忍者ブログ
機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
[18]  [19]  [20]  [21]  [22]  [23]  [24]  [25]  [26]  [27]  [28]  

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「ディオキアか。綺麗な街ですよね」
入港した黒海沿岸の明るい街並みを見て、アーサーはしみじみ言った。

北半球の季節は冬に入ったが、この地方は地中海性の気候に入るせいか暖かい。
彼がなんだかこういう「文明的」なところは久しぶりですねと笑うと、タリアも「そうねぇ、確かに」と頷いた。
「海だの基地だの、山の中だのばかり来たものね」
戦いが続いたクルーも、この美しい街でゆっくりできたら喜ぶだろう。
「でも、これは…」
タリアが基地の様子を映し出すモニターを見てあからさまに渋い顔をする。
アーサーもははぁ、と覗き込んで頷いた。
「なんでしょうねぇ、一体…」

艦長から「あなたは行かないの?」と聞かれたが、メイリンは曖昧に誤魔化して残っていた。そしてモニターを斜めに見てはため息をついた。
(なんでこの人が今、こんなとこにいるんだよ)
そこには、悲劇の英雄ラクス・クラインがいた。

拍手


ディオキア基地は朝から大騒ぎだった。
何しろプラントからラクス・クラインがやってくるというのだ。
入港したばかりのミネルバはちょうどこのイベントに間に合ったからと、艦長からは最低限の交代要員だけ残して観覧に行ってよいという許可が出ている。
クジを引き損ねた兵は、「ちぇっ!」と舌打ちしながら仕事に戻っていった。
基地の真ん中に作られた特設ステージでは、派手な音楽とレーザービームが飛び交い、ザフトの制服をきわどくアレンジした衣装の美しい女の子たちが歌い踊っている。
女の子目当ての兵たちは皆、ステージ前に陣取って大騒ぎだ。
彼女たちは制帽を投げたり、ほっそりした足を惜しげもなく見せて彼らを誘惑する。
シンとレイは後方の壁際でこの騒ぎを見つめていたが、レイは特に興味もなさそうだし、シンも気のない素振りだった。
逆にヴィーノとヨウランはとっくの昔に人波の中に消えていた。
どうせ一番前でノリノリなのだろう。

整備や調整に没頭し、入港してからも基地で何があるのか知らなかったアスランは、ルナマリアに「ちょっと一緒に見ていきません?」と誘われ、気は乗らなかったのだが、「行きましょ!」と強引に引っ張られて来た。
しかし会場のあまりの騒がしさに、帰るタイミングを見計らっていたその時、爆音が響いた。
観衆が一斉に上空を見上げると、そこにはピンク色に塗装されたザクがいた。
手の中にはザフトの制服を着たセクシーな女の子たちが座っている。
そして彼女たちの真ん中に赤服を着込んだラクス・クラインがいたのだった。
「何あれ?」
ルナマリアがぷっと笑い、あまりのバカバカしさにシンも苦笑した。
アスランは思わず息を呑み、それをごまかすために咳き込んだ。
(ミーア!?ミーア・キャンベル!?)

「勇敢なるザフト軍の諸君!」
ザクが着地すると、再び歓声が起きた。
女の子の1人を抱いたミーアは、にこやかに笑い、手を振りながら挨拶する。
「こんにちは!ラクス・クラインです!」
アスランはそんな「ラクスの姿」にいたたまれず後退ったが、「あれが隊長のご婚約者さまですか?」とシンに笑われると、「え、あ…」と言葉に詰まってしまった。
ルナマリアも手を振りながら挨拶を続ける彼を見て尋ねた
「ご存知なかったんですか?おいでになること…」
「う…」
アスランはまたしても言葉を失う。
「ま、ちゃんと連絡取り合っていられる状況じゃなかったですもんね」
一人で納得している様子のルナマリアに、アスランは結局何も言えなかった。

「今日は、僕が新しく撮っている映画のプロモーションを兼ねて、皆さんを元気づけるために、クライン・ガールズを連れてきました!」
軍服のミーアが男たちの歓声の中、そんな能天気な挨拶をしている。
(ラクスが赤服なんて…)
軍服のラクスなど想像したことがないアスランは、違和感以外の何も感じない。
そういえばアプリリウスで最後に会った時、ミーアは自分の制服姿にいたく感激していたっけ…そう思い出して、もう一度ステージを見る。
(それで…これ?)
アスランはなんだかもう恥ずかしくて逃げ出したかった。
いや、実際逃げ出そうとした。
ステージを見つめているルナマリアの隣から、そっと後ろに下がり始めた瞬間、ぱっと派手なライトが自分たちを照らしたのだ。
ライトの中には、レイ、シン、ルナマリア、そしてアスランがいた。
「彼らこそ、我がザフトが誇るミネルバの英雄たちです!」
音楽がさらに騒がしく盛り上げる。
まばゆいライトに眼が眩み、4人は腕や手で光を遮ったり眼を細めたりした。
いまやどこに行っても武勇の誉れ高いミネルバは、ディオキアでもお祭り騒ぎで迎えられた。そんな雰囲気の中で彼らが紹介されれば、既に興奮気味の兵の歓声もおのずとヒートアップする。
「シン・アスカ!無敵無敗、神速の戦士!!レイ・ザ・バレル!冷静で寡黙な戦士!ルナマリア・ホーク!華麗にして可憐な戦士!」
一体何が起きたのかと戸惑っているシンたちを、面識すらないミーアが大仰に紹介すると、彼らの名声と相俟って基地全体がわぁっと揺れた。
すると、ラクスの周りにいた女の子たちが花束を持ってステージを降り、シンとレイの周りにきゃあきゃあと群がった。2人とも迷惑そうな顔で、特にシンはベタベタとまとわりつく彼女たちを避けようと逃げ腰だった。
ルナマリアはそれを見てむっとし、「ちょっとぉ!」と怒っている。
「そしてアスラン・ザラは前大戦の英雄であり、美しき常勝の女神!」
彼女たちに続いてステージを降りてきたミーアは、アスランの目の前で立ち止まった。アスランは言葉を発することなく彼を睨みつけたが、ミーアは意にも介さない様子でアスランの手を取ると、キスをした。
(…何を…!)
彼はそのまま許可もなくアスランの肩を抱いて片手を上げた。
「それに、彼女は僕の愛する、大切な婚約者だ!」
わぁっと兵たちが声をあげ、アスランは困惑した。
大体キスの仕方までラクスそのもので、何だかちょっと気味が悪い。
ミーアはウィンクすると小声で「久しぶり、アスラン」と囁いた。
アスランは怒りを禁じえなかったが、場所柄を考慮して我慢している。
「離して」
それでも一言だけ言うと、体をよじって肩の手を外させた。
ミーアは肩をすくめると、会場に向けて言った。
「照れなくてもいいのに。そんな奥ゆかしいところも素敵だけど」
ミーアは「また後で」と言うと、女の子を引き連れてステージに戻った。
そしてひとしきり、自分の体が最近大分よくなったという話をした。
「プラントの医療技術は日進月歩です」
ミーアはつやつやとした健康的な顔色で元気そうに喋っている。
「再生医療はもはや遺伝子レベルに達しようとしています。でももちろん、だからといって皆さんが戦いで傷を負っても大丈夫と言いたいわけじゃない」
指を立ててちっちっと揺らし、彼はウィンクした。
その途端、女の子たちが緑の制服をぱっと脱いだので、会場は再び揺れる。
一瞬全て脱いだのかと思うような大胆な衣装チェンジだったが、彼女たちは下に看護兵の服を着ており、またそれが非常にきわどいセクシーな衣装なのだった。
男たちは大喜びで歓声をあげ、口笛を吹き、熱心にレンズを向けた。
「僕は何よりも皆さんの無事と素晴らしい武功を、心からお祈りします!」

「何よあれ、あんな短いスカートで!下品!最低!バッカじゃないの!」
美しい女たちが嫌がるシンにベタベタまとわりついたせいか、ルナマリアはカンカンに怒って悪態をついている。ただでさえシンはカーペンタリアやマハムール同様、このディオキアでも目ざとい女性兵士の話題の的なのだ。
「ザフトの制服もあんなにみっともなく改造しちゃって!」
ルナマリアは行き場のない気持ちを「ねぇ!」とアスランに向ける。
自分もかなり制服をアレンジしている事は、この際全く気にならないらしい。
「なんですか、ありゃ」
シンは心底呆れたような声でアスランに聞いた。
「あれがラクス・クライン?」
シンは初めて見る「悲劇の英雄」をいぶかしそうに見た。
「俺はよく知らないんですが…聞いてたのと随分イメージ違いますね」
「あ…ええ、まぁ…」
アスランはまたしても言葉を濁した。
そもそもミーア自身が、前に会った時とは随分イメージが違う気がする。
ため息をついたアスランは1人の赤服がこちらを見ていることに気づいた。
背の高い彼は、アスランがようやく自分に気づいた事を知ると、にっと笑った。
(誰だろう?)
立ち去る彼を見送り、アスランは再び自分の映画の話を続けるミーアを見た。

「いや、ほんとにこれは運がいい」
艦長と副長も基地の司令官に挨拶するため艦を降り、途中でイベントを眼にしていた。音楽にのりながら、アーサーは浮かれたように言う。
「こんなところでラクス・クラインに会えるとは!」
一方タリアは冷ややかだ。
「ちょっと変わり過ぎじゃないの?軽薄でいやだわ」
「まぁ、確かにちょっと昔と違う気はしますけど…」
アーサーはセクシーな表情でポーズをとる女の子たちを見てにやけた。
「でも一生懸命頑張ってる兵には、息抜きも必要ですからね!」
「なら、あなたにはいらないわね」
タリアが鼻の下を伸ばしている彼にちくりと嫌味を言っても、アーサーときたら「ええっ?それはどういう意味ですかぁ?」と首を傾げるばかりだ。
その時、タリアは別の人物の姿を見かけてふぅとため息をついた。
「まったく」
ラクス…というより女の子に夢中のアーサーは気づいていなかった。
騒ぎの中、基地にはデュランダル議長その人が来ていたことに…

基地の騒ぎは外にも漏れ聞こえ、フェンスの向こう側にはディオキアの街の住民たちが大勢、この騒ぎをひと目見ようと詰め掛けていた。
その中に、真摯にシャッターを切る女性がいた。
彼女は口を一文字に結び、ただひたすら悲劇の英雄ラクス・クラインと、熱狂するザフト兵たちをデータに収めていく。
彼女の青い瞳は彼の一挙一動を冷徹に追い続けた。
彼女は彼が、本物と遜色ないほどに似ている偽者である事も知っていた。
自分が知る彼は、少し風変わりなところはあったが、弱い体に鞭打ち、誰よりも平和を望み、そのくせ戦場では誰よりも広い視野を持って戦況や戦局を分析して判断する、冷静で冷徹な司令官でもあった。
彼女はカシャッとシャッターを切ると、今度は自分の眼でも彼を見た。
そこでは彼女の知らない彼が、「ラクス・クライン」を演じていた。
ミリアリアはポケットからぼやけた光学写真を取り出した。
雲の合間に、かつて自分が運命を預けた艦が写っていた。

「ありがとう!僕もこうして皆と会えて本当に嬉しいよ!」
ミーアが言うと、女の子たちも一斉に手を振る。
「勇敢なるザフト軍兵士の諸君!平和のために、本当にありがとう!そして、ディオキアの街の皆さん!」
フェンスの向こうで見ていた彼らは、自分たちにも声がかかったと知り、兵よりは少ないながらも喜びの声をあげてラクス・クラインに応えた。
「一日も早く戦争が終わるよう、僕もせつに願って止みません!その日のために、みんなでこれからも頑張っていきましょう!平和のために!ザフトのために!」
女の子たちがフェンス間際まで走って行ったので、基地は中も外も大騒ぎだ。
アスランはため息をつき、ルナマリアは怒り、シンは呆れて見ている。
だがレイだけはいつの間にかいなくなっていた。
「やっぱりなんか…変わったんじゃないかな…ラクス・クライン」
ブリッジに残っていたメイリンも、モニターで彼を見ながら呟いた。
(アスランさん…こんな、なんだか、軽薄そうな人の婚約者なんだ)
「ちぇっ」
メイリンはモニターを指で弾いた。
そのくせ、彼の整った容姿はコーディネイターでも群を抜いている。
(つまらないな…何だか)

フェンスの外にはミリアリア以外にも、シンたちにとっては馴染みの人間がいた。もちろん、シンは彼らが何者か知りもしないのだが…
「やれやれだな」
「ほ~んと。な~んか楽しそうじゃん、ザフト」
運転席のスティングが笑うと、 後部座席のアウルがバカにしたように答えた。
「で?結局俺らってまだあの艦追うの?」
アウルは頭の後ろで腕を組み、入港したはずのミネルバについて聞く。
「ネオはその気だ」
スティングはそう言って車を発車させた。
「どっちにしろ、俺たちはここのところあの艦には黒星続きだ」
だがこの言葉にアウルがむっとして言い返した。
「負けてはいないぜ!この間だって、ちゃんと大物獲ったじゃんか!」
「勝てなきゃ負けなんだよ、俺たちは」
スティングは呟くように言う。
「ファントムペインに負けは許されねぇ」
オープンカーの風が顔に当たるのが嬉しくて助手席のステラが楽しそうに笑う。
彼女はさっきからご機嫌で鼻歌を歌ったり、御伽話を呟いたりしている。
アウルは急におとなしくなって「…うん」と答えた。
(ファンムペインは負けられない。負けたら俺たちは用無しだ)
(ネオにも見捨てられて、そして…また…)
2人は不安げに黙り込んだ。
けれど戦闘に関係ない「無駄な記憶」を消されている彼らにとって、「敗北」が具体的な「転落」を示す事はない。なのにそれは、小さな子供が「お父さんとお母さんが死んじゃったらどうしよう」という漠然とした不安を抱く姿にも似ていた。

基地司令官に挨拶を済ませたタリアはアーサーを艦に戻し、指定されたホテルに向かった。人ごみの中から抜け出し、いつの間にか彼女の傍にやってきていたレイも一緒だった。
2人は目的地に着くと、前時代的な瀟洒な建物の奥にある広い庭に案内され、そこで待っていた人物の姿を認めた。
「まったく、呆れたものですわね。こんなところにおいでとは」
敬礼を終えたタリアが、ややくだけた調子で声をかけた。
「驚いたかね?」
「ええ、驚きましたとも。が、今に始まったことじゃありませんけど」
ふふふと笑うと、ギルバート・デュランダルは今度はレイに眼を移した。
「元気そうだね。活躍は聞いている。嬉しいよ」
その途端、レイは駆け出して背の高い彼に幼い子供のように飛びついた。
タリアはこの不可解な光景に驚くでもなく、淡々と2人を見ている。
デュランダル議長もレイを抱きとめ、その背を軽く抱く。
「本当によく頑張っているね。これからも頼むよ、レイ」
デュランダルが優しく言うと、レイは心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「こうしてゆっくり会えるのも久しぶりだ。色々聞かせてくれ」
レイは「ギル」と名を呼ぶと、もう一度デュランダルに抱きついた。

「ねぇ、ギルバート。あの子…レイは、あなたの何なの?」
冷静沈着で物静かで、普段はあの3人の中では最も大人びているレイだが、デュランダルの前ではまるで子供のような無邪気さをみせる。
タリアが彼らの関係を尋ねても、デュランダルはいつもはぐらかした。
「大切な預かりものだよ。本当に大切な、大切な…ね」
(親子にも等しい絆があるとは聞いているけれど…でもこれは…)
ミネルバでは見たこともない笑顔で、レイはデュランダルに話しかけ、明るい笑い声をあげている。その姿はまさに幸せ一杯な子供だった。
そんな2人を見て、タリアはふっと笑った。
(シンやルナマリアには見せられないわね、レイ)
やがて2人は議長が用意させたテーブルに案内され、お茶を供された。
タリアは他にも客が招待されるようだと、セットされた茶器を見て思う。
「でも、何ですの?」
「ん?」
タリアが尋ねると、議長はとぼけたように聞き返した。
「大西洋連邦に何か動きでも?でなければ、あなたがわざわざおいでになったりはしないでしょ」
「きみたちに会いたくなったから…と言っても信じてもらえないだろうね」
議長は笑い、「当たり前です」とタリアも笑った。
その時、見慣れない赤服の兵が遅れた客たちを連れて現れた。
「失礼します。お呼びになったミネルバのパイロットたちです」
イベントが終わり、ミネルバに戻りかけたシンたちは、先ほどアスランが見かけた赤服の兵に呼び止められた。
彼は議長がお呼びだと告げ、彼らを案内してきたのだ。
デュランダルはアスランを見て顔を輝かせ、立ち上がった。
「やぁ!久しぶりだね、アスラン」
「はい、議長」
敬礼していたアスランは差し出された手を握り、再会を喜んだ。
議長はそのまま視線をめぐらせ、ルナマリア、シンを見つめた。
「ルナマリア・ホークであります」
「シン・アスカです。お久しぶりです、議長」
2人は緊張しつつ敬礼したが、デュランダルの瞳はシンを見て優しく微笑んだ。
何しろ、シンは自分自身が厳選に厳選を重ねて選んだパイロットなのだ。
厳しいトライアルを勝ち抜き、議長からじきじきにインパルスのパイロットに任命されたあの誇らしい日を、シンもまた少し懐かしく思い出した。
「このところは大活躍だそうじゃないか。全部聞いているよ」
議長は両手を広げてシンを賛辞する素振りを見せた。
「叙勲の申請もきていたね。結果は早晩、手元に届くだろう」
「ありがとうございます」
プラントの信任を一身に集めるデュランダル議長じきじきの言葉には胸が高鳴ったが、シンは努めて平静を保ち、最敬礼して礼を述べた。 
「例のローエングリンゲートでも素晴らしい活躍だったそうだね」
その後も議長の関心は専らシンに集中していた。
シンは謙遜し、そんな…と言葉を濁した。
「アーモリーワンでの発進が初陣だったというのに、大したものだ」
「あれはザラ隊長の作戦がすごかったんです。俺…いえ自分は、ただそれに従っただけで…」
シンがそんな事を言うのを聞いて、アスランはチラッとシンを見た。
確かに作戦以来、シンは以前よりずっと態度を軟化させ、アスランにも普通に接している。むしろ整備についてなど、相談される事も増えた。
「この街が解放されたのも、きみたちがあそこを落としてくれたおかげだ」
議長はシンばかりではなく、ルナマリアとレイにも視線を送った。
「いや、本当によくやってくれた」
シンと同様に、ルナマリアもその言葉には嬉しそうに礼を述べた。
けれどアスランはどこか腑に落ちない気持ちでいた。
(あれは確かに、地球軍との戦いではあったけれど)
ナチュラルを苦しめる地球軍と戦い、ナチュラルの街を開放することが本当にザフトの仕事なのだろうか…そんな疑念がふつふつと沸いてくる。
ザフトの名声は高まるばかりだが、軍としては何の意味があるのか、と。

「宇宙の方は今どうなってますの?月の地球軍などは」
議長はタリアの質問に対し、芳しくない状況を口にした。
「相変わらずだよ。時折小規模な戦闘はあるが、まあそれだけだ」
核攻撃以来大規模な戦闘はなく、膠着状態といえるようだ。
地上の地球軍も、ユーラシア西側のようにそれぞれ自国のゴタゴタに手を取られているのか、何をやっているのかわからない状態だという。
「このあたりの都市のように、連合に抵抗し、我々に助けを求めてくる地域もあるし…一体何をやっているのかね、我々は」
まるでアスランの心を読んだかのように、議長は彼女の意見を代弁した。
「停戦、終戦に向けての動きはありませんの?」
前大戦の教訓によって大規模な戦闘を起こさないなら、そろそろ停戦、あるいは終戦への動きが見えてもいいはずだとタリアは思っていた。
しかし議長の答えはそれはないという否定だった。
「連合側は何一つ譲歩しようとしない」
行動派の議長の事だ、何度も話し合いの場を設けようとしているのだろう。
けれど連合は頑として首を振らない。
今もなお多くの国に無理やり安全保障条約を結ばせ、連合を太らせている。
「戦いを終わらせる、戦わない道を選ぶということは、戦うと決めるより遙かに難しいものさ、やはり」
珍しく疲れたような口調で、議長はふぅとため息をつく。
連合、とりわけ連邦のゴリ押しは考えたくもない面倒ごとなのだろう。
「でも…」
その時、シンがポツリと口を開いたので、皆一斉に彼を見た。
「あ…すみません」
シンは慌てて、つい口から出てしまった言葉を飲み込もうとしたのだが、議長は「かまわないよ。続けてくれ」と優しく言った。
「むしろ前線で戦う君たちの意見をこそ聞きたいのだ」
シンは少し考えてから、ゆっくりと言葉を選ぶように話し出した。
「…確かに、戦わないようにすることは大切だと思います」
「血のバレンタイン」事件の直前、ウズミ・ナラ・アスハは言った。
我らは連合にもプラントにも与さず、中立を守り、戦わない道を選ぶと。
「でも、敵の脅威がある時は仕方ありません。戦うべき時には戦わないと…」
あの時、オーブは敵と戦うと決めた。
(戦うのなら…)
シンは拳を握り締める。
(愚にもつかない理想なんかじゃなく、弱い人を守らなきゃダメなんだ)
今もポケットにある、亡き妹の携帯がひどく重く感じた。
「そして何より勝たなければ、何一つ、自分たちすら守れません」

しかしアスランはその言葉に、シンの矛盾に満ちた心を見た。
「あんたたちだってあの時、自分たちのその言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
オーブ戦で家族を亡くした彼は、戦う事を選んだ国に怒り、国を捨てた。
けれど力を得た今は、戦うべき時には戦わなければならないと言う。
しかも、それは父パトリック・ザラの言葉にそっくりだった。

「普通に、平和に暮らしている人たちは守られるべきです」
アスランのそんな想いには気づかずに、シンは続けた。
インド洋でも、ガルナハンでも、苦しんでいた人たちは皆解放された。
ディオキアだって皆平和になったって喜んでる。
(弱い人や、戦う力を持たない人が泣かなくて済むように)
反面、シンの心に刺さったとげがちくりと痛んだ。
ガルナハンの街で行われた残忍な私刑は、メディアにすっぱ抜かれて大きなニュースになった。ひっくり返った正義に、世界は侃々諤々だった。
(感情に突き動かされた独善的な正義は、とても危険よ)
眼の前で殺されていった無防備な兵たちと、アスランの言葉が重なった。

「…しかしそうやって、殺されたから殺して、殺したから殺されて…」
シンの言葉を聞き、アスランも言った。
「それで本当に最後は平和になるのかと、以前言われたことがあります」
それは、キラを殺したと思って泣いた自分に、カガリが呟いた言葉だ。
(もう、誰にも死んでほしくない)
アスランは自分の胸元に意識を向けた。
そこには彼がくれた大切な物がある。
「私はその時、答えることができませんでした」
彼女は静かに続けた。
「そして、今もまだその答えを見つけられないまま、また戦場にいます」
答えを一緒に探そうと言ったキラを、安息の場所をくれたカガリを置いて、今もこうして赤服に身を包み、モビルスーツに乗って戦っている。
(果たして「敵」なのかすらわからない人々と…)

シンは沈んだ表情のアスランを見つめた。
タリアをはじめ、ルナマリアやレイも黙って聞いている。
(壮絶な戦いだった前大戦で、この人は一体何を見たのだろう)
(何を知って、何を感じて、そう考えるようになったのだろう)
(そして、その上でなぜまた戻ってきたのだろう、戦場へ)
シンの心には常に、アスランの想いを知りたいという気持ちがあったが、口下手で無口なアスランにはそれをうまく説明する能力が欠けていた。
それが彼らを一歩ずつ下がらせ、超えられない壁を築かせていた。

「そう、問題はそこだ」
終わらない連鎖を指摘され、議長はほっそりした手をひらりと返した。
戦争はどうしてもなくならない。
いつの時代も、戦争など嫌だ嫌だと誰もが言うのに、世界のどこかでは必ず戦争が起きている。
「きみは何故だと思う?シン」
いきなり指名され、シンは慌てて背筋を伸ばした。
「え…それはやっぱり、いつの時代も身勝手で馬鹿な連中がいて…ブルーコスモスや大西洋連邦みたいに…違いますか?」
議長は一理あるといいつつ、その答えには満足しなかったようだ。
「何かが欲しい、自分たちと違うからイヤだ、間違っている」
そんな理由で戦い続けているのも確かだがね、と議長は言った。
「戦争の絶大なる経済効果が、戦争を引き起こす事もある」
たとえばあの機体…と、議長はオレンジ色の機体を指差した。
「ZGMF-X2000グフイグナイテッド」
アスランは機体と共に、警護を兼ねて立っている赤服を見た。
恐らくあれは彼の機体だろう。
議長は、あれは現在急ピッチで量産化が進められている機体だと説明した。
「今は戦争中だ。こうして新しい機体が次々と作られる。戦場ではミサイルが撃たれ、モビルスーツが討たれる。そして様々なものが破壊されていく」
その消費の激しさは平和な時代には考えられないほどだ。
生産ラインは需要に追いつかず、嬉しい悲鳴を上げている。
「人というものはそれで儲かるとわかると、逆も考えるものさ」
「逆…ですか?」
シンが尋ねる。
「戦争が終われば兵器はいらず、儲からない。なら、ぜひやって欲しい。ただし自分には関係のないところでだ」
「そんな…!」
「そう思う人間がいたとしても、おかしくないのではないかね?」
不満そうなシンに、「そうやって煽る者もいるという事だよ」と議長は言う。
「自分たちの利益のために、常に産業として戦争を考え、作ってきた者たちが。私は今のこの戦争の裏にも、間違いなく彼ら『ロゴス』がいると考えている」
「ロゴス」に操られる戦争。確かに、考えられない事はない。
戦争を効率のよい産業として考えるという論は昔から多い。
(けれど)
アスランは断固として思う。
(命は物ではないわ)
破壊され、失われたらそれはもう2度と戻らないのだ。
それに、今回はユニウスセブンの落下が発端だったことが忘れられない。
アスランはテロリストの言葉を思い出して眉をひそめる。
(我らコーディネーターにとって、パトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものと!)
あれは、ザフトとコーディネイターが起こした事だ。
果たしてその「ロゴス」と関係があるのだろうか?

アスランの想いは置き去りになったまま、議長の話は続いていた。
彼らに踊らされ続ける限り、地球とプラントは永遠に戦い続ける。
「できることなら、それを何とかしたいのだがね、私も」

―― だがそれこそ、何より本当に難しいのだよ…

議長は肘をついて手を組み、きっぱりと言った。
「その根を絶たなければ、争いはいつまでも繰り返されるばかりだ」
「…ロゴス」
シンはその聞き慣れない言葉を呟いてみた。
戦争を金儲けのために仕掛ける?自分たちの利益のために?
自分たちは高みの見物で痛みを知らず、苦しみを見ようともせず…もし本当なら、そんな連中は絶対に許してはおけないと思う。
それが議長が示す正義なら、自分たちは信じて戦うべきだと思う。

―― 戦争の根を絶って終わらせる…そうすれば…

自分の望みが少し形を見せた事に、シンは少なからず高揚した。
そしてアスランを見た。
けれどアスランはシンの視線には気づかず、ただ沈黙を守っていた。

議長の計らいにより、パイロット4人のうち3人は、今夜はこのホテルで休むよう勧められた。基地にも近く、何かあってもすぐに駆けつけられるだろう。
ルナマリアは「こんな素敵なホテルで?」と目を輝かせている。
「そうね。議長のせっかくの御厚意ですもの。お言葉に甘えて、今日はこちらでゆっくりさせていただきなさい」
タリアが、「あなたたちはそれに値する働きをしているわ」とねぎらった。
「それがいいわ、シンもルナマリアも。艦には私が…」
自分が戻るつもりでそう言いかけたアスランの言葉を、レイが遮った。
「艦には私が戻ります。隊長もどうぞこちらで」
「え…でも…」
アスランは驚き、断ろうとした。しかしレイはきっぱりと言う。
「褒賞を受け取るべきミネルバのエースは、隊長とシンです。そしてルナマリアは女性ですので、私の言っていることは順当です」
(別に俺はどこでもいいんだけどな)
シンはそう思いながら2人の会話を聞いていたが、その時、向こうから女の子たちの嬌声と「アスラン!」と呼ぶ声が聞こえてきたので振り返った。
そこにはラクス・クラインと、彼によく似た綺麗な女の子たちがいた。
ラクス・クラインはアスランの元に駆け寄り、女の子たちはシンの元に駆け寄ってきた。シンはその不躾な距離の近さに「うっ」と唸って固まった。
「シン・アスカさんですよね」
「インパルスの!」
「わぁ、私お会いしたかったんです」
美しい女の子たちはうるさい上に、シンの腕や背中に勝手に触れる。
「ちょ…」
シンは他人との接触を嫌がって手で拒絶を示したのだが、全く効果がない。
その途端、ルナマリアがずいっと前に出てきて、「ちょっと!シンが困ってるでしょ!やめなさいよ!」と彼女たちを一喝してくれた。
「何なの、あんたたちは!?」
「あなたこそ何?」
「ねぇ、それ赤服?それともコスチューム?」
「コッ…コスチュッ…!?」
ルナマリアが怒って「バカなこと言わないでよ!」と言い返し、何やらいざこざが始まったが、シンはとにかく助かったとほっとした。

一方、アスランの前には赤服を着たミーアが微笑みながら立っている。
「ミー…」
アスランは思わず本名を言いそうになったのだが、議長がすぐに「これはラクス・クライン。お疲れ様でした」と予防線を張った。
「ありがとうございます」
ミーアはにっこりと礼を述べると、再びアスランの方を向く。
「きみがホテルに来ると聞いて、急いで戻ってきたんだよ」
「はぁ…そう…ですか」
なんでと言いそうになるのをぐっとこらえ、アスランは曖昧な返事をした。
「今日のステージ、どうだった?びっくりしたろ。ごめんね」
ミーアは相変わらずペラペラとよく喋る。
「街を開放したきみたちを、ディオキアの人にどうしても知ってもらいたくて」
「ああ、そう…ああいうのは、ちょっと…」
アスランは視線を泳がせて答えた。
後で、二度としないようきつく言っておかなければと思いながら。
「ガルナハンでは大活躍だったんだってね!きみたちはまさに英雄だよ!」
ミーアはそう言いながら他の3人にも愛想を振りまいた。
レイはいつも通り無表情だし、女の子たちといがみあうルナマリアは何も聞いていなかったが、シンは最初から最後まで胡散臭そうに、この軽薄さ丸出しの俗物的な「ラクス・クライン」を見つめていた。
議長はふっと笑い、それからミーアに言った。
「彼らにも、今日はここに泊まってゆっくりするよう言ったところです」
「本当ですか?わぁ、それは嬉しいな」
ミーアは議長に喜びの表情を見せる。
「どうぞ、久しぶりに2人で食事でもなさってください」
「いえ、私は…」
アスランの拒絶はミーアの声にかき消された。
「うん、早速席を予約するよ!夜景が素敵なレストランがあるんだ」
そんな事は望んでいないアスランは焦り、そして慌てて提案した。
「…あ、では、シンとルナマリアもぜひ一緒に!同じホテルですし…」
しかしミーアはニッコリと笑って打ち返してきた。
「もちろん。でも彼らのデートの邪魔をしちゃいけないよ、アスラン」
「デート」と聞いてルナマリアの顔がぱっと明るくなる。
「きみたちにもいい席を用意させるから、2人だけで楽しい夜をどうぞ」
シンが口を開くより先に、ルナマリアが元気よく「はいっ!」と答えた。
「ねぇ、たまにはいいでしょ、シン。行こうよ!」
「…ええ?なんで俺が…」
結局アスランとシンは気乗りのしない「デート」を受けざるを得なくなり、互いにこっそり顔を見合わせると、はぁとため息をついた。

「ああ、その前にちょっといいかな?アスラン」
そんな彼らを楽しそうに見守っていた議長がアスランを呼び止めた。
議長はアスランを少し離れたパティオに連れて行くと、話というのはほかでもない、アークエンジェルの事なんだがね…と話し出した。
「あの艦がオーブを出たその後、どこへ行ったのか。もしかしたらきみなら知っているのではないかと思ってね」
議長は噴水のヘリに腰掛け、長い足を組みながら尋ねた。
「いえ、ずっと気にはかかっているのですが、私の方でも何も…」
アスランも折に触れ、彼らの情報がないかと探してはいるのだが、何しろあちらには情報操作に長けたラクスと、ハッキングが得意のキラがいる。
軍のコンピューターを使って、正規のルートで探すには限界があった。
「私の方こそ、それを議長にお聞きしてみたいと思っていたところです」
議長は「そうか」と考え込むような口調で言った。
「アークエンジェルとフリーダムがオーブを出たというのなら、彼も…本物のラクス・クラインも、もしや彼らと一緒ではないかと思ってね」
アスランもそれは確信していた。
「キラが…いえ、あの艦が出るのに、ラクスを置いていくはずはありません」
追われる身の彼にとっては、むしろその方が安全だからだ。
「こんな情勢の時だ。本当に、彼がプラントに戻ってくれればと、私もずっと探しているのだがね。こんなことばかり繰り返す我々に、彼はもう呆れてしまったのだろうか」
(議長はやはり、ラクスにこそプラントの象徴となって欲しいんだわ)
彼の様子と言葉に、アスランは単純にもそう思っていた。
そして確かに本物のラクスならば、議長と共にプラントをよりよい方へ導く努力をするだろう。
(ラクスには確かに、それだけの力があるんだもの)
「いや、すまなかった。だが今後、もしもあの艦からきみに連絡が入るようなことがあったら、その時は私にも知らせてくれないか」
議長がにこやかに言うと、アスランは頷いた。
「はい、わかりました。あの…議長の方もお願い致します」

待ちきれずに迎えに来たミーアに、「ラクスは軍服なんか絶対着ないわ」と不愉快そうに言うアスランを見送り、デュランダルは少し真顔になった。
(大天使の行方は知らないか…どこにいるのかな、ラクス・クライン)
デュランダルはいつしか夕闇が終わりを告げた晩冬の夜空を見上げた。
そして瞬く無数の星を見ながらふふっと笑う。
(きみはきっと、今もどこからかこちらを見ているんだろう?)

もし本物のラクス・クラインを探し出したとしても、議長が一体どうするつもりなのか…今はまだ、誰も何も知らなかった。
PR
この記事にコメントする
Name
Title
Font-Color
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret
制作裏話-PHASE19-
「まだまだ先がある」「どうなるかさっぱりわからないけど、そのうち何とかなるさ」という制作陣のダメっぷりと迷走ぶりが窺えるような無駄話です。

もー、本当に無駄。くだらない回ですよ、これ。本編で制作陣がやりたかったのは、おっぱいミーアが「ピンクのザクに乗って歌って踊る」ことだけでしょう。

中盤の取ってつけたような議長とのダラダラした会話など全く何の意味もないし、後に彼が提示する「デスティニープラン」や、彼が目指した「戦争のない平和な新世界」を思えば思うほど、彼が本当は何を言いたいのかさっぱりわかりません。

それがわからない中でシンを賢く描きなおし、アスランには疑念を持たせなければならないので苦労しました。ってかこのへんは苦労ばかりだなぁ…
そうそう、初っ端から改変したのは、本編ではよくわからなかったのですが、逆転ではシンと議長には既に面識があるとしたことです。デスティニープランで世界を創り変えようとした議長なら、当然自身の信じる遺伝子のセレクションを重視するはずなので、当時最高の機体であるインパルスの能力を最大限に引き出せるパイロットを厳選しているはずです。ですからシンは選ばれた猛者たちとトライアルに臨み、見事勝ち抜いた勝者であるとしたのです。これは当然、「偶然乗ったら最強でした」というキラとの違いを強調しています。

シンはこの回、「戦わなければ守れない」と言うのですが、これって「理念を守ろうとして戦ったオーブが悪い」と主張する事とやや矛盾してしまいます。
それを言うなら、この場合は「愚にもつかない理念なんかじゃなく、弱い人を守って戦うべきだ」と、「戦うからには勝たなければならない」と言うべきだと考えました。

DESTINYはとにかく、主人公であるシンの心情こそが中心であるべきなのに、悉くそれが省かれたり適当だったりするんですよ。だから視聴者はシンの考えがわからず、従って理解できず、ただのキレキャラに成り下がったシンには思いいれられないし、ましてや共感もできないのです。

シンを「被害者意識が抜けない加害者」と批評する向きもあり、それも尤もな意見だとは思うのですが、家族を眼の前で殺されて「被害者意識を持つな」というのは酷過ぎますよ。しかも相手がわからなかったら余計。なればこそ、自分を守ってくれない国を恨みたくもなるでしょう、普通は。
シンの根底には深い傷と哀しみがあり、その上に怒りがあるとしたかったので、逆転ではシンに思う存分自分の思いを述べさせています。

それは同時にアスランに父の言葉を思い出させます。もちろん本編にはありません。都合が悪いとすぐ記憶喪失になる回想王ですから、アスランは。
まぁでもこの回では珍しくカガリの言葉を引用したので、先の読めない本放映時はやっとほっとしましたが。

逆転のアスランは「本当に戦うべきもの」を模索していますから、ここで「自分が戦っているのは一体何者なのか?」と考えています。
何しろ気づけばいつの間にか言われるままに戦っている自分がいて愕然とするアスランのこと、シンがキラを討たなかったらずっと悶々としていたかもしれませんね。

議長の言う事にアホの子みたいに頷いたり驚いたりするしかなかった本編とは違い、逆転では独善的な正義で助ける人を選定してしまったシンが、未だに自問自答を続けています。それは答えが出ないのですが、議長が「戦争の根を断てば、戦争のない世界が訪れる」を示唆したことで、シンの願いも徐々に形を成していきます。

その願いは「もう誰にも死んで欲しくない」と呟いたカガリとも重なるのに、人は別の道に進んでしまう事を暗示しています。けれど目的が同じならきっとたどり着けるという希望は、逆種で既にウズミからカガリに、そしてカガリからキラに、アスランにもたらされています。私があのセリフにこめた想いを今後ちゃんと生かせるかどうか、色々考えながら書いていました。

さて、前半はミーア・キャンベルフェアが開催されています。
ザクに乗ったミーアが赤服を着ている顛末はPHASE12の裏話に書いたとおりです。
本編のような歌って踊る「ビックリそっくりさんショー」がない代わりに、彼には「ミネルバの英雄」を紹介させ、図々しくもアスランを自分の婚約者と紹介するという厚顔無恥ぶりを発揮させました。それに、この出会いによってシンとミーアも関係性が作れます。私は本編ではシンとは全く絡まなかったミーアを使い、逆転のシンのキャラクターをさらに立たせる事を画策していましたので。

女の子に囲まれるシンを見るルナマリアのヤキモチぶりも可愛い。カーペンタリアでもそうでしたが、優秀なエースパイロットで、見た目も悪くないやんちゃ系のシンがモテないはずがない。クラインガールズとにらみ合ったり、デートという単語を聞いて目を輝かせたり、ルナマリアは本当に明るくて元気で可愛いヒロインですよね、こうやって描くと。本編でのくだらない女難より、こっちの方がずっと主人公メインになっていいと思います。アスランがちゃっかり娘メイリンちゃんの腰を抱いてどこへともなく去って行ったなんてありえないアホ演出よりね。

次のPHASE20については、当然単なる総集編にするつもりはなく、サブタイトルどおり「シンの過去」を描こうと思って色々と企画を考えていました。
本放映時は「2人で食事でも」と軽々しく奨める議長に、「バカ言ってんじゃねーよ!」と悪態をついたものですが、逆転の発想で「この後、彼らが本当に食事に行ったという設定で、彼らの過去を浮き彫りにさせたらどうか」とひらめきました。
艦長に「あんたに息抜きはいらない」と言われてしまった可哀想なアーサーも、ディオキアは綺麗な街だと言ってますし、夜景の美しいレストランでシンとルナマリアが語り合うシチュエーションが浮かび、いけると思いました。

こんな風に前半と後半はいいんですが、やはり中盤がねぇ…
レイが議長にベタベタなのも一応書いてはみましたが、これも何かきっと、描かれるはずだったのに尺が足りなくて削られたものがあった気がします。

そもそも制作陣が「議長は決して悪者ではなく、純粋に世界の平和を願っている」なんて打ち出すから、逆に論点が見えないんですよね。
初めから「戦いをやめない愚かな民衆を操るためにロゴスを共通の敵とし、人々を守り、悪を倒す英雄を作り出す。世界を思い通りに動かせるようになったら、デスティニープランを導入して世界に秩序と平和をもたらす」ために、強奪事件でインパルスとミネルバのデビューを飾らせ、テロを起こし、戦争に発展させ、ラクスを暗殺し、オーブを滅ぼすつもりだった…とすればよかったのに。

中途半端な事をしているから作品が迷走するんですよ。まぁそんなもの今さらジローですけど。

この時おまけのように出てきたミリアリアは、後にアスランとキラを繋ぐパイプ役をこなします。本編ではセリフはありませんでしたが、逆転では偽ラクス、アークエンジェルの出奔を冷静な目で捉えています。
ファントムペインもまた然り。口では負けたら後がないと言いつつも、彼らは具体的な未来など知らないのだとしました。
になにな(筆者) 2011/07/30(Sat)13:44:44 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
ブログ内検索



Copyright (C) 逆転DESTINY All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog | Template by 紫翠

忍者ブログ | [PR]