機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「…はい、そうです。このままアークエンジェルに運んでください」
キラはミーアをストレッチャーに乗せた兵にそう言うと、ダコスタが用意してくれた白い布を彼の遺体にかけてやった。
それからいつまでも動けずにいるアスランとラクスを促し、メイリンに、彼らを乗せるため正面玄関に車を回すよう頼んだ。
しかし次の瞬間、2人はアスランの「ラクス!」という声で振り返った。
見れば倒れこんだラクスを抱え、アスランも膝をついている。
消耗が激しかったのか、ラクスはひどく熱を出していた。
キラはアークエンジェルに連絡を入れてすぐに医療班を待機させ、ネオがアカツキのコックピットに彼を乗せて飛び去った。
誰もが言葉少なく、誰もが何とも言えない重苦しさで一杯だった。
「ラクスくんを庇って?」
ミーアの遺体を安置させると、マリューはキラたちから今回の事件のいきさつを聞いた。ネオは後味が悪そうに呟く。
「ああ。あいつだけが気づいたんだな。飛び出して…」
俺がもう少し早く気づいていればとネオがため息をつくと、マリューは慰めるように彼の肩を叩き、それからキラに訊ねた。
「それで、ラクスくんは?」
「熱が高くて…久しぶりの外出に銃撃戦ですから、かなり疲れたんだと思います」
キラがメイリンと目配せしながら答えた。
アスランはあれ以来、つききりでラクスを看ている。
(こんな時にプラントに動きがあるなんて…)
重苦しい雰囲気の中で、ミリアリアはモニターを見つめた。
ニュースでは先ほどからしきりに、じきにプラント最高評議会議長デュランダルが、全世界に向けて何か発表を行うと告げていた。
キラはミーアをストレッチャーに乗せた兵にそう言うと、ダコスタが用意してくれた白い布を彼の遺体にかけてやった。
それからいつまでも動けずにいるアスランとラクスを促し、メイリンに、彼らを乗せるため正面玄関に車を回すよう頼んだ。
しかし次の瞬間、2人はアスランの「ラクス!」という声で振り返った。
見れば倒れこんだラクスを抱え、アスランも膝をついている。
消耗が激しかったのか、ラクスはひどく熱を出していた。
キラはアークエンジェルに連絡を入れてすぐに医療班を待機させ、ネオがアカツキのコックピットに彼を乗せて飛び去った。
誰もが言葉少なく、誰もが何とも言えない重苦しさで一杯だった。
「ラクスくんを庇って?」
ミーアの遺体を安置させると、マリューはキラたちから今回の事件のいきさつを聞いた。ネオは後味が悪そうに呟く。
「ああ。あいつだけが気づいたんだな。飛び出して…」
俺がもう少し早く気づいていればとネオがため息をつくと、マリューは慰めるように彼の肩を叩き、それからキラに訊ねた。
「それで、ラクスくんは?」
「熱が高くて…久しぶりの外出に銃撃戦ですから、かなり疲れたんだと思います」
キラがメイリンと目配せしながら答えた。
アスランはあれ以来、つききりでラクスを看ている。
(こんな時にプラントに動きがあるなんて…)
重苦しい雰囲気の中で、ミリアリアはモニターを見つめた。
ニュースでは先ほどからしきりに、じきにプラント最高評議会議長デュランダルが、全世界に向けて何か発表を行うと告げていた。
『今、私の中にも皆さんと同様の哀しみ、そして怒りが渦巻いています』
(哀しみ、怒り…どろどろした憎悪、嫌悪、嫉妬…)
たくさんの汚いものが自分の胸の中にも渦巻いている。
何よりもこの忌々しい、傷ついたひ弱な体への怒りと嘆き。
そして奪われた未来への諦めきれない想いと、奪った者への想い…
押し殺し、封印し、忘れようとしているナチュラルたちへの想い…
(そんな風に簡単に言うな…誰にも、僕の怒りと哀しみがわかるはずがない)
「気がついた?」
うっすらと眼を開いたラクスを見て、アスランが心配そうに覗き込んだ。
途端に「マイド!」とハロが飛び跳ねたので、慌ててハロを手の中に収める。
「ずいぶん眠っていたのよ。気分はどう?」
『何故こんなことになってしまったのか…考えても既に意味のない事と知りながら、私の心もまた、それを探してさまよいます』
「…誰…?」
「え?」
「誰が……喋ってる…?」
ああ、とアスランはモニターを振り返った。
「議長よ。さっきからどのチャンネルも繰り返し流してる」
「…始まったのか…」
ふぅ、とラクスが息をついた。
アスランは何も答えず、汗をかいている彼の額を拭いた。
『私たちはつい先年にも、大きな戦争を経験しました』
ラクスが眼を閉じたので、アスランはボリュームを下げようとしたが、ラクスはそのままでいいと言った。
やがて彼はゆっくり話し出した。
「…その戦争を始めたのは、僕の父だ」
「ラクス?」
「人は皆、きみの父上の罪を叫ぶ。彼は独裁者だった。危険思想を持っていた。選民思想の権化だった、と…」
アスランは穏やかに「仕方がないわ」と答えた。
「実際、そうだったもの。私への遺言は『ジェネシスを撃て』よ」
ラクスはそれを聞いてふっと笑った。
「だけど、あの戦争を泥沼化させ、拡大させたのは間違いなく僕の父だ」
『そしてその時にも誓ったはずでした』
報復戦だった激しいL1の宇宙樹攻防戦、Nジャマーキャンセラーの無差別投下、地上でのカーペンタリア、ビクトリア、カサブランカ、スエズ攻防戦、月での激戦となったグリマルディ戦線、L4新星攻防戦…サイクロプスの暴走や、エクステンデッドの前身であるブーステッドマンの投入など、闇に葬られた残酷な作戦も数多い。
「穏健派と言われた父の施政下では、常に戦い、戦い、戦いだった」
「それは…私の父が国防委員長だったからよ」
アスランはいつもと違う彼の様子をいぶかしみながら静かに言う。
「違う」
しかし彼は首を振った。
「最高評議会議長だった僕の父が、どれだけの戦いを承認したと思う?父は、ナチュラルへの報復を叫ぶ評議会や世論を、ほとんど抑え切れなかったんだよ」
「ラクス…」
ラクスはやさぐれたように「ふん」と鼻を鳴らした。
「…カガリくんが首長会を抑えられなかった事より、なお悪い」
『こんな事は、もう二度と繰り返さないと』
「僕は、あの戦争を止めようとした」
けれど、想いだけでは戦争は止まらない。
「政治の世界はそんなに簡単なものじゃなかった…複雑で、入り組んで、僕たちが『正論』だと信じるものが簡単に握り潰され、踏み躙られた」
アスランは黙って彼の言葉に耳を傾けている。
「きみたちが命を懸けて戦ってくれたから、戦争は最終局面まで来てようやく終わった。でも事態は泥沼化し、さらに混沌としていて…僕たちの力は微々たるもので、僕は自分の無力さに絶望した」
それから、ラクスはふとアスランから顔を背けた。
「…ラクス?」
「…きみが、父上のことで苦しんでいる事も知っていたけど、僕は見て見ぬふりをした。あの戦争の責任を負うべきは、パトリック・ザラだけじゃない。シーゲル・クラインにも多大な罪があった。それは、僕だって…わかってたんだ…」
(そうだ…わかっていたのに、僕は過去を見ようとはしなかった)
「理由にしたのは、体のこと。でも本当は…」
ラクスはいつになく暗い表情でぼそぼそと呟き続けている。
そんな彼を見るのは、長い付き合いのアスランにとっても初めてだった。
(温厚で優しいクライン議長のことを、そんな風に思っていたなんて…)
自分の事を、いずれ義理の娘になるのだからと何かと眼をかけ、可愛がってくれたシーゲルを思い出し、アスランは少し首を傾げながらラクスを見つめていた。
「重責に耐えられないと思った。プラントをよりよく変えるためには、上に立たなければならず、責任を持ってそれに挑まなければならない。僕は皆からそう期待され、そう望まれていたことも知っていたのに…」
その途端、ははっ…とラクスが自嘲気味に笑った。
「ミーアくんが言ったね。僕は、全部捨てて逃げたって…」
アスランはラクスに銃を向け、悲痛とも言える声で叫んだ彼を思い出した。
(おまえは、僕が欲しかったものを…全部捨てて逃げたくせにっ!)
彼がどれほどラクスに憧れ、そうありたいと願っていたのか…彼がいなくなった今、それを知るのはもうアスランだけだった。
「そう、逃げたんだ…僕は逃げた。怖かった。嫌だった。責任を負わされることも、見えない道を進むことも…何より、期待を裏切って非難されることが怖かった」
ラクスは点滴をしていない方の手を持ち上げ、額ごと眼を覆った。
「全てを背負うなんて、絶対に無理だと思ったよ」
「ラクス…」
「実際無理だった。僕には…何の力もなかったから…」
かつてアスランは、彼らが今いるこのアークエンジェルから、ラクスがキラによって開放された時、ラウ・ル・クルーゼに攻撃をやめるよう命じるのを見て驚いたが、あの時と同じく、さらけ出された見知らぬラクス・クラインを見て驚いていた。
いつも自信に満ちていて、余裕があるように見える彼の内面に、こんな脆さがあったとは…彼女はハロを手に、ただ黙って彼の話を聞いていた。
『…にも関わらずユニウスセブンは落ち、努力も虚しく、またも戦端が開かれ、戦火は否応なく拡大しました…』
ラクスがスピーカーから流れる議長のその言葉を聞いて、きっとそちらを睨む。
「何を言う!全てを自分で引き起こし、世界をあれだけ混乱させておいて!」
「落ち着いて…わかってる。私たちはわかってるわ…」
アスランは珍しく声を荒げたラクスの肩を、そっと叩いてなだめた。
「あなた、彼女のことをずっと追っていたのね」
高熱を出したラクスが医療班による治療を受けている間に、アスランはキラやマリューたちから今回の事情を聞いていた。
調査の中にあった写真の、ラクスを狙い続けた過激派のリーダーと密会していた女…それは、ミーアを撃ち殺したあの女だったのだ。
「私は暗殺事件の後、独自に彼女の調査を続けていまして…」
ダコスタがデータを示しながらアスランに説明した。
「恥ずかしながら、彼女の素性だけがどうしても調べ切れなかったんです。ラクス様はある程度証拠が揃ったのでもういいと仰ったんですが、何しろラクス様を暗殺しようとした教唆犯かもしれない…そうなると、これは決して放ってはおけないわけです、我々クライン派としては!」
そんな風に鼻息を荒げるダコスタの後を、キラが引き継いだ。
「たまたま別の方面からも彼女を調べていた機関があって、そのおかげでやっとあの人の動きを掴む事ができたんだって」
「『サラ』というコードネームの彼女はデュランダルの子飼いでして、彼が欲する情報収集を一手に引き受けていた優秀なエージェントです。ジブラルタルから月に上がった彼女を、我々はずっと監視していました」
ダコスタは判明した彼女のデータをモニターに出した。
彼女を調べていた機関とは無論、死ぬ間際にジブリールが放った調査員である。
「彼女が動きやすいよう、ラクス様はご自分を囮にすると仰いました。アークエンジェルがコペルニクスに着いた事を公にし、そして街に出て自らの姿を晒す…それによって逆に彼女をおびき出すのが作戦でした」
アスランは皆がラクスに代わって説明する今回の件について、ただ黙って聞いていた。何も知らされていなかったのは、自分とメイリンだけだった。
「俺も何も知らなかったぜ?」
ネオも不服そうに言ったが、マリューはそれは敢えて黙殺して続ける。
「ラクスくんからは、あなたには黙っていて欲しいと言われて…」
それから彼女は、「こんな事になってしまって、本当にごめんなさい」と沈痛な面持ちで謝った。
ダコスタたちも、彼を死なせてしまったのは我々の安全確保が甘かったからだと深々と頭を下げた。むしろミーアがラクスを庇わなければ、本当にラクス自身が撃たれていた可能性が高いのだ。だから制圧完了の合図を出したダコスタは、本当に恐縮していた。
「ですが、ラクス様は、どんな危険があってもミーア…というあの彼の安全を図るよう、くれぐれも頼むとおっしゃいました」
ダコスタがそれだけは信じてくださいとアスランに言う。
アスランは表情を変えずに、「一般人を巻き込みかけたことは?」と聞いた。
「キラ・ヤマトに合図を送ったり、それぞれ監視もつけていましたが、あれも我々のミスです。もちろん、子供はすぐに確保して家族の元に返しました。ですが、彼らを利用されてしまったのは申し訳ない…」
「ラクスの護衛に目を奪われすぎたんですね?」
恐らく、ラクスに接触した家族を狙い、その後子供をさらって爆弾を母親に渡した犯人の見事な手際に惑わされたのだろう。
「面目ない…そうなのです」
「私が護衛していたのに…」
アスランがやや不服そうに言うと、ダコスタは頷いた。
「確かに、我々が互いに互いの動きを計算に入れられれば、もっとうまくやれたでしょう。それぞれの盲点も補えたはずです」
サラの手の者に気づかれてはならないというハンディがあったダコスタたちには、どうしても彼らとの距離を保たざるを得ないというジレンマがあったのだ。
「そしてあなたの護衛は見事ですが、尾行に弱い。そうですね?」
アスランは弱点を突かれてややむっとする。
そうなのだ。護衛に気が行ってしまうと、尾行への警戒が留守になる癖がある。
実際はタルキウスでルナマリアに尾行されていたことにも気づかなかったことから、どうやら「護衛に気が行っている」だけではないようなのだが。
「私たちは、アスラン・ザラには知らせた方が安全だと言ったのですが…」
「どうして黙っていたの?」
アスランは静かにラクスに問いかけた。
頭ごなしに怒る気にはなれなかったが、知っていれば、何とかできたかもしれないと思わなくもない。
「きみには…真っ白な気持ちで判断して欲しかったんだよ」
しばらく黙っていたラクスが、やがて呟いた。
「きみはいつも自分の正義を計っている。公平で、平等であろうとする」
それからふふっと笑った。
「言ったろう?僕はきみを戦士だなんて思ったことはないって」
アスランはインフィニットジャスティスを前に、ひどく刺々しい気持ちで彼と話をしたあの時を思い出した。
「戦えてしまうから、そう見えるだけだ。きみはその、思い悩み、考えこんで物事を見極めようとする思考力を生かせばいいんだ」
『私たちは、またも同じ悲しみ、苦しみを得ることとなってしまいました』
「それこそが、きみの『力』の源なんだから」
「…力?」
「そう。強大な力に屈することなく、辛い孤独を恐れることなく、正しいと思えばそれを主張し通す事ができるのが、きみの『力』だよ」
「ただ頑固で融通が利かないだけじゃない」
アスランは苦笑いした。
「説明も下手だし、いつも相手に、言いたい事の半分も理解してもらえないわ」
アスランは寂しそうに言った。
(一番わかって欲しい相手に…シンには、私の声も想いも考えも、何一つ届けることができていないのだから)
「きみはまだ、やり方を知らないだけだよ」
ラクスは元気づけるように言った。
「それは技術や経験で補える。大切なのは、根本にその強さを持っているかどうかだ」
「強さ…」
「きみには、まっさらな気持ちで判断して欲しかった。僕が正しいのか、議長が正しいのか…結果は、思った以上に最悪なものになってしまったけれど…」
ラクスは大きなため息をついたが、その計画が残念な結果に終わったからというだけではなく、少し話し疲れたようだった。
アスランはそれを見てドクターを呼んだ。そしてふと思う。
(こんな時、カガリがいてくれたら…)
体のことだけではない。明るく前向きなカガリなら、ラクスをきっと、もっと楽にしてあげられるはずだった。
「カガリくんが…」
まるで今、彼女がカガリのことを考えているとわかったように、駆けつけた医療班に新たに点滴を増やされたラクスが言った。
「2年間、頑張っても頑張ってもちっとも結果が出せず、自分には力がない、お飾りの代表でしかないと思い悩み、もがいていた彼が、あの長い旅を続ける中で…見違えるほど立派になっていくのを見て…僕は焦ったよ」
ラクスはチラっとアスランを見た。
「きみも、そうだろ?」
アスランはぐっと言葉に詰まる。
「悩む彼を見て、きみも焦ったんだ。自分が本当にすべきことが何かあるって」
アスランは意地を張り、「別に…」と言いかけたが、ふっと息を吐いた。
「…そうね、焦ったんだわ。私も、何かしなきゃって」
彼女の白旗を見て可笑しそうに笑い、それから「不思議だね」と彼は言った。
「全てが見えてるつもりで、何かしなければと焦った僕たちはもたついてしまった。逆に、ずっと苦しんでいたカガリくんやキラは、いつの間にかちゃんと自分の行くべき道を見つけて、しっかりと歩き始めていた…」
アスランもそれは尤もだと思い、深く頷いた。
「キラは私よりずっと上手に力も権限も使ってるし、人望も厚いわ」
オーブ戦で、キラが戦場に舞い戻ったあの時…アークエンジェルのクルーも、ムラサメ隊も、キラの存在がそこにあるだけで、心強さと安心を得ることができていた。
それは彼女が無双の強さを誇る戦士だからだけではない。
(大切なものを守り抜きたいというキラの強くて優しい心が、人々を和ませ、楽にさせ、安心感を与えるからなんだわ…)
だから今は、それこそがキラの「力」なのだと思う。
自分がしたかった事…そうありたかった事を、キラは体現している。
(いつの間にか、すっかり差をつけられてしまった)
「…それに、カガリも…カガリは本当に…本当に…」
アスランは何もない左手の薬指を見、右の手でそれを覆い隠した。
「カガリくんは、すごいね。本当に」
ラクスが続きを引き取った。
「彼は、情けないことに僕が逃げ出した重い責務から、一度だって逃げようとした事なんかない。いつだって真っ直ぐぶつかっていく」
キラが迎えに行った、あのあまりにも理不尽で忌わしい結婚からさえ、彼は逃げる事をよしとはしなかった。国のため、使命と運命を受け入れようとした。
―― 傷ついても、苦しくても、決して諦めず、正面から挑んでいくんだ…
「あの強さは、彼がナチュラルだからなのかな?それとも…」
険しい顔つきをしていたラクスがふっと柔和な表情を見せる。
「きみが、そばにいたからかな?」
「…っ!」
アスランは思いもかけないその言葉に面食らい、それから少し赤くなった。
『本当にこれはどういうことなのでしょうか?』
「逃げたくせに、僕は諦め切れなかった。未練が残っていた」
演説するデュランダルの姿を見詰めながら、やがてラクスは続けた。
「なんとか、世界を正しい方向に導けないか…僕たちのプラントを平和で平穏な国にできないか…そう考えることを諦め切れなかった」
―― そのためには、力がいる。
「資金を集め、情報の要と武力の要を握ること。本当はもっと正当な方法をとりたいと思いつつ、自分にはあまり時間がないからと言い訳し、望まれる地位に就く事よりも、自分勝手な正義を貫く道を選んだんだ」
その矛盾を抱えながら、目的を果たそうとしたラクス…アスランはやはり彼とデュランダルが似ている事を痛感した。
『愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは…』
「でも、それではやっぱりダメだ。これでは僕はテロリストのままだ。カガリくんが『国家』という力で守ってくれたからこそ、僕たちは今、堂々と正義を貫けるようになった。僕たちは、彼に…守られてばかり…で…」
薬が効いてくると、ラクスは眼を閉じ、眠りに囚われ始めた。
「俺が間違ってるってんならそれでいい。だがあいつらも間違ってる!」
アスランはほっとため息をつき、怒りとも悲しみともつかないシンの叫びを思い出した。
(シン…あなたの言う通りだった。皆、間違ってると知っていた)
だが、ラクスたちが望んでいるのもシンと同じく、平和で平穏な世界なのだ。
「私たちは同じ夢を見ているのに、どうして相容れないのかしら・・・」
アスランはポツリと呟いたが、睡魔に襲われたラクスには聞こえていないようだった。
「だから…オーブを……失わせ…たくは…」
「大丈夫。私たちはオーブを守ったし、これからも守るわ」
安心したようにすぅっと寝息を立て始めたラクスに毛布をかけると、アスランは再び考え込んだ。彼女の手の中のハロが、時折パタパタと耳を動かす。
間違ったやり方で力を貫けば、それはいずれひずみを生む可能性がある。
どんなに素晴らしい結果を出しても、それが誰かを傷つけ、何かを侵し、法に触れる方法で手に入れたものだったら、その輝きは消えてしまう。
だから、縛られ、制約があるとしても…正しい方法を選ぶ事こそが…
「嘘でも偽りでも、最後に手に入るのが本物なら、俺はかまわない!」
そこまで考えて、シンの言葉を思い出したアスランはため息をついた。
(シン…あなたはそれでいいの?)
嘘にまみれた議長のやり方でも、辿り着くのが平和なら…それでいいの?
『一つには先にも申し上げたとおり、間違いなくロゴスの存在所以です』
「眠った?」
部屋を出てきたアスランに、キラが尋ねた。
アスランは頷き、「まだ少し熱があるみたいだけど」と伝えて歩き出す。
「ミーアさんの葬儀、皆が準備してくれてるって。それまでに治るかな」
彼に会いに行く?と言われ、アスランはキラと共には彼が安置されている部屋に向かった。彼はきれいに処置され、花で覆われた棺に入れられて眠っていた。
アスランは黙ったまま彼を見つめた。高熱に苦しみ、青白くやつれた今のラクスより、健康でふっくらした彼の方がよほど元気に見えた。
「プラントの人だよね?名前のほかは?」
キラが遺体は遺族に引き渡した方がいいんじゃないかとマリューやミリアリアたちが言っていることを伝えたが、アスランは困惑したような表情で首を振った。
「わからないの…何も聞かなかったから、私も…」
そうだ、彼については何も聞かなかった…名前すらも、彼が告げなければ聞かなかったかもしれない。
(もっと顧みてあげなければならなかったのに…)
誰からも見捨てられて、誰にも知られることなく死んでしまった彼を。
「そもそも、この顔は整形したものだから…本当の彼の姿もわからない」
「少し時間を貰って、ダコスタさんに調べてもらう?」
「でも、遺族がいたとしてもどう説明すれば…」
「そうだね」
キラは考え込み、とりあえず身元は捜してもらうことにして、落ち着いたら遺族に知らせることにしようと言った。
「今は微妙な時期だしね…でも大丈夫だよ。必ず帰してあげよう、彼の本当の家族の元に」
アスランはそんなキラを見て微笑んだ。
『敵を創り上げ、恐怖を煽り戦わせてそれを食い物としてきた者たち…』
「彼女は?」
アスランがダコスタたちに確保されたサラについて尋ねた。
「ああ…あの時の爆発で、脊髄をかなり傷つけたみたい。神経が再生できなければ、重い障害が残るかもしれないって」
麻痺して動かないはずの腕で撃ったなんて…アスランは眉を顰めた。
そこまでして議長のため任務を全うする事が、彼女の「役割」だったのだろうか…
「コペルニクスの病院で手術を受けて、一時はちょっと危なかったみたいだけど、落ち着いたら事情を聞くって」
何しろ凄腕のエージェントだから、どこまで情報を得られるかはわからないけど、副長は「必ず情報を引き出します!」って張り切ってるよとキラは肩をすくめ、アスランも苦笑した。
「ユニウスセブン、強奪、ラクスの暗殺…これでピースが全部揃ったのね」
「それだけじゃないんだ」
キラが憂鬱そうに言った。
「別の機関が彼女を調べてたって言ったでしょ?」
ああ、とアスランは頷いた。
「彼女の事を何者が調べていたのかはわからないんだけど、そっちは、彼女がデストロイやレクイエムの情報を手に入れて…ジブリールがオーブにいた事も突き止めてたって事まで、調べ上げてたんだって」
キラの報告に、アスランは思わず息を呑んだ。
「じゃ、議長は…ベルリンの襲撃や今回の事も知ってたの!?」
「だろうね」
キラが肩をすくめた。
「だからあの映像からフリーダムを消したんだよ。この計画に、私たちはいらないもんね」
それからキラは、部隊を預かる司令官の顔つきに戻るときっぱりと告げた。
「私はこれをカガリはもちろん、オーブ情報部にも報告する」
『長い歴史の裏側にはびこる彼ら、死の商人達です』
「何もかも、議長に操られた挙句…だったってこと?」
そして自分もしっかりその中に組み込まれていた…アスランはつくづくあの時の自分の浅はかさを悔やんだ。
「でもね、私は思うんだ」
キラはそんなアスランの言葉を聞いて呟くように言った。
「こうして色々な証拠が揃ってみれば、議長は確かに世界を自分が思う方向に操ったかもしれないけど…でも、だけど、こうなった一番の原因は…」
そう言いかけて黙りこんだキラの心に、仮面の男のせせら笑う声が響いた。
「これが定めさ!知りながらも突き進んだ道だろう!」
世を憎み、戦争を煽った彼は、「選ばない道」も残していた。
「正義と信じ、わからぬと逃げ、知らず!聞かず!」
(そうやって、人が重ねてきた業…あの人はそれが滅びを呼ぶと言った)
キラは再び口を開いた。
「…みんなが、これでいいのかなと思いながら流された事じゃない?」
アスランは思いもかけないキラの言葉に目を見張った。
「きっとまだこれからだよ、怖いのは…」
キラは言う。
「皆、どうしたらいいのかわからなくて、また流されていく」
「キラ…」
「それって、すごく怖いよね」
キラはポツリと呟いた。
『だが我々はようやくそれを滅ぼすことができました』
「まぁ、それが目的だったんだもんな」
ヨウランが頭の後ろで腕を組みながら言うと、ヴィーノが「今度こそ本当に戦争は終わったんだろ?」と尋ねた。
シンは、レイやルナマリア、ヴィーノやヨウランたちと、いつものように休憩室で議長の演説を聞いていた。
もったいぶった話し方でなかなか核心にいかない分、一番話したいことがこの演説に隠されているんだろう…シンはさっきから無言のまま彼の言葉を聞いている。
『だからこそ今、敢えて私は申し上げたい』
デュランダル議長は、ここで一段と厳しい声を張り上げた。
『我々は今度こそ、もう一つの最大の敵と戦っていかねばならないと!』
世界中の多くの人々は、これまでとは彼の論調が違うことに戸惑った。
ロゴスこそが敵だと言っていた議長が、戦争を引き起こすもっと大きな敵がいると言うのだ。人々は皆固唾を飲んで彼の次の言葉を待った。
ガルナハンで雑音だらけの古いテレビを街角に置き、多くの人々と見ていたコニールもまた、いぶかしそうに彼の言葉を待っている。
『そして我々はそれにも打ち克ち、解放されなければならないのです』
ミネルバのブリッジでも、タリアやアーサーたちが議長の言葉を待っていた。
アークエンジェルでもエターナルでも同じように皆が放送を見ていたし、ヴォルテールのイザークやディアッカもまた、この放送に耳を傾けていた。
『皆さんにも既におわかりのことでしょう』
「やれやれ。これ以上何と戦えって言うのかねぇ、議長は…」
ディアッカが隊員たちと顔を見合わせながら、面白そうに言った。
イザークも黙ってモニターを見上げていたが、心はここにあらずだった。
制圧されたダイダロス基地には技官の多いローラン隊が配備された。
それだけなら構わないが、月艦隊側からも事件全容の調査のため、基地に立ち入らせてもらいたいと申し入れたところ、レクイエムの解体作業が終わるまで許可できないと拒否されてしまった。
何度交渉しても頑として首を縦に振らないローランを思い出し、イザークは舌打ちした。
(あの野郎…何か怪しげな事でもやってるんじゃあるまいな)
『有史以来、人類の歴史から戦いのなくならぬわけ…』
シンは厳しい眼でモニターの中の議長を見つめている。
次こそは…次こそはと信じて戦い続けてきた。
あなたが見せてくれるという平和な世界を待ち焦がれ…自分が望んでいるのは、かつてのオーブではないかと苛まれ…
(それでも、俺はここまできた。戦い続けてきた)
ユーラシア西側、ベルリン、プラント…目の前で苦しむ人を、戦うことすらできない人々を、守りたいと思ったたくさんの命を失わせてしまった。
(そんな事はさせたくない。俺は、命を守るために戦いたい)
けれど同時に、自分が攻撃したオーブを思い出す。
傷ついた人々、破壊されてしまった、機能的で清潔な町並み…それは皆、ザフトの、自分たちの攻撃によるものだった。
矛盾がシンの心を刺し、抑え込んだ心の傷が頭をもたげる。
(あれは…オーブがロゴスを匿ったりするから…!)
オノゴロは今回も激戦地だった。あの慰霊碑はまた、壊れてしまったろうか。
(仕方がなかったんだ…フリーダムがいたし…)
「自分だけは正しくて、認められないものは皆間違いだとでも言う気なの?」
マハムールでのアスランの声と姿が蘇り、シンは大きく息を吸い込んだ。
(あいつが…生きていて…オーブを守ったりするから…)
シンは、そんな風にいつの間にか自分自身に言い訳を繰り返している事に気づき、きゅっと唇を噛んだ。
(くそ…何をしてるんだ、俺は!)
―― 俺は自分で行く道を選んだんだ。後戻りなど、許されない。
(だから、俺が信じられるものを示してください、議長)
『常に存在する最大の敵、それはいつになっても克服できない、我ら自身の『無知』と『欲望』だということを!』
ルナマリアはそれを聞き、思わず「え?」と声に出してしまった。
(無知?欲望?それが、私たちの最大の…敵?)
シンも、遠く離れた地球にいるコニールもその言葉に息を呑む。
一般市民たちもこれにはざわめいた。これまで自分たちは悪くない、戦いたくない者を戦わせてきたロゴスこそが悪だと言って来た彼が、突然、悪いのは人々の心の中に巣食う「無知」と「欲望」だと言ったのだから。
「一体何の事だ?」
「俺たちの…なんだって?」
「ロゴスを倒せば終わりじゃなかったの!?」
『地を離れて宇宙を駆け、その肉体の能力、様々な秘密をも手に入れた今でも、人は未だに他人をわからず、何よりも自分を知らず、明日が見えないその不安…』
シンは組んでいた腕を解き、身を乗り出した。
レイはそんなシンをチラリと見た。
『同等に、いや、より多く、より豊かにと、飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私たちです。争いの種、問題は全てそこにある!』
貪欲に、盲目的に何かを求める「欲望」こそが「悪」だと…
(そう言いたいんですか、議長?)
シンは驚きを隠さなかった。いささか拍子抜けさえした。
人の欲望…そんな有形無形を、断罪し得るものなのだろうか?
それが、俺が望む平和な世界を破壊し、阻害するものなのだろうか?
『だが、それももう終わりにする時が来ました。終わりにできる時が』
いよいよ議長が言わんとすることが明かされる時が来た。
(ギルバート…一体何を言い出すつもりなの?)
タリアがきゅっと親指を噛んだ。
『我々はもはや、その全てを克服する方法を得たのです』
欲望と無知が彼の言うとおり本当に戦争の根源となるのなら、それらを払拭する世界とは、一体どんな世界なんだろう。
シンもルナマリアもレイも、まっすぐ議長を見つめている。
『全ての答えは、皆が自身の中に既に持っている!』
メイリンはそれを聞いて拳を握り締めた。
自身の中に…僕の中に、自分の夢を、彼の言う「欲望」をかなえたいと望む事すらも許されなかった自己プラグラミングがなされているんだ…遺伝子のセレクションでは、僕はしがない通信士であると決まっている。
(それが導入される。僕は他の選択肢を知っているから、こんなものはおかしい、間違いじゃないかと思えるけど、これが当たり前になれば、他の選択肢など初めからなくなり、誰も疑問に思わなくなる…)
メイリンはゾクリと怖気立ち、思わず唇を噛み締めた。
「そんなの…おかしいですよ…おかしいです…絶対…」
勝手に未来を閉ざされた事を思うたびに、悔しさが滲む。
あまりにも強く噛み過ぎたため、唇には血が滲んだ。
(夢に向かって、努力したかった。一生懸命頑張りたかった。それでも、どうしてもダメだというなら、諦めても構わない。でも、だけど…努力すらも許されない世界なんて納得できない)
彼は絞り出すように呟いた。
「僕は…どんなに辛くてもいい、パイロットになりたかったんだ…」
『これこそが繰り返される悲劇を止める唯一の方法です。それによって人は、他人を知り、自分を知り、明日を知る』
デュランダル議長の演説はついに佳境に入ったが、世界の反応はまだ戸惑いが強く、賛成するものも反対するものもいなかった。
キラが言ったように、そこにはどうしたらいいのかわからないという人々が、ただただ困ったように彼の演説を聞いているだけだった。
『私は人類存亡を賭けた最後の防衛策として、デスティニープランの導入実行を、今ここに宣言いたします!』
デスティニープラン、全システムを起動します。プロッシャー1、多元ゲノムデータベース、オンライン。ハイパーシムサーバーへのリンケージを確立しました
宣言と同時に、デュランダルが入念に準備を重ねてきた「デスティニープラン」システムが一斉に起動した。
これより先、メディアからは彼の演説が繰り返し流され、コンピューター音声によるこのプランの意義と説明が延々と流される事になった。誰にでもわかりやすい絵を使ったり、多くの言語に訳されたり、テレビ、ラジオ、活字、データ…あらゆるメディアを使って大々的に宣伝が行われ続けた。
デスティニープランは、我々コーディネイターが、これまでに培ってきた遺伝子工学の全て、また現在最高水準の技術をもって施行する、究極の「人類救済システム」です
眼を覚ましたラクスは熱も下がり、バイタルも良好に戻った。
今度はアスランと共に、キラとメイリンも彼の病室に入って、もはやうんざりするほど見たこのプランの説明を聞いていた。
人はその資質の全て、性格、知能、才能、また、重篤な疾病原因の有無の情報も、本来体内に持っています。まずそれを明確に知ることが重要です。
「どうして私たちコーディネイターが、今更それを知らなきゃいけないんだろう」
キラが首を傾げた。
「このへんはナチュラルに向けてのものだからね」
ラクスが言う。
「問題はこの次あたりかな」
今のあなたは不当に扱われているかもしれない。誰も、あなた自身すら知らないまま、貴重なあなたの才能が開花せずにいるのかもしれない。それは人類全体にとっても非常に大きな損失なのです
「本当に不幸だった。誰でもそうだが、もっと早く自分を知っていたら…きみたちのようにその力と役割を知り、それを活かせる場所で生きられたら」
今思えば、あの時議長が言わんとしていたものこそがこのプランを導入した世界だったのだと、アスランは改めて納得した。
(けれど議長…あなたが力も役割も知らぬと嘆いたキラ・ヤマトは今、オーブを守るという使命を抱き、意思を貫こうとしています)
それは役割とか、自分を知ったからというだけではなく、ささやかな望み…
(あなたのいう、『欲望』のため…平和な世界を目指すためにです)
私たちは自分自身のすべてを、そしてそれによってできることをまず知るところから始めましょう。これはあなたの幸福な明日への輝かしい一歩です
アスランは同時に、ニコルの事を思い出した。
彼は音楽の才能に溢れ、決して戦士に似つかわしい人間ではなかったのに、彼自身の意志で軍に志願し、散っていった。
この「デスティニー・プラン」によって、彼が音楽家として生きる事がふさわしく、幸福であるとはっきり示されたとしても…彼はやはり、使命感を持って志願したかったのではないか、と。
「戦わなきゃいけないな、僕も…って思ったんです」
あの時、彼は言った。
大好きな音楽を二の次にしても、ニコルは戦うと決めたのだ。
たとえ命を散らしたとしても…アスランは優しい彼の笑顔を思い出し、拳を胸に当てて眼を閉じた。鈍い痛みが心に走っていた。
―― 運命は、他人に決められるものじゃない。そして未来を決めるのも、運命じゃない…
願いも想いも、どんなにこの世界がままならなくても、そうなのだと信じたい…心は、自由でありたいと思う。
やがて、ミーアの葬儀の準備が整った。
アスランもラクスも、彼を知っている数人だけが彼を送ればいいと思っていたのに、マリューは手の空いているクルーには声をかけ、身元もわからない彼のために多くの人々が葬儀に参列してくれた。
宇宙葬や月への埋葬は禁じられているため、彼の遺体は別の場所へ運ばれ、いつの日か遺族に引き渡される時まで冷凍保存される。
彼の棺が車に乗せられると、クルーたちは素性すら知らず、軍人でもない彼のために、最敬礼までして見送ってくれた。
アスランとラクスは、哀れなミーア・キャンベルの棺を乗せて白い月面を走っていく車を、いつまでもいつまでも見送っていた。
「私が…最初に認めなければよかった」
やがて車が見えなくなると、アスランがポツリと呟いた。
「こんなことはだめだって…」
(そんな風にいつでも正しいことを正しいと主張するあなたが、なぜこんな嘘を許したんですか?)
シンの鋭い指摘は、本当に耳に痛かった。
でもあの時の自分…「アレックス・ディノ」には言えなかった。
(無邪気に頑張ると言っていたミーアに、そんなことはだめだとは言えなかった)
アスランは瞳を伏せた。
「彼は、議長が平和をもたらしてくれると信じていた。愚かで、浅はかで、しっかりした考えも何もなかったけれど…議長が平和な世界に、戦争のない世界に導いてくれると信じ、彼なりに一生懸命、ラクス・クラインという役割を演じ続けたのよ」
「うん。でもやっぱり、すぐにそんな風には言えないよ」
キラがそんなアスランの気持ちを汲み取るように言った。
「アスランがこんなとんでもない嘘を許すなんて、よっぽどのことだったんだと思う」
「違う…私が…私も、これでいいのかって迷ってたから…」
アスランはキラの思いやりと優しさを拒絶した。
「そんな状態では、正しい判断なんかできないってわかってたのに…私が弱かったから…それが、彼を殺してしまった」
「でも、後にならないとわかんないことも多いんだから」
そんなに自分を責めなくてもいいよとキラは言った。
「あの頃は、私たちだって全然何もわかってなかった。私も、ラクスが狙われたりしなきゃ、デュランダル議長のこと、信じてたと思うんだよね。戦わない方がいいって言った人だもん」
「うん」
「でも、ラクスはこうだからって決められるのは困る。そうじゃないラクスはいらないとか、ジャマだとか…そんなの、やっぱりおかしいと思うから」
キラはラクスを見上げ、ラクスもキラを見て優しげに微笑んだ。
「議長はラクスだけじゃなく、私とフリーダムやアークエンジェル、オーブもいらない。アスランも言う事を聞かないからいらない。逆らったメイリンもいらない。用無しのミーアさんもいらない。必要なのは、役に立つ人だけ。彼に言われるまま、素直に戦う人だけがいればいい。でも、そんな世界、傲慢だよ」
アスランはそれを聞いて同感すると同時に胸が痛んだ。
シン…ルナマリア…レイ…彼らは決して「悪」ではない。
グラディス艦長もトライン副長も、あの艦に悪人などいないのだ。
キラの言う事もわかるけれど、彼らも信じるもののために戦っている。
「あなたの正義と相手の正義がぶつかれば、そこに必ず軋轢が起きる」
目の前の人を守りたいと、それは譲れないと言うシンに、自分は言った。
譲れない者同士がぶつかれば戦いになる。それは必至だ。
(正義の敵は、いつだって正義なんだわ)
「僕は、もう1人のラクス・クラインが現れた事で改めてわかったんだ」
その時、ラクスが口を開いた。
「人々は、ラクス・クラインの声を聞きたがっていると」
議長が利用しようとするほどに、ラクス・クラインは大きな存在だった。
だから彼は人々の期待に応え、理想的なラクス・クラインを演じたのだ。
「僕は、自分の名から逃げていた。父の残した罪を背負う覚悟もなく、カガリくんのように故国を導く強さもなく、のらりくらりと逃げていた」
皆、彼の言葉を黙って聞いていた。
「けれど、こんな事になって初めてわかった。彼が…ミーア・キャンベルが教えてくれたんだ」
ラクスは穏やかに微笑んだ。
「ラクス・クラインは、プラントを背負って立つべき存在だと」
彼のこの言葉に、ヒルダやダコスタたち、クライン派としてラクスをずっと支え続けてきた兵たちが思わず息を呑んだ。
「ラクス様…」
「では、とうとう?」
たった今、彼らの長年の悲願だったラクス・クラインの決意が表明されたのだ。
「言うだけなら、誰にもできる。想うだけも、誰にもできる。難しいのは、それを形に変えること…そして、実現させること」
ラクスは言った。
「人々が望んでくれるなら、僕は失敗を恐れず、過去を受け止め、故国の導き手となる事を約束する。大いなる痛みと苦しみを覚悟して、僕自らも闘おう」
ラクス…アスランは声にならない声をあげた。
それは確かにラクス・クラインにはふさわしいのかもしれないが、彼の体はその激務に耐えられる状態ではない…アスランの心配を汲み取ったラクスは、「わかってるよ」と微笑んだ。
「僕の命はさほど長くはない。だから、どこまでできるかわからない」
メイリンが「えっ!?」と驚き、キラも思わず彼を仰ぎ見た。
彼が交わそうといったあの約束も、ラクスの身体を診るたびに難しい顔になるカガリも、彼が旧知のアスランにしか自分の病状を見せたがらないのも、ラクスの体が悪くなっている事を示していた。
(ラクスには…本当に時間がないんだ…)
「だったら…」
「でもね、僕は彼にだけは無様なところを見せたくないんだよ」
ラクスが心配そうな顔をするアスランに優しく言った。
「カガリくんには、情けない姿を見せたくはない。最高の親友であり、最大の好敵手である彼にはね」
金色に輝く髪をした友の姿を思い、ラクスはふっと微笑んだ。
「だから、人々が望むなら僕は立つ。平和のために、もう一度」
ラクスの力強い言葉に、クライン派は皆、大きく頷いた。
それから彼はアスランに向き直った。
「僕は、きみにパートナーになってもらいたかった」
その言葉は少なからず、キラたち周囲の人々を驚かせた。
マリューもミリアリアも、ノイマンやチャンドラ、メイリンも驚き、ネオはひゅっと口笛を吹いた。
「なんだなんだ、王子様のプロポーズか?」
「ラクス、でもそれは…」
アスランも少し慌てて、早口で遮る。
「もちろん、婚約とか結婚とか、そういうことじゃないんだ」
ラクスは笑いながら続けた。
「きみの正しさ、強さ、厄介なほどの頑固さ、真面目さ…僕は自分がプラントのために働くなら、きみのように、僕を痛烈に批判でき、公平な判断を下し、時には強力に踏ん張れるブレーキ役を傍に置きたいと思っているんだ」
それは今まで、議長を務めた多くの人たちにはなかったものだ。
「独断と独裁を防ぐためには、そんな枷が必要不可欠だろ?」
けれどそれを聞いて少し困ったような顔をするアスランを見て、彼はふっと笑った。それが今の彼女には無理な選択だということを、彼をよく知っていた。
(きみには、帰らなければならないところがあるんだものね…)
「艦長、オーブに連絡をお願いできますか。僕たちはこれから、エターナルと合流します」
マリューはまだ病み上がりで青白い顔をしたラクスを労わるように見つめ、「わかりました」と答えた。
やがて人々が解散していく中、ラクスが独り言のように言った。
「僕は忘れないよ、ミーア・キャンベルという名の彼を」
「ええ…私も決して忘れない」
アスランは答える。
「私は…偽りの名では、偽りの人生しか送れないと思ってた」
「だけど、時には偽りが真実を救うこともある…」
「不思議ね」
アスランもまた、呟いた。
そんな2人の会話を聞いて、キラが「2人とも何を言ってるの?」と呆れたように言った。
「偽りも、その人の真実の一つだからだよ」
自分でいることがどんなに嫌でも、それからは逃げ出せない。
「自分に嘘はつけないんだから、仕方ないよね」
そう言って歩き出したキラを見て、アスランもラクスも呆気に取られて顔を見合わせた。
コーディネイターでありながら、ナチュラルを守ってたった1人で戦い続けていたキラは、今現在、この世にただ1人しかいない最高のコーディネイターでもある。
偽りも真実も、彼女が乗り越えてきた苦難の中に全てがあった。
「そうか」
「そうね」
2人はふふっと笑い合い、キラの後を追って歩き出した。
消灯した休憩室で青白い月面を眺めながら、シンは1人佇んでいた。
思い出すのは議長の提示した「デスティニー・プランのことと、ジブラルタルで彼がアスランと自分に言った言葉だった。
(今のこの世界では、我らは誰もが本当の自分を知らず、その力も役割も知らず、ただ時々に翻弄されて生きている)
「議長…」
あなたは、それこそが争いを呼び、戦争を引き起こす原因だと言う。
自分を知り、役割を知り、決められた運命を歩むのなら、平和になる。
(誰もが皆、幸福に生きられる世界になれば、もう二度と戦争など起きはしないだろう)
議長の言葉を反芻し、シンは軽く握った拳を口に当てて呟いた。
「役割を知って…幸福に…生きる…」
「きみはずっとずっとずーっと、議長の言うとおりに戦ってきたんだ!」
けれどその途端、彼の脳裡に割り込んできた人物がいた。
「議長に選ばれて、議長に言われるままに、議長が決めた敵とね!」
シンは泣き出しそうな顔のラクス・クラインを思い出して思わず息を吐く。
全く思いもかけないことだった。今の今まで忘れていた彼が、まるでそこにいるかのようにシンを見据え、シンの役割を言い当てる。
「議長は全部知ってるんだ。きみが…戦うことしかできない人間だってね!」
「…くそっ、あいつ!」
シンは忌々しい彼を追い払おうとでもするように、ウィンドウを拳で打った。
(それが議長の言う世界での俺の役割だと?ならば平和になるはずの世界で…)
シンはギリッと唇を噛み締める。
「…俺は、何と戦うっていうんだ?」
そう思ってから、呆然としている様子の自分に気づいたシンは、思わずポケットの中に手を入れ、妹の携帯を取り出した。
シンのたった一つの拠り所であるそれは、彼が幸福だった時代を知っている。
全てを失ってなお自分が今こうして立っていられるのは、何よりも平和な世界を望むからだ。なのに、そのために戦うと決めた心がぐらりと揺らぐ。
幸せそうな自分が、想い出の向こうで妹や両親と笑っている。
シンは携帯を両手で握りしめてうなだれた。
「オーブ…」
彼は自分を育み、そして自分を叩きのめした故国の名を呟いた。
愛とも憎悪ともつかぬ複雑な想いが去来する。
(デスティニー…プラン……議長…)
シンの赤い瞳は静かな炎をたたえ、今再び、彼の運命を見据えていた。
(哀しみ、怒り…どろどろした憎悪、嫌悪、嫉妬…)
たくさんの汚いものが自分の胸の中にも渦巻いている。
何よりもこの忌々しい、傷ついたひ弱な体への怒りと嘆き。
そして奪われた未来への諦めきれない想いと、奪った者への想い…
押し殺し、封印し、忘れようとしているナチュラルたちへの想い…
(そんな風に簡単に言うな…誰にも、僕の怒りと哀しみがわかるはずがない)
「気がついた?」
うっすらと眼を開いたラクスを見て、アスランが心配そうに覗き込んだ。
途端に「マイド!」とハロが飛び跳ねたので、慌ててハロを手の中に収める。
「ずいぶん眠っていたのよ。気分はどう?」
『何故こんなことになってしまったのか…考えても既に意味のない事と知りながら、私の心もまた、それを探してさまよいます』
「…誰…?」
「え?」
「誰が……喋ってる…?」
ああ、とアスランはモニターを振り返った。
「議長よ。さっきからどのチャンネルも繰り返し流してる」
「…始まったのか…」
ふぅ、とラクスが息をついた。
アスランは何も答えず、汗をかいている彼の額を拭いた。
『私たちはつい先年にも、大きな戦争を経験しました』
ラクスが眼を閉じたので、アスランはボリュームを下げようとしたが、ラクスはそのままでいいと言った。
やがて彼はゆっくり話し出した。
「…その戦争を始めたのは、僕の父だ」
「ラクス?」
「人は皆、きみの父上の罪を叫ぶ。彼は独裁者だった。危険思想を持っていた。選民思想の権化だった、と…」
アスランは穏やかに「仕方がないわ」と答えた。
「実際、そうだったもの。私への遺言は『ジェネシスを撃て』よ」
ラクスはそれを聞いてふっと笑った。
「だけど、あの戦争を泥沼化させ、拡大させたのは間違いなく僕の父だ」
『そしてその時にも誓ったはずでした』
報復戦だった激しいL1の宇宙樹攻防戦、Nジャマーキャンセラーの無差別投下、地上でのカーペンタリア、ビクトリア、カサブランカ、スエズ攻防戦、月での激戦となったグリマルディ戦線、L4新星攻防戦…サイクロプスの暴走や、エクステンデッドの前身であるブーステッドマンの投入など、闇に葬られた残酷な作戦も数多い。
「穏健派と言われた父の施政下では、常に戦い、戦い、戦いだった」
「それは…私の父が国防委員長だったからよ」
アスランはいつもと違う彼の様子をいぶかしみながら静かに言う。
「違う」
しかし彼は首を振った。
「最高評議会議長だった僕の父が、どれだけの戦いを承認したと思う?父は、ナチュラルへの報復を叫ぶ評議会や世論を、ほとんど抑え切れなかったんだよ」
「ラクス…」
ラクスはやさぐれたように「ふん」と鼻を鳴らした。
「…カガリくんが首長会を抑えられなかった事より、なお悪い」
『こんな事は、もう二度と繰り返さないと』
「僕は、あの戦争を止めようとした」
けれど、想いだけでは戦争は止まらない。
「政治の世界はそんなに簡単なものじゃなかった…複雑で、入り組んで、僕たちが『正論』だと信じるものが簡単に握り潰され、踏み躙られた」
アスランは黙って彼の言葉に耳を傾けている。
「きみたちが命を懸けて戦ってくれたから、戦争は最終局面まで来てようやく終わった。でも事態は泥沼化し、さらに混沌としていて…僕たちの力は微々たるもので、僕は自分の無力さに絶望した」
それから、ラクスはふとアスランから顔を背けた。
「…ラクス?」
「…きみが、父上のことで苦しんでいる事も知っていたけど、僕は見て見ぬふりをした。あの戦争の責任を負うべきは、パトリック・ザラだけじゃない。シーゲル・クラインにも多大な罪があった。それは、僕だって…わかってたんだ…」
(そうだ…わかっていたのに、僕は過去を見ようとはしなかった)
「理由にしたのは、体のこと。でも本当は…」
ラクスはいつになく暗い表情でぼそぼそと呟き続けている。
そんな彼を見るのは、長い付き合いのアスランにとっても初めてだった。
(温厚で優しいクライン議長のことを、そんな風に思っていたなんて…)
自分の事を、いずれ義理の娘になるのだからと何かと眼をかけ、可愛がってくれたシーゲルを思い出し、アスランは少し首を傾げながらラクスを見つめていた。
「重責に耐えられないと思った。プラントをよりよく変えるためには、上に立たなければならず、責任を持ってそれに挑まなければならない。僕は皆からそう期待され、そう望まれていたことも知っていたのに…」
その途端、ははっ…とラクスが自嘲気味に笑った。
「ミーアくんが言ったね。僕は、全部捨てて逃げたって…」
アスランはラクスに銃を向け、悲痛とも言える声で叫んだ彼を思い出した。
(おまえは、僕が欲しかったものを…全部捨てて逃げたくせにっ!)
彼がどれほどラクスに憧れ、そうありたいと願っていたのか…彼がいなくなった今、それを知るのはもうアスランだけだった。
「そう、逃げたんだ…僕は逃げた。怖かった。嫌だった。責任を負わされることも、見えない道を進むことも…何より、期待を裏切って非難されることが怖かった」
ラクスは点滴をしていない方の手を持ち上げ、額ごと眼を覆った。
「全てを背負うなんて、絶対に無理だと思ったよ」
「ラクス…」
「実際無理だった。僕には…何の力もなかったから…」
かつてアスランは、彼らが今いるこのアークエンジェルから、ラクスがキラによって開放された時、ラウ・ル・クルーゼに攻撃をやめるよう命じるのを見て驚いたが、あの時と同じく、さらけ出された見知らぬラクス・クラインを見て驚いていた。
いつも自信に満ちていて、余裕があるように見える彼の内面に、こんな脆さがあったとは…彼女はハロを手に、ただ黙って彼の話を聞いていた。
『…にも関わらずユニウスセブンは落ち、努力も虚しく、またも戦端が開かれ、戦火は否応なく拡大しました…』
ラクスがスピーカーから流れる議長のその言葉を聞いて、きっとそちらを睨む。
「何を言う!全てを自分で引き起こし、世界をあれだけ混乱させておいて!」
「落ち着いて…わかってる。私たちはわかってるわ…」
アスランは珍しく声を荒げたラクスの肩を、そっと叩いてなだめた。
「あなた、彼女のことをずっと追っていたのね」
高熱を出したラクスが医療班による治療を受けている間に、アスランはキラやマリューたちから今回の事情を聞いていた。
調査の中にあった写真の、ラクスを狙い続けた過激派のリーダーと密会していた女…それは、ミーアを撃ち殺したあの女だったのだ。
「私は暗殺事件の後、独自に彼女の調査を続けていまして…」
ダコスタがデータを示しながらアスランに説明した。
「恥ずかしながら、彼女の素性だけがどうしても調べ切れなかったんです。ラクス様はある程度証拠が揃ったのでもういいと仰ったんですが、何しろラクス様を暗殺しようとした教唆犯かもしれない…そうなると、これは決して放ってはおけないわけです、我々クライン派としては!」
そんな風に鼻息を荒げるダコスタの後を、キラが引き継いだ。
「たまたま別の方面からも彼女を調べていた機関があって、そのおかげでやっとあの人の動きを掴む事ができたんだって」
「『サラ』というコードネームの彼女はデュランダルの子飼いでして、彼が欲する情報収集を一手に引き受けていた優秀なエージェントです。ジブラルタルから月に上がった彼女を、我々はずっと監視していました」
ダコスタは判明した彼女のデータをモニターに出した。
彼女を調べていた機関とは無論、死ぬ間際にジブリールが放った調査員である。
「彼女が動きやすいよう、ラクス様はご自分を囮にすると仰いました。アークエンジェルがコペルニクスに着いた事を公にし、そして街に出て自らの姿を晒す…それによって逆に彼女をおびき出すのが作戦でした」
アスランは皆がラクスに代わって説明する今回の件について、ただ黙って聞いていた。何も知らされていなかったのは、自分とメイリンだけだった。
「俺も何も知らなかったぜ?」
ネオも不服そうに言ったが、マリューはそれは敢えて黙殺して続ける。
「ラクスくんからは、あなたには黙っていて欲しいと言われて…」
それから彼女は、「こんな事になってしまって、本当にごめんなさい」と沈痛な面持ちで謝った。
ダコスタたちも、彼を死なせてしまったのは我々の安全確保が甘かったからだと深々と頭を下げた。むしろミーアがラクスを庇わなければ、本当にラクス自身が撃たれていた可能性が高いのだ。だから制圧完了の合図を出したダコスタは、本当に恐縮していた。
「ですが、ラクス様は、どんな危険があってもミーア…というあの彼の安全を図るよう、くれぐれも頼むとおっしゃいました」
ダコスタがそれだけは信じてくださいとアスランに言う。
アスランは表情を変えずに、「一般人を巻き込みかけたことは?」と聞いた。
「キラ・ヤマトに合図を送ったり、それぞれ監視もつけていましたが、あれも我々のミスです。もちろん、子供はすぐに確保して家族の元に返しました。ですが、彼らを利用されてしまったのは申し訳ない…」
「ラクスの護衛に目を奪われすぎたんですね?」
恐らく、ラクスに接触した家族を狙い、その後子供をさらって爆弾を母親に渡した犯人の見事な手際に惑わされたのだろう。
「面目ない…そうなのです」
「私が護衛していたのに…」
アスランがやや不服そうに言うと、ダコスタは頷いた。
「確かに、我々が互いに互いの動きを計算に入れられれば、もっとうまくやれたでしょう。それぞれの盲点も補えたはずです」
サラの手の者に気づかれてはならないというハンディがあったダコスタたちには、どうしても彼らとの距離を保たざるを得ないというジレンマがあったのだ。
「そしてあなたの護衛は見事ですが、尾行に弱い。そうですね?」
アスランは弱点を突かれてややむっとする。
そうなのだ。護衛に気が行ってしまうと、尾行への警戒が留守になる癖がある。
実際はタルキウスでルナマリアに尾行されていたことにも気づかなかったことから、どうやら「護衛に気が行っている」だけではないようなのだが。
「私たちは、アスラン・ザラには知らせた方が安全だと言ったのですが…」
「どうして黙っていたの?」
アスランは静かにラクスに問いかけた。
頭ごなしに怒る気にはなれなかったが、知っていれば、何とかできたかもしれないと思わなくもない。
「きみには…真っ白な気持ちで判断して欲しかったんだよ」
しばらく黙っていたラクスが、やがて呟いた。
「きみはいつも自分の正義を計っている。公平で、平等であろうとする」
それからふふっと笑った。
「言ったろう?僕はきみを戦士だなんて思ったことはないって」
アスランはインフィニットジャスティスを前に、ひどく刺々しい気持ちで彼と話をしたあの時を思い出した。
「戦えてしまうから、そう見えるだけだ。きみはその、思い悩み、考えこんで物事を見極めようとする思考力を生かせばいいんだ」
『私たちは、またも同じ悲しみ、苦しみを得ることとなってしまいました』
「それこそが、きみの『力』の源なんだから」
「…力?」
「そう。強大な力に屈することなく、辛い孤独を恐れることなく、正しいと思えばそれを主張し通す事ができるのが、きみの『力』だよ」
「ただ頑固で融通が利かないだけじゃない」
アスランは苦笑いした。
「説明も下手だし、いつも相手に、言いたい事の半分も理解してもらえないわ」
アスランは寂しそうに言った。
(一番わかって欲しい相手に…シンには、私の声も想いも考えも、何一つ届けることができていないのだから)
「きみはまだ、やり方を知らないだけだよ」
ラクスは元気づけるように言った。
「それは技術や経験で補える。大切なのは、根本にその強さを持っているかどうかだ」
「強さ…」
「きみには、まっさらな気持ちで判断して欲しかった。僕が正しいのか、議長が正しいのか…結果は、思った以上に最悪なものになってしまったけれど…」
ラクスは大きなため息をついたが、その計画が残念な結果に終わったからというだけではなく、少し話し疲れたようだった。
アスランはそれを見てドクターを呼んだ。そしてふと思う。
(こんな時、カガリがいてくれたら…)
体のことだけではない。明るく前向きなカガリなら、ラクスをきっと、もっと楽にしてあげられるはずだった。
「カガリくんが…」
まるで今、彼女がカガリのことを考えているとわかったように、駆けつけた医療班に新たに点滴を増やされたラクスが言った。
「2年間、頑張っても頑張ってもちっとも結果が出せず、自分には力がない、お飾りの代表でしかないと思い悩み、もがいていた彼が、あの長い旅を続ける中で…見違えるほど立派になっていくのを見て…僕は焦ったよ」
ラクスはチラっとアスランを見た。
「きみも、そうだろ?」
アスランはぐっと言葉に詰まる。
「悩む彼を見て、きみも焦ったんだ。自分が本当にすべきことが何かあるって」
アスランは意地を張り、「別に…」と言いかけたが、ふっと息を吐いた。
「…そうね、焦ったんだわ。私も、何かしなきゃって」
彼女の白旗を見て可笑しそうに笑い、それから「不思議だね」と彼は言った。
「全てが見えてるつもりで、何かしなければと焦った僕たちはもたついてしまった。逆に、ずっと苦しんでいたカガリくんやキラは、いつの間にかちゃんと自分の行くべき道を見つけて、しっかりと歩き始めていた…」
アスランもそれは尤もだと思い、深く頷いた。
「キラは私よりずっと上手に力も権限も使ってるし、人望も厚いわ」
オーブ戦で、キラが戦場に舞い戻ったあの時…アークエンジェルのクルーも、ムラサメ隊も、キラの存在がそこにあるだけで、心強さと安心を得ることができていた。
それは彼女が無双の強さを誇る戦士だからだけではない。
(大切なものを守り抜きたいというキラの強くて優しい心が、人々を和ませ、楽にさせ、安心感を与えるからなんだわ…)
だから今は、それこそがキラの「力」なのだと思う。
自分がしたかった事…そうありたかった事を、キラは体現している。
(いつの間にか、すっかり差をつけられてしまった)
「…それに、カガリも…カガリは本当に…本当に…」
アスランは何もない左手の薬指を見、右の手でそれを覆い隠した。
「カガリくんは、すごいね。本当に」
ラクスが続きを引き取った。
「彼は、情けないことに僕が逃げ出した重い責務から、一度だって逃げようとした事なんかない。いつだって真っ直ぐぶつかっていく」
キラが迎えに行った、あのあまりにも理不尽で忌わしい結婚からさえ、彼は逃げる事をよしとはしなかった。国のため、使命と運命を受け入れようとした。
―― 傷ついても、苦しくても、決して諦めず、正面から挑んでいくんだ…
「あの強さは、彼がナチュラルだからなのかな?それとも…」
険しい顔つきをしていたラクスがふっと柔和な表情を見せる。
「きみが、そばにいたからかな?」
「…っ!」
アスランは思いもかけないその言葉に面食らい、それから少し赤くなった。
『本当にこれはどういうことなのでしょうか?』
「逃げたくせに、僕は諦め切れなかった。未練が残っていた」
演説するデュランダルの姿を見詰めながら、やがてラクスは続けた。
「なんとか、世界を正しい方向に導けないか…僕たちのプラントを平和で平穏な国にできないか…そう考えることを諦め切れなかった」
―― そのためには、力がいる。
「資金を集め、情報の要と武力の要を握ること。本当はもっと正当な方法をとりたいと思いつつ、自分にはあまり時間がないからと言い訳し、望まれる地位に就く事よりも、自分勝手な正義を貫く道を選んだんだ」
その矛盾を抱えながら、目的を果たそうとしたラクス…アスランはやはり彼とデュランダルが似ている事を痛感した。
『愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは…』
「でも、それではやっぱりダメだ。これでは僕はテロリストのままだ。カガリくんが『国家』という力で守ってくれたからこそ、僕たちは今、堂々と正義を貫けるようになった。僕たちは、彼に…守られてばかり…で…」
薬が効いてくると、ラクスは眼を閉じ、眠りに囚われ始めた。
「俺が間違ってるってんならそれでいい。だがあいつらも間違ってる!」
アスランはほっとため息をつき、怒りとも悲しみともつかないシンの叫びを思い出した。
(シン…あなたの言う通りだった。皆、間違ってると知っていた)
だが、ラクスたちが望んでいるのもシンと同じく、平和で平穏な世界なのだ。
「私たちは同じ夢を見ているのに、どうして相容れないのかしら・・・」
アスランはポツリと呟いたが、睡魔に襲われたラクスには聞こえていないようだった。
「だから…オーブを……失わせ…たくは…」
「大丈夫。私たちはオーブを守ったし、これからも守るわ」
安心したようにすぅっと寝息を立て始めたラクスに毛布をかけると、アスランは再び考え込んだ。彼女の手の中のハロが、時折パタパタと耳を動かす。
間違ったやり方で力を貫けば、それはいずれひずみを生む可能性がある。
どんなに素晴らしい結果を出しても、それが誰かを傷つけ、何かを侵し、法に触れる方法で手に入れたものだったら、その輝きは消えてしまう。
だから、縛られ、制約があるとしても…正しい方法を選ぶ事こそが…
「嘘でも偽りでも、最後に手に入るのが本物なら、俺はかまわない!」
そこまで考えて、シンの言葉を思い出したアスランはため息をついた。
(シン…あなたはそれでいいの?)
嘘にまみれた議長のやり方でも、辿り着くのが平和なら…それでいいの?
『一つには先にも申し上げたとおり、間違いなくロゴスの存在所以です』
「眠った?」
部屋を出てきたアスランに、キラが尋ねた。
アスランは頷き、「まだ少し熱があるみたいだけど」と伝えて歩き出す。
「ミーアさんの葬儀、皆が準備してくれてるって。それまでに治るかな」
彼に会いに行く?と言われ、アスランはキラと共には彼が安置されている部屋に向かった。彼はきれいに処置され、花で覆われた棺に入れられて眠っていた。
アスランは黙ったまま彼を見つめた。高熱に苦しみ、青白くやつれた今のラクスより、健康でふっくらした彼の方がよほど元気に見えた。
「プラントの人だよね?名前のほかは?」
キラが遺体は遺族に引き渡した方がいいんじゃないかとマリューやミリアリアたちが言っていることを伝えたが、アスランは困惑したような表情で首を振った。
「わからないの…何も聞かなかったから、私も…」
そうだ、彼については何も聞かなかった…名前すらも、彼が告げなければ聞かなかったかもしれない。
(もっと顧みてあげなければならなかったのに…)
誰からも見捨てられて、誰にも知られることなく死んでしまった彼を。
「そもそも、この顔は整形したものだから…本当の彼の姿もわからない」
「少し時間を貰って、ダコスタさんに調べてもらう?」
「でも、遺族がいたとしてもどう説明すれば…」
「そうだね」
キラは考え込み、とりあえず身元は捜してもらうことにして、落ち着いたら遺族に知らせることにしようと言った。
「今は微妙な時期だしね…でも大丈夫だよ。必ず帰してあげよう、彼の本当の家族の元に」
アスランはそんなキラを見て微笑んだ。
『敵を創り上げ、恐怖を煽り戦わせてそれを食い物としてきた者たち…』
「彼女は?」
アスランがダコスタたちに確保されたサラについて尋ねた。
「ああ…あの時の爆発で、脊髄をかなり傷つけたみたい。神経が再生できなければ、重い障害が残るかもしれないって」
麻痺して動かないはずの腕で撃ったなんて…アスランは眉を顰めた。
そこまでして議長のため任務を全うする事が、彼女の「役割」だったのだろうか…
「コペルニクスの病院で手術を受けて、一時はちょっと危なかったみたいだけど、落ち着いたら事情を聞くって」
何しろ凄腕のエージェントだから、どこまで情報を得られるかはわからないけど、副長は「必ず情報を引き出します!」って張り切ってるよとキラは肩をすくめ、アスランも苦笑した。
「ユニウスセブン、強奪、ラクスの暗殺…これでピースが全部揃ったのね」
「それだけじゃないんだ」
キラが憂鬱そうに言った。
「別の機関が彼女を調べてたって言ったでしょ?」
ああ、とアスランは頷いた。
「彼女の事を何者が調べていたのかはわからないんだけど、そっちは、彼女がデストロイやレクイエムの情報を手に入れて…ジブリールがオーブにいた事も突き止めてたって事まで、調べ上げてたんだって」
キラの報告に、アスランは思わず息を呑んだ。
「じゃ、議長は…ベルリンの襲撃や今回の事も知ってたの!?」
「だろうね」
キラが肩をすくめた。
「だからあの映像からフリーダムを消したんだよ。この計画に、私たちはいらないもんね」
それからキラは、部隊を預かる司令官の顔つきに戻るときっぱりと告げた。
「私はこれをカガリはもちろん、オーブ情報部にも報告する」
『長い歴史の裏側にはびこる彼ら、死の商人達です』
「何もかも、議長に操られた挙句…だったってこと?」
そして自分もしっかりその中に組み込まれていた…アスランはつくづくあの時の自分の浅はかさを悔やんだ。
「でもね、私は思うんだ」
キラはそんなアスランの言葉を聞いて呟くように言った。
「こうして色々な証拠が揃ってみれば、議長は確かに世界を自分が思う方向に操ったかもしれないけど…でも、だけど、こうなった一番の原因は…」
そう言いかけて黙りこんだキラの心に、仮面の男のせせら笑う声が響いた。
「これが定めさ!知りながらも突き進んだ道だろう!」
世を憎み、戦争を煽った彼は、「選ばない道」も残していた。
「正義と信じ、わからぬと逃げ、知らず!聞かず!」
(そうやって、人が重ねてきた業…あの人はそれが滅びを呼ぶと言った)
キラは再び口を開いた。
「…みんなが、これでいいのかなと思いながら流された事じゃない?」
アスランは思いもかけないキラの言葉に目を見張った。
「きっとまだこれからだよ、怖いのは…」
キラは言う。
「皆、どうしたらいいのかわからなくて、また流されていく」
「キラ…」
「それって、すごく怖いよね」
キラはポツリと呟いた。
『だが我々はようやくそれを滅ぼすことができました』
「まぁ、それが目的だったんだもんな」
ヨウランが頭の後ろで腕を組みながら言うと、ヴィーノが「今度こそ本当に戦争は終わったんだろ?」と尋ねた。
シンは、レイやルナマリア、ヴィーノやヨウランたちと、いつものように休憩室で議長の演説を聞いていた。
もったいぶった話し方でなかなか核心にいかない分、一番話したいことがこの演説に隠されているんだろう…シンはさっきから無言のまま彼の言葉を聞いている。
『だからこそ今、敢えて私は申し上げたい』
デュランダル議長は、ここで一段と厳しい声を張り上げた。
『我々は今度こそ、もう一つの最大の敵と戦っていかねばならないと!』
世界中の多くの人々は、これまでとは彼の論調が違うことに戸惑った。
ロゴスこそが敵だと言っていた議長が、戦争を引き起こすもっと大きな敵がいると言うのだ。人々は皆固唾を飲んで彼の次の言葉を待った。
ガルナハンで雑音だらけの古いテレビを街角に置き、多くの人々と見ていたコニールもまた、いぶかしそうに彼の言葉を待っている。
『そして我々はそれにも打ち克ち、解放されなければならないのです』
ミネルバのブリッジでも、タリアやアーサーたちが議長の言葉を待っていた。
アークエンジェルでもエターナルでも同じように皆が放送を見ていたし、ヴォルテールのイザークやディアッカもまた、この放送に耳を傾けていた。
『皆さんにも既におわかりのことでしょう』
「やれやれ。これ以上何と戦えって言うのかねぇ、議長は…」
ディアッカが隊員たちと顔を見合わせながら、面白そうに言った。
イザークも黙ってモニターを見上げていたが、心はここにあらずだった。
制圧されたダイダロス基地には技官の多いローラン隊が配備された。
それだけなら構わないが、月艦隊側からも事件全容の調査のため、基地に立ち入らせてもらいたいと申し入れたところ、レクイエムの解体作業が終わるまで許可できないと拒否されてしまった。
何度交渉しても頑として首を縦に振らないローランを思い出し、イザークは舌打ちした。
(あの野郎…何か怪しげな事でもやってるんじゃあるまいな)
『有史以来、人類の歴史から戦いのなくならぬわけ…』
シンは厳しい眼でモニターの中の議長を見つめている。
次こそは…次こそはと信じて戦い続けてきた。
あなたが見せてくれるという平和な世界を待ち焦がれ…自分が望んでいるのは、かつてのオーブではないかと苛まれ…
(それでも、俺はここまできた。戦い続けてきた)
ユーラシア西側、ベルリン、プラント…目の前で苦しむ人を、戦うことすらできない人々を、守りたいと思ったたくさんの命を失わせてしまった。
(そんな事はさせたくない。俺は、命を守るために戦いたい)
けれど同時に、自分が攻撃したオーブを思い出す。
傷ついた人々、破壊されてしまった、機能的で清潔な町並み…それは皆、ザフトの、自分たちの攻撃によるものだった。
矛盾がシンの心を刺し、抑え込んだ心の傷が頭をもたげる。
(あれは…オーブがロゴスを匿ったりするから…!)
オノゴロは今回も激戦地だった。あの慰霊碑はまた、壊れてしまったろうか。
(仕方がなかったんだ…フリーダムがいたし…)
「自分だけは正しくて、認められないものは皆間違いだとでも言う気なの?」
マハムールでのアスランの声と姿が蘇り、シンは大きく息を吸い込んだ。
(あいつが…生きていて…オーブを守ったりするから…)
シンは、そんな風にいつの間にか自分自身に言い訳を繰り返している事に気づき、きゅっと唇を噛んだ。
(くそ…何をしてるんだ、俺は!)
―― 俺は自分で行く道を選んだんだ。後戻りなど、許されない。
(だから、俺が信じられるものを示してください、議長)
『常に存在する最大の敵、それはいつになっても克服できない、我ら自身の『無知』と『欲望』だということを!』
ルナマリアはそれを聞き、思わず「え?」と声に出してしまった。
(無知?欲望?それが、私たちの最大の…敵?)
シンも、遠く離れた地球にいるコニールもその言葉に息を呑む。
一般市民たちもこれにはざわめいた。これまで自分たちは悪くない、戦いたくない者を戦わせてきたロゴスこそが悪だと言って来た彼が、突然、悪いのは人々の心の中に巣食う「無知」と「欲望」だと言ったのだから。
「一体何の事だ?」
「俺たちの…なんだって?」
「ロゴスを倒せば終わりじゃなかったの!?」
『地を離れて宇宙を駆け、その肉体の能力、様々な秘密をも手に入れた今でも、人は未だに他人をわからず、何よりも自分を知らず、明日が見えないその不安…』
シンは組んでいた腕を解き、身を乗り出した。
レイはそんなシンをチラリと見た。
『同等に、いや、より多く、より豊かにと、飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私たちです。争いの種、問題は全てそこにある!』
貪欲に、盲目的に何かを求める「欲望」こそが「悪」だと…
(そう言いたいんですか、議長?)
シンは驚きを隠さなかった。いささか拍子抜けさえした。
人の欲望…そんな有形無形を、断罪し得るものなのだろうか?
それが、俺が望む平和な世界を破壊し、阻害するものなのだろうか?
『だが、それももう終わりにする時が来ました。終わりにできる時が』
いよいよ議長が言わんとすることが明かされる時が来た。
(ギルバート…一体何を言い出すつもりなの?)
タリアがきゅっと親指を噛んだ。
『我々はもはや、その全てを克服する方法を得たのです』
欲望と無知が彼の言うとおり本当に戦争の根源となるのなら、それらを払拭する世界とは、一体どんな世界なんだろう。
シンもルナマリアもレイも、まっすぐ議長を見つめている。
『全ての答えは、皆が自身の中に既に持っている!』
メイリンはそれを聞いて拳を握り締めた。
自身の中に…僕の中に、自分の夢を、彼の言う「欲望」をかなえたいと望む事すらも許されなかった自己プラグラミングがなされているんだ…遺伝子のセレクションでは、僕はしがない通信士であると決まっている。
(それが導入される。僕は他の選択肢を知っているから、こんなものはおかしい、間違いじゃないかと思えるけど、これが当たり前になれば、他の選択肢など初めからなくなり、誰も疑問に思わなくなる…)
メイリンはゾクリと怖気立ち、思わず唇を噛み締めた。
「そんなの…おかしいですよ…おかしいです…絶対…」
勝手に未来を閉ざされた事を思うたびに、悔しさが滲む。
あまりにも強く噛み過ぎたため、唇には血が滲んだ。
(夢に向かって、努力したかった。一生懸命頑張りたかった。それでも、どうしてもダメだというなら、諦めても構わない。でも、だけど…努力すらも許されない世界なんて納得できない)
彼は絞り出すように呟いた。
「僕は…どんなに辛くてもいい、パイロットになりたかったんだ…」
『これこそが繰り返される悲劇を止める唯一の方法です。それによって人は、他人を知り、自分を知り、明日を知る』
デュランダル議長の演説はついに佳境に入ったが、世界の反応はまだ戸惑いが強く、賛成するものも反対するものもいなかった。
キラが言ったように、そこにはどうしたらいいのかわからないという人々が、ただただ困ったように彼の演説を聞いているだけだった。
『私は人類存亡を賭けた最後の防衛策として、デスティニープランの導入実行を、今ここに宣言いたします!』
デスティニープラン、全システムを起動します。プロッシャー1、多元ゲノムデータベース、オンライン。ハイパーシムサーバーへのリンケージを確立しました
宣言と同時に、デュランダルが入念に準備を重ねてきた「デスティニープラン」システムが一斉に起動した。
これより先、メディアからは彼の演説が繰り返し流され、コンピューター音声によるこのプランの意義と説明が延々と流される事になった。誰にでもわかりやすい絵を使ったり、多くの言語に訳されたり、テレビ、ラジオ、活字、データ…あらゆるメディアを使って大々的に宣伝が行われ続けた。
デスティニープランは、我々コーディネイターが、これまでに培ってきた遺伝子工学の全て、また現在最高水準の技術をもって施行する、究極の「人類救済システム」です
眼を覚ましたラクスは熱も下がり、バイタルも良好に戻った。
今度はアスランと共に、キラとメイリンも彼の病室に入って、もはやうんざりするほど見たこのプランの説明を聞いていた。
人はその資質の全て、性格、知能、才能、また、重篤な疾病原因の有無の情報も、本来体内に持っています。まずそれを明確に知ることが重要です。
「どうして私たちコーディネイターが、今更それを知らなきゃいけないんだろう」
キラが首を傾げた。
「このへんはナチュラルに向けてのものだからね」
ラクスが言う。
「問題はこの次あたりかな」
今のあなたは不当に扱われているかもしれない。誰も、あなた自身すら知らないまま、貴重なあなたの才能が開花せずにいるのかもしれない。それは人類全体にとっても非常に大きな損失なのです
「本当に不幸だった。誰でもそうだが、もっと早く自分を知っていたら…きみたちのようにその力と役割を知り、それを活かせる場所で生きられたら」
今思えば、あの時議長が言わんとしていたものこそがこのプランを導入した世界だったのだと、アスランは改めて納得した。
(けれど議長…あなたが力も役割も知らぬと嘆いたキラ・ヤマトは今、オーブを守るという使命を抱き、意思を貫こうとしています)
それは役割とか、自分を知ったからというだけではなく、ささやかな望み…
(あなたのいう、『欲望』のため…平和な世界を目指すためにです)
私たちは自分自身のすべてを、そしてそれによってできることをまず知るところから始めましょう。これはあなたの幸福な明日への輝かしい一歩です
アスランは同時に、ニコルの事を思い出した。
彼は音楽の才能に溢れ、決して戦士に似つかわしい人間ではなかったのに、彼自身の意志で軍に志願し、散っていった。
この「デスティニー・プラン」によって、彼が音楽家として生きる事がふさわしく、幸福であるとはっきり示されたとしても…彼はやはり、使命感を持って志願したかったのではないか、と。
「戦わなきゃいけないな、僕も…って思ったんです」
あの時、彼は言った。
大好きな音楽を二の次にしても、ニコルは戦うと決めたのだ。
たとえ命を散らしたとしても…アスランは優しい彼の笑顔を思い出し、拳を胸に当てて眼を閉じた。鈍い痛みが心に走っていた。
―― 運命は、他人に決められるものじゃない。そして未来を決めるのも、運命じゃない…
願いも想いも、どんなにこの世界がままならなくても、そうなのだと信じたい…心は、自由でありたいと思う。
やがて、ミーアの葬儀の準備が整った。
アスランもラクスも、彼を知っている数人だけが彼を送ればいいと思っていたのに、マリューは手の空いているクルーには声をかけ、身元もわからない彼のために多くの人々が葬儀に参列してくれた。
宇宙葬や月への埋葬は禁じられているため、彼の遺体は別の場所へ運ばれ、いつの日か遺族に引き渡される時まで冷凍保存される。
彼の棺が車に乗せられると、クルーたちは素性すら知らず、軍人でもない彼のために、最敬礼までして見送ってくれた。
アスランとラクスは、哀れなミーア・キャンベルの棺を乗せて白い月面を走っていく車を、いつまでもいつまでも見送っていた。
「私が…最初に認めなければよかった」
やがて車が見えなくなると、アスランがポツリと呟いた。
「こんなことはだめだって…」
(そんな風にいつでも正しいことを正しいと主張するあなたが、なぜこんな嘘を許したんですか?)
シンの鋭い指摘は、本当に耳に痛かった。
でもあの時の自分…「アレックス・ディノ」には言えなかった。
(無邪気に頑張ると言っていたミーアに、そんなことはだめだとは言えなかった)
アスランは瞳を伏せた。
「彼は、議長が平和をもたらしてくれると信じていた。愚かで、浅はかで、しっかりした考えも何もなかったけれど…議長が平和な世界に、戦争のない世界に導いてくれると信じ、彼なりに一生懸命、ラクス・クラインという役割を演じ続けたのよ」
「うん。でもやっぱり、すぐにそんな風には言えないよ」
キラがそんなアスランの気持ちを汲み取るように言った。
「アスランがこんなとんでもない嘘を許すなんて、よっぽどのことだったんだと思う」
「違う…私が…私も、これでいいのかって迷ってたから…」
アスランはキラの思いやりと優しさを拒絶した。
「そんな状態では、正しい判断なんかできないってわかってたのに…私が弱かったから…それが、彼を殺してしまった」
「でも、後にならないとわかんないことも多いんだから」
そんなに自分を責めなくてもいいよとキラは言った。
「あの頃は、私たちだって全然何もわかってなかった。私も、ラクスが狙われたりしなきゃ、デュランダル議長のこと、信じてたと思うんだよね。戦わない方がいいって言った人だもん」
「うん」
「でも、ラクスはこうだからって決められるのは困る。そうじゃないラクスはいらないとか、ジャマだとか…そんなの、やっぱりおかしいと思うから」
キラはラクスを見上げ、ラクスもキラを見て優しげに微笑んだ。
「議長はラクスだけじゃなく、私とフリーダムやアークエンジェル、オーブもいらない。アスランも言う事を聞かないからいらない。逆らったメイリンもいらない。用無しのミーアさんもいらない。必要なのは、役に立つ人だけ。彼に言われるまま、素直に戦う人だけがいればいい。でも、そんな世界、傲慢だよ」
アスランはそれを聞いて同感すると同時に胸が痛んだ。
シン…ルナマリア…レイ…彼らは決して「悪」ではない。
グラディス艦長もトライン副長も、あの艦に悪人などいないのだ。
キラの言う事もわかるけれど、彼らも信じるもののために戦っている。
「あなたの正義と相手の正義がぶつかれば、そこに必ず軋轢が起きる」
目の前の人を守りたいと、それは譲れないと言うシンに、自分は言った。
譲れない者同士がぶつかれば戦いになる。それは必至だ。
(正義の敵は、いつだって正義なんだわ)
「僕は、もう1人のラクス・クラインが現れた事で改めてわかったんだ」
その時、ラクスが口を開いた。
「人々は、ラクス・クラインの声を聞きたがっていると」
議長が利用しようとするほどに、ラクス・クラインは大きな存在だった。
だから彼は人々の期待に応え、理想的なラクス・クラインを演じたのだ。
「僕は、自分の名から逃げていた。父の残した罪を背負う覚悟もなく、カガリくんのように故国を導く強さもなく、のらりくらりと逃げていた」
皆、彼の言葉を黙って聞いていた。
「けれど、こんな事になって初めてわかった。彼が…ミーア・キャンベルが教えてくれたんだ」
ラクスは穏やかに微笑んだ。
「ラクス・クラインは、プラントを背負って立つべき存在だと」
彼のこの言葉に、ヒルダやダコスタたち、クライン派としてラクスをずっと支え続けてきた兵たちが思わず息を呑んだ。
「ラクス様…」
「では、とうとう?」
たった今、彼らの長年の悲願だったラクス・クラインの決意が表明されたのだ。
「言うだけなら、誰にもできる。想うだけも、誰にもできる。難しいのは、それを形に変えること…そして、実現させること」
ラクスは言った。
「人々が望んでくれるなら、僕は失敗を恐れず、過去を受け止め、故国の導き手となる事を約束する。大いなる痛みと苦しみを覚悟して、僕自らも闘おう」
ラクス…アスランは声にならない声をあげた。
それは確かにラクス・クラインにはふさわしいのかもしれないが、彼の体はその激務に耐えられる状態ではない…アスランの心配を汲み取ったラクスは、「わかってるよ」と微笑んだ。
「僕の命はさほど長くはない。だから、どこまでできるかわからない」
メイリンが「えっ!?」と驚き、キラも思わず彼を仰ぎ見た。
彼が交わそうといったあの約束も、ラクスの身体を診るたびに難しい顔になるカガリも、彼が旧知のアスランにしか自分の病状を見せたがらないのも、ラクスの体が悪くなっている事を示していた。
(ラクスには…本当に時間がないんだ…)
「だったら…」
「でもね、僕は彼にだけは無様なところを見せたくないんだよ」
ラクスが心配そうな顔をするアスランに優しく言った。
「カガリくんには、情けない姿を見せたくはない。最高の親友であり、最大の好敵手である彼にはね」
金色に輝く髪をした友の姿を思い、ラクスはふっと微笑んだ。
「だから、人々が望むなら僕は立つ。平和のために、もう一度」
ラクスの力強い言葉に、クライン派は皆、大きく頷いた。
それから彼はアスランに向き直った。
「僕は、きみにパートナーになってもらいたかった」
その言葉は少なからず、キラたち周囲の人々を驚かせた。
マリューもミリアリアも、ノイマンやチャンドラ、メイリンも驚き、ネオはひゅっと口笛を吹いた。
「なんだなんだ、王子様のプロポーズか?」
「ラクス、でもそれは…」
アスランも少し慌てて、早口で遮る。
「もちろん、婚約とか結婚とか、そういうことじゃないんだ」
ラクスは笑いながら続けた。
「きみの正しさ、強さ、厄介なほどの頑固さ、真面目さ…僕は自分がプラントのために働くなら、きみのように、僕を痛烈に批判でき、公平な判断を下し、時には強力に踏ん張れるブレーキ役を傍に置きたいと思っているんだ」
それは今まで、議長を務めた多くの人たちにはなかったものだ。
「独断と独裁を防ぐためには、そんな枷が必要不可欠だろ?」
けれどそれを聞いて少し困ったような顔をするアスランを見て、彼はふっと笑った。それが今の彼女には無理な選択だということを、彼をよく知っていた。
(きみには、帰らなければならないところがあるんだものね…)
「艦長、オーブに連絡をお願いできますか。僕たちはこれから、エターナルと合流します」
マリューはまだ病み上がりで青白い顔をしたラクスを労わるように見つめ、「わかりました」と答えた。
やがて人々が解散していく中、ラクスが独り言のように言った。
「僕は忘れないよ、ミーア・キャンベルという名の彼を」
「ええ…私も決して忘れない」
アスランは答える。
「私は…偽りの名では、偽りの人生しか送れないと思ってた」
「だけど、時には偽りが真実を救うこともある…」
「不思議ね」
アスランもまた、呟いた。
そんな2人の会話を聞いて、キラが「2人とも何を言ってるの?」と呆れたように言った。
「偽りも、その人の真実の一つだからだよ」
自分でいることがどんなに嫌でも、それからは逃げ出せない。
「自分に嘘はつけないんだから、仕方ないよね」
そう言って歩き出したキラを見て、アスランもラクスも呆気に取られて顔を見合わせた。
コーディネイターでありながら、ナチュラルを守ってたった1人で戦い続けていたキラは、今現在、この世にただ1人しかいない最高のコーディネイターでもある。
偽りも真実も、彼女が乗り越えてきた苦難の中に全てがあった。
「そうか」
「そうね」
2人はふふっと笑い合い、キラの後を追って歩き出した。
消灯した休憩室で青白い月面を眺めながら、シンは1人佇んでいた。
思い出すのは議長の提示した「デスティニー・プランのことと、ジブラルタルで彼がアスランと自分に言った言葉だった。
(今のこの世界では、我らは誰もが本当の自分を知らず、その力も役割も知らず、ただ時々に翻弄されて生きている)
「議長…」
あなたは、それこそが争いを呼び、戦争を引き起こす原因だと言う。
自分を知り、役割を知り、決められた運命を歩むのなら、平和になる。
(誰もが皆、幸福に生きられる世界になれば、もう二度と戦争など起きはしないだろう)
議長の言葉を反芻し、シンは軽く握った拳を口に当てて呟いた。
「役割を知って…幸福に…生きる…」
「きみはずっとずっとずーっと、議長の言うとおりに戦ってきたんだ!」
けれどその途端、彼の脳裡に割り込んできた人物がいた。
「議長に選ばれて、議長に言われるままに、議長が決めた敵とね!」
シンは泣き出しそうな顔のラクス・クラインを思い出して思わず息を吐く。
全く思いもかけないことだった。今の今まで忘れていた彼が、まるでそこにいるかのようにシンを見据え、シンの役割を言い当てる。
「議長は全部知ってるんだ。きみが…戦うことしかできない人間だってね!」
「…くそっ、あいつ!」
シンは忌々しい彼を追い払おうとでもするように、ウィンドウを拳で打った。
(それが議長の言う世界での俺の役割だと?ならば平和になるはずの世界で…)
シンはギリッと唇を噛み締める。
「…俺は、何と戦うっていうんだ?」
そう思ってから、呆然としている様子の自分に気づいたシンは、思わずポケットの中に手を入れ、妹の携帯を取り出した。
シンのたった一つの拠り所であるそれは、彼が幸福だった時代を知っている。
全てを失ってなお自分が今こうして立っていられるのは、何よりも平和な世界を望むからだ。なのに、そのために戦うと決めた心がぐらりと揺らぐ。
幸せそうな自分が、想い出の向こうで妹や両親と笑っている。
シンは携帯を両手で握りしめてうなだれた。
「オーブ…」
彼は自分を育み、そして自分を叩きのめした故国の名を呟いた。
愛とも憎悪ともつかぬ複雑な想いが去来する。
(デスティニー…プラン……議長…)
シンの赤い瞳は静かな炎をたたえ、今再び、彼の運命を見据えていた。
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制作裏話-PHASE47-
これまでも大幅な改変を加えたPHASEはありますが、中でも気合が入ったのは20、40、そしてこの47です。
20がシン・アスカの過去、40がアスランとカガリの和解、そしてこの47ではミーアではなく、プラントの指導者たるべきラクス・クラインの心を垣間見せようとしているからです。
何度も言っていますが、私が男女逆転でSEEDを書こうと思ったのは、カガリを為政者として成長させたいということと、ラクスに重責を負う自覚を持たせ、それを果たさせるためでした。カガリが自分の責任を知り、オーブを背負うと決めた今、残るはラクスです。
本編では死んだミーア・キャンベルの日記を盗み読むという恥知らずな展開であり、しかもほとんど総集編というあきれ返るような話だったので、「ミーア」ではなく、ここは「ラクス」で行こうと決めていました。
ちなみに本編ではミーアが喋っていた日記の内容については、移せるものについてはPHASE20に移してあります。盗み読みよりは本人の口から語らせた方がフェアだと思ったからです。
死んだミーアを前に茫然自失状態のラクスやアスランに代わり、てきぱきと指示をするのはキラです。そんな中、病んだラクスは熱発して倒れてしまいます。
ラクスは旧知の仲であり、親しい友でもあるアスランにしか病状を見せたがらない…逆種ではカガリを誤解させたこの設定は、そうです、もちろんここで使うための、長い長~い伏線でした。
本編では後半に朗々と語るデュランダルの演説をBGMにして、逆転の物語が進んでいきます。
目覚めたラクスは、長い付き合いのアスランが今まで見たこともない顔を見せます。前大戦の責任は、シーゲル・クラインにこそあった…ラクスは誰にも語らなかった本音を漏らします。それはいつものような分析口調や歴史的視点からの語りではなく、「大好きな父を断ずる」息子の言葉でした。それは、独裁者とされる父を持つアスランを驚かせるに足るものでした。同じように政治家の父を持ち、かつては人生の伴侶となるべきだった2人の運命は友となった今も変わらないのですから、こうしてその過去を踏みしめながら未来に向かう、という描写があったらドラマティックじゃないかなーと思うのです。
さらに彼は、自分のどうしようもない弱さを吐露し始めます。政治と言う大きな力に立ちはだかられ、失敗を恐れて逃げたことを告白し、アスランの苦しみを見て見ぬフリをしたと言うのは実にイタいです。いえ、失敗を恐れてというならまだわかりますよね。彼は違うのです。「失敗して、期待を裏切るのが怖かった」のです。ラクスはあの時、保身しか考えなかったのです。何をすべきか、求められているかを知りながら、彼は健康を言い訳にして逃げました。
ラクスに、それを痛感させたのがミーアでした。
ミーアの言葉が実は稀代のへたれ野郎だったラクス・クラインに「自分と向き合う事」を促したとする事で、何の意味もなく死んでしまったように見えるミーア・キャンベルの人生が、後に歴史を動かした…となるようにしたかったのです。
本編ではアスランどころかキラにすら本音を見せたことのないラクスのこうした内面はぜひ描きたかったので、書いていても本当に面白かったですね。
またここでは1stガンダムへのリスペクトに基づくオマージュも入れています。ブライトさんがギレンの演説を聞いて「何を言うか!」と憤るシーンですね。
そしてアスランの回想形式で、「何を狙ってPHASE46を書いたのか」を語っています。ダコスタたちの護衛には相手に気づかれてはいけないというハンディがあり、アスランには何も知らせないというリスクがあったことが、今回の悲劇を呼んだとしたかったのです。
ではなぜアスランに何も知らせなかったのか…ということがラクスの口から語られます。
アスランには、公平な天秤をもって自分と議長のどちらが正しいのか、判断してほしかった…それが、ラクスのアスランへの絶大なる信頼の証、としたかったのです。
彼女の「力」は、キラやカガリのように人を惹きつけたり、ラクスのように大局を見つめられるものではありませんが、その頑固さは正しさを貫く何よりの剣であるとしました。地味ではありますが、こうした縁の下の力持ち的強さは、誰かを支える時は何よりの力になります。
そう言われても、アスランは「シンに届いていない」と嘆きますが、本当はそんなことはないんですね。逆転のシンは何度もアスランの言葉にぶつかり、憤り、そしてそれをちゃんと糧にして成長しています。だって私がそう描いてきたからです。このように、最終回に向けて彼らの関係は着々と収束できていると思います。
そして2人はキラとカガリが、いつの間にか彼らを追い越し、迷い悩みながらも自分1人で自分の道を見つけ出したと語り合います。
この展開に持ってこられたのは私自身軽い感動がありました。成長させようと手を加えてきたカガリならともかく、キラは意図的には成長させるつもりがなかったので初めから何の手も加えていなかったのですが、シンを格好よく、頭のいい主人公として書けば書くほど、彼に対抗する絶対無敵のライバルとしてどんどん成長していきました。これはまさに、シンがいるからキラがいて、キラがいるからシンがいるというように、私が意図せずとも2人とも勝手に切磋琢磨したとでも言いましょうか。
何度もへこたれそうになりながらも、元気さと明るさを失わず、たくましく自分の責任と向き合い続けたカガリを、ラクスは本当にすごいと思っています。彼にとってカガリが「王」であるのは揺るぎないのです。
そして彼があんなに強くあるのは「きみがいたからかな」と、かつての婚約者にエールを送ります。カガリには「アスランは自分の時と違ってカガリとは片時も離れなかった」と言ったラクス。ラクスがこういう「2人をつなぎとめる」役割を担ってくれたら、それはそれで面白かったと思います。
自分が間違っていた事を認めるラクスを見て、シンの言っていた事は正しかったのだと改めて思うアスラン。ほんの少しずれているだけで、シンもキラもラクスも皆、願う事は同じなのだと示すための描写でした。
眠ったラクスを医療班に任せたアスランは、本編と同じく、安置されたミーアの遺体と対面します。
名前しか聞かなかったと困惑するアスランに、キラは「いつか家族の元へ返してあげよう」と優しさを示します。
それから話題がサラと議長に移ります。ここで彼らは議長がデストロイやレクイエムの存在を掴んでいたと知り、彼が全てを仕組んでいたと悟るに至ります。本編ではこうした展開には至らなかったので、せめて議長が「黒」であるという証拠くらいはほしいと思いましたので、キラにカガリとオーブ情報部に報告させる事にしました。司令官としてふさわしい判断だと思います。
また、キラが「流される世界」に対して危機感を抱くのは、前大戦を戦い抜き、何よりクルーゼと戦っているからですね。彼は戦争を煽りましたが、常に選択肢を残していたのも事実です。けれど人は彼の言うように、「正しい方ではなく、正しいと思いたい方へ」流されたのですから。
一方議長の演説はシンやイザ-クも聞いています。
けれどイザークは心ここにあらずでした。隊長としての彼の優秀さを示すために、ダイダロスを制圧したローランの動きが怪しいと睨んでいる、としているんですね。そしてそれはビンゴ。だって彼らは議長の命令でルナマリアが破壊したレクイエムを修理してるんですから。イザークも最終回では議長に叛旗を翻すので、こうして疑念の種になりそうなものを植えておきました。
デスティニープランの説明はまわりくどくて長い。
本編でも議長の長ゼリフが続きましたけど、これは本当に拍子抜けしましたねー、当時。え、それ?みたいな。
皆思うところはありますが、セレクションでふるいにかけられていたメイリンは複雑な心境です。自由に道を選び、努力を重ねたいという思いを踏み躙られた事が、彼がこのプランに反対する礎になっています。
やがてミーアの葬儀が終わると、ラクスは、彼が教えてくれたこと…すなわちラクス・クラインは、人々の想いに応えて指導者として立たなければならないと決意を表明します。
クライン派にとってはついに悲願の「クライン議長」擁立への夢が近づくわけですから、わっと盛り上がります。
けれどアスランは彼の体が元首などという激務には耐えられないと心配します。ラクスの命はさほど長くはないのですが、それでも彼はやり遂げると決めています。最高の好敵手で、最高の親友であるカガリにだけは無様な姿を見せたくないと思いながら。
こうしてラクスの指導者としての自覚が確立し、その責任を負う決意が示された事で、私の本懐は遂げられました。
現在をがむしゃらに生きるカガリが辛い過去に後押しされたなら、既にユニウスセブンという過去を昇華していたラクス(だからカガリより少し余裕があるように見えていたんですね)は現在に後押しされた、という対比にもできたと思います。
けれどラクスはもう一つ布石を放り込みます。
それは、彼が認める「力」を持つアスランを、本当は「パートナーにしたかった」という告白です。
これは無論、恋愛などではなく、彼女に片腕として働いてほしいというものです。
けれど同時に、アスランにはそれができないことをちゃんとわかっているのです。
そしてもう一つ、ここでキラの物語も一つの完結を見たといっていいかもしれません。
物語の初めから、「偽りの名」「偽りの人生」と押し出しながら、結局は何も描けなかった本編と違い、逆転ではことあるごとにこれを強調してきましたが、ミーアの死を持って、それは分ける必要はないのだとアスランとラクスが悟ります。
偽りが真実を救う事もある…ここで2人にこんな会話をさせたのは、ラクス(真実)を庇ったミーア(偽り)の死が無駄死にではないことを示すためです。そしてそのために、アスランもアレックス・ディノに救われた、という伏線を忍ばせておいたのです。
しかしそんな彼らを見てキラは呆れるのです。キラはそうした曖昧なボーダーをいくつ越えてきたことか…結局、考えすぎる二人はキラにかなわない、という表現に代えました。それに、これによってキラは「クローンだろうがなんだろうがレイはレイ」と言える根拠にもなります。ただし、逆転のキラは1人で呟くだけで、顔も知らないレイに「きみはきみだ!」と動揺させておいてフルボッコなんてしませんよ。最終回でレイを救うのはシンですしね。
そしてデスティニープランについて1人考えるシンが最後を締めます。役割を果たし、幸福を覚えながら満足して生きる世界…しかしシンの心に蘇ったミーアが現実をぶつけてきます(今、彼らが月にいるというのも演出ですね)ならば平和な、戦いのない世界で、「戦うしかできない」自分の役割はなんなのだろう…そう自問自答してこそ主人公ですよね。
幸福な時代を与えてくれ、無残に奪ったオーブヘの想いが、やがて再びシンを戦場に送り出します。
本当に自画自賛の手前味噌でお恥ずかしいのですが、敢えて言います。自分、このPHASEは本当に頑張ったと思います。
20がシン・アスカの過去、40がアスランとカガリの和解、そしてこの47ではミーアではなく、プラントの指導者たるべきラクス・クラインの心を垣間見せようとしているからです。
何度も言っていますが、私が男女逆転でSEEDを書こうと思ったのは、カガリを為政者として成長させたいということと、ラクスに重責を負う自覚を持たせ、それを果たさせるためでした。カガリが自分の責任を知り、オーブを背負うと決めた今、残るはラクスです。
本編では死んだミーア・キャンベルの日記を盗み読むという恥知らずな展開であり、しかもほとんど総集編というあきれ返るような話だったので、「ミーア」ではなく、ここは「ラクス」で行こうと決めていました。
ちなみに本編ではミーアが喋っていた日記の内容については、移せるものについてはPHASE20に移してあります。盗み読みよりは本人の口から語らせた方がフェアだと思ったからです。
死んだミーアを前に茫然自失状態のラクスやアスランに代わり、てきぱきと指示をするのはキラです。そんな中、病んだラクスは熱発して倒れてしまいます。
ラクスは旧知の仲であり、親しい友でもあるアスランにしか病状を見せたがらない…逆種ではカガリを誤解させたこの設定は、そうです、もちろんここで使うための、長い長~い伏線でした。
本編では後半に朗々と語るデュランダルの演説をBGMにして、逆転の物語が進んでいきます。
目覚めたラクスは、長い付き合いのアスランが今まで見たこともない顔を見せます。前大戦の責任は、シーゲル・クラインにこそあった…ラクスは誰にも語らなかった本音を漏らします。それはいつものような分析口調や歴史的視点からの語りではなく、「大好きな父を断ずる」息子の言葉でした。それは、独裁者とされる父を持つアスランを驚かせるに足るものでした。同じように政治家の父を持ち、かつては人生の伴侶となるべきだった2人の運命は友となった今も変わらないのですから、こうしてその過去を踏みしめながら未来に向かう、という描写があったらドラマティックじゃないかなーと思うのです。
さらに彼は、自分のどうしようもない弱さを吐露し始めます。政治と言う大きな力に立ちはだかられ、失敗を恐れて逃げたことを告白し、アスランの苦しみを見て見ぬフリをしたと言うのは実にイタいです。いえ、失敗を恐れてというならまだわかりますよね。彼は違うのです。「失敗して、期待を裏切るのが怖かった」のです。ラクスはあの時、保身しか考えなかったのです。何をすべきか、求められているかを知りながら、彼は健康を言い訳にして逃げました。
ラクスに、それを痛感させたのがミーアでした。
ミーアの言葉が実は稀代のへたれ野郎だったラクス・クラインに「自分と向き合う事」を促したとする事で、何の意味もなく死んでしまったように見えるミーア・キャンベルの人生が、後に歴史を動かした…となるようにしたかったのです。
本編ではアスランどころかキラにすら本音を見せたことのないラクスのこうした内面はぜひ描きたかったので、書いていても本当に面白かったですね。
またここでは1stガンダムへのリスペクトに基づくオマージュも入れています。ブライトさんがギレンの演説を聞いて「何を言うか!」と憤るシーンですね。
そしてアスランの回想形式で、「何を狙ってPHASE46を書いたのか」を語っています。ダコスタたちの護衛には相手に気づかれてはいけないというハンディがあり、アスランには何も知らせないというリスクがあったことが、今回の悲劇を呼んだとしたかったのです。
ではなぜアスランに何も知らせなかったのか…ということがラクスの口から語られます。
アスランには、公平な天秤をもって自分と議長のどちらが正しいのか、判断してほしかった…それが、ラクスのアスランへの絶大なる信頼の証、としたかったのです。
彼女の「力」は、キラやカガリのように人を惹きつけたり、ラクスのように大局を見つめられるものではありませんが、その頑固さは正しさを貫く何よりの剣であるとしました。地味ではありますが、こうした縁の下の力持ち的強さは、誰かを支える時は何よりの力になります。
そう言われても、アスランは「シンに届いていない」と嘆きますが、本当はそんなことはないんですね。逆転のシンは何度もアスランの言葉にぶつかり、憤り、そしてそれをちゃんと糧にして成長しています。だって私がそう描いてきたからです。このように、最終回に向けて彼らの関係は着々と収束できていると思います。
そして2人はキラとカガリが、いつの間にか彼らを追い越し、迷い悩みながらも自分1人で自分の道を見つけ出したと語り合います。
この展開に持ってこられたのは私自身軽い感動がありました。成長させようと手を加えてきたカガリならともかく、キラは意図的には成長させるつもりがなかったので初めから何の手も加えていなかったのですが、シンを格好よく、頭のいい主人公として書けば書くほど、彼に対抗する絶対無敵のライバルとしてどんどん成長していきました。これはまさに、シンがいるからキラがいて、キラがいるからシンがいるというように、私が意図せずとも2人とも勝手に切磋琢磨したとでも言いましょうか。
何度もへこたれそうになりながらも、元気さと明るさを失わず、たくましく自分の責任と向き合い続けたカガリを、ラクスは本当にすごいと思っています。彼にとってカガリが「王」であるのは揺るぎないのです。
そして彼があんなに強くあるのは「きみがいたからかな」と、かつての婚約者にエールを送ります。カガリには「アスランは自分の時と違ってカガリとは片時も離れなかった」と言ったラクス。ラクスがこういう「2人をつなぎとめる」役割を担ってくれたら、それはそれで面白かったと思います。
自分が間違っていた事を認めるラクスを見て、シンの言っていた事は正しかったのだと改めて思うアスラン。ほんの少しずれているだけで、シンもキラもラクスも皆、願う事は同じなのだと示すための描写でした。
眠ったラクスを医療班に任せたアスランは、本編と同じく、安置されたミーアの遺体と対面します。
名前しか聞かなかったと困惑するアスランに、キラは「いつか家族の元へ返してあげよう」と優しさを示します。
それから話題がサラと議長に移ります。ここで彼らは議長がデストロイやレクイエムの存在を掴んでいたと知り、彼が全てを仕組んでいたと悟るに至ります。本編ではこうした展開には至らなかったので、せめて議長が「黒」であるという証拠くらいはほしいと思いましたので、キラにカガリとオーブ情報部に報告させる事にしました。司令官としてふさわしい判断だと思います。
また、キラが「流される世界」に対して危機感を抱くのは、前大戦を戦い抜き、何よりクルーゼと戦っているからですね。彼は戦争を煽りましたが、常に選択肢を残していたのも事実です。けれど人は彼の言うように、「正しい方ではなく、正しいと思いたい方へ」流されたのですから。
一方議長の演説はシンやイザ-クも聞いています。
けれどイザークは心ここにあらずでした。隊長としての彼の優秀さを示すために、ダイダロスを制圧したローランの動きが怪しいと睨んでいる、としているんですね。そしてそれはビンゴ。だって彼らは議長の命令でルナマリアが破壊したレクイエムを修理してるんですから。イザークも最終回では議長に叛旗を翻すので、こうして疑念の種になりそうなものを植えておきました。
デスティニープランの説明はまわりくどくて長い。
本編でも議長の長ゼリフが続きましたけど、これは本当に拍子抜けしましたねー、当時。え、それ?みたいな。
皆思うところはありますが、セレクションでふるいにかけられていたメイリンは複雑な心境です。自由に道を選び、努力を重ねたいという思いを踏み躙られた事が、彼がこのプランに反対する礎になっています。
やがてミーアの葬儀が終わると、ラクスは、彼が教えてくれたこと…すなわちラクス・クラインは、人々の想いに応えて指導者として立たなければならないと決意を表明します。
クライン派にとってはついに悲願の「クライン議長」擁立への夢が近づくわけですから、わっと盛り上がります。
けれどアスランは彼の体が元首などという激務には耐えられないと心配します。ラクスの命はさほど長くはないのですが、それでも彼はやり遂げると決めています。最高の好敵手で、最高の親友であるカガリにだけは無様な姿を見せたくないと思いながら。
こうしてラクスの指導者としての自覚が確立し、その責任を負う決意が示された事で、私の本懐は遂げられました。
現在をがむしゃらに生きるカガリが辛い過去に後押しされたなら、既にユニウスセブンという過去を昇華していたラクス(だからカガリより少し余裕があるように見えていたんですね)は現在に後押しされた、という対比にもできたと思います。
けれどラクスはもう一つ布石を放り込みます。
それは、彼が認める「力」を持つアスランを、本当は「パートナーにしたかった」という告白です。
これは無論、恋愛などではなく、彼女に片腕として働いてほしいというものです。
けれど同時に、アスランにはそれができないことをちゃんとわかっているのです。
そしてもう一つ、ここでキラの物語も一つの完結を見たといっていいかもしれません。
物語の初めから、「偽りの名」「偽りの人生」と押し出しながら、結局は何も描けなかった本編と違い、逆転ではことあるごとにこれを強調してきましたが、ミーアの死を持って、それは分ける必要はないのだとアスランとラクスが悟ります。
偽りが真実を救う事もある…ここで2人にこんな会話をさせたのは、ラクス(真実)を庇ったミーア(偽り)の死が無駄死にではないことを示すためです。そしてそのために、アスランもアレックス・ディノに救われた、という伏線を忍ばせておいたのです。
しかしそんな彼らを見てキラは呆れるのです。キラはそうした曖昧なボーダーをいくつ越えてきたことか…結局、考えすぎる二人はキラにかなわない、という表現に代えました。それに、これによってキラは「クローンだろうがなんだろうがレイはレイ」と言える根拠にもなります。ただし、逆転のキラは1人で呟くだけで、顔も知らないレイに「きみはきみだ!」と動揺させておいてフルボッコなんてしませんよ。最終回でレイを救うのはシンですしね。
そしてデスティニープランについて1人考えるシンが最後を締めます。役割を果たし、幸福を覚えながら満足して生きる世界…しかしシンの心に蘇ったミーアが現実をぶつけてきます(今、彼らが月にいるというのも演出ですね)ならば平和な、戦いのない世界で、「戦うしかできない」自分の役割はなんなのだろう…そう自問自答してこそ主人公ですよね。
幸福な時代を与えてくれ、無残に奪ったオーブヘの想いが、やがて再びシンを戦場に送り出します。
本当に自画自賛の手前味噌でお恥ずかしいのですが、敢えて言います。自分、このPHASEは本当に頑張ったと思います。
Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 怒れる瞳① PHASE1-2 怒れる瞳② PHASE1-3 怒れる瞳③ PHASE2 戦いを呼ぶもの PHASE3 予兆の砲火 PHASE4 星屑の戦場 PHASE5 癒えぬ傷痕 PHASE6 世界の終わる時 PHASE7 混迷の大地 PHASE8 ジャンクション PHASE9 驕れる牙 PHASE10 父の呪縛 PHASE11 選びし道 PHASE12 血に染まる海 PHASE13 よみがえる翼 PHASE14 明日への出航 PHASE15 戦場への帰還 PHASE16 インド洋の死闘 PHASE17 戦士の条件 PHASE18 ローエングリンを討て! PHASE19 見えない真実 PHASE20 PAST PHASE21 さまよう眸 PHASE22 蒼天の剣 PHASE23 戦火の蔭 PHASE24 すれちがう視線 PHASE25 罪の在処 PHASE26 約束 PHASE27 届かぬ想い PHASE28 残る命散る命 PHASE29 FATES PHASE30 刹那の夢 PHASE31 明けない夜 PHASE32 ステラ PHASE33 示される世界 PHASE34 悪夢 PHASE35 混沌の先に PHASE36-1 アスラン脱走① PHASE36-2 アスラン脱走② PHASE37-1 雷鳴の闇① PHASE37-2 雷鳴の闇② PHASE38 新しき旗 PHASE39-1 天空のキラ① PHASE39-2 天空のキラ② PHASE40 リフレイン (原題:黄金の意志) PHASE41-1 黄金の意志① (原題:リフレイン) PHASE41-2 黄金の意志② (原題:リフレイン) PHASE42-1 自由と正義と① PHASE42-2 自由と正義と② PHASE43-1 反撃の声① PHASE43-2 反撃の声② PHASE44-1 二人のラクス① PHASE44-2 二人のラクス② PHASE45-1 変革の序曲① PHASE45-2 変革の序曲② PHASE46-1 真実の歌① PHASE46-2 真実の歌② PHASE47 ミーア PHASE48-1 新世界へ① PHASE48-2 新世界へ② PHASE49-1 レイ① PHASE49-2 レイ② PHASE50-1 最後の力① PHASE50-2 最後の力② PHASE50-3 最後の力③ PHASE50-4 最後の力④ PHASE50-5 最後の力⑤ PHASE50-6 最後の力⑥ PHASE50-7 最後の力⑦ PHASE50-8 最後の力⑧ FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36①- 制作裏話-PHASE36②- 制作裏話-PHASE37①- 制作裏話-PHASE37②- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39①- 制作裏話-PHASE39②- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41①- 制作裏話-PHASE41②- 制作裏話-PHASE42①- 制作裏話-PHASE42②- 制作裏話-PHASE43①- 制作裏話-PHASE43②- 制作裏話-PHASE44①- 制作裏話-PHASE44②- 制作裏話-PHASE45①- 制作裏話-PHASE45②- 制作裏話-PHASE46①- 制作裏話-PHASE46②- 制作裏話-PHASE47- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②- 制作裏話-PHASE50③- 制作裏話-PHASE50④- 制作裏話-PHASE50⑤- 制作裏話-PHASE50⑥- 制作裏話-PHASE50⑦- 制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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