機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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やがてラクスが時計を見て、そろそろ行こうかと言う。
「どこへ?」
「目抜き通りを少し歩こう」
アスランは危険だからダメだと言ったが、ラクスは取り合わない。
「待って、ラクス!」
「うん。はぐれないように腕を組む?」
それを聞いたアスランが「バカ言わないで」とまた怒っている。
「…大変だね、アスランも」
「本当に」
キラとメイリンはラクスに振り回されるアスランを見ながらしみじみ言った。
「僕、彼らこそプラント理想の2人と聞かされてました」
「私もそう思ってた」
でも、ねぇ…と視線を交わして2人は苦笑しあった。
「現実って、こんなものだよね」
「どこへ?」
「目抜き通りを少し歩こう」
アスランは危険だからダメだと言ったが、ラクスは取り合わない。
「待って、ラクス!」
「うん。はぐれないように腕を組む?」
それを聞いたアスランが「バカ言わないで」とまた怒っている。
「…大変だね、アスランも」
「本当に」
キラとメイリンはラクスに振り回されるアスランを見ながらしみじみ言った。
「僕、彼らこそプラント理想の2人と聞かされてました」
「私もそう思ってた」
でも、ねぇ…と視線を交わして2人は苦笑しあった。
「現実って、こんなものだよね」
人ごみの中心ポイントに着くと、ラクスは今度は少し疲れたからここで休むと言う。
「ならどこか店の中で」と言うアスランの言葉はまた聞いてもらえない。
彼を見張る眼は当然、今までになく多かった。
(ここはまずい…一斉に狙われたら間違いなく蜂の巣になるわ)
ラクスはキラと一緒に広場の真ん中にあるベンチに腰掛け、アスランはメイリンに頼んで周囲の半分を警戒してもらった。
「あの…ラクス様では…?」
しばらくはのどかな昼下がりが続いたが、やがて動きがあった。
近づいてきた女性を見て、アスランもメイリンも上着の下の銃を握る。
「あなたは?」
ラクスはにこやかに、けれど小声で囁くと、キラが「あ…」と言った。
先ほど、カフェでトリィに喜んでいた子供たちを連れていた母親だ。
少し離れたところで、先ほど見た父親が子供を抱いて心配そうに見守っている。
しかし何かがおかしい…キラはラクスに囁いた。
「ラクス、女の子がいない」
「これを…どうか…お願いします…どうか」
彼女は涙を浮かべながら何やら不審な赤い球体を彼に手渡そうとする。
アスランとメイリンが警戒して近づこうとしたが、ラクスは手で制した。キラも指で唇を押さえたので、2人は足を止め、けれど眼は離さない。
ラクスは彼女からそれを受け取ると、震える手にそっと触れた。
「大丈夫ですよ。こちらこそすみません…怖がらせて…」
「すみません…すみません…」
ラクスは小声で「早くここから離れて」と彼女を促す。
そして項垂れて家族のもとに戻る母親を見つめているキラに耳打ちした。
「大丈夫…ちゃんと確保してるから。彼らには悪い事をしてしまった」
ラクスは渡された球体を見つめたが、その眼は今までになく厳しかった。
「頼めるかい、アスラン」
「ええ」
ラクスはアスランにそれを…彼女にも見覚えのある赤いハロを渡した。ちゃちな作りながら、恐らくは爆弾が仕込まれているのだろう。
ラクスはキラを庇いながら、「動かないでね」と言った。
アスランはハロと同じ作りのそれをあっという間にバラしてコアだけにした。
起爆装置は遠隔操作タイプなので、犯人は今もどこかで見ているに違いない。
彼がいつ、気まぐれでこれを爆破しないとも限らなかった。アスランが解除のため慎重に中身を分析していると、メイリンが駆け寄ってきた。
「僕が。アスランさんは念のため、人を遠ざけてください」
「でも…」
「得意なんです、爆弾処理」
急いで!と言われ、アスランは素早く行動に移った。
近くの建物に飛び込むと手当たり次第非常ベルを叩き壊したのだ。
そして「火事です」「爆弾です」「男が銃を乱射しています」と、人々をパニックに陥れそうな言葉を、思いつく限り言いふらした。そうやって人々を扇動し、広場から遠ざけたのだ。
やがてアスランの思惑通り、あたりはあっという間に大騒ぎになった。
一方、メイリンの手技は実に鮮やかだった。
彼はコアをさらに手早く分解すると小さな起爆装置を見つけ出し、信管部分を細い金属の棒で突き刺して、あっという間に分解した。
「どう?」
戻ってきたアスランが聞くと、メイリンは「簡単な構造でした」と見せてくれた。
その判断と素早さに舌を巻いたアスランは、「すごいわ」と呟いた。
「アカデミーでは、シンにもレイにも負けませんでした」
そう言って照れたように笑うメイリンを見て、アスランはふと、同じように爆弾処理が得意で、いつも一番の成績だったのに、誰かが褒めると照れ笑いをしていた心優しい友を思い出した。
「私も…絶対に勝てなかった友人がいたわ」
2人はほっと息をついて笑いあった。
「ありがとう、2人とも。危険な目にあわせてごめん」
ラクスはそう言って立ち上がると、アスランとメイリンの傍に来た。
「でもこれで、手段を選ばない相手だとわかったよ」
そう言いながら携帯タブレットをチェックし、急ごうと彼らを促す。
「ラクス、あなたまだ…!」
アスランは彼のこの外出が一般人まで巻き込みかけたことにさすがに怒りを禁じえなかったのだが、ラクスの表情を見て口をつぐんだ。
彼の顔からは柔和な笑みが消え、厳しく冷静な本来の彼が現れている。
「先回りして、連中の思惑を潰すんだ」
「でも、さっきのは思いっきり罠ですよね?」
非常ベルが鳴り止まず、ますます騒ぎが大きくなってきた広場から足早に立ち去りながらメイリンが言うと、キラも「そうだよ」と頷いた。
「あの人の子供を使って誘き出すつもりだったんじゃないかな」
「うん、爆弾はブラフだろうね。爆発してもよし、解体されてもよし。とにかくこれは脅しじゃないと示したかったんだろう」
ラクスは淡々と語った。
「ラクス、あなた犯人の居場所を知ってるのね?」
黙っていたアスランがようやく口を開いて尋ねると、ラクスは頷いた。
「目星はついてるよ」
「なら、私が1人で行く。キラはラクスを連れてすぐに艦に戻って」
「だめだ。僕が一緒じゃなきゃ行き先は教えない」
アスランがそんなラクスを押し留めようと彼の正面に廻る。
「ラクス、相手は…」
「きみがよく知ってる、もう1人のラクス・クラインだろ?」
アスランは一瞬言葉に詰まり、それから答えた。
「…そうよ。ミーア・キャンベル。議長のラクスだわ」
キラもメイリンもそれを聞いて思わず2人を見つめた。
ラクスはしばらく黙っていたが、やがて微笑んだ。
「どこかで、いずれちゃんとしなければならないことだよ」
「でも、彼は…」
「僕は会ってみたい。彼に」
アスランはため息をついた。
それはきっと、あまりにも残酷な対面劇になるだろう。
「アスラン、艦にも連絡して応援を頼むから、行こうよ」
キラがアークエンジェルへの秘匿回線を開きながら言った。
「私たちも、ずっと気になってたんだもの…偽者のラクスのこと。それに、もうそんなに一人で頑張らなくていいから」
キラに「ね?」と同意を求められたメイリンも慌てて頷いた。
「そ、そうですよ。僕らもいます。頼りには…ならないかもしれませんけど…」
「皆で生き抜くって、約束したでしょ。じゃないとカガリが怒るよ」
アスランが周囲の警戒を続けるため、今度はメイリンがハンドルを握った。
ラクスはどこへとは言わず、タブレットを見ながらメイリンに指示だけしている。
(追っ手を巻いている…?)
アスランは敢えて複雑なルートを選んでいる様子のラクスをチラリと見た。
助手席のキラはといえば、「可哀想だから」と赤いハロを直してやっている。
「Excuse me!Do you understand?」
やがてキラの手で組み直されたハロが起動した。
「What's your name?」
しかしそれは直したキラではなく、アスランの膝に飛んできて飛び跳ね、ラクスのハロがそれを見て「ミトメタクナーイ!」と体当たりをかましている。
ずっと硬い表情だったラクスが、それを見てふっと緩んだ表情を見せた。
「この赤いハロも、どうやらアスランが大好きなんだね」
「機械にそんな感情はないわ」
相変わらず素っ気無いアスランの膝を取り合っているハロを見ながら「直したのは私なのに…」とキラが口を尖らせると、メイリンもつられて笑った。
(この件に、ミーアが絡んでいる…)
アスランの脳裏に、ラクスの代わりになるんだと意気込み、ジブラルタルで自分を拒んで、電波ジャックでおろおろしていた哀れな彼の姿が浮かぶ。
もう既に、彼には議長が望む「役割」はないはずだ。
こんな事に巻き込まれたのも、恐らく用無しになったからだろう…アスランは手に持った銃をもう一度念入りに点検しながら思う。
(できることなら、助けてあげたい)
その頃ミーアはクラインガールズの女の子たちと一緒にサラに連れられ、リゾートホテルに隣接する、野外のリサイタルアリーナに向かっていた。
サラは時計を見、「そろそろ偽者に招待状を送りますね」と言った。
「ラクス様は、彼をうまく中央の舞台の方に呼び出してください。彼女たちと私たちは客席で待機しております」
「もうじき、オーブにいた偽者が来るんですって!」
「素敵。お2人が並んだらきっと双子みたいよ」
「あら、ラクス様の方が素敵だわ」
女の子たちは楽しそうに笑いさざめいている。
「さ、あなたたち。隠れていて、彼をびっくりさせてやりましょう。うまくやってくださいね、ラクス様」
女の子たちはかくれんぼでもするようにきゃあきゃあと客席に散った。
(ここで少し待っていればラクス・クラインがやってくる…)
空ろな表情でミーアは舞台の裏手にあたる通路を歩き始めた。
一体なぜ、こんなところにあの人が来るというんだろう…サラたちが本当は何をしようとしているのか、ミーアにも薄々わかっていた。
(きっと、彼に危害を加えるつもりなんだ)
でも、もうどうでもいい。考えることも、運命に抗うこともいやだった。
(僕はただ…もう一度ラクス・クラインに…)
ミーアは立ち止まった。
(ラクス・クラインに戻れるなら、なんだってやるさ)
「Thank you very much!」
その時、ミーアはぎょっとして立ち止まった。
朝、ホテルを出る前にサラに渡したはずのハロが舞台裏から飛び出し、嬉しそうに彼の周りを跳ね回ったからだ。
「…ハロ…?どうして…」
さらに、彼が呼吸を忘れるほど驚くことが起こった。
暗い物陰に佇む人影が、少しずつ光の中に現れたからだ。
長い藍色の髪、碧色の瞳…紛れもない、アスランだった。
「ミーア」
アスランは完全には影から出ずに彼の名を呼んだ。
「…アスラン?アスランなのか!?」
ミーアの顔がくしゃっと歪むのを見て、アスランはいたたまれなかった。
「嘘だろう、本当に?」
彼はそう言いながら感極まり、彼女を抱き締めようと両手を広げて近づいた。
「アスラン…きみ…生きて…」
しかしアスランは厳しい命令口調で彼に告げた。
「そこで止まれ!」
喜びのあまり舞台裏に走りこもうとしたミーアは、暗がりの彼女の手には銃が握られ、自分を狙っていることに気づくと足を止めた。
「…ア…アスラン?なんで…」
アスランはしばし無言だった。
(どうして?せっかく会えたのに、僕に銃を向けるなんて…)
「罠だということはわかってる。これが最後のチャンスよ、ミーア。私たちは、あなたに会いに来た」
きっぱりとした彼女の態度に、ミーアは思わず後ずさった。
「…私…たち…?」
「アスラン」
やがて暗闇からもう1人の声がして、アスランの肩に手をかけた。
「それでは落ち着いて話せないよ」
そう言いながら現れたのは、本物のラクス・クラインだった。
「バカな!?なぜあいつが!?」
一方、狙撃手や戦闘員の配置を行っていたサラは驚いて姿を隠した。
(予定の時間と違うではないか…!)
時計を見たが、爆弾で軽く脅した後、人質を取って呼び出す作戦までまだゆうに1時間はあった。
これまで連絡員からの報告には何一つ異常を知らせるものはない。
サラは急いで連絡員に通信を入れたが、つい先ほど繋がったそれが繋がらず、ルートがとっくに相手の手で分断されていたことを悟って舌打ちした。
「ちっ…やられた」
しかし彼女はそのまま作戦を決行すると部隊に合図をした。
(こちらの準備は整っている。むしろ好都合だ!)
サラは身をかがめながら野外観客席の一番高い席に陣取った。
そこには狙撃を試みるため、スナイパーライフルが設置してある。他に2人配置しているスナイパーにも狙いを定めるよう合図した。
(あとはあの偽者がターゲットを中央の舞台まで誘い出せば…)
「ラクス…さま…」
ミーアは上ずった声で彼の名を呼んだ。
アスランは銃を構えたままラクスのすぐ傍に立つ。
それを見てミーアはなぜかズキンと胸が痛んだ。
自分が心から憧れた2人が、今こうして並び立っている。
(ああ…なんて美しいんだろう…彼らは…)
かつて孤独に苦しんでいたキラが、彼ら2人が並んでいる姿を見て、温かくて優しくて眩しい…と感じたように、ミーアも眼をしばたいた。
薄汚れた自分には到底かなわない、輝くような何かが彼らにはあった。
「こんにちは、ミーアくん。初めまして」
ラクスはにっこりと微笑んだ。
ミーアは「うっ…」と呻いたまま何も言えない。
「きみの事はアスランから聞いているよ。議長に殺されかけた彼女を助けてくれたんだね」
ありがとう…ラクスが手を差し出すと、ミーアはよろけるように下がった。
「う…うぅ…」
「さぁ、僕と一緒に行こう。きみはここにいてはいけない」
「あ…あれは…」
ミーアはかつてアスランの手を振りほどいた時のように首を振った。
「僕だ!僕なんだ!」
そしていきなり、背中に隠し持っていた銃を構えた。
「ミーア…!」
アスランが前に出てラクスを一歩下がらせる。
「ミーア、落ち着いて。大丈夫よ、だから…」
しかし彼は首を振り続け、銃を構えたまま喚いた。
「僕がラクスだ!だってそうだろう?声も顔も同じなんだ!」
ミーアはぎりっと歯を食いしばり、自分と同じ顔の男を睨みつける。
「その顔は僕のものだ!声も、地位も、名声も、アスラン…きみだって!!」
撃鉄を起こし、震える手でラクスを狙う。
「全部、僕のものだ!」
もうどうなったって構うもんか!こいつを殺せば僕がラクスだ!
「僕がラクスで何が悪いんだ!おまえは、僕が欲しかったものを…」
ミーアはラクスに真っ直ぐ銃口を向けた。
「全部捨てて逃げたくせにっ!」
彼の叫びと共に銃声が響いたが、それより早くアスランの銃が火を噴いた。
「うぁ…っ!」
銃を弾き飛ばされ、ミーアはその勢いで倒れこんだ。
右手がひどくしびれ、激しいショックで放心状態になっている。
アスランは周囲を警戒しながらラクスと共に後退り、改めて物陰に隠れた。
「ミーア、もうやめなさい。あなたは議長に…」
そう言いかけたアスランを、再びラクスが制した。
「きみが欲しいのは、僕の名前?」
ラクスが優しい声で聞いた。
「もしそうなら、名前をあげるよ」
ミーアはよろよろと起き上がると、ラクスを睨みつけた。
「姿もあげる。僕たちは、こんなにそっくりだものね」
ラクスは続けた。
「でも、それでも、きみと僕は違う人間だ。それは変わらない」
「チッ!あのバカ…」
サラはアスランが狙撃角度を読んで、狙撃に最適な場所から微妙に狙えない位置に隠されているラクスを見て苛立っていた。
(中央の舞台に誘えと言っておいたのに…使えないクズめ!)
サラは毒づき、次の作戦に移行する事にして指文字で合図した。
客席に隠れて様子を見ていたクラインガールズがそれを見て頷く。
だがちょうどその時、狙撃のチャンスが訪れたと別のメンバーから合図があり、サラは咄嗟に彼女らを止めて、再びスコープを覗き込んだ。
ラクスがアスランが止める事も聞かずに一歩踏み出し、しゃがみこんでいるミーアに近づいていったのだ。
「ラクス、だめ!」
「僕たちは誰も、自分以外の何者にもなれない。でも、だからきみも僕もいるんだろう?今、ここに」
ラクスは腕を伸ばし、彼に手を差し伸べた。
「だから出逢えるんだよ…他人と、そして、自分にも」
―― 誰かに出会うことで、人は自分を知ることがある…
「僕は、きみを見て知ったんだ」
ラクスがにっこりと笑った。
「プラントの人々が、いかにラクス・クラインを必要としているかを」
「ラクス…クラインを…?」
(必要としている…必要とされていた…そう、いつだって…)
ミーアは痺れる頭でぼぅっとしながら考えた。
「…だけどそれは…必要だったのはあなたです…僕は…初めから…」
「違うよ。彼らが望んだのは、僕じゃない」
ミーアは脱力したようにラクスを見つめ、差し出された彼の手を見た。
「でも、きみの夢はきみのものだ。夢を人に使われては、いけないよ」
(今だ!)
せっかく表に出てきたのに、今度は警護に長けているアスランが壁になってうまく狙えなかったが、ラクスが伸ばしたその手をミーアが取りかけたため、ラクスの体が一瞬彼女より前に出た。
「トリィ!」
しかしサラが今にも引き金を引こうとしたその瞬間、トリィが大きな声で狙撃手の居場所を告げたため、アスランはすぐにラクスを連れて物陰に隠れた。
「…くそっ!かかれ!」
失敗したサラはすぐさま襲撃の号令を出した。
途端に客席からセクシーな衣装を着たクラインガールズたちが立ち上がり、瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。
「ラクス様!?」
「まぁ、ラクス様だわ!」
「私たちのラクス様よ!」
アスランがぎょっとして物陰から「あれは何!?」とミーアに聞くと、彼が「あれは…」と答えかけたところで彼女たちが本性を剥きだした。
彼女たちはスカートを剥ぎ取り、露出の多い服を破り捨ててあられもない姿になると、次々と隠し持っていた武器を構えて攻撃し始めたのだ。
多くの女たちは長いスカートに隠していたサブマシンガンをぶっ放し、ある者はガーターに差した銃を取り出して撃った。ナイフやライフルを構えている者もおり、皆どうやらかなりの訓練を受けている戦闘員のようだ。
それ以外にもあちこちから銃弾が飛び込んだ。
黒服を着た、別の戦闘員たちが客席の高い位置から彼らを狙っているのだ。
アスランはラクスに「動かないで!」と言うと、果敢にも銃弾の中に飛び出し、頭を抱えているミーアを叱咤して立たせ、連れてきた。
「ラクス、彼をお願い」
「全く、きみって人は…」
呆れるラクスに答える余裕はなく、アスランは反対側に声をかけた。
「メイリン、キラ!そっちは!?」
「応戦中です!」
対面前に既に配置について警戒中だったメイリンたちが答える。
今回ばかりはキラもちゃんとメイリンにセーフティーを外してもらって、おぼつかないながらも何とか撃っていた。
アスランはミーアに「何人いるの?」と尋ねた。
「サラと、クラインガールズが10人…で、でも、あの子たち一体…」
ミーアはただ綺麗で可愛いだけだと思っていた彼女たちが、物騒な得物を構え、一定の陣形を保ちながら前進してくるのを見てゾッとした。
中にはマシンガンを撃ちながら走りこんで来る命知らずの娘もおり、メイリンは女性に銃を向けるなんて…と躊躇しつつも、皆を守るためには仕方ないと彼女を撃ち殺した。
ミーアは情勢を見つめているラクスの足元でぶるぶる震えており、ラクスは近づく女たちに向けて銃を撃っているアスランに忠告した。
「観客席の高台に、狙撃手がまだ何人かいるようだ」
「わかった。あなたは隠れていて」
アスランは壁を背に銃を撃ちつくすと、弾を入れ替えながらメイリンに指文字で合図を送った。メイリンは攻撃の間隙を読んでキラを連れてやって来る。
「外を片付けてくる。ここをお願い」
「わかりました」
「気をつけてね」
メイリンとキラに援護を頼み、アスランはそのまま飛び出した。
(なんだよ…なんでこんな…)
激しい銃撃戦に頭を抱えているミーアに、ラクスが声をかけた。
「ミーアくん」
見れば、彼は不安など微塵もない表情で微笑んでいる。
「大丈夫だよ。心配しないで」
「あ…」
「アスランがいるし…それに、皆もいるからね」
彼の優しげな笑顔を見ても、こんな血生臭い修羅場に慣れていないミーアには安心などできなかったが、とりあえず「はい」と返事をした。
ラクスは何かを待つように、再び銃声が鳴り響くアリーナに顔を向けた。
「すぐに終わるよ。もうすぐね」
「うぐっ!」
「うぁ…!」
アスランは銃を構えて客席に回りこみ、執拗にラクスを狙っているクラインガールズを数人仕留めた。
サラがそれに気づき、潜ませた戦闘員にアスランを狙うよう合図をしたが、彼女は観客席を盾に応戦しながら、視野を取ろうと素早く上段へ駆け上がっていく。
「ぐっ!」
鉢合わせた黒服の戦闘員を撃ち殺すと、ラクスたちの隠れている劇場裏に忍び寄ろうとしていた1人のクラインガールズを狙撃する。
(きりがないわ!)
アスランがそう思いながら身をかがめて様子を窺う姿を、サラが先ほどの狙撃ポイントから捉え、狙っていた。
(忌々しい小娘…あいつさえいなくなれば…!)
しかし再び彼女の狙撃は阻止された。
「うっ!」
自分の後ろで鳴り響いた銃声に、アスランははっと振り返った。
「相変わらず無茶な人ですね、アスラン・ザラ!」
そこには銃を構えたマーチン・ダコスタが立っていた。
「副長!?」
「さ、片付けますよ!」
ダコスタが腕を上げると、ザフトの制服を着たクライン派が飛び出してきて、一斉に加勢を始めた。
「一体どうして…?」
「作戦です。あなたは早くラクス様の元に戻ってください」
サラはそれを見て黒服たちにも一斉攻撃を命じ、銃撃戦はさらに激しさを増していった。
(こんな情けない体たらく…議長に報告もできん!)
サラはアスランを追ってアリーナへと向かった。
(なんとしてもラクス・クラインを殺害しなければ!)
アスランは彼女が追ってくることを知って振り向きざまに撃つ。
「ぐっ…!」
撃たれてもなお、サラは舞台裏に走りこむアスランにマシンガンを放ち、さらには手榴弾のピンを抜いてラクスが隠れている場所に投げ込んだ。
それにいち早く気づいたのは、キラだった。
「走って!」
キラはラクスたちを促すと、自分の銃を投げつけて投げ込まれた手榴弾に見事ヒットさせ、弾き飛ばした。
途端にそれは衝撃で爆発し、ちょうど走りこんできていたサラは、自らが投げた手榴弾の激しい爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「うわ…っ!」
一方キラの荒っぽい対処法を見たメイリンは、仰天して思わず叱ってしまった。
「キラさん、銃なんか投げちゃダメですよ!暴発したらどうするんですか!」
「わかってる…けど、撃つより…早いから…」
しぶしぶ答えたキラを見て、メイリンは今度は開いた口が塞がらなかった。
(姉さん…姉さんより根本的にダメな人がいたよ…)
メイリンは仕方なく、丸腰になったキラを後ろに庇って下がった。
やがて最後の銃声が収まり、ダコスタが制圧完了の合図をした。
ラクスはミーアを促して表に出ると、手を振って礼を言った。
「ダコスタくん、ありがとう!」
「いえいえ、いつもの事ですから」
そして(あなたのムチャクチャには慣れてますし)と心の中で続ける。
アスランはラクスの後ろにいるミーアを改めて見つめた。ミーアはそんな彼女に気づくと脅えたように目を逸らす。
「ミーア…怪我はない?」
「…う、うん…きみは…大丈夫?」
「大丈夫よ」
そう答えると、アスランは今度はラクスに向き直って詰め寄った。
「ラクス…」
「アスラン。あまりムチャしないでくれ」
いたわるように自分の頬に触れた彼の手を、アスランはやや乱暴に引き剥がした。
「…一体どういうこと?」
怒りを湛えた彼女の瞳を見て、ラクスは頷いた。
「わかってる。後でちゃんと説明するよ」
「ん?おい…何だ?」
ネオはアカツキのコックピットから巨大なリゾートホテルを眺め、座標にある屋外アリーナに降り立った。あちこちに遺体が転がる物騒な状況に、ネオは何があったのやら…とハッチを開けた。
「大丈夫か?お嬢ちゃんたち」
「遅いです、ムウさん!」
パタパタと服の埃を払っていたキラが言うと、ネオは肩をすくめた。
「急いだんだぜ、これでも」
「すみませんが、ラクスたちを…」
キラが手を向けた方を何気なく見て、ネオはぎょっとした。
そこにはラクス・クラインが2人いたからだ。
「こいつは驚いた…そっくりだぜ」
「2人を早く、アークエンジェルへお願いします」
「あ、ああ…わかったよ」
キラがそう頼むと、ネオは戸惑った表情のままアカツキのマニピュレーターを動かした。
「大丈夫?」
アスランはキラに駆け寄ると尋ねた。
「うん、何とか。メイリンが守ってくれたしね」
その言葉に、アスランは空薬莢を盛大にパージしているメイリンに向き直った。
「ほんとにあなたも…いつもごめんなさい」
「いえ…はい………まぁ…」
メイリンは苦笑しながら答えた。
(ムチャをするのはアスランさんだけかと思ってたけど、この人たちといると命がいくつあっても足りなさそうだ)
「ほら、王子様」
ネオはラクスを促し、キラはそのムウらしい呼び方にくすっと笑った。
「さ、きみも。一緒に行こう」
ラクスがミーアに手を差し伸べたその時だった。
背を向けたラクスには見えなかったが、ラクスを見ているミーアには血まみれで瀕死の状態のサラが震える手で銃を構えているのが見えた。
(いけない!ラクス様が…!)
「危ない!」
彼がラクスを突き飛ばしたのと、銃声が響き渡ったのは同時だった。
ラクスを庇って撃たれたミーアは、力なく倒れこんだ。
アスランは咄嗟に銃を構えて狙撃者を狙ったが、それより早くダコスタたちが彼女の確保に動いていた。
彼らに捕えられた女の姿をまじまじと見て、アスランは息を呑んだ。
(あれは…!)
一方ラクスは目の前で自分を庇って倒れたミーアを腕に抱いていた。
キラとメイリンも驚いて彼らの元に駆け寄っていく。
ミーアは真っ青な顔で吸い込むように音を立てて荒い呼吸をしていた。腹部の出血がひどく、すぐに医療に長けた兵が傷を見たが、首を振った。
「ミーア!」
ダコスタたちに連れ去られる傷だらけのサラを見送ったアスランも、急いで傍にやってきてラクスの傍らに跪く。
「ミーアくん…」
ラクスが腕の中の彼に優しく呼びかけた。
しかしもう最期が近いと知り、眼でアスランにコンタクトする。
「ミーア…」
アスランはラクスと共に彼の体を支えると、もう一度名を呼んだ。苦しそうなミーアはアスランの声を聞くと、弱々しく眼を開けた。しかしもう彼の瞳にはアスランもラクスも見えていないようだ。
ミーアが血まみれの震える手を持ち上げると、アスランは空を掻いているその手を取り、ぎゅっと握り締めた。
「わかる?ミーア。私の事…」
苦しそうな吐息と共に「うん」と頷くと、ミーアは呟いた。
「僕…僕の…命…どうか…忘れないで…」
「…忘れないわ…」
アスランが優しく言うと、ミーアは嬉しそうに微笑んだ。
それからすがるように隣にいるラクスを呼ぶ。
「ラ…ク…ラク…スさま…」
―― ゆ・る・し・て…
声にならない言葉が、血の気を失った唇の動きで読み取れた。
ラクスは優しく微笑むと、アスランの手ごと、彼の手を握った。
「きみは何も悪くない。謝る必要なんかないんだ」
「ありが…と…」
「忘れないよ…僕も。誰も、きみの事を忘れないから」
それを聞いて、彼は今度こそ本当に安心したように深く息をついた。
―― アスラン…ラクス様…
彼の瞼に、最後に見た2人の姿が映し出された。
ああ…思ったとおり、彼らは優しく、気高く、憧れるべき存在だった。
だから…過去を捨てていない、本当の姿で…本当の自分自身として…
「もっと…ちゃんと…会い…たかっ…」
彼の呼吸が静かに止まっても、そこにいる誰も動かず、誰も何も言わなかった。
メイリンはプラントを席巻した「偽者」の壮絶な死を見つめて黙りこみ、キラもまたネオやダコスタと視線を交わして目の前の3人を見つめた。
クライン派の兵たちも今はただ黙って、偽者の死を悼む彼らを見ていた。
ラクスはミーアの亡骸を抱きながら、もう片方の腕で小さく震えているアスランの肩を優しく抱き締めている。アスランは声を出さずに、ただ静かに泣いていた。
(ミーア・キャンベル…偽りの名の人生を歩んだ、もう1人の僕)
ラクスは彼の眠っているような顔を…自分と同じ顔を見つめた。
「健康な体を持ち、無邪気に、無心にプラントの人気を一身に集めるきみを、僕は心のどこかで羨ましいと思っていたのかもしれない」
「ハロ、ハロ!ミトメタクナーイ!」
ラクスはふと、人々が集まっている場所から少し離れた場所で自分のハロが飛び跳ねている事に気づいた。
そこには流れ弾に当たって壊れ、ギーギーとモーター音を立てているミーアのハロがあった。やがて「…YOU…YO…」と音声が繰り返され、赤いハロは先に逝った主人を追いかけるように動きを止めた。
「ハロ…ハロ……アカンデェ…」
するとラクスのハロもそのまま動きを止め、静かになった。
まるで自分によく似た彼がいなくなったことを哀しむかのように…
ラクスの青い瞳が、再び物言わぬ彼を見つめ、やがて閉じられた。
(不思議だね…僕も、まるで半身を失ったように辛いよ)
僕になろうとし、僕であろうとしたミーア・キャンベル…ラクス・クラインという名の、短い偽りの人生を歩んだきみ。
「でも…きみは最期まで、紛れもなくきみだった」
それだけは、真実だ。
「ならどこか店の中で」と言うアスランの言葉はまた聞いてもらえない。
彼を見張る眼は当然、今までになく多かった。
(ここはまずい…一斉に狙われたら間違いなく蜂の巣になるわ)
ラクスはキラと一緒に広場の真ん中にあるベンチに腰掛け、アスランはメイリンに頼んで周囲の半分を警戒してもらった。
「あの…ラクス様では…?」
しばらくはのどかな昼下がりが続いたが、やがて動きがあった。
近づいてきた女性を見て、アスランもメイリンも上着の下の銃を握る。
「あなたは?」
ラクスはにこやかに、けれど小声で囁くと、キラが「あ…」と言った。
先ほど、カフェでトリィに喜んでいた子供たちを連れていた母親だ。
少し離れたところで、先ほど見た父親が子供を抱いて心配そうに見守っている。
しかし何かがおかしい…キラはラクスに囁いた。
「ラクス、女の子がいない」
「これを…どうか…お願いします…どうか」
彼女は涙を浮かべながら何やら不審な赤い球体を彼に手渡そうとする。
アスランとメイリンが警戒して近づこうとしたが、ラクスは手で制した。キラも指で唇を押さえたので、2人は足を止め、けれど眼は離さない。
ラクスは彼女からそれを受け取ると、震える手にそっと触れた。
「大丈夫ですよ。こちらこそすみません…怖がらせて…」
「すみません…すみません…」
ラクスは小声で「早くここから離れて」と彼女を促す。
そして項垂れて家族のもとに戻る母親を見つめているキラに耳打ちした。
「大丈夫…ちゃんと確保してるから。彼らには悪い事をしてしまった」
ラクスは渡された球体を見つめたが、その眼は今までになく厳しかった。
「頼めるかい、アスラン」
「ええ」
ラクスはアスランにそれを…彼女にも見覚えのある赤いハロを渡した。ちゃちな作りながら、恐らくは爆弾が仕込まれているのだろう。
ラクスはキラを庇いながら、「動かないでね」と言った。
アスランはハロと同じ作りのそれをあっという間にバラしてコアだけにした。
起爆装置は遠隔操作タイプなので、犯人は今もどこかで見ているに違いない。
彼がいつ、気まぐれでこれを爆破しないとも限らなかった。アスランが解除のため慎重に中身を分析していると、メイリンが駆け寄ってきた。
「僕が。アスランさんは念のため、人を遠ざけてください」
「でも…」
「得意なんです、爆弾処理」
急いで!と言われ、アスランは素早く行動に移った。
近くの建物に飛び込むと手当たり次第非常ベルを叩き壊したのだ。
そして「火事です」「爆弾です」「男が銃を乱射しています」と、人々をパニックに陥れそうな言葉を、思いつく限り言いふらした。そうやって人々を扇動し、広場から遠ざけたのだ。
やがてアスランの思惑通り、あたりはあっという間に大騒ぎになった。
一方、メイリンの手技は実に鮮やかだった。
彼はコアをさらに手早く分解すると小さな起爆装置を見つけ出し、信管部分を細い金属の棒で突き刺して、あっという間に分解した。
「どう?」
戻ってきたアスランが聞くと、メイリンは「簡単な構造でした」と見せてくれた。
その判断と素早さに舌を巻いたアスランは、「すごいわ」と呟いた。
「アカデミーでは、シンにもレイにも負けませんでした」
そう言って照れたように笑うメイリンを見て、アスランはふと、同じように爆弾処理が得意で、いつも一番の成績だったのに、誰かが褒めると照れ笑いをしていた心優しい友を思い出した。
「私も…絶対に勝てなかった友人がいたわ」
2人はほっと息をついて笑いあった。
「ありがとう、2人とも。危険な目にあわせてごめん」
ラクスはそう言って立ち上がると、アスランとメイリンの傍に来た。
「でもこれで、手段を選ばない相手だとわかったよ」
そう言いながら携帯タブレットをチェックし、急ごうと彼らを促す。
「ラクス、あなたまだ…!」
アスランは彼のこの外出が一般人まで巻き込みかけたことにさすがに怒りを禁じえなかったのだが、ラクスの表情を見て口をつぐんだ。
彼の顔からは柔和な笑みが消え、厳しく冷静な本来の彼が現れている。
「先回りして、連中の思惑を潰すんだ」
「でも、さっきのは思いっきり罠ですよね?」
非常ベルが鳴り止まず、ますます騒ぎが大きくなってきた広場から足早に立ち去りながらメイリンが言うと、キラも「そうだよ」と頷いた。
「あの人の子供を使って誘き出すつもりだったんじゃないかな」
「うん、爆弾はブラフだろうね。爆発してもよし、解体されてもよし。とにかくこれは脅しじゃないと示したかったんだろう」
ラクスは淡々と語った。
「ラクス、あなた犯人の居場所を知ってるのね?」
黙っていたアスランがようやく口を開いて尋ねると、ラクスは頷いた。
「目星はついてるよ」
「なら、私が1人で行く。キラはラクスを連れてすぐに艦に戻って」
「だめだ。僕が一緒じゃなきゃ行き先は教えない」
アスランがそんなラクスを押し留めようと彼の正面に廻る。
「ラクス、相手は…」
「きみがよく知ってる、もう1人のラクス・クラインだろ?」
アスランは一瞬言葉に詰まり、それから答えた。
「…そうよ。ミーア・キャンベル。議長のラクスだわ」
キラもメイリンもそれを聞いて思わず2人を見つめた。
ラクスはしばらく黙っていたが、やがて微笑んだ。
「どこかで、いずれちゃんとしなければならないことだよ」
「でも、彼は…」
「僕は会ってみたい。彼に」
アスランはため息をついた。
それはきっと、あまりにも残酷な対面劇になるだろう。
「アスラン、艦にも連絡して応援を頼むから、行こうよ」
キラがアークエンジェルへの秘匿回線を開きながら言った。
「私たちも、ずっと気になってたんだもの…偽者のラクスのこと。それに、もうそんなに一人で頑張らなくていいから」
キラに「ね?」と同意を求められたメイリンも慌てて頷いた。
「そ、そうですよ。僕らもいます。頼りには…ならないかもしれませんけど…」
「皆で生き抜くって、約束したでしょ。じゃないとカガリが怒るよ」
アスランが周囲の警戒を続けるため、今度はメイリンがハンドルを握った。
ラクスはどこへとは言わず、タブレットを見ながらメイリンに指示だけしている。
(追っ手を巻いている…?)
アスランは敢えて複雑なルートを選んでいる様子のラクスをチラリと見た。
助手席のキラはといえば、「可哀想だから」と赤いハロを直してやっている。
「Excuse me!Do you understand?」
やがてキラの手で組み直されたハロが起動した。
「What's your name?」
しかしそれは直したキラではなく、アスランの膝に飛んできて飛び跳ね、ラクスのハロがそれを見て「ミトメタクナーイ!」と体当たりをかましている。
ずっと硬い表情だったラクスが、それを見てふっと緩んだ表情を見せた。
「この赤いハロも、どうやらアスランが大好きなんだね」
「機械にそんな感情はないわ」
相変わらず素っ気無いアスランの膝を取り合っているハロを見ながら「直したのは私なのに…」とキラが口を尖らせると、メイリンもつられて笑った。
(この件に、ミーアが絡んでいる…)
アスランの脳裏に、ラクスの代わりになるんだと意気込み、ジブラルタルで自分を拒んで、電波ジャックでおろおろしていた哀れな彼の姿が浮かぶ。
もう既に、彼には議長が望む「役割」はないはずだ。
こんな事に巻き込まれたのも、恐らく用無しになったからだろう…アスランは手に持った銃をもう一度念入りに点検しながら思う。
(できることなら、助けてあげたい)
その頃ミーアはクラインガールズの女の子たちと一緒にサラに連れられ、リゾートホテルに隣接する、野外のリサイタルアリーナに向かっていた。
サラは時計を見、「そろそろ偽者に招待状を送りますね」と言った。
「ラクス様は、彼をうまく中央の舞台の方に呼び出してください。彼女たちと私たちは客席で待機しております」
「もうじき、オーブにいた偽者が来るんですって!」
「素敵。お2人が並んだらきっと双子みたいよ」
「あら、ラクス様の方が素敵だわ」
女の子たちは楽しそうに笑いさざめいている。
「さ、あなたたち。隠れていて、彼をびっくりさせてやりましょう。うまくやってくださいね、ラクス様」
女の子たちはかくれんぼでもするようにきゃあきゃあと客席に散った。
(ここで少し待っていればラクス・クラインがやってくる…)
空ろな表情でミーアは舞台の裏手にあたる通路を歩き始めた。
一体なぜ、こんなところにあの人が来るというんだろう…サラたちが本当は何をしようとしているのか、ミーアにも薄々わかっていた。
(きっと、彼に危害を加えるつもりなんだ)
でも、もうどうでもいい。考えることも、運命に抗うこともいやだった。
(僕はただ…もう一度ラクス・クラインに…)
ミーアは立ち止まった。
(ラクス・クラインに戻れるなら、なんだってやるさ)
「Thank you very much!」
その時、ミーアはぎょっとして立ち止まった。
朝、ホテルを出る前にサラに渡したはずのハロが舞台裏から飛び出し、嬉しそうに彼の周りを跳ね回ったからだ。
「…ハロ…?どうして…」
さらに、彼が呼吸を忘れるほど驚くことが起こった。
暗い物陰に佇む人影が、少しずつ光の中に現れたからだ。
長い藍色の髪、碧色の瞳…紛れもない、アスランだった。
「ミーア」
アスランは完全には影から出ずに彼の名を呼んだ。
「…アスラン?アスランなのか!?」
ミーアの顔がくしゃっと歪むのを見て、アスランはいたたまれなかった。
「嘘だろう、本当に?」
彼はそう言いながら感極まり、彼女を抱き締めようと両手を広げて近づいた。
「アスラン…きみ…生きて…」
しかしアスランは厳しい命令口調で彼に告げた。
「そこで止まれ!」
喜びのあまり舞台裏に走りこもうとしたミーアは、暗がりの彼女の手には銃が握られ、自分を狙っていることに気づくと足を止めた。
「…ア…アスラン?なんで…」
アスランはしばし無言だった。
(どうして?せっかく会えたのに、僕に銃を向けるなんて…)
「罠だということはわかってる。これが最後のチャンスよ、ミーア。私たちは、あなたに会いに来た」
きっぱりとした彼女の態度に、ミーアは思わず後ずさった。
「…私…たち…?」
「アスラン」
やがて暗闇からもう1人の声がして、アスランの肩に手をかけた。
「それでは落ち着いて話せないよ」
そう言いながら現れたのは、本物のラクス・クラインだった。
「バカな!?なぜあいつが!?」
一方、狙撃手や戦闘員の配置を行っていたサラは驚いて姿を隠した。
(予定の時間と違うではないか…!)
時計を見たが、爆弾で軽く脅した後、人質を取って呼び出す作戦までまだゆうに1時間はあった。
これまで連絡員からの報告には何一つ異常を知らせるものはない。
サラは急いで連絡員に通信を入れたが、つい先ほど繋がったそれが繋がらず、ルートがとっくに相手の手で分断されていたことを悟って舌打ちした。
「ちっ…やられた」
しかし彼女はそのまま作戦を決行すると部隊に合図をした。
(こちらの準備は整っている。むしろ好都合だ!)
サラは身をかがめながら野外観客席の一番高い席に陣取った。
そこには狙撃を試みるため、スナイパーライフルが設置してある。他に2人配置しているスナイパーにも狙いを定めるよう合図した。
(あとはあの偽者がターゲットを中央の舞台まで誘い出せば…)
「ラクス…さま…」
ミーアは上ずった声で彼の名を呼んだ。
アスランは銃を構えたままラクスのすぐ傍に立つ。
それを見てミーアはなぜかズキンと胸が痛んだ。
自分が心から憧れた2人が、今こうして並び立っている。
(ああ…なんて美しいんだろう…彼らは…)
かつて孤独に苦しんでいたキラが、彼ら2人が並んでいる姿を見て、温かくて優しくて眩しい…と感じたように、ミーアも眼をしばたいた。
薄汚れた自分には到底かなわない、輝くような何かが彼らにはあった。
「こんにちは、ミーアくん。初めまして」
ラクスはにっこりと微笑んだ。
ミーアは「うっ…」と呻いたまま何も言えない。
「きみの事はアスランから聞いているよ。議長に殺されかけた彼女を助けてくれたんだね」
ありがとう…ラクスが手を差し出すと、ミーアはよろけるように下がった。
「う…うぅ…」
「さぁ、僕と一緒に行こう。きみはここにいてはいけない」
「あ…あれは…」
ミーアはかつてアスランの手を振りほどいた時のように首を振った。
「僕だ!僕なんだ!」
そしていきなり、背中に隠し持っていた銃を構えた。
「ミーア…!」
アスランが前に出てラクスを一歩下がらせる。
「ミーア、落ち着いて。大丈夫よ、だから…」
しかし彼は首を振り続け、銃を構えたまま喚いた。
「僕がラクスだ!だってそうだろう?声も顔も同じなんだ!」
ミーアはぎりっと歯を食いしばり、自分と同じ顔の男を睨みつける。
「その顔は僕のものだ!声も、地位も、名声も、アスラン…きみだって!!」
撃鉄を起こし、震える手でラクスを狙う。
「全部、僕のものだ!」
もうどうなったって構うもんか!こいつを殺せば僕がラクスだ!
「僕がラクスで何が悪いんだ!おまえは、僕が欲しかったものを…」
ミーアはラクスに真っ直ぐ銃口を向けた。
「全部捨てて逃げたくせにっ!」
彼の叫びと共に銃声が響いたが、それより早くアスランの銃が火を噴いた。
「うぁ…っ!」
銃を弾き飛ばされ、ミーアはその勢いで倒れこんだ。
右手がひどくしびれ、激しいショックで放心状態になっている。
アスランは周囲を警戒しながらラクスと共に後退り、改めて物陰に隠れた。
「ミーア、もうやめなさい。あなたは議長に…」
そう言いかけたアスランを、再びラクスが制した。
「きみが欲しいのは、僕の名前?」
ラクスが優しい声で聞いた。
「もしそうなら、名前をあげるよ」
ミーアはよろよろと起き上がると、ラクスを睨みつけた。
「姿もあげる。僕たちは、こんなにそっくりだものね」
ラクスは続けた。
「でも、それでも、きみと僕は違う人間だ。それは変わらない」
「チッ!あのバカ…」
サラはアスランが狙撃角度を読んで、狙撃に最適な場所から微妙に狙えない位置に隠されているラクスを見て苛立っていた。
(中央の舞台に誘えと言っておいたのに…使えないクズめ!)
サラは毒づき、次の作戦に移行する事にして指文字で合図した。
客席に隠れて様子を見ていたクラインガールズがそれを見て頷く。
だがちょうどその時、狙撃のチャンスが訪れたと別のメンバーから合図があり、サラは咄嗟に彼女らを止めて、再びスコープを覗き込んだ。
ラクスがアスランが止める事も聞かずに一歩踏み出し、しゃがみこんでいるミーアに近づいていったのだ。
「ラクス、だめ!」
「僕たちは誰も、自分以外の何者にもなれない。でも、だからきみも僕もいるんだろう?今、ここに」
ラクスは腕を伸ばし、彼に手を差し伸べた。
「だから出逢えるんだよ…他人と、そして、自分にも」
―― 誰かに出会うことで、人は自分を知ることがある…
「僕は、きみを見て知ったんだ」
ラクスがにっこりと笑った。
「プラントの人々が、いかにラクス・クラインを必要としているかを」
「ラクス…クラインを…?」
(必要としている…必要とされていた…そう、いつだって…)
ミーアは痺れる頭でぼぅっとしながら考えた。
「…だけどそれは…必要だったのはあなたです…僕は…初めから…」
「違うよ。彼らが望んだのは、僕じゃない」
ミーアは脱力したようにラクスを見つめ、差し出された彼の手を見た。
「でも、きみの夢はきみのものだ。夢を人に使われては、いけないよ」
(今だ!)
せっかく表に出てきたのに、今度は警護に長けているアスランが壁になってうまく狙えなかったが、ラクスが伸ばしたその手をミーアが取りかけたため、ラクスの体が一瞬彼女より前に出た。
「トリィ!」
しかしサラが今にも引き金を引こうとしたその瞬間、トリィが大きな声で狙撃手の居場所を告げたため、アスランはすぐにラクスを連れて物陰に隠れた。
「…くそっ!かかれ!」
失敗したサラはすぐさま襲撃の号令を出した。
途端に客席からセクシーな衣装を着たクラインガールズたちが立ち上がり、瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。
「ラクス様!?」
「まぁ、ラクス様だわ!」
「私たちのラクス様よ!」
アスランがぎょっとして物陰から「あれは何!?」とミーアに聞くと、彼が「あれは…」と答えかけたところで彼女たちが本性を剥きだした。
彼女たちはスカートを剥ぎ取り、露出の多い服を破り捨ててあられもない姿になると、次々と隠し持っていた武器を構えて攻撃し始めたのだ。
多くの女たちは長いスカートに隠していたサブマシンガンをぶっ放し、ある者はガーターに差した銃を取り出して撃った。ナイフやライフルを構えている者もおり、皆どうやらかなりの訓練を受けている戦闘員のようだ。
それ以外にもあちこちから銃弾が飛び込んだ。
黒服を着た、別の戦闘員たちが客席の高い位置から彼らを狙っているのだ。
アスランはラクスに「動かないで!」と言うと、果敢にも銃弾の中に飛び出し、頭を抱えているミーアを叱咤して立たせ、連れてきた。
「ラクス、彼をお願い」
「全く、きみって人は…」
呆れるラクスに答える余裕はなく、アスランは反対側に声をかけた。
「メイリン、キラ!そっちは!?」
「応戦中です!」
対面前に既に配置について警戒中だったメイリンたちが答える。
今回ばかりはキラもちゃんとメイリンにセーフティーを外してもらって、おぼつかないながらも何とか撃っていた。
アスランはミーアに「何人いるの?」と尋ねた。
「サラと、クラインガールズが10人…で、でも、あの子たち一体…」
ミーアはただ綺麗で可愛いだけだと思っていた彼女たちが、物騒な得物を構え、一定の陣形を保ちながら前進してくるのを見てゾッとした。
中にはマシンガンを撃ちながら走りこんで来る命知らずの娘もおり、メイリンは女性に銃を向けるなんて…と躊躇しつつも、皆を守るためには仕方ないと彼女を撃ち殺した。
ミーアは情勢を見つめているラクスの足元でぶるぶる震えており、ラクスは近づく女たちに向けて銃を撃っているアスランに忠告した。
「観客席の高台に、狙撃手がまだ何人かいるようだ」
「わかった。あなたは隠れていて」
アスランは壁を背に銃を撃ちつくすと、弾を入れ替えながらメイリンに指文字で合図を送った。メイリンは攻撃の間隙を読んでキラを連れてやって来る。
「外を片付けてくる。ここをお願い」
「わかりました」
「気をつけてね」
メイリンとキラに援護を頼み、アスランはそのまま飛び出した。
(なんだよ…なんでこんな…)
激しい銃撃戦に頭を抱えているミーアに、ラクスが声をかけた。
「ミーアくん」
見れば、彼は不安など微塵もない表情で微笑んでいる。
「大丈夫だよ。心配しないで」
「あ…」
「アスランがいるし…それに、皆もいるからね」
彼の優しげな笑顔を見ても、こんな血生臭い修羅場に慣れていないミーアには安心などできなかったが、とりあえず「はい」と返事をした。
ラクスは何かを待つように、再び銃声が鳴り響くアリーナに顔を向けた。
「すぐに終わるよ。もうすぐね」
「うぐっ!」
「うぁ…!」
アスランは銃を構えて客席に回りこみ、執拗にラクスを狙っているクラインガールズを数人仕留めた。
サラがそれに気づき、潜ませた戦闘員にアスランを狙うよう合図をしたが、彼女は観客席を盾に応戦しながら、視野を取ろうと素早く上段へ駆け上がっていく。
「ぐっ!」
鉢合わせた黒服の戦闘員を撃ち殺すと、ラクスたちの隠れている劇場裏に忍び寄ろうとしていた1人のクラインガールズを狙撃する。
(きりがないわ!)
アスランがそう思いながら身をかがめて様子を窺う姿を、サラが先ほどの狙撃ポイントから捉え、狙っていた。
(忌々しい小娘…あいつさえいなくなれば…!)
しかし再び彼女の狙撃は阻止された。
「うっ!」
自分の後ろで鳴り響いた銃声に、アスランははっと振り返った。
「相変わらず無茶な人ですね、アスラン・ザラ!」
そこには銃を構えたマーチン・ダコスタが立っていた。
「副長!?」
「さ、片付けますよ!」
ダコスタが腕を上げると、ザフトの制服を着たクライン派が飛び出してきて、一斉に加勢を始めた。
「一体どうして…?」
「作戦です。あなたは早くラクス様の元に戻ってください」
サラはそれを見て黒服たちにも一斉攻撃を命じ、銃撃戦はさらに激しさを増していった。
(こんな情けない体たらく…議長に報告もできん!)
サラはアスランを追ってアリーナへと向かった。
(なんとしてもラクス・クラインを殺害しなければ!)
アスランは彼女が追ってくることを知って振り向きざまに撃つ。
「ぐっ…!」
撃たれてもなお、サラは舞台裏に走りこむアスランにマシンガンを放ち、さらには手榴弾のピンを抜いてラクスが隠れている場所に投げ込んだ。
それにいち早く気づいたのは、キラだった。
「走って!」
キラはラクスたちを促すと、自分の銃を投げつけて投げ込まれた手榴弾に見事ヒットさせ、弾き飛ばした。
途端にそれは衝撃で爆発し、ちょうど走りこんできていたサラは、自らが投げた手榴弾の激しい爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「うわ…っ!」
一方キラの荒っぽい対処法を見たメイリンは、仰天して思わず叱ってしまった。
「キラさん、銃なんか投げちゃダメですよ!暴発したらどうするんですか!」
「わかってる…けど、撃つより…早いから…」
しぶしぶ答えたキラを見て、メイリンは今度は開いた口が塞がらなかった。
(姉さん…姉さんより根本的にダメな人がいたよ…)
メイリンは仕方なく、丸腰になったキラを後ろに庇って下がった。
やがて最後の銃声が収まり、ダコスタが制圧完了の合図をした。
ラクスはミーアを促して表に出ると、手を振って礼を言った。
「ダコスタくん、ありがとう!」
「いえいえ、いつもの事ですから」
そして(あなたのムチャクチャには慣れてますし)と心の中で続ける。
アスランはラクスの後ろにいるミーアを改めて見つめた。ミーアはそんな彼女に気づくと脅えたように目を逸らす。
「ミーア…怪我はない?」
「…う、うん…きみは…大丈夫?」
「大丈夫よ」
そう答えると、アスランは今度はラクスに向き直って詰め寄った。
「ラクス…」
「アスラン。あまりムチャしないでくれ」
いたわるように自分の頬に触れた彼の手を、アスランはやや乱暴に引き剥がした。
「…一体どういうこと?」
怒りを湛えた彼女の瞳を見て、ラクスは頷いた。
「わかってる。後でちゃんと説明するよ」
「ん?おい…何だ?」
ネオはアカツキのコックピットから巨大なリゾートホテルを眺め、座標にある屋外アリーナに降り立った。あちこちに遺体が転がる物騒な状況に、ネオは何があったのやら…とハッチを開けた。
「大丈夫か?お嬢ちゃんたち」
「遅いです、ムウさん!」
パタパタと服の埃を払っていたキラが言うと、ネオは肩をすくめた。
「急いだんだぜ、これでも」
「すみませんが、ラクスたちを…」
キラが手を向けた方を何気なく見て、ネオはぎょっとした。
そこにはラクス・クラインが2人いたからだ。
「こいつは驚いた…そっくりだぜ」
「2人を早く、アークエンジェルへお願いします」
「あ、ああ…わかったよ」
キラがそう頼むと、ネオは戸惑った表情のままアカツキのマニピュレーターを動かした。
「大丈夫?」
アスランはキラに駆け寄ると尋ねた。
「うん、何とか。メイリンが守ってくれたしね」
その言葉に、アスランは空薬莢を盛大にパージしているメイリンに向き直った。
「ほんとにあなたも…いつもごめんなさい」
「いえ…はい………まぁ…」
メイリンは苦笑しながら答えた。
(ムチャをするのはアスランさんだけかと思ってたけど、この人たちといると命がいくつあっても足りなさそうだ)
「ほら、王子様」
ネオはラクスを促し、キラはそのムウらしい呼び方にくすっと笑った。
「さ、きみも。一緒に行こう」
ラクスがミーアに手を差し伸べたその時だった。
背を向けたラクスには見えなかったが、ラクスを見ているミーアには血まみれで瀕死の状態のサラが震える手で銃を構えているのが見えた。
(いけない!ラクス様が…!)
「危ない!」
彼がラクスを突き飛ばしたのと、銃声が響き渡ったのは同時だった。
ラクスを庇って撃たれたミーアは、力なく倒れこんだ。
アスランは咄嗟に銃を構えて狙撃者を狙ったが、それより早くダコスタたちが彼女の確保に動いていた。
彼らに捕えられた女の姿をまじまじと見て、アスランは息を呑んだ。
(あれは…!)
一方ラクスは目の前で自分を庇って倒れたミーアを腕に抱いていた。
キラとメイリンも驚いて彼らの元に駆け寄っていく。
ミーアは真っ青な顔で吸い込むように音を立てて荒い呼吸をしていた。腹部の出血がひどく、すぐに医療に長けた兵が傷を見たが、首を振った。
「ミーア!」
ダコスタたちに連れ去られる傷だらけのサラを見送ったアスランも、急いで傍にやってきてラクスの傍らに跪く。
「ミーアくん…」
ラクスが腕の中の彼に優しく呼びかけた。
しかしもう最期が近いと知り、眼でアスランにコンタクトする。
「ミーア…」
アスランはラクスと共に彼の体を支えると、もう一度名を呼んだ。苦しそうなミーアはアスランの声を聞くと、弱々しく眼を開けた。しかしもう彼の瞳にはアスランもラクスも見えていないようだ。
ミーアが血まみれの震える手を持ち上げると、アスランは空を掻いているその手を取り、ぎゅっと握り締めた。
「わかる?ミーア。私の事…」
苦しそうな吐息と共に「うん」と頷くと、ミーアは呟いた。
「僕…僕の…命…どうか…忘れないで…」
「…忘れないわ…」
アスランが優しく言うと、ミーアは嬉しそうに微笑んだ。
それからすがるように隣にいるラクスを呼ぶ。
「ラ…ク…ラク…スさま…」
―― ゆ・る・し・て…
声にならない言葉が、血の気を失った唇の動きで読み取れた。
ラクスは優しく微笑むと、アスランの手ごと、彼の手を握った。
「きみは何も悪くない。謝る必要なんかないんだ」
「ありが…と…」
「忘れないよ…僕も。誰も、きみの事を忘れないから」
それを聞いて、彼は今度こそ本当に安心したように深く息をついた。
―― アスラン…ラクス様…
彼の瞼に、最後に見た2人の姿が映し出された。
ああ…思ったとおり、彼らは優しく、気高く、憧れるべき存在だった。
だから…過去を捨てていない、本当の姿で…本当の自分自身として…
「もっと…ちゃんと…会い…たかっ…」
彼の呼吸が静かに止まっても、そこにいる誰も動かず、誰も何も言わなかった。
メイリンはプラントを席巻した「偽者」の壮絶な死を見つめて黙りこみ、キラもまたネオやダコスタと視線を交わして目の前の3人を見つめた。
クライン派の兵たちも今はただ黙って、偽者の死を悼む彼らを見ていた。
ラクスはミーアの亡骸を抱きながら、もう片方の腕で小さく震えているアスランの肩を優しく抱き締めている。アスランは声を出さずに、ただ静かに泣いていた。
(ミーア・キャンベル…偽りの名の人生を歩んだ、もう1人の僕)
ラクスは彼の眠っているような顔を…自分と同じ顔を見つめた。
「健康な体を持ち、無邪気に、無心にプラントの人気を一身に集めるきみを、僕は心のどこかで羨ましいと思っていたのかもしれない」
「ハロ、ハロ!ミトメタクナーイ!」
ラクスはふと、人々が集まっている場所から少し離れた場所で自分のハロが飛び跳ねている事に気づいた。
そこには流れ弾に当たって壊れ、ギーギーとモーター音を立てているミーアのハロがあった。やがて「…YOU…YO…」と音声が繰り返され、赤いハロは先に逝った主人を追いかけるように動きを止めた。
「ハロ…ハロ……アカンデェ…」
するとラクスのハロもそのまま動きを止め、静かになった。
まるで自分によく似た彼がいなくなったことを哀しむかのように…
ラクスの青い瞳が、再び物言わぬ彼を見つめ、やがて閉じられた。
(不思議だね…僕も、まるで半身を失ったように辛いよ)
僕になろうとし、僕であろうとしたミーア・キャンベル…ラクス・クラインという名の、短い偽りの人生を歩んだきみ。
「でも…きみは最期まで、紛れもなくきみだった」
それだけは、真実だ。
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制作裏話-PHASE46②-
ラクスに振り回され続けるアスランを見て、メイリンとキラが「現実なんてこんなもん」と苦笑している頃、計画は着々と進行しています。
サラの計画は、彼らが接触した家族の子供を人質に取り、その親を脅してラクスに爆弾を仕込んだハロを渡させる事でした。しかしこれは見破られても構いませんでした。本命はその後、人質を盾に野外ステージまで呼び出すことだった、としたかったのです。
しかしこれはラクスがキラに「既に手を回してある」と言ったように、ダコスタが子供を確保して家族のもとに返しているので、人質の脅しは効きません。ちなみにそれを伝えに来るはずのルートは既に潰されているので、メッセンジャーはラクスたちに脅しのメールを渡す事ができなくなっています。
アスランはラクスが相手が誰なのかわかっていると感じ取りますが、ラクスもまた、アスランが「ミーア・キャンベル」を知っていながら何も語らなかったことを軽く責めています。だからアスランも、指揮官の顔に戻ったラクスにそれ以上は強く言うことができません。2人にやけに間の抜けた会話をさせておいたのは、このやりとりに緩急をつけるためでした。
爆弾処理は初めは普通にアスランにやらせるつもりだったのですが、そういえばアスランの代のトップはニコルだったっけと思い出し、ならメイリンにやらせればアスランがニコルを懐かしく思い出す事ができるなと考えて変更しました。
だって「アスランがニコルを思い出す=殺す」だけじゃ可哀想ですもんね、ニコル。少し照れたようなニコルとメイリンを重ね合わせる事で、共にアスランに想いを寄せていた彼らを対比することもできますし(これは男女逆転ならではの利点にもなります)
同時に、実は遺伝子の選別さえなければルナマリア以上に赤服に近かったメイリンの優秀さも示す事ができます。メイリンはこの後、射撃もモビルスーツの操縦もめきめき頭角を現すので、きっと将来的には「一体どうして彼が赤服ではなかったのか」と噂されるような優れた軍人になっていくでしょうね。
さてサラの思惑を出し抜いて先回りし、予定時間よりずっと早くアリーナに到着したラクスとアスランは、待っていたミーアと対峙します。
ここで本編と違うのはキラとメイリンが姿を現さないことです。ラクスはダコスタたちが警戒している事を知っているので全員で出て行っても構わないと思っていますが、アスランは仮にも護衛任務をこなしてきていますから、4人しかいない(と思っている)手の内を全てさらけ出すのは得策ではないと考えています。そこで2人は姿を隠して警戒しているという設定にしました。
本編では綴りが思いっきり間違っていて「ミーアは字も書けないし文法も間違ってるアホ」と露呈した手紙を持ってきただけでしたが、逆転のハロは爆弾を仕込まれてバラされたので、キラに直させました。(ハロといえば本来はアスランですが、緊迫した状況で堅物のアスランがまさかそれをやるとは思えないので)SEだかゲームだかの映像では、実際にラクスに頼まれてキラがハロの修理をしているシーンがありますしね。
そしていよいよ本当の「ミーアVSラクス」が始まります。
ここでは種本編のPHASE10で、キラがラクスをアスランに返した時のシーンを重ね合わせました。
あのシーンはどうしようもなく孤独だったあの頃のキラにとっては、本当に眩しかったと思います。それをミーアにも感じさせました。
キラや議長も言ってましたけど、彼らが思う以上にラクスとアスランはプラント民が理想とするようなカップルなんですよね。もちろん、本編の2人も絶対お似合いだと思います。本編のこの時、2人が並び立った時は正直私もちょっと心が躍りました。なので逆転のラクスは、本編のラクスが言わなかった「アスランの命を救ってくれてありがとう」と礼を言い、アドバンテージを見せつけられたミーアの心を刺します。これはどうせなら本編でも言って欲しかったなぁ…だって、事実なんですもんね。
ミーアには2人は愛し合う婚約者同士に見えるからこそ、ラクスに「優位性」を見せ付けられたような気がして傷つくんですが、実際はアスランとラクスはどんなにお似合いに見えても実は既にカップルではない事は視聴者が知っているのも面白い。
ミーアはヤケクソのように、ラクスの名前も顔も全部自分のものだと叫びますが、本編のミーアが言わなかった「アスラン、きみも!」とつけ加えました。やっぱり男性の方が所有欲が強いと思いますのでね。
そして何よりも絶対にミーアに言わせようと思っていたセリフは、「全てを捨てて逃げたくせに!」です。
これは本編でも誰かがラクスに言わなければならなかったセリフですよね。実際、ラクスは好む好まざるに関わらず、前大戦であれだけの働きをした人間なんですから、クライン派の旗頭として絶対にプラントに残らなければならなかったんですよ。姿をくらまして恋人と隠遁ライフなんて絶対に許されない立場なんですよ、彼女は。これを糾弾する必要があるので逆転ではここでミーアに言わせ、ラクスには次回、きっちり反省してもらいます。
しかし本編のラクスはこの後も相変わらずわけのわからないことを言うだけだったので、ここでも苦労してセリフを加えたり改変しています。だって「私は私、あなたはあなた。だから出会えるのでしょう?自分と、人に」って、何が言いたいのかよくわからないんですよ、私には。
なので独自の解釈を加え、「他人を見ることで自分の姿が見える」としました。ことにラクスには「前大戦後、プラントに残らねばならなかったのに、重責から逃げた自分」を反省させる目的がありましたから、本当は故国にとって「自分がいかにあるべきか」をミーアが教えてくれた、としたかったのです。
しかし彼らの会話はヨウランとヴィーノが大好きなセクシーで可愛い「クラインガールズ」たちに邪魔されます。
彼らがミーアの護衛であり、慰めをもたらすコールガールであり、同時に訓練された殺し屋部隊である事はずっと以前から決めていました。本編のようにいきなり出てきた黒服より、おっかない本性を剥き出しにしたセクシーな女戦士の方がビジュアル的にも面白いかなと思ってのことです。
本性を表した彼女たちと戦闘に入ったアスランは、メイリンとキラの援護を受けながらミーアを連れてくると、果敢に飛び出していきます。
アスランの勇敢さはラクスにとっては頭痛の種です。本編とは違ってダコスタたちがいるので無理をせず応戦してくれればいいのですが、何しろ鉄砲玉ですからね。
ここでダコスタを出したのはサラとの因縁を伏線として利用するためですが、実はもう一つがアスランとの因縁です。ダコスタは果敢にもヤキン・ドゥーエに戻ってきて父と対決し、まんまと捕らえられたアスランを救う際「無茶な人ですね」とあきれ返っていますから、ここでその「縁」を使わない手はありません。本編では種のPHASE44以来全く関係のなかった二人ですが、逆転ではうまく利用する事ができました。
サラが手榴弾を投げるシーンでは、本編でもメイリンとキラがそれを撃ち落したらしい銃撃シーンがあるのですが、どっちがやったのかはわからないので、ここは逆転ならではの「キラらしい」シーンを創作しました。今回はセーフティーは外しているのでキラも初めは普通に撃ってますけど、久々に銃を打撃に使うというものです。逆種のPHASE19で「銃は殴るもんじゃない」とカガリが怒ったように、メイリンも仰天して思わず怒ってしまいます。キラは姉のルナマリア以上にダメダメです。
それと同時に前半では、訓練の時にシンが銃ではなく格闘で教官を倒してしまい「銃を使え!」と怒られたという回想を入れ、主人公同士を対比させてみました。
ダコスタたちが現れたことでこの騒ぎの制圧はなされましたが、一体何がどうなっているのか、アスランとしては当然納得がいきません。
ラクスもとりあえずあとで説明すると言い、本編どおりネオも迎えに来ましたが、安心して気が緩んだ彼らのわずかな油断がサラに最後の引き金を引かせてしまいます。
なお本編では瀕死のサラをアスランが撃ち殺して終わりますが、逆転ではある意図があったため、重傷の彼女をダコスタたちが取り押さえて確保します。
ラクスを庇ったミーアはこうして銃弾に倒れ、哀れな一生を終えます。本編ではメイリンもラクスも泣いていましたが、ここでは彼をよく知るアスランだけを泣かせました。もちろん、彼女はカガリの前以外では声を出して泣かないのは逆転での設定どおりです。
なお、逆転では健康を害しているラクスなら、健やかで屈託のないミーアを心のどこかでは羨ましいと思ったに違いないと思い、PHASE29でも「ザフトの医療のおかげで元気になりました」と答えるミーアの言葉に苦笑させておきました。ミーアがラクスを羨ましがっていたように、ラクスもまた、自分にないものを持っていたミーアに憧れていたとしたかったのです。本編のラクスはあまりにも優位すぎて隙がなく、面白みのないキャラですからね。可愛いけど。
壊れてしまった赤いハロについては、偽者の死を悼む「本物」のラクスの心境を反映させる小道具として使いました。
反面、本編ではこれが本当にコーディネイターかよと呆れさせるほどブサイクだった「ミーアの素顔の写真」はなしです。ミーアは最後まで名前以外は明かされず、どこの誰とも知れないまま死んでいった…それによって議長の提唱する世界では、役割を失った人間の末路がいかに惨めかを浮き立たせようとしました。
サラの計画は、彼らが接触した家族の子供を人質に取り、その親を脅してラクスに爆弾を仕込んだハロを渡させる事でした。しかしこれは見破られても構いませんでした。本命はその後、人質を盾に野外ステージまで呼び出すことだった、としたかったのです。
しかしこれはラクスがキラに「既に手を回してある」と言ったように、ダコスタが子供を確保して家族のもとに返しているので、人質の脅しは効きません。ちなみにそれを伝えに来るはずのルートは既に潰されているので、メッセンジャーはラクスたちに脅しのメールを渡す事ができなくなっています。
アスランはラクスが相手が誰なのかわかっていると感じ取りますが、ラクスもまた、アスランが「ミーア・キャンベル」を知っていながら何も語らなかったことを軽く責めています。だからアスランも、指揮官の顔に戻ったラクスにそれ以上は強く言うことができません。2人にやけに間の抜けた会話をさせておいたのは、このやりとりに緩急をつけるためでした。
爆弾処理は初めは普通にアスランにやらせるつもりだったのですが、そういえばアスランの代のトップはニコルだったっけと思い出し、ならメイリンにやらせればアスランがニコルを懐かしく思い出す事ができるなと考えて変更しました。
だって「アスランがニコルを思い出す=殺す」だけじゃ可哀想ですもんね、ニコル。少し照れたようなニコルとメイリンを重ね合わせる事で、共にアスランに想いを寄せていた彼らを対比することもできますし(これは男女逆転ならではの利点にもなります)
同時に、実は遺伝子の選別さえなければルナマリア以上に赤服に近かったメイリンの優秀さも示す事ができます。メイリンはこの後、射撃もモビルスーツの操縦もめきめき頭角を現すので、きっと将来的には「一体どうして彼が赤服ではなかったのか」と噂されるような優れた軍人になっていくでしょうね。
さてサラの思惑を出し抜いて先回りし、予定時間よりずっと早くアリーナに到着したラクスとアスランは、待っていたミーアと対峙します。
ここで本編と違うのはキラとメイリンが姿を現さないことです。ラクスはダコスタたちが警戒している事を知っているので全員で出て行っても構わないと思っていますが、アスランは仮にも護衛任務をこなしてきていますから、4人しかいない(と思っている)手の内を全てさらけ出すのは得策ではないと考えています。そこで2人は姿を隠して警戒しているという設定にしました。
本編では綴りが思いっきり間違っていて「ミーアは字も書けないし文法も間違ってるアホ」と露呈した手紙を持ってきただけでしたが、逆転のハロは爆弾を仕込まれてバラされたので、キラに直させました。(ハロといえば本来はアスランですが、緊迫した状況で堅物のアスランがまさかそれをやるとは思えないので)SEだかゲームだかの映像では、実際にラクスに頼まれてキラがハロの修理をしているシーンがありますしね。
そしていよいよ本当の「ミーアVSラクス」が始まります。
ここでは種本編のPHASE10で、キラがラクスをアスランに返した時のシーンを重ね合わせました。
あのシーンはどうしようもなく孤独だったあの頃のキラにとっては、本当に眩しかったと思います。それをミーアにも感じさせました。
キラや議長も言ってましたけど、彼らが思う以上にラクスとアスランはプラント民が理想とするようなカップルなんですよね。もちろん、本編の2人も絶対お似合いだと思います。本編のこの時、2人が並び立った時は正直私もちょっと心が躍りました。なので逆転のラクスは、本編のラクスが言わなかった「アスランの命を救ってくれてありがとう」と礼を言い、アドバンテージを見せつけられたミーアの心を刺します。これはどうせなら本編でも言って欲しかったなぁ…だって、事実なんですもんね。
ミーアには2人は愛し合う婚約者同士に見えるからこそ、ラクスに「優位性」を見せ付けられたような気がして傷つくんですが、実際はアスランとラクスはどんなにお似合いに見えても実は既にカップルではない事は視聴者が知っているのも面白い。
ミーアはヤケクソのように、ラクスの名前も顔も全部自分のものだと叫びますが、本編のミーアが言わなかった「アスラン、きみも!」とつけ加えました。やっぱり男性の方が所有欲が強いと思いますのでね。
そして何よりも絶対にミーアに言わせようと思っていたセリフは、「全てを捨てて逃げたくせに!」です。
これは本編でも誰かがラクスに言わなければならなかったセリフですよね。実際、ラクスは好む好まざるに関わらず、前大戦であれだけの働きをした人間なんですから、クライン派の旗頭として絶対にプラントに残らなければならなかったんですよ。姿をくらまして恋人と隠遁ライフなんて絶対に許されない立場なんですよ、彼女は。これを糾弾する必要があるので逆転ではここでミーアに言わせ、ラクスには次回、きっちり反省してもらいます。
しかし本編のラクスはこの後も相変わらずわけのわからないことを言うだけだったので、ここでも苦労してセリフを加えたり改変しています。だって「私は私、あなたはあなた。だから出会えるのでしょう?自分と、人に」って、何が言いたいのかよくわからないんですよ、私には。
なので独自の解釈を加え、「他人を見ることで自分の姿が見える」としました。ことにラクスには「前大戦後、プラントに残らねばならなかったのに、重責から逃げた自分」を反省させる目的がありましたから、本当は故国にとって「自分がいかにあるべきか」をミーアが教えてくれた、としたかったのです。
しかし彼らの会話はヨウランとヴィーノが大好きなセクシーで可愛い「クラインガールズ」たちに邪魔されます。
彼らがミーアの護衛であり、慰めをもたらすコールガールであり、同時に訓練された殺し屋部隊である事はずっと以前から決めていました。本編のようにいきなり出てきた黒服より、おっかない本性を剥き出しにしたセクシーな女戦士の方がビジュアル的にも面白いかなと思ってのことです。
本性を表した彼女たちと戦闘に入ったアスランは、メイリンとキラの援護を受けながらミーアを連れてくると、果敢に飛び出していきます。
アスランの勇敢さはラクスにとっては頭痛の種です。本編とは違ってダコスタたちがいるので無理をせず応戦してくれればいいのですが、何しろ鉄砲玉ですからね。
ここでダコスタを出したのはサラとの因縁を伏線として利用するためですが、実はもう一つがアスランとの因縁です。ダコスタは果敢にもヤキン・ドゥーエに戻ってきて父と対決し、まんまと捕らえられたアスランを救う際「無茶な人ですね」とあきれ返っていますから、ここでその「縁」を使わない手はありません。本編では種のPHASE44以来全く関係のなかった二人ですが、逆転ではうまく利用する事ができました。
サラが手榴弾を投げるシーンでは、本編でもメイリンとキラがそれを撃ち落したらしい銃撃シーンがあるのですが、どっちがやったのかはわからないので、ここは逆転ならではの「キラらしい」シーンを創作しました。今回はセーフティーは外しているのでキラも初めは普通に撃ってますけど、久々に銃を打撃に使うというものです。逆種のPHASE19で「銃は殴るもんじゃない」とカガリが怒ったように、メイリンも仰天して思わず怒ってしまいます。キラは姉のルナマリア以上にダメダメです。
それと同時に前半では、訓練の時にシンが銃ではなく格闘で教官を倒してしまい「銃を使え!」と怒られたという回想を入れ、主人公同士を対比させてみました。
ダコスタたちが現れたことでこの騒ぎの制圧はなされましたが、一体何がどうなっているのか、アスランとしては当然納得がいきません。
ラクスもとりあえずあとで説明すると言い、本編どおりネオも迎えに来ましたが、安心して気が緩んだ彼らのわずかな油断がサラに最後の引き金を引かせてしまいます。
なお本編では瀕死のサラをアスランが撃ち殺して終わりますが、逆転ではある意図があったため、重傷の彼女をダコスタたちが取り押さえて確保します。
ラクスを庇ったミーアはこうして銃弾に倒れ、哀れな一生を終えます。本編ではメイリンもラクスも泣いていましたが、ここでは彼をよく知るアスランだけを泣かせました。もちろん、彼女はカガリの前以外では声を出して泣かないのは逆転での設定どおりです。
なお、逆転では健康を害しているラクスなら、健やかで屈託のないミーアを心のどこかでは羨ましいと思ったに違いないと思い、PHASE29でも「ザフトの医療のおかげで元気になりました」と答えるミーアの言葉に苦笑させておきました。ミーアがラクスを羨ましがっていたように、ラクスもまた、自分にないものを持っていたミーアに憧れていたとしたかったのです。本編のラクスはあまりにも優位すぎて隙がなく、面白みのないキャラですからね。可愛いけど。
壊れてしまった赤いハロについては、偽者の死を悼む「本物」のラクスの心境を反映させる小道具として使いました。
反面、本編ではこれが本当にコーディネイターかよと呆れさせるほどブサイクだった「ミーアの素顔の写真」はなしです。ミーアは最後まで名前以外は明かされず、どこの誰とも知れないまま死んでいった…それによって議長の提唱する世界では、役割を失った人間の末路がいかに惨めかを浮き立たせようとしました。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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