機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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ヘブンズベースに残っていたロゴスたちは捕らえられ、ザフト及び反ロゴス同盟軍によってその身を拘束された。
彼らは今後、両陣営が構成する諮問機関による調査を受け、国際法廷で裁かれる事になるだろう。
「ゴーズ隊は東側へ回れ!」
「医療班はどこだ?衛生兵!」
「建物内のトラップチェックは全て終了。安全を確認」
陥落した基地はただちに占領され、証拠品の押収や怪我人の救助が行われた。
デュランダルはこの様子もメディアに全て開放し、ザフトも同盟軍もあくまで「紳士的」な戦後処理を行っていることを世界に示して、この戦いの正当性をアピールした。
「よーし、負傷者の搬送開始する」
「まだ油断するなよ!」
特殊工作員や科学班が司令部へと入り、事後処理はまだまだ続きそうだった。
彼らは今後、両陣営が構成する諮問機関による調査を受け、国際法廷で裁かれる事になるだろう。
「ゴーズ隊は東側へ回れ!」
「医療班はどこだ?衛生兵!」
「建物内のトラップチェックは全て終了。安全を確認」
陥落した基地はただちに占領され、証拠品の押収や怪我人の救助が行われた。
デュランダルはこの様子もメディアに全て開放し、ザフトも同盟軍もあくまで「紳士的」な戦後処理を行っていることを世界に示して、この戦いの正当性をアピールした。
「よーし、負傷者の搬送開始する」
「まだ油断するなよ!」
特殊工作員や科学班が司令部へと入り、事後処理はまだまだ続きそうだった。
「ロード・ジブリールがいない?」
戦闘から戻った途端、ミネルバに乗っていた黒服たちから散々「お褒めの言葉」をいただいて面食らったシンは、艦長に簡単な報告書をあげてからシャワーを浴び、一眠りした。そして今ようやく、ルナマリアやレイと共に寛げる時間を持っていた。
けれどヨウランもヴィーノも、今は彼らの機体の整備でてんてこまいで、何よりいつもなら休憩になれば真っ先に飛んでくるメイリンがいないのが寂しかった。
「いないって…そんな…」
ルナマリアはその報せをもたらしたレイを見たが、レイは軽く肩をすくめる。
「基地が降伏する前に一人だけこっそりと逃げたらしい。他のロゴスのメンバーは全て見捨てて」
シンもルナマリアも思わず顔を見合わせた。
「しかし本当に困ったお人だ。これ以上何をしようというのかね」
デュランダルはふぅ…とため息をついた。
黒服たちも困ったように「はぁ、全くです」と頷いている。
「ともかく、彼を捕まえないことには話にならない」
デュランダルは至急、調査隊を出すよう命じた。
「パナマかビクトリアか…また面倒なところへ逃げ込まれていないといいがね」
けれど彼はそう言いながら、人知れず笑みを浮かべた。
(そう、面倒で、厄介なところへね…)
考え得る可能性については、当然前もって網を張り、宇宙港もマスドライバーも押さえている。
デュランダルは表向きは「穏健派」として知られながら、実際はロゴスと関係が深い連邦のジョゼフ・コープランド大統領を思い浮かべた。
(連邦も、こうなったらヤツをかばいきれまい)
となると、潜伏先は自ずと絞られてくる…デュランダルは両手を組んだ。
(うまくいけば、同時にカタがつくかもしれないな)
ジブリールが逃げ込んだのは、そのまさに「面倒で厄介な」ところだった。
彼は極秘裏にセイラン親子と連絡を取り、オーブに逃げ込んでいたのだ。
ロゴスなどという認識はなかったが、もともと彼らのグローバル・カンパニーと繋がりの深かったユウナとウナトに彼の入国を拒む理由はなく、彼らはむしろ嬉々としてジブリールを受け入れ、匿う事に決めたのだ。
「リッターやグロートがいまやあの通りですもの」
ユウナは同盟軍に拘束され、メディアの前に顔を晒して歩かされている顔なじみの彼らをモニターで見ながら言う。
彼らの中でも抜きん出ているジブリールの資金力は魅力だったし、これまでの義理も借りもある。
失われたカグヤの再建は彼らの資金力なくしてはなし得ず、連合にめちゃくちゃにされた国営軍事企業モルゲンレーテの復活も、彼らと決して無縁ではない。
「彼をお迎えしましょう、お父様。大切な友人、大切な客人として」
「やはり、そう簡単には終わらないな」
レイがコーヒーを口に運びながら呟いた。
「せっかく、これで平和な世界になると思ったのに…」
ルナマリアがガッカリしたように言った。そしてシンを見る。
(力をあわせて、私たちあんなに一生懸命戦ったのに)
「そんなことないさ」
けれどシンはそう言ってコーヒーの缶を握り潰した。
かつてカガリに怒りをぶつけたあの時よりも、缶はあっけなく潰れてしまい、くしゃくしゃになった。
「今度見つけたら…絶対俺が踏み潰してやる」
シンはそう言って潰した缶をダストシュートに投げた。
「戦って、全てを終わらせるんだ。絶対に」
「シン」
レイもルナマリアも、そう呟くシンを見つめていた。
こうしてデュランダルの追っ手がロード・ジブリールを見つけ出すその時まで、世界はしばしの間沈黙を余儀なくされ、偽りの安息が訪れた。
アスランはゆっくりと眼を開けた。
眼の前には無機質な、真っ白な天井があった。
(ここは…?)
痛みは感じないが、体はひどくだるくて動かなかった。
何より呼吸がしづらいので、すぅっと息を吸ってゆっくりと吐いた。
「アスラン」
その声に、アスランは眼だけを動かした。
実際は首を動かしたつもりだったのだが、固定されていて動かなかったのだ。
そこにはキラがいた。
「キ……ラ…?」
キラが指を立て、「しーっ」と言う。
けれどアスランは、固定された首を無理に動かそうとした。
そこにいるのが本当にキラなのか、生きているのかを確かめたかったのだ。
「キ…ぅ…」
「ダメだよ。動かないで」
「キラ……死ん…だ…」
キラがそれを聞いて軽く笑った。
「大丈夫だよ、アスラン。ちゃんと生きてるって。きみもね…」
そう言ってぽんぽんと軽く毛布を叩く。
やがてキラは「ちょっと待ってて」と立ち上がった。
アスランは必死に記憶を手繰った。
(嵐のジブラルタル…ミーアを置いて…グフで逃げた。そして海の上で…)
アスランは自分に刃を向けたデスティニーを思い出し、ああ…と思い至った。
(私は…シンに討たれたんだ…)
「キサカさんが連れてきた。ホント、びっくりしたよ」
タブレットをポケットにしまいながら振り返ると、キラはアスランが救助された顛末を簡単に語って聞かせた。それから少し哀しげな顔で言った。
「カガリ…ずっとついてたんだよ。ほとんど眠らなくて、疲れがひどいからってキサカさんが怒って、さっき部屋に連れて行ったばかりなんだ」
「…メ…イリン……彼は?」
「え?」
キラはアスランがカガリについては何も言わなかったばかりか、真っ先にメイリンの安否を尋ねたことにやや驚いた。
「あの男の子?大丈夫。無事だよ」
メイリンも肋骨を2本ほど折ったが、火傷も打撲も大した事はない。
まだ少し熱が高いものの、アスランよりはずっと回復が早そうだった。
「アスランが庇ったんだね。今は眠ってるけど、彼の方が元気だよ」
「そう…」
アスランはほっとしたように息をついた。
「アスラン!!」
やがてキラからの報せを受けたカガリが飛び込んできた。
何日も看病を続けたカガリは、ろくに眠らず、食べもしなかったのでさすがにやつれた表情をしていたが、眼を開けている彼女を見て安堵の表情を浮かべた。
「おまえ…どうして…」
思わずそう言いかけたが、すぐに口をつぐむ。
「とにかくよかった。意識が戻って」
「…」
カガリが笑いかけても、アスランはなぜかふいと眼を逸らした。
キラもカガリもそんな彼女を見ていぶかしみ、顔を見合わせた。
「…から…力が…」
やがてアスランが苦しそうに話し始めた。
「力?」
「議長…それを知っ…」
アスランは息が続かず、はぁっと留置された酸素を吸い込んだ。
肺を傷めているせいか、自分の呼吸だけでは満足な酸素が入ってこない。
「でも……彼は…」
「アスラン、もういい。喋るな」
カガリが酸素チューブを調整して呼吸を楽にしてやった。
アスランはそれでもまだ、途切れ途切れに言葉を続けた。
「人…を…」
「いいから…少し眠って」
今度はキラが優しく言った。
カガリがドクターの残したカルテを見て、鎮静剤を準備する。
点滴が定期的なテンポで滴り始めると、やがて緩やかな睡魔が訪れた。
「私たちはまた話せるよ、いつでも」
「今はとにかくゆっくり眠れ」
懐かしい2人の声を聞きながら、アスランは再び眠りの中へと落ちていった。
(アスラン…)
キラが眼を閉じたアスランを心配そうに覗き込む。
「出血も止まったし、じきに呼吸もできるようになるだろう」
もう大丈夫だ、とカガリに言われ、キラはようやくほっとした。
「よかった」
「こいつだってコーディネイターだからな。さすがにおまえほど早くはないだろうが、俺たちナチュラルよりはずっと早く回復するさ。安心していいよ」
カガリは手際よく器具を片付けると、再びアスランの枕元に座った。
その表情は今までになく穏やかで優しく、キラはそれが何より嬉しかった。
「…で、そちらを優先させて欲しいの」
「わかりました。じゃ、それでやりまさぁ」
「悪いけどお願いね」
マードックに修理についての要望を伝えていたマリューが振り返ると、キラがドックまで降りて来ていた。
イケヤやニシザワ、ゴウたちムラサメのパイロットも技師と共に機体の調整に忙しかったが、彼らはキラを見ると挨拶をしようと我先に走ってきた。
キラはゆっくり歩きながら、バルトフェルドが置いていったムラサメ、そしてカガリのストライクRときて、自分の機体がないハンガーフックを見つめていた。
「どうしたの?」
マリューが声をかけると、キラは少し驚いたように振り返った。
「マリューさん…どうですか?修理の方は」
「大分酷くやられたから、さすがに時間かかりそうだけど」
マリューは忙しそうに走り回るマードックたちを眺めながら、メインエンジンを見たシモンズが、「これでよく航海してきましたわね」と呆れていたと告げた。
「やっぱり敵にはしたくないわね、ミネルバは」
キラは投降を薦めてきたグラディス艦長の凛とした声を思い出した。
その上で、拒んだこちらに全力を持って挑んできた彼女は、確かに軍人なのだ。
「でもみんな、頑張ってくれているわ」
「そうですか…」
そう答えたキラの顔をマリューが覗きこんだ。
「疲れてる?ん~、焦ってるのかな?」
「いえ、そんなことは…」
マリューの言葉に、キラはいくらか困惑した。
「いいでしょ。皆同じだもの。ヘブンズベースのニュースからこっちは特にね」
そこには、アスランの件でキラたちが心を痛めていることも含まれている。
「どうしたの?」
マリューに改めて聞かれて、キラは少し考えてから答えた。
「…怖いのかもしれません」
世界は今、大きなうねりに巻き込まれている。
以前の大戦も、個人の意思や想いなど関係なく巻き込み、全てを破壊した。
けれど今はあの時の狂気じみた熱とは違う、むしろ合理的で冷たい何かが世界を包みつつあるような気がする。そして世界はまた簡単に揺らいでしまっている…
「なんだか…アスランまであんなことになって…なんだかわからないことだらけなのに、今の私には何の力もなくて…これじゃ、何も守れない」
「キラさん」
沈んだ表情を見せるキラを見て、今度はマリューが驚いた。
大戦後2年間、機体に触れるどころかドックに近づくことさえなかったキラが、ここまでフリーダムを失った事を気に病んでいるとは思っていなかったのだ。
(むしろ嫌っているとさえ思っていたのに…でも本当は、心のどこかで支えにしていたのかしらね)
マリューは話題を変えようと別の質問をした。
「アスランさんはどう?」
「はい。あとは点滴だけだし、もう大丈夫みたいです」
「そう、よかったわね。あなたとカガリくんの看病が効いたのよ」
「あ…いえ…」
カガリの名を聞いた瞬間、キラは少し困ったような顔をしたのだが、マリューはそれには気づかず、そのまま朗らかに言葉を続けた。
「もうすぐラクスくんも戻るわ。そうすればきっと…ね?」
確かに、戦争はなし崩しに終わったようだが、なぜかますます先が見えなくなった世界を、ラクスならあるいはきちんと説明してくれるかもしれなかった。
ラクスと、カガリと…それに、傷つきながらもアスランがやっと帰ってきたのだ。
(きっと何とかなる。私たち皆で、また道を見つけられるよね、アスラン…)
キラは優しい笑顔を湛えているマリューを見つめた。
「だから、それまで頑張って」
「はい」
マリューの励ましに、キラも少し元気を取り戻して微笑んだ。
(ふむ…思ったより早かったな)
陥落したヘブンズベースの様子を見ながら、バルトフェルドは頬杖をついて考え込んでいた。そして誰にというわけではなく、ポツリと独り言ちた。
「これで戦争が終わるのかねぇ、本当に」
「まだだよ、隊長」
「ん?もういいのか?」
ラクスの声を聞いてバルトフェルドは振り返った。
「怖い怖い医療班が、厳重に監禁してくれたから、おかげさまでね」
ラクスはそう答えると席に着いた。
「まだって、何がだ?」
「ロード・ジブリールが逃げてるから」
「ああ…あの化粧をした男か」
バルトフェルドが思わず苦笑した。
「パナマ、ビクトリア、ユーラシア東北部、月のアルザッヘル、ダイダロス」
バルトフェルドはジブリールが逃げ込みそうな先を指を折りながら数えた。
「他にもあるかな?」
「オーブ」
ラクスがきっぱりと言った。
「オーブだと!?」
しかしこの回答にはさすがにバルトフェルドも顔色を変えた。
「バカな!今そんな事をしたらオーブは…」
「もちろん、カガリくんならするはずがない。でも、セイランは違う」
ラクスは、ロゴスと関係が深い彼らならやりかねないと踏んでいるようだ。
「そんな事になったら大変だぞ?すぐに…」
その時、オペレーターがランチの着艦を知らせてきた。
「なんだ?」
「ダコスタ副長です」
「よかった。無事に戻ったんだね」
2人はひとまず話を切り上げ、ダコスタの調査報告を待つことにした。
「陥落したヘブンズベースからは、多数のロゴス幹部が連行された模様です」
カーテンの向こうでは、誰かがテレビを見ているようだった。
聞えてくる音声から推測すると、ヘブンズベースがどうやら陥落したらしい。
(議長がロゴスを倒し、勝利を収めた…)
戦いに参加しただろうシンやルナマリアの事を思うと、アスランの胸のうちには、傷とは別に疼くものがあった。
キラが言ったように、アスランの体に残るのはもう点滴だけになり、背中の傷が敷布に触れないように入れられていた医療用ジェルクッションも外されていた。
水やゼリーなら経口摂取が認められ、体力も少しずつ回復してきている。
「現在、連合とプラントは共同で国際法廷を開設し、身柄を拘束したこれら幹部の…」
デュランダルは望みどおりロゴスを討ち、これで彼が目指す、何よりシンが望む「戦争のない平和な世界」が来たのだろうか。
「嘘でも偽りでも、最後に手に入るのが本物なら、俺はかまわない!」
(…シンに、あんな事を言わせてしまうなんて…)
アスランは自分にぶつけられたシンの言葉を思い出してため息をついた。
その時、「入るぞ」と声がしてカーテンが開き、現れたのはカガリだった。
「お、起きてたか」
「…ええ」
カガリは簡単にバイタルをチェックすると、記録してから椅子に座った。
「大丈夫か?」
「…死にたいような気分だけど…」
アスランは眼を伏せてぼそぼそと呟いた。
「…残念ながら大丈夫みたい」
カガリはその拗ねたような物言いに呆れたような顔で言った。
「やめろよ、そういうこと言うの。誰も嬉しくないから」
アスランは少し黙り、それから「ごめん」と謝った。
「メイリンは?」
アスランは誰かが来るたびにメイリンの事を聞いており、キラもミリアリアも「心配しすぎだよ」と笑いながら、彼の様子を教えてくれる。
「微熱はあるが、元気だ。あとで俺が診るよ」
「そう…」
「ミネルバに乗ってた奴だよな?管制の…」
カガリはもうかなり遠くなってしまった記憶を手繰り寄せた。
「軽くかすっただけみたいだけど、撃たれたのか?」
「助けてくれたの。殺されるくらいなら行けって」
アスランは自分を殴れと詰め寄ってきた彼の真剣な表情を思い浮かべた。
「どうしてかはわからない。ほとんど話したこともないのに」
アスランはさも不思議そうに言った。
「私、甘えて…巻き込んで…」
それに対するカガリの答えは、アスランにとっては意外なものだった。
「おまえのことが好きなんだろう、きっと」
「…」
アスランは無言でカガリを見た。
その「何を言っているのか」と訊ねるような顔を見てカガリはふっと苦笑した。
(相変わらず、自分のことはちっとも自覚してないな)
男と一緒だったと聞いて、全く心がざわめかなかった…と言えば嘘になるが、彼女の相変わらずの朴念仁ぶりを見れば、心配する必要などないようだった。
「大丈夫だ。あいつのことは心配するな。ちゃんと俺が面倒見るから」
カガリは安心した事もあり、そのまま手を伸ばして額の傷に触れようとした。
ところがその途端、アスランはびくっと体を堅くしてその手を避けた。
(え?)
「…傷は……先生に…」
それは、カガリに触れられたくないというはっきりとした「拒絶」だった。
「あ…ああ、わかった」
カガリは驚き、それから慌てて手を引っ込めた。
確かに傷も見たかったが、彼女に触れたいという想いもあった。
なのにそれを見透かされた上に拒まれたのだから、カガリは戸惑い、動揺した。
アスランはといえば、口まで毛布をかぶってあちらを向いてしまっている。
その姿は、憔悴しきるまで彼女を心配していたカガリの心をズキリと刺した。
(拒まれ…た…)
なんとも気まずい沈黙が続き、やがてカガリは諦めて立ち上がった。
「じゃ…俺、行くよ。後でキラかミリアリアをよこすから…」
それでもアスランは返事をせず、ただ頷いただけだった。
カガリはカーテンを閉めると、ふらふらとメイリンのベッドに向かった。
(嘘だろ?)
あんな決裂をしてしまったことを、後悔しなかったはずがない。
もっとちゃんと、うまく話し合えたはずなのに…と、眠れない夜もあった。
だがそれでも、傷を負いながらも帰ってきてくれたことで、また話ができる、前のように彼女と一緒にいられると胸が躍ったのに…
(結婚の事も、謝れなかった…それどころか、何も話せなかった)
「おい、点滴終わってるんじゃないのか?」
ネオに言われるまで、カガリはメイリンのベッドの脇で立ち尽くしていた。
「いやぁ、もう、参りましたよ」
バルトフェルドとラクスはダコスタから報告を受けるため、ブリーフィングルームに来ていた。
「コロニーは空気も抜けちゃってて荒れ放題だってのに、遺伝子研究所の方は何故かデータから何から綺麗に処分されちゃってまして」
彼らが前大戦で初めて集ったメンデルは、あの戦いで破壊され、当時はまだいくらか稼動していた機能もほとんど無効になっている。
ザフトにとって彼らが潜伏していたというよろしくない印象はあるだろうが、それとは無関係の研究所を処分するには、費用や無駄な時間がかかるだけで、今は放置しておいても問題はないだろうに…
「決まりだな」
「何かあった…ということだね」
ラクスとバルトフェルドは議長の目的を探ろうとの目論見がはずれたこと…即ち、相手側がそれを読んで「処分」という方法をとった事により、やはりここに鍵があったのだと直観した。
「こんなものしか」
えらいアナログですが…とダコスタが差し出したのは、手書きのノートだった。
ラクスがパラパラとめくってみると、ほとんどは遺伝子のクローニングやゲノム、オープン・リーディングフレームの読み取りなど、遺伝子学の基礎中の基礎のようなことしか書かれていなかったが、ダコスタはその一部を指で指し示した。
「でも、ここにですね…」
2人は同時にそれを覗き込んだ。
「多分、当時の同僚か何かのものだと思うんですが…」
そこには「デスティニープラン」と走り書きがなされている。
「なになに?『デュランダルの言うデスティニープランは、一見今の時代有益に思える。だが我々は忘れてはならない。人は世界のために生きるのではない。人が生きる場所、それが世界だということを』…ふーん。なんだ?これは…」
「面白いね。デュランダル議長が唱えたプランか」
もう少し調べてみようとラクスは興味津々のようだ。
「今はどんなものでもいい。ヒントが欲しいからね」
そう言った途端、艦体が大きく揺れ、3人は低重力の中でふわりと投げ出された。
「何だ!?」
慌ててブリッジに戻ったバルトフェルドたちは、エターナルが攻撃を受けている事を知った。
「偵察型ジンです!数機います!」
「ってことは…」
バルトフェルドがくるりと振り返った。
そしてそのまま部下の首根っこを掴んでホールドしながら言った。
「てぇーい、尾けられたか、ダコスタ!」
「ええ!?ぐぇ…」
しかしあくまでも偵察機の彼らにはさして攻撃力はない。
そう思った瞬間、ジンは全て飛び立っていった。
「怖いのはこれからだ。連中、獲物を見つけた蜂みたいに母艦に知らせに行ったに違いないぞ」
バルトフェルドはそうはさせるかとオペレーターに怒鳴った。
「すぐに追う!俺のガイアを!」
「待ってくれ、隊長」
ラクスがおっとりとした口調で言うと、まだダコスタをホールドしたままのバルトフェルドも、ホールドされたダコスタも、苦しげな顔をしたまま彼を見た。
「もう間に合わないよ。追尾してきたというのなら、母艦ももうそう遠くはないはずだ。もしかしたら、メンデルそのものが見張られていたのかもしれない」
(それだけ、あそこには大切なものがある、いや、「あった」という事か…)
ラクスは少し自分の動きが遅かったと悔やんだが、仕方がない。
「僕が迂闊だったよ」
「いえぇ、そんな!」
ダコスタが慌てて否定しようとしたが、バルトフェルドがさらに締め上げた。
「ああ、迂闊なのはこいつだ!」
「うぇ…」
ラクスは笑って、まぁまぁととりなしてダコスタを救出した。
「だが、どうする?ここのファクトリーの機体だって、まだ最終調整は終わっていない。攻め込まれたら守りきれん」
切り替えたバルトフェルドが次の対策を練り始める。
防衛ラインを引くにしても、ファクトリーは要塞ではないし、そもそもモビルスーツに乗れるパイロットがほとんどいないのだ。
テストパイロット程度では「守る戦い」は荷がかち過ぎる。
「艦を出そう、バルトフェルド隊長。今すぐに」
ラクスがそう言うとバルトフェルドは驚き、ダコスタもすぐに抗議した。
「そんな…それこそ発見されます!」
「もう同じことだよ」
ラクスが笑った。
「そもそもエターナルこそが彼らの狙いなんだ。だったら、攻め込まれる前に出て、少しでも有利な状況を作ろう」
バルトフェルドとダコスタが眼を見合わせた。
「だが、今のこいつにはナスカ級1隻とだってやれる戦力はないぞ?」
エターナルも火力は決して低くはないが、もともと搭載されるモビルスーツ…フリーダムとジャスティスあってこその強襲艦である。その2つがない今、1隻で攻撃力に勝るナスカ級とやりあうのは厳しい。
「どう足掻いたって勝ち目は…」
バルトフェルドの言葉にふふっとラクスが笑った。
「勝ちたいわけじゃない。守りたいんだ」
2人はその言葉に思わず顔を見合わせた。
「あれと、ファクトリー、ここで働く人々…そして、これ」
ラクスは手に持った古ぼけたノートを見せた。
「それに僕たちの故郷プラント、オーブ…ひいては、世界を」
指揮官の顔つきに戻ったラクスが言う。
「僕たちが出ればザフトはそれを追うだろう。ファクトリーはその間に対応の時間を稼げる。我々は最悪の場合、降下軌道へ逃げて、あの2機と資料をアークエンジェルへ向けて射出する」
バルトフェルドもダコスタも、久々に見たラクスの厳しい顔つきにあてられていたが、気を取り直すとバルトフェルドはニヤリと笑い、ダコスタはなんだかまた面倒な事に…と不安そうな顔をした。
「よーし、わかった!」
バルトフェルドは頷くと、ブリッジとダコスタに命令を下した。
「エターナル発進準備!ターミナルに通達。ファクトリーには俺が話す!」
バルトフェルドからの連絡を受けたファクトリーは、エターナル発進後、直ちにスリープモードに入る事になった。
調整が間に合わなかったドムトルーパーの艦搭載は行えないが、致し方ない。
ファクトリーの技師や整備員たちはただちに準備にかかった。
「ドムは調整が終わり次第、ターミナルを通じてご連絡します。お気をつけて」
「きみたちもね。安全圏に入るまで通信はいらないよ」
「我らの世界に星の加護を」
通信が途切れると、ブリッジは慌しく発進準備の声が響いた。
「パワーフロー正常。FCSオンライン」
「推力上昇。発進臨界!」
「偽装解除」
バルトフェルドが命じるとデブリの砦が放たれ、エターナルが姿を現した。
やがてエンジンが唸り出し、ローズピンクの艦はゆっくりと前進し始めた。
「マイドー!マイドー!」
「そんなにはしゃがないで、ハロ」
ラクスはハロを捕まえると、穏やかな声で命じた。
「エターナル、発進」
「キラさん、すぐにブリッジへ。エターナルが発進するとターミナルから連絡よ」
アスランと話していたキラはマリューの声を聞き、カーテンを開けてネオのベッドの前にあるモニターに駆け寄った。
「ザフトに発見されたと」
「…ラクス!?」
アスランもマリューの声を奥のベッドで聞いていた。
「エターナル…まさか」
アスランの脳裏には、ラクスではなく、最後に見たミーアの姿が浮かんだ。
雨の中、泣きそうな顔をして手を伸ばしてきたミーア…
「僕はラクスだ!ラクスなんだ!ラクスがいいんだ!!」
フリーダムを落とし、自分を討ち取ったと思っている議長が、今度こそラクスを狙うことは想像に難くない。ラクスを殺し、ミーアを本物のラクスにして…
(いけない。そんな事…!)
ナスカ級の追撃を避けようと、エターナルは連続バレルロールで逃げた。
もとより、2年前の建造時にも高速艦ナスカ級より速い足を誇った艦だ。
ダコスタはナスカ級のミサイルと火線収束砲の射線を読み解きながら回避の方向を示し、かなり無茶な逃走劇を繰り広げている。
エターナルは生活環境面ではナスカ級に近い。
ナチュラルが乗るクサナギやアークエンジェルに比べて快適な居住性は望めないが、その分合理的にできており、そもそも乗員もほとんどが身体の強いコーディネイターばかりだから、この無茶な逃亡にも何とか耐えられた。
「くー、早い!」
ナスカ級の副官が、その逃げ足の速さで結局エターナルを捉えられず、ほとんどダメージを与えられなかった事に地団駄を踏んだ。
「しかしエターナルとはどこまでふざけた奴らなんですかね!?」
「戦後のどさくさで行方不明になっていた艦に、こんなところでお目に掛かるとはなぁ」
立派なあごひげをたくわえたグラスゴーが髭をさすりながら言った。
ディオキア宇宙港でラクス・クラインを騙ったシャトル強奪犯を追うよう議長から直命を受けているグラスゴー隊は、隊員のほとんどが赤服のエリート部隊だ。
議長は当時、まだ完全には配備が完了していなかった新型のグフをこの隊に10機以上与え、ザクの武装も全て新調させて万全の準備をさせた。
しかし追撃は困難を極め、任務は当初の予定より大分長引いていた。
おかげで天下分け目のヘブンズベース戦に参加できなかった赤服たちは、なぜ自分たちがたかがテロリスト風情の追撃など…と募る不満で一杯なのだ。
(だが連中も、獲物がエターナルとあれば少しは納得できるか)
日々、彼らをなだめるのに苦労しているグラスゴーはほくそえんだ。
議長からはもしもテロリストが抵抗したらその場で撃破してよいという命も受けている。
「カーナボンとホルストの位置は?」
「現在グリーン22チャーリー、インディゴ8アルファです」
「よーし、追いつめる!」
グラスゴーは副官にモビルスーツを出せと指示を下した。
そして両手を組んでもみしだく。長きに渡った追撃任務も終わりが見えたと思うと、自然に口元がほころんだ。
「逃がさんぞ、テロリスト。ようやく見つけたのだ」
「グリーン及びインディゴ、更にナスカ級2」
なんとか母艦を振り切ったエターナルでは、新たな敵の出現に迎撃態勢が整えられた。
「ザク、グフ来ます!」
「くそ、振り切れ!下げ舵15!」
エターナルは後方への火線砲とミサイルで抵抗しながら逃げる。
しかし新たに加わったナスカ級からの砲撃に加え、ガナーやブレイズウィザードを装備したザク、そしてグフのビームガンが襲い掛かり、さしものエターナルも徐々に追い込まれていった。
アークエンジェルのブリッジにキラとカガリが駆けつけた時、ちょうどミリアリアがターミナルからの秘匿電文をマリューに伝えたところだった。
「どのくらいの部隊に追われているのかはわからないけど、突破が無理ならポッドだけでもこちらに降ろすということよ」
「そんな…」
キラは事態がよくないと悟って絶句し、カガリは「ポッド?」と不思議そうな顔をした。
「とにかく事情がわからないわ。しばらく様子を見ましょう」
「うわっ、なんだ!?」」
その頃、医務室では大きな物音を聞いてネオが飛び起きていた。
やっと熱が下がったメイリンも驚いて半身を起こしている。
2人は顔を見合わせ、ネオはカーテンの向こう側に声をかけた。
「おーい、何やってんだ?大丈夫か?」
しかし返事はなく、再びがちゃんと大きな音がするだけだ。
ネオはメイリンを見ると「おまえ、動けるか?」と言った。
「え…僕…?」
「俺は、これなんだ」
ネオは縛られている両手を見せると、「行け」と顎をしゃくった。
メイリンは慌てて起き上がり、そのままいきなり立ち上がろうとした。
「わわっ…!」
「あ、バカ!」
メイリンもかなり長い間寝たきりの生活だったので、若いとはいえ筋力が衰え、自分でも思ってもいないほどの眩暈を感じ、無様にも床に倒れこんだ。
「急に立つなって。大丈夫か?」
「は、はい…」
したたかに腰を打ったが、メイリンはその痛みに耐え、そのまま床を這ってカーテンの向こう側へと向かった。
「あ、アスランさん!?」
そこではアスランが起き上がろうとしてベッドから落ちてしまい、傍にあった作業台をひっくり返して、あたりはとんでもない大騒ぎになっていた。
アスランはぶり返した痛みに呻きながら、「キラに…伝えて…早く…!」と呟いている。
「突破が無理ならって…」
キラが心配そうに拳を握り締めた。
「それって…」
「おい!」
その時、いきなりメインモニターにネオが現れたので全員が驚いた。
「…少佐?」
「なんか、お隣さんがさっきからジタバタうるさいんだけど」
カガリがネオの向こう側に見えるカーテンが開いている事に気付き、思わず身を乗り出した。
ネオは振り返ると何やらボソボソと話している。
「…行って、だってさ」
「アスラン?」
皆固唾を呑んでその様子を見守っていたが、カガリはアスランが心配になり、顔をモニターに向けながら扉に向かって歩き出した。
「キラ…」
アスランの声が小さく聞こえ、やがてカーテンが揺れたが姿は見えない。
「ラクスを…守って…絶対…に」
包帯だらけのアスランはメイリンに支えられていたものの、二人とも立ち上がれないのでネオのベッドより下におり、モニターには映れない。
「何?聞こえねーよ」
仕方なくネオが下を向きながら聞き取り、その言葉を伝えた。
「えーと…彼を失ったら全て終わり、だそうだぜ」
それを聞いた途端、キラは決意した。
扉に向かっていたカガリの元に走り寄ると大声で言う。
それはお願いとか頼みと言うよりは恫喝に近い迫力があった。
「カガリ!ストライクR貸して!」
「え?」
「それから、ブースターを!」
振り返り、マリューに言うとカガリを押し退けて扉を開く。
「キラさん!?」
「おい、キラ!」
「ありがとう、アスラン!行ってくる!」
呆気にとられたブリッジ要員が見守る中、キラはハンガーに向かった。
そしてマリューはゆっくりとモニターを振り返った。
「大丈夫かおまえら」と、モニターからは見えない2人に声をかけるネオは、その表情も、少し乱暴な口調も、やはり愛するフラガを思い出させる。
マリューはあれ以来、ほとんどネオと会話をしていない。
キラやアスランを見舞う以外、医務室には近づかないようにしており、彼の事を極力考えないよう、避けて通っていた。
けれど、こうして「彼」以外の何物でもない彼を見ると、想いが胸に溢れた。
「…ブリッジの通信コードは覚えてるのね…」
「え?」
きょとんとしたネオの顔を見て、マリューはぶつっと通信を切った。
「全員でキラさんのサポートを!」
それから「カガリくんはいいわ。行っておあげなさい」と笑いかけた。
「あの人にも…お礼を言っておいて…」
「ありがとうございます」
アスランはメイリンに支えられ、膝をついたままネオに言った。
ネオはマリューが残した不可解な言葉に戸惑い、いきなり切られてしまったモニターを見つめたままだったが、礼を述べたアスランを見た。
少し息の荒かったアスランは、呼吸を整えると言った。
「…フラガ少佐」
それを聞いて(またか)とネオはうんざりした。
「何であんたまでそう呼ぶの?俺はネオ・ロアノークた・い・さ!」
「え…」
アスランの碧色の瞳が見開かれた。
髪が伸び、顔に大きな傷跡が残っているとはいえ、目の前にいるのは明らかにムウ・ラ・フラガとしか思えない。だがムウ…ネオ・ロアノークと名乗った男はそのままふんっと顔を背けた。
「ったく、この艦のヤツときたらどいつもこいつも!」
「…ええっ?」
アスランは呆気に取られ、もう一度驚きの声を発した。
戦闘から戻った途端、ミネルバに乗っていた黒服たちから散々「お褒めの言葉」をいただいて面食らったシンは、艦長に簡単な報告書をあげてからシャワーを浴び、一眠りした。そして今ようやく、ルナマリアやレイと共に寛げる時間を持っていた。
けれどヨウランもヴィーノも、今は彼らの機体の整備でてんてこまいで、何よりいつもなら休憩になれば真っ先に飛んでくるメイリンがいないのが寂しかった。
「いないって…そんな…」
ルナマリアはその報せをもたらしたレイを見たが、レイは軽く肩をすくめる。
「基地が降伏する前に一人だけこっそりと逃げたらしい。他のロゴスのメンバーは全て見捨てて」
シンもルナマリアも思わず顔を見合わせた。
「しかし本当に困ったお人だ。これ以上何をしようというのかね」
デュランダルはふぅ…とため息をついた。
黒服たちも困ったように「はぁ、全くです」と頷いている。
「ともかく、彼を捕まえないことには話にならない」
デュランダルは至急、調査隊を出すよう命じた。
「パナマかビクトリアか…また面倒なところへ逃げ込まれていないといいがね」
けれど彼はそう言いながら、人知れず笑みを浮かべた。
(そう、面倒で、厄介なところへね…)
考え得る可能性については、当然前もって網を張り、宇宙港もマスドライバーも押さえている。
デュランダルは表向きは「穏健派」として知られながら、実際はロゴスと関係が深い連邦のジョゼフ・コープランド大統領を思い浮かべた。
(連邦も、こうなったらヤツをかばいきれまい)
となると、潜伏先は自ずと絞られてくる…デュランダルは両手を組んだ。
(うまくいけば、同時にカタがつくかもしれないな)
ジブリールが逃げ込んだのは、そのまさに「面倒で厄介な」ところだった。
彼は極秘裏にセイラン親子と連絡を取り、オーブに逃げ込んでいたのだ。
ロゴスなどという認識はなかったが、もともと彼らのグローバル・カンパニーと繋がりの深かったユウナとウナトに彼の入国を拒む理由はなく、彼らはむしろ嬉々としてジブリールを受け入れ、匿う事に決めたのだ。
「リッターやグロートがいまやあの通りですもの」
ユウナは同盟軍に拘束され、メディアの前に顔を晒して歩かされている顔なじみの彼らをモニターで見ながら言う。
彼らの中でも抜きん出ているジブリールの資金力は魅力だったし、これまでの義理も借りもある。
失われたカグヤの再建は彼らの資金力なくしてはなし得ず、連合にめちゃくちゃにされた国営軍事企業モルゲンレーテの復活も、彼らと決して無縁ではない。
「彼をお迎えしましょう、お父様。大切な友人、大切な客人として」
「やはり、そう簡単には終わらないな」
レイがコーヒーを口に運びながら呟いた。
「せっかく、これで平和な世界になると思ったのに…」
ルナマリアがガッカリしたように言った。そしてシンを見る。
(力をあわせて、私たちあんなに一生懸命戦ったのに)
「そんなことないさ」
けれどシンはそう言ってコーヒーの缶を握り潰した。
かつてカガリに怒りをぶつけたあの時よりも、缶はあっけなく潰れてしまい、くしゃくしゃになった。
「今度見つけたら…絶対俺が踏み潰してやる」
シンはそう言って潰した缶をダストシュートに投げた。
「戦って、全てを終わらせるんだ。絶対に」
「シン」
レイもルナマリアも、そう呟くシンを見つめていた。
こうしてデュランダルの追っ手がロード・ジブリールを見つけ出すその時まで、世界はしばしの間沈黙を余儀なくされ、偽りの安息が訪れた。
アスランはゆっくりと眼を開けた。
眼の前には無機質な、真っ白な天井があった。
(ここは…?)
痛みは感じないが、体はひどくだるくて動かなかった。
何より呼吸がしづらいので、すぅっと息を吸ってゆっくりと吐いた。
「アスラン」
その声に、アスランは眼だけを動かした。
実際は首を動かしたつもりだったのだが、固定されていて動かなかったのだ。
そこにはキラがいた。
「キ……ラ…?」
キラが指を立て、「しーっ」と言う。
けれどアスランは、固定された首を無理に動かそうとした。
そこにいるのが本当にキラなのか、生きているのかを確かめたかったのだ。
「キ…ぅ…」
「ダメだよ。動かないで」
「キラ……死ん…だ…」
キラがそれを聞いて軽く笑った。
「大丈夫だよ、アスラン。ちゃんと生きてるって。きみもね…」
そう言ってぽんぽんと軽く毛布を叩く。
やがてキラは「ちょっと待ってて」と立ち上がった。
アスランは必死に記憶を手繰った。
(嵐のジブラルタル…ミーアを置いて…グフで逃げた。そして海の上で…)
アスランは自分に刃を向けたデスティニーを思い出し、ああ…と思い至った。
(私は…シンに討たれたんだ…)
「キサカさんが連れてきた。ホント、びっくりしたよ」
タブレットをポケットにしまいながら振り返ると、キラはアスランが救助された顛末を簡単に語って聞かせた。それから少し哀しげな顔で言った。
「カガリ…ずっとついてたんだよ。ほとんど眠らなくて、疲れがひどいからってキサカさんが怒って、さっき部屋に連れて行ったばかりなんだ」
「…メ…イリン……彼は?」
「え?」
キラはアスランがカガリについては何も言わなかったばかりか、真っ先にメイリンの安否を尋ねたことにやや驚いた。
「あの男の子?大丈夫。無事だよ」
メイリンも肋骨を2本ほど折ったが、火傷も打撲も大した事はない。
まだ少し熱が高いものの、アスランよりはずっと回復が早そうだった。
「アスランが庇ったんだね。今は眠ってるけど、彼の方が元気だよ」
「そう…」
アスランはほっとしたように息をついた。
「アスラン!!」
やがてキラからの報せを受けたカガリが飛び込んできた。
何日も看病を続けたカガリは、ろくに眠らず、食べもしなかったのでさすがにやつれた表情をしていたが、眼を開けている彼女を見て安堵の表情を浮かべた。
「おまえ…どうして…」
思わずそう言いかけたが、すぐに口をつぐむ。
「とにかくよかった。意識が戻って」
「…」
カガリが笑いかけても、アスランはなぜかふいと眼を逸らした。
キラもカガリもそんな彼女を見ていぶかしみ、顔を見合わせた。
「…から…力が…」
やがてアスランが苦しそうに話し始めた。
「力?」
「議長…それを知っ…」
アスランは息が続かず、はぁっと留置された酸素を吸い込んだ。
肺を傷めているせいか、自分の呼吸だけでは満足な酸素が入ってこない。
「でも……彼は…」
「アスラン、もういい。喋るな」
カガリが酸素チューブを調整して呼吸を楽にしてやった。
アスランはそれでもまだ、途切れ途切れに言葉を続けた。
「人…を…」
「いいから…少し眠って」
今度はキラが優しく言った。
カガリがドクターの残したカルテを見て、鎮静剤を準備する。
点滴が定期的なテンポで滴り始めると、やがて緩やかな睡魔が訪れた。
「私たちはまた話せるよ、いつでも」
「今はとにかくゆっくり眠れ」
懐かしい2人の声を聞きながら、アスランは再び眠りの中へと落ちていった。
(アスラン…)
キラが眼を閉じたアスランを心配そうに覗き込む。
「出血も止まったし、じきに呼吸もできるようになるだろう」
もう大丈夫だ、とカガリに言われ、キラはようやくほっとした。
「よかった」
「こいつだってコーディネイターだからな。さすがにおまえほど早くはないだろうが、俺たちナチュラルよりはずっと早く回復するさ。安心していいよ」
カガリは手際よく器具を片付けると、再びアスランの枕元に座った。
その表情は今までになく穏やかで優しく、キラはそれが何より嬉しかった。
「…で、そちらを優先させて欲しいの」
「わかりました。じゃ、それでやりまさぁ」
「悪いけどお願いね」
マードックに修理についての要望を伝えていたマリューが振り返ると、キラがドックまで降りて来ていた。
イケヤやニシザワ、ゴウたちムラサメのパイロットも技師と共に機体の調整に忙しかったが、彼らはキラを見ると挨拶をしようと我先に走ってきた。
キラはゆっくり歩きながら、バルトフェルドが置いていったムラサメ、そしてカガリのストライクRときて、自分の機体がないハンガーフックを見つめていた。
「どうしたの?」
マリューが声をかけると、キラは少し驚いたように振り返った。
「マリューさん…どうですか?修理の方は」
「大分酷くやられたから、さすがに時間かかりそうだけど」
マリューは忙しそうに走り回るマードックたちを眺めながら、メインエンジンを見たシモンズが、「これでよく航海してきましたわね」と呆れていたと告げた。
「やっぱり敵にはしたくないわね、ミネルバは」
キラは投降を薦めてきたグラディス艦長の凛とした声を思い出した。
その上で、拒んだこちらに全力を持って挑んできた彼女は、確かに軍人なのだ。
「でもみんな、頑張ってくれているわ」
「そうですか…」
そう答えたキラの顔をマリューが覗きこんだ。
「疲れてる?ん~、焦ってるのかな?」
「いえ、そんなことは…」
マリューの言葉に、キラはいくらか困惑した。
「いいでしょ。皆同じだもの。ヘブンズベースのニュースからこっちは特にね」
そこには、アスランの件でキラたちが心を痛めていることも含まれている。
「どうしたの?」
マリューに改めて聞かれて、キラは少し考えてから答えた。
「…怖いのかもしれません」
世界は今、大きなうねりに巻き込まれている。
以前の大戦も、個人の意思や想いなど関係なく巻き込み、全てを破壊した。
けれど今はあの時の狂気じみた熱とは違う、むしろ合理的で冷たい何かが世界を包みつつあるような気がする。そして世界はまた簡単に揺らいでしまっている…
「なんだか…アスランまであんなことになって…なんだかわからないことだらけなのに、今の私には何の力もなくて…これじゃ、何も守れない」
「キラさん」
沈んだ表情を見せるキラを見て、今度はマリューが驚いた。
大戦後2年間、機体に触れるどころかドックに近づくことさえなかったキラが、ここまでフリーダムを失った事を気に病んでいるとは思っていなかったのだ。
(むしろ嫌っているとさえ思っていたのに…でも本当は、心のどこかで支えにしていたのかしらね)
マリューは話題を変えようと別の質問をした。
「アスランさんはどう?」
「はい。あとは点滴だけだし、もう大丈夫みたいです」
「そう、よかったわね。あなたとカガリくんの看病が効いたのよ」
「あ…いえ…」
カガリの名を聞いた瞬間、キラは少し困ったような顔をしたのだが、マリューはそれには気づかず、そのまま朗らかに言葉を続けた。
「もうすぐラクスくんも戻るわ。そうすればきっと…ね?」
確かに、戦争はなし崩しに終わったようだが、なぜかますます先が見えなくなった世界を、ラクスならあるいはきちんと説明してくれるかもしれなかった。
ラクスと、カガリと…それに、傷つきながらもアスランがやっと帰ってきたのだ。
(きっと何とかなる。私たち皆で、また道を見つけられるよね、アスラン…)
キラは優しい笑顔を湛えているマリューを見つめた。
「だから、それまで頑張って」
「はい」
マリューの励ましに、キラも少し元気を取り戻して微笑んだ。
(ふむ…思ったより早かったな)
陥落したヘブンズベースの様子を見ながら、バルトフェルドは頬杖をついて考え込んでいた。そして誰にというわけではなく、ポツリと独り言ちた。
「これで戦争が終わるのかねぇ、本当に」
「まだだよ、隊長」
「ん?もういいのか?」
ラクスの声を聞いてバルトフェルドは振り返った。
「怖い怖い医療班が、厳重に監禁してくれたから、おかげさまでね」
ラクスはそう答えると席に着いた。
「まだって、何がだ?」
「ロード・ジブリールが逃げてるから」
「ああ…あの化粧をした男か」
バルトフェルドが思わず苦笑した。
「パナマ、ビクトリア、ユーラシア東北部、月のアルザッヘル、ダイダロス」
バルトフェルドはジブリールが逃げ込みそうな先を指を折りながら数えた。
「他にもあるかな?」
「オーブ」
ラクスがきっぱりと言った。
「オーブだと!?」
しかしこの回答にはさすがにバルトフェルドも顔色を変えた。
「バカな!今そんな事をしたらオーブは…」
「もちろん、カガリくんならするはずがない。でも、セイランは違う」
ラクスは、ロゴスと関係が深い彼らならやりかねないと踏んでいるようだ。
「そんな事になったら大変だぞ?すぐに…」
その時、オペレーターがランチの着艦を知らせてきた。
「なんだ?」
「ダコスタ副長です」
「よかった。無事に戻ったんだね」
2人はひとまず話を切り上げ、ダコスタの調査報告を待つことにした。
「陥落したヘブンズベースからは、多数のロゴス幹部が連行された模様です」
カーテンの向こうでは、誰かがテレビを見ているようだった。
聞えてくる音声から推測すると、ヘブンズベースがどうやら陥落したらしい。
(議長がロゴスを倒し、勝利を収めた…)
戦いに参加しただろうシンやルナマリアの事を思うと、アスランの胸のうちには、傷とは別に疼くものがあった。
キラが言ったように、アスランの体に残るのはもう点滴だけになり、背中の傷が敷布に触れないように入れられていた医療用ジェルクッションも外されていた。
水やゼリーなら経口摂取が認められ、体力も少しずつ回復してきている。
「現在、連合とプラントは共同で国際法廷を開設し、身柄を拘束したこれら幹部の…」
デュランダルは望みどおりロゴスを討ち、これで彼が目指す、何よりシンが望む「戦争のない平和な世界」が来たのだろうか。
「嘘でも偽りでも、最後に手に入るのが本物なら、俺はかまわない!」
(…シンに、あんな事を言わせてしまうなんて…)
アスランは自分にぶつけられたシンの言葉を思い出してため息をついた。
その時、「入るぞ」と声がしてカーテンが開き、現れたのはカガリだった。
「お、起きてたか」
「…ええ」
カガリは簡単にバイタルをチェックすると、記録してから椅子に座った。
「大丈夫か?」
「…死にたいような気分だけど…」
アスランは眼を伏せてぼそぼそと呟いた。
「…残念ながら大丈夫みたい」
カガリはその拗ねたような物言いに呆れたような顔で言った。
「やめろよ、そういうこと言うの。誰も嬉しくないから」
アスランは少し黙り、それから「ごめん」と謝った。
「メイリンは?」
アスランは誰かが来るたびにメイリンの事を聞いており、キラもミリアリアも「心配しすぎだよ」と笑いながら、彼の様子を教えてくれる。
「微熱はあるが、元気だ。あとで俺が診るよ」
「そう…」
「ミネルバに乗ってた奴だよな?管制の…」
カガリはもうかなり遠くなってしまった記憶を手繰り寄せた。
「軽くかすっただけみたいだけど、撃たれたのか?」
「助けてくれたの。殺されるくらいなら行けって」
アスランは自分を殴れと詰め寄ってきた彼の真剣な表情を思い浮かべた。
「どうしてかはわからない。ほとんど話したこともないのに」
アスランはさも不思議そうに言った。
「私、甘えて…巻き込んで…」
それに対するカガリの答えは、アスランにとっては意外なものだった。
「おまえのことが好きなんだろう、きっと」
「…」
アスランは無言でカガリを見た。
その「何を言っているのか」と訊ねるような顔を見てカガリはふっと苦笑した。
(相変わらず、自分のことはちっとも自覚してないな)
男と一緒だったと聞いて、全く心がざわめかなかった…と言えば嘘になるが、彼女の相変わらずの朴念仁ぶりを見れば、心配する必要などないようだった。
「大丈夫だ。あいつのことは心配するな。ちゃんと俺が面倒見るから」
カガリは安心した事もあり、そのまま手を伸ばして額の傷に触れようとした。
ところがその途端、アスランはびくっと体を堅くしてその手を避けた。
(え?)
「…傷は……先生に…」
それは、カガリに触れられたくないというはっきりとした「拒絶」だった。
「あ…ああ、わかった」
カガリは驚き、それから慌てて手を引っ込めた。
確かに傷も見たかったが、彼女に触れたいという想いもあった。
なのにそれを見透かされた上に拒まれたのだから、カガリは戸惑い、動揺した。
アスランはといえば、口まで毛布をかぶってあちらを向いてしまっている。
その姿は、憔悴しきるまで彼女を心配していたカガリの心をズキリと刺した。
(拒まれ…た…)
なんとも気まずい沈黙が続き、やがてカガリは諦めて立ち上がった。
「じゃ…俺、行くよ。後でキラかミリアリアをよこすから…」
それでもアスランは返事をせず、ただ頷いただけだった。
カガリはカーテンを閉めると、ふらふらとメイリンのベッドに向かった。
(嘘だろ?)
あんな決裂をしてしまったことを、後悔しなかったはずがない。
もっとちゃんと、うまく話し合えたはずなのに…と、眠れない夜もあった。
だがそれでも、傷を負いながらも帰ってきてくれたことで、また話ができる、前のように彼女と一緒にいられると胸が躍ったのに…
(結婚の事も、謝れなかった…それどころか、何も話せなかった)
「おい、点滴終わってるんじゃないのか?」
ネオに言われるまで、カガリはメイリンのベッドの脇で立ち尽くしていた。
「いやぁ、もう、参りましたよ」
バルトフェルドとラクスはダコスタから報告を受けるため、ブリーフィングルームに来ていた。
「コロニーは空気も抜けちゃってて荒れ放題だってのに、遺伝子研究所の方は何故かデータから何から綺麗に処分されちゃってまして」
彼らが前大戦で初めて集ったメンデルは、あの戦いで破壊され、当時はまだいくらか稼動していた機能もほとんど無効になっている。
ザフトにとって彼らが潜伏していたというよろしくない印象はあるだろうが、それとは無関係の研究所を処分するには、費用や無駄な時間がかかるだけで、今は放置しておいても問題はないだろうに…
「決まりだな」
「何かあった…ということだね」
ラクスとバルトフェルドは議長の目的を探ろうとの目論見がはずれたこと…即ち、相手側がそれを読んで「処分」という方法をとった事により、やはりここに鍵があったのだと直観した。
「こんなものしか」
えらいアナログですが…とダコスタが差し出したのは、手書きのノートだった。
ラクスがパラパラとめくってみると、ほとんどは遺伝子のクローニングやゲノム、オープン・リーディングフレームの読み取りなど、遺伝子学の基礎中の基礎のようなことしか書かれていなかったが、ダコスタはその一部を指で指し示した。
「でも、ここにですね…」
2人は同時にそれを覗き込んだ。
「多分、当時の同僚か何かのものだと思うんですが…」
そこには「デスティニープラン」と走り書きがなされている。
「なになに?『デュランダルの言うデスティニープランは、一見今の時代有益に思える。だが我々は忘れてはならない。人は世界のために生きるのではない。人が生きる場所、それが世界だということを』…ふーん。なんだ?これは…」
「面白いね。デュランダル議長が唱えたプランか」
もう少し調べてみようとラクスは興味津々のようだ。
「今はどんなものでもいい。ヒントが欲しいからね」
そう言った途端、艦体が大きく揺れ、3人は低重力の中でふわりと投げ出された。
「何だ!?」
慌ててブリッジに戻ったバルトフェルドたちは、エターナルが攻撃を受けている事を知った。
「偵察型ジンです!数機います!」
「ってことは…」
バルトフェルドがくるりと振り返った。
そしてそのまま部下の首根っこを掴んでホールドしながら言った。
「てぇーい、尾けられたか、ダコスタ!」
「ええ!?ぐぇ…」
しかしあくまでも偵察機の彼らにはさして攻撃力はない。
そう思った瞬間、ジンは全て飛び立っていった。
「怖いのはこれからだ。連中、獲物を見つけた蜂みたいに母艦に知らせに行ったに違いないぞ」
バルトフェルドはそうはさせるかとオペレーターに怒鳴った。
「すぐに追う!俺のガイアを!」
「待ってくれ、隊長」
ラクスがおっとりとした口調で言うと、まだダコスタをホールドしたままのバルトフェルドも、ホールドされたダコスタも、苦しげな顔をしたまま彼を見た。
「もう間に合わないよ。追尾してきたというのなら、母艦ももうそう遠くはないはずだ。もしかしたら、メンデルそのものが見張られていたのかもしれない」
(それだけ、あそこには大切なものがある、いや、「あった」という事か…)
ラクスは少し自分の動きが遅かったと悔やんだが、仕方がない。
「僕が迂闊だったよ」
「いえぇ、そんな!」
ダコスタが慌てて否定しようとしたが、バルトフェルドがさらに締め上げた。
「ああ、迂闊なのはこいつだ!」
「うぇ…」
ラクスは笑って、まぁまぁととりなしてダコスタを救出した。
「だが、どうする?ここのファクトリーの機体だって、まだ最終調整は終わっていない。攻め込まれたら守りきれん」
切り替えたバルトフェルドが次の対策を練り始める。
防衛ラインを引くにしても、ファクトリーは要塞ではないし、そもそもモビルスーツに乗れるパイロットがほとんどいないのだ。
テストパイロット程度では「守る戦い」は荷がかち過ぎる。
「艦を出そう、バルトフェルド隊長。今すぐに」
ラクスがそう言うとバルトフェルドは驚き、ダコスタもすぐに抗議した。
「そんな…それこそ発見されます!」
「もう同じことだよ」
ラクスが笑った。
「そもそもエターナルこそが彼らの狙いなんだ。だったら、攻め込まれる前に出て、少しでも有利な状況を作ろう」
バルトフェルドとダコスタが眼を見合わせた。
「だが、今のこいつにはナスカ級1隻とだってやれる戦力はないぞ?」
エターナルも火力は決して低くはないが、もともと搭載されるモビルスーツ…フリーダムとジャスティスあってこその強襲艦である。その2つがない今、1隻で攻撃力に勝るナスカ級とやりあうのは厳しい。
「どう足掻いたって勝ち目は…」
バルトフェルドの言葉にふふっとラクスが笑った。
「勝ちたいわけじゃない。守りたいんだ」
2人はその言葉に思わず顔を見合わせた。
「あれと、ファクトリー、ここで働く人々…そして、これ」
ラクスは手に持った古ぼけたノートを見せた。
「それに僕たちの故郷プラント、オーブ…ひいては、世界を」
指揮官の顔つきに戻ったラクスが言う。
「僕たちが出ればザフトはそれを追うだろう。ファクトリーはその間に対応の時間を稼げる。我々は最悪の場合、降下軌道へ逃げて、あの2機と資料をアークエンジェルへ向けて射出する」
バルトフェルドもダコスタも、久々に見たラクスの厳しい顔つきにあてられていたが、気を取り直すとバルトフェルドはニヤリと笑い、ダコスタはなんだかまた面倒な事に…と不安そうな顔をした。
「よーし、わかった!」
バルトフェルドは頷くと、ブリッジとダコスタに命令を下した。
「エターナル発進準備!ターミナルに通達。ファクトリーには俺が話す!」
バルトフェルドからの連絡を受けたファクトリーは、エターナル発進後、直ちにスリープモードに入る事になった。
調整が間に合わなかったドムトルーパーの艦搭載は行えないが、致し方ない。
ファクトリーの技師や整備員たちはただちに準備にかかった。
「ドムは調整が終わり次第、ターミナルを通じてご連絡します。お気をつけて」
「きみたちもね。安全圏に入るまで通信はいらないよ」
「我らの世界に星の加護を」
通信が途切れると、ブリッジは慌しく発進準備の声が響いた。
「パワーフロー正常。FCSオンライン」
「推力上昇。発進臨界!」
「偽装解除」
バルトフェルドが命じるとデブリの砦が放たれ、エターナルが姿を現した。
やがてエンジンが唸り出し、ローズピンクの艦はゆっくりと前進し始めた。
「マイドー!マイドー!」
「そんなにはしゃがないで、ハロ」
ラクスはハロを捕まえると、穏やかな声で命じた。
「エターナル、発進」
「キラさん、すぐにブリッジへ。エターナルが発進するとターミナルから連絡よ」
アスランと話していたキラはマリューの声を聞き、カーテンを開けてネオのベッドの前にあるモニターに駆け寄った。
「ザフトに発見されたと」
「…ラクス!?」
アスランもマリューの声を奥のベッドで聞いていた。
「エターナル…まさか」
アスランの脳裏には、ラクスではなく、最後に見たミーアの姿が浮かんだ。
雨の中、泣きそうな顔をして手を伸ばしてきたミーア…
「僕はラクスだ!ラクスなんだ!ラクスがいいんだ!!」
フリーダムを落とし、自分を討ち取ったと思っている議長が、今度こそラクスを狙うことは想像に難くない。ラクスを殺し、ミーアを本物のラクスにして…
(いけない。そんな事…!)
ナスカ級の追撃を避けようと、エターナルは連続バレルロールで逃げた。
もとより、2年前の建造時にも高速艦ナスカ級より速い足を誇った艦だ。
ダコスタはナスカ級のミサイルと火線収束砲の射線を読み解きながら回避の方向を示し、かなり無茶な逃走劇を繰り広げている。
エターナルは生活環境面ではナスカ級に近い。
ナチュラルが乗るクサナギやアークエンジェルに比べて快適な居住性は望めないが、その分合理的にできており、そもそも乗員もほとんどが身体の強いコーディネイターばかりだから、この無茶な逃亡にも何とか耐えられた。
「くー、早い!」
ナスカ級の副官が、その逃げ足の速さで結局エターナルを捉えられず、ほとんどダメージを与えられなかった事に地団駄を踏んだ。
「しかしエターナルとはどこまでふざけた奴らなんですかね!?」
「戦後のどさくさで行方不明になっていた艦に、こんなところでお目に掛かるとはなぁ」
立派なあごひげをたくわえたグラスゴーが髭をさすりながら言った。
ディオキア宇宙港でラクス・クラインを騙ったシャトル強奪犯を追うよう議長から直命を受けているグラスゴー隊は、隊員のほとんどが赤服のエリート部隊だ。
議長は当時、まだ完全には配備が完了していなかった新型のグフをこの隊に10機以上与え、ザクの武装も全て新調させて万全の準備をさせた。
しかし追撃は困難を極め、任務は当初の予定より大分長引いていた。
おかげで天下分け目のヘブンズベース戦に参加できなかった赤服たちは、なぜ自分たちがたかがテロリスト風情の追撃など…と募る不満で一杯なのだ。
(だが連中も、獲物がエターナルとあれば少しは納得できるか)
日々、彼らをなだめるのに苦労しているグラスゴーはほくそえんだ。
議長からはもしもテロリストが抵抗したらその場で撃破してよいという命も受けている。
「カーナボンとホルストの位置は?」
「現在グリーン22チャーリー、インディゴ8アルファです」
「よーし、追いつめる!」
グラスゴーは副官にモビルスーツを出せと指示を下した。
そして両手を組んでもみしだく。長きに渡った追撃任務も終わりが見えたと思うと、自然に口元がほころんだ。
「逃がさんぞ、テロリスト。ようやく見つけたのだ」
「グリーン及びインディゴ、更にナスカ級2」
なんとか母艦を振り切ったエターナルでは、新たな敵の出現に迎撃態勢が整えられた。
「ザク、グフ来ます!」
「くそ、振り切れ!下げ舵15!」
エターナルは後方への火線砲とミサイルで抵抗しながら逃げる。
しかし新たに加わったナスカ級からの砲撃に加え、ガナーやブレイズウィザードを装備したザク、そしてグフのビームガンが襲い掛かり、さしものエターナルも徐々に追い込まれていった。
アークエンジェルのブリッジにキラとカガリが駆けつけた時、ちょうどミリアリアがターミナルからの秘匿電文をマリューに伝えたところだった。
「どのくらいの部隊に追われているのかはわからないけど、突破が無理ならポッドだけでもこちらに降ろすということよ」
「そんな…」
キラは事態がよくないと悟って絶句し、カガリは「ポッド?」と不思議そうな顔をした。
「とにかく事情がわからないわ。しばらく様子を見ましょう」
「うわっ、なんだ!?」」
その頃、医務室では大きな物音を聞いてネオが飛び起きていた。
やっと熱が下がったメイリンも驚いて半身を起こしている。
2人は顔を見合わせ、ネオはカーテンの向こう側に声をかけた。
「おーい、何やってんだ?大丈夫か?」
しかし返事はなく、再びがちゃんと大きな音がするだけだ。
ネオはメイリンを見ると「おまえ、動けるか?」と言った。
「え…僕…?」
「俺は、これなんだ」
ネオは縛られている両手を見せると、「行け」と顎をしゃくった。
メイリンは慌てて起き上がり、そのままいきなり立ち上がろうとした。
「わわっ…!」
「あ、バカ!」
メイリンもかなり長い間寝たきりの生活だったので、若いとはいえ筋力が衰え、自分でも思ってもいないほどの眩暈を感じ、無様にも床に倒れこんだ。
「急に立つなって。大丈夫か?」
「は、はい…」
したたかに腰を打ったが、メイリンはその痛みに耐え、そのまま床を這ってカーテンの向こう側へと向かった。
「あ、アスランさん!?」
そこではアスランが起き上がろうとしてベッドから落ちてしまい、傍にあった作業台をひっくり返して、あたりはとんでもない大騒ぎになっていた。
アスランはぶり返した痛みに呻きながら、「キラに…伝えて…早く…!」と呟いている。
「突破が無理ならって…」
キラが心配そうに拳を握り締めた。
「それって…」
「おい!」
その時、いきなりメインモニターにネオが現れたので全員が驚いた。
「…少佐?」
「なんか、お隣さんがさっきからジタバタうるさいんだけど」
カガリがネオの向こう側に見えるカーテンが開いている事に気付き、思わず身を乗り出した。
ネオは振り返ると何やらボソボソと話している。
「…行って、だってさ」
「アスラン?」
皆固唾を呑んでその様子を見守っていたが、カガリはアスランが心配になり、顔をモニターに向けながら扉に向かって歩き出した。
「キラ…」
アスランの声が小さく聞こえ、やがてカーテンが揺れたが姿は見えない。
「ラクスを…守って…絶対…に」
包帯だらけのアスランはメイリンに支えられていたものの、二人とも立ち上がれないのでネオのベッドより下におり、モニターには映れない。
「何?聞こえねーよ」
仕方なくネオが下を向きながら聞き取り、その言葉を伝えた。
「えーと…彼を失ったら全て終わり、だそうだぜ」
それを聞いた途端、キラは決意した。
扉に向かっていたカガリの元に走り寄ると大声で言う。
それはお願いとか頼みと言うよりは恫喝に近い迫力があった。
「カガリ!ストライクR貸して!」
「え?」
「それから、ブースターを!」
振り返り、マリューに言うとカガリを押し退けて扉を開く。
「キラさん!?」
「おい、キラ!」
「ありがとう、アスラン!行ってくる!」
呆気にとられたブリッジ要員が見守る中、キラはハンガーに向かった。
そしてマリューはゆっくりとモニターを振り返った。
「大丈夫かおまえら」と、モニターからは見えない2人に声をかけるネオは、その表情も、少し乱暴な口調も、やはり愛するフラガを思い出させる。
マリューはあれ以来、ほとんどネオと会話をしていない。
キラやアスランを見舞う以外、医務室には近づかないようにしており、彼の事を極力考えないよう、避けて通っていた。
けれど、こうして「彼」以外の何物でもない彼を見ると、想いが胸に溢れた。
「…ブリッジの通信コードは覚えてるのね…」
「え?」
きょとんとしたネオの顔を見て、マリューはぶつっと通信を切った。
「全員でキラさんのサポートを!」
それから「カガリくんはいいわ。行っておあげなさい」と笑いかけた。
「あの人にも…お礼を言っておいて…」
「ありがとうございます」
アスランはメイリンに支えられ、膝をついたままネオに言った。
ネオはマリューが残した不可解な言葉に戸惑い、いきなり切られてしまったモニターを見つめたままだったが、礼を述べたアスランを見た。
少し息の荒かったアスランは、呼吸を整えると言った。
「…フラガ少佐」
それを聞いて(またか)とネオはうんざりした。
「何であんたまでそう呼ぶの?俺はネオ・ロアノークた・い・さ!」
「え…」
アスランの碧色の瞳が見開かれた。
髪が伸び、顔に大きな傷跡が残っているとはいえ、目の前にいるのは明らかにムウ・ラ・フラガとしか思えない。だがムウ…ネオ・ロアノークと名乗った男はそのままふんっと顔を背けた。
「ったく、この艦のヤツときたらどいつもこいつも!」
「…ええっ?」
アスランは呆気に取られ、もう一度驚きの声を発した。
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制作裏話-PHASE39①-
前回に比べ、シンの出番があまりにも少ない…
この扱いの悪さって一体なんなの制作陣と思いつつ、いかな逆デスとはいえ、さすがに無理やり出番を作るわけにも行かず…
というわけで仕方がありません。
この回は逆種の主役キラが主役を張ることになります。
創作したのは黒服たちにシンが褒めちぎられたことと、空き缶を握りつぶす力が以前より強くなっている事。この戦いの功績でネビュラ勲章(2個目)とFAITHを拝受するわけですから、こうした描写はあって然るべきですし、力が増すのも立派な青年になりつつあるという表現です。以前のアスランが「シンの背がいつの間にか伸びた」と驚いた事と同じですね。
そして本編ではヘブンズベース戦のさなかに目覚めたアスランが、逆デスではここでようやく目覚めます。目覚めた時、本編では傍にいたのがキラでずっこけました(直前にカガリが席を立つ謎の描写がある)が、よほど批判が多かったのか、SEではカガリもキラと一緒に目覚めを見守るという意味不明な描写に変わっていました。(「今さら遅いよ!」と思ったものです。)
アスランがキラがカガリの名を告げても無反応なのは、逆転ではこの後の展開を見越した演出ですが、実は本編でもさして反応はせず、すぐにメイリンの心配をしていました。メイリンに恩を感じているのは当然ですが、その両方を救ったキサカとか、医療班を手配した(であろう)カガリにもっと感謝しろよと思ったものです。
キラがマリューに「焦ってる?」と言われるシーンは、本編よりもわかりやすいように膨らませています。世界は以前のように大きなうねりに巻き込まれつつありますが、それはかつてのような狂気じみた熱気ではなく、むしろ合理的で理論的で、冴え冴えとした冷たさによるもののような気がするとキラに思わせています。
その不安をラクスなら解き明かしてくれるかもしれない…そんな風に思うことで、ラクス・クラインという存在が暗闇を照らす小さな灯火のひとつであると表現したかったのです。それくらいの器を持ってもらわないと正直、困りますよこの人は…
なおこの時、キラがマリューの言葉で少し困ったような顔をするのは、少しずつ回復してきたアスランとカガリの関係がギクシャクしていることを気にしているからです。これは完全オリジナルストーリーであるPHASE40で明かされます。
ちょうどその頃、ラクスも回復してジブリールの行方を推測しています。けれどメンデルから戻ったダコスタが追尾され、ついに発見されます。名前だけはずっと前から出ていたグラスゴーさんは本当にお待たせしましたです。リックドムをフルボッコにしたガンダムに絶望したファーストのコンスコンのセリフをパクったため評判はよろしくありませんが、オマージュなんですから別にいいじゃないですか。
この部隊、実はナニゲに赤服が多いんですよ。赤服率No1かもしれません。そんなエリートならヘブンズベースに参加できなかったと不満を言いそうじゃないですか。なので「グラスゴー隊長の憂鬱」もさりげなく入れ込んでみました。
さてキラが不安がっていたアスランとカガリの会話はとんでもない氷河期です。本編では違う意味で氷河期でしたが、何しろこちらのアスランは会話そのものも避けており、ついには触れようとしたカガリの手を拒みます。
これは辛い。
医療技術者とはいえ、健全な男子であるカガリに下心がないはずがありません。当然無事に帰ってきた彼女に触れたいと思うでしょう。というか、それが許されるからこそ恋人同士なわけで、それを拒まれたら「え?なんで?」と戸惑うのは当然です。女の子って本当に気まぐれだから、急に泣いたり拒んだり、相手の気持ちを測ろうとしたりして、男を翻弄するんですよね。男って本当に大変だなぁと常々思います。
本編で交わした会話すらする事ができず、2人は以降、気まずい沈黙を続ける事になってしまいます。
なお逆デスのカガリは逆種でもそうですがかなり気持ちをストレートに表す天真爛漫なところがあるので、メイリンについても、2人の関係をやや心配している節があります。反面、本編よりはもう少し大人なのでそんな思いはちゃんと隠してますけど。
一方アスランが人の気持ちに対して無頓着で鈍感なのは本編も逆デスも同じですね。だから友達がいないんですよ、この人。
エターナルを発進させると決断したらクスが「勝ちたいのではなく、守りたい」というのは本編でも言う有名なセリフですが、「なんかカッコいい事言った!」と思わせるわりには「で?何を守るんですかラクス様」となるとホワンホワンホワンと煙に巻かれる感じで、結局いつもの種クォリティ(=何を言いたいかよくわからない)だったので、逆転ではラクスが守りたいのは「強いられる戦い」に翻弄される「世界」である、と明確に示しました。逆種でも「戦争そのものが敵だよ」と言ってますからね、彼は。
しかし本編もそうですが、メンデルとデュランダル議長がどうしても繋がらないんですよね。あんなノートの走り書きだけで「議長が悪い」と判断する本編のラクスって何様…議長がレクイエムを撃ちさえ…いえ、尺の関係で「撃たされ」さえしなければ面白い事になったかもしれません。本当は00みたいに「数年後」が望ましかったんですけどね。
逆デスではラクスは随分議長の情報を集めていますから、少しずつ核心に迫っているとしていますが…あの破綻した物語をサルベージするのは本当に難しいです。
そしてラクスを助けに行くようにと、アスランがキラに告げるわけですが、逆デスではアスランが女性であり、ゆえに医務室にいても、男2人とはカーテンで隔てられているという設定を生かすため、アスランがベッドから落ちたという事にしました。そんな彼女をネオの命令でメイリンが助けに行くのですが、メイリンも病み上がりでひっくり返り、医務室は大騒動になります。
さらに、そこに医療技術者であるカガリがヘルプに駆けつける、という結末も導き出せましたし、本編では通信を切っておしまいだったマリューが「お礼を言っておいて」とカガリに頼む事ができるという、いくつものキャラの関連性を描けました。
ムウではないネオにアスランが驚いている間に、キラはカガリから「借り」て、二度と返す事のないストライクRをストライクに仕立て上げ、天空に向かいます。
次回、キラ様無双。出番のないシンの陰は薄くなるばかりです…
この扱いの悪さって一体なんなの制作陣と思いつつ、いかな逆デスとはいえ、さすがに無理やり出番を作るわけにも行かず…
というわけで仕方がありません。
この回は逆種の主役キラが主役を張ることになります。
創作したのは黒服たちにシンが褒めちぎられたことと、空き缶を握りつぶす力が以前より強くなっている事。この戦いの功績でネビュラ勲章(2個目)とFAITHを拝受するわけですから、こうした描写はあって然るべきですし、力が増すのも立派な青年になりつつあるという表現です。以前のアスランが「シンの背がいつの間にか伸びた」と驚いた事と同じですね。
そして本編ではヘブンズベース戦のさなかに目覚めたアスランが、逆デスではここでようやく目覚めます。目覚めた時、本編では傍にいたのがキラでずっこけました(直前にカガリが席を立つ謎の描写がある)が、よほど批判が多かったのか、SEではカガリもキラと一緒に目覚めを見守るという意味不明な描写に変わっていました。(「今さら遅いよ!」と思ったものです。)
アスランがキラがカガリの名を告げても無反応なのは、逆転ではこの後の展開を見越した演出ですが、実は本編でもさして反応はせず、すぐにメイリンの心配をしていました。メイリンに恩を感じているのは当然ですが、その両方を救ったキサカとか、医療班を手配した(であろう)カガリにもっと感謝しろよと思ったものです。
キラがマリューに「焦ってる?」と言われるシーンは、本編よりもわかりやすいように膨らませています。世界は以前のように大きなうねりに巻き込まれつつありますが、それはかつてのような狂気じみた熱気ではなく、むしろ合理的で理論的で、冴え冴えとした冷たさによるもののような気がするとキラに思わせています。
その不安をラクスなら解き明かしてくれるかもしれない…そんな風に思うことで、ラクス・クラインという存在が暗闇を照らす小さな灯火のひとつであると表現したかったのです。それくらいの器を持ってもらわないと正直、困りますよこの人は…
なおこの時、キラがマリューの言葉で少し困ったような顔をするのは、少しずつ回復してきたアスランとカガリの関係がギクシャクしていることを気にしているからです。これは完全オリジナルストーリーであるPHASE40で明かされます。
ちょうどその頃、ラクスも回復してジブリールの行方を推測しています。けれどメンデルから戻ったダコスタが追尾され、ついに発見されます。名前だけはずっと前から出ていたグラスゴーさんは本当にお待たせしましたです。リックドムをフルボッコにしたガンダムに絶望したファーストのコンスコンのセリフをパクったため評判はよろしくありませんが、オマージュなんですから別にいいじゃないですか。
この部隊、実はナニゲに赤服が多いんですよ。赤服率No1かもしれません。そんなエリートならヘブンズベースに参加できなかったと不満を言いそうじゃないですか。なので「グラスゴー隊長の憂鬱」もさりげなく入れ込んでみました。
さてキラが不安がっていたアスランとカガリの会話はとんでもない氷河期です。本編では違う意味で氷河期でしたが、何しろこちらのアスランは会話そのものも避けており、ついには触れようとしたカガリの手を拒みます。
これは辛い。
医療技術者とはいえ、健全な男子であるカガリに下心がないはずがありません。当然無事に帰ってきた彼女に触れたいと思うでしょう。というか、それが許されるからこそ恋人同士なわけで、それを拒まれたら「え?なんで?」と戸惑うのは当然です。女の子って本当に気まぐれだから、急に泣いたり拒んだり、相手の気持ちを測ろうとしたりして、男を翻弄するんですよね。男って本当に大変だなぁと常々思います。
本編で交わした会話すらする事ができず、2人は以降、気まずい沈黙を続ける事になってしまいます。
なお逆デスのカガリは逆種でもそうですがかなり気持ちをストレートに表す天真爛漫なところがあるので、メイリンについても、2人の関係をやや心配している節があります。反面、本編よりはもう少し大人なのでそんな思いはちゃんと隠してますけど。
一方アスランが人の気持ちに対して無頓着で鈍感なのは本編も逆デスも同じですね。だから友達がいないんですよ、この人。
エターナルを発進させると決断したらクスが「勝ちたいのではなく、守りたい」というのは本編でも言う有名なセリフですが、「なんかカッコいい事言った!」と思わせるわりには「で?何を守るんですかラクス様」となるとホワンホワンホワンと煙に巻かれる感じで、結局いつもの種クォリティ(=何を言いたいかよくわからない)だったので、逆転ではラクスが守りたいのは「強いられる戦い」に翻弄される「世界」である、と明確に示しました。逆種でも「戦争そのものが敵だよ」と言ってますからね、彼は。
しかし本編もそうですが、メンデルとデュランダル議長がどうしても繋がらないんですよね。あんなノートの走り書きだけで「議長が悪い」と判断する本編のラクスって何様…議長がレクイエムを撃ちさえ…いえ、尺の関係で「撃たされ」さえしなければ面白い事になったかもしれません。本当は00みたいに「数年後」が望ましかったんですけどね。
逆デスではラクスは随分議長の情報を集めていますから、少しずつ核心に迫っているとしていますが…あの破綻した物語をサルベージするのは本当に難しいです。
そしてラクスを助けに行くようにと、アスランがキラに告げるわけですが、逆デスではアスランが女性であり、ゆえに医務室にいても、男2人とはカーテンで隔てられているという設定を生かすため、アスランがベッドから落ちたという事にしました。そんな彼女をネオの命令でメイリンが助けに行くのですが、メイリンも病み上がりでひっくり返り、医務室は大騒動になります。
さらに、そこに医療技術者であるカガリがヘルプに駆けつける、という結末も導き出せましたし、本編では通信を切っておしまいだったマリューが「お礼を言っておいて」とカガリに頼む事ができるという、いくつものキャラの関連性を描けました。
ムウではないネオにアスランが驚いている間に、キラはカガリから「借り」て、二度と返す事のないストライクRをストライクに仕立て上げ、天空に向かいます。
次回、キラ様無双。出番のないシンの陰は薄くなるばかりです…
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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