機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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制圧したダイダロス基地に停泊したミネルバは、事後処理のために向かわされる部隊に現場を引き継ぐため、まだ警戒態勢が解けない。
シンたちは交替で休憩を取りながらミネルバの警護にあたっている。
フォーレの近くに停泊したゴンドワナを眺めながら、シンは周囲のレーダーを確認していた。
視認できる範囲にも、モビルスーツやモビルアーマーの残骸が、月の重力に引かれて月面に散乱している。
(今度こそ、ロゴスはいなくなった)
プラントを脅かした「極悪人」ジブリールはついに討たれ、これによって戦争は完全に終結したと言える。
(これで…本当にこれで、平和に…)
けれどシンの心はいまひとつ晴れなかった。
戦いを終えるため、平和な世界のために戦うと議長が宣言して以来、ヘブンズベース、オーブ、そしてダイダロスと戦いに次ぐ戦いばかりだ。
さらにはフリーダムが蘇り、生きていたアスランもジャスティスという新たな機体に乗り込み、そしてラクス・クラインは「議長を支持しない」と宣言した。
オーブとは国交が正常化していないので、敵対の可能性はまだ残っている。
シンはアスランの、カガリの声を思い出して苦しそうな表情を浮かべた。
「でも、それは本当にあなたが望んだこと!?」
(裏切り者のおまえなんかに、俺が望んでいる事がわかるのか…)
「いつまでも後ろを見るな、シン!俺はもう前に進むぞ!」
(失った過去を忘れろと…俺に、おまえの罪を忘れろと言うのか、アスハ!)
「くそっ…!」
目的を果たすために戦うことを嫌だとは思わない…でも…だけど…
シンはデスティニーのシフトレバーを力いっぱい握り締めた。
まるでそれが、これから先の自分の運命を左右するかのように。
シンたちは交替で休憩を取りながらミネルバの警護にあたっている。
フォーレの近くに停泊したゴンドワナを眺めながら、シンは周囲のレーダーを確認していた。
視認できる範囲にも、モビルスーツやモビルアーマーの残骸が、月の重力に引かれて月面に散乱している。
(今度こそ、ロゴスはいなくなった)
プラントを脅かした「極悪人」ジブリールはついに討たれ、これによって戦争は完全に終結したと言える。
(これで…本当にこれで、平和に…)
けれどシンの心はいまひとつ晴れなかった。
戦いを終えるため、平和な世界のために戦うと議長が宣言して以来、ヘブンズベース、オーブ、そしてダイダロスと戦いに次ぐ戦いばかりだ。
さらにはフリーダムが蘇り、生きていたアスランもジャスティスという新たな機体に乗り込み、そしてラクス・クラインは「議長を支持しない」と宣言した。
オーブとは国交が正常化していないので、敵対の可能性はまだ残っている。
シンはアスランの、カガリの声を思い出して苦しそうな表情を浮かべた。
「でも、それは本当にあなたが望んだこと!?」
(裏切り者のおまえなんかに、俺が望んでいる事がわかるのか…)
「いつまでも後ろを見るな、シン!俺はもう前に進むぞ!」
(失った過去を忘れろと…俺に、おまえの罪を忘れろと言うのか、アスハ!)
「くそっ…!」
目的を果たすために戦うことを嫌だとは思わない…でも…だけど…
シンはデスティニーのシフトレバーを力いっぱい握り締めた。
まるでそれが、これから先の自分の運命を左右するかのように。
「同様の中継コロニーはあと3基ありました。制圧はもう全て混乱なく行われましたが…」
「すると、全部で5基か?」
メサイアの司令室では議長とジェセックの前で戦況の報告が行われていた。
「何ということだ…そんなものが準備されていたとは…」
デュランダルは苦々しい表情で溜息をついた。
死ぬ間際に調査報告を聞いたジブリールが今のこの彼を見たら、さぞや腸が煮えくり返る思いをし、大騒ぎしたことだろう。
「信じられん。あってはならん見落としだぞ!」
バーネル・ジェセックが頭を振りながら言うと、黒服の将官や国防委員会の役人が思わず頭をたれたり、互いに顔を見合わせたりした。
「確かにな…」
デュランダルはカッカするジェセックを制して言う。
「敵も巧妙だったが、こちらも地上に気を取られすぎていたようだ」
デュランダルは残った3基の偏向ステーションと、イザークたちに破壊されたグノーとフォーレも月軌道に集めておくよう告げた。
「処分は後ほど検討する」
指示を受けた兵たちは敬礼し、何人かは先に部屋を出て行く。
デュランダルは続いて破壊された基地が映るモニターを見た。
「ダイダロス基地の方は?」
「御指示通り、ローランの隊を向かわせてあります。もう到着する頃だとは思いますが…」
報告していた黒服がオペレーターに到達時間を割り出すよう合図をした。
「そうか…ありがとう。ならばもうミネルバと月艦隊は休ませてやってくれ。連戦できっと彼等もクタクタだろう」
議長がいつものように柔和で優しげな笑顔を湛えて兵たちをねぎらうと、少し緩んだ空気になり、兵たちは健闘したミネルバや月艦隊を見上げた。
「でも本当に良くやってくれました。月艦隊もですが、特にミネルバは素晴らしい」
ジェセックが言うと、その場にいる者全員が頷いた。
モニターの中でミネルバは静かに停泊しており、今回もその戦いぶりを初めて直接眼にした者たちを驚かせたデスティニーが、今も哨戒を続けている。
デュランダルは眼を細めて微笑むと皆に告げた。
「ああ。おかげでようやく終わったかもしれない」
既に脱出を図ろうとしたジブリールを討ったという報告はメサイアにも届き、勝利に沸く本国にも伝えられていた。
「まだ大西洋連邦大統領がアルザッヘルにいるという情報もあるが、もう軍を動かすということもあるまい」
コープランド大統領は既に故国の支持を失い、権力者としても追い詰められている。所詮はロゴスの傀儡でしかなかった男だ。
(どうすればいいのかもわからず、今頃おろおろしているだろうよ)
議長は愚鈍な男の姿を思い浮かべ、心の中でほくそ笑んだ。
「しかし愚かなものだな、我々も…」
デュランダルはふっと息をついて言い、ジェセックは彼の突然の言葉に意図を掴みきれず、「は?」と問い返した。
「まさかそんなことになるまいという安易な思い込みが、とてつもない危機を生むということは、既に充分知っていたはずなのに…人の良識を、良心を信じた結果がこれだ」
ユニウスセブン、ポアズやヤキン・ドゥーエ、今大戦開戦時の核。
「まさかそんな、人はそこまで愚かでは…と思い込み、撃たれてきた」
沈痛な面持ちのデュランダルの言葉に、兵たちは言葉がない。
「今度のことも、また未然に防げなかった…」
「本当に面目次第もございません」
「いや、君たちを責めているわけではないよ」
デュランダルは顔を上げ、将校の謝罪を手で制した。
そしてそれはもちろん議長の真っ赤な嘘だった。
レクイエムも偏向ステーションも、彼の優秀なスパイであるサラが情報を全て盗み出してくれていたので、防ごうと思えば防ぐことはできたのだ。
「私もまた、失われてしまった多くの命に詫びねばならない…そしてそう思うなら、今度こそ本当に、もう二度とこんなことの起きない世界を創らねばならん」
彼は頷く将校たちを眺め、そしてもう一度被害の大きいディセンベルの様子をモニターで確かめた。膨大なデブリの回収には恐らく何年も必要だろう…
(だが、あれは防いではならなかった)
ロゴスの非道と、ようやく手にした平和はあまりにも脆いものという実感と恐怖心を人々に植えつけ、新たな世界に向かう後押しにするためだ。
しかも彼は、ジブリールなら真っ先に首都のアプリリウスワンを狙うだろうと見越して、イザークたち精鋭部隊をグノーに配備させていた。防げればよし、撃たれてもまたよし…彼は国民の命を勝手にベットしていたのだ。
「それが亡くなった人々へのせめてもの償いだろう?」
デュランダルは、いかにも悲しみに満ちた瞳で皆を見回した。
生贄の墓標の前に、新たな世界が拡がっていく。
けれど何も知らぬ兵たちは、議長の言う通りだともう一度大きく頷いた。
やがてローラン隊が到着し、艦長らと挨拶、及び情報を交わして、ミネルバの長い任務がようやく終わった。
シンはほぅっと息をついてミネルバに戻ると、シャワーを浴び、ベッドに倒れこんで泥のように眠った。熟睡するシンの手には、妹の携帯が大事そうに握られていた。
数時間後、レイに起こされるまでぐっすりと眠っていたシンは、伸びをすると体を動かしたくてたまらなくなり、射撃訓練に向かうことにした。
彼らとは時間をずらして休憩を取っていたルナマリアが目覚め、シンを探しに来たのは、こうして2人が射撃場にいる時だった。
どうも弾が散りがちになるシンが「調子悪いな」と呟くと、レイが銃を見て、弾を変えてみるようアドバイスをくれた。
アカデミー時代から射撃の腕はレイの方が格段に上なのだが、例えば迷路の中を逃げながら、遭遇する教官たちが扮した敵を倒すような実戦的なサバイバル訓練では、シンの成績はずば抜けていた。
時に銃を使わずに格闘でも敵を倒してしまうものだから、教官からはよく「ちゃんと銃を使え!」と怒られたものだ。
さらにグルーピングのデータを計算している時、シンの眼に防弾ガラスの向こうで手を振っているルナマリアの姿が映った。
シンは銃を置き、レイに「少し待て」と合図してから彼女の元にやってきた。
「なに?休憩終わったの?どうした」
寝過ぎて寝癖がついてるぞと、彼女がいつもこだわってふんわりと立ち上げている前髪をポンと潰してからかうと、ルナマリアは「やめてよ!」とシンの手を払って怒る。
「『なに?』じゃないわよ、もう」
その後もなんとなくルナマリアはおかんむりだった。
「やっと休息になったのに、何でいきなり射撃訓練なの?」
「だって、俺もう寝たし…レイもやるって言うから」
「ふーん。あ、そ」
シンは、素っ気無く言ってすたすたと歩き出した彼女の後に続いた。
「日々の訓練は大事だろ。ルナもやるか?教えてやるよ」
そう言ってから「レイがね」と付け足したシンに、ルナマリアは思わずぷっと吹き出してしまった。
「へーえ…おちこぼれの彼女をレイに押しつける気?」
「やっと笑った」
いつものように笑ったルナマリアを見て、シンは嬉しそうだ。
そんなシンの顔を見てしまうと、ルナマリアもいつまでもヘソを曲げているわけにはいかなかった。
「あのね、ちょっと話したいと思ったの」
「何を?」
2人は足を止め、ルナマリアがウィンドウのヘリに腰掛けて言った。
「あの時は、バタバタしてたから…アスランとメイリンのこと」
「ああ…」
そういえばそうだった。シンはウィンドウに手をついて彼女を見た。
「生きてたんだなって思うと、私も何だか落ち着かないけど…」
メイリンが生きていた事は正直、嬉しい。
「アークエンジェルにいる事が捕虜としてなのか、スパイのアスランと共に逃げたからなのかはわからないし…」
(…スパイ…か)
シンはルナマリアのその言葉に、ぐっと黙り込んだ。
「シンは…アスランと戦ったのよね…?」
「ああ。フリーダムとあいつは、俺たちの前に立ちはだかった」
「それって…オーブを…守るため?」
「なぁ、ルナ。あいつの事はもう気にするな」
シンは急に沈んだ表情を見せたルナマリアの隣に座ると言った。
「確かに、殺したはずのヤツが生きてた事には俺も驚いたけど…でもあいつは、ジブリールを匿ったオーブを守ってたんだ」
それが結果的に、今回の大きな惨事の原因になった事は明白だった。
「俺が…あいつらの言葉なんか聞かなければ…ジブリールを確保できていれば…」
シンは右手の拳を握り締めて左手の掌をパシっと殴った。
(フリーダムを…オーブを討てなかった。アスランを…討てなかった…)
「俺の責任だ。俺の甘さと弱さが、プラントの人たちを殺した」
シンの自分を律する厳しい言葉に、ルナマリアはびくっと体を震わせた。
「それは、私だって…」
「だから俺たちは、もう迷っちゃいけないんだ」
「シン…」
「俺たちザフトの仕事は、プラントを守ることだ。そうだろ?」
ルナマリアはそれを聞き、やがて力強く頷いた。
「わかってる。私も、戦うって決めたんだもの」
「よし」
それを聞いて頷いた後、シンは少しいたずらっぽく言った。
「じゃあ軍人らしく、さっそく訓練しよう」
「…え?」
「ほら、アカデミートップのレイが親切丁寧に教えてくれるってさ」
シンが指差すと、そこには律儀に残弾を全て撃ち終ってからシンを追ってきたレイがいた。
(やぶ蛇だった)と思いながらルナマリアはシンに引っ張られ、レイもまた(教えるのは俺か)とややうんざりしながら射撃場に連れ戻される羽目になった。
「進入角良好。アプローチ正常」
その頃アークエンジェルはといえば、オーブやスカンジナビアも建造に関わった中立の月居住区・コペルニクスに到着していた。
チャンドラとミリアリアが管制からのデータを伝達し、ノイマンとキラが着艦準備を進めていく。
「アークエンジェルは7番スポットへ進入せよ」
「こちらアークエンジェル、了解。7番スポットへ進入する」
月の引力に引かれ、軽い衝撃を感じて艦が止まると、皆ほーっと息をついた。
入国審査が終わると、月に駐留する第2宇宙艦隊の司令がわざわざ出迎えにやってきた。准将であるキラは、艦長のマリューや副長のアマギ、ネオ、ノイマン、チャンドラらブリッジ要員と共に挨拶し、今後の予定とアークエンジェルの任務について彼らと確認しあった。
「遠路はるばるようこそ。ヤマト准将」
「アスハ代表より、月艦隊の皆さんによろしくと伝言を承っております」
ミリアリアは地位の高い人々を相手にきちんと挨拶しているキラを見ながら、今の彼女を、トールやフレイが見たらなんと言うだろうかと思っていた。
(皆、こうやって変わっていくんだわ…変わらないものを持ちながら)
通信を送るたびに、自分も行きたかったと嘆くサイに、知らせてあげよう。
私たちは皆、辛かった過去を礎にして前に進んでいくんだねって。
(ねぇトール…だから、もし私がこれから前に進むんだとしても、あなたのこと、あなたがくれたたくさんのことを忘れるわけじゃないの)
ミリアリアは明るく楽しかった遠い日々を想い、微笑んで瞳を閉じた。
(大好きだったあなたのこと、忘れたりしない…絶対に)
キラが司令官として艦隊司令部と折衝を行っている間、アスランはラクスが宇宙に上がって以来、ダコスタやヒルダたちにプラントで調べさせていた様々なデータを見せてもらい、メイリンと共に同時期のザフト側の視点からそれを洗い直す作業を行っていた。
「ジン・ハイマニューバ2型の取引が行われたのはどこなの?」
アークエンジェルのブリーフィングルームに映し出された、かつてエターナルでラクスがキラやバルトフェルドに見せた闇取引の現場画像を見ながら、アスランはラクスに尋ねた。
「最も開発が遅れていて、人口が少ないディセンベルフォーだと思う」
それを聞いてデータを打ち込んでいたメイリンが何気なく言った。
「じゃ、今はもう証拠は何もないんですね?」
「そう…レクイエムによる破壊に巻き込まれたプラントだからね」
アスランは何も言わなかったが、ラクスが何を言わんとしたか悟った。
だがそれもまた憶測に過ぎない。
(全ては慎重に判断しなければならないわ)
ラクスはそんなアスランを見て、もう一度モニターに視線を戻した。
一方メイリンは、自分のデータも含まれているアカデミーの遺伝子によるセレクションデータを、系統立てて整理していた。
血液による簡単な検査のみで遺伝子を割り出し、適性を見る。
他にも知能、身体能力、直観力など、後天的・環境的な因子で後に身につく能力も参考にはしているが、遺伝子によるところのセレクトが圧倒的に強かった。
能力レベルにはレイやシンを超えるポテンシャルを示すものもあり、女性と男性の性差があるにせよ、能力的にはほとんどにおいて姉より優れていた自分が、遺伝子による「NO」だけでパイロットコースへの道を閉ざされていた事は、やはり衝撃だった。
(こんな風に可能性を閉ざされてしまうなんて…僕は一体…)
コンプレックスに苛まれた数年間の想いと、否定された悔しさが滲む。
「アスラン」
「何?」
やがてラクスが、自分が居合わせたアーモリーワンの強奪事件について調査する事に夢中になっているアスランに声をかけた。
(カガリは直前までアーモリーワンに向かう計画を明かさなかった)
もし本当にあの襲撃がすべて議長の計画のうちだったのなら、彼にとって一番予想外だったのはアスハ代表のお忍び訪問だったはずだ。
(なのに敢えて訪問を受けたのは、強奪をカガリに見せるため?それとも…)
返事をした割には話を聞く気がなさそうなアスランに呆れ、ラクスは言った。
「キラが戻ってきたら、ちょっと街に出かけたいんだけど」
「…は?」
アスランは思わず手を止めて彼を見た。
「何言ってるの?」
「護衛は手馴れたものだろ」
ラクスがニッコリと笑って言ったので、アスランも顔色を変えた。
「自分から危険に飛び込む人の護衛なんかしないわ!」
呆れ顔のアスランを見ても、ラクスはどこ吹く風だ。
「僕はコペルニクスは初めてだから、楽しみだな」
「ラクス!冗談は…」
「キラもアスランも、小さい頃月に住んでたから詳しいんだよね?」
メイリンは噛みあわないおかしな問答を続ける2人を見ながら、(キラさん、早く帰ってきてくれないかなぁ)と思っていた。
気だるそうに眼を開けたミーアは、時計を見て、再びそれを置いた。
地球の標準時間に合わせて輝く人工太陽は既に昼過ぎの明るさであり、 ベッドの周りは昨日の騒ぎを物語るように乱雑だった。衣服やシーツが散乱し、空になった酒瓶が転がっている。電子ドラッグのやり過ぎでぼうっとした頭で、ミーアはソファや床のクッションにもたれて眠る、ほとんど裸の女の子たちを見つめた。
テーブルの上には手つかずのままルームサービスの朝食が乾いている。
リゾートホテルの一室は豪華で華々しいが、彼の心は一向に晴れなかった。
(なに、心配はいらないさ)
ジブラルタルで最後に会って以来、議長からは音沙汰がない。
(決して悪いようにはしないよ。きみの働きには感謝している)
本当は不安でたまらないが、今は柔和で優しそうな彼の笑顔を信じるしかない。
こんな風に、常人なら1泊もできないような豪華なホテルに泊めてくれるのも、ほとぼりが冷めるまでゆっくり休んでいていいという議長の配慮なのだろうと…
(そうだよ、だって僕…あれはみんな僕なんだ…)
「僕は、ラクス・クラインです」
凛としたラクスの表情を思い浮かべ、ミーアは思わず拳を握り締めた。
(あの人じゃない。僕がやったんだ、全部!)
核を撃たれて動揺し、怒るプラントの人々の気持ちをなだめ、ザフトの兵たちの士気を高め、議長の言うとおり演説をして…誰もが僕の言葉に頷いて、僕を見れば手を振った。
ラクス様、ラクス様と、笑顔で僕の名前を読んだ。
(皆が愛したラクス・クラインは、僕なんだ!)
「あなただって、ずっとそんなことをしていられるわけないでしょう?」
突然アスランの声が頭に響き、ミーアはびくっとする。
「そうなればいずれあなただって殺される…だから一緒に」
あれほど望んだ、美しい彼女の優しい笑顔と差し伸べられた手…
(だけどアスランは死んだ!あいつに…シン・アスカに殺された!)
ミーアは両腕で眼を覆った。恐ろしいほどの赤い瞳で人を睨みつける、あいつの手で…
あの時アスランと一緒に行っていたら、僕だって死んでいたかもしれない。
(だからあの選択は間違っちゃいない。間違っちゃいなかったんだ!)
そう思い込もうとするミーアの口から、小さなうめき声が漏れた。
「ラクス様?」
それを聞き、隣で眠っていたはずのサラが彼に声をかけた。
「どうなさいましたの…悪い夢でもごらんになりまして?」
彼女は静かに囁き、ミーアの頬を撫でてそっと口づけをした。
「いや…」
美しく魅惑的な彼女が「そうですか。よかったですわ…」と言いながら優しく微笑んだので、ミーアはたまらなくなってそのまま彼女に覆いかぶさった。
アスランの事も議長の事も、もう何も考えたくなかった。
「あの…きみ…」
「はい?」
荒い息が収まると、ミーアは彼女を腕に抱いて尋ねた。
「議長からはまだ何も?」
「はい、残念ながらそれは…」
サラは手早く後始末をすると、彼の体にシーツをかけながら答える。
「でも仕方ありませんわ。今プラントは本当に大変ですもの。それはラクス様もよく御存じでしょう?」
彼女は甘えるように彼に囁いたが、欲望が満たされてしまったミーアはすっかり気持ちが冷め、やや邪険な口調で答えた。
「ああ、わかってる。そんなのわかってるよ。でも…」
「本当に今はまだいろいろと情勢が難しいのです」
彼女はミーアの気持ちをなだめようと穏やかに言った。
「コペルニクスにも先刻、アークエンジェルが入港したという話ですし…」
彼女の言葉に、ミーアは驚いて聞き返した。
「…アークエンジェル?」
ミーアは聞き覚えのあるその名を反芻し、そしてラクスの言葉を思い出した。
そういえば本物のラクスは、自分は「アークエンジェル」と共にあると言っていた。
「ええ。どういうことでしょうね?こんな時に月に上がってくるなんて」
ミーアの複雑そうな表情を見て、サラはふっと微笑んだ。
「やはり、あの方も一緒なのでしょうか?」
「え?」
やや上の空だったミーアがその言葉を聞いて思わず彼女に眼を向けた。
「オーブにいると言っていたあの方…あなたによく似た、ニ・セ・モ・ノ…」
耳元で囁かれ、ミーアはゾクリと総毛立つ。
「ふふ。本当に困ったものですよね、あの方にも」
彼女は彼に濃密なキスをしながら、呟くように続けた。
「あれではせっかくの議長の努力も台無しですわ。何故あんなことをなさるのかしら…ラクス様って、本当はそういう方ではありませんでしょ?」
「ぼ…くは…」
耳触りのいい心地のよい言葉が、ミーアの思考を奪っていく。
「ラクス様という方は、常に正しく平和を愛し、けれども必要な時には私たちを導いて共に戦場を駈けてもくださる…そんなお方ですもの…」
「あ、うん…」
ミーアはその通りだと思う。
そんな彼だからこそ、自分も憧れたのだ。
そうなりたいと、そうありたいと思いながら彼の影武者を演じてきた。
「だから、私たちもお慕いするのです」
彼女はミーアの体にゆっくりと手を這わせながら、甘い声で囁き続けた。
やがて明るい色の髪がはらりと頬にかかり、いつの間にかサラが自分を上から見下ろしていることに気づいた。
「心から…」
「…うぁ」
ミーアは快感のあまり思わず身をよじり、再び彼を受け入れた彼女を力一杯抱き締めた。
「そうでないラクス様なんて…それは嘘ですわ…」
「…嘘?」
とろんとした眼を虚空に放ちながら、ミーアはその言葉に反応した。
(…嘘…偽り…本物…偽者…僕は一体…)
「私は開戦の折からずっと議長のお側で頑張ってくださった方こそが、本当のラクス様だと思っておりますわ」
「…きみ…きみ…は?」
―― 知っている?僕が本物ではないことを…偽者だと…
しかしそれ以上考える事ができず、彼はさらに激しく昂ぶる快楽に飲み込まれていった。
「サラとお呼びくださいな…ラクス様。お力になりますわ」
ミーアはもうそれ以上は答えられず、上になったサラに成されるがままだった。
「今はそうでなくては皆困るのですから。そうでしょう?ラクス様。あなたはなくてはならない方…必要な方なんです…私たちにとって…」
すぐに果ててしまった彼を愛しげに抱き締めながら、サラはミーアの汗で濡れた髪を掻き上げた。
「さあ…もう少しお話しましょう。きっと良い考えが浮かびますわ」
にっこり笑った彼女は、実に美しかった。
「あなたこそが真のラクス・クラインとなるための、ね…」
「随分と久しぶりだよ、外へ出るのは。もう何ヶ月も艦の中で」
「…」
ラクスが嬉しそうに言っても、アスランは相変わらず仏頂面だった。
2人のズレまくった外出論争は決着がつかず、結局キラが戻ってきて両者の言い分を聞いた上で、マリューとも相談して結論に至った。
「大体、司令官のあなたまで艦を離れていいと思うの?」
私服に着替えたアスランが腰に手を当てて怒ると、キラはまぁまぁとなだめた。
「ラクスだってずっと閉じ込められたままじゃ可哀想でしょ?」
アスランは「時期が時期だから仕方ないわ」と主張したが、正論が通らない。
「大丈夫よ、アスランさん。こちらにはネオもいるし、オーブ艦隊もいるし」
「そういう問題では…」
マリューまでもがキラたちに味方するのだからアスランの旗色は悪い。
「行って来いよ、べっぴんさん。あんたも少し、肩の力を抜かないとな」
ブスッとしてたら美人が台無しだぜと続けたネオの言葉が、これまたあまりにもムウらしくて、ミリアリアやチャンドラ、ノイマンたちはくすくすと笑った。
「じゃ、行ってきます、ラミアス艦長」
キラがそう言いながら艦長に目配せした事には気づかず、まだむっつりしているアスランは無言でエレカを発進させた。 車にはメイリンも乗っている。
「メイリンも行ってくれるでしょ?」
そうキラに頼まれ、「僕もですか?」と驚いたが、キラからこっそり「私、射撃全然ダメだから」と言われてはついていかざるを得ない。
(フリーダムをあれだけ操る人が射撃がダメって…)
そのギャップに驚きつつ、メイリンは支給された護衛用の銃をしまった。
(姉さんも射撃はホントにダメだけど…キラさんもそれくらいダメなのかな?)
「本当にいいのか?奴らだけで」
彼らが行ってしまうとネオが振り返った。
「ええ、大丈夫よ」
マリューは何か思うところのあるような表情で頷き、アマギにブリッジを頼んで艦長室に戻りかけた。
司令官であるキラにも仕事は多いが、久々にやってきた月周辺宙域の把握など、艦長にとってもやる事は山積みだ。
「いや、そうじゃなくて…あんたはいいのか?」
そのまま廊下まで追いかけてきたネオが聞く。
「え?」
「ちょっと外の空気吸いたいって言うなら、喜んでお伴しますけど?」
マリューはネオのデートのお誘いに思わず立ち止まって振り返る。
「ずっと艦の中じゃ、あんただってきついだろ?大変な立場だし」
「うふ、ありがとう。でも大丈夫よ、私はここで」
それに…マリューはネオに言った。
「あなたには、艦にいてもらわないと困るのよ」
意味はわからなかったが、その言葉に気をよくしたネオはにっと笑った。
「そう。じゃ、取り敢えず今は艦内をエスコート」
「はぁ?ちょっと…」
そのまま彼に腰を抱かれて引き寄せられたマリューは驚いた顔だ。
「あ、お風呂入んない?一緒に」
「な…何か、やっぱり別人なんじゃない?」
慌てるマリューを見て可笑しくなり、ネオは「そう?」とおどけた。
「どこへ行くの?」
「うーん…とりあえず、お茶でも飲もうか」
車を停めたアスランが相変わらず不機嫌そうに聞くと、ラクスは答えた。
「あ、ほら、あのオープンテラスのカフェは?」
「ダメ。狙撃されやすいから」
「あのビルの店は?」
「窓が大き過ぎるわ」
こうしていても、アスランは既に数人、怪しげな人物が街中からラクスをじっと監視していることに気づいていた。
全員銃を持ってはいるが、今のところはただ見張っているだけのようだ。
(2人のラクス・クラインの事件は、全世界に放映されたんだもの…こんな時に出歩けばどうぞ狙ってくださいと言わんばかりだわ)
ますます不機嫌になるアスランには全く構わず、ラクスはのんびり言う。
「じゃ、どこが安全なの?」
「アークエンジェル」
「あはは、戻るのはいやだなぁ」
真顔のアスランの答えが心底面白かったかのようにラクスが笑う。
ラクスは帽子やメガネで変装してはいるが、それは見る人が見ればすぐにラクスだとばれてしまう程度のものだった。
(大体、目立ちすぎなのよ)
アスランは地味にしていても派手さが抜けないラクスを見て思う。
「大体、目立ちすぎなんだよね」
「あの2人が一緒にいるのが間違いですよ」
キラとメイリンは不毛な会話を続けている2人の後ろで、ただでさえ容姿端麗な彼らが、周りの注目を浴びている事に全く気づいていないことに呆れていた。
中には2人があまりにもお似合いだと思うのか、勝手に写真を撮る人までいるので困る。
「アスランさん、自分も目立ってるって全然気づいてないですね」
「うん。困ったなぁ。とにかく、どこか屋内で話をさせよう」
キラはきょろきょろと辺りを見回し、何かを見つけたように頷いた。
「アスラン、ラクス、あの店にしよう」
キラは小さな入り口の店を目指して歩き出し、3人は続いた。
彼らが席に着くと、近くに座っていた家族連れの子供たちが、キラの肩にとまっている可愛らしいトリィに興味を示した。
キラがトリィを指に乗せて「はい」と渡すと、子供たちは照れたように笑う。
トリィは彼らのテーブルを飛び回り、愛らしいその仕草や鳴き声で子供たちを喜ばせた。
「テヤンデーイ!ミトメタクナイ!」
「ヤキモチ妬かないの、ハロ」
ラクスがパタパタと跳ねまわるハロをなだめる。
「そんなに怒んないでよ、アスラン」
アスランがさっそく店の外から見張られている事に不快感を感じていると、キラが苦笑しながら呟いた。
「怒ってないわ。ちょっと呆れてるだけ」
(同じじゃないか)
キラは肩をすくめる。
やがてそれぞれが頼んだものが出てくると雰囲気が和らいだ。
キラはラクスとメイリンに、10年以上前にこのコペルニクスで自分たちが出会ったのだと話している。
だがキラの記憶はところどころいい加減なので、アスランはそのたびに訂正をしなければならなかった。
一緒に風呂に入って遊びすぎ、のぼせて眼を回したのがキラではなくアスランだったと勝手に記憶がすり替わっていたりするので困るのだ。
「もう、怒ってばっかり」
「怒ってないってば」
アスランに訂正ばかりされるキラが辟易して言うと、ラクスも笑った。
「そうだよ。アスランも、せっかくのデートなんだからもっと笑って」
「…誰と誰がデートですって?」
僕たち全員がさと嘯くラクスに、アスランはますます呆れる。
(このズレっぷり…やっぱり誰かさんに似てるわ)
楽しそうに笑っているラクスを見ながら、その彼にそっくりなミーア・キャンベルを思い出し、アスランは頬杖をついた。
食事だのドライブだのとそれこそ強引に「デート」に誘い、挙句の果ては夜這いまでしてきたミーア…能天気に自分に迫ってきた彼を思って溜息をつき、それから、役割を失った彼は今、どこでどうしているのだろうと思いを馳せた。
いつものように1人で物思いに沈んでしまったアスランは、ラクスが自分を見つめていることには気づかなかった。
「すると、全部で5基か?」
メサイアの司令室では議長とジェセックの前で戦況の報告が行われていた。
「何ということだ…そんなものが準備されていたとは…」
デュランダルは苦々しい表情で溜息をついた。
死ぬ間際に調査報告を聞いたジブリールが今のこの彼を見たら、さぞや腸が煮えくり返る思いをし、大騒ぎしたことだろう。
「信じられん。あってはならん見落としだぞ!」
バーネル・ジェセックが頭を振りながら言うと、黒服の将官や国防委員会の役人が思わず頭をたれたり、互いに顔を見合わせたりした。
「確かにな…」
デュランダルはカッカするジェセックを制して言う。
「敵も巧妙だったが、こちらも地上に気を取られすぎていたようだ」
デュランダルは残った3基の偏向ステーションと、イザークたちに破壊されたグノーとフォーレも月軌道に集めておくよう告げた。
「処分は後ほど検討する」
指示を受けた兵たちは敬礼し、何人かは先に部屋を出て行く。
デュランダルは続いて破壊された基地が映るモニターを見た。
「ダイダロス基地の方は?」
「御指示通り、ローランの隊を向かわせてあります。もう到着する頃だとは思いますが…」
報告していた黒服がオペレーターに到達時間を割り出すよう合図をした。
「そうか…ありがとう。ならばもうミネルバと月艦隊は休ませてやってくれ。連戦できっと彼等もクタクタだろう」
議長がいつものように柔和で優しげな笑顔を湛えて兵たちをねぎらうと、少し緩んだ空気になり、兵たちは健闘したミネルバや月艦隊を見上げた。
「でも本当に良くやってくれました。月艦隊もですが、特にミネルバは素晴らしい」
ジェセックが言うと、その場にいる者全員が頷いた。
モニターの中でミネルバは静かに停泊しており、今回もその戦いぶりを初めて直接眼にした者たちを驚かせたデスティニーが、今も哨戒を続けている。
デュランダルは眼を細めて微笑むと皆に告げた。
「ああ。おかげでようやく終わったかもしれない」
既に脱出を図ろうとしたジブリールを討ったという報告はメサイアにも届き、勝利に沸く本国にも伝えられていた。
「まだ大西洋連邦大統領がアルザッヘルにいるという情報もあるが、もう軍を動かすということもあるまい」
コープランド大統領は既に故国の支持を失い、権力者としても追い詰められている。所詮はロゴスの傀儡でしかなかった男だ。
(どうすればいいのかもわからず、今頃おろおろしているだろうよ)
議長は愚鈍な男の姿を思い浮かべ、心の中でほくそ笑んだ。
「しかし愚かなものだな、我々も…」
デュランダルはふっと息をついて言い、ジェセックは彼の突然の言葉に意図を掴みきれず、「は?」と問い返した。
「まさかそんなことになるまいという安易な思い込みが、とてつもない危機を生むということは、既に充分知っていたはずなのに…人の良識を、良心を信じた結果がこれだ」
ユニウスセブン、ポアズやヤキン・ドゥーエ、今大戦開戦時の核。
「まさかそんな、人はそこまで愚かでは…と思い込み、撃たれてきた」
沈痛な面持ちのデュランダルの言葉に、兵たちは言葉がない。
「今度のことも、また未然に防げなかった…」
「本当に面目次第もございません」
「いや、君たちを責めているわけではないよ」
デュランダルは顔を上げ、将校の謝罪を手で制した。
そしてそれはもちろん議長の真っ赤な嘘だった。
レクイエムも偏向ステーションも、彼の優秀なスパイであるサラが情報を全て盗み出してくれていたので、防ごうと思えば防ぐことはできたのだ。
「私もまた、失われてしまった多くの命に詫びねばならない…そしてそう思うなら、今度こそ本当に、もう二度とこんなことの起きない世界を創らねばならん」
彼は頷く将校たちを眺め、そしてもう一度被害の大きいディセンベルの様子をモニターで確かめた。膨大なデブリの回収には恐らく何年も必要だろう…
(だが、あれは防いではならなかった)
ロゴスの非道と、ようやく手にした平和はあまりにも脆いものという実感と恐怖心を人々に植えつけ、新たな世界に向かう後押しにするためだ。
しかも彼は、ジブリールなら真っ先に首都のアプリリウスワンを狙うだろうと見越して、イザークたち精鋭部隊をグノーに配備させていた。防げればよし、撃たれてもまたよし…彼は国民の命を勝手にベットしていたのだ。
「それが亡くなった人々へのせめてもの償いだろう?」
デュランダルは、いかにも悲しみに満ちた瞳で皆を見回した。
生贄の墓標の前に、新たな世界が拡がっていく。
けれど何も知らぬ兵たちは、議長の言う通りだともう一度大きく頷いた。
やがてローラン隊が到着し、艦長らと挨拶、及び情報を交わして、ミネルバの長い任務がようやく終わった。
シンはほぅっと息をついてミネルバに戻ると、シャワーを浴び、ベッドに倒れこんで泥のように眠った。熟睡するシンの手には、妹の携帯が大事そうに握られていた。
数時間後、レイに起こされるまでぐっすりと眠っていたシンは、伸びをすると体を動かしたくてたまらなくなり、射撃訓練に向かうことにした。
彼らとは時間をずらして休憩を取っていたルナマリアが目覚め、シンを探しに来たのは、こうして2人が射撃場にいる時だった。
どうも弾が散りがちになるシンが「調子悪いな」と呟くと、レイが銃を見て、弾を変えてみるようアドバイスをくれた。
アカデミー時代から射撃の腕はレイの方が格段に上なのだが、例えば迷路の中を逃げながら、遭遇する教官たちが扮した敵を倒すような実戦的なサバイバル訓練では、シンの成績はずば抜けていた。
時に銃を使わずに格闘でも敵を倒してしまうものだから、教官からはよく「ちゃんと銃を使え!」と怒られたものだ。
さらにグルーピングのデータを計算している時、シンの眼に防弾ガラスの向こうで手を振っているルナマリアの姿が映った。
シンは銃を置き、レイに「少し待て」と合図してから彼女の元にやってきた。
「なに?休憩終わったの?どうした」
寝過ぎて寝癖がついてるぞと、彼女がいつもこだわってふんわりと立ち上げている前髪をポンと潰してからかうと、ルナマリアは「やめてよ!」とシンの手を払って怒る。
「『なに?』じゃないわよ、もう」
その後もなんとなくルナマリアはおかんむりだった。
「やっと休息になったのに、何でいきなり射撃訓練なの?」
「だって、俺もう寝たし…レイもやるって言うから」
「ふーん。あ、そ」
シンは、素っ気無く言ってすたすたと歩き出した彼女の後に続いた。
「日々の訓練は大事だろ。ルナもやるか?教えてやるよ」
そう言ってから「レイがね」と付け足したシンに、ルナマリアは思わずぷっと吹き出してしまった。
「へーえ…おちこぼれの彼女をレイに押しつける気?」
「やっと笑った」
いつものように笑ったルナマリアを見て、シンは嬉しそうだ。
そんなシンの顔を見てしまうと、ルナマリアもいつまでもヘソを曲げているわけにはいかなかった。
「あのね、ちょっと話したいと思ったの」
「何を?」
2人は足を止め、ルナマリアがウィンドウのヘリに腰掛けて言った。
「あの時は、バタバタしてたから…アスランとメイリンのこと」
「ああ…」
そういえばそうだった。シンはウィンドウに手をついて彼女を見た。
「生きてたんだなって思うと、私も何だか落ち着かないけど…」
メイリンが生きていた事は正直、嬉しい。
「アークエンジェルにいる事が捕虜としてなのか、スパイのアスランと共に逃げたからなのかはわからないし…」
(…スパイ…か)
シンはルナマリアのその言葉に、ぐっと黙り込んだ。
「シンは…アスランと戦ったのよね…?」
「ああ。フリーダムとあいつは、俺たちの前に立ちはだかった」
「それって…オーブを…守るため?」
「なぁ、ルナ。あいつの事はもう気にするな」
シンは急に沈んだ表情を見せたルナマリアの隣に座ると言った。
「確かに、殺したはずのヤツが生きてた事には俺も驚いたけど…でもあいつは、ジブリールを匿ったオーブを守ってたんだ」
それが結果的に、今回の大きな惨事の原因になった事は明白だった。
「俺が…あいつらの言葉なんか聞かなければ…ジブリールを確保できていれば…」
シンは右手の拳を握り締めて左手の掌をパシっと殴った。
(フリーダムを…オーブを討てなかった。アスランを…討てなかった…)
「俺の責任だ。俺の甘さと弱さが、プラントの人たちを殺した」
シンの自分を律する厳しい言葉に、ルナマリアはびくっと体を震わせた。
「それは、私だって…」
「だから俺たちは、もう迷っちゃいけないんだ」
「シン…」
「俺たちザフトの仕事は、プラントを守ることだ。そうだろ?」
ルナマリアはそれを聞き、やがて力強く頷いた。
「わかってる。私も、戦うって決めたんだもの」
「よし」
それを聞いて頷いた後、シンは少しいたずらっぽく言った。
「じゃあ軍人らしく、さっそく訓練しよう」
「…え?」
「ほら、アカデミートップのレイが親切丁寧に教えてくれるってさ」
シンが指差すと、そこには律儀に残弾を全て撃ち終ってからシンを追ってきたレイがいた。
(やぶ蛇だった)と思いながらルナマリアはシンに引っ張られ、レイもまた(教えるのは俺か)とややうんざりしながら射撃場に連れ戻される羽目になった。
「進入角良好。アプローチ正常」
その頃アークエンジェルはといえば、オーブやスカンジナビアも建造に関わった中立の月居住区・コペルニクスに到着していた。
チャンドラとミリアリアが管制からのデータを伝達し、ノイマンとキラが着艦準備を進めていく。
「アークエンジェルは7番スポットへ進入せよ」
「こちらアークエンジェル、了解。7番スポットへ進入する」
月の引力に引かれ、軽い衝撃を感じて艦が止まると、皆ほーっと息をついた。
入国審査が終わると、月に駐留する第2宇宙艦隊の司令がわざわざ出迎えにやってきた。准将であるキラは、艦長のマリューや副長のアマギ、ネオ、ノイマン、チャンドラらブリッジ要員と共に挨拶し、今後の予定とアークエンジェルの任務について彼らと確認しあった。
「遠路はるばるようこそ。ヤマト准将」
「アスハ代表より、月艦隊の皆さんによろしくと伝言を承っております」
ミリアリアは地位の高い人々を相手にきちんと挨拶しているキラを見ながら、今の彼女を、トールやフレイが見たらなんと言うだろうかと思っていた。
(皆、こうやって変わっていくんだわ…変わらないものを持ちながら)
通信を送るたびに、自分も行きたかったと嘆くサイに、知らせてあげよう。
私たちは皆、辛かった過去を礎にして前に進んでいくんだねって。
(ねぇトール…だから、もし私がこれから前に進むんだとしても、あなたのこと、あなたがくれたたくさんのことを忘れるわけじゃないの)
ミリアリアは明るく楽しかった遠い日々を想い、微笑んで瞳を閉じた。
(大好きだったあなたのこと、忘れたりしない…絶対に)
キラが司令官として艦隊司令部と折衝を行っている間、アスランはラクスが宇宙に上がって以来、ダコスタやヒルダたちにプラントで調べさせていた様々なデータを見せてもらい、メイリンと共に同時期のザフト側の視点からそれを洗い直す作業を行っていた。
「ジン・ハイマニューバ2型の取引が行われたのはどこなの?」
アークエンジェルのブリーフィングルームに映し出された、かつてエターナルでラクスがキラやバルトフェルドに見せた闇取引の現場画像を見ながら、アスランはラクスに尋ねた。
「最も開発が遅れていて、人口が少ないディセンベルフォーだと思う」
それを聞いてデータを打ち込んでいたメイリンが何気なく言った。
「じゃ、今はもう証拠は何もないんですね?」
「そう…レクイエムによる破壊に巻き込まれたプラントだからね」
アスランは何も言わなかったが、ラクスが何を言わんとしたか悟った。
だがそれもまた憶測に過ぎない。
(全ては慎重に判断しなければならないわ)
ラクスはそんなアスランを見て、もう一度モニターに視線を戻した。
一方メイリンは、自分のデータも含まれているアカデミーの遺伝子によるセレクションデータを、系統立てて整理していた。
血液による簡単な検査のみで遺伝子を割り出し、適性を見る。
他にも知能、身体能力、直観力など、後天的・環境的な因子で後に身につく能力も参考にはしているが、遺伝子によるところのセレクトが圧倒的に強かった。
能力レベルにはレイやシンを超えるポテンシャルを示すものもあり、女性と男性の性差があるにせよ、能力的にはほとんどにおいて姉より優れていた自分が、遺伝子による「NO」だけでパイロットコースへの道を閉ざされていた事は、やはり衝撃だった。
(こんな風に可能性を閉ざされてしまうなんて…僕は一体…)
コンプレックスに苛まれた数年間の想いと、否定された悔しさが滲む。
「アスラン」
「何?」
やがてラクスが、自分が居合わせたアーモリーワンの強奪事件について調査する事に夢中になっているアスランに声をかけた。
(カガリは直前までアーモリーワンに向かう計画を明かさなかった)
もし本当にあの襲撃がすべて議長の計画のうちだったのなら、彼にとって一番予想外だったのはアスハ代表のお忍び訪問だったはずだ。
(なのに敢えて訪問を受けたのは、強奪をカガリに見せるため?それとも…)
返事をした割には話を聞く気がなさそうなアスランに呆れ、ラクスは言った。
「キラが戻ってきたら、ちょっと街に出かけたいんだけど」
「…は?」
アスランは思わず手を止めて彼を見た。
「何言ってるの?」
「護衛は手馴れたものだろ」
ラクスがニッコリと笑って言ったので、アスランも顔色を変えた。
「自分から危険に飛び込む人の護衛なんかしないわ!」
呆れ顔のアスランを見ても、ラクスはどこ吹く風だ。
「僕はコペルニクスは初めてだから、楽しみだな」
「ラクス!冗談は…」
「キラもアスランも、小さい頃月に住んでたから詳しいんだよね?」
メイリンは噛みあわないおかしな問答を続ける2人を見ながら、(キラさん、早く帰ってきてくれないかなぁ)と思っていた。
気だるそうに眼を開けたミーアは、時計を見て、再びそれを置いた。
地球の標準時間に合わせて輝く人工太陽は既に昼過ぎの明るさであり、 ベッドの周りは昨日の騒ぎを物語るように乱雑だった。衣服やシーツが散乱し、空になった酒瓶が転がっている。電子ドラッグのやり過ぎでぼうっとした頭で、ミーアはソファや床のクッションにもたれて眠る、ほとんど裸の女の子たちを見つめた。
テーブルの上には手つかずのままルームサービスの朝食が乾いている。
リゾートホテルの一室は豪華で華々しいが、彼の心は一向に晴れなかった。
(なに、心配はいらないさ)
ジブラルタルで最後に会って以来、議長からは音沙汰がない。
(決して悪いようにはしないよ。きみの働きには感謝している)
本当は不安でたまらないが、今は柔和で優しそうな彼の笑顔を信じるしかない。
こんな風に、常人なら1泊もできないような豪華なホテルに泊めてくれるのも、ほとぼりが冷めるまでゆっくり休んでいていいという議長の配慮なのだろうと…
(そうだよ、だって僕…あれはみんな僕なんだ…)
「僕は、ラクス・クラインです」
凛としたラクスの表情を思い浮かべ、ミーアは思わず拳を握り締めた。
(あの人じゃない。僕がやったんだ、全部!)
核を撃たれて動揺し、怒るプラントの人々の気持ちをなだめ、ザフトの兵たちの士気を高め、議長の言うとおり演説をして…誰もが僕の言葉に頷いて、僕を見れば手を振った。
ラクス様、ラクス様と、笑顔で僕の名前を読んだ。
(皆が愛したラクス・クラインは、僕なんだ!)
「あなただって、ずっとそんなことをしていられるわけないでしょう?」
突然アスランの声が頭に響き、ミーアはびくっとする。
「そうなればいずれあなただって殺される…だから一緒に」
あれほど望んだ、美しい彼女の優しい笑顔と差し伸べられた手…
(だけどアスランは死んだ!あいつに…シン・アスカに殺された!)
ミーアは両腕で眼を覆った。恐ろしいほどの赤い瞳で人を睨みつける、あいつの手で…
あの時アスランと一緒に行っていたら、僕だって死んでいたかもしれない。
(だからあの選択は間違っちゃいない。間違っちゃいなかったんだ!)
そう思い込もうとするミーアの口から、小さなうめき声が漏れた。
「ラクス様?」
それを聞き、隣で眠っていたはずのサラが彼に声をかけた。
「どうなさいましたの…悪い夢でもごらんになりまして?」
彼女は静かに囁き、ミーアの頬を撫でてそっと口づけをした。
「いや…」
美しく魅惑的な彼女が「そうですか。よかったですわ…」と言いながら優しく微笑んだので、ミーアはたまらなくなってそのまま彼女に覆いかぶさった。
アスランの事も議長の事も、もう何も考えたくなかった。
「あの…きみ…」
「はい?」
荒い息が収まると、ミーアは彼女を腕に抱いて尋ねた。
「議長からはまだ何も?」
「はい、残念ながらそれは…」
サラは手早く後始末をすると、彼の体にシーツをかけながら答える。
「でも仕方ありませんわ。今プラントは本当に大変ですもの。それはラクス様もよく御存じでしょう?」
彼女は甘えるように彼に囁いたが、欲望が満たされてしまったミーアはすっかり気持ちが冷め、やや邪険な口調で答えた。
「ああ、わかってる。そんなのわかってるよ。でも…」
「本当に今はまだいろいろと情勢が難しいのです」
彼女はミーアの気持ちをなだめようと穏やかに言った。
「コペルニクスにも先刻、アークエンジェルが入港したという話ですし…」
彼女の言葉に、ミーアは驚いて聞き返した。
「…アークエンジェル?」
ミーアは聞き覚えのあるその名を反芻し、そしてラクスの言葉を思い出した。
そういえば本物のラクスは、自分は「アークエンジェル」と共にあると言っていた。
「ええ。どういうことでしょうね?こんな時に月に上がってくるなんて」
ミーアの複雑そうな表情を見て、サラはふっと微笑んだ。
「やはり、あの方も一緒なのでしょうか?」
「え?」
やや上の空だったミーアがその言葉を聞いて思わず彼女に眼を向けた。
「オーブにいると言っていたあの方…あなたによく似た、ニ・セ・モ・ノ…」
耳元で囁かれ、ミーアはゾクリと総毛立つ。
「ふふ。本当に困ったものですよね、あの方にも」
彼女は彼に濃密なキスをしながら、呟くように続けた。
「あれではせっかくの議長の努力も台無しですわ。何故あんなことをなさるのかしら…ラクス様って、本当はそういう方ではありませんでしょ?」
「ぼ…くは…」
耳触りのいい心地のよい言葉が、ミーアの思考を奪っていく。
「ラクス様という方は、常に正しく平和を愛し、けれども必要な時には私たちを導いて共に戦場を駈けてもくださる…そんなお方ですもの…」
「あ、うん…」
ミーアはその通りだと思う。
そんな彼だからこそ、自分も憧れたのだ。
そうなりたいと、そうありたいと思いながら彼の影武者を演じてきた。
「だから、私たちもお慕いするのです」
彼女はミーアの体にゆっくりと手を這わせながら、甘い声で囁き続けた。
やがて明るい色の髪がはらりと頬にかかり、いつの間にかサラが自分を上から見下ろしていることに気づいた。
「心から…」
「…うぁ」
ミーアは快感のあまり思わず身をよじり、再び彼を受け入れた彼女を力一杯抱き締めた。
「そうでないラクス様なんて…それは嘘ですわ…」
「…嘘?」
とろんとした眼を虚空に放ちながら、ミーアはその言葉に反応した。
(…嘘…偽り…本物…偽者…僕は一体…)
「私は開戦の折からずっと議長のお側で頑張ってくださった方こそが、本当のラクス様だと思っておりますわ」
「…きみ…きみ…は?」
―― 知っている?僕が本物ではないことを…偽者だと…
しかしそれ以上考える事ができず、彼はさらに激しく昂ぶる快楽に飲み込まれていった。
「サラとお呼びくださいな…ラクス様。お力になりますわ」
ミーアはもうそれ以上は答えられず、上になったサラに成されるがままだった。
「今はそうでなくては皆困るのですから。そうでしょう?ラクス様。あなたはなくてはならない方…必要な方なんです…私たちにとって…」
すぐに果ててしまった彼を愛しげに抱き締めながら、サラはミーアの汗で濡れた髪を掻き上げた。
「さあ…もう少しお話しましょう。きっと良い考えが浮かびますわ」
にっこり笑った彼女は、実に美しかった。
「あなたこそが真のラクス・クラインとなるための、ね…」
「随分と久しぶりだよ、外へ出るのは。もう何ヶ月も艦の中で」
「…」
ラクスが嬉しそうに言っても、アスランは相変わらず仏頂面だった。
2人のズレまくった外出論争は決着がつかず、結局キラが戻ってきて両者の言い分を聞いた上で、マリューとも相談して結論に至った。
「大体、司令官のあなたまで艦を離れていいと思うの?」
私服に着替えたアスランが腰に手を当てて怒ると、キラはまぁまぁとなだめた。
「ラクスだってずっと閉じ込められたままじゃ可哀想でしょ?」
アスランは「時期が時期だから仕方ないわ」と主張したが、正論が通らない。
「大丈夫よ、アスランさん。こちらにはネオもいるし、オーブ艦隊もいるし」
「そういう問題では…」
マリューまでもがキラたちに味方するのだからアスランの旗色は悪い。
「行って来いよ、べっぴんさん。あんたも少し、肩の力を抜かないとな」
ブスッとしてたら美人が台無しだぜと続けたネオの言葉が、これまたあまりにもムウらしくて、ミリアリアやチャンドラ、ノイマンたちはくすくすと笑った。
「じゃ、行ってきます、ラミアス艦長」
キラがそう言いながら艦長に目配せした事には気づかず、まだむっつりしているアスランは無言でエレカを発進させた。 車にはメイリンも乗っている。
「メイリンも行ってくれるでしょ?」
そうキラに頼まれ、「僕もですか?」と驚いたが、キラからこっそり「私、射撃全然ダメだから」と言われてはついていかざるを得ない。
(フリーダムをあれだけ操る人が射撃がダメって…)
そのギャップに驚きつつ、メイリンは支給された護衛用の銃をしまった。
(姉さんも射撃はホントにダメだけど…キラさんもそれくらいダメなのかな?)
「本当にいいのか?奴らだけで」
彼らが行ってしまうとネオが振り返った。
「ええ、大丈夫よ」
マリューは何か思うところのあるような表情で頷き、アマギにブリッジを頼んで艦長室に戻りかけた。
司令官であるキラにも仕事は多いが、久々にやってきた月周辺宙域の把握など、艦長にとってもやる事は山積みだ。
「いや、そうじゃなくて…あんたはいいのか?」
そのまま廊下まで追いかけてきたネオが聞く。
「え?」
「ちょっと外の空気吸いたいって言うなら、喜んでお伴しますけど?」
マリューはネオのデートのお誘いに思わず立ち止まって振り返る。
「ずっと艦の中じゃ、あんただってきついだろ?大変な立場だし」
「うふ、ありがとう。でも大丈夫よ、私はここで」
それに…マリューはネオに言った。
「あなたには、艦にいてもらわないと困るのよ」
意味はわからなかったが、その言葉に気をよくしたネオはにっと笑った。
「そう。じゃ、取り敢えず今は艦内をエスコート」
「はぁ?ちょっと…」
そのまま彼に腰を抱かれて引き寄せられたマリューは驚いた顔だ。
「あ、お風呂入んない?一緒に」
「な…何か、やっぱり別人なんじゃない?」
慌てるマリューを見て可笑しくなり、ネオは「そう?」とおどけた。
「どこへ行くの?」
「うーん…とりあえず、お茶でも飲もうか」
車を停めたアスランが相変わらず不機嫌そうに聞くと、ラクスは答えた。
「あ、ほら、あのオープンテラスのカフェは?」
「ダメ。狙撃されやすいから」
「あのビルの店は?」
「窓が大き過ぎるわ」
こうしていても、アスランは既に数人、怪しげな人物が街中からラクスをじっと監視していることに気づいていた。
全員銃を持ってはいるが、今のところはただ見張っているだけのようだ。
(2人のラクス・クラインの事件は、全世界に放映されたんだもの…こんな時に出歩けばどうぞ狙ってくださいと言わんばかりだわ)
ますます不機嫌になるアスランには全く構わず、ラクスはのんびり言う。
「じゃ、どこが安全なの?」
「アークエンジェル」
「あはは、戻るのはいやだなぁ」
真顔のアスランの答えが心底面白かったかのようにラクスが笑う。
ラクスは帽子やメガネで変装してはいるが、それは見る人が見ればすぐにラクスだとばれてしまう程度のものだった。
(大体、目立ちすぎなのよ)
アスランは地味にしていても派手さが抜けないラクスを見て思う。
「大体、目立ちすぎなんだよね」
「あの2人が一緒にいるのが間違いですよ」
キラとメイリンは不毛な会話を続けている2人の後ろで、ただでさえ容姿端麗な彼らが、周りの注目を浴びている事に全く気づいていないことに呆れていた。
中には2人があまりにもお似合いだと思うのか、勝手に写真を撮る人までいるので困る。
「アスランさん、自分も目立ってるって全然気づいてないですね」
「うん。困ったなぁ。とにかく、どこか屋内で話をさせよう」
キラはきょろきょろと辺りを見回し、何かを見つけたように頷いた。
「アスラン、ラクス、あの店にしよう」
キラは小さな入り口の店を目指して歩き出し、3人は続いた。
彼らが席に着くと、近くに座っていた家族連れの子供たちが、キラの肩にとまっている可愛らしいトリィに興味を示した。
キラがトリィを指に乗せて「はい」と渡すと、子供たちは照れたように笑う。
トリィは彼らのテーブルを飛び回り、愛らしいその仕草や鳴き声で子供たちを喜ばせた。
「テヤンデーイ!ミトメタクナイ!」
「ヤキモチ妬かないの、ハロ」
ラクスがパタパタと跳ねまわるハロをなだめる。
「そんなに怒んないでよ、アスラン」
アスランがさっそく店の外から見張られている事に不快感を感じていると、キラが苦笑しながら呟いた。
「怒ってないわ。ちょっと呆れてるだけ」
(同じじゃないか)
キラは肩をすくめる。
やがてそれぞれが頼んだものが出てくると雰囲気が和らいだ。
キラはラクスとメイリンに、10年以上前にこのコペルニクスで自分たちが出会ったのだと話している。
だがキラの記憶はところどころいい加減なので、アスランはそのたびに訂正をしなければならなかった。
一緒に風呂に入って遊びすぎ、のぼせて眼を回したのがキラではなくアスランだったと勝手に記憶がすり替わっていたりするので困るのだ。
「もう、怒ってばっかり」
「怒ってないってば」
アスランに訂正ばかりされるキラが辟易して言うと、ラクスも笑った。
「そうだよ。アスランも、せっかくのデートなんだからもっと笑って」
「…誰と誰がデートですって?」
僕たち全員がさと嘯くラクスに、アスランはますます呆れる。
(このズレっぷり…やっぱり誰かさんに似てるわ)
楽しそうに笑っているラクスを見ながら、その彼にそっくりなミーア・キャンベルを思い出し、アスランは頬杖をついた。
食事だのドライブだのとそれこそ強引に「デート」に誘い、挙句の果ては夜這いまでしてきたミーア…能天気に自分に迫ってきた彼を思って溜息をつき、それから、役割を失った彼は今、どこでどうしているのだろうと思いを馳せた。
いつものように1人で物思いに沈んでしまったアスランは、ラクスが自分を見つめていることには気づかなかった。
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制作裏話-PHASE46①-
本編では「わがままラクスのお買い物♪」と「ミーアのくるくる死のダンス」だったPHASE46です。
この話は、前回が大きな犠牲を出したレクイエム発射事件の決着と、種のメインキャラであるカガリが地球に残り、キラたちが宇宙に上がるという決意の物語だったにもかかわらず、次の週にはただキャラが遊んでいるだけという展開のバカバカしさが、当時も多くの視聴者の怒りを買いました。
ミーア・キャンベルの死も悲しいとか悲劇とか言うより、あまりにも予定調和すぎてシラけさせましたしね。
しかもこの次のPHASEでは、本編で主人公(言って置きますがキラじゃないですよ!種デスの主人公はシンですよ!)とはほぼ何の絡みもなかった彼女の「追悼と回想」というわけのわからない展開に、何度も何度も裏切られてきた視聴者をまたしても裏切るのです、制作陣は。どこまで人を踏み躙れば済むのかと思いましたよ、本当に。もちろんシンの出番もこのあたりはほとんどなくなります。
逆転を書くにあたって、このPHASEはまず、次のPHASE47を大きく改変するつもりで構想しています。
PHASE47はミーアの回想回などではなく、私が逆転を書こうと思ったもう一つの理由である、「ラクスの自覚と負うべき責任」を描くつもりでした。
なのでこのPHASE46では、物語上辻褄が合わなかったり、おかしいなと思わせる点が多々あると思います。
たとえばキラが、反対するアスランをなだめてラクスの外出を促すことや、マリューがネオに「艦にいてもらいたい」と言うセリフ、たまたま知り合った親子の子供が人質にとられた…という割には、その脅迫がラクス自身に届いていない点、アリーナにダコスタたちが現れる点など、本編とは全く違う展開を見せているのは、本編に準拠した物語を進めながら施した私の「仕掛け」であり、全ては次のPHASE47で明かされていきます。
何より私は、PHASE45で本当は一緒に行きたいと願いながらも、国を統べる責任を果たすため愛する者や大切な友たちを見送らなければならなかったカガリの想いを全く顧みることなく、遊び呆けていた本編のラクスたちが許せませんでした。だって何か目的や狙いがあってああいう事をしてたならいいですよ?でも違いました。本当に遊んでいただけだったんですよね、本編って。
なので逆転では、ラクスはまさに「目的を持って外出した」という設定にしたのです。
ラクスは自分を囮にしてサラの動きを扇動し、彼女の足取りをずっと追えずにいたダコスタに網を晴らせていたのです。そのためPHASE39で「彼女の存在すら掴めないのはおかしいですよ」とダコスタに言わせ、ここで彼らの因縁を利用する伏線にしていました。
この計画を知らされていないのはアスランとメイリンだけだったので、アスランは至極真面目にラクスと口論し、2人とも彼を守ろうと奮闘することになります。
一方本編でもほとんど出番がなく、なぜか不機嫌なルナマリアにきょとんとするだけだったシンですが、出番はなくとも逆転ではちゃんと主人公らしいシンを描いてみました。
基地を制圧した後、ローラン隊の到着までは現場保全のため哨戒を続けているシンは、アスランやカガリの言葉を思い出します。彼らはこの後、再びシンの前に立ちはだかる事になりますから、ここでは戦争が終わった事と、その直後のシンの心の中を描写しておく必要があります。特に彼が「過去に囚われている」ということを自覚しなければアスランの言葉は永遠にシンの心には届きませんからね。さらに、既に歩き出したカガリの言葉も重要なファクターになります。私は回想という演出方法はこうやって使うものだと思うんですがねぇ…
シンがレイと共に射撃訓練をするのは本編と同じですが、ルナマリアの機嫌を直し、アスランの事を気にするのはよせというのは創作です。そしてシンが今回の惨事に深く責任を感じている事と、自分の立ち位置について今一度語らせています。こういう描写があるだけでも、「レイに引きずられ、自分の考えもないまま議長の言うなりで戦った主人公」などと言われずに済んだのでは?と思うんですけど。
シンとルナマリアについてはこの後考えるところがあったので、こういう会話をさせています。さらに、なぜか本編では何の根拠もなく(まぁ多分『邪魔だ』発言なんでしょうけど…)ルナマリアとレイの仲が険悪になっているのが納得いかなかったので(逆転では既にPHASE45で修復してあります)、シンが間に立って「ヘタクソなルナマリアの射撃始動を、優等生のレイに押し付ける」という、仲のいい仲間ならではのエピソードにしてみました。
さて、本編ではここにシン贔屓やアンチキラの視聴者を憤らせた会話シーンがありましたが、私の一存でバッサリと削らせてもらいました。
アスラン「でも、あの時は正直驚いたよ。おまえがシンにやられるとは思ってなかったからな」
キラ「あれは僕もザフトと戦っていいのかどうか迷ってたから…カガリもいて何とか逃げ切りたいって思ってて」
アスラン「アークエンジェルも討たれて、本当、驚いたよ」
UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!
何この負けたのはボクが「本気じゃなかったからね♪」といわんばかりのセリフ!
ふざけんじゃねーよと言いたいでしょう。
第一シンの事を聞くなら、キラはもうとっくにカガリから聞いていて然るべきなんですよ。だってカガリとのオーブ戦に関するいざこざの方がキラと関係するんだから。
そしてもっとイヤだったのはとってつけたようなアスランのセリフですよ!
アスラン「議長やレイが厄介なのはそこなんだ。話してると、彼らの言うことは本当に正しく聞こえる」
キラ「だよね。それはわかる。実際正しいんだろうし」
アスラン「シンもそこから抜け出せないんだ、おそらく。あいつも夢があって、そのために頑張る奴だから」
キラ「そっか」
な~~~にが「夢があってそのために頑張るヤツ」だよっ!おまえがシンをそんな風に認めたり導こうとした事があるかと聞きたいわ!何にもしてないのにこのセリフ、本当に腹が立ちますよ。おめーがしたのは逃げた事だけだろうがよ。
もうね、本当に許せなかったので全部削りました。いらんわ、こんな会話!ふんっ!!
大体本編ではこの間、月のオーブ艦隊の司令官が出迎えているのに、マリューたちブリッジクルーしかいないんですよ。おいおい、仮にも准将のキラがそこにいないでどうするんだと。おまえら部屋でホモホモしてんじゃねーよと。
なので逆転では司令官であるキラがきちんと挨拶をしているとしました。そんなキラの様子を見たミリアリアもまた、皆、少しずつ辛かった過去から未来へと歩き出したと実感します。未来へ向かう事は、トールを忘れる事じゃない…そう思えるようになった事で、彼女もまた、新たな道を歩み出していることを描写しています。そしてこれもまた、彼女の未来を示唆する最終回への伏線ですね。よかったね、ディアッカ。
そしてその間、ラクス、アスラン、メイリンは、ラクスが集めた情報を整理しています。まさに「情報収集の任に就く」事を実践し、プラントに「調べに」行ったラクスも、ちゃんとその成果を出しているわけです。メイリンは自分が施された遺伝子セレクションのデータ整理を、アスランはアーモリーワンでの強奪事件から一連の事件についての情報により、ようやく全貌を知る事になります。ザフトにいた彼女はラクスたちには見えない視点が見えるわけですから、これによって両者の視点から事件を多角的に分析する事ができます。こういうシーンを入れ込むだけでも彼らが「議長と戦う」と決めるに至る根拠を少しでも強化できると思うんですよ。
それと同時に、とんでもないタヌキであるデュランダルは生贄たちの死を悼み、将官たちに「二度とこんな事のない世界を創らなければ…」と次の計画段階に移ることを示唆しています。でもこれは未だに明かされないんですよね。ホント、制作進行と構成の失敗は明らかです。
アスランとラクスは微妙な関係だった本編と違って「信頼しあえる友人関係」ですから、「噛みあわない不毛な会話」を繰り返します。キラとアスランはコペルニクスに住んでいて、そこで出会ったんですからむしろそういうエピソードでも入れればいいのにと思ったのに何もなかったので、ラクスのセリフや後のシーンで少し入れ込んでみました。
ミーアについては少し色気のあるシーンですが、別にBPOに遠慮する必要もないので女に骨抜きにされる彼の姿を描いてみました。地球軍の高官どもから情報を搾り取って見せたサラは任務上性戯に長けているはずなので、若僧を悦ばせることなど造作もないはずです。酒や電子ドラッグや女によって徐々に心を侵食されていくミーアにとっては、もう一度ラクス・クラインとして脚光を浴びられればもはやそれ以外はどうでもよく、サラにとっては本物のラクス・クラインを始末できれば御の字なのです。
アスランは2年間に渡ってカガリの護衛をしていたのですから、ラクスの護衛も当然経験に基づいて行います。店に入った彼らはトリィを介して隣の席の親子とコミュニケーションを取り、昔話に花を咲かせます。ラクスが冗談で言った「デート」という言葉に憤慨したアスランは、ふと図々しかったミーアを思い出します。役割を失った彼は今どうしているのか…そんなタイミングでサラたちの計画が動き出す、としてみました。
この話は、前回が大きな犠牲を出したレクイエム発射事件の決着と、種のメインキャラであるカガリが地球に残り、キラたちが宇宙に上がるという決意の物語だったにもかかわらず、次の週にはただキャラが遊んでいるだけという展開のバカバカしさが、当時も多くの視聴者の怒りを買いました。
ミーア・キャンベルの死も悲しいとか悲劇とか言うより、あまりにも予定調和すぎてシラけさせましたしね。
しかもこの次のPHASEでは、本編で主人公(言って置きますがキラじゃないですよ!種デスの主人公はシンですよ!)とはほぼ何の絡みもなかった彼女の「追悼と回想」というわけのわからない展開に、何度も何度も裏切られてきた視聴者をまたしても裏切るのです、制作陣は。どこまで人を踏み躙れば済むのかと思いましたよ、本当に。もちろんシンの出番もこのあたりはほとんどなくなります。
逆転を書くにあたって、このPHASEはまず、次のPHASE47を大きく改変するつもりで構想しています。
PHASE47はミーアの回想回などではなく、私が逆転を書こうと思ったもう一つの理由である、「ラクスの自覚と負うべき責任」を描くつもりでした。
なのでこのPHASE46では、物語上辻褄が合わなかったり、おかしいなと思わせる点が多々あると思います。
たとえばキラが、反対するアスランをなだめてラクスの外出を促すことや、マリューがネオに「艦にいてもらいたい」と言うセリフ、たまたま知り合った親子の子供が人質にとられた…という割には、その脅迫がラクス自身に届いていない点、アリーナにダコスタたちが現れる点など、本編とは全く違う展開を見せているのは、本編に準拠した物語を進めながら施した私の「仕掛け」であり、全ては次のPHASE47で明かされていきます。
何より私は、PHASE45で本当は一緒に行きたいと願いながらも、国を統べる責任を果たすため愛する者や大切な友たちを見送らなければならなかったカガリの想いを全く顧みることなく、遊び呆けていた本編のラクスたちが許せませんでした。だって何か目的や狙いがあってああいう事をしてたならいいですよ?でも違いました。本当に遊んでいただけだったんですよね、本編って。
なので逆転では、ラクスはまさに「目的を持って外出した」という設定にしたのです。
ラクスは自分を囮にしてサラの動きを扇動し、彼女の足取りをずっと追えずにいたダコスタに網を晴らせていたのです。そのためPHASE39で「彼女の存在すら掴めないのはおかしいですよ」とダコスタに言わせ、ここで彼らの因縁を利用する伏線にしていました。
この計画を知らされていないのはアスランとメイリンだけだったので、アスランは至極真面目にラクスと口論し、2人とも彼を守ろうと奮闘することになります。
一方本編でもほとんど出番がなく、なぜか不機嫌なルナマリアにきょとんとするだけだったシンですが、出番はなくとも逆転ではちゃんと主人公らしいシンを描いてみました。
基地を制圧した後、ローラン隊の到着までは現場保全のため哨戒を続けているシンは、アスランやカガリの言葉を思い出します。彼らはこの後、再びシンの前に立ちはだかる事になりますから、ここでは戦争が終わった事と、その直後のシンの心の中を描写しておく必要があります。特に彼が「過去に囚われている」ということを自覚しなければアスランの言葉は永遠にシンの心には届きませんからね。さらに、既に歩き出したカガリの言葉も重要なファクターになります。私は回想という演出方法はこうやって使うものだと思うんですがねぇ…
シンがレイと共に射撃訓練をするのは本編と同じですが、ルナマリアの機嫌を直し、アスランの事を気にするのはよせというのは創作です。そしてシンが今回の惨事に深く責任を感じている事と、自分の立ち位置について今一度語らせています。こういう描写があるだけでも、「レイに引きずられ、自分の考えもないまま議長の言うなりで戦った主人公」などと言われずに済んだのでは?と思うんですけど。
シンとルナマリアについてはこの後考えるところがあったので、こういう会話をさせています。さらに、なぜか本編では何の根拠もなく(まぁ多分『邪魔だ』発言なんでしょうけど…)ルナマリアとレイの仲が険悪になっているのが納得いかなかったので(逆転では既にPHASE45で修復してあります)、シンが間に立って「ヘタクソなルナマリアの射撃始動を、優等生のレイに押し付ける」という、仲のいい仲間ならではのエピソードにしてみました。
さて、本編ではここにシン贔屓やアンチキラの視聴者を憤らせた会話シーンがありましたが、私の一存でバッサリと削らせてもらいました。
アスラン「でも、あの時は正直驚いたよ。おまえがシンにやられるとは思ってなかったからな」
キラ「あれは僕もザフトと戦っていいのかどうか迷ってたから…カガリもいて何とか逃げ切りたいって思ってて」
アスラン「アークエンジェルも討たれて、本当、驚いたよ」
UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!
何この負けたのはボクが「本気じゃなかったからね♪」といわんばかりのセリフ!
ふざけんじゃねーよと言いたいでしょう。
第一シンの事を聞くなら、キラはもうとっくにカガリから聞いていて然るべきなんですよ。だってカガリとのオーブ戦に関するいざこざの方がキラと関係するんだから。
そしてもっとイヤだったのはとってつけたようなアスランのセリフですよ!
アスラン「議長やレイが厄介なのはそこなんだ。話してると、彼らの言うことは本当に正しく聞こえる」
キラ「だよね。それはわかる。実際正しいんだろうし」
アスラン「シンもそこから抜け出せないんだ、おそらく。あいつも夢があって、そのために頑張る奴だから」
キラ「そっか」
な~~~にが「夢があってそのために頑張るヤツ」だよっ!おまえがシンをそんな風に認めたり導こうとした事があるかと聞きたいわ!何にもしてないのにこのセリフ、本当に腹が立ちますよ。おめーがしたのは逃げた事だけだろうがよ。
もうね、本当に許せなかったので全部削りました。いらんわ、こんな会話!ふんっ!!
大体本編ではこの間、月のオーブ艦隊の司令官が出迎えているのに、マリューたちブリッジクルーしかいないんですよ。おいおい、仮にも准将のキラがそこにいないでどうするんだと。おまえら部屋でホモホモしてんじゃねーよと。
なので逆転では司令官であるキラがきちんと挨拶をしているとしました。そんなキラの様子を見たミリアリアもまた、皆、少しずつ辛かった過去から未来へと歩き出したと実感します。未来へ向かう事は、トールを忘れる事じゃない…そう思えるようになった事で、彼女もまた、新たな道を歩み出していることを描写しています。そしてこれもまた、彼女の未来を示唆する最終回への伏線ですね。よかったね、ディアッカ。
そしてその間、ラクス、アスラン、メイリンは、ラクスが集めた情報を整理しています。まさに「情報収集の任に就く」事を実践し、プラントに「調べに」行ったラクスも、ちゃんとその成果を出しているわけです。メイリンは自分が施された遺伝子セレクションのデータ整理を、アスランはアーモリーワンでの強奪事件から一連の事件についての情報により、ようやく全貌を知る事になります。ザフトにいた彼女はラクスたちには見えない視点が見えるわけですから、これによって両者の視点から事件を多角的に分析する事ができます。こういうシーンを入れ込むだけでも彼らが「議長と戦う」と決めるに至る根拠を少しでも強化できると思うんですよ。
それと同時に、とんでもないタヌキであるデュランダルは生贄たちの死を悼み、将官たちに「二度とこんな事のない世界を創らなければ…」と次の計画段階に移ることを示唆しています。でもこれは未だに明かされないんですよね。ホント、制作進行と構成の失敗は明らかです。
アスランとラクスは微妙な関係だった本編と違って「信頼しあえる友人関係」ですから、「噛みあわない不毛な会話」を繰り返します。キラとアスランはコペルニクスに住んでいて、そこで出会ったんですからむしろそういうエピソードでも入れればいいのにと思ったのに何もなかったので、ラクスのセリフや後のシーンで少し入れ込んでみました。
ミーアについては少し色気のあるシーンですが、別にBPOに遠慮する必要もないので女に骨抜きにされる彼の姿を描いてみました。地球軍の高官どもから情報を搾り取って見せたサラは任務上性戯に長けているはずなので、若僧を悦ばせることなど造作もないはずです。酒や電子ドラッグや女によって徐々に心を侵食されていくミーアにとっては、もう一度ラクス・クラインとして脚光を浴びられればもはやそれ以外はどうでもよく、サラにとっては本物のラクス・クラインを始末できれば御の字なのです。
アスランは2年間に渡ってカガリの護衛をしていたのですから、ラクスの護衛も当然経験に基づいて行います。店に入った彼らはトリィを介して隣の席の親子とコミュニケーションを取り、昔話に花を咲かせます。ラクスが冗談で言った「デート」という言葉に憤慨したアスランは、ふと図々しかったミーアを思い出します。役割を失った彼は今どうしているのか…そんなタイミングでサラたちの計画が動き出す、としてみました。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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