機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「右尾翼大破、第一エンジン損傷!主翼にもダメージを受けています!」
チャンドラが艦の被害状況を確認し、悲鳴に近い声で報告を上げる。
追撃は振り切ったもののアークエンジェルのダメージは大きく、潜航にすら支障が出ていた。
「出力低下、スリム水平不能!」
「左舷注水!艦の姿勢を維持して!」
ノイマンが北海の激しい海流に舵を取られながら艦体を立て直している。
「第一エンジンは切り離して!爆破します!」
驚いたクルーが一斉に顔を上げたが、マリューはそのまま続けた。
「撃沈したと思わせるのよ。急いで!」
そして既に無人の副操縦士席を見る。
(カガリくん…どうかキラさんを…)
チャンドラが艦の被害状況を確認し、悲鳴に近い声で報告を上げる。
追撃は振り切ったもののアークエンジェルのダメージは大きく、潜航にすら支障が出ていた。
「出力低下、スリム水平不能!」
「左舷注水!艦の姿勢を維持して!」
ノイマンが北海の激しい海流に舵を取られながら艦体を立て直している。
「第一エンジンは切り離して!爆破します!」
驚いたクルーが一斉に顔を上げたが、マリューはそのまま続けた。
「撃沈したと思わせるのよ。急いで!」
そして既に無人の副操縦士席を見る。
(カガリくん…どうかキラさんを…)
アークエンジェルそのものが陽電子砲から逃れる事に必死だったため、潜航と同時にキラが撃墜された事を知ったミリアリアは悲鳴を上げた。
「キラッ!?…うそ…っ!」
キラが救難信号を出したためかろうじてシグナルロストにはなっていないが、パイロットのバイタルは早くもレッドゾーンに入っていた。
切り離されたコックピットブロックには浮力がないため、急速に沈んでいく。
損傷が激しく、内部の酸素もいつまで持つかわからなかった。
「原子炉は!?」
「停止しています!放射線量も許容範囲内です!」
それを聞いたカガリが無言で立ち上がり、走り出した。
「あ、おい!」
「いいわ!」
ノイマンが振り返ったが、マリューは腕を上げてそれを制止した。
「ミリアリアさん、ストライクRを発進させて!パイロットの救助を最優先!」
カガリは逸る心を必死に諌めながらストライクRに乗り込むと、すぐに海中へと飛び出した。
(悪い予感が当たった…キラが…シンに…)
フリーダムの撃墜地点と沈没したと思われる海域の座標を受け取ってソナーとレーダーを展開したが、暗く冷たい海中からは何の応答もない。
「くそっ…キラ!どこだっ!」
キラは爆発の衝撃と熱でひどい怪我を負いながら、それでもほんのわずか、うっすらと意識を手放さずにいた。キラの耳にはかすかな声が聞こえている。
―― 誰…?誰かが何か言ってる…
(でもよく聞こえない…呼ばれているような気もするけど、なんだかとてもだるくて、暖かくて…)
…忘れ…な…よ……
(え?なに?なんて言ったの?)
…アス…ラ………じょ…
―― よく…聞こえないよ……ラクス…
(…ラクス?)
無意識に呼んだその名前に気づき、キラの閉じかけた唇がふと開いた。
溢れ出た血が口からゴボッと飛び出すと、コックピット内の残り少ない酸素が入ってきて肺に満ち、再開された呼吸が弱まりつつあった心臓を力づけて、ドクンと脈打った。
「全てが終わるまで、僕たち全員、無事に生き抜くことを」
ラクスの優しげな顔と穏やかな声が、傷ついたキラの脳裏に浮かぶ。
「キラも、カガリくんも、僕も…そして、今はいないアスランも」
(ああ、ラクスとの約束…守らなくちゃ…アスランとも、もう一回話をしなくちゃ…そしてカガリ…カガリを…オーブヘ…)
「キラッ!」
ちょうどその時カガリがキラを見つけ、コックピットブロックを大切に抱いた。
「大丈夫か、キラ!今助ける!だから…っ!」
その瞬間キラは微笑み、今度こそ安心して意識を失った。
「だめだ。海中はまだ荒れていてソナーは使えない」
ユーレンベックの捜索隊が、アークエンジェルが確実に撃沈されたという証拠を集めるために海中探査を続けているが、未だに確たる物証は出ていない。
「仕留めたにしては浮遊物が少ない」
「逃げられたか?」
ウィラードも苛立ちながら報告を待っている。
「ミネルバめ!あれだけのお膳立てをしてやったのに、あんな地球軍のロートル艦一つ、確実に仕留められんとはな。何をやっているんだ!」
ウィラードはなんとか戦果を手に入れろと口角泡を飛ばした。
「フォトン隊は範囲を広げて探索しろ。僅かな兆候も見逃すな!」
そのウィラードからは散々嫌味を言われ、いかなFAITHといえども貴様の独断専行については司令部に報告するからなと言われ、「ご自由に」と答えたタリアは、探索の報告を待ちながら艦長席でため息をついていた。
「ホント、毎度毎度、あの艦を相手にするとこんないやな気持ちになるのはなぜなのかしらね」
そんな彼女の愚痴を聞き、戦闘データの収集整理や、さしてないとはいえ艦の破損状況の把握に忙しくしていたアーサーが振り返って慰めた。
「でもまぁ、あのフリーダムを撃破したんですから」
「そうね」
しかしタリアにはそれもまた頭が痛い。
(アークエンジェルやフリーダム…昔の仲間を討つことにあれほど反対したアスランと、またひと悶着起こさなければいいのだけれど)
そう思ってしまってから、タリアは更に憂鬱な気分になり、ため息をついた。
「シーン!」
ボロボロのインパルスから降りてきたシンは、またしても大喜びのヴィーノに抱きつかれた。
「うっ…おまえなぁ…」
「ほんとにすごいよ、シン!」
最近ではもう、これはこいつの悪い癖なんだろうと諦めている。
整備兵たちもわらわらと駆け寄り、かつてザムザザーを倒した時のように、シンを囲んでその武勇を称えた。
「よぉ!やったな!」
「ほんとにやったのか?あのフリーダムを」
けれどもうシンは、あの時のように手放しでそれを喜びはしなかった。
「ああ…いや、それは…」
「シン!すごかった!!」
シンが何か言いかけた時、ルナマリアが駆け寄ってきたのでそれは遮られた。
シンはヴィーノの腕を外すと、ルナマリアのハイタッチを受けた。
「あんな戦い方…びっくりしちゃったわよ!」
「そうか?」
ルナマリアの明るい笑顔につられ、シンも少しだけ笑顔を見せた。
「よくやったな、シン。見事だった」
その後ろからはレイがやってきて微笑みながら手を差し出した。
「ありがとう。レイのおかげだ」
シンもまた手を差し伸べて握手をし、協力してくれた礼を述べた。
「やり遂げたのはお前だ」
レイが言うと、ヴィーノやヨウランも頷いた。
「そりゃもう絶対勲章もんだよ!」
「ほんと、無敵だな!」
再びクルーが称え始めたが、シンは少し困ったような顔をしているだけだった。
そんな中、ルナマリアは少し離れたところからアスランがシンを見つめていることに気づいた。
憂いを秘めたような表情からは何を考えているのか窺い知れない。
シンもまた、そんなアスランに気づき、2人は視線を交わした。
クルーたちの間には緊張が走った。
その後の関係はそれなりに良好だったが、インド洋の戦闘で彼らが同じ場所で衝突した事はさほど昔の記憶にはなっていないのだ。
やがてシンがアスランに近づいていくと、ヨウランやヴィーノが固唾を呑んだ。
ルナマリアもレイを見たが、レイは落ち着いた表情で見守っている。
「仇は…取りましたよ」
アスランは表情を変えずにシンの言葉を聞いていた。
しかしレイだけはその言葉に、ふと彼の事を思い出していた。
自分を救い出し、慈しみ、そして世界を憎んでフリーダムに、彼を生み出す原因となった「キラ・ヤマト」に討たれた彼を…
「あなたのもね」
アスランはその言葉を聞いてぎゅっと拳を握り締め、静かに言った。
「あのパイロットは…あなたを殺そうとはしていなかった…」
キラは、いつだってそんな事はしないのだ…アスランの瞳が伏せられる。
だがシンはそれを聞いて呆れたように笑った。
「しっかりコックピットを狙ってきましたよ。直撃なら死んでました」
「守るためよ…守るもののため、仕方なく戦おうとしただけ」
アスランは視線を逸らし、ボロボロになったインパルスを見上げた。
「それを、あなたは…」
「何わけのわかんない事言ってるんです?やめてくださいよ」
シンはうんざりしたように答えた。
「あのフリーダム相手に、俺は命がけで戦って勝ったんです」
「…勝った?」
アスランが唾棄すべき言葉を聞いたように首を振る。
「それがそんなに嬉しいの?」
急に緊張の糸が張り詰め、周囲がそのピリピリした空気に息を殺した。
(あんな風に命を狙われてなお、キラの反撃は致命傷を避けている)
ケーブルが千切れ、駆動部が剥き出しのインパルスを見てアスランは呟いた。
「…何が仇よ」
シンはその言葉を聞いてムッとし、一歩前に出た。
2人の距離が縮まると、周りの緊張感もさらにもう一段階高まった。
「なんなんですか!?俺が生きて戻っちゃいけなかったとでも!?」
「いいえ。あなたの戦いは…」
見事だった、と言おうとして言葉に詰まり、思わず歯を食いしばる。
それから努めて平静であろうとし、再びゆっくりと口を開いた。
「…私は、この作戦自体に疑問があるの。あなたに非があるわけじゃない」
そう言って背を向けたアスランを見て、シンは改めて怒りを覚えた。
(…何が俺に非はないだ。口と態度が裏腹じゃないか!)
彼女のこの厳しい拒絶に、自分への関心の薄さが浮き彫りになる。
―― ちゃんと俺を見ろ!そしてフリーダムが倒された事実を正面から見据えろよ!
「俺、嬉しいですよ?あいつを倒せて」
シンはアスランの背中に向けて先ほどの答えを挑発的に言った。
「あれだけの強敵をやっと倒せて、任務も遂行できましたしね」
「やめなさいよ、シン」
ルナマリアが小さな声で止めたが、シンは続けた。
「で?俺にどうしろっていうんです?あなたの死んだお仲間のために、泣いて喚いて悲しめってんですか?それとも祈れってんですか?」
アスランはしばらく黙り込み、「何も…」と言った。
「何もする必要はないわ」
シンはカッとなり、踏み出すとアスランの肩を掴んで振り向かせた。
「あんたはっ…!」
「シン!?」
それを見たルナマリアが驚き、ヴィーノとヨウランも慌てて止めにかかった。
「駄目だよ、シン!」
「こらこら、よせって!」
しかし、この2人の応酬は再び周りを驚かせることになった。
「やめてください、アスラン!」
レイの言葉に、その場にいた者は皆、(アスラン?シンじゃないのか?)と一瞬戸惑った。
しかし、常に冷静沈着なレイのその判断は正しかった。
肩を掴んで強引に振り向かせたシンの顎に向け、アスランは堅く握り締めた拳を下から突き上げていたのだ。
シンはまさか自分より華奢な彼女が攻撃に転じているとは思わず、それでも優れた反射神経で攻撃を察知したらしく、上半身はわずかに引いていた。
アスランの怒りに燃えた美しい碧眼が、シンの赤い瞳を射抜く。
もしそのまま拳が突き出されていれば、いくらシンが体格的に勝るとはいえ、ダメージはまぬがれなかったろう。アスランの動きには迷いがなかった。
非力ゆえに急所をよく知る拳だと、戦い慣れているシンは肌で感じた。
やがて警戒しながらシンが下がり、アスランもまた拳を胸元に引く。
ルナマリアは驚きで眼を見張り、ヨウランもヴィーノも完全に固まっている。
整備兵たちなど一触即発の雰囲気に、一歩二歩と後退り始めていた。
シンは手の甲で口を拭うと、ふっと息をついた。
「…俺と、本気でやる気ですか?」
「よせ、シン」
そこにレイが静かに割って入った。
「アスラン、あなたの態度もどうかと思います」
アスランは黙ってレイを見つめ、シンはヴィーノとヨウランになだめられている。
「確かにシンの態度に問題のあったことは認めますが、いかに上官と言えど、今の態度や言葉は、戦闘を終えて戻ったばかりの部下に対して理不尽ではないでしょうか」
アスランは何も答えない。
「アークエンジェルとフリーダムを討てと言うのは、本国からの命令です」
それはおわかりでしょうと言われ、「ええ」とアスランは答えた。
「シンはそれを見事に果たした。賞賛されても叱責されることではありません」
「…認めるわ」
アスランは硬い表情のまま頷いた。
「だから、任務を遂行したシンを責めるつもりはない」
「ではあなたは、あれが我々の敵とは認められないと?」
レイがその言葉の真意を探るように尋ねる。
アスランは少し考え込んでから言った。
「フリーダムもアークエンジェルも、敵じゃない」
「何言ってんですか!あれは…」
「シン、待てって」
苛立って前に踏み出そうとしたシンをヴィーノたちが再び押さえつける。
しかしそれより早く、レイの言葉がアスランの言葉を跳ね除けた。
「敵です」
アスランの瞳が相変わらず表情を変えないレイを睨む。
「あちらの思惑は知りませんが、本国がそうと定めたのなら、敵です」
迷いすら見せずに言い放つレイの言葉を聞いて、アスランはかつての自分を思い出した。
―― 国、軍の命令に従って敵を討つ。それでいいと思ってた。仕方ないって。それでこんな戦争が一日でも早く終わるならって…
そこにはキラと出会ってしまう前の自分がいた。
その後も迷いながら、キラと戦う事は間違っていると思いながらも、やめる事ができず、結局行き着くところまで行った自分がいた…
―― アスランが信じて戦うものは何?頂いた勲章?お父上の命令?
「レイ…私たちは…」
「そうです、我々はザフトですから」
アスランの意図とは別に、レイはその言葉を勝手に引き取って続けた。
「議長と最高評議会に従うものなのですから。それが定めた敵は敵です」
―― 敵だというなら、僕を討つか?ザフトのアスラン・ザラ
アスランは言葉に詰まり、レイの怜悧な表情がアスランを見つめた。
「何が敵であるかそうでないかなど陣営によって違います。人によっても違う。相対的なものです。それは御存じでしょう?あなたも」
(レイは自分の過去について言及している)
青い瞳に射られながら、アスランはその意図に気づいた。
(そして今の自分にも。ザフトにもアークエンジェルにも居場所がない、孤独な自分にも…)
「そこに絶対はない」
シンとアスランの対決による緊張感に包まれていたその場が、いつになく饒舌なレイの言葉で変わっていくのが感じられる。
「あなたの言っていることは、個人的な感傷だ。正直、困ります」
気付けば、皆がアスランに不審そうな眼を向けている。
アスランは「わかったわ」と呟いた。ここでは、自分こそが「異物」であり、「異端」だった。
「だけど、私たちが討つべきはアークエンジェルでもフリーダムでもない。それだけは覚えておいて」
そう言い残し、今度こそ踵を返した。
「アスラン…」
ルナマリアだけは彼女に声をかけたが、シンは「放っとけよ」と言う。
(俺は討ったんだ…あなたの言う、勝手な正義を振りかざす破壊者を…)
やり場のない怒りが収まらず、シンは思わず拳を握り締めた。
(なのに、今もまだあいつは正しくて、俺は間違ってるっていうのか!)
3日間ほどバイタルがかなり危険な域にあり、カガリはミリアリアの援けを借りながら、ほとんど不眠不休でキラの様子を見守っていた。
自分では手に負えなかったら、何としても医師に診せると言うと、誰もがその危険を犯しても、キラを救う事に賛成してくれた。
しかしキラのしなやかな筋肉と柔軟な体は、特に重要な臓器を守りきり、気温の上昇に強い皮膚が火傷や熱傷を最小限に留めさせた。
数十針の裂傷程度は、再生医療が進んだ今、さして問題にはならない。
カガリは改めてキラの身体が、恐らくこの世の誰よりもハイスペックであり、怪我や病気にどこまでも強いことを実感していた。
(こうして見れば、ただの普通の女の子なのにな…)
カガリがキラの頬をつつくと、偶然にもその時キラが眼を覚ました。
「カガリ…」
「よく眠れたか?」
キラは笑ったが、長く閉じていたせいか口がうまく動かない。
カガリは点滴の調節をし、バイタルが安定し始めた事を確認した。
「皆は…?」
「無事だ。誰も傷ついてないよ。おまえのおかげで」
「…よかった…」
キラはそう言うと再び深い眠りに落ちた。
カガリはしばらくキラの柔らかい髪を撫で、やがてブリッジに連絡を入れた。
「私だって名を挙げた方々に軍を送るような、馬鹿な真似をするつもりはありません」
演説以来、デュランダル議長は連日連夜インタビューに答えていた。
「ロゴスを討つというのはそういうことではない」
デュランダルはこれまでの戦争の歴史、彼らの裏の顔である軍需産業の利益がいかにリンクしているかなど、わかりやすくデータで表し、柔和な語り口調で自身の論を展開し続けていた。
「ただ彼らの創るこの歪んだ戦争のシステムを、今度こそもう本当に終わりにしたいのです」
それと同時に、各地で起き始めたロゴスへの襲撃や私刑もニュースを騒がせた。
彼らは大概地球軍の重鎮に名を連ねていたり、国際組織の要員だったりするので、彼らを守るのが地球軍である事も扇動されやすい民衆を大いに刺激した。
「くっそー!」
「騙されてるのはおまえたちだぞ!コーディネイターの奴らに!」
投げられた石つぶてに追われ、兵たちが退散していく。
ひどい時は武装した民衆と軍が衝突し、散水や催涙弾が放たれ、時には銃弾が飛び交う中で、デモや暴徒の鎮圧が行われていた。
そんなナチュラルたちの様子を見て、イザークは腕を組み、口をへの字に曲げている。
(こりゃ相当ご機嫌斜めだなぁ)
ディアッカがため息をつくと、後ろから黒服と紫服の文官の話が聞こえてきた。
「しかしロゴスを討つと言っても、具体的には何をするつもりなんでしょうかねえ?議長は」
「名を挙げた企業製品の不買運動かな?」
笑いあう彼らの方を振り向いたイザークは、そのままつかつかと歩み寄った。
「笑い事ではないわ!」
彼らはいかな白服とはいえかなりの若僧から叱責を受けて驚いた。
「は?」
「な、なんだ…?」
「実際大変なことだぞ、これは!ただ連合と戦うより遙かに!」
「イザーク、よせよ」
ディアッカが「すいませんねぇ」と言いながらイザークの腕を引っ張ってその場から離そうとしたが、イザークはそれを振りほどいて喚いた。
「少しは自分でも考えろ!その頭はただの飾りか?」
あっけにとられる彼らを後に、イザークは頭に血を上らせて休憩室を出た。
「おまえ、お疲れのおっさんたちの寛ぎタイムを邪魔するなよ」
後を追ってきたディアッカが声をひそめて言うと、イザークはまた怒鳴った。
「くだらん事を言っているからだ!」
「あーあ。おまえの頭は、今に爆発するぜ?」
「うるさいっ!」
ディアッカは走るように歩くイザークを見て鼻の頭を搔いた。
「まぁ、議長はロゴスと戦うわけじゃないとは言っているが…」
「連合…いや、連邦と結びついているような連中だ。当然火種になるぞ」
怒鳴りつけた事で少し落ち着いたらしいイザークが肩をすくめた。
「連合ももはや昔のようには結びついていないからな」
「ユーラシア西側か」
イザークは返事をする代わりにパシッと拳を掌に打ちつけた。
「連中が議長に賛同すれば、俺たちと共同戦線を張ることになるかもしれん」
「そりゃ今までにない構図だな」
ディアッカが苦笑した。
「地球経済は大混乱。軍や国家は思想の違いで分断されちまうかもな」
「だから大変な事になると言ってるだろうが!」
イザークがギロリと睨んだのでディアッカはまぁまぁとなだめた。
「そうなっても、俺たちは目的を見失わない…だろ」
ニヤニヤしながらディアッカが言うと、イザークは「ふん!」と鼻を鳴らした。
「わかっていればいい。行くぞ」
2人が立ち去ってからも、デュランダルのインタビューは続いていた。
「コーディネイターは間違った危険な存在と、わかり合えぬ化け物と、何故、あなた方は思うのです?」
彼は、前大戦の根となった憎しみを植えつけたのは誰なのかと訴える。
「己の身に危険が迫れば、人は皆戦います」
ラクスは小さな部屋でインカムから聞こえる彼の声に耳を傾けていた。
「それは本能です。だから彼らは討つ。そして討ち返させる」
(仕掛けるのはお互い様だ)
調査データを整理し終わったラクスは、モニターを見つめながら独り言ちた。
画面には、執拗に自分を追い続けたあの過激派のリーダーが、仰々しいサングラスをかけた栗色の髪の女と密会しているらしい画像があった。
彼女が何者なのか、情報が入って以来、ダコスタやヒルダたちに探らせているのだが、未だに正体がわからない。
むしろ腕利きの彼らが調べても何も出てこない事が不自然極まりなかった。
「今あるものを壊さなければ新しいビルは造れない。畑を吹き飛ばさなければ飢えて苦しむ人々に食料を買わせることが出来ない。平和な世界では儲からないから、牛耳れないからと、彼らは常に我々を戦わせようとするのです」
建設の前には破壊がある…それは価値観や観念も同じだった。
かつて自分たちコーディネイターが登場したことが古き地球人の価値観を破壊し、180度の転換をさせたように、新たな価値観や理念を前にすると世界は大概、混沌に沈むものなのだ…
(ならばいっそのこと、その前に混沌に落としておけば?)
そう考えながら、こんなのはまるで禅問答だとラクスは楽しそうに笑った。
デュランダルは確かに、真に平和を望む人間にも見える。
世界を導くためには、力と共に多くの高度な「技術」も必要だ。
(彼は今その両方を兼ね備えた世界最強の存在だ)
再び充実した戦力を持つザフト、そしてラクス・クラインという偶像を利用して一つになったプラント、「英雄戦争」によるナチュラルとコーディネイター、両者からの支持…
(だからこそ、それを脅かす存在を排除したいと思っているんだろう?)
―― どうしてもあなたの思い通りにならない、厄介な僕たちを。
「こんなことは本当にもう終わりにしましょう」
議長はモニターの中で訴えている。
「歩み寄り、話し合い、今度こそ彼らの創った戦う世界から共に抜け出そうではありませんか!」
ふっとラクスは笑った。
いつの間にか、世界は彼らロゴスが創ったものになってしまっている。
「こんな大量の兵器など持たずとも人は生きていけます…か。確かにね」
ラクスは立ち上がり、小さくて狭い詰め所の扉を開いた。
そこには巨大なファクトリーのドックがあり、技師たちが忙しなく機体の調整を行っている。
ラクスの姿を見るや、あちこちからわらわらと人々が寄ってきて作業の報告や相談にやってきた。
建造が熱望されたドムトルーパーは、目の前でほぼ完成に近づいている。
テキパキと指示や助言を行ってさばき終わると、ラクスは軽く壁を蹴り、二つの機体が並ぶハンガーを眺めた。
静かに佇むその機体が、今、剣を失って回復の途上にある彼女の新たな力となるように。
そして今なお迷い、惑い、悩み続けているだろうもう1人の彼女にとっても。
(きみはきっとまた、たった1人で悩み苦しんでいるんだろうね)
ラクスはこんな状態のザフトにいるアスランを想った。
真面目で融通の利かない彼女が、キラと戦い、父の思想に疑念を持ちながら、正しい道はどこにあるのかを必死に探そうとしていた日々を思い出しながら。
(そしてどんなに苦しくて辛くても、それをやめようとしないんだ)
ラクスはふっと微笑んだ。
「生命は、戦わなければ生きる道を見出せない事もある」
ラクスは誰にも聞かれないよう、ポツリと呟いた。
「それはあなたもよく知っているんじゃないかな…デュランダル議長」
「ロード・ジブリール!」
一体どこからどう情報が漏れたのか、ジブリールの豪奢な屋敷の門前には、武器を持った殺気立った暴徒が詰め掛けていた。
「ブルーコスモスの親玉だ!引きずり出せ!」
ジブリールは脱出の算段を整えながら、屋敷の外に集う暴徒が、電磁防壁をショートさせて屋敷内に進入してくる様子に怒りを抑えきれずにいた。
わなわなと震え、歯を食いしばって汚らわしい愚民どもを見つめている。
「ジブリール!」
音声のみの通信機からはルクス・コーラーの声がした。
一方でブルーノ・アズラエルは必死に叫んでいる。
「助けてくれ!暴徒が屋敷にまで…」
「ジブリール!何とかしろ!うわぁ!」
アズラエルもコーラーも断末魔の声を残し、後には多くの人々の怒号や何かが壊れる音、叫び声、物音しか聞こえなくなった。
ジブリールは怒りのあまり通信機を薙ぎ払って机から落とした。
どこのロゴスも似たようなものだった。
脱出できた者には合流先を知らせてある。
そこで彼はもう一度態勢を立て直すつもりでいた。
「こんな…こんな馬鹿なことが…くそっ!デュランダルめ!」
ジブリールはモニターの中で「この戦いを早く終わらせましょう」と語る彼を憎しみの眼で見た。
「許さん…許さんぞ、コーディネイターめ!」
こうした現象は世界中で起きており、ロゴスとは関係ない暴動や、この機に乗じた紛争やテロが起こり、内乱に発展する国も後を絶たなかった。
しかし混乱するのは地球ばかりで、プラントは至って平和だった。
それがまた議長の強い求心力や敏腕ぶりを内外に知らしめ、ますます評価を高めている。
「ああ、わかった。それでいい。今後もそうした申し入れは、基本的にはどんどん受けてくれたまえ」
デュランダルはロゴス征伐に参加する意思を示した連合指揮下の国々や、安全保障条約を締結する同盟参加国にも門戸を開き、共にロゴスと戦おうと呼びかけた。
そしてイザークの言うとおり、賛同した地球軍は共同戦線を敷こうと続々と集結し始めていた。「敵は連合ではない」という建前が、参加を加速させた。
いまや彼らの着ている制服にもあまり意味がなくなりつつあった。
さらに議長が「ジブラルタルをロゴスと戦うための軍事拠点として賛同者に開放する」と伝えて以来、各国から連絡がひきもきらない。
そんな渦中のジブラルタル沖に、東アジア共和国の艦隊がいた。
ユーラシア同様、連合の旗の下にありながらも、連邦のゴリ押しの際は常に捨て駒として苦渋を舐めさせられてきた東アジア共和国では、最近は反連邦意識が強く、そんな中でデュランダルの呼びかけに応じてザフトにコンタクトを求めたのだ。
この艦に乗ってまだ日は浅いが、これは願ってもないチャンスだと考え、レドニル・キサカは甲板でジブラルタル方面の様子を窺っていた。
彼はオーブ陸軍情報部と中立国が共同で行う諜報任務に就いている。
諜報員として東アジア共和国に潜入して連合の動きを探るなど、本来一佐であるキサカがじきじきに行うような任務ではないが、彼をカガリの傍から引き離そうと企んだセイランの裏工作でこの任務に就かされ、1年近くが経とうとしていた。
折りしもジブラルタルには、クレタ沖海戦でオーブ艦隊を破ったザフトの英雄艦ミネルバが入港するという情報も掴んでおり、艦の性能や武装、搭載モビルスーツなどの詳しい情報も入手したいと思っていた。
ミネルバがオーブに入港した時は、彼は既に故国を離れていたからだ。
(クレタではタケミカヅチが撃沈され、トダカ一佐が戦死したという)
キサカは眉をひそめた。
(温厚で、若い部下たちからも慕われる心優しき武人だった)
けれど今、それ以上にキサカの心をざわめかせているのは、数々の戦場に現れては戦闘に介入すると噂される「アンノウン」の事だった。
(予想はつくが…)
そう思いつつ、キサカはふと、久々に自身の携帯用タブレットを開いてみた。
この偶然の行動により、彼は自分とその彼ら「アンノウン」が今現在、ごく近い距離にいるという事実を知る事になる。
運命とは果たして、必然なのか偶然なのか。
キサカの存在はこの後、戦局に大きな意味を持つ事になる。
北海までの寄り道で時間をロスしたミネルバがジブラルタル海域に入った頃、南ヨーロッパはすでに春爛漫で、日によっては初夏のような陽気だった。
「ん~!いい天気!」
すっかり傷の癒えたルナマリアが上着を脱ぎ、半袖のアンダー姿で大西洋を眺めながら太陽を浴びていると、レイとの射撃訓練を終えたシンがやってきた。
「そんな事してるとますます色が黒くなるぞ」
「黒くないもん!」
ルナマリアは抗議したが、透き通るような白い肌を持つシンと比べられては勝ち目がないので、「ふんだ!」と拗ねてみせる。
「いよいよジブラルタルだね」
「ん?ああ…」
頬杖をついて海原を眺めるシンを見て、ルナマリアはあれ以来、ほとんど口も利かなくなったシンとアスランの仲を心配して言った。
「ねぇ、もう仲直りしたら?」
「……誰と」
「わかってるくせに」
ルナマリアもシンの真似をして頬杖をついた。
「フリーダムのパイロットって、どんな人だろうね?」
「はぁ?知らないよ、そんなの」
「あれだけ怒るって事は…アスランの彼氏だったりして!」
それを聞いたシンは呆れたように笑った。
「ラクス・クラインがいるのにか?それじゃ、自分だって浮気がどうのなんて言えないじゃないか」
(あ、そっか)
ルナマリアはシンがあの偽ラクスがまだ本物だと思っていることに気付いた。
「…皆、やっぱり騙される…よね」
「え?」
ボソボソと呟いたルナマリアの声が聞き取れず、シンが聞き返した。
「ね、シンは…あのラクス・クラインがもしも…その…」
「ラクス・クラインが…なんだ?」
シンの声が思ったより堅かったため、ルナマリアははっと口を閉ざした。
見ればシンは至極真面目な…それを通り越して険しい表情でこちらを見ている。
ルナマリアはすぐに自分の失態に気づき、慌ててごまかそうとした。
「ううん、ごめん。なんでもない」
そう言うと踵を返し、足早に扉に向かった。
「やっぱり日に焼けちゃうから、もう入ろ」
「え…あ、おい」
シンは怪訝そうに眉をひそめ、そのまま彼女を追った。
「でも、何もこんな時に…議長が御自身で地球へ降りられなくとも」
クリスタは自らジブラルタルに降りると宣言して議員たちを驚かせた議長に苦言を呈した。
「指示はここからでも十分お出しになれますのに」
「そういう問題ではないよ」
議長は不安げに彼を見守る議員たちににこやかに答えた。
「旗だけ振ってあとは後ろに隠れているような奴に、人は誰もついては来ないだろう?」
彼と共にジブラルタルに降りる事になったラクスや、相変わらず露出の激しい衣装を着たクラインガールズの女の子たちも議長の後ろに控えている。
ロゴス討伐のキャンペーンイベントが大盛況で、追加がひきもきらない彼らに、たまには休暇をとりなさいと議長が手を回してくれ、共に行く事になったのだ。
(ようやくアスランに会える)
ミーアは凛とした美しい彼女を想って浮かれていた。
ジブリールの屋敷は既に暴徒によって占拠され、世界中にある彼の別宅も全て人々や軍、政府によって抑えられたが、彼の行方だけは杳として知れなかった。
もちろんデュランダルは彼らが地球軍の庇護を受けていることなどお見通しで、彼らが隠れているのはアイスランドにある地球軍基地、ヘブンズベースであると断言し、全世界に発表していた。
ヘブンズベースは前大戦において、アズラエルたち連合の高官が詰めて戦局を動かしていた基地である。それはすなわち、ロゴスやブルーコスモスがはびこる巣窟であるといえた。
「しかし、すごいものだね、人々の力は。恐ろしくもあるよ」
デュランダルは世界中で巻き起こった「打倒ロゴス」の叫びと動きに苦笑した。
「まさかここまで彼らが一つになるとは思わなかったからね、私も」
彼としてはさほど大きな労力を使ったつもりはない。
ただ人々の不満を汲み、解放者としてザフトの英雄性を高め、それによってナチュラルとコーディネイターを融和させた。
彼が蒔いた種は芽吹き、今はちょうど青々と茂り始めたところだ。
(やがてこの種は大輪の花を咲かせる…ロゴスを討ったその先の世界で)
「議長のお言葉に皆奮起しているのですわ」
クリスタは美しい顔で微笑んだ。
「本当に戦争のない世界にできるなら、と。皆、望みは一つですから」
「できるさ。皆がそう望めば」
議長は見送りの議員たち一人ひとりと握手を交わした。
一つの目標に向かって邁進する今こそ、プラントもより強固な団結をと言って。
「では、後を頼むよ」
デュランダルはラクスたちを伴い、シャトルへと乗り込んだ。
シャトルの座席で、デュランダルは早速中型のモニターを開いて、アークエンジェル探索の報告が届いていないか確認した。
(ウィラード隊からの報告…アークエンジェルの撃沈は未だ確認できぬものの、フリーダム撃破は間違いなし)
何枚かの写真が、明らかにフリーダムの機体と思しき破片を映し出している。
コックピットブロックと原子炉がまだ発見されていないことは気になるが、ミネルバ及びシン・アスカが送ってきた報告書とインパルスの戦闘データにも、フリーダムが対艦刀で貫かれている映像が残っている。
(白のクィーンを仕留めた…これでチェックメイトか?)
デュランダルは手で口を押さえた。
(いや、油断は出来ないな…白のキングの采配は侮れん…)
それから彼は傍に控えている黒服に声をかけた。
「クラーゼクに連絡を取っておいてくれ」
クラーゼクは偽者のラクス…すなわち、本物のラクスとバルトフェルドがディオキアの宇宙港からシャトルをハイジャックして宇宙に上がった時に放たれた追撃隊の隊長である。デュランダルはこの、たかが一介のテロリストの追撃に、現在もフル稼働で生産されている品薄のグフを20機近く配備させていた。
「例のシャトル強奪犯の件はどうなっているのかと」
それを聞いて、ミーアが眉を顰めた。
(本物のラクス・クラインが、今もどこかにいて何かをしている)
議長がラクスを気にする素振りを見せると、ミーアはいつも不安になった。
(もし本物のラクス様が現れたら、議長は僕と入れ替わらせるのかな)
いつしか逆転の発想になっていることに、ミーアは気付いていない。
(そりゃ、本物のラクス様が現れるまで、と思ってきたけど…でも…)
可愛い女の子たち、どこにいっても喜ばれる絶大な人気、敬われ、称えられ、尊敬され…そして何よりも、美しいアスランをいつか自分のものにできるのだ。
ミーアは宇宙の闇に眼をやった。
(僕こそがラクス・クラインだ)
―― 今頃になって本物が出てきたって…僕は…きっと!
「大丈夫か、おい」
「うん、ごめん…ありがと」
カガリが小さなキラを抱き起こしてベッドに座らせた。
キラは順調に回復し、今日は処置室から出て別の部屋に移る予定だ。
何しろここにはカーテン一枚しかなく、医務室にはネオがいるのだから。
すっかりカガリの助手が板についてきたミリアリアは、包帯やガーゼを替えたり、いくら医療技術者とはいえ男のカガリには憚られる処置を買って出てくれていた。
「私も医療ライセンス取ろうかな」
「おお、向いてるよ。取れ取れ」
ミリアリアがキラの背を支え、クッションを挟み込みながら言うと、カガリは身を乗り出して頷いた。実際、細やかで優しい彼女のケアは、そこいらの衛生兵よりよほど優れている。
「じゃ、カガリは医者になってよ。引退後は一緒に診療所やろう」
「なんだ、逆プロポーズか?誰かさんに怒られるなぁ」
からかわれたミリアリアは真っ赤になり、「バッカじゃないの!」と言ってニヤニヤ笑うカガリを小さなクッションでばしばし殴った。
キラはそんな風にふざける2人を見て笑っていたが、ギャッジアップしたベッドの背にもたれるとほっとひと息をついた。
「でもよかったな。傷もそうひどくはないし」
カガリがキラの足や腕の傷を診ながら言った。
けれど、本当はかなりの重傷だったのだ、初めは。
何よりキラの場合、治り始めてからの回復力が異常だった。
カガリはこれまで、こんなに回復の早い患者を見た事がない。
かつてクライン邸でも医師たちがキラの驚異的な回復力に驚いたように、カガリもまたバイタルデータを書き換えるたびに、最高のコーディネイターの信じがたい「力」をまざまざと見せつけられるのだった。
(しかも一歩間違えば…これは俺だったかもしれないんだもんな)
ヒビキが選んだ受精卵が自分ではなくキラだった事を思うと、運命の妙を感じる。
「でも、フリーダムが…」
再び目覚めた時、フリーダムが完全に破壊されたと聞いたキラは愕然とした。
直前に原子炉を止めたおかげで放射性物質の流出はなかったが、激しい爆発で機体は9割方、失われてしまっていた。
以来、キラはその事ばかり気にしてはため息をついている。
「あれを墜とされちゃったら…私は…」
「何言ってんだ、キラ。今はそんなこといいから…」
気にするな…毎回そう言って慰めながら、カガリはチクリと胸が痛んだ。
(俺がちゃんと…インパルスとあれに乗っているヤツの事を話しておけば…)
オーブを憎み、アスハを憎むシン・アスカのことを、なぜかこれまでキラには話さないままだった。
(キラは…もっとうまく切り抜けられたかもしれない…)
「インパルスにやられたって?」
「え?」
3人は突然聞こえてきた質問に思わず振り返った。
カガリがカーテンから顔を出すと、ネオがニヤニヤしている。
「聞いてたのかよ」
「ざまみろ。ふん」
大人げのないその言い方がまさしくかつての「彼」を髣髴とさせ、ひどい事を言われたのに、キラもミリアリアも困ったように笑ってしまった。
「真っ直ぐで勝ち気そうな小僧だぜ、インパルスのパイロットは」
「会った事あるのか?あいつに…」
「ああ。一度な」
ネオはそう言って、目線を落とした。
(ステラを…戦争とは無縁の世界に帰せと、そう言って睨んでいた)
約束は破られ、ネオも今はもう、ステラは死んだだろうと確信していた。
(あいつはきっと俺を一生許さないだろう…俺が自分を許せないように)
「おまえもあいつを知ってるのか?」
ネオに聞かれ、カガリは肩をすくめて言った。
「知ってる。よく」
「どんどん腕を上げてるぞ」
「ああ…ホント、あいつはすご…っ!!」
言い終わる前に、カガリの姿がいきなり消えた。
2人の会話を聞いていたキラがますます暗い顔になったので、ミリアリアが彼をカーテンのこちら側に引っ張り込んだのだった。
「もう!インパルスの事なんか、今はどうでもいいでしょ!」
「あ、ああ…悪い」
怒るミリアリアに、カガリはばつが悪そうに謝った。
「しかしこの艦は何をやってんだ?この間は俺たちと戦ったくせに、今度はザフトが敵かよ」
カガリが顔を引っ込めても、ネオはまだ話しかけてきた。
「そうね」
そんな彼には背後から回答があり、ネオはぎょっとして振り返った。
そこにはマリューが立っており、彼女はそのままカーテンを開けて中に入る。
「大丈夫なの?キラさん」
「はい、もう」
「そう、よかったわ」
マリューは優しく微笑み、アークエンジェルも状態はかなり悪いが、上手くルートを選べばオーブまで何とか辿り着けそうだと言った。
「…そうですか」
キラにとってオーブに帰れる事は、不安半分、安心半分だった。
「ほら、食べろって、おまえも」
カガリがそんなキラの気持ちを汲み取ったように、食事をキラの口元に運んだ。
キラは「え?あの…」と戸惑っている。
ミリアリアがそんな微笑ましい2人の写真を撮ってくれた。
マリューがカーテンを閉めて部屋を出ると、再びネオが話しかけた。
「オーブの艦なのか?やっぱりこいつは…」
「ん~……どうなのかしらね?」
マリューは務めて平静を装い、最愛の恋人と同じ顔、同じ声の男に答える。
「じゃ、そこでどうするんだ?俺は…」
ネオが様子を窺うようにマリューを見つめた。
マリューはちょっと頭を傾げた。元より、自分たちは正規軍ではない。
しかし、次の彼の言葉はマリューだけでなく、カーテンの向こうのキラたちの心臓も凍りつかせた。
「ムウ・ラ・フラガ…ってのは…」
ネオはその名を噛み締めるように呟いた。
けれど心に喚起するものが何もないと知ると、彼はごくあっさりと尋ねた。
「あんたの何なんだ?」
カーテンの向こうのマリューの表情が見えない3人は思わず顔を見合わせた。
(その人自身から、ムウさんが何者なのか、なんて…)
けれどやがてマリューが答えた。静かで、抑揚のない物言いだった。
「戦友よ。かけがえのない。でも、もういないわ」
ネオはその答えに何も答えず、キラたちもまた黙りこくった。
「こちらジブラルタルポートコントロール。LHM-BB01、ミネルバの到着を歓迎する」
さほど時をおかず、ミネルバはついにジブラルタルに到着した。
アーサーは地球におけるザフト軍基地としてはカーペンタリアと双璧をなす、その堂々たる基地の姿を見て、感嘆の声をあげた。
「これより貴艦を二番プラットホームに誘導する。ビーコン確認をどうぞ」
「こちらミネルバ。了解。ビーコンを確認する」
マリクが答え、後はビーコンの誘導に任せればいい。
戦いを重ね、メインパイロットとして操艦を一手に引き受けてきたマリクもようやく息をついた。
「やれやれ、これで少しは休めるぞ」
自動操艦で進んで行くミネルバのクルーは、停泊しているボズゴロフ級やコンプトン、レセップス、ビートリー級などの地上戦艦、他にもガズウート、バクゥ、ディン、ザク、そしてようやく一般兵にも配備が開始され始めた量産型の青いグフが居並ぶ基地の光景を見ながら沸き立っていた。
グーンやゾノ、まだなかなか目にする機会がない新型のアッシュなども所狭しと基地内を闊歩しており、バビの大編隊が次々と荒っぽく舞い降りてくる。
それは結局行われなかったミネルバの進水式典の準備に沸いていた、かつてのアーモリーワンを思い出させる、活気に満ちた様相だった。
「いや、すごいですね!」
アーサーがタリアの横に立ちながら感心したように言った。
「付近の全軍に集結命令が出ているのは知っていましたが、こうして見ると壮観です」
「剣を取らせるには、何よりその大義が重要である…」
「へ?」
「誰だったか忘れたけど、指揮官講習の教官が言ってた言葉よ」
アーサーはタリアが急に何を言い出したのかと困った表情で見た。
「討つべき敵とその理由が納得出来なきゃ、誰も戦えないもの。今、私たちにははっきりとそれが示された」
ロゴスを討つというあの人の言葉に、世界はまるで熱にでも浮かされたように爆発的に感染し、パンデミックを起こした。
「ありがたいことかしら?軍人としては」
「はぁ…」
結局最後までアーサーは生返事のままだった。
やがてメイリンの声がミネルバに響き渡り、ジブラルタルへの入港シークエンスが開始された。
持ち場のある艦員はバタバタと忙しそうに走り回っているが、インパルスの整備が終わっているシンや、ザクがレストアに出されているレイやルナマリアは、今は特に何もやる事がない。
「ジブラルタルに入って、俺たち、次はどうすんのかな」
タブレットを眺めていたシンがぼそりと聞いた。
「さあな。だが先日の議長の言葉に沿った形での作戦が展開されることは確かだ」
(作戦か…)
シンはやや表情を曇らせて再びタブレットに眼を移した。
そこにはインパルスの最新の整備状況が記されていた。
整備は既に万全なのだが、この間のフリーダムとの戦いで、機体の反応が遅すぎると何度も苛立ったことが気になっている。相手の性能がインパルスよりわずかに上とはいえ、劣るスピードとパワー、そしてワンテンポ遅れる反応…無理をするとすぐに軋む機関部と、鳴り出すアラートが耳障りだった。
(けど、もうあれが限界だってヴィーノも技師も言ってたしなぁ…)
「ロゴスを討つなんて…議長御自身だって難しいっておっしゃってたのに」
ルナマリアとレイは、ロゴス討伐に沸く基地を見ながら話を続けていた。
「どうしてもやらねばと思われたのだろう。あの悲惨な状況を見られて」
「うん」
ルナマリアはベルリンの事を思い出しながら頷いた。
「それが本当に戦争を終わらせる唯一の方法なら、やるしかないかも」
そうだな、と言いながら、レイはシンに眼を移して聞いた。
「シンは気が乗らないか?対ロゴスは」
「え?…いや、そんなことはないさ」
インパルスの整備データに集中していたシンは、レイの突然の質問に顔をあげ、そして否定した。
「議長の言葉を聞いて、俺は感動したよ。議長、本当にやるんだって」
シンはそう言ってタブレットを閉じた。
「難しいって言ってたのに、諦めないんだって」
そしてそのまま何気なく部屋の隅のモニターを見て言った。
「悲劇の英雄ラクス・クラインも、ああ言ってるしな」
そこにはラクス・クラインが本国でロゴス討伐のキャンペーンイベントを繰り広げ、会場は連日大盛況であるいうニュースが流れていた。
ルナマリアが肘でつつくとシンは大げさに痛がり、それから急に真顔になった。
「議長が目指すものが、本当に平和で、本当に戦争のない世界なら…」
シンは手を組み、それを顎に当てて静かに呟いた。
「だったら俺だって、どんな敵とでも戦ってやるさ」
レイはしばらくシンを見つめ、それから頷いた。
やがてミネルバが完全に停止し、入渠が完了した。
するとすぐにメイリンが艦長を呼び、タリアは「何?」と返事をした。
「基地司令から、シン・アスカとアスラン・ザラに出頭命令です」
ブリッジがそれを聞いてざわめいた。
フリーダム撃破以来の2人の険悪さは、既に艦内でもよく知られている。
(シンが称えられるのは嬉しいけど…アスランさんはいつも一人ぼっちだ)
メイリンは共に憧れの存在である2人の関係の悪さに心を痛めていた。
(姉さんでさえも「あれはもうダメかもね」と匙を投げてるみたいだし)
かといって自分に何かできるわけでもない。メイリンはため息をついた。
タリアは、あからさまに嫌がるアーサーに司令部まで彼らの引率を命じた。
「仕方がないでしょ?あなたの仕事ですものね、アーサー」
アーサーは仕方なく2人を連れて用意されたカートに乗りこんだが、彼らは案の定視線も合わせないし口も利かない。車内には気まずい空気だけが流れた。
(ずるいよなぁ、艦長も)
途方に暮れるアーサーは、彼らを送り届けたらすぐに帰ろうと心に決めていた。
「さてと」
赤いハロをぽんぽん投げて手持ち無沙汰そうにしているラクスを尻目に、デュランダルは彼らを待っていた。
彼が2人を待っているのは司令本部の応接室ではない。
2人へのプレゼントを渡すため、このタイミングを計ってきた。
(これが最後のカードとなるか否か…)
やがて、アスランとシンが姿を現した。
「シン・アスカ、アスラン・ザラを連れて参りました」
デュランダルは2人を見ると微笑んだ。
なぜかハンガーに連れて来られ、しかも待っていたのが司令官ではなくデュランダルその人だったので、彼らの驚きもひとしおだ。
2人は並んで敬礼すると議長に挨拶をした。
「お久しぶりです、議長」
「先日のメッセージ、感動しました」
シンがにっと笑う。
「いや、ありがとう。私も君たちの活躍を聞いているよ」
色々あったが、よく頑張ってくれたねと議長はにこやかに言った。
「…ありがとうございます…」
アスランはややうつむき加減に礼を述べた。
議長にもらった「力」を、きちんと使いこなせぬまま失ってしまったこと、そして未だにFAITHとしてどのように権限を行使すればいいかもわからない自分の不甲斐なさがひしひしと心に迫って、自然、表情も硬くなった。
「アスラン!」
その時、駆け寄ってきたミーアが嬉しそうにアスランの手を取った。
「元気だったかい?」
「…う…」
アスランは言葉に詰まり、やや拒む様子を見せる。
「会いたかったよ!」
けれど取られた手にくちづけられ、議長の刺すような視線を感じては、ここであからさまに彼を拒絶する事はできなかった。
「…お久しぶりです…ラクス」
「本当に!会えて嬉しいよ、アスラン!」
ミーアはそう言いながら拒めないアスランを抱き締めた。
アスランの心には激しい嫌悪感が走ったが、今はただされるがままだ。
シンはそんなアスランの様子を冷ややかに見つめていた。
「さて、もう知っていることと思うが、事態を見かねて、遂に私はとんでもないことを始めてしまってね」
ミーアがアスランから離れると、デュランダルは話し出した。
「とんでもないこと…なんでしょうね、世界にとっては」
シンは少し考え込むように言った。
「でも、議長はそれこそが戦争のない世界への道だと?」
議長はシンの言葉に頷きながら答えた。
「私はそのために決意したのだよ。困難な道とはわかっているがね」
そこまで言うと、彼は二人を自分の背後に促した。
「また話したいことも色々あるが、まずは見てくれたまえ。もう先ほどから眼もそちらにばかり行ってしまっているだろう?」
議長はパイロットである2人が、ハンガーに入った時からチラチラと自分の後ろにある機体に眼をやっている事に気がついていた。
議長が手を上げると落とされていたハンガーの照明がいっせいに点灯し、2機の全貌を照らし出した。
シンもアスランも驚きのあまり息を呑んだ。
(見たこともない新型…これは一体…?)
「ZGMF-X42Sデスティニー。ZGMF-X666Sレジェンド。どちらも従来のものを遙かに上回る性能を持った最新鋭の機体だ」
デュランダルがこれまで万全の準備をさせていた夢の機体が、満を持して今、ザフトの真のエースの手に渡ろうとしていた。
シンはその禍々しくさえもある姿をまじまじと見つめている。
「詳細は後ほど見てもらうが、恐らくはこれがこれからの戦いの主役になるだろう」
―― きみたちの、新しい機体だよ…
その甘い囁くような声には聞き覚えがあった。
アスランは二の句が告げない。
このシチュエーション…このパターン…この…なんともいえない空気…
「俺の…新しい…」
シンのその言葉にアスランははっと彼を見た。
あの時のように…セイバーを拝領したかつての自分のように、シンもその流れに飲み込まれているのではないかと思ったのだ。
「うん」
議長は柔和な笑顔でシンに返事をしたが、アスランが思わず見たシンの表情は、まだ厳しいままだった。
(…シン?)
シンは黙ったまま、その「運命」という名の機体を…「デスティニー」を、ただひたすら見つめ続けていた。
「キラッ!?…うそ…っ!」
キラが救難信号を出したためかろうじてシグナルロストにはなっていないが、パイロットのバイタルは早くもレッドゾーンに入っていた。
切り離されたコックピットブロックには浮力がないため、急速に沈んでいく。
損傷が激しく、内部の酸素もいつまで持つかわからなかった。
「原子炉は!?」
「停止しています!放射線量も許容範囲内です!」
それを聞いたカガリが無言で立ち上がり、走り出した。
「あ、おい!」
「いいわ!」
ノイマンが振り返ったが、マリューは腕を上げてそれを制止した。
「ミリアリアさん、ストライクRを発進させて!パイロットの救助を最優先!」
カガリは逸る心を必死に諌めながらストライクRに乗り込むと、すぐに海中へと飛び出した。
(悪い予感が当たった…キラが…シンに…)
フリーダムの撃墜地点と沈没したと思われる海域の座標を受け取ってソナーとレーダーを展開したが、暗く冷たい海中からは何の応答もない。
「くそっ…キラ!どこだっ!」
キラは爆発の衝撃と熱でひどい怪我を負いながら、それでもほんのわずか、うっすらと意識を手放さずにいた。キラの耳にはかすかな声が聞こえている。
―― 誰…?誰かが何か言ってる…
(でもよく聞こえない…呼ばれているような気もするけど、なんだかとてもだるくて、暖かくて…)
…忘れ…な…よ……
(え?なに?なんて言ったの?)
…アス…ラ………じょ…
―― よく…聞こえないよ……ラクス…
(…ラクス?)
無意識に呼んだその名前に気づき、キラの閉じかけた唇がふと開いた。
溢れ出た血が口からゴボッと飛び出すと、コックピット内の残り少ない酸素が入ってきて肺に満ち、再開された呼吸が弱まりつつあった心臓を力づけて、ドクンと脈打った。
「全てが終わるまで、僕たち全員、無事に生き抜くことを」
ラクスの優しげな顔と穏やかな声が、傷ついたキラの脳裏に浮かぶ。
「キラも、カガリくんも、僕も…そして、今はいないアスランも」
(ああ、ラクスとの約束…守らなくちゃ…アスランとも、もう一回話をしなくちゃ…そしてカガリ…カガリを…オーブヘ…)
「キラッ!」
ちょうどその時カガリがキラを見つけ、コックピットブロックを大切に抱いた。
「大丈夫か、キラ!今助ける!だから…っ!」
その瞬間キラは微笑み、今度こそ安心して意識を失った。
「だめだ。海中はまだ荒れていてソナーは使えない」
ユーレンベックの捜索隊が、アークエンジェルが確実に撃沈されたという証拠を集めるために海中探査を続けているが、未だに確たる物証は出ていない。
「仕留めたにしては浮遊物が少ない」
「逃げられたか?」
ウィラードも苛立ちながら報告を待っている。
「ミネルバめ!あれだけのお膳立てをしてやったのに、あんな地球軍のロートル艦一つ、確実に仕留められんとはな。何をやっているんだ!」
ウィラードはなんとか戦果を手に入れろと口角泡を飛ばした。
「フォトン隊は範囲を広げて探索しろ。僅かな兆候も見逃すな!」
そのウィラードからは散々嫌味を言われ、いかなFAITHといえども貴様の独断専行については司令部に報告するからなと言われ、「ご自由に」と答えたタリアは、探索の報告を待ちながら艦長席でため息をついていた。
「ホント、毎度毎度、あの艦を相手にするとこんないやな気持ちになるのはなぜなのかしらね」
そんな彼女の愚痴を聞き、戦闘データの収集整理や、さしてないとはいえ艦の破損状況の把握に忙しくしていたアーサーが振り返って慰めた。
「でもまぁ、あのフリーダムを撃破したんですから」
「そうね」
しかしタリアにはそれもまた頭が痛い。
(アークエンジェルやフリーダム…昔の仲間を討つことにあれほど反対したアスランと、またひと悶着起こさなければいいのだけれど)
そう思ってしまってから、タリアは更に憂鬱な気分になり、ため息をついた。
「シーン!」
ボロボロのインパルスから降りてきたシンは、またしても大喜びのヴィーノに抱きつかれた。
「うっ…おまえなぁ…」
「ほんとにすごいよ、シン!」
最近ではもう、これはこいつの悪い癖なんだろうと諦めている。
整備兵たちもわらわらと駆け寄り、かつてザムザザーを倒した時のように、シンを囲んでその武勇を称えた。
「よぉ!やったな!」
「ほんとにやったのか?あのフリーダムを」
けれどもうシンは、あの時のように手放しでそれを喜びはしなかった。
「ああ…いや、それは…」
「シン!すごかった!!」
シンが何か言いかけた時、ルナマリアが駆け寄ってきたのでそれは遮られた。
シンはヴィーノの腕を外すと、ルナマリアのハイタッチを受けた。
「あんな戦い方…びっくりしちゃったわよ!」
「そうか?」
ルナマリアの明るい笑顔につられ、シンも少しだけ笑顔を見せた。
「よくやったな、シン。見事だった」
その後ろからはレイがやってきて微笑みながら手を差し出した。
「ありがとう。レイのおかげだ」
シンもまた手を差し伸べて握手をし、協力してくれた礼を述べた。
「やり遂げたのはお前だ」
レイが言うと、ヴィーノやヨウランも頷いた。
「そりゃもう絶対勲章もんだよ!」
「ほんと、無敵だな!」
再びクルーが称え始めたが、シンは少し困ったような顔をしているだけだった。
そんな中、ルナマリアは少し離れたところからアスランがシンを見つめていることに気づいた。
憂いを秘めたような表情からは何を考えているのか窺い知れない。
シンもまた、そんなアスランに気づき、2人は視線を交わした。
クルーたちの間には緊張が走った。
その後の関係はそれなりに良好だったが、インド洋の戦闘で彼らが同じ場所で衝突した事はさほど昔の記憶にはなっていないのだ。
やがてシンがアスランに近づいていくと、ヨウランやヴィーノが固唾を呑んだ。
ルナマリアもレイを見たが、レイは落ち着いた表情で見守っている。
「仇は…取りましたよ」
アスランは表情を変えずにシンの言葉を聞いていた。
しかしレイだけはその言葉に、ふと彼の事を思い出していた。
自分を救い出し、慈しみ、そして世界を憎んでフリーダムに、彼を生み出す原因となった「キラ・ヤマト」に討たれた彼を…
「あなたのもね」
アスランはその言葉を聞いてぎゅっと拳を握り締め、静かに言った。
「あのパイロットは…あなたを殺そうとはしていなかった…」
キラは、いつだってそんな事はしないのだ…アスランの瞳が伏せられる。
だがシンはそれを聞いて呆れたように笑った。
「しっかりコックピットを狙ってきましたよ。直撃なら死んでました」
「守るためよ…守るもののため、仕方なく戦おうとしただけ」
アスランは視線を逸らし、ボロボロになったインパルスを見上げた。
「それを、あなたは…」
「何わけのわかんない事言ってるんです?やめてくださいよ」
シンはうんざりしたように答えた。
「あのフリーダム相手に、俺は命がけで戦って勝ったんです」
「…勝った?」
アスランが唾棄すべき言葉を聞いたように首を振る。
「それがそんなに嬉しいの?」
急に緊張の糸が張り詰め、周囲がそのピリピリした空気に息を殺した。
(あんな風に命を狙われてなお、キラの反撃は致命傷を避けている)
ケーブルが千切れ、駆動部が剥き出しのインパルスを見てアスランは呟いた。
「…何が仇よ」
シンはその言葉を聞いてムッとし、一歩前に出た。
2人の距離が縮まると、周りの緊張感もさらにもう一段階高まった。
「なんなんですか!?俺が生きて戻っちゃいけなかったとでも!?」
「いいえ。あなたの戦いは…」
見事だった、と言おうとして言葉に詰まり、思わず歯を食いしばる。
それから努めて平静であろうとし、再びゆっくりと口を開いた。
「…私は、この作戦自体に疑問があるの。あなたに非があるわけじゃない」
そう言って背を向けたアスランを見て、シンは改めて怒りを覚えた。
(…何が俺に非はないだ。口と態度が裏腹じゃないか!)
彼女のこの厳しい拒絶に、自分への関心の薄さが浮き彫りになる。
―― ちゃんと俺を見ろ!そしてフリーダムが倒された事実を正面から見据えろよ!
「俺、嬉しいですよ?あいつを倒せて」
シンはアスランの背中に向けて先ほどの答えを挑発的に言った。
「あれだけの強敵をやっと倒せて、任務も遂行できましたしね」
「やめなさいよ、シン」
ルナマリアが小さな声で止めたが、シンは続けた。
「で?俺にどうしろっていうんです?あなたの死んだお仲間のために、泣いて喚いて悲しめってんですか?それとも祈れってんですか?」
アスランはしばらく黙り込み、「何も…」と言った。
「何もする必要はないわ」
シンはカッとなり、踏み出すとアスランの肩を掴んで振り向かせた。
「あんたはっ…!」
「シン!?」
それを見たルナマリアが驚き、ヴィーノとヨウランも慌てて止めにかかった。
「駄目だよ、シン!」
「こらこら、よせって!」
しかし、この2人の応酬は再び周りを驚かせることになった。
「やめてください、アスラン!」
レイの言葉に、その場にいた者は皆、(アスラン?シンじゃないのか?)と一瞬戸惑った。
しかし、常に冷静沈着なレイのその判断は正しかった。
肩を掴んで強引に振り向かせたシンの顎に向け、アスランは堅く握り締めた拳を下から突き上げていたのだ。
シンはまさか自分より華奢な彼女が攻撃に転じているとは思わず、それでも優れた反射神経で攻撃を察知したらしく、上半身はわずかに引いていた。
アスランの怒りに燃えた美しい碧眼が、シンの赤い瞳を射抜く。
もしそのまま拳が突き出されていれば、いくらシンが体格的に勝るとはいえ、ダメージはまぬがれなかったろう。アスランの動きには迷いがなかった。
非力ゆえに急所をよく知る拳だと、戦い慣れているシンは肌で感じた。
やがて警戒しながらシンが下がり、アスランもまた拳を胸元に引く。
ルナマリアは驚きで眼を見張り、ヨウランもヴィーノも完全に固まっている。
整備兵たちなど一触即発の雰囲気に、一歩二歩と後退り始めていた。
シンは手の甲で口を拭うと、ふっと息をついた。
「…俺と、本気でやる気ですか?」
「よせ、シン」
そこにレイが静かに割って入った。
「アスラン、あなたの態度もどうかと思います」
アスランは黙ってレイを見つめ、シンはヴィーノとヨウランになだめられている。
「確かにシンの態度に問題のあったことは認めますが、いかに上官と言えど、今の態度や言葉は、戦闘を終えて戻ったばかりの部下に対して理不尽ではないでしょうか」
アスランは何も答えない。
「アークエンジェルとフリーダムを討てと言うのは、本国からの命令です」
それはおわかりでしょうと言われ、「ええ」とアスランは答えた。
「シンはそれを見事に果たした。賞賛されても叱責されることではありません」
「…認めるわ」
アスランは硬い表情のまま頷いた。
「だから、任務を遂行したシンを責めるつもりはない」
「ではあなたは、あれが我々の敵とは認められないと?」
レイがその言葉の真意を探るように尋ねる。
アスランは少し考え込んでから言った。
「フリーダムもアークエンジェルも、敵じゃない」
「何言ってんですか!あれは…」
「シン、待てって」
苛立って前に踏み出そうとしたシンをヴィーノたちが再び押さえつける。
しかしそれより早く、レイの言葉がアスランの言葉を跳ね除けた。
「敵です」
アスランの瞳が相変わらず表情を変えないレイを睨む。
「あちらの思惑は知りませんが、本国がそうと定めたのなら、敵です」
迷いすら見せずに言い放つレイの言葉を聞いて、アスランはかつての自分を思い出した。
―― 国、軍の命令に従って敵を討つ。それでいいと思ってた。仕方ないって。それでこんな戦争が一日でも早く終わるならって…
そこにはキラと出会ってしまう前の自分がいた。
その後も迷いながら、キラと戦う事は間違っていると思いながらも、やめる事ができず、結局行き着くところまで行った自分がいた…
―― アスランが信じて戦うものは何?頂いた勲章?お父上の命令?
「レイ…私たちは…」
「そうです、我々はザフトですから」
アスランの意図とは別に、レイはその言葉を勝手に引き取って続けた。
「議長と最高評議会に従うものなのですから。それが定めた敵は敵です」
―― 敵だというなら、僕を討つか?ザフトのアスラン・ザラ
アスランは言葉に詰まり、レイの怜悧な表情がアスランを見つめた。
「何が敵であるかそうでないかなど陣営によって違います。人によっても違う。相対的なものです。それは御存じでしょう?あなたも」
(レイは自分の過去について言及している)
青い瞳に射られながら、アスランはその意図に気づいた。
(そして今の自分にも。ザフトにもアークエンジェルにも居場所がない、孤独な自分にも…)
「そこに絶対はない」
シンとアスランの対決による緊張感に包まれていたその場が、いつになく饒舌なレイの言葉で変わっていくのが感じられる。
「あなたの言っていることは、個人的な感傷だ。正直、困ります」
気付けば、皆がアスランに不審そうな眼を向けている。
アスランは「わかったわ」と呟いた。ここでは、自分こそが「異物」であり、「異端」だった。
「だけど、私たちが討つべきはアークエンジェルでもフリーダムでもない。それだけは覚えておいて」
そう言い残し、今度こそ踵を返した。
「アスラン…」
ルナマリアだけは彼女に声をかけたが、シンは「放っとけよ」と言う。
(俺は討ったんだ…あなたの言う、勝手な正義を振りかざす破壊者を…)
やり場のない怒りが収まらず、シンは思わず拳を握り締めた。
(なのに、今もまだあいつは正しくて、俺は間違ってるっていうのか!)
3日間ほどバイタルがかなり危険な域にあり、カガリはミリアリアの援けを借りながら、ほとんど不眠不休でキラの様子を見守っていた。
自分では手に負えなかったら、何としても医師に診せると言うと、誰もがその危険を犯しても、キラを救う事に賛成してくれた。
しかしキラのしなやかな筋肉と柔軟な体は、特に重要な臓器を守りきり、気温の上昇に強い皮膚が火傷や熱傷を最小限に留めさせた。
数十針の裂傷程度は、再生医療が進んだ今、さして問題にはならない。
カガリは改めてキラの身体が、恐らくこの世の誰よりもハイスペックであり、怪我や病気にどこまでも強いことを実感していた。
(こうして見れば、ただの普通の女の子なのにな…)
カガリがキラの頬をつつくと、偶然にもその時キラが眼を覚ました。
「カガリ…」
「よく眠れたか?」
キラは笑ったが、長く閉じていたせいか口がうまく動かない。
カガリは点滴の調節をし、バイタルが安定し始めた事を確認した。
「皆は…?」
「無事だ。誰も傷ついてないよ。おまえのおかげで」
「…よかった…」
キラはそう言うと再び深い眠りに落ちた。
カガリはしばらくキラの柔らかい髪を撫で、やがてブリッジに連絡を入れた。
「私だって名を挙げた方々に軍を送るような、馬鹿な真似をするつもりはありません」
演説以来、デュランダル議長は連日連夜インタビューに答えていた。
「ロゴスを討つというのはそういうことではない」
デュランダルはこれまでの戦争の歴史、彼らの裏の顔である軍需産業の利益がいかにリンクしているかなど、わかりやすくデータで表し、柔和な語り口調で自身の論を展開し続けていた。
「ただ彼らの創るこの歪んだ戦争のシステムを、今度こそもう本当に終わりにしたいのです」
それと同時に、各地で起き始めたロゴスへの襲撃や私刑もニュースを騒がせた。
彼らは大概地球軍の重鎮に名を連ねていたり、国際組織の要員だったりするので、彼らを守るのが地球軍である事も扇動されやすい民衆を大いに刺激した。
「くっそー!」
「騙されてるのはおまえたちだぞ!コーディネイターの奴らに!」
投げられた石つぶてに追われ、兵たちが退散していく。
ひどい時は武装した民衆と軍が衝突し、散水や催涙弾が放たれ、時には銃弾が飛び交う中で、デモや暴徒の鎮圧が行われていた。
そんなナチュラルたちの様子を見て、イザークは腕を組み、口をへの字に曲げている。
(こりゃ相当ご機嫌斜めだなぁ)
ディアッカがため息をつくと、後ろから黒服と紫服の文官の話が聞こえてきた。
「しかしロゴスを討つと言っても、具体的には何をするつもりなんでしょうかねえ?議長は」
「名を挙げた企業製品の不買運動かな?」
笑いあう彼らの方を振り向いたイザークは、そのままつかつかと歩み寄った。
「笑い事ではないわ!」
彼らはいかな白服とはいえかなりの若僧から叱責を受けて驚いた。
「は?」
「な、なんだ…?」
「実際大変なことだぞ、これは!ただ連合と戦うより遙かに!」
「イザーク、よせよ」
ディアッカが「すいませんねぇ」と言いながらイザークの腕を引っ張ってその場から離そうとしたが、イザークはそれを振りほどいて喚いた。
「少しは自分でも考えろ!その頭はただの飾りか?」
あっけにとられる彼らを後に、イザークは頭に血を上らせて休憩室を出た。
「おまえ、お疲れのおっさんたちの寛ぎタイムを邪魔するなよ」
後を追ってきたディアッカが声をひそめて言うと、イザークはまた怒鳴った。
「くだらん事を言っているからだ!」
「あーあ。おまえの頭は、今に爆発するぜ?」
「うるさいっ!」
ディアッカは走るように歩くイザークを見て鼻の頭を搔いた。
「まぁ、議長はロゴスと戦うわけじゃないとは言っているが…」
「連合…いや、連邦と結びついているような連中だ。当然火種になるぞ」
怒鳴りつけた事で少し落ち着いたらしいイザークが肩をすくめた。
「連合ももはや昔のようには結びついていないからな」
「ユーラシア西側か」
イザークは返事をする代わりにパシッと拳を掌に打ちつけた。
「連中が議長に賛同すれば、俺たちと共同戦線を張ることになるかもしれん」
「そりゃ今までにない構図だな」
ディアッカが苦笑した。
「地球経済は大混乱。軍や国家は思想の違いで分断されちまうかもな」
「だから大変な事になると言ってるだろうが!」
イザークがギロリと睨んだのでディアッカはまぁまぁとなだめた。
「そうなっても、俺たちは目的を見失わない…だろ」
ニヤニヤしながらディアッカが言うと、イザークは「ふん!」と鼻を鳴らした。
「わかっていればいい。行くぞ」
2人が立ち去ってからも、デュランダルのインタビューは続いていた。
「コーディネイターは間違った危険な存在と、わかり合えぬ化け物と、何故、あなた方は思うのです?」
彼は、前大戦の根となった憎しみを植えつけたのは誰なのかと訴える。
「己の身に危険が迫れば、人は皆戦います」
ラクスは小さな部屋でインカムから聞こえる彼の声に耳を傾けていた。
「それは本能です。だから彼らは討つ。そして討ち返させる」
(仕掛けるのはお互い様だ)
調査データを整理し終わったラクスは、モニターを見つめながら独り言ちた。
画面には、執拗に自分を追い続けたあの過激派のリーダーが、仰々しいサングラスをかけた栗色の髪の女と密会しているらしい画像があった。
彼女が何者なのか、情報が入って以来、ダコスタやヒルダたちに探らせているのだが、未だに正体がわからない。
むしろ腕利きの彼らが調べても何も出てこない事が不自然極まりなかった。
「今あるものを壊さなければ新しいビルは造れない。畑を吹き飛ばさなければ飢えて苦しむ人々に食料を買わせることが出来ない。平和な世界では儲からないから、牛耳れないからと、彼らは常に我々を戦わせようとするのです」
建設の前には破壊がある…それは価値観や観念も同じだった。
かつて自分たちコーディネイターが登場したことが古き地球人の価値観を破壊し、180度の転換をさせたように、新たな価値観や理念を前にすると世界は大概、混沌に沈むものなのだ…
(ならばいっそのこと、その前に混沌に落としておけば?)
そう考えながら、こんなのはまるで禅問答だとラクスは楽しそうに笑った。
デュランダルは確かに、真に平和を望む人間にも見える。
世界を導くためには、力と共に多くの高度な「技術」も必要だ。
(彼は今その両方を兼ね備えた世界最強の存在だ)
再び充実した戦力を持つザフト、そしてラクス・クラインという偶像を利用して一つになったプラント、「英雄戦争」によるナチュラルとコーディネイター、両者からの支持…
(だからこそ、それを脅かす存在を排除したいと思っているんだろう?)
―― どうしてもあなたの思い通りにならない、厄介な僕たちを。
「こんなことは本当にもう終わりにしましょう」
議長はモニターの中で訴えている。
「歩み寄り、話し合い、今度こそ彼らの創った戦う世界から共に抜け出そうではありませんか!」
ふっとラクスは笑った。
いつの間にか、世界は彼らロゴスが創ったものになってしまっている。
「こんな大量の兵器など持たずとも人は生きていけます…か。確かにね」
ラクスは立ち上がり、小さくて狭い詰め所の扉を開いた。
そこには巨大なファクトリーのドックがあり、技師たちが忙しなく機体の調整を行っている。
ラクスの姿を見るや、あちこちからわらわらと人々が寄ってきて作業の報告や相談にやってきた。
建造が熱望されたドムトルーパーは、目の前でほぼ完成に近づいている。
テキパキと指示や助言を行ってさばき終わると、ラクスは軽く壁を蹴り、二つの機体が並ぶハンガーを眺めた。
静かに佇むその機体が、今、剣を失って回復の途上にある彼女の新たな力となるように。
そして今なお迷い、惑い、悩み続けているだろうもう1人の彼女にとっても。
(きみはきっとまた、たった1人で悩み苦しんでいるんだろうね)
ラクスはこんな状態のザフトにいるアスランを想った。
真面目で融通の利かない彼女が、キラと戦い、父の思想に疑念を持ちながら、正しい道はどこにあるのかを必死に探そうとしていた日々を思い出しながら。
(そしてどんなに苦しくて辛くても、それをやめようとしないんだ)
ラクスはふっと微笑んだ。
「生命は、戦わなければ生きる道を見出せない事もある」
ラクスは誰にも聞かれないよう、ポツリと呟いた。
「それはあなたもよく知っているんじゃないかな…デュランダル議長」
「ロード・ジブリール!」
一体どこからどう情報が漏れたのか、ジブリールの豪奢な屋敷の門前には、武器を持った殺気立った暴徒が詰め掛けていた。
「ブルーコスモスの親玉だ!引きずり出せ!」
ジブリールは脱出の算段を整えながら、屋敷の外に集う暴徒が、電磁防壁をショートさせて屋敷内に進入してくる様子に怒りを抑えきれずにいた。
わなわなと震え、歯を食いしばって汚らわしい愚民どもを見つめている。
「ジブリール!」
音声のみの通信機からはルクス・コーラーの声がした。
一方でブルーノ・アズラエルは必死に叫んでいる。
「助けてくれ!暴徒が屋敷にまで…」
「ジブリール!何とかしろ!うわぁ!」
アズラエルもコーラーも断末魔の声を残し、後には多くの人々の怒号や何かが壊れる音、叫び声、物音しか聞こえなくなった。
ジブリールは怒りのあまり通信機を薙ぎ払って机から落とした。
どこのロゴスも似たようなものだった。
脱出できた者には合流先を知らせてある。
そこで彼はもう一度態勢を立て直すつもりでいた。
「こんな…こんな馬鹿なことが…くそっ!デュランダルめ!」
ジブリールはモニターの中で「この戦いを早く終わらせましょう」と語る彼を憎しみの眼で見た。
「許さん…許さんぞ、コーディネイターめ!」
こうした現象は世界中で起きており、ロゴスとは関係ない暴動や、この機に乗じた紛争やテロが起こり、内乱に発展する国も後を絶たなかった。
しかし混乱するのは地球ばかりで、プラントは至って平和だった。
それがまた議長の強い求心力や敏腕ぶりを内外に知らしめ、ますます評価を高めている。
「ああ、わかった。それでいい。今後もそうした申し入れは、基本的にはどんどん受けてくれたまえ」
デュランダルはロゴス征伐に参加する意思を示した連合指揮下の国々や、安全保障条約を締結する同盟参加国にも門戸を開き、共にロゴスと戦おうと呼びかけた。
そしてイザークの言うとおり、賛同した地球軍は共同戦線を敷こうと続々と集結し始めていた。「敵は連合ではない」という建前が、参加を加速させた。
いまや彼らの着ている制服にもあまり意味がなくなりつつあった。
さらに議長が「ジブラルタルをロゴスと戦うための軍事拠点として賛同者に開放する」と伝えて以来、各国から連絡がひきもきらない。
そんな渦中のジブラルタル沖に、東アジア共和国の艦隊がいた。
ユーラシア同様、連合の旗の下にありながらも、連邦のゴリ押しの際は常に捨て駒として苦渋を舐めさせられてきた東アジア共和国では、最近は反連邦意識が強く、そんな中でデュランダルの呼びかけに応じてザフトにコンタクトを求めたのだ。
この艦に乗ってまだ日は浅いが、これは願ってもないチャンスだと考え、レドニル・キサカは甲板でジブラルタル方面の様子を窺っていた。
彼はオーブ陸軍情報部と中立国が共同で行う諜報任務に就いている。
諜報員として東アジア共和国に潜入して連合の動きを探るなど、本来一佐であるキサカがじきじきに行うような任務ではないが、彼をカガリの傍から引き離そうと企んだセイランの裏工作でこの任務に就かされ、1年近くが経とうとしていた。
折りしもジブラルタルには、クレタ沖海戦でオーブ艦隊を破ったザフトの英雄艦ミネルバが入港するという情報も掴んでおり、艦の性能や武装、搭載モビルスーツなどの詳しい情報も入手したいと思っていた。
ミネルバがオーブに入港した時は、彼は既に故国を離れていたからだ。
(クレタではタケミカヅチが撃沈され、トダカ一佐が戦死したという)
キサカは眉をひそめた。
(温厚で、若い部下たちからも慕われる心優しき武人だった)
けれど今、それ以上にキサカの心をざわめかせているのは、数々の戦場に現れては戦闘に介入すると噂される「アンノウン」の事だった。
(予想はつくが…)
そう思いつつ、キサカはふと、久々に自身の携帯用タブレットを開いてみた。
この偶然の行動により、彼は自分とその彼ら「アンノウン」が今現在、ごく近い距離にいるという事実を知る事になる。
運命とは果たして、必然なのか偶然なのか。
キサカの存在はこの後、戦局に大きな意味を持つ事になる。
北海までの寄り道で時間をロスしたミネルバがジブラルタル海域に入った頃、南ヨーロッパはすでに春爛漫で、日によっては初夏のような陽気だった。
「ん~!いい天気!」
すっかり傷の癒えたルナマリアが上着を脱ぎ、半袖のアンダー姿で大西洋を眺めながら太陽を浴びていると、レイとの射撃訓練を終えたシンがやってきた。
「そんな事してるとますます色が黒くなるぞ」
「黒くないもん!」
ルナマリアは抗議したが、透き通るような白い肌を持つシンと比べられては勝ち目がないので、「ふんだ!」と拗ねてみせる。
「いよいよジブラルタルだね」
「ん?ああ…」
頬杖をついて海原を眺めるシンを見て、ルナマリアはあれ以来、ほとんど口も利かなくなったシンとアスランの仲を心配して言った。
「ねぇ、もう仲直りしたら?」
「……誰と」
「わかってるくせに」
ルナマリアもシンの真似をして頬杖をついた。
「フリーダムのパイロットって、どんな人だろうね?」
「はぁ?知らないよ、そんなの」
「あれだけ怒るって事は…アスランの彼氏だったりして!」
それを聞いたシンは呆れたように笑った。
「ラクス・クラインがいるのにか?それじゃ、自分だって浮気がどうのなんて言えないじゃないか」
(あ、そっか)
ルナマリアはシンがあの偽ラクスがまだ本物だと思っていることに気付いた。
「…皆、やっぱり騙される…よね」
「え?」
ボソボソと呟いたルナマリアの声が聞き取れず、シンが聞き返した。
「ね、シンは…あのラクス・クラインがもしも…その…」
「ラクス・クラインが…なんだ?」
シンの声が思ったより堅かったため、ルナマリアははっと口を閉ざした。
見ればシンは至極真面目な…それを通り越して険しい表情でこちらを見ている。
ルナマリアはすぐに自分の失態に気づき、慌ててごまかそうとした。
「ううん、ごめん。なんでもない」
そう言うと踵を返し、足早に扉に向かった。
「やっぱり日に焼けちゃうから、もう入ろ」
「え…あ、おい」
シンは怪訝そうに眉をひそめ、そのまま彼女を追った。
「でも、何もこんな時に…議長が御自身で地球へ降りられなくとも」
クリスタは自らジブラルタルに降りると宣言して議員たちを驚かせた議長に苦言を呈した。
「指示はここからでも十分お出しになれますのに」
「そういう問題ではないよ」
議長は不安げに彼を見守る議員たちににこやかに答えた。
「旗だけ振ってあとは後ろに隠れているような奴に、人は誰もついては来ないだろう?」
彼と共にジブラルタルに降りる事になったラクスや、相変わらず露出の激しい衣装を着たクラインガールズの女の子たちも議長の後ろに控えている。
ロゴス討伐のキャンペーンイベントが大盛況で、追加がひきもきらない彼らに、たまには休暇をとりなさいと議長が手を回してくれ、共に行く事になったのだ。
(ようやくアスランに会える)
ミーアは凛とした美しい彼女を想って浮かれていた。
ジブリールの屋敷は既に暴徒によって占拠され、世界中にある彼の別宅も全て人々や軍、政府によって抑えられたが、彼の行方だけは杳として知れなかった。
もちろんデュランダルは彼らが地球軍の庇護を受けていることなどお見通しで、彼らが隠れているのはアイスランドにある地球軍基地、ヘブンズベースであると断言し、全世界に発表していた。
ヘブンズベースは前大戦において、アズラエルたち連合の高官が詰めて戦局を動かしていた基地である。それはすなわち、ロゴスやブルーコスモスがはびこる巣窟であるといえた。
「しかし、すごいものだね、人々の力は。恐ろしくもあるよ」
デュランダルは世界中で巻き起こった「打倒ロゴス」の叫びと動きに苦笑した。
「まさかここまで彼らが一つになるとは思わなかったからね、私も」
彼としてはさほど大きな労力を使ったつもりはない。
ただ人々の不満を汲み、解放者としてザフトの英雄性を高め、それによってナチュラルとコーディネイターを融和させた。
彼が蒔いた種は芽吹き、今はちょうど青々と茂り始めたところだ。
(やがてこの種は大輪の花を咲かせる…ロゴスを討ったその先の世界で)
「議長のお言葉に皆奮起しているのですわ」
クリスタは美しい顔で微笑んだ。
「本当に戦争のない世界にできるなら、と。皆、望みは一つですから」
「できるさ。皆がそう望めば」
議長は見送りの議員たち一人ひとりと握手を交わした。
一つの目標に向かって邁進する今こそ、プラントもより強固な団結をと言って。
「では、後を頼むよ」
デュランダルはラクスたちを伴い、シャトルへと乗り込んだ。
シャトルの座席で、デュランダルは早速中型のモニターを開いて、アークエンジェル探索の報告が届いていないか確認した。
(ウィラード隊からの報告…アークエンジェルの撃沈は未だ確認できぬものの、フリーダム撃破は間違いなし)
何枚かの写真が、明らかにフリーダムの機体と思しき破片を映し出している。
コックピットブロックと原子炉がまだ発見されていないことは気になるが、ミネルバ及びシン・アスカが送ってきた報告書とインパルスの戦闘データにも、フリーダムが対艦刀で貫かれている映像が残っている。
(白のクィーンを仕留めた…これでチェックメイトか?)
デュランダルは手で口を押さえた。
(いや、油断は出来ないな…白のキングの采配は侮れん…)
それから彼は傍に控えている黒服に声をかけた。
「クラーゼクに連絡を取っておいてくれ」
クラーゼクは偽者のラクス…すなわち、本物のラクスとバルトフェルドがディオキアの宇宙港からシャトルをハイジャックして宇宙に上がった時に放たれた追撃隊の隊長である。デュランダルはこの、たかが一介のテロリストの追撃に、現在もフル稼働で生産されている品薄のグフを20機近く配備させていた。
「例のシャトル強奪犯の件はどうなっているのかと」
それを聞いて、ミーアが眉を顰めた。
(本物のラクス・クラインが、今もどこかにいて何かをしている)
議長がラクスを気にする素振りを見せると、ミーアはいつも不安になった。
(もし本物のラクス様が現れたら、議長は僕と入れ替わらせるのかな)
いつしか逆転の発想になっていることに、ミーアは気付いていない。
(そりゃ、本物のラクス様が現れるまで、と思ってきたけど…でも…)
可愛い女の子たち、どこにいっても喜ばれる絶大な人気、敬われ、称えられ、尊敬され…そして何よりも、美しいアスランをいつか自分のものにできるのだ。
ミーアは宇宙の闇に眼をやった。
(僕こそがラクス・クラインだ)
―― 今頃になって本物が出てきたって…僕は…きっと!
「大丈夫か、おい」
「うん、ごめん…ありがと」
カガリが小さなキラを抱き起こしてベッドに座らせた。
キラは順調に回復し、今日は処置室から出て別の部屋に移る予定だ。
何しろここにはカーテン一枚しかなく、医務室にはネオがいるのだから。
すっかりカガリの助手が板についてきたミリアリアは、包帯やガーゼを替えたり、いくら医療技術者とはいえ男のカガリには憚られる処置を買って出てくれていた。
「私も医療ライセンス取ろうかな」
「おお、向いてるよ。取れ取れ」
ミリアリアがキラの背を支え、クッションを挟み込みながら言うと、カガリは身を乗り出して頷いた。実際、細やかで優しい彼女のケアは、そこいらの衛生兵よりよほど優れている。
「じゃ、カガリは医者になってよ。引退後は一緒に診療所やろう」
「なんだ、逆プロポーズか?誰かさんに怒られるなぁ」
からかわれたミリアリアは真っ赤になり、「バッカじゃないの!」と言ってニヤニヤ笑うカガリを小さなクッションでばしばし殴った。
キラはそんな風にふざける2人を見て笑っていたが、ギャッジアップしたベッドの背にもたれるとほっとひと息をついた。
「でもよかったな。傷もそうひどくはないし」
カガリがキラの足や腕の傷を診ながら言った。
けれど、本当はかなりの重傷だったのだ、初めは。
何よりキラの場合、治り始めてからの回復力が異常だった。
カガリはこれまで、こんなに回復の早い患者を見た事がない。
かつてクライン邸でも医師たちがキラの驚異的な回復力に驚いたように、カガリもまたバイタルデータを書き換えるたびに、最高のコーディネイターの信じがたい「力」をまざまざと見せつけられるのだった。
(しかも一歩間違えば…これは俺だったかもしれないんだもんな)
ヒビキが選んだ受精卵が自分ではなくキラだった事を思うと、運命の妙を感じる。
「でも、フリーダムが…」
再び目覚めた時、フリーダムが完全に破壊されたと聞いたキラは愕然とした。
直前に原子炉を止めたおかげで放射性物質の流出はなかったが、激しい爆発で機体は9割方、失われてしまっていた。
以来、キラはその事ばかり気にしてはため息をついている。
「あれを墜とされちゃったら…私は…」
「何言ってんだ、キラ。今はそんなこといいから…」
気にするな…毎回そう言って慰めながら、カガリはチクリと胸が痛んだ。
(俺がちゃんと…インパルスとあれに乗っているヤツの事を話しておけば…)
オーブを憎み、アスハを憎むシン・アスカのことを、なぜかこれまでキラには話さないままだった。
(キラは…もっとうまく切り抜けられたかもしれない…)
「インパルスにやられたって?」
「え?」
3人は突然聞こえてきた質問に思わず振り返った。
カガリがカーテンから顔を出すと、ネオがニヤニヤしている。
「聞いてたのかよ」
「ざまみろ。ふん」
大人げのないその言い方がまさしくかつての「彼」を髣髴とさせ、ひどい事を言われたのに、キラもミリアリアも困ったように笑ってしまった。
「真っ直ぐで勝ち気そうな小僧だぜ、インパルスのパイロットは」
「会った事あるのか?あいつに…」
「ああ。一度な」
ネオはそう言って、目線を落とした。
(ステラを…戦争とは無縁の世界に帰せと、そう言って睨んでいた)
約束は破られ、ネオも今はもう、ステラは死んだだろうと確信していた。
(あいつはきっと俺を一生許さないだろう…俺が自分を許せないように)
「おまえもあいつを知ってるのか?」
ネオに聞かれ、カガリは肩をすくめて言った。
「知ってる。よく」
「どんどん腕を上げてるぞ」
「ああ…ホント、あいつはすご…っ!!」
言い終わる前に、カガリの姿がいきなり消えた。
2人の会話を聞いていたキラがますます暗い顔になったので、ミリアリアが彼をカーテンのこちら側に引っ張り込んだのだった。
「もう!インパルスの事なんか、今はどうでもいいでしょ!」
「あ、ああ…悪い」
怒るミリアリアに、カガリはばつが悪そうに謝った。
「しかしこの艦は何をやってんだ?この間は俺たちと戦ったくせに、今度はザフトが敵かよ」
カガリが顔を引っ込めても、ネオはまだ話しかけてきた。
「そうね」
そんな彼には背後から回答があり、ネオはぎょっとして振り返った。
そこにはマリューが立っており、彼女はそのままカーテンを開けて中に入る。
「大丈夫なの?キラさん」
「はい、もう」
「そう、よかったわ」
マリューは優しく微笑み、アークエンジェルも状態はかなり悪いが、上手くルートを選べばオーブまで何とか辿り着けそうだと言った。
「…そうですか」
キラにとってオーブに帰れる事は、不安半分、安心半分だった。
「ほら、食べろって、おまえも」
カガリがそんなキラの気持ちを汲み取ったように、食事をキラの口元に運んだ。
キラは「え?あの…」と戸惑っている。
ミリアリアがそんな微笑ましい2人の写真を撮ってくれた。
マリューがカーテンを閉めて部屋を出ると、再びネオが話しかけた。
「オーブの艦なのか?やっぱりこいつは…」
「ん~……どうなのかしらね?」
マリューは務めて平静を装い、最愛の恋人と同じ顔、同じ声の男に答える。
「じゃ、そこでどうするんだ?俺は…」
ネオが様子を窺うようにマリューを見つめた。
マリューはちょっと頭を傾げた。元より、自分たちは正規軍ではない。
しかし、次の彼の言葉はマリューだけでなく、カーテンの向こうのキラたちの心臓も凍りつかせた。
「ムウ・ラ・フラガ…ってのは…」
ネオはその名を噛み締めるように呟いた。
けれど心に喚起するものが何もないと知ると、彼はごくあっさりと尋ねた。
「あんたの何なんだ?」
カーテンの向こうのマリューの表情が見えない3人は思わず顔を見合わせた。
(その人自身から、ムウさんが何者なのか、なんて…)
けれどやがてマリューが答えた。静かで、抑揚のない物言いだった。
「戦友よ。かけがえのない。でも、もういないわ」
ネオはその答えに何も答えず、キラたちもまた黙りこくった。
「こちらジブラルタルポートコントロール。LHM-BB01、ミネルバの到着を歓迎する」
さほど時をおかず、ミネルバはついにジブラルタルに到着した。
アーサーは地球におけるザフト軍基地としてはカーペンタリアと双璧をなす、その堂々たる基地の姿を見て、感嘆の声をあげた。
「これより貴艦を二番プラットホームに誘導する。ビーコン確認をどうぞ」
「こちらミネルバ。了解。ビーコンを確認する」
マリクが答え、後はビーコンの誘導に任せればいい。
戦いを重ね、メインパイロットとして操艦を一手に引き受けてきたマリクもようやく息をついた。
「やれやれ、これで少しは休めるぞ」
自動操艦で進んで行くミネルバのクルーは、停泊しているボズゴロフ級やコンプトン、レセップス、ビートリー級などの地上戦艦、他にもガズウート、バクゥ、ディン、ザク、そしてようやく一般兵にも配備が開始され始めた量産型の青いグフが居並ぶ基地の光景を見ながら沸き立っていた。
グーンやゾノ、まだなかなか目にする機会がない新型のアッシュなども所狭しと基地内を闊歩しており、バビの大編隊が次々と荒っぽく舞い降りてくる。
それは結局行われなかったミネルバの進水式典の準備に沸いていた、かつてのアーモリーワンを思い出させる、活気に満ちた様相だった。
「いや、すごいですね!」
アーサーがタリアの横に立ちながら感心したように言った。
「付近の全軍に集結命令が出ているのは知っていましたが、こうして見ると壮観です」
「剣を取らせるには、何よりその大義が重要である…」
「へ?」
「誰だったか忘れたけど、指揮官講習の教官が言ってた言葉よ」
アーサーはタリアが急に何を言い出したのかと困った表情で見た。
「討つべき敵とその理由が納得出来なきゃ、誰も戦えないもの。今、私たちにははっきりとそれが示された」
ロゴスを討つというあの人の言葉に、世界はまるで熱にでも浮かされたように爆発的に感染し、パンデミックを起こした。
「ありがたいことかしら?軍人としては」
「はぁ…」
結局最後までアーサーは生返事のままだった。
やがてメイリンの声がミネルバに響き渡り、ジブラルタルへの入港シークエンスが開始された。
持ち場のある艦員はバタバタと忙しそうに走り回っているが、インパルスの整備が終わっているシンや、ザクがレストアに出されているレイやルナマリアは、今は特に何もやる事がない。
「ジブラルタルに入って、俺たち、次はどうすんのかな」
タブレットを眺めていたシンがぼそりと聞いた。
「さあな。だが先日の議長の言葉に沿った形での作戦が展開されることは確かだ」
(作戦か…)
シンはやや表情を曇らせて再びタブレットに眼を移した。
そこにはインパルスの最新の整備状況が記されていた。
整備は既に万全なのだが、この間のフリーダムとの戦いで、機体の反応が遅すぎると何度も苛立ったことが気になっている。相手の性能がインパルスよりわずかに上とはいえ、劣るスピードとパワー、そしてワンテンポ遅れる反応…無理をするとすぐに軋む機関部と、鳴り出すアラートが耳障りだった。
(けど、もうあれが限界だってヴィーノも技師も言ってたしなぁ…)
「ロゴスを討つなんて…議長御自身だって難しいっておっしゃってたのに」
ルナマリアとレイは、ロゴス討伐に沸く基地を見ながら話を続けていた。
「どうしてもやらねばと思われたのだろう。あの悲惨な状況を見られて」
「うん」
ルナマリアはベルリンの事を思い出しながら頷いた。
「それが本当に戦争を終わらせる唯一の方法なら、やるしかないかも」
そうだな、と言いながら、レイはシンに眼を移して聞いた。
「シンは気が乗らないか?対ロゴスは」
「え?…いや、そんなことはないさ」
インパルスの整備データに集中していたシンは、レイの突然の質問に顔をあげ、そして否定した。
「議長の言葉を聞いて、俺は感動したよ。議長、本当にやるんだって」
シンはそう言ってタブレットを閉じた。
「難しいって言ってたのに、諦めないんだって」
そしてそのまま何気なく部屋の隅のモニターを見て言った。
「悲劇の英雄ラクス・クラインも、ああ言ってるしな」
そこにはラクス・クラインが本国でロゴス討伐のキャンペーンイベントを繰り広げ、会場は連日大盛況であるいうニュースが流れていた。
ルナマリアが肘でつつくとシンは大げさに痛がり、それから急に真顔になった。
「議長が目指すものが、本当に平和で、本当に戦争のない世界なら…」
シンは手を組み、それを顎に当てて静かに呟いた。
「だったら俺だって、どんな敵とでも戦ってやるさ」
レイはしばらくシンを見つめ、それから頷いた。
やがてミネルバが完全に停止し、入渠が完了した。
するとすぐにメイリンが艦長を呼び、タリアは「何?」と返事をした。
「基地司令から、シン・アスカとアスラン・ザラに出頭命令です」
ブリッジがそれを聞いてざわめいた。
フリーダム撃破以来の2人の険悪さは、既に艦内でもよく知られている。
(シンが称えられるのは嬉しいけど…アスランさんはいつも一人ぼっちだ)
メイリンは共に憧れの存在である2人の関係の悪さに心を痛めていた。
(姉さんでさえも「あれはもうダメかもね」と匙を投げてるみたいだし)
かといって自分に何かできるわけでもない。メイリンはため息をついた。
タリアは、あからさまに嫌がるアーサーに司令部まで彼らの引率を命じた。
「仕方がないでしょ?あなたの仕事ですものね、アーサー」
アーサーは仕方なく2人を連れて用意されたカートに乗りこんだが、彼らは案の定視線も合わせないし口も利かない。車内には気まずい空気だけが流れた。
(ずるいよなぁ、艦長も)
途方に暮れるアーサーは、彼らを送り届けたらすぐに帰ろうと心に決めていた。
「さてと」
赤いハロをぽんぽん投げて手持ち無沙汰そうにしているラクスを尻目に、デュランダルは彼らを待っていた。
彼が2人を待っているのは司令本部の応接室ではない。
2人へのプレゼントを渡すため、このタイミングを計ってきた。
(これが最後のカードとなるか否か…)
やがて、アスランとシンが姿を現した。
「シン・アスカ、アスラン・ザラを連れて参りました」
デュランダルは2人を見ると微笑んだ。
なぜかハンガーに連れて来られ、しかも待っていたのが司令官ではなくデュランダルその人だったので、彼らの驚きもひとしおだ。
2人は並んで敬礼すると議長に挨拶をした。
「お久しぶりです、議長」
「先日のメッセージ、感動しました」
シンがにっと笑う。
「いや、ありがとう。私も君たちの活躍を聞いているよ」
色々あったが、よく頑張ってくれたねと議長はにこやかに言った。
「…ありがとうございます…」
アスランはややうつむき加減に礼を述べた。
議長にもらった「力」を、きちんと使いこなせぬまま失ってしまったこと、そして未だにFAITHとしてどのように権限を行使すればいいかもわからない自分の不甲斐なさがひしひしと心に迫って、自然、表情も硬くなった。
「アスラン!」
その時、駆け寄ってきたミーアが嬉しそうにアスランの手を取った。
「元気だったかい?」
「…う…」
アスランは言葉に詰まり、やや拒む様子を見せる。
「会いたかったよ!」
けれど取られた手にくちづけられ、議長の刺すような視線を感じては、ここであからさまに彼を拒絶する事はできなかった。
「…お久しぶりです…ラクス」
「本当に!会えて嬉しいよ、アスラン!」
ミーアはそう言いながら拒めないアスランを抱き締めた。
アスランの心には激しい嫌悪感が走ったが、今はただされるがままだ。
シンはそんなアスランの様子を冷ややかに見つめていた。
「さて、もう知っていることと思うが、事態を見かねて、遂に私はとんでもないことを始めてしまってね」
ミーアがアスランから離れると、デュランダルは話し出した。
「とんでもないこと…なんでしょうね、世界にとっては」
シンは少し考え込むように言った。
「でも、議長はそれこそが戦争のない世界への道だと?」
議長はシンの言葉に頷きながら答えた。
「私はそのために決意したのだよ。困難な道とはわかっているがね」
そこまで言うと、彼は二人を自分の背後に促した。
「また話したいことも色々あるが、まずは見てくれたまえ。もう先ほどから眼もそちらにばかり行ってしまっているだろう?」
議長はパイロットである2人が、ハンガーに入った時からチラチラと自分の後ろにある機体に眼をやっている事に気がついていた。
議長が手を上げると落とされていたハンガーの照明がいっせいに点灯し、2機の全貌を照らし出した。
シンもアスランも驚きのあまり息を呑んだ。
(見たこともない新型…これは一体…?)
「ZGMF-X42Sデスティニー。ZGMF-X666Sレジェンド。どちらも従来のものを遙かに上回る性能を持った最新鋭の機体だ」
デュランダルがこれまで万全の準備をさせていた夢の機体が、満を持して今、ザフトの真のエースの手に渡ろうとしていた。
シンはその禍々しくさえもある姿をまじまじと見つめている。
「詳細は後ほど見てもらうが、恐らくはこれがこれからの戦いの主役になるだろう」
―― きみたちの、新しい機体だよ…
その甘い囁くような声には聞き覚えがあった。
アスランは二の句が告げない。
このシチュエーション…このパターン…この…なんともいえない空気…
「俺の…新しい…」
シンのその言葉にアスランははっと彼を見た。
あの時のように…セイバーを拝領したかつての自分のように、シンもその流れに飲み込まれているのではないかと思ったのだ。
「うん」
議長は柔和な笑顔でシンに返事をしたが、アスランが思わず見たシンの表情は、まだ厳しいままだった。
(…シン?)
シンは黙ったまま、その「運命」という名の機体を…「デスティニー」を、ただひたすら見つめ続けていた。
PR
この記事にコメントする
制作裏話-PHASE35-
本編も残り15話となってきて、無印の頃同様、「こんなちんたらやってて終わるのだろうか…」「デスティニーは未だに出ないし、議長が何をしたいのかよくわからないし」と視聴者が浮き足立ってきた頃です。しかし物語は相変わらずちんたらしています。
私がこの話を見て思ったのは、ああ、この物語は「シンが撃破した」ではなく、「キラが撃破された」事がメインなんだなぁということでした。
初っ端からカガリがキラを助けに向かい、キラが生きている事が示唆されたからです。せめてしばらく生死不明でもいいのにと冷たいことを思いましたが、逆転のキラは「主人公に対抗しうるキャラ」としての役割を十分果たしているので、カガリが助けに行く過程と、ラクスの約束を思い出すシーンを入れて「支えられている」という象徴にしました。いつも守る側であるキラも、ちゃんと皆に守られているということですね。アークエンジェルがカガリとキラを中心にまとまっていく反面、ミネルバで孤独を深めていくアスランとの対比も意識しています。
この話最大の見せ場であり、最大の改変を加えたのは、シンとアスランの対決です。
本編では命懸けで戦ってきたシンを、アスランは問答無用で殴り飛ばします。シンの態度も悪いですが、いきなり殴ったアスランも悪い。種時代は本編で一度も人を殴らなかった彼と同一人物とは思えません。しかも言ってる事が支離滅裂です。「アークエンジェルは敵じゃない」って、そんな私見が本気で通用すると思ってるんでしょうか。
ここはどうしても変えたかったことと、逆転のアスランは女性なのでまさかいきなりシンに殴りかからせるわけにもいかないので、静かな火花を散らせようと思っていました。
アスランも努めて平静であろうとし、物事を公平に見ようとします。組織としての軍の行動(=作戦)に疑念があり、シン個人を責めることはしないと軍人として理知的な判断もしています。
「勝った?」というくだりの会話も、「勝つことが正義を正義たらしめる」と考えているシンと、迷いの見えるアスランらしいのではないかと思います。ここでは意思疎通がうまくできない両者の苛立ちが、徐々にヒートアップしていく様子を描写したつもりです。
そんなアスランを見て、シンはついに見捨てられたと感じてしまうのです。命懸けで闘った自分より、フリーダムのパイロットが正しいと言う(そうは言っていないのですがそう聞こえる)アスランに憤りを覚え、挑発的な言葉を投げつけます。
アスランがそれを軽くかわしたことで、両者に火がつきます。
ここは非力でありながらも格闘術に長けたアスランが一撃必殺を狙うというシーンにしようと以前から決めていたので、その緊張感が少しでも出ていれば本望です。適応障害に苦しんでいたシンも喧嘩慣れしているので、この思いもかけない攻撃を本能的に避けている、という描写も入れたかったので満足です。
レイに論破される時も、アスランはそこに過去の自分を見ます。自分がミネルバではいつしか「孤独な異端者」となってしまったことも自覚します。けれどアスランは、そんなアウェー状態であっても、自分の思う「正しさ」を主張する事を恐れません。こうした描写を意図的に行っている目的についてはもう何度も説明していますが、後にラクスが指摘する、アスランの「力」のためです。
キラが目覚めるシーンは創作ですが、シンの事をきちんと伝えなかった事をカガリに後悔させたかった(本編では単に制作側が忘れていただけだと思いますが)ことと、最高のコーディネイターの肉体の強さを示すために描写しました。
最高の遺伝子のおかげで見る見る元気になったキラですが、反面、フリーダムを失った事ですっかり意気消沈しています。
本編で、ネオがシンの事を話すシーンではポカーンとしているだけだったカガリにビックリしたので、ここではちゃんとネオと会話させました。(その場にいた連中の中でカガリほどシンを知る人間はいないでしょうが!)
シン(インパルス)のすごさをあっさり認め、ミリアリアに「無神経」だと怒られてしまうのもカガリらしくていいと思います。
逆転のカガリとミリアリアは男女の枠を越えて仲良しなので、お互い冗談を言い合ってふざけあっています。「師匠と弟子」であり、戦友であり、ナチュラル同士であるので、屈託のない友達という設定です。こんな仲のよさを見て、逆転のアスランはクールビューティなのであまりヤキモチを焼かないかもしれませんが、ディアッカはどうでしょうかね。ディアッカとカガリも逆種で仲よくなりましたから、無駄には焼かないかな。
これは私の勝手な設定裏話ですが、戦後、ミリアリアは医療技術者の資格を取得したと思います。戦場カメラマンに復帰するにしても、医療技術が役に立たないはずがありませんから。ちなみに逆転でいう「医療技術」は、医師のそれにかなり近い行為まで許されると定義しています。
今回は話が面白くない時の逆転の特徴として、こうした創作シーンもかなり多いです。
またまた出てきたイザークとディアッカには、ただ怒鳴るだけではなく、「ロゴスを討つことで何が起きるのか」を、会話として語ってもらいました。2人とももう子供ではないのですから、こうした落ち着いた2人を「見せる」シーンを入れれば、物語も牽引できる上に、ファンサービスにもなると思うんですけどね。キャラはただ出せばいいというものじゃないでしょうに。
デュランダルの動向を探りながら、ラクスもまた武装を整えています。カガリがやがてたどり着くはずの「闘うべき時は、恐れず闘わねばならない」という事に、ラクスは既に気づいているからです。そして「闘い」とは、決して「戦い」だけではありません。生命として抗う事、生きようと必死でもがく事も「闘い」であると、健やかな肉体を失ったラクスだからこそ、誰よりも知っているとしたかったのです。
もちろん本編の歌姫と違って、議長と一連の事件についても着々と調査を進めています。今回はサラの姿が見え隠れしていますが、まだ彼女の正体には行き着けていません。いきなり出てきたサラも、こんな風に絡めておくとなかなか使いでがありますね。
そして今回、本編では同じくいきなり出てきてビックリだったキサカも登場します。彼がなぜ地球軍にいたのかなどは結局本編では語られませんでしたが、逆転では後の活躍の布石として、PHASE14で既に登場してもらい、おいしいところを持っていかせています。キサカがいなかったらアスランは間違いなく海の藻屑となっていたので、まさに彼こそが「運命の審判者」だったわけです。
チェスがお好きな議長は本編ではラクスを「白のクィーン」と呼びましたが、逆転では正真正銘、最強の駒であるクィーンがキラという事になります。そしてこちらのラクスはまさにキングですしね。
そのラクスと「取り替えられるかも」などと、本末転倒な事を考え始めているミーアにも、ひたひたと悲劇と別離が迫っています。
アスランが議長の手前、彼のハグを拒めないシーンは、PHASE19や21の頃に比べると重苦しいですね。
ネオとマリュー、ジブリールたちロゴスへの襲撃、ミネルバのジブラルタル入渠などはあまり変えていませんが、シンたちが会話するシーンに、シンがもうインパルスでは限界だと想いを馳せるシーンを入れました。デスティニー登場を盛り上げるための演出ですが、それにしてもやっぱり初出撃が「仲間の撃墜」って、例がないガンダムですよね、デスティニーって…
ミネルバの甲板でルナマリアが「仲直りしたら?」と言うと「誰と」ととぼけるシンは結構気に入ってます。こんなシーンがあればシンやルナマリアのキャラがもっと浮き彫りになってよかったと思うんですけどね。こうやって両者に気を遣うルナマリアが優しい女の子である事も示せて一石二鳥ですし。
それと同時にルナマリアの謎めいた言葉にシンが疑問を持つシーンは創作ですが、これは次回の「アスラン脱走」に繋がっていきます。本編では「もうこれはダメかもしんないね」と多くの人を絶望させた「アスラン脱走」。逆転ではこれを一体どう救おうかと相当苦戦しております。
なお、本編は「新しいおもちゃをもらった子供のような笑顔のシン」で終わりましたが、逆転のシンは思慮深いのでむしろ厳しい表情で自分の新たな「力」を睨んでいます。次回、議長を追い詰めるシンの戦術に注目です。
私がこの話を見て思ったのは、ああ、この物語は「シンが撃破した」ではなく、「キラが撃破された」事がメインなんだなぁということでした。
初っ端からカガリがキラを助けに向かい、キラが生きている事が示唆されたからです。せめてしばらく生死不明でもいいのにと冷たいことを思いましたが、逆転のキラは「主人公に対抗しうるキャラ」としての役割を十分果たしているので、カガリが助けに行く過程と、ラクスの約束を思い出すシーンを入れて「支えられている」という象徴にしました。いつも守る側であるキラも、ちゃんと皆に守られているということですね。アークエンジェルがカガリとキラを中心にまとまっていく反面、ミネルバで孤独を深めていくアスランとの対比も意識しています。
この話最大の見せ場であり、最大の改変を加えたのは、シンとアスランの対決です。
本編では命懸けで戦ってきたシンを、アスランは問答無用で殴り飛ばします。シンの態度も悪いですが、いきなり殴ったアスランも悪い。種時代は本編で一度も人を殴らなかった彼と同一人物とは思えません。しかも言ってる事が支離滅裂です。「アークエンジェルは敵じゃない」って、そんな私見が本気で通用すると思ってるんでしょうか。
ここはどうしても変えたかったことと、逆転のアスランは女性なのでまさかいきなりシンに殴りかからせるわけにもいかないので、静かな火花を散らせようと思っていました。
アスランも努めて平静であろうとし、物事を公平に見ようとします。組織としての軍の行動(=作戦)に疑念があり、シン個人を責めることはしないと軍人として理知的な判断もしています。
「勝った?」というくだりの会話も、「勝つことが正義を正義たらしめる」と考えているシンと、迷いの見えるアスランらしいのではないかと思います。ここでは意思疎通がうまくできない両者の苛立ちが、徐々にヒートアップしていく様子を描写したつもりです。
そんなアスランを見て、シンはついに見捨てられたと感じてしまうのです。命懸けで闘った自分より、フリーダムのパイロットが正しいと言う(そうは言っていないのですがそう聞こえる)アスランに憤りを覚え、挑発的な言葉を投げつけます。
アスランがそれを軽くかわしたことで、両者に火がつきます。
ここは非力でありながらも格闘術に長けたアスランが一撃必殺を狙うというシーンにしようと以前から決めていたので、その緊張感が少しでも出ていれば本望です。適応障害に苦しんでいたシンも喧嘩慣れしているので、この思いもかけない攻撃を本能的に避けている、という描写も入れたかったので満足です。
レイに論破される時も、アスランはそこに過去の自分を見ます。自分がミネルバではいつしか「孤独な異端者」となってしまったことも自覚します。けれどアスランは、そんなアウェー状態であっても、自分の思う「正しさ」を主張する事を恐れません。こうした描写を意図的に行っている目的についてはもう何度も説明していますが、後にラクスが指摘する、アスランの「力」のためです。
キラが目覚めるシーンは創作ですが、シンの事をきちんと伝えなかった事をカガリに後悔させたかった(本編では単に制作側が忘れていただけだと思いますが)ことと、最高のコーディネイターの肉体の強さを示すために描写しました。
最高の遺伝子のおかげで見る見る元気になったキラですが、反面、フリーダムを失った事ですっかり意気消沈しています。
本編で、ネオがシンの事を話すシーンではポカーンとしているだけだったカガリにビックリしたので、ここではちゃんとネオと会話させました。(その場にいた連中の中でカガリほどシンを知る人間はいないでしょうが!)
シン(インパルス)のすごさをあっさり認め、ミリアリアに「無神経」だと怒られてしまうのもカガリらしくていいと思います。
逆転のカガリとミリアリアは男女の枠を越えて仲良しなので、お互い冗談を言い合ってふざけあっています。「師匠と弟子」であり、戦友であり、ナチュラル同士であるので、屈託のない友達という設定です。こんな仲のよさを見て、逆転のアスランはクールビューティなのであまりヤキモチを焼かないかもしれませんが、ディアッカはどうでしょうかね。ディアッカとカガリも逆種で仲よくなりましたから、無駄には焼かないかな。
これは私の勝手な設定裏話ですが、戦後、ミリアリアは医療技術者の資格を取得したと思います。戦場カメラマンに復帰するにしても、医療技術が役に立たないはずがありませんから。ちなみに逆転でいう「医療技術」は、医師のそれにかなり近い行為まで許されると定義しています。
今回は話が面白くない時の逆転の特徴として、こうした創作シーンもかなり多いです。
またまた出てきたイザークとディアッカには、ただ怒鳴るだけではなく、「ロゴスを討つことで何が起きるのか」を、会話として語ってもらいました。2人とももう子供ではないのですから、こうした落ち着いた2人を「見せる」シーンを入れれば、物語も牽引できる上に、ファンサービスにもなると思うんですけどね。キャラはただ出せばいいというものじゃないでしょうに。
デュランダルの動向を探りながら、ラクスもまた武装を整えています。カガリがやがてたどり着くはずの「闘うべき時は、恐れず闘わねばならない」という事に、ラクスは既に気づいているからです。そして「闘い」とは、決して「戦い」だけではありません。生命として抗う事、生きようと必死でもがく事も「闘い」であると、健やかな肉体を失ったラクスだからこそ、誰よりも知っているとしたかったのです。
もちろん本編の歌姫と違って、議長と一連の事件についても着々と調査を進めています。今回はサラの姿が見え隠れしていますが、まだ彼女の正体には行き着けていません。いきなり出てきたサラも、こんな風に絡めておくとなかなか使いでがありますね。
そして今回、本編では同じくいきなり出てきてビックリだったキサカも登場します。彼がなぜ地球軍にいたのかなどは結局本編では語られませんでしたが、逆転では後の活躍の布石として、PHASE14で既に登場してもらい、おいしいところを持っていかせています。キサカがいなかったらアスランは間違いなく海の藻屑となっていたので、まさに彼こそが「運命の審判者」だったわけです。
チェスがお好きな議長は本編ではラクスを「白のクィーン」と呼びましたが、逆転では正真正銘、最強の駒であるクィーンがキラという事になります。そしてこちらのラクスはまさにキングですしね。
そのラクスと「取り替えられるかも」などと、本末転倒な事を考え始めているミーアにも、ひたひたと悲劇と別離が迫っています。
アスランが議長の手前、彼のハグを拒めないシーンは、PHASE19や21の頃に比べると重苦しいですね。
ネオとマリュー、ジブリールたちロゴスへの襲撃、ミネルバのジブラルタル入渠などはあまり変えていませんが、シンたちが会話するシーンに、シンがもうインパルスでは限界だと想いを馳せるシーンを入れました。デスティニー登場を盛り上げるための演出ですが、それにしてもやっぱり初出撃が「仲間の撃墜」って、例がないガンダムですよね、デスティニーって…
ミネルバの甲板でルナマリアが「仲直りしたら?」と言うと「誰と」ととぼけるシンは結構気に入ってます。こんなシーンがあればシンやルナマリアのキャラがもっと浮き彫りになってよかったと思うんですけどね。こうやって両者に気を遣うルナマリアが優しい女の子である事も示せて一石二鳥ですし。
それと同時にルナマリアの謎めいた言葉にシンが疑問を持つシーンは創作ですが、これは次回の「アスラン脱走」に繋がっていきます。本編では「もうこれはダメかもしんないね」と多くの人を絶望させた「アスラン脱走」。逆転ではこれを一体どう救おうかと相当苦戦しております。
なお、本編は「新しいおもちゃをもらった子供のような笑顔のシン」で終わりましたが、逆転のシンは思慮深いのでむしろ厳しい表情で自分の新たな「力」を睨んでいます。次回、議長を追い詰めるシンの戦術に注目です。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
ブログ内検索