機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「遠路御苦労だったな、グラディス艦長」
司令官でもある旗艦セントヘレンズの艦長にねぎらわれてタリアは礼を述べ、それから現在の状況について説明を求めた。
「目標は?まだ押さえられないのですか?」
「ああ。奴らも当初は総崩れだったのだが。だいぶ立て直されてな」
時折、突然息を吹き返したかのように押し戻してくる。
艦長が「さすがの底力と言うところか」と苦々しく呟いた。
「ミネルバは左翼にポジションを取り、グリード隊を支援してくれ」
「了解しました」
通信を切ったタリアはさっそくミネルバを転進させた。
「取り舵10。機関減速。着水用意」
ブリッジは到着の安堵もないまま、戦闘態勢に入った。
「最前線ではないが、油断するな。対空監視厳に!」
タリアは戦況図をモニターに広げると、戦禍が広がりつつあるオーブの様子を見つめた。友軍は既にかなりの数の部隊が本島内部まで入り込んでいる。
これだけの戦力をつぎ込んで、戦闘開始から数時間が経つのに、総崩れの軍でここまでもっているのは奇跡といえるのではないか。
ましてや今、シンのデスティニーも出撃しているのだ。
(シンは容赦なく焼き払うのかしら…自分の生まれ故郷を…)
タリアはふと感傷的な気持ちになったが、すぐに思いなおして前を向いた。
司令官でもある旗艦セントヘレンズの艦長にねぎらわれてタリアは礼を述べ、それから現在の状況について説明を求めた。
「目標は?まだ押さえられないのですか?」
「ああ。奴らも当初は総崩れだったのだが。だいぶ立て直されてな」
時折、突然息を吹き返したかのように押し戻してくる。
艦長が「さすがの底力と言うところか」と苦々しく呟いた。
「ミネルバは左翼にポジションを取り、グリード隊を支援してくれ」
「了解しました」
通信を切ったタリアはさっそくミネルバを転進させた。
「取り舵10。機関減速。着水用意」
ブリッジは到着の安堵もないまま、戦闘態勢に入った。
「最前線ではないが、油断するな。対空監視厳に!」
タリアは戦況図をモニターに広げると、戦禍が広がりつつあるオーブの様子を見つめた。友軍は既にかなりの数の部隊が本島内部まで入り込んでいる。
これだけの戦力をつぎ込んで、戦闘開始から数時間が経つのに、総崩れの軍でここまでもっているのは奇跡といえるのではないか。
ましてや今、シンのデスティニーも出撃しているのだ。
(シンは容赦なく焼き払うのかしら…自分の生まれ故郷を…)
タリアはふと感傷的な気持ちになったが、すぐに思いなおして前を向いた。
「よーし、いいぞ、ノイマン!立ち上げろ!」
あと2日はかかるとぼやいていたマードックだが、結局は必要時間の半分以下の20時間を超えたところでアークエンジェルのエンジン調整を間に合わせてみせた。
武装はやや心許ないところもあるが、ラミネート装甲とバリアントだけは艦の命の矛と盾なので修理を終えてある。
戦況はさらに悪化の一途をたどり、既にザフト軍は本島の中枢部にまで入り込み、もはや行政府に王手をかけていた。
「了解」
ノイマンが落ち着いて発進シークエンスを整える。
ブリッジでは着々と発進準備が進んでいたが、艦長席はまだ空いたままだった。
「何だ?どういうことだよ?」
かつて着ていた地球軍の制服を渡されて着がえると、ネオはマリューと共に艦の外に出、そこで拘束が解かれた。
「もう怪我も治ったでしょ?ここにいるとまた怪我するわよ」
マリューが淡々と言った。
「スカイグラスパー…戦闘機だけど、用意したから行って」
ネオは見覚えのない機体を見て、もう一度マリューを見た。
しかしその途端、彼女はくるりと背を向けてしまう。
震える肩を見たネオが怪訝そうに覗き込むと、マリューは涙を浮かべながら唇を噛んでいた。
ネオはそれを見てひどく胸が締めつけられる。
彼女が涙を流すたびに、なんだか心が捻られるように痛むのだ。
「あなたはムウじゃない。ムウじゃないんでしょ」
マリューは小さな声でそう言い残すと、足早に去った。
忘れられない事が、こうして全てを覚えている事が、こんなに辛い…そんな彼女の背中を、ネオはただ黙って見つめているしかなかった。
「あ…あなたたち…」
涙を拭いて艦に戻ったマリューは、ちょうど艦の外に出ようとしていたアスランとメイリンに会った。2人ともまだ万全ではなく、互いに支えあっている様子だったが、アスランは青い顔で無理に笑うと「もう大丈夫です」と言った。
彼女はキラが用意していったオーブの軍服を羽織っており、一方のメイリンはモルゲンレーテのジャケットを着ている。同時にマリューは、アスランの左の薬指に指輪が光っている事に気づいた。
「ラミアス艦長。彼を…メイリン・ホークを、ここで退艦させたいのですが」
「えっ!?」
アスランが言うと、メイリンが驚いて彼女を見た。
アスランの心には、自分の逃亡劇に巻き込んでなし崩しに姉を、軍を裏切らせ、居場所を失わせてしまった彼に対する強い責任感があった。
(せめて、安全だけでも保障してやらなければ…)
「で、でも…」
「発進すれば、アークエンジェルはザフトと戦うことになるのよ」
口ごもるメイリンに、ザフトのあなたを乗せてはおけないとアスランは言った。
「アスランさん…僕は…あの…」
相変わらず女性を前にするとうまく話せない自分がもどかしい。
メイリンは(違うんです、僕は巻き込まれただけじゃないんです)と言いたかったのだが、憧れの彼女をこんなに近くに感じている今、緊張してうまく言葉が出てこない。口ばかりがあうあうとムダに動く。
アスランはにこりと笑った。
「ほんとにごめんなさい。ありがとう」
メイリンは不覚にもその綺麗な笑顔を見てついついぼーっとしてしまう。
「でも、このドックにいれば大丈夫よ。だから、ね?」
「あのっ!僕…だっ、大丈夫ですから!」
突然うわずったように大声をあげたメイリンに、アスランもマリューも面食らった。
「僕、僕は…その…」
言いかけてみたものの、また続かない。
けれどここで置いていかれるのはいやだった。
(僕が死んだと思っているだろう姉さんのことは心配だけど…でも…)
彼女が指輪をしている事なんか、とっくに気づいている。
それでも一緒にいたい。今は、それ以上は何も望まない。
「大丈夫ですから!だから…置いて…いかないでください!」
メイリンはすがるようにアスランを見つめた。
「メイリン、でも…」
「お願いします、僕も一緒に…!」
アスランは少し困ったように彼を見て、それからマリューを見た。
自分には彼を連れて行く権限はない。艦長である彼女の許可が必要だった。
「仕方ないわね」
微妙にかみ合わない2人の問答を聞いて、メイリンがアスランと離れたくないのだと悟ったマリューは、言葉足らずの彼に取り成すように語りかけた。
「確かに、こんな知らないところに置いていかれるよりは…」
そこまで言って、マリューははっと息を呑んだ。
(ムウ…!)
マリューは慌ててドックの入り口まで走って戻ると、ついさっきネオを置いてきた崖を見た。しかしそこにはもはやスカイグラスパーはない。
何とも言い知れない寂しさが去来したが、マリューはそれを振り払った。
(よかったのよ…これでよかったんだわ)
「艦長?どうし…っ!」
一方アスランは突然走り出したマリューの後を追おうとして躓きかけてしまった。
いつもならそんな無様な失敗などするはずもないのに、まだ万全ではないのだ。
メイリンはそんな彼女を支えると、そのまま肩を貸した。
「ありがとう、メイリン」
「いえ…」
それは晩生の彼にとっては今にも心臓が破裂しそうな近さだったが、自分が彼女の援けになっていると思うと、天にも昇るほど嬉しかった。
メイリンとマリューに支えてもらいながら、アスランはブリッジに入った。
「アスラン!?大丈夫なの?」
その姿を見て驚いたミリアリアが腰を浮かした。
「おいおい!まだムチャだろ、あんた…」
「もう大丈夫です。CICに座るくらいできます」
発進シークエンスのサポートに忙しいチャンドラも驚いたが、アスランは痛々しく微笑んだ。
2人がかつてサイやミリアリアが座っていたCIC席に座ると、いよいよ再起動したアークエンジェルの発進が近づいた。
「メインゲート開放」
「拘束アーム解除。機関20%。前進、微速」
チャンドラがコールを返し、ノイマンがゆっくりと操縦桿を動かす。
「針路20。アークエンジェル、全速前進!」
シモンズらが見送る中、アークエンジェルがオーブの空へと舞い上がった。
「オノゴロ島、光学映像出ます!」
ミリアリアがモニターに戦場を映し出した。
「敵陣、熱紋照合。ボズゴロフ級2、ベーレンベルク級4、イサルコ級8」
オノゴロ沖にはザフトに与する地球軍の艦隊までもが多数展開している。
「それに…ミネルバです!」
マリューは驚き、アスランとメイリンが息を呑んだ。
「ミネルバ?」
アスランは呟いたが、その艦影は確かに自分たちの元母艦だった。
「ジブラルタルじゃなかったのか?」
「ジブリールを追ってきたのかよ!」
ノイマンとチャンドラも、散々やってくれた相手を見て思わず声を出す。
ミネルバでももちろん、堂々と姿を現したアークエンジェルを視認していた。
「アークエンジェル…」
アーサーがぽかんと口を開けたままその名を呟く。
「やはり沈んでなかったのね」
「でも、僕はあの時、ちゃんとタンホイザーを撃ちましたよ?」
「当たらなかったってことよ。ご自慢の逃げ足だけは速いようね」
タリアがいつもの癖で親指を噛み、なんとなく不愉快そうに、けれど少し楽しそうに呟いた。
ミネルバがこんなところにいた事もバッドニュースだったが、続けざまにミリアリアが緊張で上ずった声をあげる。
「アカツキ、2時方向にて敵モビルスーツと交戦中」
皆カガリが搭乗しているモビルスーツの名に振り返ったが、アスランは彼の交戦相手を見て心臓がいやな感じにドクンと脈打つのを感じた。
メイリンもまた、それが友の乗る機体と知って息を呑んでいた。
(デスティニー…シン!?)
オノゴロ島上空ではカガリがデスティニーを睨みつけている。
ヘブンズベースで凄まじい戦いぶりを見せ、ジブラルタルでアスランを討ったモビルスーツ。
光の翼をまとう眼の前の機体に乗っているのは、カガリがよく知る彼しかあり得ない。
先に仕掛けてきたのはデスティニーだった。
シンはゆっくりとライフルを構えると、自分の行く手を阻むように立っているモビルスーツ隊にビームを浴びせた。
「カガリ様をお守りしろ!」
ニシザワがムラサメ隊に命じると、3機のムラサメがモビルスーツに変形し、アカツキの前に壁のように立ちはだかった。
やがて1機がサーベルを抜き、デスティニーに向かっていく。
シンは斬りつけられると同時にビームシールドを展開してサーベルを弾き、そのままパワーに任せて押し返した。
ムラサメはバランスを崩しながらも反転してモビルアーマーに変形し、旋回して上空からビームを、すれ違いざまにミサイルをぶち込んだ。
シンは落ち着いてビームをかわし、ミサイルを撃破する。
さらにそのままムラサメを追ったが、他の2機も次々とデスティニーに襲い掛ってきた。2機が同時にビームを撃ち、1機がモビルスーツに変形して獲物を待つ。
これはニシザワたちが得意とする陣形であり、ベルリンではカオスを屠った技でもあったが、それを見たシンはふんと鼻で笑った。
(そうやって、弱いから群れるんだ、おまえたちは!)
「そんなものに!」
シンは降下する連中にスピードを合わせると、自分も同時に降下した。
降下した先にはモビルスーツ形態のムラサメがいたが、シンはお構いなしでそのまま腕を突き出し、むんずと相手の頭を掴んだ。
「なっ…なんだ、こいつっ!?」
ムラサメのパイロットはこのシンの突飛な行動に驚いたが、次の瞬間には掌のパルマフィオキーナによってメインカメラと頭部を破壊され、しかもそのまま下になったデスティニーのライフルで撃ち抜かれてしまった。
残った2機は降下する先に爆発した友軍機があるのだからたまらない。
彼らが必死に逆噴射をかけた時には既に、そこにはデスティニーが構えるアロンダイトの凶刃が待ち構えていた。
わずか一瞬でムラサメを片付け、見せ付けられたのは圧倒的な強さだ。
カガリは息をするのも忘れ、斬り捨てた獲物を見送っているデスティニーを見つめていた。
(こいつに来られたらオーブは…)
「キサカ!イザナギのイケヤたちを援護しながら別ルートで本部へ向かえ。ニシザワは移送船が被弾しないよう港を援護」
「おまえはどうするつもりだ?」
キサカが堅い声音で聞き返すと、カガリはデスティニーを睨みながら言った。
「俺はこいつをひきつけておく」
「カガリ!」
キサカのムラサメがアカツキの肩に触れた。
「無理だ!アスラン・ザラを落としたヤツだぞ!」
「本部は眼の前だ」
カガリの眼には、デスティニーの向こうにある国防本部の建物が映っていた。
「突破さえできれば、間違いなく最短ルートで本部に向かえる」
「しかし…」
「行け、キサカ!」
カガリは厳しい声で言った。
万が一自分が遅れても、キサカが本部にたどり着ければ司令塔が増えるのだ。
「俺も後から必ず行く!」
軍事施設だらけのオノゴロは、あちこちから激しい黒煙が上がり、バビやグフが市街地と思われるあたりにも攻撃を仕掛けている。
港には移送船が避難民を運ぼうと停留しているが、時折こうしてモビルスーツの攻撃があるため、人々はさぞ怯えているだろう…
(同じだ…あの時と…3年前のあの日と…)
カガリは再びデスティニーを睨みつけると、ライフルを構えた。
一方シンは墜ちていくムラサメを見送った後、ゆっくりと振り返った。
「おまえが大将機かよ」
金色のモビルスーツ…見たこともないヤツだ。ライブラリにもない。
シンはアロンダイトをマウントするとライフルを構え、その場を立ち去りざまに放った。アカツキはシールドを構えてビームを防御する。
シンは素早く飛びながら射撃を続け、追い詰めながら本体を狙った。
やがて、自分の動きにほとんどついてこられない相手がガードを下げると、がら空きになったボディにライフルを続けざまに放った。
「大した腕もないくせに!」
しかし、その結果は思いもかけないものだった。
アカツキ本体の反ビームコーティング、ヤタノカガミが、デスティニーのライフルをことごとく跳ね返したのだ。
顔や足、背中など、どこか無防備な部分があるのではないかと何回か試しても、機体には損傷を与えられず、シンも驚きを隠せない。
「なんだよ、これは…ビームを弾く!?」
カガリはデスティニーがひるんだとみるや、今度は攻撃に転じた。
ライフルを構え、バックパックからビーム砲を起動して構える。
そして素早くロックオンしたデスティニーに向けて放ったが、シンは手甲のビームシールドを展開してそれを弾き飛ばした。
「ならば!」
ビームが効かないならと、シンは素早くアロンダイトを抜いてそのままアカツキに向かってきた。さしものアカツキもビームブレードを持つ実剣を防げるとは思えず、カガリは一瞬息を呑んだ。しかしすぐに気を取り直し、素早くシールドを構えると逆に加速してデスティニーに向かっていった。
(負けられないんだ、俺は!)
両者は激突し、カガリはデスティニーのパワーに震撼する。
(くっ…すごいパワーだ…こいつ…!)
戦闘能力が圧倒的に上の相手との接近戦は、明らかに不利だった。
しかしカガリには確かめたい事があった。
そのためにあえて危険を冒して近づいたのだ。
シンは力で徐々に相手の構えるシールドを押し返していく。
(跳ね上げられる…!)
そう思った時、カガリはその名を呼んだ。
「シン!おまえはシン・アスカだろう!?」
シンはその聞き覚えのある声に驚いた。
「…アスハ!?」
「おまえが…おまえがなぜ、オーブを攻撃している!?」
接触回線により、雑音混じりのカガリの声がシンの耳に届いた。
シンはぎりっと歯を食いしばった。
(…なぜだと?)
シンはアロンダイトで相手のシールドを跳ね上げると一瞬後ろに退いた。
一度拾った回線はひどく感度が悪いながらも開きっぱなしになっている。
「おまえたちがロゴスを匿ったからだ!」
カガリは必死にバランスを保ちながら答えた。
「それは、一部の者がやったことだ!オーブは決して…」
「ユニウスセブンだって!!」
シンはカガリの言葉を遮って怒鳴った。
「…一部の者がやったことだった…違うか!?」
しかしカガリは負けじと怒鳴り返した。
「ならば尚更だ!十分な話もしないまま撃ちあうなど!」
「はっ!自分の責任は棚上げにして文句かよ!相変わらず口だけだな、アスハ!!」
デスティニーが再びアロンダイトを構えて襲い掛かってきた。
力任せに振り下ろされた剣が、一度は耐えたアカツキのシールドを破壊した。
「ぐっ…!」
カガリは弾き飛ばされ、すさまじいGで一瞬眩暈を起こしかけたが、こんなところで意識を失えないと気力だけで耐え、慌てて機体を立て直した。
(…強い!俺ではとてもじゃないがこいつにはかなわない)
シンは再びアロンダイトを構えてこちらに向かってくる。
(だが、俺はここでおまえに殺されるわけにはいかないんだ!)
カガリは左腰のサーベルを抜き、一本に繋げて後退した。
「シン!周りを見ろ!」
「はぁ?何を…」
「おまえは今、自分が何をしているか、本当にわかっているのか!?」
カガリとシンは互いを睨みながら、あたりに意識を向けた。
あちこちで爆発が起き、避難のための移送船のある港でも黒煙が上がっている。
空には無数のバビやグフが飛び回って軍事施設に激しい攻撃を仕掛けていた。
対空砲火が空を覆い、シンの優れた視力には逃げ惑う人々の姿も見えていた。
シンの心に、あの日の光景が蘇ってくる。ひっくり返った戦車の脇を走り抜け、山の中を走って港へと急いだあの日…父と母と妹がいた、最後の瞬間まで…
「…っ!!」
その想い出がフラッシュバックを呼びかけ、シンはギリッと歯を食いしばった。
そんな彼に、最も憎むべき男…カガリ・ユラ・アスハの声が畳み掛けた。
「あの日焼かれたおまえが、今度は焼くのか、オーブを!」
この空の下で、どれだけの人々が苦しんでいるか…彼らは今、強大な力によってなす術もなく命を散らし、家族や大切な人を失い、途方に暮れているだろう。
カガリは声を枯らして怒鳴った。
「あそこには、かつてのおまえと同じ人々がいるんだぞ!」
「…おまえに…おまえなんかに、俺の何がわかるっていうんだ!」
シンはそう言いかけて、怒りのあまりひゅっと息を吸い込んだ。
「俺が…どれほど…」
一旦伏せられた瞳が、怒りと共にアカツキに向けられた。
「全部なくなったんだぞ!俺の大切なものが、全部!」
「シン!」
「わかるはずないだろうっ、おまえみたいなやつに!!」
カガリは眉をひそめ、しかし諦めずに怒鳴り返した。
「だから討つのか!?オーブを…おまえの国を!」
「討たせてるのはおまえらだろうがっ!」
苛立ちが頂点に達したシンは、左手で右肩のフラッシュエッジブーメランを抜き取った。
「おまえも、アスランも、いつもいつもいつもいつも…」
デスティニーが大きく振りかぶり、驚くほど柔軟なボディが後ろに捻られたかと思うと、シンの怒りの咆哮と共に凄まじいパワーでブーメランが放たれた。
「綺麗事ばっかり言いやがって!」
カガリには恐ろしい速さで飛んできたブーメランを捕捉できる動体視力と反射神経はなく、当然避けきれずにアカツキは左腕を切断されてしまった。
「うっ…!」
「カガリッ!」
アークエンジェルで息を詰めながら二人の戦いを見つめていたアスランが思わず叫んだ。技量では明らかに劣るカガリがここまで善戦しているのは、驚くべき防御力を備えたあの機体の性能と、あとは「奇跡」としか言いようがない。
カガリは機体のダメージを訴えるけたたましいアラートを止めた。
「その綺麗事を、誰よりも求めているのはおまえじゃないのか!?」
「俺が…求めてる…!?」
カガリの言葉にシンが驚いて動きを止めた。
「おまえは心のどこかでオーブを求めている。だからそんなにこだわるんだ!」
アカツキが再び向かってきた。カガリにも、もう迷いはない。
シンはやや遅れた反応でシールドを展開して相手のサーベルを弾こうとする。
ナチュラルであり、素人でもある相手との力量差は歴然で、デスティニーの力をもってすればサーベルを受け止めて弾くことなどたやすいことに思われた。
「違う!オーブは俺の家族を殺した!みんな、おまえたちに殺されたんだ!」
「それを忘れろとは言わない!俺たちも非は認める!だが!!」
カガリは激しく干渉を続けるサーベルを渾身の力で押し通した。
「いつまでも後ろを見るな、シン!俺はもう前に進むぞ!」
「なにっ!?」
信じられないという顔をしたシンが、一瞬だけカガリに押し負けた。
「俺が…デスティニーが、こんな…」
(ナチュラルのモビルスーツに力負けした…!?)
それは力を追い求め、ついに最強の力を得るに至ったシンにはにわかには信じ難い事実だった。しかも相手はあのアスハなのだ。殺しても飽き足らない男なのだ。
屈辱的なこの状況に、シンの心を煮えたぎる怒りが満たしていった。
「ふ…ざけるなーっ!」
「うわっ!」
その途端デスティニーが急激に出力を上げ、アカツキを弾き飛ばした。
見る見るうちに光の翼が輝きを増し、あたりを照らしていく。
シンはもう片側の残ったフラッシュエッジを手に取った。
「シン!おまえ、まだ…!」
「うるさいっ!わかったような口を利くな!」
カガリもまた届かない言葉にもどかしさを感じていた。
だがカガリの言葉はシンの心を刺し、彼の動揺は明らかだった。
なぜならシンは、全く気づいていなかったからだ。
今まさに近づいてくる、一筋の流星に。
「上空より接近する物体あり!…モビルスーツ?いや、速い!」
それをいち早く捉えたのはミネルバだった。
バートがモニターを見ながら、弾丸のように、もうほとんど落下といっていい速度で飛び込んできた熱源を感知して言う。
「何なの?」
タリアもそれを見て驚き、アーサーと顔を見合わせた。
シンがフラッシュエッジブーメランを投げ、まさにアカツキのボディにヒットしようとした瞬間、凄まじい爆発でカガリは吹き飛ばされた。
「ぐぅっ!」
「な…!?」
シンもまた、突然爆煙に包まれたアカツキに驚き、それが晴れた時、アカツキを守るようにその前に立ちはだかっている機体を見て、瞳を見開いた。
その顔はまるで、恐怖に満ちた…と言ってもいいほどの驚きを含んでいた。
「まさか…なんでこいつが…」
戦いの行方を見守っていたミネルバとアークエンジェルの時間が止まった。
「何!?」
ルナマリアもレイが見つめている空域に眼をやると、そこには何度か見慣れた、けれど少し形が違う機体があった。
ブーメランを破壊した両腰のレールガンを収納すると、その機体はゆっくりとデスティニーの正面に降下してきた。
誰もその名を口にしなかった。
あたりを驚きと戸惑いが包んでいた。
シンもただ、見開いた眼にそれを焼き付けていた。
目の前に、かつて自分が倒したはずのそれがいた。
「フリーダム…何だよ…そんな…何で!」
金色のアカツキの前に、翼を広げ、神々しいまでに輝くストライクフリーダムが立ちはだかっている。
「キラ…キラか!?」
カガリがフリーダムに似たその機体を見て表情を明るくした。
「おまえ、いつの間に…一体どこから?」
キラは戸惑いつつも嬉しそうなカガリに向かってニコリと笑うと、アークエンジェルに通信を入れた。
「マリューさん、ラクスを頼みます」
「え!?」
キラは大気圏を突破し、たった今地球に着いたばかりだった。
ストライクフリーダムはもう1機の赤い機体の手をしっかりと握って降下してきたのだ。その機体にはパイロットスーツ姿のラクスが乗っていた。
キラは高速で飛び、ラクスが乗る機体の手をアークエンジェルの傍で離した。
そしてそのままカガリの元に駆けつけたのだった。
「遅くなってごめん」
キラの声に、カガリはほっと息をついた。
「ここは私が引き受ける。カガリは国防本部へ!」
カガリは呆気に取られた様子のデスティニーを見て少し考えたが、「わかった」と言った。
これ以上シンと戦っても、答えは出ないだろう。
しかし今この時も、国土は焼かれ、被害が拡大しているのだ。
「インパルスに乗っていたヤツだ。気をつけろ」
「インパルスの…」
それを聞いてキラが再びデスティニーを見た時、カガリが言った。
「キラ、このままおまえに最前線を任せていいか?」
「え?」
キラはその意味がわからず聞き返した。
「俺はキサカたちと合流して本部に向かう。残った連中の指揮をおまえが執れ」
「でも、私は…」
キラの答えを待つまでもなく、カガリはニシザワを呼び出した。
「おまえたちはこれよりキラ・ヤマトに従え。俺は本部で全軍の指揮を執る」
皆に通達しろと言い置いたカガリは、改めてキラに「いいな」と念を押した。
「指揮官はおまえだ。前線は任せたぞ」
キラはまだ戸惑いを隠せなかったが、今は時間がない。
「わかった、やってみる!」
キラが戻った心強さで喜びに沸いていたアークエンジェルのブリッジでは、艦にいる全ての者がこの2人の会話をオープンチャンネルで聞いていた。
「キラが指揮官だって!」
「偉くなったなぁ、あいつ」
ミリアリアとチャンドラが笑いあい、思ったより手際よくモビルスーツを操るラクスを無事着艦させたマリューも、モニターを見てほっとしたような表情だ。
先ほどまで、ミネルバを前にピリピリしていたクルーたちの緊張感が程よくほぐれ、皆口々に「これで大丈夫だ」「キラが」「あれは新しいフリーダムか?」などと話しながら、一様に明るい顔を見せていたた。
(キラ…)
キラの存在は何よりもクルーを安心させ、押され気味で萎えかけていた彼らの闘志を再び奮い立たせたのだ。アスランはそれを今、自らの肌で感じていた。
最高のコーディネイターとしての自分は、力だけの、戦うだけの存在なのだろうかと悩み続けたキラが、今はその力で仲間たちを安心させ、守ろうとしている。
そこにはもう、かつてのような弱々しい姿も、自信なさげな様子もなかった。
ストライクフリーダムは守護神の如く舞い降り、キラは防御の要となっている。
(これが……キラの本当の力…)
一方メイリンはメイリンで、シンをあれだけ梃子摺らせたフリーダムに乗っていたのが、小さくて可愛らしいキラだったと知ってぽかんとしていた。
しかし次の瞬間、再び戦場に緊張感が走った。
「くそっ!!」
シンはビーム砲を構えると、ストライクフリーダムに狙いを定めた。
「なんでおまえが…死んだはずのおまえが、なんで…!」
キラがそれに気づいてシールドを展開しようとしたが、カガリが止めた。
「カガリ?危ないっ…!」
「シン!」
アカツキはそのままストライクフリーダムの前に出たのでキラが慌てて止めようとしたが、カガリはそれを押し留めた。
(敵に回るって言うんなら、今度は俺が滅ぼしてやる!)
ミネルバがオーブを出たあの日、シンが怒りと共に叫んだ言葉が蘇る。
「おまえがいくらこの国を滅ぼそうとしても!」
「黙れ!」
シンはもう話を聞く気はないとばかりにそのままビーム砲を放った。
アカツキはそれを全く恐れず、動く事もせずその身に受ける。
「…カガリ!」
そのまばゆい破壊の光に、キラでさえ一瞬ひるみ、逃れようと体が反応した。
しかしカガリは微動だにせず、アカツキはそのビームを全て受けきった。
「俺は必ず守ってみせる!何ものからも!」
この至近距離で、あれだけの高エネルギーを一身に受けても、アカツキの機体には傷一つついていなかった。
(シン…これが、ウズミ・ナラ・アスハが遺してくれた、俺の力だ)
これにはさしものキラも驚き、アークエンジェルのクルーはもちろん、ミネルバのレイやルナマリアも言葉がなかった。
シンは仕留められなかった相手を見てギリギリと唇を噛み、小さな声で呟いた。
「…おまえなんかに…何が守れるっていうんだ…」
シンは怒りに燃えた瞳でアカツキを、カガリを睨みつけたが、カガリは今度こそ機体を国防本部の方へと向けた。
「後は頼んだぞ、キラ」
「わかった。カガリもしっかりね」
モニター越しに笑いながら視線を交わすと、2人は別れていった。
そこには互いに対する、絶大な信頼があった。
アスランはそれを見て思わず立ち上がった。
しかしやはりふらりとよろめいたため、メイリンも慌てて立ち上がって彼女を支えた。
「大丈夫ですか?どちらへ?」
「ラクスに…彼に会わなければ…」
アスランはそう呟き、2人はそのままブリッジを出て行った。
毒気を抜かれたようだった戦場に、再び熱が戻ってきた。
「本艦が前に出ます。よろしいですね?」
タリアはセントヘレンズの艦長に通信をいれ、前進することを告げた。
「離水上昇急げ。面舵10。これよりアークエンジェルを討つ!」
タリアの号令にクルーに緊張が走った。
そして同じくアークエンジェルも戦闘態勢に入る。
「ミネルバが来るわよ、いいわね?」
両雄は並び立った。そして今度こそ本気でぶつかりあう。
「ランチャー1、10、ディスパール装填。トリスタン、イゾルデ、照準アークエンジェル!」
アークエンジェルの火力は凄まじい。
アーサーはパルシファルではなく、ディスパールでの迎撃態勢を取りながら、主砲と副砲を起動させた。
「後部ミサイル発射管、全門ウォンバット装填。ゴットフリート、バリアント、照準ミネルバ!」
一方のアークエンジェルでも、砲術を担当するアマギが主砲と副砲を起こす。
もちろん互いにCIWSとイーゲルシュテルンの準備も整っており、やがて両艦の副官の掛け声によって戦いの火蓋が落とされた。
「撃ぇー!」
オノゴロの軍事施設やモルゲンレーテの被害は大きく、壊滅状態だ。
兵たちは人々を逃がすため、道路を封鎖してシェルターに誘導している。
彼らは赤ん坊を抱いたまま途方にくれる若い母親を助け、親とはぐれて泣く子を抱き上げて避難した。
ビルの天窓や学校の窓からバビやグフのモノアイが覗く。脅えながらも、人々は瓦礫で動けなくなかった人を救助し、邪魔な車を力を合わせて排除していた。
M1が盾となり、ムラサメが人々が渡っている橋を守って必死に戦っている。
カガリは上空からその様子を見てやりきれず、けれど眼は逸らさない。
2度とこんな光景を見たくないと…2度と人々を苦しめまいと思って奮闘してきた2年間が、ガラガラと音を立てて崩れていく。カガリはシフトレバーを強く握り締めた。
(すべては俺の責任だ…戦いを恐れるあまり、闘う事を忘れていた)
孤軍奮闘するM1やムラサメを見ると上空から援護してやりたいが、人々が逃げ惑う市街地でビームライフルを使うのは危険だった。
今はとにかく、国防本部へ急ごう…カガリはシフトレバーを入れた。
本部の周辺もひどい有様だった。
上陸したアッシュが両手のクローを広げてビームを発射し、迎撃するムラサメ隊と一進一退の攻防を繰り広げている。
グフが飛び回るムラサメをウィップで捕らえ、振り回して瓦礫に激突させる。
上空のバビが本部への攻撃を加えようとして対空砲に狙われて逃げ出した。
ダメージはゼロではないものの、約束どおり追いついてきたカガリを見て、キサカたちは彼が着陸するまで空の安全を確保しようと一斉に攻撃にかかった。
「カガリ!今だ」
「よし、国防本部へ降りる。援護しろ!」
カガリはそう告げると旋回しながら降下を始めた。
それに気づいたザクやアッシュが狙い撃ってくる。
しかしアカツキにビームは通用しない。
カガリは残った片手にサーベルを持ったままだったが、その時ちょうど本部の地中から何かが出てくる事に気づいた。それは海底からはるばる地底を掘り進んできたグーンだった。カガリは運悪く無防備に頭を出したグーンの脳天に、スピードを乗せてサーベルを突き刺して止めを刺した。
そしてコックピットを降りると、爆撃が迫る本部に向かう。キサカたちのムラサメも次々着陸したが、彼らを待たずに夢中で走った。
「皆、無事か!」
そう言いながら司令室に飛び込むと、ソガ一佐が驚いて顔をあげた。
「カガリ様!?」
「おお、よくご無事で!」
その声に一斉に佐官たちがカガリの元に駆け寄ってきた。
「すまなかった、遅くなって」
カガリそうは言うとあたりを見回した。
「ユウナはどうした?どこにいる?」
「それが…」とソガ一佐が渋い顔をした。
「先ほどから姿が見えません」
「いない?では、ジブリールの行方は?」
ソガは申し訳なさそうに「それもまだわかりません」と答えた。
カガリはモニターの戦況図に眼をやり、未だ劣勢の状況を再確認した。
「とにかく、ヤツがいないなら約束は無効だ」
カガリが略式の命を下すと伝えると、佐官や下士官が急遽整列した。
「オーブ全軍は、これより代表首長カガリ・ユラ・アスハの指揮下に入る!」
兵たちが一斉に敬礼したこの瞬間、カガリは最高指揮権を取り戻した。
「とにかく一刻も早くジブリールを捕まえるんだ。カグヤの封鎖は完了しているな?」
「は!」
ソガは答え、全地区に捜索隊を放っていることも伝えた。
「よし。ウナトは行政府か?回線を開け!行政府に残っている首長がいたら、各部局と相談の上、急ぎ停戦交渉の草案を創るよう伝えてくれ」
「停戦…ですか?」
ソガはやや表情を曇らせた。ここまで追い込まれ、不利な状況で、果たしてそれをプラントが飲むかどうかはわからない…いや、むしろその確率は低かった。
何しろ今は、世界中がオーブを「ロゴスを匿う悪しき者」と認識しているのだ。
けれどカガリは強い口調で彼らを励ました。
「諦めるな。押し返せば、有利な条件で停戦への道も開ける!」
この状況下で、キラが、ラクスが帰ってきてくれた事もカガリを勇気づけた。
非力な自分を支えてくれる仲間がいる。だから、決して諦めるつもりはない。
「勝つ必要はない。たが負けてはならない!絶対にだ!」
「カガリ!」
その時、キサカが入り口からカガリを呼んだ。
カガリの言葉によって俄かに活気づいた司令本部は喧騒に包まれている。
カガリはキサカの傍まで行くと小さな声で「なんだ?」と尋ねた。
「裏手の運河にアルバトロスだ」
「…ユウナか!?」
「急げ!逃げられるぞ」
カガリはキサカと共に走り出した。
アルバトロスとは、かつてアスランを救助した時に彼らが乗っていた輸送機だ。
ユウナは発進準備を急がせ、慌しく脱出しようとしていた。
(今さらあの子が戻ってきたところで、この状況が引っくり返るわけがないわ)
父と合流し、ジブリールと共に宇宙へ上がればまだ活路はある。
(オーブが総崩れになっても、私たちがいればまた復興できる)
ユウナがいざ乗り込もうとした時、銃弾が足元をかすめた。
「止まれ!ユウナ・ロマ・セイラン!」
ユウナは両手をあげたままちっと舌打ちした。
ゆっくり向き直ると、カガリとキサカが銃を構えて狙っている。
ユウナは動ずることなくにっこりと笑った。ぞっとするような笑顔だった。
「お帰りなさい、カガリ!ずっと待ってたのよ、私の愛する旦那様」
「ふざけるなっ!」
カガリは心にもない事を言う彼女を怒鳴りつけ、銃を向けたまま聞いた。
「言え。ジブリールはどこだ?」
「…知らないわよ、そんなこと」
ユウナはやさぐれたように眼を逸らした。
「この期に及んでもまだヤツを庇い立てするのか?」
「本当に知らないったら。お父様もシェルターだし、私もずっとこっちだもの」
カガリは琥珀色の眼でユウナを睨みつけた。
「おまえだけを悪いとは言わない!ウナトやおまえや首長たちと意見を交わし、己の任を全う出来なかった俺も、充分に悪い!」
「そうね、本当にその通りだわ!」
ユウナが憎々しげに言い返した。
「勝手に国を離れて私たちに任せっきりだったくせに、ひどいわよ、これは!」
彼女は手を広げ、「銃を向けて脅すなんて、あんまりじゃないの!」と訴えた。
「私はあなたの留守を一生懸命…」
「それでこれか!?一体なんだ、この状況は!」
カガリが銃口を外し、銃を持った腕で上空を指し示した。
バビやグフが飛び交い、攻撃され、オーブの空が侵されている。
「もう2度と国を焼いてはならないと言ったのは、おまえ自身だろう!」
イヤなものでも見るように顔を歪めたユウナが、もう一度盛大に舌打ちした。
「ああ、もう、本当にあんたって最低だわっ!」
そしてそのままバッグから銃を取り出して構えた。
「うっ…!」
「下がれ、カガリ!」
驚いたカガリの前に、キサカが立ちはだかった。
「何が代表よ!青臭い意見ばかりで、それで国が廻ると思ってるの!?」
ユウナが喚き散らした。
「なんでも正しい事を言えばいいってものじゃないのよ、政治は!」
「おまえ、それでも…!」
その言葉に憤ったカガリが身を乗り出すと、キサカが腕に力をこめて止めた。
「ロゴスだか何だか知らないけど、オーブ経済が彼らのおかげでどれだけ潤ったと思ってるの?オーブが蘇ったのは彼らの力よ!その恩をあだで返すつもり?」
「それとこれとは別問題だ!」
まくし立てるユウナを、カガリが一喝した。
「たとえ意見は違っても、国を守ろうという想いだけは同じだと思っていたのに…」
カガリはそこまで言うと、悔しそうに表情を曇らせた。
何も知らない若僧と馬鹿にされ、無知と経験不足を笑われようとも、彼らの経歴を尊重し、国を想う気持ちは同じはずと信じて耐えてきた。必死に学び、彼らと同じリングに上がるために努力は惜しまなかった。
なのに、彼らの行動はカガリの想いも、平和を望む国民の心をも裏切ったのだ。
「おまえたちはその勝手な判断で、国を危機に陥れたんだぞ!なんということをしたんだ!」
それを聞いたユウナはニヤリと笑った。
「だから責任は取ったわよ。今頃、あちらの旗艦に使者が向かってるわ」
カガリは彼女の意図を計りかねて眉をひそめた。
「使者?」
「タツキ・マシマよ。あなたの…国家元首カガリ・ユラ・アスハの名前が入った無条件降伏の文書を持ってね」
「…な…んだと?」
わずかでも有利な条件で停戦交渉に入ろうと考えている矢先に、「無条件降伏」と聞いて、カガリとキサカは一瞬凍りついたように動きを止めた。
しかしすぐに我に返ったカガリは、激情に任せてキサカの体を腕で押しやると、そのままユウナに飛び掛ろうとした。
「きさま…ユウナーッ!!」
その瞬間頬を銃弾が掠め、カガリは衝撃でよろめいた。
すぐに摩擦熱で焼けた左の頬が激しく痛み始める。
「カガリッ!」
ユウナはその隙にアルバトロスの機内に飛び込もうとしたが、キサカが正確無比な射撃でユウナの銃を撃ち落とし、見事な手際であっという間に彼女を確保した。
「大丈夫か?」
「これくらい平気だ」
ユウナを押さえつけたままキサカが聞くと、カガリはすぐに立ち上がった。
その頃には響いた銃声に驚き、何人か司令室からもやって来た。
「ユウナ・ロマを国家反逆罪で逮捕、拘束しろ」
カガリが命じると、警備兵たちがキサカから彼女を引き取ろうとした。
「何をするのよ、無礼者!」
しかしこの期に及んでもユウナは激しく抵抗している。
「離しなさい!私はあの人の…カガリ・ユラ・アスハの妻なのよ!?」
「構わん。連れて行け」
彼女がまだそんな事を言って警備兵を梃子摺らせているので、カガリはきっぱりと言った。
「俺に、国を売るような妻はいない」
そしてキサカを伴い、もう一度司令室へと戻っていく。
「とにかく、マシマを見つけて止めよう」
カガリはズキズキと痛む頬に苛立ちながら言った。
「無条件降伏など、絶対にさせてたまるか!」
あと2日はかかるとぼやいていたマードックだが、結局は必要時間の半分以下の20時間を超えたところでアークエンジェルのエンジン調整を間に合わせてみせた。
武装はやや心許ないところもあるが、ラミネート装甲とバリアントだけは艦の命の矛と盾なので修理を終えてある。
戦況はさらに悪化の一途をたどり、既にザフト軍は本島の中枢部にまで入り込み、もはや行政府に王手をかけていた。
「了解」
ノイマンが落ち着いて発進シークエンスを整える。
ブリッジでは着々と発進準備が進んでいたが、艦長席はまだ空いたままだった。
「何だ?どういうことだよ?」
かつて着ていた地球軍の制服を渡されて着がえると、ネオはマリューと共に艦の外に出、そこで拘束が解かれた。
「もう怪我も治ったでしょ?ここにいるとまた怪我するわよ」
マリューが淡々と言った。
「スカイグラスパー…戦闘機だけど、用意したから行って」
ネオは見覚えのない機体を見て、もう一度マリューを見た。
しかしその途端、彼女はくるりと背を向けてしまう。
震える肩を見たネオが怪訝そうに覗き込むと、マリューは涙を浮かべながら唇を噛んでいた。
ネオはそれを見てひどく胸が締めつけられる。
彼女が涙を流すたびに、なんだか心が捻られるように痛むのだ。
「あなたはムウじゃない。ムウじゃないんでしょ」
マリューは小さな声でそう言い残すと、足早に去った。
忘れられない事が、こうして全てを覚えている事が、こんなに辛い…そんな彼女の背中を、ネオはただ黙って見つめているしかなかった。
「あ…あなたたち…」
涙を拭いて艦に戻ったマリューは、ちょうど艦の外に出ようとしていたアスランとメイリンに会った。2人ともまだ万全ではなく、互いに支えあっている様子だったが、アスランは青い顔で無理に笑うと「もう大丈夫です」と言った。
彼女はキラが用意していったオーブの軍服を羽織っており、一方のメイリンはモルゲンレーテのジャケットを着ている。同時にマリューは、アスランの左の薬指に指輪が光っている事に気づいた。
「ラミアス艦長。彼を…メイリン・ホークを、ここで退艦させたいのですが」
「えっ!?」
アスランが言うと、メイリンが驚いて彼女を見た。
アスランの心には、自分の逃亡劇に巻き込んでなし崩しに姉を、軍を裏切らせ、居場所を失わせてしまった彼に対する強い責任感があった。
(せめて、安全だけでも保障してやらなければ…)
「で、でも…」
「発進すれば、アークエンジェルはザフトと戦うことになるのよ」
口ごもるメイリンに、ザフトのあなたを乗せてはおけないとアスランは言った。
「アスランさん…僕は…あの…」
相変わらず女性を前にするとうまく話せない自分がもどかしい。
メイリンは(違うんです、僕は巻き込まれただけじゃないんです)と言いたかったのだが、憧れの彼女をこんなに近くに感じている今、緊張してうまく言葉が出てこない。口ばかりがあうあうとムダに動く。
アスランはにこりと笑った。
「ほんとにごめんなさい。ありがとう」
メイリンは不覚にもその綺麗な笑顔を見てついついぼーっとしてしまう。
「でも、このドックにいれば大丈夫よ。だから、ね?」
「あのっ!僕…だっ、大丈夫ですから!」
突然うわずったように大声をあげたメイリンに、アスランもマリューも面食らった。
「僕、僕は…その…」
言いかけてみたものの、また続かない。
けれどここで置いていかれるのはいやだった。
(僕が死んだと思っているだろう姉さんのことは心配だけど…でも…)
彼女が指輪をしている事なんか、とっくに気づいている。
それでも一緒にいたい。今は、それ以上は何も望まない。
「大丈夫ですから!だから…置いて…いかないでください!」
メイリンはすがるようにアスランを見つめた。
「メイリン、でも…」
「お願いします、僕も一緒に…!」
アスランは少し困ったように彼を見て、それからマリューを見た。
自分には彼を連れて行く権限はない。艦長である彼女の許可が必要だった。
「仕方ないわね」
微妙にかみ合わない2人の問答を聞いて、メイリンがアスランと離れたくないのだと悟ったマリューは、言葉足らずの彼に取り成すように語りかけた。
「確かに、こんな知らないところに置いていかれるよりは…」
そこまで言って、マリューははっと息を呑んだ。
(ムウ…!)
マリューは慌ててドックの入り口まで走って戻ると、ついさっきネオを置いてきた崖を見た。しかしそこにはもはやスカイグラスパーはない。
何とも言い知れない寂しさが去来したが、マリューはそれを振り払った。
(よかったのよ…これでよかったんだわ)
「艦長?どうし…っ!」
一方アスランは突然走り出したマリューの後を追おうとして躓きかけてしまった。
いつもならそんな無様な失敗などするはずもないのに、まだ万全ではないのだ。
メイリンはそんな彼女を支えると、そのまま肩を貸した。
「ありがとう、メイリン」
「いえ…」
それは晩生の彼にとっては今にも心臓が破裂しそうな近さだったが、自分が彼女の援けになっていると思うと、天にも昇るほど嬉しかった。
メイリンとマリューに支えてもらいながら、アスランはブリッジに入った。
「アスラン!?大丈夫なの?」
その姿を見て驚いたミリアリアが腰を浮かした。
「おいおい!まだムチャだろ、あんた…」
「もう大丈夫です。CICに座るくらいできます」
発進シークエンスのサポートに忙しいチャンドラも驚いたが、アスランは痛々しく微笑んだ。
2人がかつてサイやミリアリアが座っていたCIC席に座ると、いよいよ再起動したアークエンジェルの発進が近づいた。
「メインゲート開放」
「拘束アーム解除。機関20%。前進、微速」
チャンドラがコールを返し、ノイマンがゆっくりと操縦桿を動かす。
「針路20。アークエンジェル、全速前進!」
シモンズらが見送る中、アークエンジェルがオーブの空へと舞い上がった。
「オノゴロ島、光学映像出ます!」
ミリアリアがモニターに戦場を映し出した。
「敵陣、熱紋照合。ボズゴロフ級2、ベーレンベルク級4、イサルコ級8」
オノゴロ沖にはザフトに与する地球軍の艦隊までもが多数展開している。
「それに…ミネルバです!」
マリューは驚き、アスランとメイリンが息を呑んだ。
「ミネルバ?」
アスランは呟いたが、その艦影は確かに自分たちの元母艦だった。
「ジブラルタルじゃなかったのか?」
「ジブリールを追ってきたのかよ!」
ノイマンとチャンドラも、散々やってくれた相手を見て思わず声を出す。
ミネルバでももちろん、堂々と姿を現したアークエンジェルを視認していた。
「アークエンジェル…」
アーサーがぽかんと口を開けたままその名を呟く。
「やはり沈んでなかったのね」
「でも、僕はあの時、ちゃんとタンホイザーを撃ちましたよ?」
「当たらなかったってことよ。ご自慢の逃げ足だけは速いようね」
タリアがいつもの癖で親指を噛み、なんとなく不愉快そうに、けれど少し楽しそうに呟いた。
ミネルバがこんなところにいた事もバッドニュースだったが、続けざまにミリアリアが緊張で上ずった声をあげる。
「アカツキ、2時方向にて敵モビルスーツと交戦中」
皆カガリが搭乗しているモビルスーツの名に振り返ったが、アスランは彼の交戦相手を見て心臓がいやな感じにドクンと脈打つのを感じた。
メイリンもまた、それが友の乗る機体と知って息を呑んでいた。
(デスティニー…シン!?)
オノゴロ島上空ではカガリがデスティニーを睨みつけている。
ヘブンズベースで凄まじい戦いぶりを見せ、ジブラルタルでアスランを討ったモビルスーツ。
光の翼をまとう眼の前の機体に乗っているのは、カガリがよく知る彼しかあり得ない。
先に仕掛けてきたのはデスティニーだった。
シンはゆっくりとライフルを構えると、自分の行く手を阻むように立っているモビルスーツ隊にビームを浴びせた。
「カガリ様をお守りしろ!」
ニシザワがムラサメ隊に命じると、3機のムラサメがモビルスーツに変形し、アカツキの前に壁のように立ちはだかった。
やがて1機がサーベルを抜き、デスティニーに向かっていく。
シンは斬りつけられると同時にビームシールドを展開してサーベルを弾き、そのままパワーに任せて押し返した。
ムラサメはバランスを崩しながらも反転してモビルアーマーに変形し、旋回して上空からビームを、すれ違いざまにミサイルをぶち込んだ。
シンは落ち着いてビームをかわし、ミサイルを撃破する。
さらにそのままムラサメを追ったが、他の2機も次々とデスティニーに襲い掛ってきた。2機が同時にビームを撃ち、1機がモビルスーツに変形して獲物を待つ。
これはニシザワたちが得意とする陣形であり、ベルリンではカオスを屠った技でもあったが、それを見たシンはふんと鼻で笑った。
(そうやって、弱いから群れるんだ、おまえたちは!)
「そんなものに!」
シンは降下する連中にスピードを合わせると、自分も同時に降下した。
降下した先にはモビルスーツ形態のムラサメがいたが、シンはお構いなしでそのまま腕を突き出し、むんずと相手の頭を掴んだ。
「なっ…なんだ、こいつっ!?」
ムラサメのパイロットはこのシンの突飛な行動に驚いたが、次の瞬間には掌のパルマフィオキーナによってメインカメラと頭部を破壊され、しかもそのまま下になったデスティニーのライフルで撃ち抜かれてしまった。
残った2機は降下する先に爆発した友軍機があるのだからたまらない。
彼らが必死に逆噴射をかけた時には既に、そこにはデスティニーが構えるアロンダイトの凶刃が待ち構えていた。
わずか一瞬でムラサメを片付け、見せ付けられたのは圧倒的な強さだ。
カガリは息をするのも忘れ、斬り捨てた獲物を見送っているデスティニーを見つめていた。
(こいつに来られたらオーブは…)
「キサカ!イザナギのイケヤたちを援護しながら別ルートで本部へ向かえ。ニシザワは移送船が被弾しないよう港を援護」
「おまえはどうするつもりだ?」
キサカが堅い声音で聞き返すと、カガリはデスティニーを睨みながら言った。
「俺はこいつをひきつけておく」
「カガリ!」
キサカのムラサメがアカツキの肩に触れた。
「無理だ!アスラン・ザラを落としたヤツだぞ!」
「本部は眼の前だ」
カガリの眼には、デスティニーの向こうにある国防本部の建物が映っていた。
「突破さえできれば、間違いなく最短ルートで本部に向かえる」
「しかし…」
「行け、キサカ!」
カガリは厳しい声で言った。
万が一自分が遅れても、キサカが本部にたどり着ければ司令塔が増えるのだ。
「俺も後から必ず行く!」
軍事施設だらけのオノゴロは、あちこちから激しい黒煙が上がり、バビやグフが市街地と思われるあたりにも攻撃を仕掛けている。
港には移送船が避難民を運ぼうと停留しているが、時折こうしてモビルスーツの攻撃があるため、人々はさぞ怯えているだろう…
(同じだ…あの時と…3年前のあの日と…)
カガリは再びデスティニーを睨みつけると、ライフルを構えた。
一方シンは墜ちていくムラサメを見送った後、ゆっくりと振り返った。
「おまえが大将機かよ」
金色のモビルスーツ…見たこともないヤツだ。ライブラリにもない。
シンはアロンダイトをマウントするとライフルを構え、その場を立ち去りざまに放った。アカツキはシールドを構えてビームを防御する。
シンは素早く飛びながら射撃を続け、追い詰めながら本体を狙った。
やがて、自分の動きにほとんどついてこられない相手がガードを下げると、がら空きになったボディにライフルを続けざまに放った。
「大した腕もないくせに!」
しかし、その結果は思いもかけないものだった。
アカツキ本体の反ビームコーティング、ヤタノカガミが、デスティニーのライフルをことごとく跳ね返したのだ。
顔や足、背中など、どこか無防備な部分があるのではないかと何回か試しても、機体には損傷を与えられず、シンも驚きを隠せない。
「なんだよ、これは…ビームを弾く!?」
カガリはデスティニーがひるんだとみるや、今度は攻撃に転じた。
ライフルを構え、バックパックからビーム砲を起動して構える。
そして素早くロックオンしたデスティニーに向けて放ったが、シンは手甲のビームシールドを展開してそれを弾き飛ばした。
「ならば!」
ビームが効かないならと、シンは素早くアロンダイトを抜いてそのままアカツキに向かってきた。さしものアカツキもビームブレードを持つ実剣を防げるとは思えず、カガリは一瞬息を呑んだ。しかしすぐに気を取り直し、素早くシールドを構えると逆に加速してデスティニーに向かっていった。
(負けられないんだ、俺は!)
両者は激突し、カガリはデスティニーのパワーに震撼する。
(くっ…すごいパワーだ…こいつ…!)
戦闘能力が圧倒的に上の相手との接近戦は、明らかに不利だった。
しかしカガリには確かめたい事があった。
そのためにあえて危険を冒して近づいたのだ。
シンは力で徐々に相手の構えるシールドを押し返していく。
(跳ね上げられる…!)
そう思った時、カガリはその名を呼んだ。
「シン!おまえはシン・アスカだろう!?」
シンはその聞き覚えのある声に驚いた。
「…アスハ!?」
「おまえが…おまえがなぜ、オーブを攻撃している!?」
接触回線により、雑音混じりのカガリの声がシンの耳に届いた。
シンはぎりっと歯を食いしばった。
(…なぜだと?)
シンはアロンダイトで相手のシールドを跳ね上げると一瞬後ろに退いた。
一度拾った回線はひどく感度が悪いながらも開きっぱなしになっている。
「おまえたちがロゴスを匿ったからだ!」
カガリは必死にバランスを保ちながら答えた。
「それは、一部の者がやったことだ!オーブは決して…」
「ユニウスセブンだって!!」
シンはカガリの言葉を遮って怒鳴った。
「…一部の者がやったことだった…違うか!?」
しかしカガリは負けじと怒鳴り返した。
「ならば尚更だ!十分な話もしないまま撃ちあうなど!」
「はっ!自分の責任は棚上げにして文句かよ!相変わらず口だけだな、アスハ!!」
デスティニーが再びアロンダイトを構えて襲い掛かってきた。
力任せに振り下ろされた剣が、一度は耐えたアカツキのシールドを破壊した。
「ぐっ…!」
カガリは弾き飛ばされ、すさまじいGで一瞬眩暈を起こしかけたが、こんなところで意識を失えないと気力だけで耐え、慌てて機体を立て直した。
(…強い!俺ではとてもじゃないがこいつにはかなわない)
シンは再びアロンダイトを構えてこちらに向かってくる。
(だが、俺はここでおまえに殺されるわけにはいかないんだ!)
カガリは左腰のサーベルを抜き、一本に繋げて後退した。
「シン!周りを見ろ!」
「はぁ?何を…」
「おまえは今、自分が何をしているか、本当にわかっているのか!?」
カガリとシンは互いを睨みながら、あたりに意識を向けた。
あちこちで爆発が起き、避難のための移送船のある港でも黒煙が上がっている。
空には無数のバビやグフが飛び回って軍事施設に激しい攻撃を仕掛けていた。
対空砲火が空を覆い、シンの優れた視力には逃げ惑う人々の姿も見えていた。
シンの心に、あの日の光景が蘇ってくる。ひっくり返った戦車の脇を走り抜け、山の中を走って港へと急いだあの日…父と母と妹がいた、最後の瞬間まで…
「…っ!!」
その想い出がフラッシュバックを呼びかけ、シンはギリッと歯を食いしばった。
そんな彼に、最も憎むべき男…カガリ・ユラ・アスハの声が畳み掛けた。
「あの日焼かれたおまえが、今度は焼くのか、オーブを!」
この空の下で、どれだけの人々が苦しんでいるか…彼らは今、強大な力によってなす術もなく命を散らし、家族や大切な人を失い、途方に暮れているだろう。
カガリは声を枯らして怒鳴った。
「あそこには、かつてのおまえと同じ人々がいるんだぞ!」
「…おまえに…おまえなんかに、俺の何がわかるっていうんだ!」
シンはそう言いかけて、怒りのあまりひゅっと息を吸い込んだ。
「俺が…どれほど…」
一旦伏せられた瞳が、怒りと共にアカツキに向けられた。
「全部なくなったんだぞ!俺の大切なものが、全部!」
「シン!」
「わかるはずないだろうっ、おまえみたいなやつに!!」
カガリは眉をひそめ、しかし諦めずに怒鳴り返した。
「だから討つのか!?オーブを…おまえの国を!」
「討たせてるのはおまえらだろうがっ!」
苛立ちが頂点に達したシンは、左手で右肩のフラッシュエッジブーメランを抜き取った。
「おまえも、アスランも、いつもいつもいつもいつも…」
デスティニーが大きく振りかぶり、驚くほど柔軟なボディが後ろに捻られたかと思うと、シンの怒りの咆哮と共に凄まじいパワーでブーメランが放たれた。
「綺麗事ばっかり言いやがって!」
カガリには恐ろしい速さで飛んできたブーメランを捕捉できる動体視力と反射神経はなく、当然避けきれずにアカツキは左腕を切断されてしまった。
「うっ…!」
「カガリッ!」
アークエンジェルで息を詰めながら二人の戦いを見つめていたアスランが思わず叫んだ。技量では明らかに劣るカガリがここまで善戦しているのは、驚くべき防御力を備えたあの機体の性能と、あとは「奇跡」としか言いようがない。
カガリは機体のダメージを訴えるけたたましいアラートを止めた。
「その綺麗事を、誰よりも求めているのはおまえじゃないのか!?」
「俺が…求めてる…!?」
カガリの言葉にシンが驚いて動きを止めた。
「おまえは心のどこかでオーブを求めている。だからそんなにこだわるんだ!」
アカツキが再び向かってきた。カガリにも、もう迷いはない。
シンはやや遅れた反応でシールドを展開して相手のサーベルを弾こうとする。
ナチュラルであり、素人でもある相手との力量差は歴然で、デスティニーの力をもってすればサーベルを受け止めて弾くことなどたやすいことに思われた。
「違う!オーブは俺の家族を殺した!みんな、おまえたちに殺されたんだ!」
「それを忘れろとは言わない!俺たちも非は認める!だが!!」
カガリは激しく干渉を続けるサーベルを渾身の力で押し通した。
「いつまでも後ろを見るな、シン!俺はもう前に進むぞ!」
「なにっ!?」
信じられないという顔をしたシンが、一瞬だけカガリに押し負けた。
「俺が…デスティニーが、こんな…」
(ナチュラルのモビルスーツに力負けした…!?)
それは力を追い求め、ついに最強の力を得るに至ったシンにはにわかには信じ難い事実だった。しかも相手はあのアスハなのだ。殺しても飽き足らない男なのだ。
屈辱的なこの状況に、シンの心を煮えたぎる怒りが満たしていった。
「ふ…ざけるなーっ!」
「うわっ!」
その途端デスティニーが急激に出力を上げ、アカツキを弾き飛ばした。
見る見るうちに光の翼が輝きを増し、あたりを照らしていく。
シンはもう片側の残ったフラッシュエッジを手に取った。
「シン!おまえ、まだ…!」
「うるさいっ!わかったような口を利くな!」
カガリもまた届かない言葉にもどかしさを感じていた。
だがカガリの言葉はシンの心を刺し、彼の動揺は明らかだった。
なぜならシンは、全く気づいていなかったからだ。
今まさに近づいてくる、一筋の流星に。
「上空より接近する物体あり!…モビルスーツ?いや、速い!」
それをいち早く捉えたのはミネルバだった。
バートがモニターを見ながら、弾丸のように、もうほとんど落下といっていい速度で飛び込んできた熱源を感知して言う。
「何なの?」
タリアもそれを見て驚き、アーサーと顔を見合わせた。
シンがフラッシュエッジブーメランを投げ、まさにアカツキのボディにヒットしようとした瞬間、凄まじい爆発でカガリは吹き飛ばされた。
「ぐぅっ!」
「な…!?」
シンもまた、突然爆煙に包まれたアカツキに驚き、それが晴れた時、アカツキを守るようにその前に立ちはだかっている機体を見て、瞳を見開いた。
その顔はまるで、恐怖に満ちた…と言ってもいいほどの驚きを含んでいた。
「まさか…なんでこいつが…」
戦いの行方を見守っていたミネルバとアークエンジェルの時間が止まった。
「何!?」
ルナマリアもレイが見つめている空域に眼をやると、そこには何度か見慣れた、けれど少し形が違う機体があった。
ブーメランを破壊した両腰のレールガンを収納すると、その機体はゆっくりとデスティニーの正面に降下してきた。
誰もその名を口にしなかった。
あたりを驚きと戸惑いが包んでいた。
シンもただ、見開いた眼にそれを焼き付けていた。
目の前に、かつて自分が倒したはずのそれがいた。
「フリーダム…何だよ…そんな…何で!」
金色のアカツキの前に、翼を広げ、神々しいまでに輝くストライクフリーダムが立ちはだかっている。
「キラ…キラか!?」
カガリがフリーダムに似たその機体を見て表情を明るくした。
「おまえ、いつの間に…一体どこから?」
キラは戸惑いつつも嬉しそうなカガリに向かってニコリと笑うと、アークエンジェルに通信を入れた。
「マリューさん、ラクスを頼みます」
「え!?」
キラは大気圏を突破し、たった今地球に着いたばかりだった。
ストライクフリーダムはもう1機の赤い機体の手をしっかりと握って降下してきたのだ。その機体にはパイロットスーツ姿のラクスが乗っていた。
キラは高速で飛び、ラクスが乗る機体の手をアークエンジェルの傍で離した。
そしてそのままカガリの元に駆けつけたのだった。
「遅くなってごめん」
キラの声に、カガリはほっと息をついた。
「ここは私が引き受ける。カガリは国防本部へ!」
カガリは呆気に取られた様子のデスティニーを見て少し考えたが、「わかった」と言った。
これ以上シンと戦っても、答えは出ないだろう。
しかし今この時も、国土は焼かれ、被害が拡大しているのだ。
「インパルスに乗っていたヤツだ。気をつけろ」
「インパルスの…」
それを聞いてキラが再びデスティニーを見た時、カガリが言った。
「キラ、このままおまえに最前線を任せていいか?」
「え?」
キラはその意味がわからず聞き返した。
「俺はキサカたちと合流して本部に向かう。残った連中の指揮をおまえが執れ」
「でも、私は…」
キラの答えを待つまでもなく、カガリはニシザワを呼び出した。
「おまえたちはこれよりキラ・ヤマトに従え。俺は本部で全軍の指揮を執る」
皆に通達しろと言い置いたカガリは、改めてキラに「いいな」と念を押した。
「指揮官はおまえだ。前線は任せたぞ」
キラはまだ戸惑いを隠せなかったが、今は時間がない。
「わかった、やってみる!」
キラが戻った心強さで喜びに沸いていたアークエンジェルのブリッジでは、艦にいる全ての者がこの2人の会話をオープンチャンネルで聞いていた。
「キラが指揮官だって!」
「偉くなったなぁ、あいつ」
ミリアリアとチャンドラが笑いあい、思ったより手際よくモビルスーツを操るラクスを無事着艦させたマリューも、モニターを見てほっとしたような表情だ。
先ほどまで、ミネルバを前にピリピリしていたクルーたちの緊張感が程よくほぐれ、皆口々に「これで大丈夫だ」「キラが」「あれは新しいフリーダムか?」などと話しながら、一様に明るい顔を見せていたた。
(キラ…)
キラの存在は何よりもクルーを安心させ、押され気味で萎えかけていた彼らの闘志を再び奮い立たせたのだ。アスランはそれを今、自らの肌で感じていた。
最高のコーディネイターとしての自分は、力だけの、戦うだけの存在なのだろうかと悩み続けたキラが、今はその力で仲間たちを安心させ、守ろうとしている。
そこにはもう、かつてのような弱々しい姿も、自信なさげな様子もなかった。
ストライクフリーダムは守護神の如く舞い降り、キラは防御の要となっている。
(これが……キラの本当の力…)
一方メイリンはメイリンで、シンをあれだけ梃子摺らせたフリーダムに乗っていたのが、小さくて可愛らしいキラだったと知ってぽかんとしていた。
しかし次の瞬間、再び戦場に緊張感が走った。
「くそっ!!」
シンはビーム砲を構えると、ストライクフリーダムに狙いを定めた。
「なんでおまえが…死んだはずのおまえが、なんで…!」
キラがそれに気づいてシールドを展開しようとしたが、カガリが止めた。
「カガリ?危ないっ…!」
「シン!」
アカツキはそのままストライクフリーダムの前に出たのでキラが慌てて止めようとしたが、カガリはそれを押し留めた。
(敵に回るって言うんなら、今度は俺が滅ぼしてやる!)
ミネルバがオーブを出たあの日、シンが怒りと共に叫んだ言葉が蘇る。
「おまえがいくらこの国を滅ぼそうとしても!」
「黙れ!」
シンはもう話を聞く気はないとばかりにそのままビーム砲を放った。
アカツキはそれを全く恐れず、動く事もせずその身に受ける。
「…カガリ!」
そのまばゆい破壊の光に、キラでさえ一瞬ひるみ、逃れようと体が反応した。
しかしカガリは微動だにせず、アカツキはそのビームを全て受けきった。
「俺は必ず守ってみせる!何ものからも!」
この至近距離で、あれだけの高エネルギーを一身に受けても、アカツキの機体には傷一つついていなかった。
(シン…これが、ウズミ・ナラ・アスハが遺してくれた、俺の力だ)
これにはさしものキラも驚き、アークエンジェルのクルーはもちろん、ミネルバのレイやルナマリアも言葉がなかった。
シンは仕留められなかった相手を見てギリギリと唇を噛み、小さな声で呟いた。
「…おまえなんかに…何が守れるっていうんだ…」
シンは怒りに燃えた瞳でアカツキを、カガリを睨みつけたが、カガリは今度こそ機体を国防本部の方へと向けた。
「後は頼んだぞ、キラ」
「わかった。カガリもしっかりね」
モニター越しに笑いながら視線を交わすと、2人は別れていった。
そこには互いに対する、絶大な信頼があった。
アスランはそれを見て思わず立ち上がった。
しかしやはりふらりとよろめいたため、メイリンも慌てて立ち上がって彼女を支えた。
「大丈夫ですか?どちらへ?」
「ラクスに…彼に会わなければ…」
アスランはそう呟き、2人はそのままブリッジを出て行った。
毒気を抜かれたようだった戦場に、再び熱が戻ってきた。
「本艦が前に出ます。よろしいですね?」
タリアはセントヘレンズの艦長に通信をいれ、前進することを告げた。
「離水上昇急げ。面舵10。これよりアークエンジェルを討つ!」
タリアの号令にクルーに緊張が走った。
そして同じくアークエンジェルも戦闘態勢に入る。
「ミネルバが来るわよ、いいわね?」
両雄は並び立った。そして今度こそ本気でぶつかりあう。
「ランチャー1、10、ディスパール装填。トリスタン、イゾルデ、照準アークエンジェル!」
アークエンジェルの火力は凄まじい。
アーサーはパルシファルではなく、ディスパールでの迎撃態勢を取りながら、主砲と副砲を起動させた。
「後部ミサイル発射管、全門ウォンバット装填。ゴットフリート、バリアント、照準ミネルバ!」
一方のアークエンジェルでも、砲術を担当するアマギが主砲と副砲を起こす。
もちろん互いにCIWSとイーゲルシュテルンの準備も整っており、やがて両艦の副官の掛け声によって戦いの火蓋が落とされた。
「撃ぇー!」
オノゴロの軍事施設やモルゲンレーテの被害は大きく、壊滅状態だ。
兵たちは人々を逃がすため、道路を封鎖してシェルターに誘導している。
彼らは赤ん坊を抱いたまま途方にくれる若い母親を助け、親とはぐれて泣く子を抱き上げて避難した。
ビルの天窓や学校の窓からバビやグフのモノアイが覗く。脅えながらも、人々は瓦礫で動けなくなかった人を救助し、邪魔な車を力を合わせて排除していた。
M1が盾となり、ムラサメが人々が渡っている橋を守って必死に戦っている。
カガリは上空からその様子を見てやりきれず、けれど眼は逸らさない。
2度とこんな光景を見たくないと…2度と人々を苦しめまいと思って奮闘してきた2年間が、ガラガラと音を立てて崩れていく。カガリはシフトレバーを強く握り締めた。
(すべては俺の責任だ…戦いを恐れるあまり、闘う事を忘れていた)
孤軍奮闘するM1やムラサメを見ると上空から援護してやりたいが、人々が逃げ惑う市街地でビームライフルを使うのは危険だった。
今はとにかく、国防本部へ急ごう…カガリはシフトレバーを入れた。
本部の周辺もひどい有様だった。
上陸したアッシュが両手のクローを広げてビームを発射し、迎撃するムラサメ隊と一進一退の攻防を繰り広げている。
グフが飛び回るムラサメをウィップで捕らえ、振り回して瓦礫に激突させる。
上空のバビが本部への攻撃を加えようとして対空砲に狙われて逃げ出した。
ダメージはゼロではないものの、約束どおり追いついてきたカガリを見て、キサカたちは彼が着陸するまで空の安全を確保しようと一斉に攻撃にかかった。
「カガリ!今だ」
「よし、国防本部へ降りる。援護しろ!」
カガリはそう告げると旋回しながら降下を始めた。
それに気づいたザクやアッシュが狙い撃ってくる。
しかしアカツキにビームは通用しない。
カガリは残った片手にサーベルを持ったままだったが、その時ちょうど本部の地中から何かが出てくる事に気づいた。それは海底からはるばる地底を掘り進んできたグーンだった。カガリは運悪く無防備に頭を出したグーンの脳天に、スピードを乗せてサーベルを突き刺して止めを刺した。
そしてコックピットを降りると、爆撃が迫る本部に向かう。キサカたちのムラサメも次々着陸したが、彼らを待たずに夢中で走った。
「皆、無事か!」
そう言いながら司令室に飛び込むと、ソガ一佐が驚いて顔をあげた。
「カガリ様!?」
「おお、よくご無事で!」
その声に一斉に佐官たちがカガリの元に駆け寄ってきた。
「すまなかった、遅くなって」
カガリそうは言うとあたりを見回した。
「ユウナはどうした?どこにいる?」
「それが…」とソガ一佐が渋い顔をした。
「先ほどから姿が見えません」
「いない?では、ジブリールの行方は?」
ソガは申し訳なさそうに「それもまだわかりません」と答えた。
カガリはモニターの戦況図に眼をやり、未だ劣勢の状況を再確認した。
「とにかく、ヤツがいないなら約束は無効だ」
カガリが略式の命を下すと伝えると、佐官や下士官が急遽整列した。
「オーブ全軍は、これより代表首長カガリ・ユラ・アスハの指揮下に入る!」
兵たちが一斉に敬礼したこの瞬間、カガリは最高指揮権を取り戻した。
「とにかく一刻も早くジブリールを捕まえるんだ。カグヤの封鎖は完了しているな?」
「は!」
ソガは答え、全地区に捜索隊を放っていることも伝えた。
「よし。ウナトは行政府か?回線を開け!行政府に残っている首長がいたら、各部局と相談の上、急ぎ停戦交渉の草案を創るよう伝えてくれ」
「停戦…ですか?」
ソガはやや表情を曇らせた。ここまで追い込まれ、不利な状況で、果たしてそれをプラントが飲むかどうかはわからない…いや、むしろその確率は低かった。
何しろ今は、世界中がオーブを「ロゴスを匿う悪しき者」と認識しているのだ。
けれどカガリは強い口調で彼らを励ました。
「諦めるな。押し返せば、有利な条件で停戦への道も開ける!」
この状況下で、キラが、ラクスが帰ってきてくれた事もカガリを勇気づけた。
非力な自分を支えてくれる仲間がいる。だから、決して諦めるつもりはない。
「勝つ必要はない。たが負けてはならない!絶対にだ!」
「カガリ!」
その時、キサカが入り口からカガリを呼んだ。
カガリの言葉によって俄かに活気づいた司令本部は喧騒に包まれている。
カガリはキサカの傍まで行くと小さな声で「なんだ?」と尋ねた。
「裏手の運河にアルバトロスだ」
「…ユウナか!?」
「急げ!逃げられるぞ」
カガリはキサカと共に走り出した。
アルバトロスとは、かつてアスランを救助した時に彼らが乗っていた輸送機だ。
ユウナは発進準備を急がせ、慌しく脱出しようとしていた。
(今さらあの子が戻ってきたところで、この状況が引っくり返るわけがないわ)
父と合流し、ジブリールと共に宇宙へ上がればまだ活路はある。
(オーブが総崩れになっても、私たちがいればまた復興できる)
ユウナがいざ乗り込もうとした時、銃弾が足元をかすめた。
「止まれ!ユウナ・ロマ・セイラン!」
ユウナは両手をあげたままちっと舌打ちした。
ゆっくり向き直ると、カガリとキサカが銃を構えて狙っている。
ユウナは動ずることなくにっこりと笑った。ぞっとするような笑顔だった。
「お帰りなさい、カガリ!ずっと待ってたのよ、私の愛する旦那様」
「ふざけるなっ!」
カガリは心にもない事を言う彼女を怒鳴りつけ、銃を向けたまま聞いた。
「言え。ジブリールはどこだ?」
「…知らないわよ、そんなこと」
ユウナはやさぐれたように眼を逸らした。
「この期に及んでもまだヤツを庇い立てするのか?」
「本当に知らないったら。お父様もシェルターだし、私もずっとこっちだもの」
カガリは琥珀色の眼でユウナを睨みつけた。
「おまえだけを悪いとは言わない!ウナトやおまえや首長たちと意見を交わし、己の任を全う出来なかった俺も、充分に悪い!」
「そうね、本当にその通りだわ!」
ユウナが憎々しげに言い返した。
「勝手に国を離れて私たちに任せっきりだったくせに、ひどいわよ、これは!」
彼女は手を広げ、「銃を向けて脅すなんて、あんまりじゃないの!」と訴えた。
「私はあなたの留守を一生懸命…」
「それでこれか!?一体なんだ、この状況は!」
カガリが銃口を外し、銃を持った腕で上空を指し示した。
バビやグフが飛び交い、攻撃され、オーブの空が侵されている。
「もう2度と国を焼いてはならないと言ったのは、おまえ自身だろう!」
イヤなものでも見るように顔を歪めたユウナが、もう一度盛大に舌打ちした。
「ああ、もう、本当にあんたって最低だわっ!」
そしてそのままバッグから銃を取り出して構えた。
「うっ…!」
「下がれ、カガリ!」
驚いたカガリの前に、キサカが立ちはだかった。
「何が代表よ!青臭い意見ばかりで、それで国が廻ると思ってるの!?」
ユウナが喚き散らした。
「なんでも正しい事を言えばいいってものじゃないのよ、政治は!」
「おまえ、それでも…!」
その言葉に憤ったカガリが身を乗り出すと、キサカが腕に力をこめて止めた。
「ロゴスだか何だか知らないけど、オーブ経済が彼らのおかげでどれだけ潤ったと思ってるの?オーブが蘇ったのは彼らの力よ!その恩をあだで返すつもり?」
「それとこれとは別問題だ!」
まくし立てるユウナを、カガリが一喝した。
「たとえ意見は違っても、国を守ろうという想いだけは同じだと思っていたのに…」
カガリはそこまで言うと、悔しそうに表情を曇らせた。
何も知らない若僧と馬鹿にされ、無知と経験不足を笑われようとも、彼らの経歴を尊重し、国を想う気持ちは同じはずと信じて耐えてきた。必死に学び、彼らと同じリングに上がるために努力は惜しまなかった。
なのに、彼らの行動はカガリの想いも、平和を望む国民の心をも裏切ったのだ。
「おまえたちはその勝手な判断で、国を危機に陥れたんだぞ!なんということをしたんだ!」
それを聞いたユウナはニヤリと笑った。
「だから責任は取ったわよ。今頃、あちらの旗艦に使者が向かってるわ」
カガリは彼女の意図を計りかねて眉をひそめた。
「使者?」
「タツキ・マシマよ。あなたの…国家元首カガリ・ユラ・アスハの名前が入った無条件降伏の文書を持ってね」
「…な…んだと?」
わずかでも有利な条件で停戦交渉に入ろうと考えている矢先に、「無条件降伏」と聞いて、カガリとキサカは一瞬凍りついたように動きを止めた。
しかしすぐに我に返ったカガリは、激情に任せてキサカの体を腕で押しやると、そのままユウナに飛び掛ろうとした。
「きさま…ユウナーッ!!」
その瞬間頬を銃弾が掠め、カガリは衝撃でよろめいた。
すぐに摩擦熱で焼けた左の頬が激しく痛み始める。
「カガリッ!」
ユウナはその隙にアルバトロスの機内に飛び込もうとしたが、キサカが正確無比な射撃でユウナの銃を撃ち落とし、見事な手際であっという間に彼女を確保した。
「大丈夫か?」
「これくらい平気だ」
ユウナを押さえつけたままキサカが聞くと、カガリはすぐに立ち上がった。
その頃には響いた銃声に驚き、何人か司令室からもやって来た。
「ユウナ・ロマを国家反逆罪で逮捕、拘束しろ」
カガリが命じると、警備兵たちがキサカから彼女を引き取ろうとした。
「何をするのよ、無礼者!」
しかしこの期に及んでもユウナは激しく抵抗している。
「離しなさい!私はあの人の…カガリ・ユラ・アスハの妻なのよ!?」
「構わん。連れて行け」
彼女がまだそんな事を言って警備兵を梃子摺らせているので、カガリはきっぱりと言った。
「俺に、国を売るような妻はいない」
そしてキサカを伴い、もう一度司令室へと戻っていく。
「とにかく、マシマを見つけて止めよう」
カガリはズキズキと痛む頬に苛立ちながら言った。
「無条件降伏など、絶対にさせてたまるか!」
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制作裏話-PHASE42①-
カガリとシンが激突し、キラが降臨し、ようやくジャスティスがアスランの手に渡る…まではいかないけれど、久々にラクスとアスランの「陰険夫婦漫才」が聞ける回です。
しかし本編は不満だらけでした。シンとカガリの対決は中途半端、オーブ戦で深く傷ついたはずのシンは、今度は自分がオーブを傷つける破壊者となっているのにその葛藤は全くなく、キラとの戦いではゾンビのように蘇ったストフリにテンパって劣勢もいいところ、最後には謎の「エネルギー切れ」を起こして逃げ帰るという、視聴者唖然の展開でした。
これで主人公かと思うような撤退ぶりは涙を誘います。ドロンジョ一味じゃないんだからさ!
もちろん、逆転ではここを一つの山場にするつもりでしたから、虎視眈々とプロットを練ってきました。
まずはメイリンがアスランについて行きたいと意思を表示するシーンですが、ここは本編と違い、ネオとマリューを絡めてみました。
鈍感なアスランはメイリンの思いに気づきませんが、細やかで優しいマリューは彼の気持ちに気づき、フォローを入れようとします。しかし「知らないところに一人ぼっちで置き去られる」のは、釈放されたネオも同じなのです。マリューはそれに気づいて思わずネオの元に走りますが、彼は既に発ってしまった…という、そこはかとない寂寥感を入れ込んでみました。
さて次はシンVSカガリのガチンコ対決です。
ここは2人とも気が強く、ケンカでは一歩も退かないというキャラクター性を生かし、舌戦を繰り広げます。ザフトの最強機体デスティニーと戦いながらギャーギャー言い合いができるのは、アカツキの機体性能が高いゆえです。
シンの強さを示す演出として、スティングが逃げ切れなかったムラサメの三位一体攻撃を苦もなくかわし、撃破する姿を入れてカガリを震撼させました。
けれどカガリも負けじとシンに向かっていきます。いえ、ここではまだ相手がシンという確信はないはずなので、それを確かめるシーンを入れて舞台を整えたかったのです。2人が相手の存在を認め合って初めて、ガチ対決になるわけですから。
カガリはシンがオーブを攻撃する理由を聞きます。オーブを守れなかったと自分を責めた彼の、矛盾した行動を逆に問い質すわけです。シンも負けてはいません。一部の者がジブリールを匿ったのだと答えたカガリに、ユニウスセブンもそうだった、と切り返すのです。ここの2人の応酬はとても気に入っています。苛烈で過激なシンの優秀さ、激しく熱いカガリの誇り高さを如何なく表現できたと思います。
かつてぶつかりあった二人だからこそ、ここで互いに沸点に達するべきだと思うんですよ。なのに本編ではそんなシーンはまるでなし。カガリなど最終回に近づけば近づくほど、シンの事を完全に忘れ去っていったとしか思えません。
互いの言い分を心のどこかで理解しながらも、怒りと激情が理解を阻みます。ナチュラルとコーディネイターでありながら、同じオーブで育ったせいなのか、この2人は意外と似た者同士なんですね。同属嫌悪と言えるのかもしれませんが、やがて「綺麗事ばかり言いやがって!」と爆発したシンの様子を見て、彼よりは年上で場数も踏んでいるカガリがシンの心を看破します。そう言いながらも、おまえはそれを求めてやまないのだと。
そして怒りが頂点に達したシンに、カガリは言うのです。いつまでも後ろを見るなと。自分はもう前に進むと。
このセリフのために、カガリにはPHASE41で「自分が目指すオーブは、戦いを避けるために全力で闘う」という道を見つけ出させました。シンと同じく、ずっとあのオーブ戦の傷に苦しんでいたカガリは、先に前に進んだのです。そしてまだ後ろにいて動けずにいるシンにエールを送りました。でも、これはカガリにしかできないことだと思うのです。
本編ではアスランが最終回で「過去に囚われるのはやめろ!」とシンを叱りつけましたが、あれはおかしいと思うんですよ。アスランが自分の過去をシンにきちんと語って聞かせ、自分もシンと同じなのだと伝えていたならあのセリフは生きると思います。
でも本編のシンにとっては、アスランはただ都合のいいように陣営を変えたコウモリでしかありません。制作陣は結局、アスランとキラの視点からしか本編を見てないんですよ。
「主人公の」シンの立場から見た時、誰がシンを過去から救い出すか。それは同じ時、同じオーブで、同じ戦いを経験したカガリなんですよ。でも彼らは立場が違う。だから相容れない。それゆえに激しくぶつかる。けれど、互いを意識するんです。そして年上のカガリは、もがき苦しむシンにきっかけを与えなければならないんです。
もちろん、物語としては最後にシンを救うのはアスランでなければならないんですが、カガリもまた、重要なキーパーソンなんですよ。でなければ彼らが最初にシンと接触した意味が全くなくなります。あれらは全部不要なシーンという事になります。
力を求め続けたシンが、大嫌いなヤツに力負けする…ここでもテーマである「力」を象徴しています。
怒り狂ったシンの反撃が始まろうとした時、弾丸のように現れたのはストライクフリーダム。
ぴんぴんしているキラにシンもビックリです。
キラの登場で、ここにもオリジナルの要素を加えました。それは「キラの力」についてです。
アークエンジェルもムラサメ部隊も、劣勢の戦場でキラの存在を知ってどれほど心強く、勇気づけられるかは想像に難くありません。攻防の要となるキラは戦場ではどんなミサイルより、どんな防壁より兵を奮い立たせるとし、それをアスランにひしひしと感じてもらいました。いくらアスランが優秀で強くても、キラのように圧倒的不利だった味方を安心させることはできないという、「越えられない壁」としたかったのです。
また、後にオーブ艦隊の司令官となるキラの成長を描くために、カガリにはキラに「前線の指揮を任せる」と言わせました。
こうしてヒビキ兄妹の最強タッグが組まれた事でオーブは勢いを盛り返します。カガリはキラが止めるのを遮り、シンの攻撃をその身で全て受けきり、オーブを守ってみせると言うのです。アカツキの性能を生かしつつ、カガリの決意をシンに示させる演出です。実際は次のPHASEでカガリはいきなりシン頼みになるんですが、そこは今度はシンの格好良さを描写するためなので仕方がありません(ホントか)
さてシンとキラが相対した戦場はここでひとまず後回しになり、国防本部へ向かったカガリに焦点が移ります。
本編では既にソガに拘束されているユウナをカガリがぶん殴るというDV展開でしたが、逆転ではユウナが女性なので殴らせるわけにはいきませんし、何よりユウナを本編のようなヘタレにしたくなかったので、これまで彼女の悪女ぶりをじっくりと描いてきました。
キサカが戻った事でカガリのアドバンテージが何十倍にもなると示す意味もあり、ユウナを見つけ出したのはキサカです。
ここでもカガリとユウナは舌戦を繰り広げます。
カガリは自分の未熟さを知り、それを恥じていたがゆえに、彼なりに彼らの経験と知識を尊重していたのに、ユウナもウナトもそれを裏切りました。カガリは怒りをぶつけ、ユウナもまた、青臭い意見で政治を乱してきたカガリを糾弾します。シンと言い合い、ユウナと言い合い、このPHASEのカガリは喧嘩上等もいいところですね。
しかしユウナはとんでもない罠を仕掛けていました。劣勢である事と、カガリが帰って来た事を考え合わせ、ユウナが仕組んだ大きな爆弾…それはカガリの名で出した「無条件降伏」の申し入れでした。
これは後編の演出のための逆転オリジナルなのですが、なかなか面白い手段だったと思っています。
怒り狂ったカガリはユウナに向かっていこうとしますが、その途端発砲されます。これによってPHASE14でユウナがカガリの命を狙ったという事実がカガリにも理解できるようになり、キラもラクスももう隠しておく必要はなくなるわけですね。
取り押さえられたのに暴れ続けるユウナに、カガリが言い放つセリフは、私がどうしても、なんとしても言わせたかったセリフです。
「俺に、国を売るような妻はいない」
これによって、カガリがれっきとした「非妻帯者=独身」であると示したかったんですね。
本編でもこんなはっきりしたシーンがあったら格好良かったのにとしみじみ思います。まぁあっちはあっちで顔がへしゃげるほどぶん殴ったからいいのか。
この話、とにかく書いている私が一番スッキリしたといえるのかもしれません。シンとカガリの対決、そしてユウナとメイリンについても、本編でもやもやしたままだった事が片付き、ホントにせいせいしました。
しかし本編は不満だらけでした。シンとカガリの対決は中途半端、オーブ戦で深く傷ついたはずのシンは、今度は自分がオーブを傷つける破壊者となっているのにその葛藤は全くなく、キラとの戦いではゾンビのように蘇ったストフリにテンパって劣勢もいいところ、最後には謎の「エネルギー切れ」を起こして逃げ帰るという、視聴者唖然の展開でした。
これで主人公かと思うような撤退ぶりは涙を誘います。ドロンジョ一味じゃないんだからさ!
もちろん、逆転ではここを一つの山場にするつもりでしたから、虎視眈々とプロットを練ってきました。
まずはメイリンがアスランについて行きたいと意思を表示するシーンですが、ここは本編と違い、ネオとマリューを絡めてみました。
鈍感なアスランはメイリンの思いに気づきませんが、細やかで優しいマリューは彼の気持ちに気づき、フォローを入れようとします。しかし「知らないところに一人ぼっちで置き去られる」のは、釈放されたネオも同じなのです。マリューはそれに気づいて思わずネオの元に走りますが、彼は既に発ってしまった…という、そこはかとない寂寥感を入れ込んでみました。
さて次はシンVSカガリのガチンコ対決です。
ここは2人とも気が強く、ケンカでは一歩も退かないというキャラクター性を生かし、舌戦を繰り広げます。ザフトの最強機体デスティニーと戦いながらギャーギャー言い合いができるのは、アカツキの機体性能が高いゆえです。
シンの強さを示す演出として、スティングが逃げ切れなかったムラサメの三位一体攻撃を苦もなくかわし、撃破する姿を入れてカガリを震撼させました。
けれどカガリも負けじとシンに向かっていきます。いえ、ここではまだ相手がシンという確信はないはずなので、それを確かめるシーンを入れて舞台を整えたかったのです。2人が相手の存在を認め合って初めて、ガチ対決になるわけですから。
カガリはシンがオーブを攻撃する理由を聞きます。オーブを守れなかったと自分を責めた彼の、矛盾した行動を逆に問い質すわけです。シンも負けてはいません。一部の者がジブリールを匿ったのだと答えたカガリに、ユニウスセブンもそうだった、と切り返すのです。ここの2人の応酬はとても気に入っています。苛烈で過激なシンの優秀さ、激しく熱いカガリの誇り高さを如何なく表現できたと思います。
かつてぶつかりあった二人だからこそ、ここで互いに沸点に達するべきだと思うんですよ。なのに本編ではそんなシーンはまるでなし。カガリなど最終回に近づけば近づくほど、シンの事を完全に忘れ去っていったとしか思えません。
互いの言い分を心のどこかで理解しながらも、怒りと激情が理解を阻みます。ナチュラルとコーディネイターでありながら、同じオーブで育ったせいなのか、この2人は意外と似た者同士なんですね。同属嫌悪と言えるのかもしれませんが、やがて「綺麗事ばかり言いやがって!」と爆発したシンの様子を見て、彼よりは年上で場数も踏んでいるカガリがシンの心を看破します。そう言いながらも、おまえはそれを求めてやまないのだと。
そして怒りが頂点に達したシンに、カガリは言うのです。いつまでも後ろを見るなと。自分はもう前に進むと。
このセリフのために、カガリにはPHASE41で「自分が目指すオーブは、戦いを避けるために全力で闘う」という道を見つけ出させました。シンと同じく、ずっとあのオーブ戦の傷に苦しんでいたカガリは、先に前に進んだのです。そしてまだ後ろにいて動けずにいるシンにエールを送りました。でも、これはカガリにしかできないことだと思うのです。
本編ではアスランが最終回で「過去に囚われるのはやめろ!」とシンを叱りつけましたが、あれはおかしいと思うんですよ。アスランが自分の過去をシンにきちんと語って聞かせ、自分もシンと同じなのだと伝えていたならあのセリフは生きると思います。
でも本編のシンにとっては、アスランはただ都合のいいように陣営を変えたコウモリでしかありません。制作陣は結局、アスランとキラの視点からしか本編を見てないんですよ。
「主人公の」シンの立場から見た時、誰がシンを過去から救い出すか。それは同じ時、同じオーブで、同じ戦いを経験したカガリなんですよ。でも彼らは立場が違う。だから相容れない。それゆえに激しくぶつかる。けれど、互いを意識するんです。そして年上のカガリは、もがき苦しむシンにきっかけを与えなければならないんです。
もちろん、物語としては最後にシンを救うのはアスランでなければならないんですが、カガリもまた、重要なキーパーソンなんですよ。でなければ彼らが最初にシンと接触した意味が全くなくなります。あれらは全部不要なシーンという事になります。
力を求め続けたシンが、大嫌いなヤツに力負けする…ここでもテーマである「力」を象徴しています。
怒り狂ったシンの反撃が始まろうとした時、弾丸のように現れたのはストライクフリーダム。
ぴんぴんしているキラにシンもビックリです。
キラの登場で、ここにもオリジナルの要素を加えました。それは「キラの力」についてです。
アークエンジェルもムラサメ部隊も、劣勢の戦場でキラの存在を知ってどれほど心強く、勇気づけられるかは想像に難くありません。攻防の要となるキラは戦場ではどんなミサイルより、どんな防壁より兵を奮い立たせるとし、それをアスランにひしひしと感じてもらいました。いくらアスランが優秀で強くても、キラのように圧倒的不利だった味方を安心させることはできないという、「越えられない壁」としたかったのです。
また、後にオーブ艦隊の司令官となるキラの成長を描くために、カガリにはキラに「前線の指揮を任せる」と言わせました。
こうしてヒビキ兄妹の最強タッグが組まれた事でオーブは勢いを盛り返します。カガリはキラが止めるのを遮り、シンの攻撃をその身で全て受けきり、オーブを守ってみせると言うのです。アカツキの性能を生かしつつ、カガリの決意をシンに示させる演出です。実際は次のPHASEでカガリはいきなりシン頼みになるんですが、そこは今度はシンの格好良さを描写するためなので仕方がありません(ホントか)
さてシンとキラが相対した戦場はここでひとまず後回しになり、国防本部へ向かったカガリに焦点が移ります。
本編では既にソガに拘束されているユウナをカガリがぶん殴るというDV展開でしたが、逆転ではユウナが女性なので殴らせるわけにはいきませんし、何よりユウナを本編のようなヘタレにしたくなかったので、これまで彼女の悪女ぶりをじっくりと描いてきました。
キサカが戻った事でカガリのアドバンテージが何十倍にもなると示す意味もあり、ユウナを見つけ出したのはキサカです。
ここでもカガリとユウナは舌戦を繰り広げます。
カガリは自分の未熟さを知り、それを恥じていたがゆえに、彼なりに彼らの経験と知識を尊重していたのに、ユウナもウナトもそれを裏切りました。カガリは怒りをぶつけ、ユウナもまた、青臭い意見で政治を乱してきたカガリを糾弾します。シンと言い合い、ユウナと言い合い、このPHASEのカガリは喧嘩上等もいいところですね。
しかしユウナはとんでもない罠を仕掛けていました。劣勢である事と、カガリが帰って来た事を考え合わせ、ユウナが仕組んだ大きな爆弾…それはカガリの名で出した「無条件降伏」の申し入れでした。
これは後編の演出のための逆転オリジナルなのですが、なかなか面白い手段だったと思っています。
怒り狂ったカガリはユウナに向かっていこうとしますが、その途端発砲されます。これによってPHASE14でユウナがカガリの命を狙ったという事実がカガリにも理解できるようになり、キラもラクスももう隠しておく必要はなくなるわけですね。
取り押さえられたのに暴れ続けるユウナに、カガリが言い放つセリフは、私がどうしても、なんとしても言わせたかったセリフです。
「俺に、国を売るような妻はいない」
これによって、カガリがれっきとした「非妻帯者=独身」であると示したかったんですね。
本編でもこんなはっきりしたシーンがあったら格好良かったのにとしみじみ思います。まぁあっちはあっちで顔がへしゃげるほどぶん殴ったからいいのか。
この話、とにかく書いている私が一番スッキリしたといえるのかもしれません。シンとカガリの対決、そしてユウナとメイリンについても、本編でもやもやしたままだった事が片付き、ホントにせいせいしました。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
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2011/5/22~2012/9/12
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