機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
傷ついたミネルバはポート・タルキウスに寄港していた。
「資材はすぐにディオキアの方から回してくれるということですが、タンホイザーの発射寸前でしたからね。艦首の被害はかなりのものですよ」
マッド・エイブスがアーサーがまとめたデータを見ながら言った。
ミネルバの甲板には、何人もの犠牲者の遺体が並べられている。
痛ましい若者たちの姿にタリアも表情を曇らせたままだ。
「さすがにちょっと時間がかかりますね、これは」
エイブスはデータをダウンロードし終わると渋い顔で言った。
「とにかく、できるだけ急いで頼むわ。いつもこんなことしか言えなくて悪いけど」
「わかってますよ」
そう答えて、エイブスも並べられている死体袋を見た。
犠牲者の中には彼の指揮下にあった整備兵も数人含まれていた。
「兵たちは皆、動揺しています。一体なぜあんな事になったのかってね」
「そうね…無理もないわ」
タリアはもう一度物言わぬ彼らに視線を向け、ため息をついた。
「資材はすぐにディオキアの方から回してくれるということですが、タンホイザーの発射寸前でしたからね。艦首の被害はかなりのものですよ」
マッド・エイブスがアーサーがまとめたデータを見ながら言った。
ミネルバの甲板には、何人もの犠牲者の遺体が並べられている。
痛ましい若者たちの姿にタリアも表情を曇らせたままだ。
「さすがにちょっと時間がかかりますね、これは」
エイブスはデータをダウンロードし終わると渋い顔で言った。
「とにかく、できるだけ急いで頼むわ。いつもこんなことしか言えなくて悪いけど」
「わかってますよ」
そう答えて、エイブスも並べられている死体袋を見た。
犠牲者の中には彼の指揮下にあった整備兵も数人含まれていた。
「兵たちは皆、動揺しています。一体なぜあんな事になったのかってね」
「そうね…無理もないわ」
タリアはもう一度物言わぬ彼らに視線を向け、ため息をついた。
「では、ハイネ・ヴェステンフルスの遺品、お預かりいたします」
着任したばかりのハイネの荷物などほとんどなかったが、シンとレイがまとめた遺品を、タルキウスの兵が運んでいった。
アスラン、シン、レイ、ルナマリアは、敬礼しながらトラックを見送った。
それはあまりにもあっけない別れだった。
「昨日のあれ…なんだったんだろうな」
トラックが行ってしまうと、シンはレイに言った。
「さぁ。今のところ、彼らの目的も意図も不明だ」
「あいつらが変な乱入して来なきゃ、ハイネは…」
そう言いかけたシンは、実際に彼の命を奪ったのはガイアだったことを思い出し、「…っと」とごまかした。
「でも、そういう状況に誘われた、っていうのはあるかもしれないわよ」
シンが言葉に詰まった理由を悟ったルナマリアがフォローするように言った。
「ハイネ、すごく強かったもの。そう簡単にやられたとは思えないわ」
話しながら歩き出した3人はふと、アスランがついてこないことに気づいて振り返った。
アスランは一人立ち尽くし、物思いに沈んでいるようだ。
彼らは顔を見合わせたが、シンが踵を返したので2人も続いた。
海風になぶられながら、アスランはトラックが去った軍用道路を見ていた。
(じゃ、おまえ、どことなら戦いたい?)
(割り切れよ。でないと、死ぬぞ)
ほんの短いつきあいだったが、彼の言葉はアスランの心に何かを残した。
いつだって1人で悩むしか方法を知らない彼女を思いやり、積極的に助言をしてくれた人だったからかもしれない。
(アスラン、下がれ!)
しかも彼はニコルと同じように、彼女をかばおうとして死んだのだ。
直接手を下したのはキラではないとはいえ、アスランの思考はいやでも戦場を混乱に陥れながら駆け抜けたキラとフリーダムに戻ってしまう。
「何なんです?あいつらは。知ってるんでしょう?」
シンの声に、アスランがはっとして振り返った。
さらにレイが珍しく続いた。
「アークエンジェルとフリーダム…あなたと共に戦った仲間ですね?」
「ちょっと…」
驚いたルナマリアが慌てて2人を諌めている。
アスランは3人を見て口を開きかけたが、そのまま黙り込んだ。
「本当に、何やってんですかね、オーブ…いや、アスハは」
シンはアスランが答えないので視線を移して続けた。
「気持ちだけは真っ直ぐだかなんだか知らないけど、ノコノコと現れて、ミネルバを傷つけて。その上、戦闘をやめろ?バカじゃないんですか」
シンはさも呆れたように言い、それから鋭い眼でアスランを見た。
「たくさん死にましたよ…連中のせいで」
アスランは黙って歩き出し、シンの横を通り過ぎた。
「怒ったんですか」
無言のまま立ち去る彼女に声をかけたが、アスランは振り向かない。
ふんと鼻を鳴らして見送ったシンに、ルナマリアが抗議した。
「あんな言い方したら可哀想じゃない!」
けれどシンは不機嫌そうに答える。
「いいよ、別に。いきなりフリーダムに斬られてみろ。ルナだって絶対怒る」
アスランは勢いよく歩いていたが、徐々にスピードを落とした。
(おまえのこと、一生懸命追いかけてるんだよ)
シンの言葉に追われるようだったアスランの心に、ハイネの言葉が蘇る。
(ちゃんと受け止めてやれよ。真っ直ぐでいいもの持ってるぞ、シンは)
アスランは足を止め、天を仰いだ。晩冬の空は、よく晴れて青かった。
(…シンの怒りはもっともだわ)
結果的にミネルバはアークエンジェルに守られた形になったのだが、一体なぜなのか彼らの意図がわからず、兵たちは皆、動揺を隠せない。
(真意を問い質したい…キラ、カガリ…あなたたちの)
アスランは立ち止まり、それから何かを決意したように歩き出した。
「え?あの艦の行方を?」
数分後、アスランは艦長室にいた。
「はい。艦長もご存じのことと思いますが、私は先の大戦時、ヤキン・ドゥーエではあの艦、アークエンジェルと共に、ザフトと戦いました」
ザフトに戻った今、誰もが「アスラン・ザラ」の名を聞いて複雑な表情を見せるのはそれが原因だ。前大戦のエースにして元議長の娘でありながら、婚約者ラクス・クラインと共に反旗を翻し、ザフトと戦った脱走兵。
裏切り者であると同時に、停戦の英雄ラクス・クラインを支えた功労者と言われるその人に、あからさまに不信の眼を向けるものも多い。
今彼女の眼の前にいる、タリア・グラディスのように…だ。
アスランは続けた。
「おそらくはあのモビルスーツ、フリーダムのパイロットも、あのアークエンジェルのクルーも、そしてあそこで名乗りを上げたオーブの代表も、私にとっては皆、よく知る人間です」
タリアは黙って彼女の言葉を聞いている。
「だからこそ尚更…この事態が理解できません」
ミネルバを攻撃し、オーブ軍を攻撃し、多くの兵を戦闘不能にし、混乱だけを引き起こして去っていった彼らの行動の意図は何なのか。
「…というか、納得できません」
「それは確かに私もそうは思うけれど」
タリアは、「だからといって、彼らに直接聞くわけにもいかないでしょ」と冷たく言い放った。
自分が、彼女にも不信感を持っていると知らしめるつもりだった。
アスランはその言葉に唇を噛んだが、臆することなく再び口を開いた。
「彼らの目的は、地球軍に与したオーブ軍の戦闘停止、撤退でした」
「それにしたってやり方が乱暴過ぎるわ。発射直前のタンホイザーを撃ってミネルバに多大な犠牲を強いるなど…やってくれるわ、本当に」
タリアは不機嫌そうに言った。
(…でも、あそこで陽電子砲が放たれれば、オーブの被害は甚大だった)
アスランは冷静に、そしてなるべく公平であろうと努めていた。
「彼らは何かを知らないのかもしれません。間違えているのかもしれません。プラントの方針や、議長のお考えや、この戦争…そのものを」
アスランはそう言いながら、頭では別のことも考えていた。
(そして、キラが一緒に探そうと言った、本当に戦うべきもののことも)
「無論、司令部や本国も動くでしょうが、そうであるなら、彼らと話し、解決の道を探すのは私の仕事です」
自分に対して珍しくはっきりと意見を述べるアスランを見て、タリアはしばし考えていたが、やがて言った。
「それは、FAITHとしての判断…ということかしら?」
「…はい」
少し間を置いたものの、アスランはきっぱりと頷いた。
今はもう、軍の言いなりになるしかなかったあの頃の無力な自分とは違う。
自分の判断で自由に動ける、「FAITH」という「力」がある。
このために議長は自分に、「自分の正義に従え」と言ってくれたのだ。
「なら私に止める権限はないわね」
タリアは椅子の背にもたれた。途端にどっと疲れが襲ってくる。
「確かに無駄な戦い、無駄な犠牲だったと思うもの、私も」
タリアは勝利を確信していた。
オーブ艦隊は陽電子砲で薙ぎ払われ、勝敗は決していただろう。
なのに蓋を開ければ自軍の損害甚だしい。
彼の艦はミネルバを援護したが、それとて彼女の思惑通りに事が運んでいれば不要だったはずだ。タリアはむすっとして言った。
「いいわ、わかりました。あなたの離艦、了承します」
タリアは言い、「でも…1人でいいの?」と聞いた。
自分の身を案じてくれたと思ったアスランは大丈夫だと答えたが、タリアは何か別の思惑があるような表情で彼女の背中を見送った。
「どうぞ」
「失礼します」
アスランが艦長室を出て行った後、今度はレイがやってきた。
(全く…今日は千客万来ね)
レイは何やら古ぼけたデータメディアを差し出して言った。
「地元民から、ある施設について情報提供がありました」
「情報提供?密告なの?」
タリアはデータをトラップ・スキャンにかけた。
モニターには大きな施設の正門が映ったが、さびれている感じもないし、門の向こうには何台もの車が止まっている。ご丁寧に夜間の映像もあり、正門前の自動照明もついているようなのに、人気がないのも不自然だ。
「確かに、なんだか変だわね」
「艦長から、本部にご報告願えますか」
「いいわ。報告します」
タリアは頷き、メディアを抜き出しながら聞いた
「それで、その情報提供者は…」
「ディオキアの情報部に任せてあります」
謝礼、口止め、そして悟られないようにしばらくの間、身辺警護と監視。
タリアは整えられた段取りに満足し、レイは敬礼して部屋を出た。
(地元民からの情報提供、か)
レイは我ながら陳腐な理由にしたものだと苦笑した。
情報はつい先ほど、彼のタブレットに直接届いたばかりのものだ。
「タリアから本部に報告させてくれ。私がきみたちに直接探索命令を出すよ」
幾重にも暗号のかけられたファイルを開くと、懐かしい顔が現れた。
(確かにお渡ししましたよ、ギル)
それが何の情報なのか、どんな意味を持つのか、レイは知ろうとしなかった。
敬愛するギルバートのやる事に、疑いを持つ必要などないのだから。
(さて、どうしたものか…)
久しぶりに制服を脱いだアスランは、小さな港町タルキウスで車を借り、知らない街を走る前にナビを確認していた。もとよりアークエンジェルの行き先はわかっておらず、キラやカガリの連絡先はずっと前から不通なのだ。
ましてや逃亡者のラクスなど、これまで連絡先を教えてもらった事はない。
バルトフェルド、マリューと、知っている限りのアドレスはすぐに底をついてしまった。遠征中のキサカにも通信が繋がるはずがない。
(人付き合いが苦手だと、これだもの)
威勢のいい事を言って出てきたものの、早くも手詰まりだった。
アスランはふぅとため息をつき、交差点で車を止めた。
けれどこの時、幸運の女神が珍しく彼女に微笑んだ。
ちょうど信号待ちをしている時、この見知らぬ街角に知った顔がいたのだ。
アスランは信号が青になったにもかかわらず、彼女に声をかけた。
「ミリアリア!ミリアリア・ハウ!!」
実際にはミリアリアは、自分の名を呼ぶ声にではなく、騒がしいクラクションと怒鳴り声に「うるさいなぁ…何よ」とブツクサ言いながら眼を向けた。
そこに、オープンカーから身を乗り出している彼女がいたのだ。
「…アスラン・ザラ?」
ミリアリアは呆気にとられ、大渋滞を引き起こしているアスランを見つめた。
2人はオープン・カフェで向かい合った。
アスランが自分のいきさつをかいつまんで話すと、ミリアリアの表情は段々と呆れたようになる。
「それで…開戦からこっち、オーブには戻らずザフトに戻っちゃったってわけ?」
ミリアリアはコーヒーを飲みながら聞き返した。
「…簡単に言うと、そういうこと」
「ふーん。キラにもカガリにも、ラクスさんにも何も言わずに?」
「…オーブがあんな事になって…伝える機会を逸してしまって…」
まじまじと見つめるミリアリアから、アスランはつい眼を逸らす。
「伝えにくくて後回しにしてるうちに…って顔に書いてあるわよ」
「…そんな事は……あ、そうだ!」
図星を指されて気まずい思いのアスランが思いついたように言った。
「向こうでは、ディアッカにも会った…けど」
「えぇ?」
ミリアリアはその名を聞いて表情を歪ませた。
「連絡しても全然返事がないって言ってたわ」
「もうとっくに終わったんだもの」
ミリアリアがパタパタと手を振って言う。頻繁に送られてくるメールは、返事こそしないものの、1通も削除していないことは誰にも秘密だった。
「っていうか、始まってもいなかったのかもね」
軽く眉をひそめてそう言う彼女を見て、アスランは口をつぐんだ。
(これは…やっぱりイザークの意見が正しいのかしら)
ディアッカには彼女に会った事を連絡してやろうと思う。忘れなければ、だが。
「それはともかく」
とりあえずそれ以上ミリアリアの機嫌を損ねないよう話題を変える。
「アークエンジェルのことなの。あの艦がオーブを出たことは知ってたけど、一体何でまたこんなところで…」
そこまで言ってやや口ごもる。
暖かい春の昼下がり、街は人で溢れていた。そもそも何がどう機密に繋がるかもわからないので、こういったところで戦闘の事を民間人に話すのは気が引けた。
「あの…『介入』のおかげで…大分、その…」
「混乱した?」
ミリアリアが困っているアスランに助け舟を出した。
「知ってるわよ。全部見てたもの、私も」
そう言ってミリアリアが画像が映っている自分のタブレットを差し出した。
アスランはそれを手にとって見た。アークエンジェル、フリーダム…ハイネのグフや、そのグフがガイアに斬り裂かれた瞬間まで捉えられている。
しばらく画像を見ていたアスランが、彼女の腕を「見事ね」と褒めた。
「アークエンジェルを探して、どうするつもり?」
ミリアリアが彼女の本音を探るようにアスランの顔を覗き込む。
アスランは一瞬ためらったが、正直な気持ちを話した。
「…会って、話したい。キラとも、カガリとも」
「今はまた、ザフトのあなたが?」
アスランはそれを聞いて俯き、小さな声で言った。
「確かにそうだけど…でも…」
ミリアリアは(ちょっと意地悪しちゃったかな)と思って言った。
「いいわ。手がないわけじゃない。あなた個人になら繋いであげる」
ミリアリアはタブレットを受け取りながら言った。
「私も大分長いことオーブには戻ってないから、詳しいことはわからないけど、誰だってこんな事、ほんとは嫌なはずだものね」
「連絡とってみるね」と言ってくれた彼女に、アスランは礼を述べた。
そしてふと、向かい合う自分と彼女が加害者と被害者の関係であることを思う。
(あの時母を失った私は、彼女の大切な人を殺してしまった)
辛い記憶は消えないが、時は立ち止まることを許さない。
ミリアリアは暇な男たちが何人も声をかけてくるのを軽くあしらっては、「こんな美人が2人もいちゃ、放っておけないわよね」と朗らかに笑う。
そして自分が映した画像を見ては「相変わらずすごいわね、キラは」と感心している。
そんな彼女を見て、アスランはなんとなくシンを思い出した。
家族を殺され、2度とそんな思いをしないようにと力を求めた彼も、手に入れたその力で、今度は他の誰かを泣かせる側になるのだ。
それがどれほどの重さをもって自分の人生にのしかかるのか。
(シン…あなたにもいつか、わかるといいのだけれど)
アスランとミリアリアが久しぶりに会っていた頃、再び北の海に潜航したアークエンジェルでは、マリューとバルトフェルドが食事を摂っていた。
「でも、どうしたらいいのかしらね、これから」
「ん?」
マリューが頬杖をつきながら呟くと、バルトフェルドが聞き返した。
「オーブを討たせないためには、ミネルバへの攻撃は必要不可欠だったわ」
(かなり死傷者も出たでしょうし…その後は逆にオーブや地球軍の攻撃から庇ったことで、きっと混乱してるわよね、ミネルバは)
マリューの脳裏に理知的で聡明そうなタリア・グラディスの顔が浮かぶ。
「ま、先日の戦闘では、こちらの意志は示せたというところかな」
バルトフェルドはにやにやしながら答えた。
「で、今頃はどこも大騒ぎさ。あいつら一体、どっちの味方なんだ!ってね。何でも、白黒はっきりした方が楽だからな」
「確かに、そうよね」
「だがこれでまたザフトの目がこちらに向くことになる。そうなればラクスを殺そうとしたヤツも、当然この艦にあいつが乗っていると予想するだろうな」
食べ終わった器を置くと、バルトフェルドはくちくなった腹を撫でて言った。
「組織的に狙われるとなると、確かに厳しいな。色々と」
(いつもヘラヘラしているくせに、相変わらず状況分析は正確だこと)
かつて愛した人にしろ、自分の周りにはこういうタイプの男が集まる運命なのだろうかと余計な事を考え、それからふと、あの戦闘以降も変わらずに明るい表情を見せているカガリの事を思い出した。
(やっぱり男の子だから…よね)
心の中には当然、たくさんの悩みや葛藤や不安を抱えているはずなのに、自分で抱え込んでしまうところは、昔とちっとも変わっていない。
そのカガリはといえば、アークエンジェルに新たに作られた大浴場で足を伸ばしていた。こんなものがあるとは知らなかったから驚いたが、オーブは地熱エネルギーが豊かな火山国でもあるので、温泉文化が根付いている。クルーが少ないので、大抵は貸切状態で入れた。
カガリが眼を閉じて口まで浸かっていると、扉が開いた。
見ればそこにはラクスがいて、カガリは「げ」と声をあげた。
「野郎同士で入っても嬉しくないだろ」
「そう思ってキラも誘ったんだけど、冗談じゃないって怒られたよ」
「あたりまえだ」
呆れたように言った後、カガリは声をひそめて言った。
「…俺も昔は男と間違えたけどさ」
白く細いラクスの体には、点滴用のカテーテルがいくつか入っている。
カガリは防水処置を確認して問題なしと判断し、後で消毒をすると言った。
「最近、体は?」
「おかげさまで」
医療データはカガリもチェックしているが、確かにここのところ安定していた。
「きみこそ、どう?オーブの事」
「うーん…」
カガリは唸り、考え込んだ。
「本当にこれでよかったのかと思ってる」
撃墜されたモビルスーツを思い出すたび、自分のせいで故郷を離れ、遠い異国で命を散らさねばならなかった彼らの無念が伝わってきた。
「国に帰って、もう一度、ちゃんと首長たちとも話し合っ…ぶわっ!」
途端に、ラクスが指で作る水鉄砲を放ってカガリは水浸しになった。
「何するんだ、ラクス!やめろよ!」
「そんな暗い顔してちゃだめだよ」
ラクスはひとしきり攻撃を続け、カガリは乱暴に顔を手で拭った。
「彼らには、きっとカガリくんの言葉が残ってるはずだから」
ラクスが励ますと、カガリはため息をついた。
「けど…話を聞いてもらえないってのはこたえるな」
「それを言うなら、僕なんか何回無視されてることやら」
それから、ラクスはややまじめな顔をして言った。
「まず決める。 そしてやり通す」
「え?」
「それが、何かをなす時の唯一の方法だよ、きっと」
「…難しいな」
カガリは湯と汗で張り付いた前髪を手で掻き揚げながら言った。
「もし間違えたら、見誤ったら…そう思うと、簡単には決められない」
「だけど迷うのが一番いけないと思う。考えるのはいいし、間違うのも仕方がない時もあるよ。でも『迷い』は、皆を不安にさせ、混乱させる」
「ラクス…」
「とはいえ、幸いにも僕たちは運命共同体だ」
少し厳しい顔をしていたラクスが優しそうに笑った。
「皆で一緒に道を探すことができるからね。きみは一人ぼっちじゃないよ」
それを聞いたカガリは照れくさそうに笑い、「そうか」と言った。
思いがけない彼のその言葉が、今は何より心強かった。
「残念ながら、アスランだけは今ここにいないけど」
けれどほっとしたところでいきなりその名前を出され、「うっ」と詰まる。
「何せ出て行ったが最後、何があっても連絡してこないんだから」
ラクスは肩をすくめて苦笑した。
「昔から連絡不精の鉄砲玉だからね。困った子だよ」
「おまえなぁ…」
カガリはそう呟くと腕を振り、ラクスに思いっきり湯をかけた。
「先輩ヅラするな、この野郎!」
「探索任務!?…でありますか?」
シンはレイと共にアーサーから今回の指令を説明されていた。
「副長、ルナは?」
「ルナマリアは今、別の任務を遂行中だ」
あの後すぐ、アスランがFAITHとしての判断で離艦したと聞いて驚いたルナマリアは、血相を変えてやって来て、シンを叱り飛ばした。
「見なさいよ!シンがあんな意地悪なこと言うから!」
「ええ?だって…まさか、あんな事ぐらいで…」
彼女のその剣幕に思わずたじろいだシンが口の中でモゴモゴ言うと、「このまま帰って来なかったらどうするつもり!?」と脅すのだ。
(ちぇ。そんなヤワな奴じゃないだろ………多分…)
不満顔のシンに、アーサーがいつものように明るく言った。
「そうだ。これも司令部からの正式な命令なんだぞ」
「けど探索って…なんでこんな時に…」
シンのそれはとても上官に対する態度ではないが、アーサーはとっくに諦めているので、そのままデータを示して説明を続けた。
「これは地域住民からの情報だ」
レイが提出した画像が映し出され、シンは胡散臭そうにそれを見る。
「今は静かだそうだが、以前は車両や航空機、モビルスーツなども出入りしていた、かなりの規模の施設ということだ」
アーサーは続けて周辺地域の立体地図を映し出した。
「きみたちには明朝、そこの調査に行ってもらいたい」
「そんな仕事に俺たちを!?…でありますか?」
直接調査と聞いたシンは腕を解き、あからさまに不満をぶちまけた。
「俺たちはパイロットですよ?調査隊派遣の護衛ってんならともかく、なんで俺たちがじきじきに施設の調査までしなくちゃならないんです?」
それは尤もな意見なので、アーサーは困ったような顔をした。
(これだからなぁ、シンは…)
頭の回転が速く、荒っぽい口調の上に弁の立つシンにはいつも手を焼く。
(だけど今回は何としてもやってもらわなきゃならないぞ。うん!)
なぜならこれは、内密ながら議長じきじきの「ご指名」なのだ。
「納得できませんね。ちゃんと説明してください、副長」
「…いやぁ、だから、それはだな…」
きっぱりとした決意とは程遠く、しどろもどろのアーサーに不満をぶつけるシンを見て、レイがついに叱った。
「シン、いい加減にしろ。これも任務だ」
レイにピシッと言われると、さしものシンも黙り込む。
「そうだぞ。それに、そんな仕事とか言うなぁ?」
アーサーはここぞとばかりにレイの尻馬に乗っかった。
「もし武装勢力が立て籠もってでもいたらどうする?」
シンはその言葉に、(なるほど、その線もあるのか)と納得した。
「そういう任務なんだ。しっかりと頼むぞ」
「了解しました」
レイが敬礼したのでシンも続いたが、そこでもう一度「ん?」と首を傾げた。
「ちょっ、副長!それならやっぱ俺たちより特殊部隊や爆弾処…」
シンはすたこらと逃げ出したアーサーを追ったが、逃げ足だけは速い。
「くそ、逃げられた!」
「諦めろ、シン。これも任務だ」
レイに諭され、シンは腹立ちまぎれに机を軽く拳で殴った。
さて一方のルナマリアは「アスラン・ザラの尾行」という、こちらもまたシンが聞いたら「そんな仕事にルナを?」と言いそうな任務を拝命していた。
正直まさに「そんな仕事」は気乗りはしない。尾行も別に得意ではない。
(でもシンはどうせ『ルナはなんでも苦手だろ』って言うわね、きっと)
まさか自分がアスランを尾けることになるとは思わず、彼女が出て行った事で散々責めてしまったシンには「ちょっと悪かったかな」と思ったりした。
「だけどどうして今さらアスランを追わなければならないんですか?確かに、アークエンジェルやフリーダムとは因縁がある人ですけど…」
「だからよ」
タリアは親指を噛みながら言った。
「アスランを疑ってるわけじゃないけど、あの艦とフリーダムの行動は意図が読めないし、今後も絡んでくるとなると厄介で危険な相手だわ」
「だからなるべく情報収集しておきたいだけなの…とかなんとか言っちゃって」
ルナマリアはホテルの一室にいるアスランを見ながら呟いた。
(絶対疑ってるわよねぇ、艦長ったら)
アスランは手持ち無沙汰のようで、ソファに座って肘をついている。
街で知り合いらしい女の人と会って以来、ずっと部屋にこもっていた。
「あらっ?」
ルナマリアは電子双眼鏡で彼女を覗くうち、ある事に気づいた。
(アスラン…あの指輪、してる…)
アスランの左の薬指には、指輪が光っていた。
ミリアリアは、この田舎町でレーザー通信ができる場所を探していた。
先だって写真を送った返事の時、キラからターミナルのキーを聞いている。
初めての試みだが、きちんと通信を送れば繋がるはずだった。
雨の中、灯台を訪ねたミリアリアは、そこでやや旧式の通信機を借りることができた。
「ありがとう!」
親切な灯台守にお礼を言い、ミリアリアは上着を頭からかぶって春の気配がする暖かい雨を避け、港へと駆け出した。
「艦長」
のんびりと虎ブレンドのコーヒーを飲んでいたチャンドラが、ターミナルからの通信を捉えてマリューを呼んだ。 談笑していたマリューやノイマン、バルトフェルドも振り返る。マリューは覗き込んで「あら」と言った。
「通信です。このキーは…」
「キラさんたちを呼んで」
ダーダネルスで天使を見ました。また会いたい。
赤の姫も王子を探しています。どうか連絡を。 ミリアリア
「ミリアリアさん?」
マリューが懐かしそうにその名を呼んだ。
「赤の姫…へぇ、これはレアだよ、カガリくん」
「…アスランか?」
ラクスが言うと、カガリの顔がぱっと明るくなる。
「ターミナルから回されてきたものなんでしょ?」
マリューが聞くと、チャンドラがそうですと答えた。
幾重にもかけられたトラップといい、慎重なターミナルらしい仕事だ。
「ダーダネルスで天使を見たって…じゃあミリアリアさんもあそこに?」
「彼女、今はフリーの報道カメラマンですからね」
ノイマンが「あそこに来ていたとしても不思議はないです」と言った。
「それにしても随分危険だな。陽電子砲が放たれてたら汚染もあるのに」
皆がざわめく中、カガリだけは密かに「アスランが自分を探している」という事実に胸を高鳴らせていた。そして思わずキラを振り返る。
「アスランだ、アスランが戻ってきてるんだ、キラ」
けれどカガリが弾む声で言っても、キラはやや浮かない顔をしている。
「プラントから…ということか?さて、どうする?キラ?」
バルトフェルドの言葉にカガリは少し驚き、キラの表情にも気づいた。
「誰かに仕掛けられたにしちゃ、なかなかしゃれた電文だがな」
「でも、ミリアリアさんの存在なんて…」
マリューが抗議する。
心根の優しい彼女にとって、どんな形でも昔の仲間を疑うのは気が引けた。
「確か、彼女自身は知っているはずですがね。この艦への連絡方法は」
するとノイマンがマリューをフォローし、キラに言った。
「キーを教えたんだろ、ヤマト」
「はい…って、なんで知ってるんです?」
「こいつ、あの娘のことやけに詳しいんだよね」
チャンドラがニヤニヤしたが、ノイマンは素知らぬ顔だ。
「会いましょう」
キラはしばらく考え込んだが、やがて言った。
「アスランが戻ったのなら、プラントのことも色々とわかるでしょう」
それを聞いてカガリがほっとした顔になる。
「でも、アークエンジェルは動かないでください。私が一人で行きます」
キラのその言葉に、全員がえっ!?と思わず声をあげた。
「大丈夫。心配しないで」
「ちょ…ちょっと待て!」
しかしカガリが焦ったように口を挟んだ。
「俺は一緒に行くぞ」
「え?」
キラがきょとんとすると、彼は少しだけ赤くなった。
言葉より先に飛び出してしまった気持ちを引っ込めるのは難儀だった。
「あ、いや、あの…でも…」
「いいよ。じゃ、私とカガリで」
キラはそんな素直なカガリを見て、にっこり笑った。
ターミナルを介してミリアリアと何度かやり取りを繰り返し、日時が決まると、カガリはまたフリーダムのコックピットに挟まった。
「戦闘はなしだぞ」と釘を刺され、キラも「しないってば」と答える。
北欧からエーゲ海の長旅も、フリーダムが全力で飛ばせば大してかからない。
とはいえナチュラルを乗せて全力飛行というわけにはいかないので、キラはカガリに負担がかからないよう休憩を取りつつ、安全第一で飛行を続けた。
丸一日を費やして夕暮れのタルキウスに到着すると、キラは近くの崖にフリーダムを隠し、カガリと共にミリアリアとの約束の場所に向かった。
ミリアリアは愛車の中で待っていたが、2人を見つけると駆け寄ってきた。
「キラ!」
「ミリアリア!」
2人は駆け寄って両手を結び合い、ひとしきり再会を喜び合った。
「もう、ほんとに信じられなかったわよ、フリーダムを見た時は!」
「ごめん、心配させて」
オーブでは日々の公務で忙しかったカガリも久しぶりに彼女に会う。
「あら、アスハ代表。こんなところにお忍びですか?」
「元気そうだな。ディアッカとは…」
そう言いかけた途端、「あー、それは聞かないで!」と拒否された。
ミリアリアは相変わらずくるくると変わる表情で明るく話し続けた。
「大体、結婚するなら公式カメラマンに指名してもらわなくっちゃ!」
ミリアリアがくすくす笑いながらカガリを見て言う。
「で、一体どうしたっていうの?結婚式がいきなり離婚式?」
「いやぁ、その話は…あの…」
「ええ?ちゃんと答えてください、代表!」
カガリはなんとかごまかそうとしたのだが、しまいには降参し、「頼む、聞かないでくれ。思い出したくもないんだよ」と頭を下げた。
「しょうがないわね」
「それより、アスランは?どこにいる?」
カガリがきょろきょろして彼女を探す。
「あ…ごめん…」
ミリアリアがそれを聞いて少し声をひそめた。
「用心して通信には書けなかったんだけど…彼女、ザフトに戻ってるわよ」
「ザフトに!?」
「アスランが!?」
2人は同時に驚き、そして顔を見合わせた。
その時、上空にエンジン音が近づき、強い風が沸き起こった。
カガリが吹き上がる砂利からキラやミリアリアを庇い、キラはカガリの向こうに見覚えのある赤い機体…ZGMF-X23Sセイバーが降り立つのを見た。
「あの機体…」
キラが呟くのを聞いたカガリも振り向き、それを見て絶句した。
(アスラン…本当にザフトに戻ったのか)
キラはラダーで降りてきたアスランを見つめていた。
ミリアリアは少し後ろに下がり、彼らの再会を見守っている。
「キラ…カガリ…」
「アスラン」
キラは少しだけ微笑んだが、アスランはうまく笑えなかった。
カガリもまた、黙ってアスランを見つめていた。
怪我はしてはいない。様子も特に変わっていないようだ。
「どうしたんだ、アスラン。おまえ…」
やがてカガリはアスランに近づいたが、アスランはうつむき加減に眼を逸らす。
「心配してたんだぞ。おまえときたら行ったきりで連絡一つよこさないし」
カガリはそう言ってから、少し困ったように言葉を濁した。
「まぁ…あんなことになって、俺も連絡は取れなかったけど」
だがアスランは相変わらず何も答えない。
何より、眼の前の自分を見ようとしない。
カガリは明らかに前とは違う彼女に、怪訝そうな表情を見せた。
「どういうこと?アスラン」
沈黙が続く中、キラが口火を切った。
「ザフトに戻ったというのは、本当?一体どうして?」
キラの質問に、アスランがようやく口を開いた。
「その方がいいと思ったから…あの時は。自分の為にも、オーブの為にも」
「オーブの…?」
キラもカガリも一瞬ちらりと互いを見合った。
アスランがまた黙ったので、キラはその後ろに立つセイバーを見上げた。
「あれは、あなたの機体?」
キラは、自分が上空から降下してきたこの機体を見上げた時、背後で新型のグフがガイアに斬られた事を思い出した。
「じゃ、この間の戦闘…」
「ええ、私もいたわ。今、ミネルバに乗ってるから」
2人はタンホイザーが破壊され、派手に爆発した艦を思い出した。
カガリに至っては、一時的とはいえ命を預けた艦だ。
(なら、今はオーブを憎むあいつと…シンと一緒にいるのか?)
カガリの胸に残る、言い知れぬ鋭い棘がチクリと痛んだ。
「あなたを見て、話そうとしたわ。でも通じなくて…」
アスランはやや苦しげな表情を見せ、それから声を荒げた。
「でも、なぜあんなことをしたの!?あんなバカなことを!」
「バカなこと…」
キラがその言葉を繰り返すと、アスランはさらに続けた。
「おかげで戦場は混乱し、あなたのせいでいらぬ犠牲も出たわ」
ミネルバのデッキに並べられた遺体を見て黙り込む者、すすり泣く者…アスランの心に、いなくなったハイネの笑顔と共に苦い思いが去来した。
「本当にあんな方法を取るしかなかったの?戦いを止めるために」
「…あの時、ザフトが戦おうとしていたのは、オーブだったから…」
キラは静かに答えた。
「私たちは、それをなんとしても止めたかった」
アスランはそのキラの言葉を心では理解する事はできた。
けれどそれを言葉にするには、彼女は理性が勝ち過ぎている。
「あそこであなたたちが出て、素直にオーブが撤退するとでも?」
「撤退できるはずないって事くらい、わかってたさ」
アスランはキラに代わって答えたカガリを見た。
首長服でもなく、軍服でもない私服のカガリを見るのは久々の気がした。
「なら!」
アスランは前に踏み出し、カガリの腕を掴んだ。
「あなたがしなきゃいけなかったのはそんなことじゃないでしょう?」
「…ああ…」
「戦場に出てあんな事を言う前に、オーブを同盟になんか参加させるべきじゃなかったんだわ」
「…それは!」
キラが思わず割って入ったが、カガリはキラを軽く手で制した。
「そうだ。俺には同盟を止められなかった。首長会を抑え切れなかったんだ」
「だったら!」
アスランは彼を見上げた。碧色の瞳と琥珀色の瞳が交錯した。
「何をしてるの、こんなところで…あなたにはオーブでやるべき事があるでしょう」
この時カガリは、自分の腕を強く握るアスランの左手の薬指に、自分が贈った指輪がはめられている事に気づいた。
「でも、それで…」
キラが言った。
「アスランが、今はまたザフト軍だっていうなら、これからどうするの?」
アスランはカガリの腕を離すと、キラの方を向き直った。
「私たちを探してたのはなぜ?」
「やめさせたいと思ったからよ、もうあんなことは」
アスランはずっと心にしまっていた思いのたけを吐き出した。
「ユニウスセブンのことは…わかってはいるけど…」
父の残した「負の遺産」が事件の発端だと思い出すとやるせない。
けれど、だからこそ戦おうと決めたのだ。アスランは2人を見つめた。
「その後の混乱はどう見たって連合が悪いわ。それでもプラントは、こんな馬鹿なことは一日でも早く終わらせようと頑張ってる。なのにあなたたちはただ状況を混乱させているだけよ」
「アスラン…」
カガリはあの時、何ひとつ心にある事を言い残すことなく去っていった彼女が、本当は何を考えていたのか初めて知った。
「終わらせるって…戦うことでか?おまえが、ザフトで?」
カガリの言葉に、アスランはふと辛そうな表情になった。
「…先に核攻撃を仕掛けたのは、地球軍よ」
アスランが答えた途端、2人ははっと互いを見詰め合った。
(この言葉…忘れもしないこの言葉は…)
2人は出会ったあの日を、互いに銃を向け合った日を思い出した。
しかし今回は2人きりではない。キラがそれを聞いて尋ねた。
「本当にそう?」
「えっ?」
思いもかけないキラの返答に、アスランは思わず聞き返してしまった。
「プラントは、本当にそう思ってるの?あのデュランダル議長って人…」
キラの言葉に議長への軽い敵意を感じ、アスランは口をつぐんだ。
「戦争を早く終わらせて、平和な世界にしたいって?」
まるで、そんなの嘘っぱちだと言い出しそうなキラの口調に、アスランはなんとなくむっとした。自分の好きなもの、信じるものを否定された時に闇雲に攻撃的になる幼い子供のように、珍しく心がざわめいた。
「あなただって、議長のしていることは見てるでしょう。言葉だって聞いたでしょう。議長は、本当に…」
まくしたてるアスランのこうした様子には、キラよりむしろカガリの方が驚き、思わず聞き返した。
「おまえ、いつの間にそんなに議長を信頼するようになったんだ?」
「議長は立派な方よ。戦争の根幹を探り、真に平和を目指そうとしてる」
カガリは呆気に取られた。確かに、デュランダル議長は為政者として尊敬すべき部分は多いが、アスランがここまで彼を信じるなんて…
(一体何があったんだ?)
カガリはアスランが、議長に父の呪縛から解放してもらったことも、直々に最新鋭機セイバーを渡されたことも、いざとなれば我々を正し、何より自分の正義に従うようにという甘い言葉をもらったことも、それゆえに破格の扱いで復隊し、権限の強いFAITHであることも、何も知らない。
耳触りのよい言葉に絡め取られ、彼女はザフト復隊を選んだのだ。
キラもまた少し苛立ちを感じてアスランを見つめ返した。
「じゃ、あのラクス・クラインは?」
「…え?」
「今プラントにいる、あのラクスは何なの?」
(ミーア・キャンベル…)
こればかりはさすがにアスランにも明確には言い返せない。
「あれは…ラクスが…プラントに、戻るまでの…」
「あんなの、ラクスじゃない」
キラが吐き捨てるように言った。
「そして、何で本物のラクスは殺されそうになるの?」
(ええ!?)
キラの言葉を聞いて、レトロな通信手段で盗聴を続けていたルナマリアも思わず声をあげかけ、慌てて口を塞いだ。あの軽薄なラクス・クラインが偽者だったというだけでも驚きなのに、本物は暗殺されかけたという。話の雲行きが俄かに怪しくなってきた。
「殺されそうにって…なんなの、それは?」
事態が飲み込めないアスランは2人を交互に見た。
「オーブで、私たちはコーディネーターの特殊部隊と新型モビルスーツに襲撃された。主犯はラクスを狙う過激派だったけど、実行犯にはザフトも混ざっていた」
「そんな…」
「だから、私はまたフリーダムに乗ったんだ」
アスランは信じられないという顔をする。
「ラクスもみんなも、もう誰も死なせたくなかったから」
そしてキラはアスランに問いかけた。
「ラクスは誰に、どうして狙われなきゃならないの?」
「う…」
アスランは何も答えられない。
「それがはっきりしないうちは、私にはプラントも信じられない」
それはまるで、遠まわしに「だからプラントを守るアスランも信じられない」と言われているようで、アスランは軽く傷ついた。
「では、行くぞ!」
ようやく支給されたグゥルに乗り、レイが出発の合図を出した。
「りょーかーい」
全くやる気のないシンは、ルートから手筈まで全てレイに任せて出撃した。
場所はロドニアの山奥なので、海辺のタルキウスからはそれなりに距離がある。
「どうせなら輸送機かなんかで運んでくれりゃいいのに」
シンは操縦桿を握りながらまだブツブツ言っている。
(なんでわざわざインパルスで?)
アーサーは輸送機やヘリではなく、インパルスとザクファントムで行くようにと指示したのだが、これにまたもシンからのブーイングが返ってきた。
「もう使われてないって言ってたじゃないですか。敵なんかいないでしょ」
「いやぁ、だから…」
「それを俺たちが調査するんだろ、シン」
「ああ…じゃ、コアスプレンダーで…」
「いい加減にしろ」
レイにぴしゃりと言われ、シンはまたしても渋々従った。
「なぁ、レイ。ルナの奴、今頃何してるんだろうな」
「さぁ」
「おまえさ、アスランはホントにへそ曲げて出て行ったんだと思うか?」
「わからない」
シンは暇に任せてあれこれ話しかけたが、職務に忠実な優等生のレイは無駄話にはちっともつきあってくれない。シンは首を回してため息をついた。
(こういう任務はルナとの方が楽しいかもな…)
今、アスランたちの会話を一生懸命拾っているルナマリアが聞いたら小躍りして喜びそうな事を考えたものの、シンはすぐに考え直した。
(けど戦力としては全然アテにならないからなぁ、あいつは…)
そんな風に気を紛らわせているうちに、景色はすっかり山になり、やがてようやくデータで見たあの正門が見えてきた。
「あれだ」
2人は周囲を警戒しながらモビルスーツを降ろし、しばらくそのまま塀の中を探索した。外部に設置された電力盤はゆっくりと廻っており、何か大型のモーターもぶううんと音を立てて動いているようだ。
全体的に稼動しているようなのに、人の気配は全くない。
やがて2人はコックピットを降りた。
検知器のスイッチを入れたが、有毒ガスや有害物質の散布はないようだ。
「念のため、ヘルメットを持ってくか?」
「いや、とりあえずこのまま入り口まで行ってみよう」
ブツブツ言っていた割に、実際に不可解な状況を見たシンは冷静な判断を下したのだが、今回は全てをレイに任せてきた手前、彼の判断に従った。
2人は暮れ始めた初春の夕刻、銃を構え、警戒しながら建物の中に入った。
電気盤が動いていたのに電気はつかず、相変わらず人の気配はない。
けれど2人はすぐに異常に気づいた。
「ひどいな」
「ああ」
それは異臭だった。
蔓延している腐敗臭にえずきそうになり、シンはやっぱりヘルメットを持ってくるんだったと後悔した。
この臭いが何によるものか、彼らは既に理解している。
レイもシンも手袋をしている手で強く鼻を押さえて前進していった。
ロビー、何かの研究室、コンピュータールーム…人気のない部屋が続き、やがて2人は広い部屋に出た。
「何だよ、ここ」
シンは眼を凝らして見る。
そこには何本もの巨大なガラス製ビーカーが並んでいた。
「これ…何が入ってるんだろう?」
シンがよく見える眼で遠くを見ている時、レイはすぐ近くを見ていた。
そして突然息を呑み、怯えたような表情でガタガタと震え始めた。
「あ…あ…!」
さらに先に進んだシンが、巨大なプラントの中を覗き込んだその時、何かの拍子だったのか、中に入っているものがぬるりと滑って落ちた。
その真っ白な影に、一瞬シンは、(動物の標本かな)と思った。
しかしそれは、人らしき形をしていた。
「…っ!」
シンは驚いてやや体を硬くしたが、すぐに落ち着いて観察を開始した。
元々度胸が座っている彼は、ちょうど自分の目線に見えている白い部分が、全て人の足だと知った。そのいかにも不可解な状況にシンは顔をしかめる。
「…人間の、標本?」
シンはもっと奥に進もうとしたが、ふとレイの気配がない事に気づいた。
「ん?レイ?」
振り向くと、レイはまだ入り口付近にいた。
けれどどうも様子がおかしい。レイはしゃがみこみ、唸っていた。
「レイ!?」
慌てて駆け戻ったシンは膝をつき、レイを覗き込んだ。
彼の端正な顔はいつになく歪み、大きく見開かれた眼が血走っている。
「レイ!どうしたんだよ、レイ!」
シンは床に崩れ落ちたレイの背に、恐る恐る触れてみた。
ステラに触れたからだろうか。いつもなら感じる拒絶感はなかった。
レイはまだ苦しそうに呻き続けている。それを見てシンは決意した。
(大丈夫、これはレイだ。平気だろ…友達なんだから)
シンは一瞬ためらったが、思い切ってレイの背を抱いた。
「おい、レイ!」
シンはガタガタと震えるレイを抱きながら、あたりを見回していた。
奥へくるほど強くなる腐敗臭…不可解な人の標本…レイのこの異常…
(一体ここは…なんなんだ?)
着任したばかりのハイネの荷物などほとんどなかったが、シンとレイがまとめた遺品を、タルキウスの兵が運んでいった。
アスラン、シン、レイ、ルナマリアは、敬礼しながらトラックを見送った。
それはあまりにもあっけない別れだった。
「昨日のあれ…なんだったんだろうな」
トラックが行ってしまうと、シンはレイに言った。
「さぁ。今のところ、彼らの目的も意図も不明だ」
「あいつらが変な乱入して来なきゃ、ハイネは…」
そう言いかけたシンは、実際に彼の命を奪ったのはガイアだったことを思い出し、「…っと」とごまかした。
「でも、そういう状況に誘われた、っていうのはあるかもしれないわよ」
シンが言葉に詰まった理由を悟ったルナマリアがフォローするように言った。
「ハイネ、すごく強かったもの。そう簡単にやられたとは思えないわ」
話しながら歩き出した3人はふと、アスランがついてこないことに気づいて振り返った。
アスランは一人立ち尽くし、物思いに沈んでいるようだ。
彼らは顔を見合わせたが、シンが踵を返したので2人も続いた。
海風になぶられながら、アスランはトラックが去った軍用道路を見ていた。
(じゃ、おまえ、どことなら戦いたい?)
(割り切れよ。でないと、死ぬぞ)
ほんの短いつきあいだったが、彼の言葉はアスランの心に何かを残した。
いつだって1人で悩むしか方法を知らない彼女を思いやり、積極的に助言をしてくれた人だったからかもしれない。
(アスラン、下がれ!)
しかも彼はニコルと同じように、彼女をかばおうとして死んだのだ。
直接手を下したのはキラではないとはいえ、アスランの思考はいやでも戦場を混乱に陥れながら駆け抜けたキラとフリーダムに戻ってしまう。
「何なんです?あいつらは。知ってるんでしょう?」
シンの声に、アスランがはっとして振り返った。
さらにレイが珍しく続いた。
「アークエンジェルとフリーダム…あなたと共に戦った仲間ですね?」
「ちょっと…」
驚いたルナマリアが慌てて2人を諌めている。
アスランは3人を見て口を開きかけたが、そのまま黙り込んだ。
「本当に、何やってんですかね、オーブ…いや、アスハは」
シンはアスランが答えないので視線を移して続けた。
「気持ちだけは真っ直ぐだかなんだか知らないけど、ノコノコと現れて、ミネルバを傷つけて。その上、戦闘をやめろ?バカじゃないんですか」
シンはさも呆れたように言い、それから鋭い眼でアスランを見た。
「たくさん死にましたよ…連中のせいで」
アスランは黙って歩き出し、シンの横を通り過ぎた。
「怒ったんですか」
無言のまま立ち去る彼女に声をかけたが、アスランは振り向かない。
ふんと鼻を鳴らして見送ったシンに、ルナマリアが抗議した。
「あんな言い方したら可哀想じゃない!」
けれどシンは不機嫌そうに答える。
「いいよ、別に。いきなりフリーダムに斬られてみろ。ルナだって絶対怒る」
アスランは勢いよく歩いていたが、徐々にスピードを落とした。
(おまえのこと、一生懸命追いかけてるんだよ)
シンの言葉に追われるようだったアスランの心に、ハイネの言葉が蘇る。
(ちゃんと受け止めてやれよ。真っ直ぐでいいもの持ってるぞ、シンは)
アスランは足を止め、天を仰いだ。晩冬の空は、よく晴れて青かった。
(…シンの怒りはもっともだわ)
結果的にミネルバはアークエンジェルに守られた形になったのだが、一体なぜなのか彼らの意図がわからず、兵たちは皆、動揺を隠せない。
(真意を問い質したい…キラ、カガリ…あなたたちの)
アスランは立ち止まり、それから何かを決意したように歩き出した。
「え?あの艦の行方を?」
数分後、アスランは艦長室にいた。
「はい。艦長もご存じのことと思いますが、私は先の大戦時、ヤキン・ドゥーエではあの艦、アークエンジェルと共に、ザフトと戦いました」
ザフトに戻った今、誰もが「アスラン・ザラ」の名を聞いて複雑な表情を見せるのはそれが原因だ。前大戦のエースにして元議長の娘でありながら、婚約者ラクス・クラインと共に反旗を翻し、ザフトと戦った脱走兵。
裏切り者であると同時に、停戦の英雄ラクス・クラインを支えた功労者と言われるその人に、あからさまに不信の眼を向けるものも多い。
今彼女の眼の前にいる、タリア・グラディスのように…だ。
アスランは続けた。
「おそらくはあのモビルスーツ、フリーダムのパイロットも、あのアークエンジェルのクルーも、そしてあそこで名乗りを上げたオーブの代表も、私にとっては皆、よく知る人間です」
タリアは黙って彼女の言葉を聞いている。
「だからこそ尚更…この事態が理解できません」
ミネルバを攻撃し、オーブ軍を攻撃し、多くの兵を戦闘不能にし、混乱だけを引き起こして去っていった彼らの行動の意図は何なのか。
「…というか、納得できません」
「それは確かに私もそうは思うけれど」
タリアは、「だからといって、彼らに直接聞くわけにもいかないでしょ」と冷たく言い放った。
自分が、彼女にも不信感を持っていると知らしめるつもりだった。
アスランはその言葉に唇を噛んだが、臆することなく再び口を開いた。
「彼らの目的は、地球軍に与したオーブ軍の戦闘停止、撤退でした」
「それにしたってやり方が乱暴過ぎるわ。発射直前のタンホイザーを撃ってミネルバに多大な犠牲を強いるなど…やってくれるわ、本当に」
タリアは不機嫌そうに言った。
(…でも、あそこで陽電子砲が放たれれば、オーブの被害は甚大だった)
アスランは冷静に、そしてなるべく公平であろうと努めていた。
「彼らは何かを知らないのかもしれません。間違えているのかもしれません。プラントの方針や、議長のお考えや、この戦争…そのものを」
アスランはそう言いながら、頭では別のことも考えていた。
(そして、キラが一緒に探そうと言った、本当に戦うべきもののことも)
「無論、司令部や本国も動くでしょうが、そうであるなら、彼らと話し、解決の道を探すのは私の仕事です」
自分に対して珍しくはっきりと意見を述べるアスランを見て、タリアはしばし考えていたが、やがて言った。
「それは、FAITHとしての判断…ということかしら?」
「…はい」
少し間を置いたものの、アスランはきっぱりと頷いた。
今はもう、軍の言いなりになるしかなかったあの頃の無力な自分とは違う。
自分の判断で自由に動ける、「FAITH」という「力」がある。
このために議長は自分に、「自分の正義に従え」と言ってくれたのだ。
「なら私に止める権限はないわね」
タリアは椅子の背にもたれた。途端にどっと疲れが襲ってくる。
「確かに無駄な戦い、無駄な犠牲だったと思うもの、私も」
タリアは勝利を確信していた。
オーブ艦隊は陽電子砲で薙ぎ払われ、勝敗は決していただろう。
なのに蓋を開ければ自軍の損害甚だしい。
彼の艦はミネルバを援護したが、それとて彼女の思惑通りに事が運んでいれば不要だったはずだ。タリアはむすっとして言った。
「いいわ、わかりました。あなたの離艦、了承します」
タリアは言い、「でも…1人でいいの?」と聞いた。
自分の身を案じてくれたと思ったアスランは大丈夫だと答えたが、タリアは何か別の思惑があるような表情で彼女の背中を見送った。
「どうぞ」
「失礼します」
アスランが艦長室を出て行った後、今度はレイがやってきた。
(全く…今日は千客万来ね)
レイは何やら古ぼけたデータメディアを差し出して言った。
「地元民から、ある施設について情報提供がありました」
「情報提供?密告なの?」
タリアはデータをトラップ・スキャンにかけた。
モニターには大きな施設の正門が映ったが、さびれている感じもないし、門の向こうには何台もの車が止まっている。ご丁寧に夜間の映像もあり、正門前の自動照明もついているようなのに、人気がないのも不自然だ。
「確かに、なんだか変だわね」
「艦長から、本部にご報告願えますか」
「いいわ。報告します」
タリアは頷き、メディアを抜き出しながら聞いた
「それで、その情報提供者は…」
「ディオキアの情報部に任せてあります」
謝礼、口止め、そして悟られないようにしばらくの間、身辺警護と監視。
タリアは整えられた段取りに満足し、レイは敬礼して部屋を出た。
(地元民からの情報提供、か)
レイは我ながら陳腐な理由にしたものだと苦笑した。
情報はつい先ほど、彼のタブレットに直接届いたばかりのものだ。
「タリアから本部に報告させてくれ。私がきみたちに直接探索命令を出すよ」
幾重にも暗号のかけられたファイルを開くと、懐かしい顔が現れた。
(確かにお渡ししましたよ、ギル)
それが何の情報なのか、どんな意味を持つのか、レイは知ろうとしなかった。
敬愛するギルバートのやる事に、疑いを持つ必要などないのだから。
(さて、どうしたものか…)
久しぶりに制服を脱いだアスランは、小さな港町タルキウスで車を借り、知らない街を走る前にナビを確認していた。もとよりアークエンジェルの行き先はわかっておらず、キラやカガリの連絡先はずっと前から不通なのだ。
ましてや逃亡者のラクスなど、これまで連絡先を教えてもらった事はない。
バルトフェルド、マリューと、知っている限りのアドレスはすぐに底をついてしまった。遠征中のキサカにも通信が繋がるはずがない。
(人付き合いが苦手だと、これだもの)
威勢のいい事を言って出てきたものの、早くも手詰まりだった。
アスランはふぅとため息をつき、交差点で車を止めた。
けれどこの時、幸運の女神が珍しく彼女に微笑んだ。
ちょうど信号待ちをしている時、この見知らぬ街角に知った顔がいたのだ。
アスランは信号が青になったにもかかわらず、彼女に声をかけた。
「ミリアリア!ミリアリア・ハウ!!」
実際にはミリアリアは、自分の名を呼ぶ声にではなく、騒がしいクラクションと怒鳴り声に「うるさいなぁ…何よ」とブツクサ言いながら眼を向けた。
そこに、オープンカーから身を乗り出している彼女がいたのだ。
「…アスラン・ザラ?」
ミリアリアは呆気にとられ、大渋滞を引き起こしているアスランを見つめた。
2人はオープン・カフェで向かい合った。
アスランが自分のいきさつをかいつまんで話すと、ミリアリアの表情は段々と呆れたようになる。
「それで…開戦からこっち、オーブには戻らずザフトに戻っちゃったってわけ?」
ミリアリアはコーヒーを飲みながら聞き返した。
「…簡単に言うと、そういうこと」
「ふーん。キラにもカガリにも、ラクスさんにも何も言わずに?」
「…オーブがあんな事になって…伝える機会を逸してしまって…」
まじまじと見つめるミリアリアから、アスランはつい眼を逸らす。
「伝えにくくて後回しにしてるうちに…って顔に書いてあるわよ」
「…そんな事は……あ、そうだ!」
図星を指されて気まずい思いのアスランが思いついたように言った。
「向こうでは、ディアッカにも会った…けど」
「えぇ?」
ミリアリアはその名を聞いて表情を歪ませた。
「連絡しても全然返事がないって言ってたわ」
「もうとっくに終わったんだもの」
ミリアリアがパタパタと手を振って言う。頻繁に送られてくるメールは、返事こそしないものの、1通も削除していないことは誰にも秘密だった。
「っていうか、始まってもいなかったのかもね」
軽く眉をひそめてそう言う彼女を見て、アスランは口をつぐんだ。
(これは…やっぱりイザークの意見が正しいのかしら)
ディアッカには彼女に会った事を連絡してやろうと思う。忘れなければ、だが。
「それはともかく」
とりあえずそれ以上ミリアリアの機嫌を損ねないよう話題を変える。
「アークエンジェルのことなの。あの艦がオーブを出たことは知ってたけど、一体何でまたこんなところで…」
そこまで言ってやや口ごもる。
暖かい春の昼下がり、街は人で溢れていた。そもそも何がどう機密に繋がるかもわからないので、こういったところで戦闘の事を民間人に話すのは気が引けた。
「あの…『介入』のおかげで…大分、その…」
「混乱した?」
ミリアリアが困っているアスランに助け舟を出した。
「知ってるわよ。全部見てたもの、私も」
そう言ってミリアリアが画像が映っている自分のタブレットを差し出した。
アスランはそれを手にとって見た。アークエンジェル、フリーダム…ハイネのグフや、そのグフがガイアに斬り裂かれた瞬間まで捉えられている。
しばらく画像を見ていたアスランが、彼女の腕を「見事ね」と褒めた。
「アークエンジェルを探して、どうするつもり?」
ミリアリアが彼女の本音を探るようにアスランの顔を覗き込む。
アスランは一瞬ためらったが、正直な気持ちを話した。
「…会って、話したい。キラとも、カガリとも」
「今はまた、ザフトのあなたが?」
アスランはそれを聞いて俯き、小さな声で言った。
「確かにそうだけど…でも…」
ミリアリアは(ちょっと意地悪しちゃったかな)と思って言った。
「いいわ。手がないわけじゃない。あなた個人になら繋いであげる」
ミリアリアはタブレットを受け取りながら言った。
「私も大分長いことオーブには戻ってないから、詳しいことはわからないけど、誰だってこんな事、ほんとは嫌なはずだものね」
「連絡とってみるね」と言ってくれた彼女に、アスランは礼を述べた。
そしてふと、向かい合う自分と彼女が加害者と被害者の関係であることを思う。
(あの時母を失った私は、彼女の大切な人を殺してしまった)
辛い記憶は消えないが、時は立ち止まることを許さない。
ミリアリアは暇な男たちが何人も声をかけてくるのを軽くあしらっては、「こんな美人が2人もいちゃ、放っておけないわよね」と朗らかに笑う。
そして自分が映した画像を見ては「相変わらずすごいわね、キラは」と感心している。
そんな彼女を見て、アスランはなんとなくシンを思い出した。
家族を殺され、2度とそんな思いをしないようにと力を求めた彼も、手に入れたその力で、今度は他の誰かを泣かせる側になるのだ。
それがどれほどの重さをもって自分の人生にのしかかるのか。
(シン…あなたにもいつか、わかるといいのだけれど)
アスランとミリアリアが久しぶりに会っていた頃、再び北の海に潜航したアークエンジェルでは、マリューとバルトフェルドが食事を摂っていた。
「でも、どうしたらいいのかしらね、これから」
「ん?」
マリューが頬杖をつきながら呟くと、バルトフェルドが聞き返した。
「オーブを討たせないためには、ミネルバへの攻撃は必要不可欠だったわ」
(かなり死傷者も出たでしょうし…その後は逆にオーブや地球軍の攻撃から庇ったことで、きっと混乱してるわよね、ミネルバは)
マリューの脳裏に理知的で聡明そうなタリア・グラディスの顔が浮かぶ。
「ま、先日の戦闘では、こちらの意志は示せたというところかな」
バルトフェルドはにやにやしながら答えた。
「で、今頃はどこも大騒ぎさ。あいつら一体、どっちの味方なんだ!ってね。何でも、白黒はっきりした方が楽だからな」
「確かに、そうよね」
「だがこれでまたザフトの目がこちらに向くことになる。そうなればラクスを殺そうとしたヤツも、当然この艦にあいつが乗っていると予想するだろうな」
食べ終わった器を置くと、バルトフェルドはくちくなった腹を撫でて言った。
「組織的に狙われるとなると、確かに厳しいな。色々と」
(いつもヘラヘラしているくせに、相変わらず状況分析は正確だこと)
かつて愛した人にしろ、自分の周りにはこういうタイプの男が集まる運命なのだろうかと余計な事を考え、それからふと、あの戦闘以降も変わらずに明るい表情を見せているカガリの事を思い出した。
(やっぱり男の子だから…よね)
心の中には当然、たくさんの悩みや葛藤や不安を抱えているはずなのに、自分で抱え込んでしまうところは、昔とちっとも変わっていない。
そのカガリはといえば、アークエンジェルに新たに作られた大浴場で足を伸ばしていた。こんなものがあるとは知らなかったから驚いたが、オーブは地熱エネルギーが豊かな火山国でもあるので、温泉文化が根付いている。クルーが少ないので、大抵は貸切状態で入れた。
カガリが眼を閉じて口まで浸かっていると、扉が開いた。
見ればそこにはラクスがいて、カガリは「げ」と声をあげた。
「野郎同士で入っても嬉しくないだろ」
「そう思ってキラも誘ったんだけど、冗談じゃないって怒られたよ」
「あたりまえだ」
呆れたように言った後、カガリは声をひそめて言った。
「…俺も昔は男と間違えたけどさ」
白く細いラクスの体には、点滴用のカテーテルがいくつか入っている。
カガリは防水処置を確認して問題なしと判断し、後で消毒をすると言った。
「最近、体は?」
「おかげさまで」
医療データはカガリもチェックしているが、確かにここのところ安定していた。
「きみこそ、どう?オーブの事」
「うーん…」
カガリは唸り、考え込んだ。
「本当にこれでよかったのかと思ってる」
撃墜されたモビルスーツを思い出すたび、自分のせいで故郷を離れ、遠い異国で命を散らさねばならなかった彼らの無念が伝わってきた。
「国に帰って、もう一度、ちゃんと首長たちとも話し合っ…ぶわっ!」
途端に、ラクスが指で作る水鉄砲を放ってカガリは水浸しになった。
「何するんだ、ラクス!やめろよ!」
「そんな暗い顔してちゃだめだよ」
ラクスはひとしきり攻撃を続け、カガリは乱暴に顔を手で拭った。
「彼らには、きっとカガリくんの言葉が残ってるはずだから」
ラクスが励ますと、カガリはため息をついた。
「けど…話を聞いてもらえないってのはこたえるな」
「それを言うなら、僕なんか何回無視されてることやら」
それから、ラクスはややまじめな顔をして言った。
「まず決める。 そしてやり通す」
「え?」
「それが、何かをなす時の唯一の方法だよ、きっと」
「…難しいな」
カガリは湯と汗で張り付いた前髪を手で掻き揚げながら言った。
「もし間違えたら、見誤ったら…そう思うと、簡単には決められない」
「だけど迷うのが一番いけないと思う。考えるのはいいし、間違うのも仕方がない時もあるよ。でも『迷い』は、皆を不安にさせ、混乱させる」
「ラクス…」
「とはいえ、幸いにも僕たちは運命共同体だ」
少し厳しい顔をしていたラクスが優しそうに笑った。
「皆で一緒に道を探すことができるからね。きみは一人ぼっちじゃないよ」
それを聞いたカガリは照れくさそうに笑い、「そうか」と言った。
思いがけない彼のその言葉が、今は何より心強かった。
「残念ながら、アスランだけは今ここにいないけど」
けれどほっとしたところでいきなりその名前を出され、「うっ」と詰まる。
「何せ出て行ったが最後、何があっても連絡してこないんだから」
ラクスは肩をすくめて苦笑した。
「昔から連絡不精の鉄砲玉だからね。困った子だよ」
「おまえなぁ…」
カガリはそう呟くと腕を振り、ラクスに思いっきり湯をかけた。
「先輩ヅラするな、この野郎!」
「探索任務!?…でありますか?」
シンはレイと共にアーサーから今回の指令を説明されていた。
「副長、ルナは?」
「ルナマリアは今、別の任務を遂行中だ」
あの後すぐ、アスランがFAITHとしての判断で離艦したと聞いて驚いたルナマリアは、血相を変えてやって来て、シンを叱り飛ばした。
「見なさいよ!シンがあんな意地悪なこと言うから!」
「ええ?だって…まさか、あんな事ぐらいで…」
彼女のその剣幕に思わずたじろいだシンが口の中でモゴモゴ言うと、「このまま帰って来なかったらどうするつもり!?」と脅すのだ。
(ちぇ。そんなヤワな奴じゃないだろ………多分…)
不満顔のシンに、アーサーがいつものように明るく言った。
「そうだ。これも司令部からの正式な命令なんだぞ」
「けど探索って…なんでこんな時に…」
シンのそれはとても上官に対する態度ではないが、アーサーはとっくに諦めているので、そのままデータを示して説明を続けた。
「これは地域住民からの情報だ」
レイが提出した画像が映し出され、シンは胡散臭そうにそれを見る。
「今は静かだそうだが、以前は車両や航空機、モビルスーツなども出入りしていた、かなりの規模の施設ということだ」
アーサーは続けて周辺地域の立体地図を映し出した。
「きみたちには明朝、そこの調査に行ってもらいたい」
「そんな仕事に俺たちを!?…でありますか?」
直接調査と聞いたシンは腕を解き、あからさまに不満をぶちまけた。
「俺たちはパイロットですよ?調査隊派遣の護衛ってんならともかく、なんで俺たちがじきじきに施設の調査までしなくちゃならないんです?」
それは尤もな意見なので、アーサーは困ったような顔をした。
(これだからなぁ、シンは…)
頭の回転が速く、荒っぽい口調の上に弁の立つシンにはいつも手を焼く。
(だけど今回は何としてもやってもらわなきゃならないぞ。うん!)
なぜならこれは、内密ながら議長じきじきの「ご指名」なのだ。
「納得できませんね。ちゃんと説明してください、副長」
「…いやぁ、だから、それはだな…」
きっぱりとした決意とは程遠く、しどろもどろのアーサーに不満をぶつけるシンを見て、レイがついに叱った。
「シン、いい加減にしろ。これも任務だ」
レイにピシッと言われると、さしものシンも黙り込む。
「そうだぞ。それに、そんな仕事とか言うなぁ?」
アーサーはここぞとばかりにレイの尻馬に乗っかった。
「もし武装勢力が立て籠もってでもいたらどうする?」
シンはその言葉に、(なるほど、その線もあるのか)と納得した。
「そういう任務なんだ。しっかりと頼むぞ」
「了解しました」
レイが敬礼したのでシンも続いたが、そこでもう一度「ん?」と首を傾げた。
「ちょっ、副長!それならやっぱ俺たちより特殊部隊や爆弾処…」
シンはすたこらと逃げ出したアーサーを追ったが、逃げ足だけは速い。
「くそ、逃げられた!」
「諦めろ、シン。これも任務だ」
レイに諭され、シンは腹立ちまぎれに机を軽く拳で殴った。
さて一方のルナマリアは「アスラン・ザラの尾行」という、こちらもまたシンが聞いたら「そんな仕事にルナを?」と言いそうな任務を拝命していた。
正直まさに「そんな仕事」は気乗りはしない。尾行も別に得意ではない。
(でもシンはどうせ『ルナはなんでも苦手だろ』って言うわね、きっと)
まさか自分がアスランを尾けることになるとは思わず、彼女が出て行った事で散々責めてしまったシンには「ちょっと悪かったかな」と思ったりした。
「だけどどうして今さらアスランを追わなければならないんですか?確かに、アークエンジェルやフリーダムとは因縁がある人ですけど…」
「だからよ」
タリアは親指を噛みながら言った。
「アスランを疑ってるわけじゃないけど、あの艦とフリーダムの行動は意図が読めないし、今後も絡んでくるとなると厄介で危険な相手だわ」
「だからなるべく情報収集しておきたいだけなの…とかなんとか言っちゃって」
ルナマリアはホテルの一室にいるアスランを見ながら呟いた。
(絶対疑ってるわよねぇ、艦長ったら)
アスランは手持ち無沙汰のようで、ソファに座って肘をついている。
街で知り合いらしい女の人と会って以来、ずっと部屋にこもっていた。
「あらっ?」
ルナマリアは電子双眼鏡で彼女を覗くうち、ある事に気づいた。
(アスラン…あの指輪、してる…)
アスランの左の薬指には、指輪が光っていた。
ミリアリアは、この田舎町でレーザー通信ができる場所を探していた。
先だって写真を送った返事の時、キラからターミナルのキーを聞いている。
初めての試みだが、きちんと通信を送れば繋がるはずだった。
雨の中、灯台を訪ねたミリアリアは、そこでやや旧式の通信機を借りることができた。
「ありがとう!」
親切な灯台守にお礼を言い、ミリアリアは上着を頭からかぶって春の気配がする暖かい雨を避け、港へと駆け出した。
「艦長」
のんびりと虎ブレンドのコーヒーを飲んでいたチャンドラが、ターミナルからの通信を捉えてマリューを呼んだ。 談笑していたマリューやノイマン、バルトフェルドも振り返る。マリューは覗き込んで「あら」と言った。
「通信です。このキーは…」
「キラさんたちを呼んで」
ダーダネルスで天使を見ました。また会いたい。
赤の姫も王子を探しています。どうか連絡を。 ミリアリア
「ミリアリアさん?」
マリューが懐かしそうにその名を呼んだ。
「赤の姫…へぇ、これはレアだよ、カガリくん」
「…アスランか?」
ラクスが言うと、カガリの顔がぱっと明るくなる。
「ターミナルから回されてきたものなんでしょ?」
マリューが聞くと、チャンドラがそうですと答えた。
幾重にもかけられたトラップといい、慎重なターミナルらしい仕事だ。
「ダーダネルスで天使を見たって…じゃあミリアリアさんもあそこに?」
「彼女、今はフリーの報道カメラマンですからね」
ノイマンが「あそこに来ていたとしても不思議はないです」と言った。
「それにしても随分危険だな。陽電子砲が放たれてたら汚染もあるのに」
皆がざわめく中、カガリだけは密かに「アスランが自分を探している」という事実に胸を高鳴らせていた。そして思わずキラを振り返る。
「アスランだ、アスランが戻ってきてるんだ、キラ」
けれどカガリが弾む声で言っても、キラはやや浮かない顔をしている。
「プラントから…ということか?さて、どうする?キラ?」
バルトフェルドの言葉にカガリは少し驚き、キラの表情にも気づいた。
「誰かに仕掛けられたにしちゃ、なかなかしゃれた電文だがな」
「でも、ミリアリアさんの存在なんて…」
マリューが抗議する。
心根の優しい彼女にとって、どんな形でも昔の仲間を疑うのは気が引けた。
「確か、彼女自身は知っているはずですがね。この艦への連絡方法は」
するとノイマンがマリューをフォローし、キラに言った。
「キーを教えたんだろ、ヤマト」
「はい…って、なんで知ってるんです?」
「こいつ、あの娘のことやけに詳しいんだよね」
チャンドラがニヤニヤしたが、ノイマンは素知らぬ顔だ。
「会いましょう」
キラはしばらく考え込んだが、やがて言った。
「アスランが戻ったのなら、プラントのことも色々とわかるでしょう」
それを聞いてカガリがほっとした顔になる。
「でも、アークエンジェルは動かないでください。私が一人で行きます」
キラのその言葉に、全員がえっ!?と思わず声をあげた。
「大丈夫。心配しないで」
「ちょ…ちょっと待て!」
しかしカガリが焦ったように口を挟んだ。
「俺は一緒に行くぞ」
「え?」
キラがきょとんとすると、彼は少しだけ赤くなった。
言葉より先に飛び出してしまった気持ちを引っ込めるのは難儀だった。
「あ、いや、あの…でも…」
「いいよ。じゃ、私とカガリで」
キラはそんな素直なカガリを見て、にっこり笑った。
ターミナルを介してミリアリアと何度かやり取りを繰り返し、日時が決まると、カガリはまたフリーダムのコックピットに挟まった。
「戦闘はなしだぞ」と釘を刺され、キラも「しないってば」と答える。
北欧からエーゲ海の長旅も、フリーダムが全力で飛ばせば大してかからない。
とはいえナチュラルを乗せて全力飛行というわけにはいかないので、キラはカガリに負担がかからないよう休憩を取りつつ、安全第一で飛行を続けた。
丸一日を費やして夕暮れのタルキウスに到着すると、キラは近くの崖にフリーダムを隠し、カガリと共にミリアリアとの約束の場所に向かった。
ミリアリアは愛車の中で待っていたが、2人を見つけると駆け寄ってきた。
「キラ!」
「ミリアリア!」
2人は駆け寄って両手を結び合い、ひとしきり再会を喜び合った。
「もう、ほんとに信じられなかったわよ、フリーダムを見た時は!」
「ごめん、心配させて」
オーブでは日々の公務で忙しかったカガリも久しぶりに彼女に会う。
「あら、アスハ代表。こんなところにお忍びですか?」
「元気そうだな。ディアッカとは…」
そう言いかけた途端、「あー、それは聞かないで!」と拒否された。
ミリアリアは相変わらずくるくると変わる表情で明るく話し続けた。
「大体、結婚するなら公式カメラマンに指名してもらわなくっちゃ!」
ミリアリアがくすくす笑いながらカガリを見て言う。
「で、一体どうしたっていうの?結婚式がいきなり離婚式?」
「いやぁ、その話は…あの…」
「ええ?ちゃんと答えてください、代表!」
カガリはなんとかごまかそうとしたのだが、しまいには降参し、「頼む、聞かないでくれ。思い出したくもないんだよ」と頭を下げた。
「しょうがないわね」
「それより、アスランは?どこにいる?」
カガリがきょろきょろして彼女を探す。
「あ…ごめん…」
ミリアリアがそれを聞いて少し声をひそめた。
「用心して通信には書けなかったんだけど…彼女、ザフトに戻ってるわよ」
「ザフトに!?」
「アスランが!?」
2人は同時に驚き、そして顔を見合わせた。
その時、上空にエンジン音が近づき、強い風が沸き起こった。
カガリが吹き上がる砂利からキラやミリアリアを庇い、キラはカガリの向こうに見覚えのある赤い機体…ZGMF-X23Sセイバーが降り立つのを見た。
「あの機体…」
キラが呟くのを聞いたカガリも振り向き、それを見て絶句した。
(アスラン…本当にザフトに戻ったのか)
キラはラダーで降りてきたアスランを見つめていた。
ミリアリアは少し後ろに下がり、彼らの再会を見守っている。
「キラ…カガリ…」
「アスラン」
キラは少しだけ微笑んだが、アスランはうまく笑えなかった。
カガリもまた、黙ってアスランを見つめていた。
怪我はしてはいない。様子も特に変わっていないようだ。
「どうしたんだ、アスラン。おまえ…」
やがてカガリはアスランに近づいたが、アスランはうつむき加減に眼を逸らす。
「心配してたんだぞ。おまえときたら行ったきりで連絡一つよこさないし」
カガリはそう言ってから、少し困ったように言葉を濁した。
「まぁ…あんなことになって、俺も連絡は取れなかったけど」
だがアスランは相変わらず何も答えない。
何より、眼の前の自分を見ようとしない。
カガリは明らかに前とは違う彼女に、怪訝そうな表情を見せた。
「どういうこと?アスラン」
沈黙が続く中、キラが口火を切った。
「ザフトに戻ったというのは、本当?一体どうして?」
キラの質問に、アスランがようやく口を開いた。
「その方がいいと思ったから…あの時は。自分の為にも、オーブの為にも」
「オーブの…?」
キラもカガリも一瞬ちらりと互いを見合った。
アスランがまた黙ったので、キラはその後ろに立つセイバーを見上げた。
「あれは、あなたの機体?」
キラは、自分が上空から降下してきたこの機体を見上げた時、背後で新型のグフがガイアに斬られた事を思い出した。
「じゃ、この間の戦闘…」
「ええ、私もいたわ。今、ミネルバに乗ってるから」
2人はタンホイザーが破壊され、派手に爆発した艦を思い出した。
カガリに至っては、一時的とはいえ命を預けた艦だ。
(なら、今はオーブを憎むあいつと…シンと一緒にいるのか?)
カガリの胸に残る、言い知れぬ鋭い棘がチクリと痛んだ。
「あなたを見て、話そうとしたわ。でも通じなくて…」
アスランはやや苦しげな表情を見せ、それから声を荒げた。
「でも、なぜあんなことをしたの!?あんなバカなことを!」
「バカなこと…」
キラがその言葉を繰り返すと、アスランはさらに続けた。
「おかげで戦場は混乱し、あなたのせいでいらぬ犠牲も出たわ」
ミネルバのデッキに並べられた遺体を見て黙り込む者、すすり泣く者…アスランの心に、いなくなったハイネの笑顔と共に苦い思いが去来した。
「本当にあんな方法を取るしかなかったの?戦いを止めるために」
「…あの時、ザフトが戦おうとしていたのは、オーブだったから…」
キラは静かに答えた。
「私たちは、それをなんとしても止めたかった」
アスランはそのキラの言葉を心では理解する事はできた。
けれどそれを言葉にするには、彼女は理性が勝ち過ぎている。
「あそこであなたたちが出て、素直にオーブが撤退するとでも?」
「撤退できるはずないって事くらい、わかってたさ」
アスランはキラに代わって答えたカガリを見た。
首長服でもなく、軍服でもない私服のカガリを見るのは久々の気がした。
「なら!」
アスランは前に踏み出し、カガリの腕を掴んだ。
「あなたがしなきゃいけなかったのはそんなことじゃないでしょう?」
「…ああ…」
「戦場に出てあんな事を言う前に、オーブを同盟になんか参加させるべきじゃなかったんだわ」
「…それは!」
キラが思わず割って入ったが、カガリはキラを軽く手で制した。
「そうだ。俺には同盟を止められなかった。首長会を抑え切れなかったんだ」
「だったら!」
アスランは彼を見上げた。碧色の瞳と琥珀色の瞳が交錯した。
「何をしてるの、こんなところで…あなたにはオーブでやるべき事があるでしょう」
この時カガリは、自分の腕を強く握るアスランの左手の薬指に、自分が贈った指輪がはめられている事に気づいた。
「でも、それで…」
キラが言った。
「アスランが、今はまたザフト軍だっていうなら、これからどうするの?」
アスランはカガリの腕を離すと、キラの方を向き直った。
「私たちを探してたのはなぜ?」
「やめさせたいと思ったからよ、もうあんなことは」
アスランはずっと心にしまっていた思いのたけを吐き出した。
「ユニウスセブンのことは…わかってはいるけど…」
父の残した「負の遺産」が事件の発端だと思い出すとやるせない。
けれど、だからこそ戦おうと決めたのだ。アスランは2人を見つめた。
「その後の混乱はどう見たって連合が悪いわ。それでもプラントは、こんな馬鹿なことは一日でも早く終わらせようと頑張ってる。なのにあなたたちはただ状況を混乱させているだけよ」
「アスラン…」
カガリはあの時、何ひとつ心にある事を言い残すことなく去っていった彼女が、本当は何を考えていたのか初めて知った。
「終わらせるって…戦うことでか?おまえが、ザフトで?」
カガリの言葉に、アスランはふと辛そうな表情になった。
「…先に核攻撃を仕掛けたのは、地球軍よ」
アスランが答えた途端、2人ははっと互いを見詰め合った。
(この言葉…忘れもしないこの言葉は…)
2人は出会ったあの日を、互いに銃を向け合った日を思い出した。
しかし今回は2人きりではない。キラがそれを聞いて尋ねた。
「本当にそう?」
「えっ?」
思いもかけないキラの返答に、アスランは思わず聞き返してしまった。
「プラントは、本当にそう思ってるの?あのデュランダル議長って人…」
キラの言葉に議長への軽い敵意を感じ、アスランは口をつぐんだ。
「戦争を早く終わらせて、平和な世界にしたいって?」
まるで、そんなの嘘っぱちだと言い出しそうなキラの口調に、アスランはなんとなくむっとした。自分の好きなもの、信じるものを否定された時に闇雲に攻撃的になる幼い子供のように、珍しく心がざわめいた。
「あなただって、議長のしていることは見てるでしょう。言葉だって聞いたでしょう。議長は、本当に…」
まくしたてるアスランのこうした様子には、キラよりむしろカガリの方が驚き、思わず聞き返した。
「おまえ、いつの間にそんなに議長を信頼するようになったんだ?」
「議長は立派な方よ。戦争の根幹を探り、真に平和を目指そうとしてる」
カガリは呆気に取られた。確かに、デュランダル議長は為政者として尊敬すべき部分は多いが、アスランがここまで彼を信じるなんて…
(一体何があったんだ?)
カガリはアスランが、議長に父の呪縛から解放してもらったことも、直々に最新鋭機セイバーを渡されたことも、いざとなれば我々を正し、何より自分の正義に従うようにという甘い言葉をもらったことも、それゆえに破格の扱いで復隊し、権限の強いFAITHであることも、何も知らない。
耳触りのよい言葉に絡め取られ、彼女はザフト復隊を選んだのだ。
キラもまた少し苛立ちを感じてアスランを見つめ返した。
「じゃ、あのラクス・クラインは?」
「…え?」
「今プラントにいる、あのラクスは何なの?」
(ミーア・キャンベル…)
こればかりはさすがにアスランにも明確には言い返せない。
「あれは…ラクスが…プラントに、戻るまでの…」
「あんなの、ラクスじゃない」
キラが吐き捨てるように言った。
「そして、何で本物のラクスは殺されそうになるの?」
(ええ!?)
キラの言葉を聞いて、レトロな通信手段で盗聴を続けていたルナマリアも思わず声をあげかけ、慌てて口を塞いだ。あの軽薄なラクス・クラインが偽者だったというだけでも驚きなのに、本物は暗殺されかけたという。話の雲行きが俄かに怪しくなってきた。
「殺されそうにって…なんなの、それは?」
事態が飲み込めないアスランは2人を交互に見た。
「オーブで、私たちはコーディネーターの特殊部隊と新型モビルスーツに襲撃された。主犯はラクスを狙う過激派だったけど、実行犯にはザフトも混ざっていた」
「そんな…」
「だから、私はまたフリーダムに乗ったんだ」
アスランは信じられないという顔をする。
「ラクスもみんなも、もう誰も死なせたくなかったから」
そしてキラはアスランに問いかけた。
「ラクスは誰に、どうして狙われなきゃならないの?」
「う…」
アスランは何も答えられない。
「それがはっきりしないうちは、私にはプラントも信じられない」
それはまるで、遠まわしに「だからプラントを守るアスランも信じられない」と言われているようで、アスランは軽く傷ついた。
「では、行くぞ!」
ようやく支給されたグゥルに乗り、レイが出発の合図を出した。
「りょーかーい」
全くやる気のないシンは、ルートから手筈まで全てレイに任せて出撃した。
場所はロドニアの山奥なので、海辺のタルキウスからはそれなりに距離がある。
「どうせなら輸送機かなんかで運んでくれりゃいいのに」
シンは操縦桿を握りながらまだブツブツ言っている。
(なんでわざわざインパルスで?)
アーサーは輸送機やヘリではなく、インパルスとザクファントムで行くようにと指示したのだが、これにまたもシンからのブーイングが返ってきた。
「もう使われてないって言ってたじゃないですか。敵なんかいないでしょ」
「いやぁ、だから…」
「それを俺たちが調査するんだろ、シン」
「ああ…じゃ、コアスプレンダーで…」
「いい加減にしろ」
レイにぴしゃりと言われ、シンはまたしても渋々従った。
「なぁ、レイ。ルナの奴、今頃何してるんだろうな」
「さぁ」
「おまえさ、アスランはホントにへそ曲げて出て行ったんだと思うか?」
「わからない」
シンは暇に任せてあれこれ話しかけたが、職務に忠実な優等生のレイは無駄話にはちっともつきあってくれない。シンは首を回してため息をついた。
(こういう任務はルナとの方が楽しいかもな…)
今、アスランたちの会話を一生懸命拾っているルナマリアが聞いたら小躍りして喜びそうな事を考えたものの、シンはすぐに考え直した。
(けど戦力としては全然アテにならないからなぁ、あいつは…)
そんな風に気を紛らわせているうちに、景色はすっかり山になり、やがてようやくデータで見たあの正門が見えてきた。
「あれだ」
2人は周囲を警戒しながらモビルスーツを降ろし、しばらくそのまま塀の中を探索した。外部に設置された電力盤はゆっくりと廻っており、何か大型のモーターもぶううんと音を立てて動いているようだ。
全体的に稼動しているようなのに、人の気配は全くない。
やがて2人はコックピットを降りた。
検知器のスイッチを入れたが、有毒ガスや有害物質の散布はないようだ。
「念のため、ヘルメットを持ってくか?」
「いや、とりあえずこのまま入り口まで行ってみよう」
ブツブツ言っていた割に、実際に不可解な状況を見たシンは冷静な判断を下したのだが、今回は全てをレイに任せてきた手前、彼の判断に従った。
2人は暮れ始めた初春の夕刻、銃を構え、警戒しながら建物の中に入った。
電気盤が動いていたのに電気はつかず、相変わらず人の気配はない。
けれど2人はすぐに異常に気づいた。
「ひどいな」
「ああ」
それは異臭だった。
蔓延している腐敗臭にえずきそうになり、シンはやっぱりヘルメットを持ってくるんだったと後悔した。
この臭いが何によるものか、彼らは既に理解している。
レイもシンも手袋をしている手で強く鼻を押さえて前進していった。
ロビー、何かの研究室、コンピュータールーム…人気のない部屋が続き、やがて2人は広い部屋に出た。
「何だよ、ここ」
シンは眼を凝らして見る。
そこには何本もの巨大なガラス製ビーカーが並んでいた。
「これ…何が入ってるんだろう?」
シンがよく見える眼で遠くを見ている時、レイはすぐ近くを見ていた。
そして突然息を呑み、怯えたような表情でガタガタと震え始めた。
「あ…あ…!」
さらに先に進んだシンが、巨大なプラントの中を覗き込んだその時、何かの拍子だったのか、中に入っているものがぬるりと滑って落ちた。
その真っ白な影に、一瞬シンは、(動物の標本かな)と思った。
しかしそれは、人らしき形をしていた。
「…っ!」
シンは驚いてやや体を硬くしたが、すぐに落ち着いて観察を開始した。
元々度胸が座っている彼は、ちょうど自分の目線に見えている白い部分が、全て人の足だと知った。そのいかにも不可解な状況にシンは顔をしかめる。
「…人間の、標本?」
シンはもっと奥に進もうとしたが、ふとレイの気配がない事に気づいた。
「ん?レイ?」
振り向くと、レイはまだ入り口付近にいた。
けれどどうも様子がおかしい。レイはしゃがみこみ、唸っていた。
「レイ!?」
慌てて駆け戻ったシンは膝をつき、レイを覗き込んだ。
彼の端正な顔はいつになく歪み、大きく見開かれた眼が血走っている。
「レイ!どうしたんだよ、レイ!」
シンは床に崩れ落ちたレイの背に、恐る恐る触れてみた。
ステラに触れたからだろうか。いつもなら感じる拒絶感はなかった。
レイはまだ苦しそうに呻き続けている。それを見てシンは決意した。
(大丈夫、これはレイだ。平気だろ…友達なんだから)
シンは一瞬ためらったが、思い切ってレイの背を抱いた。
「おい、レイ!」
シンはガタガタと震えるレイを抱きながら、あたりを見回していた。
奥へくるほど強くなる腐敗臭…不可解な人の標本…レイのこの異常…
(一体ここは…なんなんだ?)
PR
この記事にコメントする
制作裏話-PHASE24-
このPHASEはですね、本編で見た時、本当に本当にガッカリしたものです。PHASE25はさらにガッカリし、またしてもレビューの手が止まりそうでした(でも当時、レビューをやめたいと思った最大の危機は実はまだまだ先に待ち構えていました…)
何しろアスランが「帰れ帰れおまえらのやってる事は間違いだ何してるんだ」と怒り狂うわけです、一方的に。
アンチキラ&アスランスキーだった私でさえ、「ちょ、待てやアスラン!」と、「ヅラひっぺがして頭蓋骨ガタガタ言わすぞゴルァ」状態でした。このPHASEをいかに改変するかは、このPHASEが近づくにつれ何度も考え、考えすぎて気持ち悪くなったほどです。考え過ぎ。
まずは逆転ならではの改変です。
本編ではキラたちの介入でハイネが死んだことに苛立つシンが「バカじゃないの!」と「おまえはおばさんか」という捨て台詞を残しただけですが、逆転のシンはもちろん、おばさんでもおバカさんでもありません。アスランに対してなかなかのカミソリぶりです。そのくせ、ルナマリアに叱られてたじたじとなり、何気に気にしてしまいます。PHASE25でも気にします。ハイネの言ったことを誰の眼にも明らかにして、シンのちょっとひねくれたパーソナリティーを浮き彫りにしてみたのです。
そしてルナマリアがいい子です。ひたすらいい子です。こういう明るくて優しい子、大好きです。だってシンの事が大好きなのに、アスランのためにその大好きなシンをちゃんと叱れるんですよ。いいでしょう、こういう子。こんなヒロインだったら最高です。
尾行も頑張ってます。ルナマリアがミーアの正体を知った事は本編では何ひとつ生かされませんでしたが、逆転ではこれがシンの「重要な隠し球」になります。
さらにスコープを覗いているルナマリアがアスランが指輪をしていると気づくオマケまで生まれました。こういうのはまさに「キャラが勝手に動いた」結果ですね。だってマハムールのシャワーシーンを書いた時は、まさかここまで意図してませんでしたから。
アスランも本編とは違い、ハイネの言葉を理解し、シンを少しでも受け止めようとします。本編でもこういう描写があったらなぁ。
アスランがタリアに離艦を求める部分はほとんど変えていません。またその後、本編ではレイが艦長室を訪れるシーンしかありませんが、逆転ではロドニアのラボという地球軍の悪行をミネルバに暴かせるため、デュランダルが仕組んだとはっきりさせています。気持ち的にはロドニアに「叛乱の一石」を投じたのも議長だといいなーと思っています。
アスランとミリアリアの再会は、逆転では女同士なのでもう少し親しみのある会話にしました。本編ではニコルばかりが殺されまくり、全く触れられていない「アスランのトール殺し」ですが、逆転ではそこここで匂わせています。さらにPHASE17でのシンとの会話も絡めたので、主人公の面目躍如です。
そして、このPHASE最大の問題は天使湯です。
アスランとミリアリアが女子会なら、こっちは男子会。何しろすいてるのに野郎同士でわざわざ時間合わせて風呂入んねぇだろと。ホモかおまえらはと。
しかし逆転はあくまでも本編準拠。しかもここでは、本編では電波だった会話をなんとかまともに書き換えたい。
というわけで、めでたく野郎同士のバラ風呂となりました。
しかもカテーテルが入っているラクスは防水シールを貼っているので、医療技術者のカガリは彼の体をしっかり点検してから許可を出します。想像するとエロい。いや、想像しなくてよろしいのですが。
本編の「まず決める、そしてやり通す」というわけのわからない会話は、迷いまくって迷走するアスランにひっかけ、「迷うのはいけない」というリーダー論になります。
そして「皆一緒だから」と励まします。カガリは同じ道を行く仲間がいると思い出し、安心するのです。
ところが、その後ラクスはアスランがいかに鉄砲玉で連絡不精かを語って聞かせます。自分が知らない彼女の事を、元カレに語られて面白いはずがありませんよね。というわけで、カガリが反撃するというオチにしました。この時のラクスの本心は、PHASE26で明かされます。本編のスーパークールなラクス様とは違い、2人の事を応援してるんですよね、逆転のラクスは。
さて、物語は3人の再会へと向かいます。
やっと会えると少し嬉しそうなカガリの想いをあっさりと打ち砕くアスラン。本編でも思ったことですが、怒るにしても咎めるにしても、アスランはまず最初に色々あって行方不明だった「恋人の無事にほっとする」べきではないのかと。
逆転のカガリはバカではないので、アスランに叱られても本編のカガリほどは揺らぎませんが、それでもアスランの豹変と議長信者ぶりには呆気にとられます。
ここは本編のカガリのセリフをキラに、本編のキラのセリフをカガリに移したりと、少し手を加えています。ここでもオマケとして、種でのアスランとカガリの出会いを生かせるセリフが生まれ出ました。
そしてロドニアのラボです。
主人公なのにほとんど出番のないシンには、当然ながらしっかり頑張ってもらいました。アーサーに反抗したり、レイに諌められたりしながら探索任務に出ます。ぶつぶつ言っても、施設の様子を目の当たりにしたら、「ヘルメットを持って行ったほうがいいかも」と思うなど、シンの危機管理のよさも表現してみました。アーサーも頭が廻って弁が立つと言ってますし、しかもシンは度胸も据わっています。
実はシンって何かに動じたりするシーンがほとんどなかったんですよね、本編でも。まぁ「キャラクターとして大切にされてないから」というのもあるかもしれませんが、死刑前提で捕えられたりアスランにいきなり殴られても、怒りはしたけどさほど動じなかったでしょう。ああいうの、長所として伸ばしてあげたかったんですよね。虫とかカエルとか肝試しとか、何されても全然ビビらないタイプですね、きっと。
だから腐敗臭にはさすがに辟易しつつも、人の標本などヤバげなものを見ても冷静に観察できるのです。格好よく書こうと思えば書けるのです。制作陣は「シンにはキラやアスランほどの愛情が持てず、格好よく書かなかった」といい加減認めてください。愛がない事はバレバレですよ!あんたら完全に「主人公ネグレクト」ですよ!
ミリアリアとカガリの会話も楽しかったです。
ミリアリアとディアッカは、私にとって本当に動かしやすいキャラクターなんですよね。2人とも潤滑油的存在だからでしょうね。
カガリもミリアリアも、お互いに「それは聞かないで」と言い合うなど、とても仲がいい事を示しました。実際、彼女がアークエンジェルに乗ってからもとても仲良しですしね。ミリアリアは医療技術についてはカガリの弟子でもありますし、ナチュラル同士だし、同い年だし、お互いさばさばした性格だし、気が置けない仲なんですね。本編では女の子同志なのにほとんど会話しないのが不満だったので、ここはばっちり改変できて満足です。
ラストは、シンが本当に人と触れ合う事への拒否感を完全に克服するシーンにしました。
はい、それではここで重要な制作裏話です。
ここまで書いてきて、実は「本編のシンがステラ以外に自分から人と触れ合うシーンが出たら、すぐに改変しなきゃ」とずーっと注意していたのですが、なんと!本当になかったんですよ、自分から触れ合うシーン。
ヴィーノに抱きつかれたり、ガルナハンで抱えられたりする事はありましたが、何よりシンが「自分から」人に触れたのは、ステラ以外では本当にこのPHASEのレイだけでした。おかげで「大丈夫、レイは友達だ」というセリフが生き、レイに触れてもなんでもない、という表現ができました。やったー!
正直、シンのPTSD後のストレス障害は綱渡りの創作設定でしたが、助かりました。
それとももしかしたら本編で見た時に「シンってキラと違ってあんまり人と触れ合わないな…」と焼きついていたからこそかな?キラはPHASE1のカガリの手を引くシーンに始まり、マリューさんの胸に飛び込んだり、フレイ、ラクスと救命ポッドから出てきた彼女たちを…あれ?あいつ、こうして思い出すと女の子に触れてばっかりじゃね?ヤローに自分から触れたのは…もしかしてサイの腕ねじった時?(やはりゲス野郎だキラ・ヤマト)
次回は3巨頭決裂とラボ探索、それにシンがステラと再会します。
怒鳴りつけるおっかないアスランにはカガリ同様私も(ひ~)と思ってましたが、正直、キラはビビってなくて格好良かった。言ってる事はめちゃくちゃだったが、言い返すのが格好良かった。「うん、知ってる」には拍子抜けしたが格好良かった。
やっぱり制作陣にとってはキラきゅんこそが主役なんですねっ!ふん!
何しろアスランが「帰れ帰れおまえらのやってる事は間違いだ何してるんだ」と怒り狂うわけです、一方的に。
アンチキラ&アスランスキーだった私でさえ、「ちょ、待てやアスラン!」と、「ヅラひっぺがして頭蓋骨ガタガタ言わすぞゴルァ」状態でした。このPHASEをいかに改変するかは、このPHASEが近づくにつれ何度も考え、考えすぎて気持ち悪くなったほどです。考え過ぎ。
まずは逆転ならではの改変です。
本編ではキラたちの介入でハイネが死んだことに苛立つシンが「バカじゃないの!」と「おまえはおばさんか」という捨て台詞を残しただけですが、逆転のシンはもちろん、おばさんでもおバカさんでもありません。アスランに対してなかなかのカミソリぶりです。そのくせ、ルナマリアに叱られてたじたじとなり、何気に気にしてしまいます。PHASE25でも気にします。ハイネの言ったことを誰の眼にも明らかにして、シンのちょっとひねくれたパーソナリティーを浮き彫りにしてみたのです。
そしてルナマリアがいい子です。ひたすらいい子です。こういう明るくて優しい子、大好きです。だってシンの事が大好きなのに、アスランのためにその大好きなシンをちゃんと叱れるんですよ。いいでしょう、こういう子。こんなヒロインだったら最高です。
尾行も頑張ってます。ルナマリアがミーアの正体を知った事は本編では何ひとつ生かされませんでしたが、逆転ではこれがシンの「重要な隠し球」になります。
さらにスコープを覗いているルナマリアがアスランが指輪をしていると気づくオマケまで生まれました。こういうのはまさに「キャラが勝手に動いた」結果ですね。だってマハムールのシャワーシーンを書いた時は、まさかここまで意図してませんでしたから。
アスランも本編とは違い、ハイネの言葉を理解し、シンを少しでも受け止めようとします。本編でもこういう描写があったらなぁ。
アスランがタリアに離艦を求める部分はほとんど変えていません。またその後、本編ではレイが艦長室を訪れるシーンしかありませんが、逆転ではロドニアのラボという地球軍の悪行をミネルバに暴かせるため、デュランダルが仕組んだとはっきりさせています。気持ち的にはロドニアに「叛乱の一石」を投じたのも議長だといいなーと思っています。
アスランとミリアリアの再会は、逆転では女同士なのでもう少し親しみのある会話にしました。本編ではニコルばかりが殺されまくり、全く触れられていない「アスランのトール殺し」ですが、逆転ではそこここで匂わせています。さらにPHASE17でのシンとの会話も絡めたので、主人公の面目躍如です。
そして、このPHASE最大の問題は天使湯です。
アスランとミリアリアが女子会なら、こっちは男子会。何しろすいてるのに野郎同士でわざわざ時間合わせて風呂入んねぇだろと。ホモかおまえらはと。
しかし逆転はあくまでも本編準拠。しかもここでは、本編では電波だった会話をなんとかまともに書き換えたい。
というわけで、めでたく野郎同士のバラ風呂となりました。
しかもカテーテルが入っているラクスは防水シールを貼っているので、医療技術者のカガリは彼の体をしっかり点検してから許可を出します。想像するとエロい。いや、想像しなくてよろしいのですが。
本編の「まず決める、そしてやり通す」というわけのわからない会話は、迷いまくって迷走するアスランにひっかけ、「迷うのはいけない」というリーダー論になります。
そして「皆一緒だから」と励まします。カガリは同じ道を行く仲間がいると思い出し、安心するのです。
ところが、その後ラクスはアスランがいかに鉄砲玉で連絡不精かを語って聞かせます。自分が知らない彼女の事を、元カレに語られて面白いはずがありませんよね。というわけで、カガリが反撃するというオチにしました。この時のラクスの本心は、PHASE26で明かされます。本編のスーパークールなラクス様とは違い、2人の事を応援してるんですよね、逆転のラクスは。
さて、物語は3人の再会へと向かいます。
やっと会えると少し嬉しそうなカガリの想いをあっさりと打ち砕くアスラン。本編でも思ったことですが、怒るにしても咎めるにしても、アスランはまず最初に色々あって行方不明だった「恋人の無事にほっとする」べきではないのかと。
逆転のカガリはバカではないので、アスランに叱られても本編のカガリほどは揺らぎませんが、それでもアスランの豹変と議長信者ぶりには呆気にとられます。
ここは本編のカガリのセリフをキラに、本編のキラのセリフをカガリに移したりと、少し手を加えています。ここでもオマケとして、種でのアスランとカガリの出会いを生かせるセリフが生まれ出ました。
そしてロドニアのラボです。
主人公なのにほとんど出番のないシンには、当然ながらしっかり頑張ってもらいました。アーサーに反抗したり、レイに諌められたりしながら探索任務に出ます。ぶつぶつ言っても、施設の様子を目の当たりにしたら、「ヘルメットを持って行ったほうがいいかも」と思うなど、シンの危機管理のよさも表現してみました。アーサーも頭が廻って弁が立つと言ってますし、しかもシンは度胸も据わっています。
実はシンって何かに動じたりするシーンがほとんどなかったんですよね、本編でも。まぁ「キャラクターとして大切にされてないから」というのもあるかもしれませんが、死刑前提で捕えられたりアスランにいきなり殴られても、怒りはしたけどさほど動じなかったでしょう。ああいうの、長所として伸ばしてあげたかったんですよね。虫とかカエルとか肝試しとか、何されても全然ビビらないタイプですね、きっと。
だから腐敗臭にはさすがに辟易しつつも、人の標本などヤバげなものを見ても冷静に観察できるのです。格好よく書こうと思えば書けるのです。制作陣は「シンにはキラやアスランほどの愛情が持てず、格好よく書かなかった」といい加減認めてください。愛がない事はバレバレですよ!あんたら完全に「主人公ネグレクト」ですよ!
ミリアリアとカガリの会話も楽しかったです。
ミリアリアとディアッカは、私にとって本当に動かしやすいキャラクターなんですよね。2人とも潤滑油的存在だからでしょうね。
カガリもミリアリアも、お互いに「それは聞かないで」と言い合うなど、とても仲がいい事を示しました。実際、彼女がアークエンジェルに乗ってからもとても仲良しですしね。ミリアリアは医療技術についてはカガリの弟子でもありますし、ナチュラル同士だし、同い年だし、お互いさばさばした性格だし、気が置けない仲なんですね。本編では女の子同志なのにほとんど会話しないのが不満だったので、ここはばっちり改変できて満足です。
ラストは、シンが本当に人と触れ合う事への拒否感を完全に克服するシーンにしました。
はい、それではここで重要な制作裏話です。
ここまで書いてきて、実は「本編のシンがステラ以外に自分から人と触れ合うシーンが出たら、すぐに改変しなきゃ」とずーっと注意していたのですが、なんと!本当になかったんですよ、自分から触れ合うシーン。
ヴィーノに抱きつかれたり、ガルナハンで抱えられたりする事はありましたが、何よりシンが「自分から」人に触れたのは、ステラ以外では本当にこのPHASEのレイだけでした。おかげで「大丈夫、レイは友達だ」というセリフが生き、レイに触れてもなんでもない、という表現ができました。やったー!
正直、シンのPTSD後のストレス障害は綱渡りの創作設定でしたが、助かりました。
それとももしかしたら本編で見た時に「シンってキラと違ってあんまり人と触れ合わないな…」と焼きついていたからこそかな?キラはPHASE1のカガリの手を引くシーンに始まり、マリューさんの胸に飛び込んだり、フレイ、ラクスと救命ポッドから出てきた彼女たちを…あれ?あいつ、こうして思い出すと女の子に触れてばっかりじゃね?ヤローに自分から触れたのは…もしかしてサイの腕ねじった時?(やはりゲス野郎だキラ・ヤマト)
次回は3巨頭決裂とラボ探索、それにシンがステラと再会します。
怒鳴りつけるおっかないアスランにはカガリ同様私も(ひ~)と思ってましたが、正直、キラはビビってなくて格好良かった。言ってる事はめちゃくちゃだったが、言い返すのが格好良かった。「うん、知ってる」には拍子抜けしたが格好良かった。
やっぱり制作陣にとってはキラきゅんこそが主役なんですねっ!ふん!
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
ブログ内検索