機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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ダーダネルス海峡の幅は、一番狭いところで3km程度しかない。
ミリアリアは機材を準備し、安全にシャッターを切れる場所を探していた。
やがて海峡を見渡せる小さな崖を見つけると、すぐ近くの藪の中に身を潜める場所も確保した。それからレンズを確認し、手際よく撮影準備に入る。
さすがに戦闘開始時刻まではわからないので、しばらくは我慢比べだ。
合間に情報屋から何か入っていないかとタブレットをチェックすると、ディオキアのミネルバの動きが慌しいとある。じきに出航だろう。
ミリアリアは何かを探すようにそのまま指でメールを下へ送った。
(あ、また…)
ある地点で彼女は指を止め、青い瞳がしばし文字を追う。
読み終わると、ミリアリアはふん、と指で画面を弾いた。
返事は返さない。「もう終わったんだから」と思う。
なのに、彼女はいつも「削除」と「保存」で迷う。
今回も同じだ。ほんの少しだけ考える。
そしてそのままメールを別のフォルダに保存する。
ミリアリアは手早くボードやタブレットを片付けるとカメラを構えた。
今はこうして、紛れもない真実を切り取っていたい。
(早く諦めて、新しい彼女でも探せばいいのに)
それからポツリと呟いた。
「ホント、バカなんだから」
ミリアリアは機材を準備し、安全にシャッターを切れる場所を探していた。
やがて海峡を見渡せる小さな崖を見つけると、すぐ近くの藪の中に身を潜める場所も確保した。それからレンズを確認し、手際よく撮影準備に入る。
さすがに戦闘開始時刻まではわからないので、しばらくは我慢比べだ。
合間に情報屋から何か入っていないかとタブレットをチェックすると、ディオキアのミネルバの動きが慌しいとある。じきに出航だろう。
ミリアリアは何かを探すようにそのまま指でメールを下へ送った。
(あ、また…)
ある地点で彼女は指を止め、青い瞳がしばし文字を追う。
読み終わると、ミリアリアはふん、と指で画面を弾いた。
返事は返さない。「もう終わったんだから」と思う。
なのに、彼女はいつも「削除」と「保存」で迷う。
今回も同じだ。ほんの少しだけ考える。
そしてそのままメールを別のフォルダに保存する。
ミリアリアは手早くボードやタブレットを片付けるとカメラを構えた。
今はこうして、紛れもない真実を切り取っていたい。
(早く諦めて、新しい彼女でも探せばいいのに)
それからポツリと呟いた。
「ホント、バカなんだから」
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シンの眼が、その白い機体に釘付けになった。
(あの機体…見覚えがある…あれは…あれは…)
自分たち家族の行く手を阻んだのは、緑色のモビルスーツ。
上空には飛び回る黒い機体と、眼の前にいる白い機体がいた。
激しい風が皆の体をよろけさせ、マユがひどく脅えた。
不安感が徐々に高まり、フラッシュバックが起きそうな予兆がある。
(ダメだ、こんなところで!消えろ!)
シンは頭を振り、掌に拳を打ちつけて、別の刺激で気を散らそうとした。
その時、そんなシンの意識を戦場に引き戻す声が響いた。
「私は、オーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハ!」
突然の天敵の出現で自分を取り戻したシンの口から、怒声がほとばしった。
「…何しに来た、アスハ!」
怒りに燃えた赤い瞳が見上げた先に、不沈の大天使がその威容を現した。
(あの機体…見覚えがある…あれは…あれは…)
自分たち家族の行く手を阻んだのは、緑色のモビルスーツ。
上空には飛び回る黒い機体と、眼の前にいる白い機体がいた。
激しい風が皆の体をよろけさせ、マユがひどく脅えた。
不安感が徐々に高まり、フラッシュバックが起きそうな予兆がある。
(ダメだ、こんなところで!消えろ!)
シンは頭を振り、掌に拳を打ちつけて、別の刺激で気を散らそうとした。
その時、そんなシンの意識を戦場に引き戻す声が響いた。
「私は、オーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハ!」
突然の天敵の出現で自分を取り戻したシンの口から、怒声がほとばしった。
「…何しに来た、アスハ!」
怒りに燃えた赤い瞳が見上げた先に、不沈の大天使がその威容を現した。
傷ついたミネルバはポート・タルキウスに寄港していた。
「資材はすぐにディオキアの方から回してくれるということですが、タンホイザーの発射寸前でしたからね。艦首の被害はかなりのものですよ」
マッド・エイブスがアーサーがまとめたデータを見ながら言った。
ミネルバの甲板には、何人もの犠牲者の遺体が並べられている。
痛ましい若者たちの姿にタリアも表情を曇らせたままだ。
「さすがにちょっと時間がかかりますね、これは」
エイブスはデータをダウンロードし終わると渋い顔で言った。
「とにかく、できるだけ急いで頼むわ。いつもこんなことしか言えなくて悪いけど」
「わかってますよ」
そう答えて、エイブスも並べられている死体袋を見た。
犠牲者の中には彼の指揮下にあった整備兵も数人含まれていた。
「兵たちは皆、動揺しています。一体なぜあんな事になったのかってね」
「そうね…無理もないわ」
タリアはもう一度物言わぬ彼らに視線を向け、ため息をついた。
「資材はすぐにディオキアの方から回してくれるということですが、タンホイザーの発射寸前でしたからね。艦首の被害はかなりのものですよ」
マッド・エイブスがアーサーがまとめたデータを見ながら言った。
ミネルバの甲板には、何人もの犠牲者の遺体が並べられている。
痛ましい若者たちの姿にタリアも表情を曇らせたままだ。
「さすがにちょっと時間がかかりますね、これは」
エイブスはデータをダウンロードし終わると渋い顔で言った。
「とにかく、できるだけ急いで頼むわ。いつもこんなことしか言えなくて悪いけど」
「わかってますよ」
そう答えて、エイブスも並べられている死体袋を見た。
犠牲者の中には彼の指揮下にあった整備兵も数人含まれていた。
「兵たちは皆、動揺しています。一体なぜあんな事になったのかってね」
「そうね…無理もないわ」
タリアはもう一度物言わぬ彼らに視線を向け、ため息をついた。
「立てるか?」
シンはレイに肩を貸し、立ち上がった。
レイは返事もせず、荒い息を続けている。
過呼吸なのか、本当に苦しいのか、シンには判断ができない。
レイに肩を貸しながら、シンは今来た道を入り口まで戻り始めた。
自分が人に触れる事を苦手としていることなど、もう完全に忘れていた。
建物から少し離れた場所にレイを座らせると、シンは心配そうに覗き込んだ。
レイは建物の中よりは落ち着いたようだが、青い顔をして眼を閉じたまま、返事もできない様子だった。シンは何度も「大丈夫か?」と声をかけた。
「ミネルバに連絡してくる。水も持ってくるから、待ってろ」
やがてシンは足早にインパルスに戻った。
そしてコックピットに上がるとチャンネルを開き、救難信号を打電した。
シンはレイに肩を貸し、立ち上がった。
レイは返事もせず、荒い息を続けている。
過呼吸なのか、本当に苦しいのか、シンには判断ができない。
レイに肩を貸しながら、シンは今来た道を入り口まで戻り始めた。
自分が人に触れる事を苦手としていることなど、もう完全に忘れていた。
建物から少し離れた場所にレイを座らせると、シンは心配そうに覗き込んだ。
レイは建物の中よりは落ち着いたようだが、青い顔をして眼を閉じたまま、返事もできない様子だった。シンは何度も「大丈夫か?」と声をかけた。
「ミネルバに連絡してくる。水も持ってくるから、待ってろ」
やがてシンは足早にインパルスに戻った。
そしてコックピットに上がるとチャンネルを開き、救難信号を打電した。
シンはインパルスを跪かせて飛び降り、ガイアのコックピットに向かった。
(外部スイッチはセキュリティパスの突破に時間がかかる)
そう判断したシンは、熱で金属が熱くなっていることにも構わず、裂けた隙間から無理無理腕を入れると、スイッチを探った。
元々ザフトの機体だ。同じ場所にコックピットの開閉スイッチがあった。
そこには額から血を流し、体にひどい熱傷を負ったパイロットがいた。
紛れもない、ステラだった。
「ステラ…何できみが…」
シンは呆然としていた。
見慣れない形だが、地球軍の制服を着ている。
それに何より、この機体はガイアだった。
(ハイネを…殺した…)
シンが動揺を隠せずにいると、ステラが咳き込み、血を吐いた。
(肺を傷つけているかもしれない)
シートベルトを外すと、ステラはぐったりと彼の腕にもたれかかった。
(どうする?どうすればいいんだ!?)
シンは自分自身に問いかけた。
(外部スイッチはセキュリティパスの突破に時間がかかる)
そう判断したシンは、熱で金属が熱くなっていることにも構わず、裂けた隙間から無理無理腕を入れると、スイッチを探った。
元々ザフトの機体だ。同じ場所にコックピットの開閉スイッチがあった。
そこには額から血を流し、体にひどい熱傷を負ったパイロットがいた。
紛れもない、ステラだった。
「ステラ…何できみが…」
シンは呆然としていた。
見慣れない形だが、地球軍の制服を着ている。
それに何より、この機体はガイアだった。
(ハイネを…殺した…)
シンが動揺を隠せずにいると、ステラが咳き込み、血を吐いた。
(肺を傷つけているかもしれない)
シートベルトを外すと、ステラはぐったりと彼の腕にもたれかかった。
(どうする?どうすればいいんだ!?)
シンは自分自身に問いかけた。
「こちらパープル1。イエロー22ベータに発光信号を確認。これより向かう」
「ブラボー了解」
「おそらくそれだろう、ハイジャックされたと連絡のあったシャトルは」
座標に近づくパープル1のコードを持つジンが警戒し、突撃銃を構えた。
やがてパープル1が何かを見つけ、仲間が近づいてきた。
「ここで乗り捨てか。やってくれるな。船内を確認する」
そのシャトルは、紛れもなくディオキアの宇宙港で奪われたものだ。
彼らが突入すると、キャビンにパイロットたちが縛られて放置されていた。
「あ!おい!大丈夫か!?」
彼らの口は封じられておらず、傍らの栄養ドリンクが飲めるようになっていた。
キャビンを抜けた彼らは警戒しながらコックピットを開けた。
「わっ!なんだ?」
途端に目の前にもじゃもじゃしたものが現れ、彼らは眼を見張った。
何やら怪しげなそれは、コックピットの中をふわふわと漂っている。
兵たちがまじまじと見つめると、それは虎が置き土産にしたカツラだった。
「ブラボー了解」
「おそらくそれだろう、ハイジャックされたと連絡のあったシャトルは」
座標に近づくパープル1のコードを持つジンが警戒し、突撃銃を構えた。
やがてパープル1が何かを見つけ、仲間が近づいてきた。
「ここで乗り捨てか。やってくれるな。船内を確認する」
そのシャトルは、紛れもなくディオキアの宇宙港で奪われたものだ。
彼らが突入すると、キャビンにパイロットたちが縛られて放置されていた。
「あ!おい!大丈夫か!?」
彼らの口は封じられておらず、傍らの栄養ドリンクが飲めるようになっていた。
キャビンを抜けた彼らは警戒しながらコックピットを開けた。
「わっ!なんだ?」
途端に目の前にもじゃもじゃしたものが現れ、彼らは眼を見張った。
何やら怪しげなそれは、コックピットの中をふわふわと漂っている。
兵たちがまじまじと見つめると、それは虎が置き土産にしたカツラだった。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
インパルスが轟音と共にブラストシルエットを装着する。
以前の戦いで水中の敵に手を焼いたシンは、重火器装備で出ると決めていた。
ブラストインパルスは強力なスラスターで水面に近づき、水煙をあげてホバー飛行を続ける。
出撃前のブリーフィングでは、高度はセイバー、ブラストが水面付近全般、中間域は2機のザクが守ると決まっている。
オーブの後ろにいる地球軍は、ステラがいた部隊のはずだ。
(ステラを迎えに来たあいつらも…きっと…)
どこか重苦しい気持ちを抱きながら、シンは眼前の敵を見据えていた。
インパルスが轟音と共にブラストシルエットを装着する。
以前の戦いで水中の敵に手を焼いたシンは、重火器装備で出ると決めていた。
ブラストインパルスは強力なスラスターで水面に近づき、水煙をあげてホバー飛行を続ける。
出撃前のブリーフィングでは、高度はセイバー、ブラストが水面付近全般、中間域は2機のザクが守ると決まっている。
オーブの後ろにいる地球軍は、ステラがいた部隊のはずだ。
(ステラを迎えに来たあいつらも…きっと…)
どこか重苦しい気持ちを抱きながら、シンは眼前の敵を見据えていた。
サイバースコープをかけたラクスは、目の前に並べた3Dモニターを同時にいくつも操作していた。画面には複数の機体の設計図が展開している。
ラクスがスコープを操作してモニターから指で機体の画像を引き出すと、彼の眼にはそれらのモビルスーツが立体画像として浮かびあがった。
ZGMF-X56S、現在のザフトの最強機体インパルス。
アスランが乗っているZGMF-X23Sセイバー。
さらにアーモリーワンで強奪されたZGMF-X24Sカオス、ZGMF-X31Sアビス、ZGMF-X88Sガイア。
けれど既にセイバーとアビスには赤字で「Serious damage」とあり、ガイアには「Spoils」、カオスがかろうじて「Partial damage」である以外は、今のところ無事なのはインパルスだけだった。
ラクスはセイバーの画像を指で軽く叩く真似をした。
(議長の眼は確か、ということかな…)
ラクスがスコープを操作してモニターから指で機体の画像を引き出すと、彼の眼にはそれらのモビルスーツが立体画像として浮かびあがった。
ZGMF-X56S、現在のザフトの最強機体インパルス。
アスランが乗っているZGMF-X23Sセイバー。
さらにアーモリーワンで強奪されたZGMF-X24Sカオス、ZGMF-X31Sアビス、ZGMF-X88Sガイア。
けれど既にセイバーとアビスには赤字で「Serious damage」とあり、ガイアには「Spoils」、カオスがかろうじて「Partial damage」である以外は、今のところ無事なのはインパルスだけだった。
ラクスはセイバーの画像を指で軽く叩く真似をした。
(議長の眼は確か、ということかな…)
回収されたのは、ほぼ無傷だったコックピット・ブロックと、見事な切れ味で切断された頭部だった。
それ以外は完璧にバラバラになったセイバーは、7割方の部品がエーゲ海の藻屑と消えてしまった。
引き上げられた大きめの部品も、綺麗に切り刻まれている。
ブラックボックスからデータを抜き出している技師の作業を待って、その後機体の修理作業に入るはずの整備作業班…すなわち、ヨウランとヴィーノは、忙しそうに働く彼らをただ見ているだけだ。
「は~」
ため息とも驚きともつかない声をあげながら、ヴィーノはしゃがみこみ、ハンガーに並べられているセイバーのわずかな破片を手でひっくり返した。
ビームサーベルの熱でひしゃげた合金属は赤い塗装が剥げ、その瞬間の凄まじい破壊力を物語る。投げるとカラン…と乾いた音がした。
「これ…直せってのは無理だよ…」
ヨウランも腕を組みながらその「残骸」を見つめている。
ヴィーノは手持ち無沙汰に部品を投げては音を立てていたが、立ち上がると「フリーダムだって?やったの…」と何度目かのため息をついた。
「さすがのFAITHもあれには勝てないか」
「殺されなかっただけ儲けもんかな」
2人はやれやれと言いながら、まだ続くデータ回収作業を見守っていた。
それ以外は完璧にバラバラになったセイバーは、7割方の部品がエーゲ海の藻屑と消えてしまった。
引き上げられた大きめの部品も、綺麗に切り刻まれている。
ブラックボックスからデータを抜き出している技師の作業を待って、その後機体の修理作業に入るはずの整備作業班…すなわち、ヨウランとヴィーノは、忙しそうに働く彼らをただ見ているだけだ。
「は~」
ため息とも驚きともつかない声をあげながら、ヴィーノはしゃがみこみ、ハンガーに並べられているセイバーのわずかな破片を手でひっくり返した。
ビームサーベルの熱でひしゃげた合金属は赤い塗装が剥げ、その瞬間の凄まじい破壊力を物語る。投げるとカラン…と乾いた音がした。
「これ…直せってのは無理だよ…」
ヨウランも腕を組みながらその「残骸」を見つめている。
ヴィーノは手持ち無沙汰に部品を投げては音を立てていたが、立ち上がると「フリーダムだって?やったの…」と何度目かのため息をついた。
「さすがのFAITHもあれには勝てないか」
「殺されなかっただけ儲けもんかな」
2人はやれやれと言いながら、まだ続くデータ回収作業を見守っていた。
「シン・アスカ!軍法第三条G項他の違反により、きみを逮捕する!」
戻ってきたシンを待っていたのは、冷たく向けられた銃口だった。
シンはおとなしく両手を前に出し、そのまま電子錠をはめられる。
ステラを無事に返したシンが今想うことは、自分を助けてくれたレイはどうしたかという事だけだった。コックピットにはレイの赤服が残っている。
シンは自分を連行する警備兵に「上着を…」と言いかけたが、仲間を打ち倒された彼は忌々しそうにシンを睨み、「黙って歩け!」と命じた。
シンは黙り、インパルスを見上げる。
(じゃあな、インパルス…)
ヴィーノが心配そうに見つめる中、シンは艦長室に連行されて行った。
「シン!」
艦長室の前ではルナマリアとアスランが待っていた。
腕を吊り、まだガーゼや包帯などが目立つルナマリアが真っ青な顔でシンに駆け寄ろうとしたが、警備兵に制止された。
「シン、なんで…」
言葉が続かないが、涙ぐむ深く青い瞳は、なぜこんな事をと言っている。
アスランもまた、ルナマリアの肩をそっと引いてシンを見つめた。
シンは2人から目を離すと、真っ直ぐ前を向いた。
「失礼します。シン・アスカを逮捕、連行しました」
戻ってきたシンを待っていたのは、冷たく向けられた銃口だった。
シンはおとなしく両手を前に出し、そのまま電子錠をはめられる。
ステラを無事に返したシンが今想うことは、自分を助けてくれたレイはどうしたかという事だけだった。コックピットにはレイの赤服が残っている。
シンは自分を連行する警備兵に「上着を…」と言いかけたが、仲間を打ち倒された彼は忌々しそうにシンを睨み、「黙って歩け!」と命じた。
シンは黙り、インパルスを見上げる。
(じゃあな、インパルス…)
ヴィーノが心配そうに見つめる中、シンは艦長室に連行されて行った。
「シン!」
艦長室の前ではルナマリアとアスランが待っていた。
腕を吊り、まだガーゼや包帯などが目立つルナマリアが真っ青な顔でシンに駆け寄ろうとしたが、警備兵に制止された。
「シン、なんで…」
言葉が続かないが、涙ぐむ深く青い瞳は、なぜこんな事をと言っている。
アスランもまた、ルナマリアの肩をそっと引いてシンを見つめた。
シンは2人から目を離すと、真っ直ぐ前を向いた。
「失礼します。シン・アスカを逮捕、連行しました」
「どうです?圧倒的じゃないですか、デストロイは!」
壁一面のモニターには破壊の限りを尽くすデストロイが映っている。
ロシアからワルシャワを抜け、ベルリンに到達したデストロイは、連合の再三の抗議を聞かずに誘致されたザフト軍基地はもとより、プラントの技術提携会社などに加え、市街地にも無差別攻撃を繰り返している。逃げ惑う人やザフト兵士が吹き飛ばされ、抗おうと防衛を続けるモビルスーツが破壊されていく。
「確かにな。全て焦土と化して何も残らんわ」
音声のみのロゴスの1人が不満そうに言った。
「どこまで焼き払うつもりなんだ、これで」
昨今はロゴスの間でも、ジブリールの暴走に疑問を感じる声が出始めている。
ミネルバとの小競り合い程度なら大した被害もないと放置されてきたのだが、さすがにこの破壊行為には、焼き払われた都市に拠点を置く合弁・合資会社を持つ者からも不満が上がった。巨大な経済都市、ベルリンともなれば尚更だ。
「そこにザフトがいる限り、どこまでもですよ」
ジブリールはそんな事は百も承知だった。
しかし自分勝手な彼にとって、彼らの懸念や地球国家の批判など些事に過ぎない。
「変に馴れ合う連中に、もう一度はっきりと教えてやりませんとね。我らナチュラルとコーディネイターは違うのだということを」
子供のような理論は、ロゴスのメンバーを呆れさせた。
もはやないに等しい両者の対立を今さら植えつけようとしても、それはむしろこちらの敵が増えるばかりだ。
時代の趨勢を読めと言われても、ジブリールはどこ吹く風だった。
「そして我々同胞を裏切るような真似をすれば、地獄に堕ちるのだということをね」
―― きれいに焼けた後には、また街ができ、ビルが建ち、人が満ちますよ…
「これはそのための粛清です。祝おうではありませんか!新たな門出を」
ジブリールはデストロイの砲がブランデンブルク門を破壊する映像を見ながら、ワイングラスを高々と掲げた。
壁一面のモニターには破壊の限りを尽くすデストロイが映っている。
ロシアからワルシャワを抜け、ベルリンに到達したデストロイは、連合の再三の抗議を聞かずに誘致されたザフト軍基地はもとより、プラントの技術提携会社などに加え、市街地にも無差別攻撃を繰り返している。逃げ惑う人やザフト兵士が吹き飛ばされ、抗おうと防衛を続けるモビルスーツが破壊されていく。
「確かにな。全て焦土と化して何も残らんわ」
音声のみのロゴスの1人が不満そうに言った。
「どこまで焼き払うつもりなんだ、これで」
昨今はロゴスの間でも、ジブリールの暴走に疑問を感じる声が出始めている。
ミネルバとの小競り合い程度なら大した被害もないと放置されてきたのだが、さすがにこの破壊行為には、焼き払われた都市に拠点を置く合弁・合資会社を持つ者からも不満が上がった。巨大な経済都市、ベルリンともなれば尚更だ。
「そこにザフトがいる限り、どこまでもですよ」
ジブリールはそんな事は百も承知だった。
しかし自分勝手な彼にとって、彼らの懸念や地球国家の批判など些事に過ぎない。
「変に馴れ合う連中に、もう一度はっきりと教えてやりませんとね。我らナチュラルとコーディネイターは違うのだということを」
子供のような理論は、ロゴスのメンバーを呆れさせた。
もはやないに等しい両者の対立を今さら植えつけようとしても、それはむしろこちらの敵が増えるばかりだ。
時代の趨勢を読めと言われても、ジブリールはどこ吹く風だった。
「そして我々同胞を裏切るような真似をすれば、地獄に堕ちるのだということをね」
―― きれいに焼けた後には、また街ができ、ビルが建ち、人が満ちますよ…
「これはそのための粛清です。祝おうではありませんか!新たな門出を」
ジブリールはデストロイの砲がブランデンブルク門を破壊する映像を見ながら、ワイングラスを高々と掲げた。
「新しい穴を掘ってくれ」
デストロイが倒され、戦闘が終わった後には、さらに大変な仕事が待っていた。
生き残った人々の救援医療活動、衛生状態の保持、ライフラインの復旧…
「身元がわからない死体は焼却だ」
ジブラルタルからも続々と駆けつけたザフト兵が、届いた物資を皆に均等に分け与え、暖かくて安全な避難所へ人々を誘導していた。
「もう大丈夫だぞ」
瓦礫の下から数十時間ぶりに助けられた人がいて、人々は絶望の中にほんのわずかな希望を見つけた。
血だまりの前でなす術もない戦災孤児に、若いザフト兵が駆け寄った。
「さ、おいで…怖かったな」
無残にも消されてしまった命が集められ、シートにくるまれていく。
死体すらない家族や愛する者を思い、雪の中で途方に暮れる者もいた。
「消毒薬を撒かないと…大変なことになるぞ」
遺体は急ピッチで片付けられているが、疲れきった兵たちも、あとどれだけ死体を集め、記録し、焼却し、埋葬すれば終わるのかとため息をついていた。
「重機は駄目だ!壁が崩れる!」
街は、どこもかしこもボロボロだった。
「誰か、この子の親を知りませんか?」
親とはぐれたのかそれとも失ったのか、無表情の小さな子供の手を引き、年老いた男が兵たちに尋ねて廻る。
「まだ息がある!手を貸してくれ!」
街の片隅でうずくまり、血まみれの女性を兵たちが取り囲んだ。
アスランは無言のまま、目の前で繰り広げられる懸命の救援活動と、人々の苦しみ、嘆き、哀しみを見つめていた。
そこにはあまりにも非情な現実があり、この戦争の間違いが露呈している。
そもそもこんな本末転倒を引き起こしたのは、地球軍なのだ。
(プラントは、こんな馬鹿なことは一日でも早く終わらせようと頑張ってる)
(議長は立派な方よ。戦争の根幹を探り、真に平和を目指そうとしてる)
アスランの中に、自分の発言は間違いではなかったと言う自分がいる。
誰かがこんな暴挙を止めようとしなければもっと被害が出たはずだ。
しかし、実際にはキラがあのモビルスーツを倒したことも事実だった。
(けれど、それでは本当の意味での解決にもならない…だから私たちは…)
アスランは何度もそう思おうとした。
なのに、気持ちは一向に晴れなかった。
デストロイが倒され、戦闘が終わった後には、さらに大変な仕事が待っていた。
生き残った人々の救援医療活動、衛生状態の保持、ライフラインの復旧…
「身元がわからない死体は焼却だ」
ジブラルタルからも続々と駆けつけたザフト兵が、届いた物資を皆に均等に分け与え、暖かくて安全な避難所へ人々を誘導していた。
「もう大丈夫だぞ」
瓦礫の下から数十時間ぶりに助けられた人がいて、人々は絶望の中にほんのわずかな希望を見つけた。
血だまりの前でなす術もない戦災孤児に、若いザフト兵が駆け寄った。
「さ、おいで…怖かったな」
無残にも消されてしまった命が集められ、シートにくるまれていく。
死体すらない家族や愛する者を思い、雪の中で途方に暮れる者もいた。
「消毒薬を撒かないと…大変なことになるぞ」
遺体は急ピッチで片付けられているが、疲れきった兵たちも、あとどれだけ死体を集め、記録し、焼却し、埋葬すれば終わるのかとため息をついていた。
「重機は駄目だ!壁が崩れる!」
街は、どこもかしこもボロボロだった。
「誰か、この子の親を知りませんか?」
親とはぐれたのかそれとも失ったのか、無表情の小さな子供の手を引き、年老いた男が兵たちに尋ねて廻る。
「まだ息がある!手を貸してくれ!」
街の片隅でうずくまり、血まみれの女性を兵たちが取り囲んだ。
アスランは無言のまま、目の前で繰り広げられる懸命の救援活動と、人々の苦しみ、嘆き、哀しみを見つめていた。
そこにはあまりにも非情な現実があり、この戦争の間違いが露呈している。
そもそもこんな本末転倒を引き起こしたのは、地球軍なのだ。
(プラントは、こんな馬鹿なことは一日でも早く終わらせようと頑張ってる)
(議長は立派な方よ。戦争の根幹を探り、真に平和を目指そうとしてる)
アスランの中に、自分の発言は間違いではなかったと言う自分がいる。
誰かがこんな暴挙を止めようとしなければもっと被害が出たはずだ。
しかし、実際にはキラがあのモビルスーツを倒したことも事実だった。
(けれど、それでは本当の意味での解決にもならない…だから私たちは…)
アスランは何度もそう思おうとした。
なのに、気持ちは一向に晴れなかった。
「提示された者の中にはセイラン…いや、オーブと深い関わりのある者もいる」
カガリが皆に、議長が「ロゴス」と称した9人について説明した。
「彼らが経営しているのはほとんどは表向き健全な会社だ。食品、医薬品、化学、機械工業、通信、マスコミ、保険、金融や証券…グローバル企業を持つ彼らとかかわりのない国などないだろう」
カガリは理解しやすいようにとアークエンジェルのデータベースから近年のオーブの経済白書を示して見せた。
オーブは名実共に工業技術大国であるから、彼らとの関係ももちろん深い。
「オーブ危機後は国の再建のため、あくまでも民間レベルでだが、彼らとの提携や合併が随分増えていたんだ」
正直、それなくしてオーブの急速な復興はありえなかったことも事実だ。
そして、そういった企業の呼び込みを得意とするのがセイランだった。
「オーブが心配だ。セイランは…これからどう…」
当のセイラン親子はといえば、このデュランダル議長の放送により、自分たちが親しくしている者たちまでもが「ロゴス」と名を挙げられて困惑していた。
ことにあの用心深いジブリールの名まで出るとは…
「お父様!どういうことですの?リッターグループやグロート家の名まで出るなんて!」
ユウナが声を潜めて言うと、父も渋い表情を見せた。
「うむ…」
ウナトは会見の申し込みや委員会からの開催催促に頭を痛め、事態をすみやかに収拾しようとしていた。
しかし議長の思惑が読めない今、一体何をどうすべきか見当がつかずにいた。
カガリが皆に、議長が「ロゴス」と称した9人について説明した。
「彼らが経営しているのはほとんどは表向き健全な会社だ。食品、医薬品、化学、機械工業、通信、マスコミ、保険、金融や証券…グローバル企業を持つ彼らとかかわりのない国などないだろう」
カガリは理解しやすいようにとアークエンジェルのデータベースから近年のオーブの経済白書を示して見せた。
オーブは名実共に工業技術大国であるから、彼らとの関係ももちろん深い。
「オーブ危機後は国の再建のため、あくまでも民間レベルでだが、彼らとの提携や合併が随分増えていたんだ」
正直、それなくしてオーブの急速な復興はありえなかったことも事実だ。
そして、そういった企業の呼び込みを得意とするのがセイランだった。
「オーブが心配だ。セイランは…これからどう…」
当のセイラン親子はといえば、このデュランダル議長の放送により、自分たちが親しくしている者たちまでもが「ロゴス」と名を挙げられて困惑していた。
ことにあの用心深いジブリールの名まで出るとは…
「お父様!どういうことですの?リッターグループやグロート家の名まで出るなんて!」
ユウナが声を潜めて言うと、父も渋い表情を見せた。
「うむ…」
ウナトは会見の申し込みや委員会からの開催催促に頭を痛め、事態をすみやかに収拾しようとしていた。
しかし議長の思惑が読めない今、一体何をどうすべきか見当がつかずにいた。
「右尾翼大破、第一エンジン損傷!主翼にもダメージを受けています!」
チャンドラが艦の被害状況を確認し、悲鳴に近い声で報告を上げる。
追撃は振り切ったもののアークエンジェルのダメージは大きく、潜航にすら支障が出ていた。
「出力低下、スリム水平不能!」
「左舷注水!艦の姿勢を維持して!」
ノイマンが北海の激しい海流に舵を取られながら艦体を立て直している。
「第一エンジンは切り離して!爆破します!」
驚いたクルーが一斉に顔を上げたが、マリューはそのまま続けた。
「撃沈したと思わせるのよ。急いで!」
そして既に無人の副操縦士席を見る。
(カガリくん…どうかキラさんを…)
チャンドラが艦の被害状況を確認し、悲鳴に近い声で報告を上げる。
追撃は振り切ったもののアークエンジェルのダメージは大きく、潜航にすら支障が出ていた。
「出力低下、スリム水平不能!」
「左舷注水!艦の姿勢を維持して!」
ノイマンが北海の激しい海流に舵を取られながら艦体を立て直している。
「第一エンジンは切り離して!爆破します!」
驚いたクルーが一斉に顔を上げたが、マリューはそのまま続けた。
「撃沈したと思わせるのよ。急いで!」
そして既に無人の副操縦士席を見る。
(カガリくん…どうかキラさんを…)
優先的にドック入りを許されたミネルバのエンジンがゆっくりと停止した。
ミネルバもこれでようやく長旅を終え、目的地に辿り着いたのだ。
(ヴィーノやヨウランが暇なら、一緒に宿舎に行こう)
バートから「先に上陸していいぞ」と言われたメイリンがハンガーに向かうと、彼らはちょうど巨大なコンテナの運び出しに立ち会っているところだった。
「大きいねぇ。モビルスーツ?」
「ガイアだよ。やーっとこいつを下ろせる」
ヨウランが振り向いて教えてくれた。
「ああ…そういえばジブラルタルで下ろすってスケジュールが出てたっけ」
メイリンは納得し、そのまま作業を見守る事にした。
「けどどうするんだろうね、これ。やっぱレストアかな?」
「エクステンデッドが乗ってたんだもんな。あんまいい気はしないよ」
「言えてる。だから結局誰も直さなかったしね」
ヴィーノとヨウランがそんな事を話している間、メイリンは巨大なコンテナにでかでかと描かれた絵を見つめていた。
(この輸送会社のイメージ・キャラクターなのかな?)
そこには、荒野をバックに豪快にジャンプする虎の絵が描かれていた。
ミネルバもこれでようやく長旅を終え、目的地に辿り着いたのだ。
(ヴィーノやヨウランが暇なら、一緒に宿舎に行こう)
バートから「先に上陸していいぞ」と言われたメイリンがハンガーに向かうと、彼らはちょうど巨大なコンテナの運び出しに立ち会っているところだった。
「大きいねぇ。モビルスーツ?」
「ガイアだよ。やーっとこいつを下ろせる」
ヨウランが振り向いて教えてくれた。
「ああ…そういえばジブラルタルで下ろすってスケジュールが出てたっけ」
メイリンは納得し、そのまま作業を見守る事にした。
「けどどうするんだろうね、これ。やっぱレストアかな?」
「エクステンデッドが乗ってたんだもんな。あんまいい気はしないよ」
「言えてる。だから結局誰も直さなかったしね」
ヴィーノとヨウランがそんな事を話している間、メイリンは巨大なコンテナにでかでかと描かれた絵を見つめていた。
(この輸送会社のイメージ・キャラクターなのかな?)
そこには、荒野をバックに豪快にジャンプする虎の絵が描かれていた。
雨が降ってきたジブラルタルの港は相変わらずの大混雑だった。
ユーラシアや東アジアなど、ザフトとは違う多くの艦艇が続々と入港を待ち、港も多くの人々でごった返している。
彼らが着ているのは、多くがカーキ色の地球軍の制服だ。
「ポートコントロールより通達。接近中の地球軍艦艇、オブジェクト729は、東アジア共和国より合流した友軍である」
「ステータスブルー。警戒態勢は解除。繰り返す」
キサカは舳先に立ち、ライトが照らされた夜の港への入港許可を待っていた。
安全を期し、ずっと電源を切っていた通信機能をオンにした時、GPSが知らせたのは大西洋を北上しつつあるカガリの存在だった。
オンになっているということは、カガリにも自分の存在がわかったはずだった。
(全く…こんなところで何をしているんだ…)
そう呆れながらも、心は主君から託された若き獅子の元に馳せる。
(残る任務もあとわずかだ…いずれオーブで合流できるだろう)
キサカは簡単にメッセージを送ると、今は背を向け、ジブラルタルに入港した。
ユーラシアや東アジアなど、ザフトとは違う多くの艦艇が続々と入港を待ち、港も多くの人々でごった返している。
彼らが着ているのは、多くがカーキ色の地球軍の制服だ。
「ポートコントロールより通達。接近中の地球軍艦艇、オブジェクト729は、東アジア共和国より合流した友軍である」
「ステータスブルー。警戒態勢は解除。繰り返す」
キサカは舳先に立ち、ライトが照らされた夜の港への入港許可を待っていた。
安全を期し、ずっと電源を切っていた通信機能をオンにした時、GPSが知らせたのは大西洋を北上しつつあるカガリの存在だった。
オンになっているということは、カガリにも自分の存在がわかったはずだった。
(全く…こんなところで何をしているんだ…)
そう呆れながらも、心は主君から託された若き獅子の元に馳せる。
(残る任務もあとわずかだ…いずれオーブで合流できるだろう)
キサカは簡単にメッセージを送ると、今は背を向け、ジブラルタルに入港した。
「いいか?」
先にレジェンドを起動させたレイがシンに状況を聞いた。
調整はまだ完全には終わっていないが、パワーフロー良好、エンジン音、各部チェックも異常がない。
デスティニーのパネルが全て輝きだしても、シンの表情は曇ったままだ。
(あいつに、メイリンにあんな勇気があったなんて…)
頭脳明晰でそれなりに優秀なのだが、いかんせん気弱な性格が災いし、いつも姉のルナマリアの蔭に隠れていた。そんなメイリンが銃弾の前に飛び出したのだ。
(あの人を…アスランを庇って…)
「油断するなよ、追うのはアスラン・ザラだ」
それでもシンが返事をせずにいるので、レイは「シン」と呼んだ。
「ヤツは保安部に追われ、それを打ち倒して逃走した。機体性能は劣っても、抵抗されれば何があるかわからない…それはわかっているな?」
「…ああ」
シンは「わかってる」と答えてさらに発進準備を進めた。
「A55警報発令中。42、666スタンバイ」
(フリーダムは敵じゃない、か)
シンの瞳が闇を見通すように水平線に向けられた。
(アスラン…あんたが俺が望む世界の前に立ちはだかるというなら…)
シンはデスティニーのエンジンの唸りをその手に感じながら眼を閉じた。
やがてその高鳴りと共に眼を開く。赤く、美しい瞳がそこにはあった。
「俺は、おまえを討つ!」
先にレジェンドを起動させたレイがシンに状況を聞いた。
調整はまだ完全には終わっていないが、パワーフロー良好、エンジン音、各部チェックも異常がない。
デスティニーのパネルが全て輝きだしても、シンの表情は曇ったままだ。
(あいつに、メイリンにあんな勇気があったなんて…)
頭脳明晰でそれなりに優秀なのだが、いかんせん気弱な性格が災いし、いつも姉のルナマリアの蔭に隠れていた。そんなメイリンが銃弾の前に飛び出したのだ。
(あの人を…アスランを庇って…)
「油断するなよ、追うのはアスラン・ザラだ」
それでもシンが返事をせずにいるので、レイは「シン」と呼んだ。
「ヤツは保安部に追われ、それを打ち倒して逃走した。機体性能は劣っても、抵抗されれば何があるかわからない…それはわかっているな?」
「…ああ」
シンは「わかってる」と答えてさらに発進準備を進めた。
「A55警報発令中。42、666スタンバイ」
(フリーダムは敵じゃない、か)
シンの瞳が闇を見通すように水平線に向けられた。
(アスラン…あんたが俺が望む世界の前に立ちはだかるというなら…)
シンはデスティニーのエンジンの唸りをその手に感じながら眼を閉じた。
やがてその高鳴りと共に眼を開く。赤く、美しい瞳がそこにはあった。
「俺は、おまえを討つ!」
「報告!グフ、撃墜です」
司令室で報告を待っていた将官たちが一斉に声をあげた。
タリアだけは息を呑み、項垂れたルナマリアの肩を抱いている。
「デスティニー、レジェンド帰投」
「そうか、ありがとう」
議長が微笑んで礼を言うと、部屋の中の緊張もようやく解れた。
ルナマリアはその結末が意味するところを知って涙をこらえていたが、タリアが「もう行きなさい」と優しく促すと、部屋を辞した。
ミーアもまた、アスランが討たれたと知ってそのまま床に崩れ落ちた。
呆然としたまま床を見つめていた彼は、やがて両耳を覆って眼を閉じた。
(アスラン…!)
今は何も聞きたくないし、何も見たくなかった。
デュランダルは睨みつけるタリアには気付かないふりをしながら、1人の黒服を呼びつけて言った。
「クラエバー、事の次第を簡単に文章に纏めてくれ。連合側もあれこれ探ってきているからな」
「は」
「それと、調査隊を出すので現場海域へは立ち入らないよう全軍に通達を」
議長がてきぱきと事後処理を指示すると、緊迫していた司令室も安堵感に包まれていった。
(たった今、自分の部下の命が消えたことなど、なかったことのように)
タリアはじっとデュランダルを睨みながら考えていた。
「ミネルバの彼らの部屋を調べさせてもらうことになると思うが…」
やがて自分の順番が廻ってきたのでタリアは頷いたが、表情はこわばったままだ。
「そう睨まないでくれ、タリア」
議長は少し困ったように、柔和な笑顔を彼女に向けた。
「きみにも事情も聞かねばならないし、あとでゆっくり時間を取るから」
「…ええ」
「アスランは私が復隊させ、FAITHとまでした者だ。それがこんなことになって、ショックなのは私も同じさ」
議長はため息混じりに言ったが、タリアは相変わらず硬い表情のままだ。
「調査が進めば、彼らの狙いが何だったのかはわかるだろう。それまではきみも少し休んでくれ。あの2人もね」
タリアはしばらく彼を見つめていたが、再び「ええ」と言っただけだった。
司令室で報告を待っていた将官たちが一斉に声をあげた。
タリアだけは息を呑み、項垂れたルナマリアの肩を抱いている。
「デスティニー、レジェンド帰投」
「そうか、ありがとう」
議長が微笑んで礼を言うと、部屋の中の緊張もようやく解れた。
ルナマリアはその結末が意味するところを知って涙をこらえていたが、タリアが「もう行きなさい」と優しく促すと、部屋を辞した。
ミーアもまた、アスランが討たれたと知ってそのまま床に崩れ落ちた。
呆然としたまま床を見つめていた彼は、やがて両耳を覆って眼を閉じた。
(アスラン…!)
今は何も聞きたくないし、何も見たくなかった。
デュランダルは睨みつけるタリアには気付かないふりをしながら、1人の黒服を呼びつけて言った。
「クラエバー、事の次第を簡単に文章に纏めてくれ。連合側もあれこれ探ってきているからな」
「は」
「それと、調査隊を出すので現場海域へは立ち入らないよう全軍に通達を」
議長がてきぱきと事後処理を指示すると、緊迫していた司令室も安堵感に包まれていった。
(たった今、自分の部下の命が消えたことなど、なかったことのように)
タリアはじっとデュランダルを睨みながら考えていた。
「ミネルバの彼らの部屋を調べさせてもらうことになると思うが…」
やがて自分の順番が廻ってきたのでタリアは頷いたが、表情はこわばったままだ。
「そう睨まないでくれ、タリア」
議長は少し困ったように、柔和な笑顔を彼女に向けた。
「きみにも事情も聞かねばならないし、あとでゆっくり時間を取るから」
「…ええ」
「アスランは私が復隊させ、FAITHとまでした者だ。それがこんなことになって、ショックなのは私も同じさ」
議長はため息混じりに言ったが、タリアは相変わらず硬い表情のままだ。
「調査が進めば、彼らの狙いが何だったのかはわかるだろう。それまではきみも少し休んでくれ。あの2人もね」
タリアはしばらく彼を見つめていたが、再び「ええ」と言っただけだった。
「補給各班、112号ユニットの設置を開始する」
「ストライクブースターの搬入急げ」
「整備班Cは所定の位置で待機」
多忙を極めるエリカ・シモンズ自らが陣頭指揮を執り、アークエンジェルの補修と整備は、急ピッチで進められていた。
しかしさしもの彼女もフリーダムの無残な姿には言葉がなかった。
「よくまぁこれでパイロットが無事だったこと」
「嬢ちゃんじゃなきゃ無理だったでしょうよ」
マードックもフリーダム撃墜当時の大騒ぎを振り返った。
データを取らせてもらってもいいのかしらと話していると、何やら外が騒がしいので、2人は顔を見合わせ、騒ぎの中心に向かった。
「どうしたの?何?」
「地球軍の輸送機が着陸を求めてきまして…信号はキサカ一佐です」
「キサカ一佐?わかったわ。ラミアス艦長とカガリ様に連絡を」
輸送機が岩場に着水すると、やがてハッチが開いて懐かしい顔が出てきた。
「どうも!」
マードックが手を上げると、キサカが大声で答えた。
「ストレッチャーを運びたい。人を頼む」
すぐに人手を集め、スロープを準備させてから聞いた。
「けが人ですかい?」
キサカは「うん」と頷いてそれを示した。
「…こいつは…」
マードックは何気なく酸素マスクをつけたその患者を見て息を呑んだ。
「戻ったか、キサカ!」
振り返れば、キサカを見つけたカガリが嬉しそうに走ってきた。
「早かったな。もっと後かと思ってたぞ」
その明るい声が驚きの声に変わるまで、あとほんのわずかだった。
「ストライクブースターの搬入急げ」
「整備班Cは所定の位置で待機」
多忙を極めるエリカ・シモンズ自らが陣頭指揮を執り、アークエンジェルの補修と整備は、急ピッチで進められていた。
しかしさしもの彼女もフリーダムの無残な姿には言葉がなかった。
「よくまぁこれでパイロットが無事だったこと」
「嬢ちゃんじゃなきゃ無理だったでしょうよ」
マードックもフリーダム撃墜当時の大騒ぎを振り返った。
データを取らせてもらってもいいのかしらと話していると、何やら外が騒がしいので、2人は顔を見合わせ、騒ぎの中心に向かった。
「どうしたの?何?」
「地球軍の輸送機が着陸を求めてきまして…信号はキサカ一佐です」
「キサカ一佐?わかったわ。ラミアス艦長とカガリ様に連絡を」
輸送機が岩場に着水すると、やがてハッチが開いて懐かしい顔が出てきた。
「どうも!」
マードックが手を上げると、キサカが大声で答えた。
「ストレッチャーを運びたい。人を頼む」
すぐに人手を集め、スロープを準備させてから聞いた。
「けが人ですかい?」
キサカは「うん」と頷いてそれを示した。
「…こいつは…」
マードックは何気なく酸素マスクをつけたその患者を見て息を呑んだ。
「戻ったか、キサカ!」
振り返れば、キサカを見つけたカガリが嬉しそうに走ってきた。
「早かったな。もっと後かと思ってたぞ」
その明るい声が驚きの声に変わるまで、あとほんのわずかだった。
ヘブンズベースに残っていたロゴスたちは捕らえられ、ザフト及び反ロゴス同盟軍によってその身を拘束された。
彼らは今後、両陣営が構成する諮問機関による調査を受け、国際法廷で裁かれる事になるだろう。
「ゴーズ隊は東側へ回れ!」
「医療班はどこだ?衛生兵!」
「建物内のトラップチェックは全て終了。安全を確認」
陥落した基地はただちに占領され、証拠品の押収や怪我人の救助が行われた。
デュランダルはこの様子もメディアに全て開放し、ザフトも同盟軍もあくまで「紳士的」な戦後処理を行っていることを世界に示して、この戦いの正当性をアピールした。
「よーし、負傷者の搬送開始する」
「まだ油断するなよ!」
特殊工作員や科学班が司令部へと入り、事後処理はまだまだ続きそうだった。
彼らは今後、両陣営が構成する諮問機関による調査を受け、国際法廷で裁かれる事になるだろう。
「ゴーズ隊は東側へ回れ!」
「医療班はどこだ?衛生兵!」
「建物内のトラップチェックは全て終了。安全を確認」
陥落した基地はただちに占領され、証拠品の押収や怪我人の救助が行われた。
デュランダルはこの様子もメディアに全て開放し、ザフトも同盟軍もあくまで「紳士的」な戦後処理を行っていることを世界に示して、この戦いの正当性をアピールした。
「よーし、負傷者の搬送開始する」
「まだ油断するなよ!」
特殊工作員や科学班が司令部へと入り、事後処理はまだまだ続きそうだった。
ハンガーに駆けつけてきたキラに驚き、なおかつストライクRに乗るという言葉にさらに驚いたが、すぐに「こいつは面白い!」とマードックたちは大乗り気だった。何しろキラがストライクに乗るのはおよそ3年ぶりなのだ。
「電圧や、他のスペックはどうするんだ? 」
「全てストライクと同じに!」
キラのこの注文は、2年間チューンナップを重ねているとはいえ、ストライクRの能力を最大限まであげて欲しいということだ。それでもキラの腕にかなうかどうか…整備兵の腕が鳴るとばかりに、マードックはペロリと上唇を舐めた。
彼らが作業に取り掛かったのを見て、キラは急いでロッカールームへ向かった。
「電圧や、他のスペックはどうするんだ? 」
「全てストライクと同じに!」
キラのこの注文は、2年間チューンナップを重ねているとはいえ、ストライクRの能力を最大限まであげて欲しいということだ。それでもキラの腕にかなうかどうか…整備兵の腕が鳴るとばかりに、マードックはペロリと上唇を舐めた。
彼らが作業に取り掛かったのを見て、キラは急いでロッカールームへ向かった。
この日、オーブでは冷たい雨が降っていた。
海岸線が雨に煙り、夏が終わりかけている事を感じさせる。
ミリアリアはタオルを抱えて医務室に向かっていた。
(なんだかすっかり看護師さん。ホントにライセンス取ろうかなぁ)
コードを入れて扉を開けると、ネオが退屈そうにモニターを見ている。
「こんにちは、可愛い子猫ちゃん」
「こんにちは、少佐」
「おまえら、わざとだろ」
ネオはふくれ、ミリアリアはくすくすと笑った。
一方メイリンは支給された小さなタブレットをいじっていたが、彼女を見ると軽く頭を下げた。
すっかり回復して元気になった彼は、もう自由に動いていいと許可が出ている。
ミリアリアはそのまま歩を進め、カーテンを開けてアスランの部屋に入った。
「起きてる?」
「ええ」
アスランは小さな声で返事をした。
海岸線が雨に煙り、夏が終わりかけている事を感じさせる。
ミリアリアはタオルを抱えて医務室に向かっていた。
(なんだかすっかり看護師さん。ホントにライセンス取ろうかなぁ)
コードを入れて扉を開けると、ネオが退屈そうにモニターを見ている。
「こんにちは、可愛い子猫ちゃん」
「こんにちは、少佐」
「おまえら、わざとだろ」
ネオはふくれ、ミリアリアはくすくすと笑った。
一方メイリンは支給された小さなタブレットをいじっていたが、彼女を見ると軽く頭を下げた。
すっかり回復して元気になった彼は、もう自由に動いていいと許可が出ている。
ミリアリアはそのまま歩を進め、カーテンを開けてアスランの部屋に入った。
「起きてる?」
「ええ」
アスランは小さな声で返事をした。
「…シン、シン!」
肩を揺さぶられ、シンははっと眼を覚ました。
宿舎ではなくいつもの戦艦の部屋なので窓がなく、常夜灯である足元灯がほんのりと部屋を照らしていた。
「…レイ…」
はぁ、と息をついてシンは上半身を起こした。
早く寝たはずなのにぐったりと疲れきり、背中は寝汗でぐっしょり濡れている。
立ち去ったレイがタオルを投げ、ドリンクのボトルを持ってきて渡した。
「うなされていた。大丈夫か?」
「ああ…うん…ありがとう」
シンはタオルで顔を拭き、ストローに口をつけた。
(夜驚症を起こさなかっただけマシか…)
そんなものを起こしたらレイがさぞびっくりした事だろう。
シンは夢を見ていた。とりとめもない悪夢だ。
家族の死、ステラの死、ヘブンズベースでの戦闘、クレタ沖での、オーブ沖での戦闘、インド洋での虐殺、ガルナハンの惨状、ベルリンの壊滅、貫いたフリーダム、そして…嵐のジブラルタル。
「私は…あなたに殺されはしない!」
「黙れっ!裏切り者っ!」
「くそっ!」
シンは呻いた。
(おまえは死んだ…死んだはずなのに…なんで…いつまでも…!)
「…アスランとメイリン…俺…」
「彼らは敵だ。裏切ったんだ、シン」
レイがにべもなく言い、シンは黙りこんだ。
「仕方がない」
「わかってるよ」
シンはもう一度タオルで顔を拭いた。
「それはわかってるさ…ただ…」
「悪夢はそれか」
レイがほっとため息をついた。
シンもまた、悪夢を見ることの意味がよくわかっているため、黙り込む。
(こんなにも俺の心に傷が残ったのか)
澱のように、苦い想いが心の底に溜まっている。
自分の弱さを認めるようで「そんな事はない」と大声で否定したいところだが、シンは経験上、人の心には深い傷が残る事を知り過ぎていた。
「俺が討てばよかったな…」
レイもまた、まさかこれほどシンの心にアスランが大きく存在しているとは思っていなかった。
(これでは、まるでアスランと同じだ)
アスラン自身が殺さない限り、キラ・ヤマトはその心の中で生き続けると言ったのは自分だ。なのにシンは、自ら手を下してなお、こうして苦しんでいる。
「優しすぎる、おまえは。それは弱さだ。それでは何も守れない」
レイはそう言うと振り返り、自分のベッドに戻った。
確かに、この揺らぎは自分の弱さだ。
シンはしばらくタオルで顔を抑え、やがて手を下ろすと息をついた。
(…割り切らなければいけないのに、割り切れない…)
思わず、寝癖のついた頭をぐしゃぐしゃと掻き毟る。
(アスラン・ザラ…)
いつまでも鬱陶しい。
いつまでも…俺を苦しめる…
肩を揺さぶられ、シンははっと眼を覚ました。
宿舎ではなくいつもの戦艦の部屋なので窓がなく、常夜灯である足元灯がほんのりと部屋を照らしていた。
「…レイ…」
はぁ、と息をついてシンは上半身を起こした。
早く寝たはずなのにぐったりと疲れきり、背中は寝汗でぐっしょり濡れている。
立ち去ったレイがタオルを投げ、ドリンクのボトルを持ってきて渡した。
「うなされていた。大丈夫か?」
「ああ…うん…ありがとう」
シンはタオルで顔を拭き、ストローに口をつけた。
(夜驚症を起こさなかっただけマシか…)
そんなものを起こしたらレイがさぞびっくりした事だろう。
シンは夢を見ていた。とりとめもない悪夢だ。
家族の死、ステラの死、ヘブンズベースでの戦闘、クレタ沖での、オーブ沖での戦闘、インド洋での虐殺、ガルナハンの惨状、ベルリンの壊滅、貫いたフリーダム、そして…嵐のジブラルタル。
「私は…あなたに殺されはしない!」
「黙れっ!裏切り者っ!」
「くそっ!」
シンは呻いた。
(おまえは死んだ…死んだはずなのに…なんで…いつまでも…!)
「…アスランとメイリン…俺…」
「彼らは敵だ。裏切ったんだ、シン」
レイがにべもなく言い、シンは黙りこんだ。
「仕方がない」
「わかってるよ」
シンはもう一度タオルで顔を拭いた。
「それはわかってるさ…ただ…」
「悪夢はそれか」
レイがほっとため息をついた。
シンもまた、悪夢を見ることの意味がよくわかっているため、黙り込む。
(こんなにも俺の心に傷が残ったのか)
澱のように、苦い想いが心の底に溜まっている。
自分の弱さを認めるようで「そんな事はない」と大声で否定したいところだが、シンは経験上、人の心には深い傷が残る事を知り過ぎていた。
「俺が討てばよかったな…」
レイもまた、まさかこれほどシンの心にアスランが大きく存在しているとは思っていなかった。
(これでは、まるでアスランと同じだ)
アスラン自身が殺さない限り、キラ・ヤマトはその心の中で生き続けると言ったのは自分だ。なのにシンは、自ら手を下してなお、こうして苦しんでいる。
「優しすぎる、おまえは。それは弱さだ。それでは何も守れない」
レイはそう言うと振り返り、自分のベッドに戻った。
確かに、この揺らぎは自分の弱さだ。
シンはしばらくタオルで顔を抑え、やがて手を下ろすと息をついた。
(…割り切らなければいけないのに、割り切れない…)
思わず、寝癖のついた頭をぐしゃぐしゃと掻き毟る。
(アスラン・ザラ…)
いつまでも鬱陶しい。
いつまでも…俺を苦しめる…
「オペレーション・フューリー開封承認。コンディションレッド発令。砲撃目標点確認。オーブ本島セイラン家、国防本部、オーブ行政府」
「目標はロード・ジブリールだが、ロゴスに与するオーブ政府にも遠慮することはない。速やかにこれを排除、あるいは捕獲せよ。市街地、民間人への被害は最小限にとどめるよう努力」
旗艦セントへレンズを中心に、ボズゴロフ級からはモビルスーツが出撃を始めた。
デュランダルはロゴス追討を名目にして連合にも参戦を呼びかけており、ある程度の規模の艦隊が送り込まれている。
議長は巧妙に彼らを取り込むことで、このオペレーションの目的があくまでも「オーブに匿われたジブリールの確保」であるとし、戦闘行為は目的のため「必要不可欠」だったと、後々国際社会への説明がつくよう根回ししていた。
しかし、つぎこまれたザフトのこの戦力を見れば、そうではない事など誰の眼にも明らかだった。
「目標はロード・ジブリールだが、ロゴスに与するオーブ政府にも遠慮することはない。速やかにこれを排除、あるいは捕獲せよ。市街地、民間人への被害は最小限にとどめるよう努力」
旗艦セントへレンズを中心に、ボズゴロフ級からはモビルスーツが出撃を始めた。
デュランダルはロゴス追討を名目にして連合にも参戦を呼びかけており、ある程度の規模の艦隊が送り込まれている。
議長は巧妙に彼らを取り込むことで、このオペレーションの目的があくまでも「オーブに匿われたジブリールの確保」であるとし、戦闘行為は目的のため「必要不可欠」だったと、後々国際社会への説明がつくよう根回ししていた。
しかし、つぎこまれたザフトのこの戦力を見れば、そうではない事など誰の眼にも明らかだった。
「遠路御苦労だったな、グラディス艦長」
司令官でもある旗艦セントヘレンズの艦長にねぎらわれてタリアは礼を述べ、それから現在の状況について説明を求めた。
「目標は?まだ押さえられないのですか?」
「ああ。奴らも当初は総崩れだったのだが。だいぶ立て直されてな」
時折、突然息を吹き返したかのように押し戻してくる。
艦長が「さすがの底力と言うところか」と苦々しく呟いた。
「ミネルバは左翼にポジションを取り、グリード隊を支援してくれ」
「了解しました」
通信を切ったタリアはさっそくミネルバを転進させた。
「取り舵10。機関減速。着水用意」
ブリッジは到着の安堵もないまま、戦闘態勢に入った。
「最前線ではないが、油断するな。対空監視厳に!」
タリアは戦況図をモニターに広げると、戦禍が広がりつつあるオーブの様子を見つめた。友軍は既にかなりの数の部隊が本島内部まで入り込んでいる。
これだけの戦力をつぎ込んで、戦闘開始から数時間が経つのに、総崩れの軍でここまでもっているのは奇跡といえるのではないか。
ましてや今、シンのデスティニーも出撃しているのだ。
(シンは容赦なく焼き払うのかしら…自分の生まれ故郷を…)
タリアはふと感傷的な気持ちになったが、すぐに思いなおして前を向いた。
司令官でもある旗艦セントヘレンズの艦長にねぎらわれてタリアは礼を述べ、それから現在の状況について説明を求めた。
「目標は?まだ押さえられないのですか?」
「ああ。奴らも当初は総崩れだったのだが。だいぶ立て直されてな」
時折、突然息を吹き返したかのように押し戻してくる。
艦長が「さすがの底力と言うところか」と苦々しく呟いた。
「ミネルバは左翼にポジションを取り、グリード隊を支援してくれ」
「了解しました」
通信を切ったタリアはさっそくミネルバを転進させた。
「取り舵10。機関減速。着水用意」
ブリッジは到着の安堵もないまま、戦闘態勢に入った。
「最前線ではないが、油断するな。対空監視厳に!」
タリアは戦況図をモニターに広げると、戦禍が広がりつつあるオーブの様子を見つめた。友軍は既にかなりの数の部隊が本島内部まで入り込んでいる。
これだけの戦力をつぎ込んで、戦闘開始から数時間が経つのに、総崩れの軍でここまでもっているのは奇跡といえるのではないか。
ましてや今、シンのデスティニーも出撃しているのだ。
(シンは容赦なく焼き払うのかしら…自分の生まれ故郷を…)
タリアはふと感傷的な気持ちになったが、すぐに思いなおして前を向いた。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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