機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「アンカー撃て!」
ミネルバを待ち構えながら、ネオはトラップを張った。
「同時に機関停止。デコイ発射!タイミングを誤るなよ」
ガーティ・ルーはアンカーを打ち出してデブリに刺すと、そのまま艦体を大きく反転させて機関を完全に停止した。
すぐにデコイが放たれ、後はただ、真空の沈黙だけがあった。
ミネルバを待ち構えながら、ネオはトラップを張った。
「同時に機関停止。デコイ発射!タイミングを誤るなよ」
ガーティ・ルーはアンカーを打ち出してデブリに刺すと、そのまま艦体を大きく反転させて機関を完全に停止した。
すぐにデコイが放たれ、後はただ、真空の沈黙だけがあった。
「気密正常、FCSコンタクト、ミネルバ全ステーション異常なし」
機関部、兵装部、整備部、その他各部署からの報告を受け、アーサーはミネルバが滞りなく航行を続けている事を確認した。
一足先に戦場に身を躍らせたインパルスとザクは、索敵担当のバート・ハイム、及びメイリン・ホークによって発見されたが、しかし彼らは同時に、すぐ近くに不明艦の存在もつきとめていた。
「それが母艦か?」
司令官席に着席したデュランダルがいぶかしむように問いかけた。
タリアは議長に向かって「恐らく…」と頷いてから、「初見をデータベースに登録。以降、対象を『ボギーワン』とする」と、ガーティ・ルーに仮のコードネームを与えた。
それからシンとレイを呼び出せるかメイリンに尋ねたが、電波障害がひどく、互いの位置を確認する事もままならない。
しかし、彼らが戦っている相手は1機だと言う。
現ザフトのエースであるシン・アスカと、双璧の腕前を持つレイ・ザ・バレルが2人がかりでたった1機を相手にしている…?
タリアは呆れたように「一体どんな化物モビルスーツなの」と聞いたが、メイリンの答えはさらにブリッジを驚かせた。
「でも、これは…モビルアーマーです!」
既に前大戦においても「鉄の棺桶」と笑われたそのモビルアーマーに、シンもレイも翻弄されていた。
有線とは思えないほど宙域を自在に飛び交うガンバレルを操るエグザスを見て、シンは初め(今さらモビルアーマーだと?)と侮り、やや鼻白んだのだが、すぐにその奢った考えを撤回せざるを得なくなった。
全方位からビームや実装弾で畳み掛けられると、どうしても防衛領域が狭く追いやられていく。
しかも接近するとビームサーベルのような兵装を出して斬りかかる相手に、シンは何とか突破口を開こうと闇雲にライフルを放ったが、逆に防衛が留守になり、集中砲火を喰らってパワーゲージを減らしてしまった。
レイに援護してもらい、ようやくデブリに身を潜める。
そんなシンを見て珍しくレイが声を荒げた。
「何をしている!ボーっとしていたらただの的だ!」
先ほどからずっと続く違和感…それが彼を苛立たせ、不快にさせている。
それはまた、彼らとさほど離れていない場所に潜むネオ・ロアノークも同様だった。あの2機に近づけば近づくほど、不可解な感覚が彼を襲う。
「なんだ…これは…?」
シンは「わかってる」と言い置いてデブリの逆へと回っていった。
それを見たレイは正面に飛び出し、エグザスの気を引く。
不快感は消えないが、戦えないほどではない。
レイはシンの動きを援護するためファイアビーを放って弾幕を張った。
「ちっ!」
エグザスはミサイルを避けようと急旋回したが、軌道を読んだインパルスが姿を現し、ネオはその鋭く振り下ろされたサーベルをかろうじて避けた。
意識がインパルスに向いたために、背後ではザクファントムがビームライフルでガンバレルを撃破している。
(奴らを乗せちまったか)
ネオはやれやれ、と肩をすくめた。
「ボギーワンを討つ!ブリッジ遮蔽、進路インディゴデルタ、加速20%。信号弾及びアンチビーム爆雷、発射用意!アーサー!?何してるの!」
ミネルバではタリアが正体不明の相手艦に攻撃を仕掛けると命じた。
アーサーはシンたちの動きをレーダーで追うメイリンの後ろから覗き込んでいたが、タリアの叱責に「はい!」と居住まいを正した。
そして慌てて戦闘準備に入り、CICに主砲の発射を命じた。
「ランチャーエイト、1番から4番、ナイトハルト装填。トリスタン、1番2番、イゾルデ起動!照準ボギーワン!」
「彼らを助けるのが先じゃないのか?艦長」
いきなり敵母艦への攻撃を決めた艦長に驚き、議長が口を挟む。
「そうですよ。だから母艦を討つんです」
そんな彼に、タリアは動じることなく答えた。
「敵を引き離すのが一番早いですから…この場合は」
その頃、ボギーワン…ガーティ・ルーもミネルバの艦影を捉えていた。
エグザスはまだ戻らないが、奪取に成功した3機は着艦済みだ。
リーは迎撃体制を取るよう命じ、イーゲルシュテルンが起動する。
アーサーが放ったナイトハルトは真っ直ぐガーティ・ルーへ向かってきた。
「チッ…欲張りすぎは元も子もなくすか」
敵戦艦の存在に気づいたネオは、既にガンバレルを数機失ったこともあり、相手方に有利に進み始めたこの戦闘を切り上げた。
時間を稼ぐため最後のガンバレルを残し、ミサイルをぶち込んで離脱するエグザスをシンが見送ったのは、ミネルバから帰還信号が放たれたからだ。
「…帰還信号?」
「命令だ」
不満げなシンをレイが促し、2人はそのままミネルバに向かった。
「エンジンを狙って!足を止めるのよ!」
ミサイルをことごとく避けられ、相手艦の足の速さを悟ったタリアはアーサーに攻撃を畳み掛けるよう命じたが、ガーティ・ルーでもネオのエグザスが帰投し、撤収を決めたため回頭を始めていた。
タリアは帰投中のシンとレイを急がせるようメイリンに伝え、さらにこのままボギーワンを追うと決めた。
(今なら追いつけるわ)
ミネルバは足が速い。タリアは強気で、逃げる幽霊を追った。
「すまん、遊びすぎたな」
戻ってきたネオがモニターを覗き込むと、リーが追いかけてくる新鋭艦を見て、何を考えているのか表情の読めない顔で呟いた。
「かなり足の速い艦のようです。厄介ですぞ」
そうこう言ううちに、再びナイトハルトが襲い掛かる。
「取り舵!かわせ!」
ネオはシートの背を掴みながらズズンという被弾振動に耐え、母艦の全体像にざっと眼を通すとCICに指示を下した。
「両舷の推進剤予備タンクを分離後爆破!」
ブリッジクルーが驚いて顔を上げたが、リーはチラリとネオを見ただけだった。
「アームごとでいい!鼻っ面に喰らわせてやれ!」
ネオは同時に機関最大で逃げるぞとパイロットに舵角度を指示した。
「さぁて…手痛い煙幕を喰らいたまえ、ザフトの諸君!」
「ボギーワン、艦体の一部を分離!」
バートが相手の意図を図りかね、戸惑うように伝えると、タリアもまた機雷や爆弾かもしれないと警戒し、撃ち方を止める。
しかし驚くようなスピードで近づいたそれは、ミネルバの艦体間近で大きな爆発を起こした。何しろ推進剤が一杯に詰まったタンクが至近距離で爆発したのだからたまらない。
ミネルバは爆炎に包まれて激しく揺れ、水蒸気で視界を失った。
足が速いゆえに近づきすぎ、手痛い反撃を受けたのだ。
タリアは掴まっていたシートの肘掛を、さらにぎゅっと握り締めた。
コックピットを出たばかりだったシンと、彼を迎えたヴィーノ、ヨウラン、それにレイもハンガーで激しい振動にバランスを崩した。
(この振動…被弾した…?)
シンはよろけたヴィーノの体を避け、手すりに掴まって様子を窺った。
艦内にはまだ固定しきれていなかった物が散乱し、ケガをした者もいる。
医務室で治療を受けていたカガリは、包帯を巻いてくれていた看護兵の体を支え、アスランとルナマリアは固定バーや重量のある台に掴まった。
「ブリッジ、どうした!?」
レイは素早くブリッジへの有線電話に手を伸ばしたが、混乱しているのか繋がらないため、受話器を置くとそのままエレベーターに乗り込んだ。
目の前でまんまと強奪されてしまった3機。
もう化石だと思っていたのに、撃墜するどころか大したダメージも与えられなかったモビルアーマー。
そして進水式さえ済ませていないミネルバへのこの攻撃。
(一体なんなんだ、これは?)
ヴィーノやヨウランたち整備兵が、艦のダメージを調べるため、リーダーのマッド・エイブスに呼ばれ、あたふたと集合していく。
シンは静かに佇んでいるインパルスを見上げて眉を顰めた。
(戦争でもないってのに…なんで俺は戦ってるんだ?)
レイが上がったブリッジでは、索敵と艦のダメージを把握するためオペレーターたちがてんてこ舞いだった。しかし既に逃亡した敵艦との距離は開いており、足の速さもタリアの見込みどおりだ。
レイは遮蔽され、仄暗いブリッジを何気なく見回してぎょっとした。
「議長…?」
あまり表情を崩さない彼の整った顔が驚きに変わる。
デュランダルは入り口で立ちすくむレイに気づくと、優しく微笑んだ。
「やってくれるわ…こんな手で逃げようとは」
タリアがシートの背にもたれ、ため息と共に苦々しげに呟くと、デュランダルは立ち上がって艦長席に歩み寄り、ねぎらうように言った。
「だいぶ手強い部隊のようだな」
「ならばなおの事、このまま逃がすわけにはいきません」
奪われたのは、ミネルバに搭載されるはずだった機体なのだ。
宇宙はもちろん、地上での戦闘も視野に入れて開発された最新鋭機体。
「そんな連中にあの機体が渡れば…」
そのあまりにも優れた性能は、タリア自身、ここまでのものが今、必要なのかと思うほどだ。そんなものを地球軍が手に入れたら…タリアは今になってズッシリと戦闘の疲れを感じ、眼を閉じた。
未だに根強く燻り続けるコーディネイターとナチュラルの間の火種に、あれらが再び火を熾すことになるかもしれない…そう思うと憂鬱だった。
「今からでは下船いただくこともできませんが…」
やがてタリアは眼を開けると、傍らに立つ議長を振り返った。
「私は、本艦はこのままあれを追うべきと思います。議長の御判断は?」
「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長」
デュランダルはタリアの肩に軽く手を置いて言った。
「私だってこの火種、放置したらどれほどの大火になって戻ってくるか…それを考えるのは怖い。あれの奪還、もしくは破壊は、現時点での最優先責務だよ」
「ありがとうございます」
タリアは微笑み、そして敵艦のトレースを続けるよう命じた。
「全艦に通達する。本艦はこれより、更なるボギーワンの追撃戦を開始する。突然の状況から思いもかけぬ初陣となったが、これは非常に重大な任務である」
副長アーサーの声が全艦に響き渡り、固定されていなかった物の片付けや負傷者の搬送に忙しかった艦内は再びざわめいた。
「議長も少し艦長室でお休み下さい。ミネルバも足自慢でありますが、敵もかなりの高速艦です。すぐにどうということはないでしょう」
コンディションをレッドからイエローに移行し、タリアは言った。
そして入り口付近で控えているレイに、議長を案内するよう頼む。
その時、ルナマリアがモニターに姿を現した。
「艦長!」
「どうしたの?」
「戦闘中のこともあり、ご報告が遅れました」
敬礼を終え、彼女はメモを取った小さなタブレットを見ながら言う。
「本艦発進時に、格納庫にてザクに搭乗した2名の民間人を発見」
ルナマリアは彼らの一人が負傷しており、議長への面会を希望したため、傷の手当てを施した後、現在士官室に案内している旨を報告した。
タリアはルナマリアのその独断に、やや不満そうな表情を見せて聞いた。
「一体何者なの?」
「それが…」
ルナマリアは一瞬口ごもったが、やがてきっぱりと言った。
「…オーブの代表と…名乗られましたので」
デュランダルとタリアは思わず顔を見合わせた。
「彼が?なぜこの艦に?」
それを聞いたタリアは全くわけがわからないといわんばかりに首を振った。
「やれやれ…これも運命、なのかな?」
議長は苦笑し、彼を艦に迎えるためブリッジを後にした。
「どうやら成功、というところですかな?」
リーがレーダーから消えたミネルバを見て言った。
「まぁね。だが追撃がないとは思わない方がいいだろうな」
ネオはにやりと笑った。
「予測は常に悪い方へしておくもんだろう?特に戦場では」
リーは右の眉を少し持ち上げ、そして尋ねた。
「彼らの最適化は?」
「彼ら」とは、強奪部隊の3人の事だった。
コロニーからの脱出後、ガーティ・ルーに無事帰還した3人は、モビルスーツを降りて「ゆりかご」と呼ばれるポッドに入って眠っていた。
深く安らかな眠りによって投薬と記憶操作を受けた脳や身体を休め、再び驚異的な戦闘能力を取り戻すよう念入りに「調整」されるのだ。
スティングたちはこれを「心地よい眠り」が与えられる特別なベッドとしか思っていないが、研究や命令遂行のために不要な記憶や、彼らを不安定にさせた何らかの感情も綺麗に消去されてしまう事があるとは知らない。
なぜなら、失った事を知るための「記憶」すら彼らにはなくなるからだ。
「概ね問題はないようだ。みんな気持ち良さげに眠っているよ」
ネオは先ほど見てきた子供たちの様子を思い浮かべながら答えた。
「ただ、アウルがステラにブロックワードを使ってしまったようでね。それがちょっと厄介ということだが…」
「死」というワードはステラを恐慌に陥れる。
その記憶の消去と精神の安定をはかるため、スティングが危惧したようにステラだけは今回、少し長く眠らせなければばならない。
リーはネオの話を黙って聞いていたが、疑い深い眼で聞いた。
「何かあるたび、ゆりかごに戻さねばならぬパイロットなど、ラボは本気で使えると思っているんでしょうかね?」
「それでも、前のよりはだいぶましだろう?こっちの言うことや仕事をちゃんと理解してやれるだけ」
ネオは、記録でのみ見た生体CPUのデータを思い出した。
何人もの失敗作を重ねた挙句、結局育成が間に合わなかったラボは、前大戦では薬物の大量投与によって急激に脳内を活性化させるという危険な実験体を実戦投下した。
「戦闘」という攻撃的行為に対してのみ、かろうじて命令に従える人材…即ちシリアルキラーばかりを選んだため、指揮どころか人としてのコミュニケーションさえ容易ではなかったと聞く。
リーは返事の代わりに、さも不愉快そうに鼻を鳴らした。
「仕方ないさ。今はまだ何もかもが試作段階みたいなもんさ」
ネオはそれを見てなだめるように言った。
「艦もモビルスーツもパイロットも…世界もな」
―― しかしやがて全てが本当に始まる日が来る…我らの名の下に。
ネオはニヤリと笑った。しかし、自分がそんな考えをいつどこで、何から手に入れたのかなど、彼は知る由もなかった。
ミネルバ艦内ではまだ慌しさが続いていた。
新米の整備兵がベテランから怒鳴られ、生活班が物資の補給や作業のため走り回り、衛生兵が荒々しく怪我人を乗せたストレッチャーを運んでいる。
治療を受けたカガリは元気を取り戻し、士官室で議長を待っていた。
頭に包帯を巻いた痛々しい姿だが、身体には他にこれといって傷はなく、アスランを心からほっとさせた。そこに艦長と議長が部屋に入ってきた。
互いに挨拶を交わし、席に着く。
女性艦長とは珍しい…カガリの後ろに控えたアスランは、意志の強そうな瞳でこちらを値踏みする艦長を見た。
「本当にお詫びの言葉もない」
デュランダルは深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べた。
「若君までこのような事態に巻き込んでしまうとは…」
カガリは「議長のせいではない」とそれを止めた。
「あの部隊については、まだ全く何もわかっていないのか?」
「ええ…まぁ、そうですね…」
曖昧に言葉を濁す議長に、アスランは悪い予感が当たったと確信した。
議長は一刻も早く事態を収拾したいと告げ、ミネルバがこのまま正体不明の艦を追うことを了承してもらえるかと尋ねた。
あの戦闘を見たカガリには、異論を唱えるつもりなどなかった。
あれだけの力を知れば、欲しがる者、利用したいと願う者など、有象無象が群がってくるだろう。そして遠からず混乱と争いを呼ぶ。
「今は何であれ、世界を刺激するようなことはあってはならないんだ」
デュランダルは、そうおっしゃっていただけると思いましたと喜んだ。
そして、工廠内同様、少しこの艦の中を案内しようと言う。
「議長…」
民間人に艦内を見せるなど…とタリアは不快そうだったが、議長は「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」とやんわりと艦長を押し留め、レイと共に2人を連れて歩き出した。
「オーブのアスハ?」
初戦闘を終えたばかりのインパルスの調整を行っていたシンは、ルナマリアから「今この艦にはオーブの代表が乗ってるのよ」と聞かされて振り向いた。
「うん、私もびっくりした。こんなところで大戦の英雄に会うとはね」
元々はシンが、ハンガーに傷ついたザクウォーリアがある事をいぶかしみ、「これは?」と彼女に尋ねたのが発端だった。
「でも何?あのザクがどうかしたの?」
「…ミネルバ配備の機体じゃないから、誰が乗ってたのかと思っただけだよ」
シンはこのザクこそ、アビスに襲い掛かられた時、横からタックルをかまして救ってくれた機体だと思っていた。
何しろ、あの時アビスに落とされた左腕が肩からない。
そしてオーブ代表はこのザクで着艦したのだと言う。
「操縦してたのは護衛の人みたいよ。アレックスって言ってたけど…」
ルナマリアはシンの耳元に唇を寄せたが、シンはその近すぎる距離を嫌がって素早く避けた。ルナマリアはその拒絶にぷぅと膨れた。
シンはいつだって自分が近づくと、こんな風に逃げるのだ。
「でも、アスラン…かも!」
「アス…ラン?」
シンは聞き慣れないその名前を反芻した。
「代表がそう呼んだのよ、咄嗟に。その人のことをアスランって」
「ふぅん」
シンは少し考えたが、それが何者なのかすぐには思い出せなかった。
「アスラン・ザラ。今はオーブにいるらしいって噂でしょ?」
シンに嫌がられたことなど忘れたように、「アスラン・ザラ」かもしれない人物に興味津々のナマリアは、大きな眼をくりくりさせながら言った。
「アスラン…ザラねぇ…」
もう一度口に出してみて、ようやくおぼろげな記憶が蘇った。
(女がトップガンだったなんて、大戦中のザフトも大概だな)
シンがさも興味なさそうにしているので、ルナマリアは突然現れた彼女が誰もが驚くような美人だった事は言わずに済んでほっとした。
レイが先頭に立ち、議長とカガリが並んで歩く後ろをアスランは歩いていた。
ミネルバは戦闘を終えたばかりのせいか、休憩室でだらしなく寝そべる兵や、作業にかからずおしゃべりを続けている者など、2年前に比べるとかなり砕けた雰囲気だ。かつての母艦ヴェサリウスなど常に緊張感に満ちており、さしものラクスも「ここはきっと、どんな牢獄よりも息が詰まるね」と音をあげたほどだ。
(そういえば、さっきの赤服の彼女もミニスカートを穿いていた)
それは、自分が軍にいた頃は考えられないような姿だった。
風紀の乱れをどうこういうつもりはないが、けれど少なくとも彼らは今、ミゲルやニコルのように「戦争」によって命を落とすことはないのだ。
(これが、「平和」の功罪というものなのかしら…)
アスランは談笑している若い兵たちを横目に、ふっと溜息を漏らした。
議長はカガリにあちこちの設備を説明し、やがてレイがエレベーターのボタンを押して彼らを階上へ案内した。
「ここから、モビルスーツデッキへ上がります」
(えっ!?)
アスランは思わず声を出しそうになって呼吸を飲み込んだ。
モビルスーツデッキ…いわば艦の心臓部にも等しいところに、いかなオーブの代表であろうとも、民間人を案内するとは…かつてのアークエンジェルの管理体制の緩さを知らないアスランは、思わず議長を見てしまったが、議長もまたアスランを見て微笑んでいたので、慌てて眼を逸らした。
議長はモビルスーツの搭載可能数などはお知らせできないが、と前置きし、数機の色違いのザクを指で指した。
「ZGMF-1000…ザクは、もう既に御存知でしょう」
さらに「お乗りになってみていかがでしたか?」と聞かれたカガリは、仏頂面で「立ち席にもシートベルトが必要じゃないか」と答えてアスランをヒヤリとさせた。
「そう技師に伝えておきましょう」とやんわり返した議長は、さらにミネルバの射出システムについても簡単に説明した。
「この発進システムを使うインパルスは、工廠でご覧になったそうですが」
「あ…はい」
デュランダルが自分に聞いていると気づき、アスランはしぶしぶ答えた。
カガリもまた、眉をひそめながらハンガーを見回していた。
その喧騒は大戦時のエターナルやクサナギのハンガーを思い出させる。
「やはり若君にはお気に召しませんか?」
2人の様子を見つめていた議長は、少し面白そうに言った。
「議長は嬉しそうだな」
まるで新型の開発に成功したエリカ・シモンズみたいだ…カガリは相変わらず精力的にモビルスーツ開発に勤しんでいる彼女を思い出した。
デュランダルは若僧の稚拙な皮肉など一笑に付すと、「嬉しいというわけではありませんがね」と言った。
「けれど、あの戦後の混乱の中からみんなで懸命に頑張り、ようやくここまでの力を持つことが出来たというのは、やはり…」
そして、忙しく働く若者たちを見て優しげに笑った。
「力か…争いがなくならぬから力が必要だとおっしゃったな、議長は」
「ええ」
そんな彼から眼を逸らし、カガリは居並ぶモビルスーツを見て言った。
「だが、ではこのたびの事はどうお考えになる?」
アスランはその場の空気がピリッと締まるのを感じて拳を握った。
「たった3機のモビルスーツに破壊され、甚大な被害を蒙ったことは?」
「力」が人々を…工廠とはいえ一国の国土を蹂躙した事が、カガリには我慢できないのだ。ましてやそれが「力」を巡っての争いだったなど…それがわかるだけに、アスランはカガリに「代表」と声をかけた。
しかしカガリが答えるより先に、デュランダルは静かに言った。
「だから、力など持つべきではないのだと?」
「そもそもなぜ必要なのだ?そんなものが今さら…」
カガリは吐き捨てるように言った。
「争いがなくならぬからと、ただ力のみで対抗すれば争いはいたずらに拡大する。たとえ一時は収まっても、そこには遺恨や憎しみが残り、また負の連鎖が生まれる」
―― そしてまた、あのような悲劇が起きないとも限らない…
カガリはかつて戦場を駆けた日々を苦々しく思い出しながら言った。
どちらかを滅ぼすまで、互いの憎しみをぶつけあうだけのあんな戦いは、もう二度と繰り返してはならない。
「我々は誓ったはずだ。もう悲劇は繰り返さない。互いに手を取って、歩む道を選ぶと…」
デュランダルは困ったように彼を見つめている。
アスランは内心ハラハラしながらカガリを見守っていた。
―― 具体策のない理想のみを口になさるな。
首長たちにそうたしなめられては歯噛みしているカガリをよく知っているだけに、アスランにはこう言わずにいられないカガリの気持ちもわからなくはない。
(けれど、それは今ここで…ザフト艦の中で言うべき事ではないわ、カガリ)
「それは…しかし、若君…」
議長が何か言おうとしたその時、階下から鋭い声が飛んだ。
「さすが、綺麗事はアスハのお家芸だな!」
アスランはその言葉を放った彼を見つけた。
かつて、自分も身にまとっていた赤服を着ている彼を。
闇のような真っ黒い髪と、抜けるような真っ白い肌をした彼は、ジロリとこちらを睨めつけた。
しかし何より印象的なのは瞳だった。
燃えあがるような明るい紅の瞳…アスランはその鋭さに一瞬ひるんだ。
シンと共にコアスプレンダーの調整をしていたヴィーノはオロオロし、レイは「シン!」と叫んでそのままキャットウォークを飛び降りるとシンにつかみかかった。
シンは胸倉を掴んだレイには何も答えず、ただ真っ直ぐにカガリの事を睨みつけている。
カガリは少し体を乗り出して覗き込み、シンと呼ばれた兵を見ていたが、彼の琥珀色の瞳にはかすかに、かつての少年の頃のような輝きが宿っていた。
しかし騒動はそこで打ち止めになった。
ミネルバの索敵が成功し、ボギーワンを射程に捉えたのだ。
「敵艦捕捉、距離8000。コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!」
メイリンの声が全艦に響き渡り、コンディションレッドが発令される。
ハンガーは再び慌しくなり、マッド・エイブスが新兵に次々と指示を下し始めた。
「…出撃だ」
シンはそう言ってレイの腕を振り払い、パイロットルームに向かう。
「申し訳ありません、議長。この処分は後ほど必ず」
レイは振り返って議長に最敬礼すると、シンの後を追った。
「本当に申しわけない、若君」
デュランダルはブリッジに向かうため、来た道を戻りながらカガリに謝った。
政治家として表舞台に立って以来、こうした事に大分鍛えられたカガリは「気にしなくていい」と言ったが、議長の次の言葉には思わず息を呑んだ。
「彼は…シン・アスカは、オーブからの移住者なので…」
地球軍の支配を嫌い、オーブからプラントに移住したコーディネイターは多い。
そもそも今回のカガリのプラント訪問もそれに由来する技術の流出問題を解決する事が目的だった。けれど彼らの中には当然、あの戦いのせいで故郷を捨てなければならなかったという思いを抱く者がいた事は事実だ。
カガリとて、オーブを去った者たちの無念や怒りを知らないわけではない。
カガリもアスランも思わず顔を見合わせた。
シン・アスカ…二人の心に、その名が深く刻まれた。
「よもや、あんなことを言うとは思いもしなかったのですが」
デュランダルは気の毒そうにカガリを見たが、アスランもカガリもその事実に想いを巡らせていたので、議長の口の端がほんの少し持ち上がったことには気づく事はなかった。
ガーティ・ルーではネオとリーが、そしてミネルバではタリアとパイロットのマリク、オペレーターのメイリンらが戦闘準備に入る打ち合わせを行っていた。
デブリ帯での戦闘は多くの危険を伴う。
「シンとルナマリアで先制します。調整、終わってるわね?」
てきぱきと指示を下していくタリアが、戻ってきた議長の姿を捉えて困ったように手を上げた。しかも彼は客人を連れていた。
「艦長、私はオーブの方々にもブリッジに入っていただきたいと思うのだが」
タリアは当然ながら全身で「反対」であることを示した。
けれど議長はひるむどころか、人心をつかんできた弁舌で対抗する。
「きみも知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験されてきた方だ。そうした視点からこの艦の戦いを見ていただこうと思ってね」
そんなもの、見てどうするというの…タリアは自分が拒絶できないと知って自信に満ちた微笑みを湛えている議長と、頭に痛々しい包帯を巻いた年若いアスハ代表、そしてその身のこなしから軍人、あるいは元軍人であろうと踏んでいる、代表の随員を見た。
(本当にこの人の酔狂には呆れるわ)
タリアは感情を押さえ込むと冷静に答えた。
「わかりました。議長がそうお望みなのでしたら」
「ありがとう、タリア」
もとより、最高権力者の彼に逆らう事などできようはずもない。
やがてブリッジが遮蔽され、床が下がって再び仄暗い照明が点る。
アスランもカガリも、ミネルバのブリッジは堅牢なパートで守られ、それがブリッジクルーの生存率を引き上げる造りであることを知った。
(あれが、オーブのアスハ代表か)
メイリン・ホークは、議長に勧められて席に着く人物をチラリと見たが、金髪の彼は思った以上に若く、自分たちとそれほど変わらないように思えた。
そしてメイリンはそのまま何気なく代表の隣の人物に眼を移したのだが、その瞬間、彼の心臓は跳ね上がり、驚くほど激しく鼓動を始めた。
長い髪と碧の瞳を持つ彼女は、メイリンの眼を釘付けにして離さない。
(…ダメだ、視線を…逸らさなきゃ…)
そう思うのに、眼を離すことができない。
(なんて…なんて綺麗な人だろう)
メイリンは自分がバカみたいにポカンと口を開けていることにすら気づかず、ただひたすらアスランを見つめていた。
ほのかに赤い唇が動き、彼女は代表と静かに言葉を交わしている。
その途端、メイリンの傍らに座るバートが、艦長に大きな声で座標と策敵開始を伝えたので、彼女は突然その瞳をこちらに向けた。
思いもかけないことにメイリンは咄嗟に眼を逸らしたのだが、見る見るうちに顔が上気し、自分の顔が赤くなるのがわかった。
―― 何者なんだろう、あの人は…?
女性に対して晩生で不器用なメイリンにとって、可愛くて快活で、男女問わず人気の高い姉・ルナマリアこそが理想の女性像だった。
しかし今、そんな閉じられた世界はガラガラと音を立てて崩れ去り、彼のうぶな心には、年上の美しい女性が焼きついて離れなくなった。
それがやがてメイリンとアスラン、そしてルナマリアの運命をも大きく変えることになるなど、この時はまだ、誰一人知らなかった。
「あの新型艦だって?」
「ゆりかご」の中ですっきりと眼を醒ましたアウルが、パイロットスーツに着替えながらスティングに聞いた。
「ああ。来るのはあの合体野郎かな?」
「なら今度こそバラバラか、生け捕るか」
スティングはどっちにしろ楽しそうだと答え、2人は笑った。
けれどステラは無関心だった。
インパルスに対して抱いた激しい怒りも、ブロックワードでパニックに陥った事も、余計なものは全部ステラの記憶から削ぎ落とされていた。
アウルとスティングとて、今回の眠りで作戦や戦闘に関わる必要な記憶以外はきれいサッパリ洗い流されてしまっている。
スティングは「ゆりかご」に長く入れられるステラを心配した気持ちなど忘れ、彼らの言葉に何の反応もないステラを見て、「変なヤツ」と肩をすくめた。
つい彼女に意識がいってしまう自分を、(任務に集中しろ!)と心の中で叱咤し、メイリンはモビルスーツのオペレーティングを開始した。
「ガナーザクウォーリア、カタパルトエンゲージ」
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
やんちゃな姉、ルナマリアの無事を祈りながらシークエンスを進める。
「続いてインパルス、どうぞ」
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
ザクはガナー、インパルスはブラストを選択し、火力重視の装備だ。
やがて再びコアスプレンダーが素晴らしい加速で宇宙へと飛び出した。
(アスハ…おまえたちが何をしたか、俺は絶対に忘れない)
シンは眼を閉じて、思ったよりずっと若かった代表の姿を思い浮かべた。
「俺は…絶対におまえたちを許さない!」
怒りを滲ませた赤い瞳を開くと、シンは自分が立つべき戦場を目指した。
「ボギーワンか…本当の名前は何というのだろうね?あの艦の」
ブリッジに座ってモニターを眺めていた議長がポツリと呟いた。
「名はその存在を示すものだ。ならばもし、それが偽りだったとしたら…」
それはカガリではなく、アスランに向けられた質問だった。
「それは、その存在そのものも偽り…と、いうことになるのかな?」
議長は今度は完全にアスランの方を向き直った。
「アレックス…いや、アスラン・ザラくん」
名を呼ばれたアスランは思わず息を呑み、議長を見た。
議長は柔和な笑みを浮かべていたが、その深い闇色の瞳は、まるで全てを見透かすような鋭さでアスランを射抜いていた。
機関部、兵装部、整備部、その他各部署からの報告を受け、アーサーはミネルバが滞りなく航行を続けている事を確認した。
一足先に戦場に身を躍らせたインパルスとザクは、索敵担当のバート・ハイム、及びメイリン・ホークによって発見されたが、しかし彼らは同時に、すぐ近くに不明艦の存在もつきとめていた。
「それが母艦か?」
司令官席に着席したデュランダルがいぶかしむように問いかけた。
タリアは議長に向かって「恐らく…」と頷いてから、「初見をデータベースに登録。以降、対象を『ボギーワン』とする」と、ガーティ・ルーに仮のコードネームを与えた。
それからシンとレイを呼び出せるかメイリンに尋ねたが、電波障害がひどく、互いの位置を確認する事もままならない。
しかし、彼らが戦っている相手は1機だと言う。
現ザフトのエースであるシン・アスカと、双璧の腕前を持つレイ・ザ・バレルが2人がかりでたった1機を相手にしている…?
タリアは呆れたように「一体どんな化物モビルスーツなの」と聞いたが、メイリンの答えはさらにブリッジを驚かせた。
「でも、これは…モビルアーマーです!」
既に前大戦においても「鉄の棺桶」と笑われたそのモビルアーマーに、シンもレイも翻弄されていた。
有線とは思えないほど宙域を自在に飛び交うガンバレルを操るエグザスを見て、シンは初め(今さらモビルアーマーだと?)と侮り、やや鼻白んだのだが、すぐにその奢った考えを撤回せざるを得なくなった。
全方位からビームや実装弾で畳み掛けられると、どうしても防衛領域が狭く追いやられていく。
しかも接近するとビームサーベルのような兵装を出して斬りかかる相手に、シンは何とか突破口を開こうと闇雲にライフルを放ったが、逆に防衛が留守になり、集中砲火を喰らってパワーゲージを減らしてしまった。
レイに援護してもらい、ようやくデブリに身を潜める。
そんなシンを見て珍しくレイが声を荒げた。
「何をしている!ボーっとしていたらただの的だ!」
先ほどからずっと続く違和感…それが彼を苛立たせ、不快にさせている。
それはまた、彼らとさほど離れていない場所に潜むネオ・ロアノークも同様だった。あの2機に近づけば近づくほど、不可解な感覚が彼を襲う。
「なんだ…これは…?」
シンは「わかってる」と言い置いてデブリの逆へと回っていった。
それを見たレイは正面に飛び出し、エグザスの気を引く。
不快感は消えないが、戦えないほどではない。
レイはシンの動きを援護するためファイアビーを放って弾幕を張った。
「ちっ!」
エグザスはミサイルを避けようと急旋回したが、軌道を読んだインパルスが姿を現し、ネオはその鋭く振り下ろされたサーベルをかろうじて避けた。
意識がインパルスに向いたために、背後ではザクファントムがビームライフルでガンバレルを撃破している。
(奴らを乗せちまったか)
ネオはやれやれ、と肩をすくめた。
「ボギーワンを討つ!ブリッジ遮蔽、進路インディゴデルタ、加速20%。信号弾及びアンチビーム爆雷、発射用意!アーサー!?何してるの!」
ミネルバではタリアが正体不明の相手艦に攻撃を仕掛けると命じた。
アーサーはシンたちの動きをレーダーで追うメイリンの後ろから覗き込んでいたが、タリアの叱責に「はい!」と居住まいを正した。
そして慌てて戦闘準備に入り、CICに主砲の発射を命じた。
「ランチャーエイト、1番から4番、ナイトハルト装填。トリスタン、1番2番、イゾルデ起動!照準ボギーワン!」
「彼らを助けるのが先じゃないのか?艦長」
いきなり敵母艦への攻撃を決めた艦長に驚き、議長が口を挟む。
「そうですよ。だから母艦を討つんです」
そんな彼に、タリアは動じることなく答えた。
「敵を引き離すのが一番早いですから…この場合は」
その頃、ボギーワン…ガーティ・ルーもミネルバの艦影を捉えていた。
エグザスはまだ戻らないが、奪取に成功した3機は着艦済みだ。
リーは迎撃体制を取るよう命じ、イーゲルシュテルンが起動する。
アーサーが放ったナイトハルトは真っ直ぐガーティ・ルーへ向かってきた。
「チッ…欲張りすぎは元も子もなくすか」
敵戦艦の存在に気づいたネオは、既にガンバレルを数機失ったこともあり、相手方に有利に進み始めたこの戦闘を切り上げた。
時間を稼ぐため最後のガンバレルを残し、ミサイルをぶち込んで離脱するエグザスをシンが見送ったのは、ミネルバから帰還信号が放たれたからだ。
「…帰還信号?」
「命令だ」
不満げなシンをレイが促し、2人はそのままミネルバに向かった。
「エンジンを狙って!足を止めるのよ!」
ミサイルをことごとく避けられ、相手艦の足の速さを悟ったタリアはアーサーに攻撃を畳み掛けるよう命じたが、ガーティ・ルーでもネオのエグザスが帰投し、撤収を決めたため回頭を始めていた。
タリアは帰投中のシンとレイを急がせるようメイリンに伝え、さらにこのままボギーワンを追うと決めた。
(今なら追いつけるわ)
ミネルバは足が速い。タリアは強気で、逃げる幽霊を追った。
「すまん、遊びすぎたな」
戻ってきたネオがモニターを覗き込むと、リーが追いかけてくる新鋭艦を見て、何を考えているのか表情の読めない顔で呟いた。
「かなり足の速い艦のようです。厄介ですぞ」
そうこう言ううちに、再びナイトハルトが襲い掛かる。
「取り舵!かわせ!」
ネオはシートの背を掴みながらズズンという被弾振動に耐え、母艦の全体像にざっと眼を通すとCICに指示を下した。
「両舷の推進剤予備タンクを分離後爆破!」
ブリッジクルーが驚いて顔を上げたが、リーはチラリとネオを見ただけだった。
「アームごとでいい!鼻っ面に喰らわせてやれ!」
ネオは同時に機関最大で逃げるぞとパイロットに舵角度を指示した。
「さぁて…手痛い煙幕を喰らいたまえ、ザフトの諸君!」
「ボギーワン、艦体の一部を分離!」
バートが相手の意図を図りかね、戸惑うように伝えると、タリアもまた機雷や爆弾かもしれないと警戒し、撃ち方を止める。
しかし驚くようなスピードで近づいたそれは、ミネルバの艦体間近で大きな爆発を起こした。何しろ推進剤が一杯に詰まったタンクが至近距離で爆発したのだからたまらない。
ミネルバは爆炎に包まれて激しく揺れ、水蒸気で視界を失った。
足が速いゆえに近づきすぎ、手痛い反撃を受けたのだ。
タリアは掴まっていたシートの肘掛を、さらにぎゅっと握り締めた。
コックピットを出たばかりだったシンと、彼を迎えたヴィーノ、ヨウラン、それにレイもハンガーで激しい振動にバランスを崩した。
(この振動…被弾した…?)
シンはよろけたヴィーノの体を避け、手すりに掴まって様子を窺った。
艦内にはまだ固定しきれていなかった物が散乱し、ケガをした者もいる。
医務室で治療を受けていたカガリは、包帯を巻いてくれていた看護兵の体を支え、アスランとルナマリアは固定バーや重量のある台に掴まった。
「ブリッジ、どうした!?」
レイは素早くブリッジへの有線電話に手を伸ばしたが、混乱しているのか繋がらないため、受話器を置くとそのままエレベーターに乗り込んだ。
目の前でまんまと強奪されてしまった3機。
もう化石だと思っていたのに、撃墜するどころか大したダメージも与えられなかったモビルアーマー。
そして進水式さえ済ませていないミネルバへのこの攻撃。
(一体なんなんだ、これは?)
ヴィーノやヨウランたち整備兵が、艦のダメージを調べるため、リーダーのマッド・エイブスに呼ばれ、あたふたと集合していく。
シンは静かに佇んでいるインパルスを見上げて眉を顰めた。
(戦争でもないってのに…なんで俺は戦ってるんだ?)
レイが上がったブリッジでは、索敵と艦のダメージを把握するためオペレーターたちがてんてこ舞いだった。しかし既に逃亡した敵艦との距離は開いており、足の速さもタリアの見込みどおりだ。
レイは遮蔽され、仄暗いブリッジを何気なく見回してぎょっとした。
「議長…?」
あまり表情を崩さない彼の整った顔が驚きに変わる。
デュランダルは入り口で立ちすくむレイに気づくと、優しく微笑んだ。
「やってくれるわ…こんな手で逃げようとは」
タリアがシートの背にもたれ、ため息と共に苦々しげに呟くと、デュランダルは立ち上がって艦長席に歩み寄り、ねぎらうように言った。
「だいぶ手強い部隊のようだな」
「ならばなおの事、このまま逃がすわけにはいきません」
奪われたのは、ミネルバに搭載されるはずだった機体なのだ。
宇宙はもちろん、地上での戦闘も視野に入れて開発された最新鋭機体。
「そんな連中にあの機体が渡れば…」
そのあまりにも優れた性能は、タリア自身、ここまでのものが今、必要なのかと思うほどだ。そんなものを地球軍が手に入れたら…タリアは今になってズッシリと戦闘の疲れを感じ、眼を閉じた。
未だに根強く燻り続けるコーディネイターとナチュラルの間の火種に、あれらが再び火を熾すことになるかもしれない…そう思うと憂鬱だった。
「今からでは下船いただくこともできませんが…」
やがてタリアは眼を開けると、傍らに立つ議長を振り返った。
「私は、本艦はこのままあれを追うべきと思います。議長の御判断は?」
「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長」
デュランダルはタリアの肩に軽く手を置いて言った。
「私だってこの火種、放置したらどれほどの大火になって戻ってくるか…それを考えるのは怖い。あれの奪還、もしくは破壊は、現時点での最優先責務だよ」
「ありがとうございます」
タリアは微笑み、そして敵艦のトレースを続けるよう命じた。
「全艦に通達する。本艦はこれより、更なるボギーワンの追撃戦を開始する。突然の状況から思いもかけぬ初陣となったが、これは非常に重大な任務である」
副長アーサーの声が全艦に響き渡り、固定されていなかった物の片付けや負傷者の搬送に忙しかった艦内は再びざわめいた。
「議長も少し艦長室でお休み下さい。ミネルバも足自慢でありますが、敵もかなりの高速艦です。すぐにどうということはないでしょう」
コンディションをレッドからイエローに移行し、タリアは言った。
そして入り口付近で控えているレイに、議長を案内するよう頼む。
その時、ルナマリアがモニターに姿を現した。
「艦長!」
「どうしたの?」
「戦闘中のこともあり、ご報告が遅れました」
敬礼を終え、彼女はメモを取った小さなタブレットを見ながら言う。
「本艦発進時に、格納庫にてザクに搭乗した2名の民間人を発見」
ルナマリアは彼らの一人が負傷しており、議長への面会を希望したため、傷の手当てを施した後、現在士官室に案内している旨を報告した。
タリアはルナマリアのその独断に、やや不満そうな表情を見せて聞いた。
「一体何者なの?」
「それが…」
ルナマリアは一瞬口ごもったが、やがてきっぱりと言った。
「…オーブの代表と…名乗られましたので」
デュランダルとタリアは思わず顔を見合わせた。
「彼が?なぜこの艦に?」
それを聞いたタリアは全くわけがわからないといわんばかりに首を振った。
「やれやれ…これも運命、なのかな?」
議長は苦笑し、彼を艦に迎えるためブリッジを後にした。
「どうやら成功、というところですかな?」
リーがレーダーから消えたミネルバを見て言った。
「まぁね。だが追撃がないとは思わない方がいいだろうな」
ネオはにやりと笑った。
「予測は常に悪い方へしておくもんだろう?特に戦場では」
リーは右の眉を少し持ち上げ、そして尋ねた。
「彼らの最適化は?」
「彼ら」とは、強奪部隊の3人の事だった。
コロニーからの脱出後、ガーティ・ルーに無事帰還した3人は、モビルスーツを降りて「ゆりかご」と呼ばれるポッドに入って眠っていた。
深く安らかな眠りによって投薬と記憶操作を受けた脳や身体を休め、再び驚異的な戦闘能力を取り戻すよう念入りに「調整」されるのだ。
スティングたちはこれを「心地よい眠り」が与えられる特別なベッドとしか思っていないが、研究や命令遂行のために不要な記憶や、彼らを不安定にさせた何らかの感情も綺麗に消去されてしまう事があるとは知らない。
なぜなら、失った事を知るための「記憶」すら彼らにはなくなるからだ。
「概ね問題はないようだ。みんな気持ち良さげに眠っているよ」
ネオは先ほど見てきた子供たちの様子を思い浮かべながら答えた。
「ただ、アウルがステラにブロックワードを使ってしまったようでね。それがちょっと厄介ということだが…」
「死」というワードはステラを恐慌に陥れる。
その記憶の消去と精神の安定をはかるため、スティングが危惧したようにステラだけは今回、少し長く眠らせなければばならない。
リーはネオの話を黙って聞いていたが、疑い深い眼で聞いた。
「何かあるたび、ゆりかごに戻さねばならぬパイロットなど、ラボは本気で使えると思っているんでしょうかね?」
「それでも、前のよりはだいぶましだろう?こっちの言うことや仕事をちゃんと理解してやれるだけ」
ネオは、記録でのみ見た生体CPUのデータを思い出した。
何人もの失敗作を重ねた挙句、結局育成が間に合わなかったラボは、前大戦では薬物の大量投与によって急激に脳内を活性化させるという危険な実験体を実戦投下した。
「戦闘」という攻撃的行為に対してのみ、かろうじて命令に従える人材…即ちシリアルキラーばかりを選んだため、指揮どころか人としてのコミュニケーションさえ容易ではなかったと聞く。
リーは返事の代わりに、さも不愉快そうに鼻を鳴らした。
「仕方ないさ。今はまだ何もかもが試作段階みたいなもんさ」
ネオはそれを見てなだめるように言った。
「艦もモビルスーツもパイロットも…世界もな」
―― しかしやがて全てが本当に始まる日が来る…我らの名の下に。
ネオはニヤリと笑った。しかし、自分がそんな考えをいつどこで、何から手に入れたのかなど、彼は知る由もなかった。
ミネルバ艦内ではまだ慌しさが続いていた。
新米の整備兵がベテランから怒鳴られ、生活班が物資の補給や作業のため走り回り、衛生兵が荒々しく怪我人を乗せたストレッチャーを運んでいる。
治療を受けたカガリは元気を取り戻し、士官室で議長を待っていた。
頭に包帯を巻いた痛々しい姿だが、身体には他にこれといって傷はなく、アスランを心からほっとさせた。そこに艦長と議長が部屋に入ってきた。
互いに挨拶を交わし、席に着く。
女性艦長とは珍しい…カガリの後ろに控えたアスランは、意志の強そうな瞳でこちらを値踏みする艦長を見た。
「本当にお詫びの言葉もない」
デュランダルは深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べた。
「若君までこのような事態に巻き込んでしまうとは…」
カガリは「議長のせいではない」とそれを止めた。
「あの部隊については、まだ全く何もわかっていないのか?」
「ええ…まぁ、そうですね…」
曖昧に言葉を濁す議長に、アスランは悪い予感が当たったと確信した。
議長は一刻も早く事態を収拾したいと告げ、ミネルバがこのまま正体不明の艦を追うことを了承してもらえるかと尋ねた。
あの戦闘を見たカガリには、異論を唱えるつもりなどなかった。
あれだけの力を知れば、欲しがる者、利用したいと願う者など、有象無象が群がってくるだろう。そして遠からず混乱と争いを呼ぶ。
「今は何であれ、世界を刺激するようなことはあってはならないんだ」
デュランダルは、そうおっしゃっていただけると思いましたと喜んだ。
そして、工廠内同様、少しこの艦の中を案内しようと言う。
「議長…」
民間人に艦内を見せるなど…とタリアは不快そうだったが、議長は「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」とやんわりと艦長を押し留め、レイと共に2人を連れて歩き出した。
「オーブのアスハ?」
初戦闘を終えたばかりのインパルスの調整を行っていたシンは、ルナマリアから「今この艦にはオーブの代表が乗ってるのよ」と聞かされて振り向いた。
「うん、私もびっくりした。こんなところで大戦の英雄に会うとはね」
元々はシンが、ハンガーに傷ついたザクウォーリアがある事をいぶかしみ、「これは?」と彼女に尋ねたのが発端だった。
「でも何?あのザクがどうかしたの?」
「…ミネルバ配備の機体じゃないから、誰が乗ってたのかと思っただけだよ」
シンはこのザクこそ、アビスに襲い掛かられた時、横からタックルをかまして救ってくれた機体だと思っていた。
何しろ、あの時アビスに落とされた左腕が肩からない。
そしてオーブ代表はこのザクで着艦したのだと言う。
「操縦してたのは護衛の人みたいよ。アレックスって言ってたけど…」
ルナマリアはシンの耳元に唇を寄せたが、シンはその近すぎる距離を嫌がって素早く避けた。ルナマリアはその拒絶にぷぅと膨れた。
シンはいつだって自分が近づくと、こんな風に逃げるのだ。
「でも、アスラン…かも!」
「アス…ラン?」
シンは聞き慣れないその名前を反芻した。
「代表がそう呼んだのよ、咄嗟に。その人のことをアスランって」
「ふぅん」
シンは少し考えたが、それが何者なのかすぐには思い出せなかった。
「アスラン・ザラ。今はオーブにいるらしいって噂でしょ?」
シンに嫌がられたことなど忘れたように、「アスラン・ザラ」かもしれない人物に興味津々のナマリアは、大きな眼をくりくりさせながら言った。
「アスラン…ザラねぇ…」
もう一度口に出してみて、ようやくおぼろげな記憶が蘇った。
(女がトップガンだったなんて、大戦中のザフトも大概だな)
シンがさも興味なさそうにしているので、ルナマリアは突然現れた彼女が誰もが驚くような美人だった事は言わずに済んでほっとした。
レイが先頭に立ち、議長とカガリが並んで歩く後ろをアスランは歩いていた。
ミネルバは戦闘を終えたばかりのせいか、休憩室でだらしなく寝そべる兵や、作業にかからずおしゃべりを続けている者など、2年前に比べるとかなり砕けた雰囲気だ。かつての母艦ヴェサリウスなど常に緊張感に満ちており、さしものラクスも「ここはきっと、どんな牢獄よりも息が詰まるね」と音をあげたほどだ。
(そういえば、さっきの赤服の彼女もミニスカートを穿いていた)
それは、自分が軍にいた頃は考えられないような姿だった。
風紀の乱れをどうこういうつもりはないが、けれど少なくとも彼らは今、ミゲルやニコルのように「戦争」によって命を落とすことはないのだ。
(これが、「平和」の功罪というものなのかしら…)
アスランは談笑している若い兵たちを横目に、ふっと溜息を漏らした。
議長はカガリにあちこちの設備を説明し、やがてレイがエレベーターのボタンを押して彼らを階上へ案内した。
「ここから、モビルスーツデッキへ上がります」
(えっ!?)
アスランは思わず声を出しそうになって呼吸を飲み込んだ。
モビルスーツデッキ…いわば艦の心臓部にも等しいところに、いかなオーブの代表であろうとも、民間人を案内するとは…かつてのアークエンジェルの管理体制の緩さを知らないアスランは、思わず議長を見てしまったが、議長もまたアスランを見て微笑んでいたので、慌てて眼を逸らした。
議長はモビルスーツの搭載可能数などはお知らせできないが、と前置きし、数機の色違いのザクを指で指した。
「ZGMF-1000…ザクは、もう既に御存知でしょう」
さらに「お乗りになってみていかがでしたか?」と聞かれたカガリは、仏頂面で「立ち席にもシートベルトが必要じゃないか」と答えてアスランをヒヤリとさせた。
「そう技師に伝えておきましょう」とやんわり返した議長は、さらにミネルバの射出システムについても簡単に説明した。
「この発進システムを使うインパルスは、工廠でご覧になったそうですが」
「あ…はい」
デュランダルが自分に聞いていると気づき、アスランはしぶしぶ答えた。
カガリもまた、眉をひそめながらハンガーを見回していた。
その喧騒は大戦時のエターナルやクサナギのハンガーを思い出させる。
「やはり若君にはお気に召しませんか?」
2人の様子を見つめていた議長は、少し面白そうに言った。
「議長は嬉しそうだな」
まるで新型の開発に成功したエリカ・シモンズみたいだ…カガリは相変わらず精力的にモビルスーツ開発に勤しんでいる彼女を思い出した。
デュランダルは若僧の稚拙な皮肉など一笑に付すと、「嬉しいというわけではありませんがね」と言った。
「けれど、あの戦後の混乱の中からみんなで懸命に頑張り、ようやくここまでの力を持つことが出来たというのは、やはり…」
そして、忙しく働く若者たちを見て優しげに笑った。
「力か…争いがなくならぬから力が必要だとおっしゃったな、議長は」
「ええ」
そんな彼から眼を逸らし、カガリは居並ぶモビルスーツを見て言った。
「だが、ではこのたびの事はどうお考えになる?」
アスランはその場の空気がピリッと締まるのを感じて拳を握った。
「たった3機のモビルスーツに破壊され、甚大な被害を蒙ったことは?」
「力」が人々を…工廠とはいえ一国の国土を蹂躙した事が、カガリには我慢できないのだ。ましてやそれが「力」を巡っての争いだったなど…それがわかるだけに、アスランはカガリに「代表」と声をかけた。
しかしカガリが答えるより先に、デュランダルは静かに言った。
「だから、力など持つべきではないのだと?」
「そもそもなぜ必要なのだ?そんなものが今さら…」
カガリは吐き捨てるように言った。
「争いがなくならぬからと、ただ力のみで対抗すれば争いはいたずらに拡大する。たとえ一時は収まっても、そこには遺恨や憎しみが残り、また負の連鎖が生まれる」
―― そしてまた、あのような悲劇が起きないとも限らない…
カガリはかつて戦場を駆けた日々を苦々しく思い出しながら言った。
どちらかを滅ぼすまで、互いの憎しみをぶつけあうだけのあんな戦いは、もう二度と繰り返してはならない。
「我々は誓ったはずだ。もう悲劇は繰り返さない。互いに手を取って、歩む道を選ぶと…」
デュランダルは困ったように彼を見つめている。
アスランは内心ハラハラしながらカガリを見守っていた。
―― 具体策のない理想のみを口になさるな。
首長たちにそうたしなめられては歯噛みしているカガリをよく知っているだけに、アスランにはこう言わずにいられないカガリの気持ちもわからなくはない。
(けれど、それは今ここで…ザフト艦の中で言うべき事ではないわ、カガリ)
「それは…しかし、若君…」
議長が何か言おうとしたその時、階下から鋭い声が飛んだ。
「さすが、綺麗事はアスハのお家芸だな!」
アスランはその言葉を放った彼を見つけた。
かつて、自分も身にまとっていた赤服を着ている彼を。
闇のような真っ黒い髪と、抜けるような真っ白い肌をした彼は、ジロリとこちらを睨めつけた。
しかし何より印象的なのは瞳だった。
燃えあがるような明るい紅の瞳…アスランはその鋭さに一瞬ひるんだ。
シンと共にコアスプレンダーの調整をしていたヴィーノはオロオロし、レイは「シン!」と叫んでそのままキャットウォークを飛び降りるとシンにつかみかかった。
シンは胸倉を掴んだレイには何も答えず、ただ真っ直ぐにカガリの事を睨みつけている。
カガリは少し体を乗り出して覗き込み、シンと呼ばれた兵を見ていたが、彼の琥珀色の瞳にはかすかに、かつての少年の頃のような輝きが宿っていた。
しかし騒動はそこで打ち止めになった。
ミネルバの索敵が成功し、ボギーワンを射程に捉えたのだ。
「敵艦捕捉、距離8000。コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!」
メイリンの声が全艦に響き渡り、コンディションレッドが発令される。
ハンガーは再び慌しくなり、マッド・エイブスが新兵に次々と指示を下し始めた。
「…出撃だ」
シンはそう言ってレイの腕を振り払い、パイロットルームに向かう。
「申し訳ありません、議長。この処分は後ほど必ず」
レイは振り返って議長に最敬礼すると、シンの後を追った。
「本当に申しわけない、若君」
デュランダルはブリッジに向かうため、来た道を戻りながらカガリに謝った。
政治家として表舞台に立って以来、こうした事に大分鍛えられたカガリは「気にしなくていい」と言ったが、議長の次の言葉には思わず息を呑んだ。
「彼は…シン・アスカは、オーブからの移住者なので…」
地球軍の支配を嫌い、オーブからプラントに移住したコーディネイターは多い。
そもそも今回のカガリのプラント訪問もそれに由来する技術の流出問題を解決する事が目的だった。けれど彼らの中には当然、あの戦いのせいで故郷を捨てなければならなかったという思いを抱く者がいた事は事実だ。
カガリとて、オーブを去った者たちの無念や怒りを知らないわけではない。
カガリもアスランも思わず顔を見合わせた。
シン・アスカ…二人の心に、その名が深く刻まれた。
「よもや、あんなことを言うとは思いもしなかったのですが」
デュランダルは気の毒そうにカガリを見たが、アスランもカガリもその事実に想いを巡らせていたので、議長の口の端がほんの少し持ち上がったことには気づく事はなかった。
ガーティ・ルーではネオとリーが、そしてミネルバではタリアとパイロットのマリク、オペレーターのメイリンらが戦闘準備に入る打ち合わせを行っていた。
デブリ帯での戦闘は多くの危険を伴う。
「シンとルナマリアで先制します。調整、終わってるわね?」
てきぱきと指示を下していくタリアが、戻ってきた議長の姿を捉えて困ったように手を上げた。しかも彼は客人を連れていた。
「艦長、私はオーブの方々にもブリッジに入っていただきたいと思うのだが」
タリアは当然ながら全身で「反対」であることを示した。
けれど議長はひるむどころか、人心をつかんできた弁舌で対抗する。
「きみも知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験されてきた方だ。そうした視点からこの艦の戦いを見ていただこうと思ってね」
そんなもの、見てどうするというの…タリアは自分が拒絶できないと知って自信に満ちた微笑みを湛えている議長と、頭に痛々しい包帯を巻いた年若いアスハ代表、そしてその身のこなしから軍人、あるいは元軍人であろうと踏んでいる、代表の随員を見た。
(本当にこの人の酔狂には呆れるわ)
タリアは感情を押さえ込むと冷静に答えた。
「わかりました。議長がそうお望みなのでしたら」
「ありがとう、タリア」
もとより、最高権力者の彼に逆らう事などできようはずもない。
やがてブリッジが遮蔽され、床が下がって再び仄暗い照明が点る。
アスランもカガリも、ミネルバのブリッジは堅牢なパートで守られ、それがブリッジクルーの生存率を引き上げる造りであることを知った。
(あれが、オーブのアスハ代表か)
メイリン・ホークは、議長に勧められて席に着く人物をチラリと見たが、金髪の彼は思った以上に若く、自分たちとそれほど変わらないように思えた。
そしてメイリンはそのまま何気なく代表の隣の人物に眼を移したのだが、その瞬間、彼の心臓は跳ね上がり、驚くほど激しく鼓動を始めた。
長い髪と碧の瞳を持つ彼女は、メイリンの眼を釘付けにして離さない。
(…ダメだ、視線を…逸らさなきゃ…)
そう思うのに、眼を離すことができない。
(なんて…なんて綺麗な人だろう)
メイリンは自分がバカみたいにポカンと口を開けていることにすら気づかず、ただひたすらアスランを見つめていた。
ほのかに赤い唇が動き、彼女は代表と静かに言葉を交わしている。
その途端、メイリンの傍らに座るバートが、艦長に大きな声で座標と策敵開始を伝えたので、彼女は突然その瞳をこちらに向けた。
思いもかけないことにメイリンは咄嗟に眼を逸らしたのだが、見る見るうちに顔が上気し、自分の顔が赤くなるのがわかった。
―― 何者なんだろう、あの人は…?
女性に対して晩生で不器用なメイリンにとって、可愛くて快活で、男女問わず人気の高い姉・ルナマリアこそが理想の女性像だった。
しかし今、そんな閉じられた世界はガラガラと音を立てて崩れ去り、彼のうぶな心には、年上の美しい女性が焼きついて離れなくなった。
それがやがてメイリンとアスラン、そしてルナマリアの運命をも大きく変えることになるなど、この時はまだ、誰一人知らなかった。
「あの新型艦だって?」
「ゆりかご」の中ですっきりと眼を醒ましたアウルが、パイロットスーツに着替えながらスティングに聞いた。
「ああ。来るのはあの合体野郎かな?」
「なら今度こそバラバラか、生け捕るか」
スティングはどっちにしろ楽しそうだと答え、2人は笑った。
けれどステラは無関心だった。
インパルスに対して抱いた激しい怒りも、ブロックワードでパニックに陥った事も、余計なものは全部ステラの記憶から削ぎ落とされていた。
アウルとスティングとて、今回の眠りで作戦や戦闘に関わる必要な記憶以外はきれいサッパリ洗い流されてしまっている。
スティングは「ゆりかご」に長く入れられるステラを心配した気持ちなど忘れ、彼らの言葉に何の反応もないステラを見て、「変なヤツ」と肩をすくめた。
つい彼女に意識がいってしまう自分を、(任務に集中しろ!)と心の中で叱咤し、メイリンはモビルスーツのオペレーティングを開始した。
「ガナーザクウォーリア、カタパルトエンゲージ」
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
やんちゃな姉、ルナマリアの無事を祈りながらシークエンスを進める。
「続いてインパルス、どうぞ」
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
ザクはガナー、インパルスはブラストを選択し、火力重視の装備だ。
やがて再びコアスプレンダーが素晴らしい加速で宇宙へと飛び出した。
(アスハ…おまえたちが何をしたか、俺は絶対に忘れない)
シンは眼を閉じて、思ったよりずっと若かった代表の姿を思い浮かべた。
「俺は…絶対におまえたちを許さない!」
怒りを滲ませた赤い瞳を開くと、シンは自分が立つべき戦場を目指した。
「ボギーワンか…本当の名前は何というのだろうね?あの艦の」
ブリッジに座ってモニターを眺めていた議長がポツリと呟いた。
「名はその存在を示すものだ。ならばもし、それが偽りだったとしたら…」
それはカガリではなく、アスランに向けられた質問だった。
「それは、その存在そのものも偽り…と、いうことになるのかな?」
議長は今度は完全にアスランの方を向き直った。
「アレックス…いや、アスラン・ザラくん」
名を呼ばれたアスランは思わず息を呑み、議長を見た。
議長は柔和な笑みを浮かべていたが、その深い闇色の瞳は、まるで全てを見透かすような鋭さでアスランを射抜いていた。
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制作裏話-PHASE3-
PHASE3の山場はシンVSカガリの第一ラウンドです。
シンの名台詞、「綺麗事はアスハのお家芸だな」は続編に期待していた視聴者に驚きや怒り、感嘆や賞賛など、とにかく様々な波紋を投げかけました。
私もこれを維持できればさぞや面白いだろうが、と思いましたが、まぁ結果は案の定でした。
中越地震で放映が中断され、翌週再放映されたという今後の行く末が不安になるような回でもありましたが、残念ながらその通りになりました。
SEEDではしてやったりのザフトでしたが、DESTINYでは驚くほどいいとこナシです。ミネルバも推進剤入りのタンクを鼻先で爆発させられ、しかもこの後、罠まで張られてしまいます。
シンも時代遅れのモビルアーマー・エグザスにやられっ放し。ネオが乗っているからという理由があるものの、どうにも主人公としての活躍とは言い難い。
私はこのへんのザフトの情けなさをアスランの目を通して、「戦争がなかった」善し悪しとして描きました。無論戦争がないに越した事はないのですが、今や武力は平和維持や治安維持、テロに対抗するものとしても存在しているものですから。
PHASE3といえばまだ導入なので、私としてはもっと主人公シンの事を書きたかったのですが、シナリオがそれを許さないんですよ。どちらかといえばやはりアスランにばかり力が入っていて、シンはいまひとつ物語の中心から弾かれている感じです。
本放映当時はそれでもいいと思ったのですけど、今は「ちゃんとシンを書け、シンを!」と苛立ちますね。
なおシンについては、倒れこんできたヴィーノをさりげなくかわし、親近感を持って近づいてきたルナマリアに露骨にいやな顔を見せるなど、必死に隠しているPTSDの陰をちらつかせています。
とはいえまだこの頃は、「シンは頭がよく、冷静で、強い意志を持っている格好いい主人公」と基本は決まっていても、まだまだは手探りで書いていました。
逆デスも物語の基本的な流れは変えていないのですが、逆種に比べるとかなり雰囲気を変えているなぁと感じます。「立ち席にもシートベルトを…」とは、余裕のない本編の女カガリには言えないと思うのですが、男カガリなら言うんじゃないかとか、レイに胸倉をつかまれたシンが「…出撃だ」と冷静に返すなど、本編にはない味付けもかなり加えてあります。また、カガリがシンの罵声を聞いて怒るどころか、一瞬逆種の頃のような屈託のない少年の顔に戻ったとしたのも、その状況を面白がる余裕があるという事で、カガリの方が年齢的にも精神的にもシンよりは大人だから、という表現です。
逆デスのデュランダルは「強奪事件の現場にオーブ代表を同席させる」事を後々の保険としていましたが、彼にとってやや誤算だったのは、アスランがいた事と、彼らがミネルバに乗ってきた事です。
議長はアスランが今の自分の立場に満足していない事を見抜き、徐々に囲い込んでいきます。後に彼女が思った以上に簡単に手に入ったので御しやすいと思うわけですが、それがうまくいかないのが、これまたアスランの難しいところ。なので逆種のシーゲルからして、既に彼女は「父親譲りの融通の利かない頑固者」と評させてきています。これが最終回で生きるのはご存知の通りです。
大きな改変はやっぱり男女逆転キャラから。
アスランを見たメイリンは完璧な一目惚れをしてしまい、アドレナリンが出まくりです。本編ではもちろん全くなかった描写ですが、女難などよりこうしたキャラの肉付けの方が面白かったと思うのです。
当初、メイリンは私にとっては特になんの思いいれもないキャラでしたが、こうして早くからスポットを当てたせいでパーソナリティーが固まり、最後には見事に成長を遂げた大切なキャラクターになりました。
まだまだ序章ではありますが、書き上げるのには大変なエネルギーが必要な事は変わらず、これからシンVSカガリの第2ラウンド、ブレイク・ザ・ワールド、イザークとディアッカ、アスランのザフト復帰、オーブの条約締結、シンの一騎当千…と先を思うと本当に絶望的になるばかりでした。
そしてなんと情けない事に、「フリーダム無双まで頑張ろう」と自分を励ます体たらく。私までキラに頼ってどうする!と叱咤しつつ、先の見えない逆デスワールドの暗中模索はまだまだ続きます。
なお、シナリオを読み返してもカガリとアスランがシンの名前を知る機会が見つからなかったので、議長に告げてもらいました。こんなところから既に主人公の扱いがひどいなんて…(泣)
シンの名台詞、「綺麗事はアスハのお家芸だな」は続編に期待していた視聴者に驚きや怒り、感嘆や賞賛など、とにかく様々な波紋を投げかけました。
私もこれを維持できればさぞや面白いだろうが、と思いましたが、まぁ結果は案の定でした。
中越地震で放映が中断され、翌週再放映されたという今後の行く末が不安になるような回でもありましたが、残念ながらその通りになりました。
SEEDではしてやったりのザフトでしたが、DESTINYでは驚くほどいいとこナシです。ミネルバも推進剤入りのタンクを鼻先で爆発させられ、しかもこの後、罠まで張られてしまいます。
シンも時代遅れのモビルアーマー・エグザスにやられっ放し。ネオが乗っているからという理由があるものの、どうにも主人公としての活躍とは言い難い。
私はこのへんのザフトの情けなさをアスランの目を通して、「戦争がなかった」善し悪しとして描きました。無論戦争がないに越した事はないのですが、今や武力は平和維持や治安維持、テロに対抗するものとしても存在しているものですから。
PHASE3といえばまだ導入なので、私としてはもっと主人公シンの事を書きたかったのですが、シナリオがそれを許さないんですよ。どちらかといえばやはりアスランにばかり力が入っていて、シンはいまひとつ物語の中心から弾かれている感じです。
本放映当時はそれでもいいと思ったのですけど、今は「ちゃんとシンを書け、シンを!」と苛立ちますね。
なおシンについては、倒れこんできたヴィーノをさりげなくかわし、親近感を持って近づいてきたルナマリアに露骨にいやな顔を見せるなど、必死に隠しているPTSDの陰をちらつかせています。
とはいえまだこの頃は、「シンは頭がよく、冷静で、強い意志を持っている格好いい主人公」と基本は決まっていても、まだまだは手探りで書いていました。
逆デスも物語の基本的な流れは変えていないのですが、逆種に比べるとかなり雰囲気を変えているなぁと感じます。「立ち席にもシートベルトを…」とは、余裕のない本編の女カガリには言えないと思うのですが、男カガリなら言うんじゃないかとか、レイに胸倉をつかまれたシンが「…出撃だ」と冷静に返すなど、本編にはない味付けもかなり加えてあります。また、カガリがシンの罵声を聞いて怒るどころか、一瞬逆種の頃のような屈託のない少年の顔に戻ったとしたのも、その状況を面白がる余裕があるという事で、カガリの方が年齢的にも精神的にもシンよりは大人だから、という表現です。
逆デスのデュランダルは「強奪事件の現場にオーブ代表を同席させる」事を後々の保険としていましたが、彼にとってやや誤算だったのは、アスランがいた事と、彼らがミネルバに乗ってきた事です。
議長はアスランが今の自分の立場に満足していない事を見抜き、徐々に囲い込んでいきます。後に彼女が思った以上に簡単に手に入ったので御しやすいと思うわけですが、それがうまくいかないのが、これまたアスランの難しいところ。なので逆種のシーゲルからして、既に彼女は「父親譲りの融通の利かない頑固者」と評させてきています。これが最終回で生きるのはご存知の通りです。
大きな改変はやっぱり男女逆転キャラから。
アスランを見たメイリンは完璧な一目惚れをしてしまい、アドレナリンが出まくりです。本編ではもちろん全くなかった描写ですが、女難などよりこうしたキャラの肉付けの方が面白かったと思うのです。
当初、メイリンは私にとっては特になんの思いいれもないキャラでしたが、こうして早くからスポットを当てたせいでパーソナリティーが固まり、最後には見事に成長を遂げた大切なキャラクターになりました。
まだまだ序章ではありますが、書き上げるのには大変なエネルギーが必要な事は変わらず、これからシンVSカガリの第2ラウンド、ブレイク・ザ・ワールド、イザークとディアッカ、アスランのザフト復帰、オーブの条約締結、シンの一騎当千…と先を思うと本当に絶望的になるばかりでした。
そしてなんと情けない事に、「フリーダム無双まで頑張ろう」と自分を励ます体たらく。私までキラに頼ってどうする!と叱咤しつつ、先の見えない逆デスワールドの暗中模索はまだまだ続きます。
なお、シナリオを読み返してもカガリとアスランがシンの名前を知る機会が見つからなかったので、議長に告げてもらいました。こんなところから既に主人公の扱いがひどいなんて…(泣)
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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