁ…ラクス・クラインから?それとも…)
そう思った途端、彼女の服の間にさらに興味深いものが見えたので、ルナマリアはまじまじと覗きこんだ。
「あのぉ、隊長…」
「なに?」
アスランは長い髪を洗いながら聞き返した。
「隊長って…かなり着やせするタイプなんですね」
整備も終わり、気分転換にと基地内をぶらぶらしてみたシンは、司令塔の屋上で夕陽を眺めていた。秋の太陽は早くも一日の終わりを告げている。
ルナマリアが一生懸命励ましてくれた事で、いくぶん心が和らいでいた。
(あいつ…いいヤツだよな)
シンはころころ変わるルナマリアの表情を思い浮かべてふっと笑った。
彼女の屈託のない明るさと素直さは、いつだってシンを救ってくれる。
それからシンはこの間の戦いを思い出した。
(俺は、間違ってない)
そう繰り返してみたが、少しだけ胸の奥が重苦しい。
泣き叫ぶ人たちと、撃たれて死んでいった人たち…
(俺はただ、あんな風に泣いている人たちを助けたかった)
シンは手すりを握り締めた。
(俺がオーブで泣いていた時、誰も助けてはくれなかった。だから助けたかった。救いたかった。守りたかったんだ)
「俺の力で」
シンはなんとなく声に出してみた。
―― 力を持つ者なら、その力を自覚しろと言ってるの
そんな彼の脳裏に、凛とした瞳の彼女の言葉が蘇る。
(してるさ、そんな事…)
シンは手すりに顎を乗せて呟いた。
俺のせいであの拠点は壊滅した。でも、それは彼らを守るためだ。
そしてあの拠点は、ザフトにとってもあってはならないものだった。
艦長も副長も、困ったような顔をして俺たちの報告を聞いていたけど、結果的に自軍に有益だったと認め、不問に付すと言ってくれた。
俺がザフトとしてやるべき事と、俺が個人として望む事が重なっただけだ。
(やりたくもないことを迷いながらやるより、その方がよほどいい)
燃え落ちるように太陽が下がっていく中、シンは考え続けていた。
そこに、散々ルナマリアにブースを覗かれ、しまいにはあちこち触られてほうほうの体で逃げ出してきたアスランが、濡れ髪のままやってきた。
「あ!」
「あ!」
こんなところで出くわしてしまった2人は、驚いて同時に声をあげた。
(また逃げるのかしら?)
これまでずっと避けられていたアスランはそう思ったが、シンは立ち去らず、そのまま姿勢を戻して太陽を眺めている。
これは会話の余地ありかと思い、アスランは声をかけた。
「どうしたの?1人でこんなところで」
「別にどうも…あなたこそいいんですか?色々忙しいんでしょう、FAITHは」
シンは彼女の濡れた髪を見て言う。
「こんなところでサボっていてよろしいんでありますか」
「本当に突っ掛かるような言い方しかできない人ね、あなたは」
アスランは呆れたが、一方で誰かさんに似てるなと同期の彼を思い出した。
そしてずっと引っ掛かっていた事を聞いてみた。
「そんなに気に入らない?私が戻ったことも…あなたを殴ったことも」
それを聞いて、シンがははっと笑った。
「殴られて嬉しいヤツなんかいませんよ」
シンはアスランを見たが、その表情は思った以上に明るかった。
「けど、別にかまいませんよ。殴られるのも慣れてますしね」
オーブにいた頃のシンは、いわゆる「優等生」ではなかったが、他人と取っ組み合いのけんかをするような乱暴な子供ではなかった。
けれど、プラントに上がってからは一変した。
およそケンカをしない日はないのではと思うほど、シンは人と衝突した。
相手が強ければ強いほど刃向かっては返り討ちに遭い、ボコボコにされた。
(施設でもアカデミーでも、どれだけ殴られたことか…)
あの頃はその痛みだけが、「自分は生きている」と感じさせてくれた気がしたのだ。
「俺こそ聞きたいですよ。なんで戻ったんです?」
シンは再び夕陽を湛えたオレンジの海に眼を移した。
「この間までオーブでアスハの護衛をしてた人が、いきなり戻ってきてFAITHだ上官だって言われたって…理解できないんですよ、俺には」
暮れなずみ始めた空が、ゆっくりと藍色に染まっていく。
「それでも黙って従えって言うんですか?滅茶苦茶な事してるあなたに」
「それは、そうよね…認めるわ」
アスランもシンに倣って手すりに肘をついた。
「確かにあなたから見れば、私のやっていることなんか滅茶苦茶でしょうね」
風がアスランの濡れた髪を流し、ふわりと乾かしていく。
「でも、だから私の言うことなんか聞けない、気にくわない」
そういうこと?とアスランが振り返ると、シンは答えに窮した。
「いや…まぁ…」
ユニウスセブンの破砕の時や、大気圏突入の時は、すごいと思った。
この間だって、ウィンダムを撃墜し、カオスをあれだけひきつけて…
「別に…絶対従わないって言ってるわけじゃないです」
シンは力なく否定したが、アスランはかまわず続けた。
「自分だけは正しくて、自分が気に入らない、認められないものは、皆間違いだとでも言う気なの?」
「そんなこと!」
言ってないじゃないですか…シンはもごもごと口ごもった。
「なら、あのインド洋での戦闘のことは?」
アスランの碧色の眼が厳しく光った。
「今でもまだあれは間違いじゃなかったと思っているの?」
たった今、考えていたことだ。
シンはアスランを見つめ直すと、「はい」と答えた。
力に踏み潰される誰かを助けたいというその想いだけは譲れないと思う。
これまでずっと、自分の心を支えてきた大切な気持ちなのだから…
「オーブのオノゴロで家族を亡くしたと言ったわね」
「違いますよ。殺されたって言ったんです、アスハに」
シンはきっぱりと訂正した。
「ああ…そう思っていたければそれでもいいわ」
シンのこのこだわりが、彼の心の傷の深さを物語っている事に気づいているアスランは、反論せずに頷いた。
「だけど、だからあなたは考えたの?」
シンが怪訝そうな顔でアスランを見た。
「あの時力があったなら、力を手に入れさえすればと」
「…なんで、そんなこと言うんです?」
(同じだから)
アスランはシンの表情を見て思った。
力があれば、守れる。力があれば、脅かすものを排除できる。
(そう信じて戦って…結局は何も得られないまま殺しあっただけ)
忘れようにも忘れられない、苦い思いがこみ上げた。
「自分の非力さに泣いたことのある者は、誰でもそう思うわ、多分」
失ったものへの哀しみと怒りで戦い、目の前にある守るべきものを守るために戦ったキラと討ち合った。お互いに多くのものを失いながら。
「その力を手にしたその時から、今度は自分が誰かを泣かせる者となる」
アスランはあと少しで完全に沈みそうな太陽を見つめ、言った。
(この人は…何を見ているんだろう?)
ふと、シンはそんな事を思った。
(沈む太陽でも、俺の事でもなく、繰り広げられる戦いですらなく…)
「それだけは忘れないで。勝手な理屈と正義でただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者よ」
「そりゃ…」
「でも、そうじゃないんでしょ、あなたは」
シンが不服そうに言い返すと、アスランは少し優しく言った。
「私たちは軍としての任務で出る。喧嘩に行くわけじゃないわ」
―― それを忘れさえしなければ、確かにあなたは優秀なパイロットよ。
アスランは、自分がシンの力を認めていることを率直に伝えた。
恐らく、彼の年齢と経験でここまでの力を持つ者はそうはいまい。
基地を見つけた時といい、やや独断的ではあるものの判断は的確だ。
(これからは、こうした自主性や融通性も必要になるのかもしれない)
それからアスランはくすっと笑んだ。
「でなけりゃただの馬鹿だけど」
「う…」
アスランの笑顔に、頑なだったシンもやや態度を軟化させた。
少し考えこむ様子だった彼は、やがて「でも」と重い口を開いた。
「俺は目の前で苦しんでいる人を助けたいんです。助けられるのなら」
アスランは、インド洋での彼の行動をもう一度思い返した。
彼の気質や、背負っている過去を思えばそう思うのは無理もない。
けれど、だからこそはっきり言わなければならないとも思った。
「感情に突き動かされた独善的な正義は、とても危険よ」
アスランは静かに語った。自分が口下手な事はよくわかっている。
慎重に言葉を選ぼうとすればすると、逆に想いを表現できないのだ。
「あなたの正義と相手の正義がぶつかれば、軋轢が起きるわ」
シンは何も言わず水平線を見つめている。
アスランのその言葉は、諸刃の剣だった。
それはかつてキラと討ち合った愚かな自分に向けられた刃でもある。
互いに譲れない正義はニコルを殺し、ミリアリアから恋人を奪った。
自身も傷を受けながら、アスランは言葉を紡いでいった。
「だから…」
「俺だって!」
黙り込んでいたシンが急に声を荒げた。
「力があるから正義だなんて思ってません」
2人の間を、太陽が落ちて急に冷えてきた風が通り過ぎた。
「けど俺たちは正義や大義を信じて戦う軍人です。あなただってそうだ」
「シン…」
「そのためには、力が必要です」
アスランは風に翻弄されて暴れる自分の髪を手で押えた。
(だが、そうするにも力が必要だろう?)
シンの言葉とデュランダル議長の言葉が微妙に重なった。
(そんな時のために君にも力のある存在でいてほしいのだよ、私は)
(だからその力を、どうか必要な時には使ってくれたまえ)
力を持つ事の意味、力そのものの意味が、アスランに重くのしかかる。
(いいえ、若君。争いがなくならぬから、力が必要なのです)
アスランは無意識のうちに胸元に手を置いた。
「だが、強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」
きっぱりとそう言った彼を、無性に思い出していた。
やがて、つるべ落としのように夜の闇が急激に忍び寄ってくる。
「正義と正義がぶつかるのが戦争だって言うんなら…」
陰がかかり、アスランからはシンの表情が見えなくなった。
「…戦争なんかなくなればいいんだ…」
薄暗くなった宵闇の中で、シンが呟いた。
アスランは突然ひどい不安感を覚え、言葉に詰まった。
「もう戻るわ」
そしてそう言い残すと踵を返し、足早に歩き出す。動悸が激しい。
薄闇の中、黒い影として佇むシンから逃げるように、アスランはドアを閉めた。
体が震えている。秋の風が冷たかったから?それとも何か別の…
(…シンの心の中を覗いたせい?)
アスランは震える自分の右腕を左手で掴んで深呼吸した。
シン、あなたは一体何を見ているの?
「18日の大西洋連邦大統領の発言を受けて、昨日、南アフリカ共同体のガドア議長は…」
「この声明に対しプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、昨夜未明、プラントはあくまでも…」
「おい!ちゃかちゃかチャンネルを変えるなよ」
中腰のカガリが体を起こし、文句を言った。
ラクスと共にダコスタが送ってきたプラントの情報に眼を通しているのに、さっきから気が散って仕方がない。
「ユーラシア西側地域では依然激しい戦闘が続いており…」
バルトフェルドはカガリの抗議など気にも留めず、またチャンネルを変えた。
今度はユーラシア西側…すなわち、ミネルバが向かう紛争地域のニュースだ。
「…ユーラシア軍現地総司令官は周辺都市への被害を抑止するため、新たに地上軍3個師団を投入する声明を発表しました」
「毎日毎日、気の滅入るようなニュースばかりだねぇ」
バルトフェルドがコーヒーを飲みながら言った。
「なんかこう、気分の明るくなるようなニュースはないもんかね?」
マリューが明るくなる話ねぇ、と指で顎を押さえて言う。
「水族館で白イルカが赤ちゃんを生んだとか、そういう話?」
「いやぁ、そこまでは言わんよ」
ラクスがデータをダウンロードし始めたので、カガリは伸びをし、「しかし、何か変な感じだな」と言って彼らの元にやって来た。
そして自分もチャンネルをちゃかちゃかと変え始める。
「大体、地球とプラントとの戦闘の方はどうなってるんだ?」
ニュースを探してもちっとも戦闘状況は出てこない。
毎日毎日、地球のどこそこで戦闘が行われたの、どっちが優勢だったの、オペレーション・スピット・ブレイクが実行されるだのと言われていた前大戦の緊迫感を思うと、こんなに何もない今、プラントと地球は本当に戦争をしてるのかと思いたくもなる。
「入ってくるのは連合の混乱のニュースばかりじゃないか」
カガリはユーラシア西側や、アフリカ東部の混乱を見て言った。
「砂漠の虎直轄のバナディーヤも、今は連合支配下だしな」
「懐かしいねぇ。信念を曲げない精力的な男たち。情熱を秘めた女たち」
バルトフェルドはう~んと唸って眼を閉じた。
熱い風、ギラつく太陽、カラカラに乾いた砂漠が蘇る。
「そういえば、ミニスカートの可愛い女の子もいたっけ」
「いたいた。銃で撃たないで、殴っちゃうヤツ」
2人がニヤニヤ笑うと、キラは真っ赤になった。
「いつだってあそこは、通りたがる誰かさんを通せんぼする土地なのさ」
反抗勢力とユーラシア軍の激しい戦闘を見ながら、バルトフェルドが呟いた。
するとラクスがくすりと笑ったのでカガリが振り返った。
「なんだよ、ラクス」
ラクスは「見てごらん」と、世にも奇妙な映像をモニターに流した。
「プラントはプラントでずっとこんな調子だしね」
「わっ!」
途端、あまりの大音量にキラとカガリが同時に耳を塞ぐ。
派手な音楽がジャカジャカと流れ、レーザービームが会場を包む。
「何!?」とキラが画面を見、カガリが「うるさい!」とわめく。
皆の抗議に、チャンドラが慌てて音を下げた。
そこに現れたのは、かなりきわどい衣装の女の子を何人も従えた「ラクス・クライン」その人だった。女の子たちが歌って踊る中を、その「ラクス」はにこやかに微笑み、手を振りながら歩いてくる。
アークエンジェルのクルーは皆、この様子に呆気にとられた。
ラクスは1人の女の子を抱くと、その柔らかそうな頬にキスをした。
そして彼女たちと一緒に踊り、最後に皆で手を上げて挨拶をした。
観衆は皆ザフト軍兵士だ。彼らのお目当てがセクシーな女の子たちなのは間違いないが、ラクスがくだけた様子で挨拶を始めると、それも歓声を浴びる。
やがて簡単な挨拶が終わると、再び女の子たちが出てきて歌って踊る。
髪が長かったり短かったり、衣装も少しずつ違うのだが、不思議な事に彼女たちは皆、どこかラクス・クラインに似た雰囲気の娘ばかりだった。
ラクス自身、コーディネイターの中でもかなりの美貌を誇るのだから、皆とびきりの美女ばかりだ。もちろん、これも意図的な演出なのだろう。
このあまりにド派手なライブにしばし眼を奪われていたキラたちは、皆一斉に振り返ってラクスを…「本物」のラクス・クラインを見た。
「言っとくけど、僕じゃないよ」
「当たり前だろ」
カガリが呆れたように言った。
「それにしてもよく似てるわ」
マリューが感心したように言った。
「整形…ですかね?コーディネイターなのに」
ノイマンも首を傾げた。
「俺らと違ってそんなもん必要ない美形ばーっかのコーディネイターが、わざわざ顔を変えちゃうなんてさ。なんだかうさんくさい話だよねぇ」
やっかみ半分のチャンドラが言うと、マリューも「そうねぇ」と答えた。
「でも、それだけじゃないわ」
マリューはマグカップを片手にモニターに近寄り、まじまじと彼を見た。
「もちろんラクスくんがこんなに軽薄ってことじゃないけど、声色やちょっとした仕草なんか、よく似てるのよね。あ、ほら!この表情!」
「本当ですね」
何より本人が一番感心しているのがおかしい。
それを見てカガリはこっそりキラに耳打ちした。
「…女をすぐ抱き締めたり、キスしたりするとこもな」
それを聞いてキラは思わず吹き出してしまう。
「ラクスとアスランが仲いいこと、まだ怒ってるの?」
「別に」
ふくれるカガリをキラが肘でつつき、2人はくすくす笑いあった。
「皆、元気で楽しそうだね」
ラクスが面白そうに言った。
「おまえの行方が知れないのをいいことに、政府がプロパガンダに使うのはまぁわかるが…それにしてもこれは少々、やり過ぎじゃないのかね」
広告業界に詳しいバルトフェルドが苦言を呈した。
「これじゃ悲劇の英雄どころか、道化者のそっくりショーだろう」
その言葉を聞いたカガリが笑いながら言った。
「おまえ、意外とこういう要素があると思われてるんじゃないの?」
「ひどいなぁ、カガリくん。僕もちょっとそう思ってたのに」
ラクスもまたわざと大げさにため息をついてみせた。
「でもこれ…いいのか?このままにしておいて」
ひとしきり笑ったあと、カガリはやや真顔になった。
「この偽者がザフトやプラントでこれだけ堂々と活動しているって事は…」
カガリはモニターのラクス・クラインを肩越しに親指で指し示した。
「組織だってこれを仕掛けている張本人がいるってことだろ?」
「そりゃ、何とかできるもんならしたいけどね」
何も答えず微笑んでいるラクスの代わりに、バルトフェルドが口を開いた。
「下手に動けばこちらの居所が知れるだけだ。そいつは現状、あまりうまくないだろう?匿ってくれているスカンジナビア王国に対しても」
彼らはクライン派の新たな拠点のひとつとなるターミナルに向かい、稼動状況の確認と様々な情報を収集した後、大西洋を北上してカガリとラクス、共に縁の深い中立国、スカンジナビア王国に連絡をとったのだ。
「ええ。それは」
キラは、約束以上に何かと世話をしてくれる彼らを想って頷いた。
カガリの結婚式にも列席していた国王夫妻は、あの日突然さらわれたカガリからのコンタクトに驚き、何はともあれ事情を聞こうと極秘の入国を許可した。
迎えてくれたのはスカンジナビア王国軍将軍だったが、アサギたちがかつて「若様はスカンジナビアの姫様と結婚しなきゃいけませんね」とカガリをからかった姫こそがこの将軍だった。
ヴァイキングの血を引く大きな体の豪放磊落な姫は、彼らを心から歓迎し、父王のもとへと案内してくれた。
カガリはまずは王に、「医療班を貸していただけないだろうか」と頼んだ。
ラクスはラクスで、有料のターミナルの情報を無償で提供する事と引き換えに、潜伏先となる海域の確保と補給を願い出た。海を挟んで大西洋連邦に睨まれ、情報から取り残されがちなスカンジナビアにとっては、ターミナルは貴重な情報源だった。厳しい財政状況の中での収入減は正直痛いが、やむを得ない。
ウズミと親交が深く、シーゲルとも繋がりのある国王は、彼らの忘れ形見に変わらぬ親愛を示してくれ、この無礼で無理な要求を快く受け入れてくれた。
「何しろきみたち2人は人気者だからな。色々な意味で」
バルトフェルドが言うと、キラも尤もだといわんばかりに頷いた。
ザフトに狙われるラクス・クラインと、オーブの代表カガリ・ユラ・アスハが揃っているとあっては、スカンジナビアは前大戦の停戦の英雄を2人も抱え、一体何を企んでいるのかなどと各勢力に無用な疑心を抱かせかねない。
「皆さんに迷惑をかけることは、絶対にできません」
「なら、いつまでもこうして潜ってばかりもいられないだろ」
するとカガリが少し口を尖らせて言った。
「オーブのことだって、俺は…」
「でも、今は動けないよ。まだ何もわからないんだもの」
しかしキラはきっぱりとオーブヘの帰還を否定した。
最初に申し合わせたとおり、カガリには結婚式でのユウナ・ロマの行動については教えていない。彼らが今後、カガリのいないオーブの舵取りをどう取っていくのかわからない状態では、まだ何も判断が出来なかった。
だから今は待ちの状態だ。皆、どうすればいいのか決めかねていた。
「ユニウスセブンの落下は、確かに地球に強烈な被害を与えたけど、その後のプラントの姿勢は紳士だったわ」
マリューが感慨深そうに言った。
確かに、以前のプラントなら、クライン議長であれザラ議長であれ、国民の心情に配慮した何らかの報復があったことは間違いなかった。
「難癖の末に、開戦した連合が馬鹿よ」
マリューが吐き捨てるように言った。
「ブルーコスモスだろ?」
バルトフェルドが言うと、ノイマンが腕を組んでぼやいた。
「連合はまだあんな連中に踊らされてるんですかね」
「でもデュランダル議長は、あの信じられない第一派攻撃の後も馬鹿な応酬はせず、市民から議会から皆なだめて最小限の防衛戦を行っただけ。どう見ても悪い人じゃないわ。そこだけ聞けば」
「実際、いい指導者だと思う、デュランダル議長は」
カガリが頷くと、ラクスも同意した。
「確かに、議長がこれまで行った施策の多くは評価に値するよ」
「ふーん。じゃ、政治家としては相当高く評価できるってわけ?」
チャンドラが聞き返すと、カガリは少し考え込むように言った。
「うん…いや、そう思っていた、か。ラクスの暗殺と、この偽者を知るまでは」
カガリはふと、旅立った日のアスランを思い出して少し表情を曇らせた。
「アスランだって、そう思ったからこそプラントへ行くと言い出したんだし…」
―― デュランダル議長なら、よもや最悪の道を進んだりはしないと思うけど
―― 議長と話して、私が…私でも何か手伝えることがあるなら…
(議長にはそれだけの力がある。俺のようなお飾りとは違う、彼なら…)
けれど、政治に疎いキラだけは違っていた。
「それなら、一体誰がラクスを殺そうとしたんですか?」
キラのこのストレートな質問に、答えられる者は誰もいない。
「勇敢なるザフト軍兵士の皆さ~ん!」
偽者のラクスが両手を振り、慰問ライブが終わった。
「平和の為、僕たちも頑張ります!皆さんもお気を付けて!」
きゃあきゃあと女の子たちが愛想を振りまき、会場は大盛り上がりだ。
やがてラクスが静かに言った。
「僕が消えれば、彼が本物のラクス・クラインだからね」
そして「もうひとつ面白い情報があるんだ」とパネルを操作する。
「僕を狙っていた過激派や反対勢力が、公安の手でほぼ壊滅したよ」
「ほぅ」
バルトフェルドがデータに残る連中のアジトへの突入と制圧の様子を見て、「こいつはまた血なまぐさくてめでたいことだな」と言った。
ラクスを狙っていた組織は、既に政治結社とは呼べないほど弱体化し、単なるテロ集団に成り下がっていた。今現在プラントで問題になっている右派や過激なナチュラル排斥派の連中に比べれば粛清の優先順位は低い。
「なのに、今、こんな時期にそれを公安がやったってことは…」
「偽者を守るためだろ。やつらの標的になるからな」
カガリが肩をすくめて言った。
「もし俺が議長だったら、すぐ手を打つね」
「これじゃ、私には信じられない。その、デュランダルって人は」
物騒な事を言うカガリを見て、キラはほっと息をつく。
「私は知識がなくて、彼が優れた政治家だってことは知らないけど」
モニターの中ではラクス・クラインが両手を上げて挨拶をしていた。
「みんなを騙してる」
素直なその言葉に、うーん、とバルトフェルドが天井を見上げる。
「探り合ったり、牽制しあったり、騙したり。それが政治と言えば政治なのかもしれんがね」
「でも、知らないはずはないでしょうしね、偽者のこと」
結局この堂々巡りがまた元に戻ってしまい、皆は頭を抱えた。
「何を考えてるのかな、議長は」
カガリが椅子に座り込み、すっかり冷め切ったコーヒーを飲んだ。
「さぁ…でも、彼が密かに軍備を整えていた事は確かだよ」
ラクスがモニターに別のファイルの画像を出しながら言った。
ミネルバはもちろん、カオス、アビス、ガイア、そしてインパルス。
「ザクの量産にしてもね。一体何と戦うつもりだろうね、議長は…」
―― 私たちは、本当は何とどう戦わなきゃならなかったの?
キラの脳裏に、アスランが未だに抱き続けている疑問が蘇った。
(戦争を始める者、拡大させる者、終わらせようとしない者…様々な人がいた)
あの時は結局見つからなかった、自分たちが「本当に戦うべきもの」
―― アスランが探しているものを、議長なら見つけられるの?
―― だからアスランは、私たちを置いて議長の元に行ったの?
キラは何の相談もせず、たった1人で旅立った友を想って考え込んだ。
偽者のラクス・クラインの映像が終わると、モニターには再び紛争地域の悲惨な映像が流れ出した。
埃っぽい乾いた大地を、隊列を組んだ装甲車が駆け抜けていく。
ただでさえ痩せた畑は荒れ、森は枯れ果て、水がない。
村々はどこも貧しそうで、およそ「文明」とは切り離された様子だった。
前時代的なボロボロの集会所に集まっていた若者たちが銃を持った兵に連行され、子供を抱えた若い母親はカメラに何やら懸命に訴えている。
それを見ていたマリューがつい本音を漏らした。
「なんだかユーラシアのこんな状況を見てると、どうしてもザフトに味方して地球軍を討ちたくなっちゃうけど…」
「おまえはまだ反対なんだろう?それには」
バルトフェルドがキラを見ると、キラは「はい」と頷いた。
何度か「戦いをやめさせる」という大義名分で行ってみようか?と話し合ったが、キラは事情がわからない今はやめましょうと言った。
「ヘタに動いて、プラントに目をつけられても面倒ですから」
カガリは背もたれに体を預け、腕を頭の後ろで組みながら言った。
「アスランが戻れば、プラントの事ももう少し何かわかると思うんだけどなぁ」
キラとラクスはその言葉を聞いて顔を見合わせ、くすりと笑った。
「一体、何やってるのかな、あいつ…」
カガリは今は遠く離れている彼女を想い、ため息をついた。
そんな風に彼らに想われているアスランは、中東にいた。
ミネルバはインド洋での戦闘を終え、順調に航行を続けてペルシャ湾に入り、マハムール基地に入港している。
マハムールは前大戦時には存在していなかった新しい基地だ。
ザラ隊がジブラルタルからカーペンタリアに向かった当時、もしこの基地があったなら、途中で補給と休憩のために立ち寄った事だろう。
ミネルバはここで入念なメンテナンスと補給を受けられる事になっており、潮水にどっぷり浸かってヨウランとヴィーノを泣かせたザクも、ここでほぼ全部バラされて綺麗にオーバーホールされる予定だった。
「軍本部、ラクス・クラインが来たんだろ?すっげぇ可愛い女の子連れて」
かなりのもんだったらしいじゃん、とヨウランがニヤつく。
「歌ったり踊ったりって、ラクス・クラインのイメージじゃないけど」
ヴィーノはやや腑に落ちないようで、不満を口にした。
「芸能人より文化人ってイメージだし、第一体が悪いんだろ?踊るか?それで」
「いいじゃないか、いろんな可愛い女の子がいるハーレム!男の夢!」
ヨウランはあたりを見回すと、こっそり自分のタブレットを出した。
「俺、このショートカットの娘が好きなんだけどさ」
「おまえ、なんでこんなの持ってんの?」
ヴィーノはラクス・クラインが半裸の美女に抱きつかれている姿に眼を見張る。
そこにあるのはどれもこれも刺激的で挑発的な写真ばかりだった。
2人は背中を丸めて小さな画面を覗き込み、夢中で画像を指で送る。
「お、これすごい!見えそう」
「他にもあるぜ。ほら、かなりエロい…」
「セイバーの整備ログは?」
アスランの声に、2人は大慌てでバタバタバタバタッとそれをしまった。
「は、はいっ!」
「…ああっと、こっ、これです!」
背筋を伸ばして振り返ったヴィーノは、そばのデータログを差し出した。
「ありがとう」
アスランがそのまま行き過ぎるのを待って、2人ははーっと息をついた。
「…ハーレムの1人?」
「バカ、よせよ!」
ヒソヒソ声でヨウランが指をさすと、ヴィーノは慌てて手を振った。
「一番美人だけど、一番おっかないかも…」
「しーっ!聞こえるって」
「浮気がばれたら往復ビンタ」
「聞こえてるわよ、2人とも」
くっくっくっと笑っていた2人は、その声に驚いて首をすくめた。
(やっぱおっかないね)
(ケーブルの2、3本も引っこ抜いといてやろうか?セイバー)
「それも全部」
振り返ると、にっこり笑ったアスランがすぐ後ろにいた。
(ちぇ…なんだよ、あいつ。ヴィーノやヨウランとはあんな風に笑って)
さかんにペコペコ謝る2人と笑っているアスランを見て、シンは口を尖らせた。
やがてブリッジに呼ばれたアスランは、立ち去る途中でシンに気づいたのだが、シンはぷいっと眼をそらして拒絶を示した。
「睨んでばっかいないで、言いたいことがあるんなら言えば?」
はっと気づくと、ルナマリアが右翼から覗いていた。
「言いたいことなんかない」
「んもう…なんかアカデミーの頃みたいよ」
ルナマリアはそのまま背を向けてタラップに座ると、足をぶらぶらさせる。
「シンも入隊してからはずいぶん大人っぽくなったと思ったのに」
「うるさいな。年上ぶるなよ」
「機嫌悪ーい」
ルナマリアがふくれてみせた。
「アスラン…ザラ…?」
艦長、副長と共に挨拶したアスランの名前に、思ったよりずっと年若い黒服の基地司令は記憶を手繰り寄せ、やがて「ああ」と頷いた。
(アスランって、クルーゼ隊の?)
(ザラ議長の娘だろ。ほら、ラクス・クラインの…)
司令の後ろの兵たちの間に小さなざわめきが起きる。
アスランは顔をあげ、「はい」と返事をした。
それは自分が彼らが思う人間であると肯定する意味の返事だった。
「いや、失礼した。マハムール基地司令官のヨアヒム・ラドルです」
ラドルは3人と握手を交わし、長旅を続けてきた彼らをねぎらった。
「ん~、いい香りね」
「ご覧の通りの場所ですが、豆だけはいいものが手に入りますんでね」
タリアはラドルが用意させた本物のコーヒーに喜び、本題に入った。
「状況はだいぶ厳しそうですわね、こちらの」
「スエズの戦力はどうにも手ごわくてね」
ラドルが苦笑する。
前大戦時は、スエズを落とすために大々的な降下作戦が展開された。
この時ユーラシアの大戦車部隊を後ろからついて壊滅させた勇将こそ、何を隠そう砂漠の虎ことアンドリュー・バルトフェルドである。
スエズに下りる降下部隊を援護するため、バクゥを使って広大な砂漠をわずか数日で踏破し、奇襲をかけた彼の名は今も伝説となって轟いている。
アスランはキラやカガリと仲のいい、明るくて陽気な彼を思い出した。
「しかし今回は何故かその作戦は議会を通らないらしい」
ラドルはため息をついた。
「いたずらに戦火を拡大させまいとする今の最高評議会と議長の方針を、私は支持していますが…」
そう言いつつ眉をひそめた顔を見るに、実直そうな典型的な軍人気質の彼も、連合のやりたい放題にはどうにも鼻持ちならないようだった。
「地球軍は本来ならばこのスエズを拠点に、一気にこのマハムールと地中海の先、我等のジブラルタル基地を叩きたいはずです。だが今はそれが思うように出来ない。何故か?理由は…ここです」
ラドルが立体図をポイントすると、アーサーがなるほどと頷いた。
「ユーラシア西側地域、か」
「この大陸からスエズまでの地域の安定は、地球軍にとっては絶対です」
地球軍は現在、ガルナハンの火力プラントを中心に橋頭堡を築いている。
ここならザフトへの睨みも利くし、抵抗勢力も制圧できるわけだ。
「ここを落とせばスエズへの道が開く…つまり、スエズ・ラインを分断でき、抵抗勢力軍の支援にもなって、地球軍に打撃を与えることができるんですね」
アスランが状況を整理した。
「そうだ」
ラドルは頷いたが、すぐに「だが、そうは簡単に落とせんよ」と言った。
彼はもう少し地図を拡大すると、彼らに入り組んだ峡谷の断面図を見せた。
「彼らはここに陽電子砲を設置し、周りにそのリフレクターを装備した化け物のようなモビルアーマーまで配置している」
陽電子リフレクターと聞いて、タリアもアーサーも顔を見合わせた。
「あの時みたいな?」
アーサーは状況を思い出してぶるっと震えた。
だがラドルはこの援軍を心強いと歓迎していた。
「何度仕掛けても散々だったが、噂に聞く艦隊殺しのインパルスに、まさか復隊したきみまで乗っているとは思っていなかったからね」
彼はアスランに武骨に笑いかけた。
「我々も、ミネルバと共に今度こそ道を開きたいですよ」
ラドルはそう言って再度タリアと握手をかわした。
3人は部屋を辞すと、バギーに乗ってミネルバを目指す。
「突破しない限り、ジブラルタルへも行けないって事ですよね」
アーサーの言葉に、「そうね」とタリアが答えた。
「私たちにそんな道作りをさせようだなんて…」
タリアはいつもの癖で親指を噛もうとしたが、アスランに気づいてやめた。
「一体どこの狸が考えた作戦かしらね」
アスランは、ただ黙っていた。
「でも、私はシンの気持ちもわかんなくないわよ」
ルナマリアは素っ気ないシンにくじけることなく言った。
「いきなり出張ってきて、FAITHだ上官だって言われたって…そりゃ、ね」
そう言いながら立ち上がり、短いスカートをパタパタとはたく。
「おまけに二度も叩かれて」
ルナマリアが頬に触れようとしたので、シンは体を強張らせて避けた。
彼女のシンへの距離の近さが好意だと気づかないシンはいつもこうだ。
ルナマリアはガッカリしたように手を引っ込めると、それでも言った。
「でも、FAITHはFAITHだもの。仕方ないじゃない」
―― だから、あんまりぶつからない方がいいよ…
さっきからうるさくつきまとっているルナマリアが、自分を心から心配してくれている事はよくわかっている。
シンはさすがに悪いと思い、少し気持ちをほぐして言った。
「…わかってるよ」
「ホントにわかってるの?」
「わかってるってば」
シンはそう言うと作業に戻ってしまったので、ルナマリアはため息をつき、「じゃあね。ごめん、邪魔して」と言うと梯子を降りて行った。
「…ルナ…」
「ん?」
ルナマリアが振り返ると、コックピットからシンの腕が伸び、ゆっくり動いた。
(ア・リ・ガ・ト・ウ)
そのサインを見て、ルナマリアは花のように笑った。
うきうきした気持ちのままルナマリアはシャワー室に向かった。
あれ以来、ずっと不機嫌だったシンが少し元に戻ったようで嬉しい。
(よかった、ホントに)
にこにこしながら扉を開けると、そこにアスランがいたのでドキッとする。
「あら…隊長のお部屋まで給水制限なんですか?」
砂漠地帯のこのあたりは慢性的な水不足なので、マハムール基地ではトイレと洗面所以外、原則として部屋の水が止められているのだ。
「ええ。艦長の部屋くらいじゃない?水が出るのは」
アスランは赤服を脱ぎながら答えた。
衣服を脱ぐたびに現れるほっそりとした美しい肢体を横目で見ながら、ルナマリアはふと、あるものに気づいた。
彼女の服の下には首から下げている石があり、そこにもうひとつ、光るものが通されている。
アスランはそれをそっと服の間に挟むと「お先に」とシャワーブースに入った。
水音がし始めると、ルナマリアはこっそりと石を持ち上げてみる。
(わぁ、指輪だぁ…ラクス・クラインから?それとも…)
そう思った途端、彼女の服の間にさらに興味深いものが見えたので、ルナマリアはまじまじと覗きこんだ。
「あのぉ、隊長…」
「なに?」
アスランは長い髪を洗いながら聞き返した。
「隊長って…かなり着やせするタイプなんですね」
整備も終わり、気分転換にと基地内をぶらぶらしてみたシンは、司令塔の屋上で夕陽を眺めていた。秋の太陽は早くも一日の終わりを告げている。
ルナマリアが一生懸命励ましてくれた事で、いくぶん心が和らいでいた。
(あいつ…いいヤツだよな)
シンはころころ変わるルナマリアの表情を思い浮かべてふっと笑った。
彼女の屈託のない明るさと素直さは、いつだってシンを救ってくれる。
それからシンはこの間の戦いを思い出した。
(俺は、間違ってない)
そう繰り返してみたが、少しだけ胸の奥が重苦しい。
泣き叫ぶ人たちと、撃たれて死んでいった人たち…
(俺はただ、あんな風に泣いている人たちを助けたかった)
シンは手すりを握り締めた。
(俺がオーブで泣いていた時、誰も助けてはくれなかった。だから助けたかった。救いたかった。守りたかったんだ)
「俺の力で」
シンはなんとなく声に出してみた。
―― 力を持つ者なら、その力を自覚しろと言ってるの
そんな彼の脳裏に、凛とした瞳の彼女の言葉が蘇る。
(してるさ、そんな事…)
シンは手すりに顎を乗せて呟いた。
俺のせいであの拠点は壊滅した。でも、それは彼らを守るためだ。
そしてあの拠点は、ザフトにとってもあってはならないものだった。
艦長も副長も、困ったような顔をして俺たちの報告を聞いていたけど、結果的に自軍に有益だったと認め、不問に付すと言ってくれた。
俺がザフトとしてやるべき事と、俺が個人として望む事が重なっただけだ。
(やりたくもないことを迷いながらやるより、その方がよほどいい)
燃え落ちるように太陽が下がっていく中、シンは考え続けていた。
そこに、散々ルナマリアにブースを覗かれ、しまいにはあちこち触られてほうほうの体で逃げ出してきたアスランが、濡れ髪のままやってきた。
「あ!」
「あ!」
こんなところで出くわしてしまった2人は、驚いて同時に声をあげた。
(また逃げるのかしら?)
これまでずっと避けられていたアスランはそう思ったが、シンは立ち去らず、そのまま姿勢を戻して太陽を眺めている。
これは会話の余地ありかと思い、アスランは声をかけた。
「どうしたの?1人でこんなところで」
「別にどうも…あなたこそいいんですか?色々忙しいんでしょう、FAITHは」
シンは彼女の濡れた髪を見て言う。
「こんなところでサボっていてよろしいんでありますか」
「本当に突っ掛かるような言い方しかできない人ね、あなたは」
アスランは呆れたが、一方で誰かさんに似てるなと同期の彼を思い出した。
そしてずっと引っ掛かっていた事を聞いてみた。
「そんなに気に入らない?私が戻ったことも…あなたを殴ったことも」
それを聞いて、シンがははっと笑った。
「殴られて嬉しいヤツなんかいませんよ」
シンはアスランを見たが、その表情は思った以上に明るかった。
「けど、別にかまいませんよ。殴られるのも慣れてますしね」
オーブにいた頃のシンは、いわゆる「優等生」ではなかったが、他人と取っ組み合いのけんかをするような乱暴な子供ではなかった。
けれど、プラントに上がってからは一変した。
およそケンカをしない日はないのではと思うほど、シンは人と衝突した。
相手が強ければ強いほど刃向かっては返り討ちに遭い、ボコボコにされた。
(施設でもアカデミーでも、どれだけ殴られたことか…)
あの頃はその痛みだけが、「自分は生きている」と感じさせてくれた気がしたのだ。
「俺こそ聞きたいですよ。なんで戻ったんです?」
シンは再び夕陽を湛えたオレンジの海に眼を移した。
「この間までオーブでアスハの護衛をしてた人が、いきなり戻ってきてFAITHだ上官だって言われたって…理解できないんですよ、俺には」
暮れなずみ始めた空が、ゆっくりと藍色に染まっていく。
「それでも黙って従えって言うんですか?滅茶苦茶な事してるあなたに」
「それは、そうよね…認めるわ」
アスランもシンに倣って手すりに肘をついた。
「確かにあなたから見れば、私のやっていることなんか滅茶苦茶でしょうね」
風がアスランの濡れた髪を流し、ふわりと乾かしていく。
「でも、だから私の言うことなんか聞けない、気にくわない」
そういうこと?とアスランが振り返ると、シンは答えに窮した。
「いや…まぁ…」
ユニウスセブンの破砕の時や、大気圏突入の時は、すごいと思った。
この間だって、ウィンダムを撃墜し、カオスをあれだけひきつけて…
「別に…絶対従わないって言ってるわけじゃないです」
シンは力なく否定したが、アスランはかまわず続けた。
「自分だけは正しくて、自分が気に入らない、認められないものは、皆間違いだとでも言う気なの?」
「そんなこと!」
言ってないじゃないですか…シンはもごもごと口ごもった。
「なら、あのインド洋での戦闘のことは?」
アスランの碧色の眼が厳しく光った。
「今でもまだあれは間違いじゃなかったと思っているの?」
たった今、考えていたことだ。
シンはアスランを見つめ直すと、「はい」と答えた。
力に踏み潰される誰かを助けたいというその想いだけは譲れないと思う。
これまでずっと、自分の心を支えてきた大切な気持ちなのだから…
「オーブのオノゴロで家族を亡くしたと言ったわね」
「違いますよ。殺されたって言ったんです、アスハに」
シンはきっぱりと訂正した。
「ああ…そう思っていたければそれでもいいわ」
シンのこのこだわりが、彼の心の傷の深さを物語っている事に気づいているアスランは、反論せずに頷いた。
「だけど、だからあなたは考えたの?」
シンが怪訝そうな顔でアスランを見た。
「あの時力があったなら、力を手に入れさえすればと」
「…なんで、そんなこと言うんです?」
(同じだから)
アスランはシンの表情を見て思った。
力があれば、守れる。力があれば、脅かすものを排除できる。
(そう信じて戦って…結局は何も得られないまま殺しあっただけ)
忘れようにも忘れられない、苦い思いがこみ上げた。
「自分の非力さに泣いたことのある者は、誰でもそう思うわ、多分」
失ったものへの哀しみと怒りで戦い、目の前にある守るべきものを守るために戦ったキラと討ち合った。お互いに多くのものを失いながら。
「その力を手にしたその時から、今度は自分が誰かを泣かせる者となる」
アスランはあと少しで完全に沈みそうな太陽を見つめ、言った。
(この人は…何を見ているんだろう?)
ふと、シンはそんな事を思った。
(沈む太陽でも、俺の事でもなく、繰り広げられる戦いですらなく…)
「それだけは忘れないで。勝手な理屈と正義でただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者よ」
「そりゃ…」
「でも、そうじゃないんでしょ、あなたは」
シンが不服そうに言い返すと、アスランは少し優しく言った。
「私たちは軍としての任務で出る。喧嘩に行くわけじゃないわ」
―― それを忘れさえしなければ、確かにあなたは優秀なパイロットよ。
アスランは、自分がシンの力を認めていることを率直に伝えた。
恐らく、彼の年齢と経験でここまでの力を持つ者はそうはいまい。
基地を見つけた時といい、やや独断的ではあるものの判断は的確だ。
(これからは、こうした自主性や融通性も必要になるのかもしれない)
それからアスランはくすっと笑んだ。
「でなけりゃただの馬鹿だけど」
「う…」
アスランの笑顔に、頑なだったシンもやや態度を軟化させた。
少し考えこむ様子だった彼は、やがて「でも」と重い口を開いた。
「俺は目の前で苦しんでいる人を助けたいんです。助けられるのなら」
アスランは、インド洋での彼の行動をもう一度思い返した。
彼の気質や、背負っている過去を思えばそう思うのは無理もない。
けれど、だからこそはっきり言わなければならないとも思った。
「感情に突き動かされた独善的な正義は、とても危険よ」
アスランは静かに語った。自分が口下手な事はよくわかっている。
慎重に言葉を選ぼうとすればすると、逆に想いを表現できないのだ。
「あなたの正義と相手の正義がぶつかれば、軋轢が起きるわ」
シンは何も言わず水平線を見つめている。
アスランのその言葉は、諸刃の剣だった。
それはかつてキラと討ち合った愚かな自分に向けられた刃でもある。
互いに譲れない正義はニコルを殺し、ミリアリアから恋人を奪った。
自身も傷を受けながら、アスランは言葉を紡いでいった。
「だから…」
「俺だって!」
黙り込んでいたシンが急に声を荒げた。
「力があるから正義だなんて思ってません」
2人の間を、太陽が落ちて急に冷えてきた風が通り過ぎた。
「けど俺たちは正義や大義を信じて戦う軍人です。あなただってそうだ」
「シン…」
「そのためには、力が必要です」
アスランは風に翻弄されて暴れる自分の髪を手で押えた。
(だが、そうするにも力が必要だろう?)
シンの言葉とデュランダル議長の言葉が微妙に重なった。
(そんな時のために君にも力のある存在でいてほしいのだよ、私は)
(だからその力を、どうか必要な時には使ってくれたまえ)
力を持つ事の意味、力そのものの意味が、アスランに重くのしかかる。
(いいえ、若君。争いがなくならぬから、力が必要なのです)
アスランは無意識のうちに胸元に手を置いた。
「だが、強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」
きっぱりとそう言った彼を、無性に思い出していた。
やがて、つるべ落としのように夜の闇が急激に忍び寄ってくる。
「正義と正義がぶつかるのが戦争だって言うんなら…」
陰がかかり、アスランからはシンの表情が見えなくなった。
「…戦争なんかなくなればいいんだ…」
薄暗くなった宵闇の中で、シンが呟いた。
アスランは突然ひどい不安感を覚え、言葉に詰まった。
「もう戻るわ」
そしてそう言い残すと踵を返し、足早に歩き出す。動悸が激しい。
薄闇の中、黒い影として佇むシンから逃げるように、アスランはドアを閉めた。
体が震えている。秋の風が冷たかったから?それとも何か別の…
(…シンの心の中を覗いたせい?)
アスランは震える自分の右腕を左手で掴んで深呼吸した。
シン、あなたは一体何を見ているの?
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制作裏話-PHASE17-
アスランとシンが禅問答を繰り広げ、ミーアがおっぱいをぶるぶる揺らしながら歌って踊ったインターバルです。
このPHASEはとにかく苦労しました。
何が苦労したってそりゃもちろんアスランVSシンです。
この会話は本当に苦労しました。何しろ、この時の会話が後の物語にちっとも生きてこないのですから。PHASE16の平手打ち同様、本当に意味のないイベントですよ。
この時点ではまだ制作陣も「アスランはシンを導いていくキャラ」とするつもりだったんでしょうが、ご存知の通り、本編後半のアスランには全くその気はありません。彼が追い求めたのはカガリですらなく、「勝手な理屈と正義を振りかざしてひたすら暴れまくる」キラ様でした。どないやねんアスラン…大体これはシンと最後まで共に戦ってこそ言えるセリフだろーと言いたいです。
なのであの最低な最終回を見た後だと、この時の会話があまりにも薄っぺら過ぎて、さらに意味不明になるのです。
一体これをどう改変するべきか、今回読み返してなお、非常に難しいものでした。
心がけたのは、まずは「シンが自分の正義と信念を貫く」こと、「アスランが自分の過去と対比させながら忠告する」こと、「力の意味を両者に考えさせる」こと、「議長の思惑をからめる」こと、シンの望みが「戦争のない、平和な世界である」ことを描写する事です。
こうやってテーマを決めると、物語は収束します。
ことに今回の加筆修正で大幅に変わったのは、「力」の描写です。逆転では、本編が途中でどこかに落っことして忘れてしまった「力」についても描くつもりでしたから、これは非常に満足できました。
口下手なアスランの説得はシンには届かず、むしろ逆に自分が何を望んでいるか再認識する事になったのです。これがやがて議長の目指す新世界と重なり、シンは偽りすらも飲み込んで戦う事を決意します。
なおこの時、「互いが何を見ているのかわからない」という描写は、もちろん最終回の和解に繋がる伏線になっています。
逆に前半のアークエンジェルのシーンはスラスラといけました。逆転はカガリがとにかく元気で皆と仲がいいので、とても書きやすいのです。
本編では全くセリフのなかったノイマンとチャンドラにも満遍なくセリフを与え、色々迷いながらも和気藹々としている様子にしました。
彼らが匿われるスカンジナビアの部分は、想像による創作がかなり入っています。種の頃からも結構名前が出る割に、設定があやふやなんですよね、この国。
なお鉄則である「オリジナルキャラクターは出さない」という禁忌を破ったのが、このスカンジナビアの「姫将軍」です。とはいえ「NPC」ですから意図的にセリフもありませんし、容貌の詳しい描写もしていません。
逆種での「スカンジナビアの姫と結婚うんぬん」というのは、逆デスを見込んだ上で、国と国の政治的繋がりを示すためのセリフでした。また、実はアサギにこう言わせたのは「カガリに婚約者などいない」事を示すためでもありました。
ちなみに私の中の「姫将軍」は、背が高くて恰幅のいいアラフォーのワルキューレです。腕っ節が強く武功の誉れ高い半面、心優しく慈悲深い女性をイメージしています。
さて、いよいよ派手に活動し始めたミーアですが、やはり手を焼きましたね。
ラクスも一応芸能人としての活動はしていたという設定ですが、さすがに本編のように歌ったり踊ったりはしないので、ここで初めてクラインガールズが登場します。かなりのセクシー部隊なので、さしものヨウランやヴィーノも生唾ものです。彼らが見ているラクスたちのからみ画像はかなりエロいと思われます。
なおこの時の彼らとアスランの会話は、男女逆転によって改変しています。
アークエンジェルでカガリとキラが仲良しツインぶりを発揮すれば、ミネルバでは負けじとシンとルナマリアもいい感じに書けました。本編の彼女はアスランに気があったこの頃、シンはガキっぽいとウザがっていただけですが、逆転のルナマリアは一途に恋する女の子ですから、一生懸命シンを励まします。シンも本編のように「うるさいな、ルナは」とか「もう黙れよ。ルナには関係ないだろ」なんて事は言いません。何度も言いますが、逆転のシンはバカでも憎たらしいガキでもありません。シンはルナマリアが自分を思いやり、励ましてくれているとちゃんと気づいています。でも口ではうまく言えないので、照れ隠しにサインで感謝を示します。この時点ではシンにはまだ恋愛感情は芽生えていませんが、それでもこうした描写があれば、後に2人が想い合うようになるのも不自然ではないと思います。
その後、本編にはないシーンになります。
何しろ本編ではホーク姉妹がシャワーを浴びに行くのですが、こちらのメイリンは男なのでそれは無理。まぁ彼女たちは大した会話もしていなかったので削ってもよかったのですが、ルナマリアがこの先、アスランに過剰な嫉妬しなくて済むように、指輪を発見させました(恋敵が誰かのお手つきなら少し安心できますから)
さらにアスランは着やせするタイプで、ルナマリアに覗かれたり触られたりして大変でした。創作シーンではありますが、これも後にPHASE20で生きることになります。
カガリがプラントに行ったまま戻ってこないアスランを想うシーンは本編準拠ですが、私はアスランにもカガリを思い出させる事にしました。ハウメアの守り石が彼女の大切な拠り所であることは、脱走に至るPHASE36でも描写されます。
なお、私は本編ではほとんどなかったシンの独白を入れて、主人公視点を大事にしています。今回のシンもインド洋の戦いを思い返し、自分の行動は自分の想いと重なり、軍の利益ともリンクしたとして(やりたくないことをやるよりいい)と結論付けています。
そう、これはまさにその状態だった(=やりたくないことをやっていた)キラとの対比です。主人公同士を対照することで、彼らの違いを浮き立たせたかったのです。
同時にシンの過去を少しずつ描写しています。
種は本編でもキラとアスランがあれだけ互いにこだわりながら、「昔こんなに仲がよかった」という描写が一切ない(別れのシーンはありましたが、そこじゃダメだろ)というイカサマぶりでしたが、シンも家族を失い、一人ぼっちでプラントに来て、色々な事を一体どうやって乗り越えてきたのかは全く描かれません。これを語るだけでも、視聴者の共感をもう少し得られたろうにと思います。これはもう力不足というより制作陣の悪意ですよ。
シンとアスラン、カガリとアスラン、それに議長。
「力」についての会話を入れたおかげで、本編を見た時はひたすら「?????」だったこの話が、少しはよくなったかなと思っています。
このPHASEはとにかく苦労しました。
何が苦労したってそりゃもちろんアスランVSシンです。
この会話は本当に苦労しました。何しろ、この時の会話が後の物語にちっとも生きてこないのですから。PHASE16の平手打ち同様、本当に意味のないイベントですよ。
この時点ではまだ制作陣も「アスランはシンを導いていくキャラ」とするつもりだったんでしょうが、ご存知の通り、本編後半のアスランには全くその気はありません。彼が追い求めたのはカガリですらなく、「勝手な理屈と正義を振りかざしてひたすら暴れまくる」キラ様でした。どないやねんアスラン…大体これはシンと最後まで共に戦ってこそ言えるセリフだろーと言いたいです。
なのであの最低な最終回を見た後だと、この時の会話があまりにも薄っぺら過ぎて、さらに意味不明になるのです。
一体これをどう改変するべきか、今回読み返してなお、非常に難しいものでした。
心がけたのは、まずは「シンが自分の正義と信念を貫く」こと、「アスランが自分の過去と対比させながら忠告する」こと、「力の意味を両者に考えさせる」こと、「議長の思惑をからめる」こと、シンの望みが「戦争のない、平和な世界である」ことを描写する事です。
こうやってテーマを決めると、物語は収束します。
ことに今回の加筆修正で大幅に変わったのは、「力」の描写です。逆転では、本編が途中でどこかに落っことして忘れてしまった「力」についても描くつもりでしたから、これは非常に満足できました。
口下手なアスランの説得はシンには届かず、むしろ逆に自分が何を望んでいるか再認識する事になったのです。これがやがて議長の目指す新世界と重なり、シンは偽りすらも飲み込んで戦う事を決意します。
なおこの時、「互いが何を見ているのかわからない」という描写は、もちろん最終回の和解に繋がる伏線になっています。
逆に前半のアークエンジェルのシーンはスラスラといけました。逆転はカガリがとにかく元気で皆と仲がいいので、とても書きやすいのです。
本編では全くセリフのなかったノイマンとチャンドラにも満遍なくセリフを与え、色々迷いながらも和気藹々としている様子にしました。
彼らが匿われるスカンジナビアの部分は、想像による創作がかなり入っています。種の頃からも結構名前が出る割に、設定があやふやなんですよね、この国。
なお鉄則である「オリジナルキャラクターは出さない」という禁忌を破ったのが、このスカンジナビアの「姫将軍」です。とはいえ「NPC」ですから意図的にセリフもありませんし、容貌の詳しい描写もしていません。
逆種での「スカンジナビアの姫と結婚うんぬん」というのは、逆デスを見込んだ上で、国と国の政治的繋がりを示すためのセリフでした。また、実はアサギにこう言わせたのは「カガリに婚約者などいない」事を示すためでもありました。
ちなみに私の中の「姫将軍」は、背が高くて恰幅のいいアラフォーのワルキューレです。腕っ節が強く武功の誉れ高い半面、心優しく慈悲深い女性をイメージしています。
さて、いよいよ派手に活動し始めたミーアですが、やはり手を焼きましたね。
ラクスも一応芸能人としての活動はしていたという設定ですが、さすがに本編のように歌ったり踊ったりはしないので、ここで初めてクラインガールズが登場します。かなりのセクシー部隊なので、さしものヨウランやヴィーノも生唾ものです。彼らが見ているラクスたちのからみ画像はかなりエロいと思われます。
なおこの時の彼らとアスランの会話は、男女逆転によって改変しています。
アークエンジェルでカガリとキラが仲良しツインぶりを発揮すれば、ミネルバでは負けじとシンとルナマリアもいい感じに書けました。本編の彼女はアスランに気があったこの頃、シンはガキっぽいとウザがっていただけですが、逆転のルナマリアは一途に恋する女の子ですから、一生懸命シンを励まします。シンも本編のように「うるさいな、ルナは」とか「もう黙れよ。ルナには関係ないだろ」なんて事は言いません。何度も言いますが、逆転のシンはバカでも憎たらしいガキでもありません。シンはルナマリアが自分を思いやり、励ましてくれているとちゃんと気づいています。でも口ではうまく言えないので、照れ隠しにサインで感謝を示します。この時点ではシンにはまだ恋愛感情は芽生えていませんが、それでもこうした描写があれば、後に2人が想い合うようになるのも不自然ではないと思います。
その後、本編にはないシーンになります。
何しろ本編ではホーク姉妹がシャワーを浴びに行くのですが、こちらのメイリンは男なのでそれは無理。まぁ彼女たちは大した会話もしていなかったので削ってもよかったのですが、ルナマリアがこの先、アスランに過剰な嫉妬しなくて済むように、指輪を発見させました(恋敵が誰かのお手つきなら少し安心できますから)
さらにアスランは着やせするタイプで、ルナマリアに覗かれたり触られたりして大変でした。創作シーンではありますが、これも後にPHASE20で生きることになります。
カガリがプラントに行ったまま戻ってこないアスランを想うシーンは本編準拠ですが、私はアスランにもカガリを思い出させる事にしました。ハウメアの守り石が彼女の大切な拠り所であることは、脱走に至るPHASE36でも描写されます。
なお、私は本編ではほとんどなかったシンの独白を入れて、主人公視点を大事にしています。今回のシンもインド洋の戦いを思い返し、自分の行動は自分の想いと重なり、軍の利益ともリンクしたとして(やりたくないことをやるよりいい)と結論付けています。
そう、これはまさにその状態だった(=やりたくないことをやっていた)キラとの対比です。主人公同士を対照することで、彼らの違いを浮き立たせたかったのです。
同時にシンの過去を少しずつ描写しています。
種は本編でもキラとアスランがあれだけ互いにこだわりながら、「昔こんなに仲がよかった」という描写が一切ない(別れのシーンはありましたが、そこじゃダメだろ)というイカサマぶりでしたが、シンも家族を失い、一人ぼっちでプラントに来て、色々な事を一体どうやって乗り越えてきたのかは全く描かれません。これを語るだけでも、視聴者の共感をもう少し得られたろうにと思います。これはもう力不足というより制作陣の悪意ですよ。
シンとアスラン、カガリとアスラン、それに議長。
「力」についての会話を入れたおかげで、本編を見た時はひたすら「?????」だったこの話が、少しはよくなったかなと思っています。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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