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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
 
インパルスが轟音と共にブラストシルエットを装着する。
以前の戦いで水中の敵に手を焼いたシンは、重火器装備で出ると決めていた。
ブラストインパルスは強力なスラスターで水面に近づき、水煙をあげてホバー飛行を続ける。
出撃前のブリーフィングでは、高度はセイバー、ブラストが水面付近全般、中間域は2機のザクが守ると決まっている。
オーブの後ろにいる地球軍は、ステラがいた部隊のはずだ。
(ステラを迎えに来たあいつらも…きっと…)
どこか重苦しい気持ちを抱きながら、シンは眼前の敵を見据えていた。

拍手


「トリスタン、イゾルデ、撃ぇ!」
アーサーが左舷前方のオーブ艦に向けて主砲と副砲を放つ。
「9時方向よりオーブ艦群、更に接近!」
オーブ護衛艦の射程に入ると、至近距離でミサイルが炸裂し、水煙があがった。
「アーサー、対艦ミサイル。レイとルナマリアにも牽制させて」
タリアは手早く防衛ラインを立て直させた。
「クレタを基点に挟むつもりね…」
モニター上の敵艦の予測進路がミネルバの進路を塞ぎ、アラートが鳴る。
マリューが懸念したように、数に勝る地球軍が広げられる網は広い。
「まずいわよ。転進してももう一方に追い込まれる!」
ルナマリアは顔をしかめた。眼前にはオーブ艦隊が立ちはだかっている。
狭いダーダネルス海峡の戦いでは本領が発揮できなかったのか、もともと海戦を得意とするオーブ軍は、ミネルバの主砲が届かない海域で大きく広がり、囲い込むように近づいてくる。
「このままじゃ挟まれちゃう!なんとかしなきゃ…!」
トリスタンが届かないのだから、オルトロスが届くはずがない。
それでもルナマリアは艦ギリギリまで出て必死に巨砲を撃ち続けた。

「へっ!今日は緑か!」
楽しそうに言うと、アウルはカリドゥスを放って挨拶代わりにした。
シンはお返しとばかりにモジュールを回転させ、ケルベロスを構える。
そのままホバー飛行を続けて後ろ向きに進むブラストを面白がり、追走してきたアビスに、シンはビームを放った。
「そ~んなもんに!」
ひらりと避けてみせたアウルはそのまま水中に潜る。
シンはケルベロスを収めて舞い上がり、上空からランチャーをぶち込んだ。
(あいつも…)
実弾装備を充実させた今日は、奴を逃がすつもりなどさらさらない。
けれどふとシンの心に、今もミネルバで苦しんでいるステラの姿が浮かぶ。
(ステラと同じ、戦争の犠牲者なのか?)
その時、アビスが再びインパルスの軌道上に飛び出してきた。
「いい加減見飽きてんだよ、その顔!」
「…くっ!」
「今日こそ落とーす!!」
アウルは元気に叫びながらアビスの全砲門を開いた。
シンは襲い掛かるビームを恐るべき反射神経ですり抜けていく。
インパルスの軌跡にアビスのコンピューターが次々とマークをつけたが、モニターを見ると、機体はもうとっくに別のポイントに移動済みだった。
「ちぇっ!生意気!」
フルバーストで仕留められなかったアウルの顔が不愉快そうに歪む。
(余計な事を考えるな。ここは戦場なんだ)
シンはフルスピードで水面を駆け抜けると、踵を返して大きく旋回した。
アビスと向かい合い、真っ向勝負を受けるつもりだ。
「おまえは、俺の敵だ!」

アスランはミネルバに近づくムラサメを狙い撃っていた。
追い払えればいいのだが、中にはモビルスーツに変形してセイバーに戦いを挑んでくる者もいる。アスランは無言でサーベルを抜き、相手が構える暇も与えずに懐に飛び込むと、腕と足を斬り落とした。
墜落していくムラサメの無事を確かめ、アスランは次のターゲットに向かう。
(なんて戦い方…)
オーブと戦わねばならない事に心は乱れ、射線も太刀筋も鈍るアスランは、そんな自分の不甲斐なさに眉をひそめた。 
その時、セイバーの翼をカオスのビームがかすめた。
「おいおいおい!寝惚けてんのかぁ!?」
カオスが後ろからカリドゥスを撃つと、アスランは回転しながら避けた。
「逃げてんじゃねーよ!」
スティングは楽しそうに口の端をあげた。
(このパイロットも、エクステンデッド…?)
アスランはダーダネルスの戦いを思い出していた。
カオス、アビス、あの時はガイアが、そしてハイネの乗るグフがいた。
「割り切れよ。でないと、死ぬぞ」
(割り切れない。割り切れるわけがない)
ままならない事態に絡め取られて動けない自分を思うと、何もかも捨てて逃げ出せたら、どんなに楽になるだろうと思わなくもない。
「だけど!」
アスランは制動をかけてモビルスーツに変形すると、追ってきたカオスをプラズマ砲で迎え撃った。
驚いたスティングが衝突を避けようと力一杯操縦桿を引く。
「この野郎、また…!」
セイバーはサーベルを抜くとそのまま斬りかかった。
(決めたのだから…戦うと。私が戦うのだと!)

「ソコワダツミ、ミサイル発射口被弾!」
トダカはソコワダツミを下がらせ、クラミズハを前に出せと命じる。
(たった1隻でなんという火力だ)
無尽蔵とも思える相手の砲を封じねば近づく事ができない。
各艦のイーゲルシュテルン、連装砲、ミサイルがミネルバに襲い掛かる。
「ほら!第二戦闘群をもっと前へ出しなさい!どんどん追い込むのよ!」
ユウナが口を出すと、砲術を司るアマギが怒鳴り返した。
「ミネルバの火器はまだ健在です!迂闊には出せません!」
それを聞いたユウナは舌打ちし、けれどまたすぐに口を出した。
「ムラサメ隊は何をしてるの!何でさっさと落とさない…」
「実戦はお得意のゲームとはわけが違います」
アマギが再び怒鳴りかけるのを遮り、トダカが静かに言った。
「そう簡単にはいきませんよ」

「奴らのモビルスーツはいい」
激突する最前線では、今回新たに派遣されてきたババ一尉が部下に命じていた。
オーブ軍屈指のベテランである彼のターゲットは、ミネルバただ一艦だ。
「あれさえ落とせば、全て終わる!」
思わしくなかったダーダネルスの戦果に、宰相セイランは新たな護衛艦とモビルスーツ部隊を支援によこした。守備隊の中でも生え抜きの精鋭であるババ隊を派遣する事には反対も多かったが、総司令官たる娘に泣きつかれたセイランは、ごり押しで彼らの派遣を決定したのだった。
(こんなバカげた、意味のない戦いなど!!)
ババは忸怩たる思いでミネルバを見つめた。
「右舷後方、上空よりムラサメ12!」
徐々に囲い込まれ、転進を続けるミネルバにムラサメ隊が近づく。
「取りつかせるな!撃ち落とせ!」
タリアが命じると、アーサーの必死の迎撃が続いた。
ルナマリアもレイもムラサメを狙うが、いかんせん射線角が狭すぎる。
素早い動きでビームを放ちながら取り付く姿はさながらスズメバチのようで、さしものミネルバも被弾を繰り返してダメージを受け、黒煙を噴いた。
「これ以上はやらせないわ!」
果敢に迎撃を再開したものの、艦が傾ぐとザクは態勢を整えるのが精一杯だ。
そこに、カオスを振り切ったセイバーが援護にやってきた。
飛び交うムラサメを追い、フォルティスを連射する。
こんな状態で、もはや迷ってなどいられなかった。
アスランは冷静であろうと自分を律し、ムラサメを射線に捉えていった。
「あの機体は…」
その時、ババが見覚えのある赤い機体に気づいた。
オーブに入国しようとし、彼らを軽く一蹴して飛び去った機体だ。
「やはり…貴様か!」
アスランは襲い掛かってきた相手のサーベルを防いだが、ババは弾かれたサーベルの柄を素早く持ち変えると、そのまま体重を乗せて横に薙いだ。
咄嗟にビームを干渉させたアスランの脳裏に、ふと、ユニウスセブンで戦ったジン・ハイマニューバ2型が浮かんだ。ババの老獪な太刀筋は、戦い慣れたサトーの剣術を思い出させたのだ。
しかしその時、彼らの前にスティングが現れた。 
「おまえは!俺がっ!」
友軍への信号すら出さずに割り込んできたカオスを見て、昔気質のババはその無礼さに怒りを感じたが、この時点で同盟軍に異を唱える事もない。
ババはここはカオスに譲り、再びミネルバに向かうと決めて転進した。
ムラサメを追おうとしたセイバーは、カオスのビームに阻まれた。
「だから!逃げるなってんだよ!」
「邪魔だ!」
ババの腕に危機感を持ったアスランは、カオスの攻撃を悉くサーベルのビーム干渉によって弾き飛ばした。スティングは蹴りを繰り出し、足先のビームクローがセイバーの顎先をかすめたが、アスランは逆に隙を突いて相手の足関節を蹴り上げ、機体バランスを崩す。
「…こいつっ!」
スティングが態勢を整えるわずかな間に、セイバーは飛び立っていた。

「セイバー、インパルスは?」
「カオス、アビスと交戦中です!」
メイリンの答えに、タリアは痛いほど親指を噛んだ。
レイとルナマリアが必死に防戦しているものの、機動性に劣る2機では防衛ラインが守り切れていない。
ズズンと艦に衝撃を受けるたび、新たなアラートが鳴り響いた。
(なんとかしなければ…このままでは沈むわ)

「はっ!そんなもんに!」
シンが放つレールガンを避けながら、アウルは隙あらば魚雷を放つ。
そのたびにシンは優れた視力で捉えて撃破したものの、肝心のアビスにはさっきからほとんどダメージを与えられていない。
ミネルバからの再三の帰投命令にも応えられず、焦りが募る。
戦場はミネルバ不利とはいえ、決定打がない分徐々に膠着状態に入っていた。

「行くぞ!今度こそ!」
ババは小隊を参集させると、再びミネルバへのアタックを敢行した。
ランダムにバンクロールしながら近づくムラサメは、ザクの射線を逃れようと突然ぱっと四方に散った。同時に猛攻が始まり、必死に迎撃を続けるザクに実弾とビームが襲い掛かり、激しい爆発で通信が乱れた。
ルナマリアは一瞬被弾したと思ったが、大きなダメージはない。
しかし、右翼を守るレイはそうではなかった。
「レイ!?」
左腕が破壊され、小爆発を起こしたザクファントムが膝をついていた。
レイは駆け寄ろうとする彼女を制し、「前へ」と「続け」とサインを作る。
ルナマリアが視線を上げると、ムラサメ部隊が向かってきていた。
「このぉ…しつこいのよ!」
ルナマリアがオルトロスを担ぎ上げると、ザクファントムも立ち上がり、レイはそのまま右腕一本でライフルを構えると再び迎撃を始めた。
しかし防衛ラインが崩れたその隙をムラサメ隊が見逃すはずがなかった。
「艦長!」
「取り舵いっぱい!機関最大!」
懐に入り込んだムラサメは獅子身中の虫だ。
慌てて回頭するミネルバの前面には、手練れのババ一尉が回りこんでいた。
「はあぁぁぁッ!!」
モビルスーツに変形したババは、丸腰のミネルバにビームを放たんとしていた。
「うっ!」
「はゎ…」
遮蔽されているとはいえ、直撃されればブリッジにどれほどダメージがあるのかはわからない。皆、モニターに映るムラサメを見て息を呑んだ。
「メイリンッ!!」
ルナマリアが悲痛な声をあげ、レイもまた珍しく険しい表情を見せる。
巨大な戦艦が攻撃を避けるにはあまりに時間が足りず、策がなかった。

しかしその時、一筋のビームがムラサメとミネルバの間を貫いた。
上空からのビームはさらに両者の間を射し、ババ機を艦から遠ざける。
タリアやアーサーらミネルバのブリッジも、攻撃を邪魔されたババも、アスランやシン、ルナマリアやレイも、再び現れた第三者を見上げた。
その見慣れた姿に、ババ一尉が眼を見張った。
「フリーダム…いや、あれは…」
同じくアスランも息を呑み、噛み締めるようにその名を呼んだ。
「ストライクR…カガリ!?」

カガリはストライクRの57㎜級ビームライフルを構えている。
フリーダムもまたルプスを構えていたが、撃ってはいない。
カガリはキラのナビとスコープデータに従ってライフルを撃っていた。
やがて、並び立つ2機の後ろからゆっくりとアークエンジェルも姿を現した。
360度の射角を持つリニアカノン、バリアントが戦場を狙っている。
シンは再び現れた力の権化を見て、ざわざわと血が逆流した。
「オーブ軍!ただちに戦闘を停止して軍を退け!」
ストライクRがライフルを上げ、カガリの声が戦場にこだました。
先日の戦闘では声だけだったが、今度はカガリの前大戦での愛用機、白と赤と黒を基調にしたMBF-02ストライクRまでもが姿を現したのだ。
肩にはウズミから引き継いだオーブの獅子のエンブレムが輝いている。
ユウナはあんぐりと口を開け、アマギは思わずトダカを仰ぎ見た。
さしものトダカも、ストライクRの登場には驚きを隠せない。
「オーブはこんな戦いをしてはいけない!」
ミネルバの周りに群がっていたムラサメにも動揺が広がった。
「…ストライクR」
「じゃ、やっぱりあれは…」
「あの紋章はウズミ様の、カガリ様のものだ」
しかしこの混乱の中にあって、ババ一尉だけは眉根をひそめていた。
(カガリ様…なぜ来られたのか)
護衛艦もモビルスーツも攻撃の手を止め、戸惑い、混乱している。
ババはそれを感じ取り、冷静な眼でミネルバと後方の地球軍艦隊を見る。
ミネルバは威嚇を続けており、未だ戦意を喪失してはいない。
そして前方に上がってきた地球軍は、オーブ艦隊の退路を完全に塞いでいる。
(我らはもはや退く事などできぬ。惑わせないでいただきたい) 

「…フリーダム」
シンは真っ直ぐフリーダムを見つめていた。
あの力…戦場を一瞬で支配する、恐ろしいほど圧倒的な力。
(見せつけにきたのか。自分が最強だと。全て思い通りにできると!)
それから、その横にいるストライクRに視線を移す。
「オーブの理念を思い出せ!それなくして何のための軍か!」
カガリの言葉を聞いて、シンは唇を噛んだ。
(その崇高なる理念が、俺の家族を殺した…)
しかも、そうまでして必死に守った理念をオーブはあっさりと捨てたのだ。
それが常にシンを苛立たせ、言い知れぬ怒りを生み出している。
「地球軍の言いなりになるな!」
カガリの言葉は続き、シンはダーダネルスでオーブ艦隊から一斉攻撃を受けたアークエンジェルを思い出した。
オーブはあの時、国家元首にも牙を剥いた。
彼自身が言う通り、地球軍の言いなりになって…シンはふっと鼻で笑った。
「これでは何も守れはしない!」
(国に背かれたおまえも、国に見捨てられた俺のように、哀れで、情けなくて、惨めだな…)
次の瞬間、ブラストインパルスのミサイルポッドが開かれた。
「なのに…何でおまえはそんな綺麗事をいつまでも!」
ミサイルは真っ直ぐにストライクRへ向かっていく。
それを見たオーブ軍もミネルバも驚きを隠せなかった。
アスランは思わずシフトレバーを入れたが、間に合うはずもない。 
しかしキラは冷静だった。
恐らく戦場にいた誰よりも落ち着いていたに違いない。
キラはさして機体を動かす事もなく砲門を開くと、撃たれたミサイルを捉え、全て正確に撃ち落した。あまりにも滑らかな一連の動作は美しくさえ見えた。
無数のファイアーフライが爆発し、フリーダムとストライクRが一瞬爆煙で見えなくなったが、再び姿を現したフリーダムを見て、シンは舌打ちした。
(そこで高見の見物かよ…いつでも片付けてやるといわんばかりに)
ふつふつと沸き起こった怒りが、再びシンの力を覚醒させた。
体の奥から爆発的な力が突き抜けていき、急激に冷えていく。
マグマが海水と混ざり合って燃え盛りながら固まるように、シンの心も熱さと冷たさがぶつかり合い、やがて融和した。
視界がぱぁっと開け、余計な音が一切聞こえなくなった。
彼が望むものだけが眼に入り、望む音だけが耳に入った。
「おまえも…ふざけるなぁッ!」
スラスターが唸り、宙に舞った機体が凄まじい加速でフリーダムに向かってきた。
キラはインパルスの攻撃性と速さに驚いたが、すぐに飛び退る。
けれどストライクRから離れる事はできない。
そんなフリーダムの鼻先を掠めたのは、インパルスのジャベリンだった。
(…速い!いつの間に…!?)
キラは素早くスラスターを開いて上体をのけぞらせたが、抜き手が全く見えなかった相手の速さを思い、ヒヤリと背中が寒くなった。
シンはジャベリンを格納すると次はケルベロスを起こし、両脇に抱えた。
そしてそのまま距離を取ったフリーダムを追ってビームを連射する。
ここまで激しい攻撃を受けては防衛を行わないわけにはいかない。
キラは背部バインダーを起こし、バラエーナでインパルスをロックした。
「やめなさい、キラ!」
両雄が激突しようとした瞬間、セイバーが体当たりでフリーダムを押しやった。
「うっ!?」
「アスラン!?」
キラは驚きながら空中を滑り、すぐにセイバーから離れる。
その間も、視野には常にカガリのストライクRが入っていた。
「こんなことはやめろと…オーブへ戻れと言ったはずよ!」
堅い声音からアスランの怒りが伝わってくる。
キラはきゅっと唇を噛んだ。

「アスラン…」
シンはアスランがフリーダムに向かって行ったのを見上げていた。
ルナマリアに戦うのかと聞かれた時、彼女は言葉に詰まって答えなかった。
シンの脳裏に、インド洋で、ダーダネルスで共に戦った記憶が蘇る。
ガルナハンで自分の力を信じて任せてくれたこと、ロドニアでステラと戦った時は、何も言わなくても互いのすべき事がわかった気がした。
「戦争はヒーローごっこじゃない!」
叩かれた頬の痛みと共に、過ごしてきた日々が心をよぎった。
(戦うよな、アスラン。そいつと…俺たちの敵と!)
シンは信じていると言うかのように向き直ると、再びアビスと対峙した。
「な~んか知らないけど、毎度毎度ごちゃごちゃと!」
アビスは水面に飛び出すと、ランスを振って飛び掛った。

「何をぼんやりしている!ユウナ・ロマ!」
ネオは呆然としているユウナに通信を入れた。
「先の言葉を忘れたか?2艦とも叩き落とすんだ!」
ユウナが「あ、ああ…」と両手で頬を押さえ、アマギは思わずトダカを振り返ったが、彼は首を振り、静かに呟いた。
「我らに指揮権はない」
その言葉通り、ユウナは自分を取り戻すとトダカに命じた。
「わ、わかってるわ!ミネルバを…だから早くミネルバを!あれさえ落とせばいいんだから、私たちは!」

ストライクRの元に戻ろうとするキラを、アスランは執拗に追い続けた。
「下がって、キラ!あなたの力は、ただ戦場を混乱させるだけよ」
キラは何も答えない。
(混乱のない戦場なんてないよ、アスラン)
今までいやというほど見てきた戦場には、混沌と狂気しかなかった。
「この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者たちの世界で!」
仮面の男の冷笑が聞こえたような気がして、キラは一瞬首を振った。
(違う!世界は…!)
そんなフリーダムの前に、突然カオスが立ちはだかった。
「はっはっはっはっ!もらったぜ、てめぇら!!」
カオスが兵装を開いたその瞬間、キラは既に両手でラケルタを抜いていた。
砲門は開かれる暇すらなく、恐ろしい速さで刻まれてバラバラになった。
それはキラの太刀筋を見慣れているアスランでさえ、驚くほどの速さだった。
勝利を信じて疑わなかったスティングは何が起きたかわからなかったが、次の瞬間ダメージアラートが鳴り響き、機体はコントロールを失った。
「うっ…わぁぁ!」
スティングはそのまま海へ落ちたが、かろうじて滑空し、戦線を離脱した。
相手の敗北と墜落を見届けもせず、キラは遥か彼方へ飛び去っていた。

「か、艦長!?」
アーサーが「また出ました」とお化けでも出たかのように叫ぶと、タリアはひとしきり親指を噛んで考え込み、やがて言った。
「…こちらに敵対する確たる意志はなくとも、本艦は前回、あの艦の介入によって甚大なる被害を被った。敵艦と認識して対応!」
タリアの声が響くと、ブリッジがきりりと引き締まった。

「どこ見てんだよ、こらッ!」
シンはカオスがフリーダムに切り刻まれる様子を見つめていたが、そのせいでいきなり飛び出してきたアビスの攻撃への対応が遅れた。
ショルダーを開いたアビスからは7本のビームが襲い掛かり、これを見て避けきれないと悟ったシンは、突然くるりと背を向けた。
そしてためらいもなく背中のブラストシルエットをパージしたのだ。
ブラストは大爆発を起こし、大きな爆煙と熱で蒸発した海水の湯気が厚い弾幕となってインパルスを覆い隠した。
「なにッ!?」
アウルがインパルスの姿を見失ったのと、武装を失ったインパルスが手に残していたジャベリンを構え、投げつけたのはほぼ同時だった。
(しまっ…)
コックピットを貫かれたアビスは、凄まじいプラズマを発しながらゆっくりと倒れこんだ。大きな水飛沫があがり、海に沈んだアビスのコックピットでは、眼を見開いたままのアウルの亡骸が海水に浸され、彼の赤い血に染まった。
「アウル!」
カオスのシリアスダメージに続き、無情にもアビスのパイロットのバイタルサインが消えた瞬間、ネオは思わず彼の名を叫んだ。
造り上げられ、調整されるエクステンデッドとして哀れな一生を送るしかなかった彼の脳裏に最後に浮かんだのは、施設で唯一彼を可愛がってくれた偽りの母だったのか、赤紫の瞳のはかなげな美少女だったのか、それはもう誰にも知る術はなかった。

「カオス帰還。医療班は第八デッキ前に待機」
「救助ヘリ、発進準備。アビスの遭難ポイントは、座標108、ベータ」
同じ頃、傷ついたスティングもアウルの身に何かが起きた事を悟った。
「アウル…?」
両脇を抱えられて助け出されたスティングは、放送を聞いて振り返ろうとし、バランスを崩した。倒れた彼を助け起こしながら衛生兵が言う。
「無理だ。足の骨が折れてるんだぞ」
いずれ、彼の記憶からは死んだアウルも消されてしまうのだろう。
けれどこの時、スティングの記憶にはまだアウルが確かにいた。
だから彼は、傷つき敗れた自分よりアウルの身を案じていた。
「どうしたんだよ?アビスは…!」
「こいつを連れて行け!早く!」
「なぁ!おい…アウルは!?」
それはほんのささやかな、ささやか過ぎる彼らの絆なのだった。

「ミネルバ!フォースシルエットを!」
一方アビスを仕留めたシンは特に変わった様子もなく、シルエットの換装を要求した。
しかし続けてデュートリオンビームを受けるためミネルバに接近したシンは、片腕を失いながら戦い続けているザクファントムを見て息を呑んだ。
「レイ!?大丈夫なのか?」
「問題ない。チャージの援護をする。行け」
「けど、おまえ…!」
「大丈夫よ、シン。私もいるんだから!」
割り込んできたルナマリアがそう言いながら、こっそりシンに「頑固」とサインを送ると、シンも少し表情を緩めた。
「わかった。頼む」
チャージを受けて再びパワーを取り戻したシンは、上空へと舞い上がって状況を確認した。艦のダメージは大きく、炎や黒煙、白煙もあちこちから上がっている。
ヴィーノやヨウランも今頃は消火や修理に走り回っている事だろう。
メイリンは休むことなくマップにデータを送り続けてくれていた。
皆、必死に戦っている。今、ここで生き延びるために。
(今は戦うべき時だ。そして勝たなければ、何一つ守れない)
シンはすり抜けてくるムラサメを威嚇しながら、ミネルバの進路を見据えた。
「防衛ラインを立て直す!準備はいいか?」
「ああ」
「当たり前でしょ!」
シンはまるで堅牢な守護神の如く、ミネルバの前に立ちはだかった。
「行くぞ!」
力強いその言葉は、2人に向けて出したサインと同じだった。

「小隊各機、俺に続け!」
ババが再度命令を下すと、ムラサメ隊もミネルバに向かって飛び立つ。
(あいつら…!?)
それに気づいたカガリが、突然アークエンジェルの元を離れたため、マリューが驚いてミリアリアとチャンドラを振り返った。
「キラさんに連絡を!ストライクRを援護できるよう、攻撃準備!」
「わかりました!」
2人は同時に返事をした。

「カガリくんはストライクRで、再度オーブ停戦を呼びかける。キラさんはストライクRとアークエンジェルの護衛に徹し、防衛以外の戦闘は行わない」
今回は戦闘に干渉する攻撃はしないと言ったキラの言葉を受け、最終的にマリューが2人の意見をまとめ上げた。
「いいのね、それで?」
2人は頷いた。
同じくアークエンジェルも積極的攻撃は控え、カガリの援護と防衛に徹する。
「バルトフェルド隊長がいない今は、あなたたちが動いている間、アークエンジェルは丸腰になるけど…なるべく戦闘行為を行わずに済むようにしましょう」
マリューに「頼んだわよ」と言われたノイマンが軽く手を上げて応えた。
「すまない、艦長。皆も…本当に…」
眼を伏せたカガリが言うと、マリューは優しく微笑んだ。
「皆で決めた事だもの。あなた一人が全部背負う事ないわ」
「そうだよ、カガリ」
キラが頷くと、カガリはもう一度「ありがとう」と呟いた。

「やめろっ!」
カガリのストライクRが両手を広げ、ムラサメの進路をふさぐ。
「あの艦を討つ理由がオーブのどこにある?もういい、退け!」
「カガリ様!」
「しかし…」
「討ってはならない。自身の敵ではないものを、オーブは討ってはならない!」
カガリは必死に訴えた。
「空母へ戻れ。俺も行く!俺が行って話す!」
そんなストライクRの姿を見た他のパイロットにも動揺が広がっている。
「カガリ様!やはり…」
「いや、しかしあれは…」
ピリピリした戦場の熱の中に、迷いというぬるさが混ざりこむ。
ただでさえ今も砲弾が飛び交う中だ。話などしている場合ではない。
(兵たちを…何より若様をこれ以上危険には晒せん!)
ババは決断した。 
「く…そこをどけ!」
彼の口調に、カガリはもちろん、小隊の面々も驚いた。
「これは命令なのだ。今の我が国の指導者、ユウナ・ロマ・セイランの!」
「ユウナ?ユウナが指揮を執っているのか?」
カガリはその名を繰り返し、そしてダーダネルスでアークエンジェルに砲撃を仕掛けたタケミカヅチを思い出した。
(ユウナが…俺に攻撃を…?)
最後に見た彼女の姿が過ぎる。銃を構え、必死に自分の名を呼ぶ彼女の姿が。
「そうだ!総司令官はセイランだ!」
ババはきっぱりと答えた。
「ならばそれが国の意志。なれば我らオーブの軍人はそれに従うのが務め!」
カガリはそのあまりにも堅い決意に当てられ、ゴクリと唾を飲んだ。
「その道、いかに違おうとも難くとも、我らそれだけは守らねばならぬ」
「だが…!」
カガリは負けじと食い下がった。
「お下がりください!」
ババの厳しい声がカガリを一蹴した。
「国を出た折より、我ら、ここが死に場所ととうに覚悟はできております!」
「ダメだ!こんなところでおまえたちが死ぬ理由なんか一つもない!」
カガリは必死に訴え続ける。
「退くんだ!何か…何か方法があるはずだ!こんなバカな…」
しかしババは従わず、突然ストライクRに掴みかかってきた。
「下がらぬと言うなら、力をもって排除させていただく!」 
「うっ…!」
カガリはムラサメとがっぷり組合い、スラスターを全開にさせて耐える。
「行かせない!行かせてたまるか!」

「カガリくん!?」
その光景に驚いたマリューが声をあげた。
しかし相手がオーブのムラサメでは援護射撃などできるはずがない。
その時、ミリアリアが呼びかけていたキラがカガリのもとに駆けつけた。
「カガリッ!」
「くっ…そぅ…!!」
前大戦時の機体とはいえストライクのパワーは侮れないが、相手はオーブの最新鋭機であり、さらにパイロットはベテランのババ一尉である。
この力比べは場数を踏んでいないカガリには不利だ。
「許されよ、カガリ様!」
ババはストライクRの顎を掌底で持ち上げ、胸が開いたところでチェストを殴って弾き飛ばした。
「うわっ…!
飛ばされたストライクRをフリーダムががっちりと受け止めた。
それを見てほっとしたババは、再び叫んだ。
「我らの涙と意地、とくとご覧あれ!」
そう言いながら彼のムラサメはミネルバに向かっていく。
カガリの登場に攻撃の手を止めたムラサメも、次々続いた。
「あいつ…!くそっ!おまえたち、待て!」
「待っ…カガリ!」
カガリはフリーダムを振りほどくとそのまま彼らを追った。

ババとカガリの力比べを見て高揚したムラサメ部隊は、そのまま真っ直ぐミネルバに突っ込んできた。ルナマリアはこちらの弾幕を恐れることなく懐に入り込んできたムラサメに驚き、慌ててオルトロスの砲口を向ける。
「よせ、やめろっ!」
カガリの叫びも虚しく、ミネルバにとりついたムラサメが砲撃をガナーザクウォーリアに集中させた。被弾など全く顧みず攻撃するムラサメの砲撃がザクウォーリアを覆い隠す。そのあまりにも激しい攻撃になす術がなく、ルナマリアはコックピットの中で激しい爆発に巻き込まれた。
「きゃああぁっ!!」
「姉さんっ!」
ガナーザクのダメージがレッドと表示されると、メイリンが悲鳴をあげた。
「姉さんっ!姉さんっ!ルナマリアッ!」
メイリンの心臓は破れんばかりに脈打ち、涙がにじんでモニターが歪む。

崩れ落ちたガナーザクウォーリアを見たシンの血の気が引いた。
(…ル……ナ…?)
赤い塗装が剥げたザクは、まるで座り込むような姿勢で項垂れている。
装甲が焼かれてところどころ武骨なフレームが見え、さらに剥きだしの機関部にはまだ激しいプラズマが走っていた。力なく腕に抱えられていたオルトロスが大きな音を立てて倒れ、そのまま海に落ちた。
(ウソだろ…ルナ…)
青ざめたシンは呼吸をするのを忘れており、一瞬はぁっと息を吐いた。
体が震え、不安感が急速に迫ってくる。全てを失ったあの日のように、彼の心を黒い闇が包み始めた。こめかみが熱くなり、激しく脈打つ。
ひどく苦しいフラッシュバックがシンの足元に忍び寄ってきた。
けれど、シンは不屈の闘志でそれを抑えこんだ。
彼の瞳に、沈黙したザクに駆け寄った片腕のザクファントムを次の標的に定めたムラサメ部隊が映し出されたのだ。彼らは傷ついた2機のザクに、容赦ない攻撃を仕掛け始めていた。
「レイッ!ルナッ!」
それを見て急激に冷静さを取り戻したシンは、急降下と共にライフルを放ってほぼ100%の確率でムラサメを撃墜していく。その速さたるや凄まじい。
シンはさらに、向かってくるモビルスーツを次々とサーベルで斬り伏せた。
全く無駄のない太刀筋が、容赦なく敵のコックピットを直撃していく。
「よくも俺の仲間を…!」
あっという間にムラサメを全て片付けると、シンの赤い瞳が素早く動く。
彼が選んだ次の獲物は、明らかに他のムラサメより腕が立つババ機だった。
(あいつだ!あいつが司令塔だ!)
アスランが危機感を感じたその「力」を敏感に嗅ぎ取ったシンは、ババ機に向かう。
ババはMA形態になって離脱しようとしたが、インパルスのスピードはそれすらも上回り、ババのムラサメは前に回り込まれて進路を塞がれた。
(…速い!)
ババはこの状況では逃げ切れないと判断し、やむなくモビルスーツ形態になってインパルスと向き合った。が、構える間もなく相手は懐にもぐりこんでくる。
「落ちろっ!」
「ぬぅ!!」
ババはサーベルをシールドで受け止めたが、留めきれずに押し込まれる。
(なんという力だ!これがインパルス…ザフトのエース機か!)
シンは二度三度と打ち込んだが、経験を重ねた戦闘巧者であるババは相手のパワーを巧みに利用し、紙一重でいなしながら致命傷を避ける。
(こいつ…強い!)
攻撃を軽く受け流されるたびに、シンはますます闘志を滾らせた。
「やめろ!シン!よせ!!」
そんな2人に近づく事ができず、カガリは無意識にシンの名を叫んでいた。

しかしこの時、ババは冷静に現在の両軍の戦力を分析していた。
共にミネルバの懐に入り込んだ彼のムラサメ隊はほぼ全滅している。
ミネルバの砲はまだ健在で、完全に崩れた防衛ラインは、傷つきながらも健闘するザクファントムの活躍で、何とか立て直されつつあった。
追い込まれた戦況を、このインパルスがたった1機でひっくり返したのだ。
(もはやこれまでか…)
必死に抗えば、インパルスを振り切って逃げ帰ることくらいはできるだろう。
しかし部下たちを死地に向かわせた自分に、そんな事ができようはずがない。
ババは上空で見守るストライクRとフリーダムを見た。
そして突然サーベルを逆に持ちかえると、柄でインパルスの肩を軽く押した。
「なにっ!?」
ほんの一瞬の隙を突かれ、シンはそのままムラサメに蹴り飛ばされた。
(こんな…ちくしょう!ミネルバ!)
「参ります、カガリ様!どうかご無事で!」
「機関最大!取り舵!!」
ムラサメに気づいたタリアが叫び、マリクも必死に舵を切ったが間に合わない。
ババは叫び声と共に、そのままミネルバの主砲に突っ込んだ。
至近距離での大きな爆発に、ブリッジをすさまじい衝撃が包む。
レイは大破したまま動かないガナーザクウォーリアを庇ってしゃがみ、軽い一撃で攻撃を逸らされたシンは、2人を守るように舳先まで降下した。
「あ…ああ…」
オーブ軍人の壮絶な死を目の当たりにし、カガリは言葉もない。
カガリと共にこの様子を見つめていたキラも、驚きを隠せなかった。
(なんで…皆…こんな…)

この攻撃で激しく炎を噴き上げたミネルバのダメージも尋常ではない。
弾幕の要であるCIWSの稼働率は40%を切っている。
これまでにないほどの被害に、もはやよく航行していると思えるほどだ。
「主砲、及び右舷カタパルト被弾!火災発生、消火作業急げ!」
ヴィーノもヨウランもさっきから消火に次ぐ消火でへとへとだ。
それでも母艦を守らなければと、誰もができることを必死にこなしている。
同じ戦艦乗組員として彼らの想いが想像できるだけに、盛んに黒煙を噴くミネルバを上空から見守っているマリューたちは皆、黙りこくっていた。
何より、ミネルバにあんな傷を与えたのはオーブなのだ。
目の前でああして見守っているキラもカガリも、どんな想いだろう。
「あと一息だ!落とすぞ!」
ミネルバの悲惨な状況を見て、ネオがにやりと笑った。
黒煙をあげ、ほとんどの砲が沈黙し、もはや迎撃などなきに等しい。
「そうよ!それでいいのよ、私たちは…ミネルバさえ落とせば!」
完全に傾いた戦況に、ユウナも身を乗り出した。
「これで大手を振ってオーブに帰れるわ!あと少しよ!!」
トダカが残ったムラサメに、ミネルバに全機集中攻撃を仕掛けるよう命じる。
確かに、いよいよ勝敗が決しようとしていた。

メイリンが震える声で、大破した姉のザクの収容作業を進めている。
医療班や整備班がコックピットからパイロットを助けようとする間も、敵の砲弾は止まってなどくれない。レイは援護しつつ作業を急がせていたが、突然、残った片腕をライフルごと撃ち抜かれた。小爆発と同時に辺りは激しい艦砲射撃に見舞われ、倒れたザクファントムの姿は見えなくなった。
「レイッ!大丈夫か、レイッ!!」
通信機に向かって声を限りに叫んでも応答はない。
シンは悪くなる一方の状況にギリギリと歯を食いしばった。
あまりに力を入れすぎて歯茎が潰れ、血が滲んだ。
(まだだ!まだ俺が残ってる!)
「ミネルバ、ソードシルエットを!全艦叩き斬ってやる!」
沈黙したガナーザクウォーリア、傷つきながら戦い続けたザクファントム。
そして、大切な仲間たちが乗るミネルバが今、最大の危機に陥っている。
(仲間を傷つける奴らは皆、俺の敵だ!)
シンは背に負ったエクスカリバーを抜くと、耐え難い怒りのままに吼えた。
「俺の敵は、俺が倒す!」

その頃アスランはムラサメをフォルティスで狙い撃ち、減速したものはサーベルで斬り捨てた。ミネルバを落とさせるわけにはいかない。
「アスラン!?」
その容赦のない戦いぶりを見たキラが、非難するように言った。
「こんな…こんな状況を見て…まだ…!」
「仕掛けてきているのは地球軍よ!ミネルバに沈めと言うの!?」
「そうじゃない!」
キラはついにたまらず、セイバーに向かった。
両者は容赦なくガツンと機体をぶつけあう。
「だから戻れと言ったのよ!討ちたくないと言いながら、なんなの!?」
アスランはキラと力比べをしながら言った。
「あなたはここに、何をしに来たの!?」

しばらく考え込んでいたトダカが静かに息をついた。
「よし。本艦も前に出る」
その言葉にユウナが仰天した。
「はぁ?ちょ、ちょっと待って!前に出るですって?」
「機関最大!」
トダカはユウナの返事を待たずに叫んだ。
我々に指揮権はない…そう言った彼の最初で最後の意思表示をアマギが受け、操舵手はじめ兵たちが次々と伝令していった。
それがあまりにも清清しく行われたのでユウナも二の句が告げない。
「一佐、あなた…」
「ミネルバを落とすのでしょう?ならば行かねば」
トダカは振り向きもせず、前を見つめたまま言った。
「いえ…だけど…あの…ええ?」
ユウナは行き場のない手を伸ばしたまま戸惑いを隠せない。

シンはミネルバの眼の前に迫っている一番近い護衛艦に降り立った。
無論激しい迎撃を受けたが、インパルスはものともせずエクスカリバーを振り下ろした。
巨大な切っ先が、艦橋から兵装バンク、甲板までを一気に斬り裂くと、ブリッジはあっという間に火に包まれ、兵たちは火を避けて海へ飛び込んだ。
激しく炎を噴いた艦を後にして、インパルスは次の獲物に向かった。
ほんの少し前まで勝利を信じていたオーブ軍は、今や大混乱に陥っている。
2つ目の護衛艦を炎に沈めてもなお、シンの破壊は収まらなかった。
(ルナを、レイを、ミネルバを…俺の大切なものを傷つけたヤツらを…)
「絶対に許さない!おまえらをっ!!」
シンの怒りの咆哮は続く。
カガリは対艦刀を振るって暴れまくるインパルスを見て、かつて故国の沖で見たシンの凄まじい戦いぶりを思い出し、ゾクリと背筋が凍った。
「これで彼らは、オーブの最強の敵になった…」
自分が言ったその言葉が、今眼の前で実際に突きつけられている。
タケミカヅチのユウナも、ひしひしとそれを感じている事だろう。
口の中がカラカラで声が出ない。操縦桿を握り締めた手が震える。
心臓が早鐘のように打ち、暴れまわるインパルスから眼が離せない。
「…やめろーっ、シン!」
搾り出すように叫びながらカガリが飛び出すと、マリューが思わず「いけない!」と声をあげた。
インパルスの戦いは常軌を逸している。
キラの途方もない強さをよく知るアークエンジェルの面々ですら、インパルスのパイロットには底知れぬ何かを感じていた。
「キラさん、止めて!だめよ!」
「カガリッ!」
キラはストライクRを追おうとした。
インパルスが再びカガリに攻撃したなら、今度こそ全力で戦う覚悟だった。
けれどそんなキラの前に、またもアスランが立ちはだかった。
キラを止めなければという事で頭が一杯のアスランは、キラがこれまで防衛以外は攻撃を仕掛けていない事にも、カガリが今非常に危険な状態にあることにも気づいていない。それがとうとうキラの逆鱗に触れた。
キラはフリーダムを反転させるとアスランに向き直った。
「アスラン!わかるよ…あなたの言うこともわかる…!」

ちょうどその時、シンも上空にストライクRを捉えていた。
「…今さら何し来た…アスハ…」
シンはエクスカリバーを一本につなげ、アンビデクストラスフォームにした。
「シン…!」
「こんな事になったのは、全部おまえのせいだ!」
燃え盛る紅蓮の炎を背に、対艦刀を構えるソードインパルスが立つ。
カガリはその恐ろしいまでの光景と、一歩でも近づけば斬るといわんばかりのシンの気迫に足を止めた。途方もないシンの怒りが迫りくるようだった。

「でも…カガリは今、泣いてるんだよ!」
キラは叫んだ。
その言葉に、アスランの心に忘れたくても忘れられない光景が蘇る。
いつも明るく元気な彼が泣いたあの日…オーブが失われた日を。
「これが、世界のペイバックなのかよ!」
崩れ落ちたカガリは、小さなキラに抱き締められて泣きじゃくった。
「誰にも涙を見せずに泣いてる!どうしてそれがわからないの?」
「な…」
アスランはキラの思いもかけない反撃に言葉がなかった。
「なのに、この戦闘もこの犠牲も…仕方がないことだって…全てオーブとカガリのせいだって、そう言って、あなたは討つの?今、カガリが必死で守ろうとしているものを!」
これだけ怒鳴っても、キラの怒りは収まらなかった。
「それに、ラクスだけじゃない。カガリも命を狙われている。だから今はオーブには帰せない!」
「…命?」
アスランは突然飛び込んできた物騒な情報を処理しきれず、繰り返した。
(カガリが…命を?一体誰に…どういうこと?)
「アスランには…カガリのそばで、カガリを守って欲しかった!それなのに…」
キラが口惜しそうに言った。本当はそれが何より一番悔しかったのだ。
「ザフトに戻って、カガリが守ろうとするものを討つと言うなら!」
「キラ、待っ…」
キラは美しい紫の瞳で、戸惑うアスランを、セイバーを睨んだ。

「私は、あなたを討つ!」

キラは約束を破り、向かってくる者以外に初めて牙を剥いた。
感覚が研ぎ澄まされ、いつものクリアな視界が拡がっていく。
キンと澄み渡るほど冷たい頭脳と、熱くなった体が調和する。
キラは眼にも止まらぬ速さで両の手でラケルタを抜くと、セイバーの装甲を素早く斬り裂いた。一体何回剣を振るったのか、自分でもわからなかった。アスランはその間、一切の抵抗ができないままだった。
それだけ斬られても、殺されるような致命傷は与えられていない。
(キラ…!)
あまりにも明らか過ぎる技量の差に、アスランは呆然とするばかりだった。

「アスランさん!?」
ルナマリア、レイに続きセイバーまでもが落ちると、メイリンは声をあげた。
けれどそれ以上にミネルバには危険が迫っていた。
いつも冷静なバートの声が上ずっている。
「オーブ軍空母、接近してきます!12時の方向、距離2000.ミサイル、来ます!」
「回避!迎撃!」
タリアはまたしてもいやな予感に親指を噛んだ。
命を削る戦闘に疲弊しきっているブリッジが、再び騒がしくなった。

「カガリ、下がって!」
「キラ…」
セイバーを討ち取ったキラが追いつくと、シンはバカにしたように笑った。
「アスハのお守りめ。戦う気もないのにのこのこと!」
アスランと違い、シンはフリーダムが迎撃以外していないと気づいていた。
戦わないフリーダムには興味がない。ましてやストライクRなど…
「そこで見ていろ!おまえの綺麗事が引き起こした結果を!!」
シンはもう一度エクスカリバーを振るって3艦目を沈めると、空母を見た。
カガリもまた、インパルスの視線の先にあるものを見てぎょっとした。
「やめろ…やめるんだ、タケミカヅチ…!」
「空母が…?」
キラは思わず振り返り、空母の進路上にあるミネルバを見る。

「なっ、な…ちょっと、あなた!何をやってるの、トダカ!これでは…」
「ユウナ様はどうか脱出を」
焦るユウナのみでなく、トダカは総員に退艦を命じた。
「総員退艦。繰り返す、総員退艦」
艦内に警報が鳴り響き、兵たちが慌しく脱出準備を整え始めた。
「ミネルバを落とせとのご命令は、最期まで私が守ります」
トダカはそう言うと、ユウナを急かした。
「でっ…でも、あなた、これって…」
「艦、及び将兵を失った責任も全て私が」
さしものユウナもはいそうですかとは言えず、トダカは穏やかな口調で告げた。
(ああ、この人は初めからそのつもりだったのだ…国を出たあの時から)
アマギは息を殺してこの事態を見守っていた。
軍人として断れない命令に従いながら、どれほど涙を呑み、血を滾らせたか…その苦しみを一身に受けていたのは他でもない、紛れもなく彼だったのだ。
(俺は、この人についてきたことを誇りに思う)
ユウナはポカンと口を開け、けれど速度を上げる空母には戦々恐々だ。
「これでオーブの勇猛も、世界中に轟くことでありましょう」
トダカはにこりと笑うと、「お望みどおり、我が国の力もしっかりと世界に示せますな」と言いながらユウナの両肩をむんずと掴んだ。
「さ、ではお早くっ!」
そう叫んでトダカはそのまま彼女を思いっきりぶん投げた。
ユウナはなんだかおかしな叫び声をあげながらアマギたちの方にやってきたが、皆が彼女を避けたので、壁にぶち当たってそのままぐったりと伸びてしまった。
「ちゃんと受け止めなきゃダメだろう!?」
「おまえだって逃げたじゃないか!」
「俺はいやだよ」
「私だってごめんだ」
ひとしきり兵たちの間でなすりあいが起きたが、トダカが大声で笑うと皆も笑いに包まれ、しまいには全員で心行くまで笑いあった。
やがてトダカは、「総司令官殿を国までお送りしろ」と命じた。
「貴様らも総員退艦だ。…生きろよ、必ず」
そう言ったトダカの温かみのある声に、誰もが無言だった。
あの日、傷ついた少年を慰め、心行くまで泣かせる事ができた優しい声だった。
「これは命令だ。ユウナ・ロマではない。国を守るために」
すすり泣く声も聞こえる中、兵たちは「はい」と返事をした。 
けれどアマギだけは違う返事をした。
「私は、残らせていただきます」
「だめだ」
トダカは首を振った。
しばらく押し問答が続いたが互いに譲らない。
「貴様にはやる事がある」
やがてトダカが言った。
「既にない命と思うのなら、想いを同じくする者を集めてアークエンジェルへ行け。それがいつかきっと、道を開く」
アマギはその言葉で、トダカこそが本当はずっと前からアークエンジェルに…カガリのもとへ行きたかったのだと悟った。
「頼む。私と、今日無念に散った者たちのためにも」
そこまで言われてはとアマギはうなだれ、頷いた。
「行け、アマギ!兵たちと、カガリ様を頼む」
タケミカヅチの速度は、さらに上がっていた。

インパルスは、向かってくる空母の前にのそりと立ち上がった。
「やめろ、タケミカヅチ!シン、おまえも!」
「もう遅い…」
シンは邪魔なストライクRに向け、フラッシュエッジを投げつけた。
威嚇のつもりだったが、たとえ命中しても構わないと思っていた。
「カガリッ!」
キラはストライクRの前に飛び出し、シールドをかざしてそれを防いだ。
しかし時間差で放たれたもう一つのブーメランが全く違う軌道を描いて戻ってきた。キラはそれに気づくと、急いでシフトを入れ直した。
(…逆をつかれた!?)
「カガリ様ーっ!!」
しかしキラの転身より早く、カガリを庇おうと生き残ったムラサメの一機が舞い降りてきた。そしてそのままインパルスのブーメランをボディに受け、その勢いでストライクRごと吹っ飛ばされた。スラスターを傷つけられて爆発したムラサメが海に落ち、カガリも機体を立て直せず墜落していく。
「うわぁ!」
フリーダムはきりもみ状態のストライクRを追い、シンの前から邪魔者が消えた。

シンはエクスカリバーを構えて巨大な空母を待ち構えた。
深く傷ついたルナマリア、レイ、ヨウラン、ヴィーノ、メイリン…艦長や副長、それに今もミネルバで苦しんでいるだろうステラの姿が浮かぶ。
(これ以上ミネルバはやらせない。守ってみせる…俺は、全てを!)
一方トダカはたった一人ブリッジに残り、前だけを見つめていた。
撃てる限りの砲弾を放ち、さらに加速しながら傷だらけのミネルバを目指す。
(おまえたちはオーブの敵ではない。だが、こうなったのは悪い運命だ)
大気圏突入をも恐れずに、最後までユニウスセブンの欠片を砕きながら、ボロボロの姿でオノゴロに到着した勇敢な艦を見た日のことが忘れられない。
(本当に恩知らず…だな、俺は)
トダカは眼を伏せ、それからぽつりと呟いた。
「許せよ、ミネルバ」
しかし彼の望みは叶えられることはなく、目前で潰えた。

「うおおぉぉぉ!!」
巨大な対艦刀を振り上げたソードインパルスが空母の甲板に降り立ち、軽々とそれを振り回しながら、ゆっくりとブリッジを覗き込んだのだ。
シンの眼に、果たしてトダカの姿が映ったのかどうかはわからない。
「オーブにいたくないのなら、プラントに行ったらどうかな?」
恩人であるトダカは、コーディネイターのシンに道を示してくれた。
「元気でな。いつかまた、会える日も来るだろう」
旅立ちの日、ただ一人見送ってくれた彼を、シンはいつまでも見つめていた。
もし彼があの時の将校だと知れば、シンは思い出したのだろうか。

かつて、爆風で傷ついた彼を救ってくれたその優しい手を。
一人ぼっちの彼の肩に置かれた、大きくて温かい手を。
最後に握手を交わした時の、離れがたい気持ちを。

けれど、シンもトダカも知らなかった。
今、こうして戦場で向かい合っているのが、かつて助けてくれた人であり、かつて助けた少年であるとは…
シンのエクスカリバーはタケミカヅチのブリッジを容赦なく斬り裂いた。
トダカは最期の瞬間まで、その瞳を閉じずにいた。

タケミカヅチは大爆発を起こし、やがて全ての機関が沈黙した。
怒りのままに振るわれるシンの恐ろしいまでの力は、まだ十分な戦力を残している後続の地球軍をも退かせた。ネオはかつてデータで見た彼の力を目の当たりにし、首を振りながらその凄まじさに感嘆していた。
(こいつは驚いたぜ。あの時よりもっと強くなってやがる)
空恐ろしいヤツだ…ネオは口元を歪めた。

ストライクRで、フリーダムで、アークエンジェルで…皆、この壮絶な戦いの幕切れに言葉もなかった。
カガリは黒煙の上がる戦場を見つめ続けている。
自分の責任を受け止めようと、全てを見届けると決めてここまで来た。
けれど散って行った兵の無念を思えば、自分の無力さが呪わしい。

やがて、戦場は死の静寂に包まれた。
地球軍も救助されたオーブ兵たちも、哀悼の敬礼をする。
そこには死と別れがあり、けれど新たな出会いもあった。
散った命は天へと還り、残った命は歩み始める。

また、明日へと…
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secret
制作裏話-PHASE28-
最初に書いた時はそうでもなかったのですが、今回のリライトで思った以上に大変な加筆修正を行いました。何しろ毎日やっているのに1週間かかったのですから、尋常な量じゃありません。初めは28KB程度だったテキスト量も、後半に負けず劣らずの41KBに膨れ上がりました。

今回加筆したのは圧倒的に戦闘シーンです。
ルナマリア、レイ、アスラン、スティングが撃破され、アウルが戦死する大混戦の戦場なのですから、戦ってもらおうと思ったのです。え?誰にって?もちろん主人公のシンにですよ!

本編ではアスランとキラの追いかけっこにジャマをされまくりましたが、逆転のキラは戦わないと決めていますから、ここは一歩引いてもらっています。従って、本編でババを止めたのはフリーダムですが、逆転ではストライクRです。でもこの方がやっぱり自然じゃないかという気はします。この時点では無力さを痛感しているカガリが、自らの意思を示すという意味では。それに、PHASE23ではラクスのアドバイスありきでしたが(ラクスのアドバイスはカガリをストライクRに乗せたくないゆえのアイディアでしたが、こうして見ると実際は同じ事をやったのに内容や結果の違いが際立ってよかったかもしれません)、今回はカガリ自身が「ストライクRに乗る」と決断したわけですから(これもカガリの成長の一環として、苦渋の決断と仲間との絆を描けました)、これくらいドラマティックな方がストーリー上はいいんじゃないかと思うんですよね。

だから、本編のようにキラがシンに攻撃を仕掛けてリンボーで避けられてビックリする(自分の攻撃を避けるヤツがいるなんて思ってもなかったんでしょうなぁ)シーンもないし、レイを撃破するのもキラじゃありません。スティングに対してはあくまでも防衛ですし、自分から攻撃を仕掛けたのはキラの逆鱗に触れたアスランにだけという演出を取りました。
逆転では本編よりはキラの超人っぷりを落とし、逆にシンの「学習能力の高さ」を引き上げて、両者の能力差を埋めていますので、キラはシンのスピードや抜き手の早さにビビります。やっぱ両雄は拮抗してくれないと面白くないじゃないですか。

シンは綺麗事を言うカガリに攻撃を仕掛け、ブラストをパージしてアウルを仕留め、ルナマリアとレイとミネルバを守り、オーブ艦隊に壊滅的ダメージを与えるという一騎当千・大活躍ぶりです(しかしホント、母艦のピンチに何をしてるのアスラン…)

ルナマリアが討たれた時はフラッシュバックに襲われかけますが、精神力で跳ね返します。その怒りをバネにたった1人で戦況をひっくり返し、ババという老兵に苦戦しながらも、大切な仲間を守るため、シンは鬼神のごとく戦場で暴れまくります。

本編ではただのキレキャラでしかなく、しかもこの時は恩人のトダカを手にかけたこともあって激しいバッシングを受けたシンですが、私はあくまでも彼の根本にあるのは、「戦うべき時には戦い、守るべきものを守る」ことだとしたかったのです。戦争で傷を負ったからこそそれにこだわってしまう陰を持たせるだけで、やや屈折したクレバーさが加わります。
しかしそれでもなお、オーブへの複雑な想いはシンの心から消えません。カガリを「国に背かれた国家元首」と哀れみ、いつまでも綺麗事を言うなと叫ぶシーンは、本編でいきなり攻撃したこととはニュアンスが異なっているので、とても気に入ってます。
また、「戦争の犠牲者」としてのエクステンデッドにも思いを馳せています。逆転のシンはただの直情バカではないのです。

それがやがて、「こんな事態を引き起こして人々を苦しめる、戦争そのものが悪いのだ」という想いに収束していくのです。
そう、ラクスが逆種でキラに語った事と同じなのです(ちなみに本編のラクスはこんな事言いませんよ。むしろ逆デスを見越し、逆種ではキラは何と戦うのかを強調しようと思ったら自然とこうなったのです)こうした描写があれば、「シンもキラも想いは同じなのに、選び取った道が違う」と表現できます。そしてそれはカガリの「目的地が同じなら、道はいくつもある」という想いが融和させていく。
シンへの救いはこんなところに置きたいと思っていましたし、さらにキラ、ラクス、カガリと違って独断に走ったアスランは、この事に気づかない、だから迷走するとしました。少しは反省しなさい。

他に、シンやアスランを梃子摺らせる老獪なパイロットとしてババのキャラクターをかなり膨らませています。カガリを案じながらも最前線に出なければならない、しかも命を散らす兵を見て苦しむ彼を少しでも描写できていればいいのですが。
さらに、このPHASEを書いているうちに「ババってダーダネルスにいたんだっけ?」と疑念が沸いて来ました。普通は当然空母に搭載されるものですが、本編にはなかったアスランとの再戦を演出するためにはクレタが初出の方がいい。というわけで、ダーダネルスの痛み分けでユウナが父に泣きつき、増援を送ってもらったということにしました。PHASE27のチンタラぶりを思うと、キャラクターを生かしたワガママやごり押しを描いた方がいいと思うのです。トダカやシンにも過去を思い出させたりさ。大体種って、そういう効果的なことには回想を使わないんですよね。制作陣は「回想=作画しなくていい(バンク)」と勘違いしているんじゃなかろうか。

それにしても本編のカガリは喚きまくりの泣きまくりで、ウザったいったらありゃしないお荷物でしたが、私はむしろここで「泣かないカガリ」を書きたくて逆転SEEDを書き始めたようなものですから、見届けようと思いながらも、散っていくオーブの軍人を見て動揺を隠せないカガリをたくさん書けてよかったです。燃え盛る艦の上に立つ、鬼神のようなシンと相対するシーンも書けましたしね(本編ではありません)

しかしこのPHASEで何よりも叩かれたのは、やはり「カガリは今、泣いているんだ!」というキラ様のセリフですよね。
ネット上では「だから何?」「泣いてるからどうなの?」と冷ややかな反応が大半で、しかもここ、演出もむっちゃ悪くて、カガリが本当にうぎゃーふぎゃーと泣き喚いている絵が続いたんですよね。だから余計視聴者をウンザリさせてしまった。無理もないです。ホント、監督はじめ制作陣はバカじゃねぇのかと。

キラが言ったのはあくまでも、守りたいものを守れず、力がないと痛感しているカガリの力になるべきアスランが、あろう事かそのカガリの守りたいものを討っていることへの怒りだと思うんですね。そりゃそうですよ。私は正直、この時のキラの気持ちがよくわかります。

だって私、未だに「アスランってなんでザフトに戻ったんだ?」と思ってるんですから。その描写、一切ないですから。何かはっきりした理由、語られました?視聴者にわかりやすい表現がありました?(ちなみにシンがザフトに入った理由もわかりません)ちゃんとした明確な理由が示されていればアスランにも感情移入できるんですけどねぇ…単に「アタシのアスランにもう一度赤服を着せた~い♪」だけの行き当たりばったりの脚本だからこういうボロが出るわけです。

そこで逆転では、このへんはよりわかりやすくしています。
カガリが涙を見せずに一人で、心の中で泣いていること、アスランには何よりもカガリを守って欲しかったことを、キラがはっきりと言ってくれます。
キラがちゃんと喋ると話が動くんですよね。戦場の混乱とクルーゼを思い出すシーンなんかも、さすが前作主人公の面目躍如ですね。

キラにセイバーを16分割にされてしまうアスランは、「カガリは命を狙われている」と言われて動揺しまくります。本編では2人とも相変わらずわけのわからん会話しかしていませんでしたが、逆転のキラはカガリの危機に気づかないアスランに対して非常に怒っています。怒りすぎてアスランが「待って」と言うのを聞かずに斬っちゃいます。逆転では本編のキラが最終回でやった「レイをビビらせてから斬る」という卑劣技は使わせなかったので、ここでアスランに使わせました。キラにゃんヒドイ!でもアスランにはいい薬ですね。

スティングがアウルを気にするシーンもつけ加えました。そうです、このPHASEの隠しテーマは「仲間」なのです。シンは仲間を守るために戦い、カガリは仲間に後押しされて勇気をもらい、スティングは唯一残された仲間を失います。特に本編では後半などシンの仲間を描く事すら諦めた様子の制作陣に呆れたので、逆転ではとにかくシンの力の源の一つが「仲間を守る」事としたかったのです。今までも彼らの関係や過去を描いてきたので、ここは無理なくつなげられていると思います。

トダカについては、本放映時にも思いましたが、制作陣に構成能力があれば、彼らはPHASE8で再会していてもよかったはずです。そしてトダカの存在を知りながらもシンが彼を討つなら、主人公としての葛藤や挫折、成長が描けたはずです。
でもこれ、全くの思いつきだったみたいですね。トダカの声をあてた一条和矢さんは「名もなき軍人」としてPHASE1限りと聞いていたのに、その後呼ばれて驚いたと言ってましたからね。こんな状態で作品を作ってるんですから、シンとトダカの因縁が何も生かされず、主人公がただのイカれた「恩人殺し」になってしまったのは仕方ありません。

本編ではトダカに胸倉を掴まれたユウナですが、さすがに女性に手荒な真似はできないのでぶん投げさせてもらいました(いやいや、十分手荒い手荒い!)
他にもルナマリアがザクの腕を失っても戦い続けるレイを「頑固」と評してシンを和ませたり、ミネルバの危機に弟を案じさせたり、逆にルナマリアの被弾に悲鳴をあげるメイリンなど、本編にはあまりなかった仲間や姉弟の絆も描いてみました。もちろんキラもアスランに邪魔されながらひたすらカガリを守ります。

大量加筆になって推敲7回から8回を重ね、苦労がありましたが、その分満足のいくものになったと思っています(とはいえ、このコメントも4,5回加筆していますが)この後のPHASE29は何の変哲もない総集編で(議長とタリア、クルーゼの関係と、14歳のアスラクしか見所がない)腹が立ちましたが、逆転ではむしろそれを利用してそれぞれの「クレタ戦後の姿」を描けたのでよかったです。
になにな(筆者) 2011/08/31(Wed)00:07:17 編集

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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
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逆転DESTINYの制作裏話を公開

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