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機動戦士ガンダムSEED DESTINY 男女逆転物語
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「私は…」
アスランはそのままジャスティスを見上げている。

(ラクス様とアスランさんの話は、僕にはよくわからないけど…)
メイリンはそんな彼女を心配そうに見つめていた。
(でも、もしあんな体でモビルスーツに乗ったりしたら…しかも、相手がシンだったら…)
メイリンは自分たちを躊躇なく攻撃したデスティニーを思い出し、背筋が寒くなった。
味方なら誰よりも頼もしいシンが、あんなに恐ろしいと思えるなんて…いつものシンは口は悪いけれど根っこは優しくて、だらしないところもあるけど喧嘩の強い兄貴みたいで、メイリンは友人として彼のことがとても好きだった。
「アスランさ…」
不安のあまり、思わず踏み出そうとしたメイリンをラクスが止めた。
優しい微笑を湛え、彼は唇に指を立てて静かに、とサインを出す。
やがてアスランが振り向いた。透き通るように美しい碧眼が、ラクスを見つめている。
それから、彼女はゆっくり歩き出した。

拍手


「どうしてすぐに戻らなかった」
パイロットスーツの上半身を脱いで汗を拭いていると、ヘルメットを抱えたレイがやって来たので、シンはドリンクに口をつけながら答えた。
「別に…あの時は戻る必要がなかったからだよ」
「おまえは熱くなり過ぎていた」
ぐっと唇を噛んだシンに構わず、レイはそのまま続けた。
「倒したはずのフリーダムが現れた。そしてここはオーブだ」
(アスハ…フリーダム…そして…オーブ…)
シンはぶすっとしたまま返事にならない返事をした。
「落ち着いて行け、シン」
レイはそんなシンの肩を軽く叩く。
「おまえが挑発に乗って自分を見失ったら、勝てるものも勝てない」
「シン!換装、終わったよ!」
「レイも急げ!発進準備、整ったぞ!」
その時、それぞれの機体を担当するヴィーノとヨウランが声をかけた。
レイはそれを聞いてヘルメットをかぶった。
「それこそ奴らの思う壺だ」
「わかってるよ」
シンは頷き、レイもまたそれを見て頷いた。
「ならいい。あれは亡霊だ。今度こそ沈めるぞ」
「ああ…今度こそ、必ず!」
再びヘルメットをかぶり、さらにグローブを直しながらシンは思う。
(もうチャンスはやらない)
シンの瞳が決意によってさらに赤く輝く。
(俺からオーブを守りたいのなら、次は自分で切り抜けろ、アスハ!)
「デスティニー、レジェンド、発進シークエンスを開始します」
アビーの声がシークエンスを進めて、先にシンが出撃する。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
再びオーブの空に、ザフトのエースが舞った。

「おい、こら!やめろって!」
詰め所でインフィニットジャスティスの整備メソッドを確認中だったマードックが、ケーブルを引きちぎったジャスティスに気づいて驚き、慌てて整備兵たちに退避を命じながら怒鳴った。
しかし艦体も揺れる中、カタパルトに移動していくジャスティスを見てこりゃダメだと通信コードを入力し、慌ててブリッジに連絡を入れる。
「艦長!ザフトの彼女がモビルスーツに!」
「え!?あの体で!?」
マリューが驚いて声をあげると、ミリアリアも手早く通信を開いた。
「何やってるの、アスラン!?そんな体でムチャだってば!」
彼女の今の状態をよく知るミリアリアの声を聞いても、アスランは機体を止めようとしなかった。
「やめさせて! ダメよ!」
マリューが「一体誰が管制を?」と怒ると、ラクスがブリッジに現れた。
「艦長…どうか、彼女の思う通りに」
ブリッジは彼のその言葉に静まり返った。

ラクスが持ってきたパイロットスーツは、シンと同じ赤だった。
アスランは傷の痛みに顔をゆがめながらも何とかそれに着替え、戻ってくるとラクスからヘルメットを受け取ろうとしたが、ラクスはそれを離そうとしない。アスランは少しいぶかしげに彼を見た。
「…本当は…本当の本当は、僕はきみを戦わせたくない」
「私が戦士じゃないから?」
それを聞いてラクスがふっと笑った。
「行くわ」
「気をつけて」
アスランはヘルメットを持つとリフトに乗り、コックピットに向かった。
慣れない艦で管制を任されたメイリンが心配そうにラクスを振り返ると、ラクスは少し哀しそうに微笑んでから、力強く頷いた。
(私にできること、望むこと…そして、すべきこと)
迷いがないといえば嘘になる。けれど、今は自分を信じよう。
カガリが、キラが守ろうとするオーブを守りたい、そのオーブを今まさに討とうとしているシンを止めたいという、自分の正直な気持ちを信じるしかなかった。
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出ます!」

「ほらほら下がんな!下がるんだよ!」
ヒルダ・ハーケンはザクやグフをバズーカで追い詰め、サーベルで足や腕を斬り落としていた。あのストライクフリーダムに乗っている小さな娘とラクス様が、「なるべくコックピットは狙わないで」と言うからには仕方がない。
致命傷にならない程度に傷つけるならいいだろうと独り言ちながら、ヒルダは楽しそうに元友軍を討った。
「そう言うなら足撃つなよ」
ヘルベルトはそんなヒルダの荒っぽい戦いぶりを揶揄したが、ヒルダが突っ込む後ろにつき、ザクを踏み台にしてバズーカを放ったり、逃げ場を失ったグフのウィップを紙一重で避けながら近づき、至近距離で撃破していく。
そんな2人を「悪趣味なやつらめ」と笑うマーズも同様で、こちらは特に飛んでいる敵が別の獲物を狙っている無防備な時を狙って撃ち落すのが最も好みであり、得意でもあった。
密集陣形を取ったまま、3機のドムが戦場を駆け巡る。
「間違って殺しちまっても不可抗力だ。恨むんじゃないよ!」

ストライクフリーダムはイザナギ海岸の優勢を取り戻すと、今度は市街地に向かって侵攻するザフトを食い止めにかかった。
まずはキラがその強力な火力で敵陣を薙ぎ払い、その後をムラサメが丁寧に潰していく戦法により、1人だけパワーもスピードも突出するキラにとっても後に続く部隊にとっても、負担にならずに戦うことができた。これによって戦場を分断され、孤立したグフやバビ、ザクや海岸線から内陸に入り込んだアッシュは、随分数を減らす事になった。
「ハヤマツミ撃沈。タヤマツミ航行不能」
「第六機動航空隊はイザナギ海岸へ」
国防本部はそれこそ戦場のような忙しさだった。
カガリはキサカやソガと拠点地図を見ながら戦力の分配をし、同時にジブリール捜索を急がせる。
「第9区、ジブリールの姿はありません」
「10区異常なし」
しかし相変わらずジブリールがどこにいるのかはわからない。
「第十機甲師団、戦列砲兵隊、支援を要請しています」
「キサカ、小隊をいくつかまわしてやれ」
そう命じながら、カガリの苛立ちは募るばかりだった。キラたちがこれだけ頑張ってくれているのに、ジブリールが見つかりませんでしたなどとは絶対言えない。
「くそっ…奴は一体どこにいるんだ!?」

「パルシファル、撃ぇ!」
いくらか足で勝るミネルバが、ついにアークエンジェルの後ろを取り、攻撃にかかった。ミサイルが撃ちこまれ、マリューは回避を命じた。
「回避!取り舵30!」
「ヘルダート、撃ぇ!」
イーゲルシュテルンの隙間を縫ってヘルダートが襲い掛かるが、ミネルバの回避運動も素早く、互いになかなか決定打は与えられていない。
「ええい!」
ネオはアークエンジェルとミネルバの間に割って入ると、ミネルバの正面からキャノン砲を撃ち、ミサイルを発射した。
前大戦以上にモビルスーツ全盛となった今、まさかの戦闘機の攻撃に面食らったミネルバを何発かがかすめ、ブリッジが大きく揺れる。
タリアはインパルスを護衛に出していなかった事を悔やんだが、アーサーは素早く攻撃に移らせ、トリスタンで戦闘機をロックした。
直撃は免れたもののビームが主翼部をかすめ、黒煙を上げ始めたスカイグラスパーが推進力を失う。
「スカイグラスパー被弾」
ネオに攻撃されて足止めを食ったミネルバとの距離が開いたアークエンジェルでは、ミリアリアがネオの被弾を伝えた。
マリューは一瞬息を呑んだが、すぐにネオがモニターに現れた。
「…降ろしてくれるか?」
そのすまなそうな言葉を聞いてマリューは困ったような顔をし、それから受話器を取ってマードックに連絡を取った。
「整備班!緊急着艦用意!」
そんな風に断る彼が悲しく、けれど帰ってきてくれると思うと少しだけ胸が躍る。
 
「あ…あれは…!」
やがてキラはデスティニーが再び出撃してきた事を知った。しかし今度はもう1機、別のモビルスーツが同行している。
シンもまたストライクフリーダムを見つめ、その前に立った。
(戦場が随分押し返されている)
レーダーに残る友軍機が直線的にではなく、回り込むように展開しているのは、恐らくこのストライクフリーダムが真ん中を突破したため、やむをえずこの陣形になったのだろう。
「こいつは俺の獲物だ」
シンはレイに先に行くとサインを出すとライフルを抜き、急激に加速した。
光の翼が開き、ハイパーデュートリオンエンジンが唸りをあげてなめらかにスラスターを噴射する。ストライクフリーダムも素早く離脱したが、シンはスコープでその機体を捉え続けた。
(ったく、元気な野郎だな)
くるくると回転・旋回してビームの射線を避けていくストライクフリーダムの速さは衰えない。実際、大気圏突入から既に数時間を戦い続けているというのに、キラのスタミナは尽きていなかった。
シンはストライクフリーダムを追うことに専念する事にした。
そんな彼の意図を汲み取ったレイは、デスティニーの援護に廻っている。
ストライクフリーダムの進路をレジェンドのライフルが邪魔し始めると、キラにとって無限のフィールドだった空が、徐々に狭まっていった。
「く…」
それに、追うことに専念されるとデスティニーのスピードは侮れない。
キラは機体性能も相手の技量を侮る事もなかったが、何よりも先ほど、カガリの言葉を聞き入れてくれたパイロットの事が気になっている。
(だからといって、手加減していい相手じゃないけど…)
不殺を心がけていられる分、キラにはまだいくらか余裕があるが、スピードや反応は相手にも勝る部分があるため、油断はできない。
この時もキラのこの一瞬の思考が隙を作り、シンはそこをついてきた。
(追いつける!)
シンは加速を続けながら右手を前に突き出した。相手の機体に触れた瞬間、パルマフィオキーナを発動させるつもりでトップスピードで近づいている。
だがすんでのところでかわされ続け、シンはついイラッとして「こいつ!どうして!」と、正面からストライクフリーダムに向かってしまった。
(どこでもいい、つかめさえすれば…!)
しかしこれはキラに対してはいかんせん大味すぎる攻撃だった。
キラはむしろそれを待ち構え、デスティニーが格闘レンジに入った途端、機体を思いっきり縦に反転させた。即ち強烈な蹴りを食らわせたのだ。
ストライク時代からデュエルを蹴りまくって勝利してきたキラにとって、熱くなって懐に飛び込んでくるような相手は、食い気味に強い蹴りで撃退するのが一番だと知っている。イザークに比べればかなり慎重なシンも、ついにこの蹴りの洗礼を受け、デスティニーは吹き飛ばされた。
「うっ…!」
カウンターの勢いを殺し切れず、スラスター操作で立て直しながら、シンは舌打ちした。
(こいつ…ヒット&アウェイばかりかと思ってたが…)
「近接戦も知ってるってことかよ!」
むしろショートレンジでの戦いに絶対の自信があるからこそ、いつもはミドルレンジで余裕をかましてるってわけか…シンは不愉快そうに鼻白んだ。
(忌々しい亡霊野郎め!)

レイはデスティニーが蹴り飛ばされてストライクフリーダムの周囲が開くと、すかさず背部ユニットの砲門を全て開き、手に持ったビームライフル共々一斉砲撃を開始した。そしてそのままストライクフリーダムを追う。
「あの機体…」
キラはレジェンドにはデスティニーほどのスピードがないと知ると、二挺のライフルを繋げてロングライフルにし、強力な火力に対抗した。けれど何より気になるのはその機体の特徴的な形状だった。
(…似ている…)
かつて自分が死力を尽くして戦ったラウ・ル・クルーゼが操った機体に。巨大なユニットを背負いながらも、レジェンドはその大きな推進力でストライクフリーダムを追い、強力なビームで攻撃してきた。
キラはそれを避けながら敢えてレジェンドに突進していく。
ストライクフリーダムはビームの雨の中を華麗に飛び回ってレジェンドの横をすり抜けると、ついに両機の射程外に出た。
キラが態勢を整えようとしたその時、驚くべきことが起こった。
脇を抜かれたレジェンドは振り返っていないのに、砲門だけが180度後ろを向いたのだ。そして再びストライクフリーダムに全門砲撃が再開され、キラはそのトリッキーな攻撃に驚いた。
「…これは!」
機体を動かして避けるのは間に合わないと判断したキラは、ビームシールドを展開した。無論防御力を強化するために出力を上げたのだが、レジェンドの砲に直撃された勢いで吹っ飛び、機体が大きくバランスを崩して錐もみ状態になる。
「く…っ!」
キラがスラスターを盛んにふかして機体を立て直した時には、デスティニーがビーム砲を構え、ストライクフリーダムは完全にロックオンされていた。
「今だ、シン!撃て!」
シンはスコープを睨み、ストライクフリーダムを狙っている。
距離は遠いが、この瞬間を待っていた…
(今度こそ沈めてやる!2度と生き返ってこないように!)
シンがトリガーを引こうとしたその刹那、別の機体が飛び込んできた。

「シンッ!!」

この時はシンの反応が素晴らしかったという以外はないだろう。
シンは飛んできたものが何かもわからないまま、左の手甲部のビームシールドを無意識のように展開し、それを弾き飛ばした。しかしそれによってデスティニーの体が無防備になった状態でトップスピードの機体に体当たりをされたのだからたまらない。
「うわぁ!」
シンは一体何が起きたのかわからず、激しい衝撃に耐えた。
かなりのGがかかり、落下していくと気づいたので、苦しい表情のまま急いでスラスターを操作する。
(くそっ…一体なんだ!?)
ようやく機体を立て直し、自分にぶち当たってきた乱入者を見ると、それは見慣れない赤い機体だった。
キラはそれを見て思わず身を乗り出した。
「アスランッ!?そんな、あの体で…!?」
確かにあの機体を持ってきたのも調整したのも自分だったが、まさか彼女がすぐに乗るとは思っていなかった…しかしキラはすぐにかぶりを振った。
(ううん、そんなわけない…今乗らなきゃ、オーブは守れない…そう思うよね、アスランなら)
「…ごめん」
キラは誰にも聞こえないとわかっていながら謝った。
「やっぱり、苦しめちゃったね」

「うぅ…」
アスランは衝撃による体中の痛みに耐えた。
ビームシールドの装備が増え、今この戦場でもシールドを常時装備する機体がない中、インフィニットジャスティスにはシールドが装備されている。ビームシールドも展開できる上に、アスランが好む投擲武器が色々と仕込まれているそれを構えて突進したのだが、衝撃は吸収しきれなかった。
傷めている肋骨や肩がきしむように痛み、呼吸ができない。傷を負っている額や背中が激しい衝撃で擦れ、傷口が開いた事がわかる。新たに流れ出た温かい血の感触が不安を煽るが、今は構っていられない。
「くっ…シン…」
アスランは苦しみながら回線を開こうとしたが、デスティニーは早くも体勢を整え、乱入者である自分を見つめている。
(なんだ、こいつは…)
シンは警戒しつつその赤い機体に不審な眼を向けていたが、やがて雑音と共にチャンネルが合わされ、通信機から信じがたい声が聞こえてくると、思わず息を呑んだ。
「やめなさい、シン!」
しばらくシンの時間が止まった。

(……アス…ラン?)

自分が倒したはずの人間が今、2人とも蘇り、戦場で牙を剥いている。
シンには理解しがたいが、けれどこれは現実以外の何物でもない。
「アスラン…だって…そんな…」
シンの驚きを隠せない声がアスランの通信機に届いた。
「もうやめるのよ!」
アスランは両手を下ろすと言った。
武器を構えずにデスティニーに相対しているその機体を見ながら、シンはまだ理解し切れなかった。
あの時、確かにコックピットを貫いた。フリーダム以上に手応えがあったのは間違いない。
(なのに、どうして…こいつが?)
シンもまた攻撃をしないと知ると、アスランは続けた。
「自分が今何を討とうとしているのか、あなたは本当にわかってるの?」
シンはそれを聞くと歯を食いしばった。
(アスハと同じような事を言う…)
そうやっておまえたちは何度も俺を責め立てる。自分たちが何をやったか、いや、「何をしなかったか」には眼を閉じて、知らん顔して、そうやって俺だけを責め立てる…シンはギリッと歯を食いしばった。
(自分だけは正しい、自分だけは間違ってないって顔をして)

「オーブだ」
やがてシンがきっぱりと答えた。
「プラントが敵と見なした。だからザフトはそれと戦う」
シンは素早くライフルを抜くとインフィニットジャスティスに向けて撃った。
アスランはビームシールドを展開してそれを弾くと、やや下がる。
「シン!…本当にそれが正しいと?」
「俺はあんたが裏切ったザフトの軍人だからな!」
シンは一気に出力を上げ、デスティニーの光の翼を広げた。
(なんで生きてるのかは知らないが…だったらフリーダムと同じだ)

―― 何度でも殺してやる…2度と俺に説教なんかできないように!

アスランは向かってくるデスティニーにブーメランを投げて牽制したが、シンはそれを見て、先ほど自分が弾き飛ばしたのがこのシャイニングエッジブーメランだった事に気づいた。同時に赤い機体はサーベルを2本抜くと、それを繋げてハルバートモードにして構え、待ち構える。
(戦う気か…面白い)
シンもまたビームシールドを展開し、いつでもサーベルモードにするつもりで突っ込んでいく。両者は激突し、激しくビームが反発しあった。
「戦争をなくす…そのためにロゴスを討つ。だからオーブを討つ」
アスランは激しくぶつかりあい、弾け飛ぶプラズマの中で言った。
シンは黙ったままさらにパワーを上げ、インフィニットジャスティスを押した。
しかしそれもアスランにとっては計算のうちだった。そのまま水平近くまで押されたインフィニットジャスティスが、突然足を大きく振り上げ、デスティニーの機体を蹴り上げたのだ。シンもまた素早く察知してそれを避けたが、避けて正解だった。相手の足にはカオスと同じく爪先から膝まで伸びるビームクローが仕込まれていたからだ。
(こいつ、全身に武器が仕込まれてる…!?)
さっきの近接戦闘でストライクフリーダムに蹴られていなかったら、さすがのシンも避けられず、ダメージを受けていたかもしれない。こうした驚異的な学習能力の高さもシンの戦闘スキルの一つだった。 
「引かないから、だから討つしかないと…この国に刃を向けるの!?」
シンはライフルを放ち、アスランはサーベルでそれをいなした。
「プラントは正式な通告もした!猶予も与えた!だがオーブは嘘をついた!」
それは国際社会において、あるまじき裏切り行為だった。
「弁護の余地もないんだ、この国には!」
「でも、それは本当にあなたが望んだこと!?」
「俺個人が討ってるわけじゃない!」
シンは相手に攻撃する意志があるとわかったので距離を保ちながら言う。
「敵だからだ!」
「オーブはプラントの敵じゃないわ!」
「またそれか!」
シンはチッと舌打ちした。
「あんたもつくづく…」
シンはお返しとばかりに換装し直したフラッシュエッジブーメランを手に取り、「バカの一つ覚えだな!」と吐き捨てながらインフィニットジャスティスに向かって投げつけた。
アスランはそれをやすやすとビームサーベルで薙ぎ払ってスピードを殺すと同時に、ビームブレードを展開した足で素早く蹴り飛ばした。
「思い出して、シン!あなたは本当は…何が欲しかったの!?」
シンが華麗にさえ思えるその足技と回避に唇を噛んでいると、2人の間に強力なビーム砲が割って入った。レジェンドだった。
「死に損ないの裏切り者が、何をノコノコと!」
ストライクフリーダムと戦っていたレジェンドが、通信機から聞こえてくる2人の会話に業を煮やし、戦線を離脱してきたのだ。
「惑わされるな、シン!」
「レイ…あなたは…!」
アスランはシールドを展開すると同時に素早く距離を取った。

キラはアスランに向かって行ったレジェンドを追ってきていた。
ストライクフリーダムの通信は開いていないので、彼らが何を話しているのか、キラは聞いていないが、アスランを討ったのがデスティニーなら、パイロットが知己であることは想像できた。
インフィニットジャスティスを追うレジェンドを見て、シンもまたライフルを構えて後を追った。レイが言う。
「あれは敵だ!」
(そうだ、あれは裏切り者…俺たちを見捨てて逃げたんだ…)
「迷うな!もうあいつの言葉に耳を貸す必要はない!」
レジェンドの射線を避けたところに別のビームが放たれ、アスランはシールドで相殺した。デスティニーがこちらをスコープで狙っている。
「シン!」
アスランが再びレジェンドの攻撃を避けながら叫んだ。
「オーブを討ってはだめよ、あなたが!」
「シン、ヤツの言葉を聞くな!」
「くっ…」
レイが言っても、こうして耳に入るのはアスランの声ばかりだ。
(どうして…あんたは…そうやって「正しさ」を示すんだ)
それが俺を惑わせる。立ち止まらせる。苦しめる。
(あんただけが…いつも…!)

「嫌よ!こんなところ!」
警護兵に連行され、ユウナとタツキ・マシマはシェルターに向かった。
けれど町外れにある粗末なシェルターを見てユウナがあからさまに嫌悪感を示している。セイラン家の私設シェルターは、公設のシェルターのゆうに10倍は金をかけ、頑丈に造らせているのだ。
「こんな安っぽいもの…ミサイル一つで吹っ飛ぶわよ!」
それを知っていながら政府は予算を割いてこなかった。
カガリは国民のために使う金は決してムダではないと言い張ったが、金を使うことは悪だとでも刷り込ませるがごとく、マスコミからの攻撃をカガリに向けさせ、彼のシェルター強化構想を頓挫させたのだ。そのツケが今、彼女自身に廻ってきていた。
「私は本島のセイランのシェルターに…」
「いいからお入りください!」
兵との押し問答が続いていた時、ムラサメに追われるグフが彼らの上を低空で飛び去った。 その衝撃波と風に煽られて兵たちが一瞬ひるんだ隙に、ユウナは1人の兵に体当たりすると走り出した。しかも彼女と共につながれているマシマもそのまま引っ張られていく。
「ユ、ユウナ様…!」
モタモタとついてくる彼にイラつきながら、ユウナは走った。
(何もかも…何もかもあの忌々しいガキのせいだわ!)
小さい頃から、金色の髪をしたあの子が気に食わなかった。
気が強くて、偉そうで、そのくせ明るく、自由気ままで奔放で…ウズミたち首長や政府の高官、将官たちにも可愛がられていた。
アスハの名を頂くだけで、格の低いセイランと扱いは雲泥の差。
ウズミが死に、カガリは行方不明と聞いて、これでセイランにも権力を握るチャンスが生まれると思ったのに、彼は停戦の英雄、オーブ開放の立役者と祭り上げられて帰国し、代表の座に就いた。
(しかも…アレックス・ディノ…あんな子を連れて…)
ユウナは、帰国した彼が伴っていた美しい娘を思い浮かべた。
自分にもチャンスがあるとしたらアスハ家を継ぐ彼と結婚する事だったのに、彼女が傍にいる限り、カガリは他の女になど眼もくれない。
自分こそが彼の婚約者であると吹聴し、公式の場ではあたかもパートナーのように振舞っても、彼女の表情はいつも何も変わらなかった。
(まるで自分の優勢をよく知っているとでも言いたげに…)
ユウナは大嫌いなアレックスの顔を思い出し、チッと舌打ちした。
驚くほど美しい容姿も、聡明そうな話しぶりも、所詮遺伝子操作で作られたものだと毒づきながら。
(あの女がいなくなって、やっと掴んだチャンスだったのに!)
「ユウナ様!」
「お戻りください!危険です!」
兵たちが慌てて後ろから追いかけてくる。
このスピードではすぐに追いつかれるのはわかりきっていた。
けれどユウナは足を止めなかった。何もかもが腹立たしかった。
(うるさいうるさいうるさい…)
「うるさいのよっ!」
ユウナは怒鳴った。
こんな、何もかも思い通り行かず、うまくいかない世界なんか…
「…私はっ…!!」
その時だった。
先ほど、ムラサメに追い込まれて飛び去ったはずのグフが、ムラサメのビームに貫かれ、空中で大きくバランスを崩した。そしてそのまま真っ直ぐユウナとマシマの頭上に落下してくる。
ユウナは見る見るうちに近づいてくる巨大なモビルスーツの機影に包まれながら目を見張り、呆然と立ち尽くしていた。
(…私…は…こんなところで…)
駆け寄った兵たちはユウナとマシマがグフの下敷きになるのをはっきりと見、それ以上歩を進めるのをやめて、今度は慌てて戻り始めた。
その判断に間違いはなく、モノアイの光が消えたと思うと、グフは国を陥れようとした彼らの身体と共に、爆発炎上した。
後にカガリは彼女の壮絶な最期を聞くと、しばらく黙りこんだ後、「そうか」と言った。
それから彼は、罪人とはいえよく知る幼馴染の彼女を、父が眠るセイラン家の墓所に葬る事を許した。

ジブリールはまさか待ち人が2人とも死んでいるとは知らず、準備が整ったシャトルの中で彼らの到着を待ち続けていた。
「どうなってるんだ…ウナト様とユウナ様は…」
「遅いなぁ」
セイランの息がかかった将兵たちもさすがに何の連絡もないことに不安が隠せないようだった。国防本部からは相変わらず定時になるとしつこく第2区に異常がないかと再三の調査報告を求められている。
やり手のソガなら、そのうち全ての地区を「別の視点から探させる」などと言って、新たに調査部隊を送り込んでこないとも限らなかった。

アスランは向かってきたレジェンドに対してラケルタを構えたが、そこに同じくラケルタを両手に構えたストライクフリーダムが飛び込んできて、レジェンドに攻撃を加えた。レジェンドはビームシールドを展開しながら一度飛び退ると、自身もジャベリンを抜く。
「フリーダム…」
シンが燃え上がる焔なら、レイは凍てつく凍土のようだった。
キラはその、自分に向けられる冷たい空気を感じ取ったかのようにゾクリと背筋が寒くなり、シフトレバーを力強く握り締めた。
(この感じ…なんだろう、やはり覚えがある気がする…)
禍々しく冷酷で、非情な攻撃性を感じる。だがそのものとも思えない。
それはどこか人工的で、無理をして作っているような感じにも思える…
(キラ…レイ…)
レジェンドを引き離したキラを見送り、アスランは再びシンに向かい合う。
「シン!」
先ほどからの衝撃やかかるGによって傷からの出血がひどくなっており、貧血が始まっている。アスランは冷や汗をかきながら再び口を開いた。
「その怒りの本当の理由も知らないまま、ただ戦ってはいけない!」
「何を言ってるんだ、おまえは!」
シンはそれこそ怒りを覚え、ライフルを連射した。
「俺が今怒ってるのは…おまえに対してだ、アスラン!」
「シン!」
アスランはビームをサーベルとシールドでさばく。
「何もわかってないくせに…裏切り者のくせに!」
そのタイミングをずらすように、シンはもう片方のブーメランを投げた。

(おまえとメイリンを殺したと苦しみ、自分の心の弱さに苛立つ日々…)
嘘と欺瞞に満ちた世界で自分が戦うのは、平和な世界を手に入れるため。ならばそれを阻むものがどんなものであれ全力で戦うと決めたこと。だからこそロゴスを…ジブリールを匿っているオーブを討っていること…シンは知らぬ間にギリギリと歯を食いしばっていた。

「俺の行動も心も、すべて俺自身が考えて決めた!ふらふら迷って、誰かの正義に乗っかるおまえとは違う!」
シンは怒りを爆発させながら背中のアロンダイトを抜いた。
アスランもまたシンの怒りが今、全て自分に向いていると痛いほどわかっていた。
「そうね…あなたの怒りは尤もだわ…」
アスランがハルバートモードにしたサーベルをくるくると回して構えた。
「誰がなんと言おうと、私が逃げた事に変わりはない」
「…だったら!」
シンが怒鳴る。
「おまえにはもう…俺に指図する資格はない!」

「潜航する!下げ舵20」
ミネルバに追われたアークエンジェルは沖合いに向かっていた。
無論、沖にはザフト・地球連合による大艦隊が待ち構えているのだが、先ほどのマシマの逮捕劇の際、ストライクフリーダムが与えた打撃が利いていること、国防本部から援護に回された第六機動航空隊が元気な活躍を見せているので、いくらか艦砲が鈍っている。
マリューはそれを見逃さず、ノイマンに潜航を命じた。
「潜航用意!」
敵艦の艦首が下がったのを見て、アーサーが振り返った。
「艦長!」
「マリク、こちらも着水を。アーサー、潜られたらすぐに魚雷発射」
けれどその後は潜航した相手の足が速いため、すぐにこちらが不利になる。
「攻撃と同時に離脱上昇するわよ。できるわね?」
マリクは「はい」と答え、アーサーはウォルフラムの準備にかからせる。
タイミングを誤れば相手の魚雷の餌食になるだろう…だが離水すれば…しかしそのミネルバの思惑を、アークエンジェルはわずかに上まわった。
ノイマンがミネルバの魚雷をすべて回避すると、マリューはそのままバリアントの砲門を開かせた。
「バリアント、撃ぇ!」
後方に砲を向けた副砲バリアントが、今まさに離水せんとするミネルバを射程に捉える。水中では当然、ミサイル発射管が全て遮蔽され、魚雷以外は攻撃がないと思ったミネルバの誤算だった。
ミネルバは大きく艦隊を揺らしながら海中から続けて放たれるバリアントを避け、離脱する以外なかった。海中を狙おうにもすでにアークエンジェルの艦影はなく、潜る前に撃っておけばまだしも、艦影も見えない今はタンホイザーの威力も望めない。
今度こそミネルバは本当に攻撃オプションを失った。

「もう待てん!シャトルを出せ!」
ジブリールがついに堪忍袋の緒を切らして喚き始めた。
セイランの言いつけで動いているオーブ軍将校たちは困り、「セイラン様がおられない今、勝手な離陸は…」と渋る。
「重要なのは私だ!セイランではない!」
ジブリールは戸惑っている連中にキッパリと言い切り、現れないセイランを今、ここで斬り捨てる事を示唆した。
「おまえたちにもわかっているだろう?」 
連合軍の制服を着た連中はさっさと離陸準備にかかっており、戸惑うのはオーブ軍将校ばかりだ。彼らが従うのはこの化粧をした薄気味の悪い客人ではなく、あくまでも首長のセイランなのだ。
ジブリールはそんな彼らの想いなど愚にもつかぬという風に言う。
「私が月に上がらねばならないのだ」
もはや毒を喰らわば皿まで…ここに残ったところで、国家反逆罪、内乱罪、外患罪が課されて死刑になる以外の道などあるはずがない。
「おまえたちに選択の余地などないのだ」
ジブリールにそう言われると、オーブ軍将校たちも観念するしかない。彼らは足を踏み入れてしまった抗えぬ運命に従い、準備を急ぎ始めた。

「シン…もう一度言うわ。オーブを討ってはいけない」
アスランは機体の半身をやや斜め後ろに引き、ラケルタを構えた。
痛みがないといえば嘘になる…背中も、頭も、あばらも悲鳴を上げるほど痛み、傷は焼けるように熱い。汗がとめどなく流れ、なのに体温が下がっていく。血が失われ、気をつけていないと意識が飛びそうだ。
けれど、アスランはシンだけを見つめていた。
シンはアロンダイトを構えながら、隙のないインフィニットジャスティスの構えに緊張感を高めていた。一体どこを攻めればいいかわからない…ガラ空きに見えるボディですら、かずり傷一つつけられるとは思えなかった。
「…あんま強くないよね、あの人」
(バカな事を考えたものだ)
シンはフリーダムにやられた彼女をそう評した自分を思い出した。
(強くないヤツが、こんなにも隙のない構えをするもんか)
強力な火力とスピードで圧倒するストライクフリーダムとはまた違う、一瞬で勝負が決まりそうな緊迫感。シンの集中力が高まっていく。

―― 思い出せ…俺は何のために戦い続けると決めたんだ?

力を手にしてなお、ステラを守れなかった。今のままの戦争を繰り返す世界では、守りたくても守れない。戦争をなくす。戦争のない世界。戦争がないことこそが幸せだ。
(譲れない…俺は、それだけは譲れない!)
なぜなら俺は知っているからだ…戦争のない世界を。
かつての俺が幸せにあふれていたからこそ、今の俺がこんなに苦しい。
戦争を知れば知るほど、そのからくりを知れば知るほどやるせない。
戦争を知らずにいられた自分を、家族を、妹を失ってしまった事が辛い。
そしてそんな戦争を知らずにあの日、あの瞬間まで生きてこられたのは…

(オーブに……いたからだ…)

辿り着いたそのあまりにも絶望的な結論が、シンの怒りを爆発させた。
彼の激しく強い怒りの咆哮が、アスランの耳を衝き、驚かせた。
(シン…!?)
シンの体をまさしく灼熱の焔が駆け巡った。
手指の先から足の先まで、およそ神経の通う全ての部分に熱さがもたらされ、そしてそれが急激に冷めて全てがフリーズした。氷にピシピシとひび割れが入る感覚があり、堅い氷が砕け散る。
すると自由を取り戻したシンの感覚があたりに張り巡らされた。
音、色、匂い、触感、温度、風の流れに至るまで、およそ全ての感覚に訴えかけるものがシンの感覚器官に流れ込み、処理された。
デスティニーの出力が最大に上がり、光の翼が輝きを増していく。
ミラージュ・コロイドの粒子が周囲を幻惑し始め、飛び込んでくるデスティニーの姿を揺らした。あの時、貫かれたアロンダイトが再び真っ直ぐインフィニットジャスティスのボディを狙ってきた。 
アスランはサーベルを構え、ビームシールドの出力を上げて迎え撃つ。
(シン…その凄まじいまでの怒りを、本当はどう昇華すべきなのか)

―― あなたは知る必要がある!

両者は激突し、ビームが激しく反発しあった。互いに全く譲らない。
頭と頭がつきそうなくらいの力比べだったが、実剣でもあるアロンダイトとデスティニーのパワーがわずかに勝り、ジャスティスが押し負けて退いた。
けれどそれは敗北による後退ではなかった。

アスランの焼けるような体の痛みが急速に消えていく。
冷たく清らかで優しい水がかけられたように、ゆっくりと背中から足先までが冷えていった。アスランはその心地よい冷たさに身を任せながら、聴覚と視覚を研ぎ澄ましていく。
戦場の喧騒が去り、シンの怒りの咆哮も消えていく。
そして視界がぱっと開け、目の前にいるデスティニー以外に、視界にいないのにキラがレイと戦っている気配も感じられた。
力で勝ったと思ったデスティニーが、再びアロンダイトをゆっくりとふりかぶる姿が見え、アスランはサーベルを握り直すとデスティニーの右腕に狙いを定めて軽く置いた。
そして素早く機体を半回転させ、同時にスラスターを最大にふかしてデスティニーの背部へと真っ直ぐに突き抜けた。
「…っ!」
自分に何が起きたのか、シンにも一瞬わからなかった。
しかし次の瞬間、斬り落された右のマニピュレーターが爆発を起こし、シンはダメージアラートを呆然と見つめた。
(…ダメージ?俺が…?斬られた…のか?)
デスティニーはこれまでほとんど無傷のまま戦ってきた。
何よりシンは今まで、「頭の中がクリアになる」この感覚を手に入れた時、スピードでもパワーでも負けた経験がなかった。
戦場で呆然としたままのシンを、アスランは黙って見つめていた。
それ以上デスティニーに攻撃を仕掛けるつもりはもちろんないが、シンが再び攻撃に転じた時は迎撃しなければならない…けれど重傷のアスランにもそろそろ限界が近づきつつあった。

「シン!」
シンがアスランに傷つけられたと知ったレイは驚き、そのままインフィニットジャスティスに向かっていった。
そんなレジェンドをストライクフリーダムも追ったが、キラは自然、ライフルを下ろしていた。レジェンドは追っている自分のことなどまるで気にしていないようだったからだ。
(機体も感覚も確かに似てはいるけど…)
少なくともあの仮面の男は、こんな風に友軍機が危機に陥った時、戦いを放棄してまで助けに行こうとなどしなかった。
敵とはいえ、無防備な脱出艇を撃ち抜いて、キラの愛する人を永遠に奪い去ったラウ・ル・クルーゼ…その機体とよく似た機体に乗り、似たような感覚を持つこの相手は…
(あの人とは違う…きっと…)
キラは今、この戦場で最も冷静に状況を見つめていた。
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制作裏話-PHASE43①-
いよいよオーブ戦もクライマックス。アスランがいつまでも寝たきりなので、「一体いつになったら出撃するんだ?」と散々視聴者をヤキモキさせたナイトジャスティス…じゃなかった、インフィニットジャスティスが登場します。インジャはこの後、最終決戦で出撃してインパルスとデスティニーをフルボッコしますが、結果として2回しか戦わなかったことになります。まぁアスランは主人公ではないのでこれはいいいのかもしれませんが、いかんせん間延びし過ぎです。しかもラクスは完全にアスランを煙に巻いてジャスティスに乗せました。うまい…じゃなくてひどい。

逆転では前回、もう少し2人の意見をぶつけあわせ、結果としてアスランが「自分が本当にしたいことは何なのか」に気づくようにしました。キラやカガリが守ろうとするオーブを守ること、そしてオーブを討とうとしているシンを止めること…これがアスランが「したい事」と明確にしました。
ラクスがここまできてヘルメットを渡そうとしない姿は、PHASE47で彼がアスランの評価をする伏線でもあります。でも一番大事なのは、本編とは違い「傷ついた友人を戦場に送りたくはない」というラクスの優しさです。キラに対してそうだったように、逆転のラクスには人類愛的な優しさを付与したかったからです。
なお本編では何もせずに旦那を見送る貞淑な妻ポジションにいたメイリンは、逆転ではしっかりラクスにこき使われています。

戦場では早くもキラとシンの第2ラウンドが始まっています。今度はレジェンドが援護に来ているため、さしものキラもやや苦戦しますが、スピードは下手をするとデスティニーの方が上回るのに、シンはキラを捉える事ができません。
焦ったシンが正面からストフリに向かったその時、キラお得意のカウンターが炸裂します。ぽんぽん蹴られまくったイザークと違い、ここまでこんな屈辱を味わった事のないシンには痛い失敗でした。でもだからこそ私はこのシンの「敗北」を生かしたかったので、後にインフィニットジャスティスが足に仕込まれたビームで蹴りを食らわした時、シンが見事にそれを避けたのは「ストライクフリーダムに蹴られた経験を生かした」としました。キラが天衣無縫な天才なら、シンもまた天下無比の秀才という構図です。

キラは同時にレイにも意識を向けています。さすがキラ、余裕あるなぁ。プロヴィデンスに似たトリッキーな武装を持つ機体、何より感じ取る気配が「彼」と似ている事など、押せ押せになった本編では描ききれていなかった事をキラは考えています。最終決戦で戦う相手なのですからこれは当然の補完です。

シンとレイのコンビネーションプレイに、さしものキラもついに屈服するかと思われたその時、アスランが乱入します。シンはブーメランを見事な反射神経で避けたのですが、飛び込んできたジャスティスのボディアタックで両者とも吹っ飛んでいきます。これは本放映で見ていた時も思わず笑ってしまいました。アスランの特攻精神はホント、はた迷惑ですよね。

仕留めたと思ったキラはピンピンして飛び回り、殺してしまったと悩み続けたアスランもちゃっかり生きていて新しい機体で出撃…この時のシンのショックたるや想像すると気の毒になるほどです。だって想像してみてください。我々はキラのこともアスランのことも知っていますが、途中で完全に死んだと思ったキャラが最終回でピンピンしていたら「はぁ!?」とビックリするでしょう(ヴァイパーズ・クリードとか)

けれど逆転のシンは、本編のように「言語障害にさせられた」かわいそうなシンとは違い、きっちりと自分の意見をぶつけるのはここでも変わりません。
シンにとってアスランの言葉は耳障りなものばかりですが、それが自分を傷つけるという事は、心のどこかで「相手が正しいこともある」と思っているからだと示唆しています。シンはバカではないのです。ザフト軍人としてすべき事をしているだけで、個人の感情や思惑でやっているのではないといいます。まさしくかつてのアスランです。疑念を持ちながらも逆らう事はできない。武力を持つからこそ、軍人は命令系統を守らなければならないのですから、これは大いなる矛盾です。それがいやなら軍を辞めなければなりません。だからこんな論争は無意味なんですね。しかもただでさえ口下手なアスランを「バカの一つ覚え」と斬り捨てるクレバーなシンを、説得できるはずがありません。

自分でこうしたシンを描きながら、ここは本当にカタルシスを感じました。本編が「わけのわからない主張で戦うキラたちは正しく、人の言いなりのシンは間違っている」とされていましたから(制作陣は必死に「キラたち自身もこれでいいのかと思っている」「アークエンジェルが全て正しいというわけではない」なんて言い訳をしてましたが、一年間見てもそんな描写は欠片もありませんでしたー)、シンがそれを次々論破していくのは気持ちがよかったです。
けれど、主人公のシンにも「葛藤」はあるべきです。

彼が望むもの…戦争がなく、平和で誰もが幸せに暮らせる世界は一体どんな世界なのでしょうか。
当時高山版で絶賛されたシンの主張、「戦争のない世界以上にいい世界などない」というものを踏まえた上で、ではシンは一体どんな世界を理想と思っているのかと考えてみると、「ヒトは所詮、経験に基づいて思考する」という帰納法的思考にたどり着きます。

つまり、シンの中にある「平和で幸せな世界」は、彼が生まれ育った「自由で強い」オーブでしかありえないわけです。

もしもこの軸がしっかりしていて最後までぶれなかったなら、DESTINYは俄然、すごい物語になったはずなのです。なぜなら、主人公シン・アスカが求め続けたのは結局、彼が怒りを向け、憎み続けた祖国だった…となった時、物語は「議長の唱えるデスティニー・プランの否定」へとちゃんと帰結していくからです。
これならオーブ出身者であるコーディネイターのシンを主人公に据える理由が明確になるではありませんか。

そしてまたそれに自分でちゃんと気づくのが、逆転のシンのすごいところなのだとしたかったのです。もちろんここに至るには「後ろを見るな」と言ったカガリ、そして新たな力を得て立ちはだかるアスランとの会話を通していくというプロセスが必要です。そうした流れを経て気づいたシンの怒りの咆哮は、自分自身への、そして全ての人や物に対するものです。ここは「こんなDESTINYだったらなぁ」という私の夢を詰め込んでいます。いや~、ホントにスッキリしましたね。

ユウナが最後を迎えるシーンでは、逆転では一緒に捕まったとしたマシマも片付けました。ここでは凱旋したカガリがアスランを連れていたことに驚いたユウナ視点で書いてみました。事情を知らないオーブサイドはそりゃビックリしますよね。
悪女として跋扈してくれた彼女の最期は、本編同様あっけないものでしたが、カガリは彼女を反逆者ではなく、首長として葬る事を許します。それが仮にも幼馴染だった彼女への精一杯の手向けでした。

さて、こうして補完する中でひとつ面白い(私だけかな)改変をしてみました。それはアークエンジェルVSミネルバの一戦です。
本編では潜航するアークエンジェルを追ったミネルバが、なぜかそこで「攻撃手段がない」と追撃を諦めてしまうシーンがあり、視聴者を愕然とさせたのです。
それはなぜか?
当然です。ダーダネルス、クレタと思い出してもらえばわかるように、ミネルバにはちゃんとウォルフラムという魚雷が装備されているんですね。

そこで逆転のミネルバはそのままアークエンジェルを追います。マリクは大変だったと思いますが、タリアは大胆にも着水と同時に魚雷を発射(空中からも撃てるはずですが、アークエンジェルは足が速いので、ミサイルの勢いを殺してしまう事を回避しました)する、「水面へのタッチ・アンド・ゴー」を命じるのです。しかしさすが相手もヤキン・ドゥーエの激戦を生き残った艦ですから、一枚上手だったアークエンジェルは魚雷ではなくバリアントで応戦してミネルバを引き離します。

その頃、互いに「種を割った」アスランとシンにも決着がつきます。
「あんま強くないよね、あの人」
増長するシンの象徴的なセリフとして、放映当時散々叩かれまくったこのセリフからシンを救うため、アスランと対峙したシンは初めて相手の力を思い知るというシーンを描きました。
アスランは全く無駄のない動きでデスティニーを凌駕し、インフィニットジャスティスが勝利をおさめます。
種を割ったシンは、フリーダムとの戦いで不意を衝かれたり、わざと捨て身になってやられたりはしたものの、本気でタイマンしている時に敗れたのはこれが初めてです。ここはそれまであまり発揮できていなかったアスランの圧倒的な戦闘力を示したかったんですね。ジャスティスを持てば無敵。セイバーの立場がありません。

裏切り者にやられてダメージを受けたシンを見て、駆けつけてしまうレイ。キラはレジェンドを追いますが、部下と上司という3人とは違うスタンスのキラは、ある意味最も冷静ですから、銃を下ろして彼らを観察しています。そして確信するのです。
「レイは、クルーゼとは違う」と。
この積み重ねこそが、最終回でキラが呟く「きみはきみだ」に繋がるとしたかったのです。だって本編のあれ、何の根拠もないんですもの。
になにな(筆者) 2012/02/19(Sun)00:24:59 編集
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに
PHASE1-1 怒れる瞳①
PHASE1-2 怒れる瞳②
PHASE1-3 怒れる瞳③
PHASE2 戦いを呼ぶもの
PHASE3 予兆の砲火
PHASE4 星屑の戦場
PHASE5 癒えぬ傷痕
PHASE6 世界の終わる時
PHASE7 混迷の大地
PHASE8 ジャンクション
PHASE9 驕れる牙
PHASE10 父の呪縛
PHASE11 選びし道
PHASE12 血に染まる海
PHASE13 よみがえる翼
PHASE14 明日への出航
PHASE15 戦場への帰還
PHASE16 インド洋の死闘
PHASE17 戦士の条件
PHASE18 ローエングリンを討て!
PHASE19 見えない真実
PHASE20 PAST
PHASE21 さまよう眸
PHASE22 蒼天の剣
PHASE23 戦火の蔭
PHASE24 すれちがう視線
PHASE25 罪の在処
PHASE26 約束
PHASE27 届かぬ想い
PHASE28 残る命散る命
PHASE29 FATES
PHASE30 刹那の夢
PHASE31 明けない夜
PHASE32 ステラ
PHASE33 示される世界
PHASE34 悪夢
PHASE35 混沌の先に
PHASE36-1 アスラン脱走①
PHASE36-2 アスラン脱走②
PHASE37-1 雷鳴の闇①
PHASE37-2 雷鳴の闇②
PHASE38 新しき旗
PHASE39-1 天空のキラ①
PHASE39-2 天空のキラ②
PHASE40 リフレイン
(原題:黄金の意志)
PHASE41-1 黄金の意志①
(原題:リフレイン)
PHASE41-2 黄金の意志②
(原題:リフレイン)
PHASE42-1 自由と正義と①
PHASE42-2 自由と正義と②
PHASE43-1 反撃の声①
PHASE43-2 反撃の声②
PHASE44-1 二人のラクス①
PHASE44-2 二人のラクス②
PHASE45-1 変革の序曲①
PHASE45-2 変革の序曲②
PHASE46-1 真実の歌①
PHASE46-2 真実の歌②
PHASE47 ミーア
PHASE48-1 新世界へ①
PHASE48-2 新世界へ②
PHASE49-1 レイ①
PHASE49-2 レイ②
PHASE50-1 最後の力①
PHASE50-2 最後の力②
PHASE50-3 最後の力③
PHASE50-4 最後の力④
PHASE50-5 最後の力⑤
PHASE50-6 最後の力⑥
PHASE50-7 最後の力⑦
PHASE50-8 最後の力⑧
FINAL PLUS(後日談)
制作裏話
逆転DESTINYの制作裏話を公開

制作裏話-はじめに-
制作裏話-PHASE1①-
制作裏話-PHASE1②-
制作裏話-PHASE1③-
制作裏話-PHASE2-
制作裏話-PHASE3-
制作裏話-PHASE4-
制作裏話-PHASE5-
制作裏話-PHASE6-
制作裏話-PHASE7-
制作裏話-PHASE8-
制作裏話-PHASE9-
制作裏話-PHASE10-
制作裏話-PHASE11-
制作裏話-PHASE12-
制作裏話-PHASE13-
制作裏話-PHASE14-
制作裏話-PHASE15-
制作裏話-PHASE16-
制作裏話-PHASE17-
制作裏話-PHASE18-
制作裏話-PHASE19-
制作裏話-PHASE20-
制作裏話-PHASE21-
制作裏話-PHASE22-
制作裏話-PHASE23-
制作裏話-PHASE24-
制作裏話-PHASE25-
制作裏話-PHASE26-
制作裏話-PHASE27-
制作裏話-PHASE28-
制作裏話-PHASE29-
制作裏話-PHASE30-
制作裏話-PHASE31-
制作裏話-PHASE32-
制作裏話-PHASE33-
制作裏話-PHASE34-
制作裏話-PHASE35-
制作裏話-PHASE36①-
制作裏話-PHASE36②-
制作裏話-PHASE37①-
制作裏話-PHASE37②-
制作裏話-PHASE38-
制作裏話-PHASE39①-
制作裏話-PHASE39②-
制作裏話-PHASE40-
制作裏話-PHASE41①-
制作裏話-PHASE41②-
制作裏話-PHASE42①-
制作裏話-PHASE42②-
制作裏話-PHASE43①-
制作裏話-PHASE43②-
制作裏話-PHASE44①-
制作裏話-PHASE44②-
制作裏話-PHASE45①-
制作裏話-PHASE45②-
制作裏話-PHASE46①-
制作裏話-PHASE46②-
制作裏話-PHASE47-
制作裏話-PHASE48①-
制作裏話-PHASE48②-
制作裏話-PHASE49①-
制作裏話-PHASE49②-
制作裏話-PHASE50①-
制作裏話-PHASE50②-
制作裏話-PHASE50③-
制作裏話-PHASE50④-
制作裏話-PHASE50⑤-
制作裏話-PHASE50⑥-
制作裏話-PHASE50⑦-
制作裏話-PHASE50⑧-
2011/5/22~2012/9/12
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