機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
シンの眼が、その白い機体に釘付けになった。
(あの機体…見覚えがある…あれは…あれは…)
自分たち家族の行く手を阻んだのは、緑色のモビルスーツ。
上空には飛び回る黒い機体と、眼の前にいる白い機体がいた。
激しい風が皆の体をよろけさせ、マユがひどく脅えた。
不安感が徐々に高まり、フラッシュバックが起きそうな予兆がある。
(ダメだ、こんなところで!消えろ!)
シンは頭を振り、掌に拳を打ちつけて、別の刺激で気を散らそうとした。
その時、そんなシンの意識を戦場に引き戻す声が響いた。
「私は、オーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハ!」
突然の天敵の出現で自分を取り戻したシンの口から、怒声がほとばしった。
「…何しに来た、アスハ!」
怒りに燃えた赤い瞳が見上げた先に、不沈の大天使がその威容を現した。
(あの機体…見覚えがある…あれは…あれは…)
自分たち家族の行く手を阻んだのは、緑色のモビルスーツ。
上空には飛び回る黒い機体と、眼の前にいる白い機体がいた。
激しい風が皆の体をよろけさせ、マユがひどく脅えた。
不安感が徐々に高まり、フラッシュバックが起きそうな予兆がある。
(ダメだ、こんなところで!消えろ!)
シンは頭を振り、掌に拳を打ちつけて、別の刺激で気を散らそうとした。
その時、そんなシンの意識を戦場に引き戻す声が響いた。
「私は、オーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハ!」
突然の天敵の出現で自分を取り戻したシンの口から、怒声がほとばしった。
「…何しに来た、アスハ!」
怒りに燃えた赤い瞳が見上げた先に、不沈の大天使がその威容を現した。
「タンホイザー被弾。FCS、ダウンしました!」
真っ青になったアーサーが被害状況を伝える。
これでは砲の周辺にいた兵たちにかなりの死傷者が出ただろう。
アーサーは医療班を急がせた。
「消火急げ!FCS再起動!ダメージコントロール班待機!」
今のダメージで推力を落としたミネルバも飛行を維持できない。
「ダメです、艦長!」
マリクが振り返ると、タリアはわかっていると言わんばかりに頷いた。
「着水する!総員、衝撃に備えよ!」
ミネルバは激しい水しぶきを上げてマルマラ海に身を躍らせた。
ズズンと振動があり、艦はしばらく激しく揺れ、やがて止まった。
タリアもアーサーもフリーダムを見つめていた。
メイリンはそのあまりにも威風堂々とした姿に圧倒され、言葉もない。
そしてセイバーでミネルバの防衛警戒を続けるアスランは、突然現れた友の真意を測りかね、ただ戸惑っていた。
「…なんで!?どうしてこんなところに、キラたちがいるの?」
カメラを構えたミリアリアも、さすがにこの展開には驚いて手が止まっていた。
(そりゃ、相手はオーブだけど…)
そしてはっと気づくと、今度は夢中でシャッターを切り始めた。
戦場にいた誰もがその伝説の機体に釘付けになっており、展開を待った。
やがて、カガリ・ユラ・アスハの声が止まった戦場の時計を動かしたのだ。
彼は名乗りを上げた後、故国を守るはずの軍にこう命じた。
「オーブ軍、直ちに戦闘を停止せよ!軍を退け!」
「おい、スエズへの援軍はオーブ軍だそうだぞ」
数日前、バルトフェルドからの通信で部屋を飛び出したカガリは、同じく通信を受けてブリッジに向かうキラと廊下で合流した。
「オーブが…スエズに軍を派遣?」
「うん…急ごう!」
2人は一緒にブリッジに駆け込んだ。
そこでは公に発表されたわずかなニュースと、ラクスがターミナルに調べさせた詳細な情報が映し出されており、カガリは眼を見張った。
「タケミカヅチ…空母を出す気か!?」
「空母1と護衛艦6」
処理速度を補助するサイバースコープをかけて、ラクスがデータを読み上げた。
「艦隊はパナマを抜け、喜望峰廻りでスエズに向かっている」
「そんな…ウナトは…首長会は一体何を!?」
カガリは苛立ちを隠せないように呟いた。
「だが、仕方なかろう?」
バルトフェルドが静かに言った。
「同盟を結ぶということは、そういうことだ」
カガリは荒れる首長会の様子を思い出した。
早朝から深夜まで続く閣議。
刻々と変わる情勢を伝えるために走る事務官。
自分が唱える同盟反対には、具体策がないと非難する首長たち。
ウナトが皆をなだめ、色つきメガネの奥の小さな眼でじっと自分を見る。
「国はあなたのオモチャではないのよ!」
ユウナのきつい言葉が、ギリギリと彼の胸を締め上げた。
「あの条約は、締結してはならなかった…なんとしても」
カガリの苦しい胸のうちがぽろりとこぼれた。
「けど、それを認めちゃったのは、カガリでしょ?」
キラの言葉が、取り返せない後悔に苛まれるカガリの心をえぐった。
「こうなるとは思ってなかった?」
「キラ」
ラクスが少し諌めるような声音で声をかけた。
「いいんだ、ラクス。わかってる。キラの言うとおりだ」
カガリはラクスを見て首を振り、そしてキラを見た。
「思ってたよ。なのに、止められなかったんだ、俺には」
キラは無念そうに言うカガリをじっと見つめていた。
「そう言わないの」
硬くなった雰囲気を、マリューの優しい声が包み込んだ。
「私たちだって、あの時強引にカガリくんを連れて来ちゃって…彼がオーブにいたら、こんな事にだけはならなかったかもしれないのよ?」
キラはマリューの方を向き直った。
「いえ、同じことだったと思いますよ」
きっぱりとキラが言うので、マリューも少し驚いたようだ。
「同盟を止められなかったカガリに、これが止められたとは思えない」
バルトフェルドとラクスもキラの厳しい言葉に思わず顔を見合わせる。
「…俺もそう思う」
カガリが再び認めたので、今度は皆一斉に彼を見た。
「結局押し切られて、派兵許可を出さざるを得なかっただろう…」
そして自分の無力さを呪うように吐き捨てた。
「オーブが絶対にやってはならないことを、俺の名で、俺自らの手でだ!」
「でも、今はきっと…違うだろう?」
しばらく黙っていたラクスが言った。
「今のカガリくんになら、あの時見えなくなっていたものも見えてるはずだよ」
その言葉を聞いてカガリは黙りこんだ。
「それが多勢の意見だから、それが正しいからと言われても、どうしても譲ってはいけないものや、守らなければいけないものがあるって事をね」
ラクスはスコープを外し、にこっと笑った。
「だろ?」
「厳しいな、おまえも」
カガリが苦笑した。
「だが、どうする?これを…オーブがその力をもって連合の陣営についたとなると、またいろいろと変わるだろうな。バランスが」
バルトフェルドがスエズ周辺図をモニターに展開してみせた。
ユーラシア西側の混乱に乗じて、ザフトはいくつかの地球軍基地を落とし、既にインド洋から黒海に抜けるザフト・ルートができている。
「これじゃスエズの地球軍はたまらんだろう…ここならジブラルタルも近いし、もし北と南から一気に挟撃でもされたらひとたまりもないぞ」
「ザフトは今も昔も領土獲得戦をやっているわけじゃない」
ラクスはガルナハン始めザフトの勢力下に入ったユーラシア西側の地域を指で軽くなぞると、眼の前のモニターを赤く染めていった。
「でも民衆を解放するという大義名分があれば、戦う意義が生まれる」
ラクスはこうした戦いの数々をデータをもとに分析していた。
「最近のザフトの戦闘傾向は、地球軍の支配に苦しむナチュラルには、地球軍の暴虐から自分たち民衆を救う『解放戦争』と認識されがちだ。反面、ザフトは単に『敵』である『地球軍』と戦っているだけだから、そうした気負いも、圧制に苦しむ民衆を『開放してやった』感もない」
「ナチュラルは喜び、ザフトに感謝し、コーディネイターを受け入れる」
ノイマンがぼそっと呟いた。
「そんでもってコーディネイターも思いもかけない充足感を得ちゃって、気づいたらナチュラルへの偏見を払拭してました…ってわけ?」
続きを引き取ったチャンドラが、「俺たちって、単純なのね」と笑う。
ラクスも楽しそうに笑った。
「どちらにもメリットのある、不思議な『戦争』だ。感心するよ」
なるほどねぇとバルトフェルドが顎をさすった。
「オーブの参戦で、それが今後さらに加速する、か?」
「敵が強大であればあるほど、ザフトの英雄度は増すからね」
バルトフェルトはそれを聞いてやれやれと肩をすくめた。
「結局仲の悪いやつらを仲良くさせるには、共通の敵を作るのが一番って事か」
俺たちがそのいい例だと、「足つき」のクルーと「砂漠の虎」が笑い合った。
「どちらにしろ、オーブはその両方に利用されるってことだ」
カガリはどうしたものか考えあぐね、腕を組んだ。
「呼びかけてみるかい?」
そんな彼を見て、ラクスが助言した。
「残念ながら僕の経験上、言葉が戦闘を止められるとは言い難いけど…それでも、カガリくんがそこに存在していることを示す事はできるよ」
カガリもキラも思わずラクスの顔を見つめた。
ヤキン・ドゥーエで戦った者なら、戦場で戦闘停止を求め続けたラクス・クラインの声を聞かなかった者はいないだろう。
決して諦めずに、敵味方に呼びかけ続けた「悲劇の英雄」の声を。
「俺の存在と、言葉…」
そう呟いて、カガリはしばらく腕組みしたまま考え込んだ。
「それだけでも…何かが変わるだろうか?」
「変わるよ、きっと」
ラクスが答えるより先に、キラが言った。
「それに、私が止める」
え?と皆がキラを見た。
「オーブはこんな戦いに参加しちゃいけない。ううん、オーブだけじゃない。本当はもうどこも…誰も、こうして戦うばかりの世界にいちゃいけない」
私たちの世界は、まだ歪んでいる。前の大戦で大きな傷を負った分、その傷が治らなくて、痛みに苛まれ、ますます歪んでしまっている…
「引き返そうよ、カガリ。ウズミさんが目指した、あのオーブに」
「キラ…」
キラのこの意見にクルーは全員驚いたが、カガリはとりわけ驚いていた。
出会った頃は泣いてばかりいたキラが、今は尻込みする自分の背を押してくれている。そして自分と共にいてくれると…「闘う」と言っているのだ。
(おまえは強いな…俺と違って)
カガリは勇気をくれたキラから眼を逸らし、艦長と操縦士を振り返った。
「ラミアス艦長、ノイマン三尉、発進してくれないか」
その言葉にノイマンとマリューは軽く視線を交差させた。
「確かに、俺がここで語りかけても何も変わらないだろう」
カガリは自身の決意を語った。
「だがラクスの言うとおり、俺の存在を彼らに知らせたい。俺が彼らを見ていることを、俺が彼らを戦わせることをよしとはしていないことを知らせたい。戦場は…恐らく、ひどく混乱するだろうが…」
三隻同盟が介入したことによって敵味方が入り乱れ、激しい戦いになった前大戦の最終決戦を思い出し、カガリは眉をひそめた。
「ま、それこそ混乱に乗じてってのは俺たちの十八番だしな」
バルトフェルドが引き継いだ。
「何もしなけりゃオーブはこのままザフトと激突する。俺たちが介入したところで、オーブは戦いをやめないだろう。さて、ではここで問題だ」
彼はおどけた様子で両手を広げた。
「どっちにしろ戦闘が止まらないなら、どっちがいいかね?」
ふふっとラクスが笑い、キラとカガリも顔を見合わせて笑った。
マリューがそんな彼らを見て「決まりね」と言った。
「じゃ、発進しますよ」
ノイマンが前を向き、インカムをつけると態勢を整え始めた。
「現在、訳あって国もとを離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハがオーブ首長国連邦の代表首長である事に変わりはない」
カガリの声は戦闘海域にいる者すべての耳に入った。
タケミカヅチのトダカもアマギも思わず顔を見合わせ、ブリッジクルーもひそひそと言葉をかわしている。
(カガリ様…?)
(若様がここに?どうして?)
(でもあれはフリーダムとアークエンジェルだぞ)
ただ1人、真っ青な顔をして立ち上がったのはユウナだった。
わなわなと震え、モニターを拡大してフリーダムとアークエンジェルをその眼に焼きつける。
(…カガリですって?一体なんだってこんな時に…!)
「その名において命ずる!オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!」
カガリの声が厳しく飛んだ。
ユウナがバシッと目の前のモニターを叩いて怒りに燃える。
「冗談じゃない、冗談じゃないわ!一体何よ、これはっ!」
ユウナはギロリとアークエンジェルを睨みつけた。
(国を放っぽり出して遊んでる男が、何を勝手なこと言ってるのよ!)
「カガリ…」
その声に戸惑い、驚きを隠せなかったアスランは、フリーダムが護衛するアークエンジェルを見つめた。探し続けていた艦が今、目の前にあった。
(あそこに、カガリがいる)
けれど自分は今、ザフトのモビルスーツに乗り、オーブと戦っている。
(望んだわけじゃない。でも…)
パイロットスーツの下にある指輪が、ひどく重く感じた。
「ユウナ・ロマ・セイラン」
その時、タケミカヅチにJ.P.ジョーンズから緊急通信が入った。
「これはどういうことです? あれは何です?本当に貴国の代表ですか?」
「う…うう…」
ネオ・ロアノークが詰問すると、ユウナは冷や汗をかきながら口ごもった。
「ならば、それがなぜ今頃、あんなものに乗って現れて、軍を退けと言うんですかね?」
ユウナは忌々しい戦艦とモビルスーツを見た。
(今さら軍を退けなどと…できるわけないじゃないの!)
彼らが今、自分を窮地に追い込んでいる事は明白だった。
「これは今すぐきっちりお答えいただかないと。お国もとをも含めて、色々と面倒なことになりそうですが?」
「こ…これは…いえ、だから…あれは…ええい!」
ユウナはカラカラに乾いた口でしどろもどろに言い訳を探していたが、ついに観念したように叫んだ。
「あんなもの、私は知らないわ!!」
その言葉に、トダカやアマギ、ブリッジ全員が「な…!」と声をあげた。
「ユウナ様!何をおっしゃいますか!」
トダカが慌てて言い、アマギも続いた。
「あれはフリーダムとアークエンジェルです。カガリ様を連れ去ったのは彼らではありませんか!」
ユウナは声を荒げて「いいえっ」と否定した。
「だっ、だからといって、何でカガリが乗ってるってことになるのよ!?」
「しかしあのお声は…」
「偽者よ、あんなの!声だけじゃ本物かどうかわからないじゃない!」
ユウナはヒステリックに叫んだ。
「あれはカガリじゃないわ!私にはわかるのよ!!妻なのよ?私は!」
話を聞こうともしないユウナに苛立ち、トダカが声を荒げる。
「ユウナ様、本気でおっしゃってるんですか!?」
「でなければ…そうだ、きっと操られてるのよ!」
ユウナは座っているシートの肘掛を拳で叩きながら喚いた。
「本当の、ちゃんとしたカガリなら、こんな馬鹿げた…私に恥をかかせるようなことをするはずがないでしょう!!」
それから右手を前に向かって振り上げ、大声で命じた。
「攻撃よ!早く攻撃するのよ!あんな曲者をカガリと呼ぶことは許さないわ!」
タケミカヅチのクルーはあっけに取られ、ユウナは一人で喚いている。
「何をしてるの!早く撃ちなさい、バカ者!」
誰もがあれはカガリだと確信しているのに、命令を下す最高責任者だけがあれはカガリではないと言い張っているのだから、呆れもするだろう。
皆不安を宿した表情で、ユウナではなくトダカを見つめている。
「あの疫病神の艦を撃つのよ!合戦用意!」
「…あなたという方は!」
トダカは拳を握り締めた。
「でなきゃこっちが地球軍に撃たれるのよ!国もね!」
睨みつけるトダカに、ユウナは負けることなく言い返した。
「私たちはオーブのためにここまで来たのよ!それを今更、『やめます』なんて言えるわけがないでしょう!」
「…艦長?」
静まり返った戦場とブリッジの沈黙を、アーサーが破った。
メイリンもバートもマリクもチェンも、およそクルーのすべての視線がタリアに向けられた。アーサーは副長の責務として恐る恐る尋ねる。
「艦長…あの…」
「いいからちょっと待って。本艦は今、一番不利なのよ」
タンホイザーが破壊され、艦も爆発でダメージを受けた。
死傷者も出ているし、こんな状態で一斉攻撃を受けたりしたら…
「全く…何がどうなってるんだか…!」
タリアは親指を噛みながらアークエンジェルとフリーダムを見た。
オーブに撤退を命じた声はオーブ代表カガリ・ユラ・アスハだった。
タリアは金色の髪をした若者を思い出し、ふぅと深く息をついた。
「まさか、このままオーブが退くなんてことは…」
(ないでしょうけど…そして彼らは…)
タリアがそう思った時、モビルスーツデッキから通信が開いた。
モニターにはパーソナルカラーのオレンジのスーツを着たハイネが映る。
「艦長。動きがあったらこっちも出ますよ?いいですね?」
「ええ、お願い」
さらにタリアはいつでも動けるよう、艦の修理を急がせてとアーサーに命じた。
「ミサイル照準、アンノウン」
タケミカヅチではついにトダカが動き、砲雷に攻撃を命じた。
「一佐…!」
アマギは驚き、ブリッジクルーもまた息を呑む。
「我らを惑わす、賊軍を討つ!」
ざわめく兵たちは戸惑いを隠せない。
あれはカガリだと確信しているはずのトダカが、本気でそんなことを言うわけがない…アマギはそう思いながら、そうしなければならないこの状況に唇を噛んだ。
(我らが、あろうことか若様に攻撃せねばならないなど…)
「早く撃つのよ!」
ユウナはトダカを急かした。
「あの仮面男に怪しまれてるのよ!ここで失態を犯したりしたら、また面倒なことになるじゃないの! 」
(頼むぞ、フリーダム!)
トダカは照準を合わせながら、フリーダムが必ず防ぐと信じていた。
(カガリ様…ご無事で)
身を切られるような思いでトダカは主君に刃を向けた。
「撃ぇ!!」
「うっ…!」
カガリは放たれた砲火を見て、インカムを握る手に力をこめた。
フリーダムは、素早くバラエーナと腰のクスィフィアスを起動させる。
「オーブ軍!私の…俺の声が聞こえないのか!」
オーブ軍がアークエンジェルに攻撃を始めたのを見て、タリアやアーサー、セイバーのアスランはもちろんのこと、インパルスのシンも驚きの声をあげた。
(…オーブが、アスハを!?)
オーブは確かにミネルバに、自分に対して刃を向けた。
シンにとってカガリは、自分の怒りをぶつける存在でしかない。
けれど心のどこかで、かすかな動揺が起きていたのも事実だった。
「オーブ軍が国家元首を攻撃する」など、あってはならない事に思え、なのにそれを見てしまった驚き、戸惑い、そして絶望にも似た失望感…シンは、沸き起こったこの不可解で複雑な感情を咀嚼できずにいた。
キラは冷静に、放たれたミサイルを全てマルチロックしていく。
やがて彼らは、それらをフリーダムが全弾撃ち落とす瞬間を目の当たりにした。
アーサーなど、「噂に聞くヤキン・ドゥーエのフリーダム」が、今まさに自分の眼の前でその噂を実証して見せたことに、開いた口が塞がらない。
ユウナはフリーダムの防御力にあっけにとられ、トダカは息をついた。
この攻撃には一切の手心を加えなかった。
そうでなければこの窮状を切り抜けられないと思ったからだ。
(いつもいつも無茶ばかり頼んですまんな、フリーダム)
フルバーストモードのまま迎撃態勢を崩さないフリーダムを見て、シンもまた驚愕し、うめき声と共に思わず言葉を漏らした。
「なんだよ、あれ…」
あれだけのミサイルを一瞬で、しかも取りこぼしなく撃ち落とした。
(ジャマーの影響はイーブンのはずだ。もし俺なら…)
そう思いかけてやめた。無性に悔しい思いをしそうな気がしたからだ。
シンは機体性能の高さはもちろん、何よりもパイロットの驚異的な反応の速さを思い、背筋が寒くなった。
撃ち落とされたミサイルの爆煙がすべて消えると、カガリは息をついた。
(俺の声が、わずかでも兵たちに届いていればいいが…)
その上で撃ってきたのだとしても、自分には彼らを責める資格などない。
カガリはふと視線を感じてラクスを振り返った。
「きっと届いたよ、彼らには。きみの声と、想いがね」
「だと…いいんだがな…」
カガリは警戒を続けるフリーダムを見つめた。
「よーし!奇妙な乱入で混乱したが、幸い状況はこちらに有利だ!手負いのミネルバ、今日こそ沈めるぞ!」
ネオがオーブの攻撃を合図に、後方の空母と僚艦を上げ始めた。
さらに長く待機させていたモビルスーツにも発進命令を下す。
スティングは「ようやくかよ」と呟き、退屈して待ちくたびれていたアウルも「待ってました!お待たせってね」と大喜びだ。
砲撃を合図に、レーダーには恐ろしいほどの敵艦が現れ、点滅を始めた。
「後方の連中が上がってきたわ。あの強奪モビルスーツも来るわよ!」
タリアはアーサーに迎撃を、メイリンにはルナマリアたちも出撃させるよう命じた。大きなダメージを負ったミネルバは着水したまま戦闘継続となる。
生き残るためには、全員一丸となって死に物狂いで戦う必要があった。
やがてウィンダムやダガーL、カオスが空母から飛び出し、指揮系統の乱れから空中で待機するムラサメ・アストレイ部隊を追い越していった。
カオスはランダムな動きをしながらインパルスとセイバーに向けてカリドゥスを放って急速に近づき、こじ開けた道をウィンダムが続く。
インパルスは防衛線をやや下げ、セイバーは上空に舞い上がると、斬り込んできたカオスを引きつけるため攻撃を開始した。
「行けぇ!!」
一方、アビスは着水しているミネルバに向かって魚雷を放ち、かつ上半身を海面に出してはショルダーを開き、連装ビーム砲を放った。
「くそっ…やらせるか!」
シンはその魚雷を撃破してライフルで撃つ。
しかし2機がカオスとアビスに手を取られると、あっという間に防衛ラインを突破され、ミネルバにウィンダムが近づいてしまう。
「レイたちは?まだか、メイリン!」
シンがメイリンを呼び出すと、「全機発進しました」と返ってきた。
「ハイネ・ヴェステンフルス、グフ、行くぜ!」
最初に飛び出してきたのはオレンジ色のグフだった。
ウィングを広げ、バーニアが力強く機体を大空に運ぶ。
続いてザクウォーリアとザクファントムが艦上に立つ。
「いくわよ!」
ルナマリアがオルトロスを構え、いつものようにぶっ放し始めた。
(…あれが…フリーダム…!)
一方、レイは上空で戦場を見守っている白い機体を見上げ、睨みつけた。
ヤキン・ドゥーエ戦ではたった1機で地球軍・ザフト両軍を破り、そして…
(プロヴィデンスを撃破した、伝説のモビルスーツ)
データとしては心に刻みつけていたが、実物を見たのは初めてだった。
レイはその機体を、氷のような冷たい瞳に焼きつけた。
「おい、レイ!レイってば!」
シンの声に、レイはモニターを切り替えた。
「なんだ」
「数が多すぎる。そっちに少し追い込むぞ!」
それはルナマリアが外枠、レイが内枠の敵を叩く彼らのいつも戦法だった。
レイは了解し、ファイアビーのポッドを開いてライフルを構えた。
ザクの射線の先にいるインパルスが、ウィンダムを流していく。
そのインパルスのマニピュレーターが不可解な動きをした。
それを見たハイネは一瞬いぶかしんだ。
(手信号か?いや、法則が違う…意味がわからん)
彼は振り返らなかったが、艦上のルナマリアとレイも合図を返している。
やがてインパルスが流した敵機をガナーザクウォーリアが追い込み、ブレイズザクファントムが落としていく見事な連携を見て、ハイネはあれが彼ら独特のサインだと気づいた。実際にはシンのサインは「時間」を示し、ルナマリアは「先」、それを見たレイが「後」と、それぞれが獲物を拾う大まかな順番を示していた。
「なるほどね。あいつ、ちゃんと司令塔やってるじゃないの」
ハイネはビームソードを抜くと向かってきたウィンダムに近づき、さらに加速した。衝突を恐れたウィンダムは減速したが、ハイネはそのまま軽く操縦桿を倒すと、ギリギリですれ違いざまに相手のボディを切り裂いた。
この速さと自分の反応を楽しむ事が、彼なりの戦いの美学だった。
「なら俺も、おまえらに見せてやらなきゃな!」
ミネルバから増援のモビルスーツが出たことで戦闘は激しくなった。
「な、何やってるの!うちもさっさと攻撃させて!」
カガリの声に戸惑いを隠せず、指令を待つオーブ軍を動かそうと、ユウナがトダカを急かした。
「モビルスーツ隊!ほら!」
「いえ…しかし…」
地球軍の攻勢にミネルバは持てる力を全て放って応戦している。
だが先ほどのカガリの声によりオーブ軍の動揺は収まっておらず、アークエンジェルも退いていない。ここで迷いながら戦い続ける事は得策ではない気がする…トダカは戦闘を再開することをためらっていた。
しかしそんな甘さを許さないとばかりにユウナは叫んだ。
「ミネルバを討つのよ!また言われちゃうじゃない!うちは地球軍なのよ!」
そしてユウナは大空を仰ぎ見て忌々しい災いの天使を指差した。
「それから!あの艦!アークエンジェルも!」
「しかし…」
先ほどは見せかけの攻撃でしのいだトダカが、再び言葉に詰まる。
「あれがそもそも、我が国混乱の最大の原因でしょ!?」
ユウナの脳裏には屈辱の結婚式が蘇った。
自分にあんな惨めな思いをさせたのは、何を隠そうあの連中なのだ。
「いっつもいっつもいっつもいっつもいっつも…!!だから一緒に片付けて!」
「ですが、アークエンジェルはミネルバを撃ったんですよ?」
アマギが抗議すると、ユウナは鬼の形相で睨み返す。
「だからって我々の味方かどうかなんてわからないじゃないの!第一、カガリの偽者が乗っているのよ?そんなもの、放っておけないわ!」
そこには今や国の実質的支配者となったセイランとしての思惑もあった。
今あの子に戻って来られるより、不可抗力で殺してしまう方がいい…
(誰もが諦め、誰もが納得できる状態でね)
「はああぁぁッ!」
海峡の崖から飛び降り、ガイアが走り出てきた。
カオスと戦うセイバーを追って素早く浅瀬を走り抜けたガイアは、制動をかけてモビルスーツに変形すると、射程内に入ったセイバーを狙った。
アスランは両方向からの攻撃を避け、ガイアの射程から逃げようとしたが、今度は逆にカオスのビームに道をふさがれた。
「…く!」
「ええい!」
スティングがミサイルポッドを発射し、アスランの行く手を阻む。
一方、上半身を水中から出したアビスは、カリドゥス、バラエーナ、そして肩の3連装砲で上空のインパルスを狙っていた。
「今日こそ落ちろ!この野郎!」
そのビーム砲の威力は凄まじく、シンは近づけずにいる。
かといって今アビスを置いていけば、ミネルバを魚雷で撃つだろう。
「これじゃちっとも…」
シンは攻撃の合間を縫ってライフルで応戦しているのだが、相手はすぐにビームの威力が落ちる水中へ潜ってしまう。水面に出た時を狙いたいが、それはあちらもよくわかっていて、おいそれと顔を出してはくれなかった。
シンは胸部CIWSでアビスの行く先を読んで海面に撃ち込んだ。
「モグラ叩きかよ!」
こいつらにかかわっているせいで、ウィンダムやムラサメがミネルバにとりついている。ミネルバのダメージが大きいのは遠目にも明らかだった。
(攻撃を重視するならソード…いや、ブラストか)
アビスに手を焼くシンは、シルエットの換装を考え始めていた。
「オーブ軍、モビルスーツ各隊は地球軍と共にミネルバへの攻撃を再開せよ」
やがてオーブ軍には攻撃再開を命じる指令が下った。
ユウナはトダカを急かし続け、トダカも戦闘再開を判断せざるを得ない。
オペレーターは兵の動揺を抑えるために心にもない言葉を言わされた。
「あれは、カガリ様ではない。あれは、カガリ様ではない」
その言葉にムラサメやアストレイのパイロットがいぶかしむ。
「カガリ様ではない?」
「偽者?」
しかし命令が下った事で、オーブ軍の兵士たちは考えることを一旦諦め、再びミネルバに向かい始めた。
ミネルバの艦上ではルナマリアが飛び交うウィンダムを狙っていたが、やがて再びレーダーにムラサメやアストレイの機影が入ってきた。
「オーブが…また!」
その途端、インパルスと戦っていたアビスのビームがミネルバに着弾して艦体が大きく揺れた。さらにその着弾衝撃で水飛沫が上がり、大量の潮水がブレイズザクファントムを直撃した。
「レイ、大丈夫!?」
「ああ」
ルナマリアはオルトロスを放ち、びしょ濡れのザクファントムを狙うダガーLを撃ち落とした。そしていたずらっぽく笑った。
「落ちても拾ってあげないわよ?」
「かまわない」
レイはそう言うとファイアビーを発射し、ガナーザクの後ろに回り込んだウィンダムを牽制した。それを見てルナマリアが「可愛くなーい」とふくれる。
(一体何のための戦いだ、これは)
カガリは策敵レーダーを見ながら、オーブ軍のモビルスーツのシグナルが次々ロストしていく現実を見つめていた。
(何のためにオーブの兵が、こんなところで命を落とすんだ)
「…くそっ!」
カガリは苛立ち、インカムをむしり取って投げ捨てようとした。
CICのチャンドラがはっと顔を上げ、マリューも心配そうに彼を見たが、カガリはそのままゆっくりと腕を降ろし、インカムを置いた。
(こんな事じゃダメだ。キサカにもよく言われた…指揮官が平常心を失うなと)
こうなる事はわかっていたことだ。
何度も反芻し、これは自分の責任なのだと言い聞かせても、現実は雄弁だった。
(俺は見届けなきゃいけない。どんなに辛くても、腹が立っても)
カガリは拳を握り締め、それからもう一度インカムをセットした。
戦場は入り乱れ、ミネルバにはモビルスーツが取り付いて、ザクが必死に防戦している。飛行能力のある他のモビルスーツはそれぞれ強奪された3機と戦っているが、防衛ラインは徐々に下がってきていた。
さらに、後方から現れた地球軍の艦砲射撃も激しくなっている。
着弾による水飛沫が上がるたびに、ミネルバの艦体が右に左に揺れた。
その時、戦場を見守っていたキラからの通信が入った。
「カガリ…残念だけど、もうどうしようもないみたいだ」
オーブがミネルバに再攻撃を仕掛け始めたことで、キラにも馴染みのある戦場の狂気が皆を飲み込み始めていた。
カガリは少し黙りこみ、やがて答えた。
「もういい、キラ。ありがとう。戻ってくれ」
しかしキラは従わなかった。
「この戦い、止めなくちゃ」
「キラ、でも…」
「あとはできるだけやってみる」
キラはそう言うと手早くスラスターのパワーを上げた。
「マリューさん、バルトフェルドさん、アークエンジェルを頼みます!」
そう言い残し、フリーダムは激戦が繰り広げられる戦場へと向かった。
「10時の方向より、ミサイル8」
ミネルバでは迎撃と回避が続けられていた。
「回避!取り舵10!」
タリアが叫ぶと同時に再び着弾した衝撃がミネルバを襲う。
発射管もかなり潰され、エンジンにもダメージが蓄積しているが、アーサーはトリスタンを撃ち、CIWSで必死の迎撃を続けた。
「クラミズハとイワサコを前に出して!2隻一気に追い込むのよ!」
ユウナが艦艇の展開図を見ながら、ミネルバとアークエンジェルへの同時攻撃をトダカに命じる。フリーダムが離れたアークエンジェルは今のところ守りとなるモビルスーツもなく、無防備状態だった。
「艦砲射撃の後、モビルスーツで追い込ませなさい!」
「オーブ艦艇よりミサイル発射。数8」
「回避!下げ舵15、降下!」
ノイマンがアークエンジェルの艦首を大きく下げてミサイルを避ける。
そこにハンガーで待機していたバルトフェルドが通信を入れてきた。
戦闘開始と同時に、彼専用のムラサメが準備されていたのだ。
「バルトフェルド隊長、お願いします」
「俺、キラほどの腕はないからねぇ」
マリューが防衛を頼むと、相変わらずお気に入りのトラ縞模様のパイロットスーツを着たバルトフェルドは陽気に答え、それから「カガリ!」と呼んだ。
「なんだ?」
「ここでおまえが落ちたら、それこそオーブはどうなる?」
カガリは今、オーブをこんな状態に追い込んでしまった自分のために、彼らがそれぞれ成すべき事をしようとしてくれている事を痛感していた。
(俺を守るため、オーブ軍を討つこともあると言いたいんだろ)
カガリは不自由な体を押して戦闘に出ようとする、かつての「敵」を見た。
「わかってる。あんたに任せるよ、虎」
バルトフェルドがそれを聞いてニヤリと笑う。
「そちらもフォロー頼みますよ、ラミアス艦長」
「了解」
マリューが答えた。
「ムラサメ発進後、本艦はミネルバに向かいます。オーブと地球軍を牽制して」
ノイマンはまたそういう無茶な注文をと思いつつ、そうでなくちゃとも思う。
アークエンジェルは大きく旋回し、激しく煙を噴き上げるミネルバに向かった。
ハイネはガイアのライフルを避けながら、腕に仕込まれたスレイヤー・ウィップを放った。ステラはMA形態となってそれを避けようと疾走したが、上空から何度もウィップで打たれ、ついにはウィップが首に絡む。
「ふ…そら!」
ハイネはその瞬間を逃さず高周波パルスを流し込んだ。
「うあぁぁぁっ!」
激しい電撃を食らい、ステラは衝撃と苦痛に悲鳴を上げた。
なんとかもう一度モビルスーツに変形して首に巻かれたウィップを解いたのだが、今度は構えたライフルにウィップが絡め取られた。
力で引き寄せようとしたが、グフもまたぐいっとウィップを引いた。
(かかったな)
ハイネは力比べに乗ってきた相手にニヤリと笑った。
「…っ!」
その時、ステラの本能が危険というシグナルを出した。
瞬間、ステラは一切の躊躇もなくマニピュレーターを離した。
その途端、ライフルがウィップの高周波で爆発した。
「ちっ…カンのいいヤツめ!」
「…くッ!おまええぇぇ!!」
ステラは怒りにまかせ、サーベルを一閃した。
ハイネはその太刀筋を読んだかのように大きくグフをしゃがませると、力強いサスペンションですぐに立ち上がり、再びウィップを叩きつけた。
「ザクとは違うんだよ!ザクとは!」
素早く飛び退ったガイアを追い、ハイネはもう一度飛翔した。
アスランはモビルスーツに変形し、カオスにサーベルで斬りかかっていた。
スティングはそれを避け、両膝と爪先からビームクローを出して蹴りを入れる。
アスランはシールドで受けるとそのまま押し返し、距離をとったところでアムフォルタスを放った。それと同時にMA形態になって離脱し、すぐにフォルティスを放ってくる。息つく間もない連撃をスティングは避けきれず、カオスのボディが大きく破損した。再びモビルスーツに変形してライフルで襲い掛かるセイバーの攻撃に、カオスはMA形態になる暇さえない。
「戦闘能力で負けている?俺が!?」
スティングは再び距離をとった赤い機体を見て、悔しくてたまらない。
「進路クリアー。バルトフェルド隊長、ムラサメ発進、どうぞ」
ラクスが発進を許可すると、バルトフェルドが自分のパーソナルカラーに選んだ虎色のムラサメがカタパルトデッキに立った。
「アンドリュー・バルトフェルド、ムラサメ行くぞ!でぇい!」
そして掛け声と共にムラサメが飛び出し、アークエンジェルの守護につく。
しかしその途端、向かってきたムラサメと斬り結ぶことになった。
「俺はキラほど上手くないと言ったろうが!」
隻眼に加え、片腕片足が義肢のバルトフェルドにとって、モビルスーツの操縦はかつてバクゥやラゴゥを操った頃に比べると無論、困難が多かった。
しかし前大戦後、シモンズが熱心に手がけた機能不全のパイロット用のOSを乗せ、さらに潜航中にキラが彼用に入念にカスタマイズした機体は、なかなかの手応えだった。断端部に接続した筋電リンケージと補助AIが、彼の望む動きを的確に伝達し、素早く、滑らかにトレースしていく。
バルトフェルドはムラサメを迎え撃ち、シールドで力強く弾き返した。
「落としちゃうぞ!」
そしてライフルを構えるとムラサメのバーニアを狙う。
(すまんね、オーブ軍諸君)
黒煙を噴出して滑空するムラサメを見て、バルトフェルドは苦笑した。
(きみらのためにも、ここであいつを落とさせるわけにはいかんのだ)
「ミネルバ右舷へ、モビルスーツ4!」
チャンドラがミネルバの右舷、ザクの援護が届かない艦後方にムラサメが取りつこうとしていると伝えた。ルナマリアもレイも前方の敵に手一杯だ。
アーサーもCIWSやパルシファル、トリスタンでモビルスーツを牽制するが、既に防衛ラインが破られかけている。かなり危険な状況だった。
「間を狙える?」
レーダーを読み取り、マリューが少し心配そうに言った。
主砲で狙うにはミネルバとオーブ軍の間はかなり肉迫している。
「やります!」
チャンドラが忙しく射線軸を修正し始めた。
「機体に当てないでよ」
「わかってますよ」
釘を刺されながら、射角の計算を終えると主砲を起動する。
「ゴットフリート2番、撃ぇ!」
チャンドラの微調整が功を奏し、艦体と機体の間をゴットフリートが掠めた。
モビルスーツ隊は驚いて後退したが、驚いたのはミネルバも同じだった。
「か、艦長!あの艦が…」
アーサーはてっきり攻撃されたものと思ったのだが、その突然の砲撃は、ミネルバに取りつこうとしたモビルスーツを追い払う事が目的だった。
その後も次々主砲が撃ち込まれるのに、それはミネルバを傷つける事はなく、また地球軍のモビルスーツにも命中しなかった。
(…威嚇射撃?)
タリアはきりっと親指を噛んだ。
「始めはこちらの艦首砲を撃っておきながら…どういうことなの?」
イーゲルシュテルンでミネルバの廻りに弾幕を張ってザクを楽にし、アークエンジェルは再び浮上すると、やや距離をとって様子を見ている。
そして1度はひるんだものの、再びミネルバに向かうモビルスーツには、バリアントやゴットフリートによる「砲撃の壁」を作り、行く手を阻んだ。
「まさか本当に戦闘を止めたいだけなんて、そういう馬鹿な話じゃないでしょうね?」
タリアは胡乱そうにアークエンジェルを見つめた。
(一体何を考えているの、あの艦は)
両軍の戦力を量るため、上空で様子を窺っていたキラは、やがて大体の戦力を把握すると、すぅっと息を吸い込んだ。
感覚を研ぎ澄ます…全ての神経を集中し、やがてキラの身体がヒヤリと冷えていき、クリアな視界と静寂が訪れた。頭の後ろにもうひとつの感覚器官があるような、それくらい鋭敏な感覚がキラの行動を決めていく。
フリーダムは一瞬上空で動きを止めた。
バーニアをふかし、力強いスラスター音が心地いい。
キラは自然に倒れるように前傾すると、そのまま速度を上げて急降下した。
アスランはアークエンジェルを離れ、上空をゆっくり旋回するフリーダムに気づくと、慌てて通信スイッチを入れた。
しかしこれだけの機体が入り乱れ、強いECMによってジャマーが通信を阻害している中、フリーダムの個別のチャンネルなど拾えるはずがない。
「キラ!…キラ!」
必死に呼びかけながら、アスランの手はチャンネルを探索し続けた。
フリーダムが真っ先に向かったのは、水中のアビスと戦うインパルスだった。
水中のアビスを攻めあぐねていたシンは、その気配に気づいて振り返った。
そこに、恐ろしいまでのスピードで自分に向かってくるフリーダムがいた。
「何だ!?こいつ…」
そう思った瞬間、フリーダムがサーベルを抜くのがわかった。
しかしその後の太刀筋は全く追いきれない。
シンはシールドをかざしたつもりだったのだが、気づいた時、シールドはほとんど上がっていなかった。そしてライフルを持った右腕の肘から先がなくなり、そもそもインパルス自体がほとんど動いていなかった事を知った。
その時は既に、フリーダムは前にも後ろにもいない。
シンはそのまま動けなかった。意識していない言葉が口からこぼれ落ちた。
「うそ…だろ…」
まるで完璧な敗北を知らせるようにアラートが鳴り響くコックピットで、シンは息をする事も忘れたように、呆然とモニターを見つめていた。
インパルスを沈黙させたキラは、次に海の中のアビスを追った。
そして水面すれすれを滑空すると、急激にスラスターを逆噴射させ、クスィフィアスを構える。そのままアビスの後方からレールガンをぶち込んだ。
水中でも勢いを失わない実弾が、アビスのVPS装甲の隙間から機関部にダメージを与え、さらにルプスでアビスの背を撃つ。
「うっ!?」
アウルは突然の衝撃の後、ガタガタと揺れ始めた機体に驚き、一体何が起きたのかときょろきょろしたが、もはや攻撃者の姿はそこになかった。
さらにキラは上空を舞うウィンダムやムラサメの腕や足、バーニアや機関部を斬り裂いていった。そのフリーダムを見て、ハイネも驚きを隠せなかった。スピードもさることながら、その撃墜数たるやすさまじい。
今ここにはザフトの最新鋭機がそろっているというのに、それ以上の働きだ。
「何なんだよ!あいつは!」
ハイネは次に自分に向かってくるフリーダムに応戦しようと構えたが、ウィップを出すことも、ビームソードを構えることも、ドラウプニルを放つことも、一切できなかった。気づいた時にはもう懐深くに入られ、右腕を落とされて呆然としていたからだ。反応の速さを自慢にしていたハイネが、そのあまりにも驚異的な速さに、現実を把握できずにいた。
(あれがヤキンの伝説…フリーダム)
その時、キラは、なんとなく以前感じた事のある感覚に気づいた。
(なんだろう?この戦場に、知っている気がする感覚がいくつかある)
それはひどく禍々しい感覚だった。
感じる方向はいくつかあるが、全てが少しずつ違っている。
首の後ろがチリチリするような危険…異質な異物のような違和感…
(この感覚…確かどこかで…)
キラは意識を向けてその存在を探ろうとしたが、うまくいかなかった。
「…え?」
ところがそうしているうちに、今度は逆に懐かしく、覚えのある感覚が飛び込んできてキラを驚かせた。なぜならそれは「彼」を思い出させたからだ。
(そんなはずない。だって…)
キラは脳裏に浮かんだ人物…大切な戦友であり、尊敬する人の存在を否定した。
結局それが何なのかはわからなかったが、キラの研ぎ澄まされた神経が、戦場に混ざりこんだ「覚えのある空気」を感じさせたのかもしれなかった。
「左舷前方、クラオミカミ級。あれの足を止める!」
ミネルバの援護を行っていたアークエンジェルは、艦上のザクとミネルバの迎撃態勢が復活し、防衛ラインが持ち直したのを見て、今度は艦首を地球軍…ことに前進してくるオーブ軍に向けた。
チャンドラが先行するクラオミカミ級に照準を合わせる。
カガリはそれをじっと見つめていた。拳を握り締めながら。
「バリアント、撃ぇ!」
アークエンジェル自慢の精射リニアカノンが火を噴き、クラミズハの左舷を直撃した。艦首付近に穴が開いた艦はたちまち走行不能に陥る。
「何なのよ、あれは!ミネルバを撃ったり守ったり、私たちを攻撃したり…一体どっちの味方なの!?」
ユウナは何がなんだかわからず、手にしていた受話器を投げつけた。
そしてさらにイワサコを狙って向かってくるアークエンジェルを睨む。
「見なさい!だからあんな艦、さっさと落とせと言ったのに!」
トダカもアマギも困惑し、アークエンジェルを見つめるばかりだった。
「くっそー、冗談じゃないぜ」
我に返ったハイネは、切り落とされたグフの右腕を見た。
サスペンションの電気系統は傷ついていないので、小爆発が起きる心配はない。
(…まさか、そこまで狙って…?)
ハイネは忌々しそうに舌打ちすると、飛び去ったフリーダムを追った。
「伝説だかなんだか知らないが、やられっ放しでいられるか!」
次にフリーダムが向かったのは機敏に走り回るガイアだった。
「おまえは何だ!?」
ステラは自分に向かってくるフリーダムを見つけると、その機体とまるで競争するように浅瀬を疾走した。
上空からフリーダムの動きを追っていたアスランは、チャンネル操作を諦め、セイバーを降下させた。
「キラ!やめて!なぜあなたがこんな…!」
アスランが追う間に、キラは飛び掛ったガイアの両前足を斬り捨てた。
ガイアはそのままもんどりうって地面に叩きつけられる。
「ぐっ…!」
ステラは衝撃にうめいたがダメージはなく、足を失って立てなくなったガイアのシフトレバーをガチャガチャと乱暴に動かし始めた。
キラの攻撃で彼女の激しい闘争心に火がついていた。
「あいつ、あいつ、あいつっ!!!」
追いついたハイネは、ガイアが斬られた瞬間を眼にして、「自分もああやって切られたのか」と納得した。それは見事としか言いようのない太刀筋だった。
「手当たり次第かよ。この野郎、生意気な!」
その時、フリーダムがチラリと上空に意識を向けたことに気づいた。
(何だ?何を…)
ハイネは何気なくその先を見て、そこにセイバーがいる事に気づいた。
フリーダムが次の標的にボディを向けても、セイバーは上空で見ているだけだ。
コックピットではアスランがチャンネルを探してキラを呼んでいたのだが、2人の因縁を詳しくは知らないハイネは、熟練兵らしくすぐに行動に移した。
(あのバカ、何をやってる!)
ハイネは残された左手でビームソードを抜くとフリーダムに向かった。
「アスラン、下がれ!」
アスランはそのハイネの言葉にギクリとした。
眼の前には、あの時とそっくりな光景が再現されていた。
片腕を失ったグフが、その片手にテンペストを持ち、フリーダムに…自分の友、キラ・ヤマトに真っ直ぐ向かっていく。
「下がって、アスラン!」
今はもういない、心優しい彼の声が重なった。
しかしその瞬間、前足のないガイアが不恰好に立ち上がった。
「私を…私をっ、よくも!」
ガイアはスラスターを最大にふかすと高く飛び上がる。
狙いはただ一つ。自分の機体を傷つけたフリーダムだった。
いつも以上の跳躍力を見せたガイアのビームブレイドが展開する。
しかしその時、ステラの目の前にオレンジ色の機体が割り込んできた。
グフもまた、セイバーへの攻撃を防ごうとフリーダムに向かっていたのだ。
突然進路をふさがれた事で、ステラの苛立ちと怒りは頂点に達した。
「邪魔だっ!!」
ガイアは減速すらせず、そのままグフに突っ込んだ。
ハイネは気配に気づき、はっと息を呑んだ。
しかし彼にはそれを避けるだけの時間はなく、グフはガイアのブレードでコックピット部分を真っ二つに切り裂かれ、あっという間に爆発した。
「ハイネッ!」
アスランがそれを見て叫ぶ。
(そんな…ハイネ…嘘…)
自分を親友の刃から庇おうとして、また、戦友が一人死んだ。
そのあまりにも残酷なループに、アスランは瞳を見開いたままだ。
(迷っていた…自分が何をすべきか迷って、そして私は、また…!)
その光景を怪訝そうに見つめていたキラは、グフを斬った事で完全にスピードを殺されたガイアを、思い切り蹴り飛ばした。
「うぁ!!」
減速していたとはいえカウンター気味に蹴られ、ガイアは完全にひっくり返って落下していく。ステラはその激しい衝撃で既に気を失っていた。
「ステラ!」
スティングは加速し、水面に届く直前にガイアを見事抱きとめた。
それと同時にJ.P.ジョーンズが帰還信号を打ち上げ、モニターにも「全機帰投」のアラートが出た。
オーブのタケミカヅチ、ミネルバからも帰還信号が打たれる。
戦闘は終わり、あとには累々たるモビルスーツの残骸と、煙を上げて帰還する艦艇が続いた。まだ激しい黒煙を上げているミネルバもまた、モビルスーツの帰投を待って、次の寄港地タルキウスを目指す事になる。
帰還信号を出さなかったのはアークエンジェルのみである。
金色のムラサメがアークエンジェルに格納され、フリーダムはあれだけ戦場を撹乱し、混乱に貶めながら、何事もなかったかのようにそのままアークエンジェルを護衛しつつ、雲の中へと去っていった。
この激しい戦いの一部始終をすべてカメラに収めたミリアリアは、彼らが消えてしまうまでひたすらシャッターを切り続けた。
アスランはただ、呆然とそれを見送っていた。
「…ハイネ…」
(じゃ、おまえ、どことなら戦いたい?)
どことも戦いたくなどない。
言えなかったその言葉こそが本心だった。
「キラ」
アスランは友の名を呟き、バイザーをコツッと拳で叩いた。
そして同じく、暴れるだけ暴れ、眼にも止まらぬ速さでインパルスを斬って去っていったモビルスーツを、じっと見つめている者がいた。
(アークエンジェル…フリーダム…そして、アスハ…)
シンは不審そうな眼で大空に消えていく彼らを見つめていた。
(あの凄まじいまでの「力」…あいつは、一体何だ!?)
真っ青になったアーサーが被害状況を伝える。
これでは砲の周辺にいた兵たちにかなりの死傷者が出ただろう。
アーサーは医療班を急がせた。
「消火急げ!FCS再起動!ダメージコントロール班待機!」
今のダメージで推力を落としたミネルバも飛行を維持できない。
「ダメです、艦長!」
マリクが振り返ると、タリアはわかっていると言わんばかりに頷いた。
「着水する!総員、衝撃に備えよ!」
ミネルバは激しい水しぶきを上げてマルマラ海に身を躍らせた。
ズズンと振動があり、艦はしばらく激しく揺れ、やがて止まった。
タリアもアーサーもフリーダムを見つめていた。
メイリンはそのあまりにも威風堂々とした姿に圧倒され、言葉もない。
そしてセイバーでミネルバの防衛警戒を続けるアスランは、突然現れた友の真意を測りかね、ただ戸惑っていた。
「…なんで!?どうしてこんなところに、キラたちがいるの?」
カメラを構えたミリアリアも、さすがにこの展開には驚いて手が止まっていた。
(そりゃ、相手はオーブだけど…)
そしてはっと気づくと、今度は夢中でシャッターを切り始めた。
戦場にいた誰もがその伝説の機体に釘付けになっており、展開を待った。
やがて、カガリ・ユラ・アスハの声が止まった戦場の時計を動かしたのだ。
彼は名乗りを上げた後、故国を守るはずの軍にこう命じた。
「オーブ軍、直ちに戦闘を停止せよ!軍を退け!」
「おい、スエズへの援軍はオーブ軍だそうだぞ」
数日前、バルトフェルドからの通信で部屋を飛び出したカガリは、同じく通信を受けてブリッジに向かうキラと廊下で合流した。
「オーブが…スエズに軍を派遣?」
「うん…急ごう!」
2人は一緒にブリッジに駆け込んだ。
そこでは公に発表されたわずかなニュースと、ラクスがターミナルに調べさせた詳細な情報が映し出されており、カガリは眼を見張った。
「タケミカヅチ…空母を出す気か!?」
「空母1と護衛艦6」
処理速度を補助するサイバースコープをかけて、ラクスがデータを読み上げた。
「艦隊はパナマを抜け、喜望峰廻りでスエズに向かっている」
「そんな…ウナトは…首長会は一体何を!?」
カガリは苛立ちを隠せないように呟いた。
「だが、仕方なかろう?」
バルトフェルドが静かに言った。
「同盟を結ぶということは、そういうことだ」
カガリは荒れる首長会の様子を思い出した。
早朝から深夜まで続く閣議。
刻々と変わる情勢を伝えるために走る事務官。
自分が唱える同盟反対には、具体策がないと非難する首長たち。
ウナトが皆をなだめ、色つきメガネの奥の小さな眼でじっと自分を見る。
「国はあなたのオモチャではないのよ!」
ユウナのきつい言葉が、ギリギリと彼の胸を締め上げた。
「あの条約は、締結してはならなかった…なんとしても」
カガリの苦しい胸のうちがぽろりとこぼれた。
「けど、それを認めちゃったのは、カガリでしょ?」
キラの言葉が、取り返せない後悔に苛まれるカガリの心をえぐった。
「こうなるとは思ってなかった?」
「キラ」
ラクスが少し諌めるような声音で声をかけた。
「いいんだ、ラクス。わかってる。キラの言うとおりだ」
カガリはラクスを見て首を振り、そしてキラを見た。
「思ってたよ。なのに、止められなかったんだ、俺には」
キラは無念そうに言うカガリをじっと見つめていた。
「そう言わないの」
硬くなった雰囲気を、マリューの優しい声が包み込んだ。
「私たちだって、あの時強引にカガリくんを連れて来ちゃって…彼がオーブにいたら、こんな事にだけはならなかったかもしれないのよ?」
キラはマリューの方を向き直った。
「いえ、同じことだったと思いますよ」
きっぱりとキラが言うので、マリューも少し驚いたようだ。
「同盟を止められなかったカガリに、これが止められたとは思えない」
バルトフェルドとラクスもキラの厳しい言葉に思わず顔を見合わせる。
「…俺もそう思う」
カガリが再び認めたので、今度は皆一斉に彼を見た。
「結局押し切られて、派兵許可を出さざるを得なかっただろう…」
そして自分の無力さを呪うように吐き捨てた。
「オーブが絶対にやってはならないことを、俺の名で、俺自らの手でだ!」
「でも、今はきっと…違うだろう?」
しばらく黙っていたラクスが言った。
「今のカガリくんになら、あの時見えなくなっていたものも見えてるはずだよ」
その言葉を聞いてカガリは黙りこんだ。
「それが多勢の意見だから、それが正しいからと言われても、どうしても譲ってはいけないものや、守らなければいけないものがあるって事をね」
ラクスはスコープを外し、にこっと笑った。
「だろ?」
「厳しいな、おまえも」
カガリが苦笑した。
「だが、どうする?これを…オーブがその力をもって連合の陣営についたとなると、またいろいろと変わるだろうな。バランスが」
バルトフェルドがスエズ周辺図をモニターに展開してみせた。
ユーラシア西側の混乱に乗じて、ザフトはいくつかの地球軍基地を落とし、既にインド洋から黒海に抜けるザフト・ルートができている。
「これじゃスエズの地球軍はたまらんだろう…ここならジブラルタルも近いし、もし北と南から一気に挟撃でもされたらひとたまりもないぞ」
「ザフトは今も昔も領土獲得戦をやっているわけじゃない」
ラクスはガルナハン始めザフトの勢力下に入ったユーラシア西側の地域を指で軽くなぞると、眼の前のモニターを赤く染めていった。
「でも民衆を解放するという大義名分があれば、戦う意義が生まれる」
ラクスはこうした戦いの数々をデータをもとに分析していた。
「最近のザフトの戦闘傾向は、地球軍の支配に苦しむナチュラルには、地球軍の暴虐から自分たち民衆を救う『解放戦争』と認識されがちだ。反面、ザフトは単に『敵』である『地球軍』と戦っているだけだから、そうした気負いも、圧制に苦しむ民衆を『開放してやった』感もない」
「ナチュラルは喜び、ザフトに感謝し、コーディネイターを受け入れる」
ノイマンがぼそっと呟いた。
「そんでもってコーディネイターも思いもかけない充足感を得ちゃって、気づいたらナチュラルへの偏見を払拭してました…ってわけ?」
続きを引き取ったチャンドラが、「俺たちって、単純なのね」と笑う。
ラクスも楽しそうに笑った。
「どちらにもメリットのある、不思議な『戦争』だ。感心するよ」
なるほどねぇとバルトフェルドが顎をさすった。
「オーブの参戦で、それが今後さらに加速する、か?」
「敵が強大であればあるほど、ザフトの英雄度は増すからね」
バルトフェルトはそれを聞いてやれやれと肩をすくめた。
「結局仲の悪いやつらを仲良くさせるには、共通の敵を作るのが一番って事か」
俺たちがそのいい例だと、「足つき」のクルーと「砂漠の虎」が笑い合った。
「どちらにしろ、オーブはその両方に利用されるってことだ」
カガリはどうしたものか考えあぐね、腕を組んだ。
「呼びかけてみるかい?」
そんな彼を見て、ラクスが助言した。
「残念ながら僕の経験上、言葉が戦闘を止められるとは言い難いけど…それでも、カガリくんがそこに存在していることを示す事はできるよ」
カガリもキラも思わずラクスの顔を見つめた。
ヤキン・ドゥーエで戦った者なら、戦場で戦闘停止を求め続けたラクス・クラインの声を聞かなかった者はいないだろう。
決して諦めずに、敵味方に呼びかけ続けた「悲劇の英雄」の声を。
「俺の存在と、言葉…」
そう呟いて、カガリはしばらく腕組みしたまま考え込んだ。
「それだけでも…何かが変わるだろうか?」
「変わるよ、きっと」
ラクスが答えるより先に、キラが言った。
「それに、私が止める」
え?と皆がキラを見た。
「オーブはこんな戦いに参加しちゃいけない。ううん、オーブだけじゃない。本当はもうどこも…誰も、こうして戦うばかりの世界にいちゃいけない」
私たちの世界は、まだ歪んでいる。前の大戦で大きな傷を負った分、その傷が治らなくて、痛みに苛まれ、ますます歪んでしまっている…
「引き返そうよ、カガリ。ウズミさんが目指した、あのオーブに」
「キラ…」
キラのこの意見にクルーは全員驚いたが、カガリはとりわけ驚いていた。
出会った頃は泣いてばかりいたキラが、今は尻込みする自分の背を押してくれている。そして自分と共にいてくれると…「闘う」と言っているのだ。
(おまえは強いな…俺と違って)
カガリは勇気をくれたキラから眼を逸らし、艦長と操縦士を振り返った。
「ラミアス艦長、ノイマン三尉、発進してくれないか」
その言葉にノイマンとマリューは軽く視線を交差させた。
「確かに、俺がここで語りかけても何も変わらないだろう」
カガリは自身の決意を語った。
「だがラクスの言うとおり、俺の存在を彼らに知らせたい。俺が彼らを見ていることを、俺が彼らを戦わせることをよしとはしていないことを知らせたい。戦場は…恐らく、ひどく混乱するだろうが…」
三隻同盟が介入したことによって敵味方が入り乱れ、激しい戦いになった前大戦の最終決戦を思い出し、カガリは眉をひそめた。
「ま、それこそ混乱に乗じてってのは俺たちの十八番だしな」
バルトフェルドが引き継いだ。
「何もしなけりゃオーブはこのままザフトと激突する。俺たちが介入したところで、オーブは戦いをやめないだろう。さて、ではここで問題だ」
彼はおどけた様子で両手を広げた。
「どっちにしろ戦闘が止まらないなら、どっちがいいかね?」
ふふっとラクスが笑い、キラとカガリも顔を見合わせて笑った。
マリューがそんな彼らを見て「決まりね」と言った。
「じゃ、発進しますよ」
ノイマンが前を向き、インカムをつけると態勢を整え始めた。
「現在、訳あって国もとを離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハがオーブ首長国連邦の代表首長である事に変わりはない」
カガリの声は戦闘海域にいる者すべての耳に入った。
タケミカヅチのトダカもアマギも思わず顔を見合わせ、ブリッジクルーもひそひそと言葉をかわしている。
(カガリ様…?)
(若様がここに?どうして?)
(でもあれはフリーダムとアークエンジェルだぞ)
ただ1人、真っ青な顔をして立ち上がったのはユウナだった。
わなわなと震え、モニターを拡大してフリーダムとアークエンジェルをその眼に焼きつける。
(…カガリですって?一体なんだってこんな時に…!)
「その名において命ずる!オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!」
カガリの声が厳しく飛んだ。
ユウナがバシッと目の前のモニターを叩いて怒りに燃える。
「冗談じゃない、冗談じゃないわ!一体何よ、これはっ!」
ユウナはギロリとアークエンジェルを睨みつけた。
(国を放っぽり出して遊んでる男が、何を勝手なこと言ってるのよ!)
「カガリ…」
その声に戸惑い、驚きを隠せなかったアスランは、フリーダムが護衛するアークエンジェルを見つめた。探し続けていた艦が今、目の前にあった。
(あそこに、カガリがいる)
けれど自分は今、ザフトのモビルスーツに乗り、オーブと戦っている。
(望んだわけじゃない。でも…)
パイロットスーツの下にある指輪が、ひどく重く感じた。
「ユウナ・ロマ・セイラン」
その時、タケミカヅチにJ.P.ジョーンズから緊急通信が入った。
「これはどういうことです? あれは何です?本当に貴国の代表ですか?」
「う…うう…」
ネオ・ロアノークが詰問すると、ユウナは冷や汗をかきながら口ごもった。
「ならば、それがなぜ今頃、あんなものに乗って現れて、軍を退けと言うんですかね?」
ユウナは忌々しい戦艦とモビルスーツを見た。
(今さら軍を退けなどと…できるわけないじゃないの!)
彼らが今、自分を窮地に追い込んでいる事は明白だった。
「これは今すぐきっちりお答えいただかないと。お国もとをも含めて、色々と面倒なことになりそうですが?」
「こ…これは…いえ、だから…あれは…ええい!」
ユウナはカラカラに乾いた口でしどろもどろに言い訳を探していたが、ついに観念したように叫んだ。
「あんなもの、私は知らないわ!!」
その言葉に、トダカやアマギ、ブリッジ全員が「な…!」と声をあげた。
「ユウナ様!何をおっしゃいますか!」
トダカが慌てて言い、アマギも続いた。
「あれはフリーダムとアークエンジェルです。カガリ様を連れ去ったのは彼らではありませんか!」
ユウナは声を荒げて「いいえっ」と否定した。
「だっ、だからといって、何でカガリが乗ってるってことになるのよ!?」
「しかしあのお声は…」
「偽者よ、あんなの!声だけじゃ本物かどうかわからないじゃない!」
ユウナはヒステリックに叫んだ。
「あれはカガリじゃないわ!私にはわかるのよ!!妻なのよ?私は!」
話を聞こうともしないユウナに苛立ち、トダカが声を荒げる。
「ユウナ様、本気でおっしゃってるんですか!?」
「でなければ…そうだ、きっと操られてるのよ!」
ユウナは座っているシートの肘掛を拳で叩きながら喚いた。
「本当の、ちゃんとしたカガリなら、こんな馬鹿げた…私に恥をかかせるようなことをするはずがないでしょう!!」
それから右手を前に向かって振り上げ、大声で命じた。
「攻撃よ!早く攻撃するのよ!あんな曲者をカガリと呼ぶことは許さないわ!」
タケミカヅチのクルーはあっけに取られ、ユウナは一人で喚いている。
「何をしてるの!早く撃ちなさい、バカ者!」
誰もがあれはカガリだと確信しているのに、命令を下す最高責任者だけがあれはカガリではないと言い張っているのだから、呆れもするだろう。
皆不安を宿した表情で、ユウナではなくトダカを見つめている。
「あの疫病神の艦を撃つのよ!合戦用意!」
「…あなたという方は!」
トダカは拳を握り締めた。
「でなきゃこっちが地球軍に撃たれるのよ!国もね!」
睨みつけるトダカに、ユウナは負けることなく言い返した。
「私たちはオーブのためにここまで来たのよ!それを今更、『やめます』なんて言えるわけがないでしょう!」
「…艦長?」
静まり返った戦場とブリッジの沈黙を、アーサーが破った。
メイリンもバートもマリクもチェンも、およそクルーのすべての視線がタリアに向けられた。アーサーは副長の責務として恐る恐る尋ねる。
「艦長…あの…」
「いいからちょっと待って。本艦は今、一番不利なのよ」
タンホイザーが破壊され、艦も爆発でダメージを受けた。
死傷者も出ているし、こんな状態で一斉攻撃を受けたりしたら…
「全く…何がどうなってるんだか…!」
タリアは親指を噛みながらアークエンジェルとフリーダムを見た。
オーブに撤退を命じた声はオーブ代表カガリ・ユラ・アスハだった。
タリアは金色の髪をした若者を思い出し、ふぅと深く息をついた。
「まさか、このままオーブが退くなんてことは…」
(ないでしょうけど…そして彼らは…)
タリアがそう思った時、モビルスーツデッキから通信が開いた。
モニターにはパーソナルカラーのオレンジのスーツを着たハイネが映る。
「艦長。動きがあったらこっちも出ますよ?いいですね?」
「ええ、お願い」
さらにタリアはいつでも動けるよう、艦の修理を急がせてとアーサーに命じた。
「ミサイル照準、アンノウン」
タケミカヅチではついにトダカが動き、砲雷に攻撃を命じた。
「一佐…!」
アマギは驚き、ブリッジクルーもまた息を呑む。
「我らを惑わす、賊軍を討つ!」
ざわめく兵たちは戸惑いを隠せない。
あれはカガリだと確信しているはずのトダカが、本気でそんなことを言うわけがない…アマギはそう思いながら、そうしなければならないこの状況に唇を噛んだ。
(我らが、あろうことか若様に攻撃せねばならないなど…)
「早く撃つのよ!」
ユウナはトダカを急かした。
「あの仮面男に怪しまれてるのよ!ここで失態を犯したりしたら、また面倒なことになるじゃないの! 」
(頼むぞ、フリーダム!)
トダカは照準を合わせながら、フリーダムが必ず防ぐと信じていた。
(カガリ様…ご無事で)
身を切られるような思いでトダカは主君に刃を向けた。
「撃ぇ!!」
「うっ…!」
カガリは放たれた砲火を見て、インカムを握る手に力をこめた。
フリーダムは、素早くバラエーナと腰のクスィフィアスを起動させる。
「オーブ軍!私の…俺の声が聞こえないのか!」
オーブ軍がアークエンジェルに攻撃を始めたのを見て、タリアやアーサー、セイバーのアスランはもちろんのこと、インパルスのシンも驚きの声をあげた。
(…オーブが、アスハを!?)
オーブは確かにミネルバに、自分に対して刃を向けた。
シンにとってカガリは、自分の怒りをぶつける存在でしかない。
けれど心のどこかで、かすかな動揺が起きていたのも事実だった。
「オーブ軍が国家元首を攻撃する」など、あってはならない事に思え、なのにそれを見てしまった驚き、戸惑い、そして絶望にも似た失望感…シンは、沸き起こったこの不可解で複雑な感情を咀嚼できずにいた。
キラは冷静に、放たれたミサイルを全てマルチロックしていく。
やがて彼らは、それらをフリーダムが全弾撃ち落とす瞬間を目の当たりにした。
アーサーなど、「噂に聞くヤキン・ドゥーエのフリーダム」が、今まさに自分の眼の前でその噂を実証して見せたことに、開いた口が塞がらない。
ユウナはフリーダムの防御力にあっけにとられ、トダカは息をついた。
この攻撃には一切の手心を加えなかった。
そうでなければこの窮状を切り抜けられないと思ったからだ。
(いつもいつも無茶ばかり頼んですまんな、フリーダム)
フルバーストモードのまま迎撃態勢を崩さないフリーダムを見て、シンもまた驚愕し、うめき声と共に思わず言葉を漏らした。
「なんだよ、あれ…」
あれだけのミサイルを一瞬で、しかも取りこぼしなく撃ち落とした。
(ジャマーの影響はイーブンのはずだ。もし俺なら…)
そう思いかけてやめた。無性に悔しい思いをしそうな気がしたからだ。
シンは機体性能の高さはもちろん、何よりもパイロットの驚異的な反応の速さを思い、背筋が寒くなった。
撃ち落とされたミサイルの爆煙がすべて消えると、カガリは息をついた。
(俺の声が、わずかでも兵たちに届いていればいいが…)
その上で撃ってきたのだとしても、自分には彼らを責める資格などない。
カガリはふと視線を感じてラクスを振り返った。
「きっと届いたよ、彼らには。きみの声と、想いがね」
「だと…いいんだがな…」
カガリは警戒を続けるフリーダムを見つめた。
「よーし!奇妙な乱入で混乱したが、幸い状況はこちらに有利だ!手負いのミネルバ、今日こそ沈めるぞ!」
ネオがオーブの攻撃を合図に、後方の空母と僚艦を上げ始めた。
さらに長く待機させていたモビルスーツにも発進命令を下す。
スティングは「ようやくかよ」と呟き、退屈して待ちくたびれていたアウルも「待ってました!お待たせってね」と大喜びだ。
砲撃を合図に、レーダーには恐ろしいほどの敵艦が現れ、点滅を始めた。
「後方の連中が上がってきたわ。あの強奪モビルスーツも来るわよ!」
タリアはアーサーに迎撃を、メイリンにはルナマリアたちも出撃させるよう命じた。大きなダメージを負ったミネルバは着水したまま戦闘継続となる。
生き残るためには、全員一丸となって死に物狂いで戦う必要があった。
やがてウィンダムやダガーL、カオスが空母から飛び出し、指揮系統の乱れから空中で待機するムラサメ・アストレイ部隊を追い越していった。
カオスはランダムな動きをしながらインパルスとセイバーに向けてカリドゥスを放って急速に近づき、こじ開けた道をウィンダムが続く。
インパルスは防衛線をやや下げ、セイバーは上空に舞い上がると、斬り込んできたカオスを引きつけるため攻撃を開始した。
「行けぇ!!」
一方、アビスは着水しているミネルバに向かって魚雷を放ち、かつ上半身を海面に出してはショルダーを開き、連装ビーム砲を放った。
「くそっ…やらせるか!」
シンはその魚雷を撃破してライフルで撃つ。
しかし2機がカオスとアビスに手を取られると、あっという間に防衛ラインを突破され、ミネルバにウィンダムが近づいてしまう。
「レイたちは?まだか、メイリン!」
シンがメイリンを呼び出すと、「全機発進しました」と返ってきた。
「ハイネ・ヴェステンフルス、グフ、行くぜ!」
最初に飛び出してきたのはオレンジ色のグフだった。
ウィングを広げ、バーニアが力強く機体を大空に運ぶ。
続いてザクウォーリアとザクファントムが艦上に立つ。
「いくわよ!」
ルナマリアがオルトロスを構え、いつものようにぶっ放し始めた。
(…あれが…フリーダム…!)
一方、レイは上空で戦場を見守っている白い機体を見上げ、睨みつけた。
ヤキン・ドゥーエ戦ではたった1機で地球軍・ザフト両軍を破り、そして…
(プロヴィデンスを撃破した、伝説のモビルスーツ)
データとしては心に刻みつけていたが、実物を見たのは初めてだった。
レイはその機体を、氷のような冷たい瞳に焼きつけた。
「おい、レイ!レイってば!」
シンの声に、レイはモニターを切り替えた。
「なんだ」
「数が多すぎる。そっちに少し追い込むぞ!」
それはルナマリアが外枠、レイが内枠の敵を叩く彼らのいつも戦法だった。
レイは了解し、ファイアビーのポッドを開いてライフルを構えた。
ザクの射線の先にいるインパルスが、ウィンダムを流していく。
そのインパルスのマニピュレーターが不可解な動きをした。
それを見たハイネは一瞬いぶかしんだ。
(手信号か?いや、法則が違う…意味がわからん)
彼は振り返らなかったが、艦上のルナマリアとレイも合図を返している。
やがてインパルスが流した敵機をガナーザクウォーリアが追い込み、ブレイズザクファントムが落としていく見事な連携を見て、ハイネはあれが彼ら独特のサインだと気づいた。実際にはシンのサインは「時間」を示し、ルナマリアは「先」、それを見たレイが「後」と、それぞれが獲物を拾う大まかな順番を示していた。
「なるほどね。あいつ、ちゃんと司令塔やってるじゃないの」
ハイネはビームソードを抜くと向かってきたウィンダムに近づき、さらに加速した。衝突を恐れたウィンダムは減速したが、ハイネはそのまま軽く操縦桿を倒すと、ギリギリですれ違いざまに相手のボディを切り裂いた。
この速さと自分の反応を楽しむ事が、彼なりの戦いの美学だった。
「なら俺も、おまえらに見せてやらなきゃな!」
ミネルバから増援のモビルスーツが出たことで戦闘は激しくなった。
「な、何やってるの!うちもさっさと攻撃させて!」
カガリの声に戸惑いを隠せず、指令を待つオーブ軍を動かそうと、ユウナがトダカを急かした。
「モビルスーツ隊!ほら!」
「いえ…しかし…」
地球軍の攻勢にミネルバは持てる力を全て放って応戦している。
だが先ほどのカガリの声によりオーブ軍の動揺は収まっておらず、アークエンジェルも退いていない。ここで迷いながら戦い続ける事は得策ではない気がする…トダカは戦闘を再開することをためらっていた。
しかしそんな甘さを許さないとばかりにユウナは叫んだ。
「ミネルバを討つのよ!また言われちゃうじゃない!うちは地球軍なのよ!」
そしてユウナは大空を仰ぎ見て忌々しい災いの天使を指差した。
「それから!あの艦!アークエンジェルも!」
「しかし…」
先ほどは見せかけの攻撃でしのいだトダカが、再び言葉に詰まる。
「あれがそもそも、我が国混乱の最大の原因でしょ!?」
ユウナの脳裏には屈辱の結婚式が蘇った。
自分にあんな惨めな思いをさせたのは、何を隠そうあの連中なのだ。
「いっつもいっつもいっつもいっつもいっつも…!!だから一緒に片付けて!」
「ですが、アークエンジェルはミネルバを撃ったんですよ?」
アマギが抗議すると、ユウナは鬼の形相で睨み返す。
「だからって我々の味方かどうかなんてわからないじゃないの!第一、カガリの偽者が乗っているのよ?そんなもの、放っておけないわ!」
そこには今や国の実質的支配者となったセイランとしての思惑もあった。
今あの子に戻って来られるより、不可抗力で殺してしまう方がいい…
(誰もが諦め、誰もが納得できる状態でね)
「はああぁぁッ!」
海峡の崖から飛び降り、ガイアが走り出てきた。
カオスと戦うセイバーを追って素早く浅瀬を走り抜けたガイアは、制動をかけてモビルスーツに変形すると、射程内に入ったセイバーを狙った。
アスランは両方向からの攻撃を避け、ガイアの射程から逃げようとしたが、今度は逆にカオスのビームに道をふさがれた。
「…く!」
「ええい!」
スティングがミサイルポッドを発射し、アスランの行く手を阻む。
一方、上半身を水中から出したアビスは、カリドゥス、バラエーナ、そして肩の3連装砲で上空のインパルスを狙っていた。
「今日こそ落ちろ!この野郎!」
そのビーム砲の威力は凄まじく、シンは近づけずにいる。
かといって今アビスを置いていけば、ミネルバを魚雷で撃つだろう。
「これじゃちっとも…」
シンは攻撃の合間を縫ってライフルで応戦しているのだが、相手はすぐにビームの威力が落ちる水中へ潜ってしまう。水面に出た時を狙いたいが、それはあちらもよくわかっていて、おいそれと顔を出してはくれなかった。
シンは胸部CIWSでアビスの行く先を読んで海面に撃ち込んだ。
「モグラ叩きかよ!」
こいつらにかかわっているせいで、ウィンダムやムラサメがミネルバにとりついている。ミネルバのダメージが大きいのは遠目にも明らかだった。
(攻撃を重視するならソード…いや、ブラストか)
アビスに手を焼くシンは、シルエットの換装を考え始めていた。
「オーブ軍、モビルスーツ各隊は地球軍と共にミネルバへの攻撃を再開せよ」
やがてオーブ軍には攻撃再開を命じる指令が下った。
ユウナはトダカを急かし続け、トダカも戦闘再開を判断せざるを得ない。
オペレーターは兵の動揺を抑えるために心にもない言葉を言わされた。
「あれは、カガリ様ではない。あれは、カガリ様ではない」
その言葉にムラサメやアストレイのパイロットがいぶかしむ。
「カガリ様ではない?」
「偽者?」
しかし命令が下った事で、オーブ軍の兵士たちは考えることを一旦諦め、再びミネルバに向かい始めた。
ミネルバの艦上ではルナマリアが飛び交うウィンダムを狙っていたが、やがて再びレーダーにムラサメやアストレイの機影が入ってきた。
「オーブが…また!」
その途端、インパルスと戦っていたアビスのビームがミネルバに着弾して艦体が大きく揺れた。さらにその着弾衝撃で水飛沫が上がり、大量の潮水がブレイズザクファントムを直撃した。
「レイ、大丈夫!?」
「ああ」
ルナマリアはオルトロスを放ち、びしょ濡れのザクファントムを狙うダガーLを撃ち落とした。そしていたずらっぽく笑った。
「落ちても拾ってあげないわよ?」
「かまわない」
レイはそう言うとファイアビーを発射し、ガナーザクの後ろに回り込んだウィンダムを牽制した。それを見てルナマリアが「可愛くなーい」とふくれる。
(一体何のための戦いだ、これは)
カガリは策敵レーダーを見ながら、オーブ軍のモビルスーツのシグナルが次々ロストしていく現実を見つめていた。
(何のためにオーブの兵が、こんなところで命を落とすんだ)
「…くそっ!」
カガリは苛立ち、インカムをむしり取って投げ捨てようとした。
CICのチャンドラがはっと顔を上げ、マリューも心配そうに彼を見たが、カガリはそのままゆっくりと腕を降ろし、インカムを置いた。
(こんな事じゃダメだ。キサカにもよく言われた…指揮官が平常心を失うなと)
こうなる事はわかっていたことだ。
何度も反芻し、これは自分の責任なのだと言い聞かせても、現実は雄弁だった。
(俺は見届けなきゃいけない。どんなに辛くても、腹が立っても)
カガリは拳を握り締め、それからもう一度インカムをセットした。
戦場は入り乱れ、ミネルバにはモビルスーツが取り付いて、ザクが必死に防戦している。飛行能力のある他のモビルスーツはそれぞれ強奪された3機と戦っているが、防衛ラインは徐々に下がってきていた。
さらに、後方から現れた地球軍の艦砲射撃も激しくなっている。
着弾による水飛沫が上がるたびに、ミネルバの艦体が右に左に揺れた。
その時、戦場を見守っていたキラからの通信が入った。
「カガリ…残念だけど、もうどうしようもないみたいだ」
オーブがミネルバに再攻撃を仕掛け始めたことで、キラにも馴染みのある戦場の狂気が皆を飲み込み始めていた。
カガリは少し黙りこみ、やがて答えた。
「もういい、キラ。ありがとう。戻ってくれ」
しかしキラは従わなかった。
「この戦い、止めなくちゃ」
「キラ、でも…」
「あとはできるだけやってみる」
キラはそう言うと手早くスラスターのパワーを上げた。
「マリューさん、バルトフェルドさん、アークエンジェルを頼みます!」
そう言い残し、フリーダムは激戦が繰り広げられる戦場へと向かった。
「10時の方向より、ミサイル8」
ミネルバでは迎撃と回避が続けられていた。
「回避!取り舵10!」
タリアが叫ぶと同時に再び着弾した衝撃がミネルバを襲う。
発射管もかなり潰され、エンジンにもダメージが蓄積しているが、アーサーはトリスタンを撃ち、CIWSで必死の迎撃を続けた。
「クラミズハとイワサコを前に出して!2隻一気に追い込むのよ!」
ユウナが艦艇の展開図を見ながら、ミネルバとアークエンジェルへの同時攻撃をトダカに命じる。フリーダムが離れたアークエンジェルは今のところ守りとなるモビルスーツもなく、無防備状態だった。
「艦砲射撃の後、モビルスーツで追い込ませなさい!」
「オーブ艦艇よりミサイル発射。数8」
「回避!下げ舵15、降下!」
ノイマンがアークエンジェルの艦首を大きく下げてミサイルを避ける。
そこにハンガーで待機していたバルトフェルドが通信を入れてきた。
戦闘開始と同時に、彼専用のムラサメが準備されていたのだ。
「バルトフェルド隊長、お願いします」
「俺、キラほどの腕はないからねぇ」
マリューが防衛を頼むと、相変わらずお気に入りのトラ縞模様のパイロットスーツを着たバルトフェルドは陽気に答え、それから「カガリ!」と呼んだ。
「なんだ?」
「ここでおまえが落ちたら、それこそオーブはどうなる?」
カガリは今、オーブをこんな状態に追い込んでしまった自分のために、彼らがそれぞれ成すべき事をしようとしてくれている事を痛感していた。
(俺を守るため、オーブ軍を討つこともあると言いたいんだろ)
カガリは不自由な体を押して戦闘に出ようとする、かつての「敵」を見た。
「わかってる。あんたに任せるよ、虎」
バルトフェルドがそれを聞いてニヤリと笑う。
「そちらもフォロー頼みますよ、ラミアス艦長」
「了解」
マリューが答えた。
「ムラサメ発進後、本艦はミネルバに向かいます。オーブと地球軍を牽制して」
ノイマンはまたそういう無茶な注文をと思いつつ、そうでなくちゃとも思う。
アークエンジェルは大きく旋回し、激しく煙を噴き上げるミネルバに向かった。
ハイネはガイアのライフルを避けながら、腕に仕込まれたスレイヤー・ウィップを放った。ステラはMA形態となってそれを避けようと疾走したが、上空から何度もウィップで打たれ、ついにはウィップが首に絡む。
「ふ…そら!」
ハイネはその瞬間を逃さず高周波パルスを流し込んだ。
「うあぁぁぁっ!」
激しい電撃を食らい、ステラは衝撃と苦痛に悲鳴を上げた。
なんとかもう一度モビルスーツに変形して首に巻かれたウィップを解いたのだが、今度は構えたライフルにウィップが絡め取られた。
力で引き寄せようとしたが、グフもまたぐいっとウィップを引いた。
(かかったな)
ハイネは力比べに乗ってきた相手にニヤリと笑った。
「…っ!」
その時、ステラの本能が危険というシグナルを出した。
瞬間、ステラは一切の躊躇もなくマニピュレーターを離した。
その途端、ライフルがウィップの高周波で爆発した。
「ちっ…カンのいいヤツめ!」
「…くッ!おまええぇぇ!!」
ステラは怒りにまかせ、サーベルを一閃した。
ハイネはその太刀筋を読んだかのように大きくグフをしゃがませると、力強いサスペンションですぐに立ち上がり、再びウィップを叩きつけた。
「ザクとは違うんだよ!ザクとは!」
素早く飛び退ったガイアを追い、ハイネはもう一度飛翔した。
アスランはモビルスーツに変形し、カオスにサーベルで斬りかかっていた。
スティングはそれを避け、両膝と爪先からビームクローを出して蹴りを入れる。
アスランはシールドで受けるとそのまま押し返し、距離をとったところでアムフォルタスを放った。それと同時にMA形態になって離脱し、すぐにフォルティスを放ってくる。息つく間もない連撃をスティングは避けきれず、カオスのボディが大きく破損した。再びモビルスーツに変形してライフルで襲い掛かるセイバーの攻撃に、カオスはMA形態になる暇さえない。
「戦闘能力で負けている?俺が!?」
スティングは再び距離をとった赤い機体を見て、悔しくてたまらない。
「進路クリアー。バルトフェルド隊長、ムラサメ発進、どうぞ」
ラクスが発進を許可すると、バルトフェルドが自分のパーソナルカラーに選んだ虎色のムラサメがカタパルトデッキに立った。
「アンドリュー・バルトフェルド、ムラサメ行くぞ!でぇい!」
そして掛け声と共にムラサメが飛び出し、アークエンジェルの守護につく。
しかしその途端、向かってきたムラサメと斬り結ぶことになった。
「俺はキラほど上手くないと言ったろうが!」
隻眼に加え、片腕片足が義肢のバルトフェルドにとって、モビルスーツの操縦はかつてバクゥやラゴゥを操った頃に比べると無論、困難が多かった。
しかし前大戦後、シモンズが熱心に手がけた機能不全のパイロット用のOSを乗せ、さらに潜航中にキラが彼用に入念にカスタマイズした機体は、なかなかの手応えだった。断端部に接続した筋電リンケージと補助AIが、彼の望む動きを的確に伝達し、素早く、滑らかにトレースしていく。
バルトフェルドはムラサメを迎え撃ち、シールドで力強く弾き返した。
「落としちゃうぞ!」
そしてライフルを構えるとムラサメのバーニアを狙う。
(すまんね、オーブ軍諸君)
黒煙を噴出して滑空するムラサメを見て、バルトフェルドは苦笑した。
(きみらのためにも、ここであいつを落とさせるわけにはいかんのだ)
「ミネルバ右舷へ、モビルスーツ4!」
チャンドラがミネルバの右舷、ザクの援護が届かない艦後方にムラサメが取りつこうとしていると伝えた。ルナマリアもレイも前方の敵に手一杯だ。
アーサーもCIWSやパルシファル、トリスタンでモビルスーツを牽制するが、既に防衛ラインが破られかけている。かなり危険な状況だった。
「間を狙える?」
レーダーを読み取り、マリューが少し心配そうに言った。
主砲で狙うにはミネルバとオーブ軍の間はかなり肉迫している。
「やります!」
チャンドラが忙しく射線軸を修正し始めた。
「機体に当てないでよ」
「わかってますよ」
釘を刺されながら、射角の計算を終えると主砲を起動する。
「ゴットフリート2番、撃ぇ!」
チャンドラの微調整が功を奏し、艦体と機体の間をゴットフリートが掠めた。
モビルスーツ隊は驚いて後退したが、驚いたのはミネルバも同じだった。
「か、艦長!あの艦が…」
アーサーはてっきり攻撃されたものと思ったのだが、その突然の砲撃は、ミネルバに取りつこうとしたモビルスーツを追い払う事が目的だった。
その後も次々主砲が撃ち込まれるのに、それはミネルバを傷つける事はなく、また地球軍のモビルスーツにも命中しなかった。
(…威嚇射撃?)
タリアはきりっと親指を噛んだ。
「始めはこちらの艦首砲を撃っておきながら…どういうことなの?」
イーゲルシュテルンでミネルバの廻りに弾幕を張ってザクを楽にし、アークエンジェルは再び浮上すると、やや距離をとって様子を見ている。
そして1度はひるんだものの、再びミネルバに向かうモビルスーツには、バリアントやゴットフリートによる「砲撃の壁」を作り、行く手を阻んだ。
「まさか本当に戦闘を止めたいだけなんて、そういう馬鹿な話じゃないでしょうね?」
タリアは胡乱そうにアークエンジェルを見つめた。
(一体何を考えているの、あの艦は)
両軍の戦力を量るため、上空で様子を窺っていたキラは、やがて大体の戦力を把握すると、すぅっと息を吸い込んだ。
感覚を研ぎ澄ます…全ての神経を集中し、やがてキラの身体がヒヤリと冷えていき、クリアな視界と静寂が訪れた。頭の後ろにもうひとつの感覚器官があるような、それくらい鋭敏な感覚がキラの行動を決めていく。
フリーダムは一瞬上空で動きを止めた。
バーニアをふかし、力強いスラスター音が心地いい。
キラは自然に倒れるように前傾すると、そのまま速度を上げて急降下した。
アスランはアークエンジェルを離れ、上空をゆっくり旋回するフリーダムに気づくと、慌てて通信スイッチを入れた。
しかしこれだけの機体が入り乱れ、強いECMによってジャマーが通信を阻害している中、フリーダムの個別のチャンネルなど拾えるはずがない。
「キラ!…キラ!」
必死に呼びかけながら、アスランの手はチャンネルを探索し続けた。
フリーダムが真っ先に向かったのは、水中のアビスと戦うインパルスだった。
水中のアビスを攻めあぐねていたシンは、その気配に気づいて振り返った。
そこに、恐ろしいまでのスピードで自分に向かってくるフリーダムがいた。
「何だ!?こいつ…」
そう思った瞬間、フリーダムがサーベルを抜くのがわかった。
しかしその後の太刀筋は全く追いきれない。
シンはシールドをかざしたつもりだったのだが、気づいた時、シールドはほとんど上がっていなかった。そしてライフルを持った右腕の肘から先がなくなり、そもそもインパルス自体がほとんど動いていなかった事を知った。
その時は既に、フリーダムは前にも後ろにもいない。
シンはそのまま動けなかった。意識していない言葉が口からこぼれ落ちた。
「うそ…だろ…」
まるで完璧な敗北を知らせるようにアラートが鳴り響くコックピットで、シンは息をする事も忘れたように、呆然とモニターを見つめていた。
インパルスを沈黙させたキラは、次に海の中のアビスを追った。
そして水面すれすれを滑空すると、急激にスラスターを逆噴射させ、クスィフィアスを構える。そのままアビスの後方からレールガンをぶち込んだ。
水中でも勢いを失わない実弾が、アビスのVPS装甲の隙間から機関部にダメージを与え、さらにルプスでアビスの背を撃つ。
「うっ!?」
アウルは突然の衝撃の後、ガタガタと揺れ始めた機体に驚き、一体何が起きたのかときょろきょろしたが、もはや攻撃者の姿はそこになかった。
さらにキラは上空を舞うウィンダムやムラサメの腕や足、バーニアや機関部を斬り裂いていった。そのフリーダムを見て、ハイネも驚きを隠せなかった。スピードもさることながら、その撃墜数たるやすさまじい。
今ここにはザフトの最新鋭機がそろっているというのに、それ以上の働きだ。
「何なんだよ!あいつは!」
ハイネは次に自分に向かってくるフリーダムに応戦しようと構えたが、ウィップを出すことも、ビームソードを構えることも、ドラウプニルを放つことも、一切できなかった。気づいた時にはもう懐深くに入られ、右腕を落とされて呆然としていたからだ。反応の速さを自慢にしていたハイネが、そのあまりにも驚異的な速さに、現実を把握できずにいた。
(あれがヤキンの伝説…フリーダム)
その時、キラは、なんとなく以前感じた事のある感覚に気づいた。
(なんだろう?この戦場に、知っている気がする感覚がいくつかある)
それはひどく禍々しい感覚だった。
感じる方向はいくつかあるが、全てが少しずつ違っている。
首の後ろがチリチリするような危険…異質な異物のような違和感…
(この感覚…確かどこかで…)
キラは意識を向けてその存在を探ろうとしたが、うまくいかなかった。
「…え?」
ところがそうしているうちに、今度は逆に懐かしく、覚えのある感覚が飛び込んできてキラを驚かせた。なぜならそれは「彼」を思い出させたからだ。
(そんなはずない。だって…)
キラは脳裏に浮かんだ人物…大切な戦友であり、尊敬する人の存在を否定した。
結局それが何なのかはわからなかったが、キラの研ぎ澄まされた神経が、戦場に混ざりこんだ「覚えのある空気」を感じさせたのかもしれなかった。
「左舷前方、クラオミカミ級。あれの足を止める!」
ミネルバの援護を行っていたアークエンジェルは、艦上のザクとミネルバの迎撃態勢が復活し、防衛ラインが持ち直したのを見て、今度は艦首を地球軍…ことに前進してくるオーブ軍に向けた。
チャンドラが先行するクラオミカミ級に照準を合わせる。
カガリはそれをじっと見つめていた。拳を握り締めながら。
「バリアント、撃ぇ!」
アークエンジェル自慢の精射リニアカノンが火を噴き、クラミズハの左舷を直撃した。艦首付近に穴が開いた艦はたちまち走行不能に陥る。
「何なのよ、あれは!ミネルバを撃ったり守ったり、私たちを攻撃したり…一体どっちの味方なの!?」
ユウナは何がなんだかわからず、手にしていた受話器を投げつけた。
そしてさらにイワサコを狙って向かってくるアークエンジェルを睨む。
「見なさい!だからあんな艦、さっさと落とせと言ったのに!」
トダカもアマギも困惑し、アークエンジェルを見つめるばかりだった。
「くっそー、冗談じゃないぜ」
我に返ったハイネは、切り落とされたグフの右腕を見た。
サスペンションの電気系統は傷ついていないので、小爆発が起きる心配はない。
(…まさか、そこまで狙って…?)
ハイネは忌々しそうに舌打ちすると、飛び去ったフリーダムを追った。
「伝説だかなんだか知らないが、やられっ放しでいられるか!」
次にフリーダムが向かったのは機敏に走り回るガイアだった。
「おまえは何だ!?」
ステラは自分に向かってくるフリーダムを見つけると、その機体とまるで競争するように浅瀬を疾走した。
上空からフリーダムの動きを追っていたアスランは、チャンネル操作を諦め、セイバーを降下させた。
「キラ!やめて!なぜあなたがこんな…!」
アスランが追う間に、キラは飛び掛ったガイアの両前足を斬り捨てた。
ガイアはそのままもんどりうって地面に叩きつけられる。
「ぐっ…!」
ステラは衝撃にうめいたがダメージはなく、足を失って立てなくなったガイアのシフトレバーをガチャガチャと乱暴に動かし始めた。
キラの攻撃で彼女の激しい闘争心に火がついていた。
「あいつ、あいつ、あいつっ!!!」
追いついたハイネは、ガイアが斬られた瞬間を眼にして、「自分もああやって切られたのか」と納得した。それは見事としか言いようのない太刀筋だった。
「手当たり次第かよ。この野郎、生意気な!」
その時、フリーダムがチラリと上空に意識を向けたことに気づいた。
(何だ?何を…)
ハイネは何気なくその先を見て、そこにセイバーがいる事に気づいた。
フリーダムが次の標的にボディを向けても、セイバーは上空で見ているだけだ。
コックピットではアスランがチャンネルを探してキラを呼んでいたのだが、2人の因縁を詳しくは知らないハイネは、熟練兵らしくすぐに行動に移した。
(あのバカ、何をやってる!)
ハイネは残された左手でビームソードを抜くとフリーダムに向かった。
「アスラン、下がれ!」
アスランはそのハイネの言葉にギクリとした。
眼の前には、あの時とそっくりな光景が再現されていた。
片腕を失ったグフが、その片手にテンペストを持ち、フリーダムに…自分の友、キラ・ヤマトに真っ直ぐ向かっていく。
「下がって、アスラン!」
今はもういない、心優しい彼の声が重なった。
しかしその瞬間、前足のないガイアが不恰好に立ち上がった。
「私を…私をっ、よくも!」
ガイアはスラスターを最大にふかすと高く飛び上がる。
狙いはただ一つ。自分の機体を傷つけたフリーダムだった。
いつも以上の跳躍力を見せたガイアのビームブレイドが展開する。
しかしその時、ステラの目の前にオレンジ色の機体が割り込んできた。
グフもまた、セイバーへの攻撃を防ごうとフリーダムに向かっていたのだ。
突然進路をふさがれた事で、ステラの苛立ちと怒りは頂点に達した。
「邪魔だっ!!」
ガイアは減速すらせず、そのままグフに突っ込んだ。
ハイネは気配に気づき、はっと息を呑んだ。
しかし彼にはそれを避けるだけの時間はなく、グフはガイアのブレードでコックピット部分を真っ二つに切り裂かれ、あっという間に爆発した。
「ハイネッ!」
アスランがそれを見て叫ぶ。
(そんな…ハイネ…嘘…)
自分を親友の刃から庇おうとして、また、戦友が一人死んだ。
そのあまりにも残酷なループに、アスランは瞳を見開いたままだ。
(迷っていた…自分が何をすべきか迷って、そして私は、また…!)
その光景を怪訝そうに見つめていたキラは、グフを斬った事で完全にスピードを殺されたガイアを、思い切り蹴り飛ばした。
「うぁ!!」
減速していたとはいえカウンター気味に蹴られ、ガイアは完全にひっくり返って落下していく。ステラはその激しい衝撃で既に気を失っていた。
「ステラ!」
スティングは加速し、水面に届く直前にガイアを見事抱きとめた。
それと同時にJ.P.ジョーンズが帰還信号を打ち上げ、モニターにも「全機帰投」のアラートが出た。
オーブのタケミカヅチ、ミネルバからも帰還信号が打たれる。
戦闘は終わり、あとには累々たるモビルスーツの残骸と、煙を上げて帰還する艦艇が続いた。まだ激しい黒煙を上げているミネルバもまた、モビルスーツの帰投を待って、次の寄港地タルキウスを目指す事になる。
帰還信号を出さなかったのはアークエンジェルのみである。
金色のムラサメがアークエンジェルに格納され、フリーダムはあれだけ戦場を撹乱し、混乱に貶めながら、何事もなかったかのようにそのままアークエンジェルを護衛しつつ、雲の中へと去っていった。
この激しい戦いの一部始終をすべてカメラに収めたミリアリアは、彼らが消えてしまうまでひたすらシャッターを切り続けた。
アスランはただ、呆然とそれを見送っていた。
「…ハイネ…」
(じゃ、おまえ、どことなら戦いたい?)
どことも戦いたくなどない。
言えなかったその言葉こそが本心だった。
「キラ」
アスランは友の名を呟き、バイザーをコツッと拳で叩いた。
そして同じく、暴れるだけ暴れ、眼にも止まらぬ速さでインパルスを斬って去っていったモビルスーツを、じっと見つめている者がいた。
(アークエンジェル…フリーダム…そして、アスハ…)
シンは不審そうな眼で大空に消えていく彼らを見つめていた。
(あの凄まじいまでの「力」…あいつは、一体何だ!?)
PR
この記事にコメントする
制作裏話-PHASE23-
キラとシンが戦場で相見える「バイバイハイネ」PHASEです。
この話には大きな改変があります。
それは「カガリがストライクRに乗っていない」事と、「ラクスの提案で呼びかけを行う」事です。
さらに「うっかりハイネの斬殺事件」は、ハイネがニコルのようにアスランを庇って敵の刃に倒れる、という最期に変えました。
本編では痛い呼びかけを続けるカガリを、ラクスがなぜか「心底気の毒そうに」見ているので、「ん?」と思ったんですね。
エターナル強奪時、防衛隊のジンに「行かせてください」とか言ったのは誰でしたか?
種の最終決戦で誰も聞いてない理解不能ポエムを語ってたのは誰でしたか?
運命の最終決戦ではさらに増長して「道を開けなさい!」と誰かれ構わず命じてましたよね?
何で上から目線で気の毒そうな顔してるんだこの娘は。何よりあんたが一番痛いでしょーが!と思ったものですよ。
そこで、逆転のラクスは友として、同じく故郷を想い、いずれ故郷を背負う同じ道を行く好敵手としてアドバイスをします。ラクスはそんな事では戦闘は止まらないと知っています。けれど、言葉は残るのだとカガリを諭します。
これなら彼らが種以来友情を築いている事、さらに、まだカガリよりラクスの方がずっと先を行っている事も示せますから、この方がよほどいいと思うのです。
そもそも本編のラクスとカガリってろくな会話してないんですよね。(天使湯?いやいや、あの会話は全くもって意味不明ですから)種では皆無、運命でもほとんど会話はしてません(他にはPHASE44の電波ジャック後、キラ共々それっぽい絵があっただけで喋ってない)
ストライクRについては逆転SEEDでも元々カガリの機体ではなかった(=カガリを戦闘に出したくなかった)ので、よほどの事がなければ逆転のカガリはモビルスーツには乗りません。とはいえPHASE28はさすがに乗りますし(乗らないと話にならない。なので彼が乗る理由を創作しました)、キラのピンチにも乗りますが、このPHASE23では別に乗る必要ありません。
本編でも、乗ったからって別に戦闘はしないし、ただもうバカみたいに泣くだけでしたから、アークエンジェルにいろよと思ったものです。ガンプラ販促のためだけに乗せないで欲しい。乗せるならそれはそれでキャラを格好よく描いて欲しい(無論販促も兼ねて)。なんでこんな簡単な事ができないんですかね、種の制作陣というのは。
ところで今回はまさかの大量加筆になりました。PHASE22のように新たに追加したシーンが多いわけではないのですが、たとえばハイネがシンが司令塔である事を認めたり、フリーダムに対抗心を燃やしたりします。ハイネについてはPHASE22で掘り下げた分、かなり追加しましたね。
シンもまた、ちゃんと主人公らしい描写をしています。
「カガリに刃を向けるオーブ」に軽いショックを受けたり、アビスに梃子摺りシルエットの換装を考えたり、というように、ちょこちょこと膨らませました。フリーダムを見てフラッシュバックが起きそうになるのを必死にこらえていたら、天敵(カガリ)の出現で息を吹き返すのもシンらしくていいかなと。
出番は少なくても(うう、これがそもそも間違っている、主人公なのに!)「シンはバカではない」「戦闘時は冷静な司令塔」と表現するだけでちょっとカッコよくなるのではと思います。
カガリの心情も、くどかった部分はシンプルに、足りない部分は補完してバランスを整えました。
キラが厳しい事を言うのですが、言い返せなかった本編のカガリと違い、逆転のカガリは全ては自分の責任だと感じています。だからこそ、ラクスもつい助けたくなってしまうのです(これを伏線にし、ラクスは後に、「僕でさえつい、(カガリを)助けたくなる」と言います)
逆にアスランは次回の事もあり、あまり心情を表していません。ついでに司令塔としても機能してません。ダメダメじゃん。
ユウナたちタケミカヅチの葛藤も書いていて面白かったです。ユウナの慌てぶりや姑息振りやケツのまくりぶりが可笑しくて。トダカもアマギもご苦労さんです。
ラクスが現在のザフトの状況を分析していくのも結構好きなシーンです。本編のラクスにはもちろんこんなものはありませんが、あれだけの勢力を従えている人物なら、こういう判断能力や分析力をもって、人を率いると考えるのが妥当だと思うのです。
そもそもラクスをそういうインテリカリスマとして書きたいというのが逆転を書く動機ですから、こんなラクスを書けるPHASE29や40、44や47などは楽しかったです。
レイがフリーダムを意識するシーンや、ルナマリアとレイの気の置けない仲間同士の会話も気に入っています。こういうシーンは本編でも欲しかった気がします。シンがレッド、レイがブルーなら、ルナマリアって絶対キレンジャーポジションですよね~、女の子なのに。可愛いのに。恋する乙女なのに。ホント、こんな面白いヒロインだったら大好きになってましたね。
レイは特に後にアスランに反旗を翻す時の様子が唐突なので、前々からこうして「キラ・ヤマト」「フリーダム」に執着している節を示してあります。
さて次はいよいよキラ・アスラン・カガリが再会します。
本編では最も楽しみにしていた反面、最も裏切られたPHASEでした。きっとまたまたリライト必至ですね~。
この話には大きな改変があります。
それは「カガリがストライクRに乗っていない」事と、「ラクスの提案で呼びかけを行う」事です。
さらに「うっかりハイネの斬殺事件」は、ハイネがニコルのようにアスランを庇って敵の刃に倒れる、という最期に変えました。
本編では痛い呼びかけを続けるカガリを、ラクスがなぜか「心底気の毒そうに」見ているので、「ん?」と思ったんですね。
エターナル強奪時、防衛隊のジンに「行かせてください」とか言ったのは誰でしたか?
種の最終決戦で誰も聞いてない理解不能ポエムを語ってたのは誰でしたか?
運命の最終決戦ではさらに増長して「道を開けなさい!」と誰かれ構わず命じてましたよね?
何で上から目線で気の毒そうな顔してるんだこの娘は。何よりあんたが一番痛いでしょーが!と思ったものですよ。
そこで、逆転のラクスは友として、同じく故郷を想い、いずれ故郷を背負う同じ道を行く好敵手としてアドバイスをします。ラクスはそんな事では戦闘は止まらないと知っています。けれど、言葉は残るのだとカガリを諭します。
これなら彼らが種以来友情を築いている事、さらに、まだカガリよりラクスの方がずっと先を行っている事も示せますから、この方がよほどいいと思うのです。
そもそも本編のラクスとカガリってろくな会話してないんですよね。(天使湯?いやいや、あの会話は全くもって意味不明ですから)種では皆無、運命でもほとんど会話はしてません(他にはPHASE44の電波ジャック後、キラ共々それっぽい絵があっただけで喋ってない)
ストライクRについては逆転SEEDでも元々カガリの機体ではなかった(=カガリを戦闘に出したくなかった)ので、よほどの事がなければ逆転のカガリはモビルスーツには乗りません。とはいえPHASE28はさすがに乗りますし(乗らないと話にならない。なので彼が乗る理由を創作しました)、キラのピンチにも乗りますが、このPHASE23では別に乗る必要ありません。
本編でも、乗ったからって別に戦闘はしないし、ただもうバカみたいに泣くだけでしたから、アークエンジェルにいろよと思ったものです。ガンプラ販促のためだけに乗せないで欲しい。乗せるならそれはそれでキャラを格好よく描いて欲しい(無論販促も兼ねて)。なんでこんな簡単な事ができないんですかね、種の制作陣というのは。
ところで今回はまさかの大量加筆になりました。PHASE22のように新たに追加したシーンが多いわけではないのですが、たとえばハイネがシンが司令塔である事を認めたり、フリーダムに対抗心を燃やしたりします。ハイネについてはPHASE22で掘り下げた分、かなり追加しましたね。
シンもまた、ちゃんと主人公らしい描写をしています。
「カガリに刃を向けるオーブ」に軽いショックを受けたり、アビスに梃子摺りシルエットの換装を考えたり、というように、ちょこちょこと膨らませました。フリーダムを見てフラッシュバックが起きそうになるのを必死にこらえていたら、天敵(カガリ)の出現で息を吹き返すのもシンらしくていいかなと。
出番は少なくても(うう、これがそもそも間違っている、主人公なのに!)「シンはバカではない」「戦闘時は冷静な司令塔」と表現するだけでちょっとカッコよくなるのではと思います。
カガリの心情も、くどかった部分はシンプルに、足りない部分は補完してバランスを整えました。
キラが厳しい事を言うのですが、言い返せなかった本編のカガリと違い、逆転のカガリは全ては自分の責任だと感じています。だからこそ、ラクスもつい助けたくなってしまうのです(これを伏線にし、ラクスは後に、「僕でさえつい、(カガリを)助けたくなる」と言います)
逆にアスランは次回の事もあり、あまり心情を表していません。ついでに司令塔としても機能してません。ダメダメじゃん。
ユウナたちタケミカヅチの葛藤も書いていて面白かったです。ユウナの慌てぶりや姑息振りやケツのまくりぶりが可笑しくて。トダカもアマギもご苦労さんです。
ラクスが現在のザフトの状況を分析していくのも結構好きなシーンです。本編のラクスにはもちろんこんなものはありませんが、あれだけの勢力を従えている人物なら、こういう判断能力や分析力をもって、人を率いると考えるのが妥当だと思うのです。
そもそもラクスをそういうインテリカリスマとして書きたいというのが逆転を書く動機ですから、こんなラクスを書けるPHASE29や40、44や47などは楽しかったです。
レイがフリーダムを意識するシーンや、ルナマリアとレイの気の置けない仲間同士の会話も気に入っています。こういうシーンは本編でも欲しかった気がします。シンがレッド、レイがブルーなら、ルナマリアって絶対キレンジャーポジションですよね~、女の子なのに。可愛いのに。恋する乙女なのに。ホント、こんな面白いヒロインだったら大好きになってましたね。
レイは特に後にアスランに反旗を翻す時の様子が唐突なので、前々からこうして「キラ・ヤマト」「フリーダム」に執着している節を示してあります。
さて次はいよいよキラ・アスラン・カガリが再会します。
本編では最も楽しみにしていた反面、最も裏切られたPHASEでした。きっとまたまたリライト必至ですね~。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
ブログ内検索