機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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それはゆっくりと軌道を変え、落ちようとしていた。
人類の罪による、人類への鉄槌として…
「アラン、クリスティン…これでようやく俺も、おまえたちも…」
動き出した死せる大陸を眺め、顔に大きな傷を持つ隊長のサトーは、コックピットに貼った恋人と友の遺影に語り掛けた。
「さあ行け!我らの墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を、今度こそ正すのだ!!」
人類の罪による、人類への鉄槌として…
「アラン、クリスティン…これでようやく俺も、おまえたちも…」
動き出した死せる大陸を眺め、顔に大きな傷を持つ隊長のサトーは、コックピットに貼った恋人と友の遺影に語り掛けた。
「さあ行け!我らの墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を、今度こそ正すのだ!!」
フレアモーターが作動し、太陽の力を利用して巨大なコロニー…いや、かつてコロニーだった「残骸」は、移動を開始した。
機動性の高いZGMF-1017M2ジン・ハイマニューバ2型に乗るのは、大戦の決着に不満を持ち、各地から集結したザフト脱走兵である。
端的に言えば「テロリスト」であるが、彼ら自身は今なおザフトに心から忠誠を誓い、「血のバレンタイン」を起こしたナチュラルからプラントを守る使命に燃えていた頃の「義勇兵」であると信じている。
憎むべきナチュラルを叩き潰す事で、自らが負ったとてつもない痛みを癒そうとしていた彼らにとって、パトリック・ザラ政権は願ってもない強硬姿勢を取ってくれた。
しかし大戦末期、彼のジェネシス作戦によるあわや地球壊滅という甚大な危機を回避して以来、プラントは当然ながら協調路線に転換し、彼ら曰く祖国は「惰弱な負け犬」に成り下がった。
再びプラントが強くなり、ザフトが誇り高く、そしてナチュラルどもにその罪を償わせひれ伏させるために、彼らの血なまぐさい計画は着々と進められていたのだった。
プラントでもユニウスセブンの動きを掴んでおり、対応に追われていた。
徐々に加速する巨大なデブリは、軌道計算上、このままではやがて地球の引力に引かれ、地上への衝突コースをとるという最悪の予測が弾き出された。
ほぼ半分に割れているとはいえ、ユニウスセブンの質量は小惑星に匹敵する。
まずは地球衝突回避の手立てがないか模索され、やがてそれが不可能と判断されると、被害を蒙る地球への警告はどうするのかと評議会は荒れた。
折悪しく、強い求心力を持つデュランダル議長が不在であることも、事態の混乱をさらに助長していた。
休憩に入った者が多く、メイリンが副長とのんびりおしゃべりに興じていた時、緊急通信が入った。最初にそれに気づいたバートがモニターを覗き込んで慌てて副長を呼び、副長はすぐにメイリンに「議長を呼べ」と命じた。
メイリンは議長にあてがわれた士官室に通信を入れたが、彼は不在だった。
艦内モニターで見廻ってもどこにもいない。
とはいえ、まさか仮にも最高評議会議長が艦内を1人でうろうろするとは思えない。
メイリンは指でいくつもの映像をスライドさせていたが、ついに諦めて尋ねた。
「あの、副長?議長って…どこにいるんですか?」
アーサーとバートはその質問に顔を見合わせ、一瞬固まった。
ボギーワンを見失ってから、既に数十時間が過ぎていた。
マッド・エイブスたちの突貫修理によってミネルバのエンジンは回復し、現在航行には全く支障がない。さすがに外装までは手が回らないが、艦内の不具合はすべて順調に修復され、モビルスーツの整備も終了した。
アスハ代表の迎えにと廻させた船とのランデブーも近い。
タリアは豊満で蟲惑的な裸体にシーツを巻きつけ、立ち上がった。
たった今までベッドを共にし、甘い睦言を交わしていた相手の男は、今は小さなタブレットを手にし、インパルスの戦闘データを熱心に読んでいる。
残念ながら強奪部隊を捕らえる事も撃破もできなかったとはいえ、彼は自らの眼で選び、指名したパイロット、シン・アスカの働きぶりにはいたく満足しているようだった。
艦長という立場から見ると、優秀だが我が強く、独断専行も多い天才肌のシンは、部下として扱うのは厄介なのだが…
「レイじゃなくて本当によかったの?」
「いいんだよ…レイにはレイの役割があるのだから」
腕の中に抱いた彼女に夫を裏切らせながら、議長は囁いた。
「きみにも、ミネルバにも、シンにもそれぞれ役割がある」
―― 自分自身の遺伝子が命じる、それぞれにふさわしい役割がね…
組み敷いた女の嬌声を聞きながら、議長はもう1人の、印象深く美しい女の事を考えていた。
(あの魅力的なお嬢さんを手に入れたい)
そして、あんな無能な若僧の元に置いておいては、彼女の輝きは鈍るばかりだと人知れず鼻白んだ。
(シン・アスカとアスラン・ザラ…そしてミネルバが世界を変える)
快楽に溺れながら、議長は揃ってきたピースに想いを馳せた。
シャワールームに向かうタリアを、ブリッジからの緊急通信が引き止めた。
タリアはモニターに近づくと「なに?」と尋ねた。
「艦長、あの…デュランダル議長に最高評議会より…チャンネル1です」
モニターの向こうにはおどおどした顔のメイリン・ホークがいた。
(教えたのはアーサーかしら)
タリアはしどけなく笑うと議長を呼んだ。
デュランダルは立ち上がってモニターに近づき、ありがとうと言った。
「なんだって!?」
案内された艦長室で、カガリは思わず立ち上がった。
「ユニウスセブンが動いてるって…一体なぜ?」
「それはわかりません。だが動いているのです。それもかなりの速度で…最も危険な軌道を」
議長は困惑したような表情で説明した。
つい先ほどまで彼に抱かれていたことなど微塵も感じさせないタリアが、既にミネルバでもその動きを確認したとデータを示した。
「しかし、なぜそんなことに?」
今回はカガリが強引に自分の隣に座らせたアスランが、少し遠慮がちに尋ねた。
「あれは100年の単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので…」
ザフトの綿密な調査結果は公式なものとしてそう発表されている。
だからこそ今回のこの事態がプラントを混乱と苦悩に陥れているのだ。
「隕石の衝突か、はたまた他の要因か…ともかく動いてるんですよ。今この時も。地球に向かってね」
カガリは腰を落とすと、顔の前で両手を組んだ。
考えたくないことを確かめねばならないので、心を落ち着かせているようだ。
「…落ちたら…落ちたら、どうなるんだ?オーブは…いや、地球は…」
アスランも軽く息を吸い込み、カガリを、そして議長を見つめた。
「あれだけの質量のものです」
議長はゆっくりと、残酷で冷酷な事実を告げた。
「…申し上げずとも、それは若君にもおわかりでしょう」
もしコロニーが地上を直撃すれば、未曾有の大惨事となる事は必至だ。
大地への損傷、津波、磁場の乱れ、天候不順…傷ついた人や生物は、イリジウムや塵芥が太陽を遮り、寒冷化した地球で耐えられるのか…一体どれほどの被害になるのか見当すらつかない。カガリは絶句した。
「原因の究明や回避手段の模索に、今、プラントは全力を挙げています」
デュランダルは力強く言った。
彼の的確な指示でプラントは動き出し、あらゆる学者や識者が対応策を練り始めている。ザフトでも何ができるのかとさっそく検討に入っていた。
デュランダルはさらに、今現在ユニウスセブンに最も近い場所にいる部隊に特命を出したことを告げ、2人は思い当たって顔を見合わせた。
―― ミネルバか…!
「若君にも、どうかそれを御了承いただきたいと」
「無論だ。これは私たちにとっても…いや、むしろこちらにとっての重大事だぞ」
カガリは思わず身を乗り出した。
「俺…私にも何かできることがあるのなら…」
「お気持ちはわかりますが、どうか落ち着いてください、若君」
議長はふっと微笑み、カガリの肩を叩いた。
「お力をお借りしたいことがあれば、こちらかも申し上げます」
「難しくはありますが、御国元とも直接連絡の取れるよう試みてみます」
タリアはまた、この状況により今こちらに向かっている艦とはランデブーができなくなったので、改めて迎えの艦をよこすよう要請したと説明した。
一方議長は艦長の説明に聞き入っているアスランをチラリと見た。
(そう、「きみの力」を借りたい時は…ね)
既にもう一つ、布石を打ってある。彼女もきっと久闊を叙する事だろう。
「ふーん…けど、何であれが?」
ヴィーノが缶ジュースを飲みながら尋ねた。
ここ十数時間、休みらしい休みも取れなかった整備の2人がようやく休憩を取っていいと言われたので、同期の連中が休憩室に集っていた。
「隕石でも当たったか、何かの影響で軌道がずれたか…」
でも安定軌道から逸れるなんて考えらんないけどなとヨウランが言う。
シンはこの間の借りを返せとルナマリアにコーヒーをおごらせていた。
「地球への衝突コースだって、本当なのか?」
おごれおごれって、何度目よとブツブツ言うルナマリアが弟の隣に座り、メイリンはシンの質問に頷いて「バートさんがそうだって」と答えた。
ルナマリアは両手を広げ、やれやれという態で嘆いた。
「はぁ~、アーモリーでは強奪騒ぎだし、それもまだ片づいてないのに、今度はこれ?どうなっちゃってんの」
そのまま、「で?今度はそのユニウスセブンをどうすればいいの?」と聞く。
ヨウランもヴィーノも、情報として聞いただけで対応策など知らない。
するとレイが言った。
「砕くしかない」
「砕く?」
艦長室を出て歩き出したカガリがどうしたらいいんだろうとつぶやくと、アスランもまたレイと全く同じ答えを返した。
「軌道の変更は多分不可能よ。衝突を回避するには、砕くしかないわ」
2人はシンたちがいる休憩室に近づきつつあった。
「デカいぜ、あれ?最長部は8キロは…」
ヨウランが言うと、大体どうやって砕くのとヴィーノも困惑して聞いた。
そこに遠慮がちに、メイリンがおずおずと口を挟んだ。
「それに…あそこにはまだ、死んだ人たちの遺体もたくさん…」
風化することもなく、劣化することもない遺体が眠っている。
「だが衝突すれば地球は壊滅する。そうなれば何も残らないぞ」
レイは別に冷たく言い放っているわけではないのだが、感情を抑え、抑揚なく喋る彼の言葉が、真実を残酷に突きつける。
「地球滅亡…」
「…だな」
「そんな…」
「最悪じゃない…」
仲間たちは沈黙し、シンは手に持ったコーヒーを飲み干した。
「…でもまぁ、しょうがないっちゃしょうがないか?」
その重苦しい沈黙を破ろうとして、ヨウランが明るい声で話し始めた。
ヴィーノが「よせって」と声をひそめていさめたが、ヨウランは「だってさぁ」と肩をすくめた。
「不可抗力だろ?けど変なゴタゴタもきれいに片付いて、案外ラクかも。俺たちプラントには」
ルナマリアが「ちょっと!」と睨み、ヴィーノも慌てて彼を肘で小突く。
レイも視線を逸らしたが、シンは(お調子者のヨウランらしいな)と思った。
「よくそんな事が言えるな、おまえたちは」
聞き慣れない声に、一同は驚いてそちらを見た。
部屋の入り口に、カガリ・ユラ・アスハが立っていた。
仮にも彼は国家元首であるから、全員が立ち上がって敬礼する。
「しょうがないことだし、ゴタゴタが片付いて、案外ラクか?」
彼の言葉に、ルナマリアたちは言葉に詰まり、皆思わず顔を伏せた。
そのまま彼を見つめているのは、窓際のシンとレイだけだった。
「これがどんな事態か、地球がどうなるか」
カガリはつかつかと彼らの元に歩み寄ってきた。
「どれだけの人間が死ぬことになるか…本当にわかって言ってるのか?」
彼が穏やかな表情のまま、静かな声で言うことはもっともなので、ヨウランは下を向いたまま「…すいません」と謝罪の言葉を述べた。
カガリは謝罪を受け入れた証に頷いてみせたが、さらに言葉を続けた。
「だけど、やはりそういう考えもあるというのは残念だな」
アスランは、平静を保とうとしているように見えるカガリが、拳を握り締め、それが小刻みに震えていることに気づいていた。
「おまえたちも、あれだけの戦争をして、あれだけの想いをして、やっとデュランダル議長の施政の下で変わったんだろう?」
「カガリ…」
アスランはカガリの袖を引いて止めた。
「それとも、結局は何も変わらないってことか?」
「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも」
何も言い返せない仲間たちに代わり、窓際で腕を組んでいたシンが答えた。
「それくらいのこともわかんないのかよ、あんたは」
燃えるような赤い瞳と、煌く琥珀色の瞳がぶつかった。
カガリは少し面白そうに口の端をあげた。
「ならおまえも、この間は本気で言ったんじゃないのか?」
「…?何のことだ?」
シンは腕を下ろすと尋ねた。
「俺が言ったことは奇麗事だと言ったろ」
「ああ…」
シンは今気づいたとでも言わんばかりに大げさに言った。
「あんたたちアスハのお家芸のことか」
「シン、言葉に気をつけろ」
レイがシンをたしなめ、アスランもまたカガリの前に体を滑らせた。
「あ、そうでした。この人、偉いんでした。オーブの代表でしたもんね」
「ずいぶん威勢がいいんだな」
カガリもまたアスランの肩を退けながら言った。
「それとも、ザフトのエースが達者なのは口だけか?」
「…カガリ!」
アスランは厳しい声音で彼の名を呼んだ。
カガリはそれを聞いて口をつぐんだが、シンはまだ彼を睨んでいる。
「あなたはオーブが大分嫌いなようだけど、なぜなの?」
アスランはシンの方を向き直ると、少し強い口調で言った。
「昔、オーブにいたとは聞いたけれど…もし、くだらない理由で関係ない代表にまで突っかかるというのなら、ただではおかないわ」
「…くだらない?」
シンの瞳がカガリからアスランに移された。
なんという激しい色だろう…アスランはその憤怒に満ちた瞳に一瞬戸惑う。
「くだらないなんて言わせるか!関係ないってのも大間違いだね!」
シンは身を乗り出し、声を荒げた。
「俺の家族は、アスハに殺されたんだ!」
シンの言葉が、空間を鋭く斬り裂いた。
「国を信じて…あんたたちの理想とかってのを信じて!」
一瞬で死んだ父と母。
体さえ残らなかった妹…
「そして最後の最後に、ボロボロで殺された!!」
どれほどの時間、あの光景が繰り返される悪夢に苦しめられたことか。
食べることも眠ることもできず、このまま死んでしまいたいとさえ思った。
ルナマリアやメイリンは、激しい怒りをぶつけるシンに驚いていた。
シンは過去を語りたがらず、ただ、オーブをひどく憎んでいた。
今、眼の前でオーブ代表に怒りと憎しみをぶちまけるシンを見て、皆息をひそめて黙りこくっている。
この件の発端となったヨウランなど、もう今にも逃げ出しそうだ。
アスランとレイだけがこの場で落ち着いて事態を見守っていた。
「だから俺はあんたたちを信じない。オーブなんて国も信じない。そんなあんたたちの言う、綺麗事を信じない!」
バキッという音がして、シンの握力が空き缶を握りつぶした。
「この国の正義を貫くって…」
シンはマユと一緒に聞いたウズミ・ナラ・アスハの言葉を思い出した。
彼はオーブの理念を守り、正義のために戦うのだと言ったのだ。
「あんたたちだってあの時、自分たちのその言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
シンは握りつぶした空き缶をそのまま床に投げつけた。
「何もわかってないヤツが、わかってるような事を言わないで欲しいね!」
その言葉を聞いて、アスランは思わず口を開きかけた。
あの時、焼かれた国土を、倒れた国民を見て、カガリは床に崩れ落ち、絞り出すように泣いたのだ。
アスランはあれ以来、カガリが泣くところなど見たことがない。
彼が泣いたのは、オーブが踏みにじられたあの時だけだ。
けれど何も言えなかった。今は何を言ってもシンの怒りは収まらないだろう。
やがてカガリがアスランの肩に軽く触れ、後ろに下がらせた。
「だからおまえは、ザフトに入ったのか?」
シンはそっぽを向いて忌々しそうに言った。
「あんたに答える義理なんかないね」
「そうか…残念だな。おまえのようなヤツこそ、オーブにいて欲しいのに」
「ごめんだね。あんたも俺の敵にならないよう、せいぜい気をつけるんだな」
カガリに促されたアスランは、シンの不遜な物言いに(何を…!)と振り返りそうになったが、カガリに押し留められ、そのまま退室した。
背中で「シン、少し口が過ぎるぞ」というレイの声を聞きながら。
庭園や馬場、ゴルフコースなどを備え持つ広大な敷地の真ん中に、立派な館がそびえ立っている。
ここは、世界中の富が集まる場所…かつてムルタ・アズラエルという資産家が力を持っていた頃、世界はまさに、この館にいる男たちが握っていた。
(それを再び握らせてやったのだ…いいや、それ以上の力をね)
昔から化粧を施して人前に立つのが常のロード・ジブリールは、桁がひとつふたつ多いヴィンテージもののワインに口をつけた。
「まさに未曾有の危機。地球滅亡のシナリオですな」
誰も彼も仕立てのいいスーツを着て、大きな宝石がついた指輪や高価な腕時計をしている。年寄りが多いが、中には少し若い中年の男もいた。
彼らはひそひそと語り合い、時に薄気味悪くくすくすと笑った。
自らを「ロゴス」と称する彼らは、戦争産業を生業とする資産家だ。
表向きはそれぞれが「表の稼業」を持ち、ノブリス・オブリージで慈善事業にも多額の寄付を行いながら、裏では火種や弾薬庫と呼ばれる地域での武器売買や株取引、またそれらで儲けたうなるほどの巨額を綺麗さっぱりロンダリングしてはブクブクと私服を肥やし続けている。
むしろ大戦中よりも局地的な揉め事が多くなった昨今の方が、当事国やザフトの監視が届きにくいため儲かっているくらいだ。
特にイカれているテロ組織は彼らの上得意中の上得意である。
「書いた者がいるのかね?」
その言葉に、ジブリールはふふ、と笑った。
「それはファントムペインに調査を命じて戻らせました。一応」
テロリストなのか、テロならばどこに支援を受けているのか。
それともテロではなく、それこそ誰かのシナリオ通りなのか。
ジブリールはまるで自分だけが全てを知っているようにふふっと笑った。
「やがてこの事態は、世界中の誰もがそう思うこととなるでしょう。一体なぜ、こんなことが起きたのかと」
それを聞き、全員が黙り込んだ。被害の大きさを見れば、世界の混乱は必至だろう。そしてコーディネイターに対する怒りや憎しみも再び燃え上がる。
「ならば我々はそれに答えを与えてやらねば」
既にデュランダル議長は、地球各国に警告を発していた。
最悪の事態の回避に、プラントも全力を挙げるとメッセージを送っている。
若い彼らしい決断の速さと、いつもながら迅速な対応だった。
けれどジブリールはそんな表面上の外交合戦はどうでもいいと言う。
「重要なのはこの災難の後…何故こんなことにと嘆く民衆に、我々が与えてやる『答え』の方でしょう」
「やれやれ、もうそんな先の算段か」
ジブリールが何を言わんとしているかがわかり、どっと空気が緩んだ。
「あんなバカげた塊のために、我々が蒙る被害は甚大でなんと痛ましい」
ジブリールは口ではそう言いながら、本当に逃げ惑い、死んでいく民衆に想いなど馳せていない。ここにいる連中も多かれ少なかれ皆同じだった。
「この屈辱はどうあっても晴らさねばなりますまい…一体、誰に!?当然、あんなものをドカドカ宇宙に作ったコーディネーターどもにです」
とはいえ、いざとなればここにいる連中は宇宙に逃げ出すつもりだろう。
矛盾など考えもせず、彼らが嫌うコーディネイターの領域に…
「避難も脱出もよろしいですが、そのあとには我々は一気に打って出ます。例のプランで。そのことだけは皆様にも御承知おきいただきたくて」
事態が起きてからでは準備が大変なので、今のうちに準備しておくが、よろしいか?ということが言いたかったのだ。
「コーディネーター憎しでかえって力が湧きますかな、民衆は」
「残っていればね」
「残った連中をまとめるのですよ、憎しみという名の愛で…」
生命を生命とも思わないような胸糞の悪い笑いがあたりを包む。
「戦争はいいが、こういうのは困るね」
話し合いがまとまったところで、彼らは皆膝を崩し始めた。
「どちらにせよ、青き清浄なる世界のために…」
ジブリールがニヤリと笑って杯を持ち上げた。
「ヴォルテールとルソーがメテオブレーカーを持って既に先行しています」
レイとアスランの読みどおり、ザフトは急遽、小惑星の破砕に利用する大型掘削機を総動員してユニウスセブンを砕く作業を行う事になった。
ユニウスセブンが地球軌道に乗るまでさほど時間がない。
ミネルバは破砕部隊の支援のため、現場へと向かう。
「地球軍側には何か動きはないのですか?」
アーサーがブリーフィングに参加している議長に尋ねた。
「何をしているのか、まだ何も連絡は受けていないが…だが月からでは艦を出しても間に合わないな」
デュランダルは眼の前の立体航宙図を眺めながら難しい表情で言った。
「あとは軌道に入ったコロニーを地表からミサイルで狙うだろうが…それでは表面を焼くばかりで、さしたる成果は上げられないだろう」
「ということは、やはり我々にかかっているという事ですね」
議長は軽く頷き、全力で事態に当たるよう告げた。
「地球は、我らにとっても母なる大地なのだからな」
部屋に戻ったカガリは、ひどく疲れたようにソファに深く腰掛けた。
「ザフトにもイキのいいのがいると思ったら、純オーブ産とはね」
―― 俺たちが戦ったせいで家族を殺された、か…
親父は最後まで対話を求め、奴ら連合の理不尽さを訴え続けた。
だが、戦ったことで実際あいつのように深い傷を受けた者も多い。
たとえ戦うにしても、あそこまでやってはいけなかったかもしれない。
とはいえすべての者に満足のいく答えを与えるなどできようはずもない。
政治に深く携われば携わるほど、こんな矛盾に苦しむことになる…
「俺、虎みたいにはうまく言い返せなかったなぁ」
カガリは自嘲気味に笑って言った。
虎とはもちろん、アンドリュー・バルトフェルドの事だ。
「俺が虎に詰め寄った時、あいつは俺を軽くいなしたってのに」
「仕方ないわ…わかってくれと言ったところで、今の彼にはわからないでしょう」
アスランは怒りに燃えた赤い瞳を思い出していた。
「きっと、自分の気持ちでいっぱいで…」
(理不尽に家族を奪われ、悲しみと怒りに支配されている)
ユニウスセブンが攻撃されたと知ったあの日…母を永遠に失ったと直感したあの瞬間、心に湧き上がったとてつもない絶望感を思い出し、アスランは眉をひそめた。もう二度と思い出したくもない感覚だった。
「でも、あなたにはわかってるでしょ?カガリ」
「ああ」
頬杖をつきながら、カガリは寂しそうに笑った。
「わかってるよ」
それからアスランを抱き寄せ、「でも…」とため息をついた。
「…少しだけ、こうしていてくれ」
アスランもまた、自分を抱き締めるカガリの背を優しくさすった。
ヴォルテールのブリッジではユニウスセブンの構造図が展開され、効率よく破壊するために指示された座標ポイントを確認していた。
「こうして改めて見ると、デカいな」
緑服を着たディアッカ・エルスマンがポイントの多さに呆れる。
「当たり前だ。住んでるんだぞ、俺たちは。同じような場所に」
アホかおまえはといわんばかりに言ったのはイザーク・ジュールだ。
2年前、宿敵によって深く穿たれた顔の傷跡は綺麗に消されていた。
それを聞いて身長がぐんと伸び、さらに男っぽくなったディアッカが苦笑する。
「それを砕けって今回の仕事が、どんだけ大事か改めてわかったって話だよ」
そして「ヘリオポリスみたいにはいかないのかね?」と懐かしい名前を出すと、イザークが「なら足つきとストライクを呼んでこい!」と応酬したので、ディアッカは楽しそうに大笑いし、イザークも皮肉そうに口角を上げた。
「いいか、たっぷり時間があるわけじゃない。ミネルバも来る。手際よく動けよ」
「了解」
ディアッカは二本指で不真面目な敬礼をするとハンガーへ向かった。
ミネルバもユニウスセブンに近づいたため、破砕作業支援のパイロットは各機体にて待機するようアラートが鳴り響いた。
シンとレイも部屋を出てエレベーターに乗り込んだ。
さっきのアスハとの騒ぎについて、レイはシンに言葉遣いを注意しただけで、特に何も言わない。シンはそれが気になってチラチラとレイを見ていた。
レイはそれに気づいて視線をよこす。
「なんだ?」
「いや…別に」
レイは再び階数表示に眼をやったが、やがてポツリと言った。
「気にするな。俺は気にしていない。おまえの言ったことも正しい」
シンはそう言われて何も答えなかったが、それでもほっとした。
レイは口数は少ないが、いつもこうして自分を認めてくれる。
アスランは眠ってしまったカガリに毛布をかけた。
オーブを出てからというもの、気が張って疲れが溜まっていたのだろう。
アスランは巻かれている包帯に手を伸ばしたが、そのまま握り締めた。
自分がこの傷を負わせてしまった事を思うと、チクリと胸が痛む。
それからそっと部屋を出ると、エレベーター前でルナマリアと鉢合わせた。
「あら…大丈夫ですか?若様は」
アスランはブリッジ階のボタンを押し、ルナマリアに言った。
「彼だって父親も友達も亡くしているのよ。何もわかってないわけじゃないわ」
ふぅん、とルナマリアは面白そうにアスランを見送った。
ブリッジでは、到着シークエンスや、作業開始に伴う友軍との連携など、オペレーターたちが忙しく働いていた。
ヴォルテールとの通信を試みていたメイリンは、司令官席に座る議長がアスランの名を呼んだので振り返った。
代表はおらず、彼女は一人で議長の元に歩み寄った。
「無理を承知でお願い致します。私にもモビルスーツをお貸しください」
「確かに無理な話ね」
それを聞いて答えたのは議長ではなく、艦長だった。
「今は他国の民間人であるあなたに、そんな許可が出せると思って?」
「わかっています。でも、この状況をただ見ていることなどできません」
忌わしいユニウスセブン。アスランはきゅっと拳を握り締めた。
母が眠り、ラクスの体を蝕んだあれが、カガリの故郷である地球に壊滅的な打撃を与えることを、ただ黙って見ているなんてできない。
(私にはできるのだから…ならば、できるだけのことをやりたい)
かつて親友が思い悩んだ「力」を、アスランは自らの意志で使う道を選んだ。
「使える機体があるなら、どうか…」
それでも渋るタリアに、デュランダルが助け舟を出した。
「いいだろう。私が許可しよう。議長権限の特例として」
「ですが、議長…」
議長はタリアに微笑んだ。
「戦闘ではないんだ、艦長。出せる機体は一機でも多い方がいい。腕が確かなのはきみだって知っているだろう?」
表面上は平静を装っていたが、彼は心の中では笑いが止まらなかった。
どうやって呼び込もうかと思っていたら、自ら飛び込んできてくれたのだ…
(迷子は優しく抱き締めてあげなければならないのだよ、タリア)
議長はくれぐれも気をつけて、頑張ってくれと言って彼女を送り出した。
ザクに乗ったディアッカは、他の隊員たちに指示を出して何基もの巨大なメテオブレーカーの運搬を急がせていた。統括指揮はヴォルテールで隊長のイザークが執っているが、前線での細やかな指示はディアッカが行う。
これらを全てをセットしたら同時に爆破し、大地に亀裂を起こして砕くのだ。
「やれやれ、とんだ土木工事だな、こりゃ」
皮肉混じりに呟いたディアッカは、ゲイツRが2機では心もとないからとザクを支援に向かわせたのだが、その途端、爆発の振動を捉えて視線を上げた。
「なにッ!?」
見れば運搬中のメテオブレーカーが攻撃を受けている。
今の爆発は新兵が乗ったゲイツRが攻撃され、爆散したものだった。
ディアッカは一体何が起きたのかと、運搬中のメテオブレーカーに向かう。
ディアッカはゲイツRとザクが応戦している相手を見て思わず叫んだ。
「なんだ、これは!」
それは、見慣れたモビルスーツだった。
「ジンだと?どういうことだ!どこの機体だ!? 」
ディアッカからの連絡を受け、イザークも驚いて叫んだ。
オペレーターが熱紋照合を急いだが、結局IFF応答がなく、機体はジン・ハイマニューバ2型、所属はアンノウンとされた。
「なにぃ?」
こんなところをウロついているということは、ユニウスセブンが動き出した鍵を握っている連中に違いない…イザークは顎を押えた。
だがザフトの機体を使っているとなると話はややこしくなる。
たとえそれがテロリストの偽装だとしても、地球にいる人々に「ザフトが関わった」と知れれば、両者の緊張は一気に高まるだろう。
(面倒なことに…!)
イザークは、忌々しそうに舌打ちした。
一方で、この状況を既にこっそりと「見ている」者もいた。
ミネルバ同様、艦のダメージを航行中に直したガーティ・ルーは、ユニウスセブンでのザフトの交戦状態を見て首をかしげていた。
「ここにザフトのモビルスーツとは、どういう事ですかね」
リーの言葉に、ネオはこれは神の手による物じゃないかもしれんぞと答えた。
「スティングたちを出せ。状況を見たい」
同時にジブリールへの報告のため、記録を録らせることも忘れない。
彼が調査を命じて戻させた部隊…彼らこそ「ファントムペイン」だった。
「粉砕作業の支援っていったって、何すればいいのよ?」
発進3分前のアナウンスが流れるハンガーで、ルナマリアはザクの最終チェックをしているヨウランにあれやこれやと話しかけた。
「やっぱ応援じゃないの?フレー、フレーってさ」
適当にあしらうヨウランに、ふざけないでよと言ってふざけていると、見慣れないパイロットがハンガーにやってきたことに気づいた。
整備が済んだザクの前で、エイブスに何やら説明を受けている。
(アスラン・ザラ…?)
それに気づいたヨウランが「ああ、あれね」と言った。
「あの人も出るんだってさ。作業支援なら一機でも多い方がいいって」
「へぇ~。ま、モビルスーツには乗れるんだもんね」
ルナマリアはじろじろとコックピットに乗り込むアスランを見つめた。
(あっ!あのパイロットスーツ、シンと同じタイプの赤じゃない!)
ルナマリアはむーっと口を尖らせた。
スラリとした長身の彼女のスタイルのよさがこれまた鼻につく。
「え?あいつが?」
一方シンはヴィーノからその情報を聞いていた。
(ルナが聞いた時は、もう乗らないような事言ってたくせに)
気まぐれだからな、女ってのは…シンは人知れず肩をすくめた。
「ちょっとおっかないけどさ、綺麗な人だよなぁ」
ヴィーノがデレついて言うと、シンもニヤリと笑った。
「伝説の女トップガンのお手並み、拝見させてもらおうか」
メイリンは各機体の発進シークエンスチェックと通信チャンネルのチェックを行いながら、緑色のザクに乗り込んだ彼女を気にしていた。
手馴れた様子で機体の最終チェックを行う、見慣れないヘルメット姿の彼女が、モニターに映っている。決まりきったオペレーションとはいえ、憧れの彼女と言葉が交わせると思うと、メイリンの心は小さく踊っていた。
「到着後はジュール隊長の指示に従うよう言ってちょうだい」
発進1分前になり、艦長が4人のパイロットへの伝達事項を伝えた時、バートがヴォルテールからの通信と熱分布をキャッチし、内容を伝えた。
待機中だったパイロットたちが発進シークエンスが進まない事をいぶかしんでいると、そこにメイリンが発進停止を伝えてきた。
「状況変化。ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中」
皆一様に驚いたが、アスランは「ジュール隊」という単語に反応した。
「…イザーク?」
「アンノウン?何と戦ってるんだ?」
シンはメイリンに「もっと情報はないのか?」と尋ねのだが、「何もありません。あちらも、かなり混乱しているらしく…」と、メイリン自身も飛び交う不確定な情報に困惑しているようだった。
「各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を変更してください」
作業だけだからとタカをくくり、身軽に出るつもりだったシンたちは、兵装を整えるために急にバタバタし始めた。
その時、再びアラートが新しい情報を知らせてきた。
別方面からあの、ボギーワンが接近中だというのだ。
「おい、どういう事だよ!?」
シンは再びメイリンに詰め寄ったが、メイリンは首を振った。
「わ、わかりません。しかし、本艦の任務はジュール隊の支援であることに変わりはありません。換装終了次第、各機発進願います。よろしいですか?」
「仕方ない。何かわかったら逐一報告してくれ」
それからシンは指でコツコツとモニターを叩きながら考え込んだ。
「ボギーまでとは」
カオス、ガイア、アビス…あいつらも出てくるだろう、当然。
今まさに地球軌道を目指しているユニウスセブン、地球軍、ザフト、そしてアンノウン…シンは思いを巡らせ、赤い瞳でレーダーを追った。
(この構図はなんだ?何が起きている?)
「状況が変わりましたね。危ないですよ」
一方アスランには、ルナマリアがチャンネルを開いてきた。
「おやめになります?」
にっこりと笑うルナマリアの言葉に、アスランはややムッとする。
「バカにしてるの?」
「まさか。心配してるんです、アスラン・ザラ」
余計なお世話よ…アスランは通信を切ると、先に出る赤いザクを見送った。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
そしてメイリンは最後に、緊張しながら言った。
「進路クリア。発進、どうぞ!」
「アスラン・ザラ、出ます!」
アスランは無意識のうちに本名を名乗っていた。
けれどそれが、今ここにいる自分は本当の自分なのだと実感させてくれた。
機動性の高いZGMF-1017M2ジン・ハイマニューバ2型に乗るのは、大戦の決着に不満を持ち、各地から集結したザフト脱走兵である。
端的に言えば「テロリスト」であるが、彼ら自身は今なおザフトに心から忠誠を誓い、「血のバレンタイン」を起こしたナチュラルからプラントを守る使命に燃えていた頃の「義勇兵」であると信じている。
憎むべきナチュラルを叩き潰す事で、自らが負ったとてつもない痛みを癒そうとしていた彼らにとって、パトリック・ザラ政権は願ってもない強硬姿勢を取ってくれた。
しかし大戦末期、彼のジェネシス作戦によるあわや地球壊滅という甚大な危機を回避して以来、プラントは当然ながら協調路線に転換し、彼ら曰く祖国は「惰弱な負け犬」に成り下がった。
再びプラントが強くなり、ザフトが誇り高く、そしてナチュラルどもにその罪を償わせひれ伏させるために、彼らの血なまぐさい計画は着々と進められていたのだった。
プラントでもユニウスセブンの動きを掴んでおり、対応に追われていた。
徐々に加速する巨大なデブリは、軌道計算上、このままではやがて地球の引力に引かれ、地上への衝突コースをとるという最悪の予測が弾き出された。
ほぼ半分に割れているとはいえ、ユニウスセブンの質量は小惑星に匹敵する。
まずは地球衝突回避の手立てがないか模索され、やがてそれが不可能と判断されると、被害を蒙る地球への警告はどうするのかと評議会は荒れた。
折悪しく、強い求心力を持つデュランダル議長が不在であることも、事態の混乱をさらに助長していた。
休憩に入った者が多く、メイリンが副長とのんびりおしゃべりに興じていた時、緊急通信が入った。最初にそれに気づいたバートがモニターを覗き込んで慌てて副長を呼び、副長はすぐにメイリンに「議長を呼べ」と命じた。
メイリンは議長にあてがわれた士官室に通信を入れたが、彼は不在だった。
艦内モニターで見廻ってもどこにもいない。
とはいえ、まさか仮にも最高評議会議長が艦内を1人でうろうろするとは思えない。
メイリンは指でいくつもの映像をスライドさせていたが、ついに諦めて尋ねた。
「あの、副長?議長って…どこにいるんですか?」
アーサーとバートはその質問に顔を見合わせ、一瞬固まった。
ボギーワンを見失ってから、既に数十時間が過ぎていた。
マッド・エイブスたちの突貫修理によってミネルバのエンジンは回復し、現在航行には全く支障がない。さすがに外装までは手が回らないが、艦内の不具合はすべて順調に修復され、モビルスーツの整備も終了した。
アスハ代表の迎えにと廻させた船とのランデブーも近い。
タリアは豊満で蟲惑的な裸体にシーツを巻きつけ、立ち上がった。
たった今までベッドを共にし、甘い睦言を交わしていた相手の男は、今は小さなタブレットを手にし、インパルスの戦闘データを熱心に読んでいる。
残念ながら強奪部隊を捕らえる事も撃破もできなかったとはいえ、彼は自らの眼で選び、指名したパイロット、シン・アスカの働きぶりにはいたく満足しているようだった。
艦長という立場から見ると、優秀だが我が強く、独断専行も多い天才肌のシンは、部下として扱うのは厄介なのだが…
「レイじゃなくて本当によかったの?」
「いいんだよ…レイにはレイの役割があるのだから」
腕の中に抱いた彼女に夫を裏切らせながら、議長は囁いた。
「きみにも、ミネルバにも、シンにもそれぞれ役割がある」
―― 自分自身の遺伝子が命じる、それぞれにふさわしい役割がね…
組み敷いた女の嬌声を聞きながら、議長はもう1人の、印象深く美しい女の事を考えていた。
(あの魅力的なお嬢さんを手に入れたい)
そして、あんな無能な若僧の元に置いておいては、彼女の輝きは鈍るばかりだと人知れず鼻白んだ。
(シン・アスカとアスラン・ザラ…そしてミネルバが世界を変える)
快楽に溺れながら、議長は揃ってきたピースに想いを馳せた。
シャワールームに向かうタリアを、ブリッジからの緊急通信が引き止めた。
タリアはモニターに近づくと「なに?」と尋ねた。
「艦長、あの…デュランダル議長に最高評議会より…チャンネル1です」
モニターの向こうにはおどおどした顔のメイリン・ホークがいた。
(教えたのはアーサーかしら)
タリアはしどけなく笑うと議長を呼んだ。
デュランダルは立ち上がってモニターに近づき、ありがとうと言った。
「なんだって!?」
案内された艦長室で、カガリは思わず立ち上がった。
「ユニウスセブンが動いてるって…一体なぜ?」
「それはわかりません。だが動いているのです。それもかなりの速度で…最も危険な軌道を」
議長は困惑したような表情で説明した。
つい先ほどまで彼に抱かれていたことなど微塵も感じさせないタリアが、既にミネルバでもその動きを確認したとデータを示した。
「しかし、なぜそんなことに?」
今回はカガリが強引に自分の隣に座らせたアスランが、少し遠慮がちに尋ねた。
「あれは100年の単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので…」
ザフトの綿密な調査結果は公式なものとしてそう発表されている。
だからこそ今回のこの事態がプラントを混乱と苦悩に陥れているのだ。
「隕石の衝突か、はたまた他の要因か…ともかく動いてるんですよ。今この時も。地球に向かってね」
カガリは腰を落とすと、顔の前で両手を組んだ。
考えたくないことを確かめねばならないので、心を落ち着かせているようだ。
「…落ちたら…落ちたら、どうなるんだ?オーブは…いや、地球は…」
アスランも軽く息を吸い込み、カガリを、そして議長を見つめた。
「あれだけの質量のものです」
議長はゆっくりと、残酷で冷酷な事実を告げた。
「…申し上げずとも、それは若君にもおわかりでしょう」
もしコロニーが地上を直撃すれば、未曾有の大惨事となる事は必至だ。
大地への損傷、津波、磁場の乱れ、天候不順…傷ついた人や生物は、イリジウムや塵芥が太陽を遮り、寒冷化した地球で耐えられるのか…一体どれほどの被害になるのか見当すらつかない。カガリは絶句した。
「原因の究明や回避手段の模索に、今、プラントは全力を挙げています」
デュランダルは力強く言った。
彼の的確な指示でプラントは動き出し、あらゆる学者や識者が対応策を練り始めている。ザフトでも何ができるのかとさっそく検討に入っていた。
デュランダルはさらに、今現在ユニウスセブンに最も近い場所にいる部隊に特命を出したことを告げ、2人は思い当たって顔を見合わせた。
―― ミネルバか…!
「若君にも、どうかそれを御了承いただきたいと」
「無論だ。これは私たちにとっても…いや、むしろこちらにとっての重大事だぞ」
カガリは思わず身を乗り出した。
「俺…私にも何かできることがあるのなら…」
「お気持ちはわかりますが、どうか落ち着いてください、若君」
議長はふっと微笑み、カガリの肩を叩いた。
「お力をお借りしたいことがあれば、こちらかも申し上げます」
「難しくはありますが、御国元とも直接連絡の取れるよう試みてみます」
タリアはまた、この状況により今こちらに向かっている艦とはランデブーができなくなったので、改めて迎えの艦をよこすよう要請したと説明した。
一方議長は艦長の説明に聞き入っているアスランをチラリと見た。
(そう、「きみの力」を借りたい時は…ね)
既にもう一つ、布石を打ってある。彼女もきっと久闊を叙する事だろう。
「ふーん…けど、何であれが?」
ヴィーノが缶ジュースを飲みながら尋ねた。
ここ十数時間、休みらしい休みも取れなかった整備の2人がようやく休憩を取っていいと言われたので、同期の連中が休憩室に集っていた。
「隕石でも当たったか、何かの影響で軌道がずれたか…」
でも安定軌道から逸れるなんて考えらんないけどなとヨウランが言う。
シンはこの間の借りを返せとルナマリアにコーヒーをおごらせていた。
「地球への衝突コースだって、本当なのか?」
おごれおごれって、何度目よとブツブツ言うルナマリアが弟の隣に座り、メイリンはシンの質問に頷いて「バートさんがそうだって」と答えた。
ルナマリアは両手を広げ、やれやれという態で嘆いた。
「はぁ~、アーモリーでは強奪騒ぎだし、それもまだ片づいてないのに、今度はこれ?どうなっちゃってんの」
そのまま、「で?今度はそのユニウスセブンをどうすればいいの?」と聞く。
ヨウランもヴィーノも、情報として聞いただけで対応策など知らない。
するとレイが言った。
「砕くしかない」
「砕く?」
艦長室を出て歩き出したカガリがどうしたらいいんだろうとつぶやくと、アスランもまたレイと全く同じ答えを返した。
「軌道の変更は多分不可能よ。衝突を回避するには、砕くしかないわ」
2人はシンたちがいる休憩室に近づきつつあった。
「デカいぜ、あれ?最長部は8キロは…」
ヨウランが言うと、大体どうやって砕くのとヴィーノも困惑して聞いた。
そこに遠慮がちに、メイリンがおずおずと口を挟んだ。
「それに…あそこにはまだ、死んだ人たちの遺体もたくさん…」
風化することもなく、劣化することもない遺体が眠っている。
「だが衝突すれば地球は壊滅する。そうなれば何も残らないぞ」
レイは別に冷たく言い放っているわけではないのだが、感情を抑え、抑揚なく喋る彼の言葉が、真実を残酷に突きつける。
「地球滅亡…」
「…だな」
「そんな…」
「最悪じゃない…」
仲間たちは沈黙し、シンは手に持ったコーヒーを飲み干した。
「…でもまぁ、しょうがないっちゃしょうがないか?」
その重苦しい沈黙を破ろうとして、ヨウランが明るい声で話し始めた。
ヴィーノが「よせって」と声をひそめていさめたが、ヨウランは「だってさぁ」と肩をすくめた。
「不可抗力だろ?けど変なゴタゴタもきれいに片付いて、案外ラクかも。俺たちプラントには」
ルナマリアが「ちょっと!」と睨み、ヴィーノも慌てて彼を肘で小突く。
レイも視線を逸らしたが、シンは(お調子者のヨウランらしいな)と思った。
「よくそんな事が言えるな、おまえたちは」
聞き慣れない声に、一同は驚いてそちらを見た。
部屋の入り口に、カガリ・ユラ・アスハが立っていた。
仮にも彼は国家元首であるから、全員が立ち上がって敬礼する。
「しょうがないことだし、ゴタゴタが片付いて、案外ラクか?」
彼の言葉に、ルナマリアたちは言葉に詰まり、皆思わず顔を伏せた。
そのまま彼を見つめているのは、窓際のシンとレイだけだった。
「これがどんな事態か、地球がどうなるか」
カガリはつかつかと彼らの元に歩み寄ってきた。
「どれだけの人間が死ぬことになるか…本当にわかって言ってるのか?」
彼が穏やかな表情のまま、静かな声で言うことはもっともなので、ヨウランは下を向いたまま「…すいません」と謝罪の言葉を述べた。
カガリは謝罪を受け入れた証に頷いてみせたが、さらに言葉を続けた。
「だけど、やはりそういう考えもあるというのは残念だな」
アスランは、平静を保とうとしているように見えるカガリが、拳を握り締め、それが小刻みに震えていることに気づいていた。
「おまえたちも、あれだけの戦争をして、あれだけの想いをして、やっとデュランダル議長の施政の下で変わったんだろう?」
「カガリ…」
アスランはカガリの袖を引いて止めた。
「それとも、結局は何も変わらないってことか?」
「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも」
何も言い返せない仲間たちに代わり、窓際で腕を組んでいたシンが答えた。
「それくらいのこともわかんないのかよ、あんたは」
燃えるような赤い瞳と、煌く琥珀色の瞳がぶつかった。
カガリは少し面白そうに口の端をあげた。
「ならおまえも、この間は本気で言ったんじゃないのか?」
「…?何のことだ?」
シンは腕を下ろすと尋ねた。
「俺が言ったことは奇麗事だと言ったろ」
「ああ…」
シンは今気づいたとでも言わんばかりに大げさに言った。
「あんたたちアスハのお家芸のことか」
「シン、言葉に気をつけろ」
レイがシンをたしなめ、アスランもまたカガリの前に体を滑らせた。
「あ、そうでした。この人、偉いんでした。オーブの代表でしたもんね」
「ずいぶん威勢がいいんだな」
カガリもまたアスランの肩を退けながら言った。
「それとも、ザフトのエースが達者なのは口だけか?」
「…カガリ!」
アスランは厳しい声音で彼の名を呼んだ。
カガリはそれを聞いて口をつぐんだが、シンはまだ彼を睨んでいる。
「あなたはオーブが大分嫌いなようだけど、なぜなの?」
アスランはシンの方を向き直ると、少し強い口調で言った。
「昔、オーブにいたとは聞いたけれど…もし、くだらない理由で関係ない代表にまで突っかかるというのなら、ただではおかないわ」
「…くだらない?」
シンの瞳がカガリからアスランに移された。
なんという激しい色だろう…アスランはその憤怒に満ちた瞳に一瞬戸惑う。
「くだらないなんて言わせるか!関係ないってのも大間違いだね!」
シンは身を乗り出し、声を荒げた。
「俺の家族は、アスハに殺されたんだ!」
シンの言葉が、空間を鋭く斬り裂いた。
「国を信じて…あんたたちの理想とかってのを信じて!」
一瞬で死んだ父と母。
体さえ残らなかった妹…
「そして最後の最後に、ボロボロで殺された!!」
どれほどの時間、あの光景が繰り返される悪夢に苦しめられたことか。
食べることも眠ることもできず、このまま死んでしまいたいとさえ思った。
ルナマリアやメイリンは、激しい怒りをぶつけるシンに驚いていた。
シンは過去を語りたがらず、ただ、オーブをひどく憎んでいた。
今、眼の前でオーブ代表に怒りと憎しみをぶちまけるシンを見て、皆息をひそめて黙りこくっている。
この件の発端となったヨウランなど、もう今にも逃げ出しそうだ。
アスランとレイだけがこの場で落ち着いて事態を見守っていた。
「だから俺はあんたたちを信じない。オーブなんて国も信じない。そんなあんたたちの言う、綺麗事を信じない!」
バキッという音がして、シンの握力が空き缶を握りつぶした。
「この国の正義を貫くって…」
シンはマユと一緒に聞いたウズミ・ナラ・アスハの言葉を思い出した。
彼はオーブの理念を守り、正義のために戦うのだと言ったのだ。
「あんたたちだってあの時、自分たちのその言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
シンは握りつぶした空き缶をそのまま床に投げつけた。
「何もわかってないヤツが、わかってるような事を言わないで欲しいね!」
その言葉を聞いて、アスランは思わず口を開きかけた。
あの時、焼かれた国土を、倒れた国民を見て、カガリは床に崩れ落ち、絞り出すように泣いたのだ。
アスランはあれ以来、カガリが泣くところなど見たことがない。
彼が泣いたのは、オーブが踏みにじられたあの時だけだ。
けれど何も言えなかった。今は何を言ってもシンの怒りは収まらないだろう。
やがてカガリがアスランの肩に軽く触れ、後ろに下がらせた。
「だからおまえは、ザフトに入ったのか?」
シンはそっぽを向いて忌々しそうに言った。
「あんたに答える義理なんかないね」
「そうか…残念だな。おまえのようなヤツこそ、オーブにいて欲しいのに」
「ごめんだね。あんたも俺の敵にならないよう、せいぜい気をつけるんだな」
カガリに促されたアスランは、シンの不遜な物言いに(何を…!)と振り返りそうになったが、カガリに押し留められ、そのまま退室した。
背中で「シン、少し口が過ぎるぞ」というレイの声を聞きながら。
庭園や馬場、ゴルフコースなどを備え持つ広大な敷地の真ん中に、立派な館がそびえ立っている。
ここは、世界中の富が集まる場所…かつてムルタ・アズラエルという資産家が力を持っていた頃、世界はまさに、この館にいる男たちが握っていた。
(それを再び握らせてやったのだ…いいや、それ以上の力をね)
昔から化粧を施して人前に立つのが常のロード・ジブリールは、桁がひとつふたつ多いヴィンテージもののワインに口をつけた。
「まさに未曾有の危機。地球滅亡のシナリオですな」
誰も彼も仕立てのいいスーツを着て、大きな宝石がついた指輪や高価な腕時計をしている。年寄りが多いが、中には少し若い中年の男もいた。
彼らはひそひそと語り合い、時に薄気味悪くくすくすと笑った。
自らを「ロゴス」と称する彼らは、戦争産業を生業とする資産家だ。
表向きはそれぞれが「表の稼業」を持ち、ノブリス・オブリージで慈善事業にも多額の寄付を行いながら、裏では火種や弾薬庫と呼ばれる地域での武器売買や株取引、またそれらで儲けたうなるほどの巨額を綺麗さっぱりロンダリングしてはブクブクと私服を肥やし続けている。
むしろ大戦中よりも局地的な揉め事が多くなった昨今の方が、当事国やザフトの監視が届きにくいため儲かっているくらいだ。
特にイカれているテロ組織は彼らの上得意中の上得意である。
「書いた者がいるのかね?」
その言葉に、ジブリールはふふ、と笑った。
「それはファントムペインに調査を命じて戻らせました。一応」
テロリストなのか、テロならばどこに支援を受けているのか。
それともテロではなく、それこそ誰かのシナリオ通りなのか。
ジブリールはまるで自分だけが全てを知っているようにふふっと笑った。
「やがてこの事態は、世界中の誰もがそう思うこととなるでしょう。一体なぜ、こんなことが起きたのかと」
それを聞き、全員が黙り込んだ。被害の大きさを見れば、世界の混乱は必至だろう。そしてコーディネイターに対する怒りや憎しみも再び燃え上がる。
「ならば我々はそれに答えを与えてやらねば」
既にデュランダル議長は、地球各国に警告を発していた。
最悪の事態の回避に、プラントも全力を挙げるとメッセージを送っている。
若い彼らしい決断の速さと、いつもながら迅速な対応だった。
けれどジブリールはそんな表面上の外交合戦はどうでもいいと言う。
「重要なのはこの災難の後…何故こんなことにと嘆く民衆に、我々が与えてやる『答え』の方でしょう」
「やれやれ、もうそんな先の算段か」
ジブリールが何を言わんとしているかがわかり、どっと空気が緩んだ。
「あんなバカげた塊のために、我々が蒙る被害は甚大でなんと痛ましい」
ジブリールは口ではそう言いながら、本当に逃げ惑い、死んでいく民衆に想いなど馳せていない。ここにいる連中も多かれ少なかれ皆同じだった。
「この屈辱はどうあっても晴らさねばなりますまい…一体、誰に!?当然、あんなものをドカドカ宇宙に作ったコーディネーターどもにです」
とはいえ、いざとなればここにいる連中は宇宙に逃げ出すつもりだろう。
矛盾など考えもせず、彼らが嫌うコーディネイターの領域に…
「避難も脱出もよろしいですが、そのあとには我々は一気に打って出ます。例のプランで。そのことだけは皆様にも御承知おきいただきたくて」
事態が起きてからでは準備が大変なので、今のうちに準備しておくが、よろしいか?ということが言いたかったのだ。
「コーディネーター憎しでかえって力が湧きますかな、民衆は」
「残っていればね」
「残った連中をまとめるのですよ、憎しみという名の愛で…」
生命を生命とも思わないような胸糞の悪い笑いがあたりを包む。
「戦争はいいが、こういうのは困るね」
話し合いがまとまったところで、彼らは皆膝を崩し始めた。
「どちらにせよ、青き清浄なる世界のために…」
ジブリールがニヤリと笑って杯を持ち上げた。
「ヴォルテールとルソーがメテオブレーカーを持って既に先行しています」
レイとアスランの読みどおり、ザフトは急遽、小惑星の破砕に利用する大型掘削機を総動員してユニウスセブンを砕く作業を行う事になった。
ユニウスセブンが地球軌道に乗るまでさほど時間がない。
ミネルバは破砕部隊の支援のため、現場へと向かう。
「地球軍側には何か動きはないのですか?」
アーサーがブリーフィングに参加している議長に尋ねた。
「何をしているのか、まだ何も連絡は受けていないが…だが月からでは艦を出しても間に合わないな」
デュランダルは眼の前の立体航宙図を眺めながら難しい表情で言った。
「あとは軌道に入ったコロニーを地表からミサイルで狙うだろうが…それでは表面を焼くばかりで、さしたる成果は上げられないだろう」
「ということは、やはり我々にかかっているという事ですね」
議長は軽く頷き、全力で事態に当たるよう告げた。
「地球は、我らにとっても母なる大地なのだからな」
部屋に戻ったカガリは、ひどく疲れたようにソファに深く腰掛けた。
「ザフトにもイキのいいのがいると思ったら、純オーブ産とはね」
―― 俺たちが戦ったせいで家族を殺された、か…
親父は最後まで対話を求め、奴ら連合の理不尽さを訴え続けた。
だが、戦ったことで実際あいつのように深い傷を受けた者も多い。
たとえ戦うにしても、あそこまでやってはいけなかったかもしれない。
とはいえすべての者に満足のいく答えを与えるなどできようはずもない。
政治に深く携われば携わるほど、こんな矛盾に苦しむことになる…
「俺、虎みたいにはうまく言い返せなかったなぁ」
カガリは自嘲気味に笑って言った。
虎とはもちろん、アンドリュー・バルトフェルドの事だ。
「俺が虎に詰め寄った時、あいつは俺を軽くいなしたってのに」
「仕方ないわ…わかってくれと言ったところで、今の彼にはわからないでしょう」
アスランは怒りに燃えた赤い瞳を思い出していた。
「きっと、自分の気持ちでいっぱいで…」
(理不尽に家族を奪われ、悲しみと怒りに支配されている)
ユニウスセブンが攻撃されたと知ったあの日…母を永遠に失ったと直感したあの瞬間、心に湧き上がったとてつもない絶望感を思い出し、アスランは眉をひそめた。もう二度と思い出したくもない感覚だった。
「でも、あなたにはわかってるでしょ?カガリ」
「ああ」
頬杖をつきながら、カガリは寂しそうに笑った。
「わかってるよ」
それからアスランを抱き寄せ、「でも…」とため息をついた。
「…少しだけ、こうしていてくれ」
アスランもまた、自分を抱き締めるカガリの背を優しくさすった。
ヴォルテールのブリッジではユニウスセブンの構造図が展開され、効率よく破壊するために指示された座標ポイントを確認していた。
「こうして改めて見ると、デカいな」
緑服を着たディアッカ・エルスマンがポイントの多さに呆れる。
「当たり前だ。住んでるんだぞ、俺たちは。同じような場所に」
アホかおまえはといわんばかりに言ったのはイザーク・ジュールだ。
2年前、宿敵によって深く穿たれた顔の傷跡は綺麗に消されていた。
それを聞いて身長がぐんと伸び、さらに男っぽくなったディアッカが苦笑する。
「それを砕けって今回の仕事が、どんだけ大事か改めてわかったって話だよ」
そして「ヘリオポリスみたいにはいかないのかね?」と懐かしい名前を出すと、イザークが「なら足つきとストライクを呼んでこい!」と応酬したので、ディアッカは楽しそうに大笑いし、イザークも皮肉そうに口角を上げた。
「いいか、たっぷり時間があるわけじゃない。ミネルバも来る。手際よく動けよ」
「了解」
ディアッカは二本指で不真面目な敬礼をするとハンガーへ向かった。
ミネルバもユニウスセブンに近づいたため、破砕作業支援のパイロットは各機体にて待機するようアラートが鳴り響いた。
シンとレイも部屋を出てエレベーターに乗り込んだ。
さっきのアスハとの騒ぎについて、レイはシンに言葉遣いを注意しただけで、特に何も言わない。シンはそれが気になってチラチラとレイを見ていた。
レイはそれに気づいて視線をよこす。
「なんだ?」
「いや…別に」
レイは再び階数表示に眼をやったが、やがてポツリと言った。
「気にするな。俺は気にしていない。おまえの言ったことも正しい」
シンはそう言われて何も答えなかったが、それでもほっとした。
レイは口数は少ないが、いつもこうして自分を認めてくれる。
アスランは眠ってしまったカガリに毛布をかけた。
オーブを出てからというもの、気が張って疲れが溜まっていたのだろう。
アスランは巻かれている包帯に手を伸ばしたが、そのまま握り締めた。
自分がこの傷を負わせてしまった事を思うと、チクリと胸が痛む。
それからそっと部屋を出ると、エレベーター前でルナマリアと鉢合わせた。
「あら…大丈夫ですか?若様は」
アスランはブリッジ階のボタンを押し、ルナマリアに言った。
「彼だって父親も友達も亡くしているのよ。何もわかってないわけじゃないわ」
ふぅん、とルナマリアは面白そうにアスランを見送った。
ブリッジでは、到着シークエンスや、作業開始に伴う友軍との連携など、オペレーターたちが忙しく働いていた。
ヴォルテールとの通信を試みていたメイリンは、司令官席に座る議長がアスランの名を呼んだので振り返った。
代表はおらず、彼女は一人で議長の元に歩み寄った。
「無理を承知でお願い致します。私にもモビルスーツをお貸しください」
「確かに無理な話ね」
それを聞いて答えたのは議長ではなく、艦長だった。
「今は他国の民間人であるあなたに、そんな許可が出せると思って?」
「わかっています。でも、この状況をただ見ていることなどできません」
忌わしいユニウスセブン。アスランはきゅっと拳を握り締めた。
母が眠り、ラクスの体を蝕んだあれが、カガリの故郷である地球に壊滅的な打撃を与えることを、ただ黙って見ているなんてできない。
(私にはできるのだから…ならば、できるだけのことをやりたい)
かつて親友が思い悩んだ「力」を、アスランは自らの意志で使う道を選んだ。
「使える機体があるなら、どうか…」
それでも渋るタリアに、デュランダルが助け舟を出した。
「いいだろう。私が許可しよう。議長権限の特例として」
「ですが、議長…」
議長はタリアに微笑んだ。
「戦闘ではないんだ、艦長。出せる機体は一機でも多い方がいい。腕が確かなのはきみだって知っているだろう?」
表面上は平静を装っていたが、彼は心の中では笑いが止まらなかった。
どうやって呼び込もうかと思っていたら、自ら飛び込んできてくれたのだ…
(迷子は優しく抱き締めてあげなければならないのだよ、タリア)
議長はくれぐれも気をつけて、頑張ってくれと言って彼女を送り出した。
ザクに乗ったディアッカは、他の隊員たちに指示を出して何基もの巨大なメテオブレーカーの運搬を急がせていた。統括指揮はヴォルテールで隊長のイザークが執っているが、前線での細やかな指示はディアッカが行う。
これらを全てをセットしたら同時に爆破し、大地に亀裂を起こして砕くのだ。
「やれやれ、とんだ土木工事だな、こりゃ」
皮肉混じりに呟いたディアッカは、ゲイツRが2機では心もとないからとザクを支援に向かわせたのだが、その途端、爆発の振動を捉えて視線を上げた。
「なにッ!?」
見れば運搬中のメテオブレーカーが攻撃を受けている。
今の爆発は新兵が乗ったゲイツRが攻撃され、爆散したものだった。
ディアッカは一体何が起きたのかと、運搬中のメテオブレーカーに向かう。
ディアッカはゲイツRとザクが応戦している相手を見て思わず叫んだ。
「なんだ、これは!」
それは、見慣れたモビルスーツだった。
「ジンだと?どういうことだ!どこの機体だ!? 」
ディアッカからの連絡を受け、イザークも驚いて叫んだ。
オペレーターが熱紋照合を急いだが、結局IFF応答がなく、機体はジン・ハイマニューバ2型、所属はアンノウンとされた。
「なにぃ?」
こんなところをウロついているということは、ユニウスセブンが動き出した鍵を握っている連中に違いない…イザークは顎を押えた。
だがザフトの機体を使っているとなると話はややこしくなる。
たとえそれがテロリストの偽装だとしても、地球にいる人々に「ザフトが関わった」と知れれば、両者の緊張は一気に高まるだろう。
(面倒なことに…!)
イザークは、忌々しそうに舌打ちした。
一方で、この状況を既にこっそりと「見ている」者もいた。
ミネルバ同様、艦のダメージを航行中に直したガーティ・ルーは、ユニウスセブンでのザフトの交戦状態を見て首をかしげていた。
「ここにザフトのモビルスーツとは、どういう事ですかね」
リーの言葉に、ネオはこれは神の手による物じゃないかもしれんぞと答えた。
「スティングたちを出せ。状況を見たい」
同時にジブリールへの報告のため、記録を録らせることも忘れない。
彼が調査を命じて戻させた部隊…彼らこそ「ファントムペイン」だった。
「粉砕作業の支援っていったって、何すればいいのよ?」
発進3分前のアナウンスが流れるハンガーで、ルナマリアはザクの最終チェックをしているヨウランにあれやこれやと話しかけた。
「やっぱ応援じゃないの?フレー、フレーってさ」
適当にあしらうヨウランに、ふざけないでよと言ってふざけていると、見慣れないパイロットがハンガーにやってきたことに気づいた。
整備が済んだザクの前で、エイブスに何やら説明を受けている。
(アスラン・ザラ…?)
それに気づいたヨウランが「ああ、あれね」と言った。
「あの人も出るんだってさ。作業支援なら一機でも多い方がいいって」
「へぇ~。ま、モビルスーツには乗れるんだもんね」
ルナマリアはじろじろとコックピットに乗り込むアスランを見つめた。
(あっ!あのパイロットスーツ、シンと同じタイプの赤じゃない!)
ルナマリアはむーっと口を尖らせた。
スラリとした長身の彼女のスタイルのよさがこれまた鼻につく。
「え?あいつが?」
一方シンはヴィーノからその情報を聞いていた。
(ルナが聞いた時は、もう乗らないような事言ってたくせに)
気まぐれだからな、女ってのは…シンは人知れず肩をすくめた。
「ちょっとおっかないけどさ、綺麗な人だよなぁ」
ヴィーノがデレついて言うと、シンもニヤリと笑った。
「伝説の女トップガンのお手並み、拝見させてもらおうか」
メイリンは各機体の発進シークエンスチェックと通信チャンネルのチェックを行いながら、緑色のザクに乗り込んだ彼女を気にしていた。
手馴れた様子で機体の最終チェックを行う、見慣れないヘルメット姿の彼女が、モニターに映っている。決まりきったオペレーションとはいえ、憧れの彼女と言葉が交わせると思うと、メイリンの心は小さく踊っていた。
「到着後はジュール隊長の指示に従うよう言ってちょうだい」
発進1分前になり、艦長が4人のパイロットへの伝達事項を伝えた時、バートがヴォルテールからの通信と熱分布をキャッチし、内容を伝えた。
待機中だったパイロットたちが発進シークエンスが進まない事をいぶかしんでいると、そこにメイリンが発進停止を伝えてきた。
「状況変化。ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中」
皆一様に驚いたが、アスランは「ジュール隊」という単語に反応した。
「…イザーク?」
「アンノウン?何と戦ってるんだ?」
シンはメイリンに「もっと情報はないのか?」と尋ねのだが、「何もありません。あちらも、かなり混乱しているらしく…」と、メイリン自身も飛び交う不確定な情報に困惑しているようだった。
「各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を変更してください」
作業だけだからとタカをくくり、身軽に出るつもりだったシンたちは、兵装を整えるために急にバタバタし始めた。
その時、再びアラートが新しい情報を知らせてきた。
別方面からあの、ボギーワンが接近中だというのだ。
「おい、どういう事だよ!?」
シンは再びメイリンに詰め寄ったが、メイリンは首を振った。
「わ、わかりません。しかし、本艦の任務はジュール隊の支援であることに変わりはありません。換装終了次第、各機発進願います。よろしいですか?」
「仕方ない。何かわかったら逐一報告してくれ」
それからシンは指でコツコツとモニターを叩きながら考え込んだ。
「ボギーまでとは」
カオス、ガイア、アビス…あいつらも出てくるだろう、当然。
今まさに地球軌道を目指しているユニウスセブン、地球軍、ザフト、そしてアンノウン…シンは思いを巡らせ、赤い瞳でレーダーを追った。
(この構図はなんだ?何が起きている?)
「状況が変わりましたね。危ないですよ」
一方アスランには、ルナマリアがチャンネルを開いてきた。
「おやめになります?」
にっこりと笑うルナマリアの言葉に、アスランはややムッとする。
「バカにしてるの?」
「まさか。心配してるんです、アスラン・ザラ」
余計なお世話よ…アスランは通信を切ると、先に出る赤いザクを見送った。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
そしてメイリンは最後に、緊張しながら言った。
「進路クリア。発進、どうぞ!」
「アスラン・ザラ、出ます!」
アスランは無意識のうちに本名を名乗っていた。
けれどそれが、今ここにいる自分は本当の自分なのだと実感させてくれた。
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制作裏話-PHASE5-
さて、PHASE5といえば盛りだくさんでした。
まずはユニウスセブン、そしてシンVSカガリの第2ラウンド、さらにジブリール登場にイザークとディアッカが1年のブランクを経て復活しました。
もちろんタリアとデュランダルの肉体関係にもビックリでした。BPOに再び挑戦するかのような土6の尻。この時点では独身と思われていたタリアが既婚者で、しかも母親だったとわかるのはもう少し先です。
議長はといえば、アスランに執着し始めます。男女を逆転してしまうと、まるで議長が「愛人にする気満々」みたいに見えてちょっと苦笑ものなのですが、議長としてはアスランをシンと共に「英雄」となるべき人物と見ており、尚且つ「最強の敵」ラクス・クラインに対抗しうる「ジョーカー」だと思っているので仕方がありません(しかし本編での彼は本当にジョーカーでしたね…ただし、チートなカードではなく、まーさーに「ババ」でしたけど!)
また、本編ではやはりわかりにくかったアスランの「モビルスーツに乗る」という意思については、似たような境遇にあるシンと自分、そして因縁深いユニウスセブンとカガリの故郷である地球、というように関連付けて示しました。
シンとカガリの対決は、本編でのカガリがあまりにもギャンギャンうるさくてウンザリだったので、逆に互いに挑発しあい、より喧嘩らしいものにしました。
シンのセリフはいじっていませんが、カガリが彼の怒りをきちんと受け止められるかどうかで、このセリフの意味って少し変わってくるなと感じました。つまり、カガリがこの怒りを受け止められると、シンが「ただのキレキャラ」ではなくなるという事です。だってこれによって両者は対等にケンカできるわけですから。
そしてここで「カガリは泣かない」ということをアスランに語らせています。父の死にも涙を見せなかった彼を泣かせたのは、失われつつあった祖国オーブ、そして…
カガリは本編のようにただ言い負かされて終わりではなく、「おまえがオーブにいてくれたらな」と言い残して去っていきます。
けれどこれは精一杯の強がりでした。
本編では泣きながらアスランに抱きつき、その後Bパートではベッドに寝かしつけられていたカガリですが、逆デスではアスランを抱き寄せて安らぎを得ます。もちろん泣いたりしませんよ。
なお、カガリが虎を引き合いに出すのは、逆種で2人が出会った時(逆転ではキラではなく、カガリが先に虎と語り合う)から決めていました。ネオがどうも扱いにくい分、本編後半では完全に空気だった虎には結構いいポジションにいてもらっていました。良くも悪くも、不惑って大事ですね。
さて、本放映時にはいよいよ待ちに待ったイザークとディアッカも出てきました。
ディアッカは、正式には降格ではなく、一般兵として再入隊したという設定らしいのですが、やっぱり赤服から緑服じゃ降格に見えますよね。でもまさに軍服風の裾の短い緑も結構似合ってると思います。
ヘリオポリスの会話のくだりは創作ですが、こんな会話があったらニヤニヤしてしまいますよね。
総監督のイザークと現場監督のディアッカですが、「誇り高きザフト軍人」を自称するサトーたちのジン・ハイマニューバ2型に襲われて窮地に陥ります。まさに風雲は急を告げ、地球存亡の危機が迫ります。
同じ頃、アスランも出撃準備に入っています。
彼女に勝手に嫉妬しているルナマリアも、ロートルの登場に鼻白むシンも、本編以上にアスランに対し冷ややかです。むしろこの時点ならこっちの方が普通ではないかと思うのですが…
まだまだ苦しみながら書いていますが、この頃はようやく、シンを希望通り書けていると自信がついてきました。
また、読んで頂いている方にはお分かりかと思いますが、私はヨウランやヴィーノにもかなり出番を与え、キャラクターに肉付けをしています。絶望のどん底にいた一人ぼっちのシンを救ったのは「仲間たち」なのですから、これは当然だと思います。そして同時に、仲良しの友達がいるのに孤独だったキラと対比させようと思っていました。
ミネルバクルーにもアークエンジェルクルーくらいは個性をつけたかったのですが、アーサーが一人気を吐いたとはいえ、ほとんど無理でしたね。ヴィーノたちと絡めてエイブス、メイリンと絡めてバートを少し出すくらいで、アークエンジェルにシフトした後半は、種本編のトノムラやチャンドラたちくらい出番がなくなりました(私は逆種ではサイやミリアリアに偏りがちのセリフを振り分け、彼らも満遍なく出しました)
ジブリールについては…ここはセリフもほとんど改変してません。早めの登場は「アズラエルが出てきたのが遅過ぎた」という教訓からなのでしょうが、なんとなくずーっと「キモいオッサン」のままで終わった気がします。ラスボスは結局議長だったし。
さて次回はいよいよキラが登場します。セリフはありませんが、やっとキラが出てくるとホッとするってのも「どうなんだ、自分!」と思ったものです(逆転のキラにゃんは好きですが、本編のキラきゅんについては筋金入りのアンチです)
まずはユニウスセブン、そしてシンVSカガリの第2ラウンド、さらにジブリール登場にイザークとディアッカが1年のブランクを経て復活しました。
もちろんタリアとデュランダルの肉体関係にもビックリでした。BPOに再び挑戦するかのような土6の尻。この時点では独身と思われていたタリアが既婚者で、しかも母親だったとわかるのはもう少し先です。
議長はといえば、アスランに執着し始めます。男女を逆転してしまうと、まるで議長が「愛人にする気満々」みたいに見えてちょっと苦笑ものなのですが、議長としてはアスランをシンと共に「英雄」となるべき人物と見ており、尚且つ「最強の敵」ラクス・クラインに対抗しうる「ジョーカー」だと思っているので仕方がありません(しかし本編での彼は本当にジョーカーでしたね…ただし、チートなカードではなく、まーさーに「ババ」でしたけど!)
また、本編ではやはりわかりにくかったアスランの「モビルスーツに乗る」という意思については、似たような境遇にあるシンと自分、そして因縁深いユニウスセブンとカガリの故郷である地球、というように関連付けて示しました。
シンとカガリの対決は、本編でのカガリがあまりにもギャンギャンうるさくてウンザリだったので、逆に互いに挑発しあい、より喧嘩らしいものにしました。
シンのセリフはいじっていませんが、カガリが彼の怒りをきちんと受け止められるかどうかで、このセリフの意味って少し変わってくるなと感じました。つまり、カガリがこの怒りを受け止められると、シンが「ただのキレキャラ」ではなくなるという事です。だってこれによって両者は対等にケンカできるわけですから。
そしてここで「カガリは泣かない」ということをアスランに語らせています。父の死にも涙を見せなかった彼を泣かせたのは、失われつつあった祖国オーブ、そして…
カガリは本編のようにただ言い負かされて終わりではなく、「おまえがオーブにいてくれたらな」と言い残して去っていきます。
けれどこれは精一杯の強がりでした。
本編では泣きながらアスランに抱きつき、その後Bパートではベッドに寝かしつけられていたカガリですが、逆デスではアスランを抱き寄せて安らぎを得ます。もちろん泣いたりしませんよ。
なお、カガリが虎を引き合いに出すのは、逆種で2人が出会った時(逆転ではキラではなく、カガリが先に虎と語り合う)から決めていました。ネオがどうも扱いにくい分、本編後半では完全に空気だった虎には結構いいポジションにいてもらっていました。良くも悪くも、不惑って大事ですね。
さて、本放映時にはいよいよ待ちに待ったイザークとディアッカも出てきました。
ディアッカは、正式には降格ではなく、一般兵として再入隊したという設定らしいのですが、やっぱり赤服から緑服じゃ降格に見えますよね。でもまさに軍服風の裾の短い緑も結構似合ってると思います。
ヘリオポリスの会話のくだりは創作ですが、こんな会話があったらニヤニヤしてしまいますよね。
総監督のイザークと現場監督のディアッカですが、「誇り高きザフト軍人」を自称するサトーたちのジン・ハイマニューバ2型に襲われて窮地に陥ります。まさに風雲は急を告げ、地球存亡の危機が迫ります。
同じ頃、アスランも出撃準備に入っています。
彼女に勝手に嫉妬しているルナマリアも、ロートルの登場に鼻白むシンも、本編以上にアスランに対し冷ややかです。むしろこの時点ならこっちの方が普通ではないかと思うのですが…
まだまだ苦しみながら書いていますが、この頃はようやく、シンを希望通り書けていると自信がついてきました。
また、読んで頂いている方にはお分かりかと思いますが、私はヨウランやヴィーノにもかなり出番を与え、キャラクターに肉付けをしています。絶望のどん底にいた一人ぼっちのシンを救ったのは「仲間たち」なのですから、これは当然だと思います。そして同時に、仲良しの友達がいるのに孤独だったキラと対比させようと思っていました。
ミネルバクルーにもアークエンジェルクルーくらいは個性をつけたかったのですが、アーサーが一人気を吐いたとはいえ、ほとんど無理でしたね。ヴィーノたちと絡めてエイブス、メイリンと絡めてバートを少し出すくらいで、アークエンジェルにシフトした後半は、種本編のトノムラやチャンドラたちくらい出番がなくなりました(私は逆種ではサイやミリアリアに偏りがちのセリフを振り分け、彼らも満遍なく出しました)
ジブリールについては…ここはセリフもほとんど改変してません。早めの登場は「アズラエルが出てきたのが遅過ぎた」という教訓からなのでしょうが、なんとなくずーっと「キモいオッサン」のままで終わった気がします。ラスボスは結局議長だったし。
さて次回はいよいよキラが登場します。セリフはありませんが、やっとキラが出てくるとホッとするってのも「どうなんだ、自分!」と思ったものです(逆転のキラにゃんは好きですが、本編のキラきゅんについては筋金入りのアンチです)
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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