機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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サイバースコープをかけたラクスは、目の前に並べた3Dモニターを同時にいくつも操作していた。画面には複数の機体の設計図が展開している。
ラクスがスコープを操作してモニターから指で機体の画像を引き出すと、彼の眼にはそれらのモビルスーツが立体画像として浮かびあがった。
ZGMF-X56S、現在のザフトの最強機体インパルス。
アスランが乗っているZGMF-X23Sセイバー。
さらにアーモリーワンで強奪されたZGMF-X24Sカオス、ZGMF-X31Sアビス、ZGMF-X88Sガイア。
けれど既にセイバーとアビスには赤字で「Serious damage」とあり、ガイアには「Spoils」、カオスがかろうじて「Partial damage」である以外は、今のところ無事なのはインパルスだけだった。
ラクスはセイバーの画像を指で軽く叩く真似をした。
(議長の眼は確か、ということかな…)
ラクスがスコープを操作してモニターから指で機体の画像を引き出すと、彼の眼にはそれらのモビルスーツが立体画像として浮かびあがった。
ZGMF-X56S、現在のザフトの最強機体インパルス。
アスランが乗っているZGMF-X23Sセイバー。
さらにアーモリーワンで強奪されたZGMF-X24Sカオス、ZGMF-X31Sアビス、ZGMF-X88Sガイア。
けれど既にセイバーとアビスには赤字で「Serious damage」とあり、ガイアには「Spoils」、カオスがかろうじて「Partial damage」である以外は、今のところ無事なのはインパルスだけだった。
ラクスはセイバーの画像を指で軽く叩く真似をした。
(議長の眼は確か、ということかな…)
それからラクスはさらにファイルを展開していった。細く長い指が踊るように宙を駆ける。
ZGMF-XX09T…ドムトルーパーと名づけられたその風変わりな機体は、ザフトでザクとの採用競争に敗れ、正式採用にならなかったものだ。
ファクトリーからは、これに改良を加えて造りたいという申し出が来ていた。
(廃棄データが簡単に手に入ったということは、競争には敗れたものの、この機体を造りたいと切望した人々がザフトにいる…ということだろう)
彼らの気持ちを汲んだラクスは、搭乗者の選別権限を条件に許可した。
機体の横に、彼が選んだ搭乗予定のパイロットの名と写真が載っている。
眼帯をしたヒルダ・ハーケン、ヘルベルト・フォン・ラインハルト、マーズ・シメオン…父と縁の深い彼らは、戦後もプラントに残り、ダコスタたちとも協力して諜報活動を続けてくれている。
画面にはさらに、ZGMF-X19A、ZGMF-X20Aと聞きなれない機体ナンバーが並んでいたが、「No Data」となっており、設計図は展開されていない。
ラクスはそれらのアイコンを動かし、ダウンロードを始めた。
もう一つのモニターではデュランダル議長がインタビューに答えている。
隣に、自分によく似た偽りのラクス・クラインを従えて。
「はい。連合に対しては、今も粘り強く和平会談を申し入れています」
「ユーラシア西側の混乱は、ザフトの戦闘介入により、収まりつつあると考えてよいのでしょうか?議長」
「喜ばしいことですが、誤解しないでいただきたい。プラントの誇りたるザフトは、決して地球の人々に無闇に刃を向けることなどありません」
デュランダルはにこやかに常套句を述べた。
インタビューはさらに、プラントの大きな課題である出生率向上に向けての遺伝子マッチングや不妊治療など、さらなる努力が続けられている事、軍事予算拡大のための増税への理解と莫大な戦時国債発行の説明へと続く。
彼の口調は穏やかで優しく、識者の質問にも澱みなく答えを返した。
支持率がかつてない高さを誇る今、彼自身がまさに「英雄」となりつつある。
ラクスも無論、為政者としての彼の有能さは認めていた。
やがて「ラクス・クライン」がお仕着せの平和への想いを語り始めた。
「最近はすっかりお元気そうですが、お体のお具合は?」
そうインタビュアーに聞かれた彼が、にっこりと笑いながら、「はい、それはもう、元気です。ザフトの最先端医療のおかげで」などと答えるものだから、ラクスはついつい苦笑してしまう。
(うらやましいよ、 偽者くん。僕もそう言ってみたいものだ)
もし議長が、あんなに健康そうな「見知らぬ自分」を傍に置いていなければ…
(騙されていたかもしれないな、僕も)
ラクスはそっと眼を伏せた。
(もう少し、教養のある話し方をするように注意しなければ)
同じくその「ラクス・クライン」…ミーア・キャンベルのインタビューをチェックしていた議長がため息をついた。
人気があるのはいいが、ラクス・クラインは「政治的カリスマ」でもある。
すぐ手の届くところにいそうに見える安っぽい偶像では困るのだ。
デュランダルはモニターに見分けがつかないほどよく似ているミーアとラクスの画像を並べた。
さらにその下に、キラ・ヤマトとアスラン・ザラの画像が並ぶ。
(彼らがいつ、どこで、なぜ出会ってしまったのかは知らない)
ラクス・クラインとアスラン・ザラは、元議長であるシーゲル・クラインと、同じく元議長で、クライン政権時代は国防委員長だったパトリック・ザラの対立への政治的配慮から定められた許婚同士だ。
彼らの婚約は正式なものとして結ばれているが、実はまだ解消されていない。
ザラはアスランに解消とは言ったが、公にしたわけではないからだ。
誰かが確認すれば、当事者同士は合意の上すぐにでも解消するだろうが、2人ともそういったことには無頓着だった。それが2年間にわたる、まるで「友達関係のような婚約期間」を支えていたといっていいのだろうが。
デュランダルは、この「解消されていない婚約」を利用するつもりだった。
悲劇の英雄ラクス・クラインとザフトのエリート軍人という組み合わせは、戦いに明け暮れるプラント民にとって最も理想的な構図だからである。
それと同時に、彼女に熱を上げているミーア・キャンベルへの餌にもなった。
「残念ながらこのまま本物のラクス・クラインが戻らなければ、アスランもいずれその気になるかもしれないよ。きみたちはもともと許婚なのだから」
「その気って…ホントですか、議長!?」
愚かな彼がそんな言葉に眼を輝かせると、議長は内心苦々しく思いながらも優しく微笑んだ。
「ああ。きみがラクスとして、彼女にふさわしい態度で接すればね」
毒を含んだ甘い言葉を信じ、彼は淡い夢を抱いて日々の仕事をこなしている。
本物のラクスとアスランも、あのまま順当に行けばちょうど今頃結婚し、家庭を築いたことだろう。成人到達年齢が低いプラントでは、婚姻を奨励している事もあり、10代後半や20代前半での早婚は珍しくはない。
それに籍を入れてからも、アスランの父パトリックと母レノアのように、それぞれがエキスパートとして働き続けることも、コーディネイターの社会では至極当たり前だった。
何より彼らの場合、誰が見ても政略的なこの婚約が、同時に婚姻統制にもかなっていたのは皮肉だった。
偶然にも2人の遺伝子は相性がよく、子孫を残せる可能性が非常に高い。
無論、現在のラクスの身体を思えば望むべくもないのだが、もし彼が健康であれば、自然妊娠の確率はナチュラル同士の夫婦と変わらないとさえ言われている。
(それが何故、彼らと出会ってしまったのか…)
デュランダルはデータのキラ・ヤマトを見、そしてアーモリーワンでもミネルバでも、綺麗事を口にし、肩肘を張るばかりだった無力な若者…オーブ代表、カガリ・ユラ・アスハを思い出した。
(それでも魂が引き合う…定められた者たち…定められた物事)
議長が指でモニターを操作してミーアとキラを画面から消すと、ラクスとアスランの画像が大きくなって並んだ。
(いかにもプラント国民が好みそうな、美しく理想的な2人だ)
かなりの高度から墜落したアスランは、出来る限りの滑空と的確な脱出の手順によって、怪我らしい怪我もなく救助された。
「念のために診察を受けてください!」
押し留めるエイブスたちの言葉を振り切って歩く彼女にヴィーノが気づき、隣でうとうとと居眠りをしているヨウランを肘でつついた。
アスランは誰もいないパイロットルームで、この戦闘を辛くもミネルバが制した事を知った。
艦隊を斬り刻むインパルスを見て、彼なくして勝利はなかった事を改めて痛感する。ミネルバの状況はそれくらい悪かった。
(結局、何もできないままだった…)
勝利に貢献もできず、キラたちを止められず、オーブを救う事もできなかった。
あれだけの破壊を受けたセイバーは、間違いなく再起不能に違いない。
なのに、コックピットには傷一つなく、自分は今、こうして無事でいる。
アスランは着替えもせず部屋に戻ると、そのままベッドに倒れこんだ。
(キラ……カガリ…)
「カガリは命を狙われている。だから今はオーブには帰せない!」
キラの言葉に驚いたからだけではなく、自分がこれまでやってきた事が本当に正しいのかどうかわからなくなって、手も足も動かなかった。
戦争を仕掛け、戦いを挑んでくる地球連合軍と戦う事は、彼らが人々に強いている圧制や暴行、虐殺などの非道を止めることにもなり、実際にナチュラルとコーディネイターの対立は、以前と比べ物にならないほど緩和されている。人々はザフトに感謝し、悦びを露にしていた。
やがて、議長は「ロゴス」の正体を焙り出すだろう。
それを潰せば、戦争の根のひとつがなくなると信じ、戦ってきた。
(なのに私はまた、キラと戦ってしまった)
やりきれない思いでシーツを握り締める。
(カガリが…あんなにまでして守ろうとしたものを傷つけて…)
アスランは枕に顔を埋め、長い事そのまま動かなかった。
(美しく聡明な彼女の相手となると、ミーア・キャンベルでは力不足かな)
議長はふふっと笑い、彼の失われた恋人を思い出した。
「仕方がないの。もう決めてしまったの」
あの夜、少し前から様子がおかしかった彼女に埠頭まで呼び出された。
若き日のタリア・グラディスは、自分とデュランダルの遺伝子の相性が悪い事を知り、婚姻統制に従うと決心したのだ。
「私は子供が欲しいの。だから、プラントのルールに従うわ」
データの中から「夫」となるべく選ばれた男を愛すると決めた彼女は、デュランダルとの日々を捨て、彼と家庭を持ち、子供を作ると言った。
―― だからもう…あなたとは一緒にいられない…
愛よりも生殖を選ぶのかと怒鳴りたかった。
けれど、利己的で自分勝手な遺伝子の原始的な叫びを…子孫を残し、繁栄したいという願いを、遺伝子工学者の自分が否定するわけにはいかなかった。
彼の山よりも高いプライドが、海よりも深い彼女への想いの邪魔をした。
「…そうか」
デュランダルはそれだけ言って彼女を手放した。
その時彼女が見せた心底嬉しそうな顔が彼の心を切り裂き、今もまだ治らない傷となってじくじくと膿を持っている。
(自分と円満に別れられる事をあんな風に喜ぶなど…)
まざまざと見せつけられた女の残酷さに深く傷つき、彼は女性不信に陥った。
そのくせ諦めきれず、一時は酒に溺れ、未だに彼女への執着を捨てきれない。
デュランダルの中には常に葛藤と矛盾があり、それもまた、彼を政治へと駆り立てる原動力となっている。怒りを糧に立ち上がったシンのように…
「…俺は…ここに残る」
そんな彼の眼の前で、戦いに巻き込まれた女のために、為政者の役目よりミネルバに残る事を選んだ男の顔が浮かび、議長は不愉快そうに眉をひそめた。
その言葉は公人としてあるまじきものであり、浅はかで愚かだったにも関わらず、タリアとの恋に破れて以来、全てを捨ててひたすら政治の道を歩んできたデュランダルの心の傷を深くえぐった。
(愛や恋の何たるかも知らない若僧が…!)
しかし自分はその男から、それほど大切な女を掠め取ってやったのだと思うと溜飲が下がった。彼女が選択した道を知った時、彼はどう思っただろう。
(あの女に裏切られたと思い、悩み、苦しみ、そして…)
彼はまるで子供のような意地の悪い笑いを浮かべた。
後に再会した恋人は、望みどおり子供をもうけていたが、デュランダルの甘い誘惑にあっさり乗ってきた。
以来、生殖で結びついた夫や子供を裏切ったタリアは再び彼のものとなり、彼らは長い間背徳的な逢瀬を重ねている。
(あわよくば子供ができればいい)
それがデータ上難しいことは誰よりも知っているが、それでも運命に抗おうと、彼は会うたびに彼女を求め、抱き続けている。
燃え盛り、沈みいく空母の甲板に立ったシンは、戦場に立っているのがもはや自分だけであることを知った。
ミネルバの黒煙はやや収まり、なんとか航行を続けている。
航行可能な数隻の護衛艦を残し、空母を失ったオーブ艦隊は壊滅状態だった。
背後の地球軍もこれ以上戦闘を仕掛けてくる様子はない。
帰投命令が下ると、シンはもう一度タケミカヅチを振り返ったが、破壊され炎に包まれたブリッジにはもう何も、ましてや人影など見えなかった。
「ルナッ!」
着艦したシンは、彼を迎えた人々を押し退けてすぐに医務室に向かった。
ヴィーノとヨウランは本格的に居眠りモードに入っており、エイブスに見つかって蹴っ飛ばされるまでシンの帰還には気づかなかった。
救助され、処置が終わったルナマリアは、ステラの隣のベッドで眠っていた。
彼女の傍らにはまだパイロットスーツのレイがいて、シッと指を口に当てる。
「今、薬で眠っている」
血の気のない顔で眠り続けるルナマリアは、かなりの重傷だった。
頭に血がにじんだ包帯を巻き、血が下がって眼の周りがどす黒い。
肋骨、鎖骨が折れ、左腕も骨折によってギプス固定されている。
頬や首には爆発時の火傷や痛々しい打撲、ひどい擦過傷が無数にあった。
腹部を打ち、肝臓や腎臓機能がやや下がっているが、内臓に大きな傷がなかったのは奇跡といえた。鼻から酸素を供給され、浅い呼吸を続けるルナマリアを見つめながら、二人はしばらく無言のままだった。
やがてシンは思い出したように振り返り、レイを気遣った。
「おまえは?大丈夫なのか?」
「大丈夫だ」
それを聞いたシンは、ようやくほーっと息をついた。
とにかく2人とも無事で、この戦闘では仲間を失わずに済んだ。
シンはカーテンの向こうにいるステラをちらりと覗き、彼女も今は静かに眠っていることを確認した。
(でも俺は、ステラの仲間を殺した…この手で…)
シンは自分と激しい戦いを繰り広げたアビスを思い出した。
(アビスに乗っていたのは、あの2人のうち、どっちだったんだろう)
シンはディオキアでステラを迎えに来た2人の青年を思い浮かべた。
彼もまた、選択できない運命に翻弄され、人殺しを強要され、けれどそれを知りもせずに戦っていたのだろうか。それともその過酷な運命を受け入れて、自分が生きるにはそれしかないと思って必死に戦っていたのだろうか。
(自分で自分の運命を選べないなんて…)
(自分で自分のやりたい事を選べないなんて…)
(そんなの……おかしい………おかしいよ…)
「おい、シン?」
いつの間にか自分の肩にもたれて眠ってしまったシンに気づき、レイは困った顔をした。眠った彼を、自分1人で一体どうやって運べばいいのか…レイはため息をつきながら、疲れきって眠るシンの寝顔を見つめた。
運命…歩んできた道、歩むべき道が、その言葉で片付くのだろうか。
デュランダルは2人の画像を消すと、次にGFAS-X1デストロイと、ミネルバから送られてきた捕虜の写真をモニター上に出した。
やつれはて、顔色の悪い彼女がどんな人間なのかは知らない。
薬漬けで戦闘訓練を受け、記憶や思考を支配される「戦う人形」のことなど。
(しかしその「役割」を忠実にこなす事に関しては、誰よりも優秀だ)
自分の役割も、生きる意味も、目的すら知らず、無為に生きて無為に死んでいくよりは、よほど充実しているといえるのではないか?
(ただ死ぬために生きるだけの存在というよりは有意義では?)
デュランダルは今はもういない、厭世的で皮肉屋の友を思い出した。
「全てをそう言ってしまうなら、では我らが足掻きながらも生きるその意味は?」
「全ての者は生まれ、やがて死んでいく。ただそれだけのことだ」
旧式のザフトレッドの制服をまとった金色の髪の彼は言う。
「だから何を望もうが、願おうが無意味だと?」
その答えにデュランダルは眉をひそめた。
「いやいや、そうではない。ただそれが、我らの愛しきこの世界…そして人という生き物だということさ」
若き日には思いもせず、老いて初めて焦りだす…クルーゼはふふっと笑った。
「どれだけ、どう生きようと、誰もが知っていることだが、忘れていること」
だが私だけは忘れない…とクルーゼは言った。
「生まれた時から終わりが見えている私には、きみたちとは違う景色が見える。こんな私の生に価値があるとしたら、知った時から片時もそれを忘れたことがないということだけだろうがな」
彼のその苦しみを、デュランダルは分かち合う事ができない。
デュランダルにできたのは、彼の遺伝子を解析し、少しでも老化を遅らせる薬を作ってやる事だけだった。
けれど、それすらもどこまで効果があるかはわからない。
彼の老化は常人よりはるかに速い速度で進んでいくのだ。
彼が唯一その苦しみを重ねられたのは、彼とよく似た幼い少年だった。
彼は少年を弟のように可愛がり、軍務に就く時は必ずデュランダルに預けた。
戦火が広がってザフトの出撃が増えると、少年は…レイはほとんどの時間をデュランダルと共に過ごすようになった。
「だが、きみとて望んで生きたのだ」
デュランダルはそう呟くと、隠しファイルを開けてパスワードを入れた。
そこには仮面をつけた白服のラウ・ル・クルーゼと、ZGMF-X13Aプロヴィデンスのものものしい画像が現れた。
「CE71.9.27戦死。プロヴィデンスはZGMF-X10Aフリーダムにより撃破」
ザフトの中でも闇に葬られた彼のデータは、いまや入手も困難だ。
ただ「ネビュラ勲章を受けた、エリート部隊クルーゼ隊の隊長」という肩書きのみが生き残っており、彼がナチュラルだった事は伏せられている。
オペレーション・スピットブレイクやNジャマーキャンセラーのデータを地球軍に流した疑いなどについては、本人死亡により調査が打ち切られた。
「まるで何かに抗うかのように。求めるかのように」
人を憎み、世を憎み、それを原動力としながら、彼は生きた。
「願いは叶わぬものと知った時、我らはどうすればいい?それが定めと知った時には…」
デュランダルは全力で愛した彼女を失った苦しみで崩れそうだった。
取り戻せない時を、二度と手に入らない幸せを思うと気が狂いそうだった。
「きみならわかるだろう…生まれた時から可能性を閉ざされたきみならば」
「そんなことは私は知らない」
クルーゼは友の苦しみを知りながら、決して救いを与えなかった。
「私は私のことしか知りはしない」
そう言って少年の頭をなでると、レイは嬉しそうに微笑んだ。
初めこそ大切にされたものの、失敗作とわかった途端「廃棄」されたクルーゼは、愛の残酷さをよく知っていた。そんな彼が、うらぶれた研究所で、まるで獣のように扱われていたレイを救い出し、深い愛情を与えたのは皮肉だ。
「迷路の中を行くようなものさ…道は常にいくつも前にあり、我らは選び、ただたどる」
クルーゼは愛を見失い、暗闇の中で苦しんでいる友に言った。
「きみたちはその先に、願ったものがあると信じて希望を抱き、夢を抱き、いつかはかなうと、幸せをつかめると信じて進む…そして私は…やはりないのだと、また知るために…」
それは救いの言葉のようにも、望みを断ち切る言葉のようにも聞こえた。
「こちら、オーブ軍第二護衛艦群アマギ一尉以下、パイロット十数名。オーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハ様にお目にかかりたい。着艦を許可されたし」
ブリッジに戻ったカガリはこの申し出に戸惑いを隠せなかった。
「オーブに戻らず、俺に会いたいと…?」
護衛を続けるキラとも簡単な話し合いを持ち、彼らの着艦は許可された。
そして今、カガリはハンガーで、傷ついたムラサメを見つめている。
「想いが同じなら、道は違えど、やがて同じ場所にたどり着く…か」
あの日、父と別れなければならなかった時に聞いた言葉が蘇った。
迷走するオーブは今、道を誤っている。
眼を閉じたまま、崖っぷちを歩いているようなものだ。
(導かなければならない立場の俺がこれじゃ、国も迷うよな)
多くのモビルスーツが撃墜され、護衛艦も空母もクレタの海に沈んだ。
インパルスが、そして遠目に見たセイバーが心に浮かび、カガリの心を苛む。
やがてカガリは、平手でパンと両頬を叩いた。
(しっかりしろ、俺!)
もう何もなくなったと思っていたのに、アークエンジェルとキラがいる。
(それに、こうして俺を頼って来てくれた連中までいるじゃないか!)
最後にフリーダムが着艦すると、アークエンジェルの潜航が始まった。
コックピットを出たキラが、キャットウォークのカガリに気づいて手を振る。
それを見てカガリの目元がほころんだ。
彼は気づいていないが、その表情は、キラとカガリを愛しそうに見つめた在りし日のウズミによく似ていた。
(大丈夫だ。俺はまだこうして立っている。だから、また歩き出せる。無数の道に迷おうとも、願った先がただ一つなら、必ず辿り着ける)
「キラ!」
カガリは大きく手を振り返すと、元気よく走り出した。
「誰が決めたというのだろう…何を?」
デュランダルは前大戦の軌跡をたどっていた。
血のバレンタイン。ラクス・クラインの救出と帰還。
ニュートロンジャマーの投下による地球のエネルギー危機。
泥沼化した戦争は膠着状態に陥り、決定打を欠いて疲弊した。
(そして、運命に導かれるようにキラ・ヤマトが参戦した)
「仕方がなかった。では、それは本当に選んだことか?」
友を守るため、友と戦い、やがて彼らは出会い、運命は廻り始めた。
「選んだのは本当に自分か?」
いつだって選択は残酷で、けれど決めなければ先へは進めない。
「選び得なかった道の先にこそ、本当に望んだものがあったのではないか?」
振り返り、惜しみ…人は過去に囚われる。
「そうして考えている間に時はなくなるぞ」
クルーゼが嘲るように笑う。
「我らよりずっと時間があるはずのきみたちも、時には逆らえない」
デュランダルもまた、それを理解しながら諦めきれない。
微かな希望を否定するクルーゼの冷笑が心の中にこだました。
「選ばなかった道などなかったと同じ。もしもあの時…もしもあの時…」
デュランダルの手が、今度はシン・アスカとレイ・ザ・バレルを呼び出す。
過去に囚われ、過去に押しつぶされそうになりながら、必死にそれを跳ね除て、立ち上がってきた少年…初めて彼を見た時、飢えた獣のようだと思った。
その遺伝子の優秀性よりも、その気性、強さ、激しさが彼の心を捉えた。
何も施さずとも、レイがシンに惹かれ、友人となりえたことも面白い。
レイにとって、シン・アスカは、見張るべき相手でもあり、唯一の大切な友でもあるのだ。デュランダルにとっても、それは予想外のことだった。
深く傷ついた孤独な獣と、同じく手負いの獰猛な獣…彼らは互いを友とした。
まるで、若き日の自分とラウ・ル・クルーゼのように。
「いくら振り返ってみても、もう戻れはしない。何も変える事などできない」
デュランダルは去っていった彼女を想う。
今、彼女とどれだけの夜を過ごしても、あの頃の愛し合った2人は戻らない。
ただ体を重ねるだけの2人に、かつて過ごした温かい日々は二度と戻らない。
「我らは常に見えぬ未来へと進むしかないのだ」
デュランダルは彼らの画像の下にあるファイルを開いた。
そこにはモビルスーツの設計図が隠されていた。
ZGMF-X42Sのナンバーを持つ、「運命」という名の機体…前大戦時のザフトの傑作、最強の機体と謳われるフリーダムを凌駕すべく、デュランダルが開発させてきた夢の機体である。
(全てを打ち破る「強さ」こそが、「力」のあり方を決める)
インパルスですら、彼にとってはこの機体の前座に過ぎない。
デュランダルはしかし、それを画面から消した。
(まだ早い…これを彼に渡すのは今ではない)
「今ではないいつか。ここではないどこか。 きっとそこにはあるもの。素晴らしいもの」
そんなものはいくら待っても、いくら探しても、どこにもないのにとクルーゼは高らかに笑った。
「なのにそれを求めて永劫に血の道を彷徨うのだろう?きみたち人は…」
走ってきたカガリに迎えられたキラは、「ごめんね」と言った。
「こうなる事はわかってたけど…でも…」
「謝るな。おまえはいつだって精一杯やってくれてるよ」
カガリがキラの頭をぽんと叩くと、キラは寂しそうに笑った。
「あのモビルスーツ………インパルス…」
キラはカガリに攻撃を仕掛けたモビルスーツについて尋ねた。
「ものすごく強かった。怖いくらい。あれは…あの人は…?」
「ミネルバで会った事がある。オーブ出身で、俺を心底嫌ってるんだ」
カガリは自分を射抜くようににらみつけた赤い瞳の彼を思い出した。
(攻撃されても仕方がない。俺たちはあそこでは完全な異物だったんだ)
「オーブの…人」
対艦刀を振り回し、次々と艦を沈めるモビルスーツの姿は忘れようもない。
しかもそのパイロットがオーブ出身と聞けば、キラも複雑な思いを抱かずにいられなかった。
「でも、キラとあいつが戦うような事がなくてよかった」
ほっとしたように呟いたカガリに、キラはさらに何か言おうとしたが、マードックの怒声にかき消された。2人は声のする方に眼を向けた。
「違う違う!それは腕に繋げって!足は別のケーブルなんだよ!」
「ハッチは開けたままにしといてくれ!私物は各自で持って行けよ」
「冷却材をもっとだ!あーあ、ひでぇな、こりゃ…」
威勢のいい整備兵たちの声が響き、ハンガーは俄かに活気づいている。
慣れない艦での機体の固定に、オーブ兵たちも手間取っているようだ。
そして、どの機体も激戦のダメージが深い。
「皆、ボロボロだね」
「ああ。でも、生きていてくれてよかった」
カガリは少し眩しそうに、モビルスーツの足元に群がる兵たちを見つめた。
「生きてると大変な事もあるけど…生きてなきゃ何もできないもんな」
彼の言葉に、死んでいった多くの人たちを想ってキラは頷いた。
トール、ムウさん、アイシャさん、アスランの友達、カガリの友達、女の子…皆、もっともっとやりたい事がたくさんあったろう。
―― それに、フレイも…
キラは最期にフレイが見せてくれた笑顔を忘れない。
(私にはフレイを守れなかったけど…それは後悔とすら言えないけれど)
失った愛を抱き締め、キラはフレイを、心の奥の、誰も触れない一番深い場所に大切にしまっていた。
「私…アスランを討った」
やがてキラが静かに呟いた。
小さく息を呑んだカガリは、けれど何も言わず、黙ったままだ。
「そうやって…人を傷つけて、血を流して…破壊するばかりだとしても」
答えを待つ事をせず、キラはそのまま続ける。
「守りたい人たちがいて、守りたい世界があるから」
「…キラ」
「だから、私は戦ってる。今も」
キラはカガリを見上げて微笑み、カガリもキラを見て少し笑った。
今は誰よりもわかりあえるお互いの存在が、何よりも愛おしかった。
「救いはないと?」
デュランダルは暗い表情で聞いた。
「何を望んでも、どう努めようとも、我らには何の救いもないのか?」
おやおや、というようにクルーゼが言う。
「救いとは何だ?望むものが全て、願ったことが全て叶うことか?」
そして彼は手に持った仮面をつけた。
表情を隠し、ひたひたと迫り来る老いを隠すために…
「こんなはずではなかったと、だから時よ戻れと祈りが届くことか?」
―― 戻れればやり直せると? 自分は変わらずに、世界だけが変われと?
「ならば次は間違えぬと確かに言えるのか?きみは」
呆れたようにクルーゼが両手を広げる。
「誰が決めたというのだ…何を?」
そして、彼はデュランダルの言葉を繰り返した。
「自分であると…選択できる機会も、修正できる機会もあったのに、結局それを選ばなかったのは自分なのだと、いい加減認めたまえ」
「ならば私が変える!全てを!」
デュランダルは「DESTINY'S PLAN」と書かれたファイルに手を伸ばした。
「戻れぬというのなら、初めから正しい道を!」
デュランダルの手はしかし、そのファイルには触れずに下ろされた。
しかるべき時、しかるべき場所、しかるべき状態で扉を開くのだ。
焦る必要はない。己の出来ること、己のすべきこと…
「それは、自身が一番よく知っているのだから」
ラクスは採血のため、指先にカチリと針を刺した。
ポツリと浮かんだ自分の赤い血液を眺め、その中にある膨大なDNAデータを想う。
「アデニン、グアニン、シトシン、チミン」
ラクスは歌うようにDNAを構成する塩基の名を呼んだ。
(そんなものに、僕らは支配されている)
けれど、ラクスの遺伝子はもはや生まれた時のままではない。
今はもうないユニウスセブンで、血のバレンタインによって破壊された。
「だけど、それもまた『今の僕』を形作るものだ」
ラクスは独り言ちた。
人は進化を求め、よりよく、より幸福になろうと歩んできた。
心の命ずるままに、欲望のままに…失敗し、苦しみながら。
ラクスはサイバースコープを外すと、疲れた目を休めてほっと息をついた。
機器には、ダウンロードが終了したというランプが点滅していた。
―― 人は、どうありたいのだろう?
ZGMF-X19Aインフィニットジャスティス。
ZGMF-X20Aストライクフリーダム。
スコープを外したため、立体化していたそれは平面設計図に戻る。
ラクスはその2つのデータを見つめ、やがて指先でモニターを閉じた。
ZGMF-XX09T…ドムトルーパーと名づけられたその風変わりな機体は、ザフトでザクとの採用競争に敗れ、正式採用にならなかったものだ。
ファクトリーからは、これに改良を加えて造りたいという申し出が来ていた。
(廃棄データが簡単に手に入ったということは、競争には敗れたものの、この機体を造りたいと切望した人々がザフトにいる…ということだろう)
彼らの気持ちを汲んだラクスは、搭乗者の選別権限を条件に許可した。
機体の横に、彼が選んだ搭乗予定のパイロットの名と写真が載っている。
眼帯をしたヒルダ・ハーケン、ヘルベルト・フォン・ラインハルト、マーズ・シメオン…父と縁の深い彼らは、戦後もプラントに残り、ダコスタたちとも協力して諜報活動を続けてくれている。
画面にはさらに、ZGMF-X19A、ZGMF-X20Aと聞きなれない機体ナンバーが並んでいたが、「No Data」となっており、設計図は展開されていない。
ラクスはそれらのアイコンを動かし、ダウンロードを始めた。
もう一つのモニターではデュランダル議長がインタビューに答えている。
隣に、自分によく似た偽りのラクス・クラインを従えて。
「はい。連合に対しては、今も粘り強く和平会談を申し入れています」
「ユーラシア西側の混乱は、ザフトの戦闘介入により、収まりつつあると考えてよいのでしょうか?議長」
「喜ばしいことですが、誤解しないでいただきたい。プラントの誇りたるザフトは、決して地球の人々に無闇に刃を向けることなどありません」
デュランダルはにこやかに常套句を述べた。
インタビューはさらに、プラントの大きな課題である出生率向上に向けての遺伝子マッチングや不妊治療など、さらなる努力が続けられている事、軍事予算拡大のための増税への理解と莫大な戦時国債発行の説明へと続く。
彼の口調は穏やかで優しく、識者の質問にも澱みなく答えを返した。
支持率がかつてない高さを誇る今、彼自身がまさに「英雄」となりつつある。
ラクスも無論、為政者としての彼の有能さは認めていた。
やがて「ラクス・クライン」がお仕着せの平和への想いを語り始めた。
「最近はすっかりお元気そうですが、お体のお具合は?」
そうインタビュアーに聞かれた彼が、にっこりと笑いながら、「はい、それはもう、元気です。ザフトの最先端医療のおかげで」などと答えるものだから、ラクスはついつい苦笑してしまう。
(うらやましいよ、 偽者くん。僕もそう言ってみたいものだ)
もし議長が、あんなに健康そうな「見知らぬ自分」を傍に置いていなければ…
(騙されていたかもしれないな、僕も)
ラクスはそっと眼を伏せた。
(もう少し、教養のある話し方をするように注意しなければ)
同じくその「ラクス・クライン」…ミーア・キャンベルのインタビューをチェックしていた議長がため息をついた。
人気があるのはいいが、ラクス・クラインは「政治的カリスマ」でもある。
すぐ手の届くところにいそうに見える安っぽい偶像では困るのだ。
デュランダルはモニターに見分けがつかないほどよく似ているミーアとラクスの画像を並べた。
さらにその下に、キラ・ヤマトとアスラン・ザラの画像が並ぶ。
(彼らがいつ、どこで、なぜ出会ってしまったのかは知らない)
ラクス・クラインとアスラン・ザラは、元議長であるシーゲル・クラインと、同じく元議長で、クライン政権時代は国防委員長だったパトリック・ザラの対立への政治的配慮から定められた許婚同士だ。
彼らの婚約は正式なものとして結ばれているが、実はまだ解消されていない。
ザラはアスランに解消とは言ったが、公にしたわけではないからだ。
誰かが確認すれば、当事者同士は合意の上すぐにでも解消するだろうが、2人ともそういったことには無頓着だった。それが2年間にわたる、まるで「友達関係のような婚約期間」を支えていたといっていいのだろうが。
デュランダルは、この「解消されていない婚約」を利用するつもりだった。
悲劇の英雄ラクス・クラインとザフトのエリート軍人という組み合わせは、戦いに明け暮れるプラント民にとって最も理想的な構図だからである。
それと同時に、彼女に熱を上げているミーア・キャンベルへの餌にもなった。
「残念ながらこのまま本物のラクス・クラインが戻らなければ、アスランもいずれその気になるかもしれないよ。きみたちはもともと許婚なのだから」
「その気って…ホントですか、議長!?」
愚かな彼がそんな言葉に眼を輝かせると、議長は内心苦々しく思いながらも優しく微笑んだ。
「ああ。きみがラクスとして、彼女にふさわしい態度で接すればね」
毒を含んだ甘い言葉を信じ、彼は淡い夢を抱いて日々の仕事をこなしている。
本物のラクスとアスランも、あのまま順当に行けばちょうど今頃結婚し、家庭を築いたことだろう。成人到達年齢が低いプラントでは、婚姻を奨励している事もあり、10代後半や20代前半での早婚は珍しくはない。
それに籍を入れてからも、アスランの父パトリックと母レノアのように、それぞれがエキスパートとして働き続けることも、コーディネイターの社会では至極当たり前だった。
何より彼らの場合、誰が見ても政略的なこの婚約が、同時に婚姻統制にもかなっていたのは皮肉だった。
偶然にも2人の遺伝子は相性がよく、子孫を残せる可能性が非常に高い。
無論、現在のラクスの身体を思えば望むべくもないのだが、もし彼が健康であれば、自然妊娠の確率はナチュラル同士の夫婦と変わらないとさえ言われている。
(それが何故、彼らと出会ってしまったのか…)
デュランダルはデータのキラ・ヤマトを見、そしてアーモリーワンでもミネルバでも、綺麗事を口にし、肩肘を張るばかりだった無力な若者…オーブ代表、カガリ・ユラ・アスハを思い出した。
(それでも魂が引き合う…定められた者たち…定められた物事)
議長が指でモニターを操作してミーアとキラを画面から消すと、ラクスとアスランの画像が大きくなって並んだ。
(いかにもプラント国民が好みそうな、美しく理想的な2人だ)
かなりの高度から墜落したアスランは、出来る限りの滑空と的確な脱出の手順によって、怪我らしい怪我もなく救助された。
「念のために診察を受けてください!」
押し留めるエイブスたちの言葉を振り切って歩く彼女にヴィーノが気づき、隣でうとうとと居眠りをしているヨウランを肘でつついた。
アスランは誰もいないパイロットルームで、この戦闘を辛くもミネルバが制した事を知った。
艦隊を斬り刻むインパルスを見て、彼なくして勝利はなかった事を改めて痛感する。ミネルバの状況はそれくらい悪かった。
(結局、何もできないままだった…)
勝利に貢献もできず、キラたちを止められず、オーブを救う事もできなかった。
あれだけの破壊を受けたセイバーは、間違いなく再起不能に違いない。
なのに、コックピットには傷一つなく、自分は今、こうして無事でいる。
アスランは着替えもせず部屋に戻ると、そのままベッドに倒れこんだ。
(キラ……カガリ…)
「カガリは命を狙われている。だから今はオーブには帰せない!」
キラの言葉に驚いたからだけではなく、自分がこれまでやってきた事が本当に正しいのかどうかわからなくなって、手も足も動かなかった。
戦争を仕掛け、戦いを挑んでくる地球連合軍と戦う事は、彼らが人々に強いている圧制や暴行、虐殺などの非道を止めることにもなり、実際にナチュラルとコーディネイターの対立は、以前と比べ物にならないほど緩和されている。人々はザフトに感謝し、悦びを露にしていた。
やがて、議長は「ロゴス」の正体を焙り出すだろう。
それを潰せば、戦争の根のひとつがなくなると信じ、戦ってきた。
(なのに私はまた、キラと戦ってしまった)
やりきれない思いでシーツを握り締める。
(カガリが…あんなにまでして守ろうとしたものを傷つけて…)
アスランは枕に顔を埋め、長い事そのまま動かなかった。
(美しく聡明な彼女の相手となると、ミーア・キャンベルでは力不足かな)
議長はふふっと笑い、彼の失われた恋人を思い出した。
「仕方がないの。もう決めてしまったの」
あの夜、少し前から様子がおかしかった彼女に埠頭まで呼び出された。
若き日のタリア・グラディスは、自分とデュランダルの遺伝子の相性が悪い事を知り、婚姻統制に従うと決心したのだ。
「私は子供が欲しいの。だから、プラントのルールに従うわ」
データの中から「夫」となるべく選ばれた男を愛すると決めた彼女は、デュランダルとの日々を捨て、彼と家庭を持ち、子供を作ると言った。
―― だからもう…あなたとは一緒にいられない…
愛よりも生殖を選ぶのかと怒鳴りたかった。
けれど、利己的で自分勝手な遺伝子の原始的な叫びを…子孫を残し、繁栄したいという願いを、遺伝子工学者の自分が否定するわけにはいかなかった。
彼の山よりも高いプライドが、海よりも深い彼女への想いの邪魔をした。
「…そうか」
デュランダルはそれだけ言って彼女を手放した。
その時彼女が見せた心底嬉しそうな顔が彼の心を切り裂き、今もまだ治らない傷となってじくじくと膿を持っている。
(自分と円満に別れられる事をあんな風に喜ぶなど…)
まざまざと見せつけられた女の残酷さに深く傷つき、彼は女性不信に陥った。
そのくせ諦めきれず、一時は酒に溺れ、未だに彼女への執着を捨てきれない。
デュランダルの中には常に葛藤と矛盾があり、それもまた、彼を政治へと駆り立てる原動力となっている。怒りを糧に立ち上がったシンのように…
「…俺は…ここに残る」
そんな彼の眼の前で、戦いに巻き込まれた女のために、為政者の役目よりミネルバに残る事を選んだ男の顔が浮かび、議長は不愉快そうに眉をひそめた。
その言葉は公人としてあるまじきものであり、浅はかで愚かだったにも関わらず、タリアとの恋に破れて以来、全てを捨ててひたすら政治の道を歩んできたデュランダルの心の傷を深くえぐった。
(愛や恋の何たるかも知らない若僧が…!)
しかし自分はその男から、それほど大切な女を掠め取ってやったのだと思うと溜飲が下がった。彼女が選択した道を知った時、彼はどう思っただろう。
(あの女に裏切られたと思い、悩み、苦しみ、そして…)
彼はまるで子供のような意地の悪い笑いを浮かべた。
後に再会した恋人は、望みどおり子供をもうけていたが、デュランダルの甘い誘惑にあっさり乗ってきた。
以来、生殖で結びついた夫や子供を裏切ったタリアは再び彼のものとなり、彼らは長い間背徳的な逢瀬を重ねている。
(あわよくば子供ができればいい)
それがデータ上難しいことは誰よりも知っているが、それでも運命に抗おうと、彼は会うたびに彼女を求め、抱き続けている。
燃え盛り、沈みいく空母の甲板に立ったシンは、戦場に立っているのがもはや自分だけであることを知った。
ミネルバの黒煙はやや収まり、なんとか航行を続けている。
航行可能な数隻の護衛艦を残し、空母を失ったオーブ艦隊は壊滅状態だった。
背後の地球軍もこれ以上戦闘を仕掛けてくる様子はない。
帰投命令が下ると、シンはもう一度タケミカヅチを振り返ったが、破壊され炎に包まれたブリッジにはもう何も、ましてや人影など見えなかった。
「ルナッ!」
着艦したシンは、彼を迎えた人々を押し退けてすぐに医務室に向かった。
ヴィーノとヨウランは本格的に居眠りモードに入っており、エイブスに見つかって蹴っ飛ばされるまでシンの帰還には気づかなかった。
救助され、処置が終わったルナマリアは、ステラの隣のベッドで眠っていた。
彼女の傍らにはまだパイロットスーツのレイがいて、シッと指を口に当てる。
「今、薬で眠っている」
血の気のない顔で眠り続けるルナマリアは、かなりの重傷だった。
頭に血がにじんだ包帯を巻き、血が下がって眼の周りがどす黒い。
肋骨、鎖骨が折れ、左腕も骨折によってギプス固定されている。
頬や首には爆発時の火傷や痛々しい打撲、ひどい擦過傷が無数にあった。
腹部を打ち、肝臓や腎臓機能がやや下がっているが、内臓に大きな傷がなかったのは奇跡といえた。鼻から酸素を供給され、浅い呼吸を続けるルナマリアを見つめながら、二人はしばらく無言のままだった。
やがてシンは思い出したように振り返り、レイを気遣った。
「おまえは?大丈夫なのか?」
「大丈夫だ」
それを聞いたシンは、ようやくほーっと息をついた。
とにかく2人とも無事で、この戦闘では仲間を失わずに済んだ。
シンはカーテンの向こうにいるステラをちらりと覗き、彼女も今は静かに眠っていることを確認した。
(でも俺は、ステラの仲間を殺した…この手で…)
シンは自分と激しい戦いを繰り広げたアビスを思い出した。
(アビスに乗っていたのは、あの2人のうち、どっちだったんだろう)
シンはディオキアでステラを迎えに来た2人の青年を思い浮かべた。
彼もまた、選択できない運命に翻弄され、人殺しを強要され、けれどそれを知りもせずに戦っていたのだろうか。それともその過酷な運命を受け入れて、自分が生きるにはそれしかないと思って必死に戦っていたのだろうか。
(自分で自分の運命を選べないなんて…)
(自分で自分のやりたい事を選べないなんて…)
(そんなの……おかしい………おかしいよ…)
「おい、シン?」
いつの間にか自分の肩にもたれて眠ってしまったシンに気づき、レイは困った顔をした。眠った彼を、自分1人で一体どうやって運べばいいのか…レイはため息をつきながら、疲れきって眠るシンの寝顔を見つめた。
運命…歩んできた道、歩むべき道が、その言葉で片付くのだろうか。
デュランダルは2人の画像を消すと、次にGFAS-X1デストロイと、ミネルバから送られてきた捕虜の写真をモニター上に出した。
やつれはて、顔色の悪い彼女がどんな人間なのかは知らない。
薬漬けで戦闘訓練を受け、記憶や思考を支配される「戦う人形」のことなど。
(しかしその「役割」を忠実にこなす事に関しては、誰よりも優秀だ)
自分の役割も、生きる意味も、目的すら知らず、無為に生きて無為に死んでいくよりは、よほど充実しているといえるのではないか?
(ただ死ぬために生きるだけの存在というよりは有意義では?)
デュランダルは今はもういない、厭世的で皮肉屋の友を思い出した。
「全てをそう言ってしまうなら、では我らが足掻きながらも生きるその意味は?」
「全ての者は生まれ、やがて死んでいく。ただそれだけのことだ」
旧式のザフトレッドの制服をまとった金色の髪の彼は言う。
「だから何を望もうが、願おうが無意味だと?」
その答えにデュランダルは眉をひそめた。
「いやいや、そうではない。ただそれが、我らの愛しきこの世界…そして人という生き物だということさ」
若き日には思いもせず、老いて初めて焦りだす…クルーゼはふふっと笑った。
「どれだけ、どう生きようと、誰もが知っていることだが、忘れていること」
だが私だけは忘れない…とクルーゼは言った。
「生まれた時から終わりが見えている私には、きみたちとは違う景色が見える。こんな私の生に価値があるとしたら、知った時から片時もそれを忘れたことがないということだけだろうがな」
彼のその苦しみを、デュランダルは分かち合う事ができない。
デュランダルにできたのは、彼の遺伝子を解析し、少しでも老化を遅らせる薬を作ってやる事だけだった。
けれど、それすらもどこまで効果があるかはわからない。
彼の老化は常人よりはるかに速い速度で進んでいくのだ。
彼が唯一その苦しみを重ねられたのは、彼とよく似た幼い少年だった。
彼は少年を弟のように可愛がり、軍務に就く時は必ずデュランダルに預けた。
戦火が広がってザフトの出撃が増えると、少年は…レイはほとんどの時間をデュランダルと共に過ごすようになった。
「だが、きみとて望んで生きたのだ」
デュランダルはそう呟くと、隠しファイルを開けてパスワードを入れた。
そこには仮面をつけた白服のラウ・ル・クルーゼと、ZGMF-X13Aプロヴィデンスのものものしい画像が現れた。
「CE71.9.27戦死。プロヴィデンスはZGMF-X10Aフリーダムにより撃破」
ザフトの中でも闇に葬られた彼のデータは、いまや入手も困難だ。
ただ「ネビュラ勲章を受けた、エリート部隊クルーゼ隊の隊長」という肩書きのみが生き残っており、彼がナチュラルだった事は伏せられている。
オペレーション・スピットブレイクやNジャマーキャンセラーのデータを地球軍に流した疑いなどについては、本人死亡により調査が打ち切られた。
「まるで何かに抗うかのように。求めるかのように」
人を憎み、世を憎み、それを原動力としながら、彼は生きた。
「願いは叶わぬものと知った時、我らはどうすればいい?それが定めと知った時には…」
デュランダルは全力で愛した彼女を失った苦しみで崩れそうだった。
取り戻せない時を、二度と手に入らない幸せを思うと気が狂いそうだった。
「きみならわかるだろう…生まれた時から可能性を閉ざされたきみならば」
「そんなことは私は知らない」
クルーゼは友の苦しみを知りながら、決して救いを与えなかった。
「私は私のことしか知りはしない」
そう言って少年の頭をなでると、レイは嬉しそうに微笑んだ。
初めこそ大切にされたものの、失敗作とわかった途端「廃棄」されたクルーゼは、愛の残酷さをよく知っていた。そんな彼が、うらぶれた研究所で、まるで獣のように扱われていたレイを救い出し、深い愛情を与えたのは皮肉だ。
「迷路の中を行くようなものさ…道は常にいくつも前にあり、我らは選び、ただたどる」
クルーゼは愛を見失い、暗闇の中で苦しんでいる友に言った。
「きみたちはその先に、願ったものがあると信じて希望を抱き、夢を抱き、いつかはかなうと、幸せをつかめると信じて進む…そして私は…やはりないのだと、また知るために…」
それは救いの言葉のようにも、望みを断ち切る言葉のようにも聞こえた。
「こちら、オーブ軍第二護衛艦群アマギ一尉以下、パイロット十数名。オーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハ様にお目にかかりたい。着艦を許可されたし」
ブリッジに戻ったカガリはこの申し出に戸惑いを隠せなかった。
「オーブに戻らず、俺に会いたいと…?」
護衛を続けるキラとも簡単な話し合いを持ち、彼らの着艦は許可された。
そして今、カガリはハンガーで、傷ついたムラサメを見つめている。
「想いが同じなら、道は違えど、やがて同じ場所にたどり着く…か」
あの日、父と別れなければならなかった時に聞いた言葉が蘇った。
迷走するオーブは今、道を誤っている。
眼を閉じたまま、崖っぷちを歩いているようなものだ。
(導かなければならない立場の俺がこれじゃ、国も迷うよな)
多くのモビルスーツが撃墜され、護衛艦も空母もクレタの海に沈んだ。
インパルスが、そして遠目に見たセイバーが心に浮かび、カガリの心を苛む。
やがてカガリは、平手でパンと両頬を叩いた。
(しっかりしろ、俺!)
もう何もなくなったと思っていたのに、アークエンジェルとキラがいる。
(それに、こうして俺を頼って来てくれた連中までいるじゃないか!)
最後にフリーダムが着艦すると、アークエンジェルの潜航が始まった。
コックピットを出たキラが、キャットウォークのカガリに気づいて手を振る。
それを見てカガリの目元がほころんだ。
彼は気づいていないが、その表情は、キラとカガリを愛しそうに見つめた在りし日のウズミによく似ていた。
(大丈夫だ。俺はまだこうして立っている。だから、また歩き出せる。無数の道に迷おうとも、願った先がただ一つなら、必ず辿り着ける)
「キラ!」
カガリは大きく手を振り返すと、元気よく走り出した。
「誰が決めたというのだろう…何を?」
デュランダルは前大戦の軌跡をたどっていた。
血のバレンタイン。ラクス・クラインの救出と帰還。
ニュートロンジャマーの投下による地球のエネルギー危機。
泥沼化した戦争は膠着状態に陥り、決定打を欠いて疲弊した。
(そして、運命に導かれるようにキラ・ヤマトが参戦した)
「仕方がなかった。では、それは本当に選んだことか?」
友を守るため、友と戦い、やがて彼らは出会い、運命は廻り始めた。
「選んだのは本当に自分か?」
いつだって選択は残酷で、けれど決めなければ先へは進めない。
「選び得なかった道の先にこそ、本当に望んだものがあったのではないか?」
振り返り、惜しみ…人は過去に囚われる。
「そうして考えている間に時はなくなるぞ」
クルーゼが嘲るように笑う。
「我らよりずっと時間があるはずのきみたちも、時には逆らえない」
デュランダルもまた、それを理解しながら諦めきれない。
微かな希望を否定するクルーゼの冷笑が心の中にこだました。
「選ばなかった道などなかったと同じ。もしもあの時…もしもあの時…」
デュランダルの手が、今度はシン・アスカとレイ・ザ・バレルを呼び出す。
過去に囚われ、過去に押しつぶされそうになりながら、必死にそれを跳ね除て、立ち上がってきた少年…初めて彼を見た時、飢えた獣のようだと思った。
その遺伝子の優秀性よりも、その気性、強さ、激しさが彼の心を捉えた。
何も施さずとも、レイがシンに惹かれ、友人となりえたことも面白い。
レイにとって、シン・アスカは、見張るべき相手でもあり、唯一の大切な友でもあるのだ。デュランダルにとっても、それは予想外のことだった。
深く傷ついた孤独な獣と、同じく手負いの獰猛な獣…彼らは互いを友とした。
まるで、若き日の自分とラウ・ル・クルーゼのように。
「いくら振り返ってみても、もう戻れはしない。何も変える事などできない」
デュランダルは去っていった彼女を想う。
今、彼女とどれだけの夜を過ごしても、あの頃の愛し合った2人は戻らない。
ただ体を重ねるだけの2人に、かつて過ごした温かい日々は二度と戻らない。
「我らは常に見えぬ未来へと進むしかないのだ」
デュランダルは彼らの画像の下にあるファイルを開いた。
そこにはモビルスーツの設計図が隠されていた。
ZGMF-X42Sのナンバーを持つ、「運命」という名の機体…前大戦時のザフトの傑作、最強の機体と謳われるフリーダムを凌駕すべく、デュランダルが開発させてきた夢の機体である。
(全てを打ち破る「強さ」こそが、「力」のあり方を決める)
インパルスですら、彼にとってはこの機体の前座に過ぎない。
デュランダルはしかし、それを画面から消した。
(まだ早い…これを彼に渡すのは今ではない)
「今ではないいつか。ここではないどこか。 きっとそこにはあるもの。素晴らしいもの」
そんなものはいくら待っても、いくら探しても、どこにもないのにとクルーゼは高らかに笑った。
「なのにそれを求めて永劫に血の道を彷徨うのだろう?きみたち人は…」
走ってきたカガリに迎えられたキラは、「ごめんね」と言った。
「こうなる事はわかってたけど…でも…」
「謝るな。おまえはいつだって精一杯やってくれてるよ」
カガリがキラの頭をぽんと叩くと、キラは寂しそうに笑った。
「あのモビルスーツ………インパルス…」
キラはカガリに攻撃を仕掛けたモビルスーツについて尋ねた。
「ものすごく強かった。怖いくらい。あれは…あの人は…?」
「ミネルバで会った事がある。オーブ出身で、俺を心底嫌ってるんだ」
カガリは自分を射抜くようににらみつけた赤い瞳の彼を思い出した。
(攻撃されても仕方がない。俺たちはあそこでは完全な異物だったんだ)
「オーブの…人」
対艦刀を振り回し、次々と艦を沈めるモビルスーツの姿は忘れようもない。
しかもそのパイロットがオーブ出身と聞けば、キラも複雑な思いを抱かずにいられなかった。
「でも、キラとあいつが戦うような事がなくてよかった」
ほっとしたように呟いたカガリに、キラはさらに何か言おうとしたが、マードックの怒声にかき消された。2人は声のする方に眼を向けた。
「違う違う!それは腕に繋げって!足は別のケーブルなんだよ!」
「ハッチは開けたままにしといてくれ!私物は各自で持って行けよ」
「冷却材をもっとだ!あーあ、ひでぇな、こりゃ…」
威勢のいい整備兵たちの声が響き、ハンガーは俄かに活気づいている。
慣れない艦での機体の固定に、オーブ兵たちも手間取っているようだ。
そして、どの機体も激戦のダメージが深い。
「皆、ボロボロだね」
「ああ。でも、生きていてくれてよかった」
カガリは少し眩しそうに、モビルスーツの足元に群がる兵たちを見つめた。
「生きてると大変な事もあるけど…生きてなきゃ何もできないもんな」
彼の言葉に、死んでいった多くの人たちを想ってキラは頷いた。
トール、ムウさん、アイシャさん、アスランの友達、カガリの友達、女の子…皆、もっともっとやりたい事がたくさんあったろう。
―― それに、フレイも…
キラは最期にフレイが見せてくれた笑顔を忘れない。
(私にはフレイを守れなかったけど…それは後悔とすら言えないけれど)
失った愛を抱き締め、キラはフレイを、心の奥の、誰も触れない一番深い場所に大切にしまっていた。
「私…アスランを討った」
やがてキラが静かに呟いた。
小さく息を呑んだカガリは、けれど何も言わず、黙ったままだ。
「そうやって…人を傷つけて、血を流して…破壊するばかりだとしても」
答えを待つ事をせず、キラはそのまま続ける。
「守りたい人たちがいて、守りたい世界があるから」
「…キラ」
「だから、私は戦ってる。今も」
キラはカガリを見上げて微笑み、カガリもキラを見て少し笑った。
今は誰よりもわかりあえるお互いの存在が、何よりも愛おしかった。
「救いはないと?」
デュランダルは暗い表情で聞いた。
「何を望んでも、どう努めようとも、我らには何の救いもないのか?」
おやおや、というようにクルーゼが言う。
「救いとは何だ?望むものが全て、願ったことが全て叶うことか?」
そして彼は手に持った仮面をつけた。
表情を隠し、ひたひたと迫り来る老いを隠すために…
「こんなはずではなかったと、だから時よ戻れと祈りが届くことか?」
―― 戻れればやり直せると? 自分は変わらずに、世界だけが変われと?
「ならば次は間違えぬと確かに言えるのか?きみは」
呆れたようにクルーゼが両手を広げる。
「誰が決めたというのだ…何を?」
そして、彼はデュランダルの言葉を繰り返した。
「自分であると…選択できる機会も、修正できる機会もあったのに、結局それを選ばなかったのは自分なのだと、いい加減認めたまえ」
「ならば私が変える!全てを!」
デュランダルは「DESTINY'S PLAN」と書かれたファイルに手を伸ばした。
「戻れぬというのなら、初めから正しい道を!」
デュランダルの手はしかし、そのファイルには触れずに下ろされた。
しかるべき時、しかるべき場所、しかるべき状態で扉を開くのだ。
焦る必要はない。己の出来ること、己のすべきこと…
「それは、自身が一番よく知っているのだから」
ラクスは採血のため、指先にカチリと針を刺した。
ポツリと浮かんだ自分の赤い血液を眺め、その中にある膨大なDNAデータを想う。
「アデニン、グアニン、シトシン、チミン」
ラクスは歌うようにDNAを構成する塩基の名を呼んだ。
(そんなものに、僕らは支配されている)
けれど、ラクスの遺伝子はもはや生まれた時のままではない。
今はもうないユニウスセブンで、血のバレンタインによって破壊された。
「だけど、それもまた『今の僕』を形作るものだ」
ラクスは独り言ちた。
人は進化を求め、よりよく、より幸福になろうと歩んできた。
心の命ずるままに、欲望のままに…失敗し、苦しみながら。
ラクスはサイバースコープを外すと、疲れた目を休めてほっと息をついた。
機器には、ダウンロードが終了したというランプが点滅していた。
―― 人は、どうありたいのだろう?
ZGMF-X19Aインフィニットジャスティス。
ZGMF-X20Aストライクフリーダム。
スコープを外したため、立体化していたそれは平面設計図に戻る。
ラクスはその2つのデータを見つめ、やがて指先でモニターを閉じた。
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制作裏話-PHASE29-
制作が間に合っていないため、こんなところで帳尻合わせの総集編です。
山場でもある大きな戦闘の後に流れを断ち切るなど、制作陣のダメさ加減が見えます。無駄な話で尺を取り、全てが遅れてバンクを多用せざるを得ず、最後は恥の上塗り総集編。よくこんな事が許されるものですね。
見所といえば、議長とタリアの過去に何かがあり、彼は女に捨てられた男であること、クルーゼと友人であり、それゆえにレイと因縁があることが、あくまでも「臭わされた事」です。本編でもはっきりと語られたわけではありませんので、逆転ではセリフの間はほとんど創作しています。
そしてまたこの会話が全く会話になっていない。
もし私がこんな意味の通らない変な会話を意識して書けと言われたら絶対無理です。こんな難解な、何を言ってるのかさっぱりわからない会話、書くのは無理です。
この総集編を構成するにあたり、最初と最後はラクスと決めていました。
そしてその中で議長が狂言回しとなり、何かを企んでいるらしいことをほのめかし、過去と対峙します。さらに残り4話で出てきて視聴者を「はぁ?」とさせたデスティニープランも早々とその名が出てきました。しかし種デスって、あのペースだと1年半やっても2年やっても収拾つかなかったんでしょうね。
クルーゼと議長のわけのわからない会話をなんとか繋げようとかなり苦労しています。
本編での彼のセリフと議長のセリフをリンクさせてみたりシンクロさせてみたりとか。
過去を取り戻したいと願う議長に、クルーゼはそんなものは取り戻せないと切り捨て、選ばなかった道に何かあるなどと期待するなとデュランダルに警告します。
そして「何かあったかもしれない」「正しかったかもしれない」道を選ばなかったのは何者でもない、自分なのだと言わせました。
なぜならクルーゼには逆種で、「常に選択を残してきた」と言わせているからです。間違っているからと引き返せたのに、引き返さずに破滅への道を歩んだ人類を嘲け笑わせたのはこのためです。
ぶっちゃけるとこれは、逆種でのクルーゼの策があまりに穴だらけだったので、それを逆手に取ってのセリフでした。
「わざと救いを持たせた」のにそれを選ばなかったなら、その道しかなかったから仕方なく進んだというより、自分勝手な人類の愚かさを強調できますから。
そしてこのセリフそのものが、逆デスを見越して逆種で言わせたものだと言えます。
さらに議長がタリアに振られた事でひどく傷ついた事を強調するために、今回の加筆修正で新たに加えた点が二つあります。
ラクスとアスランは生殖的相性がピッタリであるという、かつて種本編に生きていた「対の遺伝子」設定です。なぜか途中からは有耶無耶になって消えてしまいましたが、いいですよね、こういうの。この総集編はコペルニクスから戻った頃のアスランが、婚約者だと聞かされたラクスに会いに行く初々しいシーンが見所の一つでもありました。
コーディネイターは、いじられ過ぎた遺伝子が互いを同種ではなく異種と認識してしまい、生殖不可能になってしまうなんて説があるようなので、それによって引き裂かれた議長が、逆に、運命的に結びつきながらも、別のパートナーを得ているアスランとラクス(逆転のラクスとキラの場合はソウルメイトですが)に執着する原点として描いてみました。
それから、タリアに「父親になれない男はいらない」と全否定されてしまった彼が、女のために為政者の仮面を脱いでしまったカガリに怒りにも似た嫉妬を感じていること。カガリの屈託のない素直さは、時に人を怒らせ、苛立たせます。ことに議長が、同じ立場であり、人には言えない我慢や血の滲むような努力をしているならば尚更でしょう。アスランを奪う(恋愛的なものではないです、もちろん)議長には、どこかカガリに対する逆恨み的なものをほのめかせたかったのです。議長とカガリが男と女ではこうはいかないので(議長がカガリから恋人のアスランを奪うって解釈はおかしいですから)、これはまさに男女逆転ならではの解釈であり、演出だと思っています。
さらに、デュランダルの独白に合わせてクレタの戦いを終えたメインキャラの姿を描き出してみました。
総集編なんかより、本当はこういうひとコマを見せながら、議長の心情を吐露する…という構成で見たかったですよ、無理とわかっていても(だから今回、逆転でやってやりました。後悔はしていない)
アスランはかなりの高度から海面に叩きつけられたはずですが、補助スラスターや緩衝材や脱出はもちろん、脱出せずとも非常用パラシュートなどはあったと思うので、無事救助されたところから始まります。為すすべもなくキラに斬られ、迷い続けた自分への怒りとシンが勝利に導いたことによる無力感、整理しきれない心はもうぐちゃぐちゃです。
本編でもアスランがこんな風に悩み苦しむようなシーンがあれば、もう少し彼に対して同情的な見方もできたと思うのですが、主人公のシンをむちゃくちゃ蔑ろにしているくせに、反面アスランについても描写不足なんですよ。だから彼が何を考えているのかわからない。種ではそれがむしろ貴公子然と見えてよかったのですが、運命では完全に裏目に出ましたね。
カガリはトダカの遺言どおり、アマギが率いてきたムラサメが着艦するのを見つめています。自分の無力さを痛感すると同時に、仲間がいて、自分を慕う者がいる事が、彼を元気にします。目的さえ見失わなければ、いつか目的地へとたどり着く…逆種でウズミに言わせた言葉が、今のカガリの支えになります。
救いの道を残したのに選ばなかった人類の愚かさを嘲るクルーゼと、人はいくつもの道を選べるのだと示し、選ぶためには学べと遺したウズミとカガリを対照としています(まぁそう言いながらアカツキを遺してますけどウズミは)
また同じように、前向きなカガリと、自らの選択に迷ってドツボにはまるアスランを対比させています。離れていても想い合う表現があれば、デュランダルの邪な気持ちが入り込む余地などないと安心できます。本編もたとえ女難があっても、2人の根っこがしっかりしていればもっと面白くなったはずです。終わった事はもういいけど、どうでも。
そしてキラは、守れなかったもの、守りたいものについてきちんと自分の考えを口にします。この程度なら、キラも自分の考えを言葉にできるでしょう。
今回の加筆でキラがカガリに「アスランを討った」と告げるシーンを書きましたが、これもまたキラの成長の証のつもりです。
本編のように、「戦いたくない」と言いながらキラきゅん無双で戦いまくるより、「戦いたくはないけど、戦わなければならない時もある」ときちんと意思を示せば、あそこまでぶーたれられることもなかったと思うのですよ。そもそもこうしておくと、戦う姿勢は「戦うべき時には戦うべき」と言ったシンと同じですしね。
でも何と言っても気に入っているのはシンです。
ルナマリアを心配して賛辞も祝福も後回しにして医務室に駆け込むシン。こういう友情に厚い主人公が見たかった!(撃墜されたルナマリアにあっさり「もういいの?」ってそりゃないだろー)
シンはレイを心配し、さらにステラを見て倒したアビスのパイロットに想いを馳せます。トダカを知らない分、こういう回想が入ればシンのキャラクターに深みが増すのに。やがて、シンはレイにもたれて眠ってしまいます。思い返せば出撃前、シンはよく寝ていないのでアスランが「ちゃんと睡眠を取るように」と注意しに行こうとしてたんですね。そりゃもうくたくたでしょう。
シンは「自分の好きなように生きられないなんておかしい」と呟きます。シンがこう思っていることを示す事で、「役割」や「デスティニープラン」を支持する後半のシンは、「冷静に、自分を殺して、目的のために全てを受け入れている」事を表現しています。
よく考えたら、もともと自由なオーブで育った彼が議長の考えに賛同できるはずがないのです。けれど、誰も実現できなかった「戦争のない世界を見せる」と言った議長に賛同するからには、シンは自分の考えを押し込めなければなりません。嘘でも偽りでも、最後に本物が手に入るなら…シンは目的のために自分自身の感情をねじ伏せます。感情的に見えて、実は誰よりも理性的なシン。それもまた彼の力です。時折見せる素直な表情やオーブで培われた自由闊達な考え方が痛々しく見えるよう、こうした悲壮なクレバーさを背負わせたかったのです。それがシンの魅力であり、本当の強さでもあると示せるからです。私は前作主人公のキラとは対照的な、こんな風に「強い」主人公が見たかったんですけどね。
眠ってしまったシンを見て1人では運べないと冷静に分析する困った顔のレイといい、共に死線をくぐり抜けた3人を描けたこのシーンは本当にお気に入りです。
アニメのように突然登場ジャジャジャジャーン!という必要はないので、ここでドム、デスティニー、ストフリ、インジャが姿を現しています。デストロイとエクステンデッドも、議長は利用するつもりらしい事を仄めかしています。
ことに、ステラを見て「役割を果たす戦う人形」と見なしながらも、能力も役割も生きる意味も知らず無為に生きる人々よりは役に立つと評させたのは、後に役割を果たさない者を次々廃棄していく議長の顔の一つを覗かせているわけです。
変なオッサン同士の変な会話を一体どうやって膨らませようかと最初は四苦八苦しましたが、こうして読むと最後の締めといい、淡々とした語りがそれなりに味を出しているかなと思います。創作したり想像したり、消え去った設定を生かしたりできたのも楽しかったです。
山場でもある大きな戦闘の後に流れを断ち切るなど、制作陣のダメさ加減が見えます。無駄な話で尺を取り、全てが遅れてバンクを多用せざるを得ず、最後は恥の上塗り総集編。よくこんな事が許されるものですね。
見所といえば、議長とタリアの過去に何かがあり、彼は女に捨てられた男であること、クルーゼと友人であり、それゆえにレイと因縁があることが、あくまでも「臭わされた事」です。本編でもはっきりと語られたわけではありませんので、逆転ではセリフの間はほとんど創作しています。
そしてまたこの会話が全く会話になっていない。
もし私がこんな意味の通らない変な会話を意識して書けと言われたら絶対無理です。こんな難解な、何を言ってるのかさっぱりわからない会話、書くのは無理です。
この総集編を構成するにあたり、最初と最後はラクスと決めていました。
そしてその中で議長が狂言回しとなり、何かを企んでいるらしいことをほのめかし、過去と対峙します。さらに残り4話で出てきて視聴者を「はぁ?」とさせたデスティニープランも早々とその名が出てきました。しかし種デスって、あのペースだと1年半やっても2年やっても収拾つかなかったんでしょうね。
クルーゼと議長のわけのわからない会話をなんとか繋げようとかなり苦労しています。
本編での彼のセリフと議長のセリフをリンクさせてみたりシンクロさせてみたりとか。
過去を取り戻したいと願う議長に、クルーゼはそんなものは取り戻せないと切り捨て、選ばなかった道に何かあるなどと期待するなとデュランダルに警告します。
そして「何かあったかもしれない」「正しかったかもしれない」道を選ばなかったのは何者でもない、自分なのだと言わせました。
なぜならクルーゼには逆種で、「常に選択を残してきた」と言わせているからです。間違っているからと引き返せたのに、引き返さずに破滅への道を歩んだ人類を嘲け笑わせたのはこのためです。
ぶっちゃけるとこれは、逆種でのクルーゼの策があまりに穴だらけだったので、それを逆手に取ってのセリフでした。
「わざと救いを持たせた」のにそれを選ばなかったなら、その道しかなかったから仕方なく進んだというより、自分勝手な人類の愚かさを強調できますから。
そしてこのセリフそのものが、逆デスを見越して逆種で言わせたものだと言えます。
さらに議長がタリアに振られた事でひどく傷ついた事を強調するために、今回の加筆修正で新たに加えた点が二つあります。
ラクスとアスランは生殖的相性がピッタリであるという、かつて種本編に生きていた「対の遺伝子」設定です。なぜか途中からは有耶無耶になって消えてしまいましたが、いいですよね、こういうの。この総集編はコペルニクスから戻った頃のアスランが、婚約者だと聞かされたラクスに会いに行く初々しいシーンが見所の一つでもありました。
コーディネイターは、いじられ過ぎた遺伝子が互いを同種ではなく異種と認識してしまい、生殖不可能になってしまうなんて説があるようなので、それによって引き裂かれた議長が、逆に、運命的に結びつきながらも、別のパートナーを得ているアスランとラクス(逆転のラクスとキラの場合はソウルメイトですが)に執着する原点として描いてみました。
それから、タリアに「父親になれない男はいらない」と全否定されてしまった彼が、女のために為政者の仮面を脱いでしまったカガリに怒りにも似た嫉妬を感じていること。カガリの屈託のない素直さは、時に人を怒らせ、苛立たせます。ことに議長が、同じ立場であり、人には言えない我慢や血の滲むような努力をしているならば尚更でしょう。アスランを奪う(恋愛的なものではないです、もちろん)議長には、どこかカガリに対する逆恨み的なものをほのめかせたかったのです。議長とカガリが男と女ではこうはいかないので(議長がカガリから恋人のアスランを奪うって解釈はおかしいですから)、これはまさに男女逆転ならではの解釈であり、演出だと思っています。
さらに、デュランダルの独白に合わせてクレタの戦いを終えたメインキャラの姿を描き出してみました。
総集編なんかより、本当はこういうひとコマを見せながら、議長の心情を吐露する…という構成で見たかったですよ、無理とわかっていても(だから今回、逆転でやってやりました。後悔はしていない)
アスランはかなりの高度から海面に叩きつけられたはずですが、補助スラスターや緩衝材や脱出はもちろん、脱出せずとも非常用パラシュートなどはあったと思うので、無事救助されたところから始まります。為すすべもなくキラに斬られ、迷い続けた自分への怒りとシンが勝利に導いたことによる無力感、整理しきれない心はもうぐちゃぐちゃです。
本編でもアスランがこんな風に悩み苦しむようなシーンがあれば、もう少し彼に対して同情的な見方もできたと思うのですが、主人公のシンをむちゃくちゃ蔑ろにしているくせに、反面アスランについても描写不足なんですよ。だから彼が何を考えているのかわからない。種ではそれがむしろ貴公子然と見えてよかったのですが、運命では完全に裏目に出ましたね。
カガリはトダカの遺言どおり、アマギが率いてきたムラサメが着艦するのを見つめています。自分の無力さを痛感すると同時に、仲間がいて、自分を慕う者がいる事が、彼を元気にします。目的さえ見失わなければ、いつか目的地へとたどり着く…逆種でウズミに言わせた言葉が、今のカガリの支えになります。
救いの道を残したのに選ばなかった人類の愚かさを嘲るクルーゼと、人はいくつもの道を選べるのだと示し、選ぶためには学べと遺したウズミとカガリを対照としています(まぁそう言いながらアカツキを遺してますけどウズミは)
また同じように、前向きなカガリと、自らの選択に迷ってドツボにはまるアスランを対比させています。離れていても想い合う表現があれば、デュランダルの邪な気持ちが入り込む余地などないと安心できます。本編もたとえ女難があっても、2人の根っこがしっかりしていればもっと面白くなったはずです。終わった事はもういいけど、どうでも。
そしてキラは、守れなかったもの、守りたいものについてきちんと自分の考えを口にします。この程度なら、キラも自分の考えを言葉にできるでしょう。
今回の加筆でキラがカガリに「アスランを討った」と告げるシーンを書きましたが、これもまたキラの成長の証のつもりです。
本編のように、「戦いたくない」と言いながらキラきゅん無双で戦いまくるより、「戦いたくはないけど、戦わなければならない時もある」ときちんと意思を示せば、あそこまでぶーたれられることもなかったと思うのですよ。そもそもこうしておくと、戦う姿勢は「戦うべき時には戦うべき」と言ったシンと同じですしね。
でも何と言っても気に入っているのはシンです。
ルナマリアを心配して賛辞も祝福も後回しにして医務室に駆け込むシン。こういう友情に厚い主人公が見たかった!(撃墜されたルナマリアにあっさり「もういいの?」ってそりゃないだろー)
シンはレイを心配し、さらにステラを見て倒したアビスのパイロットに想いを馳せます。トダカを知らない分、こういう回想が入ればシンのキャラクターに深みが増すのに。やがて、シンはレイにもたれて眠ってしまいます。思い返せば出撃前、シンはよく寝ていないのでアスランが「ちゃんと睡眠を取るように」と注意しに行こうとしてたんですね。そりゃもうくたくたでしょう。
シンは「自分の好きなように生きられないなんておかしい」と呟きます。シンがこう思っていることを示す事で、「役割」や「デスティニープラン」を支持する後半のシンは、「冷静に、自分を殺して、目的のために全てを受け入れている」事を表現しています。
よく考えたら、もともと自由なオーブで育った彼が議長の考えに賛同できるはずがないのです。けれど、誰も実現できなかった「戦争のない世界を見せる」と言った議長に賛同するからには、シンは自分の考えを押し込めなければなりません。嘘でも偽りでも、最後に本物が手に入るなら…シンは目的のために自分自身の感情をねじ伏せます。感情的に見えて、実は誰よりも理性的なシン。それもまた彼の力です。時折見せる素直な表情やオーブで培われた自由闊達な考え方が痛々しく見えるよう、こうした悲壮なクレバーさを背負わせたかったのです。それがシンの魅力であり、本当の強さでもあると示せるからです。私は前作主人公のキラとは対照的な、こんな風に「強い」主人公が見たかったんですけどね。
眠ってしまったシンを見て1人では運べないと冷静に分析する困った顔のレイといい、共に死線をくぐり抜けた3人を描けたこのシーンは本当にお気に入りです。
アニメのように突然登場ジャジャジャジャーン!という必要はないので、ここでドム、デスティニー、ストフリ、インジャが姿を現しています。デストロイとエクステンデッドも、議長は利用するつもりらしい事を仄めかしています。
ことに、ステラを見て「役割を果たす戦う人形」と見なしながらも、能力も役割も生きる意味も知らず無為に生きる人々よりは役に立つと評させたのは、後に役割を果たさない者を次々廃棄していく議長の顔の一つを覗かせているわけです。
変なオッサン同士の変な会話を一体どうやって膨らませようかと最初は四苦八苦しましたが、こうして読むと最後の締めといい、淡々とした語りがそれなりに味を出しているかなと思います。創作したり想像したり、消え去った設定を生かしたりできたのも楽しかったです。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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