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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「立てるか?」
シンはレイに肩を貸し、立ち上がった。
レイは返事もせず、荒い息を続けている。
過呼吸なのか、本当に苦しいのか、シンには判断ができない。
レイに肩を貸しながら、シンは今来た道を入り口まで戻り始めた。
自分が人に触れる事を苦手としていることなど、もう完全に忘れていた。
建物から少し離れた場所にレイを座らせると、シンは心配そうに覗き込んだ。
レイは建物の中よりは落ち着いたようだが、青い顔をして眼を閉じたまま、返事もできない様子だった。シンは何度も「大丈夫か?」と声をかけた。
「ミネルバに連絡してくる。水も持ってくるから、待ってろ」
やがてシンは足早にインパルスに戻った。
そしてコックピットに上がるとチャンネルを開き、救難信号を打電した。

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(ラクスが…殺されそうになった?)
アスランはその情報に混乱し、議長とミーアの事を思い浮かべた。
(だが仕方ない。彼の力は大きいのだ。私のなどより、遥かにね)
(だから、今だけでもいいんだ、僕は。今いらっしゃらないラクス様の代わりに、議長や、みんなのための手伝いができたらそれだけで嬉しいよ)
(それには彼の力が必要なのだよ)
(本当に、彼がプラントに戻ってくれればと、私もずっと探しているのだがね)
デュランダルもミーアも本物のラクスが戻るのが一番だと言っていた。
確かに議長の言う通り、「悲劇の英雄ラクス・クライン」の力は絶大で、本物のラクスとは程遠いミーアも今やプラントの「平和の象徴」となっている。
(…でも、もし議長が本物のラクス・クラインを邪魔に思っていたら?)
そう思えば確かに、キラが疑うのは無理もない。
それによって議長にはラクスを殺す「動機」が生まれてしまうのだ。
「偽物」を「本物」に成り代わらせるという動機が。
議長が自分にアークエンジェルの行方を知らないかと言ったのも、それが…ラクス・クラインを探し出し、「殺す」ことが目的だったら?
もし自分があの時、「知っている」と答えたらどうなっていたのだろう?

「アスラン?」
黙り込み、考え込んでしまったアスランにカガリが声をかけた。
アスランは戸惑いながらも答えた。
「それは…ラクスが狙われたというなら、それは確かに、本当にとんでもないことだけど…」
心のどこかで否定したがっている自分がいる。
何かの間違いだと。ラクスは元々敵が多いのだからと。
「だからって議長が信じられない、プラントも信じられないというのは…ちょっと早計過ぎるんじゃない?キラ」
議長を知るアスランしか知らない状況証拠がいくつかあり、キラたちが仮定する動機に辿り着きながらも、アスランは自分の推理を否定した。
しかしキラの不審そうな表情を見たアスランは慌てて言葉を続けた。
「プラントにだって色々な想いの人間がいるわ。ユニウスセブンの犯人たちのように…父の執った道に惑わされた連中だっているんだし」
アスランはむしろ、自分の中でそうやって懸命に理由づけていた。
戦争の発端となったあの事件が父に絡むものなら、議長は無関係だと。自分の思想にどこか歪んだものを感じながら、引っ込みがつかなくなっている。
彼女の碧い瞳は眼の前の友から、大切な人からどんどん逸らされていった。
「その…ラクスの襲撃のことだって、議長のご存じのない、ごく一部の人間が勝手にやったことかもしれない」
「アスラン…!」
キラは抗議するように口を挟んだが、アスランはその先を言わせまいと言葉を接いだ。
「そんなことくらい、わからないあなたじゃないでしょ?」
「それは…そうだけど…」
キラは軽いショックを受けていた。
あの時自分を訪ねて来たアスランは、プレス発表の資料を見せてくれた。
「生産量の少ないジン・ハイマニューバ2型はもちろん、戦闘とは無縁の推進装置のフレアモーターを手に入れるなんて、たとえ軍関係者でも難しいわ」
そんな事をするには、ザフトに対して相当の力を持たなければ無理だろうと彼女は言った。
(その可能性が最も高いのは誰か、アスランは考えた事はないの?)
堅過ぎるほど冷静で理論的な彼女が、どうしてそんな風に自分に都合よく考えるのかわからない。キラは不安になり、思わずカガリを見てしまった。
カガリもまた戸惑うような表情でキラを見た。
「ともかく、その件は私も艦に戻ったら調べてみるから」
アスランは言った。
彼女の言う「艦」がアークエンジェルではなくミネルバである事を悟り、カガリの心がズキンと痛んだ。
「だからあなたたちは、今はオーブへ戻るべきよ!」
相変わらず強い口調で叱りつけるように言うアスランに、キラは憤慨し、思わず口を開きかけた。けれどすぐに考え直してそのまま黙りこむ。
(今は…カガリの前では言えない)
カガリはといえば、どこか苦しげな表情でアスランを見つめ続けていた。
「戦闘を止めたい、オーブを戦わせたくないと言うのなら、まず連合との条約からなんとかしなければ。戦場に出てからじゃ遅いのよ」
アスランはもう一度カガリに向き直ると厳しい口調で言った。
「それは…わかってはいるけど…」
カガリは困ったように答え、それから思い切って核心を突いた。
彼の眼には別れたあの日、自分が彼女に贈った指輪が映っている。
「…なら、おまえは戻らないのか?アークエンジェルにも、オーブにも」
それを聞いて今度はルナマリアが息を呑んだ。
ここでもしアスランが帰ると言ったら、彼女とはここでお別れになる。
(アスラン…このまま行っちゃうの?私たちを置いて?)
自分でも思いがけない寂しさに襲われ、無性に「いやだ」と思った。
共に過ごした日々が蘇る。初めて出会った時、彼女に銃を向けたこと、彼女に指摘された射撃の癖、シャワーを浴びていた彼女の体の古傷…
(どうせ憎まれ口を利くだろうけど、シンもきっと、とても寂しがるわ)
自分でも驚くほど、ルナマリアの中で彼女は既に「仲間」になっていた。

「オーブが…」
呟くように言ったアスランの答えは、ルナマリアをほっとさせた。
「今まで通りの国であってくれさえすれば、行く道は同じはずよ」
「アスラン、俺は…」
カガリが何か言いかけたが、アスランはそれを遮るように言った。
「私は復隊したの…今さら、戻れないわ!!」
カガリは自分がよろけたのではないかと思った。
アスランの言葉を聞いた瞬間、ぐらりと景色が揺れたような気がしたのだ。
やがてキラがカガリの腕を軽く握ったので、はっと我に返った自分がいた。
小さなキラがカガリの前に出て、アスランを少し見上げる。
「でも、それじゃ、アスランはこれからもザフトで…またずっと連合と戦っていくっていうの?」
「…終わるまでは…仕方ないでしょう」

(ホント、わかんない)
3人の会話を聞いて、いきさつをよく知らないというハンデがあるにしても、ミリアリアにはアスランがザフトに戻った理由がいまひとつ理解できない。
そもそもザフトが脱走兵の彼女を受け入れた事も理解できない。
同じ脱走兵のディアッカは再入隊扱いで、「緑服もまぁまぁ格好いいだろ?」と笑ってたのに、察するにアスランはどうやら破格の待遇で複隊したようだ。
(ま、あいつとアスランじゃ雲泥なのかもしれないけど)
ミリアリアはそう思い直して慌ててディアッカの記憶を打ち消した。
(大体、ザフトに入る事がどうしてオーブのためになるの?)
オーブを…カガリを守りたいなら、オーブ軍に入ればいいのにと思う。
ミリアリアは打ち消したばかりの彼の事を再び思い出した。
(…プラントであいつと会ったって言ってたわね)
ミリアリアは一番直近の彼からのメールを思い出した。
もう一度話がしたいから、通話のID拒否を解除して欲しいと書いてあった。
(…ならきっと…アスランの状況もわかってるわよね、あいつ)
そして喧嘩別れした時の当惑したような、少し悲しそうな顔を思い出す。
おどけたような明るい声も、自分を見つめる時の嬉しそうな笑顔も…
(いやいやいやいや!)
ミリアリアは首を振ってその考えを打ち消した。
(何考えてんの、私…!)

ミリアリアが記憶の中のディアッカと格闘している間も、キラとアスランの深刻な会話は続いていた。
「じゃあ…この間みたいにオーブとも?」
「私だってできれば討ちたくはないわ。でもあれじゃ、戦うしかないじゃない」
アスランはカガリを見ずに言った。
こんな事を言いたくないと思っても、議長への不信を剥きだすキラへの憤慨や、言葉ではうまく伝えられない事に苛立ち、逆に言葉が止まらない。
「連合が今ここで何をしているか、あなたたちだって知ってるでしょう?それはやめさせなくちゃならないわ」 

そこまで聞いたキラはラクスの言葉を思い出した。
「これはまさに、ザフトによる『英雄戦争』だけど…」
彼は、今のザフトは「英雄」であり「解放者」であると分析していた。
そんな「英雄」にふさわしい「役割」を担って戦う兵士に、アスランもなっているのだ。彼女の戦いに対する口調はまさにそんな表れに思えた。
こうしたザフトの動きについて、ラクスが投げかけた疑問は尤もに思えた。
「ザフトは、連合の悪事を成敗することが目的の組織だったかという事だよ」

「だから、条約を早く何とかして、オーブを下がらせろと言ってるの!」
アスランの口調は相変わらずカガリを責め立てるように厳しかった。
さっきから取り付く島もない彼女に当惑し、カガリはついつい口ごもる。
「それは…」
「でも、アスラン」
カガリが何か言おうとするのを今度はキラが遮った。
(少しは俺に喋らせろ)と思ったが、カガリはとりあえずキラに譲る。
「それもわかってはいるけど、それでも私たちはオーブを討たせたくないんだ」
アスランは堂々巡りを続けるこの会話に苛立ちを隠せない。
口下手な自分には気持ちを伝えきれないと思うとますます拍車がかかる。
何より、彼らと戦わなければならいない状況になるのだけはいやだった。
自分が態度や立場を変える事はできないのだから…と自己弁護しながら。
「本当はオーブだけじゃない。戦って討たれて失ったものは、もう二度と戻らないから…」
キラのこの言葉が、苛立っていたアスランの心に怒りの炎をつけた。
爆破されたタンホイザーの巻き添えで死んだ兵、キラが直接手を下したわけではないが、その乱入で死んだに等しいハイネが心に浮かぶ。
(その力を手にしたその時から、今度は自分が誰かを泣かせる者となる)
シンに力を振るう事の意味を考えろと言った自分が、眼の前の友から…実際に力を振るったキラから諭されているように思え、無性に腹が立った。
いつもなら口に出す前に何度も考え、それゆえに想いを言葉にする事が苦手なアスランが、積もり積もった感情と共にキラに刃を突きつけた。
「自分だけわかったような綺麗事を言わないで!!」
その場の空気が瞬間的に凍った。
キラは眼を見開き、カガリも驚いてアスランを見つめる。
ミリアリアは思わず手を口に当て、ルナマリアもはっと息を呑んだ。
「あなたの手だって、既に何人もの命を奪ってるのよ!!」
「よせよ、アスラン!」
カガリが庇うようにキラの前に出ると言った。
その琥珀色の眼は戸惑いに加え、やや怒りを湛えていた。
「おまえ…ホントに、どうしたんだよ!?」
けれどカガリの向こう側にいるキラは、小さい声で呟いた。
「…うん…知ってる」
カガリとアスランは同時にキラを見た。
「知ってるよ。だからもう、ほんとに嫌なんだ、こんなことは」
(誰だってこんな事、ほんとは嫌なはずだものね。きっとキラだって…)
ミリアリアはキラがやはり戦いなど望んでいないと悟った。
(だけど、見過ごせないんだわ…道を誤って討たれるオーブのことが)
だからこそキラは、アスランの厳しい言葉にも折れないのだろう。
「討ちたくない。討たせないで」
アスランはそう言ったキラをじっと見つめた。
いつもの、優しくて、甘ったれで、泣きそうな顔だった。
「…なら、なおのことよ」
アスランはそのままくるりと背を向けた。
それ以上、キラの顔を、煙るような紫の瞳を見ていられなかった。
「あんなことはもうやめて、オーブへ戻って。いいわね?」
「あ…おい、アスラン!」
カガリが慌てて駆け寄ったが、アスランは立ち止まると背中で彼を拒絶した。
「理解はできても、納得できないこともあるわ…私にだって」
それを聞いて自分たちの間の深い溝を思い知ったカガリは何も言えない。
アスランはそのままラダーに掴まり、コックピットに消えた。
セイバーが発進し、再び激しい風が巻き起こる。
あとにはただ、気まずい沈黙だけが残った。
「アスラン」
カガリは消えていく赤い機体を見つめながら、もう一度彼女の名前を呟いた。
キラはため息をつき、ミリアリアもまた、2人を見比べて目を伏せた。

エマージェンシーを受けたのはメイリンだったが、レイが倒れたと聞いて悲鳴のような声で艦長を呼んだ。
タリアはとりあえず撮ったというシンからのデータを受け取ると、ただちにミネルバを緊急発進させた。さらに司令本部にも連絡を入れ、タルキウスではすぐに制圧部隊が組織されて、ディオキアからも特殊部隊と科学処理班、医療班が派遣されることが決まった。
「あいつら…大丈夫なのか?レイは…シンは?」
アーサーは自分の指令で2人が大変な事になったと知ってひどく動揺し、しまいには心配性のメイリンにすら「大丈夫ですよ」と慰められたほどだ。
「ほら、水だ」
シンは持ってきたボトルを渡した。
レイは真っ青な顔を上げ、それを受け取る。
ありがとうと言おうとするが、口の中がカラカラで言葉がうまく出ない。
シンは言葉の代わりに「気にするな」とサインを出すと、きょろきょろとあたりを見回した。
「一体ここは何なんだろうな?あの奥、きっと大変な事になってるぞ」
あの腐敗臭は尋常ではなかった。
じきに特殊部隊や処理班が組織され、ミネルバと共に到着するだろう。
シンたちの任務は、探索から部隊到着までの保安に切り替えられていた。
「メイリンのヤツも、おまえと同じくらい青い顔してたよ」
シンは卒倒しそうなメイリンまで心配しなければならなかったと苦笑した。
「俺、少し周りを見てくる。データも集めたいし…1人で平気か?」
「…ああ」
レイは手で頭を押さえて答えた。
決して大丈夫ではなさそうだが、ここならさっきのようにはならないようだ。
シンは内部には入らず、周辺をもう少し調べ始めた。

やがて到着したミネルバは、暗闇の中で待っていたシンとレイを保護した。 
「いや、ほんと、俺は別に、何ともないですから」
ミネルバの医務室であれこれ調べられ、その上さらに一日入院しろと言われたシンは軍医と押し問答を繰り返している。
「具合も悪くないのに入院なんていやですよ」
「そうは言ってもね、念のためだ」
上半身のパイロットスーツとシャツを脱いだシンの体を診ながら、医師が言う。
現段階では、建物や周辺からガスやウィルスの類は検知されていない。
しかしこういう施設では何があるかわからない。
「艦長も迂闊だよ。そんな場所へきみたちだけで行かせるなんて」
シンは元々この任務に気乗りしなかっただけに(確かに)と思ったが、 「ちゃんとチェックはしながら入りましたよ」と抗議した。
何より入院だの安静などという退屈は冗談ではなかった。

シンの元気な声を聞きながら、カーテンの向こうではレイが横になっていた。
身体的には特に異常はないと診断されたが、レイの不快感は拭いきれない。
(一体なんだったのだろう、あの感覚は)
閉じ込められた空間と、並んでいるプラント。化学薬品の香りと機械音。
暗く陰湿な室内が何かを思い出させた。おぞましく哀しい痛みと、屈辱を。
(だが、違う。あれは…俺の知っているあそこじゃない)
レイはゆっくりとベッドから起き上がった。
「あ、レイ」
シャッと音がしてレイが姿を現すと、シンは腰を浮かした。
「すみませんでした。もう大丈夫です。ありがとうございました」
「そうか?まだ休んでいてもいいんだぞ?」
「いえ、本当にもう大丈夫です」
そう言って医師に頭を下げ、レイはシンを見て微笑んだ。
血色もよくなり、いつものレイがそこにいたのでシンもほっとする。
「おまえ、心配させるなよ」
医務室を出ながら、シンは珍しくレイの肩に軽く手を置いた。
レイは一瞬驚いたようだったが、明るく笑うシンを見て何も言わなかった。
「俺たちにこんな任務をやらせてくれた副長さまを、ビビらせに行こうぜ」

シンとレイが医務室で検査を受けている間に、施設の調査は進んでいた。
時間は既に真夜中を廻り、まだ春浅い周囲はずいぶん冷え込んでいる。
「F2より各班、電力線の起爆スイッチ解除を確認」
「F5よりF1、2階クリア」
「F1、こちらF3。みんな腐っちまってる。酷い臭いだ」
外に設営された本部には、内部からの通信が逐一入っていた。
内部ではガスマスクをつけ、特殊スーツを着たものものしい部隊が調査を続けている。
ほとんど何の装備もなくシンとレイがこの中に入った事を思うと、タリアは自分の迂闊さを責められても仕方がないと思っていた。
「自爆装置は全て撤去。生物学的異常は認められません」
「そう、ありがとう」
タリアは内部の全てのチェックが終了したという報告を受けて言った。
「ということは、どういうことでしょうかねえ?そのレイの異常は」
診察が終わったシンに呼ばれ、散々責められてきたアーサーがいぶかしむ。
医師は特に異常はないと言っていたし、さっき会った時もいつも通りだった。
レイに聞いても「自分にもよくわからない」と言うだけだ。
「艦長、セイバーです」
気弱なメイリンはミネルバを降りるのをいやがったので、代わりに本部に詰めているバートがセイバーの着陸を伝えた。
上空から見たロドニアのラボは物々しい様相を呈していた。
強力なライトが煌々と輝き、闇の中に施設を浮かび上がらせている。
科学班や爆弾処理班が忙しく歩き回り、トラックやヘリがひしめいていた。
さらにインパルスとザクファントム、そしてすぐ近くにミネルバもいる。
(一体何があったんだろう)
アスランはラダーから降りると、すぐに艦長の元に向かった。
「港へ戻ったら発進したと聞いて…どうしたんです?何かあったんですか?」 

(何だよ、ちゃんと帰ってきてるじゃないか)
セイバーが降りてきたと聞いて真っ先に飛び出したシンは、本部に赤服のアスランがいるのを見つけ、心のどこかでほっと安堵していた。
「…わかりました。では…」
やがてアスランは足早に2人のところにやってきた。
「レイ、倒れたと聞いたけど…」
「もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「シンは?何ともないの?」
「別に異常ありません。ご心配、どうも」
心とは裏腹に素っ気無く答えると、アスランは安心したように微笑んだ。
「準備が整ったら私は艦長たちと中に入るけど、あなたはどうする?」
「俺も行きますよ。ここが何なのか知りたいですから」
シンは即答し、レイは当然ながら本部で待機することになった。

「うわぁ…」
アーサーが思わず声をあげる。
人が動き回ったせいで空気がかき回され、腐敗臭は施設全体に蔓延していた。
たんぱく質が腐った壮絶な悪臭…処理班が強力な消臭剤を散布し、シンたちも皆防臭マスクをつけてはいるが、それを通しても消せないひどい腐臭に、全員が眉をひそめた。
服にも髪にも鼻の奥にも臭いが染みつき、記憶に刻まれるに違いない悪臭に、彼らはこれからしばらく悩まされそうだった。
「自爆装置がセットされていましたが、ほぼすべて、解除されていました」
彼らを案内する調査員が乱暴にケーブルが切られたそれを指で示した。
「遺体は皆、制服や白衣を着ています。内部の者と考えるのが妥当でしょう」
「虐殺ですか?」
アスランが尋ねると、「一概にそうとも言えません」と言いながら調査員はある部屋を示した。そこは階段状になった部屋で、大人や子供、おびただしい遺体が折り重なっている。それは思った以上に凄まじい惨状だった。
「こういった光景があちこちで見られます。一方的な虐殺というより、むしろ内部抗争による殺し合いがあったと考えた方がいいかもしれません」
もちろん、詳しくは調査の結果を待たねばなりませんがと調査員は付け足した。
死後それなりに時間が経っているので、遺体の中には膨満しているものや腐敗疱が見えるものもあるが、身長や服装で大人と子供、男性と女性の区別ができる。しかし変色し、膨れた顔の子供は男女の区別がつかなかった。
壁や床に飛び散った血液も腐っており、科学班が薬剤を散布しているのに、あちこちで小さな白いウジが蠢いていて気持ちの悪い光景が広がる。
「うわぁぁ…!うぇっ…」
「大丈夫ですか、副長」
「…だ、だい…うえぇっ」
アーサーが派手にえずくのをアスランが気遣った。
転がっている銃やナイフが凶器だろうが、中には撲殺された者もいる。
(そこらにあるもので手当たり次第に殺しあったんだろう)
シンは真っ黒な血糊がついた分厚い本を見つけ、忌々しそうに蹴った。
「小さい子ばかりですね」
アスランが10歳くらいの子供の遺体の傍に跪いて言った。
何気なく見たその子がおさげ髪だったので、シンはギクリとした。
くしゃくしゃに乱れた栗毛の髪や華奢な体つきが、妹を思い出させた。
「そうね…大人より子供の方が多いし」
タリアは頷き、さらに奥へ足を進めたが、どの部屋もそんな光景が続く。
白衣の研究員が、十字架に磔になった昔の宗教家のように、棒で手足を壁に打ちつけられていたり、女性職員にナイフを突き立てた子供たちがマシンガンで撃たれて絶命している。
子供たちは皆、首に首輪のようなものをつけられ、中には椅子に縛られたまま餓死した悲惨な遺体もあった。
次の部屋にはシンたちが入り口付近で見た標本が入ったビーカーが並んでいた。
さっきは人体だったが、今度は胎児や臓器もあり、壁際のガラスケースには人の脳が保存され、整然と並んでいる。
「うわぁぁ!…ふう…。ん?うわぁぁぁぁ!!」
アーサーが何かを見つけては叫ぶたびに、タリアは(うるさいわね)と言いたい気持ちになったが、敢えて黙っていた。
(そうでもしなきゃ、まともに見ていられないかもしれないわ)
「これは、一体…何なんですかここは!」
うっかりすると机の影に遺体が転がっていたりするので、アーサーはもう部屋に入りたくないと降参し、入り口から中を覗き込んでいるだけだ。
「やっぱり、内乱…ということでしょうね…自爆しようとして」
タリアが答えたが、アーサーはまだ不満そうだ。
「でも…何でこんな子供が!?」
シンと共に、口から血を流して絶命した子供を覗き込んだアスランは2つの暗い眼窩からウジが這い出すのを見て、いたましげに眼を逸らした。
「施設の周囲にも、こんな風に死体が転がってました」
「…そう」
一通り見回ったシンの言葉に、アスランはため息と共に答えた。
カラスやネズミなどの獣にやられたのか、外の遺体は破損したり一部が持ち去られており、外気に晒されて早々に白骨化したものもあった。
次の部屋はだだっ広く、電気が通っていた。
処理班が自家発電機を持ち込み、部屋も煌々と電気がついている。
そこはコンピュータールームらしく、起動できるものを起動させて、あちこちで調査員がデータを調べ、ダウンロードしていた。
これまでの無残な部屋に比べ、生きている人間の気配があるこの部屋は、いくらか彼らをほっとさせた。

「この写真」
アスランはそのうちの1つのモニターを覗き込み、シンも続いた。
子供たちの写真の横には、名前、生年月日、性別、訓練課程が書いてある。
「射撃、暗号、踏破…やっぱり、軍の施設には間違いないみたいですね」
他にも狙撃や爆発物処理、格闘など、シンが続けて読み上げた訓練名は、アカデミーを卒業した2人にも馴染みのあるものばかりだった。
もちろん、この異常な施設で彼らに実際に施された訓練が「通常のもの」と同じだったのかどうかは怪しいが。
さらにその子供たちの写真の中には、アスランと因縁のある顔があった。
「そんなこと、僕は知らないね!やらなきゃやられる、そんだけだろうが!」
かつて、大義も名分もなく戦っている彼の言葉に、アスランは憤り、嫌悪感を感じた。
しかしアスランは知らなかった。
赤毛の彼が、戦場で言葉を交わした「クロト・ブエル」であることなど。

「64年7月、11廃棄処分3入所。8月、7廃棄処分5入所」
「何ですか、それは?」
別のモニターを覗き込んでいたタリアとアーサーも会話を交わしていた。
「被験体の…つまり子供の…その入室記録ってところかしらね」
「あ!いえぇぇッ!?」
「連合のエクステンデッド。あなただって聞いているでしょ?遺伝子操作を忌み嫌う連合…ブルーコスモスが、薬やその他の様々な手段を使って作り上げている生きた兵器。戦うためだけの人間…ここはその実験、製造施設ってことよ」
アーサーもシンもゾクリと肌があわ立つのを感じた。
「私たちコーディネイターに対抗できるようにと、肉体を改造強化され、ひたすら戦闘訓練だけを施されて、適応できない、またはついていけない者は容赦なく淘汰されていく」
廃棄、廃棄、廃棄…タリアは並ぶ写真を見続けた。
死んでしまったのか殺されてしまったのかもわからない。
この子たちは「死者」ではなく、「廃棄物」なのだ。
「ここは、そういう場所なんだわ」
アスランは思った以上に記録が古いことに驚いていた。
(大戦よりも前、10年近く前から、既にこんな事が行われていた)
戦後のザフトの調査で、連合が大戦末期に「ブーステッドマン」と呼ばれる薬漬けの強化兵士を戦場に投入していたらしい事がつきとめられていた。
「なにが自分たちは何もしない、自然なままの『ナチュラル』だっ!」
当時、一部の調査に当たったイザークが嫌悪感を滲ませていた事を覚えている。
さらにあの新型…オーブ戦から現れた彼らが、もしかしてそうだったのではないかとうすうす疑っていた。もちろん、もう確かめようもない事だが…と考えこんでいる彼女の前のモニターから、クロト・ブエルの画像が流れて消えた。
「子供たちは…どこから…?」
やがて沈黙を破ったシンが尋ねると、タリアは少し考えてから答えた。
「戦争孤児、望まれずに生まれた子、捨てられた子、売られた子、拉致…そんなところでしょうね、きっと」
シンは再び口をつぐんだ。
今まで見てきた遺体の中にマユが、コニールが、自分がいたような気がした。

アークエンジェルとフリーダムの乱入というイレギュラーがあったにせよ、結果的にミネルバの防衛成功によってエーゲ海沿岸まで下がらされた地球軍とオーブ艦隊は、夜を徹しての突貫工事の補給と修理に忙しかった。
修理の進捗報告を受けるネオの腕には、ご機嫌のステラがぶら下がっている。
「まさかこちらも3機が3機ともやられるとは思ってなかったからな」
「でもそれをスエズにも戻らずにここでというのは、正直きついですよ」
整備兵に愚痴を言われ、ネオもうーんと頭をかく。
「わかっちゃいるがね。だがしょうがない。完膚無きまでにやられたっていうんなら、戻ってもまだ言い訳が立つが」
ネオはぽんとステラの頭を叩く。
「ステラたちはまだ元気だもんな」
「うん!」
ステラは嬉しそうに頷いた。
オーブ艦隊も補給と修理に大わらわだった。
突然現れたカガリの言葉は波紋を呼んでおり、「あれは偽者」と言い張るユウナは彼の名を口に出す事を禁じたが、人の口に戸は立てられない。
ことにフリーダムに斬られたパイロットは全員生還を果たしているので、あれを命じたのはまぎれもなく若様に違いないという確信が生まれた。
それは理不尽な戦いに疑問を持つ彼らに、微かな希望を運んできた。
打ち砕かれる事がわかっていたとしても、彼らには今、希望が必要だった。
(きっと届いたよ、彼らには。きみの声と、想いがね)
あれほど待ち望んだアスランとの再会が失意のものとなり、キラとミリアリアが心配するほどへこんだ様子のカガリが知ったら、少しは元気になっただろう。
その時、慌てて走ってきた兵がいた。
「ロアノーク大佐!」
ネオがただならぬ気配を感じ、どうしたと聞く。
「ロドニアのラボのことなんですが…アクシデントで、処分に失敗したようで。更に悪いことにザフトが…」
それを聞いてネオが「おいおい!」と声を荒げた。
「報告を受けてスエズも慌てているようですが、とりあえずお耳に」
「やれやれ…ステラ、スティングたちのところへ戻っておいで」
そう言い残すとネオは報告に来た兵と共にブリッジに向かった。

「ロドニアのラボ…」
ネオに言われたとおり、スティングとアウルが寛いでいる部屋に戻ったステラは、どこかで聞き覚えのあるようなその単語を繰り返した。
それを聞いて2人が反応し、顔を上げる。
「…って、何?」
ステラは記憶から抜け落ちているらしいその言葉の意味を尋ねる。
「ロドニアのラボって、そりゃおまえ…」
「僕たちが前いたとこじゃんか」
「ふぅん?」
そう言われてもステラはピンと来ないらしかった。
スティングはいぶかしみ、「何だ?いきなり」と尋ねた。
「悪いことにザフトがって、ネオが」
「えっ!?」
ステラの言葉に、アウルが飛び起きた。
(やばい!) 
スティングもまたアウルを押しとどめようと立ち上がった。
しかしアウルは力任せにスティングを押し退けようとする。
「ちょっと落ち着けって!アウル!」
「何でだよ!何で落ち着いてられるんだよ?ラボには…母さんが!」
そう言った途端、アウルの体から力が抜け、膝から崩れ落ちた。
「か…か…ぁさんが…いるラボ…」
「おい、バカ!アウル!」
ステラは驚いてアウルのパニックを見ており、スティングは舌打ちした。
(ブロックワードだ。自分で言って自分で引っかかるなんて)
「かぁ…母さんが…母さんが…母さんがぁ…」
スティングは何とか正気に戻そうと声をかけたが、アウルはしゃがみこみ、両手で頭を抱えて首を振り続けている。
「死んじゃうじゃないか!!」
今度はステラの表情がピキッと硬くなる。
「…死んじゃう!?」
「…母さんが…やだよ、そんなの…僕は…」
2人のスイッチが同時に入ってしまったが、スティングは先にパニックに陥ったアウルに注意を払っていたので、ステラの様子には気づかなかった。
ステラもいつもに比べると静かで、もしかしたら先日パニックになった際、シンといる事で自然に収まったことと関係しているのかもしれなかった。
「おい、こら!しっかりしろ!バカ!」
「…母さぁん!」
床に這いつくばって泣き叫び始めたアウルを起こそうとしたスティングは、後ろにいたステラがいつの間にか部屋を出ていった事も知らず、大声で研究員を呼んだ。
「死んじゃう?死んじゃうはだめ…怖い。マ・モ・ル…守る…」
フラフラと歩き出したステラの心には、大嫌いな「死」という言葉と、馴染みのない「守る」という言葉、そして言い知れぬ温かさが蘇った。

「ロアノーク大佐!すぐ来てください、アウル・ニーダが…」
パニックを起こした彼を見て手を焼いた研究員がネオを呼び出した。
ラボの件でスエズと連絡を取っていたネオは、一体何があったんだと慌てて彼らの元へ向かったが、その頃ハンガーではもっと大きな事件が起きていた。
ステラがガイアに乗り込み、勝手に発進しようとしていたのだ。
彼女を止めようとした警備兵や整備兵を容赦なく殴り飛ばし、ステラはガイアを起動させて突撃砲をハッチに向けた。
「ハッチ開けて!開けないと吹き飛ばす!」
周囲にいた兵たちがそれを見て慌て逃げ出す。
「ブリッジ、大変だ!大佐を…!」
兵たちがネオを呼べと言っている間に、盛大な音と共にハッチが破壊された。
「ロドニア…ラボ…母さん…守る!」
ステラは闇の中でもよく見える、強化された眼で夜道を走った。
記憶にはないはずなのに、ガイアの軌跡は正確にラボに向かっていた。
「馬鹿者!なぜ出した!」
ネオはステラの出奔を許した兵たちを思わず怒鳴りつけたが、ガイアに破壊され、大きな穴が開いたハッチを見て黙り込んだ。
(なんて夜だ!)
漆黒の闇から、嵐のような強い風がゴォッと吹き込んできた。

本部に戻るとバケツを抱えて思う存分吐いているアーサーは放っておき、タリアはバートにこの地域周辺の警戒を厳に行うよう命じた。
「これだけの施設、連合がこのまま放置しておくとは考えにくいわ」
それから「データも取れるだけ取って頂戴」とオペレーターに命じる。
専門チームが到着したら、あれもだめこれもだめと言われてしまうだろう。
第一発見者の特権として、もらえるものはもらっておきたかった。
「ほんとにもう…信じられませんよ」
休憩を取っていたシンが吐き捨てるように言った。
「コーディネイターは自然に逆らった間違った存在とか言っておきながら、自分たちはこれですか!」
アスランはドリンクのカップを両手で包み込みながら黙っている。
「遺伝子いじるのは間違ってて、これはありなんですか?」
シンはどんと机を叩いてアスランを見た。
「いいんですか?一体何なんです?ブルーコスモスってのは」
「確かにね…」
アスランはシンの憤りも尤もだと思って頷いた。
(けれどこうした非道は、昔から行われていたものだわ)
思想を植えつけられ、洗脳されて民族排斥の執行者とさせられる者。
暴力と恐怖で支配され、思考能力を奪われて戦闘員とさせられる者。
時代と共に、敵によって戦わされる者も変化してきた。
今は優れた能力を持つコーディネイターに対抗するため、薬漬けにされて戦わされるのだろう。戦闘マシーンのように…そう、モビルスーツのように。
(これは、変わる事のない人類の負の歴史だわ)
人のためにと言いながら、人を踏みにじって戦う事に夢中になっている。
「だが、強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」
アスランはカガリの言葉を思い出した。
議長はそれに対し、争いがあるから力が必要なのだと言った。
(こんなものが必要な力と言えるはずがない…これは…争いを呼ぶ力だわ)
そしてふと、彼らと袂を分かった事を思い出して憂鬱な気分になった。
キラの悲しそうな顔が、カガリの困惑した顔が忘れられない。
(あんな言い方を…ましてや別れ方をするつもりじゃなかったのに…)
「…出て行ったの、俺が変な事言ったからですか?」
頬杖をついてそっぽを向いているシンがポツリと言うと、いつものように物思いにふけっていたアスランははっと気づき、それから聞き返した。
「え?」
「なんか、ルナに…言い過ぎだって、怒られたんで…タルキウスで…」
アスランはこちらを見もせずにぼそぼそと続けるシンを見て、少し驚いた。
(…もしかして、気にしていた?)
相変わらずぼさぼさの寝癖頭を見ながら、アスランは至極真面目に答えた。
「まさか。ちょっと昔の知り合いに会いに行っただけ」
(ほら見ろ、ルナめ。俺のせいじゃなかっただろ!)
それを聞いてようやく肩の荷が下りたシンは、今度は堂々と憎まれ口をきいた。
「なら変なタイミングで行かないでください。俺が怒られるんですから」
おかしな抗議だと思いながらも、アスランは「わかったわ」と返事をした。

施設を眺めながら、レイはかすかに記憶に残る昔のことを思い出していた。
若き日のデュランダルが、幼い自分を見て驚き、それから優しく笑いかけた。
自分の手を握っているのは彼ではない。
レイは記憶の中の自分と一緒に視線を上げていき、彼を見上げた。
裾の短い赤服を着た、自分と同じ金色の髪、美しい青い瞳。
自分を地獄から救い出してくれた彼の口元が笑う…

やがてガイアはそれを見つけた。
山陰にライトが反射し、投光器がレーザーのように夜空を射ている。
「艦長!モビルスーツ1、接近中。ガイアです」
「1機?後続は?」
タリアが尋ねたが、バートは「ありません」と答える。
施設の破壊が目的なら単機では無理だと思われたが、爆弾、自爆、別働隊が到着するまでの時間稼ぎなど、方法はいくつも考えられる。
「施設を守るのよ。いいわね、シン!アスラン、あなたもお願いできる?」
タリアはシンに命じると同時に、アスランにも協力を要請した。
「わかりました」
そう返事をすると、アスランもシンに続いてセイバーに向かった。
ステラはビームブレードを展開し、森の木を切り倒しながら走り抜ける。
「母さん、守る…母さん、守る」
まるで呪文のように呟きながら、その意味もわからず走り続けていた。
やがて光の中に飛び出したガイアは、わき目も振らずに施設に向かってジャンプしたが、横から思いきり体当たりを食らい、軌道を逸らされた。
インパルスはガイアを突き飛ばし、態勢を整えながら上空に舞い上がった。
「くっ…邪魔をするな!」
ステラはビーム砲を放ってインパルスを追う。
「母さん、守る!」
シンはライフルを構え、見事に3次元的な動きを見せるガイアを追う。
「気をつけて、シン!施設の破壊が目的なら、何か特殊な装備を持っているかもしれない。爆散させずに倒す!」
「えっ!?」
その言葉を聞いて一瞬隙ができたシンを、ガイアのビーム砲がかすめる。
「うわぁっ!」
インパルスがバランスを崩し、シンは激しい振動を食らって落ちていく。
落下速度が速過ぎて立て直せないままのシンを、ビームブレードを展開したガイアが追っていた。シンはパワーシフトを思いきり入れる。
「シン!」
アスランは上空からフォルティスを放ってガイアの軌道を逸らした。
ステラはまたしても邪魔者が現れたと知ってセイバーを睨み、地に下りて四肢を踏ん張るとビーム砲を撃ち込んだ。しかし落下に耐えて態勢を整えたインパルスがサーベルを手に斬りかかってきたので、慌てて避ける。
「爆散させるなったって…どうすりゃいいんだ?」
そう思った途端、再びガイアがジャンプして施設へ向かう。
「シン、私が追い込むから、下から回り込める?」
アスランの声に、シンは「やってみます」と答えた。
ガイアは施設に向かいたがっている。横軸がわかるなら追い込めるはずだ。
「タイミングは任せる」
「了解!」
アスランはモビルスーツに変形するとガイアの鼻先に向けてライフルを撃っていった。ガイアはそれを嫌がったが、やがて苛立ってセイバーに向かってくる。
(開いた!シン!)
セイバーは果敢にも急降下するとブレードを広げるガイアにタックルした。
シンは落ちてきたガイアの下に、サーベルを構えてもぐり込んだ。
(コックピットだけを狙い、爆散させずに止めを刺す!!)
インパルスが見事な一閃を見せてガイアの腹にサーベルを突き立てたが、ステラは攻撃の寸前インパルスの意図に気づき、本能的に身をよじった。
ガイアの腹部にはコックピットを守る機動防盾があり、体をよじったせいでかろうじてサーベルの直撃を免れた。しかし凄まじい熱で機体が切り裂かれ、コックピットへのダメージは激しい。衝撃と熱がステラを襲う。
「きゃあぁぁぁ!」
シートに激しく頭を打ちつけ、高熱に冒されたステラは気を失った。
アスランは裂けたコックピットから見えるパイロットの姿に息を呑んだ。
「女…の子?」
サーベルを振り切ったシンは、地面にどうっと倒れたガイアに近づいた。
ビームサーベルの熱で溶けた裂け目からコックピットが見えている。
何気なくその中を覗いたシンは、次の瞬間、自分の眼を疑った。
「あ…あの子…!?」
うそだ…どうしてあの子がここに?なんで?まさか…

「ステラ!?」

再び開かれた残酷な運命の顎門が、シンを待ち構えていた。
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secret
制作裏話-PHASE25-
アスランとキラ、カガリが完璧に決裂した回です。

本放映時は見終わった後、もう立ち上がれないくらいガッカリして「何これ」と本気でリモコンを投げそうになりました。これまで溜まりに溜まったフラストレーションを、「彼らが会ってきちんと話す」ことで解消されると思っていただけに、ガッカリ度は超弩級。くだらない女難といいアスランの複隊理由が曖昧だったりとイライラしていたことが「これでいくらか解決するだろう」と思った私がバカでした。そうです、「所詮は種」が大正解。

しかもこの時、「俺は複隊したんだ。今さら戻れない!」などと偉そうな啖呵を切ったアスラン、14~5話後にはあっさり戻ってきましたからね。「アークエンジェルを探す!」って、どのツラ下げて戻るかねこの男はと心底呆れました。しかも今度の脱走は女連れですからね。もうあんたは一生逃げてなさいと思いたくもなります。

改変のしようがない決裂ですが、それでも逆転のアスランは本編のアスランよりはマシにしようと頑張って考えさせています。
彼女には「ラクスが暗殺されそうになり、偽者ラクスの事でいくらか動揺し、これでいいのかと葛藤した」という含みを持たせたかったのと、キラに「綺麗事を言わないで!」と怒鳴った時は、カガリが男らしくキラを庇い、アスランを諌めるという構図にしてあります。
本編のキラはさすが男というべきか、アスランの怒号にちっとも揺らがなかったので、こちらではカガリが対抗します。そして本編のカガリが全く太刀打ちできなかったアスランの「帰れコール」には、逆転のキラは対抗できる「理由」をもっていることをほのめかしています。

実は初稿ではここで、帰ろうとするアスランにキラから「カガリはユウナ・ロマに殺されそうになったんだ」と告白させたのです。けれどその後、PHASE28でキラがそれをぶち撒けてからアスランを斬り刻む方がカタルシスがあると気づいたのでやめました。(それくらいのおしおきがあってもいいんですよ、アスランには)

3人の不毛な会話を聞いていたミリアリアが、ディアッカに事情を聞いてみようかな…と思ってしまう創作を入れています。本編にはもちろんありませんが、こんな感じならいいなと思う二人です。

このPHASEは後半はロドニアのラボが大きくクローズアップされます。タリアが「あなたも聞いてるでしょう」などと言い出して、つじつま合わせっぽくいきなり出てきた「エクステンデッド」という言葉。こういう展開になると、大人の事情が見え隠れしてきますよねぇ。
どうやらさしものちんたら制作陣も、50話中25話という物語の半分まで来たのに、いつまでたっても欠片すら出せない「デスティニー」と「デスティニー・プラン」に焦ってきたんだろうなという感じです。だってこのペースじゃあと2年くらいかかりそうですもんねぇ、シンがデスティニーに乗るまで(皮肉)

しかし本放映時の時は、シンがレイを助けるシーンでは両者共にセリフは何もないわ(おかしいだろ!)、ラボの中を見廻る時のシンの様子は大して描かれないわ(シンはただ怒ってるだけでアスランの方が多め…おかしいだろ!)、もうちょっとシンを中心に描けないもんかねと思ってたので、かなり大幅に改編しました。

もう何度も言うのも疲れましたがシンは愛情を持って書こうとさえ思えば本当に魅力的なキャラになります。キラと違ってウジウジしないし、軍人としての知識やスキルはきちんと持ってるし、いざとなれば殴り合いの喧嘩も辞さない気の強さがあるので、いくらでも格好よく書けるのです。

シンはエマージェンシーを出してレイを休ませ、施設の外周をざっと見回ってデータを取ります。
そして気分の回復したレイの肩にシンが自分から触れると、レイが驚きます。ここは今回のりライトで追加しましたが、レイがここで驚いたわけはかなり後になりますが明かされます。

また、シンは施設の中では忌々しそうに凶器となった本を蹴ったり、アスランと共に遺体を覗き込んだり、アスランと共にデータを確認します。こういう何気ないところ、やっぱりハイネの言う通りなんですね。アスランが戻ってきた姿を見てほっとしたりするのも、シンの気持ちはアスランを認め、どこかで支えにしている表れになります(こういうシーンを入れるなら本当はつかず離れずの男同士の方がいいんだけど、ここは逆転なので仕方がありません)

しかも今回は連合のやり方に憤りつつ、シンはアスランに「出て行ったのは自分のせいか」と聞いてしまいます。普段のトンがったシンならこんな事は言わないかもしれませんが、ルナマリアに怒られたという事を絡めたためシンの心に引っかかっており、それゆえにこうした表現ができたのです。これこそ主人公であり、ヒロインの力だと思います(遅ればせながら中のお2人のまさかのご結婚、おめでとうございます)

一方アスランは相変わらず自分の考えでぐるぐるしています。理性的な彼女はいつの時代も戦争にはこうした悲惨な話がつきものだと思い、さらに力の捉え方が違うカガリと議長を比べ、その上でキラとカガリと決裂した事を思い…というドツボ状態にはまります。だからシンの言葉にはちょっと驚きます。超鈍感の自分が気にしてない分、まさかシンが気にしてるとは思ってなかったので。

こんな風にシンとアスランの関係が描かれれば、本編も楽しかったのにとつくづく思います。ホント、女難なんぞいらんから両者の師弟関係を描いて欲しかった。

そしてラスト、ついにステラとの再会を果たすシン。
ここのバトルはせっかく2人の関係が前進したので、アスランが司令塔となり、シンが仕留めるという連携を取らせました。
ちなみに本編ではタリアさんがアスランに「施設を守るのよ!シン、アスラン、いいわね!」と命令してるので呆れました。こうやって制作陣が設定を忘れちゃうんですよねぇ、種って。無論逆転では「命令」などではなく、FAITHからFAITHへの「依頼」に改変しました。
になにな(筆者) 2011/08/14(Sun)18:29:50 編集

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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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