機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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暖かく湿った海風が、初夏の訪れを告げている。
花やリボンで飾られた祭壇と、続々と入場しては着席する来賓が、この上なく華やかな会場をますます華やかなものにしていた。
少しお年を召したスカンジナビア国王夫妻がにこやかに笑う。豪放磊落な姫将軍は相変わらず任務で忙しいので、残念ながら欠席だ。
プラントの元首に用意した貴賓席は、まだ空席のままだった。
(あの野郎、本気でボイコットする気じゃないだろうな…)
議長代理が政権を率いた長い期間を終え、つい最近就任したばかりの新議長に代わり、出席予定と伝えてきたのは銀色の髪の評議会議員だった。
「貴様ら、この忙しい時に!」
私回線で繋いだモニターに姿を現した彼は、友好国からの正式な招待だというのに不機嫌さを隠さなかった。
しかしそれは彼の口癖のようなものなので、カガリはちっとも気にしていない。
メイリン・ホークからはしっかりと、「ブツブツ言ってますけど、なんだかんだで楽しみみたいですよ」とタレコミも入っている。
やがてマリューやムウ、バルトフェルドたち見知った顔が席に着くのが見え、カガリは軽く手を振った。
「はーい、笑って。いい顔くださいね」
おめかしした彼らを次々写真におさめているのは、自称「公認カメラマン」の彼女だ。
カガリは青空を見上げた。
(何年も前…俺が今よりずっと若かった頃、ここで同じように空を見上げていた)
望まない結婚を強いられて、絶望的な気持ちなのに、空はどこまでも青かった。
(あの時、心から思ったっけ…もし今、ここにいるのがあいつだったらって…)
彼は、今にも泣き出しそうだった自分を思い出して苦笑した。
遠い日の願いはかなって、やがて花嫁が入場してくる。
かつて想像したように、彼女はきっと誰よりも美しいに違いない。
頑固で、真面目で、融通が利かなくて…カガリは今日に至るまでの長い日々を思い返した。
「誰からも認められる、『オーブ国民』になりたい」
そう言って旅立った彼女は、よかれと思って与えた役職でめきめきと頭角を現し、肝心のオーブにはちっとも帰ってこなくなった。
「認めちまったからにはさ、やっぱ応援するしかないんじゃないの?俺らとしては」
同じように世界中を飛び回るパートナーを持つディアッカとは、たまに会うと酒を酌み交わしてため息をつき合う仲だった。
そんな風に仕事に夢中の彼女がやっと「YES」と言ってくれた時、その薬指にはかつて彼が自分で外した指輪が煌いた。
(ラクスにも、出席して欲しかった…)
最高評議会議長となり、病んだ命を精一杯燃焼しつくして短い生涯を閉じた盟友を思い、カガリは琥珀色の眼を細めた。
クライン前議長は、当時国防委員長だったザラ元議長が現在の形に整えて以来の、「政党としての」ザフトの組織再編に取り組んだ。軍と政府に対する議会権限の強化に加え、政権を牽制する第三者機関の設立、諮問機関、さらに司法委員会の強化再編にも乗り出した。彼は穏やかに、けれど断固として改革をすすめていった。
彼がプラントを「真の共和制にしたい」という願いを抱いていることを悟ったカガリは、呆れて言った。
「あまり無理はするなって言ってるだろう」
「いいんだ。生きているだけで、世界はいくらだって可能性に満ちているんだから」
カガリが忙しい公務の合間を縫って医師免許を取得したのは、ラクスの体を蝕む放射線障害の治療研究を推進するためだった。
おかげでこの分野におけるオーブの医療技術の発展と新薬の開発は目覚ましく、ラクスは予想よりはるかに余命を伸ばす事ができたのだ。
けれど、やがて死の床についた彼はカガリを呼び、弱々しく微笑んだ。
「きみの大切な人を返すよ…長い間、本当にありがとう…ごめんね…」
かつてラクスが望んだように、彼女は若き議長のよき相談相手として、時には彼を叱咤し、激励し、一緒に悩みながら、最期の瞬間まで共にいた。
仲間たちからは「やせ我慢して」と笑われたが、重責を背負う覚悟を決めた友のため、カガリは彼女を「オーブ外交官としてプラントに駐留させる」という粋な計らいをしたのである。そしてそれは同時に、いまや対プラント外交の中心となる彼女自身の力を存分に伸ばす事にもなった。
(ラクス…俺たちはおまえに負けないように頑張ってる。この国を守り、少しでも世界が平和になるよう貢献していく)
いつか彼に胸を張って自慢できるように…カガリは手をかざして輝く空を見つめた。
「カガリ」
やがて、晴れの日だというのに、無粋な軍服を着たキラが声をかけた。
カガリは花嫁の介添人になれと言ったのだが、彼の妹は「自分はかつて結婚式をぶち壊した張本人だから」と、キサカと共に警備責任者を買って出たのだ。
エリカ・シモンズが開発した新型を何機も待機させているだけで十分だろうに、ストライクフリーダムまで出撃準備をしているというから呆れる。
「だって、誰かがきみたちをさらいにきたらどうするの?」
すっかり軍の仕事に燃えるようになってしまって、最近は「オーブの姫将軍」なんて呼ばれて喜んでいるのだから、兄としては将来が心配だ。
「早く嫁に行けよ。もうこの際誰でもいいから」
「ふぅん…なら、シン・アスカでも?」
揺るぎないザフトのエースの名を聞いて彼は思わず言葉に詰まり、くすくす笑っているキラの額を悔しまぎれに小突いた。
「どうせあの美人の彼女には勝てないだろ!」
カガリはもう一度、真っ青な空を見上げた。
満たされた心が、たくさんの思い出と共に駆け上っていく。
かつて感じた哀しみや苦しみ、そしてかけがえのない喜びや幸せすべてがそこにあった。
あの日の父の言葉通り、別々だった自分たちの道は今、ようやくひとつになろうとしているのだ。
―― ああ…いい天気だなぁ…
彼はゆっくりと深呼吸し、それから花嫁を迎えるために歩き出した。
花やリボンで飾られた祭壇と、続々と入場しては着席する来賓が、この上なく華やかな会場をますます華やかなものにしていた。
少しお年を召したスカンジナビア国王夫妻がにこやかに笑う。豪放磊落な姫将軍は相変わらず任務で忙しいので、残念ながら欠席だ。
プラントの元首に用意した貴賓席は、まだ空席のままだった。
(あの野郎、本気でボイコットする気じゃないだろうな…)
議長代理が政権を率いた長い期間を終え、つい最近就任したばかりの新議長に代わり、出席予定と伝えてきたのは銀色の髪の評議会議員だった。
「貴様ら、この忙しい時に!」
私回線で繋いだモニターに姿を現した彼は、友好国からの正式な招待だというのに不機嫌さを隠さなかった。
しかしそれは彼の口癖のようなものなので、カガリはちっとも気にしていない。
メイリン・ホークからはしっかりと、「ブツブツ言ってますけど、なんだかんだで楽しみみたいですよ」とタレコミも入っている。
やがてマリューやムウ、バルトフェルドたち見知った顔が席に着くのが見え、カガリは軽く手を振った。
「はーい、笑って。いい顔くださいね」
おめかしした彼らを次々写真におさめているのは、自称「公認カメラマン」の彼女だ。
カガリは青空を見上げた。
(何年も前…俺が今よりずっと若かった頃、ここで同じように空を見上げていた)
望まない結婚を強いられて、絶望的な気持ちなのに、空はどこまでも青かった。
(あの時、心から思ったっけ…もし今、ここにいるのがあいつだったらって…)
彼は、今にも泣き出しそうだった自分を思い出して苦笑した。
遠い日の願いはかなって、やがて花嫁が入場してくる。
かつて想像したように、彼女はきっと誰よりも美しいに違いない。
頑固で、真面目で、融通が利かなくて…カガリは今日に至るまでの長い日々を思い返した。
「誰からも認められる、『オーブ国民』になりたい」
そう言って旅立った彼女は、よかれと思って与えた役職でめきめきと頭角を現し、肝心のオーブにはちっとも帰ってこなくなった。
「認めちまったからにはさ、やっぱ応援するしかないんじゃないの?俺らとしては」
同じように世界中を飛び回るパートナーを持つディアッカとは、たまに会うと酒を酌み交わしてため息をつき合う仲だった。
そんな風に仕事に夢中の彼女がやっと「YES」と言ってくれた時、その薬指にはかつて彼が自分で外した指輪が煌いた。
(ラクスにも、出席して欲しかった…)
最高評議会議長となり、病んだ命を精一杯燃焼しつくして短い生涯を閉じた盟友を思い、カガリは琥珀色の眼を細めた。
クライン前議長は、当時国防委員長だったザラ元議長が現在の形に整えて以来の、「政党としての」ザフトの組織再編に取り組んだ。軍と政府に対する議会権限の強化に加え、政権を牽制する第三者機関の設立、諮問機関、さらに司法委員会の強化再編にも乗り出した。彼は穏やかに、けれど断固として改革をすすめていった。
彼がプラントを「真の共和制にしたい」という願いを抱いていることを悟ったカガリは、呆れて言った。
「あまり無理はするなって言ってるだろう」
「いいんだ。生きているだけで、世界はいくらだって可能性に満ちているんだから」
カガリが忙しい公務の合間を縫って医師免許を取得したのは、ラクスの体を蝕む放射線障害の治療研究を推進するためだった。
おかげでこの分野におけるオーブの医療技術の発展と新薬の開発は目覚ましく、ラクスは予想よりはるかに余命を伸ばす事ができたのだ。
けれど、やがて死の床についた彼はカガリを呼び、弱々しく微笑んだ。
「きみの大切な人を返すよ…長い間、本当にありがとう…ごめんね…」
かつてラクスが望んだように、彼女は若き議長のよき相談相手として、時には彼を叱咤し、激励し、一緒に悩みながら、最期の瞬間まで共にいた。
仲間たちからは「やせ我慢して」と笑われたが、重責を背負う覚悟を決めた友のため、カガリは彼女を「オーブ外交官としてプラントに駐留させる」という粋な計らいをしたのである。そしてそれは同時に、いまや対プラント外交の中心となる彼女自身の力を存分に伸ばす事にもなった。
(ラクス…俺たちはおまえに負けないように頑張ってる。この国を守り、少しでも世界が平和になるよう貢献していく)
いつか彼に胸を張って自慢できるように…カガリは手をかざして輝く空を見つめた。
「カガリ」
やがて、晴れの日だというのに、無粋な軍服を着たキラが声をかけた。
カガリは花嫁の介添人になれと言ったのだが、彼の妹は「自分はかつて結婚式をぶち壊した張本人だから」と、キサカと共に警備責任者を買って出たのだ。
エリカ・シモンズが開発した新型を何機も待機させているだけで十分だろうに、ストライクフリーダムまで出撃準備をしているというから呆れる。
「だって、誰かがきみたちをさらいにきたらどうするの?」
すっかり軍の仕事に燃えるようになってしまって、最近は「オーブの姫将軍」なんて呼ばれて喜んでいるのだから、兄としては将来が心配だ。
「早く嫁に行けよ。もうこの際誰でもいいから」
「ふぅん…なら、シン・アスカでも?」
揺るぎないザフトのエースの名を聞いて彼は思わず言葉に詰まり、くすくす笑っているキラの額を悔しまぎれに小突いた。
「どうせあの美人の彼女には勝てないだろ!」
カガリはもう一度、真っ青な空を見上げた。
満たされた心が、たくさんの思い出と共に駆け上っていく。
かつて感じた哀しみや苦しみ、そしてかけがえのない喜びや幸せすべてがそこにあった。
あの日の父の言葉通り、別々だった自分たちの道は今、ようやくひとつになろうとしているのだ。
―― ああ…いい天気だなぁ…
彼はゆっくりと深呼吸し、それから花嫁を迎えるために歩き出した。
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Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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