機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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シンはインパルスを跪かせて飛び降り、ガイアのコックピットに向かった。
(外部スイッチはセキュリティパスの突破に時間がかかる)
そう判断したシンは、熱で金属が熱くなっていることにも構わず、裂けた隙間から無理無理腕を入れると、スイッチを探った。
元々ザフトの機体だ。同じ場所にコックピットの開閉スイッチがあった。
そこには額から血を流し、体にひどい熱傷を負ったパイロットがいた。
紛れもない、ステラだった。
「ステラ…何できみが…」
シンは呆然としていた。
見慣れない形だが、地球軍の制服を着ている。
それに何より、この機体はガイアだった。
(ハイネを…殺した…)
シンが動揺を隠せずにいると、ステラが咳き込み、血を吐いた。
(肺を傷つけているかもしれない)
シートベルトを外すと、ステラはぐったりと彼の腕にもたれかかった。
(どうする?どうすればいいんだ!?)
シンは自分自身に問いかけた。
(外部スイッチはセキュリティパスの突破に時間がかかる)
そう判断したシンは、熱で金属が熱くなっていることにも構わず、裂けた隙間から無理無理腕を入れると、スイッチを探った。
元々ザフトの機体だ。同じ場所にコックピットの開閉スイッチがあった。
そこには額から血を流し、体にひどい熱傷を負ったパイロットがいた。
紛れもない、ステラだった。
「ステラ…何できみが…」
シンは呆然としていた。
見慣れない形だが、地球軍の制服を着ている。
それに何より、この機体はガイアだった。
(ハイネを…殺した…)
シンが動揺を隠せずにいると、ステラが咳き込み、血を吐いた。
(肺を傷つけているかもしれない)
シートベルトを外すと、ステラはぐったりと彼の腕にもたれかかった。
(どうする?どうすればいいんだ!?)
シンは自分自身に問いかけた。
アスランはセイバーを着陸させると、銃を取ってラダーを掴んだ。
上空から無防備にガイアのコックピットに駆け寄ったシンを見て、慌てて追ってきたのだ。
「シン!」
闇の向こうからアスランの声が聞こえたので、シンははっと振り返った。
その途端、腕の中のステラが咳き込みながらうわごとのように言う。
「ゴホゴホッ…死ぬの…だめ…」
―― 怖いよ…守る…母さん…怖い…死ぬ…
とりとめもない単語が血を吐くステラの口からこぼれ、それを聞いたシンはこらえきれずに彼女を抱き締めた。
(俺のせいだ…俺が…ステラを傷つけた…!)
そしてそのまま彼女を抱き上げるとガイアのコックピットを飛び出した。
「…シン?シン、何を…!?」
アスランはシンが敵兵を抱いている姿を見て驚き、立ち止まった。
その間にシンはインパルスのコックピットに駆け込み、急発進する。
巻き起こった突風から眼をかばいながらインパルスを見送ったアスランは、急いでセイバーに戻るとミネルバのチャンネルを開いた。
「こちらアスラン・ザラ。グラディス艦長!」
「一体どうしたの、アスラン。シンは!?」
バートからガイアを撃破したインパルスが発進し、飛び去ったと聞いたタリアたちも、事情が飲み込めていないようだ。
「わかりません。ですが、負傷したと思われる敵のパイロットを連れてミネルバへ…」
アーサーもタリアも驚いてモニターのアスランを覗き込んだ。
「何ですって!?」
「そんな、何を勝手に…!」
「すぐに追います」
アスランはそう言うとセイバーを発進させた。
ただならぬ様子に驚いたタリアは、後をアーサーに任せ、艦に戻る事にした。
「はい!…って、ええぇ~!?」
「レイにガイアの回収をさせて!」
ここに残されると気づいてゲンナリした顔のアーサーにそう言い残すと、タリアは急いで車を回させた。
ミネルバでは夜勤シフトの整備兵が、突然着艦したインパルスに驚いていた。
着艦オペレーションはもちろん、連絡すら入っていないので警報がうるさい。
「インパルス帰投?」
騒ぎを聞きつけ、詰め所で仮眠を取っていたヴィーノが出てきた。
「何だ?いきなり」
もうじき交替のヨウランもあくびをかみ殺しながら様子を見ている。
「わかんないけど、調査終わったのかな、あの施設の…」
やがてインパルスがハンガーに入り、シンが姿を現す。
「シン!お疲れ!」
ヴィーノはいつものようにひと懐っこい笑顔を浮かべて声をかけた。
しかしいつもなら手を振るシンは何も言わずラダーを降りてくる。
彼の腕の中には女の子が抱かれていて、ヴィーノは眼を見張った。
「何だよ、シン…その子、一体?」
「うるさい、どけっ!」
驚いて指を差したヴィーノを、シンは邪険に突き飛ばした。
「うわっ!」
ヴィーノはよろけて壁にぶつかり、ヨウランは驚いて彼を支えた。
「大丈夫かよ。あいつ…どうしたんだ?」
シンはそのままミネルバの艦内を走り抜けた。
「死ぬの…だめ…」
ステラの体は温かいが、弱弱しい声がシンを急かす。
「どいてくれ!」
廊下を曲がったところでぶつかりそうになり、女性兵士が慌てて横によけた。
「おい、何だ!?」
おかげで彼女の前にいた男性兵士にシンの肘がぶつかって文句を言われたが、シンは振り返りもせず、ただまっすぐ医務室を目指す。
「守る…」
「大丈夫、もう大丈夫だから!」
シンは苦しそうなステラに必死に呼びかけながら走り続けた。
(きみのことはちゃんと、俺がちゃんと守るって…俺は…!)
「先生!この子を…早く!」
「一体何だね?」
先ほどシンとレイを診てくれた軍医が、開いた扉から叫ぶ声に振り向いた。
歩み寄った看護兵がシンが抱いている少女を見てさっと顔色を変える。
「その軍服、連合の兵士じゃないの…!」
「連合?」
彼らはシンの腕の中で「怖い…守る…」とうなされるステラを覗き込んだ。
「勝手に連れて来たのか?私は何の連絡も受けてはいないぞ」
「でも、怪我してるんです!だから…」
シンが一歩踏み出すと、彼らはそれにつられて逆に下がった。
「だが、敵兵の治療など、艦長の許可無しでできるか」
シンは軍医の言葉に苛立ち、ちっと舌打ちした。
「そんなものはすぐ取る!だから早く!」
「死ぬのは…」
こんなに大怪我のステラを見ても、軍医も看護兵も危険物でも見るような顔をするだけで手を出そうとはしない。
その態度に怒りを覚え、しかもステラがうわごとを繰り返すのを聞いて焦ったシンは、ついうっかりその言葉を言ってしまった。
「死んじゃったらどうするんだよ!」
その言葉を聞いてステラが覚醒した。
「ううっ…死ぬのは…だめ…!」
シンの腕の中でぐったりしていたステラが、突然跳ね起きた。
シンがはっとしたのと、彼女がシンを突き飛ばしたのは同時だった。
ステラは叫びながら仰向けに倒れたシンに飛び掛り、拳で殴りつけた。
「うわッ!」
容赦なくふりかかる拳を腕で防ぎながら、シンはステラの手首を掴んだ。
(なんて力だ!)
か弱い少女の細腕にしか見えないのに、男のような力強さに驚く。
「やめろ!ステラ!」
「ええぇい!」
シンは力任せに彼女を横向きに倒して押さえつけようとしたが、ステラはそれを察知してジャンプした。ウサギのような、人間離れした跳躍だった。
「シン!」
アスランが医務室に駆けつけた時、ステラは次の獲物に向かっていった。
ステラは呆然としていた看護兵に飛びかかると、彼女の首を絞め始めた。
年配の軍医は腰を抜かしたように床に座り込み、動けずにいる。
「うう…っ!」
「ステラ!やめろ!」
シンが起き上がって彼女を止めに走った時、騒ぎを聞きつけて参集した警備兵が、一斉に銃を構えた。
「待て!発砲するな!」
アスランは手を上げて彼らを止めた。
(今撃てばシンや看護兵に当たる…それにあの子は、ディオキアの…)
シンはその間にステラを羽交い絞めにし、看護兵から引き離した。
「今のうちに彼らの救助を」
アスランは警備兵に軍医と看護兵を部屋から連れ出すよう命じた。
「ステラ…ッ!」
シンは暴れまくるステラを部屋の隅に引きずり、そこで必死に抑えている。
「シン!?」
ガイアとインパルス、セイバーが戦っている最中にちょうどジャイロで戻ったルナマリアも何事かと駆けつけてきたが、その光景に驚いていた。
「下がって、ルナマリア」
「…あ、アスラン、これは…?」
拳で殴られたシンの顔は腫れあがり、口を切って血が流れている。
地球軍の兵士は叫びながら暴れ、時折ゴホゴホと咳き込んで血を吐いた。
「ごめん、ステラ!悪かった!」
怒りとも恐怖ともつかない叫び声をあげる彼女を、シンは必死に抑える。
「もう大丈夫だから!落ち着いて!」
「いやあぁぁ!」
絶叫し、ついにステラは気を失ってぐったりとシンの腕にもたれた。
シンはそのまま動かなくなった彼女を強く抱き締めた。
(一体、何が起きたの?あの子、誰?)
アスランに庇われたルナマリアは、そんなシンを見て声もなかった。
「艦長…あの…!」
ミネルバに到着したタリアは、ステラに治療を施すよう軍医に命じた。
それからこの騒ぎの張本人であるシンを連れて歩き出すと、アスランが追ってきて彼女に声をかけた。
「何?」
アスランは強張った表情の彼女を見て一瞬ためらい、そして言った。
「私も、同席させていただけませんか」
「あなたが?なぜ?」
タリアは怪訝そうな顔をし、シンも少し驚いたようだった。
(アスラン…)
「私もディオキアで彼女に会っており、事情も少し聞いています」
そう言ってシンを見ると、シンもまたアスランを見つめ返した。
「シンの行動は確かに問題ですが、彼にも言い分があると思いますし…」
その言葉に、タリアは苛立ちを隠さず言った。
「悪いけど、あなたの弁護も意見も必要ないわ」
「ですが、艦長…」
「シン・アスカの直属の上官は私です!」
タリアは食い下がるアスランをぴしゃりと跳ね除けた。
「それとも、FAITH権限を使う?そうなれば私も無論、行使するけど」
そう言ってくるりと背を向けた彼女を、アスランはただ見送るしかない。
けれどその時、シンがチラリと後ろを振り返り、素早く手を動かした。
「…どうも、って」
「え?」
アスランが振り向くと、ルナマリアも彼らを見送っていた。
「シン、どうなるんですか?」
艦長と彼女の会話を聞いていたルナマリアが、不安そうに聞いた。
(帰ったらアスランとどう接したらいいんだろう)
あれこれ考え、悩んでいたのに、そんなものは全部吹っ飛んでしまった。
(もし、シンに何かあったら…)
そう思うとルナマリアは心細くなり、心臓がどきどきと脈打った。
そしてふとアスランを見上げた。
(アスラン…シンを庇おうとしてくれたんだ…)
少し安心できたルナマリアが、おずおずと尋ねる。
「シンはどうしてあんな事…一体、何があったんですか?」
アスランは困ったように彼女を見た。本当に、今日はなんという1日だろう。
「敵兵の艦内への搬送など…誰が許可しました?」
タリアの冷たい声に、シンは直立不動のまま黙りこくっている。
口元にはまだ血が滲み、あの捕虜の爪で引っかかれでもしたのか、手や首にひどいみみず腫れがあった。その傷を見てタリアは大きくため息をついた。
「あなたはパイロットなのよ。なんて無茶なことをするの」
タリアはこの後きちんと治療を受けるようシンに命じてから話し始めた。
「あなたのやったことは軍法第二条第四項に違反!第十一条第六項に抵触!」
軍法を読み上げたタリアは、シンの行為がいかに違法性が高いかを告げる。
「とてつもなくバカげた重大な軍紀違反なのよ?これで艦内に甚大な被害が出ていたらどうするつもりだったの!?」
タリアは冷静であろうと心がけていたが、今日一日の疲れも重なり、ふつふつと沸く怒りを抑える事ができなかった。
「申し訳ありません」
けれどシンはいつになく殊勝だった。
いつもなら今日の自分たちへの探索指令を逆手に取り、口答えのひとつやふたつはしそうだったが、何も言わずにタリアの言葉を聞いている。
「全く…赤服にあるまじき暴走よ、シン」
「…わかっています」
シンは神妙な面持ちで視線を落としている。
そんな彼の珍しくしおらしい態度は、タリアの心を少しずつ落ち着かせた。
アスランに言われるまでもなく、シンの言い分も聞いてやるつもりではいた。
「知っている子だということだけど、ステラ?一体いつどこで?」
「ディオキアの海で…溺れそうになったのを助けて…」
「ああ、アスランが救助に行った、あの時ね」
シンは「はい」と返事をした。
(なるほど)
タリアは少しは事情を知っていると言った彼女に納得した。
「なんか…よくわかんない子で、俺…いえ、自分は、その時は彼女も、戦争の被害にあった子だと…」
パニックや幼児退行しているような言葉遣い、記憶の混濁。
それは皆、シンが見てきた戦争の被害者と同じ様相を呈していた。
「でも、あれはガイアのパイロットだわ」
タリアが言い捨てた。
「それに乗ってたのだから…わかるでしょ?」
さらに、タリアは(もしかしたら)と思っていた。
アーモリーワンであの機体を強奪した手腕、その後コーディネイター用の機体をやすやすと乗りこなし、シンやレイと互角に戦い続けている能力。
(考えたくはないけれど、場所が場所だし、考えてしまうわよね)
その時、艦長室にコールが入った。
「艦長、ちょっとおいでいただけませんか?」
それは軍医からの呼び出しだった。
シンは不安な気持ちになり、同行させて欲しいと求めた。
「首絞められたって?その連合のパイロットに」
「ほんと、ひどい目に遭ったわ、まったく!」
ヴィーノとメイリンは休憩室で、襲われた看護兵の話を聞いている。
夜勤明けのヨウランも興味津々だったが、眠気に勝てず引き上げていた。
「すごい力なのよ。殺されるかと思った」
「でも何でシン、そんな子と?」
シンに突き飛ばされた事がかなりショックだったヴィーノが尋ねると、彼らの後ろから聞き慣れた声がした。
「ディオキアで、溺れてるところを助けたんだって」
「姉さん!?いつ戻ったの?」
メイリンがぱっと顔をほころばせた。
「シンは戦争の被害にあった、ちょっと可哀想な子だって思ったらしいわ」
ルナマリアはアスランが教えてくれた2人の事情を語って聞かせた。
「ところがそれが、ガイアのパイロットだったってわけ?」
「そう…ハイネを殺した…ね」
それを聞いて皆がざわめく。
(シン…あの娘を抱き締めてた)
シンが彼女にこだわる理由ももちろんだが、家族を目の前で失って以来、人との身体的接触が苦手になったという彼の症状を知るルナマリアは、シンが自分から彼女に触れていた事が気になっていた。
(抱き締めて、ごめん、ごめんって、何度も謝ってた…)
ルナマリアは首を傾げ、自分の中にある憂鬱を振り払おうとした。
シンはタリアの後について、再び医務室に入った。
そこで眼にしたのは、ベッドにがっちりと拘束されたステラの姿だった。
「…何でこんなこと!!」
シンは驚いて彼女に駆け寄り、医師に抗議した。
「ケガ人なんですよ、彼女は!そりゃ、さっきは興奮して…」
「そういう問題じゃない」
軍医は落ち着いて答えた。
「どうやらこの子は、あの連合のエクステンデッドのようなんでね」
それを聞いたシンは声をあげた。
(ステラが…あの研究所で死んでいた子供たちと同じ、エクステンデッド?薬漬けにされた、強化兵士?)
タリアは自分の予想が当たったことを知り、眠る彼女を見つめた。
軍医は今は薬で眠らせたが、その効果の持続は読めないと言う。
「治療前に簡単な検査をしただけでも、実に驚くような結果ばかり出ましてね。まず、様々な体内物質の数値がとにかく異常です」
医師はボードに記されたカルテを見ながら事実を述べた。
「また、本来なら人が体内に持たないような物質も多数検出されています」
シンは言葉もなくその報告を聞いていた。
軍医は薬を使っているであろうこと、彼女の検査結果が研究所の子供のデータに酷似している事も伝えた。
「戦闘での外傷もかなりのものがありますが、とにかくそんな状況ですので、これでは治療といっても何がどう作用するのか、よくわかりません」
シンは黙ってステラを見つめていたが、突然彼女が眼を開いた。
鎮静剤を投与したのに、こんな風にいきなり覚醒するのはやはり異常だった。
ステラは血走った眼でぎょろぎょろと周囲を見回す。
「ステラ!」
シンは彼女の枕元に寄ったが、ステラは彼を見て叫んだ。
「…何だ、おまえは…?」
シンはその言葉に驚いて少し身を引いた。
(覚えてない…俺を?)
ステラはここが自分の知っている場所ではないと気づくと、暴れ始めた。
「く…ぐッ…ぐッ…!!」
もちろん、どんなに暴れても彼女を抑えたベルトは外れない。
しかしその激しい暴れっぷりにシンは呆然とし、軍医が彼を制した。
「離れて!」
「ステラ…」
握り締めた自分の爪先が手のひらに食い込んでも、ベルトがこすれて腿や脛などの皮膚の柔らかい部分から出血しても、そもそも傷や火傷の痛みすらも感じていないのか、ステラは狂ったように暴れている。
もしかしたら彼女は自分の身の安全など考えていないのかもしれない。
それほどまでに激しい抵抗だった。
「ステラ、やめろ…だめだ、そんなに暴れちゃ…」
その姿を見て、シンはいたたまれなかった。
ディオキアで溺れたあの時、パニックを起こして暴れる彼女に、「きみを守る」と約束したのは自分だ。
それを聞いたステラは落ち着き、優しく、可愛らしく笑ったのだ…手をつなげば素直についてきたし、呼べば子犬のように慌てて走ってきた。
無防備すぎて驚かされたけれど、ステラの体は温かくて、柔らかくて、抱き締めていると自分まで眠くなってしまいそうだった。
(誰かが守ってあげなきゃいけない、弱くて頼りない子なんだ)
そんな彼女を、守るといった彼女を、自分は傷つけた。
ひどい傷を負わせ、治療しようと連れて来たミネルバでは拘束され、怯えて暴れる彼女は、目の前でさらに傷ついていく…
シンは思わず、ステラの肩を抱き締めた。
「ステラ!大丈夫だよ、ステラ!大丈夫だ!」
タリアも軍医もシンのその行為に驚いた。
「きみ、離れるんだ!噛みつかれでもしたら…」
「やめなさい、シン!」
2人が引き離そうとしたがシンはそれを乱暴にふりほどき、暴れるステラに呼びかけ続けた。
「僕がいるから!落ち着いて…わかるだろ?僕だ、シンだよ!」
ステラがふとシンの顔を見たので、シンは思い出してくれたのかと一瞬顔を輝かせた。けれどそんなものは甘い幻想に過ぎなかった。
「…知らない…あんたなんか知らない!」
ステラは憎しみのこもった眼でシンを睨みつけると叫んだ。
シンはその恐ろしい形相に思わず立ち上がり、よろけた。
やはり覚えていない…あの時、自分の名前を呼んでくれたのに…
「ネオーッ!ネオーッ!!」
ステラはネオを呼び、さらに暴れ続ける。
「ステラ!聞いて、ステラッ!」
それでもシンは懸命にステラを呼んで意識を向けようとした。
「無駄だよ、やめなさい」
やがて軍医が言った。
「彼女は脳波にも奇妙なパターンがみられるんだ。意識や記憶や、そんなものも操作されている可能性もある」
一生懸命なシンを哀れに思い、軍医はステラがいかに人として色々なものを失っているかを告げた。シンには伝えていないが、彼女には生殖器官もない。
感覚も、感情も、思考も、恐らくは手を加えられているのだろう…
「記憶がなければきみのことも覚えていまい。諦めなさい」
軍医は看護兵にさらに鎮静剤を投与すると言い、準備を命じた。
「覚えて…ない…」
シンは息を呑んだ。
「いや…ここ…」
鎮静剤を投与され、暴れ続けていた彼女の体力も限界を迎えた。
ステラの動きがゆっくりと止まり、表情がなくなっていく。
「記憶をって…そんな、まさか…」
ネオ…そう呟いて、ステラは再び昏睡に陥った。
「ロドニアのラボの件はともかくとしましても、ステラ・ルーシェに関しましては、もはや損失と認定するように、とのことです」
上からの伝達を伝える将校の言葉に、ネオはため息混じりに答えた。
「迂闊だったよ、俺が」
「大佐は実によく彼らを使いこなし、その功績はジブリール氏も…」
「ああ、もういい、そんな話は!」
ネオはお仕着せの「お褒めの言葉」を遮った。
ジブリールとはそういう男だ。
金は使い放題だが、こちらの想いや感情の機微などこれっぽっちも考慮しない。
彼にとっては全てが「役に立つか、立たないか」で分けられる「道具」に過ぎないのだ。
「損失…か。そういう言葉になるんだろうがね、軍では」
ステラは探される事もなく、このまま遺失物扱いだ。
そんな嫌味を目の前の将校に言ったところで仕方がない。
「ま、いいよ。もうわかった」
伝令役の彼を下がらせると、ネオはラボの研究員を振り返る。
「すまんが、2人からステラの記憶を…」
研究員たちはその言葉にええっ、とどよめいた。
「消すんですか!?それはちょっと…大仕事になりますよ?」
「何しろ、昨日今日あったことじゃありません。あの3人はラボからずっと一緒に育ってきたようなものですから」
大仕事を命じられ、研究員たちはにわかに色めきたった。
「記憶が虫食いになると、何より精神がひどく不安定になりますし…」
仮面の奥の表情は窺い知れないが、ネオはため息をついた。
(初めから何もなければ悩む必要もない…忘れてしまえば、苦しまない)
ネオはブロックワードの発動によって入念に調整されているアウルと、何も言わないが、ステラの行方を案じているスティングを思い出した。
(大切な人も、心から愛した人も、忘れてしまえば…)
そう思った時、心地のいい優しい風が彼の心に触れた気がした。
それは温かく、優しく、強く…けれどもろくはかない、不思議な感覚だった。
(何を考えているんだ、ばかばかしい!)
ネオは咄嗟にその感覚を否定した。
そして改めて研究員にスティングとアウルの記憶操作を頼んだ。
「わかっているが…頼む」
彼らは顔を見合わせ、そして答えた。
「わかりました。すぐに始めます」
やがてミネルバは次の寄港地に向けて発進し、艦内は表向き静寂を取り戻したように見えた。
タリアは結局、厳重注意のみでシンには特に罰則を与えなかったので、それを聞いたルナマリアもレイも顔を見合わせ、ほっと安堵した。
2人とも捕虜のいる医務室につきっきりのシンを何度か見に行ったのだか、彼の真剣で真摯な姿を見ると、いつも声をかけそびれてしまうのだった。
アスランもまた何度か様子を見に行った。
ステラは薬で昏々と眠っている事が多く、シンはその傍らでいつも静かに彼女を見守っていた。アスランもまた、そんな彼に何も言えずにいた。
(キラ…これが連合のしている事よ)
アスランはあの日以来、ここにいないキラに問いかけ続けていた。
プラントから公式に発表したわけではないが、ロドニアのラボのことは各国のプレスも掴んでおり、連日のように世界中に発信されていた。
世界の反応は大きく、これは連合による人体実験であり、かつてない非人道的行為であると、非難の声は日ごとに大きくなっている。
彼らもきっとどこかでこの情報を眼にし、耳にしているに違いなかった。
(こんな事、許せるわけがない。だから一日も早く終わらせなければ)
なのにキラは、自分にこのままザフトとして連合と戦い続けるのかと聞いた。
(それに、オーブとも戦うのかと。このままずっと戦い続けるのかと…)
当惑したように自分を見るカガリの顔が浮かび、アスランは眼を伏せた。
(仕方ないじゃない。連合がやっている事をそのままにはしておけない)
アスランはタブレットを手にとり、ラクス暗殺の手がかりを調べようと起動した。
けれどなんとなく気が乗らず、それをぽんと投げた。
「何が正しいのか…わからない…」
ポツリと独り言を呟くとそのままベッドに倒れこんだ。
彼らを怒鳴りつけたくせに、自分はまた、道を見失いかけている。
そして首に下げたハウメアの守り石と、それに通した指輪を見つめた。
なんだか、ひどく疲れてしまった…アスランは双の眼を閉じた。
「こんばんは、シン」
「どうも。どうですか、今日は?」
看護兵はすっかり顔見知りになったシンに挨拶をした。
シンはあの後すぐ、彼女を危険な目に遭わせた事を心から詫びた。
その後も毎日、意識のないステラに一生懸命話しかけるシンを見てきた看護兵は、最近は彼が訪ねてくると気を利かせて退室するようになった。
「今日はずっと眠ってるわ。もし起きたら、知らせてね」
「わかりました」
この日、シンはステラにもらった小さな貝殻を持って来ていた。
「ネオ…」
薬で眠らされているステラがうわごとのように呟く。
シンはビンに入れた貝殻を見ながら、ステラの哀しい運命を想った。
「何も…覚えてないなんて…きみが…ガイアに乗ってたなんて…」
ハイネを殺したのは、ステラだった。
アーモリーワンで、デブリ帯で、ユニウスセブンで、俺たちは戦った。
「インド洋で、崖の上からとびかかってきたのもきみだったんだね」
俺たちは互いを知らず、敵と信じて戦い、敵と知らずに出会った。
しかも、きみは連合にひどい事をされていた。
「あんなところに…いた子だなんて…」
シンはやりきれなくて下を向いた。
オーブに…国に見捨てられるどころじゃない。
ステラは、世界に、運命に、全てに見捨てられた子じゃないか。
親も兄弟もいたのかすらわからず、思い出すらもなく、薬漬けで殺し合いの訓練をさせられて…俺たちコーディネイターと戦う「生物兵器」だったんだ。
「なんだよ…なんだよ、これ……ひどいよ…」
何もわからないまま兵に仕立てられたステラには何の責任もない。
理不尽な力に家族を奪われ、1人ぼっちで苦しんだ不幸を呪ってきたシンは、自分の運命を呪うことすら、恨むことすらできない彼女を見て胸を痛め、呟き続けた。
「ステラ…」
「……シン?」
その声に、シンがはっと顔をあげる。
(今、俺の名前を…?)
シンが彼女を見ると、ステラは眼を開け、穏やかに微笑んでいた。
「シン…」
「あ…ステラ…」
シンの顔が見る見るうちにほころんだ。たとえようもないほど優しく。
「…会いに来た?シン…」
「…うん、うん、ステラ…」
その言葉を聞いて、シンの瞳に涙が浮かんだ。
(ああ、この子は…ずっと信じていたのか)
あの時…気休めのように言ってしまった言葉。
会いに行くよと、そんな事できるはずないと知っていたのに、口約束をした。
そんな自分勝手な約束を、ステラは覚えていたのだ。
「俺、わかる?」
「うん。シン」
我ながらみっともないと思う。
微笑んでる女の子に、泣きながら話しかけるなんて…
「…約束、ちゃんと…守ったよ…」
「うん。守った」
嬉しそうなステラの顔を見ていると、泣けて泣けて仕方がない。
シンは袖で涙をぬぐい、笑おうとするのだがすぐ涙にまみれてしまう。
そんな半泣き半笑いをしているシンを見て、ステラも優しく笑った。
ありがとう、ステラ…
俺を思い出してくれてありがとう…
あんな約束を覚えていてくれてありがとう…
なら、俺も必ず約束を守る…きみを守るという約束を…
シンはステラの額にそっと自分の額をつけた。
2人は眼を閉じ、その穏やかなぬくもりを感じあう。
こうして誰かと触れ合う事を、シンはもう2度と嫌だと思うことはなかった。
ミネルバの医務室でシンとステラがようやく本当に再会できた頃、アークエンジェルの医務室でも、やや慌しい動きがあった。
キラとカガリが出かけている数日間のうちに、ラクスが熱発したのだ。
「疲れからくる、ごく軽い肺炎でしょう」
医師は言ったが、ラクスの場合、何が大きなリスクになるかわからない。
カガリは枕元で、点滴を受けて眠る彼の寝顔を見つめていた。
そして時折バイタルをチェックし、記録する。
やがてキラがやってきて、2人は静かに並んで座った。
「おかえり」
ふと気づくと、ラクスが眼を覚まして微笑んでいた。
「アスラン、元気だった?」
キラもカガリも一瞬妙な顔をしたが、カガリがぎこちなく笑って答えた。
「ああ。元気だったよ。変わってなかった」
「そして、ザフトに戻ってた?」
それを聞いてうっ…と2人が言葉に詰まる。
「初めからお見通しかよ」
「あちらにはアスランが選びそうな選択肢が用意されてたんだろう」
それでも浮かない顔の2人を見て、ラクスが穏やかに言った。
「気にする事はないよ。彼女のことだ、相当強がりを言ったんだろうけど、今頃きっと、自分が言ったことに悩んで悩んで悩みまくってるだろうから」
ラクスはカガリに背を起こしてもらい、「それで?」とキラに尋ねた。
「何が本当か、アスランの言うこともわかるから…」
キラは浮かない顔で、決裂してしまったアスランとの再会を思い返した。
「議長が、アスランの言うように本当にラクスの暗殺やユニウスセブンと関係なかったとして、本当に平和を望んでいたとして…そうなると…」
そこまで言うと、キラは小さくため息をつく。
「また…よくわからなくて…」
「そうだね」
ラクスがハロを手に取った。
「プラントが、本当にアスランの言う通りなら、私たちは…」
「間違ってるってことになる?」
ミトメタクナイ!とハロがパタパタと耳を開く。
その続きはカガリが引き取った。
「オーブにも問題はあるが、国に戻れない今、どうするのが一番いいのか…」
「わからないね」
テヤンデー!とハロがラクスの手を飛び出して部屋中を飛び跳ねた。
「僕は、今のザフトの動きはとても面白いと思ってるんだ」
ラクスが言った。
「英雄戦争、と僕は呼んでるけど、これによって結果的にナチュラルとコーディネイターが以前より理解を深め合っている。いいことだろ?」
うん、と2人は頷いた。
「連合の非道は収まりつつあり、人体実験なんていう悪事も暴かれた」
「それも、いいこと…だよね」
キラが言う。
「ただ、連合はこのまま黙ってないだろうね」
「うーん…まぁ、何らかの動きはあるかもな」
カガリが連中の事だから、と肩をすくめた。
「それをまたザフトが見事に叩けば…」
キラはついに問答にしびれを切らし、「どういうこと?」と聞き返した。
「この戦争が終わったら、世界はどうなるんだろう」
ラクスの言葉の意図がわからず、キラとカガリは顔を見合わせた。
「どうって…そりゃ、きっとまた…」
カガリはそう言いかけたが、すぐに口をつぐんでしまった。
(前大戦が終わった時と同じように、世界は懸命に平和になろうとし、けれどやがて混乱し、不安になり、道を誤り、そして、また…)
再び押し寄せてきた「戦争」の流れに、なす術もなかった苦い想いが蘇る。
「いや、そうじゃない」
考え込んでいたカガリは、ラクスのその言葉にはっと顔を上げた。
「世界をどうするつもりなんだろう、彼は」
「デュランダル議長が…何かすると思うのか、おまえは?」
カガリは少し驚いたように尋ねた。
「人々を解放する戦いは、良心や正義に響くだろう?誰かに与えられる大義より、それぞれが見出した大義は、自由を感じさせ、意識を高める」
ラクスはオマエモナー!と言いながら戻ってきたハロを受け止めた。
「しかも誰もそれを重荷に思わず、自分の意志でやっていると思ってる」
ラクスはやや厳しい顔つきで呟いた。それはまさに政治家の顔だった。
「ここまで色々なものに役割を分担させる議長の手腕は実に見事だ。そんな彼が目指すその先の未来こそが、僕は気になるんだよ、とても…」
カガリもキラも呆気に取られた。
自分たちが目先のことでバタバタしているというのに、目の前にいるこの病弱な青年は、一体どれだけ遠くを見通しているのだろうか。
(くそぅ、また差をつけられてんなぁ、俺)
カガリは内心で悔しがった。
代表になったことで、少しはラクスと肩を並べられたかと思ってたのに、相変わらずちっとも追いつけていないとひしひしと感じてしまう。
「だから、見てきたいんだ」
キラは「え?」と驚いた。
「プラントの様子を」
ええっ!?と声をあげ、キラもカガリも立ち上がった。
「道を探すにも、手がかりは必要だろ?」
「そんなのダメだよ!ラクスは…プラントには…」
キラが驚いて止めても、ラクスは涼しい顔だ。
「大丈夫だよ、キラ」
「大丈夫って、おまえ、今だって倒れたじゃないか」
カガリも点滴の針を抜去しながら言う。
「医療班には着いてきてもらえる事になってる。それに、ファクトリーもちゃんと見ておきたい。新しい機体を造りたいという希望も出されてるし」
ラクスは固定の解かれた腕をほぐしながら言った。
「実はもうバルトフェルド隊長にも、地球脱出の方法を相談してるんだよ」
どうやらすっかり根回しは終わっているようだった。
けれどキラはまだ渋い顔をしていた。
ラクスを狙う最大の懸念はなくなったものの、議長が怪しいのならプラントはどこもかしこも危険な事に変わりはなかった。
自分が守れる範囲に彼がいないのは、キラにとって不安以外の何物でもない。
「僕ももう、大丈夫だから」
そんなキラの頬に触れ、ラクスが言う。
「僕も行くべき時なんだよ。行かせてくれるよね?キラ」
キラはラクスを見、カガリを見て、ふぅと息をついた。
「もう決めてるくせに…ずるいよ、ラクス」
それからキラは「本当に、本当に気をつけてね」と言った。
ラクスは微笑み、それから思いついたように言った。
「そうだ、キラ。僕と約束をしよう」
「え?」
キラはきょとんとしてラクスを見つめた。
「カガリくんも」
「俺も?何を?」
ラクスはにっこりと笑った。
「全てが終わるまで、僕たち全員、無事に生き抜くことを」
それを聞いたキラは笑顔になって頷いた。
「うん、いいね!約束しよう」
「キラも、カガリくんも、僕も…今はここにいない、アスランも」
(アスランも…)
心の中でその名を繰り返すと、カガリの心に彼女の姿が蘇った。
表情は硬く、口調は厳しかったが、彼女の指にはちゃんと指輪があった。
それはまだ、何も終わっていないということだ。諦める必要はない。
「よし、じゃあ約束だ!」
カガリが元気よく言った。
「約束するからには絶対に守れよ!絶対に破るなよ!いいな!?」
「わかった。守るよ」
「うん…けど、なんでカガリが威張るの?」
キラが首を傾げると、カガリが「いいんだよ!」と答え、3人は朗らかに笑った。
「僕がザフトに入る事だけはないから、心配しなくていいよ」
「そんな心配、誰もするわけないだろう」
フリーダムのコックピットでスタンバイしているキラに代わり、カガリは浮上したアークエンジェルのデッキでラクスを見送っていた。
ラクスはややピッタリした上着を着て、プラントで人気を誇っている「現在の」悲劇の英雄、つまりミーア・キャンベルそのものの姿になっていた。
比較的ゆったりした服装を好む彼は不本意そうだが、これも作戦のためだ。
バルトフェルドはもじゃもじゃのカツラをかぶり、医療班の男性医師はおつきの人に、女性陣はクライン・ガールズのような格好をさせられてもう随分前からブーイングの嵐が沸き起こっていた。
「じゃ、行きますか、英雄殿。いよいよ作戦開始だぞ!」
ヘリの操縦桿を握るバルトフェルドが陽気に宣言した。
「隊長!ラクスくんも!気をつけてくださいね!」
「ダコスタによろしく!あんまりいじめちゃダメっすよ!」
マリューたちクルーも皆、デッキまで見送りに来ている。
「そうだ。カガリくん」
「なんだ?」
タラップに向かいかけたラクスが振り返った。
「きみがアスランの連絡不精を知らないのは、無理もないんだ」
カガリは途端に大浴場での会話を思い出し、むすっとした。
(…知らなくて悪かったな…)
ラクスはそんなカガリを見ていたずらっぽく笑い、彼の耳元で囁いた。
「きみたちはこの2年間、呆れるくらいいつも一緒だったから」
カガリはしばらく黙っていたが、やがて見る見る赤くなった。
「…な…おまっ…!」
「そういうことだよ。じゃあね」
ラクスは爆音にかき消されながらも何か叫んでいるカガリを残し、軽やかにタラップを上がってヘリに乗り込むと、皆に手を振った。
それはまさしくプラントの「悲劇の英雄」そのものだった。
ヘリとフリーダムが彼方に消えると、カガリは無性に寂しくなった。
(ラクス・クラインの存在は、やはり何よりも大きい)
どうしたらいいのかわからなくなっても、ラクスの言葉を聞くと安心できた。
ラクスが示す未来は、いつだって皆に希望をくれる。
(あれが、俺には足りない「指導者の器」なんだろうか)
アスランとの決裂など予想だにしていなかった彼はかなり落ち込んでいたが、ラクスに大丈夫と言われると、もしかしたら本当に大丈夫かもしれないと思えてしまうのだから不思議だった。
けれど、ラクスにはもうあまり時間が残っていない。
(あいつ、きっともう、気づいてるんだろうな)
カガリは「生き抜く」という約束をかわそうと言った友を想いながら、春の青空に消えた機影を、いつまでも見送っていた。
「はいはいはいはい、どうもどうもどうも、あんじょうたのむで」
もじゃもじゃ頭のサングラス男がリムジンから降りると、群がる人々を「下がって下がって」と追いやった。付き人がリムジンの扉を開くと、人々が待ち構えていた「悲劇の英雄」、ラクス・クラインが現れた。
「みなさん、こんにちは!ラクス・クラインでーす!お疲れ様でーす」
明るく手を振る悲劇の英雄を一目見ようと、人々はわぁと歓声をあげて彼に手を振り、一斉にカメラを向けた。ラクスは愛想よく手を振り、綺麗な女性を見つけては近づき、一言二言交わしてその手にキスをする。
彼の後にいるクライン・ガールズは、いつもの大胆なセクシーさはない半面、恥らっている奥ゆかしさが新鮮で、男たちの格好の被写体になっていた。
「ラクス様こそ、数ヶ月にわたる基地慰安、本当に御苦労さまでした」
将校がラクスとマネージャーたちを迎え、控え室に案内した。
「これは僕のやるべき事だからね。皆、喜んでくれたかな?」
「もちろんですとも」
将校はにこやかに答えた。
「真の平和のため、人々のために戦うと兵も決意を新たにしております」
するともじゃもじゃのマネージャーがイライラしたように言った。
「早速で悪いんやけどなぁ、時間がないんや。ケツかっちんやさかい、シャトルの準備、はよしてんか!」
「あ、はい!いや、しかし…定刻より少々早い御到着なので、その…」
将校はにこやかに彼を接待していたが、実際は聞いていた到着時間よりかなり早い到着のおかげで、ディオキア宇宙港は大わらわになっていた。
「急いでるからはよ来たんや!せやからそっちも急いでーな!」
マネージャーがバンッと机を叩くと、将校ははいっと背筋を伸ばした。
「わかりました!ただちに!!」
ラクスのハロが「アカンデー!」とよそ行きの声を出した。
「ラクス様搭乗のシャトルは予定を早め、準備でき次第、発進となった。各館員は優先でこれをサポートせよ。繰り返す…」
宇宙港内に放送がかかり、あたりはにわかにあわただしくなった。
ラクスは頼まれた色紙にサインをし、女性兵士と握手をかわしてはにぎやかに過ごしている。綺麗な女性を見れば手を握ったまま離さず、「その髪型、とても素敵だね…きみのお名前は?」と口説いたり、男性兵士には功績を聞いて大げさに褒め称えている。
どれも、真のラクス・クラインならしたこともないような行為だっだ。
「そうなんだ?僕にはよくわからないんだけど、本当にすごいね!」
ラクスは取り囲む人々とおしゃべりに興じ、無邪気に笑っている。
(気にしていないような顔をして、さては腹に据えかねてたな?)
マネージャー役のバルトフェルドは、軽薄な偽者の雰囲気を見事にコピーしてみせているラクスを見て、内心笑いがとまらなかった。
(こりゃ本物の偽者…ってのは変な話だが、ヤツと会ったらどうなるやら)
「平和な世界のために、僕も皆さんと一緒に頑張ります」
その素っ頓狂な様子に、バルトフェルドがついに笑いをこらえきれず下を向いてしまうと、ラクスがにこにこ笑いながら彼を肘でつついた。
「どうかしたんですか?マネージャー」
「いやいや全く…くわばらくわばらだ」
「失礼します!シャトルの発進準備完了致しました」
ラクスとバルトフェルドがチラリと視線をかわした。
その頃、ディオキアの宇宙港にはもう一台リムジンが到着していた。
人が群がってから外に出ようと思うのに、誰も集まってこない。
「なんや、誰も出迎えに来てへんのかいな」
マネージャーが驚くと、ミーアも窓から外の様子を窺った。
しかし玄関前には彼を待つ人影などなく、静まり返っている。
2人は不思議そうに顔を見合わせたが、仕方なくそのまま車を降りた。
「ったく!僕が来たっていうのに!」
ミーアはぷりぷりしながらずかずかと廊下を歩いた。
「何なんだよ。どうして誰も…」
(そのためにちゃんと時間を知らせてあるんだから、ファンが集まるように周知しといてもらわないと困るじゃないか!)
そんなミーアを見て、つい今しがたラクス・クラインにサインをもらったり、握手をしたり、優しく抱きしめられたりした兵たちが目を見張っている。
「え?」
「ラクス様が、2人!?」
「はぁ?」
その雰囲気に気づき、ミーアはいぶかしそうに周囲を見回した。
すると一人の将校が首を傾げながら、おずおずと尋ねた。
「どうしてこちらに?」
「どうしてって…」
「ラクス様は、先ほどゲートに向かわれたはずでは?」
マネージャーとミーアはそれを聞いてはっと顔を見合わせた。
「まさか…」
「あかん…」
―― ラクス・クライン!?
バルトフェルドと数人の手下がシャトルのパイロットをコックピットから放り出すと、医師たちは器具を運び込み、キャビンに乗りこんだ。
「もう二度とこんな格好、しませんからね!」
「恥ずかしいったらありませんよ!」
女性スタッフに散々怒られて謝ったラクスもコックピットにやってきた。
「首尾はどう?」
「上々だ」
バルトフェルドは発進準備を整えていた。
「おい、どういうことだよ!?」
ミーアとマネージャーは大慌てで管制室に飛び込んだ。
シャトルの発進準備を進めさせていた将校はそれを見て仰天した。
「ラ…ラクス様!?」
「そんな、だって今しがたラクス様はシャトルに…」
呆気に取られて彼を見つめている兵たちに、マネージャーが言った。
「あかんで!あれ、ほんまもんや!」
「はぁ!?」
それを聞いてミーアが声をあげてマネージャーをにらみつけた。
(何を言ってるんだよ、このバカは!)
その目に気づき、マネージャーが慌てて訂正する。
「え?あ!ちゃうちゃう!パチもんや!名を騙る偽者やがな!」
将校はえ?え?とミーアとシャトルを見比べて躊躇した。
「あれは僕じゃない!シャトルを止めて!ほら、早く!」
ミーアが苛立ったように怒鳴りつけると、将校は慌ててシャトルを止めるよう命じた。それを受けて管制官が叫ぶ。
「シャトルを止めろ!発進停止!」
その途端、宇宙港に緊急警報が流れた。
「おやおや、気づかれたかな?」
バルトフェルドは既にエンジンが始動したシャトルの操縦桿を握っている。
ラクスも空いている通信士席についていた。
「すまんなぁ。ちょっと遅かった。さて、では本当に行きますよ?」
「うん。でも惜しいね。彼にはぜひ会ってみたかったよ」
「ここはひとまず『三十六計逃ぐるにしかず』だ」
シャトルは滑走路にむかって機首を向け始めた。
「モビルスーツを出せ!シャトルを行かせてはならん!」
かつてアスランがセイバーでカーペンタリアに到着した頃、各地の宇宙港に配備されていた機体があった。AMA-953バビである。
既にグフの生産ラインが整いつつあるが、先に配備が進んでいたバビは、現在は空戦用モビルスーツの主力機として実戦投入されており、各基地に8割方配備が完了している。
だが先日のダーダネルス攻防戦では、ミネルバが最後まで踏ん張ったため出番がなく、奇しくもディオキアではこれが初出撃となった。
「回せ!」
整備兵が腕をぐるぐると回して合図を送る。
ハンガーからはバビが続々飛び立とうとしていた。
「ラビ隊、バビ発進!」
「バイアル隊、進路クリアー!」
3機ずつの編隊を組み、三角のフォルムを持つバビが飛び立つ。
「アリステア隊、対空配備急げ!」
「マグリン隊、発進!」
さらにガズウート、対空砲がものものしく準備された。
「防衛隊が出たよ、隊長」
ラクスがレーダーを見ながら告げた。
バルトフェルドは加速に入っているが、シャトルは飛び立つと無防備となる。
なるべくタイミングをずらしたかったが、思った以上に配備が早かった。
「てえぇい!」
シャトルはさらに加速されていくが、後方からバビが近づいていた。
バルトフェルドは渾身の力をこめて操縦桿を引き、機首を上げた。
「くっそーっ!上がれー!」
射程に捉えられようとしたその時、シャトルは大空に飛び立った。
同時に、防衛圏外から見守っていたフリーダムが発進した。
(新型?小隊3…いや、4…全部で12機)
彼らがシャトルを射程に捉える前に墜とす必要がある。
バビがビームを放とうとした時、フリーダムは機体を射程に捉えていた。
「モビルスーツ!?」
「バカな、一体どこから?」
彼らが気づいた時は既に手遅れだった。
フルバーストに貫かれ、初陣だったバビはことごとく撃墜されていく。
キラは次に対空砲をことごとく撃ち落してそのまま宇宙港に降り立つと、ミサイルの発射口を全て潰し、もたついているガズウートを沈黙させた。
キラとフリーダムという最強コンビの早業により、数分で事は片付いた。
「一体…何が…?」
破壊され、沈黙した宇宙港ではミーアとマネージャー、そして「本物の」ラクス・クラインに散々愛想をふりまいた黒服の将校が呆然としていた。
(ラクス・クラインが…本物が…今、ここにいた)
ミーアは口を空けたまま空を見上げていたが、我に返ると怒りが沸いてきた。
そして「なんだよ、これ!」と怒鳴りながら足を踏み鳴らした。
「…今さら…何しにきたんだ!」
ミーアがそう怒鳴った途端、管制室の外をフリーダムが通り抜けた。
「うわあぁぁ!」
この牽制で強化風防ガラスが一斉に割れ、ミーアは驚いてしゃがみこむ。
(なんなんだよ!)
そして頭を抱えながら飛び去っていった白い機体を見上げた。
シャトルからフリーダムに通信を入れると、まだ何とか音が拾えた。
「ラクス!バルトフェルドさん!」
ラクスは雑音交じりのキラの声を聞き、礼を言った。
「ありがとう、キラ」
「ご苦労さん。大胆な英雄の発想には毎度驚かされるが、結果オーライだ」
「2人とも、気をつけて」
キラは消えていくシャトルを見上げながら言う。
「行って来るよ。カガリくんを頼む。彼を守ってあげてね」
「ラクスは俺たちがちゃんと守る。信じて任せろ」
徐々に互いの声が聞こえなくなった。もうシャトルの姿は見えない。
「お願いします!ラクス、約束を…」
「忘れ…な…よ………アス…ラ………じょ…」
「え?なに?聞こえないよ」
最後にラクスが何か言いかけたが、音声は途切れ、やがて沈黙した。
「またね、ラクス」
シャトルが残した雲を見つめながら、キラは呟いた。
(私たちは、きっとまた会える。それまでは、あなたと交わした約束を守りながら進もう)
キラはしばらく青空を見あげていたが、やがて北へと飛び立った。
上空から無防備にガイアのコックピットに駆け寄ったシンを見て、慌てて追ってきたのだ。
「シン!」
闇の向こうからアスランの声が聞こえたので、シンははっと振り返った。
その途端、腕の中のステラが咳き込みながらうわごとのように言う。
「ゴホゴホッ…死ぬの…だめ…」
―― 怖いよ…守る…母さん…怖い…死ぬ…
とりとめもない単語が血を吐くステラの口からこぼれ、それを聞いたシンはこらえきれずに彼女を抱き締めた。
(俺のせいだ…俺が…ステラを傷つけた…!)
そしてそのまま彼女を抱き上げるとガイアのコックピットを飛び出した。
「…シン?シン、何を…!?」
アスランはシンが敵兵を抱いている姿を見て驚き、立ち止まった。
その間にシンはインパルスのコックピットに駆け込み、急発進する。
巻き起こった突風から眼をかばいながらインパルスを見送ったアスランは、急いでセイバーに戻るとミネルバのチャンネルを開いた。
「こちらアスラン・ザラ。グラディス艦長!」
「一体どうしたの、アスラン。シンは!?」
バートからガイアを撃破したインパルスが発進し、飛び去ったと聞いたタリアたちも、事情が飲み込めていないようだ。
「わかりません。ですが、負傷したと思われる敵のパイロットを連れてミネルバへ…」
アーサーもタリアも驚いてモニターのアスランを覗き込んだ。
「何ですって!?」
「そんな、何を勝手に…!」
「すぐに追います」
アスランはそう言うとセイバーを発進させた。
ただならぬ様子に驚いたタリアは、後をアーサーに任せ、艦に戻る事にした。
「はい!…って、ええぇ~!?」
「レイにガイアの回収をさせて!」
ここに残されると気づいてゲンナリした顔のアーサーにそう言い残すと、タリアは急いで車を回させた。
ミネルバでは夜勤シフトの整備兵が、突然着艦したインパルスに驚いていた。
着艦オペレーションはもちろん、連絡すら入っていないので警報がうるさい。
「インパルス帰投?」
騒ぎを聞きつけ、詰め所で仮眠を取っていたヴィーノが出てきた。
「何だ?いきなり」
もうじき交替のヨウランもあくびをかみ殺しながら様子を見ている。
「わかんないけど、調査終わったのかな、あの施設の…」
やがてインパルスがハンガーに入り、シンが姿を現す。
「シン!お疲れ!」
ヴィーノはいつものようにひと懐っこい笑顔を浮かべて声をかけた。
しかしいつもなら手を振るシンは何も言わずラダーを降りてくる。
彼の腕の中には女の子が抱かれていて、ヴィーノは眼を見張った。
「何だよ、シン…その子、一体?」
「うるさい、どけっ!」
驚いて指を差したヴィーノを、シンは邪険に突き飛ばした。
「うわっ!」
ヴィーノはよろけて壁にぶつかり、ヨウランは驚いて彼を支えた。
「大丈夫かよ。あいつ…どうしたんだ?」
シンはそのままミネルバの艦内を走り抜けた。
「死ぬの…だめ…」
ステラの体は温かいが、弱弱しい声がシンを急かす。
「どいてくれ!」
廊下を曲がったところでぶつかりそうになり、女性兵士が慌てて横によけた。
「おい、何だ!?」
おかげで彼女の前にいた男性兵士にシンの肘がぶつかって文句を言われたが、シンは振り返りもせず、ただまっすぐ医務室を目指す。
「守る…」
「大丈夫、もう大丈夫だから!」
シンは苦しそうなステラに必死に呼びかけながら走り続けた。
(きみのことはちゃんと、俺がちゃんと守るって…俺は…!)
「先生!この子を…早く!」
「一体何だね?」
先ほどシンとレイを診てくれた軍医が、開いた扉から叫ぶ声に振り向いた。
歩み寄った看護兵がシンが抱いている少女を見てさっと顔色を変える。
「その軍服、連合の兵士じゃないの…!」
「連合?」
彼らはシンの腕の中で「怖い…守る…」とうなされるステラを覗き込んだ。
「勝手に連れて来たのか?私は何の連絡も受けてはいないぞ」
「でも、怪我してるんです!だから…」
シンが一歩踏み出すと、彼らはそれにつられて逆に下がった。
「だが、敵兵の治療など、艦長の許可無しでできるか」
シンは軍医の言葉に苛立ち、ちっと舌打ちした。
「そんなものはすぐ取る!だから早く!」
「死ぬのは…」
こんなに大怪我のステラを見ても、軍医も看護兵も危険物でも見るような顔をするだけで手を出そうとはしない。
その態度に怒りを覚え、しかもステラがうわごとを繰り返すのを聞いて焦ったシンは、ついうっかりその言葉を言ってしまった。
「死んじゃったらどうするんだよ!」
その言葉を聞いてステラが覚醒した。
「ううっ…死ぬのは…だめ…!」
シンの腕の中でぐったりしていたステラが、突然跳ね起きた。
シンがはっとしたのと、彼女がシンを突き飛ばしたのは同時だった。
ステラは叫びながら仰向けに倒れたシンに飛び掛り、拳で殴りつけた。
「うわッ!」
容赦なくふりかかる拳を腕で防ぎながら、シンはステラの手首を掴んだ。
(なんて力だ!)
か弱い少女の細腕にしか見えないのに、男のような力強さに驚く。
「やめろ!ステラ!」
「ええぇい!」
シンは力任せに彼女を横向きに倒して押さえつけようとしたが、ステラはそれを察知してジャンプした。ウサギのような、人間離れした跳躍だった。
「シン!」
アスランが医務室に駆けつけた時、ステラは次の獲物に向かっていった。
ステラは呆然としていた看護兵に飛びかかると、彼女の首を絞め始めた。
年配の軍医は腰を抜かしたように床に座り込み、動けずにいる。
「うう…っ!」
「ステラ!やめろ!」
シンが起き上がって彼女を止めに走った時、騒ぎを聞きつけて参集した警備兵が、一斉に銃を構えた。
「待て!発砲するな!」
アスランは手を上げて彼らを止めた。
(今撃てばシンや看護兵に当たる…それにあの子は、ディオキアの…)
シンはその間にステラを羽交い絞めにし、看護兵から引き離した。
「今のうちに彼らの救助を」
アスランは警備兵に軍医と看護兵を部屋から連れ出すよう命じた。
「ステラ…ッ!」
シンは暴れまくるステラを部屋の隅に引きずり、そこで必死に抑えている。
「シン!?」
ガイアとインパルス、セイバーが戦っている最中にちょうどジャイロで戻ったルナマリアも何事かと駆けつけてきたが、その光景に驚いていた。
「下がって、ルナマリア」
「…あ、アスラン、これは…?」
拳で殴られたシンの顔は腫れあがり、口を切って血が流れている。
地球軍の兵士は叫びながら暴れ、時折ゴホゴホと咳き込んで血を吐いた。
「ごめん、ステラ!悪かった!」
怒りとも恐怖ともつかない叫び声をあげる彼女を、シンは必死に抑える。
「もう大丈夫だから!落ち着いて!」
「いやあぁぁ!」
絶叫し、ついにステラは気を失ってぐったりとシンの腕にもたれた。
シンはそのまま動かなくなった彼女を強く抱き締めた。
(一体、何が起きたの?あの子、誰?)
アスランに庇われたルナマリアは、そんなシンを見て声もなかった。
「艦長…あの…!」
ミネルバに到着したタリアは、ステラに治療を施すよう軍医に命じた。
それからこの騒ぎの張本人であるシンを連れて歩き出すと、アスランが追ってきて彼女に声をかけた。
「何?」
アスランは強張った表情の彼女を見て一瞬ためらい、そして言った。
「私も、同席させていただけませんか」
「あなたが?なぜ?」
タリアは怪訝そうな顔をし、シンも少し驚いたようだった。
(アスラン…)
「私もディオキアで彼女に会っており、事情も少し聞いています」
そう言ってシンを見ると、シンもまたアスランを見つめ返した。
「シンの行動は確かに問題ですが、彼にも言い分があると思いますし…」
その言葉に、タリアは苛立ちを隠さず言った。
「悪いけど、あなたの弁護も意見も必要ないわ」
「ですが、艦長…」
「シン・アスカの直属の上官は私です!」
タリアは食い下がるアスランをぴしゃりと跳ね除けた。
「それとも、FAITH権限を使う?そうなれば私も無論、行使するけど」
そう言ってくるりと背を向けた彼女を、アスランはただ見送るしかない。
けれどその時、シンがチラリと後ろを振り返り、素早く手を動かした。
「…どうも、って」
「え?」
アスランが振り向くと、ルナマリアも彼らを見送っていた。
「シン、どうなるんですか?」
艦長と彼女の会話を聞いていたルナマリアが、不安そうに聞いた。
(帰ったらアスランとどう接したらいいんだろう)
あれこれ考え、悩んでいたのに、そんなものは全部吹っ飛んでしまった。
(もし、シンに何かあったら…)
そう思うとルナマリアは心細くなり、心臓がどきどきと脈打った。
そしてふとアスランを見上げた。
(アスラン…シンを庇おうとしてくれたんだ…)
少し安心できたルナマリアが、おずおずと尋ねる。
「シンはどうしてあんな事…一体、何があったんですか?」
アスランは困ったように彼女を見た。本当に、今日はなんという1日だろう。
「敵兵の艦内への搬送など…誰が許可しました?」
タリアの冷たい声に、シンは直立不動のまま黙りこくっている。
口元にはまだ血が滲み、あの捕虜の爪で引っかかれでもしたのか、手や首にひどいみみず腫れがあった。その傷を見てタリアは大きくため息をついた。
「あなたはパイロットなのよ。なんて無茶なことをするの」
タリアはこの後きちんと治療を受けるようシンに命じてから話し始めた。
「あなたのやったことは軍法第二条第四項に違反!第十一条第六項に抵触!」
軍法を読み上げたタリアは、シンの行為がいかに違法性が高いかを告げる。
「とてつもなくバカげた重大な軍紀違反なのよ?これで艦内に甚大な被害が出ていたらどうするつもりだったの!?」
タリアは冷静であろうと心がけていたが、今日一日の疲れも重なり、ふつふつと沸く怒りを抑える事ができなかった。
「申し訳ありません」
けれどシンはいつになく殊勝だった。
いつもなら今日の自分たちへの探索指令を逆手に取り、口答えのひとつやふたつはしそうだったが、何も言わずにタリアの言葉を聞いている。
「全く…赤服にあるまじき暴走よ、シン」
「…わかっています」
シンは神妙な面持ちで視線を落としている。
そんな彼の珍しくしおらしい態度は、タリアの心を少しずつ落ち着かせた。
アスランに言われるまでもなく、シンの言い分も聞いてやるつもりではいた。
「知っている子だということだけど、ステラ?一体いつどこで?」
「ディオキアの海で…溺れそうになったのを助けて…」
「ああ、アスランが救助に行った、あの時ね」
シンは「はい」と返事をした。
(なるほど)
タリアは少しは事情を知っていると言った彼女に納得した。
「なんか…よくわかんない子で、俺…いえ、自分は、その時は彼女も、戦争の被害にあった子だと…」
パニックや幼児退行しているような言葉遣い、記憶の混濁。
それは皆、シンが見てきた戦争の被害者と同じ様相を呈していた。
「でも、あれはガイアのパイロットだわ」
タリアが言い捨てた。
「それに乗ってたのだから…わかるでしょ?」
さらに、タリアは(もしかしたら)と思っていた。
アーモリーワンであの機体を強奪した手腕、その後コーディネイター用の機体をやすやすと乗りこなし、シンやレイと互角に戦い続けている能力。
(考えたくはないけれど、場所が場所だし、考えてしまうわよね)
その時、艦長室にコールが入った。
「艦長、ちょっとおいでいただけませんか?」
それは軍医からの呼び出しだった。
シンは不安な気持ちになり、同行させて欲しいと求めた。
「首絞められたって?その連合のパイロットに」
「ほんと、ひどい目に遭ったわ、まったく!」
ヴィーノとメイリンは休憩室で、襲われた看護兵の話を聞いている。
夜勤明けのヨウランも興味津々だったが、眠気に勝てず引き上げていた。
「すごい力なのよ。殺されるかと思った」
「でも何でシン、そんな子と?」
シンに突き飛ばされた事がかなりショックだったヴィーノが尋ねると、彼らの後ろから聞き慣れた声がした。
「ディオキアで、溺れてるところを助けたんだって」
「姉さん!?いつ戻ったの?」
メイリンがぱっと顔をほころばせた。
「シンは戦争の被害にあった、ちょっと可哀想な子だって思ったらしいわ」
ルナマリアはアスランが教えてくれた2人の事情を語って聞かせた。
「ところがそれが、ガイアのパイロットだったってわけ?」
「そう…ハイネを殺した…ね」
それを聞いて皆がざわめく。
(シン…あの娘を抱き締めてた)
シンが彼女にこだわる理由ももちろんだが、家族を目の前で失って以来、人との身体的接触が苦手になったという彼の症状を知るルナマリアは、シンが自分から彼女に触れていた事が気になっていた。
(抱き締めて、ごめん、ごめんって、何度も謝ってた…)
ルナマリアは首を傾げ、自分の中にある憂鬱を振り払おうとした。
シンはタリアの後について、再び医務室に入った。
そこで眼にしたのは、ベッドにがっちりと拘束されたステラの姿だった。
「…何でこんなこと!!」
シンは驚いて彼女に駆け寄り、医師に抗議した。
「ケガ人なんですよ、彼女は!そりゃ、さっきは興奮して…」
「そういう問題じゃない」
軍医は落ち着いて答えた。
「どうやらこの子は、あの連合のエクステンデッドのようなんでね」
それを聞いたシンは声をあげた。
(ステラが…あの研究所で死んでいた子供たちと同じ、エクステンデッド?薬漬けにされた、強化兵士?)
タリアは自分の予想が当たったことを知り、眠る彼女を見つめた。
軍医は今は薬で眠らせたが、その効果の持続は読めないと言う。
「治療前に簡単な検査をしただけでも、実に驚くような結果ばかり出ましてね。まず、様々な体内物質の数値がとにかく異常です」
医師はボードに記されたカルテを見ながら事実を述べた。
「また、本来なら人が体内に持たないような物質も多数検出されています」
シンは言葉もなくその報告を聞いていた。
軍医は薬を使っているであろうこと、彼女の検査結果が研究所の子供のデータに酷似している事も伝えた。
「戦闘での外傷もかなりのものがありますが、とにかくそんな状況ですので、これでは治療といっても何がどう作用するのか、よくわかりません」
シンは黙ってステラを見つめていたが、突然彼女が眼を開いた。
鎮静剤を投与したのに、こんな風にいきなり覚醒するのはやはり異常だった。
ステラは血走った眼でぎょろぎょろと周囲を見回す。
「ステラ!」
シンは彼女の枕元に寄ったが、ステラは彼を見て叫んだ。
「…何だ、おまえは…?」
シンはその言葉に驚いて少し身を引いた。
(覚えてない…俺を?)
ステラはここが自分の知っている場所ではないと気づくと、暴れ始めた。
「く…ぐッ…ぐッ…!!」
もちろん、どんなに暴れても彼女を抑えたベルトは外れない。
しかしその激しい暴れっぷりにシンは呆然とし、軍医が彼を制した。
「離れて!」
「ステラ…」
握り締めた自分の爪先が手のひらに食い込んでも、ベルトがこすれて腿や脛などの皮膚の柔らかい部分から出血しても、そもそも傷や火傷の痛みすらも感じていないのか、ステラは狂ったように暴れている。
もしかしたら彼女は自分の身の安全など考えていないのかもしれない。
それほどまでに激しい抵抗だった。
「ステラ、やめろ…だめだ、そんなに暴れちゃ…」
その姿を見て、シンはいたたまれなかった。
ディオキアで溺れたあの時、パニックを起こして暴れる彼女に、「きみを守る」と約束したのは自分だ。
それを聞いたステラは落ち着き、優しく、可愛らしく笑ったのだ…手をつなげば素直についてきたし、呼べば子犬のように慌てて走ってきた。
無防備すぎて驚かされたけれど、ステラの体は温かくて、柔らかくて、抱き締めていると自分まで眠くなってしまいそうだった。
(誰かが守ってあげなきゃいけない、弱くて頼りない子なんだ)
そんな彼女を、守るといった彼女を、自分は傷つけた。
ひどい傷を負わせ、治療しようと連れて来たミネルバでは拘束され、怯えて暴れる彼女は、目の前でさらに傷ついていく…
シンは思わず、ステラの肩を抱き締めた。
「ステラ!大丈夫だよ、ステラ!大丈夫だ!」
タリアも軍医もシンのその行為に驚いた。
「きみ、離れるんだ!噛みつかれでもしたら…」
「やめなさい、シン!」
2人が引き離そうとしたがシンはそれを乱暴にふりほどき、暴れるステラに呼びかけ続けた。
「僕がいるから!落ち着いて…わかるだろ?僕だ、シンだよ!」
ステラがふとシンの顔を見たので、シンは思い出してくれたのかと一瞬顔を輝かせた。けれどそんなものは甘い幻想に過ぎなかった。
「…知らない…あんたなんか知らない!」
ステラは憎しみのこもった眼でシンを睨みつけると叫んだ。
シンはその恐ろしい形相に思わず立ち上がり、よろけた。
やはり覚えていない…あの時、自分の名前を呼んでくれたのに…
「ネオーッ!ネオーッ!!」
ステラはネオを呼び、さらに暴れ続ける。
「ステラ!聞いて、ステラッ!」
それでもシンは懸命にステラを呼んで意識を向けようとした。
「無駄だよ、やめなさい」
やがて軍医が言った。
「彼女は脳波にも奇妙なパターンがみられるんだ。意識や記憶や、そんなものも操作されている可能性もある」
一生懸命なシンを哀れに思い、軍医はステラがいかに人として色々なものを失っているかを告げた。シンには伝えていないが、彼女には生殖器官もない。
感覚も、感情も、思考も、恐らくは手を加えられているのだろう…
「記憶がなければきみのことも覚えていまい。諦めなさい」
軍医は看護兵にさらに鎮静剤を投与すると言い、準備を命じた。
「覚えて…ない…」
シンは息を呑んだ。
「いや…ここ…」
鎮静剤を投与され、暴れ続けていた彼女の体力も限界を迎えた。
ステラの動きがゆっくりと止まり、表情がなくなっていく。
「記憶をって…そんな、まさか…」
ネオ…そう呟いて、ステラは再び昏睡に陥った。
「ロドニアのラボの件はともかくとしましても、ステラ・ルーシェに関しましては、もはや損失と認定するように、とのことです」
上からの伝達を伝える将校の言葉に、ネオはため息混じりに答えた。
「迂闊だったよ、俺が」
「大佐は実によく彼らを使いこなし、その功績はジブリール氏も…」
「ああ、もういい、そんな話は!」
ネオはお仕着せの「お褒めの言葉」を遮った。
ジブリールとはそういう男だ。
金は使い放題だが、こちらの想いや感情の機微などこれっぽっちも考慮しない。
彼にとっては全てが「役に立つか、立たないか」で分けられる「道具」に過ぎないのだ。
「損失…か。そういう言葉になるんだろうがね、軍では」
ステラは探される事もなく、このまま遺失物扱いだ。
そんな嫌味を目の前の将校に言ったところで仕方がない。
「ま、いいよ。もうわかった」
伝令役の彼を下がらせると、ネオはラボの研究員を振り返る。
「すまんが、2人からステラの記憶を…」
研究員たちはその言葉にええっ、とどよめいた。
「消すんですか!?それはちょっと…大仕事になりますよ?」
「何しろ、昨日今日あったことじゃありません。あの3人はラボからずっと一緒に育ってきたようなものですから」
大仕事を命じられ、研究員たちはにわかに色めきたった。
「記憶が虫食いになると、何より精神がひどく不安定になりますし…」
仮面の奥の表情は窺い知れないが、ネオはため息をついた。
(初めから何もなければ悩む必要もない…忘れてしまえば、苦しまない)
ネオはブロックワードの発動によって入念に調整されているアウルと、何も言わないが、ステラの行方を案じているスティングを思い出した。
(大切な人も、心から愛した人も、忘れてしまえば…)
そう思った時、心地のいい優しい風が彼の心に触れた気がした。
それは温かく、優しく、強く…けれどもろくはかない、不思議な感覚だった。
(何を考えているんだ、ばかばかしい!)
ネオは咄嗟にその感覚を否定した。
そして改めて研究員にスティングとアウルの記憶操作を頼んだ。
「わかっているが…頼む」
彼らは顔を見合わせ、そして答えた。
「わかりました。すぐに始めます」
やがてミネルバは次の寄港地に向けて発進し、艦内は表向き静寂を取り戻したように見えた。
タリアは結局、厳重注意のみでシンには特に罰則を与えなかったので、それを聞いたルナマリアもレイも顔を見合わせ、ほっと安堵した。
2人とも捕虜のいる医務室につきっきりのシンを何度か見に行ったのだか、彼の真剣で真摯な姿を見ると、いつも声をかけそびれてしまうのだった。
アスランもまた何度か様子を見に行った。
ステラは薬で昏々と眠っている事が多く、シンはその傍らでいつも静かに彼女を見守っていた。アスランもまた、そんな彼に何も言えずにいた。
(キラ…これが連合のしている事よ)
アスランはあの日以来、ここにいないキラに問いかけ続けていた。
プラントから公式に発表したわけではないが、ロドニアのラボのことは各国のプレスも掴んでおり、連日のように世界中に発信されていた。
世界の反応は大きく、これは連合による人体実験であり、かつてない非人道的行為であると、非難の声は日ごとに大きくなっている。
彼らもきっとどこかでこの情報を眼にし、耳にしているに違いなかった。
(こんな事、許せるわけがない。だから一日も早く終わらせなければ)
なのにキラは、自分にこのままザフトとして連合と戦い続けるのかと聞いた。
(それに、オーブとも戦うのかと。このままずっと戦い続けるのかと…)
当惑したように自分を見るカガリの顔が浮かび、アスランは眼を伏せた。
(仕方ないじゃない。連合がやっている事をそのままにはしておけない)
アスランはタブレットを手にとり、ラクス暗殺の手がかりを調べようと起動した。
けれどなんとなく気が乗らず、それをぽんと投げた。
「何が正しいのか…わからない…」
ポツリと独り言を呟くとそのままベッドに倒れこんだ。
彼らを怒鳴りつけたくせに、自分はまた、道を見失いかけている。
そして首に下げたハウメアの守り石と、それに通した指輪を見つめた。
なんだか、ひどく疲れてしまった…アスランは双の眼を閉じた。
「こんばんは、シン」
「どうも。どうですか、今日は?」
看護兵はすっかり顔見知りになったシンに挨拶をした。
シンはあの後すぐ、彼女を危険な目に遭わせた事を心から詫びた。
その後も毎日、意識のないステラに一生懸命話しかけるシンを見てきた看護兵は、最近は彼が訪ねてくると気を利かせて退室するようになった。
「今日はずっと眠ってるわ。もし起きたら、知らせてね」
「わかりました」
この日、シンはステラにもらった小さな貝殻を持って来ていた。
「ネオ…」
薬で眠らされているステラがうわごとのように呟く。
シンはビンに入れた貝殻を見ながら、ステラの哀しい運命を想った。
「何も…覚えてないなんて…きみが…ガイアに乗ってたなんて…」
ハイネを殺したのは、ステラだった。
アーモリーワンで、デブリ帯で、ユニウスセブンで、俺たちは戦った。
「インド洋で、崖の上からとびかかってきたのもきみだったんだね」
俺たちは互いを知らず、敵と信じて戦い、敵と知らずに出会った。
しかも、きみは連合にひどい事をされていた。
「あんなところに…いた子だなんて…」
シンはやりきれなくて下を向いた。
オーブに…国に見捨てられるどころじゃない。
ステラは、世界に、運命に、全てに見捨てられた子じゃないか。
親も兄弟もいたのかすらわからず、思い出すらもなく、薬漬けで殺し合いの訓練をさせられて…俺たちコーディネイターと戦う「生物兵器」だったんだ。
「なんだよ…なんだよ、これ……ひどいよ…」
何もわからないまま兵に仕立てられたステラには何の責任もない。
理不尽な力に家族を奪われ、1人ぼっちで苦しんだ不幸を呪ってきたシンは、自分の運命を呪うことすら、恨むことすらできない彼女を見て胸を痛め、呟き続けた。
「ステラ…」
「……シン?」
その声に、シンがはっと顔をあげる。
(今、俺の名前を…?)
シンが彼女を見ると、ステラは眼を開け、穏やかに微笑んでいた。
「シン…」
「あ…ステラ…」
シンの顔が見る見るうちにほころんだ。たとえようもないほど優しく。
「…会いに来た?シン…」
「…うん、うん、ステラ…」
その言葉を聞いて、シンの瞳に涙が浮かんだ。
(ああ、この子は…ずっと信じていたのか)
あの時…気休めのように言ってしまった言葉。
会いに行くよと、そんな事できるはずないと知っていたのに、口約束をした。
そんな自分勝手な約束を、ステラは覚えていたのだ。
「俺、わかる?」
「うん。シン」
我ながらみっともないと思う。
微笑んでる女の子に、泣きながら話しかけるなんて…
「…約束、ちゃんと…守ったよ…」
「うん。守った」
嬉しそうなステラの顔を見ていると、泣けて泣けて仕方がない。
シンは袖で涙をぬぐい、笑おうとするのだがすぐ涙にまみれてしまう。
そんな半泣き半笑いをしているシンを見て、ステラも優しく笑った。
ありがとう、ステラ…
俺を思い出してくれてありがとう…
あんな約束を覚えていてくれてありがとう…
なら、俺も必ず約束を守る…きみを守るという約束を…
シンはステラの額にそっと自分の額をつけた。
2人は眼を閉じ、その穏やかなぬくもりを感じあう。
こうして誰かと触れ合う事を、シンはもう2度と嫌だと思うことはなかった。
ミネルバの医務室でシンとステラがようやく本当に再会できた頃、アークエンジェルの医務室でも、やや慌しい動きがあった。
キラとカガリが出かけている数日間のうちに、ラクスが熱発したのだ。
「疲れからくる、ごく軽い肺炎でしょう」
医師は言ったが、ラクスの場合、何が大きなリスクになるかわからない。
カガリは枕元で、点滴を受けて眠る彼の寝顔を見つめていた。
そして時折バイタルをチェックし、記録する。
やがてキラがやってきて、2人は静かに並んで座った。
「おかえり」
ふと気づくと、ラクスが眼を覚まして微笑んでいた。
「アスラン、元気だった?」
キラもカガリも一瞬妙な顔をしたが、カガリがぎこちなく笑って答えた。
「ああ。元気だったよ。変わってなかった」
「そして、ザフトに戻ってた?」
それを聞いてうっ…と2人が言葉に詰まる。
「初めからお見通しかよ」
「あちらにはアスランが選びそうな選択肢が用意されてたんだろう」
それでも浮かない顔の2人を見て、ラクスが穏やかに言った。
「気にする事はないよ。彼女のことだ、相当強がりを言ったんだろうけど、今頃きっと、自分が言ったことに悩んで悩んで悩みまくってるだろうから」
ラクスはカガリに背を起こしてもらい、「それで?」とキラに尋ねた。
「何が本当か、アスランの言うこともわかるから…」
キラは浮かない顔で、決裂してしまったアスランとの再会を思い返した。
「議長が、アスランの言うように本当にラクスの暗殺やユニウスセブンと関係なかったとして、本当に平和を望んでいたとして…そうなると…」
そこまで言うと、キラは小さくため息をつく。
「また…よくわからなくて…」
「そうだね」
ラクスがハロを手に取った。
「プラントが、本当にアスランの言う通りなら、私たちは…」
「間違ってるってことになる?」
ミトメタクナイ!とハロがパタパタと耳を開く。
その続きはカガリが引き取った。
「オーブにも問題はあるが、国に戻れない今、どうするのが一番いいのか…」
「わからないね」
テヤンデー!とハロがラクスの手を飛び出して部屋中を飛び跳ねた。
「僕は、今のザフトの動きはとても面白いと思ってるんだ」
ラクスが言った。
「英雄戦争、と僕は呼んでるけど、これによって結果的にナチュラルとコーディネイターが以前より理解を深め合っている。いいことだろ?」
うん、と2人は頷いた。
「連合の非道は収まりつつあり、人体実験なんていう悪事も暴かれた」
「それも、いいこと…だよね」
キラが言う。
「ただ、連合はこのまま黙ってないだろうね」
「うーん…まぁ、何らかの動きはあるかもな」
カガリが連中の事だから、と肩をすくめた。
「それをまたザフトが見事に叩けば…」
キラはついに問答にしびれを切らし、「どういうこと?」と聞き返した。
「この戦争が終わったら、世界はどうなるんだろう」
ラクスの言葉の意図がわからず、キラとカガリは顔を見合わせた。
「どうって…そりゃ、きっとまた…」
カガリはそう言いかけたが、すぐに口をつぐんでしまった。
(前大戦が終わった時と同じように、世界は懸命に平和になろうとし、けれどやがて混乱し、不安になり、道を誤り、そして、また…)
再び押し寄せてきた「戦争」の流れに、なす術もなかった苦い想いが蘇る。
「いや、そうじゃない」
考え込んでいたカガリは、ラクスのその言葉にはっと顔を上げた。
「世界をどうするつもりなんだろう、彼は」
「デュランダル議長が…何かすると思うのか、おまえは?」
カガリは少し驚いたように尋ねた。
「人々を解放する戦いは、良心や正義に響くだろう?誰かに与えられる大義より、それぞれが見出した大義は、自由を感じさせ、意識を高める」
ラクスはオマエモナー!と言いながら戻ってきたハロを受け止めた。
「しかも誰もそれを重荷に思わず、自分の意志でやっていると思ってる」
ラクスはやや厳しい顔つきで呟いた。それはまさに政治家の顔だった。
「ここまで色々なものに役割を分担させる議長の手腕は実に見事だ。そんな彼が目指すその先の未来こそが、僕は気になるんだよ、とても…」
カガリもキラも呆気に取られた。
自分たちが目先のことでバタバタしているというのに、目の前にいるこの病弱な青年は、一体どれだけ遠くを見通しているのだろうか。
(くそぅ、また差をつけられてんなぁ、俺)
カガリは内心で悔しがった。
代表になったことで、少しはラクスと肩を並べられたかと思ってたのに、相変わらずちっとも追いつけていないとひしひしと感じてしまう。
「だから、見てきたいんだ」
キラは「え?」と驚いた。
「プラントの様子を」
ええっ!?と声をあげ、キラもカガリも立ち上がった。
「道を探すにも、手がかりは必要だろ?」
「そんなのダメだよ!ラクスは…プラントには…」
キラが驚いて止めても、ラクスは涼しい顔だ。
「大丈夫だよ、キラ」
「大丈夫って、おまえ、今だって倒れたじゃないか」
カガリも点滴の針を抜去しながら言う。
「医療班には着いてきてもらえる事になってる。それに、ファクトリーもちゃんと見ておきたい。新しい機体を造りたいという希望も出されてるし」
ラクスは固定の解かれた腕をほぐしながら言った。
「実はもうバルトフェルド隊長にも、地球脱出の方法を相談してるんだよ」
どうやらすっかり根回しは終わっているようだった。
けれどキラはまだ渋い顔をしていた。
ラクスを狙う最大の懸念はなくなったものの、議長が怪しいのならプラントはどこもかしこも危険な事に変わりはなかった。
自分が守れる範囲に彼がいないのは、キラにとって不安以外の何物でもない。
「僕ももう、大丈夫だから」
そんなキラの頬に触れ、ラクスが言う。
「僕も行くべき時なんだよ。行かせてくれるよね?キラ」
キラはラクスを見、カガリを見て、ふぅと息をついた。
「もう決めてるくせに…ずるいよ、ラクス」
それからキラは「本当に、本当に気をつけてね」と言った。
ラクスは微笑み、それから思いついたように言った。
「そうだ、キラ。僕と約束をしよう」
「え?」
キラはきょとんとしてラクスを見つめた。
「カガリくんも」
「俺も?何を?」
ラクスはにっこりと笑った。
「全てが終わるまで、僕たち全員、無事に生き抜くことを」
それを聞いたキラは笑顔になって頷いた。
「うん、いいね!約束しよう」
「キラも、カガリくんも、僕も…今はここにいない、アスランも」
(アスランも…)
心の中でその名を繰り返すと、カガリの心に彼女の姿が蘇った。
表情は硬く、口調は厳しかったが、彼女の指にはちゃんと指輪があった。
それはまだ、何も終わっていないということだ。諦める必要はない。
「よし、じゃあ約束だ!」
カガリが元気よく言った。
「約束するからには絶対に守れよ!絶対に破るなよ!いいな!?」
「わかった。守るよ」
「うん…けど、なんでカガリが威張るの?」
キラが首を傾げると、カガリが「いいんだよ!」と答え、3人は朗らかに笑った。
「僕がザフトに入る事だけはないから、心配しなくていいよ」
「そんな心配、誰もするわけないだろう」
フリーダムのコックピットでスタンバイしているキラに代わり、カガリは浮上したアークエンジェルのデッキでラクスを見送っていた。
ラクスはややピッタリした上着を着て、プラントで人気を誇っている「現在の」悲劇の英雄、つまりミーア・キャンベルそのものの姿になっていた。
比較的ゆったりした服装を好む彼は不本意そうだが、これも作戦のためだ。
バルトフェルドはもじゃもじゃのカツラをかぶり、医療班の男性医師はおつきの人に、女性陣はクライン・ガールズのような格好をさせられてもう随分前からブーイングの嵐が沸き起こっていた。
「じゃ、行きますか、英雄殿。いよいよ作戦開始だぞ!」
ヘリの操縦桿を握るバルトフェルドが陽気に宣言した。
「隊長!ラクスくんも!気をつけてくださいね!」
「ダコスタによろしく!あんまりいじめちゃダメっすよ!」
マリューたちクルーも皆、デッキまで見送りに来ている。
「そうだ。カガリくん」
「なんだ?」
タラップに向かいかけたラクスが振り返った。
「きみがアスランの連絡不精を知らないのは、無理もないんだ」
カガリは途端に大浴場での会話を思い出し、むすっとした。
(…知らなくて悪かったな…)
ラクスはそんなカガリを見ていたずらっぽく笑い、彼の耳元で囁いた。
「きみたちはこの2年間、呆れるくらいいつも一緒だったから」
カガリはしばらく黙っていたが、やがて見る見る赤くなった。
「…な…おまっ…!」
「そういうことだよ。じゃあね」
ラクスは爆音にかき消されながらも何か叫んでいるカガリを残し、軽やかにタラップを上がってヘリに乗り込むと、皆に手を振った。
それはまさしくプラントの「悲劇の英雄」そのものだった。
ヘリとフリーダムが彼方に消えると、カガリは無性に寂しくなった。
(ラクス・クラインの存在は、やはり何よりも大きい)
どうしたらいいのかわからなくなっても、ラクスの言葉を聞くと安心できた。
ラクスが示す未来は、いつだって皆に希望をくれる。
(あれが、俺には足りない「指導者の器」なんだろうか)
アスランとの決裂など予想だにしていなかった彼はかなり落ち込んでいたが、ラクスに大丈夫と言われると、もしかしたら本当に大丈夫かもしれないと思えてしまうのだから不思議だった。
けれど、ラクスにはもうあまり時間が残っていない。
(あいつ、きっともう、気づいてるんだろうな)
カガリは「生き抜く」という約束をかわそうと言った友を想いながら、春の青空に消えた機影を、いつまでも見送っていた。
「はいはいはいはい、どうもどうもどうも、あんじょうたのむで」
もじゃもじゃ頭のサングラス男がリムジンから降りると、群がる人々を「下がって下がって」と追いやった。付き人がリムジンの扉を開くと、人々が待ち構えていた「悲劇の英雄」、ラクス・クラインが現れた。
「みなさん、こんにちは!ラクス・クラインでーす!お疲れ様でーす」
明るく手を振る悲劇の英雄を一目見ようと、人々はわぁと歓声をあげて彼に手を振り、一斉にカメラを向けた。ラクスは愛想よく手を振り、綺麗な女性を見つけては近づき、一言二言交わしてその手にキスをする。
彼の後にいるクライン・ガールズは、いつもの大胆なセクシーさはない半面、恥らっている奥ゆかしさが新鮮で、男たちの格好の被写体になっていた。
「ラクス様こそ、数ヶ月にわたる基地慰安、本当に御苦労さまでした」
将校がラクスとマネージャーたちを迎え、控え室に案内した。
「これは僕のやるべき事だからね。皆、喜んでくれたかな?」
「もちろんですとも」
将校はにこやかに答えた。
「真の平和のため、人々のために戦うと兵も決意を新たにしております」
するともじゃもじゃのマネージャーがイライラしたように言った。
「早速で悪いんやけどなぁ、時間がないんや。ケツかっちんやさかい、シャトルの準備、はよしてんか!」
「あ、はい!いや、しかし…定刻より少々早い御到着なので、その…」
将校はにこやかに彼を接待していたが、実際は聞いていた到着時間よりかなり早い到着のおかげで、ディオキア宇宙港は大わらわになっていた。
「急いでるからはよ来たんや!せやからそっちも急いでーな!」
マネージャーがバンッと机を叩くと、将校ははいっと背筋を伸ばした。
「わかりました!ただちに!!」
ラクスのハロが「アカンデー!」とよそ行きの声を出した。
「ラクス様搭乗のシャトルは予定を早め、準備でき次第、発進となった。各館員は優先でこれをサポートせよ。繰り返す…」
宇宙港内に放送がかかり、あたりはにわかにあわただしくなった。
ラクスは頼まれた色紙にサインをし、女性兵士と握手をかわしてはにぎやかに過ごしている。綺麗な女性を見れば手を握ったまま離さず、「その髪型、とても素敵だね…きみのお名前は?」と口説いたり、男性兵士には功績を聞いて大げさに褒め称えている。
どれも、真のラクス・クラインならしたこともないような行為だっだ。
「そうなんだ?僕にはよくわからないんだけど、本当にすごいね!」
ラクスは取り囲む人々とおしゃべりに興じ、無邪気に笑っている。
(気にしていないような顔をして、さては腹に据えかねてたな?)
マネージャー役のバルトフェルドは、軽薄な偽者の雰囲気を見事にコピーしてみせているラクスを見て、内心笑いがとまらなかった。
(こりゃ本物の偽者…ってのは変な話だが、ヤツと会ったらどうなるやら)
「平和な世界のために、僕も皆さんと一緒に頑張ります」
その素っ頓狂な様子に、バルトフェルドがついに笑いをこらえきれず下を向いてしまうと、ラクスがにこにこ笑いながら彼を肘でつついた。
「どうかしたんですか?マネージャー」
「いやいや全く…くわばらくわばらだ」
「失礼します!シャトルの発進準備完了致しました」
ラクスとバルトフェルドがチラリと視線をかわした。
その頃、ディオキアの宇宙港にはもう一台リムジンが到着していた。
人が群がってから外に出ようと思うのに、誰も集まってこない。
「なんや、誰も出迎えに来てへんのかいな」
マネージャーが驚くと、ミーアも窓から外の様子を窺った。
しかし玄関前には彼を待つ人影などなく、静まり返っている。
2人は不思議そうに顔を見合わせたが、仕方なくそのまま車を降りた。
「ったく!僕が来たっていうのに!」
ミーアはぷりぷりしながらずかずかと廊下を歩いた。
「何なんだよ。どうして誰も…」
(そのためにちゃんと時間を知らせてあるんだから、ファンが集まるように周知しといてもらわないと困るじゃないか!)
そんなミーアを見て、つい今しがたラクス・クラインにサインをもらったり、握手をしたり、優しく抱きしめられたりした兵たちが目を見張っている。
「え?」
「ラクス様が、2人!?」
「はぁ?」
その雰囲気に気づき、ミーアはいぶかしそうに周囲を見回した。
すると一人の将校が首を傾げながら、おずおずと尋ねた。
「どうしてこちらに?」
「どうしてって…」
「ラクス様は、先ほどゲートに向かわれたはずでは?」
マネージャーとミーアはそれを聞いてはっと顔を見合わせた。
「まさか…」
「あかん…」
―― ラクス・クライン!?
バルトフェルドと数人の手下がシャトルのパイロットをコックピットから放り出すと、医師たちは器具を運び込み、キャビンに乗りこんだ。
「もう二度とこんな格好、しませんからね!」
「恥ずかしいったらありませんよ!」
女性スタッフに散々怒られて謝ったラクスもコックピットにやってきた。
「首尾はどう?」
「上々だ」
バルトフェルドは発進準備を整えていた。
「おい、どういうことだよ!?」
ミーアとマネージャーは大慌てで管制室に飛び込んだ。
シャトルの発進準備を進めさせていた将校はそれを見て仰天した。
「ラ…ラクス様!?」
「そんな、だって今しがたラクス様はシャトルに…」
呆気に取られて彼を見つめている兵たちに、マネージャーが言った。
「あかんで!あれ、ほんまもんや!」
「はぁ!?」
それを聞いてミーアが声をあげてマネージャーをにらみつけた。
(何を言ってるんだよ、このバカは!)
その目に気づき、マネージャーが慌てて訂正する。
「え?あ!ちゃうちゃう!パチもんや!名を騙る偽者やがな!」
将校はえ?え?とミーアとシャトルを見比べて躊躇した。
「あれは僕じゃない!シャトルを止めて!ほら、早く!」
ミーアが苛立ったように怒鳴りつけると、将校は慌ててシャトルを止めるよう命じた。それを受けて管制官が叫ぶ。
「シャトルを止めろ!発進停止!」
その途端、宇宙港に緊急警報が流れた。
「おやおや、気づかれたかな?」
バルトフェルドは既にエンジンが始動したシャトルの操縦桿を握っている。
ラクスも空いている通信士席についていた。
「すまんなぁ。ちょっと遅かった。さて、では本当に行きますよ?」
「うん。でも惜しいね。彼にはぜひ会ってみたかったよ」
「ここはひとまず『三十六計逃ぐるにしかず』だ」
シャトルは滑走路にむかって機首を向け始めた。
「モビルスーツを出せ!シャトルを行かせてはならん!」
かつてアスランがセイバーでカーペンタリアに到着した頃、各地の宇宙港に配備されていた機体があった。AMA-953バビである。
既にグフの生産ラインが整いつつあるが、先に配備が進んでいたバビは、現在は空戦用モビルスーツの主力機として実戦投入されており、各基地に8割方配備が完了している。
だが先日のダーダネルス攻防戦では、ミネルバが最後まで踏ん張ったため出番がなく、奇しくもディオキアではこれが初出撃となった。
「回せ!」
整備兵が腕をぐるぐると回して合図を送る。
ハンガーからはバビが続々飛び立とうとしていた。
「ラビ隊、バビ発進!」
「バイアル隊、進路クリアー!」
3機ずつの編隊を組み、三角のフォルムを持つバビが飛び立つ。
「アリステア隊、対空配備急げ!」
「マグリン隊、発進!」
さらにガズウート、対空砲がものものしく準備された。
「防衛隊が出たよ、隊長」
ラクスがレーダーを見ながら告げた。
バルトフェルドは加速に入っているが、シャトルは飛び立つと無防備となる。
なるべくタイミングをずらしたかったが、思った以上に配備が早かった。
「てえぇい!」
シャトルはさらに加速されていくが、後方からバビが近づいていた。
バルトフェルドは渾身の力をこめて操縦桿を引き、機首を上げた。
「くっそーっ!上がれー!」
射程に捉えられようとしたその時、シャトルは大空に飛び立った。
同時に、防衛圏外から見守っていたフリーダムが発進した。
(新型?小隊3…いや、4…全部で12機)
彼らがシャトルを射程に捉える前に墜とす必要がある。
バビがビームを放とうとした時、フリーダムは機体を射程に捉えていた。
「モビルスーツ!?」
「バカな、一体どこから?」
彼らが気づいた時は既に手遅れだった。
フルバーストに貫かれ、初陣だったバビはことごとく撃墜されていく。
キラは次に対空砲をことごとく撃ち落してそのまま宇宙港に降り立つと、ミサイルの発射口を全て潰し、もたついているガズウートを沈黙させた。
キラとフリーダムという最強コンビの早業により、数分で事は片付いた。
「一体…何が…?」
破壊され、沈黙した宇宙港ではミーアとマネージャー、そして「本物の」ラクス・クラインに散々愛想をふりまいた黒服の将校が呆然としていた。
(ラクス・クラインが…本物が…今、ここにいた)
ミーアは口を空けたまま空を見上げていたが、我に返ると怒りが沸いてきた。
そして「なんだよ、これ!」と怒鳴りながら足を踏み鳴らした。
「…今さら…何しにきたんだ!」
ミーアがそう怒鳴った途端、管制室の外をフリーダムが通り抜けた。
「うわあぁぁ!」
この牽制で強化風防ガラスが一斉に割れ、ミーアは驚いてしゃがみこむ。
(なんなんだよ!)
そして頭を抱えながら飛び去っていった白い機体を見上げた。
シャトルからフリーダムに通信を入れると、まだ何とか音が拾えた。
「ラクス!バルトフェルドさん!」
ラクスは雑音交じりのキラの声を聞き、礼を言った。
「ありがとう、キラ」
「ご苦労さん。大胆な英雄の発想には毎度驚かされるが、結果オーライだ」
「2人とも、気をつけて」
キラは消えていくシャトルを見上げながら言う。
「行って来るよ。カガリくんを頼む。彼を守ってあげてね」
「ラクスは俺たちがちゃんと守る。信じて任せろ」
徐々に互いの声が聞こえなくなった。もうシャトルの姿は見えない。
「お願いします!ラクス、約束を…」
「忘れ…な…よ………アス…ラ………じょ…」
「え?なに?聞こえないよ」
最後にラクスが何か言いかけたが、音声は途切れ、やがて沈黙した。
「またね、ラクス」
シャトルが残した雲を見つめながら、キラは呟いた。
(私たちは、きっとまた会える。それまでは、あなたと交わした約束を守りながら進もう)
キラはしばらく青空を見あげていたが、やがて北へと飛び立った。
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制作裏話-PHASE26-
「約束」というサブタイトルを生かし、ミネルバとアークエンジェル、両者を対比させたPHASEです。
本編では「ミーアの物真似をするラクス」以外はさほど印象に残らない回でしたが、逆転ではかなり改変しています。
前半はシンがステラを救うためにミネルバに走りますが、ここ、本編では大いに不満だったんですね。シンはいいんです。暴走といい大立ち回りといい、主人公らしく物語を引きずりまわしましたから。
問題はアスランです。
本編の彼は何をしとるんだと思うくらいいる意味がありません。赤服でしょ?FAITHでしょ?と言いたくもなります。キャラクターも設定も全く生かせてません。
そこで私は、シンに追いついたアスランが警備兵の発砲を止めたり、軍医たちの救助を命じたりという「赤服らしい」「FASITHらしい」行動をとらせました。それにタリアにもシンとの同席を願い出ます。本編のアスランはこういうシンに絡むアグレッシブな行動を全然取らないんですよね。せいぜい「(キラが乗ってる)アークエンジェルを討たないでください」とタリアに言いに行ったくらい。バーカ、アーホ、ホーモ。
タリアも厳しい人ですから、「FAITH権限を使う?そうなったら私も使うけど」と牽制します。こうやってせっかく持っている力をうまく使いこなせない不器用なアスランを描いておく事で、後々の脱走へと繋げるのが狙いでした。
一方シンはアスランが自分を庇おうとしてくれた事を知り、秘密の暗号を使って礼を言います。アスランにはわからないのですが、シンは通訳のできるルナマリアがいると知っていたわけです。本編のアスランもこういう行動で示せばもっとシンやルナマリアとの師弟関係が堅固になったと思うんですけどね。
逆転ではさらに、死を覚悟しているシンがアスランにインパルスを託そうとするのですが、それにはこうした積み重ねがあるからとしたかったのです。
ルナマリアについても本編ではアスランを見て逃げ出すという意味不明の行動を取るだけだったので、逆転では「シンを弁護しようとしたアスランを見て、信頼を寄せていく」ようにしました。彼女もシン同様いずれアスランに裏切られるのですから、その時のショックを考えると蜜月がある方がいいに決まっています。優しくて強いアスランに憧れるからこそ、見捨てられたと思って傷つくわけです。
ついでに、実はここでシンとアスランがディオキアで夕食を共にした伏線が回収できていました。意図したわけではなかったのですが、「アスランがいくらか事情を知っている」のは、食事をしながらシンがいきさつを話したからだと繋がったのです。ルナマリア、シン、アスランの関係性を描くには女難なんぞよりこういう描写の方が自然だし想像を掻き立てられて面白いと思います。
さらに、ここでアスランとルナマリアが話をする事で、ルナマリアもステラの事を聞けますし、シンがその彼女には触れられると知って軽いショックを受けます。まぁ実際はこの時点ではシンはもう障害を克服しているのですが、ルナマリアはまだ知りませんからもやもやするのです。キャラは知らないが読者や視聴者は知っているというのも演出の技法ですから。
シンとステラの「本当の再会」シーンは気に入ってます。
自分の運命を呪ってきたシンが、それ以上に過酷で悲惨な運命を辿りながら、それを知りもしない哀れなステラの人生に触れた事で、少しずつ前に進めるようになるのです。それまでは「自分が自分が」だった子供が、これによって視野が広がるというか、大人になるというか…思ったよりいい感じに展開しました。自分の口約束をステラが信じてくれていたことで、今度は自分が「彼女を守る」という約束を守るのだと決意します。PHASE32への布石はばっちりです。
気が強く、我が強いシンが微笑むステラを見ながらぼろぼろと泣き、自分の気安い口約束を信じていたステラを絶対に守ると決意する…ひたすら強く激しいシン・アスカというキャラを大切に書いてきただけに、ここでは彼の行動や心理がごく自然に、すーっと決まりましたね。
キラたちと決裂したアスランは本編では何を考えているのかよくわからなかったので(何しろこの回はセリフもほとんどない)、シンとステラを見て自分を正当化してみたり、その割にこれでいいのかと悩んでみたりと、お得意のもやもや思考をしてもらっています。
本編では一度も触れられなかったハウメアの守り石や、本編ではカガリが見つめていた指輪を効果的に使い、アスランの迷いを見せています。
そして大きな改変を施したのが、本編ではキラとラクスが電波会話を繰り広げるだけだった海底シーンを、「バッサリと」切った事です。
代わりにキラだけでなくカガリも一緒にいて話をします。ってか、2人ともアスランに会いに行ったんですから、海底シーンがあるにしても、3人で話す方が絶対自然だと思うんですが…
ラクスが「アスランはザフトに戻っている」と気づいていたとか、戦争終結の兆しすら見えないのに、終結後に何かあると踏んでいるなど、物語の帰結を知っているからこその「千里眼」演出を加えました。
そしてラクスは議長の思惑を探るためにプラントへ行くといいます。本編では「見てきますわ」とか言いながら何もせず、極悪兵器Sフリーダムとチート過ぎるIジャスティスを作っていた(あとドム)だけですが、逆転のラクスはもちろんちゃんと調査を続けます。
さて、ここで本編にはなかったキラサイドの「約束」が登場します。
これは実は初稿では「指きり」だったのですが、全編書き終わった後もどうしてもしっくり来なかったので、今回のりライトで思い切ってやめてしまいました。これに呼応し、後のPHASE44(だったかな)の指切りもリライト時に修正する予定です。
この約束で、ヘコんでいるカガリも少し元気を取り戻します。さらにラクスは、別れ際にカガリにエールを送ってくれます。
これも今回加筆したのですが、ラクスは自分がアスランが連絡不精で鉄砲玉だと知っている事は、アドバンテージなどではないと示唆します。むしろアスランは、2年間カガリと一度も離れる事なくずっと一緒にいた…それこそが彼女の彼に対する本当の気持ちなのだと気づかせたわけですね(ま、アスラン自身もそれに気づいていないかもしれませんけど)ここでは友情も愛情も同時に描けてお得でした。
ラクス本人による「ラクス・クラインそっくりショー」は、ミーアに対して本当はラクスがどう思っているのかわからなかった本編に比べればかなりの毒を盛ってあります。バルトフェルドが彼の腹黒ぶりに苦笑するのも無理はないですね。カガリは「女抱いたりキスしたりするのはどっちもやるだろ」とキラに囁きそうですけど。
そしてラスト、逆転のキラとラクスは「天下無双のバカップル」ではないので、本編のような「やっぱ僕も行く」というアホ会話はありません。キラは彼を心配しつつも潔く見送り、ラクスはカガリをよろしくと言い残します。
この2人はやっぱり固い絆で結ばれた同志なのです。心の奥底で深く繋がったソウルメイトなのです。そういう関係もいいじゃないか!
私は逆転で構築したシンもカガリもラクスもとても気に入っているのですが、ラクスは残念ながら重い放射線障害に侵されていますので、人生を全うできるとは思えません。彼が今、なんとか元気でいられるのはコーディネイターだからこそなのです。
とはいえ医療技術者であるカガリが「もう気づいているんだろうな」と考えるシーンは、我ながら寂しいものがありました。
背負わせたものがちょっと過酷過ぎたかと思う反面、これくらいのハンデがなければクライン派を率いるラクスの行動原理にならないとも思うので、複雑です。ラクスのことも、シンやカガリと同じように幸せにしてあげたいと思うのは、やっぱり親心ですかね。
本編では「ミーアの物真似をするラクス」以外はさほど印象に残らない回でしたが、逆転ではかなり改変しています。
前半はシンがステラを救うためにミネルバに走りますが、ここ、本編では大いに不満だったんですね。シンはいいんです。暴走といい大立ち回りといい、主人公らしく物語を引きずりまわしましたから。
問題はアスランです。
本編の彼は何をしとるんだと思うくらいいる意味がありません。赤服でしょ?FAITHでしょ?と言いたくもなります。キャラクターも設定も全く生かせてません。
そこで私は、シンに追いついたアスランが警備兵の発砲を止めたり、軍医たちの救助を命じたりという「赤服らしい」「FASITHらしい」行動をとらせました。それにタリアにもシンとの同席を願い出ます。本編のアスランはこういうシンに絡むアグレッシブな行動を全然取らないんですよね。せいぜい「(キラが乗ってる)アークエンジェルを討たないでください」とタリアに言いに行ったくらい。バーカ、アーホ、ホーモ。
タリアも厳しい人ですから、「FAITH権限を使う?そうなったら私も使うけど」と牽制します。こうやってせっかく持っている力をうまく使いこなせない不器用なアスランを描いておく事で、後々の脱走へと繋げるのが狙いでした。
一方シンはアスランが自分を庇おうとしてくれた事を知り、秘密の暗号を使って礼を言います。アスランにはわからないのですが、シンは通訳のできるルナマリアがいると知っていたわけです。本編のアスランもこういう行動で示せばもっとシンやルナマリアとの師弟関係が堅固になったと思うんですけどね。
逆転ではさらに、死を覚悟しているシンがアスランにインパルスを託そうとするのですが、それにはこうした積み重ねがあるからとしたかったのです。
ルナマリアについても本編ではアスランを見て逃げ出すという意味不明の行動を取るだけだったので、逆転では「シンを弁護しようとしたアスランを見て、信頼を寄せていく」ようにしました。彼女もシン同様いずれアスランに裏切られるのですから、その時のショックを考えると蜜月がある方がいいに決まっています。優しくて強いアスランに憧れるからこそ、見捨てられたと思って傷つくわけです。
ついでに、実はここでシンとアスランがディオキアで夕食を共にした伏線が回収できていました。意図したわけではなかったのですが、「アスランがいくらか事情を知っている」のは、食事をしながらシンがいきさつを話したからだと繋がったのです。ルナマリア、シン、アスランの関係性を描くには女難なんぞよりこういう描写の方が自然だし想像を掻き立てられて面白いと思います。
さらに、ここでアスランとルナマリアが話をする事で、ルナマリアもステラの事を聞けますし、シンがその彼女には触れられると知って軽いショックを受けます。まぁ実際はこの時点ではシンはもう障害を克服しているのですが、ルナマリアはまだ知りませんからもやもやするのです。キャラは知らないが読者や視聴者は知っているというのも演出の技法ですから。
シンとステラの「本当の再会」シーンは気に入ってます。
自分の運命を呪ってきたシンが、それ以上に過酷で悲惨な運命を辿りながら、それを知りもしない哀れなステラの人生に触れた事で、少しずつ前に進めるようになるのです。それまでは「自分が自分が」だった子供が、これによって視野が広がるというか、大人になるというか…思ったよりいい感じに展開しました。自分の口約束をステラが信じてくれていたことで、今度は自分が「彼女を守る」という約束を守るのだと決意します。PHASE32への布石はばっちりです。
気が強く、我が強いシンが微笑むステラを見ながらぼろぼろと泣き、自分の気安い口約束を信じていたステラを絶対に守ると決意する…ひたすら強く激しいシン・アスカというキャラを大切に書いてきただけに、ここでは彼の行動や心理がごく自然に、すーっと決まりましたね。
キラたちと決裂したアスランは本編では何を考えているのかよくわからなかったので(何しろこの回はセリフもほとんどない)、シンとステラを見て自分を正当化してみたり、その割にこれでいいのかと悩んでみたりと、お得意のもやもや思考をしてもらっています。
本編では一度も触れられなかったハウメアの守り石や、本編ではカガリが見つめていた指輪を効果的に使い、アスランの迷いを見せています。
そして大きな改変を施したのが、本編ではキラとラクスが電波会話を繰り広げるだけだった海底シーンを、「バッサリと」切った事です。
代わりにキラだけでなくカガリも一緒にいて話をします。ってか、2人ともアスランに会いに行ったんですから、海底シーンがあるにしても、3人で話す方が絶対自然だと思うんですが…
ラクスが「アスランはザフトに戻っている」と気づいていたとか、戦争終結の兆しすら見えないのに、終結後に何かあると踏んでいるなど、物語の帰結を知っているからこその「千里眼」演出を加えました。
そしてラクスは議長の思惑を探るためにプラントへ行くといいます。本編では「見てきますわ」とか言いながら何もせず、極悪兵器Sフリーダムとチート過ぎるIジャスティスを作っていた(あとドム)だけですが、逆転のラクスはもちろんちゃんと調査を続けます。
さて、ここで本編にはなかったキラサイドの「約束」が登場します。
これは実は初稿では「指きり」だったのですが、全編書き終わった後もどうしてもしっくり来なかったので、今回のりライトで思い切ってやめてしまいました。これに呼応し、後のPHASE44(だったかな)の指切りもリライト時に修正する予定です。
この約束で、ヘコんでいるカガリも少し元気を取り戻します。さらにラクスは、別れ際にカガリにエールを送ってくれます。
これも今回加筆したのですが、ラクスは自分がアスランが連絡不精で鉄砲玉だと知っている事は、アドバンテージなどではないと示唆します。むしろアスランは、2年間カガリと一度も離れる事なくずっと一緒にいた…それこそが彼女の彼に対する本当の気持ちなのだと気づかせたわけですね(ま、アスラン自身もそれに気づいていないかもしれませんけど)ここでは友情も愛情も同時に描けてお得でした。
ラクス本人による「ラクス・クラインそっくりショー」は、ミーアに対して本当はラクスがどう思っているのかわからなかった本編に比べればかなりの毒を盛ってあります。バルトフェルドが彼の腹黒ぶりに苦笑するのも無理はないですね。カガリは「女抱いたりキスしたりするのはどっちもやるだろ」とキラに囁きそうですけど。
そしてラスト、逆転のキラとラクスは「天下無双のバカップル」ではないので、本編のような「やっぱ僕も行く」というアホ会話はありません。キラは彼を心配しつつも潔く見送り、ラクスはカガリをよろしくと言い残します。
この2人はやっぱり固い絆で結ばれた同志なのです。心の奥底で深く繋がったソウルメイトなのです。そういう関係もいいじゃないか!
私は逆転で構築したシンもカガリもラクスもとても気に入っているのですが、ラクスは残念ながら重い放射線障害に侵されていますので、人生を全うできるとは思えません。彼が今、なんとか元気でいられるのはコーディネイターだからこそなのです。
とはいえ医療技術者であるカガリが「もう気づいているんだろうな」と考えるシーンは、我ながら寂しいものがありました。
背負わせたものがちょっと過酷過ぎたかと思う反面、これくらいのハンデがなければクライン派を率いるラクスの行動原理にならないとも思うので、複雑です。ラクスのことも、シンやカガリと同じように幸せにしてあげたいと思うのは、やっぱり親心ですかね。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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