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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「新しい穴を掘ってくれ」
デストロイが倒され、戦闘が終わった後には、さらに大変な仕事が待っていた。
生き残った人々の救援医療活動、衛生状態の保持、ライフラインの復旧…
「身元がわからない死体は焼却だ」
ジブラルタルからも続々と駆けつけたザフト兵が、届いた物資を皆に均等に分け与え、暖かくて安全な避難所へ人々を誘導していた。
「もう大丈夫だぞ」
瓦礫の下から数十時間ぶりに助けられた人がいて、人々は絶望の中にほんのわずかな希望を見つけた。
血だまりの前でなす術もない戦災孤児に、若いザフト兵が駆け寄った。
「さ、おいで…怖かったな」

無残にも消されてしまった命が集められ、シートにくるまれていく。
死体すらない家族や愛する者を思い、雪の中で途方に暮れる者もいた。
「消毒薬を撒かないと…大変なことになるぞ」
遺体は急ピッチで片付けられているが、疲れきった兵たちも、あとどれだけ死体を集め、記録し、焼却し、埋葬すれば終わるのかとため息をついていた。
「重機は駄目だ!壁が崩れる!」
街は、どこもかしこもボロボロだった。
「誰か、この子の親を知りませんか?」
親とはぐれたのかそれとも失ったのか、無表情の小さな子供の手を引き、年老いた男が兵たちに尋ねて廻る。
「まだ息がある!手を貸してくれ!」
街の片隅でうずくまり、血まみれの女性を兵たちが取り囲んだ。

アスランは無言のまま、目の前で繰り広げられる懸命の救援活動と、人々の苦しみ、嘆き、哀しみを見つめていた。
そこにはあまりにも非情な現実があり、この戦争の間違いが露呈している。
そもそもこんな本末転倒を引き起こしたのは、地球軍なのだ。
(プラントは、こんな馬鹿なことは一日でも早く終わらせようと頑張ってる)
(議長は立派な方よ。戦争の根幹を探り、真に平和を目指そうとしてる)
アスランの中に、自分の発言は間違いではなかったと言う自分がいる。
誰かがこんな暴挙を止めようとしなければもっと被害が出たはずだ。
しかし、実際にはキラがあのモビルスーツを倒したことも事実だった。
(けれど、それでは本当の意味での解決にもならない…だから私たちは…)
アスランは何度もそう思おうとした。

なのに、気持ちは一向に晴れなかった。

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まだ燃え盛っていたベルリンの街を、シンは物言わぬ彼女を抱いて歩いた。
崩れた瓦礫を乗り越え、割れたガラスを踏みしめて、彼の誇れる唯一の「力」であるインパルスの元へと。
駐留軍やミネルバからの回収班が見守る中、インパルスは飛び去った。
どこへ行ったのか、ミネルバのブリッジではしばし騒ぎになったが、今はもうシンのやる事に異議を唱える者はいなかった。
皆、スーパーエースのする事だから…とどこかで諦めていた。

2人は、静かに別れを惜しんでいた。
1人は何も言わず、1人は何も言えず。
シンは長い間ステラの小さな体を抱き締めていた。
刻々と冷たくなっていく彼女に、温かい自分の体温を分け与えるかのように、いつまでも抱き締めていた。
1人ぼっちの彼女が、寂しくないように… 最期の、本当の別れの時まで、自分が一緒にいてやりたかった。
(ステラ…)
シンは涙を流さず、ただ静かに時を過ごしていた。
(何が…いけなかったんだろうな…)
罪の意味すらわからずに刃を振るったステラを、世界は断罪する。
利用されただけの哀れな彼女を、誰もが皆、憎み、恐れ、嫌悪する。

傷つけられた者の痛みは、いやというほど知っている。
理不尽な力に泣かされる苦しさも、誰よりも知っている。
(この子は、そんな力を持たぬ者たちへの脅威となってしまった)
シンは艶を失ったステラの金色の髪を撫でた。
(でも、俺は守りたかった。ただ、きみを…守りたかったんだ)

形は違えど、彼女も自分と同じ、理不尽な力に泣かされ、世界に見捨てられてもがき苦しんだ戦争の犠牲者だ…シンはステラがザフトの手に渡れば、「貴重なサンプル」として切り刻まれ、臓器の一つに至るまでバラバラにされ、ホルマリン漬けにされるに違いないと知っていた。だから誰にも渡さずに、自分ひとりで送る事にしたのだ。
誰にも顧みられることのない彼女を、人として送りたかった。
その哀しみに満ちた、血にまみれた人生を悼んでやりたかった。
そしてそれは、恐らく誰にも理解されるはずがないことだった。
だからシンはたった1人で、誰にも言わず、彼女を連れて飛び立ったのだ。

やがてシンは、インパルスを湖の中ほどへと進ませていった。
雪が降り積もる凍てつく山間には、自分とステラしかいない。
美しく清廉な空気が、シンの心も体もゆっくりと冷やしていった。
「…大丈夫だよ、ステラ…」
シンはステラの物言わぬ体を抱いてインパルスのマニピュレーターに乗った。
「何も怖いことなんかない…苦しいこともない…」
そしてそのまましゃがみこむと、もう一度ステラを抱き締めた。
ステラは、とても安らかな顔をしていた。
眠っているだけだと思えるほど、穏やかで優しい表情をしていた。
そのステラの頬にパタパタと、雪ではない、温かい液体が降ってきた。
(泣くな…泣くな……泣いちゃダメだ…)
シンは必死に微笑もうとした。けれどうまく笑えない。
「もう何もきみを怖がらせるものはないから…誰もきみをいじめに来たりしないから…」
ステラはこれから旅立つんだ。
彼女に似合う、温かくて、優しくて、穏やかで、明るい世界へ。
1人で行かせるのは心配だけど、迷うはずのない道だと思うから…
「だから安心して…静かにここで…おやすみ…」
そう呟いて、シンはステラの体を静かに湖面に浮かべた。
身も凍るほど冷たいはずの水を冷たがる事もなく、ステラはゆっくりと深い水底へと沈んでいった。
彼女の胸には、大好きだった貝殻のペンダントが揺らめいている。
(きれいだね、ステラ…とてもきれいだ…)
きれいな水の中へ、きれいなステラが見えなくなっていく… 

彼女を見送ったシンはうなだれ、膝と手をついた。
「守るって言ったのに…」
インパルスの堅く冷たい手を叩きながら、シンは自分の無力さを嘆いた。
「俺…守るって言ったのに…」
震える肩は寒さによるものではない。
シンは、我慢してきた涙をもう止めようとはせず、小さい声で呟き続けていた。
「嘘をついた…俺にはそんな事、できやしない…できやしなかったのに…」
 
―― 嘘を…ついた…っ!!
 
両手でマニピュレーターを叩くと、シンはそのまま崩れ落ちた。
「…ステラ…ごめん…ごめん…ごめん…」
哀しみが心から溢れ出して止まらない。
人はこんなにも泣けるものなのかと思うほど、シンの涙と叫びにも似た嗚咽はいつまでも止まらなかった。

それから、どれほどの時が経ったのだろう…シンの体に、インパルスの機体にうっすらと雪が積もるほど、彼は泣き続けた。
むき出しの耳や鼻が真っ赤になり、涙でまつげが凍ってもまだ動かなかった。
まるでそうする事が自分への罰であるかのように。
けれど、やがてシンは面を上げた。
ゆっくりと、その泣き濡れた顔を上げた。
そこにあったのは哀しみの顔ではなかった。
その憤怒の形相は涙すらも恐ろしい装飾品に見せた。
赤い瞳が涙で赤く光り、シンの決意を物語る。
何が間違っていたのか。何がいけなかったのか。
そしてそれを正すためには、自分は一体何をすべきなのか。
もはや怒りだけが、今の彼を支える唯一の力だった。

「しかし酷いものだわ。無茶苦茶よ!地球軍は…」
「そうですね」
アスランが延々と続く事後処理を見つめていたように、タリアとアーサーもまた、ベルリンの街の惨状を見つめていた。ミネルバには待機命令しか出ていないが、タリアは艦長判断で衛生班や整備班を派遣し、駐留軍に協力している。
「ディオキアにいらした時、議長も、我々は何をやっているのかとおっしゃっていたけど…ほんとね」
タリアはふーっと不機嫌そうに息をついた。
「正直、こんな戦闘ばかりを繰り返して、どうなるのかという思いはありますね」
アーサーはコントローラーでモニターを二分割にし、メディアが伝える街の様子を映し出した。 
「先の大戦の轍は踏むまい、ナチュラルとはあくまで融和を、とする議長のお考えはいいですが…」
リポーターの後ろには避難民たちのキャンプが映り、焼け出された人々が寒そうにうずくまっている。
そんな傷ついた人々…ナチュラルを助けているのは、ナチュラルではなく、自分たちコーディネイターなのだ。前大戦時には考えられない構図だった。
「でも、討つべきものはさっさと討ってしまった方がいいのではないでしょうか?でないといつになっても終わらないと思います」
アーサーもうんざりするというように、珍しく一撃必勝を唱える。
「…かもしれないわね」
長引く様相を見せているこの奇妙な戦争…
(それに…)
モニターを切り替えると、そこにインパルスとパイロットのデータが現れる。
(帰還命令に背き、また勝手に戦線を離脱)
当然懲罰を課すに足るのだが、タリアは厳重注意にとどめた。
少ない戦力の中であれだけの戦闘をした彼を、「戦線離脱」という違反だけで責めることができなかったのだ。
(デストロイのパイロットがなぜか「所在不明」だったことも、シンと関係があるのかどうか、確たる証拠はつかめていないわ)
タリアは戻ってきたシンを艦長室に呼んだ時の事を思い出した。
シンは特に反抗的というわけではなく、珍しく素直に謝罪した。
だが、それはむしろ以前よりこちらとの距離を置こうとしている表れのように感じられ、いくつか注意を行ったタリアも、何の手応えも感じられなかった。
(何だかもうわからない…あの子が何を考えているのか)
戦闘能力は群を抜いて高いけれど、扱いにくさも天下一品だと思いながら、タリアは忌々しそうにシンのプロフィールをモニターから消した。

「シン、いい?」
その頃、アスランはシンとレイの部屋を訪ねていた。
戦闘が終わって以来、シンはほとんど姿を見せていない。
食事もレイが運んでいるようで、ルナマリアも心配している。
暗い部屋の中はモニターの光だけが輝いており、レイが軽く会釈をした。
部屋の中はひどい有様だった。
機能性食料やレトルト食品の袋や食べ残しの残るケース、飲み終わったドリンクのカップがあちこちに散乱している。
毛布が床に落ち、シャツや下着がベッドに無造作に置かれ、デスクにはスナックの袋やら包みやらがぐちゃぐちゃしていた。
シンの横にはデータメディアやディスクが山のように積みあがっており、床にもいくつか落ちて散らばっていた。
シンはサイバースコープをかけ、振り向きもせず作業を続けていた。
いつにも増してボサボサ頭の彼の顎にはうっすらと髭が伸びており、何日もシャワーを浴びていないのだろうか、部屋自体が男臭くてたまらなかった。
「何をやってるの?」
アスランは足元の毛布を拾い上げて椅子にかけると、彼らに近づいた。
こちらを向いていたレイが、答えないシンを軽く肘でつついた。
「シン、アスランだ」
「え?ああ…」
シンは気のない返事をして、顔もむけずにデータを打ち込んでいる。
近づいたアスランは、立体モニターの中に見慣れた機体がある事に気づいた。
「…フリーダム?」
「くっそ!何でこんな!」
途端にシンがかんしゃくをおこしたように入力ボードを掌で叩いた。
モニターにはエラーサインが出、インパルスらしき機体がダメージを受けたと赤く点滅した。一方フリーダムがとったルートは青く点滅している。
スコープをかけたシンの眼には、これが立体映像として見えているのだろう。
頭をかきむしるシンを見て、レイがモニターを覗き込んだ。
「カメラが向いてからの反応が恐ろしく早いな。スラスターの操作も見事だ。思い通りに機体を振り回している」
「フリーダムのパワーはインパルスより上なんだ。それをここまで操るなんて…」
自分を置き去りにしたまま進む2人の会話に不審さを覚えたアスランは、予測できる事ではあったが、敢えて聞いた。
「シン、レイも…何をやってるの?」
ようやく振り返ったシンは、少し痩せたように見えた。
「何をって、ご覧の通り、フリーダムとの戦闘シミュレーションです」
シンは積まれた中から別の戦闘データを探そうと乱暴にかき回し、いくつかがガラガラと音を立てて床に落ちたので、アスランは足元に転がってきたそれを拾おうとかがみこんだ。
「戦闘シミュレーションって…」
「探したけど、データがあんまりないんですよ。もとはザフトの機体なのに」
拾ってくれたアスランに「どうも」と言うと、シンは改めて聞いた。
「何の用です?珍しいですね、あなたが」
それから「なぁ、ここ、女人禁制だったよな?」とレイに笑いかける。

アスランは冗談には乗らず、怪訝そうな顔で立体モニターを見つめた。
「なぜそんな事をしているの?」
「強いからです」 
シンが体だけでなく、今度は椅子ごとこちらを向いて答えた。
そしてそのまま軽く指を動かすと、フリーダムの機体データを映し出した。
「俺の知る限り、今モビルスーツで一番強いのはこいつです。ダーダネルスでやられた時も思ったけど、この間一緒に戦って、そのすごさがわかりました」
シンが出てきたデータをポインタで示して見せた。
「速さと耐久力、反応と反射、度胸と慎重さ…どれをとっても、恐らく今現在、最強の機体とパイロットですよ」
シンは指で別のモニターを立ち上げると、フリーダムの餌食になった機体を映し出した。ウィンダム、カオス、ムラサメ、M1アストレイ…無論、そこにはセイバーもあった。
アスランはバラバラになっていくかつての自分の機体の映像を見つめた。
それは何度見ても、非の打ち所のない見事な太刀筋だった。
「あのデストロイさえ倒したんだ。なら、それを相手に訓練するのはいい事だと思います。なんといっても…」
シンが再び指を動かすとミネルバが記録したデストロイ戦の戦闘データが現れ、シンはさらにそこに、もう一つ別のデータを重ねてみせた。
「これを元に、フリーダムとインパルスの比較データを作ってみたんですが、この通り、とてつもないですよ」
スピードや攻撃効果はインパルスが上回る時もあったが、回避率、命中率、機体稼動効率など、ほとんどはフリーダムの方が上位をいっている。
(確かに、キラの強さを的確に表す数値だわ…シンはここまで…)
キラの戦闘の全てをデータに変換し、分析したというのだろうか。
アスランは彼の執念にも似た集中力と学習能力にヒヤリとする。
「どれも桁外れです。大したものだ。どんなヤツです?このパイロットは」
そうとは知らないシンは、顎に手を当てて感心するように呟いている。
アスランはそんな彼に堅い声で聞いた。
「…フリーダムを討つつもりなの?あなたは」
しばらく沈黙が続いた。
長すぎる沈黙に、2人の会話を黙って聞いていたレイもチラリとアスランを見る。
「さぁね」
やがてシンが軽く肩をすくめて言った。
「これから先、どうなるかなんてわかりませんよ」
そして手早くフリーダムのスラスターデータを修正にかかった。
「けど何かあった時、あれを討てる奴がザフトにいなきゃ困るでしょ?何しろ、あの通りまるっきりわけのわかんない奴らなんですから…」
入力を終えたシンはふーっと息をつき、スコープを外して疲れた眼を手で押さえた。
「何もないかもしれないけど、逆にまたダーダネルスやクレタみたいな事があるかもしれないし」
「シン…」
「だから…何です?さっきから」
シンが苦笑する。
アスランはどうしたものかと考え込み、やがて言った。
「フリーダムと…私たちがフリーダムと戦う理由はないわ」
それを聞いたシンが大げさにため息をついて言う。
「何を言ってるんです?ミネルバは撃たれたんですよ、あの時」
「でも、彼らはオーブを…」
「守りたいなら、何をしてもいいんですか?」
「…それは…」
アスランは再び言葉を失った。

シンの脳裏に、今も救援活動が続くベルリンの街が浮かぶ。
ステラは街をめちゃめちゃに破壊し、数え切れないほどの命を奪った。
彼女に判断能力はなかったにしろ、彼女が軍に戻ったことで悲劇は起きた。
想定したくなかっただけで、想定できなかったことではない…親を亡くして泣き叫ぶ子供たち。家や家族を失って、ただ呆然と立ちすくむだけの人々…自分もかつて、あんな街を見た事があった。
守るためという自分の大義名分が何を引き起こしたか、シンは今、たった1人でひしひしと感じていた。
「武装して戦場に出て、敵味方関係なく斬り伏せる…どう考えてもおかしいでしょう」
シンはギシッと音をさせて椅子の背にもたれた。
「それに、あの時はオーブも地球軍も連中に攻撃した。敵と認めたんですよ。プラントだって、今後やつらを敵と認めれば…」
「でも、フリーダムは敵じゃない!」
遮るアスランのその言葉を聞いても気に留めず、シンは続けた。
「…討たざるをえない。俺たちは、軍人なんですから」
「それは…だけど…!」
「やめてください、アスラン。シンも。もういいだろう」
押し問答を続ける2人を見てレイが言った。
「アスラン、シンの言っていることは間違っていないと思います」
レイはシンの前に立ち、アスランに向き直った。
「フリーダムは強い。そしてどんな思惑があるかは知りませんが、我が軍ではないのです。シンの言うようなことは想定されます」
レイは至極全うな事を言い、アスランはくっと詰まる。
「いくらあなたがかつて共に戦った者だとしても…」
「…でも、彼らにザフトへの敵対意思はない。敵ではないのよ」
シンもレイも再び呆れたように顔を見合わせた。
「何故ですか?シンが言ったように、ダーダネルスでは本艦を撃ち、ハイネもあれのせいで討たれたのです。あなただってあれに墜とされたのでしょう」
シンはまるで「会話の余地なし」と判断したかのように再びスコープをかけてモニターに向かい、レイはそのままの姿勢で答えた。
「戦闘の判断は上のすることですが、あれは敵ではないとは言い切れません。ならば私たちはやはりそれに備えておくべきだと思います」
相変わらずポーカーフェイスのレイの表情からは窺えないが、フリーダムとの戦いがあると信じているかのような口ぶりだ。
「そんな…」
想いを言葉にできず、アスランは彼を睨みつける事しかできなかった。
「よろしければアスランにも、そのご経験からアドバイスをいただければと思いますが…」
「いいよ、レイ。負けの経験なんか参考にならない」
「…っ!」
レイにはキラを倒す算段に加われと言われ、シンには侮辱されて、アスランは不快感を露にした。
「ま、ヤツの弱点でも教えてくれるってんなら歓迎しますけどね」
「シン、やめろ」
そんなシンをレイが諌める。
「すみません、アスラン。シンには私から言っておきますから」
そしてレイもまたくるりと背を向けた。
2人の背中は明らかに「もう出て行け」と言っている。
アスランは口を開きかけたが、言葉を見つけられなかった。

「なんだったんだ、あの人?」
アスランが部屋を出て行くと、シンがぼそりと呟いた。
レイには「気にするな」と言われたが、ここ数日集中して行ってきたシミュレーションを中断され、シンはそのまま不機嫌そうに頬杖をつく。
(フリーダムがやるならいいけど、俺がやる事は全部だめ。俺がフリーダムに斬られるのはいいけど、俺がフリーダムを討つのはだめ…)
シンはチッと舌打ちすると、途絶えたシミュレーションを再開した。
そしてイラつきながらフリーダムのデータを1ランク上に修正していく。
(一体なんなんだよ、その不公平な基準は!)
その途端ミスをしてエラーが出、シンは乱暴にデリートをかける。
「大体、どうしてフリーダムにプラントへの敵対意思がないってわかるんだよ」
「さぁな」
「前大戦からずーっとザフトとも戦ってきたんだろ、あいつは!?」
シンの苛立ちは収まらず、レイもやや困ったように相槌を打つだけだ。
(自分は今ザフトにいて、連中とは一緒に行動していないくせに!)
それから再び修正データとデストロイとの戦闘データをインプットしていく。
(ステラ…)
逝ってしまった彼女を思い出し、シンの眼が少しだけ哀しげに細められた。
そのステラの最後の瞬間を、ミネルバのカメラはしっかりと捉えている。
「発射口にサーベルを突き立てるなんて、超インファイトで止めかよ」
シンは忌々しそうに呟いた。
しかもその直前、フリーダムは自分のインパルスに体当たりしてスピードを殺されているのだ。
(ヤツはそれで俺を…)
そこまで考えて、自分がフリーダムに命を救われた事を思い出しかけたシンは慌てて思考を遮断した。
ステラが何もわからないがゆえに自分を殺そうとしたことも、フリーダムが身を挺して見ず知らずの自分を庇ったことも、今は何も考えたくなかった。
シンは再び映像の中のデストロイと戦うフリーダムに眼を向けた。
(あれだけ慎重にアウトレンジを保っていたくせに、相手を倒すと決めてからは防御すら捨てて思い切りよく飛び込んでいってる…)
そう思ってシンはピタリと手を止めた。
(…なんだって?倒すと決めてから…?)
シンはしばらくそのまま考え込んでいたが、やがてまた指を動かし始めた。
「フリーダムは…」
レイがシンが呟くのを聞いて「ん?」と返事をした。
「俺が倒す」
シンの表情は見えなかったが、その言葉に、レイはふっと微笑んだ。

「まだ…眠ってるんですか?」
アークエンジェルの医務室を訪れたキラは、眠っている彼の枕元に座っているマリューに尋ねた。
「ええ…」
マリューは彼のケガの手当てをしたカガリに視線をやったが、カガリは使用した医療機器を片付けるのに忙しそうだ。
なのでつい今しがたカガリから聞いた話を自分で伝えた。
「手当ての時に一度目を開けて、自分は地球連合軍第81独立機動軍所属、ネオ・ロアノーク大佐だと名乗ったそうだけど…」
マリューが見覚えのある彼の顔を見つめながら言う。
ひどい傷跡が顔中を走り、ナチュラルにしては端正な顔立ちの彼を痛々しく変えていたが、この姿は紛れもない。
「でも、検査で出たフィジカルデータは、この艦のデータベースにあったものと100%一致したわ。この人は、ムウ・ラ・フラガよ。いわば…肉体的には…」
キラたちがその話をしている事に気づいたカガリが、データを映し出した。
「これが血液型、HLA型、指紋、静脈、網膜…わかるだろ?おまえにも」
古いデータが、両者が全くの同一人物であることを示していた。
「だから、どういうことだよ?つまり…少佐なんだろ、これは?」
同じく報せを受けて駆けつけてきたマードックが苛立ったように言う。
それを聞いてキラは困ったように答えた。
「ええ、それは間違いないんですが…」
「やれやれ、いつ少佐になったんだ、俺は」
その聞き覚えのある声を聞いて、キラもマードックも息を呑んだ。
マリューは驚いて立ち上がり、眼を見開いて彼を見つめている。
ネオは眠りから覚め、眩しそうに眼を細めて彼らを見回していた。
「大佐だと言ったろうが、ちゃんと。捕虜だからって勝手に降格するなよ」
その声、その口調、その表情…わかってはいたのに、実際彼の面影が残る人物が眼を開けて話し始めると、マリューは息もできないほど動揺し、そして見る見る眼に涙をあふれさせた。
「マリューさん」
それを見たキラがマリューに駆け寄り、肩を抱く。
ネオはいぶかしげに自分を取り巻く人々を見、彼女が泣いている事に気づくと怪訝そうな顔をした。
「な…なんだよ?一目惚れでもした?美人さん」
そんな、かつての恋人を思い出させるような陽気な物言いがさらにマリューの心を突き刺した。マリューはこらえきれずに手で口を押さえて医務室を飛び出し、キラは彼女を追おうとしたが、その前に思わずネオを振り返った。
「ムウさん!」
しかしその名を聞いてもネオにはわからない。
「はぁ?何だよ、ムウって…」
その名には何の思い入れもないとばかりに、ネオは抗議の声をあげた。
キラはそれを聞いて言葉に詰まり、そのまま部屋を飛び出した。

マリューを追って外に出たキラは、廊下で壁に身を預けて泣いている彼女を見つけて走り寄ったが、同じようにマリューを心配して駆けつけたミリアリアが「いいわ、私が…」と言ってくれたので任せる事にした。
2人を見送るキラの元には、部屋を出てきたマードックが近づいてきた。
「記憶がねえのか?」
「ないっていうか…違ってるみたいですね。確かに、そうじゃなきゃ地球軍にいるはずなんかないでしょうけど」
マードックは頭をかきむしった。
「確かに…解せねぇよな」
「でも、あれはムウさんなんです」
キラが言うと、マードックは「そうだなぁ」と答えた。
「だから…私は…」
「まあな…けど記憶がないんじゃ、かえって酷かもしんねえぜ?」
キラは戦場で感じた不可解な気配を思い出した。
たった1人で戦っていた自分にとって、頼りになるただ一人の仲間だったフラガ。
長く共に戦ったからこそ、不思議な気配を感じ取れたのかもしれない。
だから、イチかバチかだったが撃墜し、マリューに託した。
(なのに、あの人はムウさんであってムウさんじゃない…)
まるで答えは合っているのに、解式がわからない難問のようだ。

「なんなんだ、あいつら?人の顔を散々じろじろと見て、少佐だのムウだの…」
両手を拘束されているネオは、カガリに打撲や肩の脱臼、擦過傷と軽い火傷を診てもらいながら聞いた。足首部の痛みが単なる捻挫か剥離骨折か悩んだが、実際、医師が必要なほどの大怪我はないだろうとカガリは判断していた。
モビルスーツから投げ出されたと聞いて驚いたが、本人は至って元気なものだ。
(こんなところも悪運の強い少佐らしいな…)
カガリはふっと笑った。
「なぁ、先生。なんでこの艦の連中は…」
「俺は医者じゃないよ。よし、もう服を着ていいぞ」
シャツを着るのを手伝ってやってから、カガリは言った。
「珍しいんだろ。何せ、迷子の子猫ちゃんが自分で帰ってきたんだから」
「子猫ちゃん?…ったく、あんたまで何言ってるんだか」
ネオはますます不可解そうに首を傾げた。

「修理って言うよりレストアだって」
ミネルバの整備兵がトレーラーにザクファントムを乗せている。
「新品持ってきた方が手っ取り早いよぉ」
重機に合図を送り、積載を終えた別の整備兵が次の部品をボードで見ながらぼやいた。ボロボロのザクウォーリアは別のトレーラーだ。
一方乗り手のないガイアは、ジブラルタルで引き渡される事になっている。
「でもザクはともかく、セイバーはなぁ…」
その声を聞いてザクウォーリアの誘導をしていたヴィーノが 「なにぃ!?まだあんの?」と聞き返した。彼はあっちあっちと指を差しながら苦笑する。
「んー、でもこれで最後かな。もうごちゃごちゃで大変だよ」
遠くでヨウランがあーあと肩をすくめ、ヴィーノに手伝えよと叱られた。

追い出されるようにシンの部屋を出たアスランは、再び雪が激しくなったベルリンの街を見つめていた。
シンの言ったことも、レイの言ったことも確かに一理ある…キラたちは恐らく、ただ純粋に「戦いをやめさせたい」という想いだけで剣を振るっている…だから確かに我々の敵ではない。敵ではないが…
(キラたちがやっている事は、民間人が戦闘行為をするという「犯罪」に他ならない)
それは非常に危険な事だった。
今はただの武装集団に過ぎない彼らが、もしもプラントに「敵性行為をなす敵性勢力」と見なされたら、討たれる可能性がある。
(アークエンジェルが…フリーダムがなければ、彼らもこの事態に歯噛みし、何かしなければと思ったところで何もできなかったはずなのに)
けれどそれらは全て彼らの手にあった。
そして彼らは「力」を振るったのだ。
「強過ぎる力は争いを呼ぶ…か」
アスランはデュランダルに向けたカガリの言葉をポツリと呟いた。
今の自分たちの立場を一番わかっているはずなのが、若輩で未熟とはいえ仮にも政治家である彼に違いないのは皮肉としか言いようがない。
「何を呼ぶんですか?」
急に声をかけられ、アスランは驚いて振り返った。
そこにはまだ怪我の癒えきらないルナマリアが立っていた。
「どうしたんです?こんなところで」
アスランは曖昧に返事をすると窓の外を見、ルナマリアもつられて外を見た。
ミネルバの周辺にもキャンプが張られ、炊き出しを待つ人の行列が見えていた。
「避難民の人たち、大丈夫でしょうか」
外はますます風と雪が強まり、吹雪になりそうな様相だ。
「シン、まだ部屋から出てこないんですか?」
「あ…ええ、そうみたい」
アスランはなんとなく言葉を濁した。
「あれだけの戦闘をこなして…どんどん強くなりますね、シンは。もちろん、スーパーエースだから何やってもオッケーみたいな事じゃ困りますけど」
ルナマリアはふふっと笑い、それから恐縮したように言った。
「この間は、すみませんでした。私、取り乱しちゃって…」
ゴタゴタ続きで何となくうやむやになっていた事がずっと気になっていた。
「私こそ…結局何もできなかったわ。ごめんなさい」
アスランはそう答えながら、まだ傷を残すルナマリアの顔を見つめた。
(シンのために…想っている人のためにあんな風に素直に泣けるなんて…)
ある意味羨ましいと思う。
意地ばかり張って、想いをなかなかうまく口にできない自分とは大違いだ。
「そんな事ないです」
ルナマリアは慌てて言った。
「営倉まで2人に会いに行ってくれたり…艦長にも…」
「艦長には何度か同席をと掛け合ったけど、相手にされなかったもの」
アスランがふっと息を吐くと、ふふっとルナマリアは笑った。
「でも艦長、アスランの事を正義感が強くて真面目でいい人間だって、褒めてましたよ」
それを聞いてアスランはつい苦笑してしまった。
(その割には冷たい言葉しか聞いた事がないような気がするけど…)
そんなアスランの心など知らないルナマリアは続けた。
「…私、アスランにもっと頑張ってもらいたいんです」
「え?」
アスランはルナマリアのその唐突な言葉に驚いた。
「シンの前を行く、シンより強い、シンが目指す目標になって欲しくて」
反抗的なシンは、自分の力が相手より上と思うと、もう絶対従わない。
自分が傷つく事をなんとも思わずにぶつかっていくのだから、皆嫌がって彼を避け、いつの間にかシンの廻りには誰もいなくなってしまう。
(私たちには普通に接してくれるのに…)
だが、アスランは今まで会った人たちとは全く違っていた。
シンの攻撃的で反抗的な態度や口調を恐れず、逃げず、嫌がらず、今もまだシンの方を向き、真っ向から向かい合ってくれているのだ。
(ううん…そうじゃない)
しかしルナマリアはふと思い至り、慎重に言葉を口にした。
「口は悪いけど、シンがあんなに人にこだわるの、初めてなんです」
いつもなら冷ややかに無視するのが関の山だろうに、シン自身がアスランに関心を寄せている事は明らかだ。だからこそ衝突も多いのだから。
「もしかしたら…シンも、ホントは自分より強い目標がいて欲しいのかもしれません」
アスランは少し驚いてルナマリアを見た。
それはディオキアでハイネが言ったこととよく似ていたからだ。
「ちゃんと受け止めてやれよ。真っ直ぐでいいもの持ってるぞ、シンは」
あの時、そうハイネに言われたのに、今の自分にそれができているとは思えない。
けれどルナマリアは無邪気に微笑んでそのまま続けた。
「もっと力を見せてください。せっかく権限も力もお持ちなんだから、ご自分の思ったとおりにやればいいんです、アスランは。だから…あの…」
急に口ごもった彼女を、アスランは不思議そうに覗き込んだ。
「…ずっと、私たちと一緒にいてください」
目線を逸らしたまま少し黙り込んだルナマリアは、やがて言った。
「フリーダムやアークエンジェルと、行ってしまわないでください」
アスランと話していた彼らの姿を思うと、不安になる。
彼らが決裂した事はわかっていても、ルナマリアは言わずにいられなかった。
「ルナマリア…」
アスランはそれを聞いて表情を曇らせ、何も答えられなかった。

その頃、プラントではデュランダル議長が全世界に呼びかけるというので、メディアの放映クルーが執務室を訪れていた。
スポークスマンは、このたびのユーラシアでの地球軍進攻を非難し、プラントはすぐに地球の民に救援の手を差し伸べていますと主張する議長得意のいつものパフォーマンスとタカをくくって見守っている。
クルーがマイクの位置やカメラ位置を決めると、デュランダル議長はいよいよ全世界に向けて語り始めた。
「皆さん、私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです」
「艦長!デュランダル議長がプラントから緊急メッセージを」
メイリンが司令本部からの報告を受けて艦長を振り返った。
「あらゆるメディアを通し、全世界へ向けられています」
アーサーは驚き、すぐにブリッジのモニターをつけさせた。
途端に真っ直ぐカメラを見つめた議長が映る。

「何?どういうことなの?」
食堂で温かいお茶を入れてくれたミリアリアと静かに話をし、ようやく心が落ち着いたマリューもアークエンジェルのブリッジに駆けつけてきた。
「いやぁ、その…」
チャンドラもどう答えていいのかわからず、黙ってモニターを示した。
キラは放送が始まって以来そこに映し出される彼をじっと見つめていた。
(デュランダル議長…)

一方タリアは放映を艦内に流すよう命じた。
「各員、可能な限り聞くようにと」
艦長命令により放映を聞こうと、あちこちの休憩室は人でごった返した。
ヴィーノとヨウランも仕事を中断し、仲間の整備兵たちとわいわい話しながらやってきた。
「何これ?」
油にまみれたヴィーノが放送を見て尋ねる。
「議長の緊急メッセージだと」
議長は戦争が収まらない理由を説明するといっている。
「そんなもん、あんの?」
「さあ?」
やがてシンとレイもやってきた。
前の方にいたルナマリアが2人を見つけて「こっち!」と手を振り、2人が道を譲られながら前に行くと、アスランもそこにいた。
「何?」
「議長が何か発表するんだって、今…あ!」
シンの質問に答えようとしたルナマリアの声が驚きに変わった。

モニター一杯に映し出されたのは、ついこの間ミネルバクルーが見た光景…ベルリンの街がデストロイに焼き払われ、薙ぎ払われる凄まじい破壊と殺戮の映像だった。
しかも、続けて彼らが知らない他の壊滅した三つの都市の映像も流され、デストロイがいかに街を破壊しながらここまで来たかその足跡が示された。
世界中で、人々はその映像を見た。
連合国家や連合寄りの国家では流されなかった映像が、悲惨な虐殺の記録としてまるまる流出したのである。
平和な生活を送っていた女子学生はウソでしょと笑い、飲食店で食事をしていた客たちもテレビに見入った。
家庭で寛ぐ人も、デートを楽しむ人も、居間のテレビで、街頭のモニターで、自分のタブレットを開いて、あちらこちらで映像を見ていた。
男の子がバクゥを踏み潰して歩くデストロイを見て、「怪獣…」と指差す。
人々は初めこそその映像が本当なのかといぶかしみ、プラントの捏造映像ではないのかと笑っていたが、やがて市街地の人々の悲惨な姿が映りだし、街が破壊されて焼け野原になっていくと、今度は慌てて問い合わせや検索を始めた。
ベルリンは、本当に壊滅していた。

「なんだこれは!?止めろ!放送を遮断するんだ!早くしろ!」
驚いたのはジブリールである。
立ち上がり、怒鳴り声を上げてこの放送をやめさせようとしたが、人々が全てを知ってしまった今、時は既に遅く、放映をやめても間に合わない。
「進攻したのは地球軍、されたのは地球の都市です」
デュランダルは時に哀しげに、時に大仰にこの事実を語ってみせた。
彼の演説ももちろんだが、やはり映像がものをいう。
デストロイの破壊は誰の心にも恐怖と嫌悪しか残さない。
「ザフトからの開放を謳いながら、地球軍はなぜ、同胞を焼き払うのですか!?」
アークエンジェルの医務室に備えつけてあるモニターからも放送が流れた。
ネオは黙って放送を聞いていたが、デストロイを見てステラを想った。
(…怯えて、泣いて…きっと怖かったろう)
自分が急にいなくなって、あの子はひどい恐慌に陥ったに違いない。
(ステラはどうなったのか…スティングは無事だろうか…)
「約束したはずだっ!あんたはっ!!」
そう思った途端、通信機から聞こえてきた声を思い出してネオの心がじくりと痛んだ。
「可哀想なこの子に、2度と戦わせたり、人を殺させたりしないでくれ!」
ステラを抱いて歩いてきた彼が、デストロイに向かうインパルスと重なる。
もはやどうにもならない自分の身に、ネオはふぅとため息をついた。

次に映されたのは被災地の人々だ。
北半球では南でもまだ春浅い頃、北方では厳しい寒さが続いている。
親を探して泣きながら彷徨う子供、自分がいかに恐ろしい眼にあったのかを訴える女性がいた。
「敵は連合だ!ザフトは助けてくれた!嘘だと思うなら見に来てくれ!」
デュランダルの「観客」たちは、傷を負った人々の姿に息を呑み、いくつもの遺体が並ぶ嘆きと哀しみのキャンプに言葉を失っていた。
「我々と手を取り合い、憎しみで討ち合う世界よりも、対話による平和への道を選ぼうとしたユーラシア西側の人々を、連合は裏切りとして、有無を言わさず焼き払ったのです…子供まで!」
デュランダルは怒りに満ちた声で力強く訴えた。
ジブリールは怒りのあまりモニターの中のその顔にグラスを投げつけた。
「止めろ!何をやってる!早くやめさせるんだ!あれを!!」
無論、放映は止まらない。
「ジブリール、どういうことだね、これは!?」
「これは君の責任問題だな!」
各地のロゴスからは続々と音声のみの通信が入ってきた。
「何をしようというのかね、デュランダルは…」
不安げな声で聞かれても、(そんなこと知るものか! )と独り言ちながら、ジブリールは部屋の中を歩き回り、怒りと屈辱で唸り続けた。
オペレーターからの返事はなく、デュランダルは朗々と喋り続ける。
被災地の映像が終わると、今度は勇猛果敢に戦い、次々と散っていくザフト軍が映し出された。彼らは確かに必死に戦った。
その防衛はデストロイの前にはあまりにも無力であるがゆえに、それでも果敢に立ち向かい、街の人々を避難誘導する彼らの姿は人々の胸を打った。
死んでいく兵…コーディネイターたちを見て、涙を流す者もいた。
人々を守って戦っている彼らが、ナチュラルかコーディネイターかなど、もはや誰にも関係ないかのようだった。

カガリもキラの隣で、同じく眉を顰めてデュランダルを見つめている。
(争いがなくならぬから、力が必要なのです)
あの時彼はそう言った。
確かにプラントはこれまでも無為な戦いはせず、振るうその力は正義に見えた。
けれどラクスは、これが、これこそが「英雄戦争」だと言っていた…
(そして今、人々の心にはザフトの英雄性が刷り込まれている)
これが議長の言った、「必要な力」だったのだろうか?
次々と倒れていくゲイツRやバビ…レセップス級が爆発を起こす。
そんなシーンが続く絶望的な戦場に、ミネルバとインパルスが現れた。
恐れを知らぬインパルスがデストロイに飛び掛り、脚部を狙う。
そして態勢を崩した敵に対し、さらに攻撃を畳み掛けていった。
しかし、その映像には決定的に足りないものがあった。
「フリーダムが…いない!?」
アスランは驚きのあまり息を呑んだ。
シンもまた腕を組み、黙ってモニターを睨みつけている。
(あそこでフリーダムがレールガンを放った…そして俺に合図をして…)
それらが全てデリートされている。いるべき場所にフリーダムはいない。
同じくノイマンやマリュー、ミリアリアもざわめいていた。
「おいおい…なんでフリーダムがいないんだ?」
「これじゃインパルスが一機であれを倒したみたいじゃない!」
「当然、俺たちも消されてるんだろうな」
アークエンジェルを操っていたノイマンはカメラ位置からして自分たちはこのあたりに映るはずだがな、とモニターを指差しながら苦笑した。
「キラ、これは…」
カガリは存在を否定されたキラを見たが、キラは無言のままだった。

「インパルスか…」
「ユニウスセブンの破砕の時にきた、ミネルバの奴だろ」
軍事ステーションではイザークとディアッカもこの映像を見ていた。
「へぇ。ずいぶん腕をあげたもんだな」
ディアッカはしきりに感心しているが、イザークは違和感を感じていた。
戦闘初期は確かにすばらしい動きを見せたが、後半は急に動きが悪くなり、まるで戦意を喪失しているのではないかと思うほどだったからだ。
(あれであのデカブツを倒しただと?)
仮にも歴戦のパイロットであるイザークにはどうも信じられなかった。

やがてデストロイに最期が訪れた。
シンがステラと語り合おうとインパルスが無防備に近づいていった映像の後、止めを刺したフリーダムが映らないままに、デストロイは内部爆発を起こし、ツォーンを吐きながらゆっくり後ろに倒れていった。

ルナマリアがシンに囁いた。
「ねぇ、どういうこと?やったのはフリーダムでしょ?」
「さぁな」
「でも…」
シンはそれ以上何も言わず、ルナマリアは仕方なくモニターに眼を戻した。
レイはそんな2人をチラッと見たが、何も言わなかった。

「何故我々は手を取り合ってはいけないのですか!?」
デュランダルが声高らかに言ったその時、傍らに人影が現れた。
「このたびの戦争は、確かに、僕たちコーディネイターの一部の者たちが起こした、大きな惨劇から始まりました…」
「ラクス様…」
「…ラクス・クラインだ」
その声と姿に、ミネルバクルーにもざわめきが起こった。
アスランは眼を逸らし、ルナマリアはそんな彼女を横目で見た。
(あれはラクス・クラインじゃないって…彼らはそう言っていた…)
けれど見た目ではそれがラクス・クラインでないとはとてもわからない。
ミーアは事態を止められなかったプラントの非を詫び、さらに続けた。
「憎しみと怒りのあまり、我々に引き金を引かずにいられなかった地球の皆さんの想いも決してわからなくはありません。ですが考えてみてください」
その頃「本物」のラクスはエターナルのブリッジで彼の言葉を聞いていた。
目の前のモニターには進攻前に既に外部に流出していたことがわかっているデストロイのデータと共に、ジン・ハイマニューバ2型の流出ルート候補が報告されていた。
(工廠都市アーモリーでも、工業都市マイウスでもない…となれば…)
ラクスは拳を口に当てながら、いくつかのデータを比較してみた。
(ヤヌアリウスかディセンベル。恐らくどちらかにルートがある)
ことにディセンベルはアスランの故郷であり、ザラが代表を務めていた市だ。
サトーたちがザラ派の残党である以上、彼らへの流出ルートが判明しても、これなら十分言い訳が立つ。ラクスは不愉快そうに美しい眉根を寄せた。
(こんな形で父の親友を…アスランの父上を利用されるのは不本意だ)

「ははっ、まーた出てきたな」
「うるさいぞ、ディアッカ」
ミーアを見てニヤニヤと笑うディアッカを睨みつけ、イザークが注意した。
ディアッカはかつて最初に彼を見た瞬間に「ありゃ、別人だね」と言い切った。
「何を根拠に?」
「ちょっとでもあいつと一緒にいればわかるさ」
ディアッカは冷静で冷徹な司令官としてのラクス・クラインの姿を忘れてはいない。
誰かの尻馬に乗る彼など、想像できなかった。
だがそれを特に他人に吹聴するつもりはない。理由はイザークだ。
「おまえは特赦の対象なんだ。自覚して行動しろ!」
「わかってますって」
人前であまりおかしな事を言うと目をつけられると叱りつける彼の本心がよくわかるだけに、ディアッカは余計なことは言うまいと口をつぐんでいる。
だから今は紛い物の「ラクス・クライン」を、笑いながら見ているだけだ。
(誰だか知んねーけど、ホント、よく似てるぜ)
ディアッカは腕を組み、「まるで本物のような」彼の言葉に耳を傾けた。

「こんな討ち合うばかりの世界に、安らぎはないのです」
ラクスが「ディセンベルを重点的に調べてください」とヒルダたちに秘匿通信を送る間も、ミーア・キャンベルはカメラに向かって訴えている。
「目を覆う涙を拭ったら前を見てください。相手の言葉を聞いてください。そして僕たちは優しさと光の溢れる世界へ帰ろうではありませんか!」
思わずぷっと吹き出したラクスの声を聞いてバルトフェルドが振り返った。
「自分を見てるようで恥ずかしくなったかね?」
「まったくね」
ラクスが大げさにため息をついたので、ブリッジのクルーも笑いを漏らした。
「これじゃ、僕もつい議長にほだされてしまいそうだ」

ミーア・キャンベルのアジテーションが終わると、やがてデュランダルの演説が佳境に入った。
「なのにどうあってもそれを邪魔しようとする者がいるのです」
人々を戦わせようとする、ほんの一握りの「持つ者」たち…彼らが戦え、戦えと人々を煽り、武器を持たせ、戦場へと送り出す。
そして戦争という大量消費が行われる巨大な市場で、暴利を貪る彼らこそが、この戦争を支える根となっている…次の瞬間、シンもアスランもキラも思わず息を呑んだ。
デュランダルが一斉にその「諸悪の根源」とした者たちの写真と名前を画面に、全世界に公開したからである。
リーダー格のLUCS KOHLER、ムルタ・アズラエルと同じ姓を持つBRUNO AZRAIL、髪の毛のないLALLY MCWILLIAMS、でっぷりと太ったCELESTINE GROHT、壮年のDUNCAN LOUIS MOCKELBERG、痩せぎすで長髪のADAM VERMILYEA、驚くほど若いGRAHAM NELLEIS、髭を蓄えたALWIN RITTER、そしてLORD DJIBRILことジブリール。これら9人のロゴスの写真と名前が発表されたのだ。
これにはジブリールも驚き、飛び出しそうなほど眼を見開いて言葉もない。
通信機からはロゴスたちが怒りの声をあげている。
デュランダルはなおも、ブルーコスモスもまた彼らの創りしものだと断罪した。
常に敵を創り上げ、常に世界に戦争をもたらそうとする軍需産業複合体…死の商人ロゴス…演説はクライマックスを迎える。
「彼らこそが平和を望む私たち全ての、真の敵です!」
シンもルナマリアも、ディオキアで語られた議長の懸念、そして戦争を終わらせるという願いが、今、世界に向けて発信されたのだと悟った。
議長は、自分は心から「もう二度と戦争など起きない平和な世界」を望むのだと言う。そのためには今こそ戦わねばならないのだと。

「世界の真の敵、ロゴスを滅ぼさんと戦う事を、私はここに宣言します」

デストロイとインパルス…ガルナハンでの戦闘と街の開放…ミネルバの功績が流れ、まるで宣伝のようにインパルスやザク、セイバーが地球軍と、アーモリーワンで強奪された3機のモビルスーツと戦っている。
さらにそこに、ロドニアのラボの悲惨な映像も差し挟まれた。
「きゃ…!」
無残な施設の様子に、クルーたちはざわめき、小さな悲鳴が上がった。
それら全ての中心にミネルバがあり、インパルスがあった。
そう、それはまさに「戦女神」であり、「英雄」だった。
(でき過ぎている)
アスランはロゴスを叩くことを宣言した議長を待っていた反面、彼に対していつの間にか小さな疑惑を抱いている自分に気づいた。
まるでナチュラルを守るため、開放するために戦ってきたかのような戦績。
各地で熱狂的に歓迎され、その映像を見た人々の表情が見る見る明るくなる。
それとロゴスの追討宣言は、あまりにもタイミングがよ過ぎる気がした。
けれどアスランに疑念を湧き上がらせた何より決定的な理由があった。
(フリーダムが…キラがいない…議長はなぜそんな事を…)

「これは大変なことになるぞ」
カガリが呟いたので、キラは思わず「え?」と聞いた。
「名の挙がった者たちは、世界の経済を動かす巨大な資本を握り、株を持つ、誰もが知っているグローバル・カンパニーをいくつも経営しているんだ」
それを敵と見なして叩くなんて…カガリは首を振った。
「経済が破綻して、世界は大混乱だ。そうなったらもう戦争どころじゃない」
「そんな…」
キラはもう一度モニターを見た。
そこには黒髪の、端正な容貌の男が映っている。
(この人は、そうやって世界を壊すんだ…壊されてしまう世界は、価値のないもの?間違ってばかりいるから、もう、あってはならないもの?どうしようもないほど歪んでしまったから、捨てられてしまうもの?)
キラの紫色の瞳には、再びゆらゆらと揺らぎ始めた世界が映っていた。

シンもまた、モニターの中の議長を見つめていた。
(二度と戦争の起きない、平和な新しい世界に向かうために戦う…か)
周囲のクルーたちはその言葉にどよめいているが、中にはさすが議長だとさっそく賛同する者もいる。モニターにはさらに、ザフトに開放された地域の人々がデュランダルの名を連呼して彼を支持している。
ディオキアもガルナハンも今頃きっと喜びに沸いているだろう。
シンは同じく議長を見つめているアスランに言った。
「ガルナハンでは、正義がひっくり返りました」
自分たちが開放した街で、それまで支配者として君臨していた地球軍は、辛酸を舐めていた街の人からひどいリンチを受け、虐殺されたのだ。
「どうしてだと思いますか」
「どうしてって…」
問いかけるシンの意図が読めず、アスランは戸惑いながら聞き返した。
「負けたからですよ。連合が、ザフトに」
シンは冷たいとさえ思える口調で言い放った。
「なら俺たちは、負けなければいい」
「シン…」
シンはそう言うと再び議長を見上げ、アスランはただ黙ってシンを見つめた。

演説を聴き終わったラクスは、ふうと息をついて言った。
「隊長、アークエンジェルが危ない」
「なぜだ?」
「フリーダムが消されているからだよ」
ラクスが言った。
「議長の次の手は、邪魔者を消す事だ」
「ふむ…」
バルトフェルドも思うところがあるのか、そう言うと黙り込んだ。
けれど次に口を開いたらクスの声はいつものように明るく、その瞳はいたずらっぽそうに輝いていた。
「でも、それに乗じてあれを失敬できるかもしれない」
「さてはまた何かおいたを考えてるな?」
2人の会話を聞いていたダコスタが、「ヤバいことは勘弁してください」と嘆いているが、ラクスもバルトフェルドも聞いてやる気は毛頭ない。
「あっちだって僕の姿を借りてるんだ。レンタル料を払ってもらおうよ」
ラクスがにっこりと微笑み、バルトフェルドが「守銭奴め」と笑った。
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secret
制作裏話-PHASE33-
シンがステラを水葬にし、フリーダムへの復讐を誓う回ですが、逆転ではこのシンの愚かな安直さをどうしても改変したかったので、これまでシンの描写には気を遣ってきました。

逆転のシンは自分の過ちを知っていますから、ステラが破壊行為を繰り返した責任が自分にもある事を感じています。フリーダムが自分の命を救った事も理解しています。

それゆえに彼の悲しみは深く、絶望も深いのです。
自分もステラも、世界の欺瞞と嘘に翻弄され、足掻くことすら許されず、その力だけをアテにされている。キラと同じ境遇にありながら、けれどシンは本編のようにうじうじと悩むだけだったキラとは違います。その悲しみや思いを怒りに変え、自分の力を間違った世界を正すというベクトルに向けていきます。

逆転DESTINYはあくまでも本編準拠ですから、シンが議長に賭けるのはこうした彼自身の経験と考え、そして絶望と希望があったのだとしたかったからです。
寒い寒い雪の中で一人嗚咽するシンの孤独が少しでも表現できているといいと思います。本編ではこの哀しい2人より、縁もゆかりもないアークエンジェルで盛大に送られたミーアは1話まるまる総集編で使ってましたけどね。ホントにもう呆れるばかりです。

なのでフリーダム攻略を行っているシンは本編のシンよりずっとクレバーで冷たい印象を与えるようにしました。軍という組織の一員として、モビルスーツのパイロットとしてフリーダムを「仮想敵機」と見なしており、ただの復讐心だけではないと示したかったのです。
アスランと普通に会話できる分、本編のギャーギャー言うだけのシンよりはずっと冷徹で不気味な雰囲気が出せたのではないかと思います。
また、逆転では主人公のシンの目線を大切にしているので、アスランが立ち去った後に少し苛立ち、それから何かに思い至る姿を入れ込みました。これは次のPHASE34で生かされる事になります。

アスランは本編でも何を言ってるのかさっぱりわかりませんでしたが、逆転ではむしろ敢えてシンには押されっぱなしにしています。本当はそれでこそ名バイプレーヤーとなり得るのに、アスランって制作者に変に愛されているもんだから、結局主役にもライバルにもなれないどっちつかずでビミョーなキャラなんですよね。なので逆転では徹底的にシン優位にしています。どうせ逃げるんだからその方がいいんですよ。

タリアとシンの関係が壊れてしまったというのは本編では特に描かれていません。(というかタリアがシンを叱り飛ばすシーンしかありませんでした。)けれどシンが反抗心を持ち、扱いにくいという設定を演出するため、この頃には既にタリアの手に負えなくなっているという描写をしました。これによって今、シンに心を向けているのはアスランだけとしたかったのです。

自分が切り捨てた人間とは距離を置くのはよくある事ですし、シンのような苛烈な性格ならアスランに対してそうしてもいいはずなのですが、意外にもシンはアスランとの関係を断ち切ろうとはせず、反抗し、皮肉りながらもまだ眼を向け続けています。
ルナマリアはそれがシンの「自分より強い相手に対する関心」ではないかと推測するわけです。それは実はシンがたった1人孤独の淵にあるという証でもあるのですが、鈍感なアスランはそれに気づかない。本編でも逆転でも、ここにこそアスランの罪があるわけです。けれど逆転ではシンを好きなルナマリアがその事にちゃんと気づいていることが、後にシンの救いになる、としたかったのです。だってルナマリアは正真正銘のヒロインですからね!

本編では尻軽な噛ませ犬でしかなかったルナマリアのアスランへの慰めなど、単なる点数稼ぎにしか見えませんでしたが、逆転のルナマリアはアスランに尊敬の念を抱いているので、彼女の後を尾行した事を生かし、「行かないでください」と本音を漏らします。
アスランは結果的に彼女の想いを裏切ってしまいますが、逆転では最終回でアスランに名誉挽回のチャンスを与えました。

こうして本編ではあまりなかったキャラクター同士の絡みを(絡みといえばアスランがシンを怒鳴ったり殴ったりするばかり)描こうと心がけています。むしろ本編にはこういうシーンこそ入れるべきだったと思うんですよね。女難なんかやってる場合じゃないんだよ、ホントに。
こういう積み重ねがあってこそ、シンはアスランに裏切られたと思い、逃げたと思い、ますます自分の願いを形にしようとがむしゃらに邁進していくわけです。

一方アークエンジェルではネオがクルーとご対面します。
キラが女の子である事以外はあまりいじっていないのですが、カガリを医療技術者にした事をここでもしっかりと生かすことができました。
ネオが不思議がった「迷子の子猫ちゃん」は無論、種のPHASE23でフラガと共に出撃したカガリが彼自身から聞いた言葉ですね。

また、議長の演説中にネオがステラたちの事を思い出すのは逆転オリジナルです。本編放映中にはムウマリュ派からですら、「ネオがファントムペインの事を何も語らず、何の後悔もしていないのはイヤだ」と言われていたので、ここで最初にネオの心に残る疵を描けたのはよかったです。またPHASE32では、本編にはなかったシンの悲痛な叫びをネオが聞くというシーンを描いたので、それを思い出して苦しむ彼の姿に繋げられました。

さて後半は議長の「ロゴス討伐」宣言になります。ようやくか!と思いつつも、デスティニープランは未だに出てこないし、デスティニーそのものもまだです。本編のシンは議長が言ってる事をただ黙って聞いており、フリーダムがいない事にも特に何のリアクションもしません。けれどもちろん逆転のシンはこんなおバカさんではありませんから、議長が目指そうとしているものに真実を見ようとします。フリーダムがいない事にも、何も言わないまでも不快感を持っています。後にシンがこの事について議長に詰め寄る事も既に構想済みでした。

この頃ラクスは、議長とミーアの演説を聞きながらユニウスセブンのテロについて調べさせています。そうです、何もしなかった本編の歌姫とは違い、逆転のラクスはちゃんと粘り強く事の発端を調べているのです。武器の流出ルートを突き止めつつある彼が、戦うべき敵ではあったものの、父シーゲルの親友であり、アスランの父であるザラが利用されたことに憤りを感じているという人間的な描写を入れてみました。せっかくのキャラの相関図を生かし、こういう血の通う演出があったら面白いと思うんですよ。
同じくカガリも逆転ではバカではないので、この宣言によって世界が混乱に陥るだろうと読み解いています。

さて、本編ではこのPHASEで久々にイザークとディアッカが出てきてファンを喜ばせたのですが、セリフはありませんでした。ガッカリしたのはもちろんですが、それよりディアッカがミーアを見て特に何も言わないのは不思議でした。あいつは半年くらいラクスと共に戦ったんですから違いくらいわかるだろう…と思ったのに、最後までそんな描写も、何かしらの疑問を口にする事もなかったので、ホントに種の制作陣のダメさ加減は呪われていいレベルですよね。何のためにアークエンジェルにいたんだよおまえは。

なので逆転のディアッカはしっかり偽ラクスを見破っていると改変しました。けれどそれを言うとイザークが嫌がる(=立場の悪い元脱走兵のディアッカを心配している)ので、人前では口に出さないと決めています。
本編では最後までいいところもなく報われもしなかったディアッカ(まぁ『死ななかった』事が最大のご褒美なのかもしれませんが)には、逆転ならではの「大逆転」を用意するつもりだったので、ここではアークエンジェルとの繋がりを描く事ができ、さらにはイザークとの絆も描けたので少しだけ満足です。

一方イザークはザフトの最新鋭機であるインパルスの活躍を認めつつも、デストロイ戦後半のシンの動きの悪さに違和感を感じています。当然です。だってそこにはイザークが100年かかっても追いつけない「蹴り王者」フリーダムがいて、デストロイに止めを刺したわけですから。
ここではもうキラへの怨念はないにしろ、ベテランパイロットととして鼻が利くようになったイザークの様子を演出したかったのです。(ラクスには気づいても、インパルスは「すごい」としか思わないディアッカと対照的にしているのもその一部)
せっかく出てきたならキャラを生かしたいじゃないですか。

ラスト、本編のシンは主人公として議長の主張に何を考えているのか描写すらさせてもらえなかったのですが、逆転ではシンの心にしこりとして残っているガルナハンでの凄惨な「正義の逆転」が浮上します。逆転が起きたのはシンが、ザフトが連合を破ったからです。それがまた逆の悲劇を呼ぶのなら、「負けなければいい」と言い切るに至ります。
PHASE19でシンが議長に「戦うべき時は戦う、そして負けない」と言い、ハイネがその言葉にシンの闇を見たことがここで生きてきました。惨劇や悲劇をフィクションの中で描くのなら、ただのエログロ描写としてだけではなく、それを糧に主人公を成長させるべきだというのは私のささやかなポリシーです。

さて次回は急転直下、いよいよシンVSキラの一騎打ちです。
キラの「本気じゃなかった」発言までは、不満ばかりのDESTINYの中でも「唯一面白かった戦闘」と言われたインパルスVSフリーダム。

とりあえず、シンを泣かせないという事だけは決めていました。
になにな(筆者) 2011/11/10(Thu)00:04:51 編集

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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
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制作裏話-PHASE1②-
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制作裏話-PHASE35-
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制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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