機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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その瞬間、銃声が響いた。
シンは驚いて誰が撃たれたのかと覗き込んだ。
キラ・ヤマトは無事で、驚いた表情のまま固まっている。
アスランも彼女を庇いながら狙撃手を探していた。
シンはこの時、部屋の隅にもう一人いることに気づいた。
(…レイ?)
しかしすぐ近くでドサリという音がしたので、シンは慌ててそちらに眼を向けた。見れば、議長が倒れていた。
「ギルバート!」
最後にやってきたのは、ノーマルスーツを着たタリアだった。
彼女が司令室に辿り着いたその時、銃声が鳴り響いたのだ。
タリアは、部屋の中で銃を構えている者たちにはかまわず、倒れているデュランダルのもとへ真っ直ぐに進んだ。
デュランダルのわき腹から、じわりと血が流れている。彼の唇は蒼白で、痛みがあるのかやや顔を歪めたが、駆けつけた彼女を見ると嬉しそうに笑った。
「…やあ、タリア。撃ったのはきみか?」
「いいえ」
彼の背中を支えたタリアは首を振った。
誰の銃が火を噴いたのか、一番後ろから入って来た彼女だけが見ていた。
「レイよ」
シンは驚いて誰が撃たれたのかと覗き込んだ。
キラ・ヤマトは無事で、驚いた表情のまま固まっている。
アスランも彼女を庇いながら狙撃手を探していた。
シンはこの時、部屋の隅にもう一人いることに気づいた。
(…レイ?)
しかしすぐ近くでドサリという音がしたので、シンは慌ててそちらに眼を向けた。見れば、議長が倒れていた。
「ギルバート!」
最後にやってきたのは、ノーマルスーツを着たタリアだった。
彼女が司令室に辿り着いたその時、銃声が鳴り響いたのだ。
タリアは、部屋の中で銃を構えている者たちにはかまわず、倒れているデュランダルのもとへ真っ直ぐに進んだ。
デュランダルのわき腹から、じわりと血が流れている。彼の唇は蒼白で、痛みがあるのかやや顔を歪めたが、駆けつけた彼女を見ると嬉しそうに笑った。
「…やあ、タリア。撃ったのはきみか?」
「いいえ」
彼の背中を支えたタリアは首を振った。
誰の銃が火を噴いたのか、一番後ろから入って来た彼女だけが見ていた。
「レイよ」
その途端、シンは立ち上がって走り出した。
アスランは物陰から突然飛び出してきた人影に銃を向けたが、それがシンだと知って驚いた。
「シン!?」
「レイッ!!」
シンはアスランに返事することはなく、銃を構えたままガタガタと震えているレイのもとに駆けつけた。
「レイ、大丈夫か?」
レイはシンに気づいているのかいないのか、議長を見つめたまま銃を離さない。
(レイが議長を撃つなんて…)
シンは震える彼のガチガチに固まった手から銃を取りあげると、セーフティーをかけた。
そして呆然としている彼の肩をつかみ、軽く揺さぶった。
「しっかりしろよ!」
「そうか…レイが…」
デュランダルは自分を撃ったのがレイだと聞いて、暗がりにいる彼を見た。
一方、この中で一番状況がわからないのはキラだった。アスラン以外は知らない人ばかりの中で、銃が放たれ、議長が倒れた。
撃ったのは金色の髪をした彼だという。そして彼に駆け寄った人影は…
「キラ」
「…アスラン、議長は…?」
アスランはチラリと議長たちを見て、それからシンとレイを見た。
(俺は許しませんよ!ギルを裏切るなんてこと!)
そう言って、メイリンもろとも自分を殺そうとしたレイが、一体なぜ議長を撃ったのだろう?
レイはシンの呼びかけには答えず、やがて泣きながら崩れ落ちた。
「ギル…ごめんな…さい…ごめん…なさい…でも…明日…力…が」
シンは見たことのないこんなレイの頼りない姿に戸惑うばかりだ。
誰もが、この事態にどうしたらいいのかわからないようだった。
やがてアスランはキラに「ここにいて」と言うと、艦長に背を支えられて座った議長の方に歩き出した。しかし、タリアは近づいてくるアスランに銃を向けた。
「止まりなさい、アスラン。近づかないで」
「…グラディス艦長」
アスランは足を止め、争うつもりがないことを示すために銃をホルスターに収めてみせた。それから青い顔の彼の様子を見た。急所は外れているが、出血量が多いようだ。
「早く、手当てを…」
「いや、いいんだ、アスラン」
答えたのは議長だった。彼はタリアに銃を下ろしてくれと頼んだ。
「議長…」
アスランは膝をついてしゃがむと、彼の顔を覗きこんだ。
「誤算だったよ」
ふーっと議長は息をついた。
「前大戦の末路を知るきみなら、共に新しい世界を目指してくれると思ったのだが…」
議長の言葉を聞いて、キラもシンもアスランを見つめた。
「きみは、私のやり方を認められなかったようだ」
「私は…」
アスランは口ごもり、少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「どうしても…承服できませんでした」
「嘘や偽りは許せないと?それが目的のために必要であっても?」
「…間違った方法で結果を手に入れても、結局はひずみを生むだけです」
「そしてそう判断するや否や、鉄砲玉のように飛び出してしまったわけか」
議長は痛みに少し顔を歪め、それからふふっと笑った。
「全く…きみは真面目で、頑固で、融通が利かないな」
「昔、クライン元議長にも、よくそう言われました」
その言葉を聞いた彼女は、なんとなく嬉しそうだった。
「そういうところは、父にそっくりだと」
彼はやや長い息をつくと、遠い眼をして言った。
「オーブは…きっと、いい国になるだろうね…」
「…はい」
「きみが選んだ彼なら…きっと」
議長は微笑み、アスランもはにかみながら微笑んだ。
それから、議長はタリアに「レイを呼んでくれないか」と言った。
「シン、レイを連れて来て」
シンは子供のように泣きじゃくっているレイを立たせ、その肩を抱いて歩き出した。
キラの横を通り過ぎる時、彼らは一瞬だけ視線をかわした。
煙るような美しい紫の瞳と、強く輝く赤い瞳が交差する。
キラはふと、この赤い瞳に見覚えがある…と思った。
レイは議長に近づくと、シンの手を振り払って走り出した。
「ギル、ギル…ごめんなさい…ごめんな…さい…」
シンは痛々しいその姿を見つめていた。自分が知るレイは常に冷静沈着で落ち着き、全てにおいてそつがなかった。口数は少ないが彼の意見は耳を傾ける価値があり、シンにとっては望むべくもない大人っぽさを醸し出していた。
だが今、眼の前にいる幼子のような彼にはそんな欠片すらも見えなかった。
「いいんだよ、レイ…」
デュランダルは取りすがるレイの頭を撫でた。
「だが、どうした?何か、思うところがあったのか?」
議長が優しく尋ねると、レイは顔をあげた。
「ギル…は…僕が……ラウだって…」
レイはまるで子供のような口調で、しゃくりあげながら言った
「…い、いやだったんだ、本当は!…だって…だって、僕はレイなのに…!」
「レイ…ぅ…」
デュランダルは軽く身を起こして遮ろうとしたが、痛みが走ったのが小さく呻いた。
「でも、ギルが言うなら…僕は…役割を果たさなきゃいけない」
シンがその言葉にきゅっと唇を噛む。
「…だって、僕は……ラウなんだから!」
キラにとっては今、眼の前で交わされている会話は全く意味がわからないものだったが、議長の傍らで泣きじゃくる彼の姿は、もはや遠くなったキラの記憶を呼び覚ました。
(あの人よりはずっと若いけど、あの仮面の下の顔に、確かに似ている)
あの時、メンデルで一度だけ垣間見えたラウ・ル・クルーゼの素顔…どこかムウの面影を残すような金髪の青年の顔が、突然鮮明に蘇ってキラを驚かせた。
「でもシンは……おまえは…僕は、ラウとは違うって…それに、あの人も…」
やがてレイは涙に濡れる瞳でシンを見上げ、続いてキラを見つめた。
キラは一瞬戸惑ったが、なんとなく彼を励ますような気持ちで軽く頷いた。
「世界は変わっていけるって…なら、僕も…シンの…明日…は…」
議長はレイの言葉を聞いてシンを見上げた。
「…レイは、クローンの『もう1人』なんかじゃない」
シンが口を開いた。
「それに、役割なんかじゃない。俺たちが…」
アスランは静かだが、強い口調のシンを見上げた。
「俺たちが戦ったのは、俺たち自身の意思でだ」
議長はそれを聞いてしばらく黙っていたが、「そうか」と呟いた。
「能力に適したことを、適した者がやって効果をあげる…私は、それこそが人の幸せだと思っていたんだが…」
「ミーア・キャンベルも…」
アスランは静かに口を開いた。
「あなたが作り出した偽りのラクス・クラインも、自分の役割を果たそうと一生懸命でした。でも、彼は最期に自分の意思でラクスを庇って…死にました」
シンはそれを聞いて思わずアスランを見た。
(…あいつ、死んだのか)
そして暗闇の中で寂しげに佇んでいた彼の姿を思い出す。
(ミーア・キャンベル。それが、聞いてやれなかったあいつの名前…)
「何もかも…思い通りにはならないものだ…」
議長はふふっと笑った。
「私自身が、自分の『役割』をよくわかっていなかったのだから」
準備に準備を重ね、壮大な舞台を監督しているつもりだったが、道化だと笑っていたジブリールと同じ、ただの狂言回しだったか…デュランダルは自嘲気味に振り返った。
寒気が襲ってきてぶるっと震えると、それに気づいたタリアがしっかりと抱いてくれた。
「きみのこともそうだ、レイ」
それから彼はもう一度レイの頭を撫でた。
「私が言いたかったのは、そうじゃないんだ」
レイは涙に濡れた瞳で彼を見つめた。
「きみは確かに遺伝子的にはラウと全く同じ人間だが…私は、レイはラウの『もう一つの可能性』だと思っていた」
誤解させてしまったね、と議長が優しく言った。
「きみがシンという友達を作り、仲間に囲まれて明るい笑顔を見せることが何より嬉しかったよ。この子は、ラウとは違うのだと思えてね。彼が手にできなかった幸せを、きみが一つでも多く掴めるのならと…」
「ぼ…僕…」
レイは驚いてデュランダルを見つめ、それからシンを見た。
「…シン!」
「やっぱり、おまえはおまえだったろ?」
シンが笑うと、レイは再び泣き出した。「ごめんなさい、ごめんなさい」と呟きながら。
タリアは振動や爆発音の続く周囲を見回し、再び銃を取った。
撃つつもりはなかった。ただ、彼らの次の行動を促すつもりだった。
彼女は銃口で出口を示しながら、しゃがんでいるアスランに優しく言った。
「さぁ、あなたはもう行きなさい。彼女を連れて」
「艦長…」
「ラミアス艦長に、伝えて」
タリアは少し苦しそうに笑った。
(本当に、ひどい母親ね…私は…)
残してきた我が子の、今の身長も体重もわからない。彼が今何を想い、何に悩んでいるかも知らない。そんな彼を、このまま永遠に置き去りにしようとしているのだから。
「子供がいるの。男の子よ。いつか会ってやってねって」
アスランは思わず息を呑んだ。彼女がここに残るつもりだと悟ったのだ。
「ですが、艦…」
「それと、アスラン」
タリアは突然、厳しい表情で銃を向けた。
「さっきはよくも、ミネルバをやってくれたわね!」
アスランは思いもかけない攻撃に一瞬言葉を失う。
しかしタリアはすぐに明るい笑顔になった。
「…大丈夫よ。皆わかってるわ。あそこであなたが墜としてくれなければ、あのままムラサメに撃破されて、私たちは半分も無事でいられなかったでしょう」
そう言うと、「さ、もう行きなさい」と再び銃で促され、アスランは立ち上がった。
キラと視線を交わすと、アスランはもう一度議長に向き直った。チラリとシンを見ながら。
「議長」
「うん…?」
こうしている間にも血を失い、議長の容態は徐々に悪くなっている。
「私はずっと、何とどう戦うべきか、見つけようとしてきました」
「何と…どう戦うべきか…?」
議長がその言葉を繰り返した。
「議長も言われたように、自分とは異なるもの、知らないものへの恐怖や嫌悪、憎しみや怒りが、争いを引き起こすことがあります」
「ああ」
「でも…全て排除することはできません。そんな醜いものも、認めたくないものも、自分を形作るものだからです…」
そこまで言って、アスランはシンを見つめた。
「二度と振り返りたくない過去も、そうです…」
シンはアスランの視線を受け止めた。以前なら逸らしていたかもしれないが、今はもうその必要はない。
「すべては自分のうちにあります。それと向き合って闘うべきだとわかったんです」
ささいなことでも、人はすぐにそれに支配されてしまう。
(怒りに支配されて戦った自分も、キラも、シンも…皆…)
しかし逆にそれがあるからこそ、誰かを強く想ったり、もう一度頑張ろうと立ち上がる事もできるのだ。
相容れない矛盾でありながら、それもまた真実なのだと思う。
「気づかせてくれたのは、あなたでした」
アスランは笑ったが、それは見る者をはっとさせる美しい笑顔だった。
続けて彼女は議長に敬礼した。
「ありがとうございました、議長。失礼します」
そしてシンに声をかけた。
「シン、レイ。一緒に脱出を…」
しかしシンは彼女を睨みつけて言った。
「…勝手に行けばいいだろ」
「ここは危険よ。早く…」
「うるさいっ!!」
シンの怒鳴り声を聞いたキラは思わず体を硬くした。
「行けよ!俺たちにかまうな!」
そしてシンは顔をそむけ、絞り出すように言った。
「…行ってくれよ、もう………頼むから…」
シンの激しい拒絶にそれ以上何も言えず、アスランは仕方なく心配そうな顔のキラと共に司令室を後にした。
(シン…)
けれど最後にもう一度だけ、彼女はシンを振り返った。
「シン」
2人の姿が見えなくなると、議長はシンに話しかけた。
「それで、きみは…私を討ちに来たのかな…?」
シンもまた、議長の傍に膝を突いて座った。
顔色は青いものの、表情はまだしっかりしている。
けれど彼の白い議長服は、もう随分血で赤く染まっていた。
「議長が…本当に欲しかったものは、何ですか?」
シンはアスランが自分に聞いたことと同じことを彼に尋ねた。
議長は考え込むように、少し時間を置いてから言った。
「きみには、見せてやりたかった…本当に」
彼は眉をひそめると眼を閉じた。
「戦争のない、平和な世界を…大切な人たちを、突然、理不尽な力で奪われることのない世界を…」
そして議長は、うなだれてまだしゃくりあげているレイを見た。
「それに、この子が希望を持てるような世界を」
「議長…」
シンは議長を、そしてレイを見ると言った。
「俺、知ってたんです…それを」
議長が再び彼を見つめた。
「平和で、戦争がなくて…自由で、なんでもできる世界…」
シンは笑った。明るく、屈託のない笑顔だった。
「初めから知ってたんです。だって俺は、そこで育ったんだから」
「オーブか…」
それを聞いて議長も笑った。
「結局、すべてはあの国だったというわけだ」
「だから…討たなくてよかったです、あの国を」
シンは続けた。
「あなたが見せてくれるはずだった世界も見てみたかったけど…でも、あの人の言う『変わろうとする力』があれば、これからは地球もプラントも、変われるかもしれない」
それからレイの肩を軽く叩いた。
「そうなればレイも、希望を持って生きていけます…きっと」
それからシンは表情を曇らせ、少し声のトーンを落とした。
「あなたが間違っていたら、俺はあなたを討とうと決めていた」
「シン…」
「でも…」
シンはふっと息をついた。
「議長にも正しいところはある。だからアスランも礼を言ったんだ」
議長もタリアも、シンの言葉を黙って聞いていた。
「きっと、完全に正しい事なんてない。皆正しくて、皆間違ってる」
「…そうかもしれないな」
「だから俺は、これからも何が正しくて、何が間違ってるかをよく考えます。考えて、答えを選び取る。自分の意思で、責任を持って…」
シンはきっぱりと言った。
「そしてもし間違ってるとわかったら、容赦なく討ちます」
それを聞いて、議長は楽しそうに笑った。
「そうだな…きみならできるだろう、きっと…いや、必ず」
「そろそろ行った方がいいわ」
ここは危ないから、とタリアが言った。
「この人の魂は、私が連れて行く」
「艦長…」
「ルナマリアによろしくね」
シンはただ頷くと、レイに声をかけた。
「さぁ、レイ。行こう」
しかしレイは泣くばかりで首を振る。シンは困ったようにレイを促すが、レイは頑として動こうとしない。まるで駄々っ子のようなレイに、シンも困り果ててしまった。
「レイ、立て!」
「いやだ…僕は…行きたくない…もう…やだ…」
「ダメだ!おまえを置いていけない!」
それを聞いた議長が、ゆっくりと手を上げた。
「レイ…行きなさい…」
「いやです…絶対…僕は…」
「レイ!いい加減に…」
やがてタリアが言った。
「もういいわ、シン。レイ、あなたもいらっしゃい」
「けど…!」
シンが抗議したが、レイはそう言われた途端に身を起こし、そのままタリアにしがみついた。まるで脅えきった幼児のようだ。タリアはレイを抱き締めながら、シンに頷いてみせた。それはシンが見た事もない、優しい笑顔だった。
「シン、きみはもっと素直になりなさい」
顔色の悪い議長もまた優しく言った。
「私からの最後の忠告だ。きみを大事に想ってくれる人を、ないがしろにしてはいけないよ」
その途端、ドンと大きな音がしてかなりの大きさの天井が崩れた。
しかしその瓦礫がシンが入って来た入り口を潰してしまったので、シンが出て行けるのは、キラとアスランが出て行ったもう一つの入り口しかない。
シンは、決意したようにくるりと背を向けた。
天井や壁の崩落が加速度的に早まってきている。脱出を急がなければならなかった。
しかし反面、彼の足取りは重かった。後ろ髪を引かれながらも、振り返れなかった。
(レイを置いていくなんて…)
(なんで無理やり連れていかない?)
(俺は…友達じゃないか、あいつの…)
シンはぎゅっと拳を握り締めた。レイを連れて行けない、連れて行こうとしない自分がふがいなくて悔しい。
(なんで、なんで…俺は…)
「シン!」
その時、後ろからレイがシンを呼び止めた。
シンは思わず振り返ったが、ガラガラと崩れ始めた壁や天井の音にまぎれてしまって、レイが何を言っているのかわからない。
すると、レイが手をあげた。彼の指が、シンたち3人だけのサインの形に動く。
ア・リ・ガ・ト・ウ
「…レ…ッ!」
そう読み取った途端、2人の間に壁の天井が落ちてきて、シンはもう二度とレイの姿を見ることができなくなった。
通路は完全に塞がれ、小さな空間に3人だけが取り残された。
出血の続く議長の命の火も遠からず消えようとしている。
けれど彼にとっては今この時が、この上ない幸せだった。
自分より自分の夢を…子供を産む事をとった彼女が、最後に自分と一緒にいる事を選んでくれたのだ。
心から愛した女性と添い遂げられなかった孤独が運命のリセットを思いつかせたのに、皮肉なことに、彼の最期は身勝手な幸福で満たされる事になったのだ。
「すまないね、タリア。でも…嬉しいよ」
「しょうのない人ね。でもほんと、仕方がないわ」
タリアはレイの背を撫で、愛する男を膝に抱いて笑った。
「結局、これが運命だったということじゃないの?あなたと私の」
「やめてくれ…」
議長はそれを聞いて苦笑した。
「私は…父親になれなかったからきみに見限られたのに」
タリアは首を振った。
「私も、自分からそう望んだのに、最後に母親を放棄したわ」
最初からこうすればよかったわね…タリアは彼の頬を撫でた。
「それにあなた、立派に父親だったわ…」
議長はそう言われて、涙を浮かべるレイの肩を軽く叩いた。
「もう泣かなくていい、レイ」
「本当に、よく頑張ったわ。だからもういい、もういいのよ」
2人は、レイを真ん中に挟んで抱き合った。
「お…かあ…さん…おとう…さ…」
父も母もないと言った彼に、今ようやく、ささやかな幸せが訪れた。
やがて、大きな爆発が起きて司令室は炎に包まれた。
天井も壁も、全てが崩れて激しい爆発が繰り返された。
かつてオーブで、たった1人の少年を残して家族が吹き飛ばされたように、ここにいた家族もまた、大きな爆発と共に激しい炎の中に消えていった。
けれど彼らは最後の瞬間まで、いかにも幸福そうに微笑み、抱き合っていた。
アスランは物陰から突然飛び出してきた人影に銃を向けたが、それがシンだと知って驚いた。
「シン!?」
「レイッ!!」
シンはアスランに返事することはなく、銃を構えたままガタガタと震えているレイのもとに駆けつけた。
「レイ、大丈夫か?」
レイはシンに気づいているのかいないのか、議長を見つめたまま銃を離さない。
(レイが議長を撃つなんて…)
シンは震える彼のガチガチに固まった手から銃を取りあげると、セーフティーをかけた。
そして呆然としている彼の肩をつかみ、軽く揺さぶった。
「しっかりしろよ!」
「そうか…レイが…」
デュランダルは自分を撃ったのがレイだと聞いて、暗がりにいる彼を見た。
一方、この中で一番状況がわからないのはキラだった。アスラン以外は知らない人ばかりの中で、銃が放たれ、議長が倒れた。
撃ったのは金色の髪をした彼だという。そして彼に駆け寄った人影は…
「キラ」
「…アスラン、議長は…?」
アスランはチラリと議長たちを見て、それからシンとレイを見た。
(俺は許しませんよ!ギルを裏切るなんてこと!)
そう言って、メイリンもろとも自分を殺そうとしたレイが、一体なぜ議長を撃ったのだろう?
レイはシンの呼びかけには答えず、やがて泣きながら崩れ落ちた。
「ギル…ごめんな…さい…ごめん…なさい…でも…明日…力…が」
シンは見たことのないこんなレイの頼りない姿に戸惑うばかりだ。
誰もが、この事態にどうしたらいいのかわからないようだった。
やがてアスランはキラに「ここにいて」と言うと、艦長に背を支えられて座った議長の方に歩き出した。しかし、タリアは近づいてくるアスランに銃を向けた。
「止まりなさい、アスラン。近づかないで」
「…グラディス艦長」
アスランは足を止め、争うつもりがないことを示すために銃をホルスターに収めてみせた。それから青い顔の彼の様子を見た。急所は外れているが、出血量が多いようだ。
「早く、手当てを…」
「いや、いいんだ、アスラン」
答えたのは議長だった。彼はタリアに銃を下ろしてくれと頼んだ。
「議長…」
アスランは膝をついてしゃがむと、彼の顔を覗きこんだ。
「誤算だったよ」
ふーっと議長は息をついた。
「前大戦の末路を知るきみなら、共に新しい世界を目指してくれると思ったのだが…」
議長の言葉を聞いて、キラもシンもアスランを見つめた。
「きみは、私のやり方を認められなかったようだ」
「私は…」
アスランは口ごもり、少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「どうしても…承服できませんでした」
「嘘や偽りは許せないと?それが目的のために必要であっても?」
「…間違った方法で結果を手に入れても、結局はひずみを生むだけです」
「そしてそう判断するや否や、鉄砲玉のように飛び出してしまったわけか」
議長は痛みに少し顔を歪め、それからふふっと笑った。
「全く…きみは真面目で、頑固で、融通が利かないな」
「昔、クライン元議長にも、よくそう言われました」
その言葉を聞いた彼女は、なんとなく嬉しそうだった。
「そういうところは、父にそっくりだと」
彼はやや長い息をつくと、遠い眼をして言った。
「オーブは…きっと、いい国になるだろうね…」
「…はい」
「きみが選んだ彼なら…きっと」
議長は微笑み、アスランもはにかみながら微笑んだ。
それから、議長はタリアに「レイを呼んでくれないか」と言った。
「シン、レイを連れて来て」
シンは子供のように泣きじゃくっているレイを立たせ、その肩を抱いて歩き出した。
キラの横を通り過ぎる時、彼らは一瞬だけ視線をかわした。
煙るような美しい紫の瞳と、強く輝く赤い瞳が交差する。
キラはふと、この赤い瞳に見覚えがある…と思った。
レイは議長に近づくと、シンの手を振り払って走り出した。
「ギル、ギル…ごめんなさい…ごめんな…さい…」
シンは痛々しいその姿を見つめていた。自分が知るレイは常に冷静沈着で落ち着き、全てにおいてそつがなかった。口数は少ないが彼の意見は耳を傾ける価値があり、シンにとっては望むべくもない大人っぽさを醸し出していた。
だが今、眼の前にいる幼子のような彼にはそんな欠片すらも見えなかった。
「いいんだよ、レイ…」
デュランダルは取りすがるレイの頭を撫でた。
「だが、どうした?何か、思うところがあったのか?」
議長が優しく尋ねると、レイは顔をあげた。
「ギル…は…僕が……ラウだって…」
レイはまるで子供のような口調で、しゃくりあげながら言った
「…い、いやだったんだ、本当は!…だって…だって、僕はレイなのに…!」
「レイ…ぅ…」
デュランダルは軽く身を起こして遮ろうとしたが、痛みが走ったのが小さく呻いた。
「でも、ギルが言うなら…僕は…役割を果たさなきゃいけない」
シンがその言葉にきゅっと唇を噛む。
「…だって、僕は……ラウなんだから!」
キラにとっては今、眼の前で交わされている会話は全く意味がわからないものだったが、議長の傍らで泣きじゃくる彼の姿は、もはや遠くなったキラの記憶を呼び覚ました。
(あの人よりはずっと若いけど、あの仮面の下の顔に、確かに似ている)
あの時、メンデルで一度だけ垣間見えたラウ・ル・クルーゼの素顔…どこかムウの面影を残すような金髪の青年の顔が、突然鮮明に蘇ってキラを驚かせた。
「でもシンは……おまえは…僕は、ラウとは違うって…それに、あの人も…」
やがてレイは涙に濡れる瞳でシンを見上げ、続いてキラを見つめた。
キラは一瞬戸惑ったが、なんとなく彼を励ますような気持ちで軽く頷いた。
「世界は変わっていけるって…なら、僕も…シンの…明日…は…」
議長はレイの言葉を聞いてシンを見上げた。
「…レイは、クローンの『もう1人』なんかじゃない」
シンが口を開いた。
「それに、役割なんかじゃない。俺たちが…」
アスランは静かだが、強い口調のシンを見上げた。
「俺たちが戦ったのは、俺たち自身の意思でだ」
議長はそれを聞いてしばらく黙っていたが、「そうか」と呟いた。
「能力に適したことを、適した者がやって効果をあげる…私は、それこそが人の幸せだと思っていたんだが…」
「ミーア・キャンベルも…」
アスランは静かに口を開いた。
「あなたが作り出した偽りのラクス・クラインも、自分の役割を果たそうと一生懸命でした。でも、彼は最期に自分の意思でラクスを庇って…死にました」
シンはそれを聞いて思わずアスランを見た。
(…あいつ、死んだのか)
そして暗闇の中で寂しげに佇んでいた彼の姿を思い出す。
(ミーア・キャンベル。それが、聞いてやれなかったあいつの名前…)
「何もかも…思い通りにはならないものだ…」
議長はふふっと笑った。
「私自身が、自分の『役割』をよくわかっていなかったのだから」
準備に準備を重ね、壮大な舞台を監督しているつもりだったが、道化だと笑っていたジブリールと同じ、ただの狂言回しだったか…デュランダルは自嘲気味に振り返った。
寒気が襲ってきてぶるっと震えると、それに気づいたタリアがしっかりと抱いてくれた。
「きみのこともそうだ、レイ」
それから彼はもう一度レイの頭を撫でた。
「私が言いたかったのは、そうじゃないんだ」
レイは涙に濡れた瞳で彼を見つめた。
「きみは確かに遺伝子的にはラウと全く同じ人間だが…私は、レイはラウの『もう一つの可能性』だと思っていた」
誤解させてしまったね、と議長が優しく言った。
「きみがシンという友達を作り、仲間に囲まれて明るい笑顔を見せることが何より嬉しかったよ。この子は、ラウとは違うのだと思えてね。彼が手にできなかった幸せを、きみが一つでも多く掴めるのならと…」
「ぼ…僕…」
レイは驚いてデュランダルを見つめ、それからシンを見た。
「…シン!」
「やっぱり、おまえはおまえだったろ?」
シンが笑うと、レイは再び泣き出した。「ごめんなさい、ごめんなさい」と呟きながら。
タリアは振動や爆発音の続く周囲を見回し、再び銃を取った。
撃つつもりはなかった。ただ、彼らの次の行動を促すつもりだった。
彼女は銃口で出口を示しながら、しゃがんでいるアスランに優しく言った。
「さぁ、あなたはもう行きなさい。彼女を連れて」
「艦長…」
「ラミアス艦長に、伝えて」
タリアは少し苦しそうに笑った。
(本当に、ひどい母親ね…私は…)
残してきた我が子の、今の身長も体重もわからない。彼が今何を想い、何に悩んでいるかも知らない。そんな彼を、このまま永遠に置き去りにしようとしているのだから。
「子供がいるの。男の子よ。いつか会ってやってねって」
アスランは思わず息を呑んだ。彼女がここに残るつもりだと悟ったのだ。
「ですが、艦…」
「それと、アスラン」
タリアは突然、厳しい表情で銃を向けた。
「さっきはよくも、ミネルバをやってくれたわね!」
アスランは思いもかけない攻撃に一瞬言葉を失う。
しかしタリアはすぐに明るい笑顔になった。
「…大丈夫よ。皆わかってるわ。あそこであなたが墜としてくれなければ、あのままムラサメに撃破されて、私たちは半分も無事でいられなかったでしょう」
そう言うと、「さ、もう行きなさい」と再び銃で促され、アスランは立ち上がった。
キラと視線を交わすと、アスランはもう一度議長に向き直った。チラリとシンを見ながら。
「議長」
「うん…?」
こうしている間にも血を失い、議長の容態は徐々に悪くなっている。
「私はずっと、何とどう戦うべきか、見つけようとしてきました」
「何と…どう戦うべきか…?」
議長がその言葉を繰り返した。
「議長も言われたように、自分とは異なるもの、知らないものへの恐怖や嫌悪、憎しみや怒りが、争いを引き起こすことがあります」
「ああ」
「でも…全て排除することはできません。そんな醜いものも、認めたくないものも、自分を形作るものだからです…」
そこまで言って、アスランはシンを見つめた。
「二度と振り返りたくない過去も、そうです…」
シンはアスランの視線を受け止めた。以前なら逸らしていたかもしれないが、今はもうその必要はない。
「すべては自分のうちにあります。それと向き合って闘うべきだとわかったんです」
ささいなことでも、人はすぐにそれに支配されてしまう。
(怒りに支配されて戦った自分も、キラも、シンも…皆…)
しかし逆にそれがあるからこそ、誰かを強く想ったり、もう一度頑張ろうと立ち上がる事もできるのだ。
相容れない矛盾でありながら、それもまた真実なのだと思う。
「気づかせてくれたのは、あなたでした」
アスランは笑ったが、それは見る者をはっとさせる美しい笑顔だった。
続けて彼女は議長に敬礼した。
「ありがとうございました、議長。失礼します」
そしてシンに声をかけた。
「シン、レイ。一緒に脱出を…」
しかしシンは彼女を睨みつけて言った。
「…勝手に行けばいいだろ」
「ここは危険よ。早く…」
「うるさいっ!!」
シンの怒鳴り声を聞いたキラは思わず体を硬くした。
「行けよ!俺たちにかまうな!」
そしてシンは顔をそむけ、絞り出すように言った。
「…行ってくれよ、もう………頼むから…」
シンの激しい拒絶にそれ以上何も言えず、アスランは仕方なく心配そうな顔のキラと共に司令室を後にした。
(シン…)
けれど最後にもう一度だけ、彼女はシンを振り返った。
「シン」
2人の姿が見えなくなると、議長はシンに話しかけた。
「それで、きみは…私を討ちに来たのかな…?」
シンもまた、議長の傍に膝を突いて座った。
顔色は青いものの、表情はまだしっかりしている。
けれど彼の白い議長服は、もう随分血で赤く染まっていた。
「議長が…本当に欲しかったものは、何ですか?」
シンはアスランが自分に聞いたことと同じことを彼に尋ねた。
議長は考え込むように、少し時間を置いてから言った。
「きみには、見せてやりたかった…本当に」
彼は眉をひそめると眼を閉じた。
「戦争のない、平和な世界を…大切な人たちを、突然、理不尽な力で奪われることのない世界を…」
そして議長は、うなだれてまだしゃくりあげているレイを見た。
「それに、この子が希望を持てるような世界を」
「議長…」
シンは議長を、そしてレイを見ると言った。
「俺、知ってたんです…それを」
議長が再び彼を見つめた。
「平和で、戦争がなくて…自由で、なんでもできる世界…」
シンは笑った。明るく、屈託のない笑顔だった。
「初めから知ってたんです。だって俺は、そこで育ったんだから」
「オーブか…」
それを聞いて議長も笑った。
「結局、すべてはあの国だったというわけだ」
「だから…討たなくてよかったです、あの国を」
シンは続けた。
「あなたが見せてくれるはずだった世界も見てみたかったけど…でも、あの人の言う『変わろうとする力』があれば、これからは地球もプラントも、変われるかもしれない」
それからレイの肩を軽く叩いた。
「そうなればレイも、希望を持って生きていけます…きっと」
それからシンは表情を曇らせ、少し声のトーンを落とした。
「あなたが間違っていたら、俺はあなたを討とうと決めていた」
「シン…」
「でも…」
シンはふっと息をついた。
「議長にも正しいところはある。だからアスランも礼を言ったんだ」
議長もタリアも、シンの言葉を黙って聞いていた。
「きっと、完全に正しい事なんてない。皆正しくて、皆間違ってる」
「…そうかもしれないな」
「だから俺は、これからも何が正しくて、何が間違ってるかをよく考えます。考えて、答えを選び取る。自分の意思で、責任を持って…」
シンはきっぱりと言った。
「そしてもし間違ってるとわかったら、容赦なく討ちます」
それを聞いて、議長は楽しそうに笑った。
「そうだな…きみならできるだろう、きっと…いや、必ず」
「そろそろ行った方がいいわ」
ここは危ないから、とタリアが言った。
「この人の魂は、私が連れて行く」
「艦長…」
「ルナマリアによろしくね」
シンはただ頷くと、レイに声をかけた。
「さぁ、レイ。行こう」
しかしレイは泣くばかりで首を振る。シンは困ったようにレイを促すが、レイは頑として動こうとしない。まるで駄々っ子のようなレイに、シンも困り果ててしまった。
「レイ、立て!」
「いやだ…僕は…行きたくない…もう…やだ…」
「ダメだ!おまえを置いていけない!」
それを聞いた議長が、ゆっくりと手を上げた。
「レイ…行きなさい…」
「いやです…絶対…僕は…」
「レイ!いい加減に…」
やがてタリアが言った。
「もういいわ、シン。レイ、あなたもいらっしゃい」
「けど…!」
シンが抗議したが、レイはそう言われた途端に身を起こし、そのままタリアにしがみついた。まるで脅えきった幼児のようだ。タリアはレイを抱き締めながら、シンに頷いてみせた。それはシンが見た事もない、優しい笑顔だった。
「シン、きみはもっと素直になりなさい」
顔色の悪い議長もまた優しく言った。
「私からの最後の忠告だ。きみを大事に想ってくれる人を、ないがしろにしてはいけないよ」
その途端、ドンと大きな音がしてかなりの大きさの天井が崩れた。
しかしその瓦礫がシンが入って来た入り口を潰してしまったので、シンが出て行けるのは、キラとアスランが出て行ったもう一つの入り口しかない。
シンは、決意したようにくるりと背を向けた。
天井や壁の崩落が加速度的に早まってきている。脱出を急がなければならなかった。
しかし反面、彼の足取りは重かった。後ろ髪を引かれながらも、振り返れなかった。
(レイを置いていくなんて…)
(なんで無理やり連れていかない?)
(俺は…友達じゃないか、あいつの…)
シンはぎゅっと拳を握り締めた。レイを連れて行けない、連れて行こうとしない自分がふがいなくて悔しい。
(なんで、なんで…俺は…)
「シン!」
その時、後ろからレイがシンを呼び止めた。
シンは思わず振り返ったが、ガラガラと崩れ始めた壁や天井の音にまぎれてしまって、レイが何を言っているのかわからない。
すると、レイが手をあげた。彼の指が、シンたち3人だけのサインの形に動く。
ア・リ・ガ・ト・ウ
「…レ…ッ!」
そう読み取った途端、2人の間に壁の天井が落ちてきて、シンはもう二度とレイの姿を見ることができなくなった。
通路は完全に塞がれ、小さな空間に3人だけが取り残された。
出血の続く議長の命の火も遠からず消えようとしている。
けれど彼にとっては今この時が、この上ない幸せだった。
自分より自分の夢を…子供を産む事をとった彼女が、最後に自分と一緒にいる事を選んでくれたのだ。
心から愛した女性と添い遂げられなかった孤独が運命のリセットを思いつかせたのに、皮肉なことに、彼の最期は身勝手な幸福で満たされる事になったのだ。
「すまないね、タリア。でも…嬉しいよ」
「しょうのない人ね。でもほんと、仕方がないわ」
タリアはレイの背を撫で、愛する男を膝に抱いて笑った。
「結局、これが運命だったということじゃないの?あなたと私の」
「やめてくれ…」
議長はそれを聞いて苦笑した。
「私は…父親になれなかったからきみに見限られたのに」
タリアは首を振った。
「私も、自分からそう望んだのに、最後に母親を放棄したわ」
最初からこうすればよかったわね…タリアは彼の頬を撫でた。
「それにあなた、立派に父親だったわ…」
議長はそう言われて、涙を浮かべるレイの肩を軽く叩いた。
「もう泣かなくていい、レイ」
「本当に、よく頑張ったわ。だからもういい、もういいのよ」
2人は、レイを真ん中に挟んで抱き合った。
「お…かあ…さん…おとう…さ…」
父も母もないと言った彼に、今ようやく、ささやかな幸せが訪れた。
やがて、大きな爆発が起きて司令室は炎に包まれた。
天井も壁も、全てが崩れて激しい爆発が繰り返された。
かつてオーブで、たった1人の少年を残して家族が吹き飛ばされたように、ここにいた家族もまた、大きな爆発と共に激しい炎の中に消えていった。
けれど彼らは最後の瞬間まで、いかにも幸福そうに微笑み、抱き合っていた。
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制作裏話-PHASE50⑥-
本編最終回では「主人公抜きで」話が進み、議長を殺したのは「議長の子飼いのレイ」という、49話見続けたけど最終回だけ見逃したという人には全く意味がわからない物語になっていた決着編です。
逆転ではもちろん大幅な改編と、なるべくシンプルかつわかりやすいキャラクターによる心情吐露と会話を加えてあります。
逆転全編に言えることですが、キャラクターのセリフについては重大な裏話があります。
逆転はあくまでも「原作準拠」ですので、書き始める前にまずはオリジナルのセリフを全て散りばめます。
そしてその通りにストーリーを進めていくのですが、会話的に足りない部分を少し補ったり、脚本で言えば「ト書き」にあたる間の説明文を入れるとセリフに矛盾が出てくる場合などがありますので少し変えたりとアレンジしていきます。
それでも足りない時は初めからそこに「セリフを創作」するわけです。
このように「セリフを創作」する際、私が最も気をつけるのは「声優さんが喋りやすい言葉を使う」ことでした。
逆転はアニメである本編をもとにしています。小説ではありません。
ですからシナリオにあるセリフというのは平易簡便であるべきで、時には「声優が発音しやすいよう」「単語が重なっていたり、視聴者に聞き取りづらくないよう」「必要に応じて文字を言葉として崩す」などの注意が払われているのです。現場ではさらに声優と音響監督が協議し、監督がGOを出せばセリフが変わることもあるはずですし。
けれど小説は違います。口語体と文語体に違いがあるように、文字にした言葉はあくまでも「文語」なのです。逆転ではセリフを創作した時は必ず「発音しやすいか」「長過ぎて聞き取ることが困難ではないか」「重ね言葉や、同じような接続詞が続かないか」など、「このセリフを声に出して喋る人がいる」と意識した上で書いています。
元が「喋り言葉」であるオリジナルとのセリフのバランスを守ることも大切ですし、かといって言葉が足りなすぎるオリジナルの補完もしておきたいし、キャラクターに合う言葉を探したいし、あまり乱暴な言葉は使いたくないし…と随分気を遣っています。推敲し、手直しする部分も最も多いのがセリフ部分です。
そもそも本編で無駄な総集編が多かったので、逆転ではほぼまるまる1話をオリジナルにした話が多いですが、さすがにラストシーンに手を加えるのは抵抗がありました。
けれどここにシンを絡めず、アスランに一言も話させないというのはもっとおかしいと思っていたので、最終回を迎えて以来7年間、もやもやした気持ちを吹き飛ばすためにこの形にしました(7年も経てばさすがにもう時効の「死に作品」だろうからと軽い気持ちで書き始めたのに、来年はDESTINYのHDリマスターとかやるのはホントやめて…頼むから)
さて、本編ではっきりしなかった点は以下のとおりです。
1 レイが議長を撃った理由がよくわからない
2 アスランが何を考えていたかわからない
3 タリアは何を思って残ったのかわからない
4 アスランがなぜレイを置き去りにしたのかわからない
5 なんでここに主人公がいないんだろう…
5はもはや絶望的な印象でしたが、とりあえず1~4については私なりに解釈し、噛み砕いてセリフをつけ加えてみました。
レイが議長を撃ったのは、「⑤対決」で描写したように、シンが生きる世界…生きたいと願っている世界はどちらなのかとレイ自身が最後に考えたとしました。キラの「こんなにダメな世界でも、変わっていけるのだ」という言葉が後押しし、シンならこの世界でも逞しく生きていけると、レイには信じられたからという解釈です。
レイがこの選択をするには、議長に対していずれ反抗するという伏線の積み重ねもしておかなければなりません。だから逆転のレイは、議長のやり方を支持しつつも、型にはまらないシンを心配したり、自分自身の考えをシンにぶつける(ステラを助ける彼を手伝ったのは自分の意思であると自己弁護したり、シンに「役割を果たしてくれ!」と言うなど)など、その片鱗を見せるようにしました。
議長を撃ってしまい、本編同様呆然とするレイにシンが駆け寄ることで、全ての登場人物がそろいました。
アスランは驚きますが、シンがいることでレイを任せられるので、気の毒な事に何がなんだかわかっていないキラを置いて議長の元に歩み寄ります。
これ、本編でもこういうシーンがあって然るべきだったと思うんですよね。だって議長とは1話からあれだけの因縁があったんですよ?なんでここでアスランはボケッとしてるかなぁ。せっかくFPで同席させたって、ただいるだけじゃ意味ないですよ。
近づいてきたアスランにタリアが警戒するのは当然です。本編の議長は尺の関係もあり(残り数分でしたからね、ここの時点で)撃たれたらすぐに危篤っぽくなりましたが、逆転ではもう少し余裕があります。
議長はアスランになぜ賛同してくれなかったのかと恨み言を言う時間があり、アスランは納得できなかったから従えなかったと、ここでようやくお互いの本音をぶつけ合います。
既にラクスから自分自身が持つ「力」の意義を受け取っているアスランは、もう迷う事はありません。この会話のためにも、テーマである「力」の定義が必要だったので、ようやく収束できて満足です。ちなみに議長が評した「アスラン=鉄砲玉」であることには、元婚約者のラクスも呆れていた事がPHASE24で明かされています。カガリがむっとして天使湯で「先輩面するな!」と言った時の逆転オリジナルの会話ですが、ここでもう一度使ってみました。
頑固と言われたアスランが少しだけ嬉しそうに「それは父譲りだ」と答える会話は、最後までわかりあえなかったザラ親子にほんの少しだけ与えてあげたかった救いなので、絶対に入れたかったものです。さらには「オーブはいい国になるだろう」という議長の敗北宣言とも取れる言葉に、アスランが珍しくはにかみながら笑うというシーンを描写しました。
そして次がレイです。
私はあれだけ色々と匂わせておきながら、議長が「クローン人間である」レイに対してどう考えていたのかさっぱりわからないままだった事が不満でした。だって実際レイが最後に抱きついたのはタリアでしたし、最後のセリフが「お母さん」って何なんだよ!と腑に落ちない。
そこで逆転では議長の言葉足らずがレイに誤解させたとしました。PHASE49でレイに「今の俺なら、『どういう意味ですか』と聞いたろう」が、あの頃は聞けなかった、と独白させたのはこのためです。
議長はレイをラウのスペアと思っていたのではなく、「ラウのもう一つの可能性」と見ていたという独自の解釈です。少し苦しいのですが、これを別の解釈に補完するだけの2人の繋がりが本編にないため、これ以上膨らませるのは私の技量では不可能でした。なのでここでは「シンが言ったことは正しかった」とレイが知ることで、本当の救いがもたらされたとしました。何度も言いますが、レイに影響を与えるのはキラでは絶対にいけないのです。
とはいえここでは蚊帳の外のキラにも関わってもらっています。何せラウ・ル・クルーゼの素顔と本性をアスラン以上に知っているのはキラなのですから。はっ…今思ったんですけど、レイがここで「ラウ」と言ってることにアスランは気づいてるんでしょうか。いや、気づいてないですね多分。何しろニブチンですから。
レイが、ちゃんと自分を自分と認めていてくれていた議長を撃ってしまったのだと罪に震えている時、シンは以前からやや疑念を抱いていた事をぶつけます。自分たちは「役割」のために戦っていたんじゃない…「意思で戦った」と。
そしてそれに追随したアスランが言います。偽者のラクス…ミーア・キャンベルもそうだったと。
ここでシンは初めてミーア・キャンベルが死んだ事を知り、2人の因縁が完結します。
シンがミーアの末路を知るシーンはどこかに絶対に入れたいと思っていたので、書き進めるうちにアスラン共々「与えられた役割を否定する」シーンがいいだろうと考えてここに入れてみました。シンとミーアの関わりは描写できて本当によかったです。あれは思った以上にいいシーンだったと思います。
もう一つ入れたかったのは、アスランと艦長の会話でした。だって彼女とは長い間ミネルバで一緒に戦った戦友ですよ。タリアだってマリューへの伝言は見ず知らずのキラじゃなくてアスランに託そうと思うのが当然でしょう。
それにここでタリアが、アスランがミネルバを落とした理由をちゃんとわかっていると言わせる事も決めていました。だからこそ「④鎮魂歌」ではアスランに元母艦の撃沈という「裏切者の苦味」を味わってもらったのですから。
最後にアスランが語る言葉は、アスランが種時代からずっと探し続けてきて出された「答え」です。
PHASE48でデスティニープランに反対を表明したカガリを見て彼女が決意したのは、人の心に潜む見えない「力」をただ否定するのではなく、内包しながら闘っていく…制御したり、努力していくということです。「覚悟はある。私は闘う」と言ったキラも同じです。
私たちもそうですが、一人ひとりの力は驚くほど小さいのに、ひとたびそれが集まると大きなうねりを作り、凄まじい濁流となります。一番怖いのが、それには「秩序」も「倫理」も「判断」も「思考」もなく、遠慮すらないまさに「暴力」となって一方向に流れていく事ではないでしょうか。ネットの陰湿な書き込みもいじめもリンチも皆、こうした見えない「力」が働いた結果であり、熱が冷めると、深く傷ついた被害者がいるのに、誰一人として「加害者がいない」という不可思議なことになってしまいます。
アスランとキラは、こんな巨大な力となりうる「人の心のうちにあるもの」と闘う事を選び、よりよくなろうとする力に変えていきたいという、究極の理想論を掲げたわけです。
アスランにはこの答えをきちんと議長に伝えると最初から決めていました。全てが自分を形作るのだと、それには「過去」も含まれるといったのは、過去に縛られ続けたシンへのメッセージでもあります。過去に後押しされ、過去から解放されたカガリやキラの姿を見たからこそ、アスランもまたようやくシンを救う事ができると思うんですよ。
正直、この「答え」が書いても書いてもなかなか見えてこなくて大弱りでした。何しろ本編でちゃんと描かれていないんですから私に見つけられないのは当然なんですが、それでもこれだけの事をしでかしたアスランにはきちんとケジメをつけさせたかったので、答えを模索し続けました。結局はキラがクルーゼとの最終決戦での問答を経て、「一体何が一番いけなかったのか」と考えた時、多くの人々の無関心が怖いと気づいたとした時、「それを生み出すものこそが、議長が排斥しようとする無知や無理解や無関心」という事にして両者を繋げようと思い立ちました。この答えをアスランが得ることで、議長と最後の会話を交わすこともできますから、詰まっていた排水溝が急に流れ始めたような感じでした。これもキラのおかげと思うと、やっぱり主人公だなぁと思います。主人公にはやっぱりそれくらいの「パワー」があるものですよね。
議長に礼を言ったアスランはこれで退場となります。
本編ではキラがレイに声をかけないのは仕方ないと思いましたが(正直、レイが女の子だったら声をかけてるなと思いました)、FPではせっかくアスランがいることだし、チラッとレイを見たので「おっ、今度こそレイに声をかけるか、アスラン?」と思ったのに、彼はそのまま通り過ぎました。えええええ…冷たっ!元部下に対して冷たっ!
逆転のアスランはこんなキラ命のホモ野郎とは違ってユリ趣味はありませんから、ここは当然彼らに声をかけます。
同時に、ここでシンが激しく彼女を拒絶する事も折り込み済みでした。
本当は「あんたは勝ったんだ!だから…もう…放っておいてくれ!」というモロに敗者っぽいセリフにしようかとも思ったのですが、逆転の賢いシンはそこまで自分を卑下しないだろうと思ったのでこの形になりました。シンの怒鳴り声に、モビルスーツでは暴れまくりますが荒事に慣れていないキラがビクッとするのは当然です。
さて、逆転の議長はまだまだ死んではいけません。
旧主人公のターンが終わったら、今度はいよいよ新主人公のターンです。
シンは議長に問いかけます。本当は何が欲しかったのか、と。アスランが自分に聞いたことと同じです。
議長が本当に平和な世界を目指していたのだと言う事は、制作陣は何度も何度も繰り返していました。それはまぁいいとして、じゃあなぜ最後にレクイエムだのメサイアだのを撃ったんだと聞きたいですよ。それに、デストロイの情報漏洩やニセラクスとラクス暗殺など、そもそも彼が何を狙って、何をしようとしたのかを描かないというのは作品として大問題だと思います。これがわかればもう少し本編も面白かったかもしれないのに…
そういうわけで逆転の議長にはばっちり「黒幕」となってもらっています。
自分の求めるものはオーブにあった。
シンはようやく胸に詰まっていた本音を吐き出しました。ルナマリアに言い当てられたこの本音は、もはやシンが隠す必要のないものです。
また、「討たなくてよかったです」というセリフは、実はカガリの言葉を受け入れてキラを見逃した自分自身への恩赦でもあるのです。
けれど最後までシンはシンらしい強さを示します。
「誰もが正しくて、誰もが間違っている」
だからこそ考えて、判断して、責任を取って決断する…そして、間違っていたらそれを討つ。これは逆転の、強く賢いシンらしい結論で気に入っています。マリューとタリアが語っていたのもこんな内容でしたしね。
これからも闘い続けるのはシンも同じ。オーブの子たるシンには、かの首長が言ったように、与えられるものなどではなく、自身の力で手に入れるのがお似合いです。
こうして主人公と議長の会話を終えることができたので、さぁいよいよ本編同様3人を残していかねばなりません。何しろ本編ではシンはここにはいないので、いるからには少なくとも親友であるレイを置いていくことなどできるはずがないからです。
シンをこの決着シーンに同席させる改変の、最大のリスクがこれでした。
そこで、「シンがいる」事を逆手に取り、本編以上にレイの幼児退行を激しくしました。罪に慄くレイは子供のように駄々をこね、行きたくないとシンを困らせます。危険な状況なのでシンは声を荒げますが、ここでタリアが助け舟を出します。レイは本編同様、これ幸いとタリアに駆け寄り、しっかりと抱きつく…これならもうシンは手を出す事ができません。
タリアについては本編にはなかった「母親としての葛藤」を少し前から描写してきましたから、ここで2人の男を看取ると決めるのは自然かなと思うようになりました。アスランに伝言も託せたし、シンをルナマリアと共に「生きる道」へと見送る事もできたので、彼女の「母親的」役目はここで終わりなのだと納得できました。こんな生臭い身勝手な理由で残された息子はたまったものじゃないでしょうけどね。
とはいえそのまま「あっ、そう」と踵を返す事もできないので、シンのことは最後に議長に後押ししてもらいました。このシーンは初稿ではなかったのですが、何度か推敲しているうちに自然に思いついて加筆したものです。これによって迷いながらもシンはようやく脱出口へ向かう事ができるようになります。
そしてレイとの別れは、PHASE3でルナマリアと「後でメシを驕れ」というサインをやり取りするという、本編にはなかった設定を加えた伏線を昇華するシーンになりました。
「アリガトウ」
このサインをレイが出し、シンが読み取る事で、2人は永遠の別れを迎えます。レイはちゃんと救われました。ステラが「好き」と告げて安らかに逝ったように、最後に希望を持って逝けるレイの想いも、シンにははっきりとわからせてあげたかったのです。
シンがいなくなった3人だけのシーンは本編どおりですが、少しだけ手を加えてあります。
父親になれないからと捨てられた議長が、クルーゼから託された哀れな命を慈しみ、ちゃんと育て上げていたことをタリアに指摘させる事も結構前から構想していたので、こうして本編以上に彼らが「家族」であるという雰囲気を演出できたのではないかと思います。
こういう描写を強調し、人が望むのはただ「平和に暮らせて、死んでいける場所」だというマリューの言葉を生かせれば、確かに夢は同じなのだと示せたのに…ま、本編に今さら何を言っても無駄なんですがね(だからホントにDESTINYリマスターだけはやめて…)
なお今回、サブタイトルはシンプルに「陥落」としました。要塞だけでなく、議長が掲げた思想の陥落にもかけています。
逆転ではもちろん大幅な改編と、なるべくシンプルかつわかりやすいキャラクターによる心情吐露と会話を加えてあります。
逆転全編に言えることですが、キャラクターのセリフについては重大な裏話があります。
逆転はあくまでも「原作準拠」ですので、書き始める前にまずはオリジナルのセリフを全て散りばめます。
そしてその通りにストーリーを進めていくのですが、会話的に足りない部分を少し補ったり、脚本で言えば「ト書き」にあたる間の説明文を入れるとセリフに矛盾が出てくる場合などがありますので少し変えたりとアレンジしていきます。
それでも足りない時は初めからそこに「セリフを創作」するわけです。
このように「セリフを創作」する際、私が最も気をつけるのは「声優さんが喋りやすい言葉を使う」ことでした。
逆転はアニメである本編をもとにしています。小説ではありません。
ですからシナリオにあるセリフというのは平易簡便であるべきで、時には「声優が発音しやすいよう」「単語が重なっていたり、視聴者に聞き取りづらくないよう」「必要に応じて文字を言葉として崩す」などの注意が払われているのです。現場ではさらに声優と音響監督が協議し、監督がGOを出せばセリフが変わることもあるはずですし。
けれど小説は違います。口語体と文語体に違いがあるように、文字にした言葉はあくまでも「文語」なのです。逆転ではセリフを創作した時は必ず「発音しやすいか」「長過ぎて聞き取ることが困難ではないか」「重ね言葉や、同じような接続詞が続かないか」など、「このセリフを声に出して喋る人がいる」と意識した上で書いています。
元が「喋り言葉」であるオリジナルとのセリフのバランスを守ることも大切ですし、かといって言葉が足りなすぎるオリジナルの補完もしておきたいし、キャラクターに合う言葉を探したいし、あまり乱暴な言葉は使いたくないし…と随分気を遣っています。推敲し、手直しする部分も最も多いのがセリフ部分です。
そもそも本編で無駄な総集編が多かったので、逆転ではほぼまるまる1話をオリジナルにした話が多いですが、さすがにラストシーンに手を加えるのは抵抗がありました。
けれどここにシンを絡めず、アスランに一言も話させないというのはもっとおかしいと思っていたので、最終回を迎えて以来7年間、もやもやした気持ちを吹き飛ばすためにこの形にしました(7年も経てばさすがにもう時効の「死に作品」だろうからと軽い気持ちで書き始めたのに、来年はDESTINYのHDリマスターとかやるのはホントやめて…頼むから)
さて、本編ではっきりしなかった点は以下のとおりです。
1 レイが議長を撃った理由がよくわからない
2 アスランが何を考えていたかわからない
3 タリアは何を思って残ったのかわからない
4 アスランがなぜレイを置き去りにしたのかわからない
5 なんでここに主人公がいないんだろう…
5はもはや絶望的な印象でしたが、とりあえず1~4については私なりに解釈し、噛み砕いてセリフをつけ加えてみました。
レイが議長を撃ったのは、「⑤対決」で描写したように、シンが生きる世界…生きたいと願っている世界はどちらなのかとレイ自身が最後に考えたとしました。キラの「こんなにダメな世界でも、変わっていけるのだ」という言葉が後押しし、シンならこの世界でも逞しく生きていけると、レイには信じられたからという解釈です。
レイがこの選択をするには、議長に対していずれ反抗するという伏線の積み重ねもしておかなければなりません。だから逆転のレイは、議長のやり方を支持しつつも、型にはまらないシンを心配したり、自分自身の考えをシンにぶつける(ステラを助ける彼を手伝ったのは自分の意思であると自己弁護したり、シンに「役割を果たしてくれ!」と言うなど)など、その片鱗を見せるようにしました。
議長を撃ってしまい、本編同様呆然とするレイにシンが駆け寄ることで、全ての登場人物がそろいました。
アスランは驚きますが、シンがいることでレイを任せられるので、気の毒な事に何がなんだかわかっていないキラを置いて議長の元に歩み寄ります。
これ、本編でもこういうシーンがあって然るべきだったと思うんですよね。だって議長とは1話からあれだけの因縁があったんですよ?なんでここでアスランはボケッとしてるかなぁ。せっかくFPで同席させたって、ただいるだけじゃ意味ないですよ。
近づいてきたアスランにタリアが警戒するのは当然です。本編の議長は尺の関係もあり(残り数分でしたからね、ここの時点で)撃たれたらすぐに危篤っぽくなりましたが、逆転ではもう少し余裕があります。
議長はアスランになぜ賛同してくれなかったのかと恨み言を言う時間があり、アスランは納得できなかったから従えなかったと、ここでようやくお互いの本音をぶつけ合います。
既にラクスから自分自身が持つ「力」の意義を受け取っているアスランは、もう迷う事はありません。この会話のためにも、テーマである「力」の定義が必要だったので、ようやく収束できて満足です。ちなみに議長が評した「アスラン=鉄砲玉」であることには、元婚約者のラクスも呆れていた事がPHASE24で明かされています。カガリがむっとして天使湯で「先輩面するな!」と言った時の逆転オリジナルの会話ですが、ここでもう一度使ってみました。
頑固と言われたアスランが少しだけ嬉しそうに「それは父譲りだ」と答える会話は、最後までわかりあえなかったザラ親子にほんの少しだけ与えてあげたかった救いなので、絶対に入れたかったものです。さらには「オーブはいい国になるだろう」という議長の敗北宣言とも取れる言葉に、アスランが珍しくはにかみながら笑うというシーンを描写しました。
そして次がレイです。
私はあれだけ色々と匂わせておきながら、議長が「クローン人間である」レイに対してどう考えていたのかさっぱりわからないままだった事が不満でした。だって実際レイが最後に抱きついたのはタリアでしたし、最後のセリフが「お母さん」って何なんだよ!と腑に落ちない。
そこで逆転では議長の言葉足らずがレイに誤解させたとしました。PHASE49でレイに「今の俺なら、『どういう意味ですか』と聞いたろう」が、あの頃は聞けなかった、と独白させたのはこのためです。
議長はレイをラウのスペアと思っていたのではなく、「ラウのもう一つの可能性」と見ていたという独自の解釈です。少し苦しいのですが、これを別の解釈に補完するだけの2人の繋がりが本編にないため、これ以上膨らませるのは私の技量では不可能でした。なのでここでは「シンが言ったことは正しかった」とレイが知ることで、本当の救いがもたらされたとしました。何度も言いますが、レイに影響を与えるのはキラでは絶対にいけないのです。
とはいえここでは蚊帳の外のキラにも関わってもらっています。何せラウ・ル・クルーゼの素顔と本性をアスラン以上に知っているのはキラなのですから。はっ…今思ったんですけど、レイがここで「ラウ」と言ってることにアスランは気づいてるんでしょうか。いや、気づいてないですね多分。何しろニブチンですから。
レイが、ちゃんと自分を自分と認めていてくれていた議長を撃ってしまったのだと罪に震えている時、シンは以前からやや疑念を抱いていた事をぶつけます。自分たちは「役割」のために戦っていたんじゃない…「意思で戦った」と。
そしてそれに追随したアスランが言います。偽者のラクス…ミーア・キャンベルもそうだったと。
ここでシンは初めてミーア・キャンベルが死んだ事を知り、2人の因縁が完結します。
シンがミーアの末路を知るシーンはどこかに絶対に入れたいと思っていたので、書き進めるうちにアスラン共々「与えられた役割を否定する」シーンがいいだろうと考えてここに入れてみました。シンとミーアの関わりは描写できて本当によかったです。あれは思った以上にいいシーンだったと思います。
もう一つ入れたかったのは、アスランと艦長の会話でした。だって彼女とは長い間ミネルバで一緒に戦った戦友ですよ。タリアだってマリューへの伝言は見ず知らずのキラじゃなくてアスランに託そうと思うのが当然でしょう。
それにここでタリアが、アスランがミネルバを落とした理由をちゃんとわかっていると言わせる事も決めていました。だからこそ「④鎮魂歌」ではアスランに元母艦の撃沈という「裏切者の苦味」を味わってもらったのですから。
最後にアスランが語る言葉は、アスランが種時代からずっと探し続けてきて出された「答え」です。
PHASE48でデスティニープランに反対を表明したカガリを見て彼女が決意したのは、人の心に潜む見えない「力」をただ否定するのではなく、内包しながら闘っていく…制御したり、努力していくということです。「覚悟はある。私は闘う」と言ったキラも同じです。
私たちもそうですが、一人ひとりの力は驚くほど小さいのに、ひとたびそれが集まると大きなうねりを作り、凄まじい濁流となります。一番怖いのが、それには「秩序」も「倫理」も「判断」も「思考」もなく、遠慮すらないまさに「暴力」となって一方向に流れていく事ではないでしょうか。ネットの陰湿な書き込みもいじめもリンチも皆、こうした見えない「力」が働いた結果であり、熱が冷めると、深く傷ついた被害者がいるのに、誰一人として「加害者がいない」という不可思議なことになってしまいます。
アスランとキラは、こんな巨大な力となりうる「人の心のうちにあるもの」と闘う事を選び、よりよくなろうとする力に変えていきたいという、究極の理想論を掲げたわけです。
アスランにはこの答えをきちんと議長に伝えると最初から決めていました。全てが自分を形作るのだと、それには「過去」も含まれるといったのは、過去に縛られ続けたシンへのメッセージでもあります。過去に後押しされ、過去から解放されたカガリやキラの姿を見たからこそ、アスランもまたようやくシンを救う事ができると思うんですよ。
正直、この「答え」が書いても書いてもなかなか見えてこなくて大弱りでした。何しろ本編でちゃんと描かれていないんですから私に見つけられないのは当然なんですが、それでもこれだけの事をしでかしたアスランにはきちんとケジメをつけさせたかったので、答えを模索し続けました。結局はキラがクルーゼとの最終決戦での問答を経て、「一体何が一番いけなかったのか」と考えた時、多くの人々の無関心が怖いと気づいたとした時、「それを生み出すものこそが、議長が排斥しようとする無知や無理解や無関心」という事にして両者を繋げようと思い立ちました。この答えをアスランが得ることで、議長と最後の会話を交わすこともできますから、詰まっていた排水溝が急に流れ始めたような感じでした。これもキラのおかげと思うと、やっぱり主人公だなぁと思います。主人公にはやっぱりそれくらいの「パワー」があるものですよね。
議長に礼を言ったアスランはこれで退場となります。
本編ではキラがレイに声をかけないのは仕方ないと思いましたが(正直、レイが女の子だったら声をかけてるなと思いました)、FPではせっかくアスランがいることだし、チラッとレイを見たので「おっ、今度こそレイに声をかけるか、アスラン?」と思ったのに、彼はそのまま通り過ぎました。えええええ…冷たっ!元部下に対して冷たっ!
逆転のアスランはこんなキラ命のホモ野郎とは違ってユリ趣味はありませんから、ここは当然彼らに声をかけます。
同時に、ここでシンが激しく彼女を拒絶する事も折り込み済みでした。
本当は「あんたは勝ったんだ!だから…もう…放っておいてくれ!」というモロに敗者っぽいセリフにしようかとも思ったのですが、逆転の賢いシンはそこまで自分を卑下しないだろうと思ったのでこの形になりました。シンの怒鳴り声に、モビルスーツでは暴れまくりますが荒事に慣れていないキラがビクッとするのは当然です。
さて、逆転の議長はまだまだ死んではいけません。
旧主人公のターンが終わったら、今度はいよいよ新主人公のターンです。
シンは議長に問いかけます。本当は何が欲しかったのか、と。アスランが自分に聞いたことと同じです。
議長が本当に平和な世界を目指していたのだと言う事は、制作陣は何度も何度も繰り返していました。それはまぁいいとして、じゃあなぜ最後にレクイエムだのメサイアだのを撃ったんだと聞きたいですよ。それに、デストロイの情報漏洩やニセラクスとラクス暗殺など、そもそも彼が何を狙って、何をしようとしたのかを描かないというのは作品として大問題だと思います。これがわかればもう少し本編も面白かったかもしれないのに…
そういうわけで逆転の議長にはばっちり「黒幕」となってもらっています。
自分の求めるものはオーブにあった。
シンはようやく胸に詰まっていた本音を吐き出しました。ルナマリアに言い当てられたこの本音は、もはやシンが隠す必要のないものです。
また、「討たなくてよかったです」というセリフは、実はカガリの言葉を受け入れてキラを見逃した自分自身への恩赦でもあるのです。
けれど最後までシンはシンらしい強さを示します。
「誰もが正しくて、誰もが間違っている」
だからこそ考えて、判断して、責任を取って決断する…そして、間違っていたらそれを討つ。これは逆転の、強く賢いシンらしい結論で気に入っています。マリューとタリアが語っていたのもこんな内容でしたしね。
これからも闘い続けるのはシンも同じ。オーブの子たるシンには、かの首長が言ったように、与えられるものなどではなく、自身の力で手に入れるのがお似合いです。
こうして主人公と議長の会話を終えることができたので、さぁいよいよ本編同様3人を残していかねばなりません。何しろ本編ではシンはここにはいないので、いるからには少なくとも親友であるレイを置いていくことなどできるはずがないからです。
シンをこの決着シーンに同席させる改変の、最大のリスクがこれでした。
そこで、「シンがいる」事を逆手に取り、本編以上にレイの幼児退行を激しくしました。罪に慄くレイは子供のように駄々をこね、行きたくないとシンを困らせます。危険な状況なのでシンは声を荒げますが、ここでタリアが助け舟を出します。レイは本編同様、これ幸いとタリアに駆け寄り、しっかりと抱きつく…これならもうシンは手を出す事ができません。
タリアについては本編にはなかった「母親としての葛藤」を少し前から描写してきましたから、ここで2人の男を看取ると決めるのは自然かなと思うようになりました。アスランに伝言も託せたし、シンをルナマリアと共に「生きる道」へと見送る事もできたので、彼女の「母親的」役目はここで終わりなのだと納得できました。こんな生臭い身勝手な理由で残された息子はたまったものじゃないでしょうけどね。
とはいえそのまま「あっ、そう」と踵を返す事もできないので、シンのことは最後に議長に後押ししてもらいました。このシーンは初稿ではなかったのですが、何度か推敲しているうちに自然に思いついて加筆したものです。これによって迷いながらもシンはようやく脱出口へ向かう事ができるようになります。
そしてレイとの別れは、PHASE3でルナマリアと「後でメシを驕れ」というサインをやり取りするという、本編にはなかった設定を加えた伏線を昇華するシーンになりました。
「アリガトウ」
このサインをレイが出し、シンが読み取る事で、2人は永遠の別れを迎えます。レイはちゃんと救われました。ステラが「好き」と告げて安らかに逝ったように、最後に希望を持って逝けるレイの想いも、シンにははっきりとわからせてあげたかったのです。
シンがいなくなった3人だけのシーンは本編どおりですが、少しだけ手を加えてあります。
父親になれないからと捨てられた議長が、クルーゼから託された哀れな命を慈しみ、ちゃんと育て上げていたことをタリアに指摘させる事も結構前から構想していたので、こうして本編以上に彼らが「家族」であるという雰囲気を演出できたのではないかと思います。
こういう描写を強調し、人が望むのはただ「平和に暮らせて、死んでいける場所」だというマリューの言葉を生かせれば、確かに夢は同じなのだと示せたのに…ま、本編に今さら何を言っても無駄なんですがね(だからホントにDESTINYリマスターだけはやめて…)
なお今回、サブタイトルはシンプルに「陥落」としました。要塞だけでなく、議長が掲げた思想の陥落にもかけています。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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