機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「こちらパープル1。イエロー22ベータに発光信号を確認。これより向かう」
「ブラボー了解」
「おそらくそれだろう、ハイジャックされたと連絡のあったシャトルは」
座標に近づくパープル1のコードを持つジンが警戒し、突撃銃を構えた。
やがてパープル1が何かを見つけ、仲間が近づいてきた。
「ここで乗り捨てか。やってくれるな。船内を確認する」
そのシャトルは、紛れもなくディオキアの宇宙港で奪われたものだ。
彼らが突入すると、キャビンにパイロットたちが縛られて放置されていた。
「あ!おい!大丈夫か!?」
彼らの口は封じられておらず、傍らの栄養ドリンクが飲めるようになっていた。
キャビンを抜けた彼らは警戒しながらコックピットを開けた。
「わっ!なんだ?」
途端に目の前にもじゃもじゃしたものが現れ、彼らは眼を見張った。
何やら怪しげなそれは、コックピットの中をふわふわと漂っている。
兵たちがまじまじと見つめると、それは虎が置き土産にしたカツラだった。
「ブラボー了解」
「おそらくそれだろう、ハイジャックされたと連絡のあったシャトルは」
座標に近づくパープル1のコードを持つジンが警戒し、突撃銃を構えた。
やがてパープル1が何かを見つけ、仲間が近づいてきた。
「ここで乗り捨てか。やってくれるな。船内を確認する」
そのシャトルは、紛れもなくディオキアの宇宙港で奪われたものだ。
彼らが突入すると、キャビンにパイロットたちが縛られて放置されていた。
「あ!おい!大丈夫か!?」
彼らの口は封じられておらず、傍らの栄養ドリンクが飲めるようになっていた。
キャビンを抜けた彼らは警戒しながらコックピットを開けた。
「わっ!なんだ?」
途端に目の前にもじゃもじゃしたものが現れ、彼らは眼を見張った。
何やら怪しげなそれは、コックピットの中をふわふわと漂っている。
兵たちがまじまじと見つめると、それは虎が置き土産にしたカツラだった。
「ラクスさま!」
「よくぞご無事で!」
迎えのランチに移乗し、デブリ帯に隠されたエターナルのブリッジにラクスが姿を現すと、クライン派のメンバーは俄かに色めきたった。
彼らをまとめているダコスタは隊長とラクスの前に立って軽く敬礼する。
「ヒヤヒヤしましたよ。おまけに国際救難信号なんか出して…」
「パイロットの皆さんを干からびさせるわけにはいかないよ」
ラクスもダコスタをはじめ、皆の無事を心から喜んだ。
「ファクトリーの様子は?」
「無事に稼動しています。現在、8割といったところでしょうか」
ダコスタがラクスたちのハブにファクトリーのデータを送りながら言う。
「ジャンク屋もよく協力してくれてますよ。流通商会もダブったパーツや不要品を回してくれますし、技師も借りられるそうです。高いですけど」
「ありがとう。ターミナルからの情報はちゃんと届いてるかな?」
「衛星を2つ3つクラックしてますからね。ばっちりです」
「やっぱり優秀だなぁ、ダコスタくんは」
ラクスがふふっと笑うと、バルトフェルドもスーツの上着を脱ぎなが言った。
「さーて…俺は宇宙は久々だからな。プラントの様子はどうだ?」
「あ、隊長、その前に…」
ん?とバルトフェルドが振り返ると、ダコスタがニヤリと笑う。
「コーヒーもご用意してあります。生粋の南アメリカ産ですよ」
同じ頃、アプリリウスにはシャトルを確保したと報告が入り、執務室のデュランダルは穏やかな顔でそれを聞いていた。
「そうか。それでそのシャトルを奪った者たちのその後の足取りは?」
「現在、グラスゴー隊が専任で捜索を行っておりますが、未だ…」
デュランダルは頷き「そのまま捜索を続けさせてくれ」と言った。
「しかし、よりにもよってラクス・クラインを騙ってシャトルを奪うとは。大胆なことをするものだ」
「救出したシャトルのパイロットたちも、基地の者らも本当にそっくりだったと…お声まで」
議長は白々しく「やれやれ…世も末だな」と呆れてみせた。
もしこのデュランダルを見たら、バルトフェルドは「こっちも大したタヌキだな」と笑いをこらえるのに必死だったことだろう。
「ともかく早く見つけ出してくれたまえ。連合の仕業かどうかはまだわからんが、どこの誰だろうが、そんなことをする理由は一つだろう」
ラクスを利用してプラントの混乱を招こうとしているに違いない…周囲の者たちは議長の意図するところを悟り、不安そうに顔を見合わせた。
「そんな風に利用されては、あのラクスがどれほど悲しむことか」
デュランダルが哀しげな面持ちで首を振ると兵たちも尤もだと頷いた。
当のラクス…ミーアはといえば、悲しむどころか、偽者、すなわち「本物」のラクス・クラインにまんまと騙されたディオキアの司令官に怒りをぶつけ、散々怒鳴りちらしていたのだが。
「連中が行動を起こす前、変な騒ぎになる前に取り押さえたい。頼むぞ」
「はっ!心得ました!」
議長は兵たちにそう言うと下がらせた。
(動き出したか…ラクス・クライン)
椅子にもたれると、議長は彼に思いを馳せた。
ラクスが存在する限り、クライン派は根強く活動を続けている。
初めこそミーアが演じるラクス・クラインは真っ赤な偽者で、本物ではないと騒いでいたクライン派の連中も、いつの頃からかすっかり鳴りを潜めていた。
恐らくはそれもラクスの指示だろうと議長は睨んでいる。
(本当に厄介な男だ…あの「悲劇の英雄」は)
彼があちこちで危ない金を集めて建造した、地球にあると思われる情報拠点を押さえたいと探させているのだが、それもままならない。
この時期に彼が宇宙に上がった事にも何か意味があると思いながらも、さしもの議長にも彼の思惑の全ては読めずにいた。
「だが、奴らが離れたというのは幸いか…ラクス・クライン。そして、キラ・ヤマト」
議長はその名前を声に出した。
こうなったらひとつずつ潰していけばいい。
何しろこちらにはアスラン・ザラが、そしてシン・アスカがいるのだから。
ジブリールからの通信を受けるために自室に戻る途中、ネオはアウルとスティングがバスケットボールを楽しんでいる姿を見た。
記憶の操作は順調だと聞いている。
まず初めに大雑把な消去を行い、それから少しずつ集中的・重点的に記憶を消していくのだという。
今の彼らはもう、日常的にはステラの事を思い出すことはできない。
スティングはアウルからボールを奪うと、素早いドリブルでかわした。
「ヘタクソめ!」
(記憶の虫食い、か…)
スティングは3人の中では最も精神が安定していたが、今回のような処置を行うと、最も危険に晒されるのが彼なのは皮肉だった。
記憶は積み重なり、それぞれがリンクしている。
それを一気に消すとなると、空洞化した記憶の陥没が起きるのだ。
消される事が少なかったスティングの記憶が大量に消されると、基礎の揺らいだ高層ビルのように情緒や人格が不安定になる可能性が高い。
「もーらいっ!!」
ボールを奪い返したアウルがロングパスを決めると、2人は楽しそうに笑いあった。まるで普通の友人同士か、仲のいい兄と弟のように…ネオはそのまま何も言わずに部屋に入った。
「目的は達せられなければならないのだよ。全ての命令は必要だから出ているのだ。遊びでやっているわけではない」
「ええ、そのことは十分に」
待っていたのは予想通り、ジブリールの小言にも似たお叱りの言葉だ。
ネチネチ言うのは好きではないという人物ほど、重箱の隅を突くようにネチネチと言ってくるというのは万国共通のお約束なのであろうか。
「あのミネルバは、今や正義の味方のザフト軍だなどと反連合勢力に祭り上げられ、ヒーローのようになってしまっているじゃないか」
ラクスが言った通り、ザフトの「英雄戦争」は、ナチュラルとコーディネイターを一つにしつつある。
ことに負け知らずのミネルバは常勝の戦女神と祀り上げられて人気が高い。
さらにはユーラシア西側の紛争に加え、ロドニアの件が露呈して以来、連合の旗色はさらに悪くなった。
ラボを押さえながら、ザフトが敢えて口をつぐんでいるのも忌々しい。
そのくせ、マスコミには小出しに情報を提供しているのだ。
おかげで連合は表立って抗議も釈明もできず、ラボについてはプラントの、即ちデュランダルの思うがままにならざるを得なかった。
ジブリールは苛立っていた。
今はまだ計画の準備段階だというのに、民衆の心はすっかり以前の「コーディネイターを討つべし」というものとはかけ離れている。
コープランドも通信のたびに弱気で逃げ腰になっており、紛争地域を抱えるユーラシアなどはもはや戦争どころではないといった様相だ。
同盟を結んだ国々にも、「ブレイク・ザ・ワールド」の救助活動が一段落した事を口実に、脱退をほのめかす者たちがいる始末だ。
ジブリールはモニターに映し出された、モビルスーツのデータを見て頬杖をついた。
「GFAS-X1デストロイ」が完成すれば逆らう連中すべてに鉄槌を下せる。
それまでの間はなんとかプラントを抑え込んでおきたい。
その後に待つ、さらなる「粛清の時」のためにも…
「だからあの艦は困るんだよ。危険なのだ!これ以上のさばられては」
ジブリールがどんとテーブルを叩いたので、グラスの中のワインが揺れ、彼の膝の上の猫がうるさそうに耳を動かした。
「今度こそ討てよネオ。そのためのおまえたちだということを忘れるな」
「ええ、肝に銘じて…」
ネオは通信を切るとどかっと椅子に沈みこみ、1人静かに考え込んだ。
(やがて全てが本当に始まる日が来る…我らの名の下に)
そう信じてここまで進んできた。
しかし世界はままならず、思うようには進んでいないようだ。
ジブリールは苛立ち、ステラはいなくなり、2人から彼女の記憶を消し…戦うためだけに在ると言われるなら、いつまで戦えば安息を得られるのだろう。
(…安息?)
ネオはふと、そんなことを思った自分をいぶかしんだ。
なぜそんなことを考えたのだろう?
(そんなものを望んだ事などないのに、おかしなことを)
自嘲気味に笑い、ネオは立ち上がって部屋を出て行った。
「指示されたものです。ご報告が遅れて申し訳ありませんでした」
口実をつけては引き伸ばしてきた報告を行うべく艦長室を訪れたルナマリアは、データメディアをタリアに差し出した。
とはいえ聞き直してみれば、現場ではもう少し聞き取れた音もあまりよく聞こえず、録画は遠すぎて人が映っていることがやっとわかる程度だった。
そんなわけで報告書にはごくあたりさわりのない会話部分だけを書いておいた。
「いいのよ。騒ぎばかりあって、私もとてもそんな状況じゃなかったもの。悪かったわね、スパイみたいな真似をさせて」
いいえ、とルナマリアは首を振った。
「艦長もFAITHというお立場ですので。そのあたりのことは理解しているつもりです」
(まるでレイみたいな四角四面の答えだわね)
そう思いながら、ルナマリアは言った。
「できましたら少し質問をお許しいただけますでしょうか?」
タリアはうなずいた。
「いいわよ、答えられるものには答えましょう」
「今回のことは、アスラン・ザラに…」
ルナマリアは単刀直入に聞いた。
「…未だ、何かの嫌疑があるということなのでしょうか?」
アスランの過去も、功績も全てわかってはいる。
その上での尾行命令は、彼女に嫌疑や疑念があると疑わざるを得ないだろう。
けれど、それでも、ルナマリアはアスランを信じたかった。
だからこそ、艦長の本音を聞いておきたい。
彼女はこの艦ではアスランのFAITH権限を妨げられる唯一の人間なのだ。
「私たちはFAITHであること、また議長にも特に信任されている方ということでその指示にも従っています。ですが、それがもし…」
それを聞いたタリアは微笑んだ。
「そういうことではないわ、ルナマリア」
ルナマリアはその言葉が本心からなのかじっと彼女を見つめた。
「あなたがそう思ってしまうのも無理はないけど、今回に関しては目的は恐らくアークエンジェルのことだけよ」
(アークエンジェル)
ルナマリアは戦場に現れた彼の艦と、彼女にも馴染みのあるオーブ代表、小柄な女性、それに街で会った女性と話していたアスランを思い出した。
彼らとの話し合いは決裂し、彼女はこのミネルバへと戻ってきた。
(ううん…戻ってきてくれたんだ)
「彼女が実に真面目で正義感あふれる、よい人間だということは、私も疑ってないわ。スパイであるとか裏切るとか、そういう事はないでしょう」
タリアは優しく微笑んだ。
「そんな風には誰も思ってないでしょうし」
ルナマリアはその温かみのある言葉にほっと胸をなでおろした。
タリアも全て嘘を言ったわけではない。
むしろ彼女を破格の待遇で登用した議長に胡散臭さを感じていたのだが、最近ではそれもつまらない勘繰りだったかと笑えるようになった。
それくらい、生真面目で律儀で堅苦しいアスランには隙がない。
ただ、少し気をつければわかる事にルナマリアは気づかなかった。
本当に彼女がアスランを信じているのなら、アークエンジェルのこと…即ち、それと同じ事を調べに行ったアスランの報告のみで事足りるはずだ。
それに、艦長は「恐らく」という不可解な言葉を使った。
それはこの調査がタリア個人の意思で行われたものではないと示している。
「でも、今のあの…アークエンジェルの方はどうかしらね?」
タリアは考え込む時の癖で親指を噛んだ。
「何を考え、何をしようとしているのか、全くわからないわ」
(本当はオーブだけじゃない。戦って討たれて失ったものは、もう二度と戻らないから…)
ルナマリアは、代表の隣にいた小柄な女性が言った言葉を思い出した。
(でも今は戦争中だもの。戦場で訴えてもそんなの無理に決まってる)
アスランも珍しく語気を荒げていた。綺麗事を言わないで、と。
「でも彼女は、まだあの艦のクルーのことを信じているわ。オーブのことも」
ルナマリアはその言葉を聞いて拳を握り締めた。
「昔の仲間ですもの。ほんとは戦いたくはないんでしょう」
「そう…ですね」
タリアの言葉にルナマリアの気持ちがぐらりと揺らいだ。
(昔の仲間の方が…大切なのかな、やっぱり…)
けれどすぐにその考えを振り払う。
(ううん。アスランは私たちを天秤にかけたりしないわ…きっと)
タリアはルナマリアが納得した様子だったので話を切りあげた。
この件はここで終了。部屋を出たらモニターした内容も忘れるよう言う。
けれどルナマリアはふと、もう一つ引っかかるものを感じた。
(今プラントにいる、あのラクスは何なの?)
議長と親しいらしい艦長はこの事を知っているんだろうか?
それとも、あのデータを見て初めて知ることになるんだろうか?
アークエンジェルの行動が不可解である事は事実だが、彼らが本物のラクス・クラインを守っているのなら、彼らこそこちらを…つまりプラントやザフト…議長を疑っているのではないだろうか?
(視点を変えて見てみたら…どっちが正しいんだろう?)
ルナマリアは疑念にとらわれたが、そのまま黙って艦長室を辞した。
これはアスランには言えない。
「やっぱりシンに…」
思わずそう言いかけて、ルナマリアの表情はふと暗く淀んだ。
(…シンは…今…)
うつむいて歩くルナマリアの心にチクリと痛みが走った。
シンは相変わらず医務室に入り浸りだった。
しかしステラの容態は日に日に悪くなり、この日、ついに急変した。
「生化学の再チェックのデータは?」
「待ってください、今!」
軍医は苦しがるステラに酸素マスクをつけさせる。
呼吸が荒く、顔色も悪い。シンはそれを見て思わず駆け寄った。
「ステラ!どうしたんですか!一体!」
軍医はシンを下がらせようとしたが聞くはずもない。
ステラは「ネオ…ネオ…」とうわごとのように繰り返す。
「薬で様々な影響を受けていて、まるでわからん体だと言ったろう?」
シンは軍医の言葉にギクリとした。
処置がしきれないほど悪いというのだろうか。
「一定期間内に何か特殊な処置を施さないと、身体機能を維持できないようでもある」
軍医はデータを見ながら考え込み、看護兵に処置を指示しながら言う。
「それが何なのか、何故急にこうなるのか、現状ではまるでわからんさ」
「そんな…」
その時、ステラが苦しげな息の下で眼を開けた。
「はぁはぁ…シン?」
「ステラ」
シンは枕元に走り寄り、ステラの手を握り締めた。
ステラは一瞬微笑み、それから眼を閉じて言った。
「怖い…シン…守る…」
シンにはステラの手を強く握ってやる事しかできない。
そのか弱い手はかなりの熱を持っており、握り返す力も弱々しい。
シンはその手を頬にあて、自分がちゃんと傍にいると感じさせてやった。
「こういった薬の研究に関しちゃ、我々よりナチュラルの方が遙かに進んでいるからなあ。まったく…」
軍医は頭を抱えながら、彼女に適する薬を探そうとデータベースと照合した。
「ステラ…」
苦しげな息を続けるステラを、シンはただ傍で見守るしかできなかった。
(GFAS-X1デストロイ…ジブリールの一枚目の切り札というわけか)
一人きりの執務室で、デュランダルはモニターを眺めていた。
彼は開戦前から、いや、もっと前からロード・ジブリールを追い続けていた。
前大戦でムルタ・アズラエルが死んで後、弱体化したブルーコスモスが力を盛り返してきたために、彼の優秀なエージェントに調査を命じたのだが、やがて浮上してきた名前がこのロード・ジブリールという男だった。
彼が早々に好戦的な態度を示してくれたのは非常にありがたい。
その自信に満ちた迂闊さは議長にとって愛すべき愚かさだった。
前大戦では、数で勝るナチュラルがコーディネイターに負けるはずがないという過信があった上に、もともと慎重で狡猾に事を運んでいたアズラエルは、膠着した戦況に業を煮やすまで表には現れなかった。
議長はその慎重さ…シーゲル・クラインの政策も然りである…こそが、むしろ前大戦を長引かせる原因となり、両者を疲弊させ、追い詰めたと分析していた。
無論、この「慎重」は思慮深さではなく、疑り深さと謀略を意味する。
(必殺の一撃がない者同士の戦いは、結局は凄絶な泥仕合になる…か)
デュランダルは厭世的な親友がよく言っていた言葉を思い出した。
(だがジブリールの行動は非常にわかりやすく、単純明快だ)
その分水面の波紋は大きく広がり、情報収集がしやすい。
(核攻撃にしろ、アーモリーワンへの強奪作戦にしろ…だ)
議長はあごの前で手を組みながらふふっと笑った。
連中にくれてやった3機の新型は、インパルスやセイバーのよき好敵手となり、ミネルバの英雄性をより高めてくれている。
核攻撃は一気に片をつけようという派手好きの彼の性格を読み、波状攻撃はないとわかっていたので開発を急がせたスタンピーダーで一蹴した。
今のところ、ジブリールの策が自分の考えを凌駕した事はない。
予想外だったのは、アークエンジェルが現れたことだけだった。
(やはりあの悲劇の英雄とキラ・ヤマトの行動こそが一番厄介だ)
議長は苦々しい思いでクライン一派の件を頭から払った。
ともあれ、ジブリールもあれだけの富を築いている人間だ。
善悪は別として、優秀な人材である事は認めよう。
「だがナチュラルのきみは、我々には決して勝てないよ」
デュランダルは哀れむように笑った。
(己の遺伝子に聞くがいい…己の生きる道とその器の大きさを)
愚かな彼が創りだした「あれ」にもまだ「役割」が残っている。
デュランダルはミネルバから送られてきたデータに眼を通した。
それから司令本部に通信をつないだ。
「ええ!?あの子もこのまま乗せて行くんですか?」
アーサーが驚いて振り返った。
ステラがエクステンデッドだと知って震え上がった彼は、彼女を降ろさずこのままジブラルタルに向かうと聞いて大声を上げた。
「ええ。あの研究所のデータと一緒に運んで来いって」
タリアも腑に落ちない様子だ。
「…しかし、なんだか具合が良くないとも医師の方から聞いてますし…」
タリアもそれを承知で聞き返したのだが、本部はジブラルタルまでの間に、最新鋭艦のミネルバ以上に設備が整っている寄港地はないと言うのだ。
「シンはどうしてるんです?」
「医務室につきっきりだそうだから、きちんと休ませてちょうだい」
またしても難役を命じられ、アーサーは深いため息をついた。
アスランは食事を前にして考え込んでいた。
キラとカガリと会って以来、めっきり食欲が落ちている。
(必要な栄養を取るなら、機能性食料で十分だと思うんだけど)
ミネルバ自慢の豪華な食事を咀嚼し、飲み込んで消化するプロセスを思うと、なんだか面倒くさくてため息ばかりが出た。
ラクスがお見通しだったように、強気な事を言った割に、自分の言った言葉に自分で傷つき、一人で落ち込んでいるのだから世話はない。
けれどアスランにとってはこうした八方塞がりは慣れっこだ。
何しろ、かつてキラと戦っていた頃は、もっと状況が悪かったのだ。
イザークというやかましい同僚が四六時中噛みついてきたのだから。
ちょうど休憩時間が重なったメイリンがそれを見て、なかなか食べ始めない彼女を心配し、勇気を出して「ご一緒させてください」と言おうとした。
しかし晩生の彼にそんな事が言えるはずがなく、しばらくトレイを持って彼女の後ろをうろうろしてみたが、結局何も言えないまま、離れた席についた。
(ああ…いい加減こんな自分がいやになる…)
メイリンは遠目に彼女を見ながらスープを飲んではため息をつく。
「というように、まあ策としては至ってシンプルです」
タケミカヅチでは、再びネオ・ロアノークを迎えてブリーフィングを行っていた。
ダーダネルスで取り逃したミネルバを、クレタ沖で迎え撃とうというのがロアノークの提案だ。
しかしトダカもアマギもそれには異を唱えていた。
そもそもミネルバは宇宙艦でもあり、海を往くのは効率がいいとはいえ、決して海だけがルートではない。陸地を移動する可能性もゼロではないのだ。
しかしそうした慎重論に異議を唱えるのが味方、しかも司令官なのだからトダカたちもほとほと困ってしまう。
「当てずっぽうで軍を動かすような真似を誰がするもんですか。ミネルバは間違いなくこのルートを通ってジブラルタルに向かうわよ!」
ユウナは邪険に言った。
ネオはミネルバを見張らせるために自分が放った諜報員からデータを受け取り、あと数日で彼らがエーゲ海を抜けてくると読んでいたのだ。
「そういうことは大佐と私で、もうちゃんと確認済みなんだから。あなたたちはここから先のことを考えてくれればいいんです」
部下を抜きでできあがっている話に、トダカも呆れてものが言えない。
ネオは無責任にユウナの判断を的確だの決断が早いだのと褒め称える。
(心にもない事を言いおって…恥を知れ)
トダカは胡散臭い仮面をかぶってヘラヘラと笑っている男を睨みつけた。
「これでミネルバを討てれば我が国の力もしっかりと世界中に示せるわ」
トダカもアマギも答えない。
国の戦力の重きを防衛においてきたオーブの力を世界に示して何になるのか。
けれど彼らの嫌悪感を感じ取ったユウナは敢えてそれを逆撫でした。
「できるわね?」
アマギは拳を握り締め、トダカはそれを見て静かに答えた。
「…ご命令とあらばやるのが我々の仕事です」
「じゃ、お願いね」
何の重みもない「命令」が下り、これから命がけで戦場に赴こうという男たちの誇りをズタズタにする。
けれどネオ・ロアノークの刺した釘はそれだけではなかった。
「今度はあの奇妙な艦は現れないと思いますが…」
彼はアークエンジェルの事についても確認を忘れていない。
「あれは敵だと、あの代表と名乗る人物も偽者とおっしゃいましたな」
ユウナ様?と、ネオはその名を聞いて青ざめた彼女をじろりと睨む。
「…もちろんですわ」
ユウナはぎりっと歯を噛み締めると、平穏を装って頷いた。
そしてアマギの抗議もトダカの視線も無視し、ユウナは続ける。
「あんな者まで担ぎ出し、我が軍を混乱させようとする艦など…私たちにとっても敵でしかありません。そうですね、トダカ一佐?」
ユウナが矛先をトダカに向ける。
「だからあなたも撃ったんですものねっ!」
トダカはなるべく表情を崩さぬよう気をつけながら「はい」と答えた。
アマギはその苦渋の決断を思うたび、悔しくて悔しくてたまらない。
ネオは「ならば安心ですな」とにこやかに言った。
「では、そういうことで」
ユウナはネオと握手を交わした後、さっさと準備してとトダカに命じた。
「こんなところに隠れてたの?」
「すごいでしょう」
ミリアリアを乗せたまま、キラはフリーダムで海に突入した。
そのまま潜航すると、岩陰に隠されたアークエンジェルが見えてくる。
ミリアリアが「ホントに潜水艦になっちゃったんだ」と驚いた。
水中ハッチが開いてフリーダムが格納されると、急激に排水が行われる。
水が引くと隔壁が開き、向こう側になじみの顔の整備兵たちがいた。
キラがハッチを開けると、リフトでマードックが上ってきた。
「マードックさーん!」
「よぉ、嬢ちゃん!」
ミリアリアが喜びの声をあげ、2人は高く掲げた手をパチンと合わせた。
「なんだなんだ?こんなとこ来てちゃあ、嫁の貰い手、なくなっちまうぞ」
「なによ、失礼ね!」
キラはミリアリアの明るい声を聞き、この雰囲気は懐かしいと思う。
昔から朗らかで可愛らしい彼女がいるだけで場が明るくなった。
ミリアリアを何よりの自慢にしていたトールもいれば、明るさは倍だった。
彼は召され、時はもう戻らないけれど、ミリアリアは再びアークンジェルに来たいと連絡してきたのだった。
「オーブの執った道は間違いだと思うし…ラクス・クラインの偽者も変よ」
ミリアリアはディオキアの基地で撮ったミーアの画像を見せて言った。
「これがプラントが仕組んだもの…ラクスさんが言う『英雄戦争』なら、できたらいつか私の手で記事にしたいの、絶対に!」
キラは苦笑した。
「そんな事言っても、私たち、何も知らないんだよ?」
「わかってるわよ」
ミリアリアは笑った。
キラとアスランとの決裂を聞いていれば、それは自ずと知れていた。
「でも、アークエンジェルにいれば、色々見えてくるものがあると思うわ」
それとね…そこまで言うと、彼女がまじまじとキラを見つめた。
「アスラン、あの機体は議長からじきじきに受け取ったんだって」
「え?」
キラは驚いて聞き返した。
「…FAITH…特務隊?とにかくとーっても権限の強い地位にいるらしいわ」
(アスランが選びそうな選択肢…ラクスが言っていたのが、それ?)
キラは旅立つ前のラクスの言葉を思い出した。
(でも、お堅いアスランがただ権力に惹かれたとは思えないけど)
あれこれ考えていたキラが、ふと気づいて顔を上げた。
「なんでそんな事知ってるの?」
「あっ…えーと…秘密の情報網!なんたってカメラマンは情報が命なんだから!」
ミリアリアは明るく笑ってそうごまかした。
「ここは1人もんしか乗ってねぇからな。モタモタしてっと嫁き遅れるぞ」
マードックに笑われたミリアリアはふーんだと口を尖らす。
「いいのよ。私のやること、あーだこーだ文句言う男なんて…」
散々謝っていたが、最後には「一度言ったことを簡単に撤回しないで!」とこちらから通信を切ってしまった。
(本当は「応援するよ」と言ってくれたのは嬉しかったんだけど…)
ミリアリアは僅かに眉をひそめた。
初めて自分の夢を語った時、楽天的な彼なら後押ししてくれると思った。
けれど真顔で「危険だ」と言われた事が引っかかっている。
(心配なら……自分はその何十倍何百倍もかけてるくせに…)
あの時つい張ってしまった意地は、いまや完全に意固地になっている。
「こっちからふってやるんだから!」
「うっへ~」
ミリアリアの複雑な女心までは気が廻らないマードックは肩をすくめた。
やがて、着艦シークエンスが終わったキラがミリアリアを呼ぶ。
「ともかく、またよろしくね!」
「おうよ。嬉しいぜ、嬢ちゃん」
マードックも入れ替わりにリフトを降りていくミリアリアに言った。
見ているだけで父親気分になる娘がまた1人増えたと苦笑しながら。
「オーブ軍がクレタに展開?」
ブリッジではカガリがチャンドラからデータを受け取り、愕然としていた。
「ということは、やはりまたミネルバを?」
「ええ、確証はないですが、ターミナルもそう考えるのが妥当だろうと」
マリューがモニターを覗き込んだので、チャンドラがメインモニターに地図を映し出して、ミネルバの予測針路を描いてみせた。
「ミネルバがジブラルタルへ向かうと読んでの布石か…連合も躍起になってますね」
ノイマンが手元のモニターに海図を開いて航路をトレースしてみた。
「多島海か…空戦が主の今は、戦艦有利と言うわけでもないですね」
マリューは地図を見ながら考えた。
ペロポネソスを抜けるにしても、エーゲ海を通ることは間違いない。
地中海に入る前に捉えるならクレタ沖で張るのが確実だろうと思う。
網を張るのが西に寄り過ぎれば、アフリカ大陸に逃げられる可能性がある。
となると、クレタ沖で、しかも数を頼りに網を広く張る方が確実だ…
「ここよね、やっぱり」
マリューは自分が指揮官として作戦を組むにしてもそこしかないと思う。
「どうしたんです?」
キラがミリアリアを案内してくると、ブリッジの皆が喜びの声をあげた。
「ミリアリアさん!」
「お久しぶりです」
ミリアリアがにこやかに挨拶する。
チャンドラもノイマンも顔をほころばせ、カガリもちょっと手をあげた。
「元気?エルスマンとは?」
かねてからディアッカの恋路を応援してきたチャンドラが尋ねると、ミリアリアは「おっと!」とまるでブロックするように両手を上げた。
「ふっちゃった」
「あーあ、そりゃ可哀想に」
その時通信席のアラートが鳴り、近くにいたカガリがそれを受けた。
するとミリアリアが「私がやるわ」と手早くモニターを開いて読み取る。
カガリも一緒になって覗き込んだが、正直さっぱりわからない。
「暗号電文です。ミネルバはマルマラ海を発進。南下」
それをやすやすと読み解いたミリアリアが伝えると、皆、息を呑んだ。
キラはただならぬ雰囲気に思わずマリューを見た。
「これで決まりね。オーブ軍はクレタでもう一度ミネルバとぶつかるわ」
艦長への報告を終えたルナマリアは、シンの様子を見に行こうと医務室に向かう途中、結局ほとんど食べないまま食堂から出てきたアスランに会った。
「あら、どちらへ?」
「医務室よ。副長が、シンにきちんと睡眠を取らせるようにって」
ご一緒します、と彼女と歩き出した姉を見てメイリンはため息をついた。
(姉さんはいいな…女同士だし、何の気負いもないもんね)
弟にそんな事を思われているとは知らず、ルナマリアはやや緊張した面持ちでおずおずと質問した。
「あのぉ…聞いてもいいですか?」
アスランは「なに?」と聞き返した。
「また戦いになった時、もし…アークエンジェル…あの艦が現れたら…」
アスランがはっとしてルナマリアを見た。
「…だって、もしまたあの艦やフリーダムに攻撃されたら、私たち、戦わなきゃならなくなります」
場の空気が引き締まった事を感じたルナマリアは慌てて言葉を続けた。
「…そうなったら…アスランは…どうするんですか?」
(アークエンジェルと…キラと、また戦う…)
もちろん考えない事ではなかった。
彼らがオーブに帰らず、まだあんな事を続けるなら、いつの日かザフトとの激突も避けられないだろう。
(そしてまた、あんな事になってしまうのだろうか)
憎しみと怒りに駆られ、友と本気で殺しあったあの時のように…
「戦いますよね」
その時、2人の会話を後ろで聞いていたシンが声をかけた。
ステラの症状が落ち着いたので、少し休もうと医務室を出てきたばかりだった。
「俺たちの敵を守るなら、あれも敵だってことだ。そうだろ、ルナ」
「…あ…うん…」
ルナマリアはアスランに遠慮しながら答えた。
「勝手な理屈と正義で力を振るえば、それはただの破壊者…でしたね」
シンはマハムール基地での会話を思い返して言った。
あの戦場においてあまりにも圧倒的だったフリーダムの力…今まで見たどんなモビルスーツより強く、すばらしい反応と、自分を凌駕する速さを見せたあの「力」を思い、シンは拳を握り締めた。
「あれはそうじゃないんですか?許される行為なんですか!?」
アスランはぐっと言葉に詰まった。
確かに、キラのやっていることは自分がシンに言ったとおりなのだ。
パイロットを、人を殺さないから許されるというものではない。
「今度、奴に会ったら…俺は…」
シンが呟き、アスランはその言葉にはっと顔を上げた。
しかし彼の言葉が続く事はなかった。
艦内にアラートが響き渡り、コンディション・レッドとパイロットに機体待機を命じる放送が流れたためだ。
「ルナ、行くぞ!」
ルナマリアはアスランを見て一瞬躊躇したが、すぐに走り出した。
走りながら、胸の奥に小さな痛みを感じる。
(私たちと一緒に戦うって…ただ、そう言ってくれればいいだけなのに…)
アスランが何も答えてくれなかったことが、少しだけ哀しかった。
ミネルバではブリッジが遮蔽され、各部署の戦闘準備が進められた。
捉えられた艦影は空母が1、護衛艦が3。オーブ艦隊だった。
「例の、地球軍空母は?」
タリアは強奪機体の母艦について尋ねたが、確認できない。
(ガイアが襲ってきたのだから、遠くにいるはずがないわ)
「索敵厳に、急いで。オーブ艦だけなんてことはないはずよ」
彼女はそう命じると、いつものように親指を噛んだ。
一方、ミネルバを捕捉したオーブ艦隊も合戦の準備に入っていた。
慎重なトダカは胡散臭い仮面男と素人のユウナの言葉のみでは信じられず、AWACSを飛ばしてミネルバの動きを掴んでおり、おかげでミネルバに先んじて戦闘準備に入る事ができた。
「第二、第四小隊、発進待機位置へ」
「第一、第三、第五小隊発進完了」
続々とムラサメが飛び立ち、先の戦いでムラサメ以上に数を減らしたアストレイも、シュライクを背負って出撃した。
「それでもなお戦場に向かう心意気は、堕ちた母国のためなのかね」
皮肉とも憐れみともとれるように呟いたネオは、パンと手を打ち鳴らすと、「さて、始まるぞ!」と陽気に言った。
スティングとアウルも自分の機体に乗り込もうとしていたが、その時、ふとアウルが立ち止まった。アウルはしきりに首を傾げている。
「どうした?」
ヘルメットを小脇に抱えたスティングが振り返った。
「いや…うーん…何かここ…」
アウルがいぶかしむそこには、何もない空間があるだけだ。
掴むべきモビルスーツがないハンガーアームが所在無さげに飛び出し、鉄とパイプユニットが剥き出しの壁がのぞくだけだった。
「な~んか大事なこと、忘れてる気がするんだよなぁ…」
「なんだよ、大事なことって」
スティングが笑って聞く。
「そんなもん、あるわけないだろ」
気のなさそうなスティングに、アウルは後ろから抗議した。
「それがわかんねーっつってんの!」
「はいはい。んじゃ頑張って思い出しな」
(何か、とても大事な…なんだろう…?)
アウルは眉をひそめてうーんと考えてみたが、何も思い出せなかった。
トダカは敵を捉えられる位置まで護衛艦を前進させた。
「目標、主砲射程まであと40!」
「ミネルバからのモビルスーツの発進は?」
「まだです」
ユウナが満面の笑みを浮かべた。
「勝ったわ!八式弾のシャワーをたっぷりとお見舞いしてやりなさい!」
「砲術!八式弾一斉射!」
トダカが攻撃準備を急がせた。
「撃ぇ!」
モビルスーツの出撃間際を狙われ、タリアは「回避、迎撃!」と命じた。
オーブ艦の全砲門が開かれると、アーサーもCIWSで迎撃する。
両者がミネルバの上空で鎬を削った。
ところが大きな誤算があった。
この砲弾は通常と違い、炸裂後に恐るべき破壊力を秘めていたのである。
無数のクラスターがミネルバの装甲を襲い、ブリッジも激しい衝撃を受けた。
「表面装甲、第二層まで貫通されました!」
タリアはダメージコントロールを急がせる。
(えげつないことをやってくれるじゃない、中立国が!)
しかし悪い事に、9時の方向にさらにオーブ艦が現れた。
もとより今回の遠征は空母1、護衛艦6という構成なのに、目の前には護衛艦が3艦しかいない。初めから挟撃を狙っての布陣に違いない。
「2時方向上空にオーブ軍ムラサメ9!」
タリアは今度こそモビルスーツを出すよう伝える。
「自己鍛造弾を使ってくる連中よ。砲撃には注意するよう伝えて」
アーサーもまたCICのチェンに主砲と副砲の起動を指示した。
「トリスタン、イゾルデ、照準。左舷敵艦群」
うかうかしているとタンホイザーを撃たれるという教訓からか、オーブ軍はハナから畳み掛ける攻撃に徹してきている。
同じ頃、ネオは人知れずいなくなった少女の事を思っていた。
(弔い合戦…にもならんがな…ステラ…)
ラボの研究員ですら「損失」としか思わず、仲間の記憶からも消してしまった少女の事を、せめて自分だけでも覚えていなければと、使命にすら感じる。
「だが、今日こそはあの艦を討つ!」
ネオはスティングとアウルを発進させ、ミネルバに向かわせた。
まさかミネルバに、その哀れな少女がいるとは思いもせずに。
カガリはモニターに広がるクレタ沖を指でなぞった。
(ここでまた、オーブの血が流れる…)
本当は今すぐ国に帰り、やらねばならない事があるのはわかっている。
いつになくはっきりと自分を責めたアスランの言葉が彼の心を鋭く刺した。
(…あいつの言う事は、すべて正しい)
けれど正しいからやれと言われてできるかというと別問題だ。
自分が本気で帰りたいと強く言えば、キラたちは聞いてくれるだろう。
だが、むざむざと死んでいく兵たちを置いて帰れるのか…俺は?
そしてまた、何も知らぬ、何もわからぬ若僧と侮られ、蔑まれ…
「くそっ!」
カガリが毒づくのを聞き、キラが心配そうに覗き込んだ。
「カガリ」
カガリもまた、キラを見た。
今、ここにはいつも適切な助言してくれるラクスはいない。
後ろで頼もしく見守ってくれているバルトフェルドもいない。
ここにいる自分…力なき自分が進むべき道を決めなければならない。
カガリは唇を噛み締めていたが、やがて口を開いた。
「俺が望む事が、果たして本当に正しいのかはわからない」
キラは黙って彼を見つめている。
「だけど俺は…やはりオーブを戦わせたくはない」
カガリの琥珀色の瞳を受け止めながら、キラはうん、と頷いた。
「アスランが言ったように…今さら戦場で何を言っても無駄だ」
そこまで言うとうつむき、カガリは両拳を握り締めた。
「わかってる。そんなこと、わかってるんだ…だけど…俺、どうしても…」
気持ちが先走って言葉にできないカガリを見て、キラは手を伸ばした。
国を焼かれ、国民を傷つけられて泣き崩れたあの日のカガリが重なる。
今は流れてはいない涙を見た気がして、キラは優しくその頬に触れた。
「なら、行こう」
ブリッジにいた皆が「ええ?」と声をあげる。
「だめだってわかってても、カガリは諦められないんでしょう?」
キラはきっぱりと言った。
「なじられても笑われても、訴えるしかないよ」
「キラさん、あなた…」
マリューやノイマン、チャンドラが顔を見合わせ、驚いて見つめている。
「じゃ、また戦闘に介入するってこと?」
チャンドラが尋ねると、キラは首を振った。
「アスランに、この前の私は戦場を混乱させただけだと言われました」
その時の彼らの会話を聞いていたミリアリアが軽く頷いた。
「だから、私は戦いません」
「ええっ!?」
さらに大きな声が上がった。
「そんな、きみが戦わなかったら、いくらアークエンジェルでもきついぜ?」
慌てたようにチャンドラが言うと、いいえ、とキラは笑った。
「自分からは仕掛けないってことです。攻撃を受けたら、防衛します。全力でアークエンジェルを守ります。でも、この間のような戦いはしない」
キラが戦わなければオーブ軍が無駄に傷つくことは明白だ。
相手はミネルバであり、何よりシン・アスカが駆るインパルスなのだ。
「それでも、カガリが彼らを見ていられるのなら…ううん、そうじゃない」
キラは少し考えて言い直した。
「カガリは見届けなくちゃいけない。どんなに辛くても…そうでしょ?」
「おまえ…」
カガリはキラの瞳を見つめた。
ブリッジでは誰もが彼らの出す結論を固唾を呑んで待っていた。
ことに長くキラを見てきたマリューは、まさかあのキラがこんな事を言い出すとは思っていなかったので、誰よりも驚いていた。
彼女は心のどこかで、キラはラクスに引きずられるばかりだと思っていた。
ミリアリアとノイマンも思わず目を見合わせ、驚きを共有している。
「ありがとう、キラ」
カガリは礼を言うと腕を伸ばし、小さなキラを抱き締めた。
キラはいつものように、安心させるようにぽんぽんとカガリの背を叩く。
その抱擁は、彼ら兄妹の強い絆の証だった。
「カガリがもし、オーブを守って戦ってくれって言うなら…」
「もういいって」
カガリはキラを離すと言った。彼はある決意を胸に秘めていた。
「それは俺が自分でやるべき事だ。だから、俺がストライクRで出る」
「ええっ!?!?」
ブリッジは再び驚きに包まれた。
カガリは改めて仲間たちに向き直ると、「本当にすまない」と頭を下げた。
「そんな事言うなよ、きみらしくない」
ノイマンがいつも通り素っ気無く言ってすたすたと操縦席に戻る。
「もとよりオーブの危機だからこそ、集まったんだからな、俺たちは」
「そうそう。色々難しいけどさ…ま、やってみるしかないね」
チャンドラもインカムをセットし直して笑った。
「ほら、どいてどいて」
すると、今度はミリアリアがどんとカガリの背を押し出した。
「あなたには他にやることがあるでしょ?ここには私が座る」
「ミリアリア」
「早く行って。久しぶりなんでしょ、モビルスーツなんて」
「あなたがそこに座ってくれるのは心強いけど、でもいいの?せっかく…」
雰囲気に飲まれそうになっていたマリューが、慌ててミリアリアに聞いた。
「やりたい事を見つけて、頑張ってきたのに」
「ええ。世界もみんなも好きだから写真を撮りたいと思ったんだけど…」
ミリアリアはにっこりと笑って答えた。
「今はそれがまた、全部危ないんだもの。だから守るの。私も」
そして、自分と同じように大切な故国を守って戦っている彼を思う。
(またきっとたくさん心配かけちゃうけど…おあいこよ、ディアッカ)
「そう。ありがとう」
マリューは微笑み、キラも頷いて笑った。
「アークエンジェル、発進準備を開始します。いいですね、艦長?」
「行きましょう、マリューさん」
カガリはそんな彼らを見て、もう一度小さく「ありがとう」と呟いた。
(ストライクR…)
カガリはパイロットスーツに着替え、馴染み深いコックピットに座った。
これから自分は、命をやり取りする戦場へ出る。
技量に劣る自分が出ても危険が増すだけだが、キラがいてくれる。
(もう2度と、モビルスーツに乗るつもりなどなかったのに…)
けれど意思を貫く時には、折れない剣が必要なこともある。
そしてキラが、何よりアークエンジェルの仲間がいてくれる。
それが国を守る力のない、弱い自分に残された最後の鎧であり、盾だ。
(皆に俺の声を届け、俺の想いを届けて、そして…すべてを見届ける。自分の眼で見て、自身の責任を受け止める。どんな事があっても…!)
「カガリ、行こう」
「ああ」
キラの声に答え、カガリは過酷な運命が待つ戦場へと飛び出した。
「よくぞご無事で!」
迎えのランチに移乗し、デブリ帯に隠されたエターナルのブリッジにラクスが姿を現すと、クライン派のメンバーは俄かに色めきたった。
彼らをまとめているダコスタは隊長とラクスの前に立って軽く敬礼する。
「ヒヤヒヤしましたよ。おまけに国際救難信号なんか出して…」
「パイロットの皆さんを干からびさせるわけにはいかないよ」
ラクスもダコスタをはじめ、皆の無事を心から喜んだ。
「ファクトリーの様子は?」
「無事に稼動しています。現在、8割といったところでしょうか」
ダコスタがラクスたちのハブにファクトリーのデータを送りながら言う。
「ジャンク屋もよく協力してくれてますよ。流通商会もダブったパーツや不要品を回してくれますし、技師も借りられるそうです。高いですけど」
「ありがとう。ターミナルからの情報はちゃんと届いてるかな?」
「衛星を2つ3つクラックしてますからね。ばっちりです」
「やっぱり優秀だなぁ、ダコスタくんは」
ラクスがふふっと笑うと、バルトフェルドもスーツの上着を脱ぎなが言った。
「さーて…俺は宇宙は久々だからな。プラントの様子はどうだ?」
「あ、隊長、その前に…」
ん?とバルトフェルドが振り返ると、ダコスタがニヤリと笑う。
「コーヒーもご用意してあります。生粋の南アメリカ産ですよ」
同じ頃、アプリリウスにはシャトルを確保したと報告が入り、執務室のデュランダルは穏やかな顔でそれを聞いていた。
「そうか。それでそのシャトルを奪った者たちのその後の足取りは?」
「現在、グラスゴー隊が専任で捜索を行っておりますが、未だ…」
デュランダルは頷き「そのまま捜索を続けさせてくれ」と言った。
「しかし、よりにもよってラクス・クラインを騙ってシャトルを奪うとは。大胆なことをするものだ」
「救出したシャトルのパイロットたちも、基地の者らも本当にそっくりだったと…お声まで」
議長は白々しく「やれやれ…世も末だな」と呆れてみせた。
もしこのデュランダルを見たら、バルトフェルドは「こっちも大したタヌキだな」と笑いをこらえるのに必死だったことだろう。
「ともかく早く見つけ出してくれたまえ。連合の仕業かどうかはまだわからんが、どこの誰だろうが、そんなことをする理由は一つだろう」
ラクスを利用してプラントの混乱を招こうとしているに違いない…周囲の者たちは議長の意図するところを悟り、不安そうに顔を見合わせた。
「そんな風に利用されては、あのラクスがどれほど悲しむことか」
デュランダルが哀しげな面持ちで首を振ると兵たちも尤もだと頷いた。
当のラクス…ミーアはといえば、悲しむどころか、偽者、すなわち「本物」のラクス・クラインにまんまと騙されたディオキアの司令官に怒りをぶつけ、散々怒鳴りちらしていたのだが。
「連中が行動を起こす前、変な騒ぎになる前に取り押さえたい。頼むぞ」
「はっ!心得ました!」
議長は兵たちにそう言うと下がらせた。
(動き出したか…ラクス・クライン)
椅子にもたれると、議長は彼に思いを馳せた。
ラクスが存在する限り、クライン派は根強く活動を続けている。
初めこそミーアが演じるラクス・クラインは真っ赤な偽者で、本物ではないと騒いでいたクライン派の連中も、いつの頃からかすっかり鳴りを潜めていた。
恐らくはそれもラクスの指示だろうと議長は睨んでいる。
(本当に厄介な男だ…あの「悲劇の英雄」は)
彼があちこちで危ない金を集めて建造した、地球にあると思われる情報拠点を押さえたいと探させているのだが、それもままならない。
この時期に彼が宇宙に上がった事にも何か意味があると思いながらも、さしもの議長にも彼の思惑の全ては読めずにいた。
「だが、奴らが離れたというのは幸いか…ラクス・クライン。そして、キラ・ヤマト」
議長はその名前を声に出した。
こうなったらひとつずつ潰していけばいい。
何しろこちらにはアスラン・ザラが、そしてシン・アスカがいるのだから。
ジブリールからの通信を受けるために自室に戻る途中、ネオはアウルとスティングがバスケットボールを楽しんでいる姿を見た。
記憶の操作は順調だと聞いている。
まず初めに大雑把な消去を行い、それから少しずつ集中的・重点的に記憶を消していくのだという。
今の彼らはもう、日常的にはステラの事を思い出すことはできない。
スティングはアウルからボールを奪うと、素早いドリブルでかわした。
「ヘタクソめ!」
(記憶の虫食い、か…)
スティングは3人の中では最も精神が安定していたが、今回のような処置を行うと、最も危険に晒されるのが彼なのは皮肉だった。
記憶は積み重なり、それぞれがリンクしている。
それを一気に消すとなると、空洞化した記憶の陥没が起きるのだ。
消される事が少なかったスティングの記憶が大量に消されると、基礎の揺らいだ高層ビルのように情緒や人格が不安定になる可能性が高い。
「もーらいっ!!」
ボールを奪い返したアウルがロングパスを決めると、2人は楽しそうに笑いあった。まるで普通の友人同士か、仲のいい兄と弟のように…ネオはそのまま何も言わずに部屋に入った。
「目的は達せられなければならないのだよ。全ての命令は必要だから出ているのだ。遊びでやっているわけではない」
「ええ、そのことは十分に」
待っていたのは予想通り、ジブリールの小言にも似たお叱りの言葉だ。
ネチネチ言うのは好きではないという人物ほど、重箱の隅を突くようにネチネチと言ってくるというのは万国共通のお約束なのであろうか。
「あのミネルバは、今や正義の味方のザフト軍だなどと反連合勢力に祭り上げられ、ヒーローのようになってしまっているじゃないか」
ラクスが言った通り、ザフトの「英雄戦争」は、ナチュラルとコーディネイターを一つにしつつある。
ことに負け知らずのミネルバは常勝の戦女神と祀り上げられて人気が高い。
さらにはユーラシア西側の紛争に加え、ロドニアの件が露呈して以来、連合の旗色はさらに悪くなった。
ラボを押さえながら、ザフトが敢えて口をつぐんでいるのも忌々しい。
そのくせ、マスコミには小出しに情報を提供しているのだ。
おかげで連合は表立って抗議も釈明もできず、ラボについてはプラントの、即ちデュランダルの思うがままにならざるを得なかった。
ジブリールは苛立っていた。
今はまだ計画の準備段階だというのに、民衆の心はすっかり以前の「コーディネイターを討つべし」というものとはかけ離れている。
コープランドも通信のたびに弱気で逃げ腰になっており、紛争地域を抱えるユーラシアなどはもはや戦争どころではないといった様相だ。
同盟を結んだ国々にも、「ブレイク・ザ・ワールド」の救助活動が一段落した事を口実に、脱退をほのめかす者たちがいる始末だ。
ジブリールはモニターに映し出された、モビルスーツのデータを見て頬杖をついた。
「GFAS-X1デストロイ」が完成すれば逆らう連中すべてに鉄槌を下せる。
それまでの間はなんとかプラントを抑え込んでおきたい。
その後に待つ、さらなる「粛清の時」のためにも…
「だからあの艦は困るんだよ。危険なのだ!これ以上のさばられては」
ジブリールがどんとテーブルを叩いたので、グラスの中のワインが揺れ、彼の膝の上の猫がうるさそうに耳を動かした。
「今度こそ討てよネオ。そのためのおまえたちだということを忘れるな」
「ええ、肝に銘じて…」
ネオは通信を切るとどかっと椅子に沈みこみ、1人静かに考え込んだ。
(やがて全てが本当に始まる日が来る…我らの名の下に)
そう信じてここまで進んできた。
しかし世界はままならず、思うようには進んでいないようだ。
ジブリールは苛立ち、ステラはいなくなり、2人から彼女の記憶を消し…戦うためだけに在ると言われるなら、いつまで戦えば安息を得られるのだろう。
(…安息?)
ネオはふと、そんなことを思った自分をいぶかしんだ。
なぜそんなことを考えたのだろう?
(そんなものを望んだ事などないのに、おかしなことを)
自嘲気味に笑い、ネオは立ち上がって部屋を出て行った。
「指示されたものです。ご報告が遅れて申し訳ありませんでした」
口実をつけては引き伸ばしてきた報告を行うべく艦長室を訪れたルナマリアは、データメディアをタリアに差し出した。
とはいえ聞き直してみれば、現場ではもう少し聞き取れた音もあまりよく聞こえず、録画は遠すぎて人が映っていることがやっとわかる程度だった。
そんなわけで報告書にはごくあたりさわりのない会話部分だけを書いておいた。
「いいのよ。騒ぎばかりあって、私もとてもそんな状況じゃなかったもの。悪かったわね、スパイみたいな真似をさせて」
いいえ、とルナマリアは首を振った。
「艦長もFAITHというお立場ですので。そのあたりのことは理解しているつもりです」
(まるでレイみたいな四角四面の答えだわね)
そう思いながら、ルナマリアは言った。
「できましたら少し質問をお許しいただけますでしょうか?」
タリアはうなずいた。
「いいわよ、答えられるものには答えましょう」
「今回のことは、アスラン・ザラに…」
ルナマリアは単刀直入に聞いた。
「…未だ、何かの嫌疑があるということなのでしょうか?」
アスランの過去も、功績も全てわかってはいる。
その上での尾行命令は、彼女に嫌疑や疑念があると疑わざるを得ないだろう。
けれど、それでも、ルナマリアはアスランを信じたかった。
だからこそ、艦長の本音を聞いておきたい。
彼女はこの艦ではアスランのFAITH権限を妨げられる唯一の人間なのだ。
「私たちはFAITHであること、また議長にも特に信任されている方ということでその指示にも従っています。ですが、それがもし…」
それを聞いたタリアは微笑んだ。
「そういうことではないわ、ルナマリア」
ルナマリアはその言葉が本心からなのかじっと彼女を見つめた。
「あなたがそう思ってしまうのも無理はないけど、今回に関しては目的は恐らくアークエンジェルのことだけよ」
(アークエンジェル)
ルナマリアは戦場に現れた彼の艦と、彼女にも馴染みのあるオーブ代表、小柄な女性、それに街で会った女性と話していたアスランを思い出した。
彼らとの話し合いは決裂し、彼女はこのミネルバへと戻ってきた。
(ううん…戻ってきてくれたんだ)
「彼女が実に真面目で正義感あふれる、よい人間だということは、私も疑ってないわ。スパイであるとか裏切るとか、そういう事はないでしょう」
タリアは優しく微笑んだ。
「そんな風には誰も思ってないでしょうし」
ルナマリアはその温かみのある言葉にほっと胸をなでおろした。
タリアも全て嘘を言ったわけではない。
むしろ彼女を破格の待遇で登用した議長に胡散臭さを感じていたのだが、最近ではそれもつまらない勘繰りだったかと笑えるようになった。
それくらい、生真面目で律儀で堅苦しいアスランには隙がない。
ただ、少し気をつければわかる事にルナマリアは気づかなかった。
本当に彼女がアスランを信じているのなら、アークエンジェルのこと…即ち、それと同じ事を調べに行ったアスランの報告のみで事足りるはずだ。
それに、艦長は「恐らく」という不可解な言葉を使った。
それはこの調査がタリア個人の意思で行われたものではないと示している。
「でも、今のあの…アークエンジェルの方はどうかしらね?」
タリアは考え込む時の癖で親指を噛んだ。
「何を考え、何をしようとしているのか、全くわからないわ」
(本当はオーブだけじゃない。戦って討たれて失ったものは、もう二度と戻らないから…)
ルナマリアは、代表の隣にいた小柄な女性が言った言葉を思い出した。
(でも今は戦争中だもの。戦場で訴えてもそんなの無理に決まってる)
アスランも珍しく語気を荒げていた。綺麗事を言わないで、と。
「でも彼女は、まだあの艦のクルーのことを信じているわ。オーブのことも」
ルナマリアはその言葉を聞いて拳を握り締めた。
「昔の仲間ですもの。ほんとは戦いたくはないんでしょう」
「そう…ですね」
タリアの言葉にルナマリアの気持ちがぐらりと揺らいだ。
(昔の仲間の方が…大切なのかな、やっぱり…)
けれどすぐにその考えを振り払う。
(ううん。アスランは私たちを天秤にかけたりしないわ…きっと)
タリアはルナマリアが納得した様子だったので話を切りあげた。
この件はここで終了。部屋を出たらモニターした内容も忘れるよう言う。
けれどルナマリアはふと、もう一つ引っかかるものを感じた。
(今プラントにいる、あのラクスは何なの?)
議長と親しいらしい艦長はこの事を知っているんだろうか?
それとも、あのデータを見て初めて知ることになるんだろうか?
アークエンジェルの行動が不可解である事は事実だが、彼らが本物のラクス・クラインを守っているのなら、彼らこそこちらを…つまりプラントやザフト…議長を疑っているのではないだろうか?
(視点を変えて見てみたら…どっちが正しいんだろう?)
ルナマリアは疑念にとらわれたが、そのまま黙って艦長室を辞した。
これはアスランには言えない。
「やっぱりシンに…」
思わずそう言いかけて、ルナマリアの表情はふと暗く淀んだ。
(…シンは…今…)
うつむいて歩くルナマリアの心にチクリと痛みが走った。
シンは相変わらず医務室に入り浸りだった。
しかしステラの容態は日に日に悪くなり、この日、ついに急変した。
「生化学の再チェックのデータは?」
「待ってください、今!」
軍医は苦しがるステラに酸素マスクをつけさせる。
呼吸が荒く、顔色も悪い。シンはそれを見て思わず駆け寄った。
「ステラ!どうしたんですか!一体!」
軍医はシンを下がらせようとしたが聞くはずもない。
ステラは「ネオ…ネオ…」とうわごとのように繰り返す。
「薬で様々な影響を受けていて、まるでわからん体だと言ったろう?」
シンは軍医の言葉にギクリとした。
処置がしきれないほど悪いというのだろうか。
「一定期間内に何か特殊な処置を施さないと、身体機能を維持できないようでもある」
軍医はデータを見ながら考え込み、看護兵に処置を指示しながら言う。
「それが何なのか、何故急にこうなるのか、現状ではまるでわからんさ」
「そんな…」
その時、ステラが苦しげな息の下で眼を開けた。
「はぁはぁ…シン?」
「ステラ」
シンは枕元に走り寄り、ステラの手を握り締めた。
ステラは一瞬微笑み、それから眼を閉じて言った。
「怖い…シン…守る…」
シンにはステラの手を強く握ってやる事しかできない。
そのか弱い手はかなりの熱を持っており、握り返す力も弱々しい。
シンはその手を頬にあて、自分がちゃんと傍にいると感じさせてやった。
「こういった薬の研究に関しちゃ、我々よりナチュラルの方が遙かに進んでいるからなあ。まったく…」
軍医は頭を抱えながら、彼女に適する薬を探そうとデータベースと照合した。
「ステラ…」
苦しげな息を続けるステラを、シンはただ傍で見守るしかできなかった。
(GFAS-X1デストロイ…ジブリールの一枚目の切り札というわけか)
一人きりの執務室で、デュランダルはモニターを眺めていた。
彼は開戦前から、いや、もっと前からロード・ジブリールを追い続けていた。
前大戦でムルタ・アズラエルが死んで後、弱体化したブルーコスモスが力を盛り返してきたために、彼の優秀なエージェントに調査を命じたのだが、やがて浮上してきた名前がこのロード・ジブリールという男だった。
彼が早々に好戦的な態度を示してくれたのは非常にありがたい。
その自信に満ちた迂闊さは議長にとって愛すべき愚かさだった。
前大戦では、数で勝るナチュラルがコーディネイターに負けるはずがないという過信があった上に、もともと慎重で狡猾に事を運んでいたアズラエルは、膠着した戦況に業を煮やすまで表には現れなかった。
議長はその慎重さ…シーゲル・クラインの政策も然りである…こそが、むしろ前大戦を長引かせる原因となり、両者を疲弊させ、追い詰めたと分析していた。
無論、この「慎重」は思慮深さではなく、疑り深さと謀略を意味する。
(必殺の一撃がない者同士の戦いは、結局は凄絶な泥仕合になる…か)
デュランダルは厭世的な親友がよく言っていた言葉を思い出した。
(だがジブリールの行動は非常にわかりやすく、単純明快だ)
その分水面の波紋は大きく広がり、情報収集がしやすい。
(核攻撃にしろ、アーモリーワンへの強奪作戦にしろ…だ)
議長はあごの前で手を組みながらふふっと笑った。
連中にくれてやった3機の新型は、インパルスやセイバーのよき好敵手となり、ミネルバの英雄性をより高めてくれている。
核攻撃は一気に片をつけようという派手好きの彼の性格を読み、波状攻撃はないとわかっていたので開発を急がせたスタンピーダーで一蹴した。
今のところ、ジブリールの策が自分の考えを凌駕した事はない。
予想外だったのは、アークエンジェルが現れたことだけだった。
(やはりあの悲劇の英雄とキラ・ヤマトの行動こそが一番厄介だ)
議長は苦々しい思いでクライン一派の件を頭から払った。
ともあれ、ジブリールもあれだけの富を築いている人間だ。
善悪は別として、優秀な人材である事は認めよう。
「だがナチュラルのきみは、我々には決して勝てないよ」
デュランダルは哀れむように笑った。
(己の遺伝子に聞くがいい…己の生きる道とその器の大きさを)
愚かな彼が創りだした「あれ」にもまだ「役割」が残っている。
デュランダルはミネルバから送られてきたデータに眼を通した。
それから司令本部に通信をつないだ。
「ええ!?あの子もこのまま乗せて行くんですか?」
アーサーが驚いて振り返った。
ステラがエクステンデッドだと知って震え上がった彼は、彼女を降ろさずこのままジブラルタルに向かうと聞いて大声を上げた。
「ええ。あの研究所のデータと一緒に運んで来いって」
タリアも腑に落ちない様子だ。
「…しかし、なんだか具合が良くないとも医師の方から聞いてますし…」
タリアもそれを承知で聞き返したのだが、本部はジブラルタルまでの間に、最新鋭艦のミネルバ以上に設備が整っている寄港地はないと言うのだ。
「シンはどうしてるんです?」
「医務室につきっきりだそうだから、きちんと休ませてちょうだい」
またしても難役を命じられ、アーサーは深いため息をついた。
アスランは食事を前にして考え込んでいた。
キラとカガリと会って以来、めっきり食欲が落ちている。
(必要な栄養を取るなら、機能性食料で十分だと思うんだけど)
ミネルバ自慢の豪華な食事を咀嚼し、飲み込んで消化するプロセスを思うと、なんだか面倒くさくてため息ばかりが出た。
ラクスがお見通しだったように、強気な事を言った割に、自分の言った言葉に自分で傷つき、一人で落ち込んでいるのだから世話はない。
けれどアスランにとってはこうした八方塞がりは慣れっこだ。
何しろ、かつてキラと戦っていた頃は、もっと状況が悪かったのだ。
イザークというやかましい同僚が四六時中噛みついてきたのだから。
ちょうど休憩時間が重なったメイリンがそれを見て、なかなか食べ始めない彼女を心配し、勇気を出して「ご一緒させてください」と言おうとした。
しかし晩生の彼にそんな事が言えるはずがなく、しばらくトレイを持って彼女の後ろをうろうろしてみたが、結局何も言えないまま、離れた席についた。
(ああ…いい加減こんな自分がいやになる…)
メイリンは遠目に彼女を見ながらスープを飲んではため息をつく。
「というように、まあ策としては至ってシンプルです」
タケミカヅチでは、再びネオ・ロアノークを迎えてブリーフィングを行っていた。
ダーダネルスで取り逃したミネルバを、クレタ沖で迎え撃とうというのがロアノークの提案だ。
しかしトダカもアマギもそれには異を唱えていた。
そもそもミネルバは宇宙艦でもあり、海を往くのは効率がいいとはいえ、決して海だけがルートではない。陸地を移動する可能性もゼロではないのだ。
しかしそうした慎重論に異議を唱えるのが味方、しかも司令官なのだからトダカたちもほとほと困ってしまう。
「当てずっぽうで軍を動かすような真似を誰がするもんですか。ミネルバは間違いなくこのルートを通ってジブラルタルに向かうわよ!」
ユウナは邪険に言った。
ネオはミネルバを見張らせるために自分が放った諜報員からデータを受け取り、あと数日で彼らがエーゲ海を抜けてくると読んでいたのだ。
「そういうことは大佐と私で、もうちゃんと確認済みなんだから。あなたたちはここから先のことを考えてくれればいいんです」
部下を抜きでできあがっている話に、トダカも呆れてものが言えない。
ネオは無責任にユウナの判断を的確だの決断が早いだのと褒め称える。
(心にもない事を言いおって…恥を知れ)
トダカは胡散臭い仮面をかぶってヘラヘラと笑っている男を睨みつけた。
「これでミネルバを討てれば我が国の力もしっかりと世界中に示せるわ」
トダカもアマギも答えない。
国の戦力の重きを防衛においてきたオーブの力を世界に示して何になるのか。
けれど彼らの嫌悪感を感じ取ったユウナは敢えてそれを逆撫でした。
「できるわね?」
アマギは拳を握り締め、トダカはそれを見て静かに答えた。
「…ご命令とあらばやるのが我々の仕事です」
「じゃ、お願いね」
何の重みもない「命令」が下り、これから命がけで戦場に赴こうという男たちの誇りをズタズタにする。
けれどネオ・ロアノークの刺した釘はそれだけではなかった。
「今度はあの奇妙な艦は現れないと思いますが…」
彼はアークエンジェルの事についても確認を忘れていない。
「あれは敵だと、あの代表と名乗る人物も偽者とおっしゃいましたな」
ユウナ様?と、ネオはその名を聞いて青ざめた彼女をじろりと睨む。
「…もちろんですわ」
ユウナはぎりっと歯を噛み締めると、平穏を装って頷いた。
そしてアマギの抗議もトダカの視線も無視し、ユウナは続ける。
「あんな者まで担ぎ出し、我が軍を混乱させようとする艦など…私たちにとっても敵でしかありません。そうですね、トダカ一佐?」
ユウナが矛先をトダカに向ける。
「だからあなたも撃ったんですものねっ!」
トダカはなるべく表情を崩さぬよう気をつけながら「はい」と答えた。
アマギはその苦渋の決断を思うたび、悔しくて悔しくてたまらない。
ネオは「ならば安心ですな」とにこやかに言った。
「では、そういうことで」
ユウナはネオと握手を交わした後、さっさと準備してとトダカに命じた。
「こんなところに隠れてたの?」
「すごいでしょう」
ミリアリアを乗せたまま、キラはフリーダムで海に突入した。
そのまま潜航すると、岩陰に隠されたアークエンジェルが見えてくる。
ミリアリアが「ホントに潜水艦になっちゃったんだ」と驚いた。
水中ハッチが開いてフリーダムが格納されると、急激に排水が行われる。
水が引くと隔壁が開き、向こう側になじみの顔の整備兵たちがいた。
キラがハッチを開けると、リフトでマードックが上ってきた。
「マードックさーん!」
「よぉ、嬢ちゃん!」
ミリアリアが喜びの声をあげ、2人は高く掲げた手をパチンと合わせた。
「なんだなんだ?こんなとこ来てちゃあ、嫁の貰い手、なくなっちまうぞ」
「なによ、失礼ね!」
キラはミリアリアの明るい声を聞き、この雰囲気は懐かしいと思う。
昔から朗らかで可愛らしい彼女がいるだけで場が明るくなった。
ミリアリアを何よりの自慢にしていたトールもいれば、明るさは倍だった。
彼は召され、時はもう戻らないけれど、ミリアリアは再びアークンジェルに来たいと連絡してきたのだった。
「オーブの執った道は間違いだと思うし…ラクス・クラインの偽者も変よ」
ミリアリアはディオキアの基地で撮ったミーアの画像を見せて言った。
「これがプラントが仕組んだもの…ラクスさんが言う『英雄戦争』なら、できたらいつか私の手で記事にしたいの、絶対に!」
キラは苦笑した。
「そんな事言っても、私たち、何も知らないんだよ?」
「わかってるわよ」
ミリアリアは笑った。
キラとアスランとの決裂を聞いていれば、それは自ずと知れていた。
「でも、アークエンジェルにいれば、色々見えてくるものがあると思うわ」
それとね…そこまで言うと、彼女がまじまじとキラを見つめた。
「アスラン、あの機体は議長からじきじきに受け取ったんだって」
「え?」
キラは驚いて聞き返した。
「…FAITH…特務隊?とにかくとーっても権限の強い地位にいるらしいわ」
(アスランが選びそうな選択肢…ラクスが言っていたのが、それ?)
キラは旅立つ前のラクスの言葉を思い出した。
(でも、お堅いアスランがただ権力に惹かれたとは思えないけど)
あれこれ考えていたキラが、ふと気づいて顔を上げた。
「なんでそんな事知ってるの?」
「あっ…えーと…秘密の情報網!なんたってカメラマンは情報が命なんだから!」
ミリアリアは明るく笑ってそうごまかした。
「ここは1人もんしか乗ってねぇからな。モタモタしてっと嫁き遅れるぞ」
マードックに笑われたミリアリアはふーんだと口を尖らす。
「いいのよ。私のやること、あーだこーだ文句言う男なんて…」
散々謝っていたが、最後には「一度言ったことを簡単に撤回しないで!」とこちらから通信を切ってしまった。
(本当は「応援するよ」と言ってくれたのは嬉しかったんだけど…)
ミリアリアは僅かに眉をひそめた。
初めて自分の夢を語った時、楽天的な彼なら後押ししてくれると思った。
けれど真顔で「危険だ」と言われた事が引っかかっている。
(心配なら……自分はその何十倍何百倍もかけてるくせに…)
あの時つい張ってしまった意地は、いまや完全に意固地になっている。
「こっちからふってやるんだから!」
「うっへ~」
ミリアリアの複雑な女心までは気が廻らないマードックは肩をすくめた。
やがて、着艦シークエンスが終わったキラがミリアリアを呼ぶ。
「ともかく、またよろしくね!」
「おうよ。嬉しいぜ、嬢ちゃん」
マードックも入れ替わりにリフトを降りていくミリアリアに言った。
見ているだけで父親気分になる娘がまた1人増えたと苦笑しながら。
「オーブ軍がクレタに展開?」
ブリッジではカガリがチャンドラからデータを受け取り、愕然としていた。
「ということは、やはりまたミネルバを?」
「ええ、確証はないですが、ターミナルもそう考えるのが妥当だろうと」
マリューがモニターを覗き込んだので、チャンドラがメインモニターに地図を映し出して、ミネルバの予測針路を描いてみせた。
「ミネルバがジブラルタルへ向かうと読んでの布石か…連合も躍起になってますね」
ノイマンが手元のモニターに海図を開いて航路をトレースしてみた。
「多島海か…空戦が主の今は、戦艦有利と言うわけでもないですね」
マリューは地図を見ながら考えた。
ペロポネソスを抜けるにしても、エーゲ海を通ることは間違いない。
地中海に入る前に捉えるならクレタ沖で張るのが確実だろうと思う。
網を張るのが西に寄り過ぎれば、アフリカ大陸に逃げられる可能性がある。
となると、クレタ沖で、しかも数を頼りに網を広く張る方が確実だ…
「ここよね、やっぱり」
マリューは自分が指揮官として作戦を組むにしてもそこしかないと思う。
「どうしたんです?」
キラがミリアリアを案内してくると、ブリッジの皆が喜びの声をあげた。
「ミリアリアさん!」
「お久しぶりです」
ミリアリアがにこやかに挨拶する。
チャンドラもノイマンも顔をほころばせ、カガリもちょっと手をあげた。
「元気?エルスマンとは?」
かねてからディアッカの恋路を応援してきたチャンドラが尋ねると、ミリアリアは「おっと!」とまるでブロックするように両手を上げた。
「ふっちゃった」
「あーあ、そりゃ可哀想に」
その時通信席のアラートが鳴り、近くにいたカガリがそれを受けた。
するとミリアリアが「私がやるわ」と手早くモニターを開いて読み取る。
カガリも一緒になって覗き込んだが、正直さっぱりわからない。
「暗号電文です。ミネルバはマルマラ海を発進。南下」
それをやすやすと読み解いたミリアリアが伝えると、皆、息を呑んだ。
キラはただならぬ雰囲気に思わずマリューを見た。
「これで決まりね。オーブ軍はクレタでもう一度ミネルバとぶつかるわ」
艦長への報告を終えたルナマリアは、シンの様子を見に行こうと医務室に向かう途中、結局ほとんど食べないまま食堂から出てきたアスランに会った。
「あら、どちらへ?」
「医務室よ。副長が、シンにきちんと睡眠を取らせるようにって」
ご一緒します、と彼女と歩き出した姉を見てメイリンはため息をついた。
(姉さんはいいな…女同士だし、何の気負いもないもんね)
弟にそんな事を思われているとは知らず、ルナマリアはやや緊張した面持ちでおずおずと質問した。
「あのぉ…聞いてもいいですか?」
アスランは「なに?」と聞き返した。
「また戦いになった時、もし…アークエンジェル…あの艦が現れたら…」
アスランがはっとしてルナマリアを見た。
「…だって、もしまたあの艦やフリーダムに攻撃されたら、私たち、戦わなきゃならなくなります」
場の空気が引き締まった事を感じたルナマリアは慌てて言葉を続けた。
「…そうなったら…アスランは…どうするんですか?」
(アークエンジェルと…キラと、また戦う…)
もちろん考えない事ではなかった。
彼らがオーブに帰らず、まだあんな事を続けるなら、いつの日かザフトとの激突も避けられないだろう。
(そしてまた、あんな事になってしまうのだろうか)
憎しみと怒りに駆られ、友と本気で殺しあったあの時のように…
「戦いますよね」
その時、2人の会話を後ろで聞いていたシンが声をかけた。
ステラの症状が落ち着いたので、少し休もうと医務室を出てきたばかりだった。
「俺たちの敵を守るなら、あれも敵だってことだ。そうだろ、ルナ」
「…あ…うん…」
ルナマリアはアスランに遠慮しながら答えた。
「勝手な理屈と正義で力を振るえば、それはただの破壊者…でしたね」
シンはマハムール基地での会話を思い返して言った。
あの戦場においてあまりにも圧倒的だったフリーダムの力…今まで見たどんなモビルスーツより強く、すばらしい反応と、自分を凌駕する速さを見せたあの「力」を思い、シンは拳を握り締めた。
「あれはそうじゃないんですか?許される行為なんですか!?」
アスランはぐっと言葉に詰まった。
確かに、キラのやっていることは自分がシンに言ったとおりなのだ。
パイロットを、人を殺さないから許されるというものではない。
「今度、奴に会ったら…俺は…」
シンが呟き、アスランはその言葉にはっと顔を上げた。
しかし彼の言葉が続く事はなかった。
艦内にアラートが響き渡り、コンディション・レッドとパイロットに機体待機を命じる放送が流れたためだ。
「ルナ、行くぞ!」
ルナマリアはアスランを見て一瞬躊躇したが、すぐに走り出した。
走りながら、胸の奥に小さな痛みを感じる。
(私たちと一緒に戦うって…ただ、そう言ってくれればいいだけなのに…)
アスランが何も答えてくれなかったことが、少しだけ哀しかった。
ミネルバではブリッジが遮蔽され、各部署の戦闘準備が進められた。
捉えられた艦影は空母が1、護衛艦が3。オーブ艦隊だった。
「例の、地球軍空母は?」
タリアは強奪機体の母艦について尋ねたが、確認できない。
(ガイアが襲ってきたのだから、遠くにいるはずがないわ)
「索敵厳に、急いで。オーブ艦だけなんてことはないはずよ」
彼女はそう命じると、いつものように親指を噛んだ。
一方、ミネルバを捕捉したオーブ艦隊も合戦の準備に入っていた。
慎重なトダカは胡散臭い仮面男と素人のユウナの言葉のみでは信じられず、AWACSを飛ばしてミネルバの動きを掴んでおり、おかげでミネルバに先んじて戦闘準備に入る事ができた。
「第二、第四小隊、発進待機位置へ」
「第一、第三、第五小隊発進完了」
続々とムラサメが飛び立ち、先の戦いでムラサメ以上に数を減らしたアストレイも、シュライクを背負って出撃した。
「それでもなお戦場に向かう心意気は、堕ちた母国のためなのかね」
皮肉とも憐れみともとれるように呟いたネオは、パンと手を打ち鳴らすと、「さて、始まるぞ!」と陽気に言った。
スティングとアウルも自分の機体に乗り込もうとしていたが、その時、ふとアウルが立ち止まった。アウルはしきりに首を傾げている。
「どうした?」
ヘルメットを小脇に抱えたスティングが振り返った。
「いや…うーん…何かここ…」
アウルがいぶかしむそこには、何もない空間があるだけだ。
掴むべきモビルスーツがないハンガーアームが所在無さげに飛び出し、鉄とパイプユニットが剥き出しの壁がのぞくだけだった。
「な~んか大事なこと、忘れてる気がするんだよなぁ…」
「なんだよ、大事なことって」
スティングが笑って聞く。
「そんなもん、あるわけないだろ」
気のなさそうなスティングに、アウルは後ろから抗議した。
「それがわかんねーっつってんの!」
「はいはい。んじゃ頑張って思い出しな」
(何か、とても大事な…なんだろう…?)
アウルは眉をひそめてうーんと考えてみたが、何も思い出せなかった。
トダカは敵を捉えられる位置まで護衛艦を前進させた。
「目標、主砲射程まであと40!」
「ミネルバからのモビルスーツの発進は?」
「まだです」
ユウナが満面の笑みを浮かべた。
「勝ったわ!八式弾のシャワーをたっぷりとお見舞いしてやりなさい!」
「砲術!八式弾一斉射!」
トダカが攻撃準備を急がせた。
「撃ぇ!」
モビルスーツの出撃間際を狙われ、タリアは「回避、迎撃!」と命じた。
オーブ艦の全砲門が開かれると、アーサーもCIWSで迎撃する。
両者がミネルバの上空で鎬を削った。
ところが大きな誤算があった。
この砲弾は通常と違い、炸裂後に恐るべき破壊力を秘めていたのである。
無数のクラスターがミネルバの装甲を襲い、ブリッジも激しい衝撃を受けた。
「表面装甲、第二層まで貫通されました!」
タリアはダメージコントロールを急がせる。
(えげつないことをやってくれるじゃない、中立国が!)
しかし悪い事に、9時の方向にさらにオーブ艦が現れた。
もとより今回の遠征は空母1、護衛艦6という構成なのに、目の前には護衛艦が3艦しかいない。初めから挟撃を狙っての布陣に違いない。
「2時方向上空にオーブ軍ムラサメ9!」
タリアは今度こそモビルスーツを出すよう伝える。
「自己鍛造弾を使ってくる連中よ。砲撃には注意するよう伝えて」
アーサーもまたCICのチェンに主砲と副砲の起動を指示した。
「トリスタン、イゾルデ、照準。左舷敵艦群」
うかうかしているとタンホイザーを撃たれるという教訓からか、オーブ軍はハナから畳み掛ける攻撃に徹してきている。
同じ頃、ネオは人知れずいなくなった少女の事を思っていた。
(弔い合戦…にもならんがな…ステラ…)
ラボの研究員ですら「損失」としか思わず、仲間の記憶からも消してしまった少女の事を、せめて自分だけでも覚えていなければと、使命にすら感じる。
「だが、今日こそはあの艦を討つ!」
ネオはスティングとアウルを発進させ、ミネルバに向かわせた。
まさかミネルバに、その哀れな少女がいるとは思いもせずに。
カガリはモニターに広がるクレタ沖を指でなぞった。
(ここでまた、オーブの血が流れる…)
本当は今すぐ国に帰り、やらねばならない事があるのはわかっている。
いつになくはっきりと自分を責めたアスランの言葉が彼の心を鋭く刺した。
(…あいつの言う事は、すべて正しい)
けれど正しいからやれと言われてできるかというと別問題だ。
自分が本気で帰りたいと強く言えば、キラたちは聞いてくれるだろう。
だが、むざむざと死んでいく兵たちを置いて帰れるのか…俺は?
そしてまた、何も知らぬ、何もわからぬ若僧と侮られ、蔑まれ…
「くそっ!」
カガリが毒づくのを聞き、キラが心配そうに覗き込んだ。
「カガリ」
カガリもまた、キラを見た。
今、ここにはいつも適切な助言してくれるラクスはいない。
後ろで頼もしく見守ってくれているバルトフェルドもいない。
ここにいる自分…力なき自分が進むべき道を決めなければならない。
カガリは唇を噛み締めていたが、やがて口を開いた。
「俺が望む事が、果たして本当に正しいのかはわからない」
キラは黙って彼を見つめている。
「だけど俺は…やはりオーブを戦わせたくはない」
カガリの琥珀色の瞳を受け止めながら、キラはうん、と頷いた。
「アスランが言ったように…今さら戦場で何を言っても無駄だ」
そこまで言うとうつむき、カガリは両拳を握り締めた。
「わかってる。そんなこと、わかってるんだ…だけど…俺、どうしても…」
気持ちが先走って言葉にできないカガリを見て、キラは手を伸ばした。
国を焼かれ、国民を傷つけられて泣き崩れたあの日のカガリが重なる。
今は流れてはいない涙を見た気がして、キラは優しくその頬に触れた。
「なら、行こう」
ブリッジにいた皆が「ええ?」と声をあげる。
「だめだってわかってても、カガリは諦められないんでしょう?」
キラはきっぱりと言った。
「なじられても笑われても、訴えるしかないよ」
「キラさん、あなた…」
マリューやノイマン、チャンドラが顔を見合わせ、驚いて見つめている。
「じゃ、また戦闘に介入するってこと?」
チャンドラが尋ねると、キラは首を振った。
「アスランに、この前の私は戦場を混乱させただけだと言われました」
その時の彼らの会話を聞いていたミリアリアが軽く頷いた。
「だから、私は戦いません」
「ええっ!?」
さらに大きな声が上がった。
「そんな、きみが戦わなかったら、いくらアークエンジェルでもきついぜ?」
慌てたようにチャンドラが言うと、いいえ、とキラは笑った。
「自分からは仕掛けないってことです。攻撃を受けたら、防衛します。全力でアークエンジェルを守ります。でも、この間のような戦いはしない」
キラが戦わなければオーブ軍が無駄に傷つくことは明白だ。
相手はミネルバであり、何よりシン・アスカが駆るインパルスなのだ。
「それでも、カガリが彼らを見ていられるのなら…ううん、そうじゃない」
キラは少し考えて言い直した。
「カガリは見届けなくちゃいけない。どんなに辛くても…そうでしょ?」
「おまえ…」
カガリはキラの瞳を見つめた。
ブリッジでは誰もが彼らの出す結論を固唾を呑んで待っていた。
ことに長くキラを見てきたマリューは、まさかあのキラがこんな事を言い出すとは思っていなかったので、誰よりも驚いていた。
彼女は心のどこかで、キラはラクスに引きずられるばかりだと思っていた。
ミリアリアとノイマンも思わず目を見合わせ、驚きを共有している。
「ありがとう、キラ」
カガリは礼を言うと腕を伸ばし、小さなキラを抱き締めた。
キラはいつものように、安心させるようにぽんぽんとカガリの背を叩く。
その抱擁は、彼ら兄妹の強い絆の証だった。
「カガリがもし、オーブを守って戦ってくれって言うなら…」
「もういいって」
カガリはキラを離すと言った。彼はある決意を胸に秘めていた。
「それは俺が自分でやるべき事だ。だから、俺がストライクRで出る」
「ええっ!?!?」
ブリッジは再び驚きに包まれた。
カガリは改めて仲間たちに向き直ると、「本当にすまない」と頭を下げた。
「そんな事言うなよ、きみらしくない」
ノイマンがいつも通り素っ気無く言ってすたすたと操縦席に戻る。
「もとよりオーブの危機だからこそ、集まったんだからな、俺たちは」
「そうそう。色々難しいけどさ…ま、やってみるしかないね」
チャンドラもインカムをセットし直して笑った。
「ほら、どいてどいて」
すると、今度はミリアリアがどんとカガリの背を押し出した。
「あなたには他にやることがあるでしょ?ここには私が座る」
「ミリアリア」
「早く行って。久しぶりなんでしょ、モビルスーツなんて」
「あなたがそこに座ってくれるのは心強いけど、でもいいの?せっかく…」
雰囲気に飲まれそうになっていたマリューが、慌ててミリアリアに聞いた。
「やりたい事を見つけて、頑張ってきたのに」
「ええ。世界もみんなも好きだから写真を撮りたいと思ったんだけど…」
ミリアリアはにっこりと笑って答えた。
「今はそれがまた、全部危ないんだもの。だから守るの。私も」
そして、自分と同じように大切な故国を守って戦っている彼を思う。
(またきっとたくさん心配かけちゃうけど…おあいこよ、ディアッカ)
「そう。ありがとう」
マリューは微笑み、キラも頷いて笑った。
「アークエンジェル、発進準備を開始します。いいですね、艦長?」
「行きましょう、マリューさん」
カガリはそんな彼らを見て、もう一度小さく「ありがとう」と呟いた。
(ストライクR…)
カガリはパイロットスーツに着替え、馴染み深いコックピットに座った。
これから自分は、命をやり取りする戦場へ出る。
技量に劣る自分が出ても危険が増すだけだが、キラがいてくれる。
(もう2度と、モビルスーツに乗るつもりなどなかったのに…)
けれど意思を貫く時には、折れない剣が必要なこともある。
そしてキラが、何よりアークエンジェルの仲間がいてくれる。
それが国を守る力のない、弱い自分に残された最後の鎧であり、盾だ。
(皆に俺の声を届け、俺の想いを届けて、そして…すべてを見届ける。自分の眼で見て、自身の責任を受け止める。どんな事があっても…!)
「カガリ、行こう」
「ああ」
キラの声に答え、カガリは過酷な運命が待つ戦場へと飛び出した。
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制作裏話-PHASE27-
これは本編で見た時もひどい話だと思いましたが、シナリオを読むとさらに、「こんな話はやっちゃいかん」と思います。ここはこんなうだうだは入れず、クレタ沖バトルでよかったと思います。
まずひどいのがタリアとルナマリアのだらだらだらだらと無駄な会話!これはひどい。ルナマリアの回りくどいセリフもひどいが、話している内容もひどい。アスランの評価なんかいらないですよ、こんなところで。どうせ裏切るんだから。
それからシンがほとんどセリフも出番もないのがひどい。ステラの容態が急変し、シンはおろおろするばかりです。
ミリアリアがアークエンジェルに合流しますが、その理由がよくわからない。ラクスがエターナルに合流するけどぶつ切りで、これ以降ラクスがメインになるのはPHASE39までありません。
ジブリールのネチネチが無駄に長い。議長の捜索願いが無駄に長い。オーブ艦での話がやたら長い。
そうです、無駄無駄無駄のオンパレード。
どっちにしろガンダムバトルがないのなら、もうちょっとキャラクター同士の繋がり(もちろんシンとアスランを主軸に)を描くとか、今後の展開に役立つような伏線を入れ込むとかできんのかいと言いたい。
というわけで、このモタモタした無駄話をなんとかしようと膨らませています。
無駄に長いデュランダルの捜索願のシーンでは彼の思惑と、エターナルに到着してダコスタたちと久闊を叙するラクスの姿を追加しました。
中盤ではジブリールの手の内を知っている議長の腹の内も小出しにしています。議長が豹変するのではなく、全てがデスティニープランを受け入れさせるため、計算とシナリオに基づき「世界を扱いやすくする(操る、では決してない)」改変計画にしたかったので。
超無駄なルナマリアとタリアのシーンも極力削りました。ルナマリアには偽者のラクス・クラインについて疑惑を持ってもらい、後にこれをシンのジョーカーにします。
それと同時に、ルナマリアは不安に思っていること…アスランがアークエンジェルと行ってしまうのではないかという不安をアスラン本人にぶつけてもらいました。こうする事でルナマリアのアスランへの信頼を表現できるし、それに応えられないアスランの不甲斐なさも示せるのです。
さらに、私はここに主人公を絡ませました。
逆転のシンはバカではないので、闇雲に力を振るうならただの破壊者だと言ったアスランの言葉をそっくり返します。これはアスランには痛い。キラの力は彼らと敵対するものにとってはあまりにも恐るべき力だと身に染みて知っていますから。
こうやって絡めておけばおくほど、アスランの裏切りが際立ち、シンたちにとって深い深い傷となるのです。だって主人公はシンなんですから。本編ではなぜこういう事が出来なかったのか不思議です。
ジブリールのネチネチには、スティングとアウルを見つめるネオの心情を追加。スティングは記憶が多い分、大量に消されると人格崩壊を起こす可能性を示唆しました。実際、最期を迎える頃の彼はそんな様相を示していましたが、このへんの説明が全然なくてわかりにくいんですよ。なんでそれを臭わせるセリフだけでも入れられないのか。
また、ネオはステラの事を覚えていてやらねば、と使命感に似た気持ちを持ちます。記憶と思い出…ネオを描くのには苦労しましたが、逆転ではここに焦点を置いています。
オーブ艦でのユウナたちのブリーフィングはあまり手を加えませんでしたが、アークエンジェルに乗り込んでくるミリアリアには「いつかこの『英雄戦争』を記事にしたい」からというジャーナリストらしい動機をつけました。
さらにアスランの事情を聞くためにディアッカと久々に通信をしたこと、夢を語った時に「危ない」と渋い表情をされた事、それが彼女を意固地にさせてしまったと、想像&創作してみました。ちなみに、ディアッカのことですから決して反対はしなかったと思うのですが、彼女が選ぶ仕事としては危険過ぎるので「ええっ?マジ?」という感じだったのではないかと。
後にミリアリアも、自分よりも意地っ張りのアスランを見て反省し、彼女にカガリとの仲直りを促すと同時に、自分の気持ちもほぐしていく…という展開にしたかったからです。キャラクターがキャラクターに影響を受け、同時に影響を与える様子が描きたかったので。
でもこのへんは本編の設定を本編以上に生かしているので(アスランとディアッカは実際に再会しているので)、無理がないと思うのですが…いかがでしょう、ディアミリ派の皆さま。
他にも本編では食事を前に落ち込んでいるアスラン(このへんからキラ撃破まで、こいつはずっとこんなんばっかだったなぁ)を見ていたメイリンなども生かし、メイリンがアスランに声をかけようとしてうろうろするとか、タリアから「シンを休ませろ」と命令を受けたくせに、ちゃっかりアスランにやらせているアーサーとか、キャラとキャラの関わりも散りばめてみました。
そして大きな改変はなんといってもアークエンジェルです。
次のPHASE28でのカガリの様子は、もうバカバカしさにも程があると思ってイヤになっちゃいましたから、何とかしたかったのです。キラの行動もどうにもこうにもだったので、考えた挙句、「戦わない」という選択をする事にしました。アスランに言われた事をちゃんと咀嚼し、理解し、取り入れているのが逆転のキラです。
カガリがオーブ軍に声を届ける間、キラは「守るために戦う」事に徹底するため、オーブが戦うのをやめさせるためには戦いません。
では彼らを実際に戦わせないためには、戦闘を止めるためにはどうするのか。
カガリは、それは「やるべき者がやる」のだという結論に達します。これによってカガリ自らストライクRに乗るという決断を下すのです。カガリをストライクRには乗せないという前提で書いている私にとっても、こういう決意があるならまぁいいだろうと譲れるものがありました。
何しろ本編準拠にするからには、ここで「乱入はしない」というような、物語の流れを完全に断ち切る展開にするわけにはいきません。セイバーをバラすためにも乱入する事が省けない以上、こうしたプロセスと結論があるだけでも少しは納得できるのでは…と思いました。
「バトルシーンには、ガンプラが売れるフリーダムを出すように」という無茶振りに応えるにしても、制作陣はシンとオーブ(カガリ)に主眼を置きさえすればこれくらいはできたと思うのですが…
カガリも、そしてキラも、ラクスがいなくなった事で何でも自分で決めなければならなくなり、それゆえに成長していきます。これができるのも、本編と違い、逆転のラクスが本当に彼ら兄妹の心の支え的存在となるように描いてきたからかなぁと思っています。ラクスってやっぱりこういう存在であって欲しいと思うんですよね。
それにしてもシンの出番が少ない上に、ひたすら無駄な事をぐだぐだぐだぐだやっているPHASEでした。時間を返せ!と叫びたくなるのも無理はない。しかも次の次は総集編。忘れもしない、2005年のGW。こんなことやってるからダメだったんだよ。
まずひどいのがタリアとルナマリアのだらだらだらだらと無駄な会話!これはひどい。ルナマリアの回りくどいセリフもひどいが、話している内容もひどい。アスランの評価なんかいらないですよ、こんなところで。どうせ裏切るんだから。
それからシンがほとんどセリフも出番もないのがひどい。ステラの容態が急変し、シンはおろおろするばかりです。
ミリアリアがアークエンジェルに合流しますが、その理由がよくわからない。ラクスがエターナルに合流するけどぶつ切りで、これ以降ラクスがメインになるのはPHASE39までありません。
ジブリールのネチネチが無駄に長い。議長の捜索願いが無駄に長い。オーブ艦での話がやたら長い。
そうです、無駄無駄無駄のオンパレード。
どっちにしろガンダムバトルがないのなら、もうちょっとキャラクター同士の繋がり(もちろんシンとアスランを主軸に)を描くとか、今後の展開に役立つような伏線を入れ込むとかできんのかいと言いたい。
というわけで、このモタモタした無駄話をなんとかしようと膨らませています。
無駄に長いデュランダルの捜索願のシーンでは彼の思惑と、エターナルに到着してダコスタたちと久闊を叙するラクスの姿を追加しました。
中盤ではジブリールの手の内を知っている議長の腹の内も小出しにしています。議長が豹変するのではなく、全てがデスティニープランを受け入れさせるため、計算とシナリオに基づき「世界を扱いやすくする(操る、では決してない)」改変計画にしたかったので。
超無駄なルナマリアとタリアのシーンも極力削りました。ルナマリアには偽者のラクス・クラインについて疑惑を持ってもらい、後にこれをシンのジョーカーにします。
それと同時に、ルナマリアは不安に思っていること…アスランがアークエンジェルと行ってしまうのではないかという不安をアスラン本人にぶつけてもらいました。こうする事でルナマリアのアスランへの信頼を表現できるし、それに応えられないアスランの不甲斐なさも示せるのです。
さらに、私はここに主人公を絡ませました。
逆転のシンはバカではないので、闇雲に力を振るうならただの破壊者だと言ったアスランの言葉をそっくり返します。これはアスランには痛い。キラの力は彼らと敵対するものにとってはあまりにも恐るべき力だと身に染みて知っていますから。
こうやって絡めておけばおくほど、アスランの裏切りが際立ち、シンたちにとって深い深い傷となるのです。だって主人公はシンなんですから。本編ではなぜこういう事が出来なかったのか不思議です。
ジブリールのネチネチには、スティングとアウルを見つめるネオの心情を追加。スティングは記憶が多い分、大量に消されると人格崩壊を起こす可能性を示唆しました。実際、最期を迎える頃の彼はそんな様相を示していましたが、このへんの説明が全然なくてわかりにくいんですよ。なんでそれを臭わせるセリフだけでも入れられないのか。
また、ネオはステラの事を覚えていてやらねば、と使命感に似た気持ちを持ちます。記憶と思い出…ネオを描くのには苦労しましたが、逆転ではここに焦点を置いています。
オーブ艦でのユウナたちのブリーフィングはあまり手を加えませんでしたが、アークエンジェルに乗り込んでくるミリアリアには「いつかこの『英雄戦争』を記事にしたい」からというジャーナリストらしい動機をつけました。
さらにアスランの事情を聞くためにディアッカと久々に通信をしたこと、夢を語った時に「危ない」と渋い表情をされた事、それが彼女を意固地にさせてしまったと、想像&創作してみました。ちなみに、ディアッカのことですから決して反対はしなかったと思うのですが、彼女が選ぶ仕事としては危険過ぎるので「ええっ?マジ?」という感じだったのではないかと。
後にミリアリアも、自分よりも意地っ張りのアスランを見て反省し、彼女にカガリとの仲直りを促すと同時に、自分の気持ちもほぐしていく…という展開にしたかったからです。キャラクターがキャラクターに影響を受け、同時に影響を与える様子が描きたかったので。
でもこのへんは本編の設定を本編以上に生かしているので(アスランとディアッカは実際に再会しているので)、無理がないと思うのですが…いかがでしょう、ディアミリ派の皆さま。
他にも本編では食事を前に落ち込んでいるアスラン(このへんからキラ撃破まで、こいつはずっとこんなんばっかだったなぁ)を見ていたメイリンなども生かし、メイリンがアスランに声をかけようとしてうろうろするとか、タリアから「シンを休ませろ」と命令を受けたくせに、ちゃっかりアスランにやらせているアーサーとか、キャラとキャラの関わりも散りばめてみました。
そして大きな改変はなんといってもアークエンジェルです。
次のPHASE28でのカガリの様子は、もうバカバカしさにも程があると思ってイヤになっちゃいましたから、何とかしたかったのです。キラの行動もどうにもこうにもだったので、考えた挙句、「戦わない」という選択をする事にしました。アスランに言われた事をちゃんと咀嚼し、理解し、取り入れているのが逆転のキラです。
カガリがオーブ軍に声を届ける間、キラは「守るために戦う」事に徹底するため、オーブが戦うのをやめさせるためには戦いません。
では彼らを実際に戦わせないためには、戦闘を止めるためにはどうするのか。
カガリは、それは「やるべき者がやる」のだという結論に達します。これによってカガリ自らストライクRに乗るという決断を下すのです。カガリをストライクRには乗せないという前提で書いている私にとっても、こういう決意があるならまぁいいだろうと譲れるものがありました。
何しろ本編準拠にするからには、ここで「乱入はしない」というような、物語の流れを完全に断ち切る展開にするわけにはいきません。セイバーをバラすためにも乱入する事が省けない以上、こうしたプロセスと結論があるだけでも少しは納得できるのでは…と思いました。
「バトルシーンには、ガンプラが売れるフリーダムを出すように」という無茶振りに応えるにしても、制作陣はシンとオーブ(カガリ)に主眼を置きさえすればこれくらいはできたと思うのですが…
カガリも、そしてキラも、ラクスがいなくなった事で何でも自分で決めなければならなくなり、それゆえに成長していきます。これができるのも、本編と違い、逆転のラクスが本当に彼ら兄妹の心の支え的存在となるように描いてきたからかなぁと思っています。ラクスってやっぱりこういう存在であって欲しいと思うんですよね。
それにしてもシンの出番が少ない上に、ひたすら無駄な事をぐだぐだぐだぐだやっているPHASEでした。時間を返せ!と叫びたくなるのも無理はない。しかも次の次は総集編。忘れもしない、2005年のGW。こんなことやってるからダメだったんだよ。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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