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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「どうです?圧倒的じゃないですか、デストロイは!」
壁一面のモニターには破壊の限りを尽くすデストロイが映っている。
ロシアからワルシャワを抜け、ベルリンに到達したデストロイは、連合の再三の抗議を聞かずに誘致されたザフト軍基地はもとより、プラントの技術提携会社などに加え、市街地にも無差別攻撃を繰り返している。逃げ惑う人やザフト兵士が吹き飛ばされ、抗おうと防衛を続けるモビルスーツが破壊されていく。
「確かにな。全て焦土と化して何も残らんわ」
音声のみのロゴスの1人が不満そうに言った。
「どこまで焼き払うつもりなんだ、これで」
昨今はロゴスの間でも、ジブリールの暴走に疑問を感じる声が出始めている。
ミネルバとの小競り合い程度なら大した被害もないと放置されてきたのだが、さすがにこの破壊行為には、焼き払われた都市に拠点を置く合弁・合資会社を持つ者からも不満が上がった。巨大な経済都市、ベルリンともなれば尚更だ。
「そこにザフトがいる限り、どこまでもですよ」
ジブリールはそんな事は百も承知だった。
しかし自分勝手な彼にとって、彼らの懸念や地球国家の批判など些事に過ぎない。
「変に馴れ合う連中に、もう一度はっきりと教えてやりませんとね。我らナチュラルとコーディネイターは違うのだということを」
子供のような理論は、ロゴスのメンバーを呆れさせた。
もはやないに等しい両者の対立を今さら植えつけようとしても、それはむしろこちらの敵が増えるばかりだ。
時代の趨勢を読めと言われても、ジブリールはどこ吹く風だった。
「そして我々同胞を裏切るような真似をすれば、地獄に堕ちるのだということをね」

―― きれいに焼けた後には、また街ができ、ビルが建ち、人が満ちますよ…

「これはそのための粛清です。祝おうではありませんか!新たな門出を」
ジブリールはデストロイの砲がブランデンブルク門を破壊する映像を見ながら、ワイングラスを高々と掲げた。

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ベルリン市民はその恐るべき威力から逃げようと闇雲に走り回った。
しかしデストロイの射線に入れば逃げ場などなく、ビームやミサイルが破壊したビルの瓦礫や窓ガラスが、逃げる彼らを容赦なく襲う。
目抜き通りは一直線にビーム砲で貫かれ、車も人も爆煙に包まれた。
小さな路地に逃げ込んで恐怖のあまりしゃがみこんだ人々を爆発が包む。
「うわーん!ママー!」
親とはぐれて泣き叫ぶ子を抱き上げたザフト兵が、少しでもこんな理不尽な暴力から守ろうとその子を抱きしめ、ビームの光に包まれて塵に還った。

けれどザフトの部隊はこの圧倒的に不利な殺戮を前にひるまなかった。
大気圏下では単独での飛行能力を持たないジンやゲイツRまでも地上から応戦し、ディンやバビが雪の舞い散る冬の空を飛び回って攻撃を加えている。
「撃て!撃てぇッ!怯むな!ここで食い止めるんだ!」
レセップス級、ビートリー級、コンプトン級も必死に防衛したが、巨大な砲口のドライツェーンが全てを薙ぎ払い、背部ユニットからは強力なプラズマを放つネフェルテムが無差別に発射されると、為す術もなく破壊されてしまう。
モビルスーツが雨あられと放たれるミサイルに貫かれ、面白いように撃墜された。
墜落した機体は市街地に落ち、さらに二次、三次の悲劇を呼んでいく。
後退を余儀なくされたガズウートが追い詰められてビームに貫かれる。
バクゥたちはその機動性を生かして巨大な機体の足元までは接近できたが、脆弱な攻撃を受けつけない鉄壁の防御に糸口が掴めず、空しく走り回るだけだ。

ネオやスティングは、強力なスラスターでホバー飛行を続けるデストロイを上空から見守っていた。この怪物を援護する必要などなかった。
もうこの街のどれだけの部分が焼かれ、命が失われたかはわからない。
もとより仮面に隠されているネオの表情をうかがい知る事はできず、スティングは新しいおもちゃを貰えなかった子供のように拗ねている。
しかしその時、突然天空から5本の射線が放たれた。
ネオがはっと振り仰ぐ。
そこには弾丸のように突っ込んできたフリーダムがいた。
「なに!?」
ステラは遥か上空からの強力なプラズマ砲に振り返った。
「はっはぁ、来たか!」
スティングもまた退屈だった戦場に入った喝に眼を輝かせる。
「フリーダム!?チッ…あいつら!」
ネオはフリーダムの向こうに現れたアークエンジェルを見て舌打ちをした。
デストロイは向かってくるフリーダムにドライツェーンを連射した。
キラは優れた動体視力と空間認知能力で無数の射線を読み、全てかわしながらも一切減速せずにビームの間を抜けていった。
そしてデストロイの前に立つと、そのモビルアーマーの全貌を見た。
「…なんて大きさだ…こんな!」
丸い鍋をかぶったような頭部には巨大なビーム砲とミサイル発射管、廻りにはまるでフリンジのようにプラズマ砲の砲口が開いている。
一体、どれだけの火力を無防備な市街地に向けてきたのだろう。
こんなものとフリーダムが戦えば、街はさらに焼かれ、多くの人々が死に至る。
キラは必死に逃げ惑っている人々や誘導するザフト兵に眼をやった。

「何だ…おまえはッ!」
ステラはかつて自分のガイアを傷つけた憎きモビルスーツを睨みつけた。
再びビーム砲が放たれ、ミサイルが発射されるとキラは身軽に離脱する。
ネオは射線から逃がさないよう、ライフルでフリーダムを追った。
「気を付けろ、ステラ!」
「ネオ!」
その声を聞いてステラの表情がぱっと明るくなった。
「そいつは手強いぞ!」
「うん!」
ステラは力強く頷き、もう一度フリーダムを睨みつけた。
「…何だろうと、私はぁ!!」
突然、巨大なモビルアーマーが変形を始めた。
「えっ!?」
キラはその姿に驚き、眼を見張る。
砲撃準備を進めていたアークエンジェルのブリッジも驚きを隠せない。
やがて頭部ユニットがゆっくり持ち上がり、隠れていた本当の頭部が現れた。
脚部が180度回転しながら前を向くと、巨体を支えるために展開されていたアウトリガーがゆっくりと跳ね上げられる。
替わりに踵部分が柔軟に開いてその恐ろしいほどの重量を支え始め、これまで砲門の一つと思われていたシュトゥルムファウストは前腕部に変化した。
「これは…」
マリューが声をあげ、ミリアリアやチャンドラ、今回は副操縦士席に座ってノイマンの補佐をしていたカガリも、目の前に現れたそれに息を呑んだ。
「…モビルスーツだと?」
ノイマンは相手のデータを収集しながら眉をひそめて呟く。
「こんな巨大なものが変形するとは…」
その姿はモビルアーマー形態しか見てこなかったスティングをも驚かせていた。
「こいつ、すげぇ!!」
ステラはゆっくりと両腕を上げるとフリーダムをロックし、シュトゥルムファウストを放った。キラがそれを避けようと飛び退る。
ネオもスティングもミサイルとビームを放ってフリーダムの撃墜を狙ったが、キラの眼にはもはや巨大なデストロイしか見えていない。
フリーダムはやすやすと攻撃を潜り抜け、デストロイに再アタックを試みた。
「どうしてこんなことを!?」
一方、自分の砲撃をことごとく避けられたスティングは苛立ち、「眼中にないってのかよ!俺は!」と叫びながらサーベルを抜いて斬りかかった。
キラは素早くそれを避け、距離をとるとライフルで追い払う。
ウィンダムもまたカオスと離れたフリーダムにライフルを放った。

「艦長!これではキラが近づけない!」
カガリが思わず振り返った。
「援護して!ゴットフリート照準!」
チャンドラがターゲットをインプットし、コンピューターに有効射線軸を探させる。ノイマンは水平の射線を取るために降下し、さらに前進した。
「撃ぇ!」
「ちっ…!」
スティングはアークエンジェルの主砲の発射に気づいて素早く避けたが、しかしカオスが避けたその先にはデストロイがある。
「ステラ!」
ネオは思わず叫んだが、ステラは再び両手をボディの前に掲げると陽電子リフレクターを展開し、アークエンジェルの強力な主砲を受け止めた。
見事命中したゴットフリートは凄まじい閃光を放ち、やがてその光が消えると、そこには無傷のデストロイがあった。
モニターを見たカガリが思わず「えっ?」と声をあげた。
「…弾かれた?」
ノイマンも驚き、そのまま2人は顔を見合わせた。
「そんな…ゴットフリートだぞ!?」
ミネルバに遅れて陽電子リフレクターの洗礼を受けたアークエンジェルだが、彼らはかつてリフレクターの祖であるアルテミスの傘に守られた経験を持つ。その防衛力が折紙付きであることなど、百も承知だ。
「これじゃ…俺たちには打つ手なしってことかよ」
自分が撃った主砲を弾かれたチャンドラが呆然と呟いた。
デストロイは身軽に飛ぶフリーダムにさらに激しい砲撃を加えている。
「これでは街が…」
カガリが眉を寄せた。
発達した大都市ゆえに、どこに進んでも人々を傷つけずに済む場所がない。
「なんとかあいつを街の外へ誘導できないのか、三尉」
「あれだけの巨体だ。一度陣取ったら恐らく動かないだろう」
ノイマンが再び上空へと艦体をあげながら答えた。
「相手の機動性が低い分、フリーダムも少しは有利に戦えるだろうが…」
「なら俺が出る。キラを援護し、周辺を守る防衛役が必要だろう」
するとカガリは手早くインカムを外しながら言った。ノイマンはその言葉に驚いたようだ。
「いや、でも…」
「カガリ様!我らも出撃を!」
しかしそこにアマギからの通信が割って入った。
「アマギ?」
「この戦い、オーブのためのものではありませんが、これをただ見ている事などできません!」
彼の後ろには既にパイロットスーツを着たニシヤ、ゴウ、イケザワがいた。

デストロイが前腕を前に向けると、いきなりそれを発射した。
飛び出した腕にキラが驚いていると、それはランダムな動きをし、指からも強力なビームガンを放ち始めた。
(ドラグーン?いや…そこまでの機動性はない)
キラはその動きを分析し、フリーダムでスレスレのところで射線を避けながら、再びデストロイへと向かって行った。けれどどうしても総力攻撃には踏み切れずにいる。キラの懸念は焦りに変わり始めていた。

カガリはアマギと二言三言言葉を交わしてからマリューに言った。
「俺はムラサメと出て防衛にあたる。キラが少しでも楽に戦えるように」
「でも、カガリくん…いいの?」
「そうだ。オーブの理念に反するんじゃないのか?」
マリューが尋ねると、先ほど言いかけたままだったノイマンも続いた。
それを聞いたカガリは首を振り、「放っておけないだろ」と答えた。
「オーブ軍はあくまでも人命救助を優先する。何より今は、フリーダムの援護を」
カガリはきっぱりと言った。
「ブリッジには管制経験者を回す。自由に使ってくれ、艦長」
「わかったわ。キラさんをお願いね」
「こっちこそよろしく頼む」
そう言って出て行った彼を見送りながら、マリューはくすっと笑った。
(いやだわ…いつの間にか一人前の男みたいな顔をして…)
それから再び砲撃準備に入らせた。

ザフト軍軍事ステーションでは、ジブラルタルから届く情報を随時司令本部に伝えていた。だがその内容はおよそ芳しくないものばかりだった。
「だめです。ガーディナー隊、応答ありません!」
「対象は現在ベルリン市内を進攻中」
ベルリンの地図が示され、破壊された地域が赤く塗り潰される。
デストロイがやってきた北方のザフト軍基地はすでに壊滅状態だ。
「ジブラルタルが、再度対応への指示をと」
司令官たちも難しい顔で考え込む。
ザフトが今戦っているのは、プラントでもコーディネイターでもなく、ナチュラルを守るためなのだ。果たしてこれを人道的視点から見るか、政治戦略的視点から見るか…国防委員会でも当然ながら意見が割れていた。
紛糾する評議会では、ノイ・カザエフスキーが勧告もないまま行われたこの攻撃に不快感を示していた。他の議員も呆れたように言う。
「無差別に街ごと焼き払うとは!正気かやつらは」
「一体いつの間にあんなものを…」
議長が「現状は?」と国防委員長であるタカオ・シュライバーに尋ねると、彼は立ち上がり、自身のボードをモニターに映して説明した。
「都市駐留軍はそのほとんどが壊滅状態です」
続けて彼が駐留軍の即時撤退を求めると、それほど被害が大きいのかと評議会議員たちもざわめいた。 
「だが、下がってどうするね。下がれば解決するのかね?」
「それは…」
慎重さが時には腰が引けていると揶揄されるデュランダル議長のまさかの言葉に、いつもはタカ派で知られるシュライバーが思わず言葉に詰まった。
「ここで退けば、ザフトはベルリンを見捨てて逃げた事になる」
「ですが議長…自衛権の行使は正当とはいえ、我が軍の被害が大き過ぎます」
デュランダルはそれもわかっているというように片手を上げた。
「ミネルバは?今どこにいる?」
「艦隊司令部の命を受け、現在ベルリンに向かっておりますが…」
シュライバーが副官にデータを出させた。
「しかし、現状あの艦も戦力に乏しく、行ったところで…」
「かもしれんが、やらねばならんのだ」
デュランダルが珍しくやや声を荒げた。
「誰かが止めねば、奴らはますます頭に乗って都市を焼き続けるだろう」
デュランダルは自身のモニターを叩き、既に壊滅した北方の三都市と、今現在攻撃を受けているベルリンの映像を各議員のモニターに流した。
その悲惨な状況を見て、評議会議員たちも言葉がない。
この戦いは「ザフトが駐留しているから」という言いがかりによるものだ。
「人道的立場からも、ザフトが背を向けることはできない。そんなことは決して許されることではない!」
議長は完全に流れを掴み、ついに最高の舞台が整った。
やがて、不安そうな議員たちを安心させるように議長は優しく微笑んだ。
「インパルスに出撃命令を。信じましょう、彼を…シン・アスカを」
 
キラは無数のシュトゥルムファウストを避けながら、突破口を探していた。
(なんとかフルバーストの態勢を…!)
ユニットが起き上がっているからといって強力な砲がないわけではなく、デストロイは口からレイダーに装備されていたツォーンを放ってフリーダムを威嚇してくる。
攻めあぐねるキラに、今度はカオスが襲い掛かってきた。
「そらぁ!」
キラは相手の足先のビームクローを避けたが、同時に打ち掛かってきたサーベルでシールドごと吹っ飛ばされた。
「くっ…!」
「モビルスーツの性能で強さが決まるわけじゃねぇ!」
カオスはそのまま兵装ポッドのミサイルとビームを放った。
まるでかつての連合の新型のようなめちゃくちゃな攻撃だ。
そう思って初めて、キラはダーダネルスで「覚えがある」と思った感覚がかつての彼らのそれだったことを思い出した。ならばこのパイロットは…
「おまえは、俺が!」
「…エクステンデッド!?」
連合が人工的に創りあげたという、生体兵器。
自分と同じように、強くあれ、最高であれ、全てを凌駕せよと願われながら、けれどそれは遺伝子レベルではなく、実際の肉体を無理やり改造された人間…
(人は何を手に入れたのだ?その手に…その夢の果てに)
(それだけの業!重ねてきたのは誰だ!)
(知れば誰もが望むだろう、きみのようになりたいと…)
「きみのようでありたいと!」
ラウ・ル・クルーゼの言葉が刃のように胸を刺し、キラは唇を噛み締めた。
吹っ飛ばされても相変わらずキラのスラスター操作は素晴らしく、カオスが構えるより先に戻ると、早くもラケルタが両の手で抜かれていた。
「うっ…!」
アウルとステラの記憶は消されても、スティングにはフリーダムに細切れに刻まれた屈辱の記憶…いや、「戦闘の記録」が残っている。
カオスが一瞬たじろいだその時、両者の間にムラサメが入った。
「キラ様!」
彼らを分けたのは、ムラサメのイケヤが放ったライフルだった。
「ここは我らが!」
「キラ様は奴を!」
ニシザワとゴウも、カガリのストライクRを守りながら到着した。
「カガリ?」
「キラ!この戦い、市街地への被害がひどい」
「あ…」
その言葉で、自分がずっと気にしていた事をカガリが気づいていたと知り、キラは無性に嬉しくなった。
「うん。なんとか街の外に誘導しようと思ったんだけど…」
「無理だ。それじゃおまえが危ない」
カガリは心配そうに言った。
「カオスやウィンダムはムラサメに任せろ。俺はできる限り市街地を守る」
カガリはてきぱきとムラサメ隊に指示を送り、フリーダムに向き直った。
「だからあいつを頼む、キラ。これはおまえにしかできないことだ」
「わかった、やってみる。カガリも気をつけて!」
キラはそう言い残すと、フリーダムは再び素晴らしい加速で飛び立った。
自分は一人じゃないんだ…それが再びキラに大きな勇気を与えた。

「ああん?」
フリーダムのサーベルに恐怖を感じた自分に苛立ち、次こそは受けて立とうといきり立っていたスティングは、フリーダムのいきなりの離脱に驚いた。
「行くぞ!ゴウ!ニシザワ!」
「おぅ!」
イケヤの号令に、2機が答え、デルタフォーメーションが取られる。
「くっそー!」
フリーダムに見捨てられたカオスは怒りを覚え、ムラサメと対峙した。

その頃、まだ真冬のアルプスを迂回したために到着が遅れていたミネルバがようやくベルリンに辿り着いた。
距離が縮まり、メイリンが戦場の光学映像をモニターに流す。
アーサーも他のブリッジクルーも燃え盛るその都市の惨状に声もない。
「前線司令部、応答ありません」
メイリンは何度呼びかけてもノイズしか戻らない通信結果を知らせ、バートが現在戦闘の中心にいる戦力の分析結果を確認した。
「熱紋による状況確認。これは…フリーダム!?」
再びブリッジが驚きに包まれた。
「及びカオス、ウィンダム、オーブ軍ムラサメ…?ストライクR…」
バートの声がいぶかしげに続く。
「そして、アークエンジェルです!」
その名を聞いたタリアは頭痛がするといいたげに手で額を抑えた。
モニターには逃げ惑うベルリン市民が映り、被害の拡大を示唆する。
「そんな…何であの艦が…?」
ぽかんとしたアーサーが艦長を見る。
「さすが正義の味方の大天使ね。助けを求める声あらばってことかしら」
タリアは忌々しそうに答える。
「オーブの正規軍ですらないくせに、武力をふるって…いい気なものね」
アーサーが彼女の中にふつふつと沸く怒りに恐れおののきながらも、本艦はどうしますかと今後の展望を尋ねた。
「コンディションレッド発令。対モビルスーツ戦闘用意!」
それを受け、メイリンが早速全艦放送に入る。
「コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機してください」
タリアの剣幕に上ずった声で返事をしたアーサーはあたふたしていたが、ふと気づいて「パイロットって、シンしかいないだろ?」とつっこんだ。

「シン」
パイロットルームでは既にパイロットスーツを身に着けて万全のシンと、レイ、アスラン、ルナマリアがベルリンへの到着を待っていた。
「何でしょうか?」
シンがモニターに歩み寄り、映し出された艦長を見た。
捕虜返還の件以来、シンは艦長とは冷やかな関係のままだ。
タリアはそんな彼の反抗的な目つきにも口調にも構わず言った。
「情勢は思ったより混乱してるわ。既に前線の友軍とは連絡が取れず、敵軍とは今…フリーダムと…アークエンジェルが戦っているわ…」
タリアは特に後半を言いにくそうに言った。
無論、待機室の面々は驚きの声をあげた。
レイがモニターのチャンネルを合わせ、現在ブリッジに流れている光学映像を持ってきた。ルナマリアは恐ろしく巨大なモビルスーツと、完全に焼け野原になった街に息を呑み、「ひどい…」とつぶやいた。
(キラ…?)
アスランはそれに加え、巨大なモビルスーツにアタックする白い機体をその眼に捉えていた。
しかし敵のビームの射線が多すぎて、さしものフリーダムも迂闊には近づけないようだった。
「何で奴らが…?」
シンも怪訝そうに映像を見ている。
「思惑はわからないけど、敵を間違えないで」
「わかってます」
「戦力が苦しいのは承知しているけど、本艦は何としてもあれを止めなければなりません」
そしてタリアはふと眼を逸らした。
「…司令部はあなたに期待しているわ。お願いね…」
その言葉を聞いて、シンはどこまで本音なのやらと内心笑っていた。
皆、都合が悪くなると口から出るのは嘘や偽りばかりだ。戦争じゃなくたって、黒は白に、白は黒にすぐひっくり返る。
(いいさ…俺の敵はフリーダムではなく、あの巨大なモビルスーツだ)
焼かれた街を見て、シンの忌わしい記憶が蘇る。
今もあそこで、力のない人々が傷つき、死んでいる。
あの時の自分と同じように、家族を目の前で殺された子供もいるだろう。
(敵の脅威がある時は仕方ありません。戦うべき時には戦わないと)
自分の言葉を思い出し、今がその、手に入れた力を振るう時だと思う。
(誰にも守ってもらえない人を守るために…)
シンはエレベーターボタンを押し、もう一度振り返った。
レイが頷き、ルナマリアは「気をつけて」と右手でサインを出した。
そんな中、アスランだけは黙ってシンを見つめている。
(フリーダムに力を奪われ、戦うべき時に戦えないなんて…)
シンはため息をつき、口を開いた。
「俺とあいつ…どっちがヒーローごっこしてるんでしょうね」
「…っ!」
アスランがムッとしたのがわかると、シンはふんと鼻で笑ってエレベーターに乗り込んだ。
けれど溜飲が下がるどころか、むしろ後味の悪さで表情が曇った。
それには気づかないふりをしながら、シンはインパルスへと向かった。

キラはライフルを持ったまま再びデストロイの懐に飛び込んでいく。
そのまますぐに離脱し、再び態勢を整えるヒット&アウェイ戦法を繰り返すが、これだけの防御力を持つ機体にはさすがに決定打にならない。
やがてデストロイはモビルスーツから再びモビルアーマー形態になり、巨大な4砲門のドライツェーンをフリーダムに向かって放ってきた。
同時にネフェルテムが街を襲うと、ぼろぼろの街がさらに悲鳴をあげた。
「くッ!」
破壊されていく街を見て、キラの視界が開けた。
澄み渡った視界がどこまでも広がり、聴覚が研ぎ澄まされる。
熱くて冷たい感覚がキラを包み、ビームのスピードが落ちたような気さえした。
キラはシールドを構えるのをやめて防御を捨て、放たれるビームをラケルタでさばきながら干渉し、拡散させながら進む。
(入った!)
決死のダイヴで懐まで入ったキラは、素早くバラエーナを起こした。
プラズマ砲はしかし、リフレクターに阻まれて市街地に飛んだ。
「キラさん!?」
まるでビームの嵐に飛び込む無茶な突撃を見せたキラを見て、一瞬青ざめたマリューは、フリーダムが無事だと知るとほっと胸を撫で下ろした。
「とんでもない化け物だな、これは…」
ノイマンはもう一度ゴットフリートの射線をとろうと艦を移動させる。
「市街地じゃローエングリンも撃てないし」
チャンドラがデストロイの攻撃パターンをノイマンに送りながら言う。
「…けど、これじゃもう何も…」
「キラが諦めてないんだもん。諦めちゃだめよ!」
ミリアリアが弱気な事を言うチャンドラに言った。
自分たちがデストロイと戦うのは無理だとわかったのか、街を守ることに専念し始めたゲイツRやバクゥと共に防衛を続けるストライクRも見える。
(皆必死に戦ってるわ。だからお願い、キラ!)

「くっそー!やらせはせん!」
リフレクターに弾かれたものの、今度は下に回り込もうとするフリーダムを見て、ネオのウィンダムが斬りかかって来た。
シールドで避けながら、キラはクスィフィアスを起こして放つ。
ウィンダムは一旦退いたが、腰部にセットしてあるソードを抜くと素早く投げつけてきた。キラはシールドを構えて受け止めたのだが、それは頑丈なフリーダムのシールドを貫通すると、内部で爆発を起こした。
「うっ!」
爆発を避けようと下がったフリーダムをビームライフルが襲う。
シールドを失ったフリーダムはひとまず離脱するしかなかった。
戦闘巧者のウィンダムを見ながら、キラはふと首を傾げた。
(あのウィンダム…なんだろう?何か…)
キラの研ぎ澄まされた感覚が、再び不思議な感覚を捉えた。
(これも確か、ダーダネルスで感じた…でもエクステンデッドじゃない…何か、もっと懐かしいような…)

「ええい!」
その時、ムラサメを振り切ったカオスが、再びミサイルとシールドに付属する機関砲を放ちながら飛び込んできた。
ウィンダムも再びキラに向かってくる。
両者と戦うフリーダムを目の前で見たステラは、ネオが言う「怖いもの」が襲い掛かり、今まさに彼らを殺そうとしているのだという恐怖感に襲われた。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…)
「うわあぁぁぁ!」
向かってくるフリーダムに対し、機動性を高めようと再びモビルスーツに変形したデストロイが、スキュラを放った。
キラはそれに気づくと、再び猛スピードで雪の舞う大空へと離脱した。

同じ頃、シンはトップスピードで目標に近づきつつあった。
「接近する熱源!これは…インパルスです!」
ミリアリアがその報告をする間に、流れるような動作でサーベルを抜いたインパルスは、いきなりデストロイの懐に飛び込んでいった。
マリューたちはあのキラですら攻めあぐねていた領域に躊躇なく入ったインパルスの速さと大胆さに息を呑み、ノイマンが呆れて舌打ちした。
「恐怖心ってもんがないのか、あいつには…!」
「更に後方からミネルバ!」
再びミリアリアが報告すると、マリューは見慣れた艦の映像を見つめた。
(タリア・グラディス…)
「共闘できればとも思うけど、難しいわね、今となっては」
タリアもまた、アークエンジェルを見てほっと息をついた。
「フリーダムにしろアークエンジェルにしろ、インパルスに何か仕掛けるような事があれば、本艦は容赦なく攻撃を行う」
そして「撃てる時には撃つわよ」と、アーサーに主砲の準備をさせた。
シンは素早くサーベルを一閃するとすぐに飛び退り、そのままデストロイの後ろに回りこんで足部の関節部分を集中的に狙った。
(これだけのデカブツだ…足元を揺らせば…)
脚に軽いダメージを受け、ボディがガクンと揺れた事にステラは驚いた。
「ううっ?」
バランスを崩したデストロイを見て、シンは再び前面に廻りこむ。
「はあぁぁぁッ!!」
「くっ…きさま!」
ステラは襲い掛かるインパルスにシュトゥルムファウストを放ったが、シンはそれを素早く避け、ただ一箇所を狙って再び相手の懐にもぐりこんだ。
それはフリーダムが…キラが決して狙おうとしなかった一点だった。
(パイロットを潰す!)
「てえぇぇッ! 」
シンは予測した部分にサーベルを突き刺したのだが、予想した手応えはない。
しかしその攻撃はこれまでほとんどダメージを受けなかったデストロイのコックピットに激しい衝撃をもたらし、機器に一瞬激しいプラズマが走った。
「うぁっ!」
ステラは思わず我が身を庇ったが、その程度では致命傷にはならないと判断したシンはちっと舌打ちをした。巨体の装甲の厚さは想像を遥かに超えている。
「なら何度でも攻めるまでだ!」

「ステラ!」
動きを止めたデストロイを見て、ネオが叫んだ。
キラもまた、今までどんな攻撃を仕掛けても止められなかったデストロイが沈黙した事に驚き、今も手を休めずに戦いを挑んでいるインパルスを見た。
(あの人…すごい…)
しかしやがて再びデストロイは動き出し、ステラは怒りの咆哮を上げながら、胸部のスーパースキュラを見境なくぶっ放した。
フリーダムとインパルスは左右に散って避けたが、その威力は凄まじく、市街地の遥か彼方にある鉄塔や施設を破壊した。
そして再びシュトゥルムファウストをインパルスに発射する。
シンは10砲口のビームをスピードとシールドを使い分けて避けながらライフルで応戦したが、ビームはことごとくリフレクターに弾かれてしまう。
(厄介なものを…)
シンは加速して先行すると、ライフルを構えた。
狙いを定め、連射しながら指先のビームの砲口を正確に狙っていく。
やがて何発かがあたり、シュトゥルムファウストは連鎖爆発を起こした。
「…うおおぉぉぉ!!」
初めてダメージを受けた事でパニック状態のようになったステラはそのままモビルアーマーに変形した。ダメージを受けた脚部を補うためと、圧倒的な火力で「怖いもの」を滅ぼすためだ。
ドライツェーンが再びフリーダムとインパルスに向けて放たれ、ネフェルテムが全方位に発射された。インパルスがその驚異的な砲撃を避け、フリーダムがサーベルで弾けば、流れ弾は残った建物を破壊してしまう。
「何なんだよ、この化け物は!」
攻防どちらでも破壊されていく街を見て、シンは首を振った。
一体どれだけの人が死んだんだ…シンの心臓が脈打ち始める。
人と触れ合う事が苦ではなくなり、もう大丈夫だと思ったのに、こんな光景を見せられたら彼の心の傷が再び疼きだしてしまう…

逃げ惑う人々に、自分たち家族が重なる。
あそこで泣いている子は自分か、それともマユなのか…
シンは右手でぎゅっと胸を掴んだ。落ち着け…落ち着け!
(大丈夫だ…今の俺には抗う力がある…戦える力がある!)

―― あいつを倒す!そしてあいつのせいで倒れていく人々を救うんだ!

凄まじい威力のドライツェーンの間隙を縫い、シンはシールドをかざしながら再び強引に相手の懐に飛び込んだ。
(危ないっ…!)
キラはそのあまりにもムチャな突っ込みに驚きを隠せない。
けれどシンはそのままサーベルでユニットを攻撃し続けている。
「どうしてこんなことを…!何でそんなに殺したいんだ!」
インパルスの素早く的確な攻撃に、さしものデストロイの頑丈なVPS装甲も傷みが見え始めた。シンはさらにサーベルをカメラに突き刺すと、ぐりっと押し込む。
サーベルに触れた金属が見る見るうちに熔け出し、やがて爆発した。

―― こいつを倒さないと、もっと多くの人が死んでしまう…

(ザムザザーを倒した時と同じだ。中の人間をやれば終わる…!)

シンのその容赦のない攻撃を見て、ネオはざわざわと総毛だった。
ステラを守らなければという想いと、ステラを守ろうとした彼が彼女を…という想いのうち、どちらが働いたのかはわからない。
「やめろっ!坊主!」
ウィンダムはサーベルを振るっているインパルスに体当たりした。
「くそっ!何を!?」
驚いたシンはウィンダムを振りほどこうともがいたが、機体が触れ合っているせいか、通信機からは雑音交じりの声が聞こえてきた。それはあの仮面の男の声だった。
「あれに乗っているのは、ステラだぞ!!」
「なっ…ステラ!?」 
シンの心に衝撃が走った。
(ステラが…ステラがあれに乗ってる!?) 
まるで走馬灯のように、シンの脳裏にはステラの姿が蘇った。
出会った時の普通の女の子に見えた姿、ガイアのコックピットで倒れていた姿、そしてすっかり弱り果て、それでも自分を見て微笑もうとする姿…
ステラが…どうして?どうしてまた戦ってる?なんでこんな戦場にいる?
「…だって、あの時…約束したじゃないか!」
軽く混乱したシンは思わず叫んでいた。
アスランの声がどこか遠くから聞こえてくる。
(エクステンデッドを創り、利用するような相手が)
「ステラを、温かい世界に帰すって…」
(そんな約束を守ると、本気で信じてるの?)
「約束したはずだっ!あんたはっ!!」
「…っ!」
シンの悲痛な叫びに、ネオはギリギリと歯を食いしばった。

「ネオーッ!」
インパルスに体当たりしたウィンダムを見て、再び恐慌に囚われたステラは、無差別にネフェルテムをぶっ放し始めた。
ウィンダムはそれを見てインパルスを離し、急いでデストロイに向かう。
そして自分は大丈夫だと伝えるためにステラの名を呼んだが、ステラの恐慌はもはや止まらなかった。
ドライツェーンやミサイルが狙いすら定められずに飛んでいく。
その砲撃の中、インパルスは呆然としたまま動けなかった。
シンはデストロイを…ステラが乗る悪魔の機体を見つめ続けていた。
キラはそんなインパルスを見ていぶかしみ、援護のレールガンを放った。
そしてインパルスの前に立つと退けと言わんばかりに腕を振る。
「何をやってるんだ!的になりたいのか?!」
「あ…」
シンは我に返り、慌ててシフトレバーを握る。
気づいた時にはもうフリーダムは目の前から消えていた。

それまでフリーダム以上の戦いぶりを見せていたインパルスの動きが急に悪くなったことは、傍目にも明らかだった。
ブリッジではアーサーやメイリンがいぶかしみ、パイロットルームのアスランもまた眉を顰めた。ルナマリアも息を呑んで、隣にいるレイに聞いた。
「どうしたの!?どこかやられた?」
レイは「機体は大丈夫だろう」と言う。データ上も大きなダメージはない。
(何かあったのか、シン…)
レイはフリーダムを睨みながらシンの身を案じた。 

「うう…駄目よ…死ぬのはいや…怖い…」
「ステラ!いい子だ、落ち着け!」
なだめようにもステラの無差別攻撃はウィンダムすら近づけさせない。
カオスはムラサメに囲まれて離れているからいいものの…ネオはなんとかステラを落ち着かせようと呼びかけ続けていた。
(あれは…あの人は…) 
キラはそんなウィンダムを見て、イチかバチかだと賭けに出た。
あの感覚…なんだか懐かしいあの感覚を信じよう…そう決意したのだ。
「マリューさん!こちらを頼みます!」
「え?」
何を頼まれたのかわからず、マリューもクルーも皆呆気に取られた。
けれど次の瞬間、フリーダムがルプスを構えて降下しながらウィンダムの背部ユニットと左腕、続いて右腕を破壊するのが見えた。 
「なにッ!?ぐわぁぁ!」
ジェットストライカーの破壊により小爆発を起こした機体は墜落した。
ネオは激しい火花が散る中、コックピットブロックの排出を試みたが間に合わず、激しい衝撃と共に開きかけたハッチから投げ出された。
アークエンジェルでは撃墜された機体をカメラで追い続けていたが、パイロットが投げ出されたのを見て、皆「あっ!」と声をあげた。
しかし、それは単に「人が投げ出された」ことに驚いた声であり、その後さらに拡大された映像を見た彼らの「あっ!」という声は、全く意味が違っていた。
「うそ…!」
「あ、あれって…まさか!?」
皆が驚きを口にする中、マリューは両手で口を押さえて叫び声を押し殺していた。
そこには背格好や髪の色、そしてこちらから少しだけ見える面立ちが、彼らの見覚えのある男によく似た人物が横たわっていたからである。

「ネオ!うわぁぁ…ネオーーッ!!」
ウィンダムが墜落した方向を見ながら、ステラは泣き叫んだ。
彼女の瞳からはとめどなく涙があふれ、口から意味のわからない叫びが発せられて、その精神はもはや正常とは思えなかった。
しかしそんな状態になっても、ステラの戦闘能力は失われない。
かつて薬切れを起こしたクロトがそうだったように、ステラもまた人間としての何かを失っても、戦闘人形としての機能は失わない…いや、失えないのだろう。

「シン!どうしたの!?何をやってるの!?シン!」
メイリンからインパルスの、シンの様子がおかしいと聞いたタリアがシンに呼びかけ続けている。フリーダムに救われて何とか離脱したものの、シンはあれ以来攻撃の手を下ろしてしまっていた。
そして彼の目の前では相変わらず殺戮が再開されている。
デストロイの無慈悲なビームはありとあらゆるものを破壊し尽くしていた。
(あれにステラが乗っている…これをステラがやっている…)

―― 嘘だ…だってあいつは約束した…温かくて優しい世界に…ステラを…

シンは自分にそう言い聞かせながら、一方でそんなわけないだろと呟く、冷め切った自分の声を聞いていた。
(あんな子供じみた約束が、守られるはずがない…)
ステラはエクステンデッドで、連合の使い捨ての戦闘人形なんだ。
返せば、してやったりと喜ばれてまた使われるに決まっている。
「全部知ってたろ、俺は。彼女が幸せになれるわけないって」
だから、目の前のこれは結果的に俺が引き起こした事だ。
この街の人々を、壊滅した街の人々を殺したのは、俺だ。
俺は自分で、これから俺と同じように苦しむ子供たちを作ったんだ…
「う、うっ…」
シンは息ができずにもがいた。
(ステラ…やめろ、やめてくれ…)

―― ステラじゃない、おまえがやめればよかったんだ…

そう呟くもう1人の自分の声を振り払おうとシンは頭を振った。
(違う、俺はただステラを…!)

―― そうやって責任から逃れるのか?自分は間違ってないと言いながら… いつだって自分に都合のいい、独りよがりの正義を振りかざして…

笑いながら射殺され、撲殺されるガルナハンの兵の姿が脳裏に浮かぶ。
人々を撃ち殺す反面、インパルスの砲撃で吹き飛ぶ無力な兵士を思い起こす。
傷ついたステラと、ガイアに斬られて爆発するハイネのグフが蘇る。
そして、振り向かない赤服のあの人がぽつりと言った。

―― でも、やっぱり…あなたのした事は間違ってる…

「…うるさいっ!黙れっ!!」
シンは自分にともアスランにとも言い難い怒りで叫んだ。

「くそ…だめだ!離脱する!ボナパルト!」
ムラサメに張り付かれてどんどんデストロイから離されていくカオスは観念し、離脱して態勢を立て直す事にした。
(パワーもヤバい…くそっ、小うるさいヤツらめ!)
フォーメーションを保ちながらカオスを追い詰めてきたムラサメは散開し、ニシザワとゴウが上空からさらに逃げるカオスを追い詰めていった。
やがて両機はMA形態のまま背部のビーム砲を放ちながら急降下した。
「なんだと!?」
不意を突かれたカオスはショルダーの兵装ポッドを破壊され、推進力を失って錐もみ状態になった。慌てて建て直しを図ったが、彼を待ち構えているもう1機が視界に入り、スティングは息を呑んだ。
「逃がさん!」
「うわっ!」
サーベルを構えて待っていたイケヤが、見事一刀の元にカオスを下した。

ウィンダムに続きカオスまでが撃墜されたのを見て、ステラの不安定な感情はもはや手がつけられなくなった。
「いやぁ…!だめ…いやぁぁぁ!うわぁぁぁぁぁ!!」
デストロイの全砲門が開かれて無差別砲撃が始まった。
市街地のはずれで一般人の避難を急がせていたカガリも、デストロイの攻撃が未だやまないことに焦りを感じていた。ビームは容赦なく人々の頭上や足元に降りかかり、傷ついた兵や逃げ場を失った民間人を守るのが精一杯だ。
(キラ…)
見ればフリーダムはまだ果敢にアタックを続けている。
「東はもうだめだ!西へ逃げろ!ケガ人を乗せられるか!?」
カガリはすぐに気を取り直して、懸命に働くザフト兵たちと連携しながら人々の避難を進めていった。キラが必ずこの殺戮を止めてくれると信じて。

(止めなければ…やめさせなければ…ステラ!)
怒りで自分を取り戻したシンは、インパルスを移動させた。
「やめるんだ、ステラ!」
インパルスはビームを撃ち続けるデストロイに近づいていく。
「ステラッ!」
しかし同時に飛び込んできたフリーダムがクスィフィアスを起こし、至近距離でレールガンをぶち込むと、その激しい衝撃でコックピットの計器が割れ、粉々になった強化ガラスがステラの体に降り注いだ。
「きゃあぁぁ!」
それを見てシンは青くなり、フリーダムに突進した。
「やめろーっ!!」
「…うっ!?」
キラは突然向かってきたインパルスに驚き、身をかわして距離を取る。
(どうしたんだ?なぜ急に…)
シンはフリーダムを近づけさせまいとデストロイへの進路を塞ぐ。
「何も知らないくせに…あれは…あれは!」

「シン?何やってるの!?」
このインパルスの行動を見て、ルナマリアは驚きの声をあげた。
「どうしたんだ?」
アーサーが首を傾げるブリッジでも、クルーの間にざわめきが起きている。
(…シン?キラ…)
アスランもまた身を乗り出してインパルスを、フリーダムを見つめた。
キラは用心深く安全圏まで下がり、相手の様子を見ている。
やがてインパルスはデストロイに向き直った。
「ステラ!ステラ、俺だ!シンだよ!」
「うわぁっ!いやぁ!!死ぬのはだめ…いや…怖い…」
ステラにはシンの声は届かない。届くはずもなかった。
ステラは無差別攻撃を続け、砲が届く範囲にはもはや壊すものがないほど、街は焼け野原になってしまった。
「ステラ!大丈夫だ、ステラ!」
インパルスはデストロイの砲を避けながら機体に取り付いた。
キラはそれを見て驚いたが、射角を避けているようなので見守る事にした。
インパルスが取りついた事で、デストロイの通信機からは雑音交じりでシンの声が聞こえる。ステラは泣き叫んでいたが、やがてその懐かしい声が耳に届いた。
「ステラ!聞こえるか?きみは死なない!」
(砲撃がやんだ…)
固唾を呑んで見守っていたキラは、デストロイの砲撃が収まった事に気づいた。
「きみは俺が…」
シンは叫んだ。
「俺が守るから!」
やがて雑音に混じってステラの声がした気がして、シンは恐る恐る呼びかけた。
「ステ…ラ?」
「……………シン?…シン!?」
ああ…シンはその声がステラであることを知ってほっとした。
「ステラ!」
「シン…シン!」
お互いの名前を呼び合い、シンは胸が一杯になった。
(ごめん、ステラ…俺がきみをあいつに返したばっかりに…)

この間、キラは動かなくなったデストロイの様子をじっと窺っていた。
インパルスも動かない。何か攻撃を受けたのだろうか?
(だとしたら、助けなければ…)
ラケルタを抜いて構えると、キラは静かに彼らに近づいていった。
しかし、それが悲劇の引き金になってしまう。
「…あ!」
シンの声でゆっくりと心を鎮めていたステラが、ふと視線を上げたのだ。
インパルスの向こうには、フリーダムがいた。
(ネオを殺したもの…ネオがやっつけないとと言った怖いもの…)
「ううっ…!」
ステラは再び恐怖に支配され、無意識にシフトレバーを握った。
「ステラ!?なにを…!」
デストロイが再びモビルスーツに変形し始め、ユニットが背部に廻ったために、インパルスも離れざるを得なくなった。
モビルスーツとなったデストロイがギョロリとフリーダムを睨む。
キラは迎撃態勢を取り、シンは緊迫したその雰囲気に、ステラが再び攻撃を始めるつもりだと悟った。

アークエンジェルとミネルバでも動きがあった。
「まずい!ノイマン!」
チャンドラが主砲発射準備を始め、ノイマンは射線を取るため舵を回す。
同じくミネルバでもタリアがアーサーに砲撃を命じていた。
「トリスタン照準、目標、敵巨大モビルスーツ!」
ルナマリアもアスランもレイも、この激しい戦いの推移と結末を言葉もなく見守っている。
デストロイの胸部にあるスーパースキュラが光り始め、同時にツォーンの収束が始まった。
「ステラ!やめるんだ、ステラ!」
シンは必死に呼びかけたが、もはやステラの声は聞こえない。
(くそっ…さっきは声が聞こえたのに…ステラは俺だってわかったのに!)
インパルスはスーパースキュラの射線上に完全に捉えられている。
ビームの収束は進み、もはやいつ発射されてもおかしくない。
けれどシンは動こうとはせず、未だステラの名を呼んでいた。
「よせ、ステラッ!」
「いけない!離れて!」
キラはインパルスに体当たりすると、そのままデストロイの懐に飛び込んだ。
そして3つあるスキュラの砲門のうち、真ん中に深々とラケルタを刺した。
さらにもう一本を別の砲門に差し込むと、相手の胸部を蹴って離脱する。
一方フリーダムに弾き飛ばされたシンは、慌てて機体を立て直そうとした。
「う…くっ!ステラーッ!」
「きゃああああ!!」
発射直前のスキュラが行き場をなくしてデストロイの機体内で暴発し、激しい爆発がコックピットを襲った。それは同時にインパルスをも吹き飛ばす。
「うわっ!」
シンは思わず腕で顔を庇い、凄まじい光を感じて眼を閉じた。
胸部から頚部にかけて激しい爆発を起こし、大きくバランスを崩したデストロイは、ついに自身の重さに耐えられず自立不能になった。
ゆっくりと後ろに倒れていくデストロイの口から最後のツォーンが天空に放たれると、やがて機体は凄まじい轟音と共に後ろに倒れこんだ。
ようやく沈黙の戻った街はしかし、破壊の爪あとが生々しく残り、未だ激しい炎に焼かれて悲鳴を上げ続けていた。

その頃、ノイマンやミリアリアたちに促されて戦闘中のアークエンジェルから地上用ランチで降りてきたマリューは、モニターで見たとおりの男を前にして立ちすくんでいた。
金色の髪は以前よりも長いけれど…ひどい傷跡が整った容姿を痛々しいものにさせているけれど…この顔は忘れもしない、彼女が心から愛した男のそれだった。
未曾有の破壊の炎が消えやらぬ雪の街で、マリューはいつまでも動けず、深く傷つき、気を失った彼を見つめていた。

動かなくなったデストロイのコックピットから助け出したステラは、既に虫の息だった。
体中の骨が折れ、ヘルメットを取るために緩めたパイロットスーツの中は、首元まで血で染まっている。
シンは彼女の胸に、彼女が好きだったピンクの貝殻がペンダントになってかけられていることを知った。
(あいつがかけたのか…俺との約束を守らなかったあの男が…)
シンは一瞬、殺しても飽き足らないほどの怒りを覚えたが、今はヤツの事など考えたくもなかった。
「ステラ…ステラ…」
ひゅーひゅーと苦しそうな息をするステラを抱き、シンは優しく呼び続けた。
(話がしたいんだ、ステラ…声が聞きたいんだ、ステラ…)
「ステラ…」
シンが顔にかかったステラの金色の髪をそっとはらうと、ステラは輝きを失いつつある赤紫色の瞳を開けた。呼吸するたびに鼻や口から流れてしまう大量の血を手でそっとぬぐってやると、シンは穏やかに微笑んだ。
「ステラ…俺がわかる?」
「…シン…会いに…来た?」
「会いに来たよ。ごめんね、遅くなって」
シンは、絶対に泣かないと決めていた。
(ステラを涙で送っちゃダメだ…世界に見放されたこの子を、泣きながら見送ってはいけない)
シンの赤い瞳は哀しげに、それでも優しく笑っている。
「シン…ステラ…守る…って…」
「守るよ。俺がきみを守る。だから安心して」
ステラはそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
「…うん…」
ぐったりと彼女の力が抜けていく。最期の時が迫っていた。
「ステラ…よく……頑張ったね…」

―― こんな世界で…きみが生きるにはあまりにもつら過ぎる世界で…

「だから、今度こそ、温かい、優しい世界へ…」 
「シン…好き…」
動かなくなった小さな体を抱き締め、シンはようやく静かに泣き崩れた。
「………ステラ…」
逝ってしまった哀れな命が、シンの心に深い哀しみを積もらせる。

―― ステラ…ステラ…ごめん…俺…きみに…

シンは雪が落ちてくる空に向かって、哀しみと怒りの咆哮をあげた。
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secret
制作裏話-PHASE32-
いよいよ「主人公」シンの運命を決める、最大の見せ場です。
サイコガンダムに乗って香港の街を破壊したフォウ・ムラサメのように、ステラもまたデストロイガンダムに乗りこんで、ベルリンの街を完膚なきまでに叩き潰します。放映の翌年にはワールドカップが開かれた街をよくもまぁこんなに…(余談ながら私も翌年夏にベルリンを訪れましたが、もちろんブランデンブルク門は無事でした)

まずはデストロイの圧倒的破壊力を見せるため、戦闘シーンをしっかりと描き、中でも攻めあぐねていたフリーダムと、果敢に攻め込んだインパルスを対比しています。

何しろキラは賛否両論あるとはいえ、ご存知の通り「不殺王」ですから、デストロイとも何とか命を奪わずに戦えないかと考えてしまいます。一方でフリーダムが全力を出して戦えば市街地への被害を大きくしてしまうと躊躇するのです。逆転のキラは本編のような超人ではなく、考えたり迷ったりしながら進んでいく子なので、ガチで戦えばデストロイをねじ伏せる力はあると思うのですが、いたずらに時を消費してしまいます。けれど一方、こうするのはとてもキラらしいと思います。キラは「本編とは違って」逆デスの主役ではありませんが、常に、前作の逆種では確かに主人公を務め上げたキャラクターと意識して書いています。

さらにPHASE23で張っておいた伏線、つまりネオの存在を感じ取ったという伏線を回収していますが(本編ではこれはなんだかウヤムヤになってしまった)、逆転では同時にエクステンデッドの存在も感知したとしています。
これにより、最高のコーディネイターであるキラが自分と同等のところに無理やり引き上げられた人形の運命に思いを馳せます。同時に人の業の深さを笑ったクルーゼの言葉を思い出し、心が折れそうになるのです。逆転ではワンオフ機ならぬ「この世にたった1人の存在」としてのキラの孤独もほんの少し描きたかったので、これはうまくいったかなと思います。このおかげで、逆転のキラはPHASE47「ミーア」ではそれを乗り越えたらしい様子も描けましたしね。

そしてそんなキラを、それとは知らずに救うのは種同様、カガリなんですね。カガリは街を焼かれる事に義憤を感じて飛び出し、防衛は任せろとキラを励まします。声をかけあうシーンは本編でもありましたが、絶望感を感じそうになったキラを救う意味でも2人の会話はより明確にし、カガリに自分たちは街を守るが、デストロイを倒す事は「おまえにしかできない」と言わせて信頼度をアップさせています。

なおシンを成長させていると同時に、カガリも少しずつ変化してきた様子を描写するため、戦いに出るカガリに向けられたマリューとノイマンの問いかけは、「これはオーブの理念に反しないのか」というアンサーのための演出です。戦場には出るけれど、オーブはあくまでも人命救助を優先すること、その一部としてフリーダムの援護を行うと決めたこの時、実はカガリは既にウズミとは違う、新たな為政者としての姿を見せ始めているんですね。後にカガリが率いるオーブはレクイエムを撃とうとするプラントと戦うわけですから、彼には「闘うべき時には闘い、国を、国民を守るためならば戦う」つもりだという姿勢を垣間見せておきたかったのです。
種時代からずっとカガリを心配してきたマリューが(行方不明になった時はもちろん、逆種PHASE41や逆デスPHASE24など)ついに男の顔を見せ始めたカガリを見てくすっと笑うのは、実は全く狙っていなかったんですけどなかなかの演出だったと思います。

シンについては、いくつか細かい改変を入れてあります。
とにかくインパルスの戦闘が巧みである事は言うまでもありません。彼の戦闘にはキラのような容赦も手加減もなく、パイロットを潰せば終わるという非情かつ効率的なものです。ザフトのエースであるシンが非常に練度の高い優れた軍人であると示したかったので、インパルスが現れた途端、今まで絶対的防御を誇っていたデストロイが一気に押されていきます。

そんなシンに期待しましょう、と重々しく言う議長の姿も描写しています。本編ではベルリンを守るために正義の鉄槌を振るわせるような雰囲気しかないですが、逆転では最高の舞台でミネルバとインパルスが悪の連合を打ち破るという議長の思惑を覗かせています。後に議長はデストロイを倒したフリーダムをデリートするわけですから、これくらい見せておいた方がいいと思うんですよね。デストロイの情報を手に入れながら何ら手を打たず、シンの処分を不問に付したからには、こうしたわかりやすい構図を示した方が議長の「計画」が唐突過ぎず、まだマシだったと思うのですが…

本編でも空気みたいでしたが、今回アスランの影は敢えて薄くしてあります。「ヒーローごっこ」発言にムッとするくらいですね。(ちなみにシンも言ってみたもののちっとも気が晴れないとしています。)
逆転では、シンの中にある様々な想いを象徴する役割をアスランにきっちり担わせようと思っていました。でなきゃあんた、存在意義ないよアスラン!
本編のシンはこのPHASEでステラを失うと、フリーダムを討ち取る事に執着し始め、見事勝利します。けれど私は単にシンを考えなしの復讐キャラにするつもりはありませんでしたから、ここからが勝負だと思っていました。

逆転のシンは今後、自分で考え、何が正しくて何が間違っているのかを判断していきます。その選択のために、これまで多くの伏線とアスランとの関係を築かせてきたのです。また言いますけど、逆転のシンは流されるばかりのバカじゃないんですよ!

そんな中で、議長がシンに期待していることを眼を逸らしながら伝えたタリアの言葉に、シンが皮肉をこめて「嘘ばかりだ」と鼻で笑うのは、その変化の現れです。
シンは営倉でのアスランとの会話でも、自分が間違っている事はわかっていた、けれど「譲れなかった…」として死を覚悟していたのです。なのに、蓋を開けてみれば一切のお咎めなし。現実には、真実を捻じ曲げてまでシンの力を必要とする人がいたのです。皮肉ですね。

本編では、シンはこれによって単純に「自分は必要とされている」と考えて増長するばかりでしたが、逆転のシンはもちろん違います。
実際には、正義も罪悪もあっけなく意味を変え、自分の力が必要となれば現実などあっさりと寝返ってしまう事をまざまざと見せつけられて、シンはその醜さ、汚さに呆れているんですね。けれど一方、現実社会にはそんな事ができてしまう「大きな力」が存在することも認めるのです。

こうしてシンが「ならば白も黒も全てを受け入れ、自分もそれを利用しながら、最終目的を達すればいい」と思うに至るルートを作り上げるつもりでした。
こんな思慮深い主人公なら、たとえダークサイドに落ちたとされても格好よくないですか?これくらい強くてクレバーなら、十分キラに対抗しうる主人公だったのではと思うのですが。過去を背負い、立ち上がってきたシンにはそれだけの器がありますよ、絶対。

デストロイに攻撃を仕掛けていたシンは、ネオに止められて衝撃の事実を知ります。本編にはなかった「約束が反故にされた」と悲痛な叫びを上げさせたのは、それをしっかりとネオに聞かせ、後々きっちり悩んでもらうためです。

一方そのネオはキラの一か八かの賭けで撃墜され、アークエンジェルに合流します。彼の正体はすでに中の人でバレバレなのですが、本編では大して悩みもせずマリューさんとラブラブに戻るこの人には、どうにか業を背負わせたかったのです。でも展開上難しいんですよね…とはいえまだまだこの先も手直ししていく予定ですから、ネオもサルベージの対象として、何とか頑張ってみようと思います。

そしてこの後本編には全くなかったシーン、けれどシンの心を表す、とても大切なシーンへと突入します。

それは戦っているステラを、再び戦場に引き戻したのは自分なのだという、非情で厳しい現実と向き合うことです。
こうする事で、シンはただ単に「復讐」だけでフリーダムと戦うのではないとしたかったし、何より自分の「勝手な正義」が招いてしまった「結果」を目の当たりにさせたかったのです。

本編では二度と生かされなかったガルナハナンの虐殺、インド洋の独善的正義、ハイネを殺したステラ…そしてそこに「間違っている」と止めが入ります。この役割こそ、満を持してアスラン・ザラであるべきでしょう。それにこのセリフは、後にラクスとアスランの会話のキーにもなります。

逆転では、本編で圧倒的に足りなかったものとして、彼らに何度も自分たちの主張をぶつけ合わせました。さらに、シンがどれほどアスランに気持ちを向けているか、なのにそれに応えてもらえないこと、同じく、応えることができない未熟なアスランについても浮き彫りにしてきましたから、ここは実は既に2人がすれ違ってしまっている事を示す決定的シーンなのです。

やがて苛烈な戦いは悲劇の結末を迎えます。
これまで通りデストロイを止めようとするフリーダムに、事情を知ったシンが突然襲い掛かります。そしてステラに必死の呼びかけを行います。

ここでは逆転SEEDの最終回同様、けったいな「精神会話」はありません。ホントにバカバカしくて嫌いなんですよ、ああいう演出。だから逆転の2人はあくまでも通信機を介してちゃんと言葉を交わしています。

ステラがフリーダムを眼にして恐慌に陥り、ついにキラにとどめを刺されてしまうのは本編どおりですが、本編になかった演出として、「キラが体当たりしてシンを救った」事をはっきりと入れました。これによってシンの「仇討ち色」をさらに薄められますし、最終回での2人の和解にも繋がります。

やがて静かにステラの死が訪れます。
泣きながらステラを見送った本編と違い、逆転のシンはステラに涙を見せないと決めています。一人ぼっちで、世界に見捨てられ、世界に恨まれながら世を去っていく彼女を、涙で送ることはやめようと決めているからです。哀れな彼女が今度こそ温かく、優しい世界に旅立つことを願い、優しく笑うのです。すごく無理をして笑うのです。ステラを安心させたい…ただそのためだけに。
やがて動かなくなった彼女の骸を抱き、シンは初めて慟哭します。何度も何度も謝りながら、哀しみの咆哮を雪空に放ちます。

手前味噌ですが、まさに渾身のラストでした。
になにな(筆者) 2011/10/26(Wed)19:40:18 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
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