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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「何だ!?」
その時、ミネルバのタンホイザーを受け止めたゲルズゲーと共に基地の防衛にあたっていたウィンダムが、ミネルバより先行して戦っているデスティニーやレジェンドとは別の方向から熱源が接近する事に気づいた。ウィンダムが警戒を強めて月面を離れる。
「別働隊か!?」
(気づかれた…!)
ルナマリアは山陰から飛び出すとライフルを抜き、シールドを構えた。
「ええい!」
向かってくるウィンダムと交戦しながら、ルナマリアは発射口の位置を探る。
(ここを突破すれば、射出口まであと少し…!)
レーダーには友軍であるミネルバ、レイのレジェンドがマークされ、シンのデスティニーが思った以上にすぐ近くで戦っている事がわかる。
今、シンに助けを求めればきっとすぐに駆けつけてくれるだろう。
(だめよ、シンに頼っちゃ…)
ウィンダムを1機破壊したルナマリアは、ケルベロスを起こして放つ。
「この任務は、私がやり遂げるんだから!」

拍手


「第6区に新たな敵モビルスーツ!」
インパルスの姿が映ったと思った途端、ゲルズゲーが爆発した。
ルナマリアはビームを何発か放ち、ゲルズゲーにリフレクターで防がせながら、途中でレールガンも同時に放ったのだ。
レールガンはリフレクターを突き破ってゲルズゲーの本体に届き、ビームを防いで油断していたパイロットを驚かせた。
そのまま間髪いれず機体の懐に飛び込んだインパルスは、ジャベリンでコックピットを貫き、離脱した。
一方、レイが戦っていた3機目のデストロイもリフレクターシールドを展開したものの、やはりレジェンドの突撃ビーム砲に破られた。最後はジャベリンで貫かれ、月の重力に引かれて巨体がゆっくり倒れこむ。
「デストロイ、2号機も沈黙」
これで月面には当面、基地を守るものがなくなってしまった。
オペレーターは慌ててモビルスーツとモビルアーマーを呼び戻したが、インパルスはその隙に素早く基地に近づき、やがて発射口に辿り着いた。
「レクイエム、稼働率61%」
「第八機動隊、応答ありません」
月艦隊もイザークたちゴンドワナの部隊によってほぼ壊滅に陥っている。
第五、第三部隊が踏ん張っているが、ザフトの勢いは止まらずジリ貧だ。
「レクイエムを発射だ!」
デュランダルの思惑と手の中で踊らされていたと知り、怒りが収まらないジブリールは、司令の元に戻ってくるといきなり怒鳴りつけた。
「宇宙の化物を…忌まわしいコーディネイターどもを討つのだ!」
「しかしまだ…」
「フルパワーでなくてもいい!撃て!奴らを薙ぎ払うんだ!」

「他の部隊と協力して側面から集中砲火を浴びせろ!」
ディアッカは数人でユークリッドを攻めさせながら、ガナー装備のザクに道を開いた。
同時に巨大なリフレクターを展開してザクたちの攻撃を受けつけない戦艦を攻略すべく、イザークと合流する。さすがに戦艦レベルとなるとリフレクターデバイスも巨大過ぎて、一撃くらいでは破壊できそうになかった。
「いっちょやりますか、隊長」
「気を抜くな、馬鹿者!」
戦艦の前にはユークリッドが立ちはだかり、リフレクターを展開する。
2人はそれを見てチラリと視線を交わした。まずはディアッカが長引く戦闘でそろそろ残弾が心許なくなったファイアビーを全弾放ち、物理攻撃を仕掛けていく。イザークはブレイズザクファントムの蔭から飛び出すと、ユークリッドのデバイスをウィップで潰していった。
リフレクターが開かなくなると、ディアッカはライフルで攻撃を開始する。
無論、ビーム砲デグチャレフの応戦はあるが、それもやがてビームをかいくぐって近づいたイザークが潰していった。
こうして武装を潰され、エンジンに損傷を受けたユークリッドを、グフのソードが貫いた。ディアッカもそれを後押しして、彼らはダルマ状態のユークリッドを盾にしながら前進していく。
「力技だな、こりゃ」
「ええい!」
やがてスラスターを噴射して推進力を増した2人は、ユークリッドを戦艦に向けて思いっきりぶん投げた。そしてライフルとビームガン、それに隊員にも援護させ、手も足も出ないユークリッドを攻撃する。やがて戦艦にぶち当たったユークリッドが大破し、戦艦が火を噴いた。
「今だ!中継ステーションに取りつけ!」
砲撃がやみ、イザークの号令と共に戦艦の火力に手をこまねいていたザクが一斉にフォーレに向かう。オルトロスやライフルが放たれ、ステーションのダメージは見る見るうちに蓄積していった。
「だめです!フォーレに異常発生!ポジション取れません」
モニターに映し出されたフォーレにはまるで蜂や蟻のような無数のモビルスーツが取りついており、破壊されていく。
ジブリールはもはや血管が切れそうなほどの怒りで一杯だった。
「くっ…だめならそれでもいい!フォーレの奴らだけでも…!」
しかしそれを聞いて驚いたのは司令官だ。
そんな行き当たりばったりの攻撃で全ての力を使い果たせば、奥に控えているゴンドワナのザフト本隊から、丸裸になった基地を制圧すべく新たな部隊がやってくるに違いないからだ。
「それでは終わりです。次のチャージまではとても…」
「いいから撃て!その隙に脱出する!」
司令官はさらに仰天した。
(逃げ出すというのか…この状況に基地を置き去りにして!)
しかし今さら、いつだって逃げの一手だったジブリールを自分の陣地に招き入れた事を後悔しても遅過ぎた。
「私が生きてさえいれば、まだいくらでも道はある。基地を降伏させ、同時に撃つんだ。言い訳はいくらでもつく」
ジブリールは司令官の耳元でいやらしく囁いた。
「きみはよくやってくれた。共にアルザッヘルにでも逃げれば、また…」
司令官は思わずジブリールを見た。
この男を信じて共に逃げるか?それとも基地と運命を共にするか?
その時、司令官はオペレーターに呼ばれ、第五艦隊の防衛ラインがデスティニーとレジェンドによって壊滅させられた事を告げられた。
「もうフォーレはいい!第三艦隊を下がらせて基地を守らせろ!」
彼が再び振り向いた時、そこにはもうジブリールの姿はなかった。

ルナマリアは射出口に近づいたが、ザムザザーが護衛に立っている。
(あれを倒さないと入れない…)
長引けば援軍が来てしまう。
梃子摺って突入と同時にチャージが終わり、ビームが射出されれば自分も危険だ。だがこれを止めなければ、プラントへの脅威は排除されないのだ。
ルナマリアは顎を引くと再びケルベロスを起こして戦闘に備えた。
「…行くわよ!」
ブラストインパルスは飛び出すと同時に加速し、レールガンとミサイルランチャーが発射された。ザムザザーはアームを繰り出してインパルスを捕らえようとする。
ルナマリアはそれをわずかな動きだけで避けながら上部を狙った。
(シンはこいつを上から襲った…私も、それでコックピットを潰す!)
相手のビームを避けようとするとつい大きく機体を動かしがちだが、シンやレイはそのぶれを最小限にするために、ギリギリにしか動かない。その驚異的な操縦法はルナマリアをいつも感心させ、かなわないと思わせていた。自分が女だからと逃げようとすると、彼ら3人の遥か前方をいく、アスラン・ザラがいた。
(アスランもいつもそうだった…それってすごく怖いけど、でも…)
ルナマリアは恐怖心をできる限り抑えながら避け、ジャベリンを構えた。
「私だって…やれる!」
ビーム刃が脳天からザムザザーの機体を貫き、深く内部へと達した。

「月艦隊も奮戦している。あと少しだ!気を抜くな!」
タンホイザーを連射させながら、タリアは戦況は既にこちらに有利になったと感じていた。
しかしまだコントロールを潰したという報せは入っていない。
デスティニーをインパルスの援護に行かせるべきか…タリアは一瞬迷ったが、ルナマリアの決意に満ちた顔を思い出した。
「艦長…私、今度こそ必ずやり遂げます」
タリアは瞳を閉じて深く呼吸をした。
(信じるわ、ルナマリア)
彼女も赤服の誇りにかけてこの任務に挑んでいるのだ。

「くそっ!もういい加減に…」
シンはわらわらと月面を這い出してきたゲルズゲーと交戦しながらルナマリアを気にかけていた。彼女の信号はこちらからは見えない。
(まだ砲は撃たれていない…でも大丈夫だ…きっと侵入に成功してる)
既に基地に到達しているデスティニーに、ハルバートモードにしたジャベリンで戦艦を刻んで爆散させて来たレジェンドが追いついた。
「シン、俺は射出口へ向かう。おまえは基地の中枢を潰せ!それがルナマリアを守る事になる」
シンは、まるでシンが彼女を想っていることを感じ取ったかのようなレイの言葉に、力強く頷いた。
「ああ、わかった!」
そして再びシフトレバーを力強く入れた。
(信じるんだ…必ずやり遂げる、ルナなら!)
その頃、ザムザザーを見事に倒し、射出口から中枢へと入り込んだルナマリアは、暗闇の中をレーダーに頼って進んでいった。
(砲の本体は恐らくもう少し奥にある…急がなくちゃ!)
「レクイエム、稼働率63%」
「パワーフロー良好。フォースフィールド形成を確認」
6割の力でも、すぐ傍のフォーレを薙ぎ払うには十分だ。
発射と同時に白旗を揚げ、降伏する…司令室では司令官が最後の一撃の準備が整うのを待っていた。
「レトネーション回路S116はブレーカー作動中」
「テラキャパシタ5番、蓄電率70%」
「プライマリ・エピストラクター、スタンバイ」
逃げ足の速いジブリールはもうとっくに脱出したのだろう。
所詮は口先だけの男だった…ふん、と司令官は鼻白んだ。
「シアー開放。カウントダウン開始。発射までTマイナス35」
コントロールルームからは着々と発射準備のカウントダウンが流れてきた。
「よし、全周波数で回線開け。トリガーはこちらに」
自分は最後まで基地に残り、抵抗したという形を残せればいい。
「とんだ貧乏くじだが…まぁいい」
司令官は時を待った。
(全てを「ロゴスのジブリール」のせいにすれば、また活路も見出せよう)
「これね!」
ちょうどその頃、エネルギーの充填がなされた発射直前のレクイエム本体に、ブラストインパルスが辿り着いていた。
目の前にあるコントロールルームでは、今まさに発射のカウントダウンが始まらんとしていたが、彼らは突如として目の前に現れた敵モビルスーツを見て心底驚き、浮き足立った。
ルナマリアは至近距離から起動させた腰のケルベロスを放つ。
「ええい!」
レクイエムの制御室は外そうにも外せない強力なインパルスの2門のビームに貫かれ、激しい爆発を起こした。
ルナマリアはシールドをかざしながら爆発を避けて飛び、レクイエムを見る。
コントロールを失った砲は急速に動きを止め、やがて沈黙した。

一方シンは必死に基地を守ろうとする第三艦隊のウィンダムやユークリッドを屠りながら、基地の中枢へと向かっていた。
月面上に見えている基地設備はM2000GXで片付けていく。
やがて司令室に辿り着いたシンは、躊躇なく砲を構えた。
(おまえたちが戦いをやめないから…いつまで経っても世界は変わらない!)
つい先ほどまで今後の身の振り方を考えていた司令官は、光の翼を広げ、デストロイやモビルアーマーをことごとく葬り去った悪魔のようなモビルスーツを見て最期を悟り、慄然とした。
「これで!」
「うわぁぁ!」
ビーム砲を受けて司令室は爆発し、シンが破壊したことで起きた誘爆が基地を悉く破壊した。やがて全ての砲が動きを止め、ダイダロス基地は堕ちた。

「ええい、早く出せ!」
ガーティ・ルーに乗り込んだジブリールはオペレーターからレクイエムのコントロールが破壊されて発射不可能になったこと、さらには司令本部が攻撃されて沈黙した報告を受けて脱出を急がせた。
かつてネオと共にファントムペインを率いた艦長イアン・リーがエンジンを始動させ、急速離脱と前進を命じる。
(プラントを攻撃させることも、ミネルバを投入してくることも、これも皆、すべてデュランダルの思惑のうちだったというのか…!?)
レクイエムの情報を手に入れていたのなら、プラントへのあれだけの甚大な被害も、阻止しようと思えばできたはずだ。
自分の身すら削って、ヤツは一体何をやろうとしているのだ?
(清風明月然として世界を騙した、穢らわしいコーディネイターめ!)
「陣営を立て直したら、今度こそ…!」
しかし、彼にはもうチャンスは残っていなかった。
月面を飛び立ったガーティ・ルーの目の前に、レジェンドが待ち構えていたのである。
ジブリールは何も言葉を持たなかった。ただ最後に息を呑んだだけだ。
レイはありったけのドラグーンを一斉に放って戦艦を攻撃した。
ビーム砲は戦艦全体を攻撃し、スパイクが脆いブリッジを突き破った。
激しい爆発に巻き込まれたジブリールは半身を奪われ、やがて全てが光に飲み込まれた。最後まで足掻いたロゴスが、世界から消滅した瞬間であった。

デュランダルは基地が墜ちた報せを聞き、椅子に深く腰掛け直すと満足げに眼を閉じた。
レイからはプライベートラインで「ボギーワン」を破壊したと聞いている。
ボギーワン…ガーティ・ルーは連合籍だが、彼の艦といってもいい。
それはロード・ジブリールの死を意味していた。
「ありがとう、ジブリール。そしてさようならだ」
デュランダルは思った以上に見事なまでの道化っぷりを見せてくれたジブリールに心からの拍手を送りながらも、(だが、カーテンコールはいらないよ)と独り言ちた。
これで本当に戦争は終わり、布石は全て打ち終わった。
彼が取り仕切ってきた壮大な舞台も、いよいよ最終章を迎えようとしていた。

シンは司令本部を潰し、基地が抵抗をやめた事を確認すると、レイに後を任せて急いでミネルバへと戻った。
ルナマリアから真っ先に「任務完了、無事帰投」との報せが入ったからだった。
彼がミネルバのハンガーに戻ると、既にインパルスは着艦しており、ルナマリアはヴィーノやヨウランたち整備兵に囲まれて祝福されていた。
「ルナ!」
シンは地球の1/6とはいえ重力のある月面だというのに、コックピットを勢いよく飛び出すと、大きく弧を描いて着地し、そのまま走って行ってルナマリアを抱き締めた。
ヴィーノもヨウランもそんな2人を見て驚いたが、シンは気にも留めなかった。
「大丈夫か?ケガは?」
「大丈夫よ」
シンはルナマリアを見つめ、その無事を確かめると、再び強く抱き締める。
「ありがと」
ルナマリアもシンの背に腕を回して礼を言った。
「シンが信じてくれたから…私、1人でやり遂げたよ」
うん、うん…とシンはまるで子供のように頷いた。
遅れて着艦したレイがコックピットから2人を見ている。
ルナマリアはシンの肩越しにレイに笑いかけ、レイも珍しく笑顔を見せて素早く「よくやった」とサインを出した。それはルナマリアにとって、何よりも嬉しい言葉だった。

やがてデュランダルは眼を閉じたままふっと微笑を浮かべた。
(もうじきだ。もうじききみが望んだ新たな世界が始まるよ、シン・アスカ)
それから議長は、コペルニクスのサラから送られてきたメッセージを読んだ。
それは、現在彼女の監視下にあるラクス・クラインの処遇を彼女に一任して欲しいというものだった。
もう自分には利用価値のない彼を利用したいのなら、好きにすればいい。
デュランダルはサラにそう返答を送ると、再び椅子の背にもたれた。
(そういえば、あの偽者は何という名だったかな?)
昔、彼の本当の名を聞いたような気がするが、すっかり忘れてしまっていた。

サラに月の中立コロニー、コペルニクスに連れてこられたミーアは、豪華なリゾートホテルで毎日を過ごしていた。
そこには可愛らしいクライン・ガールズが待っていて、日がな一日、彼のお相手をしている。
ミーアは不安感を忘れるため、ひと時の快楽に溺れる日々を浪費していた。
彼女たちを取りまとめているサラもまた、時に彼とベッドを共にし、甘い囁きと睦言を繰り返しては彼の正常な思考を奪い去っていった。毎夜違う女を抱きながら、彼は美しく清らかなアスランの事を思い出していた。整った容姿、長く美しい髪…凛とした眼差しも、忘れる事などできない。
(けれど彼女はもうどこにもいないんだ…)
二度と手に入らない幻となった彼女を想うたび、もうどうなってもいいと思い、さらに淫らで自堕落になっていく。ミーアの心は日々、磨耗していった。

その頃、アスランはアークエンジェルの後部デッキで月を眺めていた。
プラントを守ろうと戦うザフトの姿を、議長は全世界に配信した。
(ミネルバ…デスティニー…)
1年が経ち、ユニウスセブン落下による後遺症もほとんどなくなった今、夜空に浮かぶ月はいつもと変わらず美しい輝きを見せている。
(あそこで戦いがあった…シンやレイやルナマリアが戦っていた)
彼らを置いて逃げた自分に、彼らを想う資格はないのではと思いながらも、猛々しいシンを、いつも冷ややかなレイを、明るくて可愛らしいルナマリアを想わずにはいられない。
(いずれ、彼らとも戦わなければならないかもしれないのに…)
「アスラン?ここにいたの」
そう声をかけたのはキラだった。
キラの胸章と襟章は、既に准将のものになっている。
「もう寝ないと傷に障るよ?朝には発進なんだから」
キラがアスランの隣に来て彼女を労わると、アスランは「ええ」と答えてもう一度月を見上げ、キラもそれに倣った。
キラと一緒にアスランを探していたラクスは、2人が手すりにもたれて話し始めると、そっと席をはずして部屋に戻った。
「ここはこんなに静かなのに…何で私たちは、ずっとこんな世界にいられないのかな」
キラはアスランの言葉を聞いてうーん、と首を傾げた。
「それは…夢があるからじゃない?」
「夢?」
アスランはその答えにやや驚いてキラを見た。
「願いとか、希望とか。悪く言っちゃうと…『欲望』?」
アスランはさらに驚いてキラを見つめたが、どうやらキラは別に変な意味で言っているつもりはないらしい。
「でも、そういう事でしょ?ああしたいとか、こうなりたいとか…そんな願いがかなわないからイラついたり、誰かに邪魔されたり、先を越されたりするとムカッときたりする」
「…うん」
「みんな、何かしたい、こうなりたいって思うから、このままここにいられないんだよ。アスランだってそうだったんじゃない?」
「私も…」
「戦争を止めたい、そのために何かしたいと思ったから、プラントに行って、ザフトに戻ろうと思ったんじゃないの?」
アスランはキラの、柔らかいが辛辣な言葉を聞いて少し苦い気持ちになった。
けれど、考えてみればそれはその通りだった。欲望はいい意味でも悪い意味でも人の行動の動機になる。
「…そっか。それも私の『欲望』だったのかな」
アスランはくすっと笑い、キラも笑った。
「でも、私もそうだし、カガリやラクスもみんなそうだと思うよ。ずっとここにいたい。でもここにいたら、何も変わらないって…」
「そして、議長の言う世界にはそれがない…と?」
アスランは答えた。
「うん。ある意味ずっとここにはいられるよ?って言うか、ずっとここにいろってことでしょ?」
「そうね…」
遺伝子によって決められた「役割」を果たしながら、満足して生きる。戦ったり争ったりする事もなく、これが自分の限界だと知りながら。
「それなら確かに何も起きないから、こんな戦争も起きないだろうけど」
キラは思い出したように笑った。
「カガリが言ったように、それじゃつまらないよ、きっと」
確かに、辛い事も苦しいことも哀しいことも一杯あったけど…キラはいなくなってしまった友を、忘れられない愛しい人を想う。
それから、今隣にいる大切な友達や、血を分けた兄、いつでも自分を導き、励ましてくれるかけがえのない同志である彼のことも…
「私は…戦うことや、自分がコーディネイターであることがすごくいやで…だけど、それから逃げる事なんか絶対できなくて…そんな事も、今は皆私の中にあるって思えるから」
アスランはキラの言葉に優しく微笑んだ。
「それが私を形作っている一部なら、否定なんかできないよ」
「私も…いやだわ」
「これって、わがまま?」
「かもしれない」
2人はふふっと笑った。
「でも、だから人は生きてきたんでしょう?長い時の中を、ずっと」
それはきっと、闘いだったのだ。葛藤と苦しみ、勝ち取った喜び…そうして進化を続けてきた。生命にとって生きていくことは、逃れようのない闘いなのだ。
「難しいわね…戦ってはいけないのか、戦わなきゃいけないのか」
アスランはたった今考えていた、シンたちのことを思い出した。
かつてキラと戦いたくないと思ったように、彼らと戦いたいなどと思うはずがない。
だがこうして陣営が違う限り、戦いは避けられないだろう。
(戦場でシンと会ったら、戦わなければならない…きっと、また…)
アスランは冷たい柵を握り締めた。
(けれどもう逃げない…逃げる事など許されない…)
「みんなの夢が…同じだといいのにね」
キラが寂しそうに言った。
「そうすれば、争ったりいがみあったりしなくていいのに」
それを聞いたアスランは少し考え、やがてゆっくりと答えた。
「ううん、同じなのよ、多分」
「え?」
アスランは左手の薬指に光る指輪を見つめながら、呟くように言った。
「皆、望んでいるのは本当にささやかなものなんだわ」
砲弾も銃弾も飛び交わない街、安らかな日々、愛する人と過ごす時間…多かれ少なかれ、人々が本当に望む事など似たようなもののはずなのだ。
「でもそれを知らないのよ。私たちは、皆…」
キラはしばらく綺麗なアスランの横顔を眺め、やがて「そっか」と言った。

翌朝、カガリがキラたちアークエンジェルに乗り込む兵たちを前に、出立の挨拶を行っていた。
コペルニクスで月に駐留するオーブ艦隊と合流する隊も乗艦するため、万年人手不足だったアークエンジェルは今までにない大所帯になった。さらにオーブ軍だけでなく、ヒルダたちのようにザフトの制服を着ている者も並んでいる。
「一佐だって…」
キラは胸章と襟章にその階級を施したオーブ軍の制服を持ってきたが、アスランは断った。
彼女が望み、着用したのはザフトの赤服だった。
キラは戸惑ったが、ラクスは「きみの想いのままに」と言ってくれた。
カガリは艦長であるマリューやネオを紹介した後、准将となったキラがこの部隊の司令官であると告げた。タケミカヅチ組の「おおっ!」という喜びに沸く声に、キラは赤くなり、思わず俯いてしまう。
防衛戦におけるキラの戦績とタツキ・マシマ確保への貢献は、カガリの後押しがあるにせよ、軍でも高く評価されていた。
また、ラクスはカガリの大切な友として紹介され、キラやマリューたちと同じく、カガリの隣に並んでいた。
「月の情勢もまだあまり詳しいことまではわかっていない」
カガリは引き締まった表情でレクイエム撃破後の現状を簡単に説明した。
「時期が時期なので、何のトラブルもなく…とは保証できないが、アークエンジェルには正式にオーブ軍、第二宇宙艦隊所属として、できる限りのサポートを約束するし、独立部隊としての権限も与える」
それは艦長と司令官の判断に任せる部分が多いという意味だった。
「プラントの受けた大きな被害もあって、今やデュランダル議長は世界最強のリーダーだ。どうしても彼は正しく、全てを知っていて揺るがなく見える。だが我々と同じくその強大な力を危惧する国もある」
(だが、強すぎる力はまた争いを呼ぶ!)
マリューやキラたちと同じ指揮官側ではなく、一般兵と同じ側に立っているアスランは、かつてカガリが言った言葉を思い出した。
けれど今、傷つき、疲弊しているとはいえ、オーブもまたもてる強大な力を振るおうとしている…力は結局、争いを呼ぶのだろうか?
「オーブが何より望みたいのは平和だ」
そんなアスランの問いに答えるかのように言ったカガリは、少し考え込んだ。
「何を怖がってらっしゃるのです?あなたは」
かつて、アーモリーワンを訪れた自分に議長は尋ねた。
(そうだ、俺は恐れていた…国が再び踏み躙られ、焼かれる事だけを)
その怯えがカガリの足をすくませた。戦いを恐れて闘うことを放棄した。
支えてくれる人々を頼ることもできず、1人で肩肘張って頑張って…
(そしてまた、国を焼かせてしまった)
こうしている今も、M1やムラサメが重機と共に市内の復興を手伝い、医療機関では傷ついた人々への無償の治療がフル回転で行われている。 
(人々にまた辛苦を舐めさせたのは、俺が弱虫だったからだ)
過去をただ「過ち」としてしか認識せず、避けて通ろうとしてきた。
だが、今はもう違う。
たくさんのものを見て、聞いて、もどかしさに悩み、悔しがって…カガリは互いの想いをぶつけ合い、刃を交えた彼を思い出した。
(シン…おまえも今、きっとその過酷な運命と戦っているんだろう)
過去に囚われ、苦しみもがきながら、それでも強く、折れることなく。
(それは、俺も同じだったんだ)
カガリは眼を閉じると息を吸い込んだ。
(だけど俺はもう前に進むと決めた。新たな道を歩むと決めたんだ)

―― いつかおまえに話そう…辛かった過去が、俺を後押ししてくれたのだと。

「…そして理念と平和を守り、人々が安心して暮らせる国でありたい」
強く、孤高にあってもなお、誇り高くそこにあるように。
かつて父ウズミが目指した、真にあるべき姿の中立国として。
「だが、それは自由、自立の中でのことだ。屈服や従属は選べない」

(いつの間に、あんなに大人びた表情を見せるようになったんだろう)
堂々と宣言するカガリを見つめていたアスランは、思わず眼を逸らした。
そこには自分が知らない彼がいるようで、少し寂しい気持ちになったのだ。
「アスランには、大切な人がいるでしょう?」
キラにそう言われたのに、あの時はカガリを守ることより、世界を守ることの方が大切な事に思えたのだ…自分が身を削って戦うことが、彼と彼の生きる世界を守ることになるはずだと言い聞かせて、あの日、彼のもとを去ってしまった。
(そうして、カガリが一番苦しんでいる時、私はまた何もできなかった…)
それが今、アスランの心を苛んでいる。
本当は、今度こそ彼の傍にいなければならないのではないかとちらりと思う。
しかし次の瞬間、カガリは急に昔のようににっと少年っぽく笑った。
「可能性を狭められ、決められた人生を歩むなんて、俺はまっぴらだ!」
兵たちはカガリの、国家元首らしからぬその言葉にどっと笑った。
キラとラクスも、すっかり緊張が解けて和んだ場の雰囲気に微笑みあう。
「いやぁね、子供みたい」
隣に立つミリアリアがアスランに笑いかけた。
「でも、とっても立派だわ。カガリらしくて」
「…そうね」
アスランは頷き、もう一度眩しそうにカガリを見つめた。
「アークエンジェルにはその守り手として、どうか力を尽くして欲しい」
カガリは笑顔が溢れた兵たちにそう言うと、順番をマリューに譲った。
マリューは一歩前に出ると凛とした声で予定を告げる。
「本艦はこれより月面都市コペルニクスに向かい、情報収集活動の任に就く。発進は30分後。各員部署に就け!」
一同は「はい!」と息の合った返事をし、解散した。

「ロアノーク一佐、アカツキを頼むな」
カガリは出立が決まって以来、ネオにアカツキを託していた。
エリカ・シモンズには宇宙用の武装であり、ドラグーン装備のシラヌイパックの整備を急がせ、ネオは訓練を重ねていた。
「お任せを」
ネオはマリューと共に敬礼した。
オーブ軍に編入されると聞かされてから、ネオはカガリに会うたびに「三佐はよしてくれよ?」とブツブツ言っていたものだが、カガリが与えた大佐と同等の一佐の階級にはどうやら満足したらしく、ご機嫌だった。
第二宇宙艦隊には、彼らにとっては懐かしい古参艦クサナギもいる。
「共に行けないのは残念ですわ」
今回宇宙へは上がらないキサカもこの時、マリューに挨拶をした。
「でもカガリくんの傍にあなたがいれば、何より安心です」
「砂漠の虎によろしくな」
かつて同志として戦った二人は堅い握手を交わし、健闘を祈りあった。
「カガリ様」
キラやアスラン、ラクスが見守る中、カガリは補佐官に促された。
まだ誰もカガリと話をしていない。キラとラクスは顔を見合わせた。
「カ、カガリと話す機会は、きっとあるから!」
「うん、まだデッキでの見送りもあるしね」
キラがやけに慌てているので、アスランは肩をすくめた。
「いいのよ」
「アスラン…」
キラはやや不審そうに彼女の眼を覗き込み、左手の薬指の指輪を見たが、アスランはもうそれ以上何も言わなかった。

30分後の出航時には、キラたちと握手を交わす儀式を行う予定だった。
カガリはそれまでにいくつか片付ける仕事があるので、用意された部屋に戻る事になったのだが、途中でザフトの制服を来たメイリンに会った。
2人は同時に足を止めたが、気まずそうなメイリンとは裏腹にカガリは明るく声をかけた。
「一緒に行くそうだな」
「はい…」
キラからも、戦うとしたら敵はザフトなのだから留まった方がいいと奨められたが、一緒に行くと決めた。やはり、アスランとずっと一緒にいたかったのだ。
そうか、とカガリは言い、それからためらいがちにやや小さな声で言った。
「…あいつ、頼むな」
メイリンが思わず彼の顔を見つめると、カガリは少し寂しそうに笑っていた。
「俺は…一緒に行けないから…」
その言葉に、彼の彼女への溢れんばかりの想いが詰まっていると感じ取ったメイリンは、思わず唇を噛んだ。
(この人は…)
やがて彼はおずおずと言った。
「…言わないんです」
「え?」
カガリはメイリンの唐突な言葉に驚いて聞き返した。
「大丈夫って…」
「はぁ?」
怪訝そうなカガリを見てメイリンは可笑しくなり、ペコリと頭を下げた。
「では失礼します。出発の準備がありますので」
「あ…ああ、無事を祈る」
カガリは呆然としたまま、すたすたと歩き出した彼を見送る。
(教えてやるもんか。あなたにだけは…彼女が甘えるなんてこと)
決定的になった失恋の痛みを胸に秘めながら、メイリンは振り返った。
(…だから、ちゃんと連れて帰ってきます。あなたの元へ…)
補佐官や兵に囲まれて去っていくカガリの背に、彼は心の中で呟いた。

やがて甲板に士官以上の者と私服姿のラクス・クラインが並んだ。
カガリはまず艦長と言葉を交わし、ネオ、ノイマン、アマギたちと続く。
しっかりな、頑張れよ、気をつけろよ…カガリならではの口調で皆を励まし、握手をしていく。
キラは眼の前に来たカガリと、自然に抱き合った。
「気をつけてな…無事に帰って来るんだぞ、キラ」
「カガリもね。オーブとカガリは、私たち皆で守るから」
二人は楽しそうに笑いながら別れを惜しんだ後、カガリはラクスの前に立った。
今回はラクスのために選りすぐりの医療班を同行させている。
元気そうに見えるが、3年前より2年前、2年前より1年前と、残念ながらラクスの体は確実に悪くなってきているのだ。
「無理はするな。倒れるぞ」
「大丈夫だよ。約束しただろ?皆で生き抜くって」
ねぇ、カガリくん…やがてラクスは穏やかな表情で言った。
「きみは、王なんだ」
「…何だって?」
「人々が自ら上に戴きたいと願う、本当の王様だよ」
カガリはそれを聞いて、「何言ってるんだよ」と笑い飛ばした。
「そりゃおまえだろ。俺はおまえにはかなわないよ」
「そんな事はない」
ラクスは彼と握手を交わしながら、涼しい顔で続けた。
「僕はなれてもせいぜい指導者だ。でもきみは…王なんだよ」
「なら、どっかの綺麗なお姫様でも嫁にもらっ…」
カガリは肩をすくめると、冗談で返そうとして口をつぐんだ。
次は、アスランだった。

オーブ軍服ではなく、再び赤服をまとったアスランは黙ったままだ。
カガリもまた黙ったまま彼女を見つめ、やがて手を差し出した。
(…左手?)
その行動に戸惑いながら、アスランも呼応して左手を差し出した。
カガリは彼女の左手を取ると、握手をするのではなく、ほっそりした薬指からするりと指輪を抜いてしまった。
アスランもラクスもキラも、その行為に驚いてカガリを見る。
「…ぁ」
アスランは何もなくなった左手を右手で包みこんだ。
「これはまだ早かった。預かっとく」
「でも…それは…」
動揺した表情を見せる彼女をそのまま抱き寄せ、カガリは耳元に囁いた。
「…生きる方が、戦いだ」
2人だけが知っているその言葉を聞いたアスランは、息を呑んだ。
「絶対に忘れるな」
そう言ってさらに強く抱き締めるカガリに、彼女は小さく頷いた。

やがて出発の時間になったので、カガリはキサカらと共に艦を降りると見送りの敬礼をした。陸軍も彼らと同じく敬礼し、海軍は伝統に倣って制帽を振った。
アークエンジェルは出航し、やがて沖合いに出ると勢いよくエンジンを始動した。
(目指す場所が同じなら、行くべき道はいくつもある)
カガリは白く美しいアークエンジェルの姿に目を細め、軽く微笑んだ。
(アスラン…俺はもう、おまえを縛らない)
今は互いに違う道を行くとしても、必ず同じ場所に辿り着けると信じられた。
だから自由に、やりたいように、彼女が自分の信義を貫ければいいと思う。
カガリは左手で、アスランの指から外した指輪を強く握り締めた。
(だから、気をつけて行って来い…そして…いつかきっと…)

「機関、定格起動中。コンジット及びFCSオンライン」
インカムをつけたノイマンが忙しくパネルを操作し、副操縦士席に座ったキラもそれをサポートした。
「パワーフロー正常。主動力コンタクト」
チャンドラとミリアリアもオペレーションを進めている。
「システムオールグリーン。アークエンジェル、全システムオンライン。発進準備完了」
かつてナタルが座っていたCICの副長席にはラクスが座り、そのCICにはメイリンとアスランが座っている。
「では、まいりましょうか、艦長?」
ラクスがおどけたように言うと、マリューはふふっと微笑み、トノムラが座っていたレーダーの前にいるネオと視線を交わす。
「アークエンジェル、発進します!」
アークエンジェルのブースターエンジンが唸りを上げ、離水した。
アスランは窓の外に見える、夏の終わりの明るい青空を見つめていた。
宇宙では、厳しい戦いが待っているだろう。
(シン、レイ、ルナマリア…もしかしたら、イザークやディアッカとも)
それからアスランは何もなくなった左手を見て、ほっと溜息をついた。
そしてカガリのぬくもりと、彼がくれた言葉を思い出して眼を閉じた。
(あなたが信じてくれるから、私はまた戦える…私の戦いを…)
夢は同じ。焦らなくても、いつかきっと…

「ありがとう…カガリ」

声にもならない小さな呟きは、隣に座るメイリンだけが聞いていた。
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secret
制作裏話-PHASE45②-
さて、シンやレイとは別に隠密行動に出ていたルナマリアは、フォーレ攻略中のイザークたち、ダイダロス基地を襲撃中のシンたちとは逆方向からレクイエム発射口に近づきます。
これ、本編ではけったいなことになってまして…発射口に近づいていたインパルスを、なんでか突然現れたデスティニーが庇うんですよ。「え!?なんで!?」と思うじゃないですか。

だって作戦はシンとレイが陽動で、ルナマリアを無事に発射口に近づけることだったんですよ?発射口に突入する前のルナマリアとシンのデスティニーが会えちゃったなら…

「シンが行けよ!」

と思うじゃないですか!
デスティニーの方がブラストインパルスより破壊力も機動力も上だし、何より腕が上ですから破壊は確実。しかもパッと行ってさっと壊してあっという間に撤収できますしね。

なんでここで出会わせちゃうかなぁ。ゲルズゲーを「倒せるなら引き離すより早よ倒せ!」というアスランと同じです。はっ、さすが上司と部下。ダメ作戦の立案まで似るのでしょうか…

逆転ではもちろん、ルナマリアとシンが出会うことはありません。心細さから一瞬シンを頼りそうになるルナマリアですが、勇気を奮い立たせて健闘します。
ザムザザーとのバトルなど、同じインパルスに乗っていたシンがやったように、脳天からコックピットを破壊するという方法を選択します。最低限の動きでかわすというのは空間認識能力が優れている証拠ですが、これが女性より男性の方が優れている事は衆知の事実ですから、自信のないルナマリアも思わず怖気づきそうになります。
けれどそんな彼女の前を、アスランが歩いています。それが再び彼女に勇気をくれます。
アスランが宇宙で戦っている彼らを想っている分、彼らにもこうしてアスランの影をちらつかせる演出を施しました。

イザークとディアッカの力技はもちろん創作ですが、せっかく2話に渡って頑張ってきた彼らにも堂々たる戦果をあげたかったので、フォーレ破壊の突破口となってもらいました。これによって第三艦隊が下がるまでの間、ダイダロス基地の防衛が薄くなってシンたちの攻撃がさらに効果を上げる事になります。

モビルスーツの援護もないのに、ミネルバは強力な火力で基地の防衛ラインを突破していきます。タリアはフォーレが落ち、シンたちの活躍で戦況がやや有利に傾いたと悟ると、ルナマリアに援護を出そうかと考えますが、彼女の決意を思って思いとどまります。
レイもまた、ルナマリアを心配しているシンの心を汲み、自分たちが基地を攻め続ける事が彼女を救うと言います。ルナマリアの決意と頑張りが皆の後押しを呼ぶのです。シンもまた、逸る心を抑えて彼女の力を信じます。(だからここでデスティニーが発射口にたどり着いてしまい、インパルスと出会ったら台無しなんですよ!)

やがてルナマリアがレクエイム本体を、シンが基地の中枢を、そしてレイがジブリールを撃破します。
プラントを狙う脅威は排除され、ロゴスはいなくなりました。出撃前に誓い合ったように、見事3人でやり遂げたのです。

デュランダルはついに全てが自分の思う通りに言った事を知り、安堵のため息をつきます。道化役だったジブリールは実に素晴らしく、シン・アスカの戦いぶりはまさに民衆を救う比類なき英雄でした。
ミネルバに着艦して祝福を受けているルナマリアの元に駆けつけたシンは、愛しい彼女を力一杯抱き締め、無事を喜びます。ルナマリアは満足げに微笑んでいますが、シンの方が感激で泣きそうになっています。後を追ってきたレイとルナマリアがサインで会話するのも、3人の絆を証明しています。
ここは本編では何のセリフもなかったシーンですが、「シンが信じてくれたからやれたよ」と言うルナマリアは本当にいい子ですよね。

ちょうどその頃、サラからミーアの処分を一任して欲しいと連絡が入り、議長はあっさりと許可します。これは次回の「ラクス・クライン暗殺未遂」への布石です。
しかしこの時の議長の冷たい言葉は、自分で書いていても少しゾクッとしました。
あの偽者の名前はなんと言ったかな…と呟く議長の冷たさがじわりと利いています。「名は存在を示す」と言った議長が、ミーアの名前を忘れている…すなわちミーア・キャンベルなどという人間は、議長の中には初めから存在していないのです。これによってミーアの哀れさがますます引き立ちます。
そして議長とは逆に、偽者の彼に対してあれだけ苛立ちを覚えながらも「名前くらい聞いてやればよかった」と言ったシンのパーソナリティーが浮き彫りになるのです。逆転はこんな彼だからこそ、レイを救えると思えるではないですか。

コペルニクスで美女たちと放蕩にふけっているミーアについては、男性ですからこういう待遇はアリだと思います。可愛い女の子たちとの淫靡で卑猥な日々は彼の精神を堕落させ、どうでもいいと思わせるようになります。大好きなアスランが死に、ラクスとしての役割ももうないと宣告された彼には、もはや未来はないのです。

キラとアスランの会話はこれまた本編では「何が言いたいんだおまいらは」という意味不明なものなので、相変わらず補完したり例えを出したり言い換えたりしてわかりやすい会話に直しています。
アスランも「何かをしたい、何かしなければ」と願ったからプラントに行き、ザフトに入ったのだと言うキラの鋭さに、チクリと胸を刺されます。だって本編ではアスランにはっきりとダメ出しをする人がいなかったので、これはキラに言ってもらうしかないじゃないか!
「欲望」はエゴでもあるけれど、同時に生きる目的とも、動機ともなり得る…それが自由に選べる世界、歪んではいるけれど、今の世界で皆と生きて行きたいとキラが決める根拠となるわけですから、やっぱりここの会話はわかりやすくないと。ダラダラ言葉だけ並べて意味不明の会話をさせ、「全てを言葉で語るのではなく、行間を読んで視聴者自身がテーマを感じ取って欲しい」などという逃げの一手は許せません。無能の証拠でしょ、それ。

さて、いよいよアークエンジェルが出立します。
ここで大きな改変があります。それは、アスランがオーブ軍服を着ないことです。
私は本放映時にも、一連の複隊から脱走まで、アスラン自身がけじめをつけ終えるまで、敢えてザフトの赤服を着続けるべきではないかと思っていましたので(こんなにあっさりオーブ軍人になるのなら、本編のアスランはそもそも2年前にオーブ軍に入隊すればよかっただけですから)、逆転ではこれを実行しました。自分にはもう二度と戻る事ができない軍の制服を着続ける事は、アスランが自分に与えた罰でもあるのです。この堅苦しいまでの頑固さがアスランではないかと思うのです。

出発の日、アークエンジェルではカガリが挨拶を行います。本編ではお仕着せの演説でおしまいでしたが、逆転のカガリは自分の過去と重ね合わせ、シンとの確執を思い返しながら、自分が歩んできた道を振り返ります。
過去に脅え、すくんでしまった足で一歩も前に進めずにいたこと…皮肉にも、それを教えてくれたのはその辛い過去そのものでした。今の自分が手に入れた強さも、仲間も、皆過去があったからこそです。
カガリがここで、過去は「目を背けて忘れたいものではなく、現在の自分を支えるもの」として昇華するために、逆種のPHASE41で焼かれた故国のために泣き崩れさせ、オーブに戻れない旅の中で自分の無力さを自覚させ、眼の前で兵たちを無駄死にさせ、それでももう一度国を背負う事を決意するに至らせました。

そしてキラもまた、奇しくもカガリと全く同じ結論に至っています。かつては戦わなければならなかったことも、コーディネイターであることもとてもいやだったけれど、それが今の自分を形作っているのだから、否定はできないという事です。これは正直言うと意図していなかったのですが(キラを成長させるつもりはサラサラなかったので)、キラがシンの対抗馬として順調に成長してくれたため、このような結論に至ったのです。
こうして双子が目覚しい成長を遂げた事が、PHASE47でラクスが「考えすぎてしまう自分やアスランと違い、2人とも悩み苦しみながらも、いつの間にか自分の道を見つけ出し、歩き出していた」と認める根拠にもなっています。
同時に彼らが正真正銘の兄妹であり、そしてこの逆デスは逆種あってこその続編であるという証明にもなりました。

今も過去に苦しんでいるだろうシンに、いつか自分が歩き出せたわけを話してやりたい…そう思えた時が、カガリの長い旅が終わった瞬間でした。
シンとの対立と激突が何の意味も持たなかった本編とは違い、彼はカガリに大変なインパクトを与えたとしたかったので、これはうまくいったかなと思っています。本編では主人公であるシンとこれだけからませておきながら、何の結果も出さずに終わるってどういう事なのかわかりません。

カガリの表情に一人前の青年としての影を見たアスランは、少し寂しくなります。なぜって彼が悩み苦しみ、成長しようともがいていた時に、肝心の自分は傍にいてあげられなかったからです。それくらい反省してもらわないとね!
そして、これは本編にはなかった要素なのですが、そう考えるゆえに、アスランは「カガリの傍にいるべきではないか」と少しだけ迷っていると示唆しました。決意はしているのですが、以前も肝心な時にカガリを置いていった前科があるし、PHASE40できちんと話をして和解しているからこそ、こう考える可能性もあると思うのです。

けれどカガリはやはりカガリです。
彼は突然為政者としての仮面を取り外し、かつての生意気な少年そのままに兵たちに檄を飛ばします。「そんなのまっぴらだ!」という彼の主張は、らしくていいんじゃないかと思います。彼と仲のいいミリアリアには、ここでもいいキャラになってもらいました。

そしてカガリとメイリンのシーンへと突入します。何の大義も意思表示もなく、ただアスランと一緒にいたいという理由でくっついていくメイリンにしろ、彼女に彼を頼むと言っておきながらベソベソ泣くカガリにしろ、「どっちの女もバカだな」とため息ものだった本編のバカ展開は、「こうだったらよかったのに」「これなら納得できる」というものに改変しました。
本編同様カガリはメイリンにアスランを託しますが、その表情は少し寂しそうで、メイリンはそれを見て彼が彼女を深く愛している事を感じ取ります。なにせ自分だってアスランのことが好きなのですから、わからないはずがありません。
そこで彼は言います。カガリにだけは、彼女は「大丈夫といわない」と。
もちろんカガリには何のことやらサッパリです。
張っておいた「大丈夫」の伏線を生かし、失恋の痛みを感じながらも、メイリンもまた潔く負けを認めて「あなたの元に連れ帰ります」と呟きます。

デッキでの別れのシーンは、本編、いわゆるPHASE45になかったことは衆知の事実です。これは最終回後に放映された「FINAL PLUS」で追加されたシーンですね。
ここではカガリはキラとは微笑ましい兄妹のハグを、ラクスとは互いを認め合う握手を交わします。
ラクスに「きみは王だ」と言われてもカガリは冗談にしか受け取りませんが、これ、ラクスは結構本気で言ってるんですよね。自分や議長は「指導者」にしかなれないけれど、カガリには根っからの「王の器」があると認めているんですね。

王には有能な者も無能な者もいます。さしずめカガリは「無力な王」でしょうが、彼を支えようとする力が強力です。ラクスが人を率いるなら、カガリは人を惹きつける。ここでは互いにないものを持つからこそ、彼らは友となり得るのかもしれない、ということを描写したかったのです。

そしてアスランとの別れがやってきます。
FPでは手を差し出したカガリを、アスランが抱き締めるというだけでしたが、このシーン、何しろセリフがないので一体どういうつもりで追加されたのかはわかりませんでした(進藤さんと監督夫妻の間にあれこれあったんじゃないかと憶測されるほど、カガリのセリフは後半にいくにつれてなくなりましたからね)

2人のシーンは絶対にこうすると決めていました。逆種を書き始めた時から決めていたといっていいほどです。書き上げる前に、何度も何度もシミュレーションもしました。
SEで指輪を外したカガリは引き出しにしまいましたが、逆転では指輪を外すのは、指輪をしているアスランではありません。
カガリが彼女から指輪を外して、アスランの未来を縛らない、と意思を表示するのです。
アスランがほんの少し迷っている事を、カガリはちゃんと気づいていたんですね。

未来はまだ何も決まっていない。自分で決めて、自分で選んで、もう一度お互いを愛していると思えたなら、やり直せばいいのです。カガリは待つつもりなんですが、指輪を拠り所にしていたアスランは当然戸惑います。けれどそんな彼女を抱き締め、カガリが呟いた言葉は、ジェネシスと共に散ろうとした彼女を救った彼の言葉でした。
絶対に死んではいけないという彼の言葉は、自分のもとに帰ってきて欲しいという意味を持っています。

「道はいくつあっても、目指す場所が同じならいつかきっとたどり着く」
実はアスランが本編で言った「夢は同じだ」という謎セリフには全く納得がいかなかったので、ここでカガリがたとえ遠回りをしても、回り道をしても、いつか彼女と共に歩める人生にたどり着きたいと願うために、逆種で「死」という決定的な別れによって息子との道が分かたれるウズミにこのセリフを言わせたのです。本当に長い長い、長~~~~~い伏線でした。何しろ逆デスのこのシーンで生かすために創作したセリフだったんですから。(非常に使い勝手がよかったセリフなので、他のシーンでも活躍してもらいましたし)
すなわち、これもカガリにとっては「過去が後押ししてくれた」決断なんですね。

アークエンジェルの発進時は、本編ではキラもアスランもブリッジではなく待機室にいましたが、逆転では皆さん全員にちゃんと仕事をしてもらっています。(待機室にいるのはアマギたちですねきっと)

アスランは何もなくなった指を見て、カガリの想いを噛み締めます。
信じてくれる人がいるから、戦える…これはキラがラクスからストライクフリーダムを受け取り、また皆を守って戦えると言ったセリフでもあります。

また、この「信じる」ことと、「無事に帰って欲しい」という想いは両者とも、ルナマリアとシンの会話と対比させていることもおわかりいただけたでしょうか。年若い二人と、少し歴史を刻んだ二人では、同じように生きて帰って欲しいという思いを語らせながら、ちょっとした違いを持たせてあります。離れていても互いを信じられるかどうかというのも、両者ではややニュアンスが違っています。
若さは性急で抑えがたい衝動を秘め、成熟は待つことの意味を知っています。

アスランは小さく、誰にも聞かれないほどの声でカガリに「ありがとう」と呟きます。
それを聞くことができたのはメイリンだけです。
けれどきっと彼も、こんなにも想いあっている2人を見せられてしまったら「敗れて悔いなし」だと思いますよ。
になにな(筆者) 2012/02/29(Wed)22:42:44 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
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