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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「ポイントA通過後はコンディションをレッドに移行します」
レセップス級デズモンドからの連絡を受けたタリアが言う。
「ポイントAにて『エコー』を回収し、作戦開始とする」
ラドルは、現地協力員のコードネームを告げ、僚艦バグリィーと併走するミネルバにランデブー・ポイントで接触するよう命じていた。

ミネルバ中央艦底のカーゴハッチが開くと、どこからともなくバギーが現れ、カーゴアームが降りた。車体がアームにひっかけられ、艦内に引き上げられる。
「パイロットはブリーフィングルームへ集合」
「エコー」の収容後、シンたちに集合が命じられた。

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ミネルバのブリーフィングルームはいつになく賑やかだった。
今回はデズモント、バグリィーのパイロットが数多く参加しているためだ。
先に来ていたレイは、彼らの中に旧知の顔を見つけて、何やら話しこんでいる。
その時、廊下の向こうからはシンの声が聞こえてきた。
「現地協力員ってことは…つまりレジスタンスか」
「そういうことじゃない?大分酷い状況らしいからね、ガルナハンの街は」
答えているのはルナマリアだ。 
入室したシンは、アスランの隣にいる少女を見てギクリとした。
(…マユ!?)
小さな彼女が、死んだ妹とさほど変わらない歳に見えたからだ。
「誰?あれ」
シンと同じく彼女に眼を留めたルナマリアが囁いた。
「…子供?」
砂まみれの顔をした少女が、シンのその言葉を耳にしてギロリと睨む。
栄養状態がよくないのか、パサパサで量の少ない赤毛を一本に縛り、この地方の民族独特の浅黒い肌と、黒い瞳に意志の強さと怒りを湛えて。

やがて少し遅れてアーサーが現れ、シンたちを着席させた。
「さぁ、いよいよだぞ。ではこれよりラドル隊と合同で行う、ガルナハン・ローエングリンゲート突破作戦の詳細を説明する」
アーサーはいつものように陽気な声で言った。
(毎度毎度、副長の能天気な喋り方を聞くと緊張感がなくなるよ)
シンは腕を組んだまま背もたれにもたれると、首を傾げた。
「ちゃんとしなさいってば」
背筋をぴんとして真っ直ぐ前を向いているレイの横で、ルナマリアが声をひそめて叱ったが、シンはどこ吹く風だ。
「だが知っての通り、この目標は難敵である。以前にもラドル隊が突破を試みたが、結果は失敗に終わっている。そこで今回は…アスラン」
脇でデータの準備をしていたアスランは、突然名前を呼ばれて「は?」と驚いて顔を上げた。
「代わろう。どうぞ。あとはきみから」
「え…」
(作戦意義や地形や陣形・隊形などは自分が話すと言ってたのに)
アスランは仕方なく後を引き継いだ。

アスランはラドルが先日見せてくれた渓谷の地図を映し出した。
「ガルナハン、ローエングリンゲートと呼ばれる渓谷の状況です。この断崖の向こうに街があり、その更に奥に火力プラントがあります」
資料として、小さな街と空撮された火力プラントが映し出される。
「こちら側からこの街にアプローチ可能なラインは、ここのみ」
狭い渓谷の一本道を行きかう軍用トラックやトレーラーが映し出され、さらには現地民の車や馬、ロバがひっきりなしに通っている。
「敵の陽電子砲台はこの高台に設置されており、渓谷全体をカバーしています。何処へ行こうが敵射程内に入り、隠れられる場所はありません」
ピピピと音がしてコンピューターによる分析が始まったが、どこも扇形の射程圏内に入ってしまい、エラーマークが出た。
「超長距離射撃で敵の砲台、もしくはその下の壁面を狙おうとしても、ここにはモビルスーツの他にも、陽電子リフレクターを装備したモビルアーマーが配備されており、有効打撃は望めません」

アスランはここまで説明すると、ミネルバの3人に向き直った。
「あなた方は、オーブ沖で同様の装備のモビルアーマーと遭遇したということですが…」
シンは腕をほどくと「はい」と返事をした。
アスランは頷き、再びボードの方を向いて説明しようとした。
「そこで、今回の作戦ですが…」
「そのモビルアーマーをぶっ飛ばして、砲台をぶっ壊し、ガルナハンに入ればいいんでしょう?」
シンのそのやや生意気な口調に、後ろのラドル隊がざわっとざわめいた。
レイもチラッとシンを見て、ルナマリアはシンの脇を肘で小突いた。
「それは…そうだけど…」
アスランはシンを見つめ、穏やかに言った。
「私たちは今、どうしたらそうできるかを話してるんでしょう?シン」
「やれますよ。やる気になれば」
シンは悪びれる様子もなく言った。
「あの時はあれが一体何なのかさえわからなくたって倒したんだ。今回は経験に加えてかなりの情報もあるし、ラドル隊の援護もありますからね」
アスランは心の中でため息をついた。
他人に突っかかるだけなら、イザークより手のかかる者はいないだろう。
しかしシンはやけに冷静で分析力に長けている反面、周囲との温度差に無頓着だった。天然の真っ直ぐさと自信が、彼から謙虚さを奪っている。
こういうタイプは一体どうしたものか…アスランは少し考えてから言った。
「そう。なら、やってくれる?私たちは後方で援護すればいいのね」
「え?…あ、いやぁ…それは…」
しどろもどろになったシンを見て、ラドル隊がどっと笑った。
それによってシンもようやく自分が不興を買う発言をしたと気づいたようだ。
「ちぇ…なんだよ」
ぶつぶつ呟くシンの隣で、ルナマリアはアスランの手腕に感心した。
シンのプライドを傷つけることなく、シンの鼻を挫いたのだから。

「…と、いうバカな話は置いといて」
アスランは男たちの笑い声を止めるためにパンと手を叩いた。
「ミス・コニール」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれた傍らの少女は、体を硬くして返事をした。
「彼がそのパイロットです。データを渡してやってください」
「え!?こいつが!?」
どうやら既に話はついているらしく、アスランは彼女にシンを紹介した。
「そうです」
シンはさっきからずっと自分を睨みつけている少女をジロジロ見た。
やはり妹と同じか、体が小さいだけでもしかしたら少し上かもしれない。
(ガリガリで小汚いヤツ…おしゃれに夢中だったマユとは随分違うな)
シンは貧しそうな彼女の姿を見て侮り、コニールもそれを敏感に感じ取った。
「この作戦が成功するかどうかは、そのパイロットに懸かってるんだろう?」
コニールは顔をしかめて振り返ると、アスランに不満を訴えた。
「大丈夫なのか?こんなヤツで」
「なにっ!?」
それを聞いてシンが怒らないはずはなく、レイもルナマリアもため息をついた。
「ミス・コニール…」
「隊長はあんたなんだろ?じゃ、あんたがやった方がいいんじゃないのか?」
アスランは彼女をなだめようと声をかけたが、逆に向き直られてしまった。
「失敗したら街のみんなだって、今度こそマジ終わりなんだから!!」
「なんだと、こいつ!」
自分に任せたら失敗するといわんばかりの言葉に、シンは思わず立ち上がった。
「シン!」
彼の怒鳴り声にびくっとしたコニールを庇い、アスランは鋭く言った。
「ミス・コニールも。落ち着いてください」
「ああ、なるほど…アスランか!」
するとそんな空気の中で、アーサーが感心したように大きく頷いた。
「それは考えていなかったが、確かに」
いつもいつもシンに手を焼かされているアーサーにとっては、傍若無人な天才より、話の通じる穏やかなFAITHの方がいいに決まっている。
「副長まで…やめてください。シン、座って」
アスランが指でシートを指すと、シンは不機嫌そうに席に着いた。
けれどコニールはまだ腹に据えかねるようだ。
「ふん!」とそっぽを向いた彼女に、シンも「ふん!」とやり返す。
「もう、子供じゃないんだから」
ルナマリアが呆れたように言ったが、シンは黙ったままだった。
(…そういえばマユとケンカした時、先に「ふん」と言った方が勝ちだった)
そっぽを向いたままそんな事を思い出し、少し胸の奥が痛んだ。

アスランがふくれっ面のコニールに優しく話しかけた。
「彼なら大丈夫です。だからデータを」
手を差し出すアスランを見て、コニールが渋々データを出した。
「ありがとう」
それを受け取ったアスランが礼を言うと、コニールは再びシンを見た。
彼女の瞳には、どこか哀しげな不安感と不信感が影を落としていた。
「シン。データを受け取って」
しかしシンは立ち上がらず、仏頂面のまま腕を組んでいる。
「ほら、取りに行かなきゃ」
「シン。行くんだ」
ルナマリアとレイが促しても、知らん顔だ。
(隊長に頼む時はあんなに必死で、俺に渡すとなったら何だよ、あの顔)
シンは変に意固地になっていた。沈黙が続き、再び場がさわつく。
「シン」
アスランがもう一度名を呼ぶと、シンは不機嫌そうに答えた。
「失敗したらマジ終わりとか言って…そんなに俺が信用できないなら、隊長がやった方がいいんじゃないですか。トライン副長もそう言ってましたしね」
「ええ!?いやぁ、僕はなにも…そんなつもりで…」
突然標的にされたアーサーは驚いて口ごもる。
じっとシンを見つめていたアスランが、口を開いた。
「シン、あなたもしかして…」
「言っときますけど、怖いとか自信がないわけじゃないですよ」
シンは面白くもなさそうに言って肩をすくめた。
お生憎様だ。そんな安っぽい挑発に引っかかる気はなかった。

けれどアスランの切り返しは思いもかけないものだった。
「…甘えてるの?」
「はぁ!?」
シンは驚いて大きな声で聞き返した。
しかしそれは後ろに居並ぶラドル隊の大爆笑にかき消された。
思わず吹き出したルナマリアも、笑いをこらえきれずに顔を背けている。
「おまえの隊長、美人だもんな!」
「そりゃ甘えたくもなるよなぁ、坊主!」
荒地での暮らしが長いラドル隊の面々から荒っぽい野次まで飛んできたが、さすがにこれには気恥ずかしいらしく、シンは仏頂面で黙りこんだ。
「あいにく私は、あなたの心情とやらに配慮して、無理と思える作戦でもやらせてやろうと思うほどバカじゃないの」
それを見てアスランは続けた。
「無理だと思えば初めから自分でやるわ。でもあなたならできると思った。だからこの作戦を採ったのよ。ここでもしやらないなんて言ったら…」
アスランは手に持ったデータを2、3回振ってみせる。
「赤服が泣くわよ、シン・アスカ」
「そうだそうだ、おまえ、赤服だろ!」
「隊長にいいとこ見せろよ!」
「頑張れ、小僧!」
再びラドル隊がわぁっと沸き返った。
「…わかりましたよ」
シンも今回は完全に一本取られたと観念し、データを受け取った。

やがてポイントB、敵砲台の射程圏内まで近づいてきた。
「よし、そろそろだな」
旗艦デズモンドのラドルが時計を見て言った。
距離が15000まで近づくと、ミネルバでもメイリンの声が流れた。
「各艦員はスタンバイしてください。トライン副長はブリッジへ」
「じゃ、おまえたちも頑張れよ!」
アーサーは敬礼して出て行き、ブリーフィングは解散となった。
しかしシンはコニールがまだ自分を睨んでいる事に気づいて尋ねた。
「なんだよ。まだ何か言い足りないのか?」
「前に…ザフトが砲台を攻めた後、街は大変だったんだ…」
小さな彼女に詰め寄ったシンを見て、アスランは口を開きかけたが、俯いたコニールが、泥で汚れた服の裾を掴んで話し出したのでやめた。
「それと同時に、街でも抵抗運動が起きたから…地球軍に逆らった人たちは、めちゃくちゃひどい目に遭わされた」
コニールの声はその時の惨劇を思い出すように震えていた。
シンはそれを聞いて、インド洋での戦闘を思い出した。
泣いていた子供や女性たち、家族の名を叫びながら死んでいった男たち。
地球軍は、地元の人たちに無理な要求や徴用を強いて乱暴を働く。ここでも、酷い事が日常茶飯事として起きているのだろう。
(こんな…マユと同じくらいの女の子が戦わなきゃいけないくらい)
「殺された人だって沢山いる」
コニールは搾り出すように呟いた。
彼女自身も、もしかしたら大切な人を失ったのかもしれない。
「今度だって、失敗すればどんなことになるかわからない!」
コニールは黒い目に涙を溜め、失敗した時の不安や恐怖を訴える。
「だから、絶対やっつけて欲しいんだ!あの砲台、今度こそ!」
(この子はこの歳で、一体どれだけ怖い目に遭ったのだろう)
アスランは彼女を見つめた。
一方シンは、ひどい後悔に苛まれていた。
(…大丈夫だと…必ずやりげると、信じさせてやればよかった)
眼の前の女の子を見つめて、自分の愚かさに拳を握り締めてみても、もはや時は決して遡及せず、口からこぼれた言葉は戻ることはない。
(俺の態度と言葉が、この子の不安をいたずらに煽ったんだ)
「頼んだぞ」と大人のような口を利いたコニールは、こらえきれずにポロリと涙を流し、それが呼び水になって泣きじゃくり始めた。
アスランは小刻みに震える少女の痩せた肩をそっと抱いた。
(もしあの時、生き残ったのが俺ではなくマユだったなら…)
シンは泣いている彼女を見つめながら、哀れな妹を思い出した。
(マユも、この子のように哀しみと怒りで戦ったんだろうか)
ふとアスランの視線に気づいたシンは、思わず顔を逸らした。
そして汚い手で一生懸命涙をぬぐい続ける彼女に、小さく呟いた。
「…わかったよ、ガキんちょ」

コニールを別室で休ませたアスランは、エレベーターホールでルナマリアとレイと鉢合わせた。
「さすがですね、隊長」
「え?」
「シンも、隊長の言う事は素直に聞くんだなって…」
ルナマリアはそう言いながらも少し浮かない表情だった。
「あんなに扱いにくいシンを、うまく乗せて、いう事を聞かせて」
そう言いながら、出会った頃のシンを思い出す。
(アカデミーでも、教官や先輩とぶつかってばかりいた)
そのたびに殴られたり蹴られたりして、シンはいつも傷だらけだった。
最近はさすがに少なくなったが、上官に牙を剥く悪い癖は変わらない。
そんな反抗的なシンが、アスランには思ったより素直に従ったのだ。
なんだか自分より彼女の方が、シンに近いところにいるように思える。
「そんなんじゃないわ。扱うとか、乗せるとか」
アスランは否定した。
「下手くそなんでしょう、色々と。気持ちを表現することとか」
「ええ、まぁ、確かに…」
ルナマリアはため息をついた。
「だから、なかなか理解してもらえないんです」
アスランはそうなのだろうと思う。
そして自分がどうしてもうまくやれない事に、もどかしい思いをするのだ。
「私もあんまり上手い方じゃないから、人づきあいとか…」
アスランは少し寂しそうに言い、それから少し笑った。
「あなたみたいに明るく朗らかだったら…って思うこともあるわ」
「…え?」
ルナマリアは呆気に取られて彼女の背中を見送った。
「ねぇねぇ! 私、もしかして今、隊長に羨ましがられた?」
「さぁ」
大喜びでザクに向かうルナマリアと、セイバーに乗り込むアスランを見比べ、(確かに、乗せるのはうまいな)と思いつつ、レイもコックピットに向かった。

「バグリィー、ミネルバに打電。モビルスーツ隊発進準備」
やがて全艦ポイントに到着し、作戦が開始された。
ミネルバではコアスプレンダーに乗り込んだシンがデータを再確認していた。
このデータを持ってきた薄汚れた少女は、今頃固唾を呑んで待っているだろう。
(最低だな、俺。あんなガキんちょに…)
シンは自分の幼稚さが彼女を傷つけ、不安にさせた事を思ってため息をついた。
「中央カタパルト、発進位置にリフトアップします。コアスプレンダー、全システムオンライン」
その間にもメイリンのオペレーションが進んでいく。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
すぐ後を索引機に導かれたチェスト、レッグフライヤーが追っていく。
(絶対やってやるからな。見てろよ、ガキんちょ!)
シンが向かったのは廃坑となった坑道だった。
「ここに、本当に地元の人もあまり知らない坑道があるんだ」
コニールが示した狭い坑道は、入り組み、ところどころ落盤が起きてほとんど塞がっている。かろうじて天井付近に、小型の戦闘機が一台、通れるか通れないかのわずかな隙間があるだけだ。
しかしこの難所が、実は砲台の下に抜けているのだと彼女は言う。
「今、出口は塞がっちゃっているけど、ちょっと爆破すれば抜けられる」
シンは彼女の言葉どおり、目標座標に不自然な瓦礫の山を見つけた。
「あれか?」
そして天井の落盤に気をつけつつ、何発か機関砲を撃ちこんだ。
瓦礫は崩れ、ようやく一台通れるかどうかの隙間を開く。
シンは慎重に中へと入って行ったが、そのあまりの暗さに驚いた。
「真っ暗だ…」
シンはまずデータを起こして坑道の入り組み具合を確認すると、発光弾を装填し、なるべく真っ直ぐな弾道をとって発射した。何発も持ってきてはいないし、発光弾とはいえ、壁や天井にぶつけるのは落盤を呼ぶ恐れがある。
まっすぐな道以外で闇雲に撃つのは得策ではなかった。
データを分析したシンの予想では、発光弾を撃ってもいいポイントはせいぜい3ヶ所程度しかなかった。
「あとはデータだけが頼りだな」
シンは集中するため深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
(くそっ…わかっていたとはいえ、本当にデータだけってのはキツい)
「モビルスーツでは無理でも、インパルスなら抜けられるわ」
アスランは、「データ通りに飛べばいいから」と涼しい顔で言った。
「って…そんな問題じゃないな、こりゃ…」
発光弾の効果があった域を抜けてしまうと、あたりは完全な闇に包まれる。
出力を最大限に上げたライトなど、あってもほとんど意味はない。
むしろ反射して眼が眩むので、つけない方がマシなくらいだった。
シンは慎重にルートをたどって行った。
コアスプレンダーもだが、気をつけないと後ろをついてくるフライヤーが壁や天井に接触して墜落したり、最悪の場合は爆発を起こす可能性もある。
限られた条件の中で、ルートは慎重に、かつ正確に取る必要があった。

「私たちが正面で敵砲台を引きつけ、モビルアーマーを引き離すから、あなたはこの坑道を抜けてきて、直接砲台を攻撃して欲しいの」

アスランの作戦は、大掛かりな陽動と奇襲を組み合わせたものだった。
(なーにが、俺ならできると思った、だよっ!!)
「本当は自分でやりたくなかっただけじゃないのかー!?」
シンは思わず大声で悪態をついた。
実際には、この狭さはセイバーでは厳しいものがある。
(…けどあの人なら、それすら克服してやり遂げる気がする)
真面目で堅物でおよそ娯楽とは縁がなく、データの整理や機体の整備、トレーニングやシミュレーションに熱心に励んでいるあの人なら…そう思うと、シンの闘争心にめらめらと火がついた。
ラドル隊からも、「うまくやれ」「男を上げろ」と送り出されてきたのだ。
(なら余計に、失敗するわけにはいかないじゃないか!)

「あなたが遅すぎればこちらは追い込まれる。早すぎてもだめよ。引き離しきれないから。いいわね?タイミングを合わせて来て」

それからアスランは「目標地点で会いましょう」と言った。
この作戦は坑道を抜けたインパルスと、基地の対空防衛圏を突破したセイバーが合流した時にこそ、成功を収めるはずだった。
(なんだかんだで、結局乗せられたな、俺)
そう気づいてももはや後戻りは出来ない。
おかげで今、こうして決死のタイムトライアルに挑んでいる。
「ちくしょう!成功したら思いっきり文句言ってやるからな!」
シンは慎重に操縦桿を動かしながらニ発目の発光弾を撃ち込んだ。

ミネルバではアーサーがCICに砲術を命じている。
「CIWS、トリスタン、イゾルデ起動。ランチャーワン、セブン、1番から5番、全門パルシファル装填」
そしてセイバー、ブレイズザクファントム、ガナーザクウォーリアが続々発進し、デズモンドやバグリィーからもバクゥやザクが出撃した。
これらの動きは当然地球軍基地でも察知されていた。
「エリア1より接近する熱源あり。スクランブル!」
「識別、ザフト軍地上戦艦レセップス級1、ビートリー級1。それと…これはミネルバです!」
「ザフトめ、全く性懲りもなく」
司令官は鼻で笑うと、すぐにローエングリンを起動させた。
基地は高台に砲台があるものの、制御室などは峡谷の地下に作られている。
やがて砲塔が基地の真下からせり上がり、チャージが開始された。
さらに、多脚型モビルアーマーYMFG-X7Dゲルズゲーが発進する。
ダガーLの上半身を流用したその姿は、まるで伝説のキメラのようだ。
不気味で不恰好なこのモビルアーマーは、かのアルテミスの傘を開発したユーラシアお得意の無敵のリフレクターを装備している。
ゲルズゲーは6本足でガチャガチャと歩き、配置についた。
「新型艦など持ってきたところで同じことだ!」
司令官は絶対の自信を持ってにやりと笑った。

「よーし、展開!」
基地から続々とダガーLが出てくるのを見て、ラドルが命じた。
レセップスの上にザクを乗せ、バクゥが地を走って陣形を取る。
レイとルナマリアもミネルバ艦上に陣取って武器を構えていた。
「上昇。タンホイザー起動。照準の際には射線軸後方に留意」
「街を吹き飛ばさないでよ」とタリアが言うと、アーサーとチェンは「はい」と返事をして兵装バンクへの指示を続けた。

ミネルバの陽電子破砕砲タンホイザーが起動したのを見て、ゲルズゲーの砲手が射線上にいる友軍を守るためホバリングした。
「リフレクター展開!前へ出ろ。弾き飛ばしてやる!」
ゲルズゲーもまたザムザザー同様、3人の乗り手がそれぞれ役割分担する乗務体制は変わらない。ゲルズゲーはタンホイザーの射線に飛び込むと、リフレクターを展開した。オーブ戦でのデータは既に受け取り済だった。
「撃ぇ!」
アーサーが発射を命じるのと、リフレクターが展開したのはほぼ同時だった。
狭い峡谷ではオーブ沖より超至近距離で激突する事になり、両者に激しい振動が走る。
けれどザムザザー同様ゲルズゲーのリフレクターは陽電子砲に耐え抜き、やがて逆算時計がゼロ時間を示すと沈黙が訪れた。

「作戦開始!敵モビルスーツ隊もできるだけ引き離す!」
「了解!」
陽電子砲が効果を上げなかったと確認したアスランは、上空から進撃を命じた。
ミネルバから飛び降りたルナマリアはオルトロスを構え、ブースターユニットが追加されたエールストライカー装備のダガーLを狙った。
レイはファイアビーで弾幕を張りつつ、バクゥを上空から狙うダガーLをライフルで撃つ。
斬り込み役のセイバーは真っ先にゲルズゲーに向かい、サーベルで斬りかかったが、それを守る護衛のダガーLがすぐに応戦してきた。ゲルズゲー自身もライフルと脚部のビーム砲で防御、攻撃を加えてくる。
セイバーが彼らの気を引く間に、素早いバクゥが1機後ろに回りこみ、ビームブレードを展開して突っ込もうとしたのだが、ゲルズゲーの背には滑腔砲が装備されており、勇敢なバクゥはたった一発で爆散してしまった。
「ルナマリア、あれの周りのモビルスーツを片付けて!」
「はい!」
ルナマリアはアスランが戦っている方向にオルトロスを向けた。
上空には小蝿のように飛び回るダガーLがいる。
「隊長じきじきに指名されちゃったんじゃ」
ルナマリアは1機のダガーに照準を合わせ、ロックした。
「やるしかないわよね!」
だがその射線はなんと、縦に並ぶダガーLを同時に2機撃墜する事に成功した。
「あら!?うそ、やるじゃない、私!」
ルナマリアは気をよくしてさらにオルトロスを盛大にぶっ放した。
勢いづいたザクの援護で護衛のダガーLが削られると、ゲルズゲーは飛行能力のあるセイバーの攻撃にたちまち追い込まれていった。
そのままゲルズゲーを慎重に砲台から引き離していく。
バクゥが数機加勢に来ると、アスランは通信を開いて注意を促した。
「敵の砲は180度までしか射線を取れない。側面に展開を!」
おびき出すための前方の道を開き、バクゥは追走する形になる。
その援護を見てセイバーは上昇し、遊撃体制に入った。
それでもガルナハンの基地司令官は余裕があった。
陽電子砲を持つ艦を擁し、飛行能力を持つモビルスーツを配して上下から揺さぶるつもりだろうが、既にやつらの砲は防いでみせた。
「狙いは悪くないがな。貴様には盾がない」
くくくと笑い、司令官は満を持してローエングリンの発射を命じた。
ゆっくりとその砲口がミネルバに向けられ、やがてロックオンされた。

「敵砲台、本艦に照準!」
このような狭い渓谷においてローエングリンをどうかわすか。
パイロットたちがブリーフィングを重ねたように、操縦士もまた何種類もの射線シミュレーションを繰り返し、操縦桿を握っている。
そのために機動性の高いミネルバがレセップス級より前に出ているのだ。
マリクは陽電子砲発射と同時に、大きくロールを行った。
避けた砲は地を焼き、はるか彼方まで激しい土煙を上げた。
残念ながら逃げ遅れた何体かのバクゥやザクが巻き込まれ、爆発する。
乾いた地の砂煙は弾幕にも等しく、あたりは一時何も見えなくなった。
アスランは視界を確保しようと飛び上がったが、その隙にゲルズゲーは多脚のメリットを生かして崖を渡り、再び砲台に向かって戻り始めた。

「パワーの再チャージ急げ!ゲルズゲーを戻せ!」
ミネルバは討てなかったが、効果はあった。
ゲルズゲーは放たれた陽電子砲を合図に戻りつつある。
「ダガー隊を立て直し、ゲルズゲーと基地の援護を固めさせろ!」
司令官はもはや勝利を確信していた。
(いつも通り中央突破を狙って返り討ちで撤退だ。間抜けめ!)

「あいつが下がる!ルナマリア!」
レイはライフルを構えて前に進もうとしたが、勢いを取り戻した感のあるダガーLの集中砲火に身動きが取れない。ルナマリアも応戦しているが、渓谷が狭いゆえに射線角も狭くなり、逆に真上から狙われて思うままに撃てないのだ。
基地に近づいた分、彼らは身動きがとりにくくなっていた。
「くっ…」
ゲルズゲーは思ったより素早く砲台付近まで戻っている。
このままゲルズゲーを追うと、じきに基地の防衛圏内に入ってしまう。
そうなれば当然、基地から対空砲のシャワーを浴びることになり、いかなセイバーとはいえ、さすがに単機での突入はためらわざるを得ない。
しかしインパルスが奇襲に成功してさえいれば、それは可能だった。
(シン、急いで!)
アスランは作戦開始と同時に合わせた時計に眼をやった。

その頃シンは3発と決めた発光弾を使いきり、あとはデータを頼りに闇の中を飛んでいた。
たまに、新たな落盤でもあったのかデータにない岩が現れてレーダーやレーザー反射のアラートでヒヤリとしたが、シンは卓越した操縦技術でなんとか無事にすり抜けてきた。
暗闇の飛行にも何とか慣れた頃、セットしたアラームが鳴る。
合流の時間が来たのだ。同時にモニターの赤いマークが点滅した。
「ゴール…ここか?距離は500…行けよ!」
シンは瞳を守るためバイザー濃度を上げると、今度こそ遠慮なくミサイルを放った。そして一切減速せずに、トップスピードで出口を突き抜けていく。
「うおぉぉー!!!!!」
爆破と同時に、シンは大空の下へと飛び出した。

突然現れた謎の戦闘機を見て、基地のオペレーターと司令官は仰天した。
「なんだ、あれは!?」
「げ、迎撃っ!ローエングリンを戻せ!」
しかし彼らはその直後、もっと驚く事になる。
戦闘機は続いて飛び出してきた複数の機体と合体すると、モビルスーツになったのだ。
「…モビルスーツだと!?」
「一体どこから…」
しかし何よりシンと素体のインパルスは今、砲台の真下にいるのだ。
ローエングリンの射程に入らず、基地の対空砲を浴びる事もない。
このアドバンテージはあまりにも大きかった。

「シンが目標地点に到達した!急げ!」
レイと進撃を続けていたルナマリアが、オルトロスでゲルズゲーを捉えたが、敵はクモのような不気味な動きで崖の裏側に逃げ込んだ。
「だめよ、戻っちゃうわ!」
「くっ…隊長、指示を!」
作戦では、シンが飛び出した時には自分たちはもっと後方にいる予定で、なおかつゲルズゲーをもっと砲台から引き離しているはずだったのだ。
アスランは状況を見て素早く作戦を修正にかかった。
「敵モビルアーマーを追う!ザクはそのまま前進!」
そして今度は躊躇なく基地防衛ラインを突破してゲルズゲーを追撃した。

シンは自分の出現に戸惑っているダガーLをライフルで次々と撃ち落とした。
さらにエールを装備していないダガーLに向かうと格闘を挑む。
(何しろこっちもほとんど丸腰だからな!)
シンは盛んにブースターをふかして敵を押さえ込み、腰部からフォールディングレイザー対装甲ナイフを取り出して突き刺した。
ナイフはダガーの薄っぺらい装甲を突き破り、コックピットを貫いた。
さらに襲い掛かってきた別のダガーLを思いっきりぶん投げ、そのまま横倒しになったダガーLの全身を頭部CIWSで蜂の巣にする。
威力は弱いが、さすがにこれだけCIWSを撃ちこまれれば動けなくなった。
断末魔のようにもがくダガーLのコックピットに、シンは再び容赦なくナイフを突き刺して止めを刺した。
さらに、陽電子砲塔の付け根部分をライフルで破壊する。
大きな穴が開いた瞬間、別のダガーLが襲い掛かってきたが、シンは素早く腰を落としてそれを避けると、そのままボディにタックルして機体を担ぎあげた。
シンはジタバタしているダガーLを砲塔に開けた穴にポイと投げ込んで、ライフルで追い撃ちをかけた。
ボディが破壊され、リフト口まで届いた途端、ダガーLは大爆発を起こした。

基地内ではこの爆発で連鎖爆発が起き、地下にある制御室も破壊された。
廃坑で繋がっている地面や岩壁から爆風や爆煙、炎が噴き出している。
兵たちは逃げ惑い、サイレンがけたたましく鳴り響いていた。
アスランはこの状況を見て勝利を確信し、サーベルを抜いて両手に持つと、目の前にいるゲルズゲーの手足を素早く斬り裂いた。さらに、ガクンと膝を突いて倒れこんだゲルズゲーのリフレクターを破壊して沈黙させた。
激しく噴き上がる爆風で砲台の上にある陽電子砲も損傷すると、守りを失った基地に、ミネルバやデズモンドの主砲が畳み掛ける。
バクゥやザクも続々と基地防衛ラインを抜け、砲塔を破壊した。
やがて対空砲もダガーLの抵抗も終わり、後には勝利したザフト軍と、基地を失った敗残兵だけが残された。

投降した捕虜を武装解除させながら進んでくるデズモンドの足は遅く、バグリィーは火力プラントを制圧するためさらに奥地へと進んで行った。
一方ミネルバは一足先にガルナハンの街に入っていた。
上空には火力プラントを放棄した地球軍の輸送機やモビルスーツが飛び交っている。それはまるで難破船から逃げ出す鼠さながらだった。
そして街は、この大勝利にまるでお祭り騒ぎだった。
コニールも下船を許可され、喜びに沸く住民に迎えられている。

しかし光があれば闇もある。
「連合は皆殺しだ!1人も逃がすな!」
街の人々は駐留していた地球軍の兵士を捕え、ほどなく残虐な私刑が始まった。
軍用トラックが燃やされ、火だるまになった兵が飛び出してくると、人々はそれを見てゲラゲラと笑った。女性兵士が悲鳴を上げ、男たちに路地裏へ引きずり込まれていった。後ろ手に縛られ、跪かされた兵が後頭部を撃ち抜かれていた。
死んだ兵に、何発も何発も銃弾を撃ち込んでいる少年もいた。
「この、この…おまえなんかぁ!」
アスランはその光景を黙って見ていた。
この街ではたった今、白が黒に、黒が白になったのだ。

「ご苦労だったわね、アスラン。あとはラドル隊に任せていいわ」
やがてタリアが通信を入れてきた。
タリアもまた、この街の状況に不快感を隠せなかった。
彼らは地球軍に虐げられ、踏みにじられ、尊厳を失って生きてきた。
こうして立場が逆になれば、結局憎しみは反作用となって返っていく。
そして地球軍も、屈辱と怒り、憎しみと恨みを決して忘れないだろう。
「そうして結局…繰り返されるのよね…」
そう呟いたタリアに、メイリンと共にモニターを見ながら艦の被害状況を調べていたアーサーが、のんびりと振り返って「何がです?」と聞き返した。

アスランはほっと息をつくと、モニターを見た。
インパルスのコックピットから降りたシンが、コニールに紹介されて人々から祝福と賛辞を受けている。
コニールは子供らしい満面の笑顔で、この勝利のドラマを皆にしゃべっている様子だ。
やがて彼女は、嬉しそうにシンに抱きついた。
抱きつかれたシンは何とも不自然にのけぞったが、コニールが何か言ってもう一度抱きつき直すと、今度はぎこちなく彼女の背中を叩いた。
やがてセイバーを仰ぎ見たシンが手を振り、唇が「隊長」と動いた。
この状況で外に出るのはあまり気が進まなかったが、帰投命令を伝える必要もあり、アスランはホルスターを腰に巻くとラダーで降り立った。
シンの武勇に加え、彼の上官が若い美しい女とあっては人々の驚きと興奮がピークに達し、やんややんやの大騒ぎになった。
「隊長さぁん!!」
アスランは駆け寄ってきたコニールと握手を交わした。
「ありがとう!ホントにありがとう!!」
「ミス・コニール…」
けれどそうして微笑むアスランの顔に暗い陰を見て、シンが尋ねた。
「どうしたんですか?どこかやられましたか、あなたともあろう方が」
シンは上機嫌のようだった。
「作戦、成功でしたね」
「ええ。大成功だったわね。よくやったわ、シン。あなたの力よ」
「いえ、そんなことないですよ」
嬉しそうなシンは珍しく謙遜し、それから思い出したように言った。
「でもあれ、ひどいですよ!死ぬかと思いました」
アスランは彼の抗議が暗闇飛行の事だと気づいてふふっと笑った。
「あんなに何も見えないなんて言ってなかったじゃないですか!」
「そう?ちゃんと言ったわよ、データだけが頼りだって」
「それは…そうですけど…」
シンはぶつぶつと文句を言った。
「ムチャですよ、あれは。データとは違ってるところもあったし」
「でも、あなたはやりきったでしょ?できたじゃない」
「いや、それは…そうですけどね」
「それも私は言ったわよ」
なんとなく腑に落ちないながらもシンはしぶしぶ承知した。
「戻りましょう。私たちの任務は終わりよ」
周囲に握手を求められても、アスランは丁寧に断ってセイバーに向かう。
あちこちで聞こえる断末魔の叫びや悲鳴を、もう聞きたくなかった。
この混乱を収めるのはラドル隊の仕事であって、ミネルバの任務ではない。
任務を終えた軍人として、今、これ以上手を出す事はないのだ。

後ろから着いてきているシンもまた、街の様子を眺めている。
ふと、アスランが立ち止まったので、シンが怪訝そうに聞いた。
「どうしたんです?」
「対立していた正義が…ひっくり返ったわ」
それだけ言って、アスランはそのままセイバーに乗り込んだ。
「正義…」
シンはしばらくその場に立ち尽くした。
解放に沸く歓声とは別の、泣き声や怒鳴り声、叫び声に耳を済ませる。
不思議な事に、インド洋で聞いたそれらの声とは少し違って聞こえた。
(同じ…人間の、苦しみに満ちた声なのに…)
シンの心には、いくら待ってもあの時のような義憤は現れなかった。
逆に矛盾を孕んだ信念と正義の概念が、空っぽの心に広がっていく。

―― あれは、助けられる人々ではないのか?
(けど…これは仕方ないじゃないか…)
―― たとえ地球軍兵士でも、眼の前で死んでいく弱き者ではないのか?
(地球軍はこの街の人たちにこれまでずっと酷い事をしてたわけで)
―― 死んだ彼らを思い、嘆き悲しむ人たちがいるのではないのか?
(立場が逆になればやられて当然じゃないか…)
―― 普遍性のない正義が真の正義といえるのか?

自分の心と問答していたシンは、並べ立てた言い訳を振り切るようにインパルスのコックピットに戻ると、もう一度街の光景を見つめた。
(でも…俺は…目の前で苦しんでいる人を…)
無抵抗の兵士が土下座をさせられ、その後頭部から撃たれている。
ワインの瓶で殴りつけられたり、2階の窓から投げられる者までいた。
(…助けたいんです。助けられるのなら…)
自分を支える信念だと思っていたそれがぐらつく。
(だけど、自分が信じるものを信じずにどうしろって言うんだ)
正義なんて、正しいとは限らない。だからこうしてひっくり返る。
「俺たちは、信じるからこそ戦えるんだ」
シンはそう呟いてから少し考え込んだ。
(いや…信じるために戦うのか?)
やがてインパルスは飛び立った。
シンはかつての弱者が残酷な強者として君臨する街を振り返った。
一瞬、コニールの笑顔が見えた気がした。
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制作裏話-PHASE18-
このPHASEは盲点でした!

私、PHASE16,17が厄介だという事は重々承知していたんですが、それを今回無事に乗り越え、「さぁて、次はアスラン・ザラのぶっ飛び大作戦だ」と気軽に手をつけたところ、PHASE16,17に勝るとも劣らない難題回であることがわかり、ものすごく、いや、全く何の覚悟もしていなかった分、むちゃくちゃ苦労しました。

本編では、前半はシンが無意味にアスランに噛み付きまくり、シンが苦労して砲台に到達したと思ったらアスランがあっさりゲルズゲーを倒し、しかもローエングリンはチャージにやたら時間がかかっていたので、「だったら初めからアスランとシンで空から行けや!」と爆笑したわけですが、シナリオを読むと、本当は一番描くべきなのはそんなものではなく、インド洋では義憤に駆られたシンが、同じように眼の前でひどい目にあって死んでいく連合の兵士には何も感じない(というか、ホントに何の描写もないんですよね)ことではないかと思いました。

この話は本当は、コニールの目を通してユーラシア兵がガルナハンの人々にひどい事をしていると知ったシンが、英雄的使命感から敵勢力を挫くという成功を収めたものの、終わってみれば今度は連合の兵士が虐殺の憂き目にあっている現状を目の当たりにして、義憤に駆られない自分に愕然とする(またはアスランに痛いところを突かれる)というなら、意味もあると思います。
そしてアスランが言った、彼の信じる「独りよがりの正義」と向き合うべきでした。つまり、前半の「反抗期シンちゃん」など一切不要だったわけです。

そうです、Aパートでガルナハンを制圧し、Bパートで街の惨状を見たシンが、ユーラシア兵を「眼の前で無力なまま死んでいく人」として見られないことに気づいてしまう…なんていう話ならよかったのです。シンが「誰かを助けたいと願う自分は間違っていない」「抗う事もできない弱い者を助ける事は正しい」と信じる「信念」が、実は「主観」や「感情」に支配されるものでしかなく、確固とした「普遍性」を持たないと知って揺らいだ時、「なら、やはり戦争のない世界こそが一番」と思うようになるなら面白いかもと思い、その要素を少しだけ取り入れました。

しかし逆転はあくまでも「原作準拠」ですからここはアレンジしていくしかありません。まずは本編の「ガキ臭くてうるさくてバカみたいなシン」を、「上官には反抗的だが、決してバカではないシン」にトランスフォームしなければ。

たとえばゲルズゲーをぶっ飛ばして街に入ればいいんでしょうというシーンでは、シンは自分には経験もデータも援護(ラドル隊)もあるからだと根拠を示します。
コニールとの少し子供っぽい応酬は、彼女にマユの影を見たからと暗示しています。
アスランがやればいいというのも、コニールだけでなくアーサーが余計な一言を言ったからと揚げ足を取ります。
さらには人を乗せようとする常套句には乗らない、とクレバーな切り返しでアスランを試すのです。

しかしアスランは自分でも気づかない「乗せ屋」スキルを発動して対抗し、シンに「一本取られた」と見事観念させます。このスキル、シンはもちろん、ルナマリアも乗せて、ダガーW撃墜という戦果を上げさせます。しかしこれ、内助の功にはうってつけのスキルですね。

ちなみに「非・撃墜王」ルナマリアはダガーとの相性がよく、撃墜率はそこそこでした。なかなかシンに思いが伝わらないルナマリアが、アスランの方がシンの事をわかってるのかもと思いながら彼を庇うのも、ヒロインらしいと思います。

ラドル隊の野次は創作ですが気に入ってます。本編でもあったらよかったのにと思いますね。
また、自分の幼稚な言動がコニールを不安がらせたと反省するシンも、主人公らしくていいと思います。

戦闘シーンは相変わらず想像と創作ですが、バクゥやザクに指示を与え、アスランには本編より指揮官っぽくなってもらいました。なお本編ではシンのコアスプレンダーが洞窟の壁にガンガンぶつかるという「ありえない」爆笑シーンが出てきました。むちゃくちゃだ。

ガルナハンに入ってからは、本編ではただ人々の祝福を受けるだけだったシンが、現実を見て、自分の心と向き合う姿を入れました。本編ではなぜかアスランがクローズアップされていましたが(なんでだ?)、そもそもここでやるせない顔をするのはシンであるべきですよ。

これで「いやいや、シンは確かに主人公です」などとうそぶく制作陣が信じられないのは当然です。
になにな(筆者) 2011/07/30(Sat)01:43:44 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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