機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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園の全ての木から採って食べなさい。
ただし善悪の知識の木からは決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう…
だがやがて、共に創られた野の生き物のうちで、一番賢い蛇がこう言ったという。
『決して死ぬことはない。それを食べると目が開け、神と同じく善悪を知る者となる』
そのことを神は知っているのだ、と。
そうして始まりの人は、その実を食べたのだという。
ただし善悪の知識の木からは決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう…
だがやがて、共に創られた野の生き物のうちで、一番賢い蛇がこう言ったという。
『決して死ぬことはない。それを食べると目が開け、神と同じく善悪を知る者となる』
そのことを神は知っているのだ、と。
そうして始まりの人は、その実を食べたのだという。
メサイアの周囲には防御帯であるリングがシールドを張り、貝にも似た要塞はまるで糸に包まれた繭のような姿になった。
「エターナルに攻撃を集中しろ。あれが旗艦だ。他はそのあとでいい」
議長はレクイエムに近づこうと攻撃を続ける戦艦を指差した。
「オーブの残存も撃ち漏らすなと、ゴンドワナに」
黒服の将校たちはその命令に敬礼し、司令室を走り回った。
物量も戦力も決して劣っているわけではない。
けれどデュランダルの心には暗雲が立ち込め始めていた。
(討てない…どうしても…)
綿密に練ってきた計画がようやくここまで来たというのに、やはり、最後まで自分の目の前に立ちはだかるのは彼らだった。
「どこだ…フリーダム…!」
シンは、オーブ艦隊と防衛戦を続けているダイダロス基地を越え、2機を探していた。
アークエンジェルが開いた道を追走するエターナルにはゴンドワナが攻撃を仕掛けている。
(この近くに…必ずいる!)
やがて、シンは目指す相手を見つけた。
「ザフト、モビルスーツ群接近。数20。グリーン18、ブラボー!」
「面舵10!上げ舵5!主砲照準!取りつかせるな!」
バルトフェルドが迎撃を命じたが、既に相手の防衛圏内に入ったエターナルへの集中砲火は激しさを増すばかりだ。速攻が裏目に出て、合流するはずだった艦隊が半減では無理もない。
メイリンはスラッシュザクウォーリアのアックスを受け止め、弾くと同時に手近なデブリを蹴ってMA形態に変形した。そしてまさしく獣のようにザクに向かっていくと後頭部を蹴る。そして相手が視界から彼を見失った時、ガイアは反転すると同時に背中のビームブレードを開いて、ザクのボディを斬り裂いた。
ドムはグフやゲイツRを相手にしていたが、ナスカ級や基地からの対空砲火が集中し、エターナルへの被弾が多い。
「ムウ!エターナルをカバーして」
マリューの命を受けたアカツキがアークエンジェルをムラサメに任せ、ドラグーンを飛ばす。途端に立体形のシールドが出現し、戦艦全てを包み込んだ。
「コリントス、撃ぇ!」
アークエンジェルは、エターナルを狙う戦艦にミサイルを発射した。
シンは目指す相手の姿を射程圏内に捉えると、ライフルを抜いた。
こちらの射程という事は、当然相手の射程にも入っている。キラもまたライフルを両手に持つと、デスティニーを待ち構えた。
両者はまるで度胸を試すかのように猛スピードでギリギリまで近づき、そしてトリガーを引いた。同時に離脱したが、ややデスティニーのスピードが勝る。キラは反転し、素早くレールガンを起こして放った。
「ちっ…!」
カウンター気味にいくらか被弾して衝撃を受けたシンは、直上に飛び上がって機体を立て直すと、再びライフルを構えて急降下する。そして飛び回るフリーダムにビームを撃ちながら、光の翼を広げ、さらにスピードを上げて追って行った。
一方、そんな2人の高速戦を見ていたアスランには後方から無数のビームが襲い掛かってきた。
(ドラグーン…レイ!)
アスランは素早くそれを避けると、サーベルを抜いた。
しかしレイはドラグーンを収めるとそのまま距離を取り、ロングライフルを抜いて構えたまま、近づいては来ない。
近距離戦闘が得意な自分を警戒している…かつてフリーダムを倒した時の2人の熱心さを思い出し、アスランは「研究済みというわけね」と呟いた。
(ならば、かいくぐって飛び込む!)
アスランはサーベルを繋げてハルバートモードにすると、急速にスピードをあげた。レジェンドはビームを放ちながら下がっていく。しかしそれでは間に合わないと悟ると、再びドラグーンをパージした。
追いついたデスティニーは、キラをロックしてライフルを撃ち、ストライクフリーダムはサーベルを抜いてそれを全て弾き返した。そのままデスティニーに向かっていき、両者は激しくぶつかり合う。
「ぐっ…!」
押し負けたデスティニーを退けると、キラは素早く宙域を離脱した。
「相変わらず逃げ足が早いな!」
シンはその軌道を読み、さらにビームライフルで畳み掛けた。
「おいおい…やばいぞこりゃ!」
ジャスティスとフリーダムの足が止まった事で、これまではゆっくりでも目的に向け流れていた艦の進みもピタリと止まった。
ネオは狙われるエターナルのシールド防衛にかかりきりになり、ドムとガイアがモビルスーツを、そしてアークエンジェルをムラサメが守っている。しかし動きは完全に止まってしまった。
距離を取ったキラは両手に構えたライフルでデスティニーを狙ったが、シンはそれをものともせずに避けながら懐に突っ込んできた。
一方ビームをサーベルで弾き、砲塔を蹴り飛ばして懐に飛び込んだアスランは、レジェンドに斬りつけながら苛立ちを募らせた。
「オーブ艦隊はどうなってるの?レクイエムは…?」
状況は錯綜し、最前線の彼らには何もわからなかった。
オーブ行政府では戦闘状況に入っている月戦線の情報を得ようと上を下への大騒ぎだ。カガリは新しい情報が入ってくるたびに忙しく指示を下している。
「領海内の護衛艦群は?」
「戦闘配備中です」
「国民にもきちんと情報を流せ。希望する者はシェルターに避難を」
プラントがオーブ本国を抑えるつもりならそろそろ艦隊が動いてもいいはずだが、カーペンタリアには何の動きもない。
(レクイエムで撃たれればもろとも消え去る事になるからか…)
それは即ち、オーブをこの世に残さないという彼の意志だ。
「キラ…アスラン……ラクス…」
カガリは口元で両手を組み、静かに眼を閉じた。
(祈りはしない。信じているからな…おまえたちを)
「マエデーフェルト沈黙。メートランド、戦線より離脱します」
メサイアの司令室では戦況が報告されている。
アークエンジェルの健闘により、沈黙するザフト艦も多い。
「スサノヲ、クサナギ、ツクヨミはシグナル確認」
同じくアークエンジェルでも、ミリアリアがようやく把握できたオーブ艦隊の状況を報告した。盟友である副旗艦クサナギも、かろうじて無事だった。
「あとは駄目です。状況混乱」
オーブ艦隊の半分以上が飲み込まれた…マリューは唇を噛んだ。
「ソガ一佐たちと合流を!急いで!」
「ファルバーン隊、針路クリア。発進どうぞ!」
「続いてジロンド隊、レブバース隊、どうぞ!」
しかしゴンドワナからはさらに、傷ついたオーブ艦隊を壊滅させるべくモビルスーツ隊が大量に投入されていく。
「レッド18、アルファに、ゴンドワナ。モビルスーツ、オーブ主力艦隊へ向かっています」
「ちっ、後から後から!」
エターナルのオペレーターが告げると、援護に行きたくとも激しい攻撃で動けないバルトフェルドが歯噛みして悔しがった。
「残存のオーブ艦隊に?」
キラは情報を受け取ったものの、デスティニーと激しい交戦中の今は、手も足も出せない。
「仕掛けに乗せられた。これではレクイエムが…」
アスランがドラグーンを避けながら言った。
「…ムラサメを向かわせて」
マリューのその判断にチャンドラもミリアリアも驚いて身を乗り出した。
「ええ!?」
「で、でも…」
アカツキがエターナルにかかりきりになっている今、ムラサメがいなくなるとアークエンジェルは丸腰も同然になってしまう。
「このまま艦隊をやらせるわけにはいかないわ」
その頃、キラとアスランが破壊したステーション1に代わり、グフやザクが護衛する新しいステーションがダイダロス基地に向かってきていた。
「ステーション2、ポジションまで160」
「ネオ・ジェネシス、パワーチャージ、40%」
同時にオリジナルのジェネシスよりパワーが劣る分、チャージが早いネオ・ジェネシスの準備と、ミラー換装も進められている。
ジャスティスは再び一気にレジェンドとの距離を詰め、ハルバートモードのサーベルで斬りかかる。レイはシールドを展開して防ぎ、敢えてドラグーンを放たず、バックパックの砲塔を一斉に前に向けるとそのまま放った。
アスランは離脱と同時に無数のビームを両刃で薙ぎ払う。
「キラ!今討てなければ、一次中継点も復活する」
動きつつあるステーション2に気づいたアスランが言った。
やはりレクイエム本体を破壊しない限り、危機は去らないのだ。
「オーブが討たれる!」
キラはジャスティスに追われて今度は自分の前に飛び出してきたレジェンドにライフルを向けた。
「くっ!」
レイはそのままドラグーンを全て放出し、全方向からフリーダムにビームを撃ち掛ける。スパイクがビームシールドを突き抜けると知り、キラは一旦下がらざるを得ない。その途端、今度はデスティニーに狙われた。
「ええい…何でこいつは!」
シンはちっと舌打ちをしながらストライクフリーダムに向かった。今日という今日は、決して逃さないと決めている。
「最高のコーディネイターとやらのおまえも…この世界の結果だろうが!」
「く…っ」
キラもまた、突破の糸口が掴めず焦り始めていた。
「キラ!」
その時、ジャスティスのブーメランが両者の間に割って入った。
シンはギクリと後退り、それを投げた相手を睨みつける。
アスランは戻ってきたブーメランを装着すると、サーベルを構えて加速した。そして待ち構えるデスティニーに斬りかかる。
(…シン!)
シンはサーベルをシールドで弾き、近づいた機体に素早く腕を伸ばした。パルマフィオキーナが光りだすと、アスランは掌を腕で払って離脱する。
モビルスーツが激闘を繰り広げている傍では、集中砲火を浴びるエターナルと、それを援護するアークエンジェルに、インパルスとミネルバが接近しつつあった。
「インパルス接近!」
エターナルのオペレーターがその機影を捉えた頃、メイリンも熱紋反応とアラートで気づいて後方を見た。
「その後方より、ミネルバ」
マリューもまた、再びやってきた最大の好敵手を睨みつけた。
ミネルバでもようやく追いついた相手に攻撃を開始した。
「ナイトハルト、撃ぇ!」
アーサーが命じ、戦女神のミサイルが大天使に襲い掛かる。
「回避!迎撃、コリントス、ヘルダート、撃ぇ!」
「イゾルデ起動。ランチャーエイト、ミサイル発射管全門開け!」
エターナルの艦尾で再びドムと対峙したインパルスはサーベルを抜いた。
「しぶとい奴だね!今度はあの小僧に邪魔させないよ!」
ヒルダがサーベルを抜いて向かってくる。
「俺たちに見張ってろってか?」
「お坊ちゃんにバレねぇようにうまくやんな!」
マーズが呆れると、ヘルベルトがバズーカを構えて笑った。
「何よ、毎度毎度!」
重量級の機体の重い太刀筋に、ルナマリアは押し負けそうになる。
(くっ!…負けるもんですか!)
ごぉっとスラスターをふかし、インパルスのパワーが上がる。
(戦わなくちゃ…今は戦わなくちゃいけないのよ、あんたたちと!)
「私はっ!」
「何ッ!?」
ヒルダのドムがインパルスに押し返されると、それまで笑っていたヘルベルトたちの表情が急に締まった。
「野郎…パワーがありやがる」
「バカ、感心してないで撃てよ!」
2人が弾かれたヒルダの援護のため同時にバズーカを放ち始めると、ルナマリアも艦に近づけなくなったため、仕方なく一旦離脱した。
シンと戦うキラを見ながら、アスランはエターナルに眼を向けた。善戦しているが、激しい攻撃を受け、ダメージが蓄積している。
ブリッジでは襲い掛かる衝撃に耐えてラクスがシートの肘を掴み、バルトフェルドが大声で回避と迎撃命令を出している。ダコスタも必死に航路を見定め、砲術を展開していた。
「アスランは行って!アークエンジェルも!」
「え!?」
何か突破口はないかと考えていたアスランの耳に、キラの声が飛び込んだ。フリーダムは襲い掛かってきたレジェンドのシールドを押し返している。
アスランはキラを援護しようとレジェンドにライフルを放ったが、後ろから接近するデスティニーに気づくと機体を反転させ、ストライクフリーダムと背中合わせの格好になった。
キラの声はエターナルとアークエンジェルにも届いており、両艦のブリッジでは皆が驚いて顔を見合わせた。
今は攻撃力の高いアークエンジェルがいるからこそ、エターナルはなんとか持っているようなものだ。その上ジャスティスまでいなくなれば、いくらキラでも抑え切れるかどうかわからなかった。
「キラ!だけど…」
ミリアリアが心配そうに言うと、キラがモニターの中で微笑んだ。
「ここは私とエターナルで抑えます。あとは全てレクイエムへ!」
フリーダムを庇うように待ち構えるジャスティスを見て、シンはM2000GXを構えた。アスランはファトゥムを起こすと迎撃態勢に入る。最初からストライクフリーダムの火力に気を取られていたシンは、ファトゥム01から放たれたハイパーフォルティスの威力に面食らった。
「チッ…!」
被弾を免れるためビーム砲を引き上げざるを得ず、シンはジャスティスを睨みつけた。
一方キラは皆が自分の言葉に戸惑っていることに気づくと、おずおずと言った。
「えっと…命令、です」
「命令って…」
ダコスタが彼女の言葉に呆れ、そっとバルトフェルドとラクスを振り返ると、2人ともなんだか面白そうな顔をして聞いている。
「でも…それではエターナルは…」
マリューが改めて心配そうな声で言った。
ドムもガイアも善戦しているが、アークエンジェルの援護がなくなれば激しい艦砲射撃からは丸裸になってしまう…
「この艦よりもオーブです、艦長」
けれどモニターの向こうのラクスは涼やかに微笑んだ。
「准将の命令ですしね」
キラたちとチャンネルを合わせてあるイザークとディアッカもこのキラの「命令」を聞いていた。
「どうすんの、イザーク」
ディアッカは激しい砲撃が繰り返される戦場を眺めながら言った。
「司令官から命令が下ったけど、俺ら、あいつの指揮下じゃないしね」
「く…」
イザークは歯を食いしばり、言葉を失った。
「このまま戻る?それともあいつらと行く?」
いつものように飄々とした口調で尋ねながらも、ディアッカ自身はアークエンジェルから眼が離せない。
「…エターナルを援護する!」
やがてイザークは怒ったように言った。
ディアッカが「は?」と聞き返すと、イザークはわからないのかといわんばかりに怒鳴り返した。
「…ザフトの艦だ、あれは!」
ディアッカはそのあまりにも苦しい理由に吹き出しそうになったが、「ま、いいか」と思う。
(イザークなりに、連中のやってる事の方が議長より正しいって判断なんだろうからな)
そしてイザークの機嫌を損ねないよう、ただ「なるほどねぇ」とだけ答えた。
「オーブはプラントに対する最後の砦だ」
未だに離脱を躊躇するアスランとアークエンジェルのブリッジに向けて、ラクスが言った。
「失えば、世界は呑み込まれる。見えない恐怖が人々を包む。絶対に守らなくては。カガリくんが治め、守っていくオーブを…」
アスランがラクスのその言葉にきゅっと唇を閉じた。
「僕たちは、そのためにここにいるんだ」
キラもまた、ラクスの言葉を聞きながらハイマットフルバーストを展開し、近寄ろうとするレジェンドとデスティニーを寄せ付けない。
「だから行ってくれ。アスラン、ラミアス艦長。さあ、早く」
アスランはシンたちの足止めにかかっているキラを見た。
「頼んだよ、アスラン!」
「…わかった」
マリューもまた、ブリッジクルーと眼で合図を交わし、それからモニターのバルトフェルドとラクスに頷いた。
「では、またあとで。必ず!」
「ああ。必ずな」
バルトフェルドが笑い、ラクスもまた微笑んだ。
ミサイルを放ちながらも、アークエンジェルが艦首を転向させ、戦闘宙域の離脱を始めたと気づいたアーサーが振り返った。
「艦長!」
「離脱する気なの!?」
(エターナルを…ラクス・クラインを置いて?)
タリアは、先ほどはエターナルを守ろうとしてタンホイザーを回避しなかったアークエンジェルが今度は単独で動き始めた事に驚きを隠せなかった。
「それだけ相手も切羽詰ってるって事ね。追い込むわよ、アーサー。あと一息だわ」
「はいっ!」
アスランを追うようにアークエンジェルが針路を基地に向けると、それに気づいたレイは両者を追った。
「行かせるか!ミネルバは何をやっている!」
一斉に放たれたドラグーンが後を見せたジャスティスに襲い掛かる。
キラはそれを見て素早くロックすると、お返しとばかりにスーパードラグーンを放った。青く輝く翼を広げたストライクフリーダムから、凄まじい勢いで飛び出したビーム砲がレジェンドのそれとボディに襲い掛かる。
目標をジャスティスに定めていたレイは、この攻撃への対処が完全に遅れた。
「うわっ!」
「レイ!」
シンは吹き飛ばされたレジェンドを見てフリーダムに視線を戻した。
「…フリーダム!」
そして背部にマウントしたM2000GXを抜いて構え、ロックする。
キラはすぅっと息を吸った。
(私たちは、一刻も早くレクイエムを破壊しなければ…)
「オーブを撃たせはしない。皆を守るために、私のこの力はある!」
キラの体が冷たくなる。体内には流れるような強い風が吹き通り、急激に視界が開けていく。聴覚が研ぎ澄まされ、感覚が鋭くなって、離脱したレジェンドを追っている8基のビーム砲の全ての位置がわかる…キラはドラグーンを操り、ビーム砲を構えたデスティニーに向けた。
「なにっ!?」
シンはそれに気づいてすぐに離脱したが、ドラグーンはどこまでも追ってくる。砲塔のビームが機体をかすめ、シンはその衝撃に耐えながらバランスを取ろうと盛んにスラスターをふかした。
「くそっ…!」
シンはキラの射程の広さに震撼した。ドラグーンをあそこまで使いこなすとは…
(だが、その操作に気を取られている今なら!)
シンは素早くM2000GXを構えると、再びフリーダムをロックした。
しかしその思惑を超え、シンがビーム砲を発射すると同時にキラもまた素早くカリドゥスを放った。レイやネオなど同じドラグーンを操る者と比しても、キラがドラグーンを操りながら「同時にできる動作」は格段に多い。
両者のビーム砲はぶつかりあい、激しい衝撃を起こした。
「うっ…!」
ややカリドゥスがパワー負けし、キラはダメージを食らう前に離脱した。しかしセットアップ動作がない分、フリーダムの方が早く次の動作に移れる。キラはドラグーンを戻してライフルを抜くと、デスティニーを狙い撃ちながら追っていった。
「シン!おまえはミネルバと共にアークエンジェルを追え!」
再びビーム砲を撃つ機会を狙っていたシンは、レイのその声に驚いた。
「フリーダムは、俺が討つ!」
「なんだと!?」
シンはそれを聞いて怒鳴ったが、レイは続けた。
「こいつは俺たちが生まれた元凶だ!俺が討たねばならない!」
レイはそこまで言ってふっと顔を歪めた。
「…俺は、もう一人の俺の仇をとる!」
しかしそれを聞いたシンは、さらに大きな声で怒鳴り返した。
「やめろよ、このバカッ!!」
シンの声には激しい怒りがこもっていた。
「そんな風に…別のやつのことを『俺』なんて言うなっ!」
シンのその思いもかけない言葉に、レイは驚いて目を見張った。
「な…」
「あいつにやられたのはおまえじゃない!おまえは生きてる!」
シンはそう言いながらアロンダイトを抜いた。
「おまえはおまえだ!別のおまえなんかどこにもいない!」
シンは超高速で襲い掛かってくるストライクフリーダムを待ち構え、素早くビームシールドを展開して相手のサーベルを受け止めた。そして自身が振り下ろしたアロンダイトには全重量をかける。
なんてパワー…キラはフリーダムが沈みこむほどの力に驚いた。
「ふ…」
やがて、うつむいたレイが笑い声を発した。
(偽者にも、『そいつ自身』ってものはあるんじゃないか?)
彼の凍てついた心を温めたその言葉は今、全てを溶かす清廉な炎となって燃え上がった。
レイはデスティニーと鍔迫り合っているフリーダムに向け、再びドラグーンを放った。
「く…!」
キラはそれを見ると巧みにアロンダイトをいなし、離脱する。
「レイ!」
それを見て怒ったように叫ぶシンに、レイは言った。
「シン、おまえはジャスティスを追え!」
「おまえ、まだ…!」
「わかっている!」
モニターに映ったレイは笑顔だった。
「俺たちの任務は、レクイエムを守ることだ」
シンは黙って聞いていた。
「俺がフリーダムを抑える。だからおまえがあいつを止めろ。あの裏切り者を、今度こそ倒すんだ…シン、おまえの手で!」
「レイ…」
「それが俺の仕事であり、おまえの仕事だ」
穏やかなレイの言葉にはいつもの冷静さが戻った気もする。しばし逡巡したものの、シンはやがて言った。
「…任せていいんだな?」
レイは「ああ」と頷いた。
「おまえの言うとおりだ。もう一人の俺は、確かに俺じゃない」
それを聞いたシンはモニターの中で不愉快そうに怒鳴った。
「当たり前だ!だからそんな言い方、二度とするな!」
デスティニーはアロンダイトをマウントすると素早くマニピュレーターを動かし、ダイダロス基地に向かったジャスティスを追って飛び立った。
キラは手早く二挺のライフルを繋げてロングライフルにしたが、レジェンドがジャベリンを構えて斬りかかって来たので撃ちそびれた。
(バカ野郎、か…)
シンが残したサインを読み取ったレイは、もう一度楽しそうに笑った。こんな風に笑うのは本当に久しぶりだった。
「終わらせる…俺も」
やがて彼は、向かい合うストライクフリーダムを睨みつけた。
(この感覚…)
この時キラは、オーブでも感じた感覚をより強く感じ取った。
(あの機体…そしてこの感じ…この人は一体…)
「これは…どういうこと?きみは…」
「今度こそ、すべてを!」
シンはジャスティスを追撃しながらM2000GXを構えていた。
(レイは…自分を創りだす原因となったキラ・ヤマトを…)
「仇は…取りましたよ。あなたのもね」
自分が言った言葉を思い出していたたまれなくなる。
(違う。俺は恨みなんかで戦ってはいない。ステラを殺したのはあいつだけど、でも、俺は…)
「何が仇よ」
その言葉を思い出して、シンはふっとため息をついた。
(そうじゃない…恨みは…あった。全てフリーダムのせいだと、心のどこかで思ってた。思おうとしてた。ステラが死んだのは、俺が彼女を…仮面をかぶったあいつに返したせいでもあるのに)
「何も…」
あの人の冷たい視線。冷たい表情。冷たい声。冷たい態度。自分の全てを見透かされたようないたたまれない気持ちを思い出し、シンの心がズキリと痛んだ。
仇など…そんな事は馬鹿げた事だと、自分もわかっていた。
(レイ…だからおまえにはそんな風に戦って欲しくないんだ)
けれどレイは笑っていた。だから、何も言えなかった。
「なんで笑ったんだ?レイ…」
振り返ってみても、もう真空の闇が広がるばかりだった。
シンは気づいていなかった。
レイの心を凍りつかせていた硬い氷を、自分がたった一撃で砕いた事を…
一方、アスランもデスティニーの追撃に気づいた。
(シン…!)
シンはジャスティスを射程に捉えるとトリガーを引いた。
ジャスティスはビームを避けて大きく旋回するが、こちらを向かない。
(俺を無視して、あくまでもレクイエムへ向かう気か…)
フリーダムがヒット&アウェイなら、相棒のあんたは逃げるのが得意だもんな、とシンは鼻で笑った。
(なら、戦う気にさせてやるまでだ)
「そして…すべてを終わらせる!」
「エターナルに攻撃を集中しろ。あれが旗艦だ。他はそのあとでいい」
議長はレクイエムに近づこうと攻撃を続ける戦艦を指差した。
「オーブの残存も撃ち漏らすなと、ゴンドワナに」
黒服の将校たちはその命令に敬礼し、司令室を走り回った。
物量も戦力も決して劣っているわけではない。
けれどデュランダルの心には暗雲が立ち込め始めていた。
(討てない…どうしても…)
綿密に練ってきた計画がようやくここまで来たというのに、やはり、最後まで自分の目の前に立ちはだかるのは彼らだった。
「どこだ…フリーダム…!」
シンは、オーブ艦隊と防衛戦を続けているダイダロス基地を越え、2機を探していた。
アークエンジェルが開いた道を追走するエターナルにはゴンドワナが攻撃を仕掛けている。
(この近くに…必ずいる!)
やがて、シンは目指す相手を見つけた。
「ザフト、モビルスーツ群接近。数20。グリーン18、ブラボー!」
「面舵10!上げ舵5!主砲照準!取りつかせるな!」
バルトフェルドが迎撃を命じたが、既に相手の防衛圏内に入ったエターナルへの集中砲火は激しさを増すばかりだ。速攻が裏目に出て、合流するはずだった艦隊が半減では無理もない。
メイリンはスラッシュザクウォーリアのアックスを受け止め、弾くと同時に手近なデブリを蹴ってMA形態に変形した。そしてまさしく獣のようにザクに向かっていくと後頭部を蹴る。そして相手が視界から彼を見失った時、ガイアは反転すると同時に背中のビームブレードを開いて、ザクのボディを斬り裂いた。
ドムはグフやゲイツRを相手にしていたが、ナスカ級や基地からの対空砲火が集中し、エターナルへの被弾が多い。
「ムウ!エターナルをカバーして」
マリューの命を受けたアカツキがアークエンジェルをムラサメに任せ、ドラグーンを飛ばす。途端に立体形のシールドが出現し、戦艦全てを包み込んだ。
「コリントス、撃ぇ!」
アークエンジェルは、エターナルを狙う戦艦にミサイルを発射した。
シンは目指す相手の姿を射程圏内に捉えると、ライフルを抜いた。
こちらの射程という事は、当然相手の射程にも入っている。キラもまたライフルを両手に持つと、デスティニーを待ち構えた。
両者はまるで度胸を試すかのように猛スピードでギリギリまで近づき、そしてトリガーを引いた。同時に離脱したが、ややデスティニーのスピードが勝る。キラは反転し、素早くレールガンを起こして放った。
「ちっ…!」
カウンター気味にいくらか被弾して衝撃を受けたシンは、直上に飛び上がって機体を立て直すと、再びライフルを構えて急降下する。そして飛び回るフリーダムにビームを撃ちながら、光の翼を広げ、さらにスピードを上げて追って行った。
一方、そんな2人の高速戦を見ていたアスランには後方から無数のビームが襲い掛かってきた。
(ドラグーン…レイ!)
アスランは素早くそれを避けると、サーベルを抜いた。
しかしレイはドラグーンを収めるとそのまま距離を取り、ロングライフルを抜いて構えたまま、近づいては来ない。
近距離戦闘が得意な自分を警戒している…かつてフリーダムを倒した時の2人の熱心さを思い出し、アスランは「研究済みというわけね」と呟いた。
(ならば、かいくぐって飛び込む!)
アスランはサーベルを繋げてハルバートモードにすると、急速にスピードをあげた。レジェンドはビームを放ちながら下がっていく。しかしそれでは間に合わないと悟ると、再びドラグーンをパージした。
追いついたデスティニーは、キラをロックしてライフルを撃ち、ストライクフリーダムはサーベルを抜いてそれを全て弾き返した。そのままデスティニーに向かっていき、両者は激しくぶつかり合う。
「ぐっ…!」
押し負けたデスティニーを退けると、キラは素早く宙域を離脱した。
「相変わらず逃げ足が早いな!」
シンはその軌道を読み、さらにビームライフルで畳み掛けた。
「おいおい…やばいぞこりゃ!」
ジャスティスとフリーダムの足が止まった事で、これまではゆっくりでも目的に向け流れていた艦の進みもピタリと止まった。
ネオは狙われるエターナルのシールド防衛にかかりきりになり、ドムとガイアがモビルスーツを、そしてアークエンジェルをムラサメが守っている。しかし動きは完全に止まってしまった。
距離を取ったキラは両手に構えたライフルでデスティニーを狙ったが、シンはそれをものともせずに避けながら懐に突っ込んできた。
一方ビームをサーベルで弾き、砲塔を蹴り飛ばして懐に飛び込んだアスランは、レジェンドに斬りつけながら苛立ちを募らせた。
「オーブ艦隊はどうなってるの?レクイエムは…?」
状況は錯綜し、最前線の彼らには何もわからなかった。
オーブ行政府では戦闘状況に入っている月戦線の情報を得ようと上を下への大騒ぎだ。カガリは新しい情報が入ってくるたびに忙しく指示を下している。
「領海内の護衛艦群は?」
「戦闘配備中です」
「国民にもきちんと情報を流せ。希望する者はシェルターに避難を」
プラントがオーブ本国を抑えるつもりならそろそろ艦隊が動いてもいいはずだが、カーペンタリアには何の動きもない。
(レクイエムで撃たれればもろとも消え去る事になるからか…)
それは即ち、オーブをこの世に残さないという彼の意志だ。
「キラ…アスラン……ラクス…」
カガリは口元で両手を組み、静かに眼を閉じた。
(祈りはしない。信じているからな…おまえたちを)
「マエデーフェルト沈黙。メートランド、戦線より離脱します」
メサイアの司令室では戦況が報告されている。
アークエンジェルの健闘により、沈黙するザフト艦も多い。
「スサノヲ、クサナギ、ツクヨミはシグナル確認」
同じくアークエンジェルでも、ミリアリアがようやく把握できたオーブ艦隊の状況を報告した。盟友である副旗艦クサナギも、かろうじて無事だった。
「あとは駄目です。状況混乱」
オーブ艦隊の半分以上が飲み込まれた…マリューは唇を噛んだ。
「ソガ一佐たちと合流を!急いで!」
「ファルバーン隊、針路クリア。発進どうぞ!」
「続いてジロンド隊、レブバース隊、どうぞ!」
しかしゴンドワナからはさらに、傷ついたオーブ艦隊を壊滅させるべくモビルスーツ隊が大量に投入されていく。
「レッド18、アルファに、ゴンドワナ。モビルスーツ、オーブ主力艦隊へ向かっています」
「ちっ、後から後から!」
エターナルのオペレーターが告げると、援護に行きたくとも激しい攻撃で動けないバルトフェルドが歯噛みして悔しがった。
「残存のオーブ艦隊に?」
キラは情報を受け取ったものの、デスティニーと激しい交戦中の今は、手も足も出せない。
「仕掛けに乗せられた。これではレクイエムが…」
アスランがドラグーンを避けながら言った。
「…ムラサメを向かわせて」
マリューのその判断にチャンドラもミリアリアも驚いて身を乗り出した。
「ええ!?」
「で、でも…」
アカツキがエターナルにかかりきりになっている今、ムラサメがいなくなるとアークエンジェルは丸腰も同然になってしまう。
「このまま艦隊をやらせるわけにはいかないわ」
その頃、キラとアスランが破壊したステーション1に代わり、グフやザクが護衛する新しいステーションがダイダロス基地に向かってきていた。
「ステーション2、ポジションまで160」
「ネオ・ジェネシス、パワーチャージ、40%」
同時にオリジナルのジェネシスよりパワーが劣る分、チャージが早いネオ・ジェネシスの準備と、ミラー換装も進められている。
ジャスティスは再び一気にレジェンドとの距離を詰め、ハルバートモードのサーベルで斬りかかる。レイはシールドを展開して防ぎ、敢えてドラグーンを放たず、バックパックの砲塔を一斉に前に向けるとそのまま放った。
アスランは離脱と同時に無数のビームを両刃で薙ぎ払う。
「キラ!今討てなければ、一次中継点も復活する」
動きつつあるステーション2に気づいたアスランが言った。
やはりレクイエム本体を破壊しない限り、危機は去らないのだ。
「オーブが討たれる!」
キラはジャスティスに追われて今度は自分の前に飛び出してきたレジェンドにライフルを向けた。
「くっ!」
レイはそのままドラグーンを全て放出し、全方向からフリーダムにビームを撃ち掛ける。スパイクがビームシールドを突き抜けると知り、キラは一旦下がらざるを得ない。その途端、今度はデスティニーに狙われた。
「ええい…何でこいつは!」
シンはちっと舌打ちをしながらストライクフリーダムに向かった。今日という今日は、決して逃さないと決めている。
「最高のコーディネイターとやらのおまえも…この世界の結果だろうが!」
「く…っ」
キラもまた、突破の糸口が掴めず焦り始めていた。
「キラ!」
その時、ジャスティスのブーメランが両者の間に割って入った。
シンはギクリと後退り、それを投げた相手を睨みつける。
アスランは戻ってきたブーメランを装着すると、サーベルを構えて加速した。そして待ち構えるデスティニーに斬りかかる。
(…シン!)
シンはサーベルをシールドで弾き、近づいた機体に素早く腕を伸ばした。パルマフィオキーナが光りだすと、アスランは掌を腕で払って離脱する。
モビルスーツが激闘を繰り広げている傍では、集中砲火を浴びるエターナルと、それを援護するアークエンジェルに、インパルスとミネルバが接近しつつあった。
「インパルス接近!」
エターナルのオペレーターがその機影を捉えた頃、メイリンも熱紋反応とアラートで気づいて後方を見た。
「その後方より、ミネルバ」
マリューもまた、再びやってきた最大の好敵手を睨みつけた。
ミネルバでもようやく追いついた相手に攻撃を開始した。
「ナイトハルト、撃ぇ!」
アーサーが命じ、戦女神のミサイルが大天使に襲い掛かる。
「回避!迎撃、コリントス、ヘルダート、撃ぇ!」
「イゾルデ起動。ランチャーエイト、ミサイル発射管全門開け!」
エターナルの艦尾で再びドムと対峙したインパルスはサーベルを抜いた。
「しぶとい奴だね!今度はあの小僧に邪魔させないよ!」
ヒルダがサーベルを抜いて向かってくる。
「俺たちに見張ってろってか?」
「お坊ちゃんにバレねぇようにうまくやんな!」
マーズが呆れると、ヘルベルトがバズーカを構えて笑った。
「何よ、毎度毎度!」
重量級の機体の重い太刀筋に、ルナマリアは押し負けそうになる。
(くっ!…負けるもんですか!)
ごぉっとスラスターをふかし、インパルスのパワーが上がる。
(戦わなくちゃ…今は戦わなくちゃいけないのよ、あんたたちと!)
「私はっ!」
「何ッ!?」
ヒルダのドムがインパルスに押し返されると、それまで笑っていたヘルベルトたちの表情が急に締まった。
「野郎…パワーがありやがる」
「バカ、感心してないで撃てよ!」
2人が弾かれたヒルダの援護のため同時にバズーカを放ち始めると、ルナマリアも艦に近づけなくなったため、仕方なく一旦離脱した。
シンと戦うキラを見ながら、アスランはエターナルに眼を向けた。善戦しているが、激しい攻撃を受け、ダメージが蓄積している。
ブリッジでは襲い掛かる衝撃に耐えてラクスがシートの肘を掴み、バルトフェルドが大声で回避と迎撃命令を出している。ダコスタも必死に航路を見定め、砲術を展開していた。
「アスランは行って!アークエンジェルも!」
「え!?」
何か突破口はないかと考えていたアスランの耳に、キラの声が飛び込んだ。フリーダムは襲い掛かってきたレジェンドのシールドを押し返している。
アスランはキラを援護しようとレジェンドにライフルを放ったが、後ろから接近するデスティニーに気づくと機体を反転させ、ストライクフリーダムと背中合わせの格好になった。
キラの声はエターナルとアークエンジェルにも届いており、両艦のブリッジでは皆が驚いて顔を見合わせた。
今は攻撃力の高いアークエンジェルがいるからこそ、エターナルはなんとか持っているようなものだ。その上ジャスティスまでいなくなれば、いくらキラでも抑え切れるかどうかわからなかった。
「キラ!だけど…」
ミリアリアが心配そうに言うと、キラがモニターの中で微笑んだ。
「ここは私とエターナルで抑えます。あとは全てレクイエムへ!」
フリーダムを庇うように待ち構えるジャスティスを見て、シンはM2000GXを構えた。アスランはファトゥムを起こすと迎撃態勢に入る。最初からストライクフリーダムの火力に気を取られていたシンは、ファトゥム01から放たれたハイパーフォルティスの威力に面食らった。
「チッ…!」
被弾を免れるためビーム砲を引き上げざるを得ず、シンはジャスティスを睨みつけた。
一方キラは皆が自分の言葉に戸惑っていることに気づくと、おずおずと言った。
「えっと…命令、です」
「命令って…」
ダコスタが彼女の言葉に呆れ、そっとバルトフェルドとラクスを振り返ると、2人ともなんだか面白そうな顔をして聞いている。
「でも…それではエターナルは…」
マリューが改めて心配そうな声で言った。
ドムもガイアも善戦しているが、アークエンジェルの援護がなくなれば激しい艦砲射撃からは丸裸になってしまう…
「この艦よりもオーブです、艦長」
けれどモニターの向こうのラクスは涼やかに微笑んだ。
「准将の命令ですしね」
キラたちとチャンネルを合わせてあるイザークとディアッカもこのキラの「命令」を聞いていた。
「どうすんの、イザーク」
ディアッカは激しい砲撃が繰り返される戦場を眺めながら言った。
「司令官から命令が下ったけど、俺ら、あいつの指揮下じゃないしね」
「く…」
イザークは歯を食いしばり、言葉を失った。
「このまま戻る?それともあいつらと行く?」
いつものように飄々とした口調で尋ねながらも、ディアッカ自身はアークエンジェルから眼が離せない。
「…エターナルを援護する!」
やがてイザークは怒ったように言った。
ディアッカが「は?」と聞き返すと、イザークはわからないのかといわんばかりに怒鳴り返した。
「…ザフトの艦だ、あれは!」
ディアッカはそのあまりにも苦しい理由に吹き出しそうになったが、「ま、いいか」と思う。
(イザークなりに、連中のやってる事の方が議長より正しいって判断なんだろうからな)
そしてイザークの機嫌を損ねないよう、ただ「なるほどねぇ」とだけ答えた。
「オーブはプラントに対する最後の砦だ」
未だに離脱を躊躇するアスランとアークエンジェルのブリッジに向けて、ラクスが言った。
「失えば、世界は呑み込まれる。見えない恐怖が人々を包む。絶対に守らなくては。カガリくんが治め、守っていくオーブを…」
アスランがラクスのその言葉にきゅっと唇を閉じた。
「僕たちは、そのためにここにいるんだ」
キラもまた、ラクスの言葉を聞きながらハイマットフルバーストを展開し、近寄ろうとするレジェンドとデスティニーを寄せ付けない。
「だから行ってくれ。アスラン、ラミアス艦長。さあ、早く」
アスランはシンたちの足止めにかかっているキラを見た。
「頼んだよ、アスラン!」
「…わかった」
マリューもまた、ブリッジクルーと眼で合図を交わし、それからモニターのバルトフェルドとラクスに頷いた。
「では、またあとで。必ず!」
「ああ。必ずな」
バルトフェルドが笑い、ラクスもまた微笑んだ。
ミサイルを放ちながらも、アークエンジェルが艦首を転向させ、戦闘宙域の離脱を始めたと気づいたアーサーが振り返った。
「艦長!」
「離脱する気なの!?」
(エターナルを…ラクス・クラインを置いて?)
タリアは、先ほどはエターナルを守ろうとしてタンホイザーを回避しなかったアークエンジェルが今度は単独で動き始めた事に驚きを隠せなかった。
「それだけ相手も切羽詰ってるって事ね。追い込むわよ、アーサー。あと一息だわ」
「はいっ!」
アスランを追うようにアークエンジェルが針路を基地に向けると、それに気づいたレイは両者を追った。
「行かせるか!ミネルバは何をやっている!」
一斉に放たれたドラグーンが後を見せたジャスティスに襲い掛かる。
キラはそれを見て素早くロックすると、お返しとばかりにスーパードラグーンを放った。青く輝く翼を広げたストライクフリーダムから、凄まじい勢いで飛び出したビーム砲がレジェンドのそれとボディに襲い掛かる。
目標をジャスティスに定めていたレイは、この攻撃への対処が完全に遅れた。
「うわっ!」
「レイ!」
シンは吹き飛ばされたレジェンドを見てフリーダムに視線を戻した。
「…フリーダム!」
そして背部にマウントしたM2000GXを抜いて構え、ロックする。
キラはすぅっと息を吸った。
(私たちは、一刻も早くレクイエムを破壊しなければ…)
「オーブを撃たせはしない。皆を守るために、私のこの力はある!」
キラの体が冷たくなる。体内には流れるような強い風が吹き通り、急激に視界が開けていく。聴覚が研ぎ澄まされ、感覚が鋭くなって、離脱したレジェンドを追っている8基のビーム砲の全ての位置がわかる…キラはドラグーンを操り、ビーム砲を構えたデスティニーに向けた。
「なにっ!?」
シンはそれに気づいてすぐに離脱したが、ドラグーンはどこまでも追ってくる。砲塔のビームが機体をかすめ、シンはその衝撃に耐えながらバランスを取ろうと盛んにスラスターをふかした。
「くそっ…!」
シンはキラの射程の広さに震撼した。ドラグーンをあそこまで使いこなすとは…
(だが、その操作に気を取られている今なら!)
シンは素早くM2000GXを構えると、再びフリーダムをロックした。
しかしその思惑を超え、シンがビーム砲を発射すると同時にキラもまた素早くカリドゥスを放った。レイやネオなど同じドラグーンを操る者と比しても、キラがドラグーンを操りながら「同時にできる動作」は格段に多い。
両者のビーム砲はぶつかりあい、激しい衝撃を起こした。
「うっ…!」
ややカリドゥスがパワー負けし、キラはダメージを食らう前に離脱した。しかしセットアップ動作がない分、フリーダムの方が早く次の動作に移れる。キラはドラグーンを戻してライフルを抜くと、デスティニーを狙い撃ちながら追っていった。
「シン!おまえはミネルバと共にアークエンジェルを追え!」
再びビーム砲を撃つ機会を狙っていたシンは、レイのその声に驚いた。
「フリーダムは、俺が討つ!」
「なんだと!?」
シンはそれを聞いて怒鳴ったが、レイは続けた。
「こいつは俺たちが生まれた元凶だ!俺が討たねばならない!」
レイはそこまで言ってふっと顔を歪めた。
「…俺は、もう一人の俺の仇をとる!」
しかしそれを聞いたシンは、さらに大きな声で怒鳴り返した。
「やめろよ、このバカッ!!」
シンの声には激しい怒りがこもっていた。
「そんな風に…別のやつのことを『俺』なんて言うなっ!」
シンのその思いもかけない言葉に、レイは驚いて目を見張った。
「な…」
「あいつにやられたのはおまえじゃない!おまえは生きてる!」
シンはそう言いながらアロンダイトを抜いた。
「おまえはおまえだ!別のおまえなんかどこにもいない!」
シンは超高速で襲い掛かってくるストライクフリーダムを待ち構え、素早くビームシールドを展開して相手のサーベルを受け止めた。そして自身が振り下ろしたアロンダイトには全重量をかける。
なんてパワー…キラはフリーダムが沈みこむほどの力に驚いた。
「ふ…」
やがて、うつむいたレイが笑い声を発した。
(偽者にも、『そいつ自身』ってものはあるんじゃないか?)
彼の凍てついた心を温めたその言葉は今、全てを溶かす清廉な炎となって燃え上がった。
レイはデスティニーと鍔迫り合っているフリーダムに向け、再びドラグーンを放った。
「く…!」
キラはそれを見ると巧みにアロンダイトをいなし、離脱する。
「レイ!」
それを見て怒ったように叫ぶシンに、レイは言った。
「シン、おまえはジャスティスを追え!」
「おまえ、まだ…!」
「わかっている!」
モニターに映ったレイは笑顔だった。
「俺たちの任務は、レクイエムを守ることだ」
シンは黙って聞いていた。
「俺がフリーダムを抑える。だからおまえがあいつを止めろ。あの裏切り者を、今度こそ倒すんだ…シン、おまえの手で!」
「レイ…」
「それが俺の仕事であり、おまえの仕事だ」
穏やかなレイの言葉にはいつもの冷静さが戻った気もする。しばし逡巡したものの、シンはやがて言った。
「…任せていいんだな?」
レイは「ああ」と頷いた。
「おまえの言うとおりだ。もう一人の俺は、確かに俺じゃない」
それを聞いたシンはモニターの中で不愉快そうに怒鳴った。
「当たり前だ!だからそんな言い方、二度とするな!」
デスティニーはアロンダイトをマウントすると素早くマニピュレーターを動かし、ダイダロス基地に向かったジャスティスを追って飛び立った。
キラは手早く二挺のライフルを繋げてロングライフルにしたが、レジェンドがジャベリンを構えて斬りかかって来たので撃ちそびれた。
(バカ野郎、か…)
シンが残したサインを読み取ったレイは、もう一度楽しそうに笑った。こんな風に笑うのは本当に久しぶりだった。
「終わらせる…俺も」
やがて彼は、向かい合うストライクフリーダムを睨みつけた。
(この感覚…)
この時キラは、オーブでも感じた感覚をより強く感じ取った。
(あの機体…そしてこの感じ…この人は一体…)
「これは…どういうこと?きみは…」
「今度こそ、すべてを!」
シンはジャスティスを追撃しながらM2000GXを構えていた。
(レイは…自分を創りだす原因となったキラ・ヤマトを…)
「仇は…取りましたよ。あなたのもね」
自分が言った言葉を思い出していたたまれなくなる。
(違う。俺は恨みなんかで戦ってはいない。ステラを殺したのはあいつだけど、でも、俺は…)
「何が仇よ」
その言葉を思い出して、シンはふっとため息をついた。
(そうじゃない…恨みは…あった。全てフリーダムのせいだと、心のどこかで思ってた。思おうとしてた。ステラが死んだのは、俺が彼女を…仮面をかぶったあいつに返したせいでもあるのに)
「何も…」
あの人の冷たい視線。冷たい表情。冷たい声。冷たい態度。自分の全てを見透かされたようないたたまれない気持ちを思い出し、シンの心がズキリと痛んだ。
仇など…そんな事は馬鹿げた事だと、自分もわかっていた。
(レイ…だからおまえにはそんな風に戦って欲しくないんだ)
けれどレイは笑っていた。だから、何も言えなかった。
「なんで笑ったんだ?レイ…」
振り返ってみても、もう真空の闇が広がるばかりだった。
シンは気づいていなかった。
レイの心を凍りつかせていた硬い氷を、自分がたった一撃で砕いた事を…
一方、アスランもデスティニーの追撃に気づいた。
(シン…!)
シンはジャスティスを射程に捉えるとトリガーを引いた。
ジャスティスはビームを避けて大きく旋回するが、こちらを向かない。
(俺を無視して、あくまでもレクイエムへ向かう気か…)
フリーダムがヒット&アウェイなら、相棒のあんたは逃げるのが得意だもんな、とシンは鼻で笑った。
(なら、戦う気にさせてやるまでだ)
「そして…すべてを終わらせる!」
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制作裏話-PHASE50①-
「レイを救うのはキラではなく、シンであること」
2005年9月末、絶望の果てに見た「機動戦士ガンダムSEED DESTINYの」最終回は、これ以上最悪の結果はないだろうと思っていた我々視聴者に、さらにその絶望の下を見せてくれた怪作でした。
主人公のキャストは48話目以降、第3位に転落。一度もタイトルを取れなかった主役機は、旧機体新機体ともに「真の主役機」にボロボロにやられ、主役は最後の対決に居合わせられない。あまつさえ「なぜか」敵を庇おうとしたヒロインを殺しかけるという最低な役回りを押し付けられ、最後はただ涙涙で幕を閉じるという…
制作側が描く「最低最悪の主人公」と成り下がってしまったシン・アスカには、本当はもっともっと魅力があったはずです。「強さ」と「過去」という、主人公最大の武器を兼ね備えながら全く生かしてもらえず、結局はキラ・ヤマトを際立たせるための脇役に貶められたシン。しかしこんな不憫な彼の処遇に多くのクリエイターが不満を抱いている事は、他メディアや後に作成されたゲームでの彼の待遇を見れば明らかです。
そしてそれは私も同じでした。
シンの魅力はいくらでも描けたはずです。徹底した軍人としての強さとクレバーさ、泥をすすってでも這い上がる信念を見せ付ける事で、キラやアスランとはまた違うキャラの魅力を引き出せたと思います。
そんなシンを描いたのがこの逆転DESTINYです。
ひたすら強く、冷徹で賢く、子供っぽいところと大人びたところが同居し、少しだらしないけど大らかで優しい。
仲間に救われたがゆえに仲間思いで、けれど重い過去のせいで愛情に飢えている。その屈折ゆえに常に大人を試そうとし、相手の自分への心のベクトルを敏感に感じ取っては態度を変える…そんなシンがアスランやカガリとの出会いを経て過去を克服し、成長していく過程が描けたらいいと思っての事です。
もし本当にDESTINYがそんな物語だったなら、未だに「もう二度と見返すのもイヤだ」と思うような作品にはならなかったと思います。
さてそんな逆デスも、泣いても笑っても最終話となりました。遊び呆けている監督に現場のスタッフの怒りが爆発し、大変な騒ぎになったこともいい思い出。確かに作画スケジュールはハンパなくキツかったようでバンクの嵐。手の早いぐっさん(現AGE監督の山口晋作画監督)を使ってもさすがにキツかったみたいです。
とはいえ逆転では最終回を8つのパートに分け、特に一番酷かったメサイアや対決編を補完しているのですが、内容はともかくとして「レイVSキラ」「シンVSアスラン」「レクイエム破壊」「デュランダル議長死亡」「シンちゃん大敗北&キラきゅん大勝利」をわずか30分でやりきったのはすごい。もちろんあくまでも「内容はともかくとして(2回目)」ですけど。
逆種同様逆デスも最終回といえば戦闘がメインですが、MS戦についてはすべて記憶と想像で書いています。レビュー当時、これでもかというほど見ましたから映像は今も覚えていますし、種については00やAGEに比べてやはり使える資料が多いんですよね、今でも。そんなデータを活用しながら書いていますので、怪しいところは笑って見逃してください。
でも「アスランに折られたアロンダイトをデスティニーがいつまでも背負ってるのはおかしい」と思うところは自分なりに改変(折れた剣を月面に投げ捨てる)しています。だってあれ、めっちゃかっちょ悪かったんだもん…
まずはアニメだと少しわかりにくかった「ザフト防衛隊」と「オーブ艦隊」についてはなるべくわかりやすいようにと思って描写しました。ステーションに向かうアークエンジェルとエターナルの陽動によりダイダロスのレクイエムに接近していたクサナギらオーブ艦隊の半分は、ネオ・ジェネシスで一掃されてしましました。
キラとアスランは先行し、防衛隊なのに寝返ったイザークとディアッカの助けを得て、第一ステーションを破壊しました。
ムラサメとアカツキはアークエンジェルの護衛、ドム部隊とガイアがエターナルの護衛、そしてインパルスがミネルバを護っていますが、スピードに勝るのでエターナル、アークエンジェルに接近できています。最終回始めの陣形はこんな感じですね。
ここにデスティニーとレジェンドが出てきたことで、キラとアスランがレクエイエムに向かう道を阻まれてしまいます。そうなるとエターナルとアークエンジェルも前に進めませんから、半減したオーブ艦隊は援護もないまま基地と防衛隊に迎え撃たれることになり、両者は分断されてしまいました。
少しは「キラたちがピンチなんだな」と思わせる雰囲気を出さないと、「結局ストフリが1機あれば勝てちゃうのが種だよね」で終わってしまうので、シンとレイの強さを知るアスランにここは頑張ってもらいます。レイが不用意にアスランのバトルレンジに入ってこないのは、2人のフリーダム対策の熱心さを見たがゆえに「研究済みか」とアスランに気づかせる事で、「両者」の優秀さを示しています。
両者は一歩も譲りません。ここはどちらがどちらと相手を決めずに戦っています。
この膠着状態を打破するために、賛否両論を巻き起こした?キラ・ヤマト准将による「命令」が下るわけですね。
とにかく身内人事も甚だしい本編より、責任ある准将らしくと描写してきたキラの命令は、自分がしんがりを務めてエターナルを守り、足が早く武装が豊富なアークエンジェルと、自分よりは練度の高い軍人であるアスランを先に行かせる事でした。
ここはひとつ改変を加えました。キラの命令をディアッカとイザークも聞いていることです。そのためにPHASE49でディアッカが「キラが司令官だ」と知ったわけです。
本編でもイザークは「ザフトの艦だ」という苦しいにも程がある理由でエターナルの援護を始めますが、このひどい展開もディアッカを緩衝材にする事で少し和らげられればなぁと思っての事です。
AAとジャスティスを行かせるため、種を割ったキラはデスティニーを圧倒します。本編ではデスティニーVSストライクフリーダムはここで戦闘終了となり、以降シンとキラはFPまで接点がなくなります。
無論、「シンが主役」の逆デスではそうはなりませんが。
そしていよいよシンがレイを叱り飛ばすシーンになります。
いろいろな意味でシンを苦しめ、惑わせているのがアスランであると知っているレイは、ジャスティスを追えといいます。そして自分は、クルーゼを殺したキラ・ヤマトを討つと言います。けれど彼にとってそれは敵を討つのではなく、「仇を討つ」ことなのです。誰のでしょうか?それは「もう一人の自分」だと言うのです。
「やめろよ、このバカッ!!」
このセリフはもちろん、PHASE7でシンがカガリに向かって言ったセリフと同じものです。
パトリック・ザラの残り火が起こしたとんでもない事件にアスランが人知れず悩んでいる時に、何も知らなかったとはいえカガリは無神経な言葉をかけてしまいました。それに対する怒りが言わせたこのセリフをもう一度シンが言ったのは、これによって彼の「本質」を示したかったからです。
シンはクローンであるレイが抱く「もう一人の俺」を否定します。そんなものはいないと。レイはレイであり、何者ではないと彼らしい口調で、彼らしい言葉で言い放ちます。まるで悩み続けていたキラのもやもやをきれいに吹き飛ばしてくれたカガリのようです。そう、この2人は実はとても似ている…4期EDじゃないですが、似ているんですよ。
シンの怒りはレイを驚かせます。
それは誰かに言ってもらいたかった言葉…「レイ=ラウ」だと言ったデュランダルの言葉の呪縛を砕く、大いなる力でした。これはシンにしかできない事です。
レイの孤独な苦しみを、表面上だけでなく、実は全てちゃんと理解していたシン。そして彼がこう言えたのは、ラクスになろうとしてなれなかったミーア・キャンベルとの邂逅が一役買っていると示す事で、死んでしまったミーアの存在価値をさらに引き上げることができます。これぞ主役パワーの成せる業ですよ。
いつになく楽しそうに笑ったレイは自分を取り戻し、軍人として、任務としてストライクフリーダムを抑えると宣言します。シンはいぶかしみつつもそれを信じ、アスランを追います。
ここでシンには「恨みで戦うこと」を自分もしてきたのではないかと後悔させました。本編のシンはむしろこうした感情爆発ばかりで何も考えないアホの子でしたから、逆転ではこれまで「恨みでは戦っていない」としてきました。フリーダムを研究するPHASE33でも、キラと戦うPHASE34でも、シンは比較的感情を抑え、ステラを死に追いやった自分の罪をきちんと見据えた上で「フリーダムを討つ」と決めています。
けれどやはりそういった感情があったのではないかというのは、シンの心にも隠れているとしたかったのです。本編では逆にそんな事に頭をめぐらせることなく、「ステラが死んだ→キラのせい、オーブが悪い→アスハのせい」で何かを「考えたり」「悩んだり」する機会を一切与えられなかったシンへの救済をしたかったからです。だからここで最後に「恨み」、つまり「過去を引きずって戦う事」の不毛さをレイを通じて見たとしました。
私個人としては、「恨み」は晴らさない限り絶対に消え去るものでも昇華できるものでもないと思っていますが、「戦争物語」的にはそれではいけないので、シンにはアスランとの対決を前にもう一度考えてもらっています。個人的には被害者や遺族は加害者に対して、その苦しみや悲しみに見合った裁きを与えて然るべきだと思いますよ。心の法はハムラビ法典ですからねっ!
こうして役者はそろい、対決の場も整いました。
次回はレイVSキラの舌戦開始です。果たしてキラは今度こそ相手を論破できるのか。そしてドラグーン対決やいかに。
もちろん本編のように、「言葉でひるませておいて情け容赦なくドッカーン、V!!」だけはやらんぞと決めていました。
2005年9月末、絶望の果てに見た「機動戦士ガンダムSEED DESTINYの」最終回は、これ以上最悪の結果はないだろうと思っていた我々視聴者に、さらにその絶望の下を見せてくれた怪作でした。
主人公のキャストは48話目以降、第3位に転落。一度もタイトルを取れなかった主役機は、旧機体新機体ともに「真の主役機」にボロボロにやられ、主役は最後の対決に居合わせられない。あまつさえ「なぜか」敵を庇おうとしたヒロインを殺しかけるという最低な役回りを押し付けられ、最後はただ涙涙で幕を閉じるという…
制作側が描く「最低最悪の主人公」と成り下がってしまったシン・アスカには、本当はもっともっと魅力があったはずです。「強さ」と「過去」という、主人公最大の武器を兼ね備えながら全く生かしてもらえず、結局はキラ・ヤマトを際立たせるための脇役に貶められたシン。しかしこんな不憫な彼の処遇に多くのクリエイターが不満を抱いている事は、他メディアや後に作成されたゲームでの彼の待遇を見れば明らかです。
そしてそれは私も同じでした。
シンの魅力はいくらでも描けたはずです。徹底した軍人としての強さとクレバーさ、泥をすすってでも這い上がる信念を見せ付ける事で、キラやアスランとはまた違うキャラの魅力を引き出せたと思います。
そんなシンを描いたのがこの逆転DESTINYです。
ひたすら強く、冷徹で賢く、子供っぽいところと大人びたところが同居し、少しだらしないけど大らかで優しい。
仲間に救われたがゆえに仲間思いで、けれど重い過去のせいで愛情に飢えている。その屈折ゆえに常に大人を試そうとし、相手の自分への心のベクトルを敏感に感じ取っては態度を変える…そんなシンがアスランやカガリとの出会いを経て過去を克服し、成長していく過程が描けたらいいと思っての事です。
もし本当にDESTINYがそんな物語だったなら、未だに「もう二度と見返すのもイヤだ」と思うような作品にはならなかったと思います。
さてそんな逆デスも、泣いても笑っても最終話となりました。遊び呆けている監督に現場のスタッフの怒りが爆発し、大変な騒ぎになったこともいい思い出。確かに作画スケジュールはハンパなくキツかったようでバンクの嵐。手の早いぐっさん(現AGE監督の山口晋作画監督)を使ってもさすがにキツかったみたいです。
とはいえ逆転では最終回を8つのパートに分け、特に一番酷かったメサイアや対決編を補完しているのですが、内容はともかくとして「レイVSキラ」「シンVSアスラン」「レクイエム破壊」「デュランダル議長死亡」「シンちゃん大敗北&キラきゅん大勝利」をわずか30分でやりきったのはすごい。もちろんあくまでも「内容はともかくとして(2回目)」ですけど。
逆種同様逆デスも最終回といえば戦闘がメインですが、MS戦についてはすべて記憶と想像で書いています。レビュー当時、これでもかというほど見ましたから映像は今も覚えていますし、種については00やAGEに比べてやはり使える資料が多いんですよね、今でも。そんなデータを活用しながら書いていますので、怪しいところは笑って見逃してください。
でも「アスランに折られたアロンダイトをデスティニーがいつまでも背負ってるのはおかしい」と思うところは自分なりに改変(折れた剣を月面に投げ捨てる)しています。だってあれ、めっちゃかっちょ悪かったんだもん…
まずはアニメだと少しわかりにくかった「ザフト防衛隊」と「オーブ艦隊」についてはなるべくわかりやすいようにと思って描写しました。ステーションに向かうアークエンジェルとエターナルの陽動によりダイダロスのレクイエムに接近していたクサナギらオーブ艦隊の半分は、ネオ・ジェネシスで一掃されてしましました。
キラとアスランは先行し、防衛隊なのに寝返ったイザークとディアッカの助けを得て、第一ステーションを破壊しました。
ムラサメとアカツキはアークエンジェルの護衛、ドム部隊とガイアがエターナルの護衛、そしてインパルスがミネルバを護っていますが、スピードに勝るのでエターナル、アークエンジェルに接近できています。最終回始めの陣形はこんな感じですね。
ここにデスティニーとレジェンドが出てきたことで、キラとアスランがレクエイエムに向かう道を阻まれてしまいます。そうなるとエターナルとアークエンジェルも前に進めませんから、半減したオーブ艦隊は援護もないまま基地と防衛隊に迎え撃たれることになり、両者は分断されてしまいました。
少しは「キラたちがピンチなんだな」と思わせる雰囲気を出さないと、「結局ストフリが1機あれば勝てちゃうのが種だよね」で終わってしまうので、シンとレイの強さを知るアスランにここは頑張ってもらいます。レイが不用意にアスランのバトルレンジに入ってこないのは、2人のフリーダム対策の熱心さを見たがゆえに「研究済みか」とアスランに気づかせる事で、「両者」の優秀さを示しています。
両者は一歩も譲りません。ここはどちらがどちらと相手を決めずに戦っています。
この膠着状態を打破するために、賛否両論を巻き起こした?キラ・ヤマト准将による「命令」が下るわけですね。
とにかく身内人事も甚だしい本編より、責任ある准将らしくと描写してきたキラの命令は、自分がしんがりを務めてエターナルを守り、足が早く武装が豊富なアークエンジェルと、自分よりは練度の高い軍人であるアスランを先に行かせる事でした。
ここはひとつ改変を加えました。キラの命令をディアッカとイザークも聞いていることです。そのためにPHASE49でディアッカが「キラが司令官だ」と知ったわけです。
本編でもイザークは「ザフトの艦だ」という苦しいにも程がある理由でエターナルの援護を始めますが、このひどい展開もディアッカを緩衝材にする事で少し和らげられればなぁと思っての事です。
AAとジャスティスを行かせるため、種を割ったキラはデスティニーを圧倒します。本編ではデスティニーVSストライクフリーダムはここで戦闘終了となり、以降シンとキラはFPまで接点がなくなります。
無論、「シンが主役」の逆デスではそうはなりませんが。
そしていよいよシンがレイを叱り飛ばすシーンになります。
いろいろな意味でシンを苦しめ、惑わせているのがアスランであると知っているレイは、ジャスティスを追えといいます。そして自分は、クルーゼを殺したキラ・ヤマトを討つと言います。けれど彼にとってそれは敵を討つのではなく、「仇を討つ」ことなのです。誰のでしょうか?それは「もう一人の自分」だと言うのです。
「やめろよ、このバカッ!!」
このセリフはもちろん、PHASE7でシンがカガリに向かって言ったセリフと同じものです。
パトリック・ザラの残り火が起こしたとんでもない事件にアスランが人知れず悩んでいる時に、何も知らなかったとはいえカガリは無神経な言葉をかけてしまいました。それに対する怒りが言わせたこのセリフをもう一度シンが言ったのは、これによって彼の「本質」を示したかったからです。
シンはクローンであるレイが抱く「もう一人の俺」を否定します。そんなものはいないと。レイはレイであり、何者ではないと彼らしい口調で、彼らしい言葉で言い放ちます。まるで悩み続けていたキラのもやもやをきれいに吹き飛ばしてくれたカガリのようです。そう、この2人は実はとても似ている…4期EDじゃないですが、似ているんですよ。
シンの怒りはレイを驚かせます。
それは誰かに言ってもらいたかった言葉…「レイ=ラウ」だと言ったデュランダルの言葉の呪縛を砕く、大いなる力でした。これはシンにしかできない事です。
レイの孤独な苦しみを、表面上だけでなく、実は全てちゃんと理解していたシン。そして彼がこう言えたのは、ラクスになろうとしてなれなかったミーア・キャンベルとの邂逅が一役買っていると示す事で、死んでしまったミーアの存在価値をさらに引き上げることができます。これぞ主役パワーの成せる業ですよ。
いつになく楽しそうに笑ったレイは自分を取り戻し、軍人として、任務としてストライクフリーダムを抑えると宣言します。シンはいぶかしみつつもそれを信じ、アスランを追います。
ここでシンには「恨みで戦うこと」を自分もしてきたのではないかと後悔させました。本編のシンはむしろこうした感情爆発ばかりで何も考えないアホの子でしたから、逆転ではこれまで「恨みでは戦っていない」としてきました。フリーダムを研究するPHASE33でも、キラと戦うPHASE34でも、シンは比較的感情を抑え、ステラを死に追いやった自分の罪をきちんと見据えた上で「フリーダムを討つ」と決めています。
けれどやはりそういった感情があったのではないかというのは、シンの心にも隠れているとしたかったのです。本編では逆にそんな事に頭をめぐらせることなく、「ステラが死んだ→キラのせい、オーブが悪い→アスハのせい」で何かを「考えたり」「悩んだり」する機会を一切与えられなかったシンへの救済をしたかったからです。だからここで最後に「恨み」、つまり「過去を引きずって戦う事」の不毛さをレイを通じて見たとしました。
私個人としては、「恨み」は晴らさない限り絶対に消え去るものでも昇華できるものでもないと思っていますが、「戦争物語」的にはそれではいけないので、シンにはアスランとの対決を前にもう一度考えてもらっています。個人的には被害者や遺族は加害者に対して、その苦しみや悲しみに見合った裁きを与えて然るべきだと思いますよ。心の法はハムラビ法典ですからねっ!
こうして役者はそろい、対決の場も整いました。
次回はレイVSキラの舌戦開始です。果たしてキラは今度こそ相手を論破できるのか。そしてドラグーン対決やいかに。
もちろん本編のように、「言葉でひるませておいて情け容赦なくドッカーン、V!!」だけはやらんぞと決めていました。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
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2011/5/22~2012/9/12
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