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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「それだけの業!重ねてきたのは誰だ!」
「守りたい世界があるんだ!」
 
あの日…事実上、戦争が終結したあの日以来、彼はいなくなった。
 
ザフトに属していた彼は、戦争が激しくなるにつれて姿を見せることが少なくなり、レイは自然、彼の友人であるギルバート・デュランダルと2人きりで過ごす時間が増えた。ギルバートからはラウとはまた違った愛情と信頼がもたらされた。兄のように、父のように、レイは彼を慕った。
「ねえ…ラウは?」
「ラウは…もういないんだ」
デュランダルはレイの質問に静かに答えた。
はじめこそ、彼はラウ・ル・クルーゼの死を「戦死」としか伝えなかったが、成長してきたレイの理解力にあわせて、クルーゼが何を思って何をしたのか、彼らの出生の秘密と共に語るようになった。
きみたちは、老人のクローンであると…

「だが、きみもラウだ」
ある時、デュランダルは言った。
「…え?」
意味がわからない。
ラウはあのおぞましい研究施設から自分を救い出してくれた。
服を与え、食物を与え、ピアノを与え、愛情を与えて育ててくれた。
「きみもラウの1人だ、レイ」

(今の俺なら、「どういう意味ですか?」と聞き返したろう)
パイロットスーツに着替えながら、レイはふっと苦笑いした。
あの時は…まだ子供だった自分には、とてもではないが聞けなかった。
(ギルに嫌われたくなくて…ギルが言うなら、きっとそうなんだろうと無理やり納得した)
「それが、きみの運命なんだよ」
すなわちそれが、彼から与えられた俺の「役割」なのだと。
自分はレイ・ザ・バレルではなく、新たなラウ・ル・クルーゼなのだと。

拍手


時間は、慌しく過ぎて行った。

もはや姿を隠す必要はないというラクスの判断で、公に姿を現したエターナルには、寝返ったザフト・クライン派と連邦寄りの連合の残存勢力が従い、アークエンジェルには増援されたオーブ艦隊とスカンジナビアを中心とするわずかな各国の義勇軍が従った。
「では、キラ様。御武運を」
アマギたちオーブの主流要員は、新たにカガリが任命し、宇宙に上がった副司令のソガ一佐が乗艦するクサナギに移乗して行った。
司令官であると同時に、戦力の要でもあるキラのバックアップにあたるためだ。
「ムラサメ部隊をよろしくお願いいたします」
「わかりました。皆さんもどうかご無事で」
アマギたち退鑑組が敬礼し、キラたちもまた敬礼で応えた。
「そちらの状況は?」
「オーブ麾下の主力には、レクイエム本体と発射口の破壊のためにダイダロス基地へ向かってもらう。アークエンジェルの防衛は、アカツキを中心に最小限で行う予定だよ」
エターナルからの通信に、キラはいくつかのモニターを操作しながらてきぱきと答えた。
「本艦はそのまま前線を突破し、ステーションの破壊に向かいます」
続けてマリューが進路を告げると、バルトフェルドが頷いて了承した。
「いいだろう。エターナルもそれに続く。キラ、おまえはミーティアを受け取りに来い」
議長もザフト軍もまだ新たな動きは見せていない。
けれど、手数の少ないこちらは先手必勝しか勝機はない。
「本来はオーブも専守防衛が当然だが…」
再び秘匿通信を繋いできたカガリが苦しい胸の内を明かす。
「すでに世界はオーブを敵と見なす風潮だ。誰も何も言わない今、レクイエムは必ず放たれるだろう。オーブ本国を直接狙ってな」
彼が何度プラントとの対話を呼びかけても応答は一切ない。
同じく無視されているスカンジナビア王国以外は、オーブとプラントとの間に入ってくれようとする国もない。大統領を討たれた大西洋連邦など、これまでのように強気な態度も報復する事さえもできず、国内の混乱を収めるだけで手一杯のようだ。
今、この世界の「正義」は完全にプラント…デュランダル議長が握っていた。
「本当にすまない」
カガリは力不足を詫びたが、その瞳には諦めや敗北の色はなかった。
「だが、どうか頼む。もしあれが撃たれたら、もう何も守ることはできない」

「目標まで180」
ミリアリアがステーションまでの距離を告げた。
「近くにはザフト月機動艦隊もいるってのに。やれやれだな」
ネオは腕を組みながら、ゴンドワナの位置を確認してうんざりする。
「でも、やるしかないわ。彼らに負けたくなければ」
マリューは珍しくはっきりと勝敗を口に出し、それを受けてモニターの中のラクスが続けた。
「勝敗を決めるのはスピードです。敵の増援に包囲される前に、中継ステーションを落としましょう」
しかしゴンドワナを軸としたザフトの月機動艦隊戦力データが送られてくると、チャンドラが「こんなにいるのかよ」と泣き言を言った。強大な敵である連合との戦いを終えた今、ザフトはいつにも増して余力を残しているためだ。
キラは振り返ってネオを見た。
「行きましょう、ムウさん」
「おまえなぁ…」
ネオは相変わらずその名で呼ぶキラに呆れたが、まぁいいかと諦めた。
「わかったよ。行こうぜ、総司令官殿」

「要はやはりこの一次中継ステーション…」
一方エターナルにいるアスランは、インフィニットジャスティスのコックピットでヒルダたちと共有する情報を整理していた。
「まずこれを落とさなければ、またいつどこが撃たれるかわかりません」
「んなこたぁわかってるさ」
ヘルベルトがつまらなそうに答えた。
「あんたの機体とフリーダムは足も速いし武装もデカい。破壊は任せるよ」
その代わり、雑魚はこっちが引き受けるとヒルダが荒っぽく答えた。
アスランは「お願いします」と言うと、名実共に初陣のメイリンに声をかけた。
「大丈夫?」
「…はい、大丈夫…です」
自分用に入念にカスタマイズしたガイアのOSを起動し、メイリンは緊張の面持ちでそのコックピットに座っていた。
「変形直後はバランスを崩しやすいから、スラスター制御に気をつけて」
「はい」
そう答えて深呼吸をする。
もしかしたら姉やシン、レイとも戦うことになるかもしれない…
(でも…議長の示す新しい世界はおかしい。だから、能力や可能性を否定された僕自身が戦うことで、それを証明しなくちゃいけないんだ)

「議長、アークエンジェルとエターナルがステーション1に接近中です」
メサイアでは、黒服を着た将校と国防安全委員会の幹部が報告に来た。
「ダイダロスにもオーブ艦隊を中心とした、ナスカ、ローラシア級、並びに地球軍艦隊が向かっています」
メサイアとゴンドワナがこちらに来ている中、本国に駐留しているザフト軍からはかなりの脱走兵が出たという情報が来ていた。
「こんなにもスパイなど紛れ込ませて…卑劣なことを!」
国防委員の1人は大量の脱走兵のデータを見ながらカンカンだ。
「まぁいい。これでクライン派という膿を搾り出せたと思えばな」
デュランダルは落ち着いていた。
「ミネルバとゴンドワナ、月艦隊の半分をステーション1へ回せ。残りはダイダロスのローランの下に」
そう命じた後、「ステーション2はどうなっているか」と確認した。
「接近する艦影あり。数2、レッド22、チャーリー、距離120」
メサイアの司令室と直結させているステーション1の管制が状況を告げ、光学映像が届くと、議長は鋭い視線でアークエンジェルとエターナルを睨む。
忌々しい連中だ…不利だというのに、なかなか諦めず、屈しようとしない…
(だが、問題は数でも装備でもないのだ)
「コンディションレッド発令。守備隊は直ちに発進せよ!」
ステーション1では接近する敵影に警戒態勢が整えられていく。
「問題は…」
デュランダルは呟いた。
そして、先ほど着艦したシンとレイを呼ぶよう伝えた。

やがて出撃の時は来た。
キラがエターナルへの通信を開く。
「ラクス、発進するよ。いい?」
「ああ。隊長、ミーティアを」
「ミーティア起動。総員、第一戦闘配備」
バルトフェルドがエターナル全艦に命じ、マリューもまた、数は少なくなったが頼りになる昔馴染みの元部下に砲術を命じる。
「エターナルの前に出る。ゴットフリート、バリアント起動。ミサイル発射管、全門コリントス装填」
チャンドラが手早く装弾操作を行い、ノイマンは速度をあげた。
「アスラン、行こう」
アスランはモニターの向こうのキラにこくりと頷いた。
(もう二度と迷わない。たとえ、シンと再び戦うことになっても)

―― 何と戦わなければならないのか、私はあなたに伝えなければならない。

「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出ます!」

「通信回線を僕にまわしてくれ」
ステーション1を防衛する守備隊の姿を見てラクスが言うと、バルトフェルドがミーティアのリフトオフを命じた。
グレードアップした機体にあわせ、ファクトリーが新たに調整したミーティアは、先に待機していたインフィニットジャスティス、そして機体を寄せてきたストライクフリーダムに装着された。
2人が先行してステーション1に向かったのを見届け、ラクスはかつてのようにインカムをつけて語り始めた。

「こちらはエターナル。僕は、ラクス・クラインだ。中継ステーションを護衛するザフト軍兵士に通告する」

(呼びかけてみるかい?)
ダーダネルスで、戦いの準備を進めるオーブ軍を前にしてどうしたらいいかわからずにいたカガリに、自分はそう助言した。
(残念ながら僕の経験上、戦闘を止められるとは言い難いけど…)
そう、言葉でいくら言っても、始まってしまった戦闘は止められない。

―― 戦いを始めない事…やはり、何よりそれが大切なんだ…

(それを胸に刻んで、僕たちは今、戦いを始めよう)
ラクスはすぅっと深呼吸した。
(真実を知る者として、偽りの平和が約束される世界を否定するために)

「僕たちはこれより、その無用な大量破壊兵器の排除を開始する」

「ラクス様!?」
オープンチャンネルから流れてきたラクス・クラインの声に、ブレイズ装備のザクウォーリアのパイロットが思わず声をあげた。
「いや、だが…どっちの…?」
兵たちは動揺し、中には足を止める者も現れる。
ステーション1の守備隊司令もいぶかしそうに耳を傾けた。

「それは、人が守らねばならないものでも、戦うために必要なものでもない。平和のためにと軍服を纏った誇りがまだその心にあるのなら、僕たちに道を空けて欲しい」

ラクスは凛とした声で告げた。

戦場では今にも戦闘の火蓋が落とされようとしているその時、司令室にはレイと共に、浮かない表情のシンがやってきた。
「議長」
敬礼するレイに、議長はにこやかに頷いた。
「やあ、レイ。シンも。よく来てくれたね」
のろのろと手を上げて敬礼したシンは、じっと彼を見つめた。

「誰かの言いなりに、他者を滅ぼすものになり果ててはいけない!」

「ああ…」
「う…」
中にはグフやザクファントムに乗る赤服たちまでもが厳しい声音のラクスの言葉に足をすくませた。
そんなモビルスーツ大隊の中に、キラとアスランが飛び込むと、戦意を喪失していないモビルスーツが一斉に武装を構える。
キラは素早く眼と手を動かして敵機をマルチロックオンすると、ミーティアの強力な火線砲とミサイルを全門開いて構えた。

「道を空けてくれ。僕たちは行かなければならない…未来のために!」

ラクスのその言葉と同時に、すさまじいまでのビームとミサイルが発射され、多くのモビルスーツがアイカメラ、腕、足、スラスターと、およそコックピット以外の部分を貫かれ、あちこちで小爆発を起こした。
さらにはキラより深く敵陣に斬り込んだインフィニットジャスティスが、両腕の先にあるビームソードを展開し、グフやザク、ゲイツRの足や腕を斬り飛ばしていく。その鋭さは今までにないほどの見事さで、素早く、まるで舞踏でも踊るかのような、実に美しい太刀筋だった。

ラクス・クラインの言葉をBGMに、凄まじいまでの火力で全てを綺麗に片付けたフリーダムと、全てを薙ぎ払ったジャスティスの戦いぶりに守備隊の旗艦ブリッジでは、まるで見とれたように言葉がなかった。
「チッ…何をしているか!」
司令官はインカムを手に取ると兵たちに告げた。
「あれはロゴスの残党だぞ!」
それを聞いた前線の兵たちがはっと我に返る。
「議長の言葉を聞かず、自らの古巣と利権を頑なに守らんとする、奴らの残存勢力だぞ!」
「ロゴスの残党…」
「そうだ、議長はオーブが全ての元凶かもしれないって…」
パイロットたちは動揺を抑え込み、冷静さを取り戻していく。
「撃て!撃ち落とすんだ!ザフトのために…これは命令だ!」
司令官の鼓舞に、古参兵は「ザフトのために!」と叫びながらソードを抜き、若い兵たちも彼らに続いて2機に向かって行った。

「艦隊司令部から入電です」
タリアとアーサーがアビーの報告に耳を傾ける。
「現在、ステーション1にて守備隊とアークエンジェル、エターナルが交戦中。月機動艦隊、並びにミネルバはこれの支援に向かわれたし」
「…ア、アークエンジェル?」
縁起の悪いその戦艦の名を聞いてアーサーはやや上ずった声をあげた。
タリアはコンディションレッドを発令し、ルナマリアを待機させる。
(また…あの艦と戦うのね)
彼女の脳裏に、マリア・ベルネスの優しげな笑顔が思い出された。
「これが本当に最後よ。勝つわよ、今度こそ!」
タリアの言葉に、アーサーも「はいっ」と返事をした。

(もうじき出撃)
たった1人で広いパイロットルームのソファに座るルナマリアは、次々とかかる艦内放送を聞き、不安そうにモニターを見上げた。

―― 一緒に戦う仲間は、もう誰もいない…一人ぼっち…

「シン」
ルナマリアは、思いもかけず決裂してしまった彼を思い出した。
(アスランは、裏切ったんじゃないって…そんなこと…今さら…)
けれど、心のどこかで「やっぱり」と納得している自分がいる。
「彼女が実に真面目で正義感あふれるよい人間だということは、私も疑ってないわ」
艦長はそう言った。
「スパイであるとか裏切るとか、そういう事はないでしょう」
(私も、そう思った…)
ルナマリアはじくじくと痛む胸元に拳を押し当てた。
彼女がいなくなったら寂しい…あの時の気持ちは本物だった。
だから、アスランがスパイなんかじゃなかったのは素直に嬉しい。
(…でも、本当はわかってる)
それを知ったからといって、戦う事をやめる事はできない。
むしろ今、ザフトが戦うと決めた敵側に彼女がいるならなおさらだ。
(だって、私たちは軍人だもの…命令があれば、仕方がないもの)
「シンが…悪いわけじゃない…悪いわけじゃないのに…」 
ルナマリアは、シンの手を乱暴に振り払ってしまった事を思い出して小さくため息をついた。あの時のシンの哀しげな顔が忘れられない…それにシンは、議長が間違っているとアスランが気づいたと言った。
(議長が…間違ってる?何が?何を?何で?)
ルナマリアはそこまで思って少し首を傾げた。
(ううん、そう言ったシン自身がそう思ってるってるってこと?)
「シン…」
ルナマリアはその名をもう一度呟いた。
(聞きたいことがあるのに…確かめたいことがあるのに)
けれど離れ離れになってしまった今、彼に想いは届かない。
(わからないよ…私…どうすればいいのか…シン…)
ルナマリアは涙をこらえようと歯を食いしばり、眼を閉じて俯いた。

ゴンドワナはもちろん、状況を把握するために後方に控えていたヴォルテールにも、オープンチャンネルのラクス・クラインの声は届き、戦闘を開始したフリーダムとジャスティスの光学映像が入ってきていた。
「おーおー。派手にやってるねぇ、相変わらず」
ブリッジでは、隊員たちに各自のモビルスーツで待機するよう命じたディアッカが、キラたちの様子を見て笑いながら言った。
「あいつらぁ…」
イザークは怒り狂った声で怒鳴っているが、ディアッカはその声に彼なりの安堵の色を感じ取っていた。
かつてのジャスティスによく似た機体に誰が乗っているかなど、もはや一目瞭然だったからだ。
ディアッカはまぁまぁとイザークをなだめた。
「でも連絡ないのは当たり前だぜ?俺たちはザフト軍なんだからな、やっぱり」
「わかっている!」
イザークはくるりと艦長に向き直った。
「とにかく発進だ。とっとと艦を出せ!」
おまえも早くモビルスーツで待機しろと怒鳴るイザークに、へいへいと返事をしたディアッカもハンガーに向かう。
(生きててよかったななんてバカ正直に言えば、どうせ怒るんだからな)
くっくっと笑ってから、彼はふと紫色の瞳に憂いの陰を浮かべた。
(エターナル…アークエンジェル…)
ディアッカ自身の懸念は、アスランよりむしろその後ろから近づく2隻の戦艦にある。
かつての乗艦の姿は、どうしても彼の心をざわめかせた。
(艦長やチャンドラ、マードックのおっさんもまた乗ってんのかな)
敢えて、彼にとって誰よりも大切なその人のことは考えないようにする。
「…乗ってるわけないよな…絶対に」

「どうしたね?なんだかあまり元気がないようだが」
議長は優しく問いかけたが、シンは黙り込んでいる。
「また大分色々とあって、戸惑ってしまったかな?」
「…そう…ですね」
シンが沈んだ声で答え、レイはチラリと彼を見る。
2人がミネルバから移動する間もシンは一言も口を開かず、レイが何かあったのかと聞いても、「別に」と答えるだけだった。
「確かに、アーモリーワンでの強奪に始まって、ユニウスセブンの落下、そして開戦…さらにこんな事態にまでなってしまったんだ…」
誰だって戸惑うだろう、と議長は俯くシンを覗き込むように言った。
「しかもこれらの事件に、オーブが何らかの加担をしていたかもしれないとあっては、オーブ出身のきみには少し酷かもしれんがね」
オーブの名を聞いたシンはやや顔を上げ、議長を見た。
「だが、そんなやりきれないことばかり続いた、この戦うばかりの世界も、もう間もなく終わる。いや、どうか終わらせてくれ、と言うべきかな?きみたちの力で」
「わかっています」
レイが返事をしたが、シンは相変わらず黙ったままだった。

司令官の叱咤に我に返った防衛隊は、ただちに激しい砲撃を開始した。
「右舷よりミサイル、4」
「回避!ヘルダート、撃ぇ!」
ミリアリアがナスカ級からの攻撃を伝えると、マリューが指示した角度へノイマンが大きく舵を回した。
道を拓くアークエンジェルの後ろについたエターナルにも、やがて容赦ない攻撃が降りかかり始めた。

「戦闘をやめ、道を空けるんだ。それは守る価値のないものだ!」

ラクスは戦闘が激しくなってきてもなお、呼びかけ続けた。
その途端、被弾して艦が大きく揺れる。
「うっ…ダコスタ!火線砲を開け!ミサイル全門発射!」
遠慮してるとやられるぞと、バルトフェルドが迎撃を命じる。

「このようなものは、もうどこに向けてであれ、人は撃ってはならない」

ラクスは今すぐに下がるよう兵たちに訴え続けた。

「今、レクイエムのステーション1が、アークエンジェルとエターナルに攻撃されている」
デュランダルはそう言いながらモニターに光学映像を出した。
シンは黙ってその映像を見つめる。
そこにはアークエンジェルと、見慣れない型の戦艦があった。
あれがエターナル…前大戦の最終決戦地、ヤキン・ドゥーエで停戦の英雄ラクス・クラインの乗艦となった伝説のザフト艦…シンは少し眩しそうにモニターを見上げた。
議長はシンが何も喋らないので、レイと会話を続けていた。
「私があれで、なおも反抗の兆しを見せた連合のアルザッヘル基地を討ったので、それを口実に出てきたようだが…いや、全く困ったものだよ」
彼は本当に困ったというように首を振り、ため息をついた。
「我々はもうこれ以上、戦いたくないというのにね。これでは本当にいつになっても終わらない」
「はい。でも仕方ありません。彼らは言葉を聞かないのですから」
レイが穏やかな声で答える。
「今ここで万が一、彼らの前に我々が屈するようなことになれば、世界は再び混沌と闇の中へ逆戻りです」
嘆きながらも争い、戦い続ける歴史は終わらない…
「それでは、世界は変わりません」
シンの体がその言葉にぴくりと動く。
変わらない…それは世界が今のまま、間違ったままだということだ…
(俺の幸福だった時が消え、ステラのような子が生まれ、そして、レイ…)
シンはチラリと隣に立つレイを見る。見た目はさして自分と変わらない。
なのに、レイは自分と比べて格段に寿命が短く、老化が早いのだという。
「そうなれば、人々が平和と幸福を求め続けるその裏で、世界はまたも必ずや新たなロゴスを生むでしょう」
レイは相変わらず熱心に語っている。
「誰が悪いわけでもない。それが今の人ですから…」
シンはそう尋ねるレイの穏やかな、諦めきった表情を思い出し、やりきれない思いで再び俯いた。
そして、かつて自分がインド洋で助けた人たちを、ガルナハンで助けなかった人たちを、ベルリンで助けられなかった人たちを思い出し、拳を握り締めた。
そこには到底納得できない「矛盾」があり、簡単に覆る「正義」があった。
「俺は思う。絶対に世界をそんなものにはしたくありません」
ようやくここまで来たんです…レイは呟くように言った。
「デスティニープランは、絶対に実行されなければなりません」
デュランダルは微笑みながらレイを見つめ、「そうだな」と頷いた。

アスランは、キラがミーティアの一斉射撃でモビルスーツ隊を一掃すると、その間隙を縫い、後ろに控える敵戦艦群に向かった。
まるでその自在に駆け巡るジャスティスの軌道を読んだかのように、キラは後ろから見事に的確な攻撃を仕掛けて戦艦の砲撃を封じる。
2人は破竹の勢いで道を開き、後に続くラクス・クラインを導いた。
「取り付かせるな!回避ー!!」
アスランは回頭を始めたナスカ級の艦首をくぐり、ブリッジを切り裂いた。
間髪いれず、その脇にいるローラシア級にもビームソードを向ける。
「うわぁ!」
「退避!退避しろ!!」
時間差で爆発し、眼を失った戦艦は次々離脱していく。
しかし、時間と共に艦隊の防衛体制が整ってきて道が狭まりつつある。
「まずいわ、キラ!そろそろ突破しないと…!」
「わかってる!」
道を塞がれたら、ステーション1に辿り着けない。
そうなればもう間に合わなくなる。
その時、キラが「あ!」と声をあげたので、アスランも顔をあげた。
そこには何隻もの戦艦を従えて、滑らかに宇宙空間を推進してくる戦艦があったのだ。アスランは見慣れたその艦を見て唇を噛み締める。
「…ミネルバ!」

「いよいよおいでなすったな」
「ええ」
「あの時、やっぱり助けるんじゃなかったかな?」
バルトフェルドがおどけたように言うと、彼が宇宙に上がって以降もミネルバと因縁の死闘を繰り返したマリューが答えた。
「手強いわよ、あの艦は」
「なら、死に物狂いでかからんとな」
2人は立ちはだかるミネルバを睨みつけた。
向かってくる艦隊と、そこから放出されたモビルスーツからの攻撃が激しさを増してくると、アークエンジェルもエターナルも少しずつ被弾率が上がっていく。
さらに、先陣であり防御壁だったキラとアスランが徐々に前進してステーションに近づいていくと、機動性に富むモビルスーツ相手の戦闘は厳しくなりつつあった。
「オレンジ12に新たにモビルスーツ、4」
「取り舵10!コリントス、撃ぇ!」
ミリアリアが衝撃に耐えながらアラートを告げると、マリューは迎撃と同時に「モビルスーツ隊、出撃!」と命じた。
ドラグーン装備のシラヌイパックの調整がやや遅れ気味だったため、マードックは最終打ち合わせを終えてもやや心配そうに覗き込んだ。
「少佐…じゃねぇや、一佐なら大丈夫だとは思いますがね」
「まかせとけって。女の子にばっかりいい格好はさせられないだろ」
そんなネオの物言いがムウを彷彿とさせ、相変わらず整備兵の苦笑を誘う。
準備の整ったアカツキをミリアリアが出撃体勢に導いた。
「カタパルト接続。APU、オンライン。システム、オールグリーン。進路クリアー。ネオ・ロアノーク一佐、アカツキ、発進どうぞ!」
「ネオ・ロアノーク、アカツキ、行くぜ!」

「よし、こちらもモビルスーツ隊を出すぞ!」
続けてムラサメ隊が出撃してアークエンジェルの防衛ラインが整うと、後に続くエターナルでもバルトフェルドが命じた。
まず先に3機のドムが出撃し、次はいよいよガイアの番になった。
「ホーク!」
「は、はいっ!?」
バルトフェルドが発進準備を整えているメイリンに声をかけると、驚いた彼は上ずった声で返事をした。
「行けるな?ひっくり返してやれ、運命なんてもんは!」
メイリンはその言葉に、もう一度元気よく「はい!」と返事をすると、シフトレバーを引いてガイアを起動させた。そして、いつも自分がやってきた管制のオペレーションに従ってカタパルトデッキに向かう。
(僕は行くぞ…僕の夢を、可能性をもう一度取り戻すために)
「メイリン・ホーク、ガイア、発進します!」
強奪事件以来、運命に翻弄され続けたバーミリオンのガイアは、同じく運命に翻弄された新たな乗り手を得て、戦場へと飛び出した。 

攻撃してくる戦艦やモビルスーツが増えたため、速度を落としたエターナルの鼻先に陣取った3機のドムは、宇宙でも相変わらずのコンビネーションで近づくモビルスーツを屠っていた。
「ラクス様の艦を討とうなんて、ふざけた根性してんじゃないか」
ヒルダがサーベルでザクを切り裂くと、バズーカを構えたマーズが「なぁ、もうコックピットを狙ってもいいんだろ?」と尋ねた。
それを聞いてヘルベルトがニヤニヤしながら答える。
「そりゃおまえ、『臨機応変に』ってヤツじゃねぇのか」
「なぁに、エターナルさえ守れれば何やったっていいさ」
なんたってこっちは戦力的に不利なんだからねとヒルダも笑った。
「小僧!あんたはそこらをチョロチョロ動くんじゃないよ!」
「は、はいっ!」
「手元が狂って撃っちまうぞ!」
ゲラゲラ笑う荒っぽいベテラントリオに怒鳴られ、メイリンはすごすごと艦体近くにまで下がった。

「ああ?なんだ、あのモビルスーツは…」
出撃したヴォルテールがエターナルの艦影を捉えると、イザークは友軍機を次々と片付けている見慣れないモビルスーツに気づいた。
モニターにはコックピットで待機しているディアッカが映る。
「そんなことより、どうすんだよ隊長、俺たちは?」
出撃はまだですかと隊員たちから突き上げられながらも、ディアッカはもう少し待てと待機を命じてきた。
イザークはその言葉に「あん?」と聞き返した。
(「あん?」じゃねぇっつの)
ディアッカは苦笑しながら思う。
(おまえがオーブだろうが月基地だろうが、レクイエムなんぞを撃ちたくないと思ってるってのは初めからバレバレなんだよ)
「ま、とりあえずさ…」
ディアッカはポキポキと首を鳴らして言った。 
「一応出てって、瞬殺されてくる?」
同時に、烈火のごとき怒号が飛んできた。
「馬鹿者!そんな根性なら最初から出るな!」
「いや、だってなぁ…」
ディアッカは肩をすくめた。
「あいつら、レクイエムからオーブを守ろうとしてんだろ?そんなところへのこのこ出てきゃ、討たれるぜ、一瞬で…」
イザークはディアッカのもっともな意見にぐっと詰まる。
「…俺が出る!」
「はぁ?」
ディアッカは思わず身を乗り出した。
「いや、おまえ、出るって…聞いてた?俺の話」
「ジュール隊長!?」
艦長も驚いて振り返ると、イザークは既に床を蹴っていた。
「ヴォルテールは後ろから支援だけしていろ」
くるりと体を反転させて入り口の扉を掴むとさらに言う。
「いいな。前に出るなよ。死ぬぞ!」
艦長はその剣幕に押されて「はい」と答えたが、既に隊長の姿はない。
彼は仕方なく、モニターに残されたディアッカに視線を戻したが、ディアッカも「ああなったらお手上げだ」というように両手を広げた。
(目の前に因縁の連中がいるのに、黙って見てるなんて無理だよな)
ディアッカは仕方がないと諦め、呆気に取られている艦長に忠告した。
「くれぐれも前には出ない事だね、艦長。連中に討たれたくなきゃな」

ラクスは衝撃で揺れるブリッジで、未だ毅然と訴えかけていた。
やめるわけにはいかない…自分にできることはこれしかないのだから。
キラが、アスランが…皆が戦っている…カガリくんたちと、オーブを…
(新たな世界ではない、今、僕たちが生きているこの世界を守るために)

「こんな戦いが、本当にプラントを守るものだと言うのか、きみたちは!」

ゲイツRのパイロットがインフィニットジャスティスの目の前でこのラクスの言葉に戸惑い、思わず動きを止めてしまった。
「馬鹿!何をやっている!」
グフに乗った赤服がそれに気づいて彼を庇おうと前に出たが、アスランの太刀筋が一瞬早かった。ゲイツRは頭部を飛ばされ、バランスを崩して彼方へ流れ去った。グフはそれを見て舌打ちし、そのままジャスティスをやり過ごしてエターナルへと向かっていく。
「しまった!」
アスランは逃がしたグフを眼で追ったが、ドムは別の部隊と戦っており、エターナルに向かう彼を止める者がいない。
「く…」
「アスラン!?」
反転したアスランを見てキラは驚いたが、「すぐ戻る」と言う彼女を信じて見送り、自分は前方にいる敵に向け、マルチロックオンを再開した。
「ラクス様の名を騙る偽者め!!」
赤服はエターナルのミサイルをビームガンで撃ち落としながら、素晴らしいスピードで懐に飛び込んできた。そのまま砲撃を避け、後部エンジンに向かうと、右手を伸ばしてウィップを出した。
「これで…!」
その時、戦艦後部から突然モビルスーツが現れた。

制御にてこずりながらもようやくコツを覚えて機体のバランスを取り、エターナルについたメイリンは、砲撃が始まるとライフルを構えた。
そして自軍の攻撃の邪魔にならないよう、ミサイル発射管の確認をしていたところで、出会い頭のようにグフと鉢合わせてしまったのだ。
「…グフ!?」
「ガイアだと!?」
こちらに気づいてすぐにウィップを構え直したグフは、そのまま加速して向かってくる。メイリンは手に持ったライフルを放った。
グフはそれをすんでのところで避けると、ウィップが届く距離まで詰めてきた。メイリンは後退と同時にシールドを構えたが、相手は巧みにそれをかわして、ウィップの先がガイアの機体をかすめた。
大きなダメージはなかったが、パネルの電気系統にプラズマが走り、激しい火花にメイリンは思わず「うっ」と眼を閉じて顔を逸らす。
(いけない!眼を逸らしちゃダメだ!)
メイリンはすぐにライフルを構え直すと、臆することなくグフを狙った。
グフもまたウィップを振り上げて向かってくる。恐ろしい勢いで突進する相手に思わず身がすくんだが、逃げるわけにはいかない。
(エターナルを…ラクス様を守るんだ!)
果たして当たったのかどうかすらわからなかったが、すぐに激しい爆発が起きてガイアは吹き飛ばされた。スラスターを操作して立て直した時には、目の前には破壊されたグフの残骸があった。
メイリンが顔を上げると、少し離れたところに、たった今爆散したグフを取り逃がしたインフィニットジャスティスが追ってきていた。
「メイリン、大丈…」
「よくやった、ホーク!お手柄だ!」
アスランの言葉より、バルトフェルドの声の方が大きかった。
「その調子で艦を護衛しろ。離れ過ぎるなよ!」
艦には激しい攻撃が続いているのに、バルトフェルドがわざわざ通信を開いてモニターに現れ、激励してくれたのだ。
それを見てメイリンは思わず顔をほころばせる。
「はい!ありがとうございます、隊長!」
(やった…やったんだ!)
喜びに打ち震える彼は再びエターナルの側面につき、護衛を続ける。
(隊長…か)
アスランはそんなメイリンを見てふっと微笑むと踵を返し、キラを追った。

「あのぉ、艦長…?」
自分がこの役を務めることにはさすがにもう慣れた。
アーサーがいつものようにおずおずと、しきりに親指を噛む彼女に尋ねると、タリアは珍しくやれやれ…というように笑顔を向けた。
「わかってるわ」
彼女の答えもいつもと同じだった。 少し間は抜けているが、人のいいアーサーにはついつい甘えて八つ当たりをしてしまう。
「でも同じですわ。やっぱり先のことはわかりませんので、私たちも今は、今思って信じたことをするしかないですから」
彼女の心に、マリア・ベルネスが…マリュー・ラミアスが蘇る。
(私も同感よ。だから今は戦うしかないわ。終わらせるために)
今だって迷ってるし、これが正しいのかもわからないけど…
(あの人が目指す世界、示す世界のために、戦わなければ)
そう思って、タリアはふっと笑った。
彼に別れを告げたあの日、新しい未来を掴むのだと決めていた。
そして授かった息子は今、プラントで私の帰りを待っている。
 
―― もう1年以上、あの子に会ってない…
 
(あんなに欲しいと願った我が子を置いて、私は戦争をしてる)
夫を裏切って彼と再び関係を持ち、この1年間だけなら家族よりデュランダルと過ごす時間の方が長かったのだ。
「一体何をしているのかしらね、私は」
「はぁ?」
タリアは困ったように聞き返すアーサーに右手で合図した。
「これより、本艦は戦闘を開始する。インパルス発進。全砲門開け。照準、アークエンジェル」
「は、はいっ!」
アーサーは突然の攻撃開始命令にピッと背を伸ばした。
「ザフトの誇りに賭けて、今日こそあの艦を討つ!」
迷ってなどいられない。終わらせて、愛する息子のもとに帰るのだ。

「グラディス艦長」
マリューもまた、前進を始めたミネルバを睨みつけた。
(あなたは決して悪い人ではないわ…それは私が一番知っている)
共に過ごした穏やかな時間が思い出され、マリューの胸を刺す。
(戦いたくない相手とばかり戦わなければならないなんて…相手を知れば、敵などいなくなるのに…そうでしょう?ナタル)
マリューは自分が命を奪ってしまった大切な戦友を思い、溜息をついた。
(でも、だからって私は、この理不尽な世界を否定なんかしないわ)
「ミネルバ、来ます!」
ミリアリアの声が鋭く響く。
「取り舵10、下げ舵15。ゴットフリート照準、ミネルバ!」
「ゴットフリート、1番2番起動!」
マリューはてきぱきと仕事をこなすブリッジのクルーを見て微笑んだ。
(ムウに…皆に会えたこの世界を、私は心から愛しているんだもの)

「ええい!」
ネオはアークエンジェルに取り付こうと近づくゲイツRをライフルで撃ちぬき、さらに数を増して向かってくるザクやグフを視認するとドラグーンの準備にかかった。ちょっとばかり調整が遅れてても…
「使いこなしてみせましょう!」
バックパックのシラヌイから7基のビーム砲が一斉に発射された。
ストライクフリーダムのスーパードラグーン同様、これを全て同時に操るのは、量子インターフェイスの改良による支援があるとはいえ常人には至難の業だ。しかしネオの空間認識能力は飛び回る砲塔の位置を捉え、それが向かうべき敵のフィールドを立体的に認知した。
これを言葉で説明しろと言われても彼には難かしい。
ただ「わかる」し、「できる」としか言いようがないからだ。
ネオは、吹っ飛んできたビーム砲塔を避けながらドレイプニルを放つグフを上下から挟むと、三連装ビームを撃って破壊した。
さらにアークエンジェルを撃とうとしていたザクウォーリアは、小回りの利くドラグーンにオルトロスでは太刀打ちできないと離脱したところを、ハルバートモードのサーベルで撫で切られた。

「出たはいいけど、どうする?」
ディアッカはカッカして先行しようとするイザークを諌めながら、ハーネンフースら赤服にはヴォルテールを守るよう命じた。
「しかし、我々もステーション1の防衛に出るべきでは…」
「いいから!絶対に前に出るなよ。俺と隊長が様子を見てくる。まずはそれからだ」
ヒヨっ子どもには出撃すら許さず待機しているよう言い残して、ディアッカは「さて、隊長」とイザークの方を向き直ったのだ。
「イザーク…おまえ、まさか…」
あいつらと本気で戦うとか言わないよな、と言いかけてこらえる。
イザークは前方を睨みつけていたが、やがて怒鳴り出した。
「今、俺が殴りたいのは、あいつだけだっ!」
「えっ!?殴んの!?」
ディアッカが驚いてそれを止めた。
「いやぁ、それはマズいでしょ。あれでも女の子だからさ、一応」
「……なら、ひっぱたく!」
「あ、そ」
もうこいつには何も言うまい。
(どうせ本人を前にしたら、まともに顔も見られないんだから)
そう思う間にも、ミーティアで友軍であるナスカ級を景気よくぶった切っているジャスティスに今にも突進していきそうだ。
「よくもまたおめおめと…あんなところに!」
ディアッカはため息をつくと、「とりあえず行こうぜ」と発進した。

ミネルバとアークエンジェルは着々と距離が詰まっていた。
「CIWS、トリスタン起動。ランチャーワン、ランチャーシックス、1番から4番、ナイトハルト装填」
アーサーが砲術を伝え、チェンが実装を開始する。
カタパルトデッキにはコアスプレンダーが待機した。
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
出撃と同時に合体し、フォースインパルスが姿を現す。
(どうしたらいいかわからなくても…戦わなくちゃ)
ルナマリアは母艦に向かってくるアークエンジェルを睨む。
(今はただ、目の前にいる敵と!)

「撃ぇ!」
両艦はすれ違いざまにそれぞれの主砲を撃ち、同時に大きく旋回した。
ミネルバからはナイトハルト、アークエンジェルからはコリントスが発射される。無論、イーゲルシュテルンとCIWSの応酬も激しく、避けきれなかった砲弾が艦体を襲い、ブリッジに衝撃を与えた。
「バリアント、撃ぇ!」
「回避して!トリスタン照準!イゾルデ起動!」
激しい砲撃戦の間に、エターナルも前進してきていた。

「ステーション1はもう間もなく落ちるだろう」
まだ敗色濃厚というわけでもない、むしろ数ではいつも負けていたこちらが珍しく有利なのに、デュランダルは戦局を眺めながら言った。
シンは黙って目の前に展開される宙域図を見つめている。
(フリーダム…そして…ジャスティス)
赤と青のマーキングがされた2機は、戦艦並みの火力と機動力で次々と友軍機を沈めながら、かなりの速さでステーション1に近づきつつある。
「だが、まぁいい。換えはまだある。そのあと彼らは恐らく、そのままこちらへ来るだろう。なんといっても数が少ないからな」
「はい」
しかし相変わらず、返事をするのはレイだけだ。
「ミネルバや守備隊がだいぶ消耗させてくれるとは思うが…」
先ごろ辞してきた母艦はアークエンジェルと激しくぶつかり合っている。
「だがわかってるな?彼らは強い…それで討てねば全ては終わるぞ」

確かに奴らは強い…だがなぜあんなにも強い?
シンは片隅にある小さなモニターに目を走らせた。
そこには地球の立体地図があり、ある箇所が指し示されている。
(…守ろうとしているからか…あの国…オーブを)

「わかっています」
シンの思惑とは裏腹に、再びレイが答えた。
「デスティニープランを受け入れようとせず、旧世界にしがみつく彼らは、討たれるべきです」
「きみはどうかな?シン」
議長は再び、相変わらず口を開かないシンに矛先を向けた。
「きみも同じ想いか?」
シンはうつむいて拳を握り締めた。
(レイは、そう遠くない未来…死ぬのだと言う…)
(ルナも…俺が嘘をついたと怒って行ってしまった…)
(アスランもメイリンもいなくなって…俺は…また…)
やがてシンはゆっくりと口を開いた。
「…はい。俺も…レイと…同じ…」
そこまで言いかけて、シンは再び口をつぐむ。
議長とレイはそんなシンを見て、いぶかしげに見つめあった。
 
やがて議長は、命令があるまで待機していてくれと2人に告げた。
ステーション1が落とされようとしているのに、特に焦る様子もない。
ほとんど口を利かなかったシンは、レイと共に司令室を出かけたが、ふと、自分の襟元に輝くFAITHの証に触れて足を止めた。
そしてくるりと振り返り、議長の前に戻っていく。
レイは扉の前で怪訝そうな顔をしてそんなシンを見守った。
「どうしたね。何か聞きたい事でも?」
議長は戻ってきたシンに優しく尋ねた。
「議長」
「うん?」
「…あなたが俺に約束した…戦いの先にあるという、平和な世界…」
シンは言いかけて一瞬黙ったが、再び口を開いた。
「それは…オーブを滅ぼさなければ、手に入らないものなんですか?」
議長の瞳がシンを射抜く。
「シン!何を言っている?」
レイが驚いてシンに向き直った。
しかしシンは議長を見つめたまま動かず、互いの視線がぶつかる。
議長はそのまましばらくの間黙り込んだ。
いや、実際にはさしたる時間ではなかったのだが、シンにはかなり長く彼が沈黙していたように感じられた。
やがてデュランダルは噛んで含めるように言った。
「…そうだよ、シン」
シンは黙り込み、レイもまた黙り込む。
今度こそ本当に沈黙が続き、やがてシンが言った。
「もしあなたが…間違っているのなら…」
シンは煌く深紅の瞳で議長を見据えた。
「俺は、あなたを討ちます」
「シン!」
レイが驚いて駆けつけようとするのをデュランダルが右手で制した。
「いいだろう」
議長は柔和な笑顔で穏やかに答えた。
「きみは、己の信念や信義に忠誠を誓えばいい」
議長は、かつてアスランに言った言葉をシンに贈った。
「もし私が間違っていると思ったら、迷わず討ちにおいで」
シンは黙って頷き、そのまま部屋を辞した。
周りにいた黒服も国防委員も、皆この発言に呆気に取られている。
レイはシンの肩を掴んだが、シンはそれを振り払い、2人は出て行った。
「強い子だ」
議長は2人を見送ると嬉しそうに微笑んだ。
(だが大丈夫だ、シン)

「私は…間違ってなどいないよ」
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secret
制作裏話-PHASE49①-
いよいよ最終回直前のPHASE49です。
かつて私は「最終回の1回前が一番面白い」という持論を持っていたのですが、DESTINYに関しては全くあてはまりません。
種の方はドミニオンが沈むドラマティックな回でしたが、こちらはもうご存知の通り「そもそも主人公が出撃しない」ひどい内容になっています。
え?主人公はちゃんと出撃してたじゃないかって?むきー!DESTINYの主人公はキラ様じゃないですからっ!!

しかもこの回、肝心の主人公としてのシンのセリフはほとんどなく、我々視聴者はシン・アスカが何を想い、何を背負って最終決戦に挑むのかを知ることができないのです。ホント、後にも先にもこんな不遇な主人公はシンだけだと思います。どんなにおかしな意見であっても、主人公は最後の戦いに臨む時は当然その作品を背負って信念を貫くものです。
ロランもキラも刹那も、いえ、フリットだってアセムだってそうでした。
しかしシンにはそれがない。意見を言わせて貰えず、葛藤すらさせてもらえません。最後までレイに引きずられるだけだったように見えるのも仕方ないくらいです。

そんなフラストレーションを解消すべく、逆デスでは当然ながら改変を加えています。
ルナマリアと決裂してしまったシンは、オーブを討つなどという乱暴な作戦に納得できていません。
だから議長の意見にもレイの言葉にも、シンは簡単に頷けずにいます。
ここではシン自身が、何が正しいかを見極めようとしていると描写したかったのです。本編ではシンをただのアホな子にしてしまった制作陣に一矢報いたかったからです。

議長の言う「平和な世界」はこんなにも多大な犠牲を払わなければ…オーブを滅ぼさねば届かないものなのかと、シンは自問自答を繰り返します。けれどそこには哀れなステラや命の短いレイの存在があります。そして自分が駆け抜けてきた戦場には悲劇があり、自分自身にも拭いきれない傷が刻まれています。

シンは本当にこういうキャラにできたはずです。
自身も痛みを受け、戦争というものを考えていけるキャラとして、それでも平和を求めるために欺瞞を受け入れてでも戦うのだと決意するなら、本当に格好いい主人公になれたと想うんですよ。それで負けるなら負けて悔いなしじゃないですか。

だからシンは議長に言うのです。
「あなたが間違っているなら討つ」と。
私はこのセリフをどうしてもシンに言わせたかったのです。
シンの強さを示す一番のセリフだと思うからです。
これは逆に、シンが議長を信じると意思を示したことになるわけです。
FAITHに任命された重みをシンに背負わせたかったし、結果的には敗れる議長にもシンをFAITHに任命したけじめをつけさせるためでした。

シン側に心理的描写が多い分、本編同様キラやアスランは戦闘でご多忙です。
何しろ尺が足りなくて見切り発進的だった最終戦はあまりにご都合主義的なのでFPで尺がかさ増しされたくらいですから、逆デスでも補完しつつ、いくつかのシーンをつけ加えています。
本編ではもちろんありえないメイリンの初出撃や、バルトフェルドとの会話、准将であるキラが司令官として役割を果たしている事、ルナマリアの葛藤など、「こういうシーンがあればなぁ」というものは書き込んでみました。
ことにルナマリアは本編ではなかったシンとの決裂があったゆえに、この戦いの意義を捉えようとしています。さらに後半では弟との直接対決も待っていますから、ヒロインの役割をきっちり担ってもらいました。

タリアについては独身ならまだしも、議長と不倫関係だったという事に一体何の意味があったのか本編では描かれないままでしたから、私なりの解釈を加えています。もちろんかなり苦し紛れですが、最後には子供を捨てて昔の男を取るのですから「そういう女だったのだ」と思うしかありませんね。

一方マリューには、かつてアスランとの決裂に悩んでいたキラに言ったように、「この世界を愛している」と言わせました。このセリフ、最終戦で彼女が戦う理由として帰結させる事が目的の伏線だったんですね。
本編ではラクスやキラたちが議長の目指す新世界に反対する理由があまりに弱かったので、逆デスではラクスたちは「どんなにダメダメでも、今現在の世界を否定するのではなく、よりよく変えていくよう努める」事を選んだとしたため、このセリフを言わせる必要がありました。
ちなみにこのセリフ、種本編でミリアリアがディアッカに言った「オーブは私の国なんだから」というセリフにインスパイアされています。戦う意志を示すのに、これほど潔い言葉はないと思います。さすがミリアリアです。

そしてこの回はイザークとディアッカがようやくどっこい生きてたアスランと接点を持つ事になります。
イザークはもちろんですが、やはりディアッカは非常に書きやすい便利なキャラです。アスランが生きていた事を素直に喜べずにカリカリするイザークをなだめつつ、ディアッカはディアッカで一抹の不安を持っています。
ディアッカとミリアリアについては最終回でどうしても描きたいサルベージシーンがあったので、このあたりは計算どおり進んでおり、書いていてもついニヤニヤしてしまいました。
になにな(筆者) 2012/06/19(Tue)00:20:25 編集

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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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