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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「提示された者の中にはセイラン…いや、オーブと深い関わりのある者もいる」
カガリが皆に、議長が「ロゴス」と称した9人について説明した。
「彼らが経営しているのはほとんどは表向き健全な会社だ。食品、医薬品、化学、機械工業、通信、マスコミ、保険、金融や証券…グローバル企業を持つ彼らとかかわりのない国などないだろう」
カガリは理解しやすいようにとアークエンジェルのデータベースから近年のオーブの経済白書を示して見せた。
オーブは名実共に工業技術大国であるから、彼らとの関係ももちろん深い。
「オーブ危機後は国の再建のため、あくまでも民間レベルでだが、彼らとの提携や合併が随分増えていたんだ」
正直、それなくしてオーブの急速な復興はありえなかったことも事実だ。
そして、そういった企業の呼び込みを得意とするのがセイランだった。
「オーブが心配だ。セイランは…これからどう…」

当のセイラン親子はといえば、このデュランダル議長の放送により、自分たちが親しくしている者たちまでもが「ロゴス」と名を挙げられて困惑していた。
ことにあの用心深いジブリールの名まで出るとは…
「お父様!どういうことですの?リッターグループやグロート家の名まで出るなんて!」
ユウナが声を潜めて言うと、父も渋い表情を見せた。
「うむ…」
ウナトは会見の申し込みや委員会からの開催催促に頭を痛め、事態をすみやかに収拾しようとしていた。
しかし議長の思惑が読めない今、一体何をどうすべきか見当がつかずにいた。

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「ノイ」
女性評議会議員がノイ・カザエフスキーに声をかけた。
「ああ、クリスタ」
クリスタと呼ばれた彼女…クリスタ・オーベルク議員は声をひそめ、以前より議長の信望厚いノイを問い質そうとした。
「どういうことなの、あれは?議長は何を?」
ノイは「さぁ」と困惑したような表情を見せる。
今まさに皆でどうした事かと話していたところだ。
ノイと一緒にいたバーネル・ジェセックも戸惑いを隠せず言った。
「私も…こんな放送のことなど何も…」
議員たちは議場に入るとひそひそと話し合い、当人を待った。
やがて議場に、放送を終えたばかりのデュランダルがやってきた。
「お騒がせして大変申し訳ない」
彼は不安げな表情や不審そうな眼を向ける議員たちににこやかに謝罪した。
「だが私の想いは先の放送で申し上げたとおりです」
議長席に座ると、デュランダルは穏やかに話し始めた。
「再び手に取るその銃が、今度こそ全ての戦いを終わらせる為のものとならんことを…開戦当初、私はそう申し上げた」
「ええ。覚えていますわ、議長」
ノイ・カザエフスキーが頷くと、オーベルクやジェセックらも続いた。
議長は優しく微笑むと発言を続けた。
「我々の本当の敵は連合でもナチュラルでもない。ロゴスこそを討たねば、また繰り返しです」
「しかし、そうは言っても容易くは…」
一体何を根拠に…と反論する者もいなくはなかったが、デュランダルは戦争による経済需要と供給や、彼らの経営する企業体がいかに軍需産業として利益を上げているかを、次々とデータとして示し、彼らを説得した。
「だがプラントはともかく、あのナチュラルを同じ想いにというのは難しい」
前大戦を経験している古参の議員オーソン・ホワイトが渋い表情で言った。
「何より彼らを討つことは、地球の経済や、脆弱な国家を破壊しかねない」
かつて自身が開発に加わったNジャマー・キャンセラーが、思った以上の効果を上げ、多くのナチュラルを死に追いやったことにやや苦い思いを抱き続けている彼は、議長のこの極論に近い意見には懐疑的だった。
だがしかし、デュランダルはひるまなかった。
「未だに和平への道すら見えぬ今、我々の執る道は最早これしかないではありませんか!」
議長のこの言葉に、議場は一斉にざわめいた。
穏健派といわれ、どんな事にせよ、戦ったり争うよりまず対話、そして対策を、という慎重さを見せてきたデュランダルの、この強気の姿勢は一体どうした事か…しかしもとよりこの戦いは、一番最初の核攻撃が最大の危機であった以外、プラントにはほとんど被害らしい被害がない上に、前大戦に比べれば主戦場のほとんどが地球であり、なおかつ紛争の色合いが強い。
先日のアーサーのように、のらりくらりと続くこの不毛な戦況に嫌気がさしてきている者も多く、なればこそザフト有利の今なら、デュランダルに賭けてもいいのでは…という気持ちにもなる。
一枚岩であるがゆえに政権への批判力が弱いプラントは、こうしたデマゴーグ型政治家が出やすい。
各人が自身の高い能力を知っており、ゆえに驕りや過信も多いため、皮肉な事に相手が自分より能力が高い、あるいは力が強いと悟ると、今度は盲目的に認めがちだ。
蟻は獅子の大きさも性質も知らないがゆえに身の程を知らず歯向かっていくが、獅子同士は互いの力を知るや、争った時の被害の大きさを慮ってむしろ争わない…とでも言おうか。
それに加え、用心深い議長は何人かの議員をあらかじめ懐柔してある。
「議長に賛同致します!」
「おっしゃるとおり、今度こそこの戦う歴史に終止符を打ちましょう!」
前大戦時の評議会議員経験者でもあるホワイトやカシムは、武断派だったザラ元議長の暴走を見ていることもあってこうした動きには慎重だったが、今の議員はそうではない。
「確かに…」
「私も賛同致します!」
賛同を叫ぶ声に、途端に議場が沸き始めた。
やがてノイが片手を挙げる。
「賛同致します」
今回、議長は自分の側近というべきカザエフスキーを敢えて抱きこまなかった。
それは彼女自身の意思で賛成させることで、他の議員を安心させるためだった。
自分に従うという確信はあったが、無論反旗を翻す不確定要素も無視できない。
だからこそ、彼女の声を聞いた議長の微笑みが、まさに勝利の悦びだった事は誰も気づくはずがなかった。
「その決断と勇気に敬意を」
ノイを見て立ち上がり、彼の元に歩み寄ったクリスタが握手を求めた。
次々と議員たちが賛成を叫び出し、デュランダルの闘いは勝利に終わった。

「…俺は、オーブへ戻る」
やがて静かに言ったカガリの言葉に、キラは答えなかった。
(オーブに戻れば…もしかしたら、カガリはまた…)
「キラ、もういいんだ。皆も、本当にありがとう」
カガリが憂鬱そうな表情のキラとクルーたちに言った。
「でも、そろそろ潮時だ」
カガリはふっと笑った。
「俺も帰らなきゃ…あいつらを連れて、オーブヘ」
琥珀色の瞳がかつてのように真っ直ぐにキラを見つめている。
キラはそのまま少し考え込んでいたが、やがてマリューの方を振り向いた。
「戻りましょう、マリューさん。オーブへ…!」
そして改めてカガリを見つめる。
「何かが、今までとは違う何かが動く気がする」
少し首を傾げ、困惑したように言葉を選びながら、キラが言った。
「それがなんなのかは…私にはよくわからないけど、もしかしたら、戦争だけが世界を壊すんじゃない…そんな気がするんだ」
「何かが…」
カガリが不安そうに言った途端、ブリッジにエマージェンシーが響いた。

「AWACS006より入電。セクションスリー、ポイント1836にアンノウン。アークエンジェルです」
偵察型ディンから報告を受けた副長の言葉に、コンプトン級ユーレンベック艦長ウィラードはニヤリと笑った。
「やはり動いたか。司令部へ報告を。それとデータベースを直しておけ」
ウィラードは副長やオペレーターに手早く指示をして言った。
「あれは最早アンノウンではない。『エネミー』だ!」
同じ頃、ベルリンからジブラルタルに向けて発進したばかりのミネルバにも、司令部から緊急の連絡が入っていた。メイリンのモニターを覗き込んだアーサーがそれを読み上げる。
「ミネルバはこれより発動される…エンジェルダウン作戦を支援せよ…?」
「…エンジェルダウン?」
2人は顔を見合わせ、同時に艦長を振り返った。

思惑通り議員たちの賛成をとりつけ、執務室に戻ったデュランダルは、工廠に通信を入れた。2機の新型をシャトルに積み込ませるためだ。
それから議長は既に司令部から下した命令を再度読み返した。
このミッションを成し遂げる事で、シン・アスカは唯一無二の英雄となるのだ。
(そして…)
ほくそ笑んだその時、部屋の外からミーア・キャンベルが顔を覗かせた。
議長はボードを伏せて置くと、彼に優しく微笑んだ。
「やぁ。この間はありがとう」
「いいえ、議長。あれは僕の仕事ですから」
すっかり自信をつけたらしいミーアは、今度はロゴス討伐キャンペーンの一環として、ザフト本部で大々的なイベントを開くのだと嬉しそうに語った。
それから少しもじもじして口ごもるように聞いた。
「議長、あのぉ…今度アスランに会えるのはいつですか?」
「そうだね。うん、きっとじきに会えるだろう」
「本当ですか!?楽しみだなぁ」
ぱっと表情を明るくした彼は無邪気に笑い、議長も「私もだよ」と微笑んだ。
(レイの報告では最近のアスランの言動には注意が必要とある)
議長はチラリと机の上の小さなマイクロデータメディアを見た。
(この眼で確かめなければ…彼女が今、何を考えているかを)

「取り舵10!台地の影に回り込んで!」
マリューの指示を受け、ノイマンが必死に舵を切る。
後方からビームやミサイルの砲撃が矢のように襲い掛かり、ランダムにロールして逃げるだけでは回避が全く間に合わない。
「バリアント、撃ぇ!」
CICに入ったアマギが命じると、ブリッジに配置された数名のオーブ軍人が手慣れた様子で砲撃手のチャンドラを補佐した。
バクゥが雪を蹴って地を駆けながらアークエンジェルを追い、ディンやバビが上空からビームやミサイルを撃ってくる。
既にフリーダムで出撃したキラはモビルスーツを迎撃していたが、連装ビームや多数のミサイル発射管を備え、強力な火力を誇るコンプトン級の攻撃も無視できない。畳み掛ける主砲が艦体をかすめ、アークエンジェルが大きく揺れた。
「アークエンジェル!マリューさん!」
一面真っ白な雪山には隠れる場所すらなく、マリューもノイマンも峡谷や谷に追い詰められないよう必死に脱出ルートを探している。
「おいおいおいおい!」
医務室では繋がれたままのネオがごろごろとベッドを転がり、落下物から身を守って悪態をついていた。
(戦闘か?だとしたら何と戦ってる?地球軍…それともザフトか?)
キラはコンプトン級からのミサイルを迎撃しつつ母艦を追走していく。
バビが近づいては離れ、フリーダムの射程に入らないよう様子を窺い、バクゥのミサイルとレールガンがアークエンジェルの側部を狙ってきた。

「どういうことなの、これは…」
マリューがこの激しい攻撃に戸惑いを隠せず思わず呟いた。
彼らがオーブに戻ろうと決めたつい数時間前、ターミナルを通じてラクスとバルトフェルドから緊急の警告が届いた。
「ザフトの攻撃に注意せよ」
この非常に簡潔なメッセージには皆驚いたものだが、逆にのっぴきならない緊急性を思わせた。
ならばと急ぎ北海へ抜けようと動いた途端、この攻撃に見舞われたのだ。
キラはすぐに「迎撃態勢を取ります」と言った。
それを聞き、臨時に副長を務めることになったアマギも「ムラサメ部隊を援護に出しましょう」と言ったが、キラは首を横に振った。
「我々がザフトに攻撃を仕掛けたという、名分が欲しいのかもしれません」
キラなら、フリーダムならば相手を殺さずに仕留められる。
彼女の腕を信じれば、任せるのが一番確実だった。
「キラ!」
そうして走り出したキラを、廊下まで出てきたカガリが呼び止めた。
何か、ひどく胸騒ぎがして思わず追いかけてきてしまったのだ。
「本当に1人で大丈夫か?無理はするなよ」
「わかってる」
キラは明るく笑って手を振った。
カガリもまた、自分を勇気づけるかのように拳を振り上げて言った。
「絶対だぞ!危なくなったら戻れ!」
「うん!皆で一緒に、オーブに帰ろう」
カガリはそれでも、いつになく心配そうに走り去るキラを見送った。

そして今、カガリの胸騒ぎは大きくなる一方だった。
「まずいですよ!奴らのいいように追い込まれてる!」
アマギが敵のいるポイントを見て艦長に告げる。
「わかってるわ!でもなぜザフトが急にこんな…」
ロゴスを倒すという宣言をした直後、これほどまでに正確にアークエンジェルの位置を捕捉し、待ち伏せているなんて…マリューはキリッと唇を噛んだ。
副操縦士席に座ったカガリがルートのデータをノイマンに送ると、それを見たノイマンが絶望的な声で言った。
「どうやら完全に包囲されているようです」
逃げられる道は全て追い込まれる方角ばかりだ。
フリーダムがモビルスーツを片付けるたびに、閉じていた道が開くのが唯一の救いだった。
「右舷後方より再びバクゥ、8」
「更に十時方向よりバビ、9!」
チャンドラとミリアリアがモニターを覗きながら会敵を伝える。
「ミサイル、来ます!」
チャンドラが叫ぶと同時に、初弾が至近距離に着弾し始めた。
何発かが艦体に襲いかかると、キラは冷静にバラエーナを起こし、ミサイルを全て撃破した。しかしその隙をディンもバクゥも見逃さず、今度はフリーダムに砲火を集中させた。
(…この…!)
キラは雪煙を上げながら低空スレスレに飛び、バクゥの足を破壊し、上空のディンの腕を撃ち抜いた。

「艦長!無意味な戦闘は避けるというこの艦の理念は理解しておりますが、これでは沈みます!」
アマギが艦体のダメージ蓄積を見て叫んだ。
「沈む」という言葉に、ミリアリアはギクリとし、思わずマリューを見た。
(こんなところで…沈む?私たちのアークエンジェルが?)
「直撃の許可を!」
あくまでも威嚇、あるいは迎撃にとどめよという艦長の命令に従いながら、アマギは必死に砲撃を続けてはいたが、それではこちらはダメージが蓄積するばかりなのに、当然ながらコンプトン級は元気なものだ。
「認められないと仰るのなら、せめて我らのムラサメ隊を!」
アマギの判断は現状を見れば至極尤もなものだった。
マリューは苦渋の表情を見せた。
「わかるけど…キラさんにも言われたでしょ?そうして討たせるのが目的かもしれないと…!」
出撃しようとするキラに、共に戦いたいと詰め寄ったムラサメ部隊を、キラはいつになく強い態度で押し留めたのだ。
「アマギ一尉、我らも出撃を!」
「援護をお命じください!」
やがて彼らは、止めるキラに話しても埒が明かないとばかりに、ブリッジのアマギに通信を入れて直接かけあった。
「許可できません!」
その途端、キラは自らの手で通信を遮ってその意思を貫き通したのだ。
「皆さんにも思うところはあるでしょうが、今はどうか、私の言う通りにしてください。お願いします!」
キラのその断固とした話しぶりと態度に、マリューもカガリも驚き、何よりムラサメ部隊の荒ぶる男たちがそれ以上何も言えなくなってしまったのだ。
「アークエンジェルは私が必ず守ります!カガリも…必ず!」
「そして、ムラサメは一機も欠かさず、オーブへ連れて帰るから、と」
アマギはその時の彼らの様子を思い出して黙り込んだ。
「キラさん、そう言ったでしょう?」
マリューが困ったように笑った。
「…はい」
アマギも、小柄で優しげなおとなしい娘と思ったキラの、決して折れないしなやかな強さを思い出して口をつぐんだ。
こうして彼らが話している間にも、キラは飛び回っていたバビを追い詰めてフルバーストで仕留めると、全てを飛行不能にして再び飛び去った。
しかし、だからといってコンプトン級が砲撃の手を抜いてくれるわけでもない。
アークエンジェル自慢のラミネート装甲も徐々に排熱が間に合わなくなり、ミサイルのダメージも大きく、連射を続けるバリアントの砲身温度も上がってきている。
かつてナタルが苦労したチャージサイクルの調整に、アマギもまた苦心した。
「何とか海に出られれば…それまで頑張って、みんな!」
マリューが皆を励ますと、ブリッジ要員は「はい!」と返事をした。
海に潜れれば、たとえボズゴロフ級が待ち構えていたとしても、アークエンジェルの足なら逃げ切れる。
(何としても海まで逃げなければ…!)

「目標、尚も西へ10」
ユーレンベックではアークエンジェルからはさしたる攻撃が来ない事を悟り、距離をとりつつ激しい砲撃で追い詰める作戦を取り続けている。
とはいえバビが全機被弾と聞いては、ウィラードも苦い顔だ。
「さすが、音に聞こえたフリーダムとアークエンジェルだな。モビルスーツ隊に熱くなるなと言ってやれ!これではミネルバが来るまで保たんぞ」
ウィラードは副長に命じた。
「追い込みなどという悠長な事をやっているから、こちらが追い込まれるのです。ミネルバを待たずとも全軍でかかれば…」
自分たちがミネルバの前座扱いである事を快く思っていない副長は、逃げ場の少ないこの有利な状況を生かしたいと思っているようだ。
ウィラードは若い副長に諭すように言った。
「ふ。貴様は知らんのだろう?アラスカもヤキン・ドゥーエも」
功を焦って逃がしたらそれこそ取り返しがつかんぞ、とウィラードは言い、副長はその言葉の意味を図りかねて「はぁ?」と聞き返した。
「ケツはきっちりインパルスとミネルバに持ってもらえ」
(命令通り、我が軍のエースにな…)
ウィラードには、ミネルバには知らされていない極秘の命令が下っていた。
『シン・アスカのインパルスにフリーダムを討たせること』
それがウィラードが司令部から受けている特命だった。

「議長がおっしゃったのは、ロゴスを討つと言うことです!」
急ぎ転進したミネルバの艦長室では、アスランが珍しく声を荒げていた。
「なのに、なぜアークエンジェルを討つことになるんですか!?」
タリアはむすっとしたまま食って掛かる彼女の言葉を聞いていた。
「この命令は絶対におかしい!もう一度司令部に…」
アスランが言うと、タリアはデータを出し、モニターを彼女にも見えるよう乱暴に回した。
「そんなことはもうやったわ!でも返答は同じよ」

その目的も示さぬまま、ただ戦局を混乱させ戦火を拡大させるアークエンジェルとフリーダム。今後の情勢を鑑み、放置できぬこの驚異を取り除く…

「これは本国の決定なの!」
タリアは手を組んで首を傾げた。
「もうどうにもできないわ。既に作戦は始まっているのよ!」
「しかし…!」
それでもなお食い下がるアスランを見て、タリアはため息をついた。
その頃、ミネルバのブリッジにも信号が届いた。
「AWACSよりの信号をキャッチ。状況図、出ます」
アーサーがデータを見て処理を急がせる。
パイロットルームではレイとルナマリアがモニターを見ていた。
光学映像はまだ届かないが、友軍艦が追うアークエンジェル、そしてモビルスーツ部隊とフリーダムのポイントが示されており、その間にも恐らくはフリーダムに撃破されているのだろう、次々と友軍機のシグナルが点滅し、脱落していく。
「あなたもいい加減、囚われるのはおよしなさい、アスラン」
タリアがアスランの眼を見つめながら言った。
「かつての戦友と戦いたくないのはわかるけど、でも時が経てば状況も人の心も変わるわ。あなただって変わったでしょう!?」
「…っ!?」
アスランの脳裏に、キラやカガリと再会した時の自分が過ぎる。
(彼らは…何も変わってなどいなかった)
ただオーブを、自分たちの世界を守りたいと願っていただけだ。
やり方が間違おうがなんだろうが、信じた事を貫き通す…彼らはかつてもそうだったではないか。
そこまで考えてアスランはゾクリと寒気を感じた。
(変わったのは……私…?)
「ちゃんと今を見て!」
そう言われてアスランは息を呑んだ。
「ロゴスを討つと世界が動き出した今を!」
それがわからぬわけではない。けれどそれとアークエンジェルの追討がイコールにならない。
(それが正しいと認めろと…本当に?)
その時、アーサーから通信が入った。
「艦長、AWACSからの信号を受信しました。間もなく作戦域です」
「わかったわ」
アスランははっとして再び「承服できません!もう一度司令部に…」と訴えたが、タリアはもはや聞く気はないようで、制帽をかぶるとこのままブリッジに向かうという意思を示した。
「見たくないというのなら、部屋にでもいなさい!」
呆れたような艦長の表情に、アスランは思わず唇を噛む。
「でも、あの艦相手ではこちらも死にものぐるいよ…」
そう言い残し、タリアは艦長室を出て行った。
1人残されたアスランは自身の無力さに打ちのめされ、立ちすくんでいた。
(キラ…)
アスランはモニターに示された状況図に眼をやった。
そこにはフリーダムとアークエンジェルを示す「敵」の色がある。
(シンが、キラに牙を剥く…)
淡々とした表情でフリーダムの戦力を分析していたシン。
直情的なシンの、あの異様な冷静さがむしろアスランを震撼させた。
(キラ…あなたはきっとまた本気では戦わない…でも…シンは…)
アスランは思い至り、艦長室を出ると急いでパイロットルームへ向かった。
 
「ブリッジ遮蔽。コンディションレッド発令。対艦、対モビルスーツ戦闘用意!」
艦長席に戻ったタリアが命じる。
「CIWS、トリスタン、イゾルデ起動。ランチャーワンからスリー、全門パルシファル装填」
「コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機してください」
「シン。大丈夫だ。お前なら討てる」
「サンキュー」
珍しく明るい表情で微笑むレイに肩を叩かれ、シンは言った。
「シン!待っ…」
その時パイロットルームに駆けつけたアスランが、ちょうどエレベーターに乗り込もうとするシンを見て慌てて呼びかけたが、シンはそのまま扉を閉めた。
「…アスラン…」
これからキラと戦うシンと言葉を交わすことができず、佇んだままのアスランに、ルナマリアが声をかけた。
(昔の仲間とシンが戦うなんて…複雑な気持ちだとは思うけど…)

―― シンの無事を祈りますよね?アスラン…

ルナマリアは不安そうに心でそう問いかけていた。

「ポイントまで20。間もなく会敵します」
雪山を行くミネルバは、次の山を越えればアークエンジェルとウィラード隊の鼻先に躍り出る。
タリアはジャミング弾を発射するよう命じ、ミネルバが先回りした位置をアークエンジェルに悟らせないように謀った。
それと同時にインパルスを発進させる。 
ジャミング弾の効果はすぐに現れた。
「センサーが!」
マリューが振り返ると、チャンドラがジャミング弾が発射されたと伝える。
(新手が来たという事ね…)
マリューはノイマンに降下を命じ、左へ20、取り舵を取るよう伝えた。
シンはいつも通りの発射シークエンスをこなしていく。
相手はフリーダム…今現在考えられる、最強のパイロットと最強の機体だ。
インパルスの腕を落とし、戦場を混乱に陥れ、クレタでは攻撃をせずこちらをじっと見つめていた。
それが一転、デストロイ戦では単機で果敢なアタックを見せ、ついにはあれを仕留めてみせたのだ。
(ステラ…)
俺がきみを戦場に戻してしまったばかりに、きみはフリーダムに討たれた。
きみの罪は今、世界がロゴスを討つということで清算されようとしている。
そして今、フリーダムは俺たちの…ザフトが討つべき敵となった。

―― ならば、俺は…!

シンの緋色の瞳が鮮やかに燃え上がる。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
コアスプレンダーが今までにないほどのスピードで飛び出し、メイリンが息を呑んだ。
(なんてスピードだ…!)
それから慌ててフライヤーやシルエットの射出にかかる。
そんな事は決してないと知りつつも、フライヤーの発射が遅い事で合体ができなくなるような気さえした。それほどまでに今日のシンは速かった。
同時にタリアが一斉に攻撃を開始するようアーサーに命じた。

キラは雪山の向こうから何かが凄まじいスピードで向かってくることに気づいた。
「インパルス!」
正確なビームライフルが容赦なくフリーダムを狙い、キラはたまらず上昇する。
逃すまいとシンも鋭角に上昇し、そのままフリーダムを追った。
(シン…!)
弾丸のようなその姿を見た瞬間、カガリの血は凍りつきそうだった。
それはずっと感じていた悪い予感が的中した事を感じさせた。
カガリは慌ててキラに通信を入れようとしたが、ジャミングで通じない。
(大丈夫だ…大丈夫だ…キラがやられるわけがない…)
必死にそう自分に言い聞かせていること自体、今までは絶大な信頼を寄せていたキラに対して言い知れぬ不安感を抱いている証拠なのだが、カガリはそれにすら気づかなかった。それほど動揺が激しかったのだ。
インパルスが現れた後ろからは、ミネルバがその雄姿を現した。
背後からユーレンベックに追われ、ミネルバにはほぼ正面にまわられている。
「ミネルバ…」
ノイマンが思わずマリューを見ると、マリューも厳しい顔で頷いた。
(挟撃…これからはさらに死に物狂いで逃げなければやられる…)
誰もが皆、海への突破口を開こうと必死だった。

「アークエンジェル捕捉。距離2000。イゾルデ、撃ぇ!」
アーサーが副砲イゾルデを放つ。軸線はほぼ正面だ。
「いけるわね!?」
マリューは操舵の指示を下さず、全てをノイマンに任せた。
「ええい!」
またそんな無茶振りを…と思いつつ、ノイマンは一切スピードを落とすことなくそのまま80度バンクした。
おかげで挟撃は避けられたが、アークエンジェルの中は当然大変な騒動にで、整備兵はあちこちに掴まり、ネオもベッドの端に掴まって、床に落ちないよう必死だった。
ブリッジでも皆衝撃に驚き、チャンドラなどは「バンクするって言えよ!」と怒っている。言う暇なんかなかったろと思いつつも、ノイマンは一応、「すまなかった」と食い込んだシートベルトの痛みに嘆くクルーに謝った。
副砲を避けられた上に、同時に脇をすり抜けられてしまったアーサーも、同じ操舵手であるマリクもその大胆な操艦に「おいおい…」と驚いた。
「あれをかわすとは…」
後ろからミネルバとアークエンジェルのこの一騎討ちを見守っていたユーレンベックでも、ミネルバの副砲を紙一重で避け、見事挟撃を突破したアークエンジェルの大胆不敵な操舵に感嘆の声が上がった。
(面白い…やはり数多の戦闘をくぐり抜けてきただけの事はある)
ウィラードはニヤニヤしながら両者を追走しろと命じた。
「さて、主役のご登場だ。グラディスの手並み、とくと拝見させてもらおうか」

「くっ…!」
一方キラはスピードを上げてインパルスを振り切りにかかったが、インパルスはピタリとフリーダムについてくる。
上下に揺さぶりをかけても、視野が広いシンはその程度では引っかからない。
その間も、アークエンジェルを見失わない程度にしか動けないキラは、インパルスのライフルを避けながら、さらに自由を奪われていた。
シンはシフトをさらに上げてフリーダムを追った。
フリーダムが得意とする急な反転や転進に対応するため、ある程度の距離を保ちながら、慎重にその動きを読んでいた。
(奴は必ずアークエンジェルの援護に戻ろうとする…その軌道を抑え込む)
フリーダムを追えばインパルスもまた、ミネルバから離れすぎる事はない。
(おかげで俺はミネルバの位置を気にする必要はない…)
シンはジャミング弾の効果が移動と共に薄れていることも確認した。
この作戦はジャミングがあってはうまくいかない。
(さて…そろそろ行くぞ、フリーダム!)
恐ろしいほど冷静なシンは、再びスピードを上げてキラを追った。

ミネルバからの砲撃に対し、アークエンジェルも強力な火力で応戦した。
着弾し、大量の雪が舞い上がるたびにアーサーが驚いたが、タリアは少し前から相手の砲撃がミネルバを直接狙わない事に気づいていた。
「大丈夫よ。下手に動かなければ当たらないわ」
(…やはり当てようとはしないのね)
タリアは前を行くアークエンジェルを見ながら思う。
しかし戦場でそんな戦法がいつまでも通用するわけがない。
(アスランの言うとおり、あの艦は敵ではないかもしれないわね)
なぜ彼らを討つのかと珍しく血相を変えていた彼女の顔が浮かぶ。
(なら一度だけ、あなたの想いも含めて伝えてみましょう)
「メイリン!国際救難チャンネルを開いて」
タリアはメイリンに命じた。
それはパイロットルームにいたアスランやレイたちの耳にも入った。
「ザフト軍艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。アークエンジェル。聞こえますか?」
アーサーはじめ、ブリッジの皆やそれを耳にしたユーレンベックのウィラードや副長たちが顔を見合わせる中、アスランはモニターに近づいた。
(艦長…)
アスランはその呼びかけを固唾を呑んで見守った。

「艦長!ミネルバから、緊急通信です」
ミリアリアが映像を出すと、そこにはオーブでマリューが親しくなったタリア・グラディスの姿があった。
しかしその間も砲撃はやまない。
マリューは怪訝そうな顔をし、皆に静かにするよう手で合図をした。
「本艦は現在、司令部より貴艦の撃沈命令を受けて行動しています」
それを聞いたミリアリアたちはざわめいた。
「ですが、現時点で、貴艦が搭載機をも含めた全ての戦闘を停止し、投降するならば、本艦も攻撃を停止します」
その驚くべき内容にはアスランも思わずうっと唸ってしまった。
作戦無視すらも辞さない艦長のこの強い姿勢は衝撃だった。
(権限とは、力とはこうして使うものなのだ…全ての責任を負う覚悟で…)
「なんだと!」
しかしこれに怒髪天を衝いたのはウィラードである。
長く待ってここまで追い詰め、わざわざミネルバに舞台を用意した彼らにとって、相手を投降させるなどという結末に納得できるはずがない。
「命令は撃破だぞ!グラディスのやつ、何を…!」
それはミネルバとて同じである。
さしものアーサーも艦長の独断専行に言葉がない。
「警告は一度です。以後の申し入れには応じられません。乗員の生命の安全は保証します。貴艦の賢明な判断を望みます」
タリアがそう言い終わると、ブリッジには気まずい静寂が戻った。
チェンたちCICのみがプログラム設定したパルシファルを装填し、CIWSを撃ち続けるルーティン攻撃を繰り返している。

「艦長…」
黙り込んだマリューに、ノイマンが返答をどうするのかと促した。
マリューはほっと息をつく。
「さすが、あのミネルバの艦長ね。やっぱり敵にはしたくないわ」
「しかし、ここでザフトに投降などしたら、カガリ様の御身は…」
「アマギ!」
口を挟もうとしたアマギをカガリが叱りつけた。
「俺のことは…」
「待って!キラからよ!」
その時、ミリアリアがキラからの通信を伝えた。
キラもまた、オープンチャンネルでこのタリアの勧告を聞いていた。
(タリア・グラディス艦長)
かつてナタル・バジルールがアークエンジェルに投降を奨めたように、こうして戦わずに済むなら…と思ってくれる人はいる。避けられるなら、無為な戦いを避けようとする人がいる…それがキラには無性に嬉しかった。
(でも、私たちは退くことはできないんです、グラディス艦長)
キラはインパルスをかわしながら素早くタイプした。

海へ。カガリをオーブに。それを第一に。

それは電文のみの短い通信だった。
「キラ!そんな…」
カガリも、それを見て驚きの表情を隠せない。
それはキラが、自分が盾となって皆を安全な海に逃がすという意思表示に他ならない。
しかし相手はインパルスだ。キラですら、無傷で済むとは思えなかった。
不安そうなカガリと、キラの電文を見たマリューは、意を決したように言った。
「ミリアリアさん、向こうと同じチャンネルを開いて」
「は、はい」
ミリアリアが手早くチャンネルを開き始めた。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです」
「ああっ!ええぇ?」
やや乱れがちだった映像が鮮明になり、マリューの姿が映し出されると、アーサーが驚いて思わず声をあげた。
「貴艦の申し入れに感謝します。ありがとう」
「やはりあなただったの…マリア・ベルネス」
タリアがふふっと笑った。
(ラミアス艦長)
アスランもまた、見覚えのある優しい顔立ちの彼女を見て唇を噛んだ。
「やっぱり、アークエンジェルってオーブ軍なんですか?」
近くに寄ってきたルナマリアが、マリューがまとう制服を見て聞いた。
「ですが、残念ながらそれを受け入れることはできません」
「ええ!?」
声高に驚くアーサーにメイリンたちがシッと指を立てて諫めた。
「本艦にはまだ仕事があります。連合かプラントか。今また二色になろうとしている世界に、本艦はただ邪魔な色なのかもしれません」
マリューはそこまで言うと、少し表情を緩めた。
「ですが、だからこそ、今ここで消えるわけにはいかないのです」

―― 願わくば、脱出を許されんことを…

マリューはそのままプツッと通信を切り、あとにはノイズが残された。

「グラディスのバカめ…何を腑抜けたことを!」
ウィラードは無論怒りが収まらない。
「モビルスーツ隊の攻撃を再開させろ!舐められたぞ。決して脱出など許すな!」
まるで打って変わって自分たちで討つといわんばかりだ。
副長は(やれやれ、さっきと言ってる事が違うじゃないか)と思いつつ、残りのモビルスーツを出撃させた。
「ウィラード隊長!?何を勝手に!」
ユーレンベックから新たなモビルスーツ隊が出撃した事を知ったタリアが、通信を入れてきた。
「この作戦は以降、ミネルバに任せるはずでは!?」
「討たねば逃げられるわ!そう言ったではないか奴らは!」
バクゥや、損傷しながらも飛行が可能なディンやバビが再びアークエンジェルに襲い掛かる。
タリアは不快感を隠せなかった。
「しかし本艦は…!」
「いかにFAITHと言えども、こうまで敷いた布陣、無駄にしてそれで済むか!」
戦うなら正々堂々と…などという、カビ臭い論理を掲げたくはなかったが、自身の意思を示したあの女と、このような形で決着をつけたくはなかった。
けれどタリアの思惑など知らず、コンプトン級はミネルバの前に出た。
「ミネルバがやらぬというなら我らがやる!」

シンは相変わらず冷静に、そして冷酷に、アークエンジェルの元に戻ろうとするフリーダムの行く手を一つ一つ塞いでいった。
キラはライフルの射線に何度か足止めを喰らいながらも鮮やかなスラスター操作で方向を転換し、軌道を無限に変えていく。
けれどどう転換しようとも、フリーダムが行きたい先がわかっているのだから逃げ道の塞ぎようはある。ましてやシンの腕ならばそれは容易だった。
「くっ…!」
キラは振り向きざまにライフルを撃ってインパルスの肩や腕を狙ったが、シンはそれを無駄な動き一つせず、わずかな操作で避けるに留めた。
フリーダムから決して眼を離さずにいるシンは、やがて敢えてわずかな隙を作った。
彼の左の眼の端にアークエンジェルが見える距離で、そちらにフリーダムの逃げ道を作ってやったのだ。
(ほんのわずかな隙だが、ヤツは見逃さない)
そして確かにキラは、インパルスの銃口がわずかに右を向いている事から、左に突破口を見出して急旋回した。
それを見たシンは素早く左腕のシールドをパージするとフリーダムが取る軌道の先に投げつけた。
そして盾のビームコーティングを利用してライフルを撃つ。鋭角に向きを変えたビームが襲い、キラは機体にダメージを受けた。
「・・・うぁ!」
そして結局逃げるべき軌道を塞がれてしまう。
先ほどからモニターで二人の戦いを見つめていたアスランは、圧倒的に被弾率の低いキラが珍しく被弾したことに驚いた。
やはり思ったとおり、フリーダムは必殺の剣を振るわない。
けれど普通なら通用するそれも、相手がシンでは命取りになり兼ねない。
シンは冷静に、そして冷徹にキラを追い詰めていた。
(キラ…シン…)
アスランは拳を握り締め、戦う必要のない2人の戦いを見つめ続けた。

「アークエンジェル!」
バクゥに側部からビーム砲を撃たれてスラスターにダメージを食らい、黒煙を上げ始めたアークエンジェルを見て、もはやインパルスにかまっていられないと覚悟を決めたキラは、ついに両の手でラケルタを抜いた。
(来た!)
ようやく訪れた好機に、シンもまた素早くサーベルを抜いて待ち構える。
「やあぁ!」
フリーダムが今までとは逆にインパルスに向かい、真っ向から勝負を挑む。
キラの素早い斬戟は見事、インパルスのカメラを破壊し、コックピットからやや離れたショルダー部分に深い傷を負わせた。
「…え?」
しかしいつも感じる相手の戦意の喪失が感じられない。
大抵はキラの鮮やかな一撃によってパイロットは戦意を喪失し、あるいはひるみ、あるいは反撃の方法を失って、フリーダムが離脱して終了する。
しかしインパルスは違った。
減速もせず、カメラもない無残な状態でありながらも、戦おうとする姿勢を失ってはいなかった。
シンは今もなお動きを止めない自分を見て、ラケルタを握ったまま戸惑う様子のフリーダムを見つめていた。

―― 自分が斬れば、いつだって誰だってすぐ戦意を喪失するのに…

「…って、さぞ不思議そうな顔してるんだろうな、今のおまえはっ!」
シンの視界がパンと弾けた。
研ぎ澄まされた聴力が体内の筋肉の、血管の音まで聞き分けられるのではないかと思うほど澄み切った。
体温が下降したように指先までが冷たくなり、そして急激に熱くなる。
爆発するように体の中からエネルギーが沸いてくるような気がする。
「いつもそうやって、やれると思うなっ!」
アイカメラもない状態で、ダメージを受けた事を恐れもせずにサーベルを握って突っ込んでくるインパルスは、さながら死した人間が起き上がって襲い掛かるような不気味さがある。
インパルスはそのままフリーダムを追い、キラは着地と同時に雪山を滑り降りた。
そこにインパルスが斬りかかって来たがすぐに離脱し、ビームサーベルが大量の雪を蒸発させて水蒸気が立ちこめる。
両者が一進一退の戦いを続けている間にも、ミネルバとユーレンベックの二艦に追われるアークエンジェルは被弾を重ねていく。
(アークエンジェルが…くそっ!)
キラの焦りが頂点に達した。 
頭部と肩を破壊してなお向かってくるのなら仕方がない。
自分は今、アークエンジェルを守らなければならないのだ。
(斬る!)
キラはついに胴体を狙い、右からラケルタを一閃した。
キラが意を決し、インパルスのコックピットに向けてサーベルを振るうのを見て、アスランは思わず息を呑んだ。
(シン…!!)
しかし、そこにはあるはずの手ごたえがなかった。
はっと気づいた時、キラは自分が相手の策略にはまった事を知った。
(かかったな、フリーダム!) 
シンはニヤリと笑って素早く手元のスイッチを全てオフにしたのだ。

「フリーダムは確かに動きが速い。射撃も正確だ。だがあの機体は…」
「絶対にコックピットを狙わない、だろ」
レイが言いかけた言葉をシンは正確に引き継いだ。
レイはふっと笑い、「ああ、そうだ」と頷いた。
「撃ってくるのは決まって武装がメインカメラだ。そこにインパルスの勝機がある」
けれどシンにはそのレイの言葉よりもう一段階奥の手があった。
デストロイを倒す時のフリーダムは、最後まで慎重に戦いながら、最後は一切の躊躇なく、最もダメージの与えられる箇所を狙った。
(ヤツは止めを刺す時は完膚なきまでに刺す)
初めからそうしないからこそ、それを狙う時が一番無防備だ。
アークエンジェルを気にして戦いに集中できないフリーダムの足を止め、しつこく食い下がる事で苛立ちを高めて「自分に止めを刺させる」事こそがシンの選んだ戦法だった。
もちろんそれは相手の腕を思えば非常に危険な賭けであり、シンの卓越した操縦技術があってこそ打てる手だった。
そして焦ったキラは見事にそれに引っかかってしまった。
インパルスはラケルタの切っ先が触れる直前、分離したのだ。

「メイリン!チェストフライヤー、フォースシルエット!」
「はいっ!」
ラケルタが見事に空を裂き、フリーダムが珍しくバランスを崩したところで、シンはミネルバにこれらの再度の射出を命じた。
メイリンはあらかじめタイミングを見計らって射出するよう指示を受けており、直ちにその射出準備にかかる。
シンは破壊され、パージしたチェストフライヤーの進路を操作してフリーダムに向かわせた。
そしてその間に換装した新たなチェストフライヤーの頭部CIWSをありったけぶち込んで、ごく至近距離で爆発させたため、フリーダムの機体には激しい衝撃が走った。
「うぅ…!」
(このパイロット…一体…?)
キラがダメージから立ち直る前に、既に新たなフォースシルエットに換装したインパルスは、再びライフルを撃って攻撃を仕掛けてきた。

「キラ!」
砲撃にさらされながらさらに西へと進路を取るアークエンジェルではカガリが必死にキラにコンタクトを取ろうとしていた。
しかし距離が離れすぎた上に激しい砲撃でジャマーが発生し、彼の声はキラに届かない。
それでもカガリは雑音しか聞こえないインカムに必死に叫んでいた。手遅れになる前に…
「キラ…頼む、本気で戦ってくれ!シンは…あいつは…!」
キラは状況が不利であると悟りながらもなお、再びアークエンジェルに向かおうとした。
(カガリを…皆を守らなきゃ。私にできるのはそれだけなんだ)
しかし悪鬼のごとく追いかけてくるインパルスがそれを許さない。
「逃がさないと言ったろ!」
「くっ!」
シンのサーベルをシールドで受け止めて払い、ラケルタを素早く振るおうとしたが、シンの太刀筋が一瞬早かった。
「おまえは!ステラを殺したっ!」

―― 止めようとした…ステラは俺に気付いていた…

けれどシンの脳裏には走馬灯のように、ステラの笑顔と無残に破壊された悲惨なベルリンの姿が重なった。
(でも…それは…)
シンが一瞬苦しげに眼を閉じた。
(…仕方がなかったかもしれない…)
ステラに判断能力はなく、彼女の手で多くの人々が死んだ。
しかもそのステラを再び戦場に戻したのは自分なのだ。
それはシンの心に、重く苦い想いだけを残している。
「だけどっ!」
シンの瞳がさらに燃えるように鮮やかに紅く染まる。
おまえがステラを罪と言うならば、俺はおまえの罪を許さない。
戦場を混乱に陥れ、自分の想いのままに暴れまわるおまえを…
好き勝手に力を振るい、自分勝手な正義を振りかざすおまえを…
「俺は絶対に許さない!」
「うっ!」
インパルスのその太刀筋をキラは見切ることができなかった。
(そんな…!見えない!?)
フリーダムの片翼が完全に破壊され、機体が一時的に推進力を失い、地に落ちる。
キラは慌ててシフトを入れなおし、再び襲ってきたインパルスのサーベルを避けながら舞い上がった。
インパルスは容赦なくそのスピードで追いすがる。
しかしやがて機体が悲鳴を上げ始め、無限のエネルギーを持つフリーダムにわずかながら及ばない。
シンはギリッと唇を噛んだ。
(くそっ、くそっ…もっとパワーが…!)
シフトレバーを力一杯入れても、スピードはもうそれ以上上がらなかった。
「…力があればっ!!」

一方、決死の逃避行を続けるアークエンジェルも耐え抜きながらようやく北海沿岸に辿り着いた。
連射を続けたバリアントの砲身温度は既に危険域に達し、チャージサイクルが完全に落ちている。
イーゲルシュテルンとミサイル発射管はまだ生きてはいるが、主砲・副砲が使えない今、アークエンジェルは丸裸も同然だ。
「海岸線まであと10!」
「これでは保ちません…ムラサメを!」
ノイマンが必死に舵を切り、アマギは再びマリューを見てモビルスーツ隊を出す許可を求めたが、彼女は首を振る。
「振り切って!」
「キラは!?」
「危ない、座れ!」
思わず立ち上がりかけたカガリを、ノイマンが厳しく叱った。
(なんなんだ、俺…こんなに不安になるなんて…キラ…キラ!)
祈るように下を向いたカガリを見て、マリューも思わず表情を歪める。

しかしそんな彼らの想いなど知らぬように、ミネルバの攻撃も続く。
イゾルデ、トリスタンが容赦なく襲い掛かり、パルシファルとCIWSがスラスターにダメージを与えていく。
バビとバクゥが連携して左舷を狙い、アークエンジェルの艦体が大きく傾いだ。
クルーたちが思わず悲鳴をあげ、艦内も再び大きな衝撃を受けてガラガラと物が落下した。
ネオは相変わらず衝撃のたびにあちこちに掴まって耐えていたが、それでも激突は防ぎ切れず体中に打撲を負って悪態をついていた。
「…やれやれ、どうしてここはいつもこう…」

―― ん?

横倒しになって「ったく!」と悪態をついていたネオはふと、自分が無意識のうちに考えたことを反芻した。
(…ここは?いつも…?なんだ?まるでここをよく知っているかのような…)
ネオは首を傾げ、しげしげと医務室を見回したが、やはり覚えがない。
一体なんだろう、と思った途端、再び衝撃で今度こそ床に落とされた。

「おまえは、俺が討つ!今日!ここで!」
インパルスの攻撃スピードは上がるばかりで、キラは避けるのが精一杯だった。
というより、キラだからこそ致命傷を負わずに避けられているといえる。
それほどまでにシンの攻撃は鬼気迫るものがあった。
アスランも2人の攻防の激しさから眼が離せない。
このシンの剣さばきのスピードはどうだ。
キラが紙一重で避けるたびに息が詰まる。
「こんな…これは…!」
キラがその凄まじい闘志に押され、少しずつ攻撃を身に受け始める。
既に限界に達したインパルスのサスペンションは軋み、激しい動きに熱を持ちすぎた駆動部がアラートを鳴らし始めても、シンの攻撃はやむことを知らない。
「メイリン!ソードシルエット!」
「了解!」
メイリンは返事をすると再びシルエットフライヤーの準備にかかる。
「被弾率の低いフリーダムにブラストは不利だ」
シンはフォースとソードで行くと決め、2人は戦闘前に念入りに打ち合わせをした。
メイリンは無敵に思えたフリーダムの傷ついた姿と、それを追う友の姿を見て思わず笑みをこぼした。彼が憧れる、エースの雄姿がそこにあった。
(シン、すごいよ!きみなら絶対、あれを倒せる!)

「間もなく海岸線です!逃げられます、艦長!」
アーサーが海岸線に近づいていくアークエンジェルを追いながら叫ぶ。
これだけの攻撃を仕掛けてなお、フリーダムという防衛ラインがなくとも決定打を打てないとは…タリアはいつものように痛むほど親指を噛んだ。
「タンホイザー起動!目標、アークエンジェル!」
一方のアークエンジェルでも、あと少しで逃げ切れるとマリューが皆を励ました。
「非常隔壁閉鎖。潜行用意」
チャンドラがCICをアマギたちに任せ、艦の潜航準備にかかる。
「な…待て!」
それを聞いたカガリは振り返り、マリューを見た。
「キラがまだ戻っていない!」
「キラ様なら大丈夫です!」
しかし今度はアマギがカガリを諌めた。
「あの方ならば、きっとこの危機を切り抜けてこられます!」
カガリは首を振り、「だが!」と言い返した。
「俺が行く!あいつを置いてはいけない!」
そんなカガリに、マリューもまた厳しく言い放った。
「だめよ!今やるべきことを考えて!」
その言葉にカガリはぐっと詰まる。
(キラは逃げろと言った。オーブヘ俺を連れて帰れと…)
眼の前のレーダーには激しい戦いを繰り広げているはずのフリーダムとインパルスのマークがある。
キラとアークエンジェルとの距離は離れるばかりだった。
(だけどキラ、おまえは間違ってる…おまえがいなきゃ、俺だけ国へ帰っても仕方がないんだよ!)

―― だから忘れないでくれ、俺たちの約束を!
 
キラはアークエンジェルが潜航準備に入った事を確認すると同時に、ミネルバがかつて自分がダーダネルスで撃ち抜いたタンホイザーを起動させようとしているのを見て震撼した。
(まさか…陽電子砲を…?)
そんなフリーダムにシンはフラッシュエッジブーメランを投げつけた。
隙を突かれ、既に何度かビームライフルでダメージを食らっていた左のショルダーを抉り取られた。
「ぐ…ぅっ…!」
(いけない!このパイロットを相手によそ見など!)
キラは再びサーベルを抜いた。

「急げ!潜られたら終わりだ!」
タンホイザーが完全に起動し、アークエンジェルを完全にロックした。
「撃ぇ!!」
「急速潜航!」
同時にマリューが叫び、アークエンジェルはダイブして海面に向かう。
放たれた陽電子砲が海岸線から目標に向かって真っ直ぐ伸び、一瞬の沈黙の後、すさまじい水煙を上げて大爆発を起こした。
さらに少し遅れてもう一度爆発が起き、水面が激しく波打った。
「ああっ!」
アスランは思わず声をあげたが、目の前にアークエンジェルはない。
(……カガリッ!?)

―― 嘘だ…嘘…

よろけそうになるアスランを、ルナマリアもレイもチラリと見た。

そのまさかの光景に眼を奪われたのはアスランだけではなかった。
キラが紫色の眼を見開き、タンホイザーがアークエンジェルを捉えたかどうかというきわどいその瞬間にほんのわずか、それこそ0コンマのほんのわずかな時間を、シン・アスカは見逃しはしなかった。
シンは無言のまま、アンビデクストラスフォームのエクスカリバーを構えて真っ直ぐフリーダムの腹部を狙った。
「てやあぁぁっっ!!」
キラは咄嗟にシールドを構え、その攻撃を避けようとした。
同時にそのスピードで向かってくるインパルスの頭部にラケルタを突き刺す。
しかしシンはその激しい攻撃にも全くひるまなかった。
フリーダムは絶対に自分に致命傷を負わせないという確信があった。
それはもはや、戦友に対する信頼感といってもよいほどだった。
対艦刀は見事にフリーダムの腹部を貫き、キラは激しい衝撃とすさまじい光に包まれた。
その光で瞬間的に視力を奪われながらも、キラは覚えこんでいる馴染みのフリーダムのパネルに指で触れ、必死に核エンジンをストップさせた。
その途端、機体内部で激しい爆発が起き、キラは各部を遮断した。
(間に合え…!)
やがてフリーダムは大爆発を起こした。
頭部をビームサーベルでぐしゃぐしゃに破壊されたインパルスもまた、激しい爆発に巻き込まれて吹き飛ばされ、シンは衝撃で一瞬意識を失った。

アスランはほぼ同時に決着を見た2つの戦いの結末に声もない。
フリーダムは爆発と共に海に落ち、アークエンジェルもまたその姿を海底へと消し、静かになった海面には多くの残骸が漂流していた。
アスランはただ呆然と、この不可解で不毛な戦いの結末を見つめているだけだ。
「シン…」
ルナマリアはボロボロになったインパルスを見つめていた。
それはひどい姿だった…翼は折れ、首も両腕も失っている。
けれどモニターの下に、パイロットのバイタルは良好とある。
ルナマリアはそれを認めると涙を浮かべ、シンの無事を喜んだ。
「やったな、あいつ」
レイが隣に立って呟くと、ルナマリアは「うん」と頷いた。
「すごい…本当に」

まだふらつく頭を振りながら、シンは、フリーダムが沈んだ海面を黙って見つめていた。
(本当に仕留められたのか…?)
残骸とコックピットの遺体を見るまでは自分の勝利は信じられない。
が、あれだけの大爆発を起こし、しかもあの機体は核エンジンを積んでいる。
それが爆発すればさしもの天才パイロットもひとたまりもないはずだ。
「ステラ…やっとこれで…」
シンはそう呟いたが、やがてまた黙り込んだ。
フリーダムのシールドを破り、胴体を貫く感触もこの手に残っている。
しかしシンの心は晴れなかった。
シンはチラリとミネルバを見た。
強力な火力を持つアークエンジェルと戦ったにしては、驚くほどダメージがない。
いや、むしろ無傷といっていいほどだ。
後ろからようやく追いついてきたコンプトン級も同様だ。
(…初めからハンデをやっていたとでも言うつもりか)
シンはくそっ、と爆発の衝撃で壊れたモニターを叩いた。

フリーダム…どこまでも忌々しい…!
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secret
制作裏話-PHASE34-
この回は、アンチ・キラを公称する私も、さすがにショックを隠しきれませんでした。
いつだって最強で最高のキラが敗れる日が来るとは…そして何より、私が種で一番好きなモビルスーツであるフリーダムが破壊され、なくなってしまったんですから。(Sフリはイマイチ)

けれど本編でのその後のシンの不遇ぶりを見ると、「ここはシンの最大の見せ場なんだから、こんな悪役っぽい演出より、もっと格好よく描いて欲しかったなぁ」と思い直しました。それくらい本編のシンの扱いが酷い事は、少しでもシンを「可哀想な主人公」と思ってくださる方には頷いてもらえると思います。

というわけで、この回はシンの視点をきちんと描き、何よりもシンがただ単に「復讐のため」などでは戦っていないという事をアピールしています。
クレバーで冷徹なまでのシン、追い詰められていくキラ、それを見守るしかできないアスラン、シンを知るがゆえに不安に駆られるカガリの視点を描き出しています。普通ならこの四者をクローズアップするだけで緊張感が増すと思うのですが、本編ではアスランはキラキラ言ってるだけ、カガリなど「シン?インパルス?誰それ、おいしいの?」とどこ吹く風。ホント、キャラクター描写ができないんですね。

カガリについては為政者と大切な肉親であるキラを心配する兄の顔の両面を出すようにしています。だってカガリはシンとあれだけインパクトのある出会いをしてるんですよ?そしてシンが非常に優秀なパイロットであることも、オーブに敵意を持っていることも知ってるんですよ?そんな彼がキラに戦いを挑んでくれば動揺するのが当然です。シンについて何も話さなかった事を後悔しても後の祭りです。そんなカガリの焦りと後悔と不安を入れ込んでみました。

なおロゴスについての説明はカガリが一番適任ですし、本編ではキラが言う「オーブヘの帰還」も彼自身が宣言します。当然ですよね。
反面、カガリの身を案じるアマギに自分のことなどいいと怒鳴って、カガリらしい蒙昧な正義感を振りかざします。こういうシーンがあるだけでも、成長はしているものの、未だ揺れているカガリの様子が表せて面白いと思うのですけど。

一方のキラは相変わらず卓越したパイロット技術を見せつつ、こちらも少しずつ変わりつつあることを創作してみました。
何しろキラはいずれはオーブ艦隊の司令官にまで出世するのですから、責任感と強さを身につけてもらわねば困ります。本編でも、こんな風に出撃するとダダをこねるムラサメ隊を一喝し、自分が皆を守ると宣言するキラの姿が見られたら、「随分変わったな」と驚かされたと思うんですけどね。

「力だけじゃない!」と言いながらクルーゼを力でねじ伏せ、「じゃ、あんたの力って何よ?」と視聴者の首を傾げさせたキラですが、准将になるまでに少しずつ皆の信頼を勝ち取っていくというシーンでもあれば、ずっと一人ぼっちだったキラが変わったという帰結として面白かったのではないかと思うんですよね。

そもそも逆転では、初めはキラの成長など描くつもりはありませんでした。逆種で色々改変したおかげで、キラについてはかなり満足のいくできに成っていたからです。
ところが、シンをどんどん強く格好いいクレバーな戦士として描くにつれ、不思議な事にキラも成長していきました。シンが主人公としての役割を果たしているからこそ、その対照的なキャラであるキラも、同時に成長しなければ釣り合わなくなったからでしょう。これは思いもかけないいい相乗効果になりましたね。まさしく「キャラが一人歩きを始めた」のだと思います。
キラもですが、このPHASEでは逆転でのテーマである「力」を随所に散りばめています。タリアがFAITHとして断固たる決断を下したことや、シンがインパルスではフリーダムに追いつけないことを「力が足りない」と悔しがるなど、「力」とは何ぞやと含めて書いています。
本編では議長がデスティニーをシンに渡す時、「インパルスでは物足りないのでは」と言ってましたが、だったらそういう描写があってもいいと思うんですよ。家電だって最新鋭機と型落ちでは性能差があるんですから。

タリアが降伏を求めたのがアスランの進言を取り入れて、というのは創作ですが、これはあってもよかったと思うんですよね。せっかくの力を発揮できずにいるアスランにとって、眼の前で見せ付けられたタリアの「力の使い方」は衝撃だったと思いますし。

そのアスランはタリアに「あなただって変わったでしょう?」と言われて、原点に立ち帰るという表現を入れました。本編ではもちろんありませんでしたが、ここでアスランがはたと考えたことで、この先の展開を支える「疑念」の一つにできると思うのです。布石や伏線が足りな過ぎるんですよ、種は。脚本がいかにいきあたりばったりかを露呈してますよ。

戦闘がメインではありますが、ちょこちょことネタは仕込んであります。本編では特にありませんでしたが、先を読んだラクスから警告が入っていたり、最終回で邂逅するタリアの言葉を聞いたキラが、ナタルと同じくその人となりに感心したり、シンがキラの事を当然男と思っていたり(本編では無論男同士なんですが)、コックピットを狙わないフリーダムにも気づいていたり、キラとカガリがラクスと交わした「約束」が浮上したりします。その中でも、シンに憧れている「パイロットコースから落ちこぼれた」メイリンは気に入っています。こうして関係を描いた事で、脱走時のメイリンを庇おうとするシンの行動や、後にパイロットになるメイリンの基礎固めになりました。

また、本編での最大の不満だった「アスランがカガリの身を全く案じない」という、ありえない状況も改変しました。何のために護衛してたのアスラン…
そして同時に、「キラァァァーーーーッ!」と絶叫するのはやめてもらいました。あまりにも恥ずかしいから。

シンはひたすら格好よく書くよう努めました。
ステラの死がフリーダムによってもたらされたという怒りと同時に、それは自分にも責任があるとわかっています。だからこそ、逆転のシンは戦う動機をすり替えます。「フリーダムが振りかざす身勝手な正義を討つ」ことで、「勝ち続けるべき自分」を保とうとするのです。

シンがこの後、議長の拓く道を行くと決めるからには、こうした強さが必要なのです。けれど力に頼りすぎるシンの心にはどこか歪みがあり、自身の疑念も晴れません。それゆえに、反目するアスランといずれは和解することができる…としたかったのです。これぞ「バカではないシン」の真骨頂です。上げる前に落とすのも主人公ならではの劇中の演出です。

キラがコックピットを狙わないと信じているからこそとどめを刺せた、というのも面白い矛盾だなぁと思います。あの状況だと相討ちもあり得ますから。

本編では放心状態で泣きながら笑うといううんざりするようなラストでしたが、逆転のシンは不機嫌そうです。確かにフリーダムを倒したはしましたが、敵を滅ぼしたという手応えがないのです。
実際、キラは死んでいないので、この感覚は当然です。だからこそシンがどこか腑に落ちず、苛立っている…という描写にしたのです。だって逆転のシンは頭いいですから。

そしてそんな彼の勝利を、戦友であるルナマリアとレイが喜ぶシーンを入れました。本編はアスランのキラ絶叫でしたが、主人公はシンなんだから、この話は「敗北」ではないんです。まんま「勝利」なのです。サブタイトルが「悪夢」なんて、制作陣は絶対悪意を持ってますよね。

しかしいつもながら評議会のシーンはもっと短くてもいいと思います。ダラダラ長いだけで面白くない。
なお、逆転ではこれも議長が仕込みを行っているとはっきりさせています。

ミーアが議長に「アスランに会いたい」と願うシーンは本編ではなかったのですが、アスランという餌をチラつかせて働かせている逆転ではありです。
本編ではムカつくばかりだったミーアですが、逆転ではいくらアスランにモーションをかけようとも屁でもないのは、逆転のアスランがカガリ以外の男に心を許さないとわかっているからですね。
本編でもそれがはっきりしてさえいれば女難も面白かったと思うんですが、最終的に2人の関係が本当に壊れてしまうという結果に終わったので「ハァ?」なわけです。だったらそもそもカップル設定いらないでしょ…
になにな(筆者) 2011/12/02(Fri)01:33:05 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
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制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
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制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
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制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
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制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
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制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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