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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「いいか?」
先にレジェンドを起動させたレイがシンに状況を聞いた。
調整はまだ完全には終わっていないが、パワーフロー良好、エンジン音、各部チェックも異常がない。
デスティニーのパネルが全て輝きだしても、シンの表情は曇ったままだ。
(あいつに、メイリンにあんな勇気があったなんて…)
頭脳明晰でそれなりに優秀なのだが、いかんせん気弱な性格が災いし、いつも姉のルナマリアの蔭に隠れていた。そんなメイリンが銃弾の前に飛び出したのだ。
(あの人を…アスランを庇って…)
「油断するなよ、追うのはアスラン・ザラだ」
それでもシンが返事をせずにいるので、レイは「シン」と呼んだ。
「ヤツは保安部に追われ、それを打ち倒して逃走した。機体性能は劣っても、抵抗されれば何があるかわからない…それはわかっているな?」
「…ああ」
シンは「わかってる」と答えてさらに発進準備を進めた。 
「A55警報発令中。42、666スタンバイ」
(フリーダムは敵じゃない、か)
シンの瞳が闇を見通すように水平線に向けられた。
(アスラン…あんたが俺が望む世界の前に立ちはだかるというなら…)
シンはデスティニーのエンジンの唸りをその手に感じながら眼を閉じた。
やがてその高鳴りと共に眼を開く。赤く、美しい瞳がそこにはあった。
「俺は、おまえを討つ!」

拍手


デスティニーは荒海に向かって飛び立つと、シンはその滑らかな動きと加速力に感心した。手早く調整を続け、さらに安定した飛行姿勢の維持を計る。
(へぇ…大したもんだ)
デスティニーのスタビライザーが優秀なことに加え、スラスターの微調整を行うパイロットの腕も重要だったが、そんなものはシンにとって造作もないことだ。
やがて、ドラグーンユニットを背に担いだレジェンドが接近してきた。
「行くぞ!本当に逃げられる!」
レイは加速し、シンもまたそれに続いた。

「なんだ?警報?」
真夜中近くまでかかった入渠で、東アジア共和国の兵たちはこの時間になってようやく任務から開放された。
そんな時、先ほどから何度も鳴っている警報が再度響き渡ったのだ。
「おい、どうしたんだ?」
兵たちがわらわらと海を眺めると、稲光が激しく光り、荒れ狂う海を1機のモビルスーツが飛んでいくのが見えた。
「ザフトのモビルスーツ?」
「哨戒か?その割には…」
キサカもまた、この騒ぎを兵たちと共に見つめていた。
深夜なので大きな騒ぎにはなっていないが、基地内ではバギーやカートが走り回り、サーチライトがついたり消えたりして落ち着かない。
仲間たちと合流したルナマリアもまた、やけに胸騒ぎがしていた。さらに激しくなってきた雨風が不安を煽る。
騒動の顛末を聞いてから慌てて医務室に行ったのだが、アスランに殴られたと言っていたメイリンは治療に来ていなかった。そう聞いて弟の部屋に戻ってみると、こちらももぬけの殻だったのだ。
(メイリン…こんな嵐の中、一体どこへ行ったの?)
そこにきてこの騒ぎだ。
シンはアスランと司令部に出かけて以来戻っていない。
レイもいつの間にかいなくなってしまった。
「艦に戻った方がいいのかな?ねぇ、どうしよう?」
「わかんないよ。一体、何がどうしちゃったんだろうね」
窓の外を見ていたヴィーノが振り返り、肩をすくめた。
(あ、艦長…?)
そんな彼の肩越しに、バギーから降りてくるタリアが見えた。
「あ、おい、ルナ!?」
「私、話、聞いてくる!」
ルナマリアはそう言うと走り出した。

議長のいる司令部には続々と隊長クラスが集まり、先ほどからざわついている。
「グフを奪われただと?追撃は!?」
「は、ただちに命令を…」
黒服の一人が答えたところで、デュランダルが手を上げてストップをかけた。
「それはもう、シンとレイに命じた」
モニターにデスティニーとレジェンドが既に出撃したというデータが映される。
レーダーでマークされた2機は、ひどい嵐の中をものともせず飛んでいた。
「それより今、これ以上騒ぎを大きくしないようにしてくれないかね」
デュランダルは落ち着いた声で言った。
この騒ぎを、また立ち聞きしていたミーアは、アスランがあのまま脱走したと知って崩れ落ちそうだった。
(アスラン…なんてことを…)
こんな大きな基地で、こんなに多くの兵を相手に、たった1人で逃げ切れるわけがない。
ずぶ濡れになりながら、それでも笑顔を向けてくれた彼女を、差し伸べられた白く細い手を思い出し、ミーアはまた頭を振った。
(あの時、僕がちゃんと止めてあげれば…)
「妙なデマが飛ぶと、参集してくれた各国の軍にも影響する。それは今、非常に好ましくない」
既にいくつかの国からは、一体何事かと問い合わせが入っていた。
あれだけ警報が鳴り、基地がざわめけば無理からぬ事だ。
議長はくれぐれも慎重に事を運ぶよう釘を刺した。
そして今回は自分もやや迂闊だったと眉根を顰めた。
(あの娘を始末するのは、もう少し泳がせてからでもよかった…シン・アスカが手に入った事で少し浮かれてしまったかな)
どんな敵とでも戦うと言い、アスランにも共に戦うかと問いかけたシンの強い口調を思い出しながら、議長は思った。
(信じているよ、きみを…必ず彼女を討ち取るとね)
「ホストに侵入した端末が特定できたのですが…」
その時、セキュリティの洗い直しをしていたオペレーターが報告を上げた。
それによって基地に陽動の警報を流させた端末は、ミネルバ所属のメイリン・ホークの部屋のものと判明したため、司令部は再びざわめいた。
デュランダルには彼の顔すらも思い出せなかったが、協力者がアスランと同じミネルバクルーとなると、ますます彼女のスパイの嫌疑を強くできる。
「それで?ホークはどうした?」
ちょうど同じ頃、司令本部にはタリア・グラディス艦長が到着した。
彼女は途中で会った赤服のルナマリアを連れている。
「アスランがスパイ容疑って…一体どういうことなの?」
デュランダルは「まだ何もわからないのだ」と言うと、レイを呼び出した。
たった今、アスラン・ザラの幇助者がタリアの指揮する同じミネルバのクルーだとわかったばかりなので、周囲は固唾を呑んで彼らの会話を聞いている。
(シン…レイ…)
ルナマリアは、呼び止めたタリアからあの騒ぎの後、アスランがレイとシンに発砲し、さらにモビルスーツを盗んで逃げたらしいと聞いていた。
「そんな…アスランが…どうしてですか?」
「私にだってわからないわ、そんな事!」
苛立つタリアに頼み込んで司令部まで同行させてもらう事になったのだが、次の議長の言葉は、ルナマリアを絶望のどん底へと叩き落した。
「レイ、きみがアスランを追っている時、メイリン・ホークの姿を見なかったか?」
(えっ!?)
ルナマリアは地面が突然ぐにゃりと揺れたような感覚を覚えた。
(…何?議長…今、なんて言ったの?)
レイはいつも通りの感情を読ませない声で言った。
「メイリン・ホークはアスランと一緒です。今も」
司令部ではおおっ…というどよめきが起きた。
ルナマリアは「うそっ!」と叫んで両手で口を押さえ、よろめいた。
タリアがそんな彼女の背中を抱き、「しっかりなさい!」と囁く。
「…あなたは出ていなさい。あとでちゃんと説明するから」
タリアはそのままルナマリアに退室を促した。
(この先、見たくないものを見ることになるかもしれない…)
そう予感しての事だったが、真っ青になりながらもルナマリアは気丈に言った。
「いいえ…いいえ、艦長。私、ここに…!」
その青い瞳は弟を案じて不安に満ちていたが、それ以上に、一体何が起きたのか知りたいという強い意志が宿っていた。
「…見届けます。本当にメイリンがアスランと一緒なら…私…」
「ルナマリア…」
心配そうなタリアに、震える手を握り締めながらルナマリアは頷いた。

「アスランと?それは人質ということか?」
一方、レイの報告を聞いたデュランダルがもう一つの可能性を尋ねた。
シンはその問いかけに、「そうだ」と答えようかと考えた。
しかしそれ以上に早く、レイがきっぱりと否定してしまった。
「いえ、そうではないと思います」
(レイ…)
メイリンだけでも助けてやりたいという想いは確かにあった。何より、メイリンに何かあればルナマリアが哀しむと思うといたたまれない。
けれど実際にはメイリンは彼らの眼の前でアスランを庇い、アスランの手を取った。
それがシンの返答を一瞬躊躇させたのだ。レイは報告を続けていた。
「メイリンは抵抗もせず、アスランと共にグフのコックピットに上がりました」
彼の言葉を聞いた司令室ではざわざわとさざなみのように動揺が広がった。
「やはりな」
「同じ艦にいたなら当然だ」
真実と嘘と事実が取り混ぜられて、一つの結論に達していく。
ほんのわずかなレイと議長の会話だけで、アスランが主犯、メイリンが単なる「幇助犯」から「共犯」へと大きく格上げになってしまっている。
「そうか。ではメイリン・ホークは連れ去られたのではなく、あくまでも自らの意思でアスラン・ザラに同行した…そういうことだな?」
(メイリン…!!)
ルナマリアは眩暈を起こしそうになりながらも必死に耐えていた。
「彼は情報のエキスパートです。こうなった経緯はわかりませんが、このまま逃がせばどれほどの機密が漏れるかわかりません」
「いや…」
この流れを少し変えようとシンが口を挟むと、ルナマリアがはっと顔をあげた。
「逃げられる前に捕らえます!」
しかしレイはチラリとモニターのシンを見ると、「それでは甘い」と言い放った。
「脱走は絶対に阻止すべきものと考えます。議長、撃墜の許可を」
「レイ!ちょっと待ちなさい!」
今度はタリアが血相を変えて割り込んだ。
「まだ…」
「許可する」
けれどそれはあっさりと許可され、タリアは思わず振り返った。
「…議長!?」
彼女の抗議を手で遮ると、デュランダルは冷静に、冷徹に言った。
「レイ、シン。事態は一刻を争う。頼んだぞ」
もともとアスランの始末が目的なのだ。
ザコが1匹、一緒にいようがいまいが議長には何の影響もなかった。

「レイ、メイリンは…」
「だめだ」
議長との通信が切れると、シンは声をかけてみたが、レイは冷たく言い放った。
「おまえも見ただろう?メイリンは拒まなかった。脅されていたんじゃない」
「それは…」
そう答えながらも、シンは自分が見た光景を思い出して腑に落ちなかった。
アスランは「メイリンは関係ない」ときっぱり言っており、メイリン自身も丸腰だった。
(それに、先に撃ったのはおまえだろ、レイ)
シンはアスランに撃たれてうずくまっていたレイを思い出していた。
「確かにそうだけど…」
「そういうことだ。行くぞ」
既に2者の策敵範囲には逃げるグフが捕捉されている。
迷っている時間などなかった。
「右から追い込む。前へ回り込め!」
レーダーには沖へと逃げていくグフの光がある。
「こんなことで…」
その時レイが搾り出すように呟いたので、シンはふとレジェンドを見た。
「議長と、それに賛同する人々の想いが無駄になったらどうする!」
「レイ…」
「ロゴスの征伐は目の前なんだぞ?世界中が議長に従って共に戦うと言っている今、ここでの裏切りなど許せるはずもない」
珍しくはっきりと意思を示すレイの言葉を聞きながら、シンは無言のままだった。
(ロゴスを倒す…それで、戦争の根を潰す…)
「覚悟を決めろ、シン!俺たちで防ぐんだ!」
確かに、議長が目指す世界、自分が求める世界に近づいている今、アスランの行動はあまりに短絡的に思えた。
だがシンはそれには答えなかった。
「とにかく、ヤツを捕らえよう」
「シン、命令は撃破だぞ!」
シンの言葉に、レイが念を押した。
「わかってる」
(でも、それはあくまでも最終目的だ)
シンは標的であるレーダーの中の点をじっと見つめていた。

さしものアスランもこの嵐の中では機体制御が難しく、グフは時折乱気流にスラスターを取られて思うようにスピードが出せずにいた。
忙しなく手を動かして機体を調整する彼女の複雑な動作を見ながら、適性がないと判断されてパイロット養成コースを脱落したメイリンは感心し、思わずため息をついた。
(これが赤服か…そりゃ雲泥の差だよ、僕たちとは…)
その時、レーダーが機影を捉えたことを知らせるアラートが鳴った。
「掴まって!」
アスランがそう叫んだのと、激しい衝撃に襲われたのが同時だった。
(X666S…レジェンド…!?)
ライブラリ照合により、それが自分が拝受するはずだった機体だと気付く。
自分以外にあの機体を操るに足る技量を持つ者は、恐らく1人しかいない。
「…レイ!」
その時、レジェンドのロングライフルが容赦なく火を噴いた。
アスランは荒れる気流の中でパワーを上げようとシフトを入れた。
しかし、全てにおいて状況は不利だ。
セイバーほどのパワーも出ないグフで、新型からどこまで逃げ切れるか…けれどやらなければ、確実に殺されることは明白だった。
(私だけでなく、メイリンまで…!)
しかしその時、彼らの目前には絶望と言う名の闇が口を開けていた。
アスランは稲光が走った瞬間、暗い海の先に立ちはだかる影を見た。
グフは逆噴射をかけて止まり、アスランもメイリンも息を呑んだ。
再び激しい稲光が光った時、そこにはデスティニーが待っていた。
「シン…」
アスランは背筋が凍った。
ハンガーでシン自身に会った時と同じく、デスティニーはグフにライフルを向けている。
「何で…こんなことになるんだよ…」
ビームが数発放たれると、アスランはシールドを構え、同時に横滑りした。
しかしシンはその程度の動きでは翻弄されない。
正確な射撃でビームが掠めるたびに、熱対流で機体が大きく揺れた。
アスランも必死に回避しているが、デスティニーの射程は広い。
「さんざん俺に正義を語っておいて、結局は逃げるのか!」
「…!」
アスランはその言葉に胸を貫かれた。
だが今はその痛みに耐えながら、ただ相手の隙を窺うしかない。
けれどシンはさらにスピードをあげてグフの逃げ道を塞ぎ、攻撃を加えた。
「シン!やめて!踊らされているのよ、あなたも!」
「何であんたは…」
シンはギリッと唇を噛んだ。
「いつもいつもそうやって!自分だけが正しいみたいに!」
そして急激に加速すると上昇し、今度は下方のグフに向けてライフルを撃つ。
水面すれすれを飛ぶグフの周りに激しい水飛沫が上がり、彼らの視界を遮った。
「くっ…」
デスティニーは今度は急降下し、グフに向かってパンチを繰り出した。
アスランは横っ飛びに逃げ、そのまま海面すれすれで溜めてから上昇する。
空振ったデスティニーは勢いあまって海面に突っ込んだ。
「この野郎…!」
シンはすぐに強力なスラスターのパワーをあげて海面から脱出すると、逃げるアスランを追った。
激しい格闘と気流の乱れでグフは激しく揺れ、メイリンはしゃがみこんでシートにしがみついている。情けない事に、怖くて顔を上げる事もできなかった。

「違う!あなたも聞いたでしょう?議長は…!」
「そんな手は通じない!」
アスランは上昇して逃げようとしたが、そこに再びレジェンドが攻撃に加わり、射線が増えたために逃げ道を塞がれた。レイはバックパックの小型ドラグーンの砲門を開くと、すべてを前面に動かし、グフに狙いを定めた。
「見苦しいですよ、アスラン!」
「…っ!レイ!」
放たれた射線は凄まじく、アスランは水面を滑るようにして逃げた。
(なんて火力…)
畳み掛ける攻撃は容赦がなく、このままではやがて追い込まれてしまう。
「逃げんなよ!」
はっと気付いた時、少ない逃げ道をデスティニーが塞いでいることに気づいた。
後ろからはレジェンドの攻撃、前からはデスティニー。
どちらも手ごわいが、アスランにとってはまだシンの方が話になると思われた。
「降伏しろ!」
ライフルを撃ってくるシンの左へとアスランは機体を旋回させた。
「シン、聞いて!議長とレイは…」
「シンッ!シン・アスカッ!」
恐る恐る頭を上げたメイリンも、勇気を振り絞ってアスランの後ろから叫んだ。
(…メイリン?)
その声に、シンの攻撃の手が一瞬止まる。
「アスランさんの話を聞いて、シン!僕たちはただ…」
しかしその途端、デスティニーとグフの間に再び激しくビーム砲が撃ち込まれた。
「奴らとの戯言はやめろ、シン!」
8門のドラグーン仕様のビームと、レイが構えたビームライフルのビームがグフのシールドをかすめ、グフは耐え切れずに衝撃で吹っ飛んだ。
「ああっ!」
「うわぁっ!」
アスランは機体を立て直すために懸命にスラスター操作を続け、メイリンは銃弾で傷ついた腕をしたたかに打って呻いた。
「ヤツは裏切り者だぞ!話などするな!」
「レイ…」
デスティニーに並んだレジェンドが再び長身のライフルを構えた。
「撃破しろ!」
シンはレイのその言葉には答えず飛び上がった。
(確かに、戻ったところで銃殺刑だ。俺だってその覚悟であの時…)
シンはステラと共に暗い海を飛び続けたあの夜を思い出した。
(だけどアスラン…あんた、ホントにこんな形でいいのか?)
彼女と共に戦い、共に過ごした記憶が、シンの心を強く揺さぶった。
「こんな事をするためにザフトに戻ったのかよ、あんたは!」
機体を建て直し、危なげに上下しながらもさらに逃げようとするグフを捉えると、シンは叫んだ。
「逃げるな!裏切るな!基地へ戻れ!」
「ち…」
アスランはこの天候に左右されず、危なげなく飛行を続けるデスティニーを振り返った。互いの機体性能の差は歴然だった。
(ならば…!)
そしてビームライフルをかいくぐると急速にデスティニーに近づいた。
逃げるばかりだったグフの突然の攻勢に、シンもメイリンも驚きを隠せない。
アスランはソードを抜くと素早い太刀筋でボディに斬りかかった。
シンは初めてデスティニーを見た時、アームガードに何かあると直感したが、そこにはこれまでザフトの機体には装備されていなかったビームシールドが新たに装備されている。ユーラシアが得意とする技術を流用して加えられたその新装備を、シンは咄嗟に展開してグフのソードを弾き飛ばした。
しかしアスランが狙ったのはそれだけではなかった。弾かれたソードを持っていた手とは逆の手を突き出すと、素早くウィップを出したのだ。
「こいつ…!」
不意をつかれたシンは、気づいた時にはグフのスレイヤーウィップでライフルをからめ取られていた。
この悪天候、さらにこの機体性能差で果敢にも切り込んでくるとは…
(アスラン…やはり強い!)
シンが潔くライフルを手放した途端、それは爆発を起こした。
「くっ!」
ライフルを失ったシンは爆発から逃れるとグフを睨みつけた。

「やめなさい!」
アスランは警戒距離を取りながらマニピュレーターを広げた。
これ以上近づくな、という意味だった。
「私はこのまま殺されるつもりはないわ!」
「なんだと?」
「聞いて、シン!」
アスランはレジェンドを警戒しながら続けた。
「議長やレイの言うことは、確かに正しく心地よく聞こえるかもしれない」
しかしレイはそれを見逃さず、ビームライフルのスコープでグフを狙う。
「彼らの言葉はやがて世界の全てを殺す!」
アスランのその唐突な言葉には、シンだけでなく、同乗者のメイリンもまた、「え?」と驚きを隠せない。
「言葉もまた力なの!私はそれを…うっ…!」
遠距離から放たれたレジェンドのビームが、グフのシールドと肩口をかすめ、機体は再びバランスを失った。
「シン!」
追いついたレジェンドがデスティニーの前に立ちはだかった。
「ヤツの言葉を聞くなと言ったろう!」
「あ、ああ…」
レイはギロリとグフを睨みつけた。
「アスランは既に少し錯乱している!」
「な…」
アスランはそれを聞き、かっとなって叫んだ。
「ふざけないで!!」
「惑わされるな!」
レイはそう言いながら再び激しく背部ユニットからビームを撃ち放った。
レジェンドの激しい攻撃でダメージが蓄積し、グフの出力が落ちつつあった。
(…逃げ切れないかもしれない)
アスランはあちこちのダメージを知らせるアラートを止めると、メイリンを見た。
(でも、彼だけでも助けなければ…)
そしてもう一度シンに呼びかけた。
「シン!どうしても討つというのなら、メイリンだけでも降ろさせて!彼は…」
「アスランさん!?」
メイリンはその言葉に驚いて思わず彼女を見た。
「シン!お願い!ルナマリアが哀しむわ!あの子を…」
しかし返ってきたのはシンではなく、レイの冷たい声だった。
「彼は既にあなたと同罪だ。その存在に意味はない」
友のその言葉に、メイリンは愕然とした。
(レイ…本気でそんな事を…?)
僕たち、姉さんやシンとアカデミーからずっと一緒だったじゃないか…一緒に笑ったり騒いだり…僕もきみもおとなしい方だから、いつも賑やかな皆に引きずられてとばっちりを受けるばかりだったけど…でも、とても楽しくて…
(…なのに、僕の存在に意味がない?意味がないって…)
メイリンはかなりショックを受け、膝を抱えて項垂れた。
「バカな事を言わないで!」
アスランが飛び回るレジェンドに向かってドラウプニルを放ったが、距離が遠く、効果は薄い。
攻撃を続けるレジェンドの横に、再びデスティニーが並び立った。
シンもまた、レイの冷たい言葉に心を乱されていた。
家族を失い、苦しんでいた彼にとってミネルバの仲間はかけがえのないものだ。
それにアスランが言ったように、ルナマリアを哀しませることはしたくない。
「レイ!やっぱりメイリンだけは…」
「敵なんだ、彼らは!」
レイは言った。それは叫びにも似た声だった。
「議長や俺たちを裏切り、議長の思いを踏みにじろうとしているんだぞ!」
「それは…」
シンは息を呑んだ。
「それを許すのか? 今度こそ世界を平和にしようとする俺たちを裏切って…」
レイは怒りを滲ませた眼でグフを…アスランを睨みつけた。 
「フリーダムやアークエンジェルこそが正しいと言うんだぞ、ヤツは!」
シンの心にドクンと大きな鼓動が走った。
「力で支配しようとするのは奴らの方だ!見ただろう、連中のやり方を!」
レイは再び攻撃を仕掛けた。グフは素早く後退し、ドレイプニルを放ってくる。
「守るためなら力を振るい、想いを貫き通すなら手段を選ばない…おまえがやった事を否定しながら、勝手な正義を振りかざす彼らを肯定する!」
「レイ…」
「ヤツを逃がしたら、いずれ必ず俺たちの敵として立つぞ!」
レイの言葉に動揺したシンの心に、アスランが言った言葉が去来した。
(いつでも、いつだって正しさを説いて、耳に痛い言葉ばかりで…)
「戦争はヒーローごっこじゃない!」
「力を持つ者なら、その力を自覚しろと言ってるの」
(なぜまた戦場に戻ったのか、前大戦で何を見たのか、何を知ったのかは心に秘めたまま、決して語ろうとはしてくれなかった)
「その力を手にしたその時から、今度は自分が誰かを泣かせる者となる」
「殺されたから殺して、殺したから殺されて…それで本当に最後は平和になるのかと、以前言われたことがあります」
(けれど、正義のあり方を模索していた…眼を逸らさずに…)
「勝手な理屈と正義でただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者よ」
「対立していた正義が…ひっくり返ったわ」
(そして否定する…俺を…)
「でも、やっぱり…あなたのした事は間違ってる…」
「だけど、私たちが討つべきはアークエンジェルでもフリーダムでもない」
(否定するんだ…俺を…)
「何も…」
激しい稲妻が走り、目の前を逃げていくグフの影を形作った。
「おまえは言ったろ?そのためならどんな敵とでも戦うと!」
想いに沈んでいたシンは、レイの言葉にはっとした。
(敵…?アスランは…敵…なのか…?)
(俺が望む世界を阻む者…俺の目的を邪魔する者は…)
「…敵…」
レイはシンの言葉を聞き、ほっと息をついた。
「そうだ」
(おまえはおまえの役割を果たしてくれ、シン。でないと…)
「ヤツは、俺たちの敵だ!!」

アスランはこの間に少しでも距離を稼ごうとしたが、時間の問題だ。
メイリンを下ろせる場所がどこかにあればいいのだが、この天候とあの2人を相手にしては逃げ切れまい。
(せめて近くに、救助を頼める船舶でもあれば…)
アスランがレーダーの範囲を広げると、運のいいことにこのひどい嵐の中を、1機だけ輸送機らしきものが飛んでいる。
しかもそれはザフトのものではない。
(この信号は…地球軍機)
アスランは躊躇した。
ここにいるという事は当然ジブラルタル絡みだろう。
たとえ救助してくれたとしても、その後基地に戻されてしまうに違いない。
その時再び後ろからビームが放たれ、アスランははっと振り返った。
(ダメだ、迷っている暇はない。万に一つの可能性でも賭けなければ!)
アスランは意を決し、救難信号を出した。
信号を出した瞬間、デスティニーのフラッシュエッジブーメランが飛んできたので、アスランはシールドで弾いた。
しかし威力が強すぎてシールドのダメージが大きく、忌々しいアラートが鳴る。
あと一回でも攻撃を受ければ持たないだろう…アスランはごくりと息を呑む。
「アスラン!最後に聞く」
シンはブーメランを受け止めるとショルダーに装着し、呼びかけた。
レイはピクリと眉を動かしたが、もはや止めようとはしなかった。
アスランはシフトレバーを握り締め、目の前のデスティニーを見つめている。
(シン…何を?)
メイリンも恐る恐る顔をあげ、眼の前に立ちはだかるデスティニーを見た。
「おまえが望むものは?望む世界はなんだ?」
空気が凍りついた。
降りしきる雨と稲光が禍々しいデスティニーを照らし出した。
不気味に光るアイカメラが、じっとこちらを睨んでいる。
「…あなたと同じ…平和な世界を」
やがてアスランが呟いた。
「けれど私が望む世界は、議長が目指すものとは違う!」
その瞬間、シンの視界が開け、暗闇の中をどこまでも光が貫いた。
いつもなら消えてしまうはずの激しい雨の音が逆に大音量で聞こえる。
なのにグフの駆動音までもが聞こえそうなほど、聴覚が研ぎ澄まされていく。
恐ろしいほど体の中が熱くなり、やがて急速に冷え切った。
シンの心にはもう何もない。
デスティニーはゆっくり動いたように見えた。
だが抜き手が全く見えないまま、次の瞬間にはアロンダイトが構えられていた。
エクスカリバーよりも長いのではと思わせる、巨大な剣がグフを狙っている。
「シン!」
アスランは本能的に飛び退ったが、その瞬間にはもう既にデスティニーに間合いに入られていた。
あっという間に傷ついてボロボロだったシールドを刻まれ、グフは丸腰になった。
アスランは咄嗟に右腕を突き出してドラウプニルを連射したが、ものともしないデスティニーはそのままグフの腕を肩口からザックリと斬り落とした。
駆動部が爆発を起こし、アスランもメイリンもコックピットで激しい衝撃を受けた。
アスランが気付くと、アロンダイトを構えたデスティニーが振りかぶっている。
それを見て必死に機体を左に倒し、かろうじてウィングのみを切り裂かせた。
その太刀筋にはもう迷いはない。明らかにこちらの命を狙っている。
「シン!メイリンがいるのよ!やめて!」
「あんたが悪いんだ…」
デスティニーの翼が開き、急激に出力が上がっていく。
アスランとメイリンが驚くうちに、デスティニーの翼はますます輝き、淡い光を周囲に発し始めた。
それはやがてまばゆいばかりに光り始め、闇の空や海を照らし始める。
(これが…デスティニー…!?)
アスランは光の翼を広げ、残像すら残しながら凄まじいスピードで向かってきた機体に、もはや立ち向かう術を持たないことを悟った。
「あんたが裏切るから!」
斬り刻まれて背部のスラスターにもダメージを喰らったグフは出力が落ち、既に高度が下がりつつある。
けれどアスランはまだ諦めていなかった。ここで諦めたら死ぬだけだ。
(私は…彼らに会いに行かなければ…伝えに行かなければ!)
アスランの脳裏にキラが、カガリが、ラクスが、皆の姿が浮かんだ。
「こんなところで!」
アスランは左腕のスレイヤーウィップを放ち、飛び込んできたデスティニーの腕に絡ませた。シンはそれをグイッと引く。
「そうやって戦えるのに!力があるのに!」
至近距離で鍔迫り合いを繰り返し、アスランとシンはにらみ合った。
先ほどから痛めつけられているグフの機関が悲鳴を上げる。
メイリンは恐怖で声も出せずに、ひたすら頭を抱えていた。
「どうしてあんたは、戦わずに逃げるんだ!!」
デスティニーが掴んだウィップに掌を向け、パルマフィオキーナを放った。
青白く輝く、ビーム砲というよりはビーム波のようなそれは、ウィップを焼き、爆発を誘った。
これでグフは全ての武装を奪われた。
それでもまだ、かろうじて生きているスラスターをふかしたアスランは、デスティニーが再びアロンダイトを構えていることに気づいた。
その切っ先は、迷いすら見せずグフのコックピットを狙っている。
(…シン!)
歯を食いしばりながらアスランは後ろに跳び退ってその切っ先から眼を離さない。
もう逃げられないと悟った彼女は、イチかバチかの賭けに出るつもりだった。
(ほんのわずかでいい。真っ直ぐ貫かせはしない!)
「私は…あなたに殺されはしない!」
「黙れっ!裏切り者っ!」
(父さん、母さん、マユ…ステラ…)
死んでいった家族が、戦友が、力なき弱き人々が心に浮かぶ。
最後に手に入れるものが本物なら、それは絶対の正義になる。
「…あんたがいなくたって、俺は望みをかなえてみせる!絶対に!」
次の瞬間、アロンダイトがグフを貫いた。
「うわぁぁぁ!」
「メイリン!」
激しい破壊の衝撃にメイリンは悲鳴を上げてうずくまり、アスランは驚くべき速さでシートベルトを外すと、そのまま彼の上に覆いかぶさった。
自分を助けてくれた彼を守らなければという思いだけが彼女を突き動かしていた。
それからアスランは最後に何か呟いた。
それはかつて、生きることの意味を教えてくれた、愛する人の名だった。

デスティニーがアロンダイトを離すと、コックピットを貫かれたグフはそのままゆっくりと海に落ちていった。
そして海面に着くか着かないかというところで、激しい大爆発を起こした。
何度か連鎖爆発を起こし、やがてグフの機体は完全に海中に没した。
機体の一部はあちこちの海面に浮いていたが、激しい波に洗われ、すぐに何も見えなくなった。
「シン…よくやった」
まるで今この手で討った彼らが再び顔を出さないかと待つかのように、海面を見つめて立ちすくむデスティニーに、レイが声をかけた。
シンは少し沈黙した後、「ああ」と答えた。
「俺たちの任務は終わった」
ふっとシンが息をつく。
その時、たった今撃破したグフが救難信号を出していた事に気づいた。
(…これは?)
シンはそれを読み解いて少し驚いた表情を見せたが、やがてその信号も消えてしまった。
水圧で、コックピットが完全に破壊されたのだろうか。
「任務完了、か」
「そうだ」
レイの答えに、シンは乾いた笑いを漏らした。
(いくら誤魔化したって、俺は仲間を殺した)
わざと自分を傷つけるかのように、シンは敢えてそう考えた。
(友達のメイリンを…そしてアスランを…殺した…)
「隊長って、別に悪い意味じゃないんですけどね」
突然そんな風に言ったことを思い出し、シンは首を傾げた。
あれはハイネが配属された時…そんな呼び方はやめろと言った時だ。
少し考えて、そっと呟いてみた。
「…隊長…」
(ああ、そうだ…)
シンは暗い表情のまま懐かしそうに眼を細めた。
(俺はあの人を隊長と呼ぶのが好きだった)
俺よりずっと先にいてくれて、呆れながらも俺の話を聞いてくれて…自分の身を顧みず、最後まで一人でユニウスセブンを砕こうとしたあの人を、死なせたくないと思った。あの人がザフトに戻った時は、本当は嬉しかった。
先の見えない真っ暗な道を、あの人なら導いてくれる気がした。
殴られたり怒ったり笑ったりしながら、それでも諦めずに、俺たちを…
(もう会えない…)
そこには、冷たい事実だけが横たわっていた。
(もう…会えない………二度と……アスラン…)
何か熱いものが瞳から溢れそうな気がして、シンははっとする。
(泣いてるのか…俺は…)
「裏切った彼らを、敵を討ったんだ。俺たちは」
レイは静かに言った。
「やるべきことをやった。おまえは正しい。戻るぞ」
「ああ」
シンは袖口で乱暴に眼をこすった。
(俺に、涙を流す資格なんかない)
それからもう一度、暗い海域を振り返った。

―― あんなところで眠る彼らのために、祈る言葉も…ない…
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制作裏話-PHASE37①-
いよいよアスランがシンに討たれる回です。
二年落ちでも最強機体のフリーダムを、格下のインパルスが倒したPHASE34と違い、OPのタイトルバックはついに飾れなかったとはいえ、SEEDにはなかった「タイトル名を冠した機体」である最新鋭機デスティニーが、量産機のグフを、同じく最新鋭のレジェンドとよってたかってフルボッコにします。

この行為により、シンは主人公、いやダークヒーローどころか「…もしかして悪役なの?」と視聴者の首を捻らせた回です。「デロロデロロデロロロ♪」という、世にも恐ろしいデスティニーのテーマ「悪魔との契約」をBGMに、嵐の夜、友と上官を討ちに行くんですから当然か…(泣)

さて、逆転ではいつもながら逆転ならではの鉄則を守っています。
即ち「シンはバカではない」「アスランはきちんと自分の意見を主張する」「レイは豹変ではなく、言ってることに一理ある」「ルナマリアがアーパーではない」「メイリンがお飾りのお荷物ではない」ということです。
これらの鉄則を守るだけで、何より書いている私が楽しかったです。

アバンについては、シンがメイリンの行動を思い返し、彼らにも事情があるのでは…と思い悩む様を描いています。その一方、裏切り者であるアスランを許せない怒りも滲ませます。こうしたシンの複雑な気持ちを表現するだけで、ただ一方的に、レイに煽られて考えもなしに彼らを追討したとならずに済むと思うのです。

司令部での出来事には大きな改変を加えました。ここに赤服のルナマリアを同席させた事です。これ、FAITHのタリアならできると思うんですよ。メイリンの事もあるし、この現場にルナマリアを置く事は不自然ではなく、むしろ「重要なヒロインとして物語の中心にいる」演出が可能です。

同時に、彼女の気丈さを表現できます。メイリンがなぜかアスランと共に逃亡していると知り、タリアは退室を奨めますが、ルナマリアは「見届ける」といいます。それが後にシンに対して見せる「強さ」に繋がっていくとしたかったからです。
逆転のシンルナは「傷の舐めあいカップル」などではなく、あくまでも自らの意思で信念を貫こうとする、強く賢い2人なのです。

さて、レイと議長がアスランとメイリンを「スパイ」に仕立てていく中も、シンは冷静に分析します。そんなはずがないとわかっていても、シンが命令に従って戦うわけは、アスランがフリーダムとアークエンジェルを選んだからに他なりません。それを強調するためと、シンが仲間を大切にしている象徴として、レイに何度か「(せめて)メイリンを助けられないか」打診するのです。それが「撃破」ではなく、「捕える」という発言につながります。
これだけでも主人公としての気質を見せられたと思うんですよね。でも本編ではシン、メイリンの事なんかマジどうでもよさげでした。

なお機体性能の劣るグフを操り、かなり健闘するアスランの様子は、本編以上にみっちり描いています。レジェンドに追われたグフの前に、デスティニーが立ちはだかるイメージはなかなかゾッとしますね。闇の中のデスティニー…想像するだけで怖い。
シンは眼の前に逃げてきたアスランにきつい一発をかまします。
「さんざん正義を語っておいて、結局逃げるのか」
これは痛い。アスランさん、ダメージ大です。
でも本音では、このセリフは本編のアスランにこそぶつけて欲しかった。あれだけ偉そうな事を言って、ホントに逃げただけですからね、あの男は。

そんなアスランですが、鉄面皮のレイよりはまだシンの方が話になると思って必死に呼びかけます。メイリンを助けたいと意思表示し、彼に何かあればルナマリアが哀しむと、ここは女性ならではの気の遣い方をさせています。(脅すとも言う)
メイリンもまたきゃーきゃー言ってた本編とは違い、逆転ではシンの同い年の友人として、仕事上のパートナーとして関係を描いてきましたから、彼もまたシンに「話を聞いて欲しい」と呼びかけます。
キャラ同士の関係性が築けていればこれも当然の行動だと思います。

「奴(ら)との戯言はやめろ!」
さて、ここでは本編にはなかったファーストへのオマージュを入れてみました。シャアがアムロと感応するララァに言ったセリフですね。余談ですが、PHASE36で議長がシンに「賢いな」と言うのももちろん同じくシャアのセリフです。何しろこちらは中の人が同じですからね。

本編では冷徹に攻撃を続けるばかりだったレイですが、私は彼にも彼なりの考えがあり、ただ議長に従うだけの人形とはしたくありませんでした。だからこそ彼は議長を撃つのですから、どこかで、レイの中ではいつの間にか議長という「親」よりも、シンという大切な「友人」の比率が高くなっていると匂わせたかったのです。
人間って若い頃はそうやって何かを得たら何かを捨てて、世界を広げながら成長していくものですからね。

アスランの反撃はシンにその力を感じさせるに足るものとしました。いかんせん機体性能が違うので決定的ダメージは与えられませんが、シンはステラと同じく、スレイヤーウィップに絡めとられてうっかりライフルを失います。

しかしアスラン、戦闘での反撃はまぁまぁですが、言葉での反撃は「ハァ?」です。放映当時、視聴者をポカーンとさせた「議長の言葉はやがて世界の全てを殺す」これは正直、未だに意味不明な「アスラン錯乱発言」ですけども、本編準拠なら入れなければならない…そこで「言葉も力であり、それが人々を操り、動かし、世界を思い通りにしてしまう」というニュアンスにしました。え?真意は何かって?私にはわかりません。レイいわく、「アスランは既に錯乱している!」ので。

続いて、本編ではそれまで得体の知れない無口キャラだったのに、ケツカッチンになったらいきなり饒舌になったレイのターンです。
逆転では先ほども述べたように、レイが盲目的に議長を信じているというよりは、「彼にも彼なりの理論があり、それには確かに一理ある」とするよう心がけています。

とはいえ非情なことに変わりはなく、友であるメイリンに「存在意義はない」と言い放って斬り捨てます。本編では「へぇ!?」と眼を見開いただけですが、逆転のメイリンはかなりショックを受けます。最終回でも心のわだかまりは残ったままですが、成長キャラらしくレイにも理解を示すようにしました。

アスランが何を正義と思って裏切るのかを説くレイの言葉は、シンの心に届きます。でもこれ、尤もな意見だと思うんですよ。アスランが信じようとするキラたちは、シンサイドから見ればどう見ても「自分勝手な力を振るう連中」なんですから。
そしてアスランには前科があり過ぎ。アークエンジェルと接触していたこと、フリーダムに無抵抗で斬られたこと、フリーダムを討ったシンを責めたこと…こんなに疑わせる材料があったんじゃ、信用ゼロですよ。そりゃ逃げるだろうさってなもんです。

シンの内面の葛藤は結構気に入ってます。
本編ではシンの葛藤っていつも暗い中ではぁはぁ言ってるか、何も言わずに空中浮遊してるかなので不満だったので、シンの想いと、こういうトコでこそ使えよ!と思うセリフのバンクを交互にしてみました。

その葛藤の中、自分を否定し、昔の仲間を選ぶアスランに絶望したシンはついにアスランを敵と見なします。この時レイがホッとするのは、「役割を果たさない者を、議長は許さない」と知っているからです。レイ自身、実は議長の極端な「役割思想」に疑念があるゆえに、反抗的なシンの身を案じている事を暗喩しています。このへんは本編にはない独自のスパイスです。

逃げ切れないかもしれないと思ったアスランは、ここで本編にはない救難信号を出します。受け取ったのはキサカですが、この時の事については後半で明かされます。本編では、「いきなり出てきて一言も喋らないキサカが、アスランとメイリンを偶然救助した」という事があまりにも唐突かつ現実的ではなかったので、あくまでもこれは「必然の結果」だったとしてみました。

さていよいよシンがアスランを破りますが、本編にない大きな改変としてシンがアスランに「何を望む?」と聞きます。PHASE36ではシンの望むものをアスランが受け取ったので、今度はお返しです。
この2人は最終決戦で決着をつけるんだから、こうしてぶつけ合っておかないとおかしいでしょう。

アスランが望むものはシンと同じ。けれど議長が目指すものではない…この言葉が、2人の道を完全に分かちます。シンは種割れを起こしてアスランに挑みかかります。
アスランも簡単には負けません。最後まで粘り強く抵抗します。それを見てシンが言うセリフは、私が「いつかどこかでシンに言わせたい」と思っていたセリフです。
「戦える力があるのに、なぜ戦わない。なぜ逃げる?」
アスランが力の使い道が下手なこと、またSEED時代に比べると(戦いは巧くなったからかもしれませんが)本気を出す事はなくなったように見えたので、伸び盛りの後進であるシンに言って欲しかったのです。アスランとシンの対決はこの後もオーブ戦、最終決戦と2回ありますが、やはりここが一番しっくりくるでしょう。

そしてついにグフが撃破されます。
アスランは集中してアロンダイトの切っ先をわずかに逸らし、致命傷を避けたという設定です。メイリンを庇う彼女が呟いた「名前」はサービスです。けどあってもいいですよね、こういうの。

シンはアスランが最後に出した救難信号に気づき、そして彼らを永遠に失ったと実感します。
「隊長と呼ぶのが好きだった」というのは単に私の想いですが、ここでひしひしと伝わってくるシンの痛みと相俟って悪くないと思います。

本編と違い、シンは涙を流しません。
自分がやった事に責任を持とうと考えているからです。
あくまでも冷静。あくまでもクレバー。そのくせとことん熱い。
本編とは違う、どこまでも強く賢いシンを描けて、大満足でした。
になにな(筆者) 2011/12/21(Wed)01:39:03 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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